~ プロローグ ~ |
「僕はウーベ。君たちに竜の渓谷のことで集まってもらったんだけどー、お願いしたいことがあるんだー」 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
ここまでプロローグをお読み下さりありがとうございます。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
※アドリブ歓迎します (自分達を乗せてくれるドラゴンを撫で) どうぞ宜しくね。君の名前を聞いても良い? (以下●●君と呼ぶ) (ドラゴンに乗り空を飛びつつ) ドラゴンに乗って空を飛ぶなんて、小説みたいだ! これこそロマンだよね…! …考えたんだけど、終焉の夜明け団が関わってるなら、 Dの遺体を魔術に利用する事も考えられないかな。 うん、僕ならそうする。一応Aのドラゴン殿に進言しておこう。可能性のひとつとして。 Dへ? そうか、そうだったね。 (Dの遺体を見て、以前(34話)ララエルが言った 「浄化師って刑の執行を待つ死刑囚みたい」という言葉を思い出した。ドラゴンも浄化師も結局、「そこ」で死ぬしかないのだ) |
||||||||
|
||||||||
Cへ向かう 仔竜の食事風景や食べ残しに引き気味のナツキと、若干顔色が悪いルーノ ナツキ:うわー…ルーノ、大丈夫か? ルーノ:大丈夫…想定内だ… ■ルーノ 食は生活の基本、ここは堅く守るべきだ 現在の警備方法を聞いて敵の侵入経路等を見逃していないか調査しよう ついでにドラゴンの食べる物を見て彼らの好みを知りたい 先日の仔竜(22話)と次に会う時の手土産を考えなければならないからね …なんだいナツキ、そのにやけ顔は ■ナツキ いやー、別になんにも! 確かにドラゴンって何が好きなんだろうな? 管理者や乗せてくれるドラゴンにも話聞いてみるぜ! 後は何人くらいで警備してるのかも聞いとくか 広い場所だし人数少ないと大変そうだと思ってさ |
||||||||
|
||||||||
◆ウーベさんの話を聞いて気になるAへ ・気になったのは唯月 唯「悩みなんか忘れちゃいそうになる草原…です、か」 (…瞬さんの悩みと言いますか そう言ったものが少しでも緩和出来たら良いなと…) 瞬「凄く広い草原だねぇ…」 (…きっといづは俺の事を気遣ってここに来たのかな?) ・悩んでいるのは唯月の方で 唯(わたしも瞬の事が好きなのに 思って欲しくないなんて…きっと勝手な気持ち… 恋人になれたのなんて夢みたいで嬉しいのに 素直に喜ぶ事が出来ない…) 瞬「いーづ!」 唯「わっ!」 瞬「まーた自分だけで考えてるでしょー? …俺、ちゃんとわかってるから いづがそうやって考えてくれるのは俺の為だって でも考え過ぎたらいづが参っちゃうよ?」 |
||||||||
~ リザルトノベル ~ |
●『ルーノ・クロード』『ナツキ・ヤクト』 ルーノとナツキは乗るドラゴンの変更が急遽行われた。 他の仲間達は穏やかそうなドラゴンを紹介されているというのに、よりにもよって何故凶暴そうなドラゴンに選ばれてしまったのかとルーノは頭を抱えたくなった。 管理者が懐かれたみたいですね、気難しい仔なので珍しいですよと嬉しそうに話しかけてくれたが、あれは捕食者の目だった。 本来ならば別のドラゴンが紹介される手筈だったのが、紫紺のドラゴンが割り込んできたのだ。威嚇するように紫紺のドラゴンが鳴くと土色のドラゴンは仕方なさそうに身を引いてしまった。 紫紺のドラゴンを敢えて表現するなら、物語中で勇者に退治されてしまうような悪いドラゴンと言ったところか。 「しっぽ!」 獰猛そうなドラゴンの口からボーイソプラノの声が聞こえ、ルーノはぎょっとした。 