~ プロローグ ~ |
ソレイユ地区の一角。樹梢湖を囲う森林の、すぐ近く。 |
~ 解説 ~ |
謎の洞窟を調査してください。 |
~ ゲームマスターより ~ |
初めまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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勘違い夫婦 二歩進んで三歩下がる 灯 水琴窟だな。こけたら危ないから手を 灰 僕はこれでも30過ぎの男ですよ 二人して無視して奥に進む 息苦しい沈黙 唐突に灯が悪戯 こっそり脅かす 水で項触られて吃驚する灰 灰 糞爺! 灯・気負いすぎだぞ 奥で灯が水のなかにはいり、剣で掘って、小さな宝石を差し出す 灯 生存のために伴侶となったが、俺の最後の番はお前だ 灰 何言ってんだこの糞爺! あんたはいずれ相手見つけて夫婦になればいいじゃないか。そんな年でもばかみたいに元気なんだ、餓鬼だって作れるだろうっ! 灯 いやー、この年でさすがにそりゃあ それに失いすぎた 灰 …隊長 灯 お前にこれをやりたい。なにもしてやれてないからな 灰 提出を求められたらどうします? |
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■セアラ 洞窟といういかにもな冒険の舞台にテンション高まる 目的は洞窟探検 ランタンを腰につけ筆記具も用意して準備は万全に 分岐が多いため他グループと別れ2人で調査へ 内部ではマッピングを担当 最初は足元に気をつけ慎重に進むが景色にはしゃいで次第に早足に そして転ぶ(お約束 ■キリアン 中をろくに見てないという前情報から、実は何もないんじゃないかと思っているが黙っている 目的は涼をとること 内部では一応(一応)セアラの先に立ちランタンを掲げ進む セアラに足元に注意するよう言うが効果なし 歩きながらおもむろに怪談を始めるがセアラが怖がらないので飽きる セアラが転びかけたら支える 深部で全員集合したらマッピング結果を突き合わせ |
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暗い…変な音… う、ううん 大丈夫 皆と一緒だもの ちゃんと調べられるわ お友だちと一緒に調べる ペンとメモ帳で 簡易地図作成 気づいたことを書きとめ 怖がりなのでランタンを持っていない方の手で シリウスの背中部分の服をぎゅーっと掴んで 幽霊なんて言わないで!(半泣き) 何もいない という言葉にじっと彼を見る ほんと? 返事にがーんとショックを受けた顔 足を滑らせる 首筋に水滴が落ちる 壁に移った人影 一つ一つに悲鳴 シリウスの声に彼の背中につけていた顔を上げる みず? 静かな彼の声と レオノル先生の説明にやっと落ち着く 最奥部の景色にぱっと笑顔 綺麗!シアちゃん、サラちゃん見て! お化けじゃなかったのね こんな綺麗な場所があるなんて思わなかった |
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リチェ、アリシア、サラ一行と行動 …何で俺はドクターをおぶってるんだ 青い顔のハンスを見てため息 ドクター、お化けは怖くないんですね…意外だ… 暗いのも苦手なのか…俺がしっかりここを見ていなければ… 可能な限り殺気を読みつつ歩く 色んなことを知っているなら今回の音の正体も大体予測は付いているんですか? え?付いてるけど言わない? ドクター、講義始めて、いつもの調子に戻りましたね…? はあ、私の背中が大きいのがそんなに嬉しいんですか。そりゃよかった… ようやく最奥部について仕組みに興味津々のレオノルを見て一安心 不安そうにしてるより、不思議なものを見て嬉しそうなドクターの方が見ていて安心だな 滑らないでくださいよ? |
