~ プロローグ ~ |
枯葉によく似た色の、美しいドラゴンが憂いの息をつく。 |
~ 解説 ~ |
竜の渓谷、ニーベルンゲンの草原にて、死したドラゴンを弔う指令です。 |

~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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◆唯月は絵を、瞬は歌を贈る ・唯月の絵はグレーテルと翡翠のドラゴンを描いた水彩画 ・翡翠のドラゴンとグレーテルの特徴は 写真か何かで事前に協会から聞く 唯「グレーテルさんはどんなドラゴンだったんでしょう… きっとカッコよくて素敵な方でしたよね…!」 ・瞬の歌は人々が持つドラゴン物語的なオペラ ・それは勇ましく気高いドラゴンを謳ったもの 瞬「折角だし、別れの曲は良くないよねぇ 人だとよくその人が好きな曲を葬式で流すなんて所もあるけど 今回は人が語るドラゴン物語の一曲を歌おうかな〜!」 ◆手向ける花束 ・悲しい意味ではなく唯月のデザイン力で色とりどりの花束を 唯「あなたが生まれ変わったら あなたの望むヒトでありますように…」 |
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贈る品 死人送りの蝋燭 ペンタスの花の絵 底に竜の名 酒 踊り 故郷は鳥葬 灯 故郷では死んだら鳥に食わせたな。空へ、魂が何者も縛られないように。佳く生きて流れる。故郷みたいに踊るか 灰 僕はいつも護衛で、わぁ! 灯 楽しく踊れ 太陽がまぶしい 優しい草木 生命に溢れて 目が眩んで涙が滲む 笑う同胞達が浮かんで消える 灰から灯にキス 灰 袋井灯さん、流転まで僕と生存のため伴侶でいてください 世界は流転すると貴方が教えてくれた この生の意味も残すものもわからないけど生きて得ます 灰は笑顔で告げる 灰→竜へ 爺は一度死んで蘇りまた死ぬ存在 意味があるのか 生者は惜しんで 記憶し忘却する 竜が友の心を汲んだように 何かは残る 世界は流転する 雪が溶けて春になる様 |
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こんなにも人を好きになってくれるドラゴンがいたなんて いつか会ってみたかったわ 依頼主のドラゴンさんにぺこりと挨拶 はじめまして リチェルカーレと言います パートナーの彼はシリウス どうぞよろしくお願いします 顔をしかめているシリウスに にこにこと 一生懸命作ったものなら 気持ちは伝わるわ 苦戦する彼の手伝い チューベローズ カモミール ラベンダー…とても素敵ね わたしからも? じゃあレンゲとタンポポを 依頼主の花も入れた色取り取りの花輪に ぱっと笑顔で彼とドラゴンを見上げる わたしからは歌を送らせてください 明るい歌… じゃあ、空と風の歌を 翼を持つわたしたちの大きな友人へ あなたが向けてくれた親愛に感謝を その想いに相応しい 人でありたい |
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そのドラゴンさんは人間を好きでいてくれたんですね…ありがとうございます。 そんなドラゴンさんがいてくれたこととても嬉しく思います。 そしてそのドラゴンさんを弔う機会を下さったドラゴンさんにも感謝を… 精一杯弔わせていただきますね…。 私はあまり器用ではないので花束しか作れませんでしたが…ノグリエさんは花冠を作ってくださったんですよ。 ふふ、綺麗な花冠でしょう? 私からは歌を捧げます。 歌は本当に沢山あります。喜びの歌、悲しみの歌。愛の歌…そして弔いの歌。 その中から今この時に沿った歌を… どうか安らかに。 この機会をくれた慈しみ深きドラゴンさんにも私たち人間のこの弔いに満足してくれたら嬉しいです。 |
