~ プロローグ ~ |
教団本部の食堂で、女はワイングラスをゆらりと回す。 |
~ 解説 ~ |
皆様は夕飯に混じっていた魔女の薬を摂取し、強制的に初夢を見ることになりました。 |

~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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(夢 【内容】 教団の食堂でベリアル討伐依頼の事で成と喧嘩になり気まずい雰囲気のまま無言で夕飯に 【行動】 夢だけど気まずい雰囲気が嫌になり今まで触れてもいい事か分からないまま成に打ち明けることが出来ずにいたけど夢だからと思い打ち明けることに。 「成は両親の事があるからベリアル討伐に囚われていてると言うけれど本当の理由は5年前両親の事があったといえ私が自らベリアルに向かっていかなければ成は死ぬ事は無かったのですから成は私が殺した様なものです。決して許される事ではないといえベリアルやヨハネ使徒の脅威を無くすことでしか償えないと思ったからです。」 (目覚め 成が言ってた事は覚えてないけど 喧嘩になる前に言わないと |
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森の中 綺麗な花畑と湖 目の前にシリウスが 柔らかく眇められた彼の表情に これは夢だわと心のどこかで こんなに優しい顔 見たことないもの まるで大切なものをみるようなー痛みをこらえるような、こんな顔 どきどきする胸を片手で抑えて もう片方の手を伸ばす …体の具合は、平気? 先日の依頼(履歴62)で様子のおかしかった彼を気遣う 醜態なんて思ってない ね シリウス わたし 頼りにならないかもしれないけれど できることならなんでもする だからお願い ひとりきりで頑張ろうとしないで わたし あなたのパートナーでしょう? 小さな呟きに泣きそうに …シリウスは わたしが嫌い? 歪んだ彼の顔に え、と小さく 急に触れた温もりに 目を見開く 夢の内容は覚えていない |
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初夢共通部分 良く晴れた空の下、一面に積もった新雪で雪遊び(主はでっかい雪だるま作り)。 場所は貴族の館の裏庭っぽい?広い。 こういう光景前にもあったような?と思いつつも雪を楽しむ。 現実と微妙に違う部分 それぞれのパートナーの言動。 シルシィの方は、過保護じゃないマリオス。 いつもと同じように柔らかい態度だし協力的だけれど、必要以上に構ってこない。 雪に足を取られて転んでも、無事なら手は出さないみたいな。 シルシィはいつもこうだったらいいのにと思いつつ、微妙に、調子狂う? いつもと違う様子の相手の顔をついじーっと見たり…。 マリオスの方は過保護しても不機嫌にならないシルシィ。 (ウイッシュに続きます。) |
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陽だまりがあたる 沢山のクッションが積まれた大きな丸いベッドの上 目をこすり見れば足元ですやすやと獣の姿で眠る喰人 あらと驚き そういえば彼のこの姿は数えるほどしか見たことがない 直感で夢と気が付く 顔を覗き込みながら まさかベルトルドさんが出てくるなんて くすりと笑う 夢ならば誰が困る訳でもなしと頭を優しく撫でやれば うずうずとした気持ちが芽生え 立派な前脚を持ち上げてゆっくりと握る これは夢これは夢と言い聞かせ 周到に辺り見回してから 我慢できず思い切って首に抱き竦め 顔を埋める あ ベルトルドさんの匂い… 好きかも むぅ 今いい所なのでおとなしくして下さい 私の夢なんですからベルトルドさんをどうしようが勝手でしょうっ |
