~ プロローグ ~ |
夏の大きな雲が、広い青空に浮かんでいる。手入れをされた冬服はクローゼットに仕舞い込まれて久しく、洗濯物は半日ですっかり乾くようになった。家々の窓からは物干し竿が突き出し、色とりどりのタオルやシャツをはためかせている。野山の緑は今を盛りと眩く輝き、強い日差しは石畳の白と影の黒との美しいコントラストをあちこちで生み出していた。
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~ 解説 ~ |
●指令の概要 |
~ ゲームマスターより ~ |
PCの皆さま、PLの皆さま、こんにちは。久木です。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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◆トウマル カリュウモドキ。結構小さいのな うちの大型半竜も見倣って欲しいもんだ 所持品はグローブやかごの他、捕獲用の餌受け取る あとは木の枝に、ソーイングセットから糸 飲み物入れた水筒 町周辺てことだが居住地近くから捕獲開始 住民に会えば身分目的告げ聞き取り。 抵抗はねぇから手で捕まえる方針 トカゲ捕まえて遊んだガキの頃思い出す 日中の陽当たりいいとこ探して 見つければ胴体さっと掴んでかごにポイ 石の影とかよく逃げ込まれたっけな 枝と糸と餌で簡易釣り竿。トカゲ釣りしてみる グラが珍しくはりきっていらっしゃる たまには日陰で休め。水分摂れと水筒の中身飲ませとく おい今隠そうとした1匹寄越せ 生き物絡みだとこうなるのか、覚えとこ |
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目的 受付さんに協力してあげること。 行動 虫取り網で捕獲に挑戦。 耐火グローブ、日よけ用の帽子、耐火かご、餌、虫取り網を借りる。 最初に、カリュウモドキのよくいる「日当たりの良く乾燥した場所」が、町の周辺のどの辺りにあるのかを地元の人たちに聞き込み。 そして、聞いた場所に餌を仕掛けて、寄ってきたカリュウモドキを虫取り網で捕まえる予定。 餌を仕掛けた場所から少し離れて待機。 カリュウモドキが現れて餌を食べ始めたら、二方向からできるだけこっそり近づき、片方が逃げ道を塞ぐとかもう一人の方へ追い込むとか協力して捕まえる。 火傷注意。した場合は天恩天賜で治療。 捕まえたカリュウモドキは、マリオスが耐火かごに入れて持つ。 |
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先のベリアル戦での負傷休養の休暇 幸いにもクロエが魔力探知を持っているので探す分には問題なし 耐火グローブ等貸し出された道具は全て着用、対象を多く捕獲するスタンスで 「噴出孔に気をつけつつ、前に逃げるので逃げる先を予測して前方に手を出して捕まえるのがポイントよ」 と教団員になる前に実家で飼っていた猫を捕まえてたロゼッタ ロゼッタは病み上がりでほどほど、クロエはロゼッタを気遣い本気モード 水筒で水分を補給しつつせっせと捕獲 終了後 クロ「休暇で生け捕りゲームを楽しんだとでも思っておこうか、釈然としないけど」 ロゼ「珍しく前向きなのね」 クロ「そうじゃないとデザートが美味しく感じないよ」ニッコリ 食事を堪能する二人 |
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■目的 全部捕縛 ■ ティ地図の水辺や沼地を境に区切りをペンでつけ 1区毎に作戦開始 ∇準備 罠に餌を入れ中心に適度に置く 日よけ帽子被り耐火グローブ ティは耐火かご虫取り網も 浄化結界使用 他に人がいれば一緒に ∇ロス 円を描くように回りから中心に向けて火竜捕まえに 飛びつき 上へと薙ぎ払い空に 向かってくるなら ぺしっと下へと押さえつけ 逃げる火竜は罠へと追い込むように追いかける ∇ティ 初め 魔力探知で火竜の場所を見てロスに 火竜が向かって来る場合 回避し避けてロス任せ ロスが薙ぎ払った火竜は虫取り網で捕縛 ロスが踏み潰してるのはグローブで 罠に掛かった分も かごの中へ 一区終れば魔力感知で残し居ないか確認 ロス含め負傷が激しい人に回復魔術を |