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◆シュリ ロウハ、人の喜びって何かしら ドラゴンが憧れる人の美しさ…わたしには、まだあまり実感できないけど わたし、物語を書くわ あまり時間がないから、壮大なものは書けないけど でも、わたしが今まで生きてきて、人で良かったって思ったこと、できるだけ書き記すわ ロウハ、あなたの思う人の喜びも教えて 小さな帳面に記した物語を、ネリネの花束と一緒に弔いとして渡す 人間になったグレーテルさんと、いつか会えるといいな ◆ロウハ 人になりたかったドラゴン…か そうだな、俺は人の姿に生まれて良かったって思ってる お嬢が物語を書く手伝いをするぜ 人の世界のことは、お嬢よりは知ってるつもりだ ネリネか…「また会う日まで」って意味だな |
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あおい: マヤ(人形)を操って祈りの言葉を。 仏頂面の私より可愛らしいマヤの方が明るく聞こえるだろう ……でも話すのは私なのよね ダメだ緊張して …イ、イザークさん!? さすがにその声でその喋り方は止めて下さい 「やめてやめて!私そんな声じゃないもの!」 負けないよう声をだしてマヤを操作し鎮魂歌を歌う 本来用意していた祈りの言葉は頭から吹き飛んでしまったけれど 教団と人に連れ添ってくれた彼に、自分の言葉で「感謝の言葉」を。 「長い間本当にお疲れさま また来年も花冠作ってあげる、貴方を忘れる事がないように 人を好きでいてくれてありがとう!……ございます」 …疲れました、こんなぐだぐだでグレーテルさんの弔いになるでしょうか? |
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※アドリブ歓迎します 君が逝く時は、僕も一緒だから約束はできないな。 でもこれだけは言える。天国があるなら、そこで君を幸せにするんだって。 (ララエルの言葉に) いや、僕が先だよ。 僕が先に逝くんだってば! このわからず屋! ぜえぜえ、はあはあ… 喧嘩をしていても仕方ないよね…以前、二人で最期まで生きようと決めたんだから。 そろそろ初めようか。グレーテルの為の 楽しい音楽会を。 (バイオリンを用意して、小気味良い楽しげな音楽を奏でる(楽器スキル3) グレーテル…貴方は確かにヒトだったよ。 |
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雲羽 使用 楽器 歌 どーもこんにちは翡翠色のドラゴンさん♪ 本物のドラゴンと会えるなんて光栄の極みだね 僕らが披露するのは人が作りし音の世界 とくとご覧あれ♪ 楽器を変えながら奏で歌う この楽器は優しいよ この楽器は激しいぞ 楽器は言葉の代弁者 天まで届く言葉の階 弔う言葉よ高らかに 楽器を置き さてさてここらでお手を拝借 これらの楽器が無くともこの身一つで奏でられるもの さあさあドラゴンさんもご一緒に 両手を打ち付けパンパンパン 足を地面にタンタンタン 僕にしか出せぬ音 君にしか出せぬ音 声を張り上げハッハッハッ これぞ人の笑いの基本の音さ 皆で奏で笑えばホラ楽しい♪ 人の特徴は悲しみも喜びも皆で共有する事 これで悼む心も楽しむ心も共有さ♪ |
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~ リザルトノベル ~ |
