~ プロローグ ~ |
例えば、朝早くに目が覚めた時。寝具の温もりを名残惜しく思うようになっていた、とか。 |
~ 解説 ~ |
小休止・整理的エピソードです。個別描写を想定しております。 |

~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは。とんでもない夏が終わりそうなのでウキウキしている月村です。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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大変です!それなりに食べ歩いてるつもりでしたが まだ堪能していない夏のケーキがこんなに沢山! 駄目ですー、いつでも食べれる訳じゃないんですー! 来年まで待たないといけなかったり、来年は同じケーキじゃなかったりするんですー! グレン、次はあそこです! あのお店は明日で夏メニューが終わってしまうらしいんです、ダッシュですよー! はっ、あそこの柑橘のチーズケーキ今年中にあと一つは食べておきたいですっ! メロンのタルトもそういえば売り切ればかりでまだ買えてませんでした! ところでグレン、明日から色んなお店で秋の新作ケーキが出るんですけどぉ…… はい!約束です! またグレンと一緒におでかけ出来るの、楽しみにしてますね! |
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目的 灰に見合うお嫁さん探し 真の目的・勘違い発覚(最重要) 灰 好みの相手ですか? …凛とした強さと気高さ、少しばかりお茶目な人でしょうか(照 灯 ほぉ 灰 灯さんのことなんですが(てれ 灯 いや、俺ぁ女の好みを聞いてる 灰 え 熱い夏、出会いはなかった 灰に出会いをすすめる灯 灰 なんでいきなり…僕たち夫婦ですよね? 灯 互いに生存処置だからな。長い人生結婚二回してもいいだろ 灰 最後の番と言いましたが 灯 ホロ、義務で生きることもない 灰(生存処置と言ったのは互いにだ 結婚しても恋愛にもなってない 好きも愛してるも伝えてない(大変重要なことを思い出した) エントランスで出会いや見合い系指令を探す 受付から浄化師の関係について教えられ勘違い発覚 |
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テーマ・契約の思い出 ※祓魔人の心情・言動 あれはやたら暑い夏の日だった… 祓魔人と喰人って運命の相手って感じじゃん? 男女ペア多いって聞いたし さぞかし可愛い娘と契約できるだろうと思ってさ いや俺彼女いるけど 逆に彼女の為に早死にしたくねぇし ある意味、堂々と別の娘と付き合うチャンスって言うかさぁ なぜ…こうなるのか…(通りすがりの野良猫相手にさめざめ泣く 秋への抱負…だと? 契約のやり直しを要求する(きっぱり じゃなきゃ一人の祓魔人に二人喰人契約できるようにしてよ! あいつは仕事の相棒と割り切るから! なんで俺あいつとしか適合しねえんだよ! しかも愛を育むとか、アホか!(泣 秋に美人教団員と合コンイベントとかないかなぁ… |
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夕暮れ 指令の帰路の途中 夏も終わりか ふとした言葉にヨナが目線のみこちらへ向ける 浄化師契約してから半年 最初こそ優等生然とした少女だと思っていたが その実無鉄砲ですぐ意地をはり、それこそ聞き分けのない子供のような所もある (何考えてるか分からないよりは幾ばくかマシか しかし彼女自身への無頓着さが目に余るようになってから此方 多少なり口を挟むようになったもののいまいち理解は得られず、頑なだ 目線を送ってくる相棒に頭を掻きながら パートナーとは何だろうな そんな言葉を送る 急になんです? …浄化師になる為の必要不可欠な相手です 訝しげに、しかし律儀な返答をするヨナに苦笑い ならもう少し大事に扱ってくれてもいいと思うのだが |