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◆ローザの夢 …初夢が、貴方の夢になるなんてな 散々見てきた、仏頂面のヘイリーを見据える 私の夢の中でさえ、眉間の皺が減る事は無いんだな 何故だか、怒りの様な物が込み上げてきて一言も発さない彼の肩を殴る ……反応ぐらい、しろよ いや、反応を示さないのは私の夢だから、か どうせ夢なんだ、そう思う事にする ヘイリーの身体にそっと手を添え…今まで負ってきた傷の位置を思い出し、触れていく 一つ一つ、彼が無茶した証を、私の力不足の証拠を思い出していく 何故自分の身体を顧みらないのだろうか 痛かっただろうに、怖かっただろうに 祈る様に触れていく 反応を見せた彼の顔を見つめ溜息を付く 痛みを感じても、か……私が、援護するしかなさそうだ |
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~ リザルトノベル ~ |
● 二人きりの食堂は、重い空気で満ちている。 口に入れた野菜の味が分からないのは、それを感じられないほど気持ちが強張っているからか、それとも夢の中だからか。 フォークをとめ、『神楽坂・仁乃』は対面に座る少年を見る。 喧嘩の原因は、ベリアル討伐の指令にあった。任務自体は珍しくない。こんな世界で、この組織で、そのための自分たちだ。 しかし、それでも。 「……成」 パートナーの名前を呼ぶ。『大宮・成』は不貞腐れた表情で、続きを促した。 仁乃は口を開いて、閉じる。 今まで、触れていい話題か分からず、打ち明けることができなかった真実があった。それを言っていいのか、躊躇って、決意した。 ここは仁乃の夢の中。現実の彼に告白は届かない。そう思うと、踏み切れる。 「成は、両親のことがあるから、私がベリアル討伐に捕らわれていると言いますが」 祓魔人としての素質が、まだ幼かった仁乃の両親を殺した。その後に仁乃を引きとった孤児院も、ベリアルの襲撃により焼失。 だがそれ以上に深い傷となり、仁乃がベリアルを滅ぼすと決めた原因が、ある。 「両親のことがあったとはいえ、五年前、私が自らベリアルに向かって行かなければ、成は死ぬことはなく。つまり、成は私が殺したようなものなのです」 家族の死から孤児院に引きとられるまでの期間。 彼女は成とともにいたが、やはりその体質がベリアルを引き寄せ、少年は仁乃の盾となって命を落とした。成がいない悲痛な五年間は、思い出しただけで体が震える。 「決して、許されることではありません。ですが、ベリアルやヨハネの使徒の脅威をなくすことでしか、償えないと思ったのです」 それが、仁乃の存在理由。戦う意味。執着や憎悪を超える、懺悔と贖罪。 「私はもう二度と、成を失いたくありません」 胸中に吹き荒れる嵐を隠し、平静を装う仁乃に、成が小さく笑った。 自室で目を覚ます。夜は明けて、朝になっていた。 「成……」 夢の内容の中で唯一、彼が言った言葉だけを、仁乃は覚えていなかった。 「喧嘩になる前に、言わないと」 わずかな緊張をのみこんで、床に足をつける。身支度を整え、時計をちらりと確認した。早すぎる時間ではない。 前を向いて、仁乃は部屋を出た。 二人きりの食堂で成は席についていた。目の前には料理が置いてあるが、食べる気にはなれず、先ほどからフォークの先でつついては諦めている。 対面には仁乃の姿があった。 気まずいのは、先ほどベリアル討伐の任務について、二人で喧嘩をしたからだ。そういう設定の夢を見ていることに、成は気づいている。 具体的な喧嘩内容も分からないまま、謝ればいいのだろうか。 せっかく仁乃が出てくる夢なんだから、もっと幸せなのがよかった、と息をついたとき。 「成が死んだのは、私のせいです」 「……え?」 「もう二度と、失いたくありません」 淡々と放たれた仁乃の言葉に、成は目を見開く。 彼女は黙した。それでも理解できたのは、ここが成の夢の中だからだろうか。 「僕、は」 動揺する。眼前の仁乃はあくまで夢の存在だ。しかし、きっと現実の彼女に言われたとしても、同じ衝撃を覚える。 成は絞り出すように、続けた。 