~ プロローグ ~ |
朝食時を過ぎたころ。 |
~ 解説 ~ |
犬になるというか、狼の耳と尻尾が生えました。 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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耳と尻尾が生えてしまったのですが。 魔法のかかったプリンのせいだったんですね。 特に問題はないので治るまでゆっくりさせていただきます。 狼さんの耳と尻尾だそうですよ。 慣れてないから変に感じますがライカンロープさんはこんな感じなんですね。 似合ってますかね?この間は赤ずきんの恰好をしましたが今回は狼さんです。 私になら食べられても構わないですか? そう言われるとなんだか照れちゃうと言いますか…。 ちょっと恥ずかしいです。 うう、撫でられると気持ちいいので尻尾が揺れちゃいますー。 ノグリエさん私をからかって遊ばないでくださいー。 お菓子を用意してくださったんですか? なんだか誤魔化されてきもしますが…いただきますね。 |
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◆ローザ・赤 人目を嫌ってガゼボへ駆け込み、効果が切れるまで待機中 …来たのか、ヘイリー この様になって落ち着ける訳が無いだろう…! ううっ…貴方が赤い蓋のプリンを食べれば良かったんだ…! 他の人に見られるなら兎も角…ヘイリーにこの姿を見られるのは、…嫌だったのに あまり私を見るなよ、ヘイリー…私は一人で大丈夫だから、放っておいてくれ… ヘイリーの唐突な言葉には虚を突かれるが…不必要な事を要求しない男だからな… …トリック・オア・トリート 渡されたチョコレートとヘイリーの顔を見比べる。……これは? 魔法が解けたのに気付いたら目の前の男に詰める か、解決方法を知ってたのか!? ~~!やっぱり、アンタは、いけ好かない!! |
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赤プリン→ヨナ どうした 仮装の季節はもう終わった筈だが どうもこうも『あたり』を引いたみたいで 耳を弄りつつ まあ怪我でも病気でもないですし…時間もあるので図書館へ行きましょう ふむ 読書か ベルトルドさんのお勉強です 読み書きが苦手なんて…今までよくやり過ごせましたね 耳を伏せ 全く出来ない訳ではなくて、少し苦手なだけだ 爺さんに教わっていたのだが 俺もその時は若くてな… さぼってたんですね じと目 …後悔はしている 尻尾を振り 喰人の為の本を探しに行くと言い残し 頭が隠れそうな程の本を抱えて戻って来たと思えば バランスを崩し転んでしまい 周囲に謝りながら二人で本を拾う 派手に転んだが大丈夫か? そんなに持ってくるとは思わなかった |
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設定補完歓迎 赤の蓋 銀狼の耳と尾 黒の神父+戦闘服 街の警備も兼ねて上空からパトロール 時計台の縁に座る 風で髪と服の裾が翻る 急に耳と尾が生え驚く 急に触られびくっと反応 少し敏感になってる模様 すぐ治してもらう為に病棟へ 病室で薬探す 背後から殺気を感じて振り返りガード お返しとばかりに手首掴んで引き寄せサーシャの耳を噛む 台詞 世間はハロウィンで賑わってるが俺には無関係だ 浄化師に休みは不要だろう どういう意味…な、何?!サーシャお前、知っててわざとか…! こんな姿で出歩いていたら俺まで浮かれていると思われる 一度戻る …度が過ぎるぞ (溜息)俺らに甘い”悪戯”は似合わないと思わないか? お前がその気なら俺にも考えがある |
