~ プロローグ ~ |
今日、浄化師が一人死んだ。 |
~ 解説 ~ |
●エピソードについて |
~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは、GMのozです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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エントランスに来た目的を果たした後、ナツキを連れて大聖堂へ エリノアが安らかに眠れるよう祈り、少し話しをする 他者を守って死んだエリノアの悲報に思う所がある 答えの分かり切った問をナツキに投げてみる ルーノ:ナツキ。君はまだ他人の為に戦うつもりなのか? いつか命さえ落とすかもしれないというのに ナツキ:当たり前だろ。俺はその為にここにいるんだ、前も今も変わらねぇよ ルーノ:…ああ、本当に変わらないな、君は …仕方がない、私も覚悟を決めようか ナツキに付き合うのではなく自分の意思で浄化師として戦おう 彼に迫る死を遠ざけられるように、今の危ういバランスで成り立つ平穏を守れるように 私は自分の意思で、自分の為に力を揮おう |
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あぁそう あの子、死んだの …何回か挨拶した程度だったけど いい子、だったわよね あ?何? ラスの言葉に少し引きながら えっなにそれこわ… のらりくらりと返答 しかしラスの言葉に今までの自分の振る舞いを思い出して …そうね、ごめん でも…今更ね、変えられない いつかの惨劇の悪夢を思い出しながら あたしは覚えてなきゃいけない あの時感じた絶望を、あたしだけは忘れちゃいけないの そうしなきゃ生き残った意味がない! あたしだけが!置いていかれた意味が!! …「叫びよ、天堕とす憎歌となれ」 決めた時のこと、覚えてる? ロクでもない内容よね?でもこれが全て そうよ、全部あのガラクタ野郎のせい …あぁ、そうね あんたも、憎いのよね ごめんね、ごめん |
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【目的】 浄化師が死んだと聞いて思う事を成に話します。 【行動】 私の目に映ったのは泣き崩れるエリノアさんのパートナー。 その光景が成を失ったあの日と重なりふと足を止める。 彼は大丈夫でしょうか? 今また成が隣にいる私でもあの日の呪縛から逃れられずに成に心配を掛けているというのに。 私みたいにならないといいですが。 仕事のうえでの関係として割り切れるならあんな思いをせずにすむんでしょうけど。 成がパートナーになった日私には無理だと悟ったんです。 だから私は契約の日魔術真名を決める時成が言った『君の為に命を捧げる』 という言葉に同意したんだと思います。 (二度と同じ後悔をしない為にも。今度は私が成の為に命を捧げます。) |
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あの方 エリノアさんという名前だったのですね 浄化師ならな誰にでも起こりうる事とはいえパートナーの方の胸中は察するに余りあります 自分の命について ヨ 世界を神の脅威から解放する為ならばこの命惜しまない …という覚悟を貫けるほど私は強くはない というような話は以前しましたよね あれは 他の物事に興味を持てば執着や未練を生んでしまう それらを失うのが怖くなるのは嫌だった 弱さとさえ思った 今は…どうでしょう? 身一つのつもりでいられる訳ではないのは確かです(喰人に視線 ベ (舵の切り方が極端と思いつつ) 生きる事も死ぬ事も、強い弱いで計れるものではないしな 俺はあまり考えない事にしている 起こる可能性があったとして起こって (続 |
