~ プロローグ ~ |
●激闘の予兆 |
~ 解説 ~ |
スケール3のベリアルを討伐して下さい。 |

~ ゲームマスターより ~ |
ご無沙汰しております、マスターの北織です。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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村人全員の魂なんて、そんな… もっと早くに気づけていたら せめて …せめて囚われた魂の解放を 見上げた先に いつもより青く見えるシリウスの顔 ーシリウ、ス?ううん 何でもない… 現場に急行 敵を見つけたら戦闘準備 ロイさんは後ろに! 魔術真名詠唱 気をつけてとシリウスに ロイさんの盾になるよう立ちながら シアちゃんとふたり鬼門封印 切れ目のないよう気をつける わたしたちが引きつけます その間に魔術の準備を 退魔律令を使いながら九字で攻撃 ダメージを与える事でなく 攪乱狙い 手鏡や占星儀の光を敵の顔に 誰かに飛び掛かりそうな素振りがあれば ホイッスルで引きつけ 仲間が傷つけば天恩天嗣2で回復 戦闘後は仲間の手当て 時間があれば鎮魂歌を歌う |
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魔術真名唱えて前衛へ 接敵前に他の仲間と少しタイミングをずらして毛糸玉を投げて転がす 上手く敵の気を引けたら、戦踏乱舞で味方前衛の支援 腰に手鏡を固定して、短剣とも合わせて反射光で敵の気を引く 曇りだけど、仲間のたいまつの光等を利用 手鏡は邪魔になったり気をそらせそうな時に切り離す 要は私自身が猫じゃらしの役割となって、 目の前を横切ったり特に足場の悪い場所へ誘い込んだり …私も足元には気をつけなきゃね 自分が狙われていない時には攻撃し、こちらに向かってきたらいったん距離を取る ヒット&アウェイの要領ね この時は魔法陣にはこだわらない 本命の攻撃役は別にいるから ロイの魔術発動中は全力で魔法陣を狙って攻撃 |
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できれば、もっと早く助けてあげたかったですね…… せめて囚われている魂を解放してあげたい……もちろん、山猫ちゃんも、です だから精一杯、頑張ります 前衛の皆さんの後方から たいまつと手鏡を使って、光の反射光で敵の気を逸らせられないか試します 遠すぎて効果が薄そうなら、前衛の補助に回ります 【退魔律令】【鬼門封印】を、リチェちゃんとタイミング被らないようにカバーし合って発動させます 敵の動きを制限できたらロイさんに『フォール・ディアブロリィ』をお願いします 本格的に戦闘に入ったら、傷ついた方には【天恩天賜Ⅱ】を掛け 回復の必要が無い時には九字の通常攻撃で攻撃をします お友達も村の人も山猫ちゃんもどうか心安らかに…… |
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~ リザルトノベル ~ |
●獪戦 惨劇の舞台となった村「クレイン・ブルメン」。 広い花畑では、獣人の如き様を呈すベリアルが1体、更なる魂を求め殺戮衝動に塗れた双眸を忙しなく左右させている。 「あれが……」 『アリシア・ムーンライト』はベリアルの姿を遠目に確認するなり、その先の言葉を失った。 彼女が目にしたベリアルは、これまでのものとは明らかに違う。 元の生物の特徴を残しているとはいえ、体格と動きは人間にだいぶ近付いていた。 「……姿形だけではない。恐らくは『ここ』も相応に進化しているだろう」 教団員として同行してきたセゴールが自らの側頭部を指先で突きながら警告する。 戦う術を持たない彼には、考え得る限りの情報を浄化師たちに提供するのがこの場では精一杯だった。 