~ プロローグ ~ |
ベレニーチェ海岸に存在するホテル『プラージュ』は、貴族階級層の人間が利用するような、高級リゾートホテルです。 |
~ 解説 ~ |
◆◇◆宿泊施設 概要◆◇◆ |
~ ゲームマスターより ~ |
※【ダンジョンキャンペーン】『夏色のプラージュ!』対象エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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●心情
(最高級……俺には、縁の無い世界だと思っていたが) リヴァージュのナイトプールから顔を出した。 改めて、ベレニーチェ海岸と、ヴァン・ブリーズの街並みを見る。 何度見ても教団内とは、別世界だった。 潜る前、ミニュイが故意にやった寸劇が脳裏に焼きつく。 (夢じゃない、ようだな) ●行動 「考えても時間の無駄だ」 大体、七夕浴衣といい、ラッキー何とかといい。 よくわかんねぇな最近。 人がいないのを確かめ、プールサイドに勢いよく飛び込んだ。 平泳ぎの途中、ミニュイが通り過ぎる。 「あんた、そんなに泳げたのかよ!」 競いましょ、と挑発する喰人。仕方ない、乗ってやるよ。 「……死ぬまで泳ぎ明かす」 というはずだった。 疲弊した時、気がつけばツインベッド。 の床。当然、硬い。 俺はいい……死んだように眠れるなら本望だ。 ……って! 少しは行為に甘えろよな!? 結局、ミニュイの隣で、背を向けて横になる。 「先に言っとく。触れたら落とすからな」 ●心情 夜空を見上げ、歓喜の声を上げる。 「最高のプール、そして、客室……! これこそ、私達に用意された 最 高 の 死にばっ……ん~!?」 「勝手に殺すな」と言われ、ショウに口を塞がれる。 夢かどうかと聞く彼に、敢えて壁に向かって頭突きをしてみせる。 「……大丈夫。痛みがある以上、紛れもない現実」 |
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~ リザルトノベル ~ |
「今日という日に、当ホテルを選んでいただき、ありがとう御座います。ホテルスタッフ一同『ショウ・イズミ』様と『ミニュイ・メザノッテ』様を心より歓迎いたします」 ホテルのコンシェルジュは洗練された所作で、にこやかに二人を出迎えた。 ここはホテル「プラージュ」。歴史的価値のある建造物を改装し現在も貴族階級が利用するような、格式高いリゾートホテルだ。 上質な安らぎをもたらす、と謳われたホテルは外観からして貴族の豪邸のようだった。あからさまに場違いな場所にのっけからショウは居心地悪さを覚えた。 何しろロビーには、壁どころか高い天井にまでヴェネリアの歴史をかたどった浮き彫りが隅から隅まで施されていたからだ。意匠は若者に恋したセイレーン、幸福の鐘を鳴らす恋人、捕鯨をする漁師達、南国の花鳥などが入り乱れている。 天井に吊り下げられたシャンデリアのクリスタルがちらちらと光を反射する。置かれている調度品も年季が入ったものが多いが、どれもこれも触れるのが恐ろしいくらいだ。 これらを見ていると頭がくらくらしてくる。隣にいるミニュイは至って普段通りだった。いやこの非日常な空間に、はしゃいでいるようにも見える。 ミニュイとは対照的にショウといえば、見知らぬ場所に迷い込んだ異邦人のような気分だった。 ショウはホテルで夕食をとった後、早々に案内された客室に引き込んでしまった。 客室の内装は思っていたよりも落ち着いていてほっとしたものだ。 季節の花々と一緒に観葉植物などの自然が取り入れられた部屋をミニュイはお気に召したようで終始楽しそうだ。 ミニュイはこんな機会はないとばかりにリゾートを存分に味わいながら、そわそわと落ち着かないショウを見て面白がっている。 ここのナイトプールに来たのも、ミニュイが「折角だから泳ぎましょうよ」と言って強引に引っ張ってきたからだ。そうでなければ、やることもなくホテルの一室でぼんやりしていたに違いない。 (最高級……俺には、縁の無い世界だと思っていたが) ショウは光に揺れる水の中を泳ぐ。陽気の魔術で作られた幻想的な灯りはどういうわけか水の中でも光っている。優しげに揺れる灯りは音楽に合わせて水の中で遊んでいるようだ。 「リヴァージュ」のナイトプールの水面からショウは顔を出した。プールの先には斜面に広がるヴァン・ブリーズの町並みと、ベレニーチェ海岸が見えた。 