~ プロローグ ~ |
「今回は、ブリテンの巡回の仕事がまわってきてるぞー」 |
~ 解説 ~ |
世界を巡るぞ! 今回はブリテン巡りです。 |
~ ゲームマスターより ~ |
ブリテン巡りです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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B ポーポロ宮殿に訪れるのは二度目ですね。 前はノグリエさんに素敵なお茶会に招いて頂きました。 以前訪れた時も思いましたが本当に美しいところですね…お花も噴水も。 お花と噴水を見た後はどうしましょうか?ブティックの方にですか? 構いませんよ。 むー…ここのお洋服もアクセサリーもどれも素敵なのですが私にはやっぱりちょっとお高い感じですよね。 劇団にいた時のお給金じゃとても…ストップ!ストップですノグリエさん。 また私にプレゼントしようとしてまね…いけませんついこの間もいただきました。 あ!これ…!ちょっと待っていてください! はい!これ、私からのプレゼントです。 高価な物は買えませんが気にいってもらえたら嬉しいです。 |
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D. 浄化師としての初仕事としては、見回りは難易度が低く 危険も無さそう、何よりも蒸気機関 実に素晴らしいな… レールの上に車輪を付けて摩擦をある程度軽減させているとはいえ、これだけ大型で重量のあるものをこんな速度で動かせるとは… …? どうしたヴィオラ …そ、そこまで笑わないでくれ お前の伯父上だってこんな調子だろう 見慣れている光景じゃないか? いくら私が年下とは言え、妙にくすぐったいな… …所でこの駅の先には何があるんだろうな 私としたことが…汽車に関心が行っていて調べていなかった… 一面の緑に関心 何か花が咲くのだろうか? また春になったらここに来ようか。今度は花を楽しみにな 別に機関車が楽しみなわけじゃあないぞ!? |
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Aへ 夕方 ◆シュリ ブリテン地区には前も来たことがあるけど、やっぱり見ごたえのある場所ね 錬金術師の研究所だったかもなんて、ロマンがある話よね 昔、ここでどんな研究がされていたのか…いろいろ想像が膨らむわね 魔方陣、見られるかしら? …もしかしたら、わたしが作られた時も、ここの技術が使われていたのかしら だとすると…ここがわたしの第二の故郷、なのかも? 全然実感はないけどね ◆ロウハ お嬢、今日ははしゃいでんな なんかこういう姿を見るの、久々な気がするぜ 転ぶなよー お嬢が作られた、か… その時の話は、俺は詳しくは知らねー ユベール様の伝手で何人か技術者が集められてたって聞いた程度だ もしかしたら家に文献が残ってるかもな |
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A 古城 本来の役目は終わり観光地となっても手の込んだ建築物に変わりはない あちこち見て回るベルトルドに基本黙ってついてゆく ベ この部分から建築様式が変わっているが何故だろう ヨ 外部から襲撃があった際、城の一部が破壊され後世に修復されたようです ベ 物知りだな ヨ 説明版に書いてありました ベ なるほど ヨ …お城好きなんです? ベ 城というか、古いものや建物には浪漫があるだろう ヨ 浪漫 ベ ヨナには面白くないか ヨ 首を傾げて うーん…ピンとこないですね ベ そうか と半笑い 周歩廊のような場所 窓から差す夕日で強いコントラストに染まる柱や装飾やに息をのむ 自分の生より長い月日をこうして彩って来たのだろう 喰人の言っていたのはこういう事なのかも |
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【目的】 たまには観光して戦闘から遠ざかり、自分の日常を再確認する スコアの暴走を食い止める 【行動】 カステル・モンテ・デル城を観光する その間に暴走しそうな相棒を止める 【心情】 スコア、公共の場でいきなり書き出さない やるなら邪魔にならないところでね ほら、そんな長いの来てるから…大丈夫? 一度戦闘してから思うことがあるんだけど 日常と戦闘する自分のギャップにたまに自分でも思い悩むのよ それこそ、任務なら私は人殺しも辞さないわ でも日常では人なんか殺したくないし、スコアも多分切り捨てられない たまに戦闘の自分が怖くなる 戦闘から戻ってこれないんじゃ?って …それもそうね 貴方みたいな手のかかる子、私が面倒みないとね? |