ナツキが尻尾を揺らす度に紫紺のドラゴンも体を揺らす。 「君たちが僕のお客様だ! どこに行く? どこでも飛んでいくよ?」 外見からは想像できない人懐っこいボーイソプラノで無邪気に話しかけてくる。 「乗らないの?」と、こてんと首を傾げながら、期待を込めて見つめるドラゴン。 どうやら外見と中身のギャップが随分と激しいドラゴンのようだ。率直に言うと、そのドラゴンはなんというか犬のようだった。 真っ先に状況に順応したのはナツキの方だった。 「お前が乗せてくれんのか? ありがとな、俺はナツキって言うんだ。よろしく頼むぜ!」 「ありがとう。私はルーノだ。……ところで君のことはなんと呼んだらいいのかな」 「僕に名前はないよ。陰気の系譜のものは宵闇の、と呼ばれることもあるかな」 「じゃあ、宵闇と呼ばせてもらおう」 「うん! ナツキ! ルーノ! 早く乗って!」 宵闇は翼を大きく広げ空へと飛び立った。 眼下に広がる景色はあっという間に小さくなり、竜の渓谷の全土が見える高度まで上がってしまった。フルスピードで飛んでいるのに風圧を感じないのは魔法のおかげだろう。 意外と器用な魔法の使い方にルーノは感心をしてしまう。 エレメンツであれば、周辺に夜色のきらめきが星のように散らばっているのが見えたかもしれない。 「おぉー! すげえな!」 ナツキが歓喜の声を上げると、宵闇は気をよくしたのか雲の中を突ききるように飛ぶ。 「さっきの話だが、名付けを好まないドラゴンもいるのかい?」 ルーノが尋ねると、宵闇は少し考え込む。 「ンー、いるよ。なくても困らないし。興味がないと忘れちゃったりすることもあるから。逆に次から次へと名前を変えたりする奴もいるよ」 「……それは困りそうだ」 「一週間ごとに飽きて変えちゃう癖に、名前で呼ばないと怒るんだよ。ひどいと思わない?」 「なんか面倒くさい奴だな……」 ナツキから同意が得られ嬉しいのか、宵闇はうんと頷いた。 ルーノ達は遊牧草原に寄る前に宵闇に連れられて雲の波を泳いでいた。 秋雲を飛び越えた先にある、雲海の眺めは素晴らしかった。雲は常に波のように姿を変え、複雑な陰影を描く。 特に朝日が沈む瞬間が一番好きなのだと宵闇は語る。 青空の中でも美しいのに、夕暮れを写し取った雲海はまた別の趣があるのだろう。一度見てみたいものだとルーノが余裕を保っていられたのもそこまでだった。 宵闇は久しぶりに自分の気に入った客人を案内できるのが嬉しいのか、直線上に雲を突き抜けて飛び上がったり、回転したりする。それでも落ちるようなことはなく魔法で体は鞍に固定されていた。 「うっ……もう十分楽しんだから、そろそろ遊牧草原まで案内してくれないか?」 「ぐるぐるはもういい? 急降下してずばーんと上に飛ばなくてもいい? すごく楽しいよ? それとも清澄の滝をくぐる方がいい?」 「滝くぐり!? それ面白そ――」 「……ナツキ」 背後からぐっと強めに肩を掴まれ、ナツキは慌てて口を閉じる。 「濡れるのが心配? 大丈夫だよ、僕の魔法で周辺を覆ってるから濡れることはないよ?」 「いや、十分楽しませて貰ったよ。ありがとう。それは別の機会にさせてもらおう。案内場所まではいいかな?」 「わかった! あっという間だよ!」 宵闇はお礼に高い声で歌うように鳴くと、嬉しそうに空を舞う。 遊牧草原に到着して真っ先に見たものは、残酷な自然節理の法則だった。 「うわー……ルーノ、大丈夫か」 「大丈夫……想定内だ……」 ナツキは先ほどのアクロバティック飛行に酔い若干顔色の悪いルーノに声を掛ける。だが、ルーノの顔色を青くする原因はそれだけではなかった。 特に仔竜の食事風景は刺激が強かった。猟奇的な光景の横で、宵闇もいつの間にか数頭の牛を襲っていた。 