~ プロローグ ~ |
教皇国家アークソサエティ。薔薇十字教団。司令部。 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
ごきげんよう。新人GMの蛯沢真尋と申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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風邪:灰 心配した灯が世話をしようとする 粥を作ろうとしてキッチン爆破 風呂場は謎の停止 こんなときほど力を発揮するクラッシャー 灰 糞ジジイ、仕事を増やすな 灯 おかしい。なぜ 灰 頼むから何もしないでくれよ 灯 風呂ぐらいいれてやろうと思っていたんだがな 灰 えっ 灯 水風呂につっこんだらさすがに死ぬな 灰 …っ。爺と風呂にはいれるなら死んでもいい 灯 夫婦ならいつでも入れるだろう。ほら、汗を拭ってやる。薬も飲め 灰 隊長、お願いがあるんです 灯 ん? なんだ、ホロ 灰 置いていかないでください あのときみたいに あのとき…仲間も村もすべて襲われて戦火に飲まれた。命を食らう敵に絶望した。 一人で敵を巻き込んで散った灯の死体を途方に暮れて集め縫い合せ |
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あー…喉が痛い…なんだか熱っぽいし。 これは完全に風邪だ…。 綾ちゃんにばれないようにしないととか思ってたら速攻でバレるし。 寝ててくださいってベッドに入れられてしまった…。 綾ちゃんには敵わないなぁ。 お粥とお薬だね…うん、お粥なら食べられそう。 ありがとう。 この薬はとても苦そうだなぁ…。 大丈夫、ちゃんと飲むよー。 デザートも用意してくれてるの? わー桃だぁ…。 なんていうか…綾ちゃん完全に俺の扱い方を心得てるよね 昔はわりと病弱だったんだけど…ここのところ病気なんてしてなかったのに。 うーん、とりえず留まる場所が決まったから安心したのかな。 綾ちゃんに看病されるのってなんだかくすぐったいね。 |
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ロウハが風邪…! こ、こういう時どうすれば… お父様と一緒に住んでいた頃…わたしが風邪を引いて寝込んでいた時、ロウハが看病してくれた 今度はわたしが、ロウハのために…! 「風邪にはお粥」「汗をかいたら拭く」「お薬飲ませる」 頭に思い浮かんだ看病の定番を実行してみよう お粥、作ろうとしたけど上手くいかなくて 結局、梨を切って出すことにした みずみずしい果物なら、風邪の時でも食べやすいと思って …もっと、料理の練習しておけばよかったわ 汗をふくのもこれで大丈夫か でも、ロウハに心配かけるわけにはいかないから頑張るわ 今まで、こんなことなかったのに わたしが、たくさん負担かけてきたから…体調崩してしまったのよね …ごめんなさい |
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(心配かけないようにした結果、迷惑かけたことと 掃除してないのがバレてしょんぼり) レイさん、ごめんなサイ… 汗をかいたので、さっぱりしてこようかと… どうしてもダメですカ? むぅ…仕方ないデスネ…(普通に着替え始める 苦い薬は飲みたくないデス そこは気合で治しマス うぅ…レイさん、今日は怒ってばかりデス 手伝うって、どうやってですカ?? くち……な、ななな…!! なんてことを言うのデスカ!レイさんの変態!不潔デス! (薬一気飲みしてベッドに逃げ込む え、レイさん、帰らないんデスカ? (こう傍にいられると寝にくいというか、 そんなに子ども扱いしないでほしいというか… うぅ、でももう眠いですし、どうでもいいデス… …お休みなサイ |
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◆ローザ(病人 まさか、へイリーに看病される事になってしまうとはな…げほっ 不覚だ…ごほっ 声も上手く出せない… 不貞腐れる様な気分になりつつ、ヘイリーに従おう ◆ お粥か…食欲が、ない 食べなければと、分かっているんだがな…うっ 吐き気まで感じている所、下げられるお粥を不思議に思う 新しく出された桃のシロップ漬けをじっと見て、ゆっくり口にする …これなら、食べられそう、だ 差し出された薬(とても苦い)を飲み、再び横になる 食事の片付けをしているヘイリーを見つめる へイリー…すまなかった …それと、その……ありがとう 眠りに落ちる寸前、心地よい温もりを感じた気がする ◆場所 ローザの自室 あまり物を置いていないシンプルな部屋 |
