~ プロローグ ~ |
気が付いたとき、浄化師たちはテーブルについていた。 |
~ 解説 ~ |
さぁ。魔女と推理のお茶会です。 |

~ ゲームマスターより ~ |
明白な答えは存在しませんので、ぜひとも「こんなラストなら面白くないかなぁ」という気軽さで自分の推理を披露ください。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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◆答え 自分の命は差し出していい だけど家族まで手にかけると言われては、逆らえなかった 青年は兵士たちに告げる 彼女の居場所に連れて行こう だけど、彼女には手を出すな…彼女は、自分が殺すからと 兵士と共に現れた青年を見て傷つく魔女に青年は囁く 最後まで運命を共にしようと 青年は魔女の手を引き兵士たちを率い、森を進む そこは切り立った崖 青年は魔女を抱きしめ、そこから共に身を投げた その後、遥か遠くの小国で、人々を導く夫婦の噂が聞こえてきたが、それは別の話 ◆理由 これは…推理というより、わたしが望む物語 物語は、ハッピーエンドが好き 全員を幸せにできないのなら…主人公の青年に そして、相思相愛の二人に、幸せになってほしい |
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~ リザルトノベル ~ |
甘い香りの紅茶、クッキーはチョコチップ入りからフラップジャック、品の良いサブレ、ハートの型抜きクッキーの真ん中には赤い果実がついている。 どれもおいしそうだが、話を夢中に聞き入っていた『シュリ・スチュアート』と『アリス・スプラウト』はそのどれにも手を伸ばしはしなかった。 相棒である『ロウハ・カデッサ』は、翼を折って椅子に窮屈げに腰かけ、『ウィリアム・ジャバウォック』は彼女たちの推理の邪魔をしないように注意を払い、沈黙を守った。 少女はふわふわのテディベアの執事に紅茶をついでもらい、クッキーを食べている。 沈黙ののち、シュリが顔をあげた。 じっと瞳が少女を見る。 「推理を語るわ」 「どうぞ。あら、相談はしなくていいの?」 シュリがちらりとロウハを見ると。ロウハはにっと唇をつりあげた。 「俺はお嬢に推理は任せる。好きなように推理してもらったほうがいいと思うからな。だが口は出す」 少女は二度、小さく頷いた。 「いいわ。必要なときは優秀な助手が口を出していくといいわ。推理小説でもよくあるわよね? 探偵と助手役は二人で一人、推理の間に口を出しては正しく導くものですもの。もちろん、他のメンバーも好きなように語らうといいわ。これは結末のない物語なんですもの」 ふふっと少女は笑って促した。 ――さあ、あなたの結末を聞かせて。 「自分の命は差し出していい。だけど家族まで手にかけると言われては、逆らえなかった……青年は兵士たちに告げる。彼女の居場所に連れて行こう」 シュリが渇いた唇を舌で舐める。 語りながら青年の気持ちになると、悔しさがこみあげてくる。 理不尽な暴力に幸せをとられてしまう――それだけは避けたい。どんな絶望も抗う気持ちをなくしたくない。 「だけど、彼女には手を出すな……彼女は、自分が殺すからと、そう口にするわ」 「お嬢」 ロウハが眉をひそめた。 「うん。全員が幸せになれない物語だから」 ハッピーエンド至上主義のシュリの意に反した物語の運びにロウハが眉を顰めるが、それはシュリもわかっている。 けれどこの物語はそういうものなのだ。 優しい青年。 青年に恋をした優しい魔女。 そしてずっと傍にいて恋心を募らせてきた幼馴染。 三つの恋はどれか一つが叶えば、どれか一つが破れるしかない。誰も悪くない。唯一悪いと思うとしたら恩がある青年の家族を人質にとる兵士たちぐらいだろう。いいや、兵士たちだって、この物語のなかで語られてないだけで家族がいるかもしれない、守りたいものがあるのかもしれない。 誰も、悪くない、そんなお話。 けれど、同時に幸せになれないお話。 