~ プロローグ ~ |
「この指令は、ようは巡回だ。ただ、普通の巡回はと少し違うから、注意してほしい」 |
~ 解説 ~ |
イベントに参加したくてたまらず飛び込んでみました。 |

~ ゲームマスターより ~ |
愛しいあなた、今宵だけは夢をみせて。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
![]() |
※アドリブ歓迎します ※夢を見るほう ※第2幕 ※追体験 僕の両親はベリアルに殺された。 援護要請を出したのに、教団が来てくれなかったせいだ。 教団なんて滅べばいい! 僕の故郷が滅んだように! 何もかも滅べ、何もかも許さない! でも…ユギルさんはそれを傲慢だと言った。 両親が死んだのも、本当なら僕が… 泣きそうだ。ララエルという存在がなかったら、 僕はとっくに潰れていただろう。 それでも、強くあれとユギルさんは言った。 僕は弱者じゃないのですか? 僕は貴方のことが…ううう。 助けて…ユギルさん。 ララエルにキスだけしておいて、意味も教えず 好きと言えない僕は卑怯だ… (ララエルに起こされ) はっ、は、…は… 大丈夫、何でもないよ。 |
|||||||
|
||||||||
![]() |
第一幕 ※「バイバイ、運命」の夜 立ち会いを許可されなかったのは当然だ 私にはまだ覚悟が足りない …でも今は自分の弱さを嘆いていてはダメだ たとえ立ち会えなくても、私がすべき事は 彼女(アリラさん)が安らかに逝ける事 彼女が逝った後も 父のまねごと程度だが、祈りを捧げつつ明け方まで外で護衛を続ける 彼女の冥福を祈りたいのと、あと一つ イザークさんは自分の事の様に言ってくれようとした ショックを受けた私を気遣ってくれた 私は弱いけれど、せめて彼と同じくらい優しい人になりたい 夢の後: ……夢です(目を合せず) (反省ももちろんありました、が、一晩中イザークさんを付き合わせる訳にもいかないし…) |
|||||||
|
||||||||
![]() |
これが…ロメオさんが苦しんでいた『過去の自分』なんでしょうか。 今のロメオさんとは雰囲気からして違います。 アンデッドになったからってここまで性格が変化することってあるんでしょうか? 変わってはいないと? それなら…今のロメオさんはきっと昔のロメオさんがなりたかった自分なのかもしれませんね。 「嘘とお菓子は甘い物」 二人で考えたアブソリュートスペルでしたが私にはわからないところがあったんです。 私にとっての嘘は占いだとして。 貴方にとっての嘘とは? 私は誰か他の為になるのなら嘘だって吐く。 貴方は自分の為に沢山嘘を吐いた。 それは甘いお菓子のようなもの…。 …今なら分かるかもしれません。 (そっとロメオを抱きしめる) |
|||||||
|
||||||||
![]() |
第三者視点 ここがリントの夢の中… 小さいリントと一緒にいる女 茶髪に碧眼のあの女は確かに俺を浚った魔術師だ ただ違うのは、夢の中の彼女が優しい表情をしていること… リントが惚れるのも無理はないと思うくらいの なるほど、家庭内機能不全による現実逃避…と 悪い、あいつあんな風に笑うのかと思ってな アンタも色々大変だったんだな そういや、アンタの夢の中を見てひとつ思い出した あの女の名前、仲間にマリエルと呼ばれていた 浚われた時に聞いたんだ マリーはあだ名なんだろう 礼を言われるようなことじゃないだろ… 俺は夢は見ない 朝までぐっすりだからな だから見ないって、お断りだ (村焼かれる夢なんて、見てて気持ちのいいものじゃないだろ…) |