うっかりその光景を見てしまったルーノは、宵闇の頬が牛の形に膨らんでいるのを見て絶句していた。 「むぐっむうぎゅむむの?」 「ちょっと待て! 食べ終わるまで口は開いちゃ駄目だからな!」 宵闇が喋ろうとして慌ててストップをかけるナツキ。その言葉に素直に頷くと口を閉じたまま一気に丸呑みしてしまう。 「“食べるのが下手”と聞いて予想していたがこれは……」 (しかし知りたい事があってここを選んだのだから引き返すわけにはいかない) そう決意しながらも、そっとルーノは宵闇から目を逸らした。 「おいしかったー!」 「そりゃ良かった……お前めっちゃ食べるな」 「稀に腹を空かせたドラゴンがアークソサエティまで羊や牛を狩りに行くという話は本当だったのか……」 宵闇を見ていると有りえる事態だなと密かにルーノは事態を重く見ていた。 食は生活の基本、ここは堅く守るべきだ。 戦争でも補給路が絶たれれば負けるように、ドラゴンにとってここは重要な地区でもある。ついでにドラゴンの食べる物を見て彼らの好みを把握しておきたかった。 「ここの食事環境を見る限り肉食なんだろう。だが、嗜好品などは別かもしれない。先日の仔竜と次に会う時には手土産を考えなければならないからね……もちろん調査が第一だよ」 最後の取って付けた言いようにナツキは思わず口を緩めてしまう。 「……なんだいナツキ、そのにやけ顔は」 「いやー、別になんにも!」 (仔竜の手土産の事、ついでになんて言っているけどホントはそれが目的なんじゃ……) 「……素直じゃねぇよな」 にやにやと笑い続けるナツキをルーノは鋭い視線で睨みつけるが、全く懲りた様子はない。 「確かにドラゴンって何が好きなんだろうな?」 「お肉が好きだよー」 「それってお前の好みじゃないのか?」 「むー、苦かったり酸っぱいものはきらいー!」 宵闇の言葉にルーノは手を当て考え込む。 「濃い味付けが苦手なのかもしれないな……」 「なら、素材を生かした食べ物なんてどうだ!」 その後、宵闇がナツキと離れるのを嫌がったせいで二人は別行動することになった。 「実際、何人くらいで警備しているんだろうな。広い場所だし人数少ないと大変そうだしさ。宵闇、知ってるか?」 「えっと、……たくさん?」 「……さては、お前知らないな?」 「僕だって警備に協力したりしてるんだよ!」 褒めて褒めてと言わんばかりに尾を振る宵闇の体を撫でてやると、余計に尾の振り加減が早くなって振動が起こり、ナツキは慌ててストップをかける。 そうやって他愛のない話をしながらナツキは宵闇を連れて遊牧の草原を視察して回る。 ルーノが調査を終えて帰ってきた頃には随分仲良くなり、宵闇が巣にナツキを持ち帰ろうとする大事件が待ち受けていることをまだ知らないでいた。 ●『ラウル・イースト』『ララエル・エリーゼ』 ラウル達の今回のパートナーとなってくれたのは雪白のドラゴンだった。そのドラゴンは散りゆく雪片を思わせる繊細な美しさを持っていた。 近寄りがたいと思わないのは、桜色の瞳が深い慈愛で見守るような眼差しだったからだ。一目見てララエルはこのドラゴンと仲良くなりたいと思った。 本当に見惚れるほど美しいのだ。 けぶるような真珠の鱗は乾いた白砂のような白さではなく、乳白色のとろりとした艶のあって思わず感嘆の息を漏らしてしまう。 これから迎えようとする冬の季節だとよりこのドラゴンの魅力が引き立つだろう。 雪景色の中で体にダイヤモンドダストを帯びたようなドラゴンを想像してララエルはうっとりとする。 「どうぞ宜しくね。君の名前を聞いても良い?」 「私に本来、名はありませんが、通り名としてはネージュと呼ばれます。どうかそちらの名で呼んで下さい」 女性的な雰囲気とは反対の低い落ち着いた男性の声に驚く。 