~ プロローグ ~ |
シャドウ・ガルテンは歴史的なヴァンピールの迫害もあり閉鎖的な国家であったが、ある事件をきっかけに徐々に国交が開きつつある。 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
ようやく新エリアであるシャドウ・ガルテンのエピソードを出すことができました。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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ランプなんてつけば良いと思ってたからなぁ、 あんまデザインとか考えたことなかった。 でも、だからこそ珍しくて楽しそうだよな! って、そうあえばナニカって芸術的なセンス壊滅だったよな…… ハロウィンの時のあの落書き。落書きってのはこういうものをいうんだ! って感じがしたからなぁ。 じゃあまたセンスに任せて作ってみるか? ※キルはまぁ普通レベルの完成度になる目標です。 ナニカは失敗してほしいですが、判定など的に成功したらそれでも大丈夫です。 アドリブ等歓迎ですので、お願いしますれ |
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◆トウマル 灯りは大事。夜の明けない部屋もあるしな 誰の寮室かは言わねぇけど。 なあ?とグラ見遣る ランプシェード作り体験教室参加 新しいの買うよか今あるののアレンジをと。 思い浮かべるのはグラの部屋のやたら眩しいランプ あれに合うの作る レースも和紙もいいが麻紐メイン 飾るだけじゃなく普通に照明としても使える シンプルにでもそれなりにオシャレ……? 巻いてくうちに自分じゃ分からなくなり グラにアドバイス求めつ。 完成品はグラに押し付け。 いやアンタのだし。 暗い部屋に光の強いランプとか目に悪いだろ ランタン……グラは自分のことにだけ無頓着だよな 結構周りのこと見てると思うぜ? 俺の作業中も店内見てただろ じゃあ体験レポート頼んだ |
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今まで訪れた街を思い出しながら 常闇の国だからこそ灯り一つとっても文化となり 深く多様性を持ったのですね ヨナ 一人でアロマキャンドルの体験へ ベルトルドさんはお店を見ていてください うぅん 柑橘系は避けて自然な香りの物がいいです あとは…笑わないで欲しいのですけど、私をイメージするような花を 光の中にいる時には気が付かずとも 闇の帳が下りた時ふと思い出してくれるような ベ 体験教室の方へ行くと威嚇してくる女がいるので店内をまわる まったく何だっていうんだ 珍しさも相まって店員に勧められるままいくつか買い物 レポート提出もあるし実物を持ち帰った方が宣伝にもなるだろう …経費で落とせるだろうか |
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~ リザルトノベル ~ |
●『キールアイン・ギルフォード』『ナニーリカ・ギルフォード』 「前に住んでいたところにも、それこそ教団にもランプはあるけど、確かにそんなじっくりと見たことないよねぇ」 「ランプなんてつけば良いと思ってたからなぁ、あんまデザインとか考えたことなかった」 ナニーリカが興味深そうに店内に飾っている色とりどりのランプを眺める。 殺伐とした家庭環境に身を置いていた為、道具は道具だという認識しか持っていなかったキールアインがしみじみと呟く。 「オーダーメイドも出来るって贅沢だよな」 「そうだね、シャンデリアとかも飾られてるから、お金に余裕がある人が注文するのかもね」 貴族の館にありそうな煌びやかなシャンデリアからお洒落なカフェにありそうなものまで様々な照明が店内の至る所に飾られている。 「ナニカ、あれ! スニーカーとかマネキンのランプとか面白いよな……なぁ、ナニカ」 「買わないからね。マネキンのランプなんて等身大じゃない!? どこに置くの、邪魔になるだけだよ」 「ナニカのケチ」 ナニーリカに釘を刺され、キールアインは小さく舌打ちするがすぐに別のものへと興味が移る。 