~ プロローグ ~ |
それはひと夏の怪奇譚。 |
~ 解説 ~ |
お化けヒマワリについて調査してください。 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、もしくはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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■秘密 自分が元奴隷であること/「清十寺東」がペンネームであること ■黒憑行動 ま、口が堅い先生のことだから、俺が先に言うのを待ってるんだろう。 向日葵畑をふらりと歩きながら『物心ついた頃から奴隷だった。 運良く飼い主の女が死んで解放された……それだけだ』と、秘密を明かす。 なぁ、こっちの話はどうでも良いんだよ。 俺はアンタのことが聞きたかったんだ。 アズマの年齢と名前だけしか知らないんだぜ、俺はよぉ!と詰め寄る。 ■東行動 先の見えない向日葵畑を睨みながら、黒憑が喋り出すのを待つ。 種や葉を回収後、合流してからその場を去ろうとするが、 黒憑がしつこいので思わずカミングアウト。 ※アドリブ歓迎 |
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あおい: よさそうなヒマワリを回収 枯れてないのが良いですよね、比較として花が咲く前の物もあった方が……あら?イザークさん? 秘密を言わなければここから出られない あ、あのっ …イザークさんの声。ええっ見てたんですかあれ!? 秘密ってそういうので良いんですか!? じゃ、じゃあ私も。これでおあいこです! また気を使ってくれたのかしら。本当に…へんな人 イザーク: はぐれてしまったようだな …このままだと、あおいが真面目に秘密を話だしそうだな 先回りして先ほど見た秘密を話す あれを見られていたか、さすがに少し恥ずかしい 互いに理解はしたいと思うが、ヒマワリに言わされるのも癪なんで いつか話したいと思った時に言ってくれればいい |
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※アドリブ歓迎します ララ? ララエル? …いない、か。 秘密を告白すればこの、薄気味悪い向日葵から脱出できるというのは本当なんだろうか? 僕は… 『まだ契約してない頃、魔力がパンクしそうになって 死にかけた事がある』 (向日葵畑の外に出ると、そこにはララエルが) (ララエルの手を取り抱きしめ) …ごめん、ごめんね。心配させるつもりはなかった。 だからずっと、言えなかったんだ。 でもこれだけは信じて欲しい。 僕と君の適合率は確かに100パーセントだったけれど 僕は自分の命惜しさにララと契約したわけじゃない。 僕は、君を初めて見た時からずっと…いや、何でもないよ。 しかし…この向日葵の種を教団なんかに持っていくのか(ため息) |
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◆ローザ 一面の向日葵…少し、浮つきそうになるが、お化けヒマワリの謎を調査せねば ……まぁ、貴方が私の事を知っている訳がないからな 秘密を囁かれるまで好きにうろつくと良いさ、おっさん 花畑を進み、振り返る …なぁヘイリー、何か気付いた事はないか?…ヘイリー? 直前まで少し後ろを共に歩いていた筈のヘイリーが見つからず少し驚く …お化けヒマワリに捕まった、か 一先ず外に出られないか試そう …どうあがいても、ここから出られないみたいだ ヒマワリに囲まれ過ぎて、くらりと来そうだ そろそろ、秘密を告白する時…か サンプル用にお化けヒマワリから種を採取しつつ、秘密を考える 些細な物で良い筈なのに、何故か言葉に出来ない 私の、秘密は… |
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本物の怪異でしょうカ?それとも一種の魔術でしょうカ? 楽しみデス! (不可思議な現象にテンション高で調査) うーん、花か土地か、もしくはその両方か… 原因追及にはもっと観察が必要デスネ 今日は一旦帰りまショウ、レイさ…レイさん? (冷静になってようやくいない事に気づく だ、大丈夫デス…秘密を言えば出られるはずデス 秘密、ひみつ… うぅ…何も思いつきまセン…レイさぁん…(泣) (秘密がない→出られない→レイにもう会えない→一気に不安に ぐすっ…ワ、ワタシ…ワタシ… 今日のパンツは赤色デスっ!!! レイさん!もう会えないかと思いまシタ! う、だって他に何も思いつかなくテ… はっ、そうデス!さっそく研究所に持っていきまショウ! |