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風邪を引いたルーノをナツキが部屋へ送る 大丈夫だから自室に戻れと言われたものの、いいから任せとけと看病をかって出るナツキ ルーノが暑さでまいっていたのは知っていたのに ここまで悪化させてしまった事に責任も感じている 薬を飲ませて寝かせてからも、寝苦しそうなルーノを心配し 頭を冷やすタオルを交換する等看病を続ける ナツキ:うーん、薬がまだ効いてねぇのかな…水飲むか? ルーノ:いや、そのくらいは自分で… ナツキ:なに言ってんだよ、こんな時くらい頼れって! ナツキがベッド脇に椅子を持ってきて座り ナツキ:眠れそうならちょっとでも寝た方がいいぜ。俺がちゃんと側についてるからさ! ルーノ:…わかった。少し、眠らせてもらうよ。 |
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寮母さんじゃなくてすみません 寮母と思い顔も見ずにいればトレイを持つヨナ うわ、という声と共に身構え身体を起こすもふらつき再びベッドの中 許可は取ってます。教団内で急に風邪が流行りだして。 ベルトルドさん昨日は熱っぽいと言ってましたし、もしかしてと思って来たら案の定ですね 小気味よさそうな声 見舞いに来たのか揶揄しに来たのかどっちだ… どちらでもいいじゃないですか お粥とお薬持ってきましたけど食べられます? ああ 感染したら悪いし食べ終わったら適当に引き上げてくれ 部屋を見回す 物が少なく案外小綺麗な部屋 ベッドの周りには脱ぎっぱなしの衣類が少々 再び横になり意識が混濁し始めたベルトルドの額のタオル交換しつつ |
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~ リザルトノベル ~ |
● 灯・袋野(ふくろや・れっか)は、灰・土方(ヒジカタ・ホロビ)の部屋で粥を作ろうとして……失敗していた。 「おかしいな、何故……?」 黒焦げの『粥になるはずだった物体』を前に、灯は首を傾げる。 そんな灯の背に、ひたひたと灰の足音が近づいてきた。 「……おかしいのはあんただ、クソジジイ。これ以上、仕事を増やすな……」 よほど辛いのか、いつもの悪態も今日はどこか覇気がない。 それでも、病床の身を引きずってやってきたのは未曾有の危機を感じたからだろう。 見れば、粥だけでなくキッチンも風呂場も焦げていた。何故だ。 「……頼むから何もしないでくれ……ゴホッ……ゴホッ……」 と、そこでまた灰が苦しげに咳き込み倒れそうになった。 灯が駆け寄り、その身を支えながらため息混じりに呟く。 「風呂ぐらい入れてやろうと思ったんだがな」 「えっ……」 その言葉に、灰が目を瞠った。 「水風呂に突っ込んだらさすがに死ぬか」 「……っ……爺と風呂に入れるなら死んでもいい……」 「馬鹿を言え。夫婦なら、いつでも入れるだろう。ほら、身体を拭いてやるからベッドに戻れ」 灰の身体をベッドに押し戻すと、灯は桶に水を張り、そこにタオルをゆっくりと浸す。 そして、服を脱がし、ゆっくりと身体を拭いはじめる。 「……」 身体を拭かれている間、灰は妙にしおらしかった。 灯は不思議に思いつつ、ふと灰の背中を見て呟く。 「ホロ、お前、入れ墨は入れるなよ。私がくたばればちゃんと結婚するんだ」 灯と灰の故郷では、結婚した相手に見合う花を、入れ墨として彫る習慣があった。 何気なく言ったつもりの言葉に、灰の肩がぴくりと震えた。 「……っ……ふざけるな……!」 振り返り、病人とは思えないほどに語気を荒らげて灰が叫ぶ。 「僕は貴方がよくて契約したんだっ! たとえ、それが生存のための結婚だとしても! 僕が選んだ!」 「ホロ……」 あまりの剣幕に、灯は息を詰まらせる。 灰は続ける。 「だから、僕の背中にはアンタの花を刻む。