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~ リザルトノベル ~ |
「二度目ですが、きれいなところですね!」 『シャルル・アンデルセン』がアイリッシュウィスキー色の瞳を輝かせて声をあげる。その一歩後ろから優雅な足取りで『ノグリエ・オルト』がついてくる。 今回はブリテン地方の巡回と言われて、二人が訪れたのはポーポロ宮殿だ。 遠目からも輝く宮殿は品と穏やかさを漂わせているが、なかに踏み込めば古き良き時代の香りがそこはかとなく残っているように感じられた。 好ましい雰囲気にノグリエの唇が自然と緩む。 人が多いという難点をのぞけば、ブリテンの雰囲気はノグリエの趣向にぴったりと合う。 「前はノグリエさんに素敵なお茶会に招いて頂きました。以前訪れた時も思いましたが本当に美しいところですね……お花も噴水も」 きっちりとドレスアップをして参加した、以前のティーパーティでは作法を気にしていたが、今回は普段通りの服装のおかげで前よりは砕けた、いつものシャルルだ。 ドレスアップした姿も素敵だったが、今のように自然のまま楽しむシャルルもまたこの宮殿に似合う。 庭はもうすでに秋へと移り変わりゆく時期だから寂しいかと思っていたが、色とりどりの薔薇がもうすぐ来る冬を出迎える様に咲き誇る。 (引きこもりなボクですがここなら何度も訪れたいと思えます。まぁ、一番ボクを外に連れ出してくれるのはシャルルですが) シャルルが楽しそうであれば、あるだけノグリエの胸には喜びの花が咲く。 「きれいですね!」 「ええ、甘い香りがよいものですね。人が多くても、好ましいもので溢れています」 「以前のときも思いましたけど、ノグリエさんはこういうのが好きなんですか? 指令はいろいろとありますけど、ノグリエさんと楽しくできるのは私も嬉しいですから」 「シャルル……ふふ、ありがとうございます」 「お花と噴水を見た後はどうしましょうか?」 「さて……次はブティックの方へ行きましょうか」 「ブティックの方にですか? 構いませんよ」 シャルルは小首を傾げて不思議そうな顔で歩きだす。 客ではなく、商品が相手を選ぶような店にシャルルは少しばかり緊張した。 よく考えて配置された品は、それだけでさながら美術品のようで眺めるだけでも楽しい。その商品にさりげなくついている値段を見るとシャルルの顔が思わずしかめられる。 「むー……ここのお洋服もアクセサリーもどれも素敵なのですが私にはやっぱりちょっとお高い感じですよね」 「確かにここの商品は値がはりますが」 ノグリエはそこで言葉を閉ざした。 (ボクがプレゼントしたものはそれ以上のものもあったりするのですが……内緒ですかね) ほしいと言えば店ごとでも買っても構わないのだけど。 「劇団にいた時のお給金じゃとても」 「ほしいものがあるんですか?」 「えっと」 「わかりました。買いましょう」 「え!」 「ふふ、これなんか似合いそうですね……ではこれと、あと、これと、これ」 片手をあげて店員を呼ぶノグリエにシャルルは慌てた。 「ストップ! ストップですノグリエさん。また私にプレゼントしようとしてますね……いけませんついこの間もいただきました。あ! これ……! ちょっと外で待っていてください!」 シャルルがあわあわと小鳥のように忙しく動く。 店の外へと押し出されたノグリエは残念そうに呟いた。 「ボクがプレゼントしたくてしてるだけだから気にしなくていいのに……」 帰りの道、シャルルがそわそわしているのにノグリエは気が付いた。 「どうしたんですか?」 「はい! これ、私からのプレゼントです。高価な物は買えませんが気にいってもらえたら嬉しいです」 差し出された小さな箱をノグリエはまるで至宝のごとく両手で抱え、なかを見る。 「シャルルからのプレゼントですか……? 嬉しいですね。琥珀の髪飾りですか。これは以前ボクがプレゼントしたものと似てますが」 「はい。