「雪のようで綺麗なドラゴンさんです! ネージュさんって呼んでもいいですか?」 雪解けを思わせる春の竜は、優しく微笑んだ気がした。 「名前がないと不便じゃないかい?」 ラウルが不思議そうに尋ねるとネージュはゆっくりと首を振った。 「いいえ、元々ドラゴンには名付けの文化は有りませんでした。管理者たるリントヴルム一族と暮らすようになって名前で呼ばれる若いドラゴンも増えました。ですが、私は名で呼ばれるよりただのドラゴンとしてありたいのです」 そう言うとネージュはラウル達が乗りやすいように身を屈める。それでも背に乗るにはよじ登るしかない。するとネージュは魔法で光の階段を作ってくれた。 「ラウル見て、硝子の階段みたい。わあ! 踏んだところが輝いてます!」 階段に上る度に淡い光が弾けるのを見て、ララエルは跳ねるように足を乗せる。 「ありがとう、ネージュさん。素敵な魔法だ」 ラウルがお礼を込めてドラゴンを撫でる。白い鱗はつるりとした感触なのに、火気結晶のように温かかった。 ラウルが前の方に乗り、ララエルがその後ろの鞍に座るとドラゴンは揺らさないようにゆっくりと起きあがった。 雪白のドラゴンは美しくも儚げな翼を力強く羽ばたかせ、紺碧の空へと躍り出る。 「ドラゴンに乗って空を飛ぶなんて、小説みたいだ!」 「きゃっ、高ーい、早ーい!」 二人は空の上ではしゃぐように眼下の光景を眺め、空を楽しむ。 「これこそロマンだよね……!」 「ロマン……? ラウル、ロマンって何ですか?」 ラウルは少年のように目を輝かせ、ララエルは首をこてんと傾げた。 「喜んでいただけたようで何よりです。空は美しいですから楽しんで下さい」 「ネージュさんは空の美しさを知っているんですね」 「私達が空の美しさを知るように、人も気づいていないだけで美しいものを知っていることでしょう」 空はどこまでも青く澄み渡っていた。流れゆく雲は形を変え、風と共に生きていく。 「……考えたんだけど、終焉の夜明け団が関わっているなら、竜の霊廟の遺体を魔術に利用する事も考えられないかな」 「竜の霊廟のドラゴンさんの遺体を……それって、蘇らせて悪用するってことですか……ゾンビ、ですよね」 ララエルは俯くとラウルの肩を握りしめた。 「うん、僕ならそうする。一応ニーベルンゲンの草原のドラゴン殿に進言しておこう。可能性の一つとして」 「ならば、私が代わりに報告しておきましょう。あそこのまとめ役のドラゴンとは顔見知りなので」 「いいのかい? 僕らから言った方がいいんじゃ……」 「構いません。ここにはやってくる人間は中々おりませんから。どうせなら、貴方がたにこの美しい我らの住処を見て欲しいのですよ」 穏やかな声音でそう提案されると否とは言えず、ネージュの厚意に二人は甘えることにした。 「あ……ラウル、それなら竜の霊廟に寄ってもいいですか……?」 「竜の霊廟へ? そうか、そうだったね」 ララエルがおずおずとそう切り出すと、ラウルはすぐにララエルの考えを察したように頷く。 「私、あの時本当は、心からグレーテルさんを弔わなきゃいけなかったのに、ケンカしちゃったじゃないですか。だから、今度こそなくなったドラゴンさんたちを弔いたいんです」 ララエルの強い言葉にラウルは振り返ると、静かに頷いた。 「グレーテルは果報者ですね、きっと喜びます。……それにあそこは最も人の欲に晒された場所であり、一番守りが堅い場所です。同胞達が死しても尚、霊廟を守っていますから」 自然に還っても力を貸してくれているのだと説明するネージュはどこか嬉しそうだった。 「私達は長く生きれば生きるほど自然へと近くなっていく。人のように激しく心を動かすことがなくなっていきます」 顔が見えていないのにどこか寂しげな微笑を浮かべた気がした。