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暗い所は嫌いじゃないので、いいのです、が… 見えにくいのが難点ですよね… ランタンを掲げて奥の方へ視線をやり ギルドの仲間達の方へ向き それじゃ、皆さん足元に気をつけて…行きましょう リチェちゃんもサラちゃんもレオ先生も、パートナーと仲良し、ですね… 暗がりの中でちょっとだけ笑った気配 クリスの言葉にちょっと首を傾げて 怖くはないです、よ? だって闇も、その眷属も、その気になればお友達になれると… きゃっ!? 首筋に当たった感触に思わず声 手を取られて温かさに頬の熱が上がり 何か音がしますね…綺麗な、澄んだ音… きっとここには悪い物はいない気が、します リチェちゃんの声にそちらを見つめ ほんとに、綺麗ですね… ほぅっとため息を |
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洞窟にはロマンがあると本で読みまシタ! 魔物か幽霊か…何が出てくるか、とても楽しみデス! ももももちろんデス! (メモとペンを取り出し)この通りマッピングはお任せくだサイ! (マッピングは真面目に) ワタシは世界一の魔術師になるのですヨ! 恐れるものなどありませんトモ! え、なんデス?幽霊デスカ?? …………(冷や汗だらだら ひいぃぃぃぃ彼は嫌デスゥ!!いっだ!(猛ダッシュして滑ってこける レイさん、酷いデス!(半泣き なんですカ!もう騙されませんよ! すいきんくつ…? ナルホド、やはり洞窟にはロマンが詰まっていたということデスネ! 池底の宝石も調べてみたいデスガ… そうですネ、走ったりこけたりで疲れたので、今日は諦めマス |
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分岐のひとつをショーンさんらと進む ハンス、何だか強がってるみたいだけど… (彼にランタンを持たせたままでいいのか不安に) 思い切って訊いてみる もしかして…怖いの? 私は平気よ 暗闇で寝起きするのには慣れてたもの 無理しなくていいのよ たまには私を頼ったら? (ランタンよこせと手を差し出す) 洞窟内に新しい発見を求める 周囲に固有の植物や小さい爬虫類がいないか ランタン片手に足下に目を凝らし進む 変わったトカゲがいたら僅かの間捕獲して観察したい レオノル先生なら名前や生態が分かるかしら 観察後は微笑し解放 植物があれば屈んで観察 え?何か言った? ハンスが何か話しかけたが聞き逃す 夢中になるあまり足を滑らせる ハンス、ありがとう |
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なるべく狭い、二人歩きに適したルートを選ぶ ◆アユカ ランタンを持って歩き、時々メモ帳にマップ記入 地理的な特徴や変わった点があれば備考として書き記す …なんだか綺麗な音が聴こえるね 水琴窟っていうんだ~、かーくん物知りだね この洞窟がもし安全なら、いい観光地になるかも~(メモメモ) 大丈夫、わたし暗いの全然平気だもの 蝙蝠とか出なければ平気だよ ◆楓 ランタンを持って先導 アユカさんがマッピングしている際は彼女のランタンも持つ …これは、水琴窟ですね 地形を利用し、水滴の音を反響させる仕組みです 故郷で一度、耳にしたことがあります アユカさん、随分と落ち着いていますね 怖さなどはないですか? ないのであれば、頼もしいことです |
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~ リザルトノベル ~ |