「物語でも平等な幸せが訪れないのは、せつないものね」 考えれば考えるだけ、どうしていいのか結末に悩んでしまう。途中まで出かかった物語がうまく実を結ばない。 「全員幸せにはなれねーよ」 ロウハがはっきりと告げるのにシュリがはっとした。 「お嬢の理想通りにはなかなかいかねーもんだ……物語でも、現実でもな」 ロウハの言葉にシュリは目をぱちぱちさせる。 シュリが全幅の信頼を置く、ロウハにも、また彼だけの物語があるのだ。シュリの知らない物語が。 「だから、誰が幸せになるか選ばなきゃならねー、お嬢は、誰に幸せになってほしい?」 「わたし……わたしは……」 誰が幸せになってほしいのか。 するり、と言葉が出てきた。 「続きを口にするわ。……兵士と共に現れた青年を見て傷つく魔女に青年は囁くの。最後まで運命を共にしようと……青年は魔女の手を引き兵士たちを率い、森を進む」 シュリの脳内で深い森のなかが浮かぶ。彼はどんな気持ちだっただろう。魔女はどんな気持ちで……二人は進んだだろう。 「そこは切り立った崖……青年は魔女を抱きしめて」 そのとき青年は家族の事を考えただろうか? 自分がいなくなったあとのことを。そのとき迷いはなかったの? 怖くなかったの? 頭のなかに広がる物語に飲まれる気がしてシュリが目を開けて、ロウハを見る。ロウハが黙って頷いてくれた。 この物語を、彼も少しばかり楽しんでくれている。そう思ったからこそシュリは迷わず続けることにした。 「そこから共に身を投げた」 「えええ、落ちてしまうんですの!」 アリスが声をあげた。 「あ、ごめんなさい!」 とっさに立ち上がったアリスは慌てて椅子に腰かける。 「すいません。アリスが……あなたの推理に聞き入ったようです」 「私も、物語が大好きなので、つい」 ふっとシュリの唇が優しい笑みを作る。 「大切なのは、そのあと……その後、遥か遠くの小国で、人々を導く夫婦の噂が聞こえてきたが、それは別の話」 それにアリスは目をきらきらさせて食い入るように見つめている。 「素敵ですわ! ねぇウィル!」 「そうですね、アリス。想像できる、だからこそ美しいと思います」 「ありがとう。これは……推理というより、わたしが望む物語。物語は、ハッピーエンドが好きなの。全員を幸せにできないのなら……主人公の青年に、そして、相思相愛の二人に、幸せになってほしい」 シュリは少しだけ晴れやかな気持ちで少女を見た。ロウハが口にしてくれた幸せにしたいものを選ぶ。痛みはあるけど、それでも幸せにしたいと心から思った。この結末を自分でも好きだと思う。 「わかりますわ! 私も同じ気持ちです」 アリスが大きく頷いて同意する。 「ロウハが言ってくれたおかげ」 シュリが視線で感謝を示すと、ロウハは肩を竦めた。 「いっぱいしゃべって疲れただろう。蜂蜜いりの紅茶だ」 「ありがとう」 「この推理、どうだ。俺はいい線いってると思うんだが」 ロウハがじっと少女を見つめると、彼女はクッキーを食べ終わり、にこりと微笑んだ。 「そうね、現実の人生と同じ、なにかを得るには何かが犠牲になることがある。よく考えたのね」 「選んだ、というほうが正しいかもしれないわ」 シュリは蜂蜜いり紅茶を嘗めて答えた。 「青年に、いっぱい考えてもらって、選んでもらったの。彼だったらどうするのか、彼だったら何を選ぶのか……わたしは人々を守れと言われて、浄化師になった。けど浄化師にもできることは決まっていて、救えるのは本当に少ないことも知ったわ」 「お嬢」 「一人ではできないことがいっぱいある。けど、わたしにはロウハがいてくれた。ロウハがいるから出来ることがいっぱいある。仲間がいることで出来ることも」 「そうだな」 シュリが笑うとロウハも笑ってくれた。 「ふふ、素敵ね。ハッピーエンドは嫌いじゃないわ。助手さんはこれでいいのね?」 「俺もお嬢と同じ気持ちだ」 ロウハが断言すると、少女は頷いた。 「はい。では、次は私でいいですか?」 とアリスが手をあげた。 「シュリさんの素敵な推理のあとでは、ちょっと恥ずかしいんですけど……私は……青年は幼馴染と話したと思います。どうしてこんなことをしたのか、どうしてこうなったのか、彼女から聞きたいと思って行動するんですの」 「アリス、それでは泥沼になりませんか?」 