~ プロローグ ~ |
「今回は、実戦訓練だ。だいじょうぶ、だいじょうぶ、危険なことはないから、たぶん」 |
~ 解説 ~ |
そろそろ新人の方も増えてきたと風の噂で聞いたので、今回はオーソドックな戦闘訓練という名の実戦。 |

~ ゲームマスターより ~ |
新人さんが増えたときいたので、せっかくなので訓練として戦うことになります。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【目的】 後方支援、と攻撃の抑制。 【行動】 皆さんが攻撃する際後ろから足を狙い攻撃します。 また、敵が攻撃しようとしたらタロットカードで牽制します。 …け、牽制できるか判らないですが、牽制します!頑張りますわ!(えいえいおー) 【心情】 は、初めての戦闘緊張します。それも、こんな大きな敵を相手にだなんて…。 でもでも、初めてなのはウィルも同じですわ。 私も物語の主人公みたいにきりっとして頑張っていかなきゃ。 ウィルは病弱な私と相性がいいだけで契約して下さったんですもの。私がウィルを守らないとですわ! 【スキルを読んで、使い方が判らず。最終的に、物理は万物共通認識ということで物理で殴りに来ました。物理は裏切らない】 |
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目標…というか心構え 「突撃しません、無謀な特攻はしません…流石に学習しーまーしーたー!」 敵を確認後、魔術真名を発動 必要以上に味方と離れないように注意 基本行動 通常攻撃を行いながら敵の挙動を観察 敵の周囲を回るように移動しながら攻撃 攻撃部位は足>その他 なるべく立ち止まらないことを意識 ※後衛の味方が敵へ攻撃する際は妨害しないように立ち位置を変える 敵の向いている方向から進行方向及び攻撃対象を予測 また攻撃する際は敵が攻撃した直後をなるべく狙っていく 敵攻撃時は横方向への回避を試みる 味方へ注意が向いた瞬間を狙いコアへJM1 コアが破壊されるまでコアを集中的に攻撃 「冷静に冷静に…あぁもう動くなガラクタ!!」 |
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目的:ヨハネの使徒を倒してデビュー戦を飾るよ。堅実な戦いってヤツをしないとねっ。 行動:【ルーシア】後衛から前衛の敵接近を牽制とかしてサポートするよ。 砂煙などで見えずらくなったのに乗じて通常攻撃で足を狙って攻撃する。 敵の動きをよくみて、狙ってくる⁉と思ったらジャンプして回避。 ヒットアンドアウェイ。 【バール】前衛。ヨハネの使徒の混乱をうけ接敵。コアをねらってクラッシュスイングをぶちかます。 敵の攻撃に際しては飛ぶことで回避、隙を見てコア攻撃。 後衛を執拗に狙う使徒がでたら天空天駆でかけもどり間に割って入り攻撃して助ける。 行動方針:各個撃破。フリーのヨハネつくりたくないので一体は確実に仕留めるよ。 |
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*目的 ヨハネの使徒の撃破 *行動 ・セプティム 前衛を担当 脚部を破壊して機動力を下げてからコアを破壊する方針らしいので、そのための支援を行う 他の浄化師やユウが敵の注意を引きつけたり動きを止めている間に【エッジスラスト】で突撃。使徒の前脚部を斬撃。動きが鈍らせる 他の浄化師がコア破壊に動いたなら他の使徒へ攻撃に向かう いないなら自分でコアを即座に破壊 敵を撃破するまでこれを繰り返す 途中、他の浄化師が危機に陥ってるなら攻撃を行い援護 ・ユウ 後衛を担当 味方の手が回らない敵の動きを止めるために【リーフスラッシュ】で脚部を攻撃。さらに葉を使って視界を封じて動きを抑制 後衛に向かってきそうなら自ら動いて囮になる |