|||||||
|
||||||||
![]() |
第一幕 喰人の少年時代の追体験 大分刺々しい印象 知っている喰人より背は低く薄汚く貧相 年齢は様々だが似たような様相の少年少女10人程との生活 物乞いや盗み よからぬ依頼など 生きる為に大体の事は経験していた 度重なる災厄があった後 ベリアルへの対応策も殆ど無い時代 このような集団は珍しくなく 明日も見えない貧困の中 必死に共生していた 若き日の彼にやけに絡む少女がいた ベルトルドと同じか少し年上らしい赤毛の少女 不貞腐れた面持ちの彼にうるさく世話を焼き どうやらその少女にだけは頭が上がらない だが表情ほど不愉快ではなく 薄汚れた生活でその少女の笑顔は皆の救いだった 決して平和とも平凡とも言い難いが 家族のような仲間との日々の夢 |
|||||||
~ リザルトノベル ~ |
美しい人、愛しい人、歌しか知らない君よ、私が愛を教えよう。 (第一幕『歌しか知らず、けれど愛に生きた』) ● しじまの広がる夜のなか、『鈴理・あおい』は目を閉じて、拳を握りしめる。片腕に抱いたマヤだけが優しく寄り添ってくれる。 相棒の『イザーク・デューラー』には一人にしてほしいと口にしてしまった。体に彼のぬくもりが、所々残っている。 一晩中、護衛にあたるなかでイザークが気遣ってくれた。 (立ち会いを許可されなかったのは当然だ。私にはまだ覚悟が足りない) アリラが死んだ。 その間、ただじっとあおいは外で待っていた。 ユギルは口にした。 ――指令という理由だけでは子供の使いと同じ。 (確かに、そうだ。私は) ずっと『指令として』護衛を行い、アリラの死も見届けると口にした。 浄化師としてきちんとした態度で臨むべきだと考えていたが、自分の弱さを見透かされた気がする。 (……でも今は自分の弱さを嘆いていてはダメだ。たとえ立ち会えなくても、私がすべき事は彼女が安らかに逝ける事、それにはどうすべきか) アリラが逝った後も、父のまねごと程度だが、祈りを捧げつつ明け方まで外で護衛を続けることをあおいは選んだ。 死体をすぐには運べないというので、アリラの死に顔を見て、それを丁重にきれいに整え、出発までの僅かな時間帯。 あおいは一人で小屋の近くに立っていた。肌寒い空気、息を吐くたびに白く凍る。 手を握りしめて目を閉じる。 (彼女の冥福を祈りたいのと、あと一つ……イザークさんは自分の事の様に言ってくれようとした。ショックを受けた私を気遣ってくれた。私は弱いけれど、せめて彼と同じくらい優しい人になりたい) すぐには強くなれないけど、それでも。 ふとあおいが目を開けると、優しい日差しが山の間から突刺してきた。迎えられた日差しの優しさと煌めきに息を飲む。 (イザークさんの、髪の色みたい) 父の優しい言葉のように、あおいを包む。 「どうか、」 この世界では神には祈れない。だから。 「アリラさんを迷わず、連れていってください。今まで戦ってきた浄化師のみなさん、生き抜いた人々、どうか」 人に祈る。 どれだけちっぽけでも、祈ることは止めない。 まるで祝福された女神のようだと、イザークはその様子を観客席から見つめていた。 歌が聞こえたときイザークは隣にいるあおいがいなくなって焦ったが、瞬いた次に彼は真っ白い椅子に腰かけ、小さな舞台を見ていた。それが誰の記憶なのか理解していた。 (……この夢は本当? 確かにあの後明け方まで姿が見えなかったけど) アリラについては当然ユギル達がしかるべき対応を行った。それでいいとイザークは心のどこかで考えていた。――あおいに辛いものを見せたくなかった。