お揃いです! こちらは男性用ですけど」 「素敵ですね。……ありがとうございます」 じんわりと広がる喜びを口にし、ノグリエは微笑む。 指令を終えて、それぞれの寮に戻ると、もらった髪飾りをノグリエは飾り、優しい目で眺めた。 ● 『ニコラ・トロワ』と『ヴィオラ・ペール』にとって、これが浄化師になっての初指令だ。 もし戦闘などの危険な指令ばかりだったらどうしよかと危惧していたが、巡回だけならば危険なことは少ないし、受付でも観光してきていいというのが実に魅力的だ。 特にニコラの心を惹いたのは蒸気機関の存在だ。 「どこを見て回りましょうか?」 危険の少ない指令にほっとしているヴィオラが尋ねるとニコラが口を開いた。 「だったらブルーベルの丘はどうだ?」 「ブルーベルの丘ですか?」 「きっときれいだ」 「ふふっ。わかりました」 自分よりもずっと背が高いニコラがしきりにすすめるのにヴィオラは楽しそうに頷いた。 なにか目的があると思ったが、ニコラの輝く瞳と高揚して朱に染まる頬を見てすべてを理解した。 ニコラの瞳の先にあるのは見事な乗り物――蒸気機関車だ。黒で統一したボディ、あっちこっちに品のある金があしらわれ、どこにも無駄のない美しい作りだ。 それにニコラは心から尊敬の眼差しを向ける。 「実に素晴らしいな……レールの上に車輪を付けて摩擦をある程度軽減させている……!」 興奮しすぎてあっちこっちを見回る姿は子供と同じだ。 「ここはどうなっているんだ? こう、連結はこうして……ん? どうしたヴィオラ」 屈みこんでレールを見ていたが、背中に感じる視線を受けてニコラが振り返る。 にこにこと笑っているヴィオラは、口元に手をあてた。 「ふふっ、ニコラさん見た目は大人なのにまるで少年ですね。そんなに蒸気機関車好きですか? ニコラさんってば可愛いですね」 「……そ、そこまで笑わないでくれ。お前の伯父上だってこんな調子だろう? 見慣れている光景じゃないか?」 「ふふっ。そうですね。見慣れてますよ。ちゃんと周りを気にして、いい子ですね」 不意にヴィオラが手を伸ばしてきたのに、ニコラはいつもの癖で屈みこむ。見た目はどうであれ、実際の年齢からいえばヴィオラが姉で、ニコラは弟なのだ。そしてなにかにつけてヴィオラは優しく、ニコラの頭を撫でるのだ。 「いい子、か。いくら私が年下とは言え、妙にくすぐったいな」 「実際、私の方がお姉さんですし」 「そうだな」 「さ、乗りましょうか」 ヴィオラが手をひくのに、ニコラは弟として案内される。 車内は四人掛けの座椅子が並び、その一つに二人は腰かけた。 床、天井……と、ニコラは興味深々なのにヴィオラはこけないように、とやんわりと声をかけた。 すぐにがしゃん、と音がして小さな振動とともに動き出すそれにニコラはまたしても興奮した。 「これはすごいな」 「ふふっ」 「これだけ大型で重量のあるものをこんな速度で動かせるとは……! うっ。いや、作りとか、その他いろいろと、ん、だからその」 つい熱中するニコラにくすくすとヴィオラが穏やかに微笑むのに照れくさくなって話題を慌てて逸らすことにした。そこでニコラは自分の失敗に気が付くのだ。 「……所でこの駅の先には何があるんだろうな。私としたことが……汽車に関心が行っていて調べていなかった……!」 「師弟とは言えニコラさんは伯父様によく似てます。行き先も分からずに乗る所もそっくりかも、くすくすっ」 「うっ」 痛いところを突かれたとばかりにニコラは顔を曇らせる。 「この先は春ならブルーベルが咲き乱れる丘だそうです。一面の緑もとても綺麗ですけれど……」 ヴィオラが視線を窓の外へと向けるのにニコラもつられてそちらへと視線を向ける。駆ける景色の速さに瞬きするのも惜しいと思える。 次には。 一面の緑。まるでどこまでも広がるような、見事な統一性。 季節がずれているせいで花は咲いてはいないが、段々畑のそれは機関車とは違う見事な技術の集合体なのにニコラの関心を引いた。 「何色の、どんな花が咲くのだろうか? ……また春になったらここに来ようか。今度は花を楽しみにな」 「はい。じゃあ次の春にまた一緒に来ましょうね。機関車にもまた乗れますしね、ふふ」 「別に機関車が楽しみなわけじゃあないぞ!?」 ニコラの必死の言い返しにヴィオラはくすくすと愛しそうに笑うのだ。 ● 茜色に染まるカステル・モンテ・デル城はそれだけで、絵のように美しい。 