キールアインの視線の先には「ランプシェード&ボタニカルキャンドル」体験教室とお洒落な字で大々的にかかれている看板があった。 「ナニカ、これ面白そうじゃねえ?」 キールアインが指さした方を見るとナニーリカも興味深げに頷く。 「キャンドル作りか、やった事ねぇけど……でも、だからこそ珍しくて楽しそうだな!」 「うん、楽しそう楽しそう! 芸術家の血が騒ぐっていうかさ!」 キールアインが親指で指さすと、ナニーリカも満面の笑みで頷く。 「……芸術家? そういえばナニカって芸術的なセンス壊滅だったよな……」 キールアインは訝しげな表情を浮かべ、ナニーリカを胡散臭そうに見た。ナニーリカは嘆かわしいと言わんばかりに首を振る。 「はー! このアーティスティックな私に向かって、壊滅的ってなんですか!」 「ほら、ハロウィンの時の落書き、落書きってこういうものをいうんだ! って感じがしたからな」 「あれが芸術というものなんだよ、キル!」 そう自分の芸術センスを疑うことなくナニーリカは胸を張る。 「じゃあまたセンスに任せて作ってみるか?」 「いいよ! ふん、キルに芸術を教えて上げるんだからね」 キールアインの挑発的な眼差しを受け、ナニーリカの目は燃えるように輝く。 「勝負すんなら同じもん作った方が分かりやすいだろ、じゃキャンドルでいいだろ」 「その勝負のった! あっと言わせてやるんだからね」 ナニーリカの壊滅的芸術センスを考えると、確かにあっと言われそうだなとキールアインは冷静にそう思った。 二人は店員に教えられながらボタニカルキャンドルを作り始める。お互いに出来上がったものを見た方が面白いというキールアインの提案から、別々のテーブルで集中して時には悩みながらドライフラワーやドライフルーツを詰めていく。 詰め終わったキャンドルを固めるまで通常なら数時間かかるところだが、店内サービスにより5分もかからなかった。 「ナニカ、そっちは出来上がったか?」 「ばっちりですよ、キルの度肝を抜いてやるからね!」 その結果、二人は出来上がったキャンドルをお互いに見せ合う。 まずはキールアインのものからだ。 「これが俺が作ったのだ!」 洋なしの果実のボタニカルキャンドルは瑞々しい。 ユーカリの葉と洋なしの果実を使い、全体的にライムグリーンで爽やかにまとめられている。 ユニセックスなキャンドルは、洋なしの樹の下で食べるシャーベットのようなどこか美味しそうな香りだ。 「……やりますね、キル。けど、私も負けませんよ」 パートナーの思わぬセンスに内心慄きながらナニーリカは静かな闘志を燃やす。 「キル、私が言うのもなんですが、見て驚かないでくださいね」 自信に満ちたナニーリカが取り出したキャンドルは予想を遙かに上回るものだった。 「……やべぇ」 何これ、クリーチャー? それとも肉壁かなんか? ボタニカルキャンドルらしき得体の知れない何かがそこに存在した。 否応なく目を引く存在感。キャンドルらしき何かは禍々しい暗黒のオーラを放っていた。 他にいた客から「ヒッ……!?」と小さな悲鳴が聞こえてくる。実際に店員も接客のプロとしてあるまじき態度だが、さっきからずっと俯いている。その表情は真っ青に蒼褪め、ナニーリカが作った作品と絶対目を合わせないようにしている。 つーか、どうやってこれ作ったんだ。 蜜蝋は白い以外になかった筈だ。 お前どうやったら白い蜜蝋が赤黒い何かになるの? 植物から何か抽出して染めたの、その前に植物どこいった。 もはや人体錬成に失敗したような肉壁ができあがってんだけど、得体の知れない何かから小さな人の手や足がたくさん生えてるよな。 あー……俺の見間違いだわ。キャンドルから生えた顔と目なんて合ってないったら合ってない。全て気のせいだ。 それなのにいい匂いがしてくるのが怖い。なんというか食虫花を連想させる香りだ。あんまり嗅いでいるとやばいことになるぞと頭の中で警戒音が鳴り響く。 「どうです、私としては中々の出来だと思うんだけど」 誇らしげに得体のしれないキャンドルを持つナニーリカをキールアインはある意味尊敬した。 「むしろどうやったらこんな代物ができるのかこっちが聞きたいぐれぇだわ……」 「そうでしょうそうでしょう、ほら! この部分の花が可愛いよね」 「花……鼻ならあるな、ついでに目もあるように見える」 「何言ってるの、キル?」 訝しげな表情のナニーリカにお前が何言っているんだと突っ込みたい。 