絶対に! まだ、アンタに見合うものがわからないけど……僕の花は貴方だけ……だっ……」 そこまで言うと、糸が切れたように灰はまたベッドに倒れこんだ。 「……悪かったよ、ホロ」 灯は灰に寝巻きを着せ、薬を飲ませ、きちんと寝かせてやりながらそう呟く。 それから、灯は灰の頭を優しく撫でつつ、たしなめるように言った。 「だがな、ホロ。それは生き残った者への依存だ」 聞こえていたかどうかはわからない。 だが、その後、灰は大人しく横になっていた。 それでも、ときおり苦しそうに身悶えし、身体を掻き毟る。 そんなとき、灯は灰の手を強く握った。 と、そのとき。 「隊長、お願いがあるんです」 「ん? なんだ、ホロ?」 「置いていかないでください、あのときみたいに」 はっと、灯は目を見開いた。 あのときとは、故郷の村で、灯が決死の自爆攻撃を行ったあのときのことを言っているのだろう。 灯は、灰をはじめとした仲間や部下のためにそうしたつもりだった。 だが、それを灰は『置いていかれた』と考えていた。 そのことに、灯はひどく驚いた。 「……置いていくわけないだろう。私はお前の伴侶なんだからな」 そう言ってやると、安心したのだろうか。 以降、灰は極めて静かに眠り始めた。 そんな灰の汗をもう一度拭いながら、ふと灯は呟く。 「コイツの花はなんだろうね?」 目を閉じ、灯はふと想像してみるのだった。 まだ見ぬ灰に見合う花の入れ墨を刻んだ腕で、そっと彼を抱き寄せる――そんな己の姿を。 ● 「指令に参加しているときから、そうではないかと思っていたのですが……やはり風邪だったのですね?」 ふぅと溜息を吐きながら、吉備・綾音(きび・あやね)はどこか責めるような口調で言った。 「やっぱりバレてたかぁ……。いや、綾ちゃんには敵わないなぁ」 参ったをするように手を上げようとして、綾音のパートナーであるジエン・ロウはまた咳き込んだ。 「ほら、今、お粥とお薬を用意しますから大人しく横になっていてください」 「う、うん。でも、昔はわりと病弱だったんだけど……ここのところ病気なんてしてなかったのになぁ……」 ベッドに押しやられたジエンは、いったい何故かと考えてみる。 (とりえず留まる場所が決まったから安心したのかな……) 最近の変化といえば、浄化師になり、こうして落ち着く場所が出来たことだった。それはきっといいことだと思う。 「はい、お粥ができましたよ」 と、綾音が言って、できたての粥を運んできてくれた。 「……うん。これなら食べられそうだ。ありがとう、綾ちゃん」 礼を言いつつ、ジエンは少しずつ粥を掬って食べていく。 「食べ終わったら、次はお薬ですよ」 「……飲まなきゃ駄目? なんだか苦そう……」 「駄目です。ていうか、苦いからイヤって……」 綾音は思わずというふうに微苦笑を漏らす。 「なんだかジエンさんって子供っぽいところありますよね?」 「えー。そうかなぁ」 そう言ったジエンのしぐさは、やはり子供っぽいと綾音は思う。 「……いえ、別に悪いとは言ってませんよ? ……それが魅力だとも思いますし……」 ぽつりと後につけくわえた言葉はジエンには届いていなかったようだ。 「ん? 綾ちゃん、何か言った?」 「いえ。何も。とにかく薬は飲まないと駄目です。その代わりにちゃんと飲んだらご褒美をあげます」 「ご褒美?」 目を瞬かせるジエンに、綾音はふふっと笑ってあるものを持ってくる。 「わあ、桃だ。甘くて美味しそう……」 それは思わず涎が出そうなほどに美味しそうな桃だった。 「ジエンさん。甘いもの好きですよね? ちゃんと薬を飲んだら食べさせてあげます」 「……わ、わかった。頑張る」 意を決したように、ジエンは薬を一気に飲み干す。 「うげぇ……」 「ふふ。よく頑張りました」 うげっと舌を出したジエンの髪を、綾音は良い子良い子するように撫でてやった。 「……なんか綾ちゃんって、俺の扱いを完全に心得てるよね」 「そうですか? でも……なんだか懐かしい気がするんです……看病をするのって……」 「……そうか」 綾音はアンデッドで、生前の記憶が曖昧だった。 それを知っているジエンは余計なことを言わずただ微笑で応じる。 「さあ、ではご褒美の時間です。はい、あーんしてください」 「え……? な、なんだかくすぐったいなぁ……」 少し照れつつ、ジエンは言うとおりにする。 「食べたら、ちゃんと横になってくださいね? 薬が効いてくれば、ぐっと楽になるはずですから」 「うん。