町から外れた丘の上にあるため、時間帯によって人の姿はまちまちだ。夕方になると家族連れなどは帰路につくのに、逆に恋人同士といったロマンスを求める者が多くなる。 『シュリ・スチュアート』と『ロウハ・カデッサ』は制服をしっかりと着込み、ゆったりとした足取りで歩く。 巡回の仕事もこなしながら、時間帯が時間帯なだけに喧噪から遠のいた静かな世界は二人にゆったりとした憩いを与えてくれた。 特にシュリは観光を楽しんでいた。 あまり表情や口調に気持ちが出ない傾向にあるが、心はひどく軽やかだ。 それをロウハは良く心得ている。 シュリのエメラルド色の瞳が輝き、きょろきょろと見回すのは好奇心と楽しさからだ。 「ブリテン地区には前も来たことがあるけど、やっぱり見ごたえのある場所ね」 「そうだな」 「錬金術師の研究所だったかもなんて、ロマンがある話よね。昔、ここでどんな研究がされていたのか……いろいろ想像が膨らむわね」 シュリが心をときめかせているのは細められる瞳と緩む口元でわかる。 特に読書が好きなシュリは文字という無限に広がる世界からいろんな知識を得てきたので、この城のひとつ、ひとつからもいろんなことが想像できるのだろう。 「魔方陣、見られるかしら?」 「見れるといいな」 「そうね、ロウハ、行きましょう?」 「ああ」 シュリが少しばかり足早に噂の広場へと向かう。 この場所はタイミングが良ければ誰かが描いたらしい魔方陣が見ることが出来るのだと事前に聞いて、それをぜひみたいとシュリは口にしていた。夕方は日差しが強く、光加減で見れる可能性は高いと踏んだのだ。 広場にはシュリとロウハしかいなかった。 それをチャンスとばかりにシュリは広場を大きく一周する。小首を傾げて右にすすんだり、左へとすすんだり、たまに屈みこんだり、座り込んだりと忙しい。 無表情だが、その瞳は真剣なのにロウハの口元が緩む。 「転ぶなよー」 「わかってるわ」 といいながら今度はジャンプもしている。魔方陣が見えるのかはわからないが本人はいたって真剣だ。 (お嬢、今日ははしゃいでんな。なんかこういう姿を見るの、久々な気がするぜ) ここ最近、シュリと森に向かったり、ドラゴンに会ったりと貴重な体験をいくつかした。それはどれも楽しいものだったが、こうしてゆっくりできる指令もたまにはいい。 城を見回るのも楽しいし、なによりもシュリがちょこまかと動き回るのは見ていて心が休まる。 この指令はロウハにとってはいいストレス発散だ。 (夜の警備のとき、いろいろと気を遣わせたからな) 「見れなかったわ」 しょんぼりとしたシュリにロウハは肩を竦めた。 「残念だったな、お嬢。見たい理由とかあるのか?」 頭をぽんぽんと叩くようになでる。 「……もしかしたら、わたしが作られた時も、ここの技術が使われていたのかしら。ってだとすると……ここがわたしの第二の故郷、なのかも? 全然実感はないけどね」 自分がどのように作られたかをシュリ自身は知らない。強く気になることもないが、それでも、もしも、というのを考えるのだ。そうだったらいいな、という願望を交えて。 「お嬢が作られた、か……その時の話は、俺は詳しくは知らねー。ユベール様の伝手で何人か技術者が集められてたって聞いた程度だ。もしかしたら家に文献が残ってるかもな」 「そう。あ、いいのよ。すごく気になる、とかじゃなくて……ここの技術が使われていたら素敵だなって思っただけだから」 「そうか。そうだな、そいつは中々に素敵だよな」 ロウハは答えながら脳裏に昔盗み見た本が浮かび、深い記憶の闇にすぐに沈めた。 当時のロウハにわからなかったが、あれが彼女を形作る知識の欠片なのだろう。 「おい、お嬢」 「え?」 強い西日に一瞬だけ二人は浮かんでは消える魔方陣を――見た気がした。 ● 路上に並ぶ屋台で片手間に食べられるケハブが売られていた。 肉を細く切り、香辛料をつけたそれを食べながら『ヨナ・ミューエ』と『ベルトルド・レーヴェ』はカステル・モンテ・デル城を訪れた。 巡回はほぼ終わり、あとはフリーな時間帯だ。 ベルトルドは昼飯を奢ったかわりに付き合えとヨナを促した。 (なんでしょうか?) 歴史的な価値がある城内は観光客がひっきりなしに訪れて楽しそうだ。 そのなかに紛れて二人も城内部をゆっくりと見る。 少しばりかくすんだ白壁や調度品には長い時間によってできた隙間や傷みが見れた。 