うっかり蠢くキャンドルもどきを目にしてしまい、一周回って冷静になったキールアインは真顔で、 「……最高だよ、マジやべぇ」 「キルがそんなに誉めてくれるなんて明日は槍が降りそうですね」 「暗殺したい相手に届けたらマジ効果でそう……次の日に変死体になってそうだわ」 「そんなヤバい薬をキャンドルに入れてないから!?」 「いや、お前これに火をつけたら相手を呪い殺せるだろ。むしろ側に置いておくだけで、効果あるって」 「呪物扱い!? そんな危険物作った覚えはないから!?」 ナニーリカから抗議を受けるが、キールアインは真剣に感心してる。 「普通のアロマキャンドルだよ!」 「ナニカお前、いっぺん普通って言葉の意味を辞書で確認することをおすすめするわ」 「本当に失礼ですね! ちょっと私自身は一般的に特殊だけど、キャンドルはここにあるもので作ったものだよ?」 「そもそもここにある普通のものから、こんな代物を作れるってことがおかしいんだからな」 「何でそんな優しい目で見るの!? 私哀れまれてる!?」 可哀想な子を見る目で優しく諭すキールアインにナニーリカが悲鳴を上げる。 「これ大切に飾るんだから!」 「げっ……マジかよ」 側に置いておくだけで呪われそうな危険物が部屋に持ち込まれる事を知り、それを阻止するために教団用のレポートとして提出するように必死に説得する羽目になった。そして、言いくるめた甲斐あって、 「うーん、残念だけど、キルの言うように普段お世話になっている司令部の方にレポートと一緒に提出する。きっと実物があった方が分かりやすいよね」 「あ、うん、俺は知らねぇっと……」 ナニーリカは純粋な善意の元に行動しているが、キールアインはこの後何が起こるかある程度予想が付いた。 その後のナニーリカが作ったアロマキャンドルが司令部に阿鼻叫喚の事態を招くことをナニーリカだけが知らないでいた。 ●『トウマル・ウツギ』『グラナーダ・リラ』 「灯りは大事だよな。夜の明けない部屋あることだし、誰の寮室かは言わねぇけど、なあ?」 「どなたの寮室でしょうね」 わざとらしくグラナーダを見るが、当の本人は何食わぬ顔で笑顔を浮かべる。 気になるものがあればふらりと立ち寄るトウマルの後を付いてグラナーダは店内を歩く。また何か気になるものを見つけたのか、トウマルは引寄せられるように体験教室の方へと向かっていく。 ランプシェード体験教室と書かれた看板を見て、トウマルの脳裏によぎったのは、グラナーダの部屋にあるやたら眩しいランプの存在だった。 「新しいのを買うよか今あるののアレンジを、と」 元々の備品なのか以前部屋を使っていた奴の置き土産なのか分からないが、前々から使いづらそうだなと思っていたのだ。だが、捨てるのはもったいない。どうにかしたいとは思っていたのでこの体験教室は好都合だった。 どうせならあの部屋に合うものを作ろう。そう思い立ったら即行動が習い性となっているトウマルはランプシェードを作り始める。 (レースも和紙もいいけど、グラの部屋に合わせるなら麻がメインだな……これなら飾るだけじゃなくて普通に照明としても使えるだろう) 完成品の見本を見比べてグラナーダの部屋の雰囲気に最も合いそうな麻を選ぶ。 初めて作るので形は見本通りの無難な球体にした。 星とかハートの形をした奴もあったが、今度は別の意味で気になるだろうし、止めておく。 麻紐にも様々な種類があり、細いものから太いもの、さらに色によっても印象も変わってくる。 より自然な感じがする生成の細い麻紐は柔らかで巻きやすそうだった。 落ち着いたアースカラーの麻紐も悪くなかったが、グラナーダの好みならば素材そのものを生かしたものが好きそうだと考えたからだ。 テーブルに案内され席に着くと、トウマルは店員と暫く会話した後ランプシェードの完成品をじっと見比べている。グラナーダはその隣に座ると、早速材料選びへと向かうトウマルをのんびり見つめていた。 店内は様々な照明で彩られている。その中でも陶器や木を使った照明は悪くないが、蜘蛛や髑髏の形をした照明は誰が買うのだろうか。 (ああ、でもくらげのランプは可愛らしいですね……欲しいとは思いませんが) 「見守りますが……眠くなりますね」 不意にぼんやりと眺めているとランタンの修理と手入れを承りますとテーブルに置いてある説明書きが置いてあることに気づく。 