~ プロローグ ~ |
無事に指令を終え、報告のため教団に戻ったあなたとパートナーに声をかける男がいた。 |
~ 解説 ~ |
押しつけるように渡された氷菓子を、お好きな場所でお召し上がりください。 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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◆時計台で氷菓子を食べよう ・瞬に誘われ唯月は不安な気持ちを抱きつつも着いて行く 唯「素敵なものを…頂きましたね…」 (瞬さん、今日は何だか落ち着いてる…気が…?) 瞬「ね、いづ…時計台に行かない?」 唯「え?」 瞬「街が一望出来るんだって!…いづと一緒に見たいなぁと思って!」 唯「え、あ、はい…」 ・街を眺め少しの安息 瞬「どんな感じなのかなって思ったけど、美味しーねー!」 唯「…はい、そうです、ね…」 瞬(やっぱり…いづ、俺と話しづらそう…でも俺が悪いし…仕方ない、よね…) 唯(…平和…そう、思えた。ずっと不安な日々だったのに今日は…ふふ) 唯「ずっと穏やかなままで…」 瞬「いづ?」 唯「な、なんでもない、です…っ!」 |
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氷菓子…綺麗ですね… 赤いのと橙色の…これは苺とオレンジでしょうか 氷に閉じ込められてて、涼しそうで… 夕日が氷に映るって染まっていくのも綺麗です… 手にした菓子を見て小さく息を吐く どうやら感心してるよう これが、失敗作って…どうしてなんでしょう? あ、そうですね、食べてみれば… 一口頬張ってキンとくる冷たさに思わずきゅっと力が入る フルーツの甘みと酸味でさっぱりしてて美味しいのですけど… これ…ソーダを入れてみたら、もう少し食べやすく… ? クリス?あの、見られてると食べにくいです… それに、溶けちゃいますよ…? 表情…そうですか? きっとクリスのおかげですね 任務意外にも色々なところに誘ってくれるから いつも、ありがとう |
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どれにする?セシルくんが好きなの選んでいいわよ かわりに食べる場所は私に決めさせてくれる? 時計台へ あら、人聞きが悪いわね 予想通りな反応を面白がりつつ 暑い所で食べた方が冷たいものの有難みがよりわかりそうじゃない? あと単純に高い所好き ほら、溶けないうちに食べちゃいましょ セシルから氷菓子を取り上げてぱきん 綺麗に二つに割れ思わず微笑む いい感じじゃない?はい、食べて元気だしてね 街並みを見下ろしつつ氷菓子を齧る なんだかこうして見てると、本当は今ってとても平和なように思えるわね そうね、こんな風な日が毎日続けばいいのだけれど なんだか私、セシルくんの事少し誤解していたかも 言葉にしないとわからない事って沢山あるのね |
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お、サンキュー! へへ、見た目も涼やかでいいなこれ (パッキン) ほい、ルド (入ってるフルーツに喜び) いただきまーす (ぐいぐい引っ張られて椅子に座る) うまい!ルド、うまいぜこれ (食べつつだべる) ルドさぁ、そんな厚着しててよく平気だな 何かこう、修行してんの? 俺は時と場合を考えてオンオフするぞ 手?握る? (するりと握られた手は冷たい) あ、気持ちいい ひんやりしてていいなー 体質かぁ 手が冷たい奴は心があったけぇって言うしな ルド悪い奴じゃないし (口は悪いけど) 何も考えてない!あ、いや、その くっそールドには隠し事できないな ルドは嫌いじゃないっていったんだよ! |