ベルトルドは大変熱心に目を細めてひとつひとつを確認し、鼻をうごめかしている。昔の匂いを嗅ぐつもりなのかもしれない。 「この部分から建築様式が変わっているが何故だろう」 「外部から襲撃があった際、城の一部が破壊され後世に修復されたようです」 ヨナの言葉にベルトルドの尻尾の先がぴょこりと動く。 「物知りだな」 振り返るベルトルドにヨナは少しだけ呆れた。 「説明版に書いてありました」 「なるほど」 壁の前にある解説の立て看板をヨナが指さすとベルトルドがそれに一瞥をしただけで、顎を撫でてうむうむと頷くのにヨナはますます眉間に皺を寄せる。 (読めばいいのに) 「……お城好きなんです?」 「城というか、古いものや建物には浪漫があるだろう」 「浪漫……ですか」 「ヨナには面白くないか?」 「うーん……ピンとこないですね」 首を傾げて、耳の先が肩に触れるのにヨナは慌てて姿勢を正す。 ベルトルドは苦笑いするように大きな口の端をつりあげた。そうすると彼の牙の端が見える。 「そうか」 「なんですか」 「いや、ほら見てまわろう」 「……はい」 ベルトルドの背中を見てヨナは唇を少しだけ舌で舐めて湿らせてゆっくりと歩く。 ただそこにあるもの、という以上の受け止め方がわからない。 そうしていると幾何学模様の廊下に出た。 ちらりと解説を読めば「色の道」とある。見上げれば高い位置にある窓は左右両方についていて、光が零れている。 それでこの名前をつけたのかと単純だなとヨナは思ったが、瞬く一瞬、淡い光が茜色にかわる。昼間から夜へと移り変わる短いその時間だけ、金から茜色へ、さらに紅。そして紺碧へと変わっていく。 「あ」 ヨナの足元から紺碧――ランプが灯す、橙色に染まる。 言葉にするには語彙が足りなくて、ヨナは目を見開く。 どこか傷んだ壁や使い古された椅子が自然の色に染まっていくのは生きているようにも見える。 自分よりもずっと長く存在するこの建物たちの顔を見た、気がした。 うまく言葉に出来ないが、心に広がる感動を持てまあしてヨナは理解する。ベルトルドの口にしていた気持ちはこういうことなのか、と。 「ヨナ、おい、ヨナ」 「……」 「ヨナ」 ふっと耳たぶに息があたり、鼓膜に響く低い声。全身に鳥肌が立つ。体の芯を嘗められたようだ。 「ひゃ! あ、はい?」 「……? 何度も呼んでいたんだが。そんなに驚く事ないだろう」 「やっ、急に、近かったので……で、なんでしょう」 ヨナは忙しくベルトルドの声を受け止めた耳を撫でながら問いかける。 「ここはなんというところで、その、どういうものなんだ」 「解説を読めばいいじゃないですか」 「あー、文字を……読み書きを教えてくれないか。俺はそういうのあまり学んでこなかったから読めないものも多くてな」 その言葉にようやく彼がレポートを自分に押し付けてくることも、今日も城に興味はあるといいながら解説をほぼ読むことを任せてきた理由を理解した。 「お願いですか?」 「ああ」 「どうしても?」 「……どうしても」 面白がっていると察してベルトルドは目を眇めて、ひげを震わせて言い返す。ちらりと見れば尻尾の先がぴょこぴょこしている。 顔より尻尾に出るベルトルドの気持ちを読み取って満足してヨナは、わざと仕方なさそうに頷いた。 以前ならきっとこんな風に弱さを出さなかった、面白がることもなかった。 「いいですよ。そのかわり私にも何か教えてください」 「何を?」 「これから考えます」 ヨナは悪戯ぽく笑った。 ● たまには、こういうのも悪くないわよね。 『リロード・カーマイン』は赤い瞳を細めた。 今回、巡回の指令を受けたのは戦闘から遠ざかり、日常を再確認したいからだ。それに『スコア・オラトリオ』も喜んで同意してくれた。 スコアが同意した理由はなんとなく察しがついている。 「暴走したら止めないと」 リロードはしみじみと紙とペンを握り、わくわくしているスコアを見やる。 朝方はまだ人の姿が少なく、二人はゆっくりと時間をかけてカステル・モンテ・デル城内を見ることができた。 「わぁぁ! 凄いよ、リロード!」 「ちょっと声が大きいわよ」 「この模様どうなってるんだろ!」 城の大きなホールには極彩色で、幾何学模様がかかれ、目に飛び込むくすんだ色が過去の栄華を感じさせた。そのひとつひとつにスコアは感動し、急いで紙にペンを走らせる。 スコアがここにきた理由は豪華絢爛なこの城からインスピレーションを得て作曲の役に立てないかと思ったからだ。