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※アドリブ歓迎します ※44話参照 エリノアという人の名前は聞いた事がある… その人がベリアルに…殺された? …っ、やっぱりベリアルは害悪な存在でしかない! 僕の両親も故郷も、ベリアルに奪われた。 以前…アブソリュートスペルの意味を変えようと 言ったけれど、僕にとっては…やっぱり…っ やるせない…やるせないよな… 『浄化師だから死んでも仕方ない』そんなわけないだろ…! ララは僕が守るから、今はエリノアさんの冥福を祈ろう。 そう、守ってみせる。いつか終わりがくる時まで。 |
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~ リザルトノベル ~ |
●『ルーノ・クロード』『ナツキ・ヤクト』 その光景を見たのは偶然だった。 司令部で新しい指令が受理され、エントランスを通り過ぎようとした時のことだった。 周囲ではざわめきと共に、彼のパートナーが亡くなったのだと噂されていた。 こうした周囲の悪意なき好奇の目から隠されるように連れて行かれる姿をナツキは動くこともできずに眺めていた。 ナツキは彼の姿に自分をか、はたまたは誰かと重ねたのか。沈み込む彼を連れて、ルーノは大聖堂へと向かう。 地下への階段を下りている最中、ナツキがぽつりと呟いた。 「……誰かが怪我したり、死んじまったりってのはどうしても慣れない。それが知っている顔ならなおさらだ」 「……君は慣れなくてもいいんじゃないか」 ルーノは独り言のような言葉を黙って聞きながら、静かに口を開いた。 「珍しいな、ルーノがそんなこと言うなんて」 「一人ぐらいそういった浄化師がいても構わないさ。……もちろん前にも言ったように覚悟があってのことならね」 静かな地下階段で二人の足音が妙に響く。 時が止まったような大聖堂の静寂さはどこか死の気配が漂っているように感じられた。 二人は静かに目を瞑りエリノアの冥福を祈る。 ナツキは自分が死ぬより他の誰かが傷つく方が怖かった――孤児院の家族を失ってからずっと。 (強くなりたくて、守れるようになりたくて、危険でも望んで浄化師になったんだ) もう目の前の誰かを失うのは御免だ。自分の無力さに慟哭するしかできない思いは二度と味わいたくない。 (俺は自分の意志で誰かの為に力を使う。……エリノアみないな犠牲を出さない為にも) 祈りを終えたルーノが先に顔を上げると、ナツキはまだ目を閉じていた。 そっと横目で見ていたナツキの表情が決意に帯びたものに変わった瞬間、ルーノはあの時の答えを聞く時が来たのだと悟った。 ルーノは知らず知らずの内に手のひらを強く握りしめる。 他者を守って死んだエリノアの悲報を聞いた時、ルーノは一瞬ナツキの顔が脳裏を掠めた。 浄化師であれば誰が命を落としても不思議ではないと受け入れていた筈だ。 聞かずとも答えなど明白なのに。それでもルーノはナツキに問いかけずにはいられなかった。 「ナツキ。君はまだ他人の為に戦うつもりなのか? いつか命さえ落とすかもしれないというのに」 「当たり前だろ。俺はその為にここにいるんだ。前も今も変わらねぇよ」 「……ああ、本当に変わらないな、君は」 迷いなどない真っ直ぐなナツキの視線からルーノは目を逸らすように内心自嘲する。 分かり切っていた筈だ。 これは確認に過ぎない。あの時ナツキに覚悟を問うたようにルーノ自身も覚悟を決める時が来たのだ。 以前も今も他人のために浄化師として力を揮うと断言するナツキが、エリノアと同じ結末に至るのでは、と。 そんな不安を感じるようになるとは、思っても見なかった。ルーノは内心自嘲するように笑う。 (……仕方ない。私も覚悟を決めようか) ルーノは静かに決意する。 ナツキに付き合うのではなく自分の意志で浄化師として戦おう。 彼に迫る死を遠ざけられるように、今の危ういバランスで成り立つ平穏を守れるように。 (私は自分の意志で、自分の為に力を揮おう) ナツキが己の意志で誰かを守ると決めたように。 