~ プロローグ ~ |
ここは、「教皇国家アークソサエティ」芸術と音楽の街オートアリス。 |
~ 解説 ~ |
・オートアリス |
~ ゲームマスターより ~ |
ラブコメラノベの定番イベントの一つですね。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【シャルル】 劇の代役という事で精一杯頑張らせていただきますね! ノグリエさんと出会うまでは劇団にいたのでその経験を活かすことが出来れば。 といっても劇団では主に歌とダンスをしていたので劇に参加することは少なかったのですが…。 『ロメオとギュレッタ』は人気で劇団でも何度か公演したことがあります。 私も好きで憧れてたのでそのヒロインをやれるというの嬉しい反面、責任は重大です。 ノグリエさんとも呼吸を合わせてきちんと演じたいですね。 台詞をきちんと覚えないと…ご一緒するノグリエさんに恥をかかせるわけにはいけませんから! 素敵なギュレッタを演じられるよう頑張りますね。 ノグリエさんのロメオ姿が見られるの楽しみです。 |
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◆心構え ・人前で何かするのは怖いが人助けはしたい え、えぇっ!演技なんてそんな! しかもヒロイン?瞬さんの相手?? 大根以下のわたしなんかが相手で大丈夫なんですか! …でも困ってる方は見過ごせません…うぅ… ◆練習 ・瞬と一緒に台本の読み合せ 自信…うぅ…頑張ります…! 瞬さんはなんでそんなに慣れてるんですか? そうなんです?(これが天性…みたいな感じなんでしょうか…) ◆本番 ・瞬の演技力に目が点、動揺して噛み噛みながらも台詞を言い通す ・手の甲へのキスはド緊張 (ま、ままま瞬さん!!?) 「ロ、ロメオ…わ、私も憎み合いたくないわ!共に参ります!」 (ひえぇぇぇ手の甲にキッ…!!!!) 瞬さんの意外な姿…びっくりしました… |
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※まだお互い友人認識 ●練習 碧希君、碧希君 (こそっと)……最後に手の甲にキスするのってどっち? ともあれ練習ね、劇とかやった記憶もないけど やるからには見られるものを目指すわよ そうね、ここはより得意な人に任せましょう リードお願いします! (ラストシーン付近の練習で度々ぼんやり) あ、ごめんなさい! ええと次の台詞は…… ●本番 (練習通り台詞も動きもちゃんと出てくる 問題の終盤、ヒロインが涙するシーンには本当に涙を零す 様子) (終わってからはぼんやり) あ、ええ、あ…… (無意識のまま涙ぐみ、碧希にふわりと抱き着き) ……碧希君は、いなくなったりしないわよね? 劇みたいにならないわよね……? (涙のわけは思い出せないまま) |
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~ リザルトノベル ~ |
●顔合わせ 教皇国家アークソサエティ東南のオートアリス。芸術と音楽の街。 劇場エリアのとある小劇場にて。舞台の上に10数人の若者が集まっている。 中央の6人だけ、身にまとう雰囲気が異なっていた。 芸術系の学生たちを中心とした劇団員ではなく、薔薇十字教団に所属する人間だ。 ひとりの青年が祓魔人と喰人に頭を下げる。舞台の演出を務める学生だった。 「みなさん。よろしくお願いしますね」 稽古中、不幸な事故が起こり、主役とヒロイン役の俳優が怪我を負った。検討した結果、劇団は薔薇十字教団を頼ることに……。 「私たちに任せてくださいね」 やつれた演出家に、祓魔人の『シャルル・アンデルセン』が声をかける。 彼女は喰人の『ノグリエ・オルト』と一緒に応募していた。 シャルル・アンデルセン。見た目、10代半ばの少女である。 丁寧に櫛入れされた、白いボブカットの髪。蜂蜜のような金色の瞳。ふんわりとマシュマロっぽい雰囲気が漂っている。