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折角の夏休みなのにお気の毒だわ カリュウモドキがいなくなったら 残りの時間はお休みがもらえるのかしら? 頑張ってできるだけ捕まえなくちゃ、ね え、ええと… 好きじゃないけれど触れなくはないわ 大丈夫! 罠と餌、耐火用のカゴと虫取り網を借りる 荒れ地や草木の少ない場所に餌と罠を設置 トカゲの仲間だし 敵に見つかりにくいところが好きかしら? 好みそうな場所を探して罠を置く シリウスのメモを見て カリュウモドキが多そうな場所を回る 途中でティちゃんに会えたら どの辺にいそう?と魔力感知をお願い トカゲを見つけたら網で捕獲 シリウスにも手伝ってもらい 捕まえることができたら やった!と笑顔 シリウスの腕や頬に軽い火傷を見つけ 慌てて手当て |
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~ リザルトノベル ~ |
● 捕獲班本部の置かれたアイスベルク町役場に、浄化師たちは集まっていた。今日も朝から強い日差しが照り付けている。 「受付さん、折角の夏休みなのにお気の毒だわ。この任務が終わったら、残りの期間はお休みが貰えるのかしら」 心配そうな表情で『リチェルカーレ・リモージュ』が言う。パートナーの『シリウス・セイアッド』は浄化師全員に渡された町周辺の地図を見ながら、地形を確認していた。 「……リチェ。トカゲ、平気なのか?」 尋ねられた彼女はぴくりと肩を震わせ、視線を僅かに泳がせる。彼女の為、とりあえず網を借りる必要がありそうだと、シリウスは考えていた。 「いつもお世話になっている教団員さんに、わたしも協力したいと思います」 装備を受け取りながら『シルシィ・アスティリア』が答える。彼女も含め、受付嬢と同じように休暇中だった浄化師たちには、この指令が他人事とは思えなかった。 「僕たちも受付さんも、早く休暇に戻れるように。みんな、倒れない程度に頑張ろう」 彼女のパートナーの『マリオス・ロゼッティ』は装備を入念に点検する。グローブに穴やほつれは無いが、所々に煤のようなものがついていた。そうこうしていると水筒を持った町役場の職員がやってきて、マリオスと『ロゼッタ・ラクローン』、そして『トウマル・ウツギ』にそれを渡した。 「休暇中と言っても、私の場合は負傷休養だものね。無理しないよう気を付けないと」 ロゼッタが水筒をナップサックに詰めると、氷が揺れてからからと鳴った。 「ロゼの分は私がフォローする。小さな生物の捕獲は、今後の研究のためにも経験しておいたほうがよさそうだからね」 パートナーを気遣いつつ、『クロエ・ガットフェレス』は口寄魔方陣で制服に着替える。ロゼッタもそれに合わせて装備を展開させた。 「私たちは罠での捕獲を中心として全ての地区を回りますが、皆さんはどうされますか?」 廊下に貼り出された大きな地図にはいくつものピンや旗が刺さっており、日付と数字が書き込まれている。『シンティラ・ウェルシコロル』は手元の地図にそれらを書き写し、白い鞄にそれを仕舞った。 「俺たちは住民への聞き取りから始めて、居住地周辺を回る。途中で会ったらよろしくな」 トウマルは大地図を眺め、手渡された餌の箱を開ける。中には細かく刻まれた野菜くずが入っている。日陰で捕獲班の報告書を読んでいた『グラナーダ・リラ』も、いつの間にかトウマルの後ろで箱を覗き込んでいた。 「カリュウモドキはトカゲの一種ですが、自切等の特性は無いそうです。かつてサラマンダーの幼生と考えられていた原因の一つも、これかもしれません」 普段はありとあらゆる動作の少ないリラが、今日はやけに乗り気だった。トウマルはそれに僅かな違和感を覚えるも、すぐに気を取り直して蓋を閉じた。 