昼に見たターコイズブルーの海も、夜になると別の顔を覗かせる。夜の海は町を抱くように潮騒を鳴り響かせた。 家には、ぽつぽつと灯りがともり、美しいだけだった町並みには確かに人の営みが息づいているのが分かる。 何度見ても教団内とは、別世界だった。 プールに飛び込む前、ミニュイが故意にやった寸劇が脳裏に浮かぶ。 * 上を仰げば満天の星々に吸い込まれそうな夜。 ミニュイは夜空を受け止めるように大きく腕を広げ、歓声を上げた。 「最高のプール! そして、客室! これこそ、私達に用意された『最高』の死に場っ……ん~!?」 「……うっせぇぞ。勝手に人を殺すな」 役者のような大げさな身振りと言葉回しで声を張り上げるミニュイの口を背後から塞いだのはショウだった。 「……なんか夢みたいな光景だな」 どこかぼんやりとしたショウの声にミニュイは一瞬動きを止めた。突然壁に向かって頭突きし始めた。 「何してんだ」 「……大丈夫。痛みがある以上、紛れもない現実だわ」 「ついにイかれたんじゃなかったのか」 とショウが言うと「頭突きした甲斐があったわ」と楽しげに笑い始めた。 「最高の場は、二人で山分けよ!」 ミニュイは高らかに声に、芝居がかったオーバーなリアクションをする。 (夢じゃない、ようだな) ショウはパートナーの奇行を眺めながら、地に足の着かない感覚が消えていくのを感じた。 「考えても時間の無駄だ」 (大体、七夕の浴衣といい、……落とし穴のことといい。よく分かんねぇな) 「ショウ、私ずっと思ってたんだけど……」 「何だよ?」 急に真面目な声を出すミニュイの方を振り返ると、 「やっぱり腹筋が割れてるわ! シャツとか着てると大胸筋の辺りがきつそうだから、そうじゃないかと思ってたのよ」 浄化師として鍛え上げられた体を無遠慮にミニュイが触り出す。何が起こっているのか分からず、しばらくの間、ショウは固まっていた。 「何しやがんだ、この痴女!」 我に返ったショウは顔を赤くし、ミニュイの手を振り払う。 「こんな機会じゃないとショウの体をじっくりと見れないじゃない」 「その為に、プールに来たのか!?」 「そうよ」 即答するミニュイにシュウは絶句する。 「なーんて、冗談よ。冗談……ふふふ」 「付き合ってられるか!」 ショウは人がいないのを確かめ、プールサイドから勢いよく水面に飛び込んだ。 「あらら、からかいすぎちゃったかしら?」 ミニュイも後に続くように体を折り曲げプールに飛び込む。 そのまま勢いよく泳ぎ始めた。泳ぎ慣れているのか見本のようなクロールでぐいぐいと水中を進んでいく。 飛び込んだ衝撃が肌に伝わる。ショウは水中に潜ると、水の中に浮かぶ幻想的な光が目に入る。思わず灯りに触れようと手を伸ばした。 灯りは触れても通り抜けるだけ。熱くもなく水の感触しかしない。 ショウは先ほどのことを忘れて、どういう仕掛けかは分からないが、凝った仕掛けだと感心してしまう。 幻想的な光を眺めるようにゆっくりと平泳ぎで泳ぐショウを追いかける人影があった。ハイスピードでクロールする女性が無駄に美しい泳ぎで通り過ぎる。 「アンタ、そんなに泳げたのかよ!」 思わずプール底に足を着き、ショウは突っ込んでしまう。突っ込みをスルーしたまま華麗に泳ぎ続けるミニュイ。 ミニュイは壁まで泳ぎ切るとそのままプールサイドに上がり、ショウを上から見下ろしながら、 「そうよー! 背泳ぎは?」 遊び心溢れる茶目っ気たっぷりな振る舞いで宣言した。 「ベレニーチェ海岸の海をも制す喰人ミニュイ・メザノッテよ!」 「ここプールだろ! しかも、クロールじゃないのかよ!」 ショウの突っ込みをまたもやスルーし、逆に挑戦的な笑みを投げかける。 「ねえ、ショウ。折角だから競いましょ」 「ああ?」 「それとも怖じ気付いたかしら?」 ミニュイは挑発的な態度を隠すことなく、豊満な胸を見せつけるように腰に手を当てた。 普段は服で隠されている肢体を大胆に露わにしたクロスビキニ。肉感的な艶めかしさをそれほど感じさせないのは、彼女の持つミステリアスさ故だろうか。 張りのある左太股にはアンデッド特有の穴があり、その周囲には艶やかに花開く朝顔が白い肌を美しく見せている。 まろい胸の谷間から水滴が滴り落ちるのが視界に入る。 不意にショウは彼女の胸を触ったときの感触まで思いだし、気まずげに顔を逸らす。 忘れようとするかのように頭をがしがしと掻くと、強気な声で返した。 