耳元には、3枚の白い羽飾りをしていた。 シャルルの横にいるのは、ヴァンピールの青年ノグリエだ。年齢はシャルルの10歳ほど上に見える。 茶色のセミロングの髪。左耳近くを小さな三つ編みにしている。 狐目はニコニコしつつも、視線は鋭い。 「みなさん、ボクは演技については初心者ですが……。シャルルの気持ちを裏切るわけにはいきませんから」 ノグリエは相棒のシャルルを一瞥する。 (シャルルに少しでも意識してもらえれば……) 内心そう思いながら、穏やかな笑みを浮かべて言う。 「今から楽しみです」 挨拶を終えたノグリエは、隣の少女に交代しようとする。 「ほら、いづ頑張って」 少年の声がして、茶色い髪の少女が一歩前に出てきた。 「わたしなんか大根未満ですが、がんばります……!」 祓魔人『唯月・杜郷』だった。10代後半に見える少女。緑の瞳は宝石のよう。ヒイラギソウのように陰のある美しさだった。 「いづ……『わたしなんか』は禁止だよ」 唯月の肩に手を乗せたのは、彼女の喰人『瞬・泉世』だった。 アンデッドの青年は外見こそ10代後半であるが、雰囲気は少年のものではない。 彼は青い髪をかきあげる。金とオレンジのオッドアイが、周囲の目を惹いた。 「いづ、怖がらないで。俺が守るから」 瞬は快活な口調で、自分の胸をポンと叩いた。 「瞬さん、すごいです。堂々としてるなんて……」 唯月も緊張が解けたらしく、自然な笑みを浮かべた。 心配そうに見ていた演出家も胸をなでおろす。彼は残りのペアを見やる。 祓魔人『朱輝・神南』、喰人『碧希・生田』だった。 「碧希君、こういうの得意だったわね? リードお願い」 「朱輝ったら……。俺が引っ張るから、適当に合わせて」 「じゃあ、私はマスコット担当で」 朱輝は右手を上げ、人々に愛嬌を振りまく。 髪は赤茶。瞳は日長石のように澄んだオレンジ色をしている。真夏の太陽のような少女の性格に似合っていた。 「どうせ美人じゃないし、元気ぐらいしか取り柄ないもんねー」 均整のとれた健康美をさりげなく見せつける。 「朱輝さー、狙ってやってる?」 相棒の碧希がつぶやく。どっと笑いが起こる。 「みんな、こんな子だけどお手柔らかにね」 色素の薄い金髪の少年、碧希が言う。晴れ渡った空のような天青石の瞳。無邪気な子どもそのものだった。 「もー、碧希君ったらー」 朱輝と碧希の掛け合いは大道芸人のようだった。 一通りの挨拶が終わる。演出家が台本を叩いた。 「君たちには2回ずつ公演してもらうから。さっそく練習を始めましょう」 こうして、稽古が始まった。 ●稽古 練習が始まって、4日目。今日から、動きを伴う立ち稽古が行われる。 一行は都市郊外の公園に来ていた。公園や遠くの山々といった風景を描く画家。オーボエやクラリネットを吹く音楽家。いかにも芸術の街らしい光景である。 3組の代役たちはお互いの声が邪魔にならない距離で練習をする。 太陽が下がり始めた頃、演出家は唯月、瞬ペアの稽古を見ていた。 「あ、あたしは星になってもいい。あ、あ、あなたと一緒に輝けるのなら」 セリフを噛む唯月。正直、ぎこちない。いかにも自信がなさそうというか、自分を表現することに戸惑っているようだ。 どうやって解きほぐそうか演出家は頭を悩ませる。 「……やっぱり、わたしなんかヒロインに……」 「いづ……『わたしなんか』禁止って言ったでしょ。大丈夫。少しずつ良くなってるから」 「そうなんですか?」 さっきよりは声に張りがあった。 「……いづが自分を否定したら、俺が肯定するから」 さりげなく瞬が唯月の指に触れる。唯月は一瞬だけ反応したが、なにかを考え込んでいるようだった。 「瞬さん……なんで、そんなに演技に慣れてるんですか?」 なにげない言葉に、少年はピクンと身体を震わせる。 唯月は相棒の様子に首をひねった。 「あ……答えにくい質問なら、その」 「ううん、そんなことないよ」 瞬は微笑を浮かべて、慌てて誤魔化す。 「俺の演技なんて……ちょっとできるだけだよ」 喰人の少年は心の中で唇を噛みしめる。 