● 「どーもこんにちは、翡翠色のドラゴンさん。本物のドラゴンと会えるなんて、光栄の極みだねっ」 弾んだ声で『空詩・雲羽』は翡翠色の竜に挨拶し、芝居がかった仕草で一礼する。その斜め後ろで『ライラ・フレイア』がそっと頭を下げた。 「よくきた、ヒトの子らよ」 柔らかく目を細めた竜に、ライラが一歩進み出た。 「私たちからの弔いの品です。これと」 片腕に持った花束を、顔を下ろした竜に掲げたライラは、ちらりと雲羽に視線を向けた。頷いた男は、手にしたリュートをゆっくりと奏で始める。 「僕らが披露するのは、人が作りし音の世界」 竜の柱のような足元にライラは花束を置く。美しい花弁の間には、竜の横顔や翼をかたどったクッキーが添えられていた。 死した竜の名前の元となった少年が登場する物語で重要な舞台となる、お菓子の家にあやかったのだ。それに、香ばしく焼けたクッキーの色は枯葉の色によく似ていた。 「とくとご覧あれ」 リュートの音色が平原の空気を揺らす。明るい音色に翡翠色の竜は感嘆の息をついた。 「この楽器は優しいよ。この楽器は激しいぞ」 空羽が奏でる楽器がリュートから和太鼓に変わる。続いて小型のハープ。ライラはさらに次の楽器の用意をしている。 一体いくつ持ってきたのかと、竜は少し驚いて、穏やかに笑った。 「楽器は言葉の代弁者。天まで届く言葉の階」 奏で、歌う。楽器をすべて空羽に渡したライラが、優雅な足どりで踊り出す。 「弔う言葉よ高らかに」 そこに死の暗さなどどこにもなく、ただ風に舞い上がる花弁のような美しさがあふれていた。 楽器を置いた雲羽が笑みを深める。ライラは一度、踊りをやめてやや乱れている息を整えた。 「さてさてここらでお手を拝借。これらの楽器がなくとも、この身ひとつで奏でられるもの。さあさあ、ドラゴンさんもご一緒に!」 「私も?」 「一緒にやると、不思議と楽しいですよ」 首を傾けたドラゴンに頷き、ライラは手を打ち鳴らす。雲羽が高らかに歌った。 「両手を打ちつけパンパンパン、足を地面にダンダンダン!」 花束とクッキーに気をつけながら竜は雲羽の声とライラの動きにあわせ、巨大な体を動かす。 「人の特徴は、悲しみも喜びもみんなで共有すること。これで、悼む心も楽しむ心も共有さ」 「……ああ、そうか」 ここには今しか出せない音と、今しか感じられない空気が満ちていた。竜は天を仰ぐ。 ヒトの子らの発想の、なんと自由なことか。なんと愉快なことか。 「愛しいな、ヒトの子らよ」 「そう言ってもらえると嬉しいな。さあ、もっと楽しもう!」 雲羽が笑い、ライラが跳ねる。 竜も歓呼を響かせた。 ● 翡翠色の竜に挨拶をすませた『ララエル・エリーゼ』は振り返り、同じく自己紹介を終えた『ラウル・イースト』に笑みを向けた。 「ラウル。私が死んだら、どうか楽しく葬ってくださいね」 かすかに瞠目したラウルが息をのむ。 「私は最初、ヒトとして葬ってもらえなかったから。二度目はヒトらしく逝きたいんです」 「……ヒトの子よ……」 「君が逝くときは、僕も一緒だから、約束はできないな」 小さく震える竜の声に被せるように、断固とした口調でラウルが言う。ララエルの眉がぴくりと動いた。 「でもこれだけは言える。天国があるなら、そこで君を幸せにするんだって」 「それは……っ、いやっ、やっぱり私が先! だからラウルは私を楽しく葬って、その先も幸せに生きてください!」 「いいや。一緒に死ぬか、僕が先に死ぬかだよ。一秒だって、君を先に死なせたりしない」 「違いますー、私が先ですー、ラウルなんて嫌い!」 「嫌われようと、僕が先だよ」 「私が!」 「僕が!」 どちらが先に死ぬかという、意地の張りあいじみたやりとりをしばらく聞いていた竜は、やがて控えめに仲裁に入る。 「ヒトの子らよ、落ち着くといい」 ぜぇはぁと肩で息をしていた二人は、依頼主を見て、次いで顔を見あわせ、我に返った。 「……喧嘩をしても仕方ないよね。以前、二人で最期まで生きようと決めたんだから」 「そ、そうですね。始めましょうか」 「無礼を許してほしい、竜よ。僕たちからの弔いは、演奏と歌だよ」 ヴァイオリンを構えたラウルが、ララエルと視線で意思を疎通させる。 跳ねるような音が、平原の秋の空気を揺らした。 音が連なる。そこにマイクを用意したララエルの可憐な歌声が混ざる。