● 他の浄化師たちと別れ、分岐のひとつに入って三歩。 報告にあった、きん、という高い音を耳にした『灯・袋野(れっか・ふくろや』が一言。 「水琴窟だな」 即座に音の正体を見抜いて、ランタンの光で背後の『灰・土方(ホロビ・ヒジカタ)』を照らし、あいている手を差し伸べる。 「こけたら危ないから、手を」 「僕はこれでも三十すぎの男ですよ」 冷たく言い放った灰はそれを無視し、足早に進んだ。 暗く狭い道で追い抜かれた灯は、小さく息をついて年下の男をのんびりと追う。息苦しいのは、閉塞感だけが原因ではない。 「なあっ!?」 不意に冷たく濡れた感触がうなじを這って、灰は心臓が飛び出そうなほど驚いた。 周囲を確認するまでもない。後ろで笑いを堪えきれていない灯が犯人だ。 「糞爺!」 「気負いすぎだぞ」 「この……っ!」 歯噛みした灰は舌を打ち、大股で黙々と最奥部を目指す。転ぶぞ、と言いながら灯はあとに続いた。 やがて、道が途絶える。 最奥部は青白い光に満ちていた。天井から滴る水が池に落ち、例の音を奏でる。音源も光源も池だ。水底の石が発光している。 見惚れる灰の隣を、ランタンを置いた灯が抜ける。そのまま水に入った。 「な……っ、爺!」 驚く灰に説明もせず、灯は剣を抜く。宝石にあてると、かきん、と欠けた。案外硬く、小指の先ほどの欠片しかとれない。 池の縁に立ちすくむ灰に、灯は宝石を差し出した。 「生存のために伴侶となったが、俺の最後の番はお前だ」 静かな声に、理解が追いつかない行動に、灰の口調は荒くなる。 「なに言ってんだこの糞爺! あんたはいずれ相手見つけて夫婦になればいいじゃないか。そんな歳でも馬鹿みたいに元気なんだ、餓鬼だって作れるだろう!」 「いやー、この歳でさすがにそりゃあ。それに、失いすぎた」 「……隊長」 過去を想い、灰は言葉を失う。 「お前にこれをやりたい。なにもしてやれてないからな」 そんなことない。 胸の内の叫びを、灰の唇は裏切った。 「……提出を求められたらどうします?」 「ネコババできねぇか」 「ひとつ、有効な手段があります」 冷たい池に踏み入った灰が、灯の手首を掴んで宝石を口に含み、飲みこむ。 「ホロっ! ぺっ!」 思わぬ行動に焦った灯が、吐き出せと背中を叩こうとする。その手を、灰は拒否した。 「嫌です。……僕は貴方と夫婦になりました。貴方が最後だって言うなら、僕も我儘を言います」 断固とした声音に、灯は息をのんだ。 「貴方が最後の番です。そのうち、名前を、呼ばせてください」 「今は?」 「無理です! いい加減、上がりますよ。他の方々もきますし、風邪をひきますから!」 ざばざばと縁に上がる灰は、耳まで真っ赤に染まっている。 「先は長いなぁ」 悄然と呟いた灯だったが、今はひとまず、それでよしとすることにした。 ● 分岐のひとつに四組の浄化師が入る。 「先頭は任せろ」 精一杯、平静を装って『ハンス=ゲルト・ネッセルローデ』が名乗り出た。『サラ・ニードリヒ』はとめこそしなかったが、ハンスの様子がおかしい、と眉を寄せる。 ランタンを持つハンスの後ろを歩き始めたサラの勘は、的中していた。 (みんないるし、なにかあっても大丈夫、だよな。けどなにかあったら、お、俺が、サラを守らなきゃ……!) 震えそうになる体を叱咤して、ハンスは闇に目を凝らす。振り返れば仲間たちが持つ明かりが見えたが、前を見れば夜よりもなお深い闇が、果てもなく続いていた。 「もしかして、怖いの?」 「こわっ、こわ……」 ハンスにランタンを持たせることに、不安を覚えたサラが問う。足をとられないよう注意しながら、斜め後ろのサラを見て、ハンスは口ごもった。 逡巡の末、嘘を吐くのが嫌で、白状する。 「正直、怖い。サラは平気か?」 「ええ。暗闇で寝起きするのには慣れてるもの」 小さく笑んだサラが、ハンスが持つ灯りを求めて手を伸ばす。 「無理しなくていいのよ。たまには私を頼ったら?」 「……任せた」 細く暗い道を照らす光源を、ハンスは感動と悲哀をのみこみながらサラに渡す。 (たくましくなって) 教団でできた、浄化師の友人たちのおかげだろうか。サラはすっかり強い女性に――きん。 「おあぁっ!」 「ハンス?」 位置を交代したサラが振り返り、ハンスの後ろにいた面々も何事かと色めく。 「今! 音! く、くるならこ、あぁっ!?」 再び高い音が響くと同時、腕になにかが落ちた。ここは戦闘に向かないと知りながら、ハンスはとっさに占星儀に魔力をこめかける。 「落ち着いて。爬虫類よ」 「はちゅう……、サラ、なんでお前は平気なんだよ……」 半泣きになるハンスの腕から爬虫類をつまみとり、サラはランタンとともに後ろに掲げた。 