「とにかく、いづ……台詞に感情がこもってて、すごく良いと思うよ」 「瞬さん、わたし、もっと、もっとがんばりますから」 演出家は胸をなで下ろした。今度は朱輝、碧希のダブルアキの元へ。 『あたしは、月にかけて誓います。あなただけのモノであることを』 『なら、僕は宇宙に誓約しよう。君だけを愛することを』 ふたりとも伸び伸びと演じている。 技量は平凡だけれども、思い切りがよく、キャラの魅力がストレートに伝わってきた。 演出家が心の中で褒めていたら……。 「ええーと、次のセリフなんだっけ?」 ヒロインのギュレッタを演じる朱輝。清純派ヒロインが、ペロリと舌を出す。 「朱輝、さっきから、セリフ忘れまくりだよ」 「だって、しょうがないじゃん。ランチのサンドイッチがおいしいんだから」 「けどさ、演技はちゃんとできてるのに、セリフだけ忘れたり、間違えたり……」 「なら、碧希君。私がセリフを覚えるまで、寝ないで練習に付き合って」 朱輝はにっこりと微笑んで、とんでもない要求をする。 「もう朱輝ったら。あとで貸しを返してもらうからね」 ロメオ役の碧希はため息を吐く。 演出家は思った。彼に任せよう。かわいそうだけど。 技術的なアドバイスをして、演出家はシャルル、ノグリエのところへ行く。 遠くからでも少女の声が響いてくる。 透き通るソプラノ。豊かな声量。息継ぎの自然さ。かなり洗練されている。 「さすがは、シャルルですね。歌姫なのも納得です」 ノグリエは相棒を褒めちぎると、主演女優は手を横に振る。 「いえ、私は歌とダンスでしたし。演技は素人なんですよ」 「でも、劇団時代にたくさん演技を見ていますよね」 「そうですけど……でも、セリフを思い出しながらなので、感情も込められていません」 シャルルは劇団にいたことがあるとは、演出家も聞いていた。 「あと、もっとノグリエさんと呼吸を合わせたいですし」 「はい、ボクもキミの期待を裏切らないように頑張りますね」 喰人の青年。柔らかな口調に決意がにじんでいた。 「うふふ、ノグリエさん……。一緒に成功させましょうね」 「勿論です。さっそく、練習に参りましょう」 「はい。お願いしますね」 微笑むふたりに午後の日差しが降りそそぐ。 日が暮れるまで、みんなで稽古に励んだ。 時は流れ、チャリティーイベント前日。最後の稽古を終えた薔薇十字教団の助っ人たちは、夕方の街を歩いていた。 丘の上の広場にさしかかる。雲が茜色に染まっていた。見晴らしが良く、街並みを一望できる。そびえ立つ、壮麗な塔。茶色いレンガの家々。緑豊かな庭園と噴水。街そのものが芸術品のようだった。 3組の男女はペアごとに分かれて、美景を楽しむ。 チャリティーイベントの会場となる学校を見下ろして、シャルルが目を輝かせる。 「ノグリエさん、明日からが楽しみです」 「ええ、ボクもですよ。ところで、その……本当にしてもいいのですか?」 ノグリエが問題にしているのは、『ロメオとギュレッタ』の有名なシーンのことである。 クライマックスで、主人公がヒロインの手の甲へキスするのだが……。 『どちらでもいいですよ。あなた方の判断に任せます』 そう演出家から言われていた。 キスシーンの影響で、役者たちが恋愛関係に発展するケースもある。そんな事情もあり、したフリで済ませることも多いとか。特に、学生劇団では役者たちの意思に委ねるのが普通だという。 稽古では、3組ともポーズだけにしていた。 「憧れていた役なんです。立派に演じたいですし。ノグリエさんが嫌でなければ……その……」 祓魔人の少女。金色の瞳は恥じらう乙女のものだった。 「そうですか。では、楽しみにしてますよ」 喰人の青年は意味ありげに微笑んだ。 唯月と瞬がベンチに座っている。近くに複数のカップルがいて、唯月は目を泳がせる。 「瞬さん、緊張して、眠れないかもしれません」 「いづ、大丈夫だよ。だって、俺のパートナーなんだし。それに、演出家も褒めてたよ。すごく上手くなったって」 「ほ、ホントですか?」 唯月は笑顔になる。 「わたし信じることにします。