空高く、果ての果てまで届けと言わんばかりに、響き渡る。 春を迎えた平原に、花が一斉に咲く光景を、竜は思い出していた。 曲が終わり、二人が一礼する。黙したヒトの子らに竜は讃嘆の眼差しを向けた。 「感謝を。この音色は確かに、グレーテルにも届いただろう」 「グレーテルさんも、ヒトとして聴いていてくれたでしょうか」 ふふっ、とララエルが笑う。ラウルは秋空を仰ぎ見て、目を伏せる。 「貴方は確かに、ヒトだったよ」 翡翠色の竜は双眸に一滴の切なさを交え、それを瞬きひとつで消してから、二人に呼びかけた。 「ヒトの子らよ。花のごとき生を謳歌する子らよ。置いていかれるものの寂しさ、今の私ならば理解できる」 そう、自分はきっと、寂しいのだ。 竜は今、喪失に伴う痛みを理解した。 「ゆえに生きよ。永く、ともに、生きよ」 この痛みを少しでも遠ざけるために。 長命の生物の言葉に、浄化師は小さく頷いた。 ● 死人を送るための蝋燭と、額の底にグレーテルの名を刻んだペンタスの花の絵を贈り、『灯・袋野(れっか・ふくろや)』は秋空を仰いだ。 「故郷では、死んだら鳥に食わせてたな」 「ヒトの肉を?」 「そうだ。鳥に魂を運ばせるんだ。何者の魂も縛られないようにってな。そして残された生者は、踊る」 「僕はいつも護衛で、わぁ!」 言いかけた『灰・土方(ホロビ・ヒジカタ)』の手をとり、灯は口の端を上げた。 「楽しく踊れ」 「だから……っ」 見ているだけだったのだと、言う暇など与えてもらえない。 くるくると回る。太陽の光が眩しかった。竜の顔が見えて消えて、また見える。秋の優しい風、花の香り。ここには生命があふれている。 灰の目がかすみ、涙が出てくる。あの場所でも、こうして踊っている人々がいた。 死の暗さを厭うように、笑う同胞たちがいた。 「こんな風にな」 「竜よ」 翡翠色の竜を見上げようとしていた灯は、灰に視線を投じる。竜もまた彼を見た。 「爺は一度死んで蘇り、また死ぬ存在。そこに意味があると思うか」 生者は死者を惜しむ。記憶し続けようとして、忘却していく。 そこにはなにも、残らないのか。 否、と灰は内なる声に応じる。なにかが残るのだ。竜が友の心を汲んだように。 「世界は流転する。雪が解けて春になるように」 「そうだ」 竜は静かに肯定した。 「袋野灯さん」 故郷での呼び方で、灰は改まって灯を呼ぶ。 「流転まで、僕と生存のための伴侶でいてください」 清々しいほどの笑みさえ浮かべて、灰は言う。 「世界は流転すると、貴方が教えてくれた。この生の意味も残すものも分からないけど、生きてみます」 踊ったときとは逆に、灰が灯を引き寄せ、誓うように口づける。 すぐに離れた灰の耳は、真っ赤に染まっていた。 「お酒もあるんです。とってきます!」 「これがヒトの子の愛か」 しきりに頷く竜に、灯はただ笑って見せた。 「お前さんも踊るか?」 度数の高い酒をひと口なめた竜に、灯が言う。 「踊って、酒を飲んで、楽しそうに尻尾を振りな。別に笑わなくていい。泣きたいなら泣いていいんだ。素直に受け入れろ。今の寂しいも、本当の意味で癒される。隔てられても心が重なる」 いずれ理解するだろう。 悲しみの先で繋がるものを。寂寞の果てにあるものを。 「時間が経って忘れるのは、神の愛だそうだ。夜は明けて、朝になる」 「神の愛か」 「少し酔いました」 「飲みすぎだ、ホロ」 寄りかかってきた灰を、酒杯を傾けながら灯は抱きとめる。 「あとは、相手を探すか」 かすかな声は、灰には届かない。 ● 精一杯弔うと、『シャルル・アンデルセン』は心に誓っていた。 「こんにちは、ドラゴンさん。この度は弔いの機会をくださって、ありがとうございます」 「感謝すべきは私の方だ。応じてくれてありがとう」 依頼主である翡翠色の竜が応じる。足元に置かれた先客らの弔いの品を潰さないよう、注意しながら、竜は顔を二人に近づけた。 