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◆秘密について考える ・もう色々うちあけてる二人 唯「えっ瞬さん!?」 唯(急に居なくなって…何かあったんでしょうか?!) 瞬「いづ?…いづ??」 瞬(いづが突然消えて…?どこに…探さないと!) ◆秘密を言うのは瞬 ・秘密:瞬は20年前くらいから唯月を知っていた ・唯月はそれを全く知らない 瞬「秘密…あ! 俺…エクソシストになる前からいづの事、知ってたよ〜」 唯「へ?!」 瞬「あっ、いづ!良かった〜!」 唯「瞬さんも無事で良かったですけど…え?どう言う事ですか??」 瞬「いづのお父さんって、スタイリストさんだったでしょ〜?」 唯「え…何故…それを…?」 瞬「俺ね、いづのお父さんにメイクしてもらった事あるんだ〜」 唯「ぇえ!?」 |
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◆アユカ …ひまわり畑 この指令、あまり気がすすまなかった でも わたしは彼に秘密にしてること、いっぱいありすぎる だから、ひまわりに秘密を話すのはわたしの役目 わたし、記憶をなくしてて、何もわからない、手がかりもない…そう言ったよね でも、少し違ったの わたしがいたお店…ほとんどの物は持ち去られていたけど、実はいくつか書類が残されていて たぶん、わたしの記憶に繋がる手掛かりもあると思う それと…一枚の写真も わたしと…知らない男の人が、ひまわり畑の中で仲良さそうに写ってた でも、今まで目を背けて、ちゃんと向き合おうとしなかった 知るのが怖かったから… かーくんに教えなかったのも、巻き込みたくなかったから …ごめんなさい |
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【目的】二人にそろそろ身の上話の一つでもさせる ・エフド 研究所の頼みなので、向日葵を1,2本引っこ抜いていこう。相方の知らない秘密を話せば抜けれるそうだが、お互い仕事以外の話は碌にしないからどうとでもなるだろう。 しばらく待ってみるか。無愛想なお嬢ちゃんが何か乙女の秘密(笑)を吐いてくれるかもしれん。 ・ラファエラ おじさん、見えなくなってから黙ってるわね。この炎天下で根競べとか、どこまで気が利かないのよ。日焼けするじゃない。 困ったわ、秘密なんて言うから軽いのが浮かばない。犯罪者の子ですとかできれば言いたくないんだけど。 ・再びエフド やれやれ、年頃の娘は面倒だ。しょうがねぇ、面白くない身の上話でいくか。 |
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~ リザルトノベル ~ |
● お化けヒマワリに足を踏み入れ、間もなく『黒憑・燃(クロツキ・ゼン)』は異変に気づいた。 「ヘェ?」 ずっと聞こえていた虫の声は遥か遠く、なにより一緒に入ったはずの『清十寺・東(セイジュウジ・アズマ)』がいない。前後左右、どこを見ても迫りくるようにヒマワリが咲いているだけだ。 「秘密を話せば出られる、だったかぁ?」 強い日差しに焦がされながら、しばらく待つ。そうだよな、と燃は口の端を上げた。 「ま、口が堅い先生のことだから、俺が先に言うのを待ってるんだろう」 とめていた足をおもむろに動かす。ほんの少しだけ、このまま出られることを期待していたのだが、どうやらそれほど甘くないらしい。 きっと今ごろ、東は空間が捻じ曲げられているとしか思えないヒマワリ畑のどこかで、花を睨みながら燃が話し始めるのを待っているのだろう。 「物心ついたときから、奴隷だった。運よく飼い主の女が死んで、解放された。……それだけだ」 「……そうかい」 気がつけば真横に東が立っている。燃はこの唐突さには驚いたが、それは相手も同じらしい。