瞬さんのこと……ううん、自分のことを少しだけでも」 少女は顔を上げる。茶色の髪がなびいた。 一方、朱輝と碧希は歩きながら、空を見ていた。 「碧希君、碧希君。私たちがハナでいいのかな?」 「うん、いいんじゃない。他のペアはやりやすくなると思うよ」 「えっ、碧希君までそんなこと言うの。じゃあ、私ダメじゃん」 「ウソ、ウソ。朱輝をリラックスさせようとしただけだし」 「なーんだ。って、碧希君ひどーい。私、傷ついた。責任とってよー」 朱輝は怒ったり、笑ったり。コロコロと表情が変わる。 「ごめん、朱輝の頑張りは認めてるから。まあ、俺が勝つけど」 「なんですって、碧希君には負けないよっと」 祓魔人と喰人は闘志を見せた。 ●チャリティーイベント 翌朝。街にベルの音が響く。チャリティーイベント開始の合図である。 学生たちの出し物や屋台で賑わい、パレードが通過する。 大人たちは若い参加者を温かい目で見守り、子どもたちははしゃいでいた。 太陽が高くなり始めた頃。小劇場にて。100人近い少女たちは演劇が始まるのを待っていた。 演題は、『ロメオとギュレッタ』。ブリテンの劇作家の代表作である。 昔の教皇国家アークソサエティ南部ルネサンスが舞台だ。 少年と少女が恋に落ちるのだが、親同士が対立関係にあって……。悲恋の物語である。 版により細部が異なり、演出や役者により別のストーリーを味わえることでも知られていた。 そして、開演の時間になる。 ●クライマックス(朱輝と碧希) パーティー会場。金茶の髪に、瞳の色が天青石の少年がいる。さわやかな雰囲気の彼は、ひとりの少女を見て動きを止める。 赤茶の髪に、日長石の瞳の少女だった。彼女はピンクのドレスに身を包んでいて、足元をしきりに気にしている。 「美しいお嬢様。僕が手を引きましょう」 「初めての衣装が身体に合わなくて……」 少年はにっこりと微笑み、少女の手を握った。 朱輝が演じるギュレッタ。元気はつらつとした演技が、観客の心を掴む。同世代の観客が多く、ギュレッタに自分を重ねたいのかもしれない。 (朱輝、やれば出来る子だったんだね) 碧希は、素直に感心していた。懸念だったセリフのミスも少しだけ。アドリブで誤魔化せている。 非常に良い状態で中盤に突入する。 互いの家が敵同士だと知り、接触を避けるロメオとギュレッタ。しかし、偶然が少年と少女を近づける。やがて、ふたりは恋に落ちた。 ところが、近くの都市で政争が起きる。ロメオたちの家も巻き込まれ、本格的に争うことに。 恋人たちは家よりも愛を選び、駆け落ちするが……。造反とみなされ、追っ手が迫る。 「ギュレッタ。僕は死んでも、君を守るから」 「ロメオ。縁起でもないことを言わないで。それに、死ぬ時は一緒って約束したでしょ」 朱輝と碧希による、感情の乗った演技。観客たちは手に汗を握る。 薄暗い森を逃げる。が、ついに追いつかれてしまう。 ふたりの恋路を邪魔する男。有力貴族であり、ギュレッタに結婚を申し込んでいた青年である。 ロメオと貴族が決闘する。打ち合ううちに力の差が現れる。相手の方が上だったのだ。 それでも、ロメオは剣を振るう。両手は痺れ、膝はガクガクと震えている。恋人を守るための戦いでなければ、とっくに敗北していただろう。 彼は神経を研ぎ澄ませ、剣を上段に振りかぶる。タイミングを合わせるかのように、敵が下から斬撃を放つ。 金属がぶつかる音が鳴り――。一振りの剣が宙を舞い、地面を転がる。 ロメオは手ぶらで立っていて。 少年の胸に刃が突き刺さる、その時だった――。 「だめぇぇっっっ!」 ギュレッタが飛び込み、白い服が真っ赤に染まる。 崩れゆくヒロイン。 「うわぁぁっっっ!」 絶叫した少年は懐から短剣を取り出す。想い人を斬り呆然としている、貴族に斬りかかる。首の頸動脈を斬りつけた。絶命する。 ロメオは慌てて、ギュレッタを抱きしめる。 朱輝の瞳から大きな涙がこぼれた。 「ロメオ。これで良かったのかな」 「良くないよ。君は生きるんだ……」 少年の祈りも虚しく、悲劇の少女は息を引き取る。