「そうだな。君が変わらないというならば、私も私の意志で君と戦おう。君の相棒だからね」 「ありがとな、相棒!」 ナツキとルーノは拳を打ち合わせる。嬉しそうに耳をぴんと立てて笑うナツキにルーノは口元に微笑が浮かぶ。 ナツキは出会った頃から変わらない。 いつだって彼は真っ直ぐだ。 きっと変わったのはルーノの方なのだろう。変わってしまった自分に悪くないと思っている己に苦笑いする。 ナツキはいつだって誰かの為に生きる男なのだ。 己がどれだけ傷ついたとしても、彼は救われなかった命を嘆くのだ。 きっとすべて受け止めて忘れず生きようとする、あまりに不器用な生き方をする彼にいつしか絆されていた。 悩んで苦しんだとしても前に進むことを止めない。いつだって自分のことより他者のことを優先するナツキだからこそルーノは信頼できた。 それがもどかしくも、危うく見えるようになったのは何時だっただろうか。 ルーノはサクリファイスが起こした事件の時に感じたあの衝動を不意に思い出した。 やっと手に入れた居場所が、大事な平穏が壊される恐怖。 今もあの時のように心の奥底でざわついているのにルーノは気づかない振りをした。 ●『ラニ・シェルロワ』『ラス・シェルレイ』 「ああ、そう。あの子、死んだの」 ラスからエリノアが亡くなったことを告げられたラニは今日の天気でも聞いたかのように淡々と頷いた まるで興味のない話題を聞き流しているような返事に違和感を覚えた。 明るいラニにしては冷たい態度にラスは探るような視線を送る。 「……何回か挨拶した程度だったけど、いい子、だったわよね」 朧気な記憶を掘り返すようにラニはぽつりと呟いた。 ラニの心は別の場所を見ているようで、話していてもラニとの距離を感じさせた。 ラスは泣き崩れた男性浄化師の姿を自分と重ね合わす。もしあれが自分だったとしたら? そんなもの決まっている。 「お前が死んだら、オレは真っ先に首掻っ気って、追いかけるからな」 「あ? 何?」 何の気負いもなくラスにとっては当たり前のことを告げると、ラニはぎょっとした顔を浮かべた。 ようやくはっきりとラスの方を見たラニ。ムカつくことにドン引きしたような表情を浮かべていた。 「えっなにそれこわ……」 ラニはすぐにその場を誤魔化そうと茶化すような笑みを浮かべるが、ラスがそれを許さなかった 「何? あたしがそう簡単に死にそうに見えるの? 美人薄命って言うから仕方ないわ――……」 「っ! お前は!」 ラニはいつも通りのふざけようとするが、それを遮るようにラスが怒鳴りつけた。 「こうでも言わないと! お前は突っ走るだろうが!」 ラニが一瞬失敗したという顔をしたのも、ラスの怒りに油を注いだ。 「初陣の時も! 魔女の町の時も! お前は憎悪に任せて自分を省みなかったじゃないか!? オレがそんなお前をどんな気持ちで見てたか、分かるか!?」 ラスの血を吐くような叫びに、ラニは笑顔のまま固まる。 いつだって憎悪に溺れたラニがこのまま戻ってこないじゃないか心配だった。いつの日かヨハネの使徒と刺し違えて満足げに笑いながら死ぬんじゃないか。自分を置いていくんじゃないか。 そんな不安が常に付き纏う。 生き急ぐ様なラニの姿を見る度にラスの不安は膨れ上がり、ついに爆発した。 「……そうね、ごめん」 顔を手で覆ったラスはのろのろとラニの声に顔を上げる。 「でも……今更ね、変えられない」 ラスの縋るような視線を振り払い、 「いつかの惨劇の悪夢を思い出しながら、あたしは覚えていなきゃいけない。忘れるもんか、あの地獄を……あの時感じた絶望を、あたしだけは忘れちゃいけないの!」 ラスに後悔のような罪悪感を覚えながらも、ラニにも譲れないものがあった。 「そうしなきゃ生き残った意味がない!」 ラスは呆然とラニを見る。掛ける言葉もなく、ただ彼女の悲鳴のような叫びを聞くことしかできない。 「あたしだけが! 置いていかれた意味が!!」 感情の昂るまま言い放ったラニは、疲れたように項垂れた。そして、ぽつりと俯いたまま呟く。 