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~ リザルトノベル ~ |
● 病棟の個室のベッドに腰かけた『シャルル・アンデルセン』は、つまり、と首を回して自身の背後に目を向けながら言った。 「これは魔法のプリンのせいだったんですね」 「先日、保護された見習い魔女の悪戯ですか」 病室の扉を閉めた『ノグリエ・オルト』のいつもの笑みに、わずかな困惑が混じる。 先ほど世俗派の魔女から聞いた話によれば、朝食のデザートとして提供されたカボチャプリンのカボチャの一部に、見習い魔女が魔法で悪戯をしたらしい。 食べた者は一定時間後、耳と尾が生えてしまうそうだ。ちょうど、シャルルのように。 「耳と尻尾が生えただけですよね?」 「はい。痛みも違和感もありません」 シャルルの尾てい骨あたりに生えてしまった尾が、ぱたんとシーツを優しく叩く。頭の上に立った一対の三角耳も、ぴこぴこ動いた。 見た目が少し変わったこと以外、害はないと魔女は保証している。シャルルの様子を見る限り、そこに偽りはないようだ。 ならば今回は許そうと、ノグリエは小さく息をついて苦笑した。 「まぁ、しばらくすれば治るとのことですし。今は様子を見ましょうか」 「ゆっくりさせていただきましょう」 柔らかに笑んでシャルルが頷く。ノグリエは悠然とした足どりで部屋を横切り、彼女の隣に腰を下ろした。 「しかしずいぶん愛らしいことに……」 「狼さんの耳と尻尾だそうですよ」 砂糖菓子のように白いシャルルの髪と同じ色の尾と耳が、また動く。ノグリエはにこにこと、それを眺めていた。 「慣れてないから変に感じますが、ライカンスロープさんはこんな感じなんですね」 長すぎず短すぎない尾やぴんと伸びた耳に、シャルルは興味深く触れる。動物とほとんど同じ手触りだった。 「ふふ、似合っていて可愛いですよ」 「似合っていますか?」 蜂蜜に似た金色の目を瞬かせてから、シャルルははにかんだ。尾がシーツを滑る音が、心地よく病室の空気を揺らす。 「この間は赤ずきんの格好をしましたが、今回は狼さんです」 「なるほど、赤ずきんの狼ですか」 あのときのシャルルも愛らしかったと、ノグリエはしみじみ頷いた。ふわふわしたスカートが、優しい雰囲気の彼女によく似合いだったのだ。 「まぁ、こんなにも可愛い狼だったら、食べられてもいいかもしれませんねぇ」 「私になら食べられても構わないんですか?」 満面の笑みで頷いたノグリエに、シャルルは慌てた。 「きっと痛いですよ?」 「食べられるわけですからねぇ」 赤ずきんという童話の中で、狼は少女を食べるために策を練る。そこに慈悲はなく、ただ生物としての欲求があるだけだった。 一方で眼前の少女は、いっときとはいえ狼を名乗りながら、ノグリエを食べたくないと頭をひねっている。 それがどうにもおかしくて。 残酷になんてなれず、痛みを与える悪戯も仕掛けない、愛らしい狼に男の慈愛に満ちた笑みは深まった。 「本当にいい子ですね」 「ノグリエさん?」 見上げてくるシャルルの頭を、ノグリエは優しく撫でた。 「シャルルだったら、大歓迎です」 もしかしたら、食べられるときに痛みも感じないかもしれない。それでシャルルが満たされるなら、ノグリエに異議はないのだ。 「うう……」 彼を説得しようにも、うまく言葉を見つけられなかったシャルルは眉尻を下げて小さく唸ってから、視線を逃した。 「そう言われるとなんだか照れちゃうといいますか……。ちょっと恥ずかしいです」 冗談でもなんでもなく、ノグリエが本心から思っていると分かってしまうだけに、落ち着かなくなる。 「……あの、撫でるの、ちょっとやめてください……」 「気持ちいいですか?」 嬉しそうに動く尻尾に満足しながら、ノグリエは問う。もちろん手はそのままだ。 魔法の産物である尾と耳は、感情に強く繋がっているらしい。