微笑を浮かべながら。 号泣する少年を演じながら、碧希は戸惑っていた。朱輝の涙のせいだ。 (朱輝のことだ。本番で役に入り込みすぎただけだよね) すぐに気持ちを切り替え、少年は最大の山場に挑んだ。 ギュレッタの亡骸を横たえた後、彼は毒をあおる。足がふらつく。 「約束だよ。あっちで再会しよう。今度こそ、僕が守るから」 ロメオは恋人の手を取り、ゆっくりと口を近づける。唇が少女の甲に触れたとたん、幕が下がる。 終演後、楽屋にて。舞台衣装のまま、碧希は朱輝の元へ駆け寄る。 「朱輝、お疲れさん。今までで一番よかったよ!」 成功を喜んだつもりだったのに。 「あぁ……ぅぅっ」 大きな涙が朱輝の瞳からあふれ出し、化粧した頬を伝わる。 「……っ、朱輝?」 とっさのことに碧希は戸惑う。 「碧希君……いなくならないわよね?」 (私、なんで泣いてるの?) 感情を込めてヒロインを演じて、碧希君の顔を見たら、なぜか涙が出てきたのだ。 呆けていると、碧希君が背中を撫でてくれる。温もりが心地よかった。 ●クライマックス(唯月と瞬) 日が傾き始めた頃。 今度は、唯月と瞬が本番を迎えようとしていた。 舞台の袖では、唯月が震えている。 「朱輝さんたち良かったですし。重圧を感じますね」 「いづの演技、俺は大好きだから。普段のいづで大丈夫だよ」 相棒の言葉で唯月は落ち着く。 舞台が幕を開けた。 瞬の堂々とした好演が乙女たちの心を一瞬で劇に引き込む。うまく気を惹いたうちに、ギュレッタが登場する。 唯月が演じるヒロインは、深窓の令嬢といった雰囲気を醸し出していた。 「お優しい旦那様。助けてくださいませんか」 出会いのシーン。保護欲を刺激するギュレッタ。王子様はひざまずき、お姫様に忠誠を誓う。 甘い声と凜々しい動きで話を引っ張る瞬。彼の後を追う唯月。たどたどしい口調も役に合っていた。 演出家が唯月の性格に合わせたのだが、結果は見事に成功。 観客の少女たちは、ロメオには憧れの視線を、ギュレッタには親近感を寄せていた。 そして、盛り上がったまま終盤に入る。 森の中の逃避行。空が色づき始めた頃、恋人たちは松明の灯りを見つける。追っ手が迫っていた。 お互いの手を握り合い、覚悟を決める。 「ギュレッタ。僕は死んでも、君を守るから」 「ロメオが死んだら、私も後を追いかけます」 ギュレッタに求婚した貴族と決闘へ。 立ち回りに優れたヒーローのロメオ。剣技が冴え渡り――。敵の肩口から斜め下へ鋭い斬撃を放つ。貴族は倒れ、落ち葉が赤く染まる。 「やったのか……」 森を抜ければ、大都市の近くへたどり着ける。そこまで行けば、安心だ。 胸をなで下ろしたロメオが恋人の元へ向かおうと、敵に背中を向けた時である。 胸元からナイフを取り出した敵。酷薄な笑みを浮かべ、刃を投擲する――。 「あぶないっ!」 先に気づいたのはギュレッタだった。彼女はロメオを突き倒すが――。少女の胸を刃がえぐった。 崩れ折れる、勇気ある乙女。 「うわぁぁっっ!」 血相を変えたロメオは、貴族にとどめを刺した。 ロメオは最愛の少女を胸に抱きしめる。 「どうして……こんなことを?」 「だって、私も守れるって……弱いだけの小鳥じゃないんです」 ギュレッタの弱々しい声は、勇ましかった。 「君は強いよ。世界で一番……」 「……なら、ご褒美に」 ほっそりとした勇者は、彼女だけの王子様に手を差し出す。目は今にも閉ざされようとしている。 ロメオは奇跡を願って――。 乙女の柔肌へ口づける。 その瞬間――。 (ひえぇぇぇ手の甲にキッ……!!!!) 死にゆくヒロイン役を務める唯月は動揺を必死に押し隠す。 頑張って、最後まで役を演じ切る。 ロメオは、二度と動くことのないギュレッタの身体を横たえると、 「君をひとりにしないよ」 恋人の命を奪ったナイフを自分に突き刺した。 恋人たちは重なり合って、天国へ運ばれる。 けなげな恋人たちの姿に観客は泣いた。 終演後。楽屋にて。 「いづ、最高だったよー」 「瞬さん、わたし問題なかったですか?」 