~ プロローグ ~ |
「はいはい。よくよく、おいでなさいました。さてはて、お望みは如何? 人生? 未来? それとも恋? いえいえ、皆までおっしゃらなくても結構なれば。全ては、承知の上でございます。やつがれは『道繰り(みちくり)の魔女』。変えられぬ道、教えられぬ道はございません。 お望みのモノは、何物でも。如何様にでも。お教えしましょう。変えましょう。やつがれは『道繰り』。アナタ様の思うままに求めるままに。無論勿論、対価代価はいただきますが。いえいえ、憂慮、ご心配はいりませぬ。決して断じて、支払いに困る事ではありませぬ故。万事は承知。よろしいですか。ご承知ですか。それではそれでは、読み解くといたしましょう。アナタ様の行く道辿る道。希望願望望むモノ。全て全てお教えしましょう。変えましょう。やつがれは『道繰り』。全て全ての道行きは、この手の上の戯言なれば」 |
~ 解説 ~ |
【目的】 |
~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは。土斑猫です。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【目的】 事の真相を確かめる。ついでに魔女に聞いて欲しい話も。 【行動】 「ルイ。魔女に聞いて欲しい話がある。」 悩み) 「ルイったらパートナーの我に対して冷たくて。 パートナーだしもう少し仲良くしてくれてもいいと思うんだ けど親しくなろうと愛称で呼んでもそれも嫌がるからどうしたらいいか分からなくて。」 攻撃を仕掛けようとするルイを慌てて止める。 ルイの放った言葉に頭に血が上りやっぱりこんな相談無駄じゃないのと思いながらも後に引けず魔女の反応を伺う。 「家族が死んだだの消息不明にだのこんな理不尽な世の中じゃ道繰りの魔女が関係しなくとも起こりうるよね。」 「別に討伐しにきた訳じゃなく純粋な興味で聞くけど汝の仕業?」 |
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えーと、めりくりの魔女だっけ? いこいこー 単純に魔女に対して興味を抱いてる 話題:適当に今後について ニオくんが嫌いなサクリファイスもほぼ潰れたって話だし 当面の間穏やかに過ごせそうだよねー ところで魔女さん、あんたに関して悪い噂立ってるんだけど 別にあんたをどうこうしようって訳じゃないよ ただほら、魔女さんに見てもらった人たち みーんな、なんか大変らしいよ? それって何?魔女さんが対価をとってんの? それとも「道を示してもらう」ことそのものがダメ? ニオくん的に言うなら、神様からの罰的な? …え?運命? わりとどーでもいいや だっておれ達の行く先は断頭台だから おれカミサマとかよくわかんないけど 悪いことたーくさんしたしね |
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他の魔女の為にも人に害を及ぼす魔女がいると噂が広まるのは見過ごせない 道操りの魔女と接触し情報を得たい 一連の不幸と対価について気にしていたナツキが単刀直入に聞く ナツキ:大事な物を奪うとか魂を抜かれるなんて話も聞いたけど、本当なのか? 魔女に教えてもらうのはルーノの運命 運命を聞いた者に被害があるなら一人で良いと判断したルーノが独断で実行 ルーノ:…そうだな、私は長生きできそうかい?仕事柄危険は付き物でね ナツキ:おいルーノ!? どんな返答でもルーノは態度を崩さず、ナツキは良くない返答なら心配し動揺 何を言われても自分で確かめて彼女に害がないと判断すれば戦わない 噂や魔女というだけで彼女を討伐しようとは思わない |