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【目的】 喰人に季節の移り変わりを見て貰いたい 【行動】 牛乳パックの表面を揉み、薄く剥ぐ ツルツルの面に押し花を置き、トレーシングペーパーを乗せる ガーゼを敷いて中温でアイロンをかける ガーゼをゆっくりはがす 余分な部分をカットして穴あけパンチで穴を開ける リボンをつける 【心情】 ミカゲちゃん、余り紅葉って見たこと無いの? なら、分かりやすいように栞を作って見せてあげよう 秋にまた紅葉狩りに行って色の違いとか見たらきっと面白いよ 多分、匂いも紅葉すると甘い匂いになったりするから楽しいと思うよ いちょうは…もしかしたら独特の匂いかもしれないけど それを知るのも楽しいよね 綺麗に出来たら他の教団の皆にも一緒に配りに行こうね |
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~ リザルトノベル ~ |
●移ろう色を閉じ込めて 少し和らいだとはいえ、それなりに強い日射しの照りつける並木道。見上げれば生い茂る枝葉も少し勢いを落とし、その色を濃く、厚くしていた。視線を落とせば、枝から離れてしまった気の早い葉もちらほらと見つかる。 「そろそろ紅葉の季節かあ」 散歩していた祓魔人、『ラシャ・アイオライト』が呟きをこぼすと、隣を歩きながら舞い落ちる葉を目で追っていた喰人の『ミカゲ・ユウヤ』がきょとんとこちらを見上げた。 「こうようって何かにゃ?」 「ミカゲちゃん、紅葉って見たことないの?」 ミカゲはふむむと考えたが、すぐに「全く分からんにゃ!」と無邪気に声をあげた。そうか。まだこの少女は秋を、季節の移り変わりをよく知らないのだ。少し考えて、ラシャはひとつ指を立てた。 「なら、分かりやすいように栞を作って見せてあげよう」 ラシャの言葉を聞いて、なにやら面白いことが始まりそうだという期待にミカゲは瞳を輝かせた。やると決まれば話は早い。昼下がりの公園を訪れ、綺麗な葉っぱを選んで集めていく。綺麗な葉っぱを捜して拾い集めるミカゲの尻尾が機嫌よく揺れていた。 充分に葉が集まれば、次は押し葉作りだ。 新聞の内側に柔らかなティッシュをのせ、葉を丁寧に並べる。ミカゲがそれらを並べ終わったところで、ラシャはまたティッシュ、新聞を重ねて辞書に挟んだ。これで、数日待てば押し葉の完成だ。 そして、数日後。たたまれたティッシュを慎重につまみ上げて中を覗き込んだミカゲが声をあげた。 「ちょっと乾いたにゃ。面白いにゃー!」 挟む前とは様相を変えた押し葉にはしゃぐミカゲに、ラシャは微笑む。この分なら、秋の紅葉もきっと気に入ってくれるだろう。季節の移り変わりを見て貰いたい、という思いは叶いそうだ。 「秋にまた紅葉狩りに行って色の違いとか見たらきっと面白いよ」 「えっと、緑色の葉っぱなのに変わるのかにゃ?」 妙な方向に変色した葉を取り除きながら、ラシャは答える。色が変わると言っても、こういうのではないのだ。 「そうそう。多分、匂いも甘い匂いになったりするし。いちょうは……もしかしたら独特の匂いかもしれないけど、それを知るのも楽しいよね」 期待にきらきらと目を輝かせるミカゲに笑いかけて、ラシャは栞を作る準備に取り掛かった。牛乳パックとガーゼ、アイロンといった家庭にあるもので出来る作り方だ。トレーシングペーパーは買ってくる必要があったが、押し葉になるのを待つ間に用意は済んでいる。二人で考えながら押し葉を配置し、ガーゼを敷いてアイロンをかけていく。ゆっくりと丁寧にガーゼを剥がせば、立派にラミネートされた押し葉が姿を現した。 「これで完成かにゃ」 「あとは余分な部分をカットして、リボンをつけたら完成だね。何色がいいかな」 細いリボンは既に数種類の色を用意している。こういったものを選ぶのも工作のちょっとした楽しみの一つだ。 「葉っぱの色に合わせるなら緑とかかにゃあ……うーん」 悩む彼女の後姿を見ながら、ラシャは押し葉の余白部分を切り落とし、穴あけパンチでリボンを通す穴を開けていく。子気味いい音にあわせ、高く結われた髪が揺れていた。そろそろ全てに穴が開こうかというとき、たくさんあるんだからそれぞれいくつかの色を使えばいいんだにゃ、という声が聞こえてきた。確かにそれもそうだ。 「そうだね。綺麗に出来たし、色違いにして他の教団の皆にも一緒に配りに行こうか」 「にゃ!」 色とりどりの栞から自分の分を取り、残りを教団に配りにいく。ミカゲのは首輪の色にあわせた赤、ラシャのは髪色にあわせた艶やかな灰色だ。 「綺麗な葉っぱ一杯集めて皆にもこうようお裾分けにゃー!」 バスケットに入れた栞を抱えたミカゲの足取りは軽やかだ。元気なのは素晴らしいが、ちょっと勘違いしている。