本当にありがとうね、綾ちゃん……」 ジエンは綾音の気遣いに心から感謝し、素直に目を閉じて、その後は静かな眠りに落ちたのだった。 ● シュリ・スチュアートは狼狽していた。 「ロウハが風邪……! こ、こういう時どうすれば……」 「……落ち着け、お嬢。こんなもん寝てりゃ治る……」 ここはロウハ・カデッサの部屋。 風邪が悪化したロウハを部屋に連れてきたはいいが、シュリはどうすればいいかわからなくなった。 (ちっ、倒れてる場合じゃねーのに……情けねーぜ) ロウハは密かにそう舌打ちする。パートナーとしてあまりに不甲斐ない。 「俺は大丈夫だから、お嬢はもう帰れ……」 「だ、駄目……! お父様と一緒に住んでいた頃……わたしが風邪を引いて寝込んでいた時、ロウハが看病してくれた……! だから、今度はわたしが、ロウハのために……!」 そう言うと、シュリは、 「とにかくロウハは大人しくしていて……!」 と彼に言い聞かせ、台所に向かう。 (……おいおい、大丈夫かよ。料理なんてろくに……) ロウハの頭に一抹の不安がよぎるが、追いかける気力もない。 仕方なく、ベッドで身体を休めていると、キッチンから轟と不穏な音が聞こえてきた。 (……大丈夫じゃなさそうだな) 煙に咳き込みながらシュリが涙目で戻ってきた。 「……お粥を作ろうとしたけど、失敗しちゃった」 「……無理するな。気持ちだけで充分……」 「でもっ、その代わりに梨を剥いてきた……!」 「え……?」 意外な言葉に、ロウハは目を丸くする。 差し出された梨は、とても綺麗にカットされていた。 「瑞々しい果物なら食べ易いかと思って……」 「……ああ。うん、うまい」 ロウハは梨を食べ、素直な感想を漏らす。 (……昔は、皮も剥けなかったのにな) そんな感慨も含め、その梨は本当に美味かった。 「……次は汗拭くから。ふ、服を脱いで……」 「お、おう……」 勢い込むシュリに、ロウハは気圧されつつも従う。 シュリの小さな手が懸命に汗を拭ってくれる。 その最中、ぽつりと彼女が呟く。 「……今まで、こんなことなかったのに。わたしが、たくさん負担かけてきたから……。体調崩してしまったのよね……ごめんなさい」 「え……」 震えるような声音に、ロウハはシュリがそんなふうに考えていたことに驚いた。 シュリはそれきり黙り、せっせと汗を拭き続ける。 一方、ロウハは何故自分が夏風邪などひいてしまったのかという理由に思い至っていた。 (……なんとなくわかった。俺が倒れたらお嬢は何もできなくなる……今まではそうだった。だから、お嬢に負担を掛けるなんて考えられなかったが……) だが、今は違う。ロウハは気付いた。 浄化師として共に仕事を始めてから、シュリは確かに成長している。 戦士として。そして、一人の人間として。 だから、 (……だからきっと……俺の心が少し緩んじまったんだ。少し甘えてもいいか、なんて……な) そんなことを考えているなんて、決してシュリに知られるわけにはいかず、それきりロウハも黙ってシュリになされるがままにしていた。 やがて、 「……すぅ……すぅ……」 シュリが看病疲れで眠ったときになって、ようやくロウハは素直に口にした。 「……ありがとな」 艶やかな黒髪をそっと撫でながら、そんな彼女への感謝の言葉を。 ● エリィ・ブロッサムの部屋は汚い。 「……エリィ。貴方もレディの端くれなのですから、もう少し部屋は片づけなさいと」 「……うう。ごめんなさいデス……」 レイ・アクトリスの言葉に、エリィは顔を俯けて小さくなった。 その謝罪には、部屋を片付けていないことはもとより、心配をかけまいと体調不良を押し隠した結果、かえって迷惑をかけてしまっている現状に対しての謝罪の意も込められていた。 「……もう謝らなくていいですから、大人しく薬飲んで寝ていてください」 レイはため息混じりにそう言った。 「……ハーイ」 エリィは大人しくどこかに向かおうとする。 「ちょっと待ちなさい。どこに行くつもりですか?」 「え? 寝る前に汗を流そうと……ダメですか?」 「……駄目に決まっているでしょう。貴方は病人なんですよ……?」 レイは呆れたように息を吐く。 「どうしても?」 「どうしてもです」 「むぅ……仕方ないデスネ……」 即答され、エリィは肩を落とすと、そのままレイの前で服を脱ぎ始めようとする。 「……っ」 レイは慌てて目をそらし、その間に、薬を用意することにした。 