更に、ベリアルの後方には既に魂を奪われた村人たちの遺体が折り重なるように転がっている。 距離があるせいで正確な人数までは把握出来ないが、その人塚は『シリウス・セイアッド』をモノクロームの世界に誘うには十分な光景だった。 (ここも……俺の故郷と、同じように……俺の……) 鎖に繋がれた両親の魂が今眼前で畑を徘徊するベリアルの頭上に現れる、そんな幻覚さえ容易に浮かんでしまう程に。 シリウスは拳を強く握りしめ、幻覚の世界に呑まれそうになる意識を懸命に繋ぎ止める。 「村人全員の魂なんて、そんな……もっと早くに気付けていたら、こんな事には……。せめて……せめて、囚われた魂を解放しなくちゃ……!」 と言いながら傍らのシリウスを見上げた『リチェルカーレ・リモージュ』は、彼の蒼白な頬に胸騒ぎを覚えた。 「――シリウ、ス?」 遠くから自分を呼び戻すようなその声が不安に揺れている事に、シリウスは一拍置いて気付く。 「……何だ?」 シリウスが努めて平静を装い何事も無かったかのように返すと、リチェルカーレは何か言いたげながらも微かに苦笑し、 「ううん、何でもない……」 と手の平を差し出した。 シリウスを気遣い案じる気持ちを隠さないながらも目の前の任務に健気に立ち向かう……そんな、いつもと変わらないリチェルカーレを映す翡翠色の瞳にようやく生気が戻る。 「黄昏と黎明 明日を紡ぐ光をここに」 (過去に囚われるな。俺が今すべき事は、守るべき人は……) 魔術真名の詠唱を終えベリアルの元へと赴くシリウスに、リチェルカーレは、 「気を付けて……!」 と声を掛けずにはいられなかった。 合わせた彼の手の平に刻まれた爪の痕……リチェルカーレはそれに気付いていたから。 シリウスは彼女の胸の内を薄々察しながらも、横顔だけで黙って頷き戦闘態勢に入る。 「できれば、もっと早く助けてあげたかったですね……リチェちゃんが言ってたように、せめて囚われている魂を解放してあげたい……もちろん、山猫ちゃんも、です」 口調こそおっとりしているが、全力で頑張ろうとしている気迫がアリシアに漲っている事は『クリストフ・フォンシラー 』には手に取るようによく分かった。 「そうだね、もう助けられないならせめてできる事に全力を尽くそう。『山猫ちゃん』も含めて、ね」 「はい……精一杯、頑張ります」 魔術真名を唱えると、クリストフもまたシリウスに続き前衛に立つ。 その手には、付近に水場は無いのに何故か釣り竿が握られていた。 「闇の森に歌よ響け」 『リコリス・ラディアータ 』と『トール・フォルクス』が手を繋いで魔術真名を詠唱すると、傍にいたレヴェナントのロイも前に進もうとする。 「おっと」 トールはロイをさりげなく制止した。 「浄化師じゃないのにベリアルに正面切るのは危険だ。それに、相手はスケール3……俺たちだって経験が無い」 「そうです……ロイさんは後ろに!」 リチェルカーレもロイの前に立ちはだかる。 「……そんな事は分かっているさ。だが、俺も多少は魔術が使える。魔術式の発動に多少時間は要するが、局地的に重力場を発生させ奴を足止めする事なら。決定打にはならずとも、君たちのサポートくらいは出来る。……この現場を見て、何もしないでいられるか」 「最後の一言が本音のようね。けれど……」 リコリスはトールと視線を交わした。 トールは彼女の言わんとしている事を察して力強く頷くと、ロイに向き直る。 「ああ、どれ程の能力を持っているか分からない上に接近戦には注意した方がいいって言うなら、重力場の形成は切り札になるだろう。発動のタイミングが整うまでは俺が護衛する。ここぞという時には合図を出すが……別に俺の指示が無くても、使い時だと思ったら発動させてくれ」 「私たちがベリアルを引きつけますから、その間に魔術の準備を」 「君たち……ありがとう」 戦力として加われる事に安堵したのか、ロイは素直にトールの背後に下がった。 