けれど、今、目の前に広がるのは必死に抗う少女の背だった。 (あおいの行動が役にたつ訳ではないだろう。でも、ただひたすらに、アリラの魂が安らかに逝けるよう、その後も何者からも妨げられぬよう。精一杯自分ができる事をしようとしている) あおいは、れっきとした浄化師だ。まだ未熟でも一人の人間としては優しさも持っている。 (……自分では気付いてないだろうけど) 彼女が、相棒でよかった。 巡回する通路に二人は立っていた。 一夜限りの二人の舞台が終わった。 「あおい、今のは」 「……夢です」 あおいの耳が赤いのを見てイザークははにかんだ。 「分かった、夢だな」 「さ、巡回をしましょう」 先に歩きだす。 (あのときの反省ももちろんありました、が、一晩中イザークさんを付き合わせる訳にもいかないし) 一歩、二歩と進むあおいの手をイザークの手がとった。はっと振り返るとイザークの優しい瞳と視線がまじりあう。 「ただし同じような事があれば俺にも声をかけること」 「……」 「俺は君のパートナーだ。そして浄化師だ。二人で、立派な浄化師としてやっていきたい」 「……っ。はい!」 ● 少年は絶望していた。 明日もまた同じ。 今日とまた同じ。 ナイフのような瞳を細めて、自分たちを利用しようとする大人に噛み付いては殴られ、同じように殴られそうな子供をかばってはまた殴られた。苦しくて、ひもじくて、涙なんてとっくに涸れ果ててしまった。 そのなかにエレメンツの幼い少女が立っている。少女は不安と恐怖と絶望に胸が焦げてなにも言えない。 子供たちは下は赤ん坊から、上は十六歳くらいまで。彼らが生活をするのはぼろぼろの小屋、世話をしてくれる大人たちに従うしかない。彼らに金を払わないと殴られる。だから必死に稼ぐしかない。効率よくやるためなら力のない老人から盗みをした、騙すこともした、物乞いとして弱いふりをして恵みをかき集めもした。 エレメンツの幼い少女はもたもたしては殴られそうになって震えていた。それを守ってくれたのは緑色の瞳をした少年で。彼は黙って少女を一瞥した。 こうなった原因がなぜか、どういう理由かなんて考えることもなかった。考えられなかった、というほうが正しい。明日にはもしかしたら誰かが死ぬかもしれない。そうしたらまた同じような子供がやってくるのだ。 また明日も殴られる。腹がすく。金を集める。 単純な毎日の繰り返し。 そのなかに鮮やかな赤だけが輝いていた。 「ベルトルド、ほら、これも食べなさいよ」 明るい声に赤髪の彼女は自分のパンを差し出した。エレメンツの少女はそれを見ていた。 「お前がくえ」 「おなか減ってない、です」 少年の話をふられてエレメンツの少女が慌てる。 世話焼きな彼女は笑いながら二人にパンを押し付けてくる。 「アタシのほうがうんと稼ぎが多いんだから、ほらほら」 「……むぐぅ」 「はぐぅ」 「いっぱい食べて、がんばって力を出して、守ってね! ああもうあっちで泣いてる! 喧嘩はだめよ」 幼い、寄せ集めの家族たちのために彼女が走り回る。 みんな彼女にだけは頭があがらない。楽しそうに、笑って世話を焼かれる。 また明日。 今日も同じ日々。 殴られる。腹がすく。金を集める。彼女に、世話をやかれる。 ふっと少年は唇を吊り上げる。 寄せ集めのつぎはぎだらけの、平和でも平凡もない、絶望ばかりしていたが家族がいた。 赤髪の彼女が笑顔――黒く塗りつぶされる。 瞬いた刹那、『ヨナ・ミューエ』は、巡回していた路地に立っていた。 あれは『ベルトルド・レーヴェ』の過去だ。 自分もあのなかで絶望と恐怖を味わい、まだ胸の中に広がっている。 