「……あ、薬はケッコウです。気合で治しますカラ」 「駄目です」 エリィの言葉に、レイが即答で返す。 「気合で治ったら医者はみんな失職ですよ。薬を飲まないと、いつまで経っても治りませんよ?」 「うぅ……。レイさん、今日は怒ってばかりです……」 「……っ。いえ、すみません。僕も言い過ぎました」 と、そこでレイもすぐにエリィに謝った。 「こうなった責任は僕にもありますからね。では、良ければ薬を飲むお手伝いをしましょうか?」 「え? 手伝うって、どうやってですカ?」 キョトンと首を傾げるエリィに、レイは口元に微笑を浮かべて言う。 「それはもちろん口移しですよ」 「へ……? くち……な、ななな……!」 一瞬遅れてその言葉の意味を認識したエリィが顔を真っ赤にする。 「なんてことを言うのデスカ! レイさんの変態! 不潔デス!」 「もちろん冗談ですけどね」 「――――っ!?」 エリィは真っ赤な顔のまま薬を一気に飲み干すと、逃げるようにベッドにもぐりこんだ。 「ふふ。偉いですよ、レディ。そのまま大人しく寝ていてください」 そう言って、レイは手近な椅子に腰掛ける。 「え、レイさん、帰らないんデスカ?」 エリィがひょっこりと顔を出し、レイにそう訊ねる。 「ええ。勿論熱が下がるまでは帰りません」 暇つぶしに本など読み始めたレイを見て、これは本当に帰る気はなさそうだとエリィは悟る。 (うう……そんな傍にいられると眠りにくいというか、そんな子供扱いしないで欲しいというか……でも、なんだか眠くなってどうでも……) と、次の瞬間には、エリィは眠りに落ちていた。 「ふふ、ようやく大人しく寝てくれましたね。でも、さっきも言ったとおり、熱が下がるまでは帰りませんよ?」 すでに眠りの中のエリィの顔を覗き込みながら、レイは静かにそう言って、 「なので、安心して休んでください」 そんなふうに呟きながら、エリィの頭をそっと優しく撫でたのだった。 ● 「まさか、へイリーに看病される事になってしまうとはな……。げほっ……不覚だ……」 ローザ・スターリナは不貞腐れたように呟きながらまた一つ苦しそうに咳き込んだ。 「ちっ……。ごちゃごちゃ言ってる暇があったらさっさと寝ろ……。病人は寝ることが仕事だろうが」 ジャック・ヘイリーは、そんなローザを強引にベッドに寝かしつけると寮の食堂に向かった。ローザに粥を用意して貰うためだ。 帰ってくると、ローザは大人しく寝ていた。 だが、 「起きろ。食事だ」 と、ヘイリーが持ってきた粥を見るなり、渋い顔をした。 「……粥、か。あまり食欲がないんだが……」 「うるさい。黙って食え」 ジャックはぶっきらぼうに、粥が入った椀と、匙を突きつける。 「……食べなければ、とわかってはいるんだがな……」 「……わかってるなら、いいから食え。……食わないと、治らねぇぞ」 「……わかった。食べるよ……うっ……」 ローザは軽くえずきそうになった。 「ちっ……」 と、そこでまたヘイリーが舌打ちして粥を下げる。 「……?」 ローザが、そんな彼の背中を見て、不思議そうに瞬きをする。 程なくして。 「……これなら食えるだろ」 「……これは桃か?」 ローザが目にしたのは、ヘイリーが持ってきてくれた桃のシロップ漬けだった。 「……風邪って言ったら、これだろ」 ぷいとそっぽを向けながら、ヘイリーが早く食えとばかりに器を押し付けてくる。 「……すまない」 ローザは礼を言うと、まず桃の匂いをかぐ。 「ああ……これなら食べられそうだ……」 ほっと、表情が綻ぶ。 無事に食べ終えると、ヘイリーが薬が差し出し、かわりに器を下げてくれた。 (……うう……苦い……) ローザは、素直にそれを飲んだが、思わずその苦さに顔をしかめてしまった。 (……ふっ……ガキかよ……) と、それを見たヘイリーの表情も、ほっと安堵したように綻んでいた。 だが、それは悟らせずに、ヘイリーは黙って後片付けを続ける。 そんな彼の背中を、ローザは黙って見つめる。 「……その……今日はすまかったな……ヘイリー……。それから……ありがとう……」 ようやく、素直な感謝の言葉を口にすることができた。 「……るせぇ。食ったら、さっさと寝ろ」 かちゃかちゃと食器を鳴らしながら呟いたヘイリーはさっきよりもさらにそっけなかった。 (……もしかして照れている? いや……まさかな……) 自分の頭に浮かんだ考えに苦笑しつつ、ローザは素直に横になる。 