トウマルから預かったランタン――そういえば持ち手が部分が軋み、全体にくすんでいたことを思い出す。 「……申し訳ありません、ちょっといいですか」 近くにいた店員を呼び寄せ、グラナーダは愛想良く笑う。 「お待たせいたしました。恐れ入りますがご用件を伺ってもよろしいでしょうか」 「このランタンの手入れと修理をお願いします」 店員は「かしこまりました」とランタンを受け取ると、カウンター奥へと下がると同時に材料を抱えたトウマルが戻ってきた。 「おや、麻で作るんですね」 「麻だと素人が作ってもごてごてせずに済むだろうって判断」 「納得です」 彼らしくない材料選びだと思ったが、ある意味ではトウマルらしい選び方だった。 「シンプルでもそれなりにオシャレ……?」 麻を風船に巻き付ける作業は根気がいる。むしろこういう単純作業は嫌いではない。 だが、無心で巻いているとデザイン的にこれでいいのか分からなくなってくる。 (これって巻き方とか変えた方がいいのか? 紐の密度が薄いと壊れやすいだろうし、どのくらい巻いた方がいいんだ、……適度な加減が分からん) 風船を全体に巻いていく内に、これでいいのか自分でも分からなくなり、グラナーダに見てもらうことにした。 「今のままで良いと思いますよ。無理に紐の向きを変えない方が見た目が綺麗です。もう少し巻いてもいいんじゃないですか」 作業を見ていたグラナーダは客観的な感想を述べながら助言する。 麻を巻き付け終わったら再度のりを塗りつけ、後の乾燥作業は店員に任す。店員はランプシェードを受け取ると、ガラス瓶のような魔術道具の中に入れて魔力を注ぐ。すると、しっとりとしていた麻が急速に乾いていくのが見えた。 (あれを応用したら、洗濯物の乾燥とか早くできねぇかな……) トウマルはそんなことを考えながら、後でこの道具についてグラナーダにレポートにまとめてもらおうと密かに思った。 「乾燥し終わりましたよ、風船を割ってファイアプルーフをご自分で塗られますか。こちらでこの作業を終わらせることもできますが」 トウマルは自分でやると店員に断りを入れ、作りかけのランプシェードを受け取る。 「……なんか面白いな」 「そうですか?」 プシューと音を立てて風船が萎んでいく感じがなんとも楽しい。グラナーダからは共感が得られなかったようで首を傾げていた。 風船は面白いようにあっさりとランプシェードを取り出すことができた。 「なんかこの液体ツンっと匂うな……」 「トーマ、その液体こちらに近づけないで下さい……臭いです」 グラナーダは耐火用液剤の匂いが嫌いなようで服で鼻を覆うと、椅子を引いて出来るだけ離れようとしている。 匂いが落ちるのか不安になり、店員に尋ねると、「数日すれば落ちるんですが、この匂いを嫌がるお客様は多いのでこちらで対応させていただきますね」と言ってカウンター奥に持って行った。 どうやって匂いを落とすのかは企業秘密らしい。 ランプシェードの完成を待っていると先に預けたランタンの修理が終わったようで、 「こちらでよろしいでしょうか」 店員が預かっていたランタンを手渡され、トウマルは目を輝かせた。 「このサービスいいな。まるで新品みたいだな、これで長く使える。サンキュー、グラ」 「いいえ、そろそろ手入れをすべきだと思っただけですから」 まるで新品のようになったランタンを上機嫌なトウマルが見ていると、出来上がったランプシェードが運ばれてきた。不安だった匂いもきれいに落とされている。 「完成品は趣があっていいと思いますよ」 そう本心からの言葉を述べると、トウマルは「ん」と言いながら渡してきた。 何故か渡されたランプシェードをトウマルに返そうとすると、 「いや、アンタのだし」 トウマルはあっけらかんとそんなこと言ってきた。 「暗い部屋に光の強いランプとか目に悪いだろ」 グラナーダは暫く考え込むと、思い当たる節があったのか頷く。 「ランタン……グラは自分のことにだけ無頓着だよな。結構周りのこと見てると思うぜ? 俺の作業中も店内を見てただろ。じゃあ体験レポート頼んだ」 「トーマ。あらゆる説明が足りてません」 あっさりとした気楽な口調で話しながら、さりげなくレポートを押しつけるトウマルにグラナーダは呆れ顔を見せる。 「……しかもレポートとは」 トウマルは抗議の声を聞き流し、さっさと歩いていってしまう。 