「僕が討伐の依頼を避けるのは、にのが自分から命を落とす真似をするんじゃないかって、怖いからで」 浄化師になった以上、ベリアルと向きあわなくてはならないと、分かってはいる。ベリアルやヨハネの使徒の討伐は、浄化師の重要な役目だ。 それでも、両親のことがあり、ベリアル撲滅に捕らわれている仁乃を、戦場に連れて行くのは怖かった。 「五年前だって、僕はにのが死ぬのは嫌で。だから、にのを守るために自分で死を選んだのに」 彼女がそれを気に病み、成を二度と殺させないために、宿敵の撲滅に身をやつす必要などないのに。 「にのは、自分を責めていたんだね」 ないまぜになる感情の中から言葉を選び出す。仁乃は現実の仁乃ではないが、それでも、言いたいことがあった。 「再会したとき、にのをひとりにしないって言ったよね。でも、もしにのになにかあって、僕がひとりになったら」 約束を反故にするつもりはない。成は彼女を愛し、守る。 「にのの世界を生きることになるなら。僕はもう一度、自分の死を選ぶ」 これは、胸に秘め続けた誓約だ。 「僕にはにのしかいないから」 目が覚めた。 「にの……」 夢の終わりに、仁乃がなにか大切なことを言っていた気がする。 あくびをした成は、現実の仁乃に会いに行くため床に足をつけた。 ● 森の中だった。 足元には花畑が広がり、右手には青空を映す大きな湖がある。 「シリウス」 目の前に立つ彼を『リチェルカーレ・リモージュ』は呼んでから、これが夢であることに気づいた。 だって『シリウス・セイアッド』は、こんなにも優しい顔で微笑まない。 大切なものを見るような、胸の痛みを堪えるような表情を、リチェルカーレに見せたことはない。 どきどきと脈打つ胸を片手で押さえて、少女は逆の手を彼に伸ばす。指先はたやすく彼に触れた。 「体の具合は、平気?」 以前の指令で様子がおかしかったことを思い出し、尋ねた。シリウスが浅く頷く。 「ああ。醜態をさらして、すまない」 「醜態なんて思ってない」 首を大きく左右に振り、リチェルカーレは両手で彼の手を握った。 夢の中だと忘れたわけではない。でも、しっかり捕まえておかないと現実のシリウスもどこかに行ってしまいそうで、怖かった。 「ね、シリウス。私、頼りにならないかもしれないけれど。できることならなんでもする」 必死にリチェルカーレは訴えかける。シリウスの双眸がわずかに揺らいだ気がした。 「だからお願い、ひとりきりで頑張ろうとしないで。わたし、あなたのパートナーでしょう?」 「……俺の側にいない方がいい」 ぽつりと落ちてきた呟きに、リチェルカーレは息をのんだ。 「シリウス、は」 声が震える。泣いてはだめだと懸命に目に力をこめ、リチェルカーレは真っ直ぐ彼を見つめた。 「……わたしが、嫌い?」 問いを投げて、え、と少女は瞬く。 拒絶の言葉に深い傷を負ったのは、リチェルカーレのはずだった。しかし今、嫌いかと聞かれたシリウスが、深手を負ったように顔をゆがめている。 「どこか痛むの? 木陰で休む?」 自らの痛みを脇に寄せ、リチェルカーレは彼の身を案じた。シリウスが苦しんでいるのは嫌だ。つらい言葉を渡された後でもそれは変わらない。 「ねぇ、……っ」 あまりにつらそうな彼を木陰に連れて行こうとして、逆に引き寄せられ。 唇を、塞がれた。 リチェルカーレは目を見開く。口づけの温もりが、じわじわと体中に広がっていくようだった。 はっとして、目を覚ます。 「えっと……?」 なにかすごい夢を見た気がしたが、覚えていなかった。 夢見はよくない方だ。 故郷のこと、両親のこと。夢に描いてはうなされ、跳び起きることがほとんどだった。 でも今夜はそうならないと、シリウスはきらめく湖面を見て確信する。 足元には花畑。左手には青空を映す大きな湖のある、森の中だった。目の前には青い髪の少女がいる。 「リチェ」 名を呼べば、リチェルカーレはふわりと花が開くように笑った。この世界によく似合う、と素直に思う。 同時に、優しく穏やかな世界はどこまでも自分に不釣り合いだと痛感した。 