それを教えると彼女は「え、まだこうようしてない?」と金色の目をきょとんと開いた。だが、しばらく考えてから、「いいのー!」と目を細めて笑う。 「にゃーはこうやって何か作るの初めてだから楽しければそれでいいのにゃー!」 そう言った彼女の尻尾が柔らかくしたしたとラシャの腕を叩いていた。 「よかった。じゃ、行こうか」 かくして二人は栞を配りにいく。秋の訪れを、夏の残響を告げるべくして。 ●夏の思い出、出会いと契約 ちりんと鈴の音を響かせて、和装の少女が駆け寄ってきた。女の子が大好きな事に定評がある『レオン・フレイムソード』(『アルフレッド・ウォーグレイヴ』談)が差し出されたものに目を落とせば、押し葉で作った手作りの栞がそこにあった。隣の少年が言うに、季節のお裾分け、というやつだそうだ。 「夏の思い出、ねえ……」 元気よく走り去った少女の後姿を眺めて呟く。時がたてば素敵な女性になるだろうという予感があった。それに引き換え隣のアンデッドは成長しない。したとしても、男であることは変わらないだろう。 そう、この男。アンデッドの喰人。 夏の思い出など、振り返ってみるまでもない。一番大きい夏のイベントは悲しいかな、この男との出会いだった。やたら暑い夏の日だったと記憶している。 引き合わされるその時まで、さぞかし可愛い娘と契約できるだろう、と楽しみにしていたのだ。祓魔人と喰人という組み合わせには「運命の相手」とでもいうような印象を持っていたし、男女ペアが多いとも聞いていた。だから、引き合わされた相手が男で、そいつと愛をはぐくまなければならないらしいとなったときは「アホか」と思ったものだ。 (いや俺彼女いるけど。逆に彼女の為に早死にしたくねぇし……ある意味、堂々と別の娘と付き合うチャンスって言うかさぁ……それが……なぜ……こうなるのか……」 悲嘆はいつのまにか声になり、半泣きの愚痴になっていた。ちなみに聞かされているのは通りすがりの愛らしき野良猫で、アルフレッドは後ろの方でそれを眺めている。機嫌を悪くしてもおかしくない言われようだが、そんな素振りは微塵もない。よく表情が変わって面白いな、程度の感想だ。全く、飽きそうにない。 アルフレッドにとっても、レオンとの出会いは極めて印象強いものだった。 アンデッドとして蘇った彼は、なぜ、今この世界に自分が存在しているのかを知らない。この世に執着した理由は見失い、それを探ることも躊躇われた。僅かに残る記憶が陰惨すぎるのだ。ただ酷い目に遭ったという印象だけが残っている。 きっと、忘れたい記憶だったのだろう。 そんな空虚な、この左胸に空いた穴のような虚ろな存在だったとしても、こうして在るからには何かの意味があるのだろう。もう一度死に直すのも無駄なことだ──彼と引き合わされたのはそんな時だった。 「今日から貴方の剣になろう」と言った時、傭兵だったという彼が何と言ったのか、今でも鮮明に思い出せる。 「武器くらい自分で振るえる、お前は適当に自分を護れ」だ。 それを聞いてどんな感情があったか、今のレオンには想像もつかないだろう。猫に逃げられ、肩を落として立ち上がっている様子を見ながら思う。想像などつかなくていい、と。 猫に逃げられた後、彼らは当初の予定通り教団を訪れていた。仕事があるかどうかを確認しに来たのだ。そこで受付の女性が同じ栞を持っている事にレオンが目敏く気づく。 「あれ、お姉さん。その栞は貰い物?」 「そうなんですよ。折角だから今年は読書の秋にしようかな」 彼女はひらひらと栞を指先で振ってから「お二人はどんな秋にするとかそういう抱負ってあります?」と水を向けた。 「契約のやり直しを要求する」 レオンはきっぱりと答えた。それは無理そうだ、と告げられてもなお食い下がる。もはや半泣きの勢いであった。 「じゃなきゃ一人の祓魔人に二人喰人契約できるようにしてよ! あいつは仕事の相棒と割り切るから!」 「その方がまだ望みはあるかもしれません」 「マジで!?」食いつくレオン。 「でも、可能性があっても実装……おほん、実現は遠い先の話でしょうね」 「そうかぁ……」 受付の女性は元気をなくしたレオンからアルフレッドに視線を移した。 「そういえば、あなたは秋の抱負とかってあるんですか?」 「抱負か」 少し考え、彼は口の端を吊り上げた。 「レオンに恋人と認めてもらう事かな」 際どい冗談に、レオンは期待どおりの表情を見せ、「秋に美人教団員と合コンイベントとかないかなぁ」と聞こえよがしにつぶやくのだった。 ●折り目に勘違いが発覚した話 「合コンとか、お見合い系の指令ですか。今のところは出ていませんね」 教団受付の女性は手元の書類を確認して答えた。契約のやり直しを要求した彼に対しての答えではない。その一日前のこと、受付を仲良く訪れた『灯・袋野』と『灰・土方』に対しての答えである。 「そうですか。今は出ていないんですね」 答えた灰はどこか安堵していた。声にそれが出ていたかどうかは、自分ではわからない。 それではどうしてそんな指令があるかどうか確認しに来たのだろうか。話は昨晩の夕食時まで遡る。 食事をともにしているときに、灯に好みのタイプについて聞かれたのが発端だった。照れくささを覚えつつ、「凛とした強さと気高さ、少しばかりお茶目な人でしょうか」と灰は答えた。勿論目の前にいる人のことである。 「ほぉ」 「まぁ灯さんの事なんですが」 照れながらも思い切って言った台詞だったが、灯はあっさり「いや、俺ぁ女の好みを聞いてる」と返した。 「えっ」 フリーズする灰をよそに灯は語る。熱い夏も終わってしまったが、特にこれといった出会いもなかった。秋に向けて、そういったものを積極的に探してみてもいいのではないか、と。 「なんでいきなり……僕たち夫婦ですよね?」 「互いに生存処置だからな。長い人生結婚二回してもいいだろ」 「最後の番と言いましたが」 「ホロ」 食い下がる灰に、灯は諭すように言った。 「義務で生きることもない」 その穏やかな瞳を見て、思い出した。生存処置と言ったのはお互いの事だ。結婚したとはいえ、関係の上では恋愛にもなっていないのだ。好きとも愛しているとも、正面きっては伝えていない。いろいろあったので忘れていたが、大事なことだった。 その衝撃も覚めやらぬまま、今に至るという訳だ。 「まあ、そういう依頼が入り次第連絡することも出来ますが……どういう事情なのかお聞きしても?」 ちらりと灰を伺ってから受付の女性はそう尋ねた。そんなに微妙な顔をしていただろうか。慌てて顔を引き締める。 「ああ。灰に嫁を見つけてやりたくてな。夫婦になったとはいえ、長い人生だし」 「どういう状況なんですかそれ?」 教団職員はかなり混乱したようだった。何度か二人を見比べて、「えっと、誰と誰が結婚しているんですか?」などと聞き始める始末だ。大丈夫か、と思いながら「僕たちですけど」と答える。 「浄化師として登録されているでしょう」 「えーっと……あの、もしかして勘違いされているのかもしれませんが」 受付係はおずおずと切り出した。 「浄化師の契約は婚姻とは違いますよ?」 「えっ」 「なんと」 二人は同時に声をあげ、顔を見合わせた。大丈夫じゃないのはこちら側だったようだ。 「あなたがたに契約の説明をした者にはみっちり再教育をしておきます」と前置きしてから彼女は説明した。浄化師のペアは夫婦ではなく、あくまでも生存のための、ビジネス的な繋がりである事。勿論、信頼関係が成立していることは重要だ。元々恋仲でペアを組んでいたり、気の置けない存在同士でペアを組んでいたりなど、人間関係を尊重して契約を行うことも少なくない。それでも、契約の成立は人間関係の成立を意味するものではないという事を。 「あの……依頼の件ですが、保留にしときます?」 「「保留で」」 説明を終え、彼女はおずおずと言った。二人ともよほどの表情だったのだろう。自分でもよくわかっている。礼を言って二人は早々に退散した。 「お互い、最低限の関わり方でいいんですね」 近くの喫茶店で休憩を入れながら灰が切り出した。どっと疲れているのを自覚する。 「どうしてこんな勘違いしちまったんだ。自分の間抜けが情けないな」 「じゃあ、今までのことは」 「村にいたころみたいに家族や部下みたいな付き合いに戻るか。都合いいだろう」 灯の台詞に、灰は返事が出来なかった。村にいたころみたいに。不意に、雪に閉ざされた故郷の夕空を思い出す。秋空の色はこの街でも村でも変わらない。あれと同じように、同じ関係に自分は、彼は戻りたいのだろうか。そもそも戻れるのだろうか。 まだ、答えを言葉にして告げることはできそうもない。彼には時間が必要だ。 ●気持ちの変化を振り返る その遠い夕暮れの空を背に帰還したエクソシストの集団があった。指令をこなして帰ってきたのだ。淡くて寂しいオレンジ色の光が街全体を染め上げていた。契約してから半年ほど経った頃のことだ。これで季節を二つ終えた事になるだろうか。