「火を吐くトカゲって、本当にサラマンダーっぽいな! 持って帰ってペットにしてぇ!」 白い犬歯を覗かせ、『ロス・レッグ』は楽しそうに笑う。暑さで参っていないのはどうやら彼だけのようだ。アークソサエティ国内では火災防止の観点から、カリュウモドキの捕獲・飼育には特別な許可が必要になっている。そのためこの指令でも、捕獲した個体を持ち帰ることは固く禁止されていた。シンティラはそれを知っていたが、パートナーの余りのはしゃぎように言葉を失う。どう声をかけるべきか迷っているところで、装備を整えた受付嬢が現れた。 「お待たせしました、皆さん。教団からの正式な指令とはいえ、私なんかのためにお集まりいただいて、本当に何とお礼を申し上げて良いやら……」 彼女は体を二つに折るほど、浄化師たちに深々と礼をする。捕獲班から借り受けた作業服には教団の団章が付けてあるが、彼女の姿はまるで虫取りに出かける少年のようだ。 「私は町から離れた辺りを探してみます。今日も暑いですから、休憩はこまめに取ってください。この暑さだと半日が限界ですね」 ソレイユで初めて会った時と比べて幾分か生気を取り戻した彼女は、浄化師たちを先導して役場の出入り口へ向かう。その途中で、廊下から待合室が見えた。北向きの部屋では真っ赤な顔の教団員たちが水桶に足を突っ込み、額に氷嚢や濡れタオルを載せていた。早朝から捕獲にあたっていたと思われる彼らは憔悴しきっており、虚ろな瞳を天井へ向けてぴくりとも動かない。一行はそんな彼らから目を背け、町役場を後にした。 ● 町外れの荒れ地を目指し、ロゼッタとクロエは歩いていた。ベリアルとの交戦で重傷を負ったロゼッタは、かなり回復してはいたものの、まだ本調子とは言えなかった。彼女は普段よりもかなりゆっくりとした歩調で進み、クロエもそれに合わせて歩く。二人が早めに町を出発したのも、ロゼッタに無理をさせまいとするクロエの心遣いからだった。 「生き物は大抵、捕まえようとすれば前に逃げるわ。その先を予測して、前方に手を出して捕まえるのがポイントよ」 ロゼッタは指先の感覚を確かめるように、両手を握っては開く。この街はずれの荒れ地は、カリュウモドキの目撃が相次いでいる場所だ。周囲には幸い、日陰を作ってくれそうな段差がいくつかある。療養中のロゼッタも、そこでならゆっくり休むことができそうだった。 「今日の私は本気だからね。いっぱい捕まえてみせるんだから」 準備運動をしながら、クロエはパートナーに話しかけた。足りないところを互いに補い合う、それが二人で一組の浄化師の戦い方だ。彼女は瞳を閉じたあと、静かに目を開く。遠くで、小さな火気の魔力が動いた。 「クロエ、噴出孔に気を付けてね」 ロゼッタはタロットを一枚抜き取って啓示を受け、魔力への防御力を高める。彼女は引き当てたカードを見て微笑むと、クロエの瞳を見て合図を交わし、どちらからともなく歩き始めた。ロゼッタの手には、「節制」のカードが正位置で挟まれていた。 初めは手間取っていた二人も、ロゼッタのアドバイスにより徐々にこつを掴み始める。やはり本調子ではない彼女は休み休み行動していたが、クロエが彼女の分も補おうと、魔力探知を行ってはせっせと捕獲する。二人が日陰で休憩をする頃には、クロエのかごは一杯になっていた。 ロゼッタは水筒の蓋に中身を注ぎ、ゆっくり飲み干す。ひんやりと冷えた水が、疲れた体の隅々にまで染み渡っていく。彼女は蓋を振って水滴を落とし、水筒ごとクロエに渡す。彼女が水筒を傾けると、氷が涼やかな音を立てた。一気に飲み干し、クロエはパートナーに尋ねる。何故、生物の捕まえ方を知っているのか、と。 「教団に入る前、実家で猫を飼っていたの。私、その子をよく捕まえてたのよ」 手に持った帽子をくるりと回し、ロゼッタはオレンジの瞳を青空へ向ける。風が吹いて、彼女のピアスが僅かに揺れた。 「お昼までまだ時間がありそうだし、もう少し探して行きましょう」 「そうしようか。でもロゼ、無理だけは駄目だよ?」 クロエは立ち上がって伸びをし、帽子を深く被り直した。もう一度感覚を研ぎ澄ませ、魔力を探知する。