「仕方ない、乗ってやるよ」 「やる気になってくれて嬉しいわ、ショウ」 プールサイドに一度上がり、ミニュイの隣に立つ。 「……死ぬまで泳ぎ倒す」 「それじゃあ、先に一周した方が勝者よ。じゃ、スタートね!」 「ちょっ、待て! おい、ずるいだろ!」 ミニュイは言葉を言い終えると美しいフォームで水の中に飛び込んだ。待て、とばかりに手を伸ばしたショウも慌てて飛び込む。 ベレニーチェ海岸をも制するというだけあって、ミニュイの泳ぎは上手かった。先にスタートされたというハンデを背負ったショウは追いつくこともできず、惨敗した。 プールサイドで手を突くショウを尻目にミニュイは「ご褒美は、後でね!」と上機嫌そうに声をかける。 その後、ショウはヤケクソのように泳ぎ続けた。 繰り返しプールの端まで行ったり来たりと全速力で泳いでいたのが祟って、疲労困憊のショウは部屋に戻ると倒れ込むように飛び込んだ。ツインベッドのある床に。 せめてもの情けにラグがひかれているが、やはり堅い。 「――俺はいい。……死んだように寝れるなら本望だ。ベッドはアンタ一人で使え」 そう言って、ショウは燃え尽きたように床に突っ伏した。 ミニュイは一人ベッドを独占するように横になっているが、不満げな表情を浮かべていた。 視線の先には、頑なに同じベッドを使うのを嫌がったショウが床に倒れている。 髪が濡れかきあげられた前髪が下りているせいか、なんだか幼く見える。なんて無防備な姿。 ショウが倒れる瞬間、脳裏に過ぎったものは何だったのか。 死んだように瞼を閉じたショウの顔。その顔は一瞬、ショウなのに、ショウじゃない顔をしていた。 私は知っている。 はず。 でも。 思い出せない。 オモイ、ダシタクナイ。 時間の前後が入り乱れる記憶の断片。交錯した過去はどこまでが本当の記憶なのか分からなくなる。 すぐ傍にいる筈なのにまるで二人の間には紗がかけられているように感じられた。 ミニュイは急に居心地が悪くなったベッドから現実を手引き寄せるようにショウに声をかけた。 「……寝なさいよ、ダブルでしょ?」 こちらを無視するショウに何度も呼びかけ続ける。 「……って! 少しは人の厚意に甘えろよな!?」 ついに我慢の限界がきたショウは勢いよくがばりと起きあがり、ミニュイに噛みつく。いつも通りの彼にミニュイは表情こそ出さないものの、心の片隅で安堵する。 「別に私は二人で寝ようと構わないわよ」 「アンタは気にしなくても俺が気にするわ!」 「そんなの今更じゃない。だって、あのときミニュイの胸――」 「うわああっ!」 ショウは思わず叫ぶ。必死で忘れようとしていたことを掘り返され、せめてもの抵抗に聞くまいと声を荒げる。 「止めろ、止めろ、それ以上言うな!」 「じゃあ、一緒にベッドで寝るわよね?」 「分かった、寝る。ベッドで寝ればいいんだろ!」 ヤケクソ気味に叫ぶショウに追い打ちをかけるように。 断られたって、両手で抱えてベッドに運ぶから。そこまで言うと、ミニュイに姫様抱っこされる自分を想像したのか、ショウは苦虫を噛み潰した表情を浮かべ、渋々ベッドに近寄った。 「先に言っとく。触れたら落とすからな」 結局、押し負けたショウはミニュイの隣で、背を向けて横になる。 「うふふ、いいわよ。おやすみなさい」 からかい混じりのミニュイの声はいつも通りで、ショウは気づかなかった。彼女がどんな表情を浮かべているかを。 ミニュイは音もなく唇を動かした。 (だって、ミニュイ、いえ、私は――) もう墜ちてるんだから。そう、人として。 夜は全てを覆い隠す。ミニュイの眼差しも過去も何もかもがビロードの幕間へと姿を消した。 越えない夜がないように必ず朝はやってくる。 朝になれば太陽が昇るように、しかるべき時がくれば覆い隠されたものも姿を現すだろう。明日になればまた新たな幕が上がる。 それにショウの受難は終わっていなかった。 朝から絶叫することになることをショウは知らない。 目映い朝日を浴びながら、ミニュイの胸に頭を抱き込まれるようにして目覚めることをショウはまだ知らない。 息苦しさを感じて目を覚ませば、すぐ傍にミニュイの顔があることに気づき、絶句することをショウは知りもしない。 一緒にベッドで寝たことをショウが心底後悔するまで後6時間。
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*** 活躍者 *** |
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