「……『叫びよ、天堕とす憎歌となれ』」 顔を上げたラニは無理やり作ったような笑みが張り付けられていた。 「あれ決めた時のこと、覚えてる?」 「……あぁ、アブソリュートスペルか? 覚えてるよ、決めたときのこと。浄化師になった後も、なる前も」 (……お前が見せたあの昏い眼差しを覚えている、オレは覚えてるんだ) 「ロクでもない内容よね? でもこれが全て」 ラニは自嘲気味に笑うと、底のない絶望が垣間見える声で呪いを吐き出した。 「……そうよ、全部あのガラクタ野郎のせい」 「ロクでもないなんて言うなよ! そうだよ、みんなあのクソッタレどものせいだ」 「……ああ、そうね。あんたも、憎いのよね。ごめんね、ごめん」 ラニは今にも抱えている何かに押しつぶされんばかりに謝り続ける。俯いた彼女はこんなに小さかっただろうか。 「オレだってあいつらが憎い、謝るな」 「そうね、ごめんじゃないわよね。……ラス、ありがとう」 ラスがそう告げるとラニは今にも泣きそうな顔でそう告げた。 (……「置いていかれた」か。あの時もそう言ったな) ラニの憎しみの奥にある悲しみが詰まっているようなクリスマスの言葉を思い出しながら、 「……オレも置いていくもんか」 そう決意するように呟くと、そっとラニの小さな身体を抱きしめる。縋るように、寄り添うように。彼女の抱えている苦しみが少しでも楽になればいいと願いながら。 一番近くて遠い二人は互いに大切なのに、いつしか互いの心が分からなくなっていた。 それでも二人は互いの隣に立ち続ける。どんなに苦しくても足掻きながら前に進み続ける。 ●『神楽坂・仁乃』『大宮・成』 エントランスに立ち寄った仁乃の目に映ったのは泣き崩れる男性浄化師の姿だった。 (あれは確か、……エリノアさんのパートナーだった人) その姿が成を失ったかつての自分と重なりふと足を止める。急に立ち止まった仁乃に気づき成も足を止め、彼女を見上げる。 「彼は大丈夫でしょうか?」 仁乃は何かを思い出すように悲しげな表情でぽつりと呟いた。 (……きっとにのはにの自身と重ねているんだよね) 「パートナーを失って平気なんて事はないと思う」 「そうですよね、私みたいにならないといいですが……」 今また成と隣にいる日常を取り戻せたというのに、仁乃は成を失ったあの日の呪縛から逃れられずにいる。 (成にまた心配をかけている……私が弱いから) 自分の無力さが歯痒いのに、仁乃は未だ成の死を克服できていなかった。 今でも忘れてなんかいない。 自分を庇うようにベリアルの盾となった成の姿が目に焼き付いている。 何もかもか赤く、紅く染まっていき、成の温かな体温が失われていく。その生々しい感覚を今でも思い出す。 あの記憶を抱えて過ごした孤独な5年間はひたすらどう償えばいいかを考え続けていた。 成が死んだのは、自分のせいだ。 そう思い詰めた仁乃はベリアルやヨハネの使徒の脅威を無くすことでしか償えないと思った。 嘆き悲しむ男性浄化師の姿はかつての自分であり、これからも自分達の姿かもしれないのだ。 だからこそ、仁乃は強く決意する。 もう二度と成を失いはしない、と。その為ならどんなことだってする。成を殺す要因となるベリアルやヨハネの使徒を撲滅することが、成を守る一番の手段だと信じる彼女は強さを求める。 「仕事の上での関係として割り切れるならあんな思いをせずに済むんですけど……」 「死を知らされない家族なら辛い思いをしなくて逆にいいかもしれないけれど、死を知ってしまうパートナーには酷だろうな。僕だったら……」 この先の言葉は言えない。でも、これだけは言える。 市民の命が救われたなら決して無駄な犠牲ではない。浄化師として本来あるべき姿なのだろう。 (……にのの為にしか戦えない僕ならそんな浄化師の鑑にはなれない。僕の命はにのの為にあるんだから――そうあの時から、ずっと) 契約の日に脳裏に過ぎった言葉をそのまま口走った魔術真名――『君の為に命を捧げる』は、きっと成の気持ちの表れだった。 