正面を見れば、果てしなく続いていると思われたヒマワリ畑の終わりも見えている。 どうやら解放されたようだ。 「調査は終了、噂は本物。帰るよ」 「待ってくれよ、先生。こっちの話はどうでもいいんだよ。俺はアンタのことが聞きたかったんだ」 ヒマワリの葉と種を採取し、花の間から出て行こうとした東の腕を燃が掴む。離しな、と鋭い視線で訴えられたが、黙殺した。 「アズマの年齢と名前しか知らないんだぜ、俺はよぉ!」 爛々と目を光らせる男から、東は目を背けて小さく息をつく。 「……そのお喋りは、過去の反動ってわけかい」 返答はない。ごまかしは効かないらしいと、東は痛感する。実際に、握られたままの腕は痛み始めていた。 「アタシも陰陽師の家系で、厳格な父に縛られて育ったから。少し似てるかもね。お互い自由になれてよかったじゃないか」 「それで?」 食い下がられ、ついに東は諦めた。 「うるさい奴だねぇ……。『清十寺・東』は本名じゃなくてペンネームだ。いかにも寺生まれっぽい名前だろ? ついでにな、年齢も詐欺だ。これでいいかい?」 一拍。 黙した燃が、東から手を離して肩を震わせる。地を這うような笑声は、やがて破裂した。 「クハハハハ! すっかり騙されてたぜ。まさか名前まで偽ってるとはなぁ!?」 顔こそ笑っているが、声には怒りがにじんでいた。東は気にすることなく、冷然と燃を見る。 「今まで俺に話したことは、ほとんど嘘だったってわけだな?」 「得体の知れない奴に教えることなんざ、ひとつもないってことだよ」 「……ま、いいさ」 (焦らずじっくりと、聞き出してやるよ) 笑いを引っこめた燃は、邪魔なヒマワリを掻き分けて外に出た。 ● お化けヒマワリに入った『鈴理・あおい』は、四方八方に咲くヒマワリをざっと観察した。 「枯れてないのがいいですよね。比較のために、花が咲く前のものもあった方が……」 背の高い花を厳選し、摘みとろうとして気づく。 「あら? イザークさん?」 つい先ほどまで隣にいた『イザーク・デューラー』がいなくなっていたのだ。虫の声もふっと消えてしまっている。 「……これ……」 今回の主な任務は、お化けヒマワリの噂の調査だった。 曰く、二人で入ると離れ離れになり、秘密を告げない限り再会できず、出ることもできない。 「私の、秘密は」 じっとりと嫌な汗があおいの背を滑る。秘密とは相手が知らないことだ。あおいはまだ、思い出すだけでも胸が軋む過去のことを、イザークに話していなかった。 「秘密、は」 指先が震える。力が抜けそうになる足を叱咤して、背の高いヒマワリを睨むように見上げた。青空を背に咲く花の、なんと無邪気で意地悪なことだろう。 痺れたように感覚が薄い唇を開く。重い舌を動かして、告白しようとしたところで明るい声が響いた。 「ここにくる前、というより合流前に、あおいが近くのパン屋で! 最近で一番いい笑顔で、大きく口を開けてパンを頬張っていたんで! 声をかけそびれた!」 「は、えっ!?」 緊張の糸がぶつんと音を立てて切れる。 「ああ、再会できたな」 花を掻き分けて姿を現したイザークが、安堵したように笑いながら片手を上げる。呆然としていたあおいは、じわじわと羞恥を覚えて顔を両手で覆った。 「見てたんですか、あれ!?」 「偶然だ」 「秘密って、そういうのでいいんですか!?」 「いいらしいな。それにしてもあのときのあおいは、本当にいい顔をしていたぞ」 「あれは……っ、すぐ売り切れるパンで……!」 笑声を上げるイザークに、あおいはわずかな悔しさを噛み締める。 「わ、私だって、イザークさんが先日、ドヤ顔でネコをナンパしようとして、オスのネコに飛びかかられてたの、見てましたよ!」 「あれを見られていたのか」 さすがに少し恥ずかしくて、イザークは苦い顔になった。少し溜飲が下がったあおいは、適当な花を摘む。 「……帰りましょう」 「そうだな」 さり気なくあおいが採取した花を代わりに持ったイザークは、軽い足どりでお化けヒマワリから出て行った。 (本当に、どうしてこんな私に、イザークさんは優しくしてくれるんだろう) 眉尻を下げ、首を傾けながら、あおいもあとに続く。 (互いに理解したいとは思うが、ヒマワリに言わされるのも癪だ) 小走りで追いつてくるあおいの足音を聞きながら、イザークはいつの間にか小さくなっていた黄色い花を撫でた。 (いつか話したいと思ったときに、言ってくれればいい) 誰かに強いられるのではなく、彼女の意思のままに。 ● 「ララ? ララエル?」 お化けヒマワリに足を踏み入れた直後、隣で話していた『ララエル・エリーゼ』の声が途絶えた。なにか気になるものを見つけたのかと目をやれば、その姿がない。 「秘密を告白すればこの、薄気味悪いヒマワリから脱出できるそうだが」 果たして本当なのだろうか。真偽を確かめるのが、今回の任務だ。 きっとララエルも『ラウル・イースト』の姿が見えないことに気づき、不安でいっぱいになっていることだろう。 「僕は」 目を閉じ、小柄な少女の姿を脳裏に描く。秘密を紡ぐ声音は、凛としていた。 「まだ契約してないころ、魔力がパンクしそうになって、死にかけたことがある」 がさ、とそれほど遠くないところで草を掻き分けるような音がした。ラウルはすぐさまそちらに向かう。永遠に続いているようだったヒマワリ畑が唐突に途切れ、外に出られた。 視線を下げると、座りこんでいるララエルがいる。ずっと締めつけられるように痛んでいたラウルの心臓が、深い安堵と癒しを感じとった。 「ヒマワリの中で、迷子になっていて……。気づいたら、ラウルがいなくて、そうしたら、声が……」 「無事でよかった、ララエル」 少女の大きな目に、あっという間に涙がたまり、こぼれる。片膝をついたラウルは、ぼろぼろと涙を流すララエルの手をそっと握った。 「魔力がパンクしそうになって、死にかけたって……っ、なんで、教えてくれなかったんですか!?」 「……ごめん。ごめんね。心配させるつもりはなかったんだ」 「知っていたら、もっと早く……っ、ラウルと出会った瞬間に、私は契約していました!」 ついに声を上げて泣き出してしまったララエルを、ラウルは優しく抱きしめた。泣きじゃくるララエルは、ラウルの服をぎゅっと握る。 「私は、たとえ適合率がぜろパーセントでも、ラウルと契約します……っ、それ以外、考えられないから……っ」 「うん……。だからずっと、言えなかったんだ」 「うぅぅ……っ」 零パーセントでは、契約は行えない。それでもララエルは引き下がらないだろう。 「でも、これだけは信じてほしい。僕と君の適合率は確かに百パーセントだったけれど、僕は自分の命惜しさにララと契約したわけじゃない」 少女の背を撫でながら、ラウルは彼女と出会った日のことを思い出していた。 「僕は、君を初めて見たときから、ずっと……」 「ずっと?」 「いや、なんでもないよ。さぁ、教団に帰ろう」 涙を拭いたララエルが頷き、立ち上がる。ラウルは近くに咲いていたヒマワリから種を一粒とり、小さくため息をついた。 「この種を、教団なんかに持って行くのか」 「確かに、教団はヒマワリの種を、なんの実験に使うんでしょうね?」 まだ目が赤いララエルが首を傾ける。さぁね、と返して、ラウルは目を細めた。 ● 一面のヒマワリ畑に、『ローザ・スターリナ』は浮つきそうになる気持ちを抑えた。 「まぁ、貴方が私のことを知っているわけがないからな。秘密を囁かれるまで好きにうろつくといいさ、おっさん」 「そうさせてもらうぜ」 気だるそうに片手を上げた『ジャック・ヘイリー』がお化けヒマワリに入ろうとする。小走りで追い抜いたローザは、前後左右をとり囲む背の高い花に少し気圧された。 「なぁ、ヘイリー。なにか気づいたことはないか? ……ヘイリー?」 振り返るが、誰もいない。 驚いたが、ローザは呼吸ひとつで胸中のざわめきを静める。 「お化けヒマワリに捕まった、か」 どうやら噂は本当だったらしい。ならば、秘密を告白すれば出られるというのも真実なのだろう。 「ひとまず、外に出られないか試そう」 外から見た限り、お化けヒマワリは百メートル四方といったところ。互いに歩き回っていれば、巡りあえる可能性はある。 「だめか」 三分ほど粘ったところで、ローザはどうあがいてもここから出られない、という結論を下した。 「これも噂のひとつとして記載されていたな」 どれほど歩いても、なぜか一緒に入ったもうひとりとは出会えず、お化けヒマワリから出ることも叶わない。 「これ以上、動き回っても消耗するだけだ」 延々と続くヒマワリの景色と暑さで、ローザはめまいを覚え始めていた。じきに限界がくる。 潮時だ。そろそろ秘密を告白するしかない。 サンプル用にヒマワリの種を採取しつつ、ローザは秘密を考える。