「先生、分かりますか?」 「イモリだ。ちょっと珍しい色だけどね」 他の浄化師たちも、好奇の目でイモリを観察する。しばらくそうしてから、サラは洞窟の生き物を優しく解放した。 「俺ももっと強くならねーとな。お前を一生守るためにさ……、って聞いてねー」 「え? なにか言った?」 這っていくイモリに意識を奪われていたサラが首を傾ける。 「いや、なんでもねー」 「あ……っ」 逃げる生き物に夢中になるあまり、足を滑らせたサラをハンスはさっと引き上げる。 「ハンス、ありがとう」 「今の俺でも、これくらいはな」 さり気なく指を絡めあわせるようにして手を繋ぎ、ハンスは肩をすくめた。 暗闇の中、ぴちゃん、と水が滴る音がする。 「怖いか?」 「う、ううん、大丈夫」 気遣う『シリウス・セイアッド』に、『リチェルカーレ・リモージュ』は首を左右に振った。 「……そんなに無理をしなくても」 「みんなと一緒だもの。ちゃんと調べられるわ」 前にも後ろにも、親しい浄化師たちがいてくれる。ランタンの薄明りでも分かるほど青ざめながらも、心配ないと首を左右に振るリチェルカーレに、シリウスは小さくため息を吐き出した。 変わっているといえば、前を行くハンスの顔色と挙動も、若干おかしい。 「……リチェ」 先頭を変わろうとしたシリウスは、リチェルカーレに服をぎゅっと掴まれてつんのめる。逆の手でランタンを握り締める少女は、引きつり気味の笑みを浮かべた。 「簡易地図の作成、お願いね?」 「分かった。だがリチェ、ゾンビも巨大ミミズも平気だったじゃないか。幽霊だって大差な……」 少女の目に涙がたまっていることに気づき、シリウスは口をつぐんだ。 「幽霊なんて言わないで!」 「悪かった。安心しろ、変な気配もないし、なにもいない」 「ほんと?」 じっと見上げてくる彼女から、シリウスは目を背けた。 「……たぶん」 正直に返答すると、リチェルカーレは見捨てられたような顔になる。やりとりを聞いていた浄化師たちが和やかに笑う。シリウスはやや恨めしくなった。 不意に、きん、と高く反響する音。重なるようにハンスの悲鳴。 「きゃあ!」 驚いたリチェルカーレが足を滑らせた。彼女が転ぶことを予想していたシリウスは、素早く手を伸べて支える。 「ひっ」 さらに滴った水が少女の首筋を濡らす。 「リチェ、大丈夫だ」 ヤモリに襲われたハンスがさらに絶叫。 しかしそれもこの音も、無害だ。 「ただの水音だ」 震える少女の頭を軽く叩く。ご名答、と言わんばかりのタイミングで、真後ろから解説の声が聞こえてきた。 怯えきっていたリチェルカーレが、ようやく落ち着きをとり戻す。それでもごつごつした壁面に映った影さえ怖いようで、シリウスの服を離すことはなかった。 「リチェ。これは俺の推測だが、少なくともここは危険な場所ではなく、最奥部には悪くない景色が広がっている、はずだ」 きょとん、と不思議そうに少女が瞬く。睫毛を濡らす涙の残滓を、シリウスが指の背でそっと拭った。 「この道もじきに終わるはずだ」 「……うん。ありがとう、シリウス」 不器用に励まされていると知り、リチェルカーレが微笑んだ。シリウスはわずかでも肩の力を抜いた少女に、そっと安堵する。 (なんで俺はドクターをおぶってるんだ) 疑問を抱いた『ショーン・ハイド』は、洞窟に入って十歩目までのことを思い出す。 「ピエッ」 と悲鳴を上げる『レオノル・ペリエ』。 「ピヤッ」 と水たまりを踏んだり、滑りかけたりする同上。 回想はあっという間に終わった。最奥部に到達する前に大怪我を負いかねないということで、ショーンが背負うことになったのだ。代わりに、ランタンはレオノルに任せた。 前ではリチェルカーレがシリウスに脅かされている。 「私はお化けなら怖くない」 「そうなんですか」 先頭を行くハンスの顔が青かったことを思い出して、ため息を吐いていたショーンは瞬く。意外だ。 「色んなことを知ってると、予測のつくことはたくさんあるからね。たいていびっくりしないし、お化けだって怖くない。