仁乃を愛し、守る為の誓約。 再会した時、仁乃をひとりにしないと告げた言葉。その裏には、仁乃のいない世界を生きるぐらいならもう一度死んだって構いはしないと思いがあったことをきっと仁乃は知らないだろう。 今はまだ告げることができない。仁乃はきっと存在意義に触れられることを無意識に避けている。ベリアルやヨハネの使徒を討伐することにくぐることで仁乃自身の心を守っているようにも見えた。 その根底には自分や仁乃の家族の死が根付いている。 だから、成は告げるべきか迷う。二の足を踏んでしまう。 (僕にはにのだけしかいないのに……そう告げられたらどんなにいいか) 今の仁乃にその思いを告げても、失うことを恐れるあまり彼女はより戦場へと向かってしまう気がした。 だから、成は仁乃に約束を反故にするつもりはないのだと行動で示し続けるしかない。仁乃が心から信じられるように。 「誰だってパートナーを失いたくない。きっとそれだけなんだ」 「そうですね、私もそう思います」 仁乃は悲しげな微笑を浮かべて頷く。 何かを考え込むように成は黙り込んだ。そんな彼を気遣うように傍にいる仁乃はなんと声を掛ければいいのか分からなかった。 昔のように接したいと思っても、あの喪失の期間が成への接し方を忘れさせてしまった。 (成が生きていると知った時、私のパートナーになった日、私には無理だと悟ったんです) きっとエリノアのように見知らぬ誰かの為に命を懸けることができない。浄化師としては失格なのかもしれない。 だからこそ、契約の日に成の言った魔術真名『君の為に命を捧げる』という言葉がすんなりと馴染んだ。 (二度と同じ後悔をしない為にも。今度は私が成の為に命を捧げます) 互いに伝えきれずにいる思いがある。大切だからこそ踏み込めない。 離れていた期間を埋めるように関係を構築し直す二人は魔術真名を口にする度にあの日の悲劇を繰り返すまいと己に誓う。魔術真名に込められた想いを真正面から伝える時が来るまで互いの心臓に触れて確認し合うのだ。 ●『ヨナ・ミューエ』『ベルトルド・レーヴェ』 「あの方、エリノアさんという名前だったのですね……」 図書館の閲覧室でベルトルドが勉強に頭を抱えている中、ヨナがぽつりとこぼした。殆ど無意識の言葉だったのだろうが、ベルトルドは勉強の一息を吐きたいところだったので話に乗った。 「挨拶ぐらいは交わしたことはあるが、指令で一緒になることはなかったからな」 「そうですね、……私達も他人事ではありませんから。浄化師なら誰にでも起こりうる事とはいえパートナーの方の胸中は察するに余りあります」 食堂内でも噂になっていたのを思い返し、ヨナは神妙な面もちで話すとベルトルドは無言で頷いた。 こんな日は嫌でも浄化師である自身について考えてしまう。 以前の自分なら考えもしなかったことだろう。ただ教団のルールに従い、指令をどうやって全うするかどうかを考えていた筈だ。 浄化師としての道しか用意されていなかった境遇ではあったが、ヨナはそれでも浄化師になったことを後悔してはいない。最終的に選んだのは誰でもない自分自身だ。 もし浄化師でなかったらと考えたこともあるが、よくよく考えてみても想像できなかった。 「世界を神の脅威から解放する為ならばこの命惜しまない……という覚悟を貫けるほど私は強くない。というような話は以前しましたよね」 こんな時ベルトルドは、ヨナは変わったなと実感する。 出会った頃のヨナなら浄化師であることに固執し、目的の為ならば敵と差し違えても構わないと思っていたことだろう。 「あれは、他の物事に興味を持てば執着や未練を生んでしまう。それらを失うのが怖くなるのは嫌だった……弱さとさえ思った」 人は誰しもが強くない。どこかに弱さを持っていることをヨナはもう知っている。 だが、今まで浄化師として生きることが使命だと思ってきたヨナは、他に拠り所をまだ見つけていない。手っ取り早い避難所であるベルトルドを除いて。 「今は……どうでしょう?」 腕を組みながら無言で話を聞いていたベルトルドに視線を向ける。 