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ヨナ 極力魔女の力になりたいとは思っているが無法者も多いと感じる 人間と変わらない多様性ではあるが強大な力を持っているのが頭痛の種 人間は神に打ち勝つことが出来るか …なんて事を本気で聞きに来た訳ではありません 人の不幸を眺めてあなたの欲しいものは手に入りますか その笑顔とは裏腹に心は泣いているように見えます 今日は私ではなく あなたの話を聞きたいと思って来ました あなたを駆り立てる原因は何? 私は人々を助ける立場にありますが 魔女であるあなたも助けたいと思っています どうしても誰かの大事な物を取り上げて不幸にしたいのならば私を不幸にしてみせてください それでどうなろうと必ず乗り越えてみせます 根競べなら負けません |
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~ リザルトノベル ~ |
●開演 月が、浮いていた。 白い霧を纏った夜空の中に、朱い半分だけの月が浮いていた。 「……朱い上弦……。噂の通りですね……」 ひっそりと静まり返った夜の街。暗いけれど明るい空を見上げ、『ヨナ・ミューエ』はそう呟いた。 「そう。つまりは、これが……」 同じ様に見上げながら、『モナ・レストレンジ』も言う。もっとも、彼女が見ているのは夜空ではないけれど。 「話のブツって訳ね」 後を継ぐ様に、『カリア・クラルテ』が言う。酷く、楽しげな声音で。 そう。彼らの前には、一つの小屋が建っている。 端っこの跳ねたストライプ模様の屋根。 サイケデリックなペイントを施された極彩色の壁。 見ているだけで、目眩と吐き気がしそうな外見。 『道繰りの道化小屋』。 それが今、皆の目の前にあるものの名。そして、皆が求めたものの名。 見つめる前で、戸口にドア代わりに垂らされた長布(ながぬの)が、一人でにクルクルと上がっていく。奥に続くのは、無数に並び立つ行灯と、それに囲まれて闇の向こうに伸びる長い道。 それを見て、『ルーノ・クロード』が言った。 「どうやら、歓迎されている様だよ」 それなら、遠慮をする理由はない。 4組の浄化師達は、仄明るい闇へと踏み入った。 『それ』の中は、怪異に溢れていた。 外から見た時には、数メートル四方程度しかなかった筈の小さな小屋。けれど、その中に満ちる世界は、途方もなく広い。 道筋をなぞる行灯。その中で淡く光るのは、よくよく見れば灯火ではなく宙に浮かぶ眼差し。それがポウポウと光を放ち、周囲の闇を照らしている。仄かに揺れる闇の向こう。で、蠢くのはこれまた奇妙奇怪な存在数多。 見た事のない動物が嘶き。 見た事のない花が咲き乱れ。 それらの合間を大小異様様々に、幾人もの道化が飛び回る。 警戒したものの、一向に危害は加えてこない。いや。加えてこないと言うのは語弊があろうか。正しくは、されていた。何をと言われても、言い様はない。ただ不快だった。意識や記憶、或いは思考。そう言ったモノを丸裸にされ、介入され、翻弄される。生まれたままの姿を、さんざに弄ばれる。そんな感覚。 ろくなものじゃない。 そんな事を思いながら、歩く。歩く。いつしか、周りの皆の姿が失せている。居るのは自分と、パートナーだけ。不審には思うも、皆も素人ではない。どうにかする筈。そう信じて、先へと進む。気を乱せば、思うツボ。そんな、確信があったから。歩く。歩く。仄闇の中を。不快の中を。悪夢の、中を。 眼差しが見つめる。楽しむ様に。蔑む様に。誘う様に。 いつしか、大きな天蓋の前に立っていた。それから下がるレースの向こうに、気配がある。 ようやく、面会。 相方と頷き合い、レースを潜った。 ●モナ・レストレンジとルイス・ギルバートの場合 ガタン! 「ちょ、ちょっと待って! ルイ! 何してる!?」 突然、問答無用で攻撃を仕掛けようとした相方を、モナは慌てて引き止めた。 「ルイ。魔女に、聞いて欲しい話がある」 「ルイって呼ばないでって言ったよね。目障りなんだけど」 恐る恐る出した言葉。それに対する『ルイス・ギルバード』の辛辣な返しに、モナは大きく溜息をついた。 あからさまに凹む相方を鬱陶しそうに一瞥し、これまた大きく溜息をつくと、ルイスは次の言を放つ。 「で、レストレンジは胡散臭いペテン師に、どんな悩み相談するつもり?」 ああ、一応聞いてはくれるのかと、気を取り直したモナ。ボソボソと意思を伝える。 「ルイったらさ、我に対して冷たいじゃない。