シャルルの尾が特に反応したのは、ノグリエが隣に座ったときと、今だった。 上機嫌のノグリエに、シャルルは頬を膨らませる。尾は左右に揺れていた。 「ノグリエさん、私をからかって遊ばないでくださいー」 「いえいえ、からかっているわけでも遊んでいるわけでもないのですよ」 全体的にわりと本心だ。 しかしこれ以上、撫でていると本音はどうあれシャルルに怒られてしまいそうだったので、ノグリエはひとまず手を離すことにした。またあとで、撫でると決める。 「まぁ、とりあえず時間はありますし、ゆっくりしましょう」 「そうですね。近ごろなにかと忙しかったですし」 主に怨讐派の魔女が原因であり、事件は解決に至っていない。気を抜けないハロウィンはまだしばらく続くのだ。 これは、騒動の合間の小休止。 「料理係の方にお茶とお菓子を用意してもらいましたから、それで機嫌を直してください」 「お菓子を用意してくださったんですか?」 ノグリエが離れたことで動きをとめていた尾が、また少し振られる。お菓子、という単語に耳も反応していた。 笑みを口元にたたえながら、ノグリエはテーブルに置いてあった包みを開く。焼き菓子とポットに入ったお茶、二人分のカップを出した。 カップにお茶を注ぐと、湯気とともに華やかな香りが室内に漂う。シャルルの表情がほころんだ。 「お茶はシャルルが最近、気に入っていると言っていたものですよ」 「なんだかごまかされている気もしますが……。いただきますね」 「どうぞ。お代わりもありますよ」 少女の手にカップを渡し、ノグリエは微笑む。シャルルは香りを楽しんでから一口飲み、幸せそうに頬を緩めた。 その表情を見るだけで、ノグリエの胸も甘く柔らかな感情で満たされる。 至上の幸福を感じながら、男は思わず少女の頭を撫でた。 ● 朝食後、食堂から出た『ベルトルド・レーヴェ』は、なにかを探すように視線をさまよわせながら歩いてくる『ヨナ・ミューエ』とその異常に気づき、声をかけた。 「おはよう。どうした、仮装の季節はもう終わったはずだが」 「おはようございます、ベルトルドさん。まだぎりぎりハロウィンですよ」 彼を探していたヨナは、内心で胸を撫でおろす。ゆらりと左右に振られた尻尾を、ベルトルドは見ていた。 「どうもこうも、あたりを引いたみたいで」 「さっきから騒ぎになっている、あれか」 「それです」 見習い魔女が魔法で悪戯したカボチャで作られた、カボチャプリンを食べたのだ。おかげでエレメンツのヨナの頭には三角の耳、尾てい骨のあたりからはふさふさした尾が生えてしまった。 他にも被害に遭った浄化師は多数いて、それぞれ方々で謝罪している世俗派の魔女たちから説明を受けていた。 混雑時を避けてベルトルドは食事をとったため、事態についてはあらかじめ把握している。 デザートのカボチャプリンは、もちろん安全なカボチャで作られた、普通においしいものだった。 「他に異常は?」 「ありません。夕方になれば自然と治ると言われました」 発熱も倦怠感も痛みもない。ただ、感情と密接に繋がる耳と尾が生えただけだ。 ゆえに、ヨナは早くも割り切っていた。 「まぁ、怪我でも病気でもないですし……。時間もあるので、図書館に行きましょう」 「ふむ。読書か」 「ベルトルドさんのお勉強です」 なにも、念のため一緒にいようとベルトルドを探し回っていたわけではない。 せっかくだから休暇をとってもいいと言われたとき、真っ先に思いついたのが勉強会だったのだ。 場所は移り、魔術学院。教団の敷地内に建つこの棟は、図書館でありながら魔術を学ぶ学校の側面も有していた。 騒動が収まりきっていないためか、単に時間帯の問題か。多くの書架が立ち並ぶ二階は、係の者たちが静かに働いている程度で、ほとんど人気がなかった。 「読み書きが苦手なんて……。今までよくやりすごせましたね」 びっしりと並んだ本を見上げていたヨナが、横目でパートナーを見る。