でも、突発的なことだけは無理だよ」 それぞれが持つランタンだけが光源の、細長く暗い道でなにかが起こるのは、だめなのだ。 「ショーンがいるから平気だけどね、実は暗いのも苦手だ」 「暗いのも……」 知らなかった。 ここは俺がしっかり見ておかねば、とショーンは改めて気を引き締め、周囲を警戒する。そのうちに、ハンスが悲鳴を上げ、サラが爬虫類を掲げ、レオノルがヤモリだと断定した。 「魔物やベリアルはいないようだけど、普通の生き物はいるんだね。蝙蝠もいるだろうし、植物も見つかりそう」 「先ほどの音の正体は、予想がつきましたか?」 「推測はね。音源を特定しないことには、コメントのしようがないよ」 前後にいる浄化師たちが、耳を傾けるのが分かる。萎んでいたレオノルの声に、張りがよみがえった。 「今言えるのは、ある程度の規則性を持っていることから、生物が立てているのではなく、金属でもないということ」 講義をするような口調だ。 「複数の音が発生しているなら、反響する間にいくつか減衰するし、どういう条件で共鳴するかは複雑系だね」 「いつもの調子に戻りましたね……?」 「まだ下ろさなくていいよ。ショーンの背中は大きくて安心するから」 「そりゃよかった」 たとえレオノルの中から恐怖が消えていたとしても、転ぶ心配がある以上、最奥部まで背負っていくつもりだったショーンは、困ったような笑みを微かに浮かべる。 「最奥部にはなにが待ち受けているのか。楽しみだね」 「危ないものでなければいいのですが」 「ああ、それは大丈夫。状況から見て、まだ凶暴な生物に踏み荒らされていないし、罠もないよ」 上機嫌にレオノルは保証し、ショーンの頭に顎をのせた。 合同探索組の最後尾を、『アリシア・ムーンライト』と『クリストフ・フォンシラー』は行く。 足元に気をつけて行きましょう、とアリシアが分岐口で言ったのが、ほんの十数秒前のことだ。 先頭のハンスは青ざめ、二番目のリチェルカーレはシリウスに脅かされ、三番目のレオノルは危ないからと背負われている。出口はさすがにまだ見えなかった。 おかしなものが住み着いていなければいい、と思っていたクリストフは、リチェルカーレに睨まれるシリウスに笑いを堪えたところで、気づく。 ランタンを持つアリシアが、珍しく笑っていた。 「リチェちゃんもサラちゃんも、レオ先生も、パートナーと仲良し、ですね……」 斜め後ろからの視線に気づいた彼女が、楽しそうな口調で言う。 「アリシアは怖くないの?」 「怖くはないです、よ? だって闇も、その眷属も、その気になればお友達になれると……、きゃっ!?」 転ばないよう、正面に向き直ったアリシアは、首筋に冷たいものが触れる感覚に思わず声を上げた。 「な、なにが……、クリス……っ!」 慌てて振り返れば、クリストフが満面の笑みを浮かべている。 アリシアの返答を意外に思った彼は、自身の手を彼女の首筋にあてたのだ。体温の低さを活用した悪戯だった。 「うん。なにがあるか分からないし、助けあって行こうか」 咎めるつもりだったアリシアは、自然な動作でクリストフに手を繋がれ、息をのむ。顔がぱっと熱くなって、文句は口の中で弾けてしまった。 きん、と高い音。ハンスが叫んで、リチェルカーレが驚いた。アリシアも前方の騒ぎにびっくりするが、すぐに我に返る。 「さっきの……。綺麗な、澄んだ音、でしたね……」 「そうだね。どっかで聞いた覚えがあるんだけど、なんだったかな……」 記憶に障害があるクリストフは、不快感に眉を寄せる。思い出せないというのは、案外、気持ち悪い。 「ここには、悪いものはいない、気が、します」 「あの音はむしろ、悪いものを祓ってくれそうだね」 調子をとり戻したらしいレオノルが、張りのある声で講義を始める。歩きながら、アリシアとクリストフもしばらくそれに聞き入った。 「あの、クリス……」 「うん?」 ちらりとクリストフを見て、アリシアは黙する。彼の手に自分の体温が移っているのか、冷たかったのが温かくなり始めていて、少し落ち着かない。 「この音、音楽みたい、ですね……」 しかしそれを伝えるのはためらわれて、アリシアは頬の赤さをさとられないことを祈りながら、そんなことを口にした。 