「シリウス、大丈夫?」 少し不安そうに眉尻を下げ、リチェルカーレが手を伸ばす。指先の細さと温かさに目を伏せ、シリウスは奥歯を噛んだ。 現実の少女もきっと、先日の任務中、様子がおかしかったシリウスのことを案じている。リチェルカーレを心配させているということに、胸が軋んだ。 「……悪い。次はあんな醜態をさらさないよう、気をつける」 「醜態なんて思ってないわ。シリウスが大丈夫ならいいの」 見上げてくる青と碧の双眸には、春の日差しのような慈愛がにじんでいた。ああ、とシリウスは嘆息とも返答ともつかない声をこぼす。 リチェルカーレの優しさが、じわりと体に染み渡る。痛みも疲れも、光をあてられた影のように溶けていった。 ――大切なものはつくらない。心を寄せる相手なんて持たない。 (俺が大事に思った人は皆、死んでしまうから) 子どものころから呪文のように呟いている言葉が脳裏に響く。口の中で唱えるようにその呪縛をなぞってから、シリウスは頬に触れたままのリチェルカーレの手を握った。 「俺の側に、いない方がいい」 少女が息をのむ。にこにこしていた目は見開かれ、傷ついたことを明らかにしていた。 泣き出しそうなリチェルカーレに、シリウスは自身の顔がゆがむのを感じる。 夢の中でさえ、この想いは伝えられない。 失いたくない、特別な存在でなくてもいいから側にいてほしいと、苦しいほどに思うのに。 「シリウスは、わたしが、嫌い?」 涙を堪えるリチェルカーレの、震える声が体を押した。 「……っ」 衝動的に唇を重ねる。少女が目を見開いた。 目を覚ましたシリウスは反射的に片手で口を押さえた。 夢の内容は、鮮やかに記憶に焼きついている。 ● 空は青くよく晴れて、地面にはまだ足跡が刻まれていない真っ白な雪が、どっさりと積もっていた。 どこかで見たことがある、と『シルシィ・アスティリア』は首を傾ける。右手に立つ屋敷も、この雪も、知っている気がした。 「分からないけど」 夢であることは分かっていたので、まぁいいかと記憶をあさるのをやめる。 「雪だるま、作れそう」 広々とした庭を見回し、雪の質感を確認して、シルシィは行動を開始する。 上着さえ着ていなかったが、あまり寒くはなかった。黙々と無表情で、少女は巨大な雪だるまを脳裏に描きつつ、雪玉を作る。 小さかったそれは成長し、ついには立ち上がって力と体重をかけなければ動かないほどの大きさになった。 「お、重い」 ぐぐ、と雪玉は軋むような音を立てながら、軌跡や足跡がたくさん刻まれた屋敷の裏庭のような場所をのろのろ転がる。 「きゃっ」 不意に雪に足をとられ、転んだ。転倒する寸前に思わず強く押してしまった雪玉が、シルシィの頭のすぐ先にある。 「割れてない……。よかった」 ほっと息を吐き出し、起き上がったところで人の気配を感じた。 「マリオス?」 屋敷の角のあたりで『マリオス・ロゼッティ』が、驚いたような顔をしている。彼は滑らないよう、慎重な足どりで歩み寄ってきた。 「大丈夫?」 「……平気」 あれ、と内心で首をかしげる。 いつものマリオスなら、シルシィが転んだと知れば真っ先に駆けてきて助け起こし、怪我の心配をし、服や髪についた雪をそっと払い落す。 しかし眼前の彼はシルシィの返答を聞くと、優しく微笑み、雪玉に手を添えた。 「雪だるま作ってるんだ?」 「そう。大きいのを」 夢だから現実と違っていて当然ね、とシルシィは胸の内で呟き、肯定を返す。 「手伝うよ。こっちが胴体?」 「頭よ。胴体はもっと大きくするの」 「分かった」 浅く頷いたマリオスが小さな雪玉を作り始める。柔らかで協力的な物腰は、現実と一緒だ。 シルシィは立ち上がり、服についた雪を払い落した。 必要以上に構ってこない彼に、いつもこうだったらいいのに、と思う。 「いい、けど」 同時に、少し物足りないような、微妙に調子が狂うような感じがして、シルシィはじっとマリオスの横顔を見つめた。 青い空、地面を覆う雪。屋敷の位置からして、ここは貴族の邸宅の裏庭なのだろう。 