パートナーだし、もう少し仲良くしてくれてもいいと思うんだけど。親しくなろうと思って愛称で呼んでも、それも嫌がるし。もう、どうしたらいいか分からなくて」 ピクリ。 聞いたルイスの顔が、微かに引きつる。ホントに微かなので、モナは気づかないが。 「仲良くするつもりは、ないから」 返した言葉も、微かに裏返っている。これまたホントに僅かなので、やっぱりモナは気づかない。 再び凹む相方を横目で見ながら、ルイスは心でブツブツと呟く。 (別に、ここの魔女が本当の事を言うとは思えない。でも……まさか。サクリファイスの元信者だというのを隠したくて、近づかれない為に、冷たい態度とってるって気づかれないよね。その前に、狩ればいいか……) 複雑な事情を抱える者の心情は、やっぱり複雑なのだった。 そして、話は最初に戻る。 件の魔女と顔を合わせた途端に襲いかかろうとしたルイスを引っ張り戻し、モナは青息を吐く。 「もう! 何やってるの!? 話があるって言った!」 いつもの彼女にはない剣幕。些かたじろぎながら、「分かったよ」と仏頂面で武器を収める。 「どうなっても知らないよ。死にたいなら、止めないけど」 「分かってる! いいから、そこで待ってて!」 そう言って、モナは魔女に向き直る。 当の魔女。いきなり殺されかけたと言うのに、動揺の『ど』の字も見せない。ただ、ニコニコと薄笑みを浮かべるだけ。 それに、些か戸惑いながら、モナは先の質問を彼女に向かって繰り返す。 「馬鹿正直に質問しても、まともに答えてくれる訳ないじゃん」 すかさず飛んでくる、辛辣な言葉。 大概、頭に来る。 (やっぱり、こんな相談無駄じゃないの?) などとと思いながらも、後に引く訳にもいかない。取り敢えず、魔女の反応を伺う。 「何か、貴女には物騒な噂が立ってるけど……」 問う。 「家族が死んだだの、消息不明にだの。こんな理不尽な世の中じゃ、貴女が関係しなくとも起こりうるよね」 伺う。 「別に、討伐しにきた訳じゃない。純粋な興味で聞くけど、汝の仕業?」 魔女は答えない。ただ、ニコニコと笑むだけ。 流石に気味悪くなり、もう一度「あの……」と声がけようとしたその時、 「それそれ誠、その精神」 突然、放たれた言葉。思わず、出かけた声を飲み込んだ。 「拘れ。続け。さすれば、ゆくゆく望みは叶う故」 「え? え?」 戸惑うモナに、魔女は言い募る。まるで、堰を切った様に。 「森羅万象物事は、万事全てが等価の交換。今々の望みが叶わぬは、これ簡単。全ては対価が足らぬ故」 「た、対価?」 モナの言葉に、「さればこそ」と魔女は頷く。楽しそうに。嬉しそうに。 「貴女が望むは、此方の心、此方が想い。それは既にて在れ在れど、得るに叶わぬ手に取れぬ。足らぬ足らぬ、まだ、足りぬ。此方の想い願いを捕り得るに、募る想いはまだ相当。家族亡きしは、其の対価。在りしを失くすは、其が対価。全て全ては望みの為。全て全ては万事が理。足らぬ満ちれば、成就は叶う」 無意味とも取れる、言葉の羅列。けれど、その中にモナは意味を取る。 「我には、足りないと? ルイのパートナーになるには、まだ足りないと?」 「然り、然り」 「何なの? そこまで重いの? ルイの隣りにいる事は!」 頷く魔女。思わず、モナは問う。 「何!? ルイのパートナーになるのに、必要な事は!?」 「其は……」 瞬間、 ズバン! モナの髪を掠めて飛んだマナ・ディスクが、魔女の顔を両断した。驚いて振り返るモナ。そこにあるのは、真っ青な顔をし、投擲の姿勢で固まるルイスの姿。 「そう言う事」 割れた顔でそう言って、『道繰りの魔女』はケタケタと哂った。 ●カリア・クラルテとニオ・ハスターの場合 「えーと、めりくりの魔女だっけ? いこいこー」 「道繰りの魔女だ。さては、話を聞いてないな? まあ、そういう噂があるなら確かめた方がいいな」 やたらと陽気な相方。いつもの事と呆れつつ、『ニオ・ハスター』はそう呟いた。 「それで、カリアは何か訊きたい事があるのか」 無数の眼差しが見つめる中、飛び交う道化達を楽しそうに見ていた相方にニオはそう訊ねた。 