グラナーダは少し困惑した表情を浮かべながら、もう一度手に持った麻のランプシェードを見る。 麻で作られているのか温かみがあり、どこか懐かしい自然な感じがする。 シルエットは綺麗な満月を描き、規則的に巻かれた麻が美しい。 ナチュラルなランプシェードは思いの外初めて作ったとは思えないほど出来が良く仕上がっていた。 (少しだけ気に入ったので今日は見逃しましょう) グラナーダはランプシェードを大事に抱え、口元には柔らかな微笑が浮かんでいた。 ●『ヨナ・ミューエ』『ベルトルド・レーヴェ』 シャドウ・ガルテンを訪れると対比するように今まで訪れた町を何故か思い出す。 (常闇の国だからこそ灯り一つとっても文化となり、深く多様性を持ったのですね) 常夜の国と呼ばれるように一日中夜という特殊な環境に、国交を断絶し内に篭もっていたからこそ、花開く文化もあるのだろう。 「ベルトルドさんはお店を見ていて下さいね」 「それはいいんだが、ヨナお前は何をするんだ?」 「レポートの為に体験教室を受けてきます」 「それなら俺も行こう。たまにはそういったことにチャレンジするのもいいだろ――……」 「ダメです!」 ヨナはもう一度言った。 「ダメです、ベルトルドさんは来てはダメです!」 「おい、ヨナ……俺も」 体験教室に行くのはダメなのか、とベルトルドが聞こうとするとヨナは遮って言い募る。ヨナの背後に尻尾を逆立ててフシャーッと威嚇する猫の幻影が見える。 「いいですか、絶対に体験教室に近づいてはなりませんよ。では、レポートの為にじっくりと店内を見て回って下さい」 「……分かった」 こうなったら何を言っても聞かない。ベルトルドが渋々諦め引き下がる。 「まったく何だって言うんだ……」 (……体験教室に少しでも近づこうとすらなら威嚇してくる女がいるからな、さてどう暇をつぶしたものか) シャドウ・ガルテンで売っているランタンはアークソサエティで売られているものより大光量のものが多く、さらにデザインや携帯性にこだわったものまで売られている。 中には女性向けと書かれた軽量で可愛らしいデザインのものまである。 ベルトルドは携帯性と耐久性に優れ、長時間点灯が可能と売り文句に負けて買ってしまう。 このランタンは低燃費なのも良く無駄を排除した黒いフレームなのもいい。 さらにユーカリやミントなどの防虫効果のあるハーブを配合されたランプオイルも勧められた。ただ少し匂いがあるので、隠密行動の時には向かないかもしれない。 珍しさも相まって店員に勧められるままいくつか買い物してしまう。 アイアンローズの絵が描かれた袋には種がいくつか入っているようだ。シャドウ・ガルテンの固有種なのでアークソサエティで育てられるかは分からないが、研究者たぐいは喜ぶのではないだろうか。 (レポート提出もあるし、実物を持ち帰った方が宣伝にもなるだろう) 「……経費で落とせるだろうか」 経費で落とす為の屁理屈を考えるのはいいが、レポートを提出する際にはヨナの力を借りなければならない。散財したことがばれたら怖いなと思いつつも、買ったものは仕方がないとベルトルドは開き直るのだった。 ヨナは一人でボタニカルキャンドルの体験教室を受けていた。そこにはベルトルドの姿はなく、彼は店内を見て回っている間に作ってしまわなければならない。 「プレゼントに送るキャンドルを作りたいんです」 店員はそれは素敵ですねと笑顔で頷く。 「うぅん、柑橘系は避けて自然な香りの物がいいんです」 顎に手を当てて考え込んだヨナだが、迷いながら店員に要望を伝えていく。 「あとは……笑わないんで欲しいんですけど、私をイメージする花を」 ヨナは躊躇いがちに口を開く。 「光の中にいるときには気が付かずとも、闇の帳が降りたときにふと思い出してくれるような」 聞き上手な店員だったせいか、上手くヨナが作りたいもののイメージを引き出していく。 店員のアドバイスを元にヨナはキャンドルに詰める花を選ぶと真剣な表情で作り始めた。 仕上がったキャンドルにヨナは嬉しそうに見つめ、キャンドルを取り出さずとも見えるように透明な箱に入れられるのじっと見つめているのだった。 *** 「お待たせしました、ベルトルドさん」 「もういいのか?」 「はい、やるべきことは終わりましたから」 体験教室を終えたヨナがベルトルドと合流し、店を出るとヨナはどこか居心地悪そうにしながら鞄から何かを取り出す。 