視界が開けた。 細かった道は円形の最奥部に繋がっていた。小さな池が中央あたりにある。天井からしみ出した水滴がそこに落ち、ぴちゃん、きん、という例の音を奏でていた。 「綺麗!」 ぱっと表情を輝かせたリチェルカーレが、池に向かう。水底に青白く発光する石が埋まっており、おかげでランタンが不要なほど明るかった。 「シアちゃん、サラちゃん、レオノル先生、見て!」 はしゃぐ彼女に、シリウスは表情をやわらげた。 「本当。この石、なにかしら?」 「綺麗ですね……」 池の縁でサラが首を傾け、アリシアは感嘆の息をついた。 「水琴窟か」 「なるほど。やっとすっきりしたよ」 レオノルが呟き、クリストフが頷く。先に到着していた浄化師たちに挨拶していたショーンは、不安から脱し、不思議なものに興味津々のレオノルを見て一安心した。 「滑らないでくださいよ?」 「分かっているさ」 レオノルは肩をすくめる。 談笑する彼女たちを、パートナーたちは微笑ましく見ていた。 ● 分岐点で他の浄化師たちと別れた『エリィ・ブロッサム』は、意気揚々と暗く細い道を進む。 「ずいぶん楽しそうですね」 簡易地図を作成するため、紙とペンを持つ彼女に代わってランタン役を担っている『レイ・アクトリス』が首を傾けた。 よくぞ聞いてくれたとばかりに、エリィが大きく頷く。 「洞窟にはロマンがあると本で読みまシタ! 魔物か幽霊か……、なにが出てくるのか、とても楽しみデス!」 「やる気があるのはいいことですが、僕らの目的を忘れてはいませんよね?」 「も、もちろんデス!」 両手の筆記具を掲げ、エリィは何度も首を縦に振る。 (それにしても、幽霊も暗闇も平気とは) 「レディは、怖いものはないのですか?」 投げられた疑問に、エリィは堂々と応じた。 「ワタシは世界一の魔術師になるのですヨ! 恐れるものなどありませんトモ!」 「ほぉー……?」 実に悪戯心を煽られる口調だ。 「そういえば、こういう暗くてじめっとしたところは、アレも好きですよね」 「え、なんデス? 幽霊デスカ?」 だらだらとエリィが冷や汗をかき始めた。 レイは大げさなほど憂えた表情を浮かべる。 「いえ、幽霊よりもっと身近で、黒くて、すばしっこくて、カサカサ動く……。ああ、ちょうど貴女の後ろに」 「ひぃぃっ! 彼は嫌デスゥッ!」 絶叫したエリィが紙とペンを投げて走り出す。レイは反射的に筆記具を片手で受けとめた。 「いっだ!」 「エリィ、大丈夫ですか!?」 全速力で駆け出した彼女が、その勢いのまま、水たまりで転んだ。レイは驚き、足早にエリィに近づいて、助け起こす。 「まさかここまで驚くとは思わず……」 「レイさん、酷いデス!」 半泣きになっているエリィは少し濡れていたが、他はかすり傷を負った程度だった。安堵したレイは、立ち上がったエリィをハンカチで優しく拭く。 「すみません。でもどうやら、最深部が近いみたいですよ」 「なんですカ! もう騙されませんヨ!」 頬を膨らませながら歩き出したエリィは、すぐに表情を輝かせた。 ぴちゃん、きん、と不思議な音。 小さな池がある最深部は、青白く光っている。先に到着していた浄化師たちが、それぞれの反応で二人を迎えた。 「やはり水琴窟でしたか」 「すいきんくつ?」 「庭園装飾のひとつだったはずですが、それが自然にできたのであれば、素晴らしい発見ですよ」 「ナルホド、やはり洞窟にはロマンがつまっていたということデスネ! 宝石も調べてみたいデスガ……」 池の底には光の源である宝石が埋まっている。少し欠けているようだが、美しい石だった。 「同感ですが、今回はここまでにしておきましょう」 「そうですネ。走ったりこけたりで疲れたので、今日は諦めマス」 「本当にすみませんでした」 心から謝罪したレイに、許しマス、とエリィは笑みを向けた。 ● 狭い道を、縦に並んで歩く。先を行くのはランタンを持った『花咲・楓(はなさき・かえで)』だ。 そのすぐ後ろを、『アユカ・セイロウ』が簡易地図を書き記しつつ、ついていく。 「あ、お花!」 石の間から顔を覗かせる花を、アユカは備考として書き記した。