ベルトルドの過去という舞台に放り込められ、翻弄され、登場人物となって味わった。 事前にパートナーとなる相手の情報は最低限資料で確認した。だからこのあとがどうなるかは知っている。 このなかで生きて成長したのはベルトルドだけ。 ちらりと横を見るとよろけていたベルトルドがはぁと息をついて髪の毛をかきあげていた。 (よりにもよってこの記憶か) 目を眇めたベルトルドはちらりとヨナに視線を向けた。 「あ……あの……ごめんなさい」 「魔女の魔法だ。謝る事じゃない」 持ち直したベルトルドが言い返す。 「そうですけど、勝手に人の記憶を覗き見るような事」 「……だった」 「え?」 「初恋だった。でも告白は出来なかった」 「……」 「あの頃の俺は、どうして同じ生活がずっと続くと思い込んでいたんだろうな。出来なかった事への後悔というのはもうしたくないもんだ」 吹っ切るような、諦めのような口調でベルトルドは言い返すと天を仰ぐ。 あの舞台の上で見ただけで十二分にベルトルドの思慕の強さは伝わってきた。 不意に秘密を暴いてしまったような疚しさにくわえて、こんな時気の利いた言葉の一つ出せない自分が情けなく感じる。 もどかしい気持ちをどうすることもできず黙るしかない。 「巡回を続けるか」 先を歩くベルトルドのあとをヨナは追いかける。 ● マリー。花咲くように笑いながら、奇跡――魔術を見せてくれた。 母は僕にかまってきた。 笑顔で、ねぇ、どうしてほしい。だめよ、ケガをしちゃう。私があなたにしてあげる。笑顔で迫って来る手がいつもなにもかも奪っていく。 そんな僕を父はひどく冷めた目で見つめていた。 お父さん、と呼んでも無視をしてないもののように扱った。ただその瞳が奥で燃える炎を抱えていることに気が付いた。 憎まれている。 理由はよくわからないのに、理解した。 牢獄のなかのような日々のなかで、花が咲いたのはいつだったのか。 家の庭で、マリー、君は笑っていた。 ――夜を集めたような素敵な瞳ね 小さな花咲く庭の端で、マリーは歌うように魔術をみせてくれた。輝くような奇跡。宝石よりもずっと貴重で、息することすら忘れる。 幼いなかに見える妖艶さと無邪気さ。 マリー。 僕の言葉を熱心に聞いてくれて、相槌を打ってくれた。 とろりとしたミルクのような笑顔に溶かされて、蜂蜜みたいに心を満たしてくれる。 やさしいマリー。 宝石みたいなマリー。 彼女は急に姿を消した。 自分でもわからないうちに種をまいて、花を咲かせようとしていた恋心はまだ蕾のままどんな色で咲くかもわからず、まだ胸の中にある。 はやく、君に会いたいな。マリー。 白い椅子に腰かけていた『ベルロック・シックザール』は帽子のつばを握り、深くかぶる。 これは『リントヴルム・ガラクシア』の夢だ。 瞬いたとき、自分はここに座り、舞台を見ていた。 「ここがリントの夢の中……小さいリントと一緒にいる女は」 見覚えのある茶髪に碧眼のあの女は確かに記憶にある自分を攫った魔術師だ。 ただ違う点をあげるとしたら、夢の中の彼女が優しい表情をしていることだ。べルロックはあんな風に笑う彼女を見たことがなかった。 (リントが惚れるのも無理はない) 自分はあの女のあんな顔を見たことはない。胸の奥が微かに痛みを発する。甘く、切ない。 (違う。惹かれてなんていない……俺は憎いはずだ。あの女が) 舞台で少女……マリーは常にリントヴルムを見つめて、目を細めて笑っていた。 自分が覚えているマリーの表情はどんなものだった? 一瞬記憶を辿ろうとして、世界が暗転する。 二人は巡回していた通路に立っていた。 「夢が終わったのか」 「すごい魔法だね。