それは綺麗に包装された紙袋と透明な箱に入ったキャンドルだった。 「少し遅れましたがキャンドルと合わせて、誕生日のお祝いです」 照れ隠しなのか憮然とした表情をしているが、その耳は赤い。 驚愕の表情を浮かべるベルトルドに無理矢理押しつけると、 「こういう事はあまりしたことないのですが、以前誕生日プレゼントを頂いたお返しというか、その――……」 最初の勢いは徐々に弱まり、途中で耐えきれなくなったのか顔を背けごにょごにょと口ごもっていく。 ベルトルドは軽くははっと笑い声を上げ、 「それで一人でこそこそしてたのか」 「な、何を作って渡すのか。出来てからのお楽しみにと思って……」 ヨナは言い訳するように口早に話す。 「で、どんなものなんだ?」 楽しげなベルトルドに促され、そのような行動に出た動機を素直に話すのも恥ずかしくヨナは話題をずらして答えた。 「……そのキャンドルの花はビオラなんです。ビオラの花言葉は『誠実』と『信頼』。紫のビオラだと『揺るがない魂』という意味合いがあるんです……と店員さんが教えてくれました」 透明な箱に入れられたキャンドルは、上品で柔らかな紫色のビオラを主役に濃淡のあるピンクの花びらが幻想的に浮かび上がっている。 バラの花びらは全体的に白みがかったピンクで紫色のビオラにそっと添えられている。 ベルトルドが気づくか分からないが、ピンクのバラの花言葉は『感謝』だ。だが、ヨナはこれ以上説明する気は全くない。 雪と舞う花弁。冬の情景を描くような深く澄み渡るシダーウッドの香りの中に、ジンの香り付けに使われるジュニパーベリーが密かに香る。 数あるお酒の中でも薫り高いジンはお酒の香水とも呼ばれている。ドライ・ジンをモチーフとして使いつつ、美しく霜の降りた深く静かな森を散歩するようなウッディー系の香りに仕上がった。 他にも候補に『希望』という意味があるガーベラもあったが、なんとなく自分のイメージに合わない気がして選ばなかった。 キャンドルの他にも黒いメンズ風の洒落た紙袋。 ベルトルドはそっと紙袋を丁寧に開けて中から取り出したものを見て表情を綻ばせる。 それは浅葱色のウールのマフラーだった。 ヨナがさんざん悩んで末に店員と相談し購入した浅葱色のマフラー。 ベルトルドが普段着に合わせて使いやすいようにシンプルだが素材が良いものを選んだ。 ベルトルドはマフラーを大切に触るとふわふわとした肌触りも冬にはちょうど良く、薄手の割には温かさも申し分ない。 浅葱色のマフラーを巻き、上機嫌なベルトルドが食事に誘う。 「よし、今日は帰りに美味いものでも食べて帰るか、奢るぞ?」 「あっ、お店、予約しているので、そこで……」 ベルトルドは目頭を押さえ、まるで親孝行された父親のような態度を見せる。 「茶化してないで、行きますよ。ほら、荷物も少し持ちますから」 ベルトルドの荷物を強引に奪い取ると、ヨナは先頭に立ち歩きはじめる。ベルトルドはそんなヨナの不器用な気遣いに苦笑を零すと、後を追いかける。 「重たいだろ、今日は色々買ったんだ。俺が持とう」 「別にこれぐらいどうってことありません。それよりもベルトルドさんの誕生日なんですから、大人しくしていて下さい」 誕生日だから持つと譲らないヨナと女性に荷物を持たせるのは男として不甲斐ないと言い張るベルトルドの主張は店に着くまで終わらなかった。 こうして二人は隣を並んで歩いていく。
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*** 活躍者 *** |
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[4] ヨナ・ミューエ 2019/01/04-23:41
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[3] トウマル・ウツギ 2019/01/04-22:00
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[2] キールアイン・ギルフォード 2019/01/04-06:57
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