ランタンがなければ自分の手も見えないほど暗いのだが、冒険気分のアユカはまるで恐れていない。 「うーん、見たことない花だね~。かーくん、知ってる?」 それどころか、マッピングを楽しんでいる。 「いえ、存じ上げません。しかしアユカさん、ずいぶんと落ち着いていますね。怖さなどないのですか?」 彼女が記入している間、二人分のランタンを持っている楓が問う。アユカは少し考えてから、肯定した。 「うん。大丈夫。わたし、暗いの全然平気だもの。蝙蝠とか出なければ平気だよ」 どうして暗いのが平気なのかは、本人にも分からない。失った記憶の手掛かりになるのかもしれないが、今はまだ不明だ。 ぴちゃん、きん、と心地よい音がする。 「綺麗な音が聞こえるね」 「水琴窟ですね。地形を利用し、水滴の音を反射させる仕組みです」 「へ~、水琴窟っていうんだ~! かーくん、物知りだね」 「故郷で一度、耳にしたことがあります」 「この洞窟がもし安全なら、いい観光地になるかも~」 地図の端に、アユカは水琴窟とその仕組みについて追記する。 楽しそうな彼女の様子に、楓は密かに心をなごませた。怯えもしない姿は、頼もしくすらある。 「よし、じゃあ進もう!」 筆記道具をしまったアユカが、元気よく立ち上がる。記入した簡易地図は、あとで他の浄化師たちと照らしあわせ、きちんとした地図として教団に提出するつもりだ。 「はい」 周囲に気を配りつつ、楓はアユカの分のランタンを渡し、 「……ん?」 音。水琴窟の水音ではない。 反射的にアユカが音源である天井に光を向け、凍りつく。暗闇に潜む生き物たちが、驚いたように一斉に飛んだ。 「きゃあっ!」 「アユカさん!」 羽ばたいた十数羽の蝙蝠に悲鳴を上げたアユカが、足を滑らせかける。楓は彼女を素早く抱きとめ、得物に手をかけた。 襲撃してくるようなら迎え撃つつもりだったが、普通の蝙蝠たちはばさばさとどこかに飛んで行く。間もなく、道には静寂が戻った。 「び、びっくりした~。かーくん、ありがとう」 「いえ。お怪我はありませんか?」 「平気だよ~」 はぁ、と安堵の息をつきながら、アユカは歩き出す。楓は咳払いをひとつして、後に続いた。 やがて最深部に到達する。 合流した浄化師たちが、それぞれに二人を迎えた。アユカは青白く幻想的な空間に目を輝かせる。 「綺麗だね、かーくん」 「そうですね」 光源である宝石が沈んでいる池の縁で、アユカは目を細める。楓はそんな彼女の横顔に、目を奪われていた。 ● 実はなにもないんだろうな、と『キリアン・ザジ』は思う。振り返れば、冒険気分で意気揚々と歩く『セアラ・オルコット』の腰についたランタンが揺れていた。 (まぁ、涼しいし) 外は厳しい残暑だが、洞窟内部、分岐のひとつであるこの道は、暗くて狭いものの、ひやりと涼しい。ぴちゃん、きん、と一定間隔で聞こえる音も、まぁ不快ではない。 「お嬢、足元に注意してくださいよ」 最初こそ慎重だったセアラの足どりは、すでに軽やかすぎるものになっていた。 「分かってる分かってる。大丈夫よ。キリーこそ前見て歩かないと転んじゃ、ひゃっ」 「言わんこっちゃない……」 「あはは……」 言った傍から転びかけたセアラを、キリアンは間一髪で支える。照れ笑いを浮かべたセアラは、気をとり直して、先ほどまでよりも注意深く歩き出した。 (最奥部までこの歩調、持たねぇだろうなぁ) 思いつつ、キリアンは一応、先頭を務める。 「ガキのころに聞いた話なんですがね」 「え?」 この雰囲気だ、怪談話でもしてやろうと、キリアンは口を開いた。 「鉱山で落盤がありまして。閉じこめられた鉱夫の足音が夜な夜な……」 ぴちゃん。 「そう、今聞こえてるみたいに……、やっぱなし。お嬢、この手の話は平気なんすねぇ」 平然と聞いているセアラに、男は肩をすくめる。洞窟探検を楽しんでいる少女は、そうだね、と頷いた。 「幽霊は怖くないなぁ。誰かに会いにきてるだけかもだし。ちょっと悲しいとは思うけど」 「そうですかい」 「それより蝙蝠とかヤモリとかいないのかな。いそうだよね?」 