あの舞台の続きを言うと、そうして僕は、彼女にもう一度会うために家を出たってわけさ」 魅力的な笑顔をリントヴルムがこぼすのに、ベルロックは肩を竦めた。 「なるほど、家庭内機能不全による現実逃避……と」 「逃避じゃないし! 元々家は出たかったしマリーは本当に可愛かったんだからね? 浄化師になって縁切りできて万々歳さ!」 「悪い、あいつあんな風に笑うのかと思ってな。アンタも色々大変だったんだな」 尻尾をひらりとふって言い返すベルロックは少しだけ迷ったあと付け足した。 「そういや、アンタの夢の中を見てひとつ思い出した。あの女の名前、仲間にマリエルと呼ばれていた。浚われた時に聞いたんだ……マリーはあだ名なんだろう」 リントヴルムはきょとんとしたあと、ぱっと笑顔になった。宝石を手にした子供のように。 「マリエル……! マリー、キミのことがまた一つ分かったよ。嬉しいなあ、ありがとうベル君」 嬉しそうに告げるリントヴルムにとっては、その名がどんな財宝よりもずっと価値があるものなのだろう。 「礼を言われるようなことじゃないだろ」 「そんなことないよ。ところで、キミは夢見ないの? 僕だけ見られるのって不公平じゃない」 「俺は夢は見ない。朝までぐっすりだからな」 「……嘘だね、絶対いつか見てやる」 軽口を無視してベルロックは歩きだす。 「だから見ないって、お断りだ」 ふと天を仰げば皮肉なほど美しい夜空が広がっている。 (村焼かれる夢なんて、見てて気持ちのいいものじゃないだろ……) 心の中で愚痴って、大股で一歩踏み出す。 ● 奪う者よ、心して聞け。我が煉獄の炎はお前たちを塵にするまで消えはしない! (第二幕『報復は煉獄の炎、我が心に宿るは奈落』より) ● 『ラウル・イースト』はしあわせな家庭で育った。母は愛情深い人だった。父は尊敬できる人だった。 けれど。 そんな幸せは簡単に壊される。 ベリアルが現れたのだ。 屋敷に侵入する化け物にただ逃げ惑うことしか出来なかった。ラウルを守ろうとして母と父が囮になった。止めることも、抗うことも、出来なくて、ただ震えるしかできなかった。それでも目を向けた。優しい世界が真っ赤に染まり、狂ったような声を荒らげるベリアルにラウルは途方にくれるしかできない。 必死に援護要請を出したが、教団が間に合わなかった。 なにもかも壊れるのは一瞬。 来てくれなかったせいで。 保護しにきた教団の者にラウルは噛み付いた。体力があるだけ暴れて、呪いの言葉を吐いた。そうするしかできなかったからだ。心のなかにある怒りや絶望や喪失を、そうすることでしか示すことが出来ないからだ。 教団なんて滅べばいい! 僕の故郷が滅んだように! 何もかも滅べ、何もかも許さない! でも……ユギルさんはそれを傲慢だと言った。 舞台で一人ぼっちのラウルは思考する。今、彼はもう教団の服を身に着けている。絶対に身に着けたりしないと、口にしながら、ララエルという大切な人を手に入れて、教団を家にしようと二人で決めて。 一人の舞台でラウルは演技を忘れた役者のように途方に暮れる。 両親が死んだのも、本当なら僕が……守らなくちゃいけなかった? けど自分に何が出来た? どうすればよかった? 失ったとき復讐を誓ったけれど、それはそうしなくては息すら出来なかったからだ。 ああ、泣きそうだ。ララエルという存在がなかったら、僕はとっくに潰れていただろう。それでも、強くあれとユギルさんは言った。 「僕は弱者じゃないのですか? 僕は貴方のことが……ううう。助けて……ユギルさん」 一人の舞台で苦し気に胸を抱えてラウルは問いかける。 