ベルトルドは耳を伏せた。 「まったくできないわけではなくて、少し苦手なだけだ」 図書館という場所ゆえに声量を落としているのではなく、言いづらいことをどうにか絞り出しているような語調で、ベルトルドは続ける。 「爺さんに教わっていたのだが、俺もそのときは若くてな……」 「さぼってたんですね」 「……後悔はしている」 目をそらしたベルトルドの肩が、がくりと落ちる。 半眼になっていたヨナの尾は、ほんの少しだけ左右に揺れた。 「今回はしっかり覚えてくださいね」 「ああ」 真剣な表情でベルトルドが頷く。説明も案内板も自分で読めるくらいにはなってもらおうと、ヨナは気合を入れた。彼女の感情にあわせ、魔法で生じた狼の尾と耳も動く。 「では、私は教材を探してきます」 「頼んだ」 ベルトルドが頷くと、彼女は楽しそうに尾を振りながら林立する書架の間に消えていった。 「俺は席の確保でもしておくか」 行儀よく並ぶ書物の背表紙に目をやりながら、ベルトルドは片隅に用意された机のひとつに向かう。幸いなことに席はどこもあいている。 「静かでいいところだな」 しばらく待っていると、足音が聞こえてきた。そちらに目を向けた瞬間、血の気が引く。 「ヨナ!」 小柄なパートナーが、両手で大量の本を抱えてやってきた。視界を確保できていないどころか、ほとんど頭が隠れるほど厚みも大きさも違う本を積み上げている。 当然、足どりは右に左にと頼りない。 「あ……っ!」 とっさに駆けたベルトルドの手は、あとわずかのところで届かなかった。 ばさばさと本が落ちる音を立てながら、体勢を崩したヨナが転ぶ。受け身さえとれていなかったはずだが、ヨナは慌てて起き上がると、視線を向けてくる司書たちに小声で謝りながら本を集め始めた。 彼女の側で屈んだベルトルドも、周囲に謝りつつ本を拾う。 「派手に転んだが、大丈夫か?」 「問題ありません」 「そんなに持ってくるとは思わなかった」 「あれもこれもと思っていたら、いつの間にか……。確かに欲張りすぎました」 少し不貞腐れたような口調で言い、ヨナは立ち上がる。しかし、その耳は髪につきそうなほど伏せていて、尾は丸まっていた。 平気そうに振舞っているが、打ちつけたところも痛むだろう。ベルトルドの胸も、針で刺されたように痛んだ。 「いや、まさかこれほどやる気を出してもらえて、嬉しいくらいだ」 半分以上の本をさり気なく持ったベルトルドは、感心した口調で言ってわずかに尾を振る。ヨナは明後日の方を向いた。 「……あ、えっと。やる気を出したのはベルトルドさんで、私は、別に……」 ほとんど消えてしまった語尾に反し、彼女の耳と尾は元気に動く。感謝されて喜んでいることは明白だった。 「分かりやすいな」 笑みを含んだ声で言われ、ヨナは慌てて片手で耳を押さえて息をのんだ。 「っ、ちょっと、そういうのよくないですよ。私は思っても言ったことないのに」 「分かりやすい? 俺が?」 心外だと言わんばかりの表情になったベルトルドに、ヨナは大きく首を縦に振る。 「わ、分かりますよっ。さっきだって……!」 「図書館ではお静かに」 「……はい」 忍び寄るような足どりでやってきた司書に注意され、二人は耳と尾を下げた。 「……勉強、始めるか」 「そうですね。みっちりやりましょう」 「手加減してくれ」 肩をすくめるベルトルドに、ヨナはただ尾を振る。苦笑して席に向かうベルトルドの尾も、ゆらりと左右に動いた。 ● 時計台に一組の浄化師が舞い降りる。 「街に異変はないようだが……。教団内は今朝から妙に騒がしいな」 なにか知っているかと、『ヴァレリアーノ・アレンスキー』は視線で『アレクサンドル・スミルノフ』に問いかけた。 広げていた翼を畳んだアレクサンドルがかすかに口の端を上げる。底の知れない紫瞳は、すべてを知っているようにも、なにも知らないようにも見えた。 