傍らにある木気の強い魔力は、普段の調子を取り戻しつつあった。 一方その頃、アイスベルクの中央通り。町を行き交う人々に、浄化師たちはカリュウモドキについての聞き込みを行っていた。彼らは町役場でメモした情報に、集めたばかりの情報を次々と付け加えていく。 「目撃地点が随分と増えていますね。わたしたちは何ヶ所か移動して捕まえてみることにします」 「俺たちも範囲広げてみるか。町の周辺はカバーしとく」 「それなら私たちは、もう少し離れた場所に行ってみますね」 シルシィ、トウマル、リチェルカーレの三人は、それぞれの担当する地区を決めていく。対象地区全体はロスたちが順番に回ることになっていた。聞き込みを行っていた三組は彼らの負担を減らすため、数の多そうな地区を重点的に回ることに決めた。 「それでは皆さん、また正午前に、町役場で」 マリオスが会話を纏めると、三組はそれぞれの担当地区へ歩き始めた。 ● 装備と共に借り受けた罠は、細長い箱のような形をしていた。材質はおそらく耐火ガラスで、かかったカリュウモドキが壁を登って逃げ出さないようになっている。リチェルカーレたちは町の東にある枯れ野や荒野にそれらを埋め、カフェで時間の過ぎるのを待っていた。 「ええと、トカゲのことだけれど……。好きじゃないけど、触れなくはないわ。……大丈夫!」 やけにしっかりとした口調で言い切るリチェルカーレに、シリウスは翡翠の瞳を僅かに曇らせる。嘘ではないのだろうが、あまり気負いすぎるのも心配だった。彼はグラスのアイスコーヒーを飲み干し、パートナーを促す。彼女が給仕に会計を頼んでいる間、彼は溜息を一つ、ふうと吐くのだった。 「やっぱりトカゲは、敵に見つかりにくいところが好きなのかしら」 罠を回収しながら、リチェルカーレはシリウスに尋ねた。彼女の回収した罠はシリウスが受け取り、元々入っていた麻袋へ無造作に入れる。そんな事を何度か繰り返したあとで、二人は枯れ木の傍に置いた罠に獲物がかかっているのを見つけた。 シリウスは罠を掘り出し、カリュウモドキを籠へ放り込む。しかしリチェルカーレの動作はどこかぎこちない。不安そうな表情で箱を傾け、中身を籠へ移そうと試みるが、カリュウモドキは動こうとしない。シリウスは罠の底をトンと叩き、彼女の籠へ中身を落とした。 「罠はこれで全部だ。……捕獲、行けるか?」 設置したものを全て回収したところで、シリウスは尋ねる。パートナーはようやく慣れてきたのか、カフェの時よりはしっかりとした――それでも不安そうな表情で頷く。どうやって捕獲しようか考えているところで、遠くからロスたちの声が聞こえてきた。リチェルカーレの顔が、ぱっと明るくなった。 「あ、リチェさんたちも結構捕まえていますね。良かったです。わたしたちは、これで半分程度回りました」 仲間のかごを見たシンティラが嬉しそうに話す。ロスはシリウスにすっかり懐いており、狼姿で彼の足元にじゃれついていた。 「ところでティちゃん、どの辺りにカリュウモドキが居そうか、魔力探知で分からないかしら」 尋ねられてシンティラは頷く。自分たちで協力できる事があるならば、可能な限り引き受ける。それがロスとシンティラの、今回の任務での方針だった。彼女は感覚を集中させ、小さな火気の魔力を探知する。するとここから少し歩いた場所に、探す生物が多く居そうだった。そこにはロスたちが先行して設置していた罠がいくつか置かれている。 ロスは狼の姿のまま、帽子のみを装備して真っ先に走り出す。ライカンスロープ用の帽子とはいえ、大きな狼が麦わら帽を被って走る姿は、どこか不思議で愛らしかった。彼は多くの魔力反応があった地点を囲うように走り、徐々に円を狭めていく。さながら、狩りをする狼のように。 「これで大体追い込んでっと思う。そんじゃ、みんなで捕まえよーぜ!」 人の姿に戻った彼はグローブを嵌め、パートナーが全員に浄化結界をかける。追い込んだカリュウモドキはシリウスとシンティラが率先して捕まえ、ロスは二人の死角に居る個体を優先して対応し、逃げそうなものは罠へ誘導して無駄のない捕獲を行っている。リチェルカーレはまだぎこちない動きで網を振っていたが、シリウスが彼女をサポートした。