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ありがとうございます。 …氷菓子をいただいてしまいました。 嫌でも暑かったので正直助かります。 それじゃあ、半分こしましょうか。 はい!どうぞ。 あ、桃が入ってますこれはパイナップルですね!美味しいです! さっぱりしてますし半分こできるのとかいいと思うんですけど…商売って難しいですねぇ…。 水分はきちんととってますよ暑い時は今みたいに氷菓子食べたりしますし。 ていうかロメオさんちょっと私に対して過保護じゃないですか? 子供じゃないんですからね。 氷菓子やアイスクリームは男一人だと買いに行きづらいですか? うーん、確かにあんまりみかけませんね。 じゃあ、今度、私と一緒に買いに行きましょう。 奢りですか?楽しみにしてます。 |
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食堂 ◆ローザ 流されるままに氷菓子を受け取ってしまった…ヘイリーは甘いもの、食べるのか? まぁ、一人で食べるのは相手がヘイリーとはいえ気が引けるからな 窓際の席が空いている、其処で食べよう 確か、こうやって分けるんだったな ……氷菓子の大きい方を、ヘイリーへ差し出す う、うるさい…!初めてやったんだから仕方がないだろう! 何故か負けた様な気持ちになりつつも、氷菓子を頂こう 見目も爽やかで、味も良いな 未だに慣れない暑さの疲れが取れる様だ… …こうやって夏に食べる氷菓子は、とても美味しいものなんだな 故郷の夏は、他の季節に比べて暖かかった位で…こことは大違いだ ったく…髪が乱れるだろう! ……貴方も、ゆっくり休んでくれよ |
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●目的 互いの過去を打ち明ける約束を果たす ●場所 時計塔 ●氷菓子 皮付きの赤林檎入り ●ユン (簡単な指令の後のため、いつもの清掃活動中 時計塔周辺の床を磨き終えてモップにもたれ掛かり) あ、フィノくん、ゴミ捨て、ありがと こっちも、きれいに、なった わ、美味しそう 氷菓子を受け取り側に座って しゃく 冷たい、甘い、美味しい うん、始め、よう あたしは、ね 奴隷に、なる前、石でできた、部屋にいて 生活は、困らなかった、けど、外に出して貰え、なくて その後、奴隷にされて、フィノくんに、会った …あっ、あのね! それより、前の事、覚えて、ないの! ごめん、大丈夫、平気 (辛いのはフィノくんの方なのに) あたし、もっと、戦う フィノくんの、為に |
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◆シュリ 氷菓子? へえ、綺麗だし美味しそう…! ありがとう、頂くわね 時計台で夕陽を眺めながら氷菓子を食べる これ、すごく美味しいわね…!どうして失敗作なのかしら 味わっているとロウハに突然腕を引っ張られる え?え?何? 見ると氷菓子が溶けそうになってる そうね、急いで食べない…と… ロウハがすごく間近に立ってることに気付いて驚く は、早く食べなきゃ…でもロウハがすごく気になる…! 結局、食べ終わるまでまともに顔を上げられなかった ◆ロウハ おー、氷菓子か 指令の後に冷たいものとか、最高じゃねーか 有難く頂くぜ 氷菓子を半分に割ってお嬢に渡す さっぱりして美味い…が、溶けるな、これ お嬢、ちょっと日陰に入るぞ さっさと食っちまおう |
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~ リザルトノベル ~ |