巨大な竜がたったそれだけの動きをするだけで、人はその雄大さ、生物としての格の違いに圧倒される。シャルルを少し下がらせた『ノグリエ・オルト』もそうだった。 少し前なら、ヒトになることを夢見た竜と、友をヒトのように弔おうとした竜など、なにを馬鹿な、と一蹴していただろう。 しかし、シャルルと出会った今は。 「シャルル」 「はい。あの、私はあまり器用ではないので、花束しか作れませんでしたが……、ノグリエさんは、花冠を作ってくださったんですよ」 本能的な緊張から解放されたシャルルは、竜の鼻先に花束を捧げる。ノグリエも花冠を差し出した。 「ふふ、綺麗な花冠でしょう?」 「ああ、美しいな」 「ノグリエさんは手先が器用なんですよ。ね?」 自分のことのように誇らしく言う少女に、竜は目を細め、顔を遠ざけた。ノグリエは微笑んで、花束と花冠を先に置かれていた弔いの品の隣に添える。 「私からはもうひとつ。歌を捧げます」 「ヒトの子よ」 竜はノグリエを見ていた。ヴァンピールの男は、無言で続きを促す。 「この娘の歌は、素晴らしいものであるか?」 「とても素晴らしいものです。シャルルは歌うのが得意で、ボクはシャルルの歌が大好きです」 「そうか」 応じたきり、竜は目を閉じて聞く姿勢に入ってしまった。 瞬いたシャルルは、ノグリエを困ったようにちらりと見てから意を決する。 「歌は、本当にたくさんあります。喜びの歌、悲しみの歌、愛の歌。……そして、弔いの歌」 どうか明るく、弔ってやってほしい。 それが友の冥福を祈るこの竜の願いだった。シャルルが息を吸う。少女の歌声が、労わるように優しく、柔らかく、響く。 宿るのは悲哀ではない。旅立った友に捧げる、祝福に似た歓喜と温もりだ。 「……ありがとうございました。どうか、安らかに」 歌い終えたシャルルは、今は亡き竜と依頼主に深い感謝をこめて礼をする。ノグリエが小さく拍手した。 「ヒトの子らよ。私にとって、グレーテルは誇りだった」 目を閉じたまま竜は言う。 「お前たちが互いにそうであるように」 ノグリエの器用さ。シャルルの歌声。 相互の信頼と賛辞の上で成立する、輝かしくヒトの子らしい感情。自身と友の間にも、きっとそれらしきものはあったと、竜は噛み締める。 ● 竜さえ憧れる、ヒトの世の美しさとはなんだろう。 依頼を受けた『シュリ・スチュアート』は考えた。彼女はまだ、それを実感できない。だが、パートナーであり半竜である『ロウハ・カデッサ』が、 「俺はヒトの姿に生まれてよかったと、思ってる」 と呟いたことで、弔いになにを捧げるかは決まった。 「ロウハ。貴方の思うヒトの喜びを教えて。わたし、今まで生きてきて、ヒトでよかったって思うことをできるだけ書き記すわ」 「ああ。ヒトの世界のことは、お嬢より知ってるつもりだからな」 自身の乏しい人生経験に、ロウハの助言を加えてシュリは紙面にひとつの物語をつづる。ヒトの喜びとはなにか。ヒトの世の美しさとはなにか。 漠然とした疑問に向きあって、少しずつ、形を持たせていく。 用意を終えて平原へ。依頼主の竜にも挨拶を終え、シュリは持ってきた帳面と花束を差し出した。 「美しい花だ」 「ネリネだ。花言葉は、また会う日まで、だったか」 ロウハの言葉に竜は一瞬だけ目を見開き、呼吸をとめた。 「……ありがとう、ヒトの子らよ。その紙は?」 「物語を書いてきたの」 「読み上げてくれるか?」 緊張した面持ちで、シュリはちらりとロウハを見る。男が頷き、少女はしっかりと竜を見上げた。 それは、グレーテルという少年の話。 枯葉色の髪のグレーテルは、郵便配達の仕事をしていて。その日もいろいろな人に配達物を届けて行く。 お金持ちの家、商店。自然に囲まれた農村。 人々との出会い。ときには手助けもして。緊急事態に見舞われて。 しかし、笑顔の絶えなかったいつもの一日。 「今日もいい日だったなぁ」 そんな一言で終わる、幸福で平凡な、ヒトの子の生活。 「ヒトの子よ。