なんだか哀しくなり、ララエルは問いかけていた。 「心を動かすものがないから、人と関わろうとするのですか?」 「私達とは違い人の生き様は刹那だからこそ美しいのでしょう。すぐに損なわれてしまうから惜しむ。だから、手を伸ばして見たくなるのかもしれません」 人がドラゴンに憧れるように、ドラゴンもまた自分にないものを人に見つめるのかもしれない。 竜の霊廟は静謐な場所だった。ドラゴンの亡骸とはっきりと分かるものはなく、それでも自然へと還ったドラゴン達の息づかいを感じさせる。 そこにララエルは凛と立っていた。その横顔は緊張しているような、祈るような面持ちで歌いだす。 寄る辺のないものがあるべき場所へと還れますように、と。 それが美しい旋律だからこそ、哀しい。 どこか不穏であるのに安らぎを感じさせ、その不安定さにどうしても耳を傾けてしまう。 ラウルは小さく呻いた。 ララエルの歌はあまりに心に響く。 その強い歌唱力は、最も親しいラウルに過去の情景を見せるほどだった。ララエルが土の中に埋められ暗いところに閉ざされていくのをまざまざと見せつけられる。 彼女自身も気づいていない心の奥底にある不安や悲しみがまるで止まない雨のように体を濡らしていく。やがて濡れた衣が重くなりラウルは歌に溺れゆく。 ララエルが歌い終わってもラウルは動くことができなかった。 ――浄化師って刑の執行を待つ死刑囚みたい 不意にララエルが以前言った言葉を思い出した。ドラゴンも浄化師も結局、「そこ」で死ぬしかないのだ。 「歌とはいいものですね。素晴らしい歌でした。……久しぶりに心が動いた気がします」 ネージュの称賛の言葉を皮切りにラウルは我に返った。思いを込めて歌い上げたララエルの頬は上気し、目元が少し赤くなっていた。 「一つ忠告をしてもよろしいでしょうか」 桜色の眼差しがひたりと向けられる。 ――貴方が死を見つめるにはまだ早すぎる。 「その形は違えど我らが自然へ還ろうとする気持ちに少し似ているかもしれないですね。私も例え魔術具として利用されようとそれが次代へと生きるものの役に立てるなら、きっと穏やかに眠りにつけるでしょう。それは別れゆく者への手向けであり、今を生きたという足跡だと思っているから。ですが、残される者の苦しみがあることを忘れてはならないのです」 ――死を安らぎとするには大切なものを慈しんでからでも遅くない。 まるで苦しみに寄りそうように声を掛ける。 いつの間にか隣に立っていたラウルの不安そうな顔を見て、ララエルは言葉の代わりにそっと手を伸ばした。 ラウルとララエルは互いの手を離すまいと強く握りしめるのだった。 ●『杜郷・唯月(もりさと・いづき)』『泉世・瞬(みなせ・まどか)』 馬車を引くドラゴンは竜の渓谷でも珍しい翼を持たないドラゴンだった。 枝が絡み合って伸びる樹冠のような角が印象的で、体の一部からも枝葉は艶々と輝いていた。枝葉が風に触れる度にしゃらりと不思議な音をたてる。 穏やかな森そのものがドラゴンになったかのようだった。 森が季節によって見せる顔を変えるようにドラゴンの鱗も複雑な色合いを見せる。 何千年も地に根を張り、森を見守ってきた巨木のような穏やかな気質を反映するように森の木漏れ日を写し取った瞳は静謐なのに温かい。 「唯月と同じペリドットの瞳だね~」 瞬がペリドットの瞳を持つ森のドラゴンが今回のパートナーだと知った時、唯月を嬉しそうに見た。 唯月も自分と同じ共通点を見つけてこのドラゴンに親近感がわく。 今この場にスケッチブックがあれば、この美しいドラゴンを絵に描き残しておきたかった。唯月は忘れないようにとこのドラゴンを目に焼き付けていた。 