● 氷菓子を受けとった『泉世・瞬(みなせ・まどか)』は、ぱっと表情を輝かせて『杜郷・唯月(もりさと・いづき)』の袖を引いた。 「ね、いづ。時計台に行かない?」 「え?」 「街が一望できるんだって! いづと一緒に、見たいなぁと思って!」 「え、あ、はい……」 さり気ない接触にわずかに肩を強張らせた唯月が頷くと、瞬は手を放して先に歩き始めた。後を追う唯月はこっそりとこぶしを握る。 (不安……) 少し前までは、瞬に対してそんな感情は抱かなかったのに。 今のままじゃだめだ、なにかしないと。瞬のためになにができるか。何度も繰り返した問いが頭の中で回る。瞬の背中を追いかけるだけでなく、隣に並べるように。守られるだけでなく、守ってあげられるように。 (わたしに、できること) 考えているうちに時計台に到着した。 目を焼くほどに明るいオレンジ色の光が、教皇国家アークソサエティの首都、エルドラドの街を照らしている。 「暑いね~! いづ、こっちにおいで」 人気のない時計台の、太い柱の陰に飛びこんだ瞬が唯月を手招く。唯月は小さく顎を引いてから、瞬の隣に座った。 「はい、いづ~」 「ありがとうございます」 綺麗に二つに割った氷菓子の片方を、瞬が差しだす。ゆっくりと溶け始めている氷菓子は、夕日に照らされてきらめいて見えた。 「素敵なものを……、頂きましたね……」 「だよね~! おいしそう~」 (瞬さん、今日はなんだか落ち着いている……気が……?) 密かに安堵する唯月を横目で見つつ、瞬は内心で頭を抱える。 (いづ、さっき怖がってたな……) どうかしていたとはいえ、告白までしてしまった。以来、唯月の言動が明らかにぎこちない。 (俺、なんであんなこと言っちゃったんだろ!? これからいづの心を開けたらなって思ってたのに……はぁ……) 暗くなっていても仕方ない。空気の変化に敏感な唯月に異変を悟られる前に、瞬は氷菓子を食べ、努めて明るい声を上げる。 「どんな感じなのかなって思ってたけど、おいし~ね~!」 「……はい、そうです、ね……」 (やっぱり……いづ、俺と話しづらそう……。でも俺が悪いし……仕方ない、よね……) 肩を落としかけた瞬は、唯月がかすかに笑っていることに気づいた。 (平和……。ずっと不安な日々だったのに、今日は……、ふふ) 甘くておいしい砂糖菓子。側には唯月が知っている、いつも通りの瞬。 「ずっと、穏やかなままで……」 「いづ?」 「な、なんでもない、です……っ」 慌てて首を左右に振り、氷菓子を口に入れた唯月に瞬は首を傾ける。 ともあれ、久しぶりに唯月の穏やかな表情を見られたのだ。些細な疑問など捨て置けるくらい、十分なことだった。 (また……俺は俺を見失うのかな。……今だけは、この時間を大切にしよう) 不安も恐怖も、今だけは。 ● 押しつけるように渡されてしまった氷菓子と、料理人がすさまじい速度で駆けて行った方向を見比べ、『クリストフ・フォンシラー』は小さく息をついた。 「氷菓子……。綺麗ですね……」 「そうだね」 興味津々らしい『アリシア・ムーンライト』に頷き、クリストフは改めて氷菓子を観察する。 凍らせた砂糖水の中に、ひと口大に切られた干した果物。イチゴとオレンジだろうか。見た目は悪くない。 「ちょっと暑いかもしれないけど、時計台に行こうか。氷菓子を食べるなら、ちょうどいいかもしれないよ」 こくりと頷いたアリシアとともに、時計台に向かう。鮮烈な明るさの夕日が、エルドラドの街を染め上げていた。 適当な位置に並んで腰を下ろす。予想通り夏の夕暮れは暑かった。 「はい」 「ありがとう……ございます……」 綺麗に真ん中から割れるように注意を払いつつ、クリストフは氷菓子をぱきんと割る。