集団の一人だった『ベルトルド・レーヴェ』は街の景色を眺め、「夏も終わりか」と言葉を漏らした。 ふとした呟きに、契約相手である『ヨナ・ミューエ』が視線だけをこちらに寄越した。この視線にもだんだん馴染んで来たなと思う。 契約した最初こそ優等生然とした少女だと思っていた。だがその実、無鉄砲ですぐ意地をはる事に気づいた。最近になって見た目どおりの年端もいかぬ少女ではないと知ったが、それでも聞き分けの無い子供のようだと思うときも多い。 (何考えてるか分からないよりは幾ばくかマシか……と言ってもな) 「パートナーとは何だろうな」 ベルトルドは頭を掻きながら、そんな言葉を投げていた。ヨナは訝しげに「急になんです?」と返す。無理も無いことだ。 契約してから半年で、受ける印象もだいぶ変わってきた。その中で、彼女自身への無頓着さが目に余るようになってきていたのだ。身の安全に対する優先順位が低いのだろうか。多少なりとも口を挟むようになったもののいまいち理解は得られていない。その頑なさを少し持て余した末に零れ落ちた台詞だった。秋のせいかもしれない。 「……浄化師になる為の必要不可欠な相手です」 静かに彼女が答えた。ベルトルドが何も言わない間、考えていたらしい。頑なではあるものの律儀に返答するヨナに苦笑いを浮かべる。このビジネスライクさにもだんだんと慣れてきてしまった。 「ならもう少し大事に扱ってくれてもいいと思うのだが」 「それは……」 言葉が途切れる。何か言葉を捜しているようにも見えたので、ベルトルドは黙って続きを待った。 「ベルトルドさんは大体の事を一人でやってしまうので……私があれこれする必要もないのかと……」 少し伏せられた瞳に途切れ気味の言葉。遠慮しているようにも不満を述べているようにも聞こえた。確かにわが身を振り返ってみればそうだったかもしれない。否定も出来ず、「意外と買い被っているんだな」と感想を漏らす。 「確かに危なっかしくて任せられない事は多いが、こう……」 「もう、またお小言」 ヨナは少しうんざりしたような声でベルトルドの台詞を遮ってしまった。それこそ子供っぽいというか、外見年齢相応に見える……と言ったら彼女は機嫌を損ねるだろうか。 「この話題は俺達にとっての命綱だろう」 そう答えるとヨナはふいっと前に視線を戻してしまった。この調子だと言ってしまっても同じ事だったかもしれない。視線を落とすと二人の影が長く伸びていた。角度の関係で自分たち本人よりも寄り添っているように見える、なんて事を思っていると、小さな声が耳に飛び込んできた。少し、声が揺れている。 「……私に何が足りないかは理解してるつもりです。ただ」 前を向かれてしまった以上、表情は伺えない。声の揺れだけがその感情のゆらぎを知る手がかりだった。これでも少し珍しいことだと思う。だからベルトルドは静かに続きを促した。 「ただ?」 「大事にして欲しいと言うなら、もう少しだけ……信用を置いてはくれませんか」 今までにはない反応だった。控えめとはいえ、こんな要求を出されたのも初めてかもしれない。正直に言えば、まずは驚いた。そして自分が少し嬉しさを覚えている事に気づいた。これで嬉しいと思うあたり、少し自分も変化してきているのだろうか。季節が移り変わるように、街が夕日に表情を変えるように。 「そうか……」 そうですよ、と言いたげに振り向いたヨナの頭に手を伸ばす。丁度いい高さだ。 「確かにそうだな」 ベルトルドはヨナの頭を優しく軽く撫でていた。振り払われるだろうか、と思ったが幸いにもそんなことはなかった。黒い手の下で、されるがままの柔らかな金髪が夕日に赤く染められていた。髪の下の表情のほうは、まだ、伺えなかったが。 ●ケーキショーケースの夏と秋 町並みが季節や時間によって表情を変えるように、ショーケースの中身も季節によって移りかわる。一番わかりやすいのは洋服売り場だが、それ以外の店も商品を変えていくものだ。特に月の変わり目はそれがわかりやすい。街を歩いていてふとケーキ屋を覗き込んだ『ニーナ・ルアルディ』は悲鳴のような叫びをあげた。 「大変です! それなりに食べ歩いてるつもりでしたがまだ堪能していない夏のケーキがこんなに沢山!」 そうして彼女は店内に勢いよく飛び込もうとして、パートナーの『グレン・カーヴェル』に引き止められた。襟首を引っつかむ勢いである。代々の従者だが、そこに遠慮はない。ニーナの希望でもあるから問題はないのである。 