「なにかあれば招集がかかるか」 呟き、ヴァレリアーノは視線を移す。 時計台から見下ろせるエルドラドの街並みは、オレンジと黒のハロウィンらしい色に染まっている。先ほど上空から視察を行ったが、朝市で賑わっている程度で、暴動は起こっていなかった。 「ハロウィンが最も盛んなのはリュミエールストリートだったか。行くぞ、サーシャ」 世間はハロウィンを楽しみ、連日の大盛り上がりを見せているが、二人には関係のないことだ。浄化師に休みは不要、というのがヴァレリアーノの考えだった。 まして今年は怨讐派の魔女による凶悪な犯行の情報がもたらされている。市民に被害が出ないよう、いっそう身を入れて安全の確保に努めなくてはならない。 「そう言うと思っていたのだよ」 沈黙していたアレクサンドルが頷く。ならば早く行動に移せ、と言いかけて、ヴァレリアーノは気づいた。 彼の瞳の奥。思考も感情も隠す紫の中に、なにかを楽しむような色が閃いた。 「だが、そろそろ現れてくるころゆえ」 「どういう意味……っ」 ひときわ強い風が吹く。 朝の光を受けてきらめいていた銀の髪も、対照的に黒い衣服の裾も翻る。思わず目を閉じたヴァレリアーノは、ふと頭と腰の下あたりに違和感を覚えた。 「な……、なに!?」 頭に、三角形の耳。 尾てい骨の近くから、ふさふさした尾。 指先が伝えてくる情報にヴァレリアーノは驚き絶句し、ぎこちない動きでアレクサンドルを見上げた。 「どうなっている」 「耳と尾が生えたようだがね?」 「そういう意味ではない。原因を聞いているんだ」 強い眼差しを向けられようとも、アレクサンドルは平然としている。 「心あたりがあるだろう、サーシャ」 「はて。悪いものでも食べたのではないかね。時間的には朝食の折であろう」 「……っ、あれか!」 食堂で一緒に朝食をとった際、アレクサンドルがヴァレリアーノにカボチャプリンを渡した。浄化師を含め教団の職員全員にデザートとして配られたものだったが、適当な理由をつけて半ば押しつけられたのだ。 残すのは忍びなく、美味しい菓子だったこともあり、ヴァレリアーノは二つとも平らげていた。 よく思い返してみれば、どうしてか蓋の色が違っていた気がする。 「サーシャ、お前、知っててわざとか……!」 「はて、なんのことやら。我には全く分からぬよ」 くっく、と喉の奥で押し殺したような笑声を上げる彼が、本当になにも知らないはずがない。 一方で、問いつめてものらりくらりとかわされると、ヴァレリアーノは経験から知っていた。 「こんな姿で出歩いていたら、俺まで浮かれていると思われる。誰かに見つかる前に、病棟で薬を探すぞ」 「治す薬があればいいが」 睨み上げてくるヴァレリアーノの、狼らしい銀の耳と尾を見て内心でほくそ笑みながら、アレクサンドルは彼を抱える。さり気なく尾に触れると、びくりと少年の体が震えた。 「触るな」 今にも噛みついてきそうな彼に、アレクサンドルは笑みをわずかに深める。 「偶然であろう」 隠す気もない、堂々とした嘘だった。 幸い開いていた窓のひとつから侵入し、無人の病室から治療室のひとつを目指す。階下は騒がしいようだったが、おかげで医療班の面々と遭遇することもなく、目的地に到着できた。 「風邪……ではないだろう」 軽傷や軽い病の治療に用いられる薬を、棚から出しては戻し、ヴァレリアーノは悩む。 不意に悪寒。 素早く振り返ったヴァレリアーノは、アレクサンドルの手を払いのける。 「なにをされると思ったのかね?」 「やめろと言ったはずだが。……度がすぎるぞ」 懲りる様子のないアレクサンドルの手首をヴァレリアーノは掴み、引き寄せる。 仕置きとばかりに耳を噛んでやると、アレクサンドルは愉快そうに喉の奥で笑い、反撃のつもりなのか、ヴァレリアーノの耳朶を唇で咥えてから、かすかな音を立てながら口づけた。 