失敗はしなかった。 果物が多く入っている方をアリシアに渡すと、彼女は氷菓子を夕日に透かし、ほう、と感嘆の息をつく。 「綺麗です……」 氷菓子の表面は、オレンジ色にきらめいていた。果物が閉じこめられているというのも、美しくてどこか幻想的だ。 「これが失敗作って……、どうしてなんでしょう?」 「うん。まぁ、見てる分には氷細工みたいで綺麗なんだけど。失敗作だって理由は、食べてみれば分かるんじゃない?」 「あ、そうですね。食べてみれば……」 小さく頷いたアリシアが、思い切るように氷菓子を頬張る。途端、きんとした冷たさに襲われ、思わずきゅっと顔に力を入れた。 一方でクリストフも氷菓子を口にする。ただ、味わうよりも、アリシアの表情の変化を見ているのが楽しい。 「フルーツの甘みと酸味で、さっぱりしてて、美味しいのですけど……。これ……、ソーダを入れたら、もっと食べやすく……」 真剣に分析していたアリシアは、視線に気づいて瞬いた。 「クリス? あの、見られていると食べにくいです……」 「え? ああ、ごめん。ソーダか。いいかもしれないね」 「それと、溶け始めてますよ……?」 「え、溶けてる? ああ、ほんとだ」 食べることがおろそかになっていたクリストフは、溶けて垂れかけていた砂糖水を慌てて舐めとった。 「どうか……しましたか……?」 「いや、アリシアがさ。最初に比べたら、いろんな表情するようになったなと思って」 「表情……?」 少し考えてから、アリシアはほんのわずかだけ口の端を上げた。 「きっと、クリスのおかげ……ですね。指令以外にも、いろいろなところに誘ってくれるから……。いつも、ありがとう」 「こちらこそ。アリシアと一緒で、いつも楽しいよ」 笑みをこぼして応じたクリストフは、氷菓子を口に含む。甘くて、冷たくて――失敗作というほど悪くはなかった。 ● 「どれにする? セシルくんが好きなの、選んでいいわよ」 『セシル・アルバーニ』は一瞬だけ喜んでから、すぐにためらうように視線を泳がせた。 「代わりに、食べる場所は私に決めさせてくれる?」 その反応は想定内だったので、『イザベル・デュー』はそう続ける。 どこで食べるのか気にはなったが、別にどこでも大して変わらないと判断したセシルは、イザベルの言葉に素直に応じた。 「あ、はい。じゃあ、これで」 凍らせた砂糖水の中に、干した桃が入っているものをとる。料理人はすぐに、別の浄化師に声をかけ始めた。 「行きましょうか」 微笑んだイザベルに、セシルはついていく。 そして。 「すごく騙された気分なんですけど……」 真夏の斜陽が直撃する。暑い。 時計台に到着するなり、セシルはぐったりしてしまった。イザベルの予想通りの反応だ。 「あら、人聞きが悪いわね。暑いところで食べた方が、冷たいもののありがたみが、より分かりそうじゃない?」 「そういうものでしょうかね……?」 日陰に入ったセシルは、いぶかしげだった。それがイザベルにはますます面白い。 「ほら、溶けないうちに食べちゃいましょ」 イザベルは氷菓子をとり上げ、ぱきんと綺麗に二つに割る。うまくいったことに思わず笑みをこぼした。 「いい感じじゃない? はい、食べて元気出してね」 「ありがとうございます……」 礼を言いつつも不満が隠せていなかったセシルだが、冷たくて甘い菓子を口に入れるとわずかに表情がほころんだ。 (失敗作って言ってたけど、おいしい) 二人で並んで座り、夕暮れの街並みを見下ろしながら黙々と氷菓子をかじる。 「なんだかこうして見てると、本当は今ってとっても平和なように思えるわね」 「だったらいいですよね」 実際には、世界は危機にさらされている。一歩間違えれば人類は滅亡するだろう。 「連日、なんかもう指令ばっかりで……」 本当に毎日、忙しい。