見上げるような巨体と身震いするほど圧倒されるのに、このドラゴンからは森の香りがする。 森を結晶化したような鱗は木肌のようにざらついており、人を直接乗せるには不向きなのだとゆっくりとした口調で話してくれた。 唯月たちがニーベルンゲンの草原をゆっくりと見られる速さで歩くこのドラゴンは無口だけど、優しい性格をしているのだろう。 人見知りがちな唯月もこのドラゴンが何も話さなくてもその無言の時間が苦痛ではなかった。不思議なことに以前からこのドラゴンのことをずっと知っていた気持ちになるのだ。 「凄く広い草原だねぇ」 「はい、どこまでも広がっていて、本当に綺麗ですね……悩みなんて忘れちゃいそうになる草原……です」 外の景色は溜息をつくほど美しく、ウーベルトの言った言葉も頷けるものだった。 なだらかな丘が優しげなカーブを描いている。 風が吹く度に波打つように穂先が揺れ、時折紫の花々が揺れるのが見える。リンドウとスカビオサの青みがかった花を咲かせていた。 瞬が抱え込んだ悩みが少しでも軽くなればいいとここに誘ったのは、唯月の方だった。 この美しい光景を馬車の窓から眺めながらも唯月の心は別のところにあるように思考の空白へと沈み込んでいた。 (……きっといづは俺の事を気遣ってここに来たのかな?) 今日の唯月は草原に見惚れているのか、話していても上の空だった。森のドラゴンの時も熱心に見つめていたから、この黄金の草原に夢中になるのも仕方ない。そんな彼女の横顔を景色を眺める振りして見つめ続けていた。 こんなに傍にいるのに、彼女が遠い気がするのは何故なのだろう。 草原から目を離すことのない彼女の邪魔をするのは気が引けるけど、瞬は寂しくなって声を掛ける。 「……ここの警備体制ってどうなってるんだろうね~?」 「この、草原は美しいんですけど……、外灯など殆どありませんから、夜警は大変そうですね……」 「うーん、確かに夜にこっそりと単身でやってきて警備を無効化したりする工作はできそうだよね。見張り台があるけれど、草原全てを見渡せるわけではないだろうしー」 「やっぱり、夜警の強化は必要ですね……」 浄化師としての目線で警備に関して話していると、ドラゴンが重々しく口を開いた。 「……――客人よ、助言感謝する」 森のドラゴンはゆっくりとした口調でありながら、穏やかさと威厳を感じさせた。それだけを言うと森のドラゴンは口を閉じ、再び言葉のない時間が流れていく。 黄金の海原を抜けると、奥の方には黄朽葉と緑のコントラストが美しい草原が広がっていた。 外の光景が通り過ぎていくのを目に映しながら、唯月は色んなことを考えていた。 (わたしも瞬さんのことが好きなのに思って欲しくないなんて……きっと勝手な気持ち……恋人になれたのなんて夢みたいで嬉しいのに……素直に喜ぶことが出来ない……) 自分の心なのに相反する感情が引っ張り合って、唯月はどれが自分の本心なのか見失っていた。 どこか悲しげに外を眺める唯月に瞬は当然気づいていた。おそらく自分の事に関して悩んでいるに違いない。彼女を苦しめたいわけではないけれど、余所見できないほど彼女の心を占めているのは身勝手だと思うが、心に喜びが滲む。 (思えば自分で振り返っても支離滅裂な事を言っていた記憶はある。) 瞬はかつての自分の言動に思いを馳せる。 (あんな言葉……いづを困らせるだけなのは……今の俺なら……まだ解る。でも、その時々のいづの言葉があったから……今でもこうして側に居られる。いづを困らせちゃうけど……でも全部嬉しんだー) 彼女が自分を抱き留めてくれるから安心して心を委ねることが出来るのだ――それが彼女の重荷になるとしても。 ――ごめんね、いづ……俺は君を手放せそうにない。 馬車から降りると秋の淡い陽光が降り注ぐのを感じた。