ひとつ質問を許せ。ヒトの喜びとはなんだ?」 「……ヒト同士との、関わり」 物語を書き上げて、下した結論をシュリは口にする。 壮大な虚構なんて作れなかった。ただ、グレーテルがヒトであったなら、こんな幸せが訪れるようにと、切に願った。 「そうか」 小山のような体躯に相応しい、巨大な口から竜は息を漏らす。かすかに震える吐息は、まるで泣いているようだった。 「グレーテルはいつかヒトとなり、このような道を歩めるだろうか?」 「ああ、きっとな」 「あなたも、ヒトになりたいと思う?」 竜は視線をシュリが持つ物語に落とす。郵便配達のグレーテル。その隣にヒトの子の姿をした自分を思い描く。空想は不慣れだったため、少し苦労した。 「そうだな」 涙を流すのではないかと、シュリは少し慌てる。しかし、竜はヒトの子のように泣かない。 ただ頷いた姿が物悲しく、少女は物語が記された帳面を握り締めた。 ● 「はじめまして、リチェルカーレといいます。パートナーの彼はシリウス。どうぞよろしくお願いします」 ぺこりと礼をした『リチェルカーレ・リモージュ』の隣で、『シリウス・セイアッド』は軽く黙礼する。 「よくきてくれた、ヒトの子らよ」 「わたしたちは花輪を作ろうと思います」 鷹揚に翡翠色の竜が頷く。リチェルカーレとシリウスは、竜の近くで花を摘み始めた。 「……これは」 しばらく後、一応の完成を迎えた花輪にシリウスは眉を顰める。今にもばらばらになってしまいそうな、不格好なものが出来上がってしまった。 「一生懸命作ったものなら、気持ちは伝わるわ」 「ヒトの子が作ったのだ。グレーテルも喜ぶ」 「そうは言っても、限度があるだろう」 にこにこと微笑むリチェルカーレと、穏やかに目を細めた竜に、シリウスは渋面になる。どうにか修正できないかと頑張ってみたが、どうにもならなかった。 諦めたシリウスは、少女に助けを求める。 「リチェ」 「うん。あのね、ここをこうして、こうするといいと思うの」 すいすいとリチェルカーレの細い指が、花輪の形を途中まで整えた。 「可憐な花輪だな」 花の名を知らないらしい竜が、シリウスに説明を求める。だが、彼もまた植物に詳しくはなかった。 「チューベローズにカモミール、ラベンダー。とても素敵ね。はい、あとはお願いね、シリウス」 「……だ、そうだ」 半分だけ綺麗になった花輪を受けとり、シリウスは再び悪戦苦闘を始める。 「娘は花を選ばないのか」 「わたし? じゃあ、レンゲとタンポポを」 「あんたの好きな花は?」 リチェルカーレが選んだ花を輪の中に加えつつ、シリウスがちらりと竜を見て尋ねる。意表を突かれた竜は、ゆるりと瞬いた。 「友人に贈るんだろう? その方が相手も喜ぶ」 同意するように少女が頷いているのを確認してから、竜は少し悩み、一輪の花を選んだ。 「では、そこの白い花を。グレーテルがよく見ていたのだ」 「フリージアね」 竜が、というよりも死した友が好いていた花も入れて、ようやく贈り物が完成する。素敵だわ、と笑みを浮かべた少女に、シリウスは安堵した。 「わたしからは、歌を送らせてください。空と、風の歌を」 柔らかな眼差しに竜は首を縦に振る。リチェルカーレの唇から流れ出た優しい歌声は、高く遠く、秋風に乗って響き渡った。 魂を慰撫するような声音に、竜は目を閉じて聞き惚れる。 「我が友よ、しかと聞くがいい。我らの親愛に相応しくあろうと、ヒトの子が歌っている」 気高く穏やかに、一方で確かな芯を持って。 「美しいな」 少女の歌も、少しいびつな花輪も、美しいと竜は心底から思った。 ● 平原にくる前に、『鈴理・あおい』と『イザーク・デューラー』は、管理者にグレーテルと翡翠色の竜の思い出話を聞いた。二体は番ではなかったが、ほとんど四六時中、一緒にいるほど仲がよかったらしい。 竜の胸の内を推し量り、あおいは痛みを覚える。当の依頼主は眼前にいた。時間も場所も移って、平原だ。