「トールが傍にいれば、ひとまずロイの事は心配なさそうだね。さて、元の生物が山猫ならば、その『本能』が多少なりとも残っている事に期待しようか」 クリストフはある程度までベリアルとの距離を詰める。 背後では既にリチェルカーレが手印を結び鬼門を封じ始め、隣でアリシアも身構えていた。 足元を見ると、ブーツの靴底は静かに土に沈んでいる。 「足を取られる程じゃないけどそう速くは走れない……まぁ、それは相手も同じかな」 クリストフは冷静に周囲の環境と仲間の位置を確認した。 (リチェちゃんとアリシアの鬼門封印が効く範囲まで山猫ちゃんを誘き寄せられれば……でも、悟られちゃ駄目だ。出来る限り自然に……) すると、早速シリウスがベリアルに向かい速度を上げ突進する。 この足場では体重を乗せた斬撃を放つのは難しい。 しかし、軽くひと当てしてすぐに撤退する『ヒットアンドアウェイ』で挑むなら話は別だ。 村人の魂を喰らうという大罪の末に生まれたベリアルを裁かんとする強い意志がシリウスの膂力を上げ、双剣が風を切る。 「来やがったな、餌が!」 ベリアルはニヤリと口角を上げシリウスの斬撃を躱し、身を屈めて彼の懐に飛び込もうとしたが、そこにリコリスがコロコロと毛糸玉を転がした。 ベリアルの視線は完全に動く毛糸玉に釘付けになる。 そして、リコリスが躍り出て舞うように短剣を振るうと、その隙にシリウスがベリアルの死角に回り込んだ。 後方でボウガンを構えるトールは、リコリスらに翻弄されるベリアルをスコープから覗く。 そのスコープには彼だけが判別出来る魔術のマーカーが付属されていた。 (絶対に逃しはしない……) トールは細く長く息を吐き出して緊張で波立ちそうな心を静めながら、ベリアルの動きを追う。 一方、釣り竿を持つクリストフはベリアルの発した台詞が引っ掛かっていた。 (動く物にすぐに反応する所を見るとネコ科の本能は残ってるみたいだけれど、さっきの口調……あれはまるで人間が普通に会話をしているかのような話し口だった。セゴールの警告は当たりって事かな。これは、一筋縄ではいかないかもしれないね……) 「まだこんなもんじゃないわよ」 リコリスはシリウスとクリストフの傍をすり抜けるようにして華麗にステップを踏む。 リコリスの動きに鼓舞され、シリウスの斬撃も切れ味を増してベリアルに繰り出された。 「チッ! ちょこまかと鬱陶しい!」 ベリアルは鋭い爪でシリウスの剣を受け止めると、後方に飛ぶ。 死角から差し込まれるように出された剣先は躱す事が出来ず、受け止めてから後方に逃げるのが関の山だった。 だが、浄化師たちと距離を取った事でベリアルの視界は開ける。 「1、2、3……ほぉう、7人……いや、8人か。お前らの魂、よこせ!」 ベリアルは、中衛でロイやトールのやや前方に出ているアリシアとリチェルカーレに向かい走り出した。 「それ以上近付けさせませんっ!」 すかさずリチェルカーレが鬼門を封じ、アリシアが魔導書を開き律令を唱える。 動きに精彩を欠いたベリアルはアリシアの攻撃を回避出来ず後方に弾き飛ばされた。 だが、ベリアルはその身体能力の高さを生かしくるりと回転して着地すると、再び彼女たちに突撃しようとする。 「これで……どうでしょう……っ!」 アリシアがたいまつをかざし、その炎を手鏡に反射させベリアルの顔に当てた。 更に、アリシアが掲げた炎光をリコリスも短剣で拾いベリアルに差し向け、リチェルカーレは手にする占星儀から眩い陽光の如き魔力を発する。 「くそっ!」 ベリアルはつい光の来る方向に反応し、その眩しさに舌打ちしながら後ずさると、手近で構えるシリウスに再度迫った。 すると、 「君の相手はこっちだよ」 とクリストフが釣り竿を振る。 やはりベリアルは目の前を動くものに反射的に視線が動くらしく、釣り糸の先に吊されたルアーの動きを目で追ってしまった。 そこに、シリウスの鋭い剣閃が一撃入る。 