「ララエルにキスだけしておいて、意味も教えず、好きと言えない僕は卑怯だ……」 不意に頭に優しくなでる感触がした。はっと顔をあげると、その人がいた。 「あ、僕っ……」 「過去の幼い己を許しておやり。幼い子に罪はない。お前を生かしたいと思った人たちのために。許せないなら、吾が許そう」 「……っ」 ゆっくりと息を吐く。呼吸が少しだけラクになった。 これは夢だ。この人だって、これは責任転嫁する己の見せている、夢にすぎない。けど。 「失わないために己を守るのか、それとも、相手を幸福にするため愛すのかよくお考え」 腕を伸ばされて、手をとられる。 その姿がララエルになった。 優しい笑顔を浮かべて、――ラウル。名前を呼んで、くれた。 ――ラウル! 「ラウルがケーキを沢山食べられて、蜂蜜を飲めてる夢なら良いんですが……凄い汗……」 持っていたハンカチでラウルの額の汗を拭う『ララエル・エリーゼ』は心配でおろおろしていた。 歌が聞こえたとラウルが口にしたとたん、倒れてしまったのだ。 「もしかして悪夢なんじゃ……?」 悪夢は、もしかしたら両親を失ったときのことだろうか? 「うう、ああああっ、やだ、やだあっ、ごめんなさい、ごめんなさい……っ」 「ラウル、ラウル!? 大丈夫ですか……?」 「きみの……体だけ……好きに弄んで……っぼく、は……さいて……っ」 「え?」 ララエルは目を瞬かせる。 (そう言えばラウルは、私にキスをしますけど、どういう意味なのでしょう? 特に意味はないのでしょうか……挨拶という事でしょうか? けど、けど) ララエルは目の前で苦しむラウルに考えることをやめた。 「ラウル!」 「あ、は……っ」 ラウルは目を開けて、息をする。口をぱくぱくさせて、全身から力を抜く。 「ラウル、大丈夫ですか?」 「はっ、は、……は……大丈夫、何でもないよ」 ふぅとラウルは息を吐いて、ララエルを見た。 「名前を」 「え?」 「呼んでくれて、ありがとう。ララ」 ララエルはにこりと微笑んだ。 ● 「本当に、お嬢ちゃんは可愛いね」 笑いながら嘘を吐く。 「持病なんだ。ああ、気にしないでくれ……お嬢ちゃんのためだしな」 息をするように嘘を吐く。 「俺の名は『ロメオ・オクタード』。お嬢ちゃんを守るぜ」 本当に混ぜて嘘を吐く。 どれも誰かを貶めるための嘘。 「俺はかわいそうな人間なんだ。貧しくて盗みや人をだますしか生きるすべがなかったんだ。なぉお嬢ちゃん、わかってくれるだろう?」 ……自分の為に嘘を吐く。 やめてくれよ。今更。 ロメオが心の中で本当を吐き出しても、体は止まらない。唇は勝手に嘘を紡ぐ。まるで甘いお菓子のように。 舞台の上でロメオは無垢な「お嬢ちゃん」を相手に笑い、病の母のためにも金がいると嘘を吐く。彼女は心配そうな顔をしてもっているものを躊躇いもせず差し出してくれた。 陥れたことによって得た金で、ロメオは笑う。 やめろ! それが悪いことだってわかってるだろう! 一人のロメオが叫ぶ。それに金を握りしめたロメオは呆れた顔をして肩を竦めた。 悪い事? わかってるさ。 わかっているならしなきゃいい! でも、生きるためには金が要る。 二人のロメオは向かい合う。 金を手に入れた嘘つきのロメオはにやにやと笑い、対峙するロメオは厳しい顔で拳を握る。 正義ぶって。それでお前、何も持ってないじゃないか。 うるさい! 俺は人より嘘を吐くのが上手だったからそれを使って生きただけ。 ……っ。 自覚があるんだろう? 今更。いい子ぶってどうるすんだ? なんでか覚えてた鍵開けも薬の知識もそうやって生きるための物。 沈黙するロメオは笑っているロメオに何もできない、反論も、武器もどこにもない。 