そんな彼女に、奇妙な甲羅の亀(らしき生物)をからかっていたカリアは、「そーだなー」と小首を傾げる。 「適当に、今後の事でも訊いてみようかなー」 「今後の事?」 「うん。ニオくんが嫌いなサクリファイスもほぼ潰れたって話だし、当面の間穏やかに過ごせそうだよねー。そこんとこ、どうなのかなーって」 あからさまに、適当感に満ちた返答。ニオは溜息つきつき、言う。 「お前も特に興味がないのは知ってるが、もう少しこう、悩んでるフリぐらいしたらどうだ……?」 「んー? 悩む様な事じゃないしねー」 そう言って、また観劇を楽しみ始めるカリア。ニオはもう一度、溜息をついた。 「ところで魔女さん、あんたに関して悪い噂立ってるんだけど……」 目の前に現れた魔女に、カリアは唐突にそう切り出した。 「別に、あんたをどうこうしようって訳じゃないよ。ただほら、魔女さんに見てもらった人達、みーんな、なんか大変らしいよ?」 魔女は答えない。その白い顔に笑みを浮かべ、ただカリアの言葉を聞く。 楽しそうに。酷く、楽しそうに。 それに合わせる様に、カリアも楽しそうに言葉を紡ぐ。 「それって何? 魔女さんが対価をとってんの? それとも「道を示してもらう」事そのものがダメ? ニオくん的に言うなら、神様からの罰的な?」 魔女は、やっぱり答えない。代わりの様に、ニオの方を向く。 突然、ど直球に訊き出した相方に驚いていたニオ。そんな彼女に向かって、魔女は笑いかける。どうやら、促しているらしい。 何か、繰られている様な気もするが、まあ大した問題ではないだろう。溜息をつきながら、話しかける。 「貴女に関して、良くない話が広まっているのも事実だ。貴女が道を示した者に、不幸が降りかかると。偶々、悪い結果が重なった可能性は無くはないが……」 「偶々では、あらじ」 「お?」 「む?」 魔女が、口を開いた。ケタケタと嗤う様な口調で、言葉を紡ぐ。 「これなる世に、偶々はなく。全ては必然。定かなるもの。憂いあるは、それがそうあるべきが故」 「……つまり、事は全て貴女の仕業だと……?」 ニオの声音に、確かな険がこもる。けれど、 「否」 魔女は動じない。 「それなるに、やつがれが力は及ばず。全ては摂理真理が成すが故」 顔を見合わせる、カリアとニオ。 「えーとー。つまりは、あんたの仕業じゃなくてー、摂理のせいって事?」 「それを、信じろと?」 「叶わねば」 そして、魔女は両手を広げる。その様を見て、カリアはニオに言う。 「何かー、『信じられないなら殺ればー?』って言ってるみたいだけどー」 「……だな」 「面白い奴だねー。話がしたいだけで、自分の命にも興味がないみたい」 感心した様にそう言うと、カリアは魔女に問う。 「じゃあさ、おれが質問しようとした事は、分かる?」 「これ後の、己が運命」 「あはは。アタリ」 「されど、其に真は無き」 その言葉に、カリアは笑いを止めた。そんな彼に魔女は言う。 「そも、其に心は有りや?」 「……え? 運命? わりと、どーでもいいや。だって、おれ達の行く先は断頭台だから。おれ、カミサマとかよく分かんないけど、悪いことたーくさんしたしね」 その言葉に嬉しそうに頷くと、魔女はその目をニオに向ける。 (……カリアがまじめに話をしてる……!) ちょこっと感動していた彼女。魔女の視線に気づいて、こちらも答える。 「運命、か。見えたところで、どうとも思わん。自分達の道の終点にあるのは、断頭台だ。真に神が世界を見放したなら、我らには必ず裁きが下る」 「さればこそ」 やっぱり嬉しそうに頷いて、魔女は言う。 「かの先に、道繰りは在らず」 ピン! 指が鳴る音。ストーンと音がして、上からテーブルと椅子が三脚、落ちてきた。テーブルの上には、人数分のお茶とケーキがワンホール。 「故に語らん。何時夜の夢を」 そして、魔女は椅子を勧める。 顔を見合わせるカリアとニオ。 「もっと、話そうって言ってるみたいだけどー?」 「……まあ、帰り道も分からんしな……」 頷き合うと、二人は席につく。 魔女はケタケタと哂いながら、ケーキにナイフを入れた。 ●ルーノ・クロードとナツキ・ヤクトの場合 「中は広いぞ!? これも