遠い目になるセシルに、イザベルは眉尻を下げた。 「ええ。こんな平和なときが続けばいいのだけど」 「……でも、俺らじゃないとできないこともあるので」 忙しくても、大変でも。 「まぁ、面倒だなって思ってるのは事実ですけど……。誰かがやるしかないじゃないですか。逃げるつもりはないです。今のところ」 自分たちは力を持ったのだから。 なにやらすごく恥ずかしいことをしゃべっているような気がしてきて、セシルは氷菓子をがりがりと噛み砕く。暑さのせいだ。きっと。 (なんだか私、セシル君のこと少し誤解してたかも) ゆるりとイザベルは瞬いた。自分が思っている以上に、彼は。 「言葉にしないと分からないことって、たくさんあるのね」 とてもいいことを知れた。 聞こえないふりをしたセシルに、ふふ、と笑い、イザベルは溶けかけた氷菓子を口に入れた。 ● 簡単な指令を終え、帰ってくるなり『ユン・グラニト』は清掃を始めてしまった。 いつものようにユンを手伝っていた『フィノ・ドンゾイロ』はごみを所定の位置に捨てて、戻ろうとしたところで、料理人に氷菓子を押しつけられる。 「えっ、失敗作!?」 少し警戒してしまったが、凍らせた砂糖水の中に干した林檎が入った菓子は、とても綺麗で涼しそうだ。ひと口大に切られた林檎の、真っ赤な皮が彩を添えている。 (よし、ユンと分けよう) 人気が少ない時計台の床を磨き終えたユンは、モップにもたれて街を見下ろしていた。夏の西日が少女の額に汗を浮かせている。 「ユン、お疲れ」 「あ、フィノくん。ごみ捨て、ありがと。こっちも、きれいに、なった」 「うん。きれいになってる。これ、さっき食堂の人にもらったんだ。一緒にどう?」 「わ、おいしそう」 目を輝かせたユンと、氷菓子を綺麗に二つに割ったフィノは並んで座る。しゃく、とユノが皮つきの赤林檎を閉じこめた菓子をかじった。 「冷たくて、甘くて、おいしい」 「うまい」 同じく氷菓子を食べたフィノは、素直な感想とは裏腹に少し唇を尖らせる。 (どのへんが失敗作? ユンの反応、楽しみだったのに) 「ねぇ、ユン」 お互い半分ほど氷菓子を食べたところで、フィノはできるだけ肩の力を抜いて、切り出した。 「指令も掃除も終わったし、この前の約束。大丈夫かい?」 「うん、始め、よう」 互いの過去を打ち明ける。そう約束していた。 ユンはすっかり覚悟を決めているようで、声音にも表情にも力は入っていない。 「じゃあ、俺から」 フィノは氷菓子の棒を強く握った。 「俺は奴隷にされる前、ベリアルに大切な人たちを殺された。父さんも母さんも、友だちも先生も……みんな。そのあとは、あの男に拾われて、きみに出会った」 奴隷商の男だ。うん、とユンは頷く。 「あたしは、ね。奴隷に、なる前、石でできた、部屋にいて。生活には、困らなかった、けど、外に出して、もらえ、なくて。そのあと、奴隷にされて、フィノくんに、会った。……あっ、あのね、それより前のこと、覚えてな……っ」 いの、とユンは最後まで言えなかった。フィノがぎゅっとユンのことを抱きしめたからだ。 「ユン、ユン! 俺がいる、大丈夫!」 (不安だっただろうに、今まで抱えさせてしまって、ごめんよ) 「……ありがと。ごめん、大丈夫。平気、だよ」 「ユンの記憶を戻す手伝い、させてくれるかい?」 (つらいのは、フィノくんの方なのに) こくりとユンは頷く。フィノの腕に力がこもった。 「あたし、もっと、戦う。フィノくんの、ために」 「俺ももっと戦うよ。ユンのために、もっと」 「……うん」 苦しいほどに抱き締めてくる少年の腕に少し触れて、少女は目を閉じた。氷菓子はゆっくりと溶けていく。 ● 指令から教団本部に戻ったら、時計台で反省会を行うのが二人の習慣になっていた。 