「ケーキぐらいいつでも食えるだろお前、別にそんな急がなくても……」 止められてもニーナは猛然と反駁する。 「駄目ですー、いつでも食べれる訳じゃないんですー! 来年まで待たないといけなかったり、来年は同じケーキじゃなかったりするんですー!」 ちなみにこの台詞の間もニーナは静止を逃れるべくぱたぱたと動き続けている。どうやら行きたい店は複数あるらしい。 「あぁぁ! もう! 分かった! 時間作ってやるから、一人で飛び出して行こうとするんじゃねえ!」 グレンはいつものように早々に折れる羽目になった。それでも、これだけは聞いてほしいと告げる。 「そこで大人しく座ってろ、いいな!」 勿論、聞き届けられることはなかった。切実な願いは叶わないものと相場が決まっている。 「グレン、次はあそこです! あのお店は明日で夏メニューが終わってしまうらしいんです、食べ終わったらダッシュですよー!」 「お前あれだけ食った後でよく動けるな……」 いくつかケーキを胃袋に収めた後でも、ニーナの勢いは留まらなかった。毎回こうではないとはいえ、どうして細身さを保てるのだろう。動くからなんだろうか。 「はっ、あそこの柑橘のチーズケーキ今年中にあと一つは食べておきたいですっ!」 また別の店を思い出したらしいニーナががたんと立ち上がる。連鎖的に思い出しているのだろう。もはやちょっとした恐慌状態である。 「メロンのタルトもそういえば売り切ればかりでまだ買えてませんでした!」 「とりあえず落ち着け、また転ぶぞ」 「うっ……」 少し動きが収まったところで紅茶のお代わりを淹れてやる。 「はいはい、今日一日最後まで付き合ってやるから。とりあえずお前は一旦そこに座れ」 今度は叶った。その隙にグレンは街のガイドマップとメモ帳を引っ張り出して広げる。 「……で、お前の行きたい場所はどこだ? 効率よく回れるルート考えてやるから、その間お前は少し休んでろ」 既にあげられた二軒を探し、地図に印をつける。二軒で済む訳がないのは重々承知していた。 「そこの他にも回りたい店、あるんだろ?」 水を向ければ彼女はぱあっと顔を輝かせ、記憶を辿って指折り数え始めた。 「はい! えっと、あの店のあれと、それから……」 結局メモは一枚では収まらなかった。どうして洒落たケーキの名前は長いのだろうか。 「ごちそうさまでした!」 グレンの考えた効率のいいルートを巡り、メモに書かれていなかったケーキもいくつか増やして。どうにか彼らは目的を果たした。夏のケーキを思う存分堪能しきったニーナは幸せ一杯の表情である。まあ、散々歩き回った甲斐はあったと言えよう。そう思って穏やかにコーヒーを口にしていると、ニーナがおずおずと呼びかけてきた。 「ところでグレン」 視線を向ければ彼女は上目遣いでこちらを見ていた。少し嫌な予感がする。 「うん?」 「明日から色んなお店で秋の新作ケーキが出るんですけどぉ……」 「流石に明日もは勘弁」 ニーナほどの量ではないがそれなりに一緒に食べた後である。明日は甘くないものが食べたかった。見ると彼女は少ししゅんとした顔をしていた。この顔は苦手だ。 「……明日は無理だが、必ず時間の調整はしてやるから。だからそれまで我慢しておけ、な。」 付け加えると、ぱっと彼女は顔を輝かせた。 「はい! 約束です! またグレンと一緒におでかけ出来るの、楽しみにしてますね!」 そのきらきらした笑顔を見て、少し思う。季節は変わっても、この表情は変わらずに在るといい。
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*** 活躍者 *** |
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[6] ミカゲ・ユウヤ 2018/09/23-22:55
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[5] ニーナ・ルアルディ 2018/09/23-21:36
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[4] ベルトルド・レーヴェ 2018/09/23-18:24
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[3] レオン・フレイムソード 2018/09/23-16:28 | ||
[2] 灯・袋野 2018/09/22-08:10 |