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~ リザルトノベル ~ |
●戦闘前に、そのまえに 『アリス・スプラウト』と『ウィリアム・ジャバウォック』は契約を交わしてから、はじめての任務だ。 ウィリアムは笑顔を貼り付かせて感情が読み取れないが、アリスは頬を赤く染めて、胸をときめかせていた。 「大丈夫? 一緒にがんばりましょうね!」 声をかけたのは『ルーシア・ホジスン』だ。横にいる『バール・ガナフ』は静かに肩を竦めた。 二人の前を歩く『ラニ・シェルロワ』と『ラス・シェルレイ』は歩くスピードを緩めて、軽く手を振る。 「あたしたちも、あんまり経験ないから、ほんと、よろしくね」 「オレらが前線は出来るだけ引き受ける」 ぶっきらぼうにラスが返す。 「まぁ、今回は俺がいるし、ベテランのセプティムとユウもいるから」 「何言ってるんですか。僕も、ユウさんも初心者ですよ」 『セプティム・リライズ』が真顔で言い切るのに『ユウ・ブレイハート』も必死の顔でこくこくと頷く。 二人にロリクが渋い顔で頭を押さえた。 「つい最近、巨大イカやコカトリスと戦ったやつが何を言ってる。先輩としてここにいるメンツの手本になるくらいの気概を持てと」 「確かにいろんな依頼を受けて経験しましたが、それはそれ、これはこれです。今後に備えてのはじめての戦いなので初心者です」 「わ、私も、今のうちに慣れておきたいなって……いろいろと力不足なところはあると思いますけど、よろしくお願いしますっ!」 ユウは自分の力に対して実力不足だと思うことが多々あった。ここでしっかり経験を積みたいと思い、今回はセプティムと一緒に参加したのだ。気持ちのうえではとっても初心者である。 そもそも今回の戦闘訓練は浄化師としてはじまったばかりの新人からある程度の経験を積んだ者が呼ばれた。一緒に前線を経験することで互いの戦い方を見ての発見を目的としているのだ。 「まぁ! みなさん、同じ、初心者なんですね! 安心しました」 アリスが目をきらきらと輝かせる。 「いろいろとわからないなりにがんばろうと考えてはきましたけど、足りないところなどありましたら、教えてくださいね。みなさん、えいえいおー!」 アリスが片手をあげて意気込むのに、ウィリアムも一緒に軽く片腕をあげる。ラニは目をぱちくりさせたあと、にっと笑って片手をあげ、ラスの横腹をつつく。それにラスも仕方ないと片腕をあげた。 ぱっと笑ってルーシアが笑って片腕をあげた。 「ヨハネの使徒を倒してデビュー戦を飾るよ!」 「やれやれ。無茶しないでくれよ」 律儀にバールも付き合い、ユウも片腕をあげる。 「よ、よろしくお願いします~っ!」 「よろしくお願いしますね」 セプティムは目を細めたまま片腕を掲げた。 ●ヨハネの使徒だよ! アリスは息を飲む。 先ほど、仲間たちと意気込みをもったやりとりをした。やる気はある。だが実際、ヨハネの使徒を前にすると心臓が早鐘のように脈打つ。汗が、タロットを握る手に伝う。息を意識して整えないと緊張と恐怖に負けてしまいそうだ。 (は、初めての戦闘緊張します。それも、こんな大きな敵を相手にだなんて……) 目を一度、ぎゅっと閉じてアリスは息を吐く。 (でもでも、初めてなのはウィルも同じですわ。私も物語の主人公みたいにきりっとして頑張っていかなきゃ!) 今回ヨハネの使徒の特徴を聞き、仲間たちと作戦をたてた。その作戦にはウィリアムが大切な位置にいるのだ。 (ウィルは病弱な私と相性がいいだけで契約して下さったんですもの。私がウィルを守らないとですわ!) アリスはウィリアムを視界に探す。 前線で戦うことに特化した四人――ラス、ラニ、バール、セプティムの一歩前にウィリアムは立っている。 