見たことがある気がする場所に、マリオスは立っていた。 「まぁ、夢だから」 こういうこともあるだろう。 結論づけた彼の耳に、ばふっと雪原になにかが倒れる音がする。顔を上げると、ちょうど少女が体を起こしたところだった。 「シィ!」 それほど寒さを感じていなかった体の芯が、すっと冷えるのを感じる。 現実と変わらない背格好のシルシィは、ぼんやりと雪玉を見るのをやめ、駆け寄ったマリオスに視線を向けた。 「大丈夫か? どうしてそんな恰好で……!」 「平気」 晴れているとはいえどう考えても真冬の日に、上着さえ身につけず雪遊びに励んでいたシルシィが頷く。マリオスはひとまず彼女を立ち上がらせ、服についた雪をぱたぱたと払った。 「すぐに上着を持ってくるから」 「うん」 首を浅く縦に振ったシルシィを心配しつつ、裏口から屋敷に入ったマリオスは、ふと気づいた。 「シィが怒らない」 喜んでいる様子はないが、いつものように不機嫌にならない。 夢だから、だろう。 「シィも小さい子じゃないし、控えめにしないといけないと、分かってはいるけど」 防寒具一式と救急箱を手に裏庭に戻りつつ、マリオスは小さく息を吐く。 当時は億劫にも思ったものの、故郷で幼い弟妹の面倒を見ていたことが、今となっては習い性になった。 「でも実際、シィは目が離せないところがあるから」 「なに?」 「なんでもない。上着を着て。手袋もはめて。怪我、本当にないか?」 ん、と短く返答するシルシィに、マリオスは上着を着せ手袋をはめさせる。最後に自分の目でざっと怪我の有無を確認し、ようやく一息ついた。 「雪だるま、作ってたのか?」 「うん。大きい雪だるま」 少し大きな雪玉にシルシィが目をやる。 「じゃあ、雪だるまが完成したら、部屋で温かいココアを飲もう。シィ、寒いだろ?」 「あまり」 首を傾けるシルシィは、最初に比べればましだが寒そうだった。 これは夢だから、とマリオスは咳払いをする。きょとんとしているシルシィを、ぎゅっと抱き上げた。 「ほら、冷たくなってる」 「そう?」 自分が熱いのかもしれない、という可能性から、マリオスは目をそらす。 ● 温かな陽だまりの中、丸くて広いベッドの上には、たくさんのクッションが無造作に置かれ、あるいは積み上げられていた。 「ん……」 目をこすりながら、『ヨナ・ミューエ』は目を覚ます。ふかふかのベッドとクッションで、歩くことさえままならない空間を、素直に受け入れる。 パステルカラーのこの場所に、ひとつ黒があるのを見つけた。足元の黒豹だ。 「あら」 片手を自身の口許にあて、ヨナは目を丸くする。同時に、ここが夢の中だと気づいた。 この姿になっているライカンスロープ、『ベルトルド・レーヴェ』を現実で見たことなど、それこそ数えるほどしかない。 「まさか、ベルトルドさんが出てくるなんて」 日付から考えて、これは初夢ということになる。今年一年もともに活動するパートナーの夢を見るとは、幸先がいい、と考えていいのだろうか。 「ぐっすりですね」 くすりと笑い、ヨナはそっと手を伸ばした。 一度ベルトルドの頭に触れ、ためらう。だがこれは夢の中。誰が困るわけでもなし、と再び指先を動かした。 「いいですね」 しばらくホクホクとした思いでベルトルドの頭を撫でていたが、すぐに次の欲が芽を出した。 「起きませんし。私の夢ですし。いいですよね」 うずうずしながら、ベルトルドの両前足を持ち上げる。立派な黒豹の柔らかな肉球に、漏れかけた歓声をのみこみ、咳払いをして、周囲に視線を走らせた。 「これは夢。夢ですから」 誰も見ていないことをしっかりと確認する。深呼吸をひとつ。我慢はすでに限界を迎えている。 「よし」 思い切って、黒豹の首を抱きすくめ、顔をうずめた。 温かさと毛並みのよさに、体の力が抜けていく。息を吸うと、ベルトルドの匂いがふわりとした。 「あ……」 この匂い、好きかもしれない、と思った直後。 目覚めたベルトルドが暴れ、ヨナの腕から逃れようと身をよじる。 「むぅ、今いいところなのでおとなしくしてください。