「あら。いつもお世話になっているわ」 今日もそこへ向かおうとした『シュリ・スチュアート』は、教団寮の食堂で働く料理人に声をかけられ、優雅に一礼する。 話を聞いてみると、どうやら失敗作の氷菓子を配り歩いているらしい。ひとつ見せてもらって、シュリはぱっと表情を明るくした。 「へぇ、綺麗だしおいしそう……!」 「氷菓子か。指令のあとに冷たいものとか、最高じゃねーか」 シュリの隣に立つ『ロウハ・カデッサ』も嬉しそうに口の端を上げる。押しつけるように氷菓子を渡してきた料理人に礼を言い、二人は予定通り時計台に向かった。 人気がほとんどないのは、真夏の夕日が強く差しているためだろうか。首都の街並みをオレンジ色に照らす日差しに、シュリは目を細くする。 「お嬢」 「ありがとう、ロウハ」 ぱきんとロウハが氷菓子を半分に割った。干したイチゴが閉じこめられている氷菓子に、シュリはそっと口をつける。 「これ、すごく美味しいわね……! どうして失敗作なのかしら?」 「確かに、さっぱりしてて美味い……が、溶けるな、これ」 早くも砂糖水に戻り始めている氷菓子を一瞥し、ロウハはおもむろにシュリの腕を引いた。突然のことに少女は目を丸くする。 「え、え、なに?」 「お嬢、ちょっと日陰に入るぞ」 返事を待たずに、ロウハはシュリを柱の陰に引き入れた。日向よりも涼しいが、狭い陰に二人で入っているため、立ち位置は自然と近いものになる。 身じろぐだけでも体が触れあいそうだった。シュリはロウハを見上げ、慌ててうつむく。 (近いわ……!) ロウハはまったく気にしていないようだが、本当に近い。心臓がどきどきと早鐘を打っている。ロウハに聞こえていないか、少し心配になった。 「溶けるぞ、お嬢。さっさと食っちまおう」 「そうね、急いで食べない……と……っ」 慌ててシュリは氷菓子を口に入れる。甘くて、冷たくて、おいしいのだが、先ほどよりも味が分からなくなっている気がした。 ロウハがあまりにも近すぎて、意識がすべてそちらに行ってしまっているのだ。 「今日の指令、うまくいってよかったな」 「ええ、怪我をする人もいなかったし、教団に頼まれていたものも持ち帰れたわ」 氷菓子を食べるのに忙しい振りをして、シュリはうつむいたまま応える。一足先に食べ終えたロウハは、満足そうに頷いた。 「次もきっとうまくいくぜ、お嬢」 「そうね。次はどんな依頼かしら」 受け答えはおかしくないか。態度が妙だと思われていないか。心配だが、ロウハの反応を見る限り今のところは杞憂ですんでいるようだ。 (落ち着いて……!) シュリは結局、氷菓子を食べ終わるまでまともに顔を上げることができなかった。 ● 教団寮の食堂に努める料理人のひとりが、失敗作の氷菓子を配っていた。 「お、サンキュー! へへ、見た目も涼やかでいいな、これ」 ひとつ適当に選んだ『アシエト・ラヴ』は相好を崩す。 当然のように氷菓子を貰い受けた『ルドハイド・ラーマ』は、そんな彼の表情を、餌づけされてるサルだな、と思いながら冷静に見下ろした。 「ほい、ルド」 「ああ」 ぱきんと氷菓子を二つに割ったアシエトが、片方をルドハイドに渡した。頷きつつ受けとり、周囲を見る。食堂の、窓際の席に空きがあった。 「いただきまーす」 そうしている間に、アシエトは凍らせた砂糖水の中に、干した果実が入っていることに喜びながら、氷菓子を口に入れる。ルドハイドは眉間にしわを寄せ、アシエトの腕をつかんだ。 「立って食べるな。あそこに席がある」 (子どもみたいだな。いつものことか) ぐいぐいと引っ張られるアシエトは、なにひとつ気にしていない。 「うまい! ルド、うまいぜ、これ」 「歩きながら食べるな、まったく」 食堂を突っ切り、目をつけたテーブルにつく。