「身一つでいられる訳ではないのは確かです」 話題の切り出し方が強引で、舵の切り方が極端なのは相変わらずだな、と内心ベルトルドはため息を吐きながら、 「生きることも死ぬことも、強い弱いで計れるものではないしな」 それでも律儀に答えてしまうのがベルトルドの人の良さであった。 「俺はあまり考えない事にしている。起こる可能性があったとして起こっていない事にあれこれ考えるのは不毛だろう」 「そうかもしれません……それでも最悪の事態を想定してしまうのは私にとって保険のようなものかもしれません」 「なに、悩み多きいたいたけなパートナーを置いてうっかり死ぬ気はないさ」 「いたいたけって絶対にそう思ってない気がするんですが……」 軽口を叩くベルトルドをじとりとした目で見るヨナ。 「そう睨むな……それに残された方は辛いから、な」 そう宥めるベルトルドはうっかり口を滑らせる。ベルトルドが一瞬しまったという表情を浮かべたのをヨナは見逃さなかった。 「……思い出しますか、昔のこと」 ベルトルドは一呼吸置いて何事もなかったように話し出す。 「生き残った者は大切な人を失ったという事実を抱えて生きていく。それを含めて人生というのだろうな」 手からこぼれ落ちた大切な人を忘れないと言うことは、その喪失感を抱えて生きるということだ。 「忘れられるものでもない。……そういうものだ」 在りし日の思い出を忍ぶベルトルドが遠くに感じられて、ヨナはなんだか居ても立ってもいられず口を挟んだ。 「わ、私はベルトルドさんを残すつもりも残されるつもりもないですから」 椅子から立ち上がり大真面目にそう口走ったヨナにベルトルドは微笑を浮かべる。 「それは欲張りなことだ……だが、ヨナお前目立ってるぞ」 はっと我に返ったヨナは周囲の視線に気づき慌てて椅子に座る。 「うう……」 遠くで司書の女性がにっこりと笑っていない目で見ていることに気づき、ヨナは益々縮こまる。 さらに自分のどういう発言をしたか、今になって考え出したのか目を白黒させている。 ベルトルドはヨナの発言に驚くより前に彼女自身が動揺しているのを見て微笑ましいような面白いような。 だが、ただの言葉のやり取りだとしてもそう言ってのけるヨナが頼もしく思えた。 その後居た堪れなくなったヨナは早めに勉強を切り上げ、ベルトルドと共にそそくさと図書館を後にするのだった。 ●『ラウル・イースト』『ララエル・エリーゼ』 「エリノアという人の名前は聞いたことがある……その人がベリアルに……殺された」 ラウルは同僚から聞いた訃報に動揺を露わにした。だが、自分以上に精神的に揺らぎ、悲しんでいるララエルを見て冷静さを取り戻す。 「エリノアじゃぁん……ずびっ、エリノアじゃあん……」 ララエルは子供みたいに泣きじゃくり、ぐすぐすと鼻を鳴らす。必死に我慢しようとしているのに大きな瞳からぼろぼろと涙が落ちてやまなかった。 ラウルは何度も繰り返しエリノアの名を呼んで嗚咽を零すララエルの涙を優しく拭い取る。 人目を避けるようにすすり泣くララエルを連れて大聖堂へと向かった。 ララエルはラウルと手を繋ぎながら、エリノアの明るい笑顔を思い出す。あの笑みがもう見られないだなんて、もう二度と会えないだなんて。ララエルはどうしても信じられなかった。 大聖堂に訪れた時には、ララエルも泣き止んだもののその目は赤く腫れていた。 「……やっぱり浄化師って……死刑執行を待つ死刑囚みたい……」 いつだったか深夜に弔花を供えに来た時も似たようなことをララエルは言っていた。 あの頃は特にララエルは精神的にも肉体的にもかなり不安定な状態が続いていた。いつ自分がベリアル化してしまうのか怯えていたララエルに最期まで一緒にいる、決して独りになんかさせないと誓ったのだ。 その誓約は今でも変わらずラウルの胸にある。 今は症状が落ち着いているが、また彼女がベリアル化による発作で苦しむのかと思うと元凶への憎しみが溢れ出す。 「……っ! やっぱりベリアルは害悪な存在でしかない!」 