彼女のほうへゆっくりトカゲを追い込み、タイミングを見計らって網を振るよう伝える。そして。 「――やった! 見てシリウス、私も捕まえられたわ!」 彼女は網の中を何度も見ながら、弾けるような笑顔で話した。初めて自分で捕まえたとはいえ、まるで小さな子供のようなその喜びように、彼は思わず苦笑した。 「……たまに火を吹くから、気を付けろ」 彼の言葉に頷いて、リチェルカーレは網の中身を慎重に籠へと移した。そして次のトカゲを探して、網の柄をぎゅっと握りしめた。 「ロスさん、そのまま足を上げて。獲物を踏んでいます」 目についたトカゲを次々と籠に放り込んでいたロスだったが、シンティラに言われて不思議そうに右足を上げる。するとそこには、すっかりのびてしまったカリュウモドキが一匹居た。まだ息はあるようだ。彼女はそれをグローブでひょいと摘み上げ、籠の中へ入れる。 「うお、ホントだ。よく見えっのな、ティの目!」 にいっと笑顔を作り、彼はパートナーを称える。そして別の個体を見つけると、彼はそちらの方向へさっと移動する。グローブで火を受け止め、口元を抑え込むように右手で捕まえると、左手で近くのもう一匹を軽く薙ぐ。宙に打ち上げられてもがくトカゲを、シンティラが網で受け止めて篭に入れた。 「わたしにロスさんほどの視力はありません。だから、観察力であなたの視野を補えればと思っています」 目標はカリュウモドキの全頭捕獲だが、今回は一人で行う任務ではなかった。仮に取りこぼしがあったとしても、仲間がそれを補ってくれるだろう。今こうして、自分たちが皆を助けているのと同じように。そう考えると随分と気が楽だった。彼女は魔力探知を再度行い、周囲の目標を全て捕獲したことを伝える。 「俺たちは次んとこに移動すっけど、その前にみんなで休んどこーぜ。なっ、ティ!」 ロスは大きく伸びをしてたちまち狼の姿に変化し、岩陰目指して走り出す。残りの三人も彼の後に続いて、ゆっくりと日陰まで歩き出した。 ● 籠を抱えた半竜が、トウモロコシ畑を歩いている。日よけ帽のつばは縦長で、デモンの大きな角を邪魔しない作りだ。彼は畝の間を注意深く歩き、獲物を見つけるとさっとしゃがんで捕まえる。顔を正面から見ないよう、興味深そうに眺めては、ひょいと籠へ放り込む。立ち上がり、体を伸ばして次なる目標を探していると、背中を何かでつつかれた。リラが振り返ると、そこには水筒を突き出したトウマルが立っていた。 「たまには日陰で休んで、水分摂れ。アンタが倒れたら運ぶのは俺だ」 リラは無言で頷く。いつの間にか、かなりの汗をかいていたらしい。彼はトウマルについて畑の中にある大樹へ向かう。トウマルは足元のトカゲに気付くと、胴を掴んでかごの中へぽいと放り込んだ。 カリュウモドキは、町の周辺では草の生えていない脇道などで目撃されることが多い。周辺を捜していた二人は慌てて逃げてくる農夫たちを見つけ、トウモロコシ畑でカリュウモドキが目撃されたことを聞く。畑は広大で、この頃の日照り続きで土はすっかり乾燥していた。二人は彼らに町役場の臨時救護所へ行くよう伝え、捕獲を始めたのだった。 「火竜っても、モドキだけあって結構小さいのな。うちの大型半竜にも見倣って欲しいもんだ」 かごの生物を見下ろし、トウマルは軽口を叩く。しかしリラは自分のかごの中身を観察するばかりで、今の言葉が耳に入っているとも思えない。普段は何かにつけ動作の少ないデモンである彼が、今日はやけに張り切っている。風が吹いて、頭上の大樹が静かに揺れた。 「……つぶらな瞳ですね」 リラはぼそりと呟き、青い瞳で小さな竜をじっと見つめる。トウマルはふうと息をつくと、ソーイングセットを開けて枝に糸を括り付けて簡単な釣り竿を作る。糸に餌を付けている最中で、リラがようやくトウマルの行動に興味を示した。 「ちょっと、ガキの頃思い出した。石の影とかよく逃げ込まれたっけな。トカゲ釣りって知ってるか?」 いそいそと準備する彼を、リラはじっと見守る。トウマルは今でも子供に近い年齢に思えたが、それを口にすれば機嫌を損ねかねない。