「ほらよ」 ヘイリーが額に濡れたタオルを乗せてくれる。 ひんやりとしたタオルは、けれどどこか温かいとローザは感じた。 そして、ローザがすやすやと眠り始めると、 「やれやれ。やっと寝たか……」 ヘイリーが苦笑混じりに、濡れたタオルを取り替える。 その途中で、ヘイリーは、ほんの少しだけローザの頭を撫でて、 「さっさとよくなれよ、スターリナ」 ふっとそんな言葉を呟いた。 そのヘイリーの言葉を、ローザは夢現の中で聞いていた。 誰が、何を言ったかもわからなかった。 ただ完全に眠りに落ちる前に、とても温かい何かに触れられたような、そんな気がした。 ● ナツキ・ヤクトは、ルーノ・クロードが風邪で倒れたことに、ひどく責任を感じていた。 相棒が暑さに参っていたことには気づいていたのに、体調の悪化を見過ごしてしまっていたからだ。 「だから、今日は俺がきっちり看病する! 安心してくれ、相棒!」 「いや、大丈夫だから、帰ってくれていいんだよ?」 むしろ帰れというニュアンスをルーノが言外に含ませるものの、ナツキはまるで気付く様子もない。 (こうなると、ナツキは梃子でも動かないよね……) ふぅっ、と深くため息を一つ。 その理由は、ナツキの頑固さに呆れたことだけでなく、誰にも頼らぬよう生きてきた自分のこのたびの油断に対する失望にもあった。 「じゃあ薬を用意してくるから、大人しく寝ててくれな!」 ドタバタと部屋をかけまわり、ナツキは元気一杯だ。 そんな相棒に、ふっとルーノは微苦笑を漏らす。 ふぁ、と欠伸が漏れそうになったのは、無自覚ながらルーノがナツキのことを信頼していたからだった。 「ほら、持ってきたぞ。あーんしろ」 「いや、薬くらい自分で飲めるって……」 あまりに甲斐甲斐しいナツキに苦笑しつつ、ルーノは自分で薬を飲む。 「飲んだか? 飲んだな? よし、じゃあ横になれ。子守唄いるか?」 「ナツキ……。私は子供ではないんだよ?」 ため息混じりに言いつつ、決して不快ではない自分に気付きながら、ルーノは大人しくベッドに身を横たえる。 すると、やはり疲れが出ていたのか、あるいはベッドに身を預けた安堵からか、また苦しさが蘇ってきた。 「……おい、本当に大丈夫か? 水飲むか?」 「いや、それくらい自分でできるって……」 水差しを口に突っ込もうとするナツキを制止する声にも、やはり力が入らない。 「何言ってんだよ! こんなときぐらい頼れって!」 そう言って、なかば無理やりにナツキがルーノに水を飲ませた。 無理やりにとは言いつつも、ちゃんと力加減や匙加減は考えられていて、程良い量の水が渇ききった喉を潤す。 「……うん……おいしい……」 「……そうか!」 素直にそうこぼしたルーノに、ナツキがぱぁっと顔を綻ばせた。 どうやら心に安らぎを感じ、素直に甘えてしまっていた自分に気付いて、ルーノはまた微苦笑する。 (誰かが側にいて気が安らぐとは……思ったより弱っていたのかもしれないな) 自分でも気付かなかった体調の悪化に気付いてくれたナツキに、素直な感謝の気持ちを抱く。 そんなルーノに対し、ナツキはベッド脇に引き寄せた椅子にどっかりと腰掛け、 「眠れそうならちょっとでも寝た方がいいぜ。俺がちゃんと側についてるからさ!」 と、長期戦の構えを見せる。 ルーノは、最初、それを固辞するつもりだった。 誰かがそばにいて、安心して眠れるとは思えなかったからだ。 けれど、 (……ナツキならば大丈夫かもしれないな) そう思うと、急激な眠気が襲ってきた。 「………わかった。少し、眠らせてもらうよ」 そう言ってから、本当にルーノが眠りにつくのに、それほど時間はかからなかった。 そんなルーノの寝顔を見て、 「やっと寝てくれた……。安心してくれたってことだな?」 ナツキは、心のそこから、ほっと安堵したような表情を見せた。 ● ベルトルド・レーヴェは、寮の自室でベッドに横たわっていた。 そのとき、不意にガチャッと扉が開いた。 「……っ」 すわ寮母か、とシーツで顔を覆う。 「寮母さんじゃなくてすみません」 が、そこにいたのはヨナ・ミューエだった。 「……ヨナ……どうして……?」 「ベルトルドさん昨日は熱っぽいと言ってましたし、もしかしてと思って来たのですが……案の定ですね」 小気味良さげに言うヨナに、ベルトルドはただでさえ痛い頭が余計に痛くなる。 