「ロメオさん」 はっと二人のロメオが顔をあげる。 ロメオがにらみ合う舞台の上に『シャルローザ・マリアージュ』が立っていた。 絶望に声が漏れた。 たぶん、一番みられたくない相手に自分の汚いところを見られてしまった。 「これが……ロメオさんが苦しんでいた『過去の自分』なんでしょうか。今のロメオさんとは雰囲気からして違います」 くすくすと金を持ったロメオが笑う。そりゃそうさ、嘘つきなんだから。 違う。違う。だから。ああ、くそ。 もう一人のロメオが苦しむのに、二人の間に立つシャルローザはゆっくりと二人を見比べる。 なぁ、お嬢ちゃん。俺はやっぱり悪い人間だったよ。悪い人じゃないなんていってもらったけれど……この様だ。 泣くように苦しむロメオが告げるのに、シャルローザは口を開いた。 「アンデッドになったからってここまで性格が変化することってあるんでしょうか? 変わってはいないと?」 二人のロメオは沈黙する。 「それなら…今のロメオさんはきっと昔のロメオさんがなりたかった自分なのかもしれませんね」 にこりと笑って告げる言葉が悪い呪いを解くように、ロメオの心を包み込んだ。 「今の俺がなりたかった俺? あぁ、そうかあの時の俺もこんな風に生きたかった」 ようやくはっきりと声が出せたロメオは目の前を見る。笑っていた過去が消えた。 「『嘘とお菓子は甘い物』。二人で考えたアブソリュートスペルでしたが私にはわからないところがあったんです。私にとっての嘘は占いだとして。貴方にとっての嘘とは? ずっと考えてました」 シャルローザが近づいてくる。 「私は誰か他の為になるのなら嘘だって吐く。貴方は自分の為に沢山嘘を吐いた。それは甘いお菓子のようなもの……今なら分かるかもしれません」 そっと抱きしめられてロメオは途方に暮れてじっとシャルローザを見つめた。 このままだと、愛されていると自惚れてしまいそうで。 気が付いたとき、二人は通路に抱き合い、立っていた。 ● 沈黙のなか、あおいはイザークの服を掴み、指さす。 「あれは」 イザークが呟いた。 「魔女なのか」 舞台の上に夜を集めたドレスを身に着けた女性が立っていた。彼女は星屑を集めたような煌めく布で目を隠し、歌い終わると唇を閉ざし、演出者となった、または観客となった浄化師たちに一礼をした。 沈黙。 かつん、かつんと足音がする。 舞台の上に現れたのは朝の光を集めた様な白の衣服を身に着けた男。彼は一礼とともに踊りだす。優しいリズムのステップを踏み慣らし、ゆっくりと魔女に近づいていく。 「あ、ああ、ああ、ああ、愛しい人、もう決して置いていかないで」 かつん、と踏み鳴らす靴音がこたえ、二人の魔女は手をとる。 ゆっくりと円をかいて踊る魔女の姿。 浄化師たちは見る。 舞台の上で広がる――二人の魔女は出会い、恋に落ちた。歌しか知らない魔女と踊ることしかできない魔女。互いに引き離された恋人たちが、再び巡り合うことを望んで作り上げた魔法。 ――もし、孤独で耐え切れなくなったらどうか歌って。二人の舞台で、必ず迎えに行くよ。 朝の一筋が差し込み、舞台は終わる。 二人の魔女は抱擁とともに塵へとかわる。 それがこの魔法の結末。 孤独な魔女が幸せな過去を夢見て、死ぬことのできる魔法。 拍手ひとつない沈黙の舞台にはなにも、残りはしなかった。 ただ観客であり、演出者となった浄化師たちだけが立ち尽くす。
|
||||||||
![]() |
![]() |
![]() |
*** 活躍者 *** |
|
![]() |
|||
該当者なし |
| ||
[2] ラウル・イースト 2018/11/03-08:38
|