「うん、お客さんも喜んでたと思うよ」 「ありがとうございます。ほんの少しですけど、自信が持てたかもしれません」 頬を緩ませる唯月を見て、瞬も笑顔になった。 ●クライマックス(シャルルとノグリエ) 2日目の昼下がり。3回目の公演が始まろうとしていた。 舞台の袖にシャルルとノグリエが待機している。 「ノグリエさん、私、立派に務めを果たしますから」 「シャルルでしたら、大丈夫ですよ。ボクも楽しみにしてます」 ふたりは深呼吸して、心を落ち着ける。 そして、舞台が始まった。 青年が暗い顔で、パーティー会場にうろついている。 舞台の最上段にドレス姿の少女が姿を現し、恋のアリアを歌う。豊かな声と、悲恋に込められた感情。未来のギュレッタを暗示させ、観客は心を鷲づかみにされる。 歌が終わる。ちやほやされる歌姫は、愛想笑いを浮かべ、客に応じている。 宴もたけなわの頃、素性を隠した貴族の青年が、歌姫に声をかけた。 「キミ、無理してない?」 明るく可憐で前向きな乙女。彼女は頑張るあまり、人に頼ることを知らなかったのだが……。陰のある青年だけがそのことを見抜いていた。 「ど、どうして……?」 ギュレッタは初対面の人間に指摘され、顔色を変える。彼に対する印象はあまり良くなかった。 その後、偶然にギュレッタはロメオと何度か出会い、徐々に彼に心を開いていく。 因縁の関係にあることが判明するが、その頃には愛し合っていた。 そして、駆け落ちへ。鬱蒼とした森の中、追っ手がすぐ近くに迫っている。あと半日逃げ延びれば、安全な場所にたどり着けたのに。 「ギュレッタ。僕は何度倒れても、キミだけは守ってみせるから」 「ううん、ロメオ。ふたりで運命に抗いましょう」 ロメオは追っ手と決闘をする。劣勢だった。あちこちに傷を負う。綺麗だった頬は泥まみれになり、千切れた服はところどころ紅色に染まる。荒い息を吐き、額から汗を流す。足はふらついていた。 しかし、ヒーローは恋人に誓ったとおり、敵に立ち向かっていく。 「ロメオ、もうやめて!」 ギュレッタは恋人の元に駆け寄ろうとする。 「来るな! 君だけでも逃げて」 「だめっ!」 ギュレッタに横恋慕する貴族は、恋人たちに会話の時間も与えない。 非情にも敵は剣を振りかぶり――。 「許して」 ロメオは愛する人の鳩尾を蹴り、突き飛ばす。ギュレッタは背中から倒れる。柔らかい落ち葉が舞った。 ロミオは裂帛の気合を入れ、腰に刺していたナイフを抜き。 「ええい!」 敵の心臓へ突き刺した。自分の胸からも、どっと赤いものを噴き出して。 相打ちだったのだ。 ギュレッタは髪を振り乱し、倒れた恋人の元へ。胸に抱きしめる。 「ギュレッタ。最後に、キミがほしい」 「ロメオ、私、もっとあなたに歌を聞いてもらいたいの」 歌姫は子守唄を歌う。澄んだ歌声が夕暮れの森に響く。弱くて、悲しくて、温かい音色だった。 生気を失った青年は安らかな笑みを浮かべる。むりやり身体を起こし、恋人の手を取った。 そして、甲へキスをした。瞳が閉ざされる。 歌姫は頬を伝わる涙を無視して、歌い続ける。悲哀に満ちたアリアが終わると……。 「続きは、天国でしますね」 ギュレッタは服毒し、恋人の後を追った。 幕が閉じる。鼻をすする乙女たちが舞台の成功を物語った。 終演後、楽屋にて。 「ノグリエさん、私、お役目を果たせたのでしょうか?」 「うん、さすがシャルルでした。歌も演技も素晴らしかったですね」 「ノグリエさんのロメオも素敵でしたよ」 少女の天真爛漫な笑みに青年は頬を緩ませた。 ●終幕 各組とも2回目の公演も大成功だった。観客たちは大満足で帰っていき、評判もかなり良かった。 チャリティーイベント最終日の夜。劇団員たちと打ち上げをした。夜遅くまで、食事や会話を楽しんだ。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[2] 朱輝・神南 2018/04/05-13:50
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