とウィルがつっこむ。 「うーん、うーん、そうなんですけど……幼馴染がこんなことをしたと知ったら、まずは知りたいと思うんですの。えっと、とっちらかっちゃいそうなので、みなさん、いっぱい突っ込んでくださいね!」 「わかったわ」 アリスの言葉にシュリも一緒に考え始める。 「わたしは、幼馴染に触れることができなかったから、もし幼馴染について触れたら、どうするかしら」 シュリが幼馴染にあえて触れなかったのは兵士たちに問われた場合、家族と魔女のどちらかを選ぶかを優先したのだ。 それに幼馴染のことを考えると迷いが広がりすぎてしまうのもあった。 だからシュリの青年は知らないまま、自分の愛に殉じた。 だがアリスの青年は知ることを選んだ。 「はい。迷ってますけど……もし、幼馴染がそのとき自分の気持ちを告げてきたら、どうするでしょうか?」 「泥沼ですね」 はぁとウィルがため息をついた。 「青年は魔女を愛しているんだろう? もし幼馴染が自分に恋していると知ったら……自分が気が付かないせいでこんなことになったとわかるのは、つらいだろうな」 ロウハが眉根を寄せた。 「はい。私も考えるとすごくつらくなってきましたわ。……けど、知ったら、ちゃんとお断りできると思うんです。幼馴染に自分が魔女を愛していることを告げて、それで魔女から教えてもらったことでいろんな成功をしたこととか」 アリスの言葉にうーんとウィルが唸った。 「そうですね、この青年、魔女から助けられているのにそれについて口にしていませんからね」 「つまり利己的な面があったってことか?」 とロウハ。 「魔女は忌み嫌われるから、魔女が告げることを拒んだ可能性もあるわ」 シュリが付け足す。 「だから、みんな、青年の成功の理由を知らない。助けられていることも」 「はい。だから、知ったら、自分のことも知ってもらわないといけないとなるわけですわ。私の青年はそういうすべてをちゃんと伝えて、魔女さんと……シュリさんの結末に行きつくと嬉しいのですけど……結末は、出来たらシュリさんが一番素敵だと思うので同じがいいですわ。あと、どうしてもうまくまとめられないのですわ。うう、難しいですわね」 「そうね、物語を作るのって難しいわ。じゃあ、この青年は魔女の手をとって森へと逃げて、そして……このあと二人で崖から落ちるの。そして遠い国で幸せになるの」 シュリは頭のなかで考える。 結末は同じでも、途中が違うだけできっと青年と魔女の表情はずいぶんと違うものになっていることだろう。 けれど、これもまた一つの結末で、ハッピーエンドなのだ。 「素敵ですわ! シュリさんの崖から、っていうのがすごくスリリングで、最後の甘酸っぱい希望のあるのが私はすごく素敵だと思っていたので嬉しいですわ!」 「ありがとう。照れるわ……知るって行動をするアリスさんの青年もすごいと思うわ」 「では、私も、私なりに考えましたが……もし利己的であったのなら、幼馴染を選ぶ、という結末もあったかもしれません」 とウィルが口にした。 「自分が可愛いから選ぶ……決して非難出来るものではないと、私は思います」 「自分を一番に大事にする、っていうのは別に悪じゃないしな」 とロウハ。 「ええ。誰だって自分が可愛いという気持ちはあるわけです。この青年の場合、はじめは誰かのためだったのがもてはやされて自分を第一にとるようになる。なにかをはっきりと選ばないままずるずるとここまできてしまって、決断を迫られてしまった、というと少し滑稽というか、手厳しいかもしれませんが」 うーんとウィルが悩む。ふわふわのチェシャ猫の頭を撫でるアリスはきょとんとする。 「けど、それは、一緒にいるうちに魔女のことが大切になったってことですわよね」 「……情というものかもしれません」 少しだけ苦い気持ちでウィルは言葉を返す。 はじめは自分のため、けれど一緒にいるうちに罪悪感など覚えながらも相手に惹かれていくことだってあるはずだ。 「それは、少し切ない恋ね」 シュリが眉根を寄せる。 青年の気持ちになったのかもしれない、または選ばれた幼馴染の気持ちになったのかもしれない。 