チェシャ猫を操るウィリアムはじっと、砂塵をあげるヨハネの使徒を睨みつけている。 (仕事ですから、やらざるを得ませんが……正直気は進みませんね) 内心、ウィリアムは不安と後悔を抱えていた。 (元より私は、自分を一番に考える人種ですから。自分を囮にする作戦は、性に合いません。が、任務遂行の為には必要な事。なるだけ人形に目が行くように立ち回らなければ) 仲間達には言えない愚痴を心のなかで零す。 ちらりとアリスが見る。 (アリスに、嫌がられて居なくなられても困りますからね) 仲間を守る盾となり、剣となるため、前線に立つラニとラスは互いに武器を構えた。 「ラニ、向かっていかないのかー?」 「突撃しません、無謀な特攻はしません……流石に学習しーまーしーたー!」 後ろに下がっているロリクが茶々をいれるのにラニが叫んだ。 「決めたんです! 落ち着いて冷静にぶっ殺すって!」 「……ラニの頭に血が上ったら、それをオレが止める。で、ぶっ殺す!」 とラスが冷静を装いつつ、言葉だけ力強く言い切る。 二人はヨハネの使徒の姿を確認すると互いに向き合った。青と赤の瞳が重なり合う、手を繋ぐ。 「叫びよ、天堕とす憎歌となれ!」 二人の声が平野に響く。 ヨハネの使徒の一体が前へと出るのに、残り二体は左右にわかれる。その姿は何も知らない者が見れば美しく翼を広げた鳥のように思えただろう。 対して囮となることを決めたウィリアムを前線、その後ろに斧を構えたバール、接近戦に特化したラス、ラニ、セプティムの三人が並び、アリス、ユウ、ルーシアが並ぶ。 「チェシャ猫!」 ヨハネの使徒の注意を前線担当の三人に向かないように意識してウィリアムがぬいぐるみの糸をひく。 そのタイミングでユウは杖を握り、魔方陣を展開する。 一番前を行くヨハネの使徒が地面を強く踏み、スピードをあげた。 「っ!」 ウィリアムのチェシャ猫に向かってくる。 バールがウィリアムの前に出て斧を構え、奥歯を強く噛む。 「リーフスラッシュ!」 ユウの生み出した青葉が散り、突撃してきたヨハネの使徒の動きを一瞬鈍らせる。 「ウィル!」 「バール!」 アリスとルーシアの声が重なり合い、二人は同時にタロットと、魔力弾をヨハネの使徒に見舞い、さらに頑丈なボディに打撃を与えることでスピードを減少させる。 が。 ヨハネの使徒は前足を大きくあげて、バールに突撃する。 多少スピードが落ちてもその巨体での体当たりはおそろしいほどの威力を発揮し、バールを踏みつぶそうとする。 全身にかかるヨハネの使徒の持つ威圧とパワーはバールの力を軽く凌駕する。後ろ足に力をこめ、踏ん張るが後ろへと押される。 「うおおおおおおおおっ!」 咆哮をバールはあげて耐えるのにセプティムが素早く踏み出す。 バールの作ったヨハネの使徒との接近のチャンスを無駄にはしない。 「今!」 セプティムの声。バールがふぅと息を吐き、力をこめる。 「バール! ちゃっちゃとやるわよ!」 ルーシアの声がバールの鼓膜を叩く。 バールはその声に合わせて一瞬、手の力を抜き、後ろへと逸れるのをウィリアムが背中を支えて倒れないようにした。 均衡状態から解放されたヨハネの使徒のむき出しの懐にセプティムは入り込むと剣を強く握り、腹の底から力をこめて気合の声を吐く。 「エッジスラスト!」 強い一撃にヨハネの使徒のボディにひびがはいり、後ろへとよろけさせる。セプティムはバックステップを踏み、距離をあけた。 あくまでも今回は自分も含めた、仲間たちの経験が目的もある。むろん、ヨハネの使徒と向き合ったらぶっ殺すつもり満々であるが、はじめて戦闘をする仲間に手柄を譲る配慮はある。 「もらったぁ! クラッシュスイング!」 バールが大きく斧をふりあげ、むき出しのコアに振り下ろす。 びきり、と音をたててコアが破壊され、ヨハネの使徒は動きをとめ、そのまま崩れた。 「やりましたね!」 