一向に消える気配のない尾が立つ。 「トリック、イェット、トリート」 すなわち、お菓子はいらないから悪戯させろ。 耳元で囁いたアレクサンドルの手首を離し、ヴァレリアーノはため息をつきながら彼の胸を押して引き離す。 「俺らに甘い悪戯は似合わないと思わないか?」 「くく、ごもっとも」 おとなしく一歩後退したアレクサンドルは、すぅと目を細める。 「汝からなら、歓迎だがね」 「お前がその気なら俺にも考えがある」 戯言だと受けとったアレクサンドルは鼻を鳴らし、双眸に剣呑さをにじませた。 糖蜜のように甘い空気など一片もない。少年の体からにじむのは、機会さえあれば爪と牙を相手に突き立てる、乾いた冷たさだ。 「寝首を掻かれぬようにしよう」 殺気を向けられながらも、アレクサンドルの顔色はわずかも変わらない。むしろ愉快さが見え隠れする。 そうでなくては、面白くないのだ。 ヴァレリアーノがこうであるからこそ、アレクサンドルは惹かれ、契約を決めた。 「知っていることがあるなら早く吐け」 傷跡が残る顔に険しさを宿しながら、ヴァレリアーノは再び薬を探し始める。警戒されていることがひしひしと伝わってくるその背を、アレクサンドルは静かに見つめた。 再び好機が到来するのを、虎視眈々と待ちながら。 ● 朝食のとき、赤い蓋のカボチャプリンを食べた者たちが魔法にかかった。 放っておけば解除されるらしいが、すぐにでも解きたいなら――。 廊下で耳にした話を、だからさっきから騒々しいのか、無害なら別にいいか、と聞き流しかけた『ジャック・ヘイリー』は、ぴたりと動きをとめた。 「あいつ……」 そういえば今朝、偶然食堂で居合わせた『ローザ・スターリナ』が、赤い蓋のカボチャプリンを食べていなかったか。 「特に害はないみてぇだが」 魔法の効果で耳と尾を生やしたローザがどうなるか、全く想像できないと言えば嘘になる。 「めんどくせぇな」 小さく舌を打って呟き、ジャックは足早に歩き出した。頭の中で、彼女が隠れていそうなところを数箇所、思い浮かべる。 「あれも必要か」 途中、食堂に立ち寄ってあるものを用意してもらい、外に出た。 教団の敷地内に点在するガゼボにローザは駆けこんだ。 何度触っても頭には三角形の耳が生えている。恐る恐る視線を向ければ、ふさふさした尻尾が見えた。どちらも狼のそれに似ており、色はローザの髪と同じアイスブルーだ。 「なぜこんなことに」 いつものように朝食を食べた。ジャックと遭遇したのは少し珍しいことだが、それだけだ。 「飲み物だけでなくきちんと食事もとれとヘイリーに言って……、食べさせて……」 先に食堂を出た。 指令を確認しようと思い、廊下を歩いていると秋風と暖かな日差しが思いのほか心地よく、少し遠回りをすることにして。 違和感を覚えた直後に、耳と尾が生えたことを手触りで確認し、人目につかないガゼボに慌てて隠れた。 「はぁ……」 尾も耳も、引っ張ったところでとれない。痛いだけだ。 他に異変がないのは救いなのか。異物の消滅を願いガゼボの長椅子に座るローザには判定できない。 「ここにいやがったか、スターリナ」 少なくとも、こうしてジャックがやってきたことは彼女にとって最悪の事態だった。 心あたり四か所目でようやくローザを発見したジャックは、小さく息をついて声をかけた。 ローザは顔を覆っていた手をゆっくりとテーブルに下ろし、普段と変わらない凛とした表情と、わずかも震えない声で応じる。 「……きたのか、ヘイリー」 一見すれば落ち着いている。だが、彼女の耳はぺたりと伏せ、尾も丸まっていた。 「カボチャプリンに魔法がかかっていたんだと」 「そうか」 「ただしそうなってるのは赤い蓋のプリンを食べた連中だけらしいぞ」 「……その人々に、他の異変は?」 同じ症状が出てしまった他の人々を案じたのか、ローザの耳がわずかに動く。 「ねぇよ。