挨拶だって終わっている。 ちらりとイザークを盗み見た。彼はあおいが事前に作っておいたポプリを器用に編みこみつつ、花冠を作っている。 「ヒトの子よ。あれはなんだ?」 「……ポプリです。いい香りがする、と思います」 「そうか」 興味深そうに竜はイザークを見ている。あおいは密かに深呼吸を繰り返し、人形のマヤを撫でた。 祈りの言葉と鎮魂歌を捧げると、あおいは決めていた。仏頂面の自分より、可愛いマヤが言った方がきっと明るく聞こえるだろう。しかしそれはあおいが話すことを前提とした、腹話術でしかない。 緊張する。 「竜よ、我らの大いなる友よ」 それでもどうにか、マヤを操りつつ祈りを唱え始めた。声が震える、言葉が急速に抜け落ちて行き、なにも浮かばなくなってくる。 心配そうに竜があおいに顔を近づけた。あおいの声音は、すでに囁きに近い。 「ご冥福をお祈りしますってこと!」 突然のことにあおいは跳ね上がりそうなほど驚いた。竜はきょとんとしてから、喉の奥で笑って姿勢を戻す。 「イザークさん!?」 「小難しいことなんていいのよ。次! 鎮魂歌!」 「待ってください! 待って!」 「え? なーにー? 聞こえなーい」 「その声でその喋り方はっ」 「歌わないなら、私が代わりに歌ってあげるー!」 花冠を完成させたイザークは、声をほとんど変えないままマヤを演じた挙句、音程が盛大に外れた鎮魂歌まで歌い始める。 混乱なんてしていられないと、あおいは自らを律した。 「やめてやめて! 私そんな声じゃないもの!」 精一杯、声を張ってあおいも歌い始める。マヤを操作する手に澱みはなかった。 途端にイザークは黙る。二人を見比べた竜は小さく笑い、真っ直ぐで死を悼む優しさがこめられた声に耳を傾けた。 「……長い間、本当にお疲れさま」 歌い終えたあおいは、マヤの口を借りて死した竜に言葉をかける。用意していた祈りの文句は忘れてしまったから、自分なりに、感謝を告げる。 「また来年も花冠を作ってあげる。貴方を忘れることがないように」 いい子だろう、とイザークが視線で竜に言う。竜は頷いた。 「人を好きでいてくれてありがとう! ……ございます」 「よく頑張りました」 少し疲れた様子のあおいに、イザークがあやすように声をかける。 竜は眩そうに、二人を見つめた。 ● 水彩画を見た翡翠色の竜は、目を丸くした。 「グレーテルと私だ……」 「教団で事前に、お二人の資料を用意してもらって……、描かせていただきました……!」 絵を持つ『杜郷・唯月(もりさと・いづき)』は、今にもあふれそうなほど緊張に満ちた表情と声で言う。 その隣で『泉世・瞬(みなせ・まどか)』は、自信満々の笑みを浮かべていた。 「上手でしょ~!」 「うむ。見事だ。グレーテルが、いる」 「わ、わ……っ」 顎が地面に擦れそうなほど顔を下げ、竜は水彩画に鼻先を寄せた。唯月はおろおろと瞬を見る。 「これも贈り物だよ~。こっちもいづが作ったんだ~!」 「お前は多才だな。祝いのような花束だ」 瞬が差し出した花束は、門出を祝福するように華やかだった。暗さも悲しさもないはなむけに、竜は目を細める。 「グレーテルさんが生まれ変わったら……、ヒトでありますようにと……願って……」 緊張に羞恥が混じり始めた唯月の声は、徐々に小さくなる。それを支えるように、瞬が明るい声を上げた。 「俺からは歌を贈るよ~! ヒトだと故人が好きだった曲を葬式で流すところもあるけど、今回はせっかくだから、別れの曲じゃなくて」 花束を片手に、両手を広げた瞬の声音が少し変わる。明るさに、かすかな勇ましさが宿った。 「ヒトに語られる、ドラゴンの物語の一曲を歌おうかな~!」 宣言するが早いか、瞬の語調と雰囲気が一変する。 紡がれるのは勇ましく気高い竜の物語だ。ただの歌ではない。竜にはそれがなんであるのか分からなかったが、伴奏さえ必要としない瞬の声音に、ただ驚嘆した。 「娘よ、これはなんだ?」 