「ぐはっ! ……ち、ちきしょうっ!」 ベリアルはシリウスの斬撃を食らった脇腹を押さえながら、またも後ろに飛び退いた。 浄化師たちによる多方向からの撹乱により、ベリアルは翻弄され攻撃らしい攻撃も出せていない。 戦局は浄化師側に有利に傾いていた。 ●誤算 ロイの準備が整ったらリチェルカーレとアリシアが鬼門を封じられるエリアに誘い込み、ロイの魔術で重力場を発生させ総攻撃。 浄化師たちの考えた作戦に瑕疵は無かった……この時までは。 「くそっ! どいつから先に食えば……っ」 ベリアルは鋭く光る瞳でキョロキョロと浄化師たちを見回す。 そして、ただ一人商人風の格好をしているロイに目を付けた。 トールが距離を取りリチェルカーレとアリシアが盾のように立ち塞がっていても、ロイの姿を完全に隠すまでには至っていない。 「あいつはただの村人か? なら簡単に食えそうだなぁ。だが前の2人は厄介な術を使ってくるし、何より……」 ベリアルは前衛の3人を見やる。 「こいつらが邪魔でしょうがねぇ……やっぱり先に片付けるか」 ベリアルはクリストフに狙いを定め一足飛びに駆け出した。 (これは……上手く釣れたと考えるべきか、それとも……いや、迷っている暇は無いね) クリストフは素早く後退しながらベリアルの眼前でルアーを泳がせる。 しかし、ベリアルは予想を上回るスピードで彼との間合いを詰めてしまった。 「いただきだ!」 ベリアルは右の掌をクリストフの胸に押し当てようとする。 それにいち早く気付いたリコリスは、腰に固定しておいた手鏡にたいまつの炎を映しベリアルの顔に反射させた。 (短剣でも上手く行ったなら、手鏡はもっと眩しい筈よ!) 逆光を利用して手元が見えないようにしながら、リコリスは短剣を握りベリアルに迫る。 リコリスがベリアルを射程に捉えた時だった。 「バレバレなんだよ!」 クリストフに向き合っていた筈のベリアルがその身を反転させ、振り向きざまにリコリスを爪で薙ぎ払う。 傷を負い蹲るリコリスに、 「さすがに最初は泡を喰ったが、同じ事を何度もされりゃいくら何でも分かる。光が来る方に餌がいるってちゃあんと学習したぜ」 と嘲笑を浮かべながらベリアルが飛び掛かろうとしたが、その時けたたましい笛の音が畑中に響き渡った。 大きく息を吸い込んだリチェルカーレがホイッスルを吹いたのだ。 元の生物である山猫の発達した聴覚を受け継いだベリアルは思わずその場で耳を塞ぐ。 「リコちゃんっ、今のうちに逃げるんだ!」 クリストフの声でリコリスは立ち上がり何とかその場から後退したが、今度はそのクリストフがまたも標的となる。 「クリストフ、下がれ!」 シリウスは信号拳銃の引き金を引いた。 信号弾と共に発せられる銃声でベリアルの気を引こうとしたのだ。 確かに一瞬ベリアルの視線はシリウスに向いた。 しかし、ベリアルは今度はチラリとシリウスを一瞥するだけですぐにクリストフに視線を戻し、スピードを落とさず突進する。 (こっちが動くかどうかを見定めたというのか? 俺たちとの戦闘の中で陽動や囮を学習したと……!?) 実際に攻め込まないとベリアルを止められないと察したシリウスは、足の速さを生かしてクリストフとベリアルの間に割り込もうとしたが、あと少しという所で間に合わない。 ベリアルは腕よりもリーチの長い脚を伸ばしクリストフに蹴りを入れた。 ベリアルの脚爪はクリストフの腹部に深く食い込む。 「ク、クリス……ッ!」 アリシアは思わず手で口元を押さえた。 その指先は、小刻みに震えている。 遠目からでもそれが分かったシリウスは、冷えた眼光をベリアルに向けたまま 「リコリス、クリス、一旦リチェとアリシアのいる所まで下がれ。その傷じゃまともにやり合えないだろう」 と告げると、僅かに腰を屈め防御の姿勢を取った。 (あの構え……時間を稼いでくれるって事かな。