ウィリアムが安堵の声をあげるのにセプティムは視線を前に向けた。 「問題は、ここからですよ」 「っうおりゃああああ!」 「っどぁああああああ!」 先頭を切ったヨハネの使徒のあとにつづく二体は左右に別れて浄化師たちへの接近を試みようとした。 それをいち早く理解したラニとラスの二人は素早く分かれてヨハネの使徒を待ち構えた。 右と左の両端から向かってくるヨハネの使徒が仲間を襲わないようにと牽制を行う。鋭い武器を横に構え、突撃するヨハネの脇、足を狙う。 猛烈な加速をつけたヨハネの使徒と二人の武器が重なり合う。火花を散らし、鼓膜をひっかく不調和音、手の平がじんじんする痛み。 ほぼぶつかりあうだけのそれは戦闘とはいえない。言ってしまえば威嚇行動のヨハネの使徒に対して、二人は必死に地面に踏ん張るがスピードと重みは二人に激しい打撃を与えた。 武器と力の限界がきて、ラスとラニは地面に、ほぼ同時に叩きつけられる。少しでも肉体ダメージが少ないように、横へと体を反らすことは忘れない。 二人の決死の守りにヨハネの使徒は大きく円をかくようにして距離をとる。なんとか味方への接近を封じることは出来た。 地面に叩きつけられて二人は土に顔を汚して立ち上がる。 はぁと息を吐いて、額から零れる汗をぬぐう。 無理しすぎた腕がじりじりと熱に焼けた痛みを発し、手の皮がむけて血が出る。鉄のさびた匂いがした。それでも止まらない。止まったらいけない。 ラスとラ二は仲間たちの動き、どういう配置にいるのか、距離は大丈夫かを頭のなかにいれて必死に動いた。 まずは敵の動きを把握すること。 味方の位置。とくに後方支援の仲間を守ること。視線をまわして、味方が無事なこと、すぐにまた向かってくるヨハネの使徒を確認する。 ヨハネの使徒二体は大きく円をかくようにして距離をとっている。そのまままた突進してくることは容易く予想できる。 「冷静に冷静に……あぁもう動くなガラクタ!」 思わずラニが叫んだ。なんでそんな距離をとるんだ! もっと近くにこい! と叫びたい。 「落ち着け! 冷静にぶっ殺すんだろ! ばか!」 「うっさいばか! だって! またあんなに距離とってきたのよ!」 「仕方ねーだろう! そろそろ来るぞ!」 「みんな、もう一回よろしく! すぐに陣形を戻そう!」 ラニが腹の底から声をあげ、仲間たちはすぐに崩れてしまった陣形を整える。 ●踏みつぶすための 命を刈り取る化け物は、疲れを知らず、恐れを知らず、進行する。ただただひすたらに進む、進む、進む。 目の前の生物を踏みつぶすために。 「チェシャ猫! もう一度!」 ウィリアムがぬいぐるみの糸をひく。 それにヨハネの使徒は二体同時にウィリアムを狙い、向かってきた。 「っ!」 バールが前に出るのに合わせて、ユウのリーフスラッシュ、アリスのタロットと、ルーシアの魔力弾が飛ぶ。 ヨハネの使徒の一体がスピードを増すと、攻撃を予期したように素早く右、左と動く。タロットが地面を叩き、魔力弾が土煙をあげる。 土煙を払いのけるようにしてさらに、ヨハネの使徒が接近する。 加速――加速――加速! 「こいつは少し、やばいかも、なっ!」 バールが息を飲み、ヨハネの使徒に備える。 突撃――衝撃――打撃! ヨハネの使徒の打撃をバールと共に前に出たセプティムが剣で受け止める。 バールとセプティムは強烈な体当たりに後ろへと押され、内臓が震えるような衝撃を受けた。 「っ、ぐぁ」 バールは口のなかに鉄の味を覚えた。 「っ……!」 それはセプティムも同じで、彼の口の端にも血が滲む。 ヨハネの使徒はそのスピードと巨体と強靭さがなによりも武器だ。加速したままぶつかれば並みの者では耐えられないほどの衝撃となることは間違いない。今回は二人で防ぐことで衝撃を拡散し、なんとか受け止めたがそれでも受けたダメージは二人からじわじわと力を削ぐには十分だった。 