「オペラ、です……」 「ヒトの子の文化は素晴らしいな」 真剣な顔つきで瞬が褒められていると知り、唯月が照れる。瞬の迫真の演技は、唯月の心も掴んでいた。 「おしまい~!」 一礼した瞬を、竜が言葉少なく褒める。拍手をしつつ、唯月は少しそわそわしていた。 翡翠色の竜。緑色が好きな唯月は、恐縮しつつも特別ななにかを彼に感じとっていたのだ。 「あ、あのっ」 「なんだ?」 「もうひとつ、贈り物を……、あなたにしても、いいですか?」 「私に?」 打ちあわせになかった事態に、瞬も首を傾けた。唯月はぎこちなく頷く。 「名前、を……。その、嫌じゃなかったら……」 「名か」 一度は、拒んだのだ。いらないと。ヒトへの憧憬などなかったから。 しかし竜は今再び思案して――頭を垂れた。 「なんと名づける?」 「……ジェイド、と」 「いい名前だと思うよ~。翡翠って意味だね~」 竜に視線を向けられた瞬は説明し、唯月は手を握りあわせる。 「ジェイド。そうか、我が名か」 満足げに呟いた竜は、秋の空を振り仰いだ。 ● ニーベルンゲンの平原に、翡翠色のドラゴンは佇む。体長二十メートルを超える彼は、遠目に見れば小山のようだった。 もうじき日が暮れる。浄化師たちは少し前に帰った。 「見たか、聞いたか、グレーテル。ヒトの子らの弔いを」 翼で起こす風により、ふわりと足元にあったいくつかの物が浮き上がる。 物語が記されたポエム帳。花冠、花輪、花束、絵画。蝋燭、中身が減った酒の瓶、焼き菓子。 「歌に演奏、踊りは、もう受けとったことだろう」 ドラゴンの目線の高さより、なお高く。 茜色の空に至りそうなほど地面から遠く浮いたそれらが、不意に。 ごう。 と、音を立てて燃え上がった。 「受けとれ。どれも趣向が凝らされ、ひとつとして同じものなどなかった。ヒトの子らは、お前を心から悼んだのだ」 ヒトがヒトにそうするように。 「私も名をもらったよ、グレーテル。ジェイド、というのだ。よい名だろう」 一度は拒絶したものだが、受けとって本当によかった。 「グレーテル。次の世では必ず、ヒトとして会おう。そして我が名を呼ぶがいい。私もお前の名を呼ぶ。そしてまた、無二の友であろう」 二人でひとり。決して切れぬ縁に結ばれた、ヒトの子に。 夕暮れの平原に、秋の風が吹く。
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*** 活躍者 *** |
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[9] シャルル・アンデルセン 2018/09/21-10:20
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[8] シュリ・スチュアート 2018/09/21-03:55
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[7] 鈴理・あおい 2018/09/19-22:20 | ||
[6] リチェルカーレ・リモージュ 2018/09/19-20:20
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[5] 空詩・雲羽 2018/09/19-20:00 | ||
[4] ラウル・イースト 2018/09/19-11:13
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[3] 灯・袋野 2018/09/18-07:38
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[2] 杜郷・唯月 2018/09/18-00:36
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