無茶はしないでくれよ……?) クリストフはシリウスの背中に一抹の不安を感じながらも這いずるようにして後退する。 「私に気を回したせいで大怪我させちゃったわね……いくらシリウスでも1対1じゃ厳しいわ。早く戻らなくちゃ」 決して浄化師たちの作戦に瑕疵は無かった。 ただ、相手がスケール3のベリアルという未知の存在で、それが誰にも想定し得ない誤算を生んだのだ。 リコリスは脂汗を滲ませるクリストフに肩を貸しながら一時撤退を急ぐ。 「リコちゃんっ! クリスさんっ!」 リチェルカーレは負傷した2人に駆け寄り、リコリスを回復させる。 その間にアリシアはクリストフに寄り添い同様に彼の傷を癒し始めた。 だが、ベリアルはシリウスから逃げるようにして迂回すると、踏ん張りの利かない柔らかい土壌をものともせずにリコリスとクリストフを確実に喰らおうと疾駆する。 「仲間に手出しはさせない!」 ここでトールのボウガンから鋭い一矢が放たれた。 ここまでひたすら己を冷静に保ちベリアルから一時も目を離さなかった彼の攻撃は、まるで針の穴を通すかのようにベリアルの喉元に直進する。 「チィッ! 邪魔くせぇ!」 ベリアルは弱点の魔方陣がある喉元に向かってきた矢に恐怖を感じ、手で慌てて払いのけた。 「さすがに躱し切れなかっただろう。これが、君には出来ない『連携』ってやつだ」 ベリアルがトールの矢を回避出来ず手を負傷しながら払いのけたのは、アリシアとリチェルカーレが交代で鬼門を封じていたのが功を奏していたからであろう。 トールはアリシアらと視線を交わし、 「ここは任せろ。その間にしっかり傷を治してやれ」 と声を掛けた後、再びボウガンの照準をベリアルに合わせた。 ●逆行 トールの攻撃はベリアルを心理的に追い詰め、戦局を覆す大きなきっかけとなった。 しかし、思いがけずベリアルに突破を許したシリウスは、心の奥底で不穏な「何か」が燃え上がろうとしているのを抑制出来ずにいた。 「シリウス、待たせたね。時間的にそろそろ『例の術』も発動出来るだろう。さあ、ここから反撃と行こうか」 シリウスの元に駆け寄ったクリストフは、彼の不穏な呟きを耳にする。 「あいつを殺さないと……このままじゃ、村が……俺の、俺の……」 (俺の故郷が……家族が……みんなが……) シリウスはクリストフを一切見ていない。 彼の目に映るのはスケール3のベリアルだ。 そして、彼がいるのはクレイン・ブルメンではない。 シリウスの意識は、完全に彼の故郷にあった。 「……シリウス?」 クリストフが胸騒ぎに眉根を寄せた直後。 「俺が殺す……あいつは、俺が殺す!」 シリウスが一気に駆け出した。 「シリウスッ! 何を……!?」 後方から見守るリチェルカーレの顔からさっと血の気が引く。 「シリウス、迂闊に攻め入るな! そっちは特に足場が悪い!」 トールがベリアルの気を散らそうと信号拳銃を上空に向けて発砲した。 それだけでなく、トールは銃声でシリウスの気も引こうとしていた。 だが、シリウスは見向きもせず双剣でベリアルをめった斬りにしようと迫る。 「生半可な陽動じゃどちらも動かせないわ!」 リコリスが駆け出した。 「あなたの相手は私よ!」 リコリスは畑の土に足を取られながらも懸命にステップを踏み、盾でベリアルの視界を遮りながら短剣を突き立てる。 その隙にリコリスの意を汲んだクリストフが動き出した。 彼はシリウスの背後から胴に腕を回し後方に引きずり倒すと、躊躇無くその頬に平手打ちを食らわせる。 「……リチェちゃんが心配するよ」 頬の痛みとクリストフが発した名に、シリウスははっとして後方を振り返った。 その視線の先では、リチェルカーレが両の瞳に涙を溜め震えながら彼を見つめている。 「俺、は……」 だが、己を振り返る余裕などベリアルは与えてくれない。 動きの素早いシリウスは即座に立ち上がれたが、怪我から回復したばかりのクリストフは調子が戻らないのか一拍後れ、そこにベリアルの血に染まった掌が襲い掛かる。 