氷菓子をひと口かじり、ルドハイドはかすかに顎を引いた。 「ああ、これは。美味しい」 失敗作とのことだったが、味には全く問題がない。 「ルドさぁ、そんな厚着してて、よく平気だな?」 甘い氷菓子が体を内側から冷やしてくれる感覚を堪能していたルドハイドに、アシエトは首を傾けた。 「まぁ……、平気だな」 「なんかこう、修行してんの? 俺は時と場合を考えて、オンオフするぞ」 「修業はしてない。アホを言うな」 「アホって言うな」 「言っておくが、季節を考えて服は変えている」 (いきなりなにを言い出すんだか) 心の中でため息をついたルドハイドは、丸くて小さなテーブルの中央あたりを指先でとんと叩いた。 「手を出せ」 「手?」 きょとんとしたアシエトは、おとなしく手を伸ばす。ルドハイドはするりと彼の手を握った。 「あ、気持ちいい。ひんやりしてていいなー」 「分かっただろう。体質だ」 「体質かぁ」 ルドハイドの手を握ったり離したりして、アシエトは何度か首を縦に振る。 「手が冷たいやつは心があったけぇって言うしな」 「……古い言い伝えだな」 「ルドは悪いやつじゃないし」 口は悪いけど、と続けかけて、アシエトは氷菓子をくわえた。 「なにか余計なことを考えただろう」 「なにも考えてない! あ、いや、その」 視線をさまよわせて慌てるアシエトに、ルドハイドは予想が的中したことを察して苦笑する。 「くっそー。ルドに隠しごとはできないな……。ルドのことは嫌いじゃないって話! それだけ!」 「……お前の好き嫌いに分類されるのは心外だが、礼は言っておく」 「心外!?」 悔しそうにむくれるアシエトを尻目に、ルドハイドは涼しい顔で窓の向こうの夕焼けを見た。 ● 渡された氷菓子を、『シャルローザ・マリアージュ』は微笑みながらありがたく受けとった。『ロメオ・オクタード』は、くれるというなら素直にもらっておくか、程度の気持ちだ。 とはいえ、二人とも夏の熱い夕日にさらされながら教団に戻ってきた身だ。冷たそうな菓子は、見ているだけでほっとする。 「冷たくて気持ちよさそうだな」 「ええ。嫌でも暑かったので、正直、助かります」 食堂が近かったので、移動することにした。立ったまま食べるというのも、あまりよくないだろう。 「それじゃあ、半分こしましょうか」 「ん、半分くれるのか。ありがとう」 ぱきんとシャルローザが氷菓子を丁寧に二つに割る。改めて氷菓子を見てみると、凍らせた砂糖水の中に二種類の干した果物が閉じこめられていた。 「あ、桃と、パイナップルですね! 美味しいです!」 ひと口かじったシャルローザが幸せそうな笑顔になる。同じく氷菓子を食べたロメオも、素朴な味に満足して頷いた。 「うん。凍った果物ってのも、なかなかいいものだな」 干した果物は珍しくない。しかし、こういった形で出されたのは初めてだ。 「夏にはもってこいだと思うがなぁ」 「はい。さっぱりしてますし、半分こできるのとか、いいと思うんですけど……。商売って難しいですねぇ」 二人で難しい顔をしてみたが、教団寮の食堂で提供される料理の基準など、考えても分からなかった。 「ところでお嬢ちゃん。ちゃんと水分はとってるか?」 ふと疑問に思ったことを、ロメオは問う。一緒にいる間はロメオが気にしているが、それ以外のときが心配だった。 「大丈夫ですよ。暑いときは今みたいに、氷菓子を食べたりしていますし」 「日中だけじゃなくて、夜も水分補給は大事だぞ。寝てるときとか、意外と汗かくからな」 「問題ないです。ていうかロメオさん、ちょっと私に対して過保護じゃないですか? 私、子どもじゃないんですからね?」 「過保護っていうか……、普通に心配しているだけなんだが……」 過保護になるのだろうか。 悩み始めたロメオに、今度はシャルローザが尋ねた。 