私の夢なんですから、ベルトルドさんをどうしようが、私の勝手でしょうっ」 全力で抗議してくる黒豹を、ヨナはぎゅっと抱きしめた。 ふかふかしている。 気持ちがいいな、と思いながらベルトルドは眠っていた。夢とうつつの狭間を、意識はゆらゆら漂っている。まだ目覚めたくない。 (……ヨナ?) まどろみの中で、パートナーの気配を察知した。どうやら向こうは起きているらしく、衣擦れの音が微かにする。 小さな手が頭を撫で、細い指先が前足をつついた。ベルトルドの意識の度合いを確認しているのかもしれない。 (夢か……) 自身がいつもの姿でなく、黒豹の姿になっていることは分かっている。ヨナにこの姿を見せた記憶はほぼなく、誰かにこのように撫でられるのも、久しいことだった。 おっかなびっくり、といった様子だったヨナの手が、徐々に大胆になっていく。ベルトルドが目を開けないことに勇気づけられたのだろう。 (これは俺の夢のはずだが) 同じ状況になれば、現実の彼女は同じ動きをする。 確信的に思っていると、ヨナに両前足を持ち上げられた。さり気なく肉球に触れられ、目を開けることも考えたが、もう少し好きにさせることにする。 (次はなにを、……っ!) ぎゅっと、抱き着かれた。 (おいヨナ……!? どういうつも) 苦しいほどに抱き締められ、思考が一瞬だけ途切れる。 既視感を覚える状況と、おのれの扱いに軽くめまいさえ覚える。さすがに目覚めて暴れるが、ベルトルドの首あたりに顔をうずめたヨナは、不機嫌そうに唸っただけだった。 夢とはいえ爪や牙を立てるわけにもいかない。不便なことにいつもの姿にはなれず、声も出せなかった。俺の夢なのに、とベルトルドはむなしい抵抗を続ける。 「おとなしくしてください。今いいところなんですよ」 (なんて身勝手な言い分だ……!) ヨナがいいところだろうと、ベルトルドにとってはそうではない。 気づけばヨナとクッションに挟まれ、存分に体を弄ばれ――もとい、もふもふと堪能されていた。 足掻く気力を失ったベルトルドは、呆然と明るい天を仰ぎ見る。 (ピクシーの悪夢の再来ではないか……) 翌朝、二人は食堂前で遭遇した。 「おはようございます。ひどい顔ですね、ベルトルドさん」 「おはよう……。ヨナは機嫌がいいな」 対照的な表情の二人は、並んで食堂に入る。 「今朝はとてもいい夢を見まして」 「今朝はとんでもない夢を見た」 同時に発した真逆の言葉に、ヨナとベルトルドは瞬いた。 このすぐあと、二人は魔女の薬について知ることになる。 ● 真白の空間で『ローザ・スターリナ』は目を開く。 目の前には『ジャック・ヘイリー』がいつものように立っていた。他にはなにもなく、広ささえ分からない。 「……初夢が、貴方の夢になるなんてな」 浄化師として契約を結び、ともに指令をこなすようになってから、さんざん見てきた仏頂面を、ローザは改めて見据える。近づいてもジャックは反応しなかった。 「私の夢の中でさえ、眉間のしわが減ることはないんだな」 応える声はない。まるでよくできた彫像だ。 なぜか怒りのような感情がこみあげてきて、一言も発さないジャックの肩を殴った。 「……反応ぐらい、しろよ」 私の夢だから、だろうか。 よろめきもしなかったジャックを、じっと眺める。 彼を殴った手を見た。感触はあり、服越しに一瞬だったため不確定だが、体温も持っていた気がする。しかし痛がる素振りもなく、怒る様子もない彼は、どうしても現実と連動する存在ではない。 「どうせ、夢なんだ」 腹の底を焦がすようだった熱が冷える。 今度はジャックの体に、そっと手を添えた。 「ベリアル、ドレインワーム、キメラ……」 戦ってきた相手を脳裏に描き、彼が受けた傷の位置を思い出して、触れていく。 他にも大小さまざまな戦闘があった。浄化師の本分ではあるが、そのたびに彼は無茶をした。 「私は」 力不足だった。もっと強ければ、ジャックの傷は少なかったかもしれないと、ローザは幾度も思ったことを、今また噛み締める。 「なぜ、貴方は自分の身体を顧みない」 痛かっただろう。