ジャックはどこかで、ローザの秘密が聞こえてくるのを待っているのだろう。 「些細なものでいいはずだ」 彼が知らないことなんて、いくらでもある。 しかし、そのすべてが言葉にならなかった。 「私の、秘密は」 日差しが熱い。熱された土のにおいが鼻を突く。 「私は、母を愛していた。母は私を……、娘としてのローザを、愛してくれなかった」 どうして、それを告白したのか。 「お化けヒマワリの噂、本当だったか……」 自分でも分からずに動揺したローザの前に、ヒマワリを掻き分けてジャックが現れた。 「オイ。辛気臭ぇ顔、してんじゃねぇ」 「……聞こえたのか」 目を伏せたローザに答えず、ジャックはわずかに硬い声を投げる。 「今だからこそ、改めて聞く。お前の戦う理由はなんだ? お前に覚悟はあるのか?」 「私の、覚悟……」 そして、理由。 重いものを押し上げるように、ローザは目を開いてジャックを正面から見返した。こぶしを握り、氷のように美しい男装の麗人は応じる。 「もう少しだけ、時間をくれ。私の本当の答えは……、必ず出す」 「そうか。……最近のお前の面は、悪くなかったぞ」 口の端をわずかに上げ、ジャックがお化けヒマワリの出口に向かって歩き始めた。ローザは足早に進み、彼の隣に並ぶ。 ● お化けヒマワリを前にして、すでに大はしゃぎしている『エリィ・ブロッサム』を『レイ・アクトリス』は心配に満ちた目で見守っていた。 「いいですか、レディ。気のすむまで調査して構いませんが、危険がないとは言い切れないのですから。十分に注意してくださいね?」 「分かってマース!」 だめそうだな、とレイは遠くを見つめた。 そして、その予想は的中する。いよいよお化けヒマワリに入ったエリィは、報告されていた不可思議な現象に関する噂の調査に、すっかり夢中になっていた。 「うーん。花か土地か、もしくはその両方か……」 土を手で軽く掘ってみたり、ヒマワリの花弁を一枚ちぎって観察してみたり、種を剥いてみたりと、エリィは真剣に調査する。 「原因究明には、もっと観察が必要デスネ」 専門的な道具を持ってきたい。 お化けヒマワリの噂とは、二人で入るとひとりきりになっていて、百メートル四方くらいに咲いているだけのこの場所から、なぜか出られないという奇妙なものだ。 「今日はいったん、帰りまショウ。レイさ……、レイさん?」 氷を滑りこまされたように、エリィの背が冷えた。 後ろにいたはずのレイがいなくなっている。いつからだろう。考えても分からない。 「だ、大丈夫デス。秘密を言えば出られる……はず、デス」 そういう噂なのだ。お化けヒマワリに捕まったら秘密を告白すればいい。そうすれば、再会できるし、脱出もできる。 「秘密、ひみつ……」 必死に思い出そうとするのだが、頭は空転を繰り返していた。浮かぶのはレイの顔ばかりだ。もしかしたら、自分には秘密がないのかもしれないとすら思えてくる。 秘密がなければ、レイに会えない。 「レイさぁん……っ」 へたりこんでしまったエリィは、大粒の涙を流しながらしゃくりあげた。不安で胸が満たされ、暑さに体力を奪われる。興味深かったヒマワリも、今だけは怖かった。 「ワ、ワタシ、ワタシ……っ」 ぐすっ、と鼻を鳴らして、エリィは叫ぶ。 「今日のパンツは赤色デス!」 「ぶっ」 「レイさん!」 素早く立ち上がったエリィは、声がした方に駆けた。ヒマワリを三本隔てた隣にいたレイに、体あたりをするように飛びつく。 「レイさん! もう会えないかと思いまシタ!」 「貴方、他に言うことなかったんですか……!」 頭痛を堪えている様子のレイから離れ、エリィは再び目を潤ませた。 「う……。だって、他になにも思いつかなくテ……」 「はぁ……、まったく」 頃あいを見て自分が秘密を打ち明けるつもりだったレイは、怒る気も失って小さく息をつく。 「とりあえず、これはどうしますか?」 「はっ、そうデス! さっそく持って帰りまショウ!」 レイが手折ったヒマワリを受けとり、エリィは外に走って行く。元気そうな彼女の姿に、レイはかすかに笑った。 ● 不意に、足音がひとつになった。 「……いづ?」 振り返った『泉世・瞬(みなせ・まどか)』は『杜郷・唯月(もりさと・いづき)』がいなくなっていることに気づき、慌てて周囲を見回す。どの方向にも、背の高いヒマワリが迫りくるように咲いているだけだった。 