誰かの不幸を願うほどの恋の炎に身を焼いた幼馴染なら、青年のそのずるさも知っていて愛したのかもしれない。 「失ったあとに青年はひどく後悔し続けるんです。失って……だから青年は自分のために正しいことをするために魔女をこれ以上、傷つけない国を作る、というのはいかがでしょうか? 少し皮肉がきいてるでしょうか?」 「いいと思うわ。わたしには考えつかない推理だわ」 「ええ、切ないかんじですが、とっても素敵ですわ、ウィル!」 二人に言われてウィリアムはほっとはにかんだ。 「ロウハは、なにかある?」 「俺か? そうだな。俺はやっぱりお嬢の物語が一番いいと思ってる。幸せになれねーなら、何かを選ぶしかないなら幸せにしたいものを選ぶ、そういう潔さがしっくりあう」 「ありがとう」 シュリが目を細めてお礼を口にした。 「ふふ、楽しいわね。とっても楽しいわね」 魔女がころころと笑うのにアリスがあることに気が付いた。 「あの、魔女さんの推理、聞いてませんわ!」 「私の推理、そうね、私は主催者であり、参加者だものねぇ、言わなきゃだめよねぇ」 ふふと魔女は唇を開いた。 「せっかく、みんな素敵な推理を披露してくれたから、私は、そうね、魔女の視点でいきましょう」 魔女は語る。 「魔女は青年に裏切られたのよ。大勢やってくる兵士に気が付いて、自分が殺されることを悟る。 それならいっそ、その国の人々が苦しむような魔法で殺し尽くしてもいいと思うの。けどね、愛した気持ちは嘘ではないのよ。どうしてそんな行動をとったのか、自分がこんな理不尽なめにあうのかも差し引いて。だから、そうね、自分の愛に殉じて死のうと思うの」 「え、ええ!」 「死んでしまうの?」 固唾をのんで見守るアリスと不安そうなシュリに魔女は小首を傾げる。 「そう、けど、幸せな結末がほしいと思うの。幸せでなくてもいいわ。自分が死んでしまうのに何か一つ、納得できるものがあればいいの。それが真実でも、嘘でも構わない。 だから魔法を使ったの。 素敵な結末を用意できそうな人をお茶会に呼んで、その人たちの結末を聞くの」 四人の浄化師の視線に魔女はにこりと笑った。 「もしかしたら私は、あなたの口にするように彼と海に落ちて、遠い国で彼と共に生きたかもしれない」 シュリを見て魔女は目を伏せる。 「もしかしたら彼はなにもかも知って、受け入れて、私と生きることを選んでくれたかもしれない」 アリスが口にしたように。 「もしかしたら私は、死んでしまうけど、彼は私のことを思って、人々を良い道へと導いたかもしれない」 魔女はゆっくりと空っぽのカップを置いた。 「彼は……そして魔女はあなたたちのおかげでとても幸せ。ありがとう。素敵な物語と推理を、とっても楽しめたわ。さぁ、もう目覚めの時間」 ぱちんと指が鳴り、世界が崩れていく。 物語が終わっていくのをシュリは目を見開いて見つめるなか、横にいたアリスが手をのばそうとした瞬間。 すべては白く、輝き、消えてしまった。 「わたしたち、ここは……」 シュリはロウハと共に活気立つ街のなかに立っていた。 時間は夕暮れ時。 「俺たちは、確か巡回、していたんだよな」 「そう、ね。巡回をしていて、それで」 「まぁ不思議ですわね。気が付いたらこんなところにいるなんて本当に小説の世界みたい! あ、シュリさん!」 「アリスさん……!」 人々の間を抜けてアリスが駆け寄ってきた。 「私たちも巡回中だったんです。あの、夢を見ました?」 「ええ。見たわ」 「よかったですわ。夢ではなかったんですわ!」 アリスが笑うのにシュリも頷く。 「あの、よかったらもっとシュリさんのお話、聞いてもいいですの? とっても素敵だったので……」 「え、ええ」 アリスの言葉にシュリは少しだけ照れたように伏せ目がちに言葉を返す。 それにウィルはロウハと視線を交わして、互いに大切なパートナーが楽しそうにしているのに無言で視線を交わして、静かに笑った。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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