その時、またも救世主の如くトールの矢がベリアルの喉元に迫った。 「ぎゃあああっ!」 ベリアルは激痛に悲鳴を上げる。 遂に喉元の魔方陣を突いたか……と思ったが、瞬時に身を捩ったのかトールの矢はベリアルの肩に深く突き刺さっていた。 ●猛攻 「形勢逆転ね!」 リコリスは益々挑発的にステップを踏みながらベリアルの背後に回り込み、盾でベリアルの背を押し出した。 クリストフはベリアルの正面に配し、盾の脇からサーベルを突き出しつつ少しずつ少しずつ後退していく。 「……もう1度、です!」 アリシアはまたも鬼門を封じた。 リコリスとクリストフによって、行動が阻害される範囲にベリアルは知らずと誘導され、いよいよ動きが鈍る。 すると、遂にロイが声を上げた。 「待たせて済まない、行くぞ!」 「みんな、離れろ!」 ロイとトールの合図を聞いた前衛の3人は一気に身を引き、トールも一旦ロイから距離を取る。 直後、ずんとベリアルの体が沈んだ……かのように見えた。 「くっ……か、体が……重い……っ!」 (今だ!!) トールが最大の集中を以てボウガンの矢を射る。 三度目の正直、とうとう彼の矢はベリアルの喉元にある魔方陣に直撃した。 「ぐああああああっ!」 のたうつベリアルの頭上に、夥しい数の魂が鎖に繋がれ浮かび上がる。 こうした状況を目にする事も計算済みだったクリストフでさえも冷静ではいられない程、その光景はおぞましいものだった。 「何て様だ……一気に決めよう!」 クリストフの声にいち早くリコリスが反応し、ベリアルに飛び掛かり全力で短剣を振るう。 ベリアルの方は、命が尽きかけている者の足掻きと言うべきか、片手で喉元を押さえながら空いた方の手で必死にリコリスの剣撃を払った。 魔方陣に攻撃を受けもはやろくに戦えないベリアルだったが、それでもリコリスの動きに食らいつき防御を続ける。 「俺も加勢するよ。ロイの魔術が切れる前に片を付けよう!」 クリストフはベリアルの背後に回り込むとサーベルで疾風の如き突きを繰り出した。 「くっ……がはっ」 ベリアルはクリストフの攻撃を当然躱す事など出来ず苦悶の表情を浮かべる。 「誰かトドメをっ!」 クリストフは剣突の勢いそのままにベリアルを押し倒した。 そして、彼の背後からシリウスが跳躍し間髪を入れずベリアルに制裁を加える。 魂を捕らえる忌まわしい鎖が次々と断ち切られていくが、一撃では全てを解放しきれない程束縛された魂の数は多い。 そこで、ベリアルを押し倒したクリストフが下がると、トールがタイミングを見計らいもう一矢ベリアルの体に撃ち込み、シリウスがこれで終いとばかりに閃光の如き斬擊を見舞った。 残っていた鎖はようやく全て両断され、魂は陰影さえ残すこと無く静かに消える。 と同時に、忌まわしい惨劇の末に生まれたスケール3のベリアルもまた、砂塵に帰したのであった……。 ●惜別 ベリアルは討伐され、花畑には沈黙だけが残される。 畑の向こうには、回収を待つ村人たちの骸がまだ横たわっていた。 「どうか、安らかに……」 リチェルカーレは両手の指を胸元で組みながら祈りを捧げ、空に向かい鎮魂歌を口ずさむ。 「山猫ちゃんも……解放されました、よね?」 リチェルカーレの歌声を聞きながら、アリシアは目を細めふと遥か遠くに見える山々を見つめた。 元の山猫がどこから来たのかは分からないが、山猫というくらいだ、恐らくは自然豊かな地に住んでいたに違いない。 ベリアルと化したとはいえ、山猫に罪は無い。 「そうだね。山猫ちゃんも、これでやっとゆっくり眠れると思うよ」 さりげなく肩を抱くクリストフに、アリシアは俯きながら小さく頷いた。 (セゴールさんのお友達も、村の人も、山猫ちゃんも……どうか心安らかに…… ) 「さすがにスケール3となると、頭が良くなってたな。あれ程までになるとは……」 そう言いながら唸るトールに、リコリスはただ一言、 「それでもやることは変わらない……倒して『神様』を追い詰めてやるだけよ」 とだけ返し、馬車に戻る。 