ラウルは怒りのままに語気を荒げる。 「僕の両親も故郷も、ベリアルに奪われた……奴らは存在すべきじゃないんだ」 ラウルは感情を押し殺そうとして失敗したようなベリアルへの憎悪と怨嗟に満ちた声だった。 「以前、……アブソリュートスペルの意味を変えようと言ったけど、僕にとっては……やっぱり……っ」 「それでもっ!」 ラウルは唇を噛み締めた。自分の気持ちを誤魔化すことができなかったラウルはララエルから顔を背けようとする。 だが、それを遮るように涙に濡れた声でララエルは叫ぶ。 「それでもです、ラウル……いつ死ぬか分からない浄化師だからこそ、今日を精一杯生きようと思うんです」 苦しみながらも明日を信じようとするララエルの叫びにラウルは心を動かされる。 「だからラウル、私たちのアブソリュートスペルを憎しみに持っていかないでください……!」 「やるせない……やるせないよな……『浄化師だから死んでも仕方ない』そんなわけないだろ……!」 ラウルのやり場のない憤りにララエルは胸が張り裂けそうになる思いだった。 あるべき所に還れ。 (この魔術真名は、僕らが必ず一緒に大切な場所に生きて帰るという約束。……ベリアルの憎悪から生まれた魔術真名をララエルは優しいものへと変えてくれた) そうでなければ、怒りと絶望に呑まれて家族の記憶すら血に濡れたものとして力に変えていただろう。ララエルがいてくれたからこそ哀しい記憶ばかりでなく優しい記憶もあったのだと思い出すことができた。 ララエルが寄り添うように彼の冷え切ったそっと握りしめる。 「ラウルは私を守ってくれると言いました」 かつてラウルが自分を救ってくれた言葉をララエルは覚えている。 本来の彼は優しい。憎悪に囚われたラウルが本当の意味でベリアルから解放されて欲しいと願う。 ベリアルに殺された家族のことを忘れて欲しいのではない。ただこれ以上苦しむ彼を見たくないのだ。 ベリアルに呪いの言葉を吐けば吐く程、彼がベリアルに連れて行かれてしまいそうで怖かった。 「だから生きる時は一緒です。死ぬ時も一緒です」 「うん、ララ……僕らは最期まで生き抜いて一緒に死ぬんだ。絶対に置いていかないし、独りになんてさせない」 ラウルとララエルはもう一度大聖堂の中で誓いを交わす。地下とは思えぬ光が溢れた大聖堂のステンドグラスが二人を見守っていた。 「本当はエリノアさんも、その方が寂しくなかったですよね」 目を閉じた拍子に、涙がララエルの頬を伝って落ちた。零れ落ちた涙の滴はステンドグラスの光を受けて弾けた。 「ララは僕が守るから、今はエリノアさんの冥福を祈ろう。そう、守ってみせる。……いつか終わりがくる時まで」 二人は永遠の眠りについたエリノアが安らかであるよう祈った。
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*** 活躍者 *** |
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[6] ヨナ・ミューエ 2019/02/04-23:43
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[5] ナツキ・ヤクト 2019/02/04-22:05
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[4] 神楽坂・仁乃 2019/02/04-18:14
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[3] 神楽坂・仁乃 2019/02/04-17:18
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[2] ラウル・イースト 2019/02/04-15:37
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