草を踏む足裏には柔らかな絨毯を踏んでいるようだった。 見たことのない景色なのに、どこか郷愁を抱かせてやまない。 草原にいる彼女の髪が風で揺れる。髪を手で押さえ、物憂げな眼差しがよりペリドットの瞳に深みを与えていた。そのまま風に連れ去られてしまいそうで、 「いーづ!」 「わっ!」 「まーた自分だけで考えてるでしょー?」 普段通りの明るい口調で声を掛け、そっと唯月の手を握りしめると、瞬は真剣な表情で話し出した。 「……俺、ちゃんと分かってるから。いづがそうやって考えてくれるのは俺の為だって、でも考えすぎたらいづが参っちゃうよ? そんなの俺は嫌だからね~」 瞬は心配そうに高い背を丸めて唯月の方を伺った。唯月は目を丸くすると、優しく微笑んだ。 「心配、させちゃいましたね。わたしは大丈夫ですよ。……どうせならスケッチブックに残しておきたいなって考え込んでただけで……――まっ瞬さん!?」 瞬は彼女の細い腰を引き寄せると強く抱きしめた。突然のことに唯月は身を強張らせる。 「大丈夫……俺はまだここにいるよ」 「瞬さん」 唯月の柔らかな髪を撫でると胸板に押し当てる。 瞬の体温を感じると同時に心臓が確かに鼓動を繰り返している。それは生きている証。なんだか不思議と安心するように肩の力を抜き、目を瞑る。 唯月もまた瞬の背に手を回した――今この瞬間はこの人から離れたくないと強く思った。 唯月は分かってしまった。 きっと幸せだからこそ怖いのだ。また大事なものを失う瞬間が来たら、きっと唯月は耐えられない。今手にしているものも怖くて手放したくなる。 今でも両親を殺した終焉の夜明け団への復讐心は埋火のように密やかに燃え続けている。復讐を果たされるまで消えることがない炎に身を焦がしたとしても唯月は止まることはできないだろう。果たしてその時、今のように彼の胸に自分は飛び込んで行けるのだろうか。 瞬の事を思っていると言いながら、自分の身勝手さが情けなくて唯月は抱きしめられたまま顔を上げることが出来なかった。 瞬は唯月を強く抱きしめながら、胸がざわめくような幸福感と愛おしさで満たされていた。 唯月と瞬の思う気持ちは違う。ただ相手の幸福を思い身を引こうとする唯月と違って、自分はきっと欲しがりなのだ。 (不安がりで強くなりたい彼女の為にも俺も強くならなきゃね……) 瞬は唯月のその心ごと抱きしめる為に、密かに決意を固める。 そんな二人の姿を優しい眼差しで見守る森のドラゴンだけが知っているのだった。
|
||||||||
*** 活躍者 *** |
|
|
|||
該当者なし |
| ||
[15] ララエル・エリーゼ 2018/10/15-20:05
| ||
[14] ナツキ・ヤクト 2018/10/15-12:33
| ||
[13] 杜郷・唯月 2018/10/15-06:26
| ||
[12] ラウル・イースト 2018/10/14-21:56
| ||
[11] 杜郷・唯月 2018/10/14-17:29
| ||
[10] ラウル・イースト 2018/10/13-23:07
| ||
[9] ナツキ・ヤクト 2018/10/13-19:57
| ||
[8] ララエル・エリーゼ 2018/10/13-12:35
| ||
[7] 杜郷・唯月 2018/10/13-11:03
| ||
[6] ラウル・イースト 2018/10/11-16:55
| ||
[5] ルーノ・クロード 2018/10/11-12:56
| ||
[4] ナツキ・ヤクト 2018/10/11-12:56
| ||
[3] ララエル・エリーゼ 2018/10/11-03:45
| ||
[2] ラウル・イースト 2018/10/11-00:22
|