強靭な前足に力がこめられ、苛立つようにかつん、かつん、かつん! 斧と剣を踏みしめ、沈めようと重みをくわえてくる。 「っ! しゃらくせぇ!」 「いまっ!」 苦しげなセプティムの声にラスとラニが駆け出し、同時に力を振るう。 「暴撃!」 「クロス・ジャッジ!」 ラスが渾身の一撃を放ち、バールとセプティムからヨハネの使徒を引き離し、その隙をついて二つの剣を握りしめたラニが足を踏みしめ、赤い髪を躍らせ、剣を振るう。 「くそっ、浅い!」 手ごたえのなさにラニが憎々し気に叫ぶ。 ヨハネの使徒は地面に足をつけ、再び走り出す。無防備なラニを踏みつぶそうと迫ってくる。 「ラニ!」 ラスが片腕を伸ばし、ラニを胸に抱いて庇う。 狙いが逸れたが、それでもヨハネの使徒の長い脚は地面とともにラスの足――ふくらはぎを掠めた。教団の制服は破け、深い傷を作る。 「っ! おい、大丈夫か!」 痛みに耐え、ラスはラニを見る。 「平気! ヨハネの使徒は!」 ラニが必死の、怒りと憎悪を抱えた表情で叫び返す。 その瞳を見てラスは、はっとする。 (憎いのは同じ……その筈なのにお前の目は、もっと昏い) ラスがラニのなかにあるなにか覗き、恐怖するとほぼ同時。 「るーっ!」 バールが叫ぶのにラスは、はっとして顔をあげた。もう一体はどこにいった! 「……っ、やるしかないじゃない! 私がこのなかでは一番の先輩なんだからっ!」 一体が前線に突撃した隙をつき、もう一体が後方支援に徹していた浄化師へと接近する。 それにユウは杖を握りしめ、アリスたちをかばうように前に出た。 ここにいるのは自分よりも経験のない浄化師たちだ。自分が守らないといけない、そんな使命感がユウに力を与え、行動させた。 浄化師になったのはそのためなんだから! 「二人は私が絶対に守るから! 動いちゃだめよっ!」 自分を囮にすればアリスたちはせめて無事に済むと考えたユウは走りながら杖に意識を集中させ、ヨハネの使徒へとリーフスラッシュを放つ。むせかえるほどの青い葉が敵を叩き、二人を隠してくれる。攻撃した自分を優先的に狙ってくるはずだ。 「どうしようっ! ユウさん! スピードを落とさないと!」 「いくよ! 自分の身は自分で守らなきゃ! 堅実な戦いってヤツをしないとねっ。お願いっ」 「はい! もちろんですっ!」 アリスとルーシアが武器を構えて声をあげた。 リーフスラッシュの放たれたタイミングでアリスがタロットをヨハネの使徒の足に狙いを向けて放つ。 タロットはヨハネの使徒の足場に穴と土煙をあげる。 ルーシアはそのタイミングをはかって魔力弾を放つ。 爆発音――そして、静寂。 永遠にも等しい音のない一瞬のあと、土煙が晴れる。 ヨハネの使徒はその白い巨体を輝かせ、ルーシアたちへと向かう。 「るーっ!」 バールは武器を手放し、出来るだけ己を軽くするとデモンの特技である天空天駆から素早くルーシアへと駆ける。 ルーシアの小さな肉体を抱えて、地面に転がった。 ヨハネの使徒は獲物を潰し殺せなかったことを悔しがるように地面を強く蹴り、土埃をまくしあげる。 先ほどのダメージが残ったまま全身に打撃を受けたバールはぼろぼろだったが、それでも相棒の安否を優先した。 「平気か!」 「ええ! サンキュー! バール」 土埃と汗に汚れても、魅力的なウィンクをひとつしてルーシアは立ち上がる。戦いの不安と高揚に輝いた目がバールを捕えた。 「まだまだ、いくわよ!」 「やれやれ。オレ達がまだ駆けだしだってこと忘れんじゃないぜ」 ルーシアの強い微笑みにバールは苦笑いしながらも必死に力を振り絞り立ち上がった。 ヨハネの使徒は左右にわかれ、迂回しはじめる。再び先ほどと同じように攻めてくるつもりだ。 「あのがらくたぁ~!」 ラニが拳を握りしめる。 「またさっきみたいに二体一気にきたら後方が狙われるぞ」 ラスが片足を庇い、荒い息で吐き捨てる。