「ロメオさんも、暑いときは冷たいものとか食べてます? 水分補給も」 「水分はとってるが、冷たいものな……。氷菓子とかアイスクリームとか、もっと食べたいなとは思うんだが、男ひとりだと買いに行きづらいんだよな……」 「うーん。確かに男性ひとりで、って、あまり見かけませんね」 少し考えてから、シャルローザは閃いた。 「じゃあ今度、私と一緒に買い物に行きましょう」 「お嬢ちゃんがつきあってくれるなら助かるな。そのときはおごるよ」 「本当ですか? 楽しみにしてます」 「ああ、なんかおすすめとかあるか?」 氷菓子を食べながら候補を絞っていくシャルローザを、ロメオは目を細めて見守っていた。 ● 教団寮、食堂前で料理人に捕まり、氷菓子を押しつけられた『ローザ・スターリナ』は、隣に立つ『ジャック・ヘイリー』をちらりと見た。 (流されるままに氷菓子を受けとってしまったが……。ヘイリーは甘いもの、食べるのか?) 形から考えるに、この氷菓子は二人で食べることを前提としている。ひとりでも食べられるだろうが、相手がヘイリーとはいえ気が引けた。 「クソ暑かった指令の終わりに氷菓子、か。ま、儲けもんだな」 どうやら食べるらしい。 よかった、と少し安堵しつつ、ローザは食堂に入った。窓際の席があいていたため、腰を下ろす。テーブルを挟んだ向かい側にヘイリーも座った。 「確か、こうやって分けるんだったな」 料理人が教えてくれたように、氷菓子についた二本の棒を持ち、真ん中の溝にそって真っ二つに割れるよう、力を入れる。 ぱきん、といい音がした。 「……」 大きい方と、小さい方ができあがる。ローザは無言で大きい方をヘイリーに渡そうとした。ヘイリーは少し呆れた表情で、小さい方に手を伸ばす。 「薄々、思っていたが。お前、不器用だな……」 「う、うるさい……! 初めてやったんだから、仕方ないだろう!」 「分かった分かった。そっちでいい。でかい方はお前が食え」 なぜか負けたような気持ちになりつつ、ローザは小さい方をヘイリーに渡し、大きい方の氷菓子に噛みついた。 凍らせた砂糖水の優しい甘さと、内包されている干した果物の程よい酸味が口の中をさっぱりと冷やし、体に篭っていた熱を沈めてくれる。 はぁ、とローザは全身の力を抜いた。 「暑さの疲れがとれるようだ……」 「そういえば、お前は雪国の生まれだったか」 窓の外の夕焼けを見ているジャックに、ローザはかすかに頷いた。 「故郷の夏は他の季節に比べて暖かかったくらいで……。こことは大違いだ」 「慣れねぇか?」 「この暑さには、まだ」 見た目が爽やかで、味もいい氷菓子でも食べないと、溶けてしまいそうなくらいには、慣れていない。 「しかし、氷菓子が美味しいのは暑いからなのだろう、とも思う」 「そうだな」 早くも食べ終わったジャックが席を立ち、すれ違いざまにローザの頭をわしわしと撫でた。 「わ……っ、ったく、髪が乱れるだろう!」 「俺は先に休む。お前は暑さに慣れてねぇんだろ、よく涼めよ」 食堂は冷房が効いていて涼しい。まだ少し残っている氷菓子を食べて、しばらくぼんやりしていれば気だるさもとれるだろう。 「……貴方も、ゆっくり休んでくれよ」 髪を片手で直しながら、ローザはジャックの背に呟いた。不満と照れ隠しが混在している小声に、ジャックは右手を上げるだけで応じ、食堂から出て行く。 「綺麗な夕日だな」 彼が見ていた真夏の夕焼けに視線を投じ、ローザは小さく笑んで、氷菓子をかじった。
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*** 活躍者 *** |
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