彼の手際の程を見る機会を失ってしまうのは、勿体ないように思われた。 トウモロコシの葉の影に、トウマルは糸をそっと垂らす。普通のトカゲであれば巣穴に居るところにちらつかせてやればいいが、今回は全て手探りだ。やがて一匹が餌に釣られ、葉の上に現れる。餌を口に入れるのを待ってから、トウマルはくいと竿を引いた。糸を銜えてもがく火竜をリラは興味津々に見ている。糸を何度か揺らすと、トカゲがかごへ落ちる。リラの視線が、トカゲの動きに沿って移動した。 「トーマにも、そのように過ごした時間があったのですね」 「トカゲ見ながら言う事かよ、それ……」 リラは慎重に手を伸ばし、そろそろとカリュウモドキを撫でる。通常のトカゲと似た手触りだが、火竜の名を冠するだけあってグローブ越しでも僅かに温かい。彼はトカゲをそっと掴み、そのままグローブを裏返した。 「おい。今隠そうとした一匹、寄越せ」 リラは渋々手袋を渡す。トウマルは無言でそれを振り、囚われのトカゲをかごへ戻した。 「グラも生き物絡みだとこうなるのか、覚えとこ」 あまり表情を崩してはいないが、それでもリラは明らかに不服そうだ。初めて見るパートナーの珍しい行動や態度は、彼にとっては十分すぎるほど新鮮だった。 リラが随分と張り切っていたお陰で、畑での捕獲は予想よりかなり早く終わった。小さな火竜で沢山になったかごを抱え、二人は町へ戻る。昼まではまだ時間があるため、担当の地区をもう少し回ることができそうだった。リラは町役場に戻るまで、大事そうにかごを抱えていた。 ● 「ここで三ヶ所目。数は少ないけれど、罠にもちゃんとかかっているみたい」 地面に埋めた罠をシルシィが確認する。罠は細長い箱で蓋も無く、中に餌を入れるだけのひどく簡単な作りだが、効果は十分にあるようだ。マリオスは罠を片付け終わると汗を拭い、帽子を取って髪をかき上げる。 「設置したものはこれで全部だな。残りは網で捕まえるとしても、まずは餌を仕掛けて待つ必要がある。その間に少し休もう」 二人は餌の野菜くずをいくつか置いてから、近くの木陰まで移動する。抱えた耐火かごは、ほんのりと温かかった。 「――ねえマリオス。受付さんはああ言っていたけれど、捕まえたカリュウモドキって本当に魔術道具とかの材料になるの?」 水筒の蓋を掌で抱えるように握りながら、シルシィは尋ねた。魔術研究に熱心な彼ならば、何か知っているかもしれないと考えたためだ。彼女は蓋に注がれた冷水を一口飲む。乾いた喉と体が、瞬く間に潤っていく。 「どうかなあ。魔術道具の製造方法は機密扱いだから、非公開なのは知ってるだろう?」 マリオスは顎に手を当て、難しい表情であれこれ考えた。彼は耐火かごの中身が何に使われるか知っている。「それ」を使う機会は浄化師にはあまり無いだろうが、万が一機会が訪れてしまった時のことを考えると言い出せなかった。 「そうだな。僕の知ってる所だと、治療用のポーションのレシピがある。ま、調べればすぐに出てくるものだけどね」 そう言って彼は、ポーションの製造法と材料について説明を始める。魔力防御力を上げる「レジストポーション」については一切触れぬまま。そして何種類かの魔術道具についての説明が終わると、仕掛けの確認にちょうどいい時間になっていた。 二人が戻ると、幾つかの餌に効果が表れていた。シルシィとマリオスは二方向からこっそりと回り込み、片方の網の近くへトカゲを追い込む。捕まえたものは慎重にかごへ移し、一匹入れる毎にしっかりと蓋を閉める。彼らは暗いと動きが鈍るのか、かごの中は不思議なほど静かで、光が差し込むと僅かに動き出すようだった。 ごく一般的な生物であるカリュウモドキを捕まえるのは少し可哀想な気もしたが、大量発生で火災の危険があるとなれば仕方ないだろう。彼らは真摯に、かつ倒れてしまわない程度に、熱心に捕獲を実行していた。 「三匹捕まえればとりあえず良いとは言われたけれど、これだけあれば十分かしら」 「そうだな。この辺りではもう姿が見えないようだし、最終的な確認は後で回ってくるロスさんたちに任せよう」 担当地区を回り終えた二人は、アイスベルク町役場まで帰還した。