このまま消耗戦に陥れば、数としては有利であっても体力の面からいえばジリ貧だ。 後方にいるメンバーはそれでなくても体力がない。もう一度突撃されたらひとたまりもないだろう。 なによりも、守りに徹しているバールの体力はすでに限界近い。 「持ってあと一回だな」 バールが吐き捨てる。すでに肉体の節々が痛みを発し、立っているのもやっとだ。 「次で仕留めるか、オレらがやられるかだ」 熱に浮かれた風が吹く。 「足を狙って攻撃するけど、あいつら重いしな~」 「足、足ですよね」 ラニとアリス、ルーシアが必死に考える。絶望するにはまだ早い、けれど全員が押し黙る。 「おーい、そろそろヒントいるかー?」 後ろで浄化師たちの戦闘を見ていたロリクが声をあげる。 「もぉ! なんですかー! こっちは今冷静にいようしてるのにー! あのがらくたぁ! 動き回って! こしゃくな!」 再び突撃の態勢にはいりはじめたヨハネの使徒を見てラニが地団駄を踏んで叫ぶ。 「落ち着け、落ち着け。ヒントってなんだー!」 ラスがラニの肩を叩いて叫び返す。 「ヒントいちー。足を狙うなら、タイミングをかんがえろー。ヒントに―。ヨハネの使徒は生き物ではないが、同じくらいに足の速い生き物がいるよな、そういうもののスピードが落ちる瞬間はいーつーだー。そのとき狙うのは足か? この土地のことも考えてろー」 「なんだ、こんな時になぞなぞかよ!」 荒い息でバールが吐き捨てる。 「スピードが落ちる瞬間、落ちる、狙うは足、足を……わかりました。たぶんですが、どんなスピードの速い生き物も、曲がるときはスピードが落ちる。ヨハネの使徒も迂回するとき、どうしても重さでバランスが悪くなるから速度を落とすしかない」 いくつかの戦闘経験のあり、生き物の知識のあるセプティムが答えにたどり着いた。 「それと同じです。走っているときは、どんな生き物でも足をあげますが、あの巨体が走っているとき、地面についている足のみで支えているのはバランスが悪い状態です。狙うタイミングというのは足があがっているとき。狙うは支えとなる足、土地のことを考えろっていうのは足元の地面を破壊してバランスを崩させろ……ということじゃないですか?」 全員が視線を交わして頷きあった。 「もう一回耐えてください! バールさん!」 ラニの言葉にバールは斧を手にとると、軽く大きくふり、頷いた。 「任せろ! 行くぞ!」 ●もういちど 前進――前進――前進――! ヨハネが咆哮をあげるように大地を踏み、蹴り、突進する。 すべて破壊する、すべて無意味、すべて――終焉へ。 先ほどと同じ手法でウィリアムがぬいぐるみの糸をひく。 それに合わせて一体のヨハネが前に突き進むのにバールとセプティムが武器を構えてじりじりと前へと出る。 一体のヨハネが加速する。突撃のタイミング。前足があがる、その瞬間にウィリアムのチェシャ猫が飛び、後ろ足に糸を絡ませる。 ヨハネの使徒は後ろ足が思うように動かないことに、暴れる。糸が引かれ、ウィリアムの手の皮膚が裂け、血が滴り落ちる。 「っ、いっ!」 力負けして前のりに転がされウィリアムが立ち上がれないほどのダメージを受けるが、彼の役目は十分に果たした。 貴重な隙をもらったラニが前に出て前足を叩き、ラスがもう片足を狙い、斧を振るう。 足の自由を奪われ暴れ狂うヨハネの使徒に満身創痍のバールが血反吐を吐きながら、前へと押し出る。 「っりゃ!」 斧がふりおろされ、コアにひびをいれ、叩き割る。 ユウとアリス、ルーシアは向かってくるヨハネの使徒をぎりぎりまで引き付ける。 ユウが杖を構えたのにアリスとルーシアが合わせる。 ルーシアの攻撃で土埃を生み、足を狙う。ヨハネの使徒が飛び出すのにユウがリーフスラッシュを放つ。 ルーシアが飛び跳ね、ユウがアリスを庇うようにして、横へと逸れる。