「分かってるよ、『お姫様』」 「んなっ……!!」 リコリスは今その呼び方をするかと言いたげに目を剥いたが、それを見てトールは安堵した。 (たまにからかって肩の力抜いてやらないと、危なっかしくて……) トールは気遣わしげにシリウスとリチェルカーレを見つめる。 二人の間には、何とも形容し難い微妙な空気が流れていた。 「ねぇ、シリウス……」 リチェルカーレは遠慮がちにシリウスを呼び止めるが、シリウスは微かに苦しげな表情を浮かべながら馬車に向かい歩き出す。 もどかしそうにその背中を見つめるリチェルカーレを気遣い、クリストフが慰めの言葉を注ぐ。 「俺にも正直何があったのかよく分からないけど……心の整理がつけば、リチェちゃんにだけはきっと話してくれると思う。心配だろうけど信じて待っててあげて」 「……ありがとう、クリスさん」 あの時シリウスの中で何が起こっていたのか、彼自身の口からリチェルカーレに語られるまでどれだけの時間が必要か……そう遠くないうちに打ち明けてくれる事を今は祈るしか無いだろう。 彼女を大切に思うなら尚のこと……。 馬車に全員乗っている事を確認して、セゴールは馭者に合図を出した。 往路とは打って変わり穏やかに揺れる車内で、セゴールは浄化師たちに頭を下げる。 「いたよ……あの魂の中に。表情などは無論分からなかったが、それでも私には分かった。リューズはあの中にいた。そして、君たちのお陰で安らかに眠ることが出来る。本当に……あり、が……」 セゴールの声はそこで閊えた。 暫くして、彼は車窓から曇天の外を眺めながらぽつりと呟いた。 「雨だ……」 浄化師たちは首を傾げる。 空に雲は多いものの、雨は降っていない。 それでもセゴールは口にする。 「全く……酷い雨だ」
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[14] リチェルカーレ・リモージュ 2018/12/28-23:23
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[13] リコリス・ラディアータ 2018/12/28-23:11
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[12] クリストフ・フォンシラー 2018/12/28-22:32
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[11] リチェルカーレ・リモージュ 2018/12/28-15:10 | ||
[10] リコリス・ラディアータ 2018/12/28-14:23
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[9] クリストフ・フォンシラー 2018/12/27-23:51 | ||
[8] リチェルカーレ・リモージュ 2018/12/27-21:45 | ||
[7] リコリス・ラディアータ 2018/12/27-20:45 | ||
[6] リチェルカーレ・リモージュ 2018/12/26-21:28 | ||
[5] クリストフ・フォンシラー 2018/12/26-20:53 | ||
[4] リコリス・ラディアータ 2018/12/26-17:42 | ||
[3] リチェルカーレ・リモージュ 2018/12/26-00:27
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[2] クリストフ・フォンシラー 2018/12/26-00:09
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