歴史あるものは総じて心に残る。自分の曲もこの城に見合うほどの素晴らしいものができたらいいと心から思う。 「スコア、公共の場でいきなり書き出さない。やるなら邪魔にならないところでね」 猛然と紙に向かいペンを動かすスコアにはもう聞こえていないようだ。 通行の邪魔にならないかとリロードは眉根をひそめる。 「なんとか曲に組み込めないかなぁ。あ、でも魔方陣気になる! あれも組み込んでなんとか曲に落とし込めないかなぁ!」 目をキラキラさせるスコアはきょろきょろと忙しく視線を動かし、紙になにか書いてはすたこらさっさと傷のある古い壁に向かっていったり、調度品を眺めてはペンでなにかをはかるような真似をする。 「ちょっと、もう」 人の少ない朝方を狙ってきてよかったとリロードは本気で思った。 一人だと危ういスコアを放っておけずに食事から睡眠と世話をしてやっているのだが、今回もリロードは彼を追いかけるはめになった。 周りが見えていないスコアは魔方陣が浮かぶといわれる中央の広場にきてはゆらゆらと体を揺らしている。 「変な音にならないように改変して……楽しいねリロード!」 大興奮で、常に早口でまくしたてつづけるスコアが笑顔で振り返るのにいろいろと言いたい言葉をリロードは飲み込んで笑って頷いた。 ま、いいか。 「よし、次は……あっ!」 「ほら、そんな長いのを着てくるから……大丈夫?」 ずるずるのズボンの端を踏んづけてこけたスコアを慌てて駆け寄って立たせる。えへへっと笑う彼の笑顔にリロードは肩から力が抜けるのを感じた。 「ねぇ、スコア、聞いてほしいことがあるの」 「なに? リロード?」 「ほら、歩きながら、聞いてくれる? 次にいきましょう? ……一度戦闘してから思うことがあるんだけど、日常と戦闘する自分のギャップにたまに自分でも思い悩むのよ……それこそ、任務なら私は人殺しも辞さないわ」 淡々と重くならないようにリロードは言葉を紡ぎ、古き建物に視線を向け、目を閉じる。 この迷宮のような建物のどこかに自分の悩みの答えがあればいいのに、とスコアと見て周りながらリロードは何度となく思った。 ゆっくり、ゆっくりと進む。 「でも日常では人なんか殺したくないし、スコアも多分切り捨てられない。たまに戦闘の自分が怖くなる。戦闘から戻ってこれないんじゃ? って」 足を止めて、どこにも答えがないのにリロードは観念したように振り返る。 すると立ち止まったスコアが何を思ったのか服で手をこすりはじめてリロードはきょとんとした。次にスコアはリロードの手をとった。思わず目を見開くほど強い力だ。 「リロードはさ、僕が暴走したらこうやって止めてくれるよね? だから僕はリロードが暴走しようとしたら止めるよ。だって、僕の曲にダメ出ししたりお世話したりしてくれる人が居ないとつまらないからさ」 この手が、力が、リロードをどこにも行かせない。ここにとどめてくれる。 「……それもそうね。貴方みたいな手のかかる子、私が面倒みないとね?」 くしゃりと笑うリロードに、スコアもにへらと笑った。
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*** 活躍者 *** |
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[6] シュリ・スチュアート 2018/10/05-23:26
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[5] ヴィオラ・ペール 2018/10/05-22:53
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[4] ベルトルド・レーヴェ 2018/10/05-01:12
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[3] シャルル・アンデルセン 2018/10/04-20:23
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[2] スコア・オラトリオ 2018/10/04-19:50
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