「幽霊と魔物はいそうにありやせんね」 「なにが出てきても退治してやるって、思ってたんだけどな」 どうやらこの洞窟は、暗いだけで平和らしい。 戦闘には向かない地形であるため、キリアンからすれば好都合だ。前情報になにを期待していたのか、セアラは少し物足りないようだった。 やがて、細長かった道が途切れる。 「わぁ……!」 分岐前に分かれた浄化師たちが、二人を出迎えた。 セアラは青白い光に満たされた最奥部に、目を輝かせる。 小さな池に、天井から染み出た水が落ちた。ぴちゃん、きん、と例の音がする。 「なんだ、音が反響してただけか」 「こんなこったろうと思ってましたわ」 「ちょっと残念だけど、これはこれで素敵だね!」 「そもそも、もとの情報が……、うおっ!?」 降ってきた水滴が首筋に直撃し、キリアンは思わず間の抜けた声を上げる。きょとんとしたセアラは、弾けるように笑い出した。 「キリー、すごい声だった! 実は緊張してた?」 「笑いすぎっすよ、お嬢。驚いただけでしょーが。ほら、地図の照合、始めましょーや!」 二人のやりとりを楽しく眺めていた浄化師たちが、池の縁に集合する。 青い水琴窟の調査は、無事に終了した。
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*** 活躍者 *** |
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[18] レイ・アクトリス 2018/09/11-14:13
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[17] アユカ・セイロウ 2018/09/11-05:36
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[16] キリアン・ザジ 2018/09/11-02:11 | ||
[15] ショーン・ハイド 2018/09/10-22:22 | ||
[14] 灰・土方 2018/09/09-23:58 | ||
[13] リチェルカーレ・リモージュ 2018/09/09-22:50
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[12] アリシア・ムーンライト 2018/09/09-22:02 | ||
[11] サラ・ニードリヒ 2018/09/09-16:59
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[10] ショーン・ハイド 2018/09/09-15:21
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[9] リチェルカーレ・リモージュ 2018/09/09-15:14
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[8] ハンス=ゲルト・ネッセルローデ 2018/09/09-07:36
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[7] エリィ・ブロッサム 2018/09/09-07:07
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[6] ショーン・ハイド 2018/09/09-00:56 | ||
[5] アリシア・ムーンライト 2018/09/09-00:34
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[4] 灯・袋野 2018/09/08-19:19 | ||
[3] セアラ・オルコット 2018/09/08-18:28 | ||
[2] 灰・土方 2018/09/08-11:51
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