魔法つってもガキの悪戯だ」 安堵したのだろう、円を描いていたローザの尾が線になり、ふらりと揺れた。だがすぐに自分の状況を思い出したらしく、再び耳と尾が元気を失う。 「落ち着いて、おとなしくしてろ」 「この状態で落ち着けるわけがないだろう……!」 感情を押し殺した声以上に、逆立った尾が嘆きを訴えていた。 「貴方が赤い蓋のプリンを食べればよかったんだ……!」 「俺みたいな男に耳と尻尾が生えるのが見てぇのか、お前は……」 「私がこうなるより幾分かましだ」 真剣な口調で言ってくるローザに、ジャックは口の端を下げる。 この姿をジャックに見られることを最も嫌っていたローザは、心の底から落ちこんでいた。試しにジャックに狼の耳と尻尾が生えた姿を想像してみるが、うまくいかないほどに心が沈んでしまっている。 口を開けばため息ばかり出てきそうだった。 「まぁ、なんだ。たまにはいいんじゃねぇか?」 「慰めるな」 「考えてみれば、俺に吼えて突っかかってくるところとか、犬みてぇだったしな」 「そんなことはない」 淡々とした口振りだが、尾と耳を見ればローザの内心は手にとるように分かる。重症だな、とジャックは力なく垂れる尾に視線をやりながら思った。 「あまり私を見るなよ、ヘイリー。……私はひとりで大丈夫だから、放っておいてくれ……」 声音や表情よりも雄弁に彼女の落ちこみ様を語る、魔法で作られた部位を一瞥し、ジャックは懐に手を伸ばす。 「ほらよ」 「……チョコレート?」 静かな目でローザが差し伸べられた菓子を見る。透明の小袋に四つ、花の形のチョコレートが入っていた。 掴もうと手を伸ばすと、ジャックはすっと遠ざける。ローザの尾が長椅子を叩いた。 「……トリックオアトリート。そう言え」 ぶっきらぼうに放たれた、唐突な要求にローザは虚を突かれる。不審がるように耳が立ち上がった。表情はといえば、眉がわずかに動いた程度だ。 今のローザに、ハロウィンに興じている余裕はない。だが相手はジャックだ。そもそもそういったものをローザ相手に楽しむとは思えない。 これは恐らく、不要なことではないと、ローザは結論づけた。無意識のうちに尾の丸みが解ける。 「……トリックオアトリート」 「おう」 可愛らしい菓子がローザの手に渡った。しばらくそれを眺めていたローザははっとして、頭と腰の下あたりに手を伸ばす。 「ない!」 尾と耳が消えていた。他のところに異変が出たのではないかと立ち上がって確認してみるが、どこもなんともない。 「か、解決方法を知っていたのか!?」 「さっき他の奴が治してるところを見かけた」 テーブル越しにつめ寄ってきたローザに、ジャックは素知らぬ顔で応じる。 「は……」 へたりこむように座りなおしたローザを見て、今度はジャックが立ち上がる。 「今のお前なら、耳と尻尾がなくても感情が分かるな」 にやりと笑って去ろうとした彼の背に、ローザの叫びが刺さった。 「……っ、やっぱり、アンタは、いけ好かない!」
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*** 活躍者 *** |
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[4] ローザ・スターリナ 2018/11/05-19:04
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[3] ヨナ・ミューエ 2018/11/04-20:02
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[2] シャルル・アンデルセン 2018/11/03-21:50
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