「……帰ってくれ……見つかったらどうなるか……」 「大丈夫。許可は下りています」 「……っ」 有無を言わさずにベッドに押し戻され、ベルトルドは完全に調子が狂う。 「……なんでそんな嬉しそうなんだ……見舞いに来たのか、揶揄しに来たのか、どっちなんだ……?」 ベルトルドがため息混じりに言えば、 「どっちでもいいじゃないですか。それより、お薬とお粥を持ってきましたが、食べられますか?」 と、本当にどっちでも良さそうにヨナが言う。 「……ああ。感染したら悪いし食べ終わったら適当に引き上げてくれ」 ベルトルドが渋々に頷いて言うと、ヨナはベッドのそばに椅子を引き込み、座りながら部屋を勝手に見渡し始める。 (……案外綺麗にしてますね。むしろさっぱりしすぎている感じもしますが……) そんなことを、ヨナは思う。 「…………」 一方、完全に主導権を握られ、ベルトルドは押し黙った。 粥をかきこみ、薬を飲むと、さっさと横になってしまう。 (むぅ……) それに、今度はヨナの方が調子を狂わせた。 とりあえず濡れたタオルで額を冷やしてみる。 「……ありがとう」 ベルトルドがぽそりと言う。 素直すぎて、本当に調子が狂う。 (日頃の体調管理が……なんて一言文句でも言おうと思っていたのに) とてもそんな様子ではなく、それが妙にヨナを不安にさせた。 「……そんなに、私は頼りなく見えますか?」 そんなことを訊いてしまったのは、こんなになるまで自分を頼ってくれなかったからかもしれない。 返事はなかった。眠っているのか、聞こえないふりをしているのか。 返事を期待していたわけでもなく、独り言のようにヨナは続ける。 「……パートナーとなってから、極力私のやり方に沿ってくれていると感じてたし感謝はしてます。でも、最近のあなたは私に変化を促している」 自分でも何を言っているのかわからなくなる。 けれど、紡ぎ出したヨナの言葉は止まらない。 「至らない部分があるのは重々承知です……。ですが……そんなに私は危うく見えるのでしょうか……?」 やはり返事はない。 それがなんだか寂しい。 (もしかして甘えている……? 私が?) ふと芽生えた自問に、ヨナは愕然とする。 だって、パートナーとは上手くやれているつもりでいた。 良い関係とまでは言えなくとも、少なくとも悪くない関係性であるはずだった。 それなのに……ベルトルドは自分を頼ってくれなかった。 そのことに、釈然としない苛立ちが芽生えた。 (……私が甘えているなんて) そんなこと――。 「……そんなこと、ないです」 ぽつり呟きながら、ヨナはベルトルドの部屋をあとにする。 自分の心の中で、パートナーの占めるウェイトが確実に増えつつある。 戸惑いながらも、ヨナの心はますます混迷を極めようとしていた。
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*** 活躍者 *** |
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[8] ジャック・ヘイリー 2018/09/07-23:08
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[7] ヨナ・ミューエ 2018/09/07-21:34
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[6] レイ・アクトリス 2018/09/06-20:47
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[5] 吉備・綾音 2018/09/06-19:23
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[4] ナツキ・ヤクト 2018/09/06-00:30
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[3] シュリ・スチュアート 2018/09/05-03:39
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[2] 灯・袋野 2018/09/05-00:53
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