「お化けヒマワリに捕まったら、秘密を告白すること……」 今ごろ唯月も瞬が消えたことに気づき、戸惑っていることだろう。早く安心させたい、再会したい、と瞬は頭を働かせる。 もう、互いにほとんどの秘密を打ち明けあっているが。 「あ! 俺、浄化師になる前からいづのこと、知ってたよ~!」 「へ!?」 いつの間にか、右隣に唯月が出現していた。彼女はヒマワリを手折ろうとしていたらしく、屈んで背の高い花の根元に手を伸ばしている。視線が斜めに結ばれ、瞬はにこりと笑んだ。 「あっ、いづ! よかった~!」 「瞬さんも無事でよかったですけど……、え? どういうことですか?」 服の裾を払いつつ立ち上がった唯月が瞬く。瞬は種を明かす手品師のように、軽く両腕を開いた。 「いづのお父さんって、スタイリストさんだったでしょ~」 「え……、なぜ、それを……?」 唯月自身は田舎育ちだが、亡き父は都会に出てスタイリストの仕事をしていた。唯月は今も、父のことを尊敬している。 「俺ね、いづのお父さんにメイクしてもらったことあるんだ~」 「えぇ!?」 驚愕の真実に唯月は目を丸くした。悪戯が成功した子どものように無邪気に笑いながら、瞬はさらに説明を加える。 「俺がデビューしたてのころから、お世話になってたんだよ~」 「ほ、本当に?」 「本当だよ~! だっていづもきてくれたこと、あるもん!」 父親に連れられ楽屋にやってきた小さな女の子のことを、瞬はよく覚えている。好奇心をこぼれそうなくらい両目に宿して、そのくせ怖がるように父親の服を握って、少し恥ずかしそうに瞬のことを見上げていた。 瞬がメイクをされている間、その子どもは騒々しくすることもなく、息さえつめて父の仕事と完成に近づいていく瞬の顔を、鏡越しに見つめていたのだ。 「え? お、覚えてない……です……」 「そりゃそうだよ~。いづがたぶん、二、三歳ぐらいのころの話だもんね~」 そう考えると、唯月は改めて瞬との歳の差を感じる。幼年期の自分がなにか粗相をしていなければいい、と思ったが、瞬の柔らかな表情を見る限り杞憂のようだった。 「今のいづも可愛いけど、あのころのいづも可愛かったよ~!」 「そう……ですか……っ。あの、ヒマワリ、摘んで帰りませんか……?」 恥ずかしくなってきたらしい唯月が、ヒマワリを根元近くから手折る。 「そうだね~! 帰ろ、いづ!」 唯月が摘んだヒマワリを受けとり、瞬はパートナーとともにお化けヒマワリから外に出た。 ● 本当は、お化けヒマワリの噂の真偽調査という今回の依頼を、『アユカ・セイロウ』は断るか無視してしまいたかった。 「でも、わたしはかーくんに秘密にしてること、いっぱいありすぎるから」 気が進まない任務が、せめてきっかけになればと思ったのだ。 現在、アユカはお化けヒマワリの中で孤立している。先ほどまで側にいたはずの『花咲・楓(はなさき・かえで)』は気づけばいなくなっていた。 噂は本当らしい。ならばきっと、秘密を打ち明ければ再会できるし、ここから出られる。 「ヒマワリに秘密を話すのは、わたしの役目」 真夏の太陽の光に熱された土のにおいを吸いこんで、そっと吐き出す。 「わたし、記憶をなくしてて、なにも分からない、手がかりもない。……そう言ったよね」 無邪気に明るく咲くヒマワリは、相槌を打つつもりもないらしい。別に構わないと、アユカは告白を続ける。 「でも、少し違ったの。わたしがいたお店……、ほとんどのものは持ち去られていたけど、実はいくつか書類が残されていて。たぶん、わたしの記憶に繋がる手がかりもあると思う」 パートナーとして、楓とはすでに多くの任務をこなし、それ以上に時間を共有した。これからも、互いのいいところも悪いところも知って、受け入れあって、進んで行く。 そう考えられたからこそ、アユカは告げると決めたのだ。 信頼に足ると十分に分かっている彼に、黙っていることが苦しくなったから。知ってほしいと思ったから。 「それと、一枚の写真も。わたしと……、知らない男の人が、ヒマワリ畑の中で、仲良さそうに写ってた」 一度強く目をつむり、アユカは意を決して前に進む。すぐに楓の姿が見えた。 「かーくん……!」 「ご無事ですか、アユカさん」 片手にヒマワリの種や葉を持っている楓に、アユカは頷く。口を開き、ためらうように閉じた彼女に、楓は静かに言った。 