ヨハネの使徒が大きく迂回する。そのタイミングにアリスが足、地面を狙い、タロットを放つ。命中したタロットの攻撃に大きくヨハネの使徒の巨体が揺らぎ、穴のあいた地面に足をとられて、派手に転がした。 セプティムが駆け寄り、剣を高く掲げ、ヨハネの使徒の頭部にあたる箇所に叩きつける。 追撃とばかりにラスがさらに下から斧を叩きつける。 二つの鈍器に挟まれた部分にひびがはいる。 「もういちどっ!」 ラニが両手の剣を持つ手に力をこめ、懐に潜り込み、踏み込む。 深く、底へ、届け! ぴきり、と音をたててコアが破壊された。 ●ぼろぼろの、そのあとに 三体のヨハネが動きをとめ、その場には浄化師たちだけが立っていた。 全員土と己の血に汚れ、ぼろぼろだ。 ぱたり、とそのままアリスは地面に座り込むのにウィリアムが慌てて駆け寄る。 「アリス!」 「ウィル! やりましたね! ああ、はやくケガの手当をしないと!」 きらきらとした笑顔にウィリアムは微笑んでゆるゆると頷いた。 ほぼはじめての戦闘に全員が力を出し尽くし、座り込み、地面に倒れこむことになった。大きいというほどの怪我はしていないが、体力と気力、集中力の限界だった。 誰ももう一歩も進めないほどに疲れ果てていた。 彼らに優しい風が吹いた。 「おつかれさまー。さーて、破壊したヨハネの使徒は回収までがセットだぞー、がんばれー、えいえいおー! まぁお前ら全員の手当を先だな。ほらほら集まれ~。応急手当してやる」 ロリクが声をかける。 くたくたに疲れ果てた浄化師たちの喉から枯れた声でえいえいおーと返事が返ってきた。
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*** 活躍者 *** |
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[12] アリス・スプラウト 2018/08/14-18:16
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[11] セプティム・リライズ 2018/08/14-11:02
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[10] ラニ・シェルロワ 2018/08/13-22:23
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[9] アリス・スプラウト 2018/08/12-12:57 | ||
[8] ルーシア・ホジスン 2018/08/11-15:31
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[7] ラニ・シェルロワ 2018/08/11-12:16
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[6] アリス・スプラウト 2018/08/09-22:58 | ||
[5] ラニ・シェルロワ 2018/08/09-18:54
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[4] アリス・スプラウト 2018/08/08-18:11
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[3] ラニ・シェルロワ 2018/08/08-13:00
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[2] アリス・スプラウト 2018/08/08-12:17
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