捕獲班の教団員にかごと備品を渡すと、彼は二人分の氷嚢と水を部屋の奥から持ってきた。日に焼けて真っ赤な顔をしている彼女たちを心配してのことらしい。思いのほか消耗していたことに驚きながらも、二人は日陰の部屋で仲間たちの帰還を待つことにした。 ● そして正午前。町役場では、一行の捕まえたカリュウモドキを数えていた。彼はかごを開けるなりぎょっとした顔をしたが、後半になるにつれて淡々と作業をこなすようになった。結果は97匹という圧倒的な成果で、受付嬢の分を加えると100匹を超えるほどの収穫となった。 集計を待つ最中、リチェルカーレがシリウスの火傷を見つけ、慌てて手当を施していた。彼は手を掴まれて目を丸くし、触れられた指先を戸惑ったように見つめていた。 「というわけで、皆さんのお陰で沢山捕まりました。皆さんが今回の休暇を邪魔されることはもうありませんし、私の休暇も明後日から再開できる運びとなりました……」 一行は任務を終えたあと、町の中央通りにあるレストランに足を運んでいた。謝辞を述べる受付嬢は途中から鼻声になる。彼女が謝りながら涙を拭いていると、テーブルに料理が運ばれてきた。 「今日は私の奢り――と言っても、私のお給金では全員分のデザートと一杯目の飲み物が限界です。すみません……。でもここの林檎のパイ、おいしいって有名なんですよ」 それぞれの席に皿が置かれ、グラスに飲み物が注がれる。疲れ切った一行には、全てが最高の食事に思えた。 「折角のお料理、温かいうちに食べないとですね。何度お礼を申し上げても足りないんですが、それでも最後にもう一度言わせてください。本当に、ありがとうございました!」 彼女の言葉を合図に、全員が乾杯を交わす。11個のグラスが、かちんと音を立てた。 「休暇にしては忙しかったかな。まあ、トカゲの生け捕りゲームを楽しんだとでも思っておこうか。それでも釈然としないけど」 二杯目のジュースを飲みながら、クロエが冗談めかしてパートナーに語る。ロゼッタはくすりと笑って返事をする。 「珍しく前向きなのね。どうしたの?」 「そうじゃないと、デザートが美味しく感じないよ。実はここの林檎のパイ、楽しみにしてたんだ」 クロエはにっこりと笑い、再びグラスを傾けた。一行のソレイユ地区での休暇は始まったばかり。今日の午後からはどうやって過ごそうか。全員がそんなことを考えていると、デザートが運ばれてきた。ともあれ、まずは報酬のパイを堪能しよう。考える時間は、まだまだたっぷりあるのだから。
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*** 活躍者 *** |
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[8] トウマル・ウツギ 2018/07/24-21:32
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[7] シンティラ・ウェルシコロル 2018/07/24-21:17
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[6] シルシィ・アスティリア 2018/07/24-21:15
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[5] リチェルカーレ・リモージュ 2018/07/24-21:07
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[4] ロス・レッグ 2018/07/24-21:04
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[3] ロス・レッグ 2018/07/23-22:29 | ||
[2] ロゼッタ・ラクローン 2018/07/23-10:56
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