「今さら、私に遠慮する必要はありません」 この任務を受けたときから、アユカは決心していたのだろうと、楓は察する。道中の思いつめたような表情も、恐らくその覚悟によるものだ。 だからこそ、伝える。 「あなたの記憶の手がかりを探す手伝いをしたいと、言ったではないですか。私の手足は自由に使ってくれていいんです」 彼女のパートナーとしての、楓の意思を。 「……でも、今まで目を背けて、きちんと向きあおうとしなかった。知るのが、怖かったから……」 自分の過去を知ったとき、浄化師としての心構えが揺らぐのではないかと、恐れていた。 「かーくんに教えなかったのも、巻きこみたくなかったから……」 「巻きこんでくれていいんです。……話してくれて、ありがとうございます。帰りましょう、アユカさん」 ごめんなさい、と小さく囁き肩を落とすアユカに、楓は優しく声をかけた。 ● お化けヒマワリに足を踏み入れた『エフド・ジャーファル』は、青々と晴れた夏空を見上げてから、手元に視線を落とした。引き抜いたヒマワリが二輪、片腕にのしかかっている。 「二メートルともなれば、さすがに重いな」 荷物になるという点も考えものだが、教団が持ち帰りを望んでいるのだから仕方ない。 それよりも、はぐれたままの『ラファエラ・デル・セニオ』のことがいい加減、気にかかってきた。 「不愛想なお嬢ちゃんが、なにか乙女の秘密を吐いてくれるかと思ったが」 乙女の秘密、の部分を鼻で笑ってから、エフドは周囲を観察する。ヒマワリが見えるばかりで、ラファエラの姿はちらりとも見えない。声もしなかった。 「乙女の秘密は明かせないか。まぁいい」 年ごろの娘とは面倒な生き物だ。やれやれ、とエフドは肩をすくめる。 「しょうがねぇ。面白くない身の上話で行くか」 お化けヒマワリから出るには、少なくともどちらかが秘密を明かさなくてはならない。 幸か不幸か、お互い仕事の話以外はろくにしないため、知らないことも知らせていないことも山のようにあった。 「俺はお袋に仕送りしている。ルネサンス地区暮らしの貧乏外国人だからな。よそ者の少ない稼ぎで買えるような安い食いものにはなにが入っているか分からんから、多少高くても信頼できるものを食うように言っている」 母の顔が脳裏をよぎった。今日も元気に、平和に暮らしているだろうか。 「いずれはもっと、ましなとこに住ませたいもんだ。これでいいか? ヒマワリさんよ」 どうやら満足してくれたらしく、正面のヒマワリががさがさと音を立てたかと思うとラファエルがひょっこり顔を覗かせた。エフドと目があった瞬間、彼女の眉根がきゅっと寄る。 「遅いわよ」 「そいつは失礼」 ふん、とラファエラは鼻を鳴らす。 実を言えば、エフドとはぐれたラファエラも告白できる秘密を考えていた。軽いものでいいと分かっていたが、どうにも浮かばなかったのだ。 だからといって、犯罪者の子だとは言いたくなかった。 炎天下で根競べなんて気が利かない、と悪態をついていた最中に、エフドの秘密を聞いたのだ。 「出るわよ」 「そうだな」 (それぐらい思いやれる気になれるような、まともな家族を持ってるのね。ご立派なこと) ヒマワリを乱暴に掻き分けて進みつつ、ラファエラは胸を苦いもので満たす。 (その親切心を、ちょっとは私に向けられないのかしら) 「ねぇ。移民の類だろうとは思ってたけど、どこから?」 不機嫌に前を行くラフェエラに不意に問われ、エフドは故国の名を口にした。 「知ってるか?」 「いいえ」 「だろうな。もうないからな」 首を横に振った彼女は、口の中まであふれそうになった苦みを飲み下す。間もなく、二人はお化けヒマワリの外に出た。
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*** 活躍者 *** |
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[3] 鈴理・あおい 2018/08/07-23:11
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[2] ラウル・イースト 2018/08/06-12:53
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