怖かっただろう。 労わるように、祈るように、触れるローザにようやくジャックが反応した。 「ああ、痛かった」 はっとしてローザは顔を上げる。ジャックは発言などしなかったように、口を閉ざしていた。しばらく待ったが、再び動く様子はない。 愛想のない顔を見つめ、ローザは深くため息を吐いた。 「痛みを感じても、か」 彼はきっと、戦い方を変えてくれない。 ならば、方法はひとつだ。 「私が、援護するしかなさそうだ」 これから彼が負う怪我が、ひとつでも減るように。今よりもさらに強くなって、その背を守る。 「前に出すぎる貴方が、それでも無事に帰れるように」 それは祈願にも似た誓いだった。 夢を見ているのだと、すぐに理解した。 故郷の村の広場の端だ。木陰に設置された古いベンチに、ジャックは座っている。 「誰もいねぇ、か」 人の声も気配も、虫の囁きも鳥たちの歓談も、木々のざわめきさえ聞こえない。風は吹かず、暑くはなく、寒くもない。 明るいが、寂寞とした夢だった。 「……なんて夢見てんだ、俺は」 呆れとも自嘲ともつかない声で吐き捨て、ベンチに身を横たえた。腕を枕にし、目を閉じる。 空からの光があったことなど嘘のように、視界はすぐに真っ暗になった。 「夢の中で寝るなんて、意味分からねぇが」 他にしたいこともない。どこかに行きたいとも思わない。 焼け跡ひとつないだけで、無人の故郷を見て回るつもりなど、欠片もなかった。 (静かだな) しんとした空気に五感を研ぎ澄まされる。 つまらない夢だ。早く目覚めればいい。朝はまだだろうか。最初こそ暇を持て余すように活発になっていた思考も、徐々に鈍くなっていく。 あるいは、このまま次の夢に移れるのではないか。 (誰だ?) そんなことさえ思い始めたころ、側に誰かが立つ気配がした。足音もなく、夢の中に降り立ったのが誰なのか。確認しようにも、目蓋を上げるのが億劫で仕方ない。 「貴方は、無茶をしすぎなんだ」 聞いたことがあるような声は、呆れたように言う。 (まだだ、足はとめられない) 唇を動かす気力さえ失ったジャックは、それでも胸の内で返す。 「ひとりで耐えないでくれ」 (俺が、やらなければ) ヨハネの使徒を、ベリアルを、抹殺しなくては。 絶望と災厄を振りまくあの存在を。神などいないとその身をもって証明して見せた悪を。故郷を滅ぼした存在を。 根絶やしにするまで、ジャックはとまらない。とまってはならない。傷など顧みず、進まなくてはならない。 体が徐々に冷えていく。底なしの沼でもがくような焦燥感。 それを、切実な声が引き裂く。 「もっと私を、頼ってくれよ」 (ああ、そうか。ここには) 肩の力が、少し抜けた。 声の正体に気づいたジャックが目を開く。氷を思わせる長身の人物が、微笑みを浮かべていた。 (お前がいたんだな、スターリナ) 再び目を閉じ、ジャックは眠ることにする。 寂寞も冷えも焦りも、今は胸の底に沈んでいた。
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*** 活躍者 *** |
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[5] ローザ・スターリナ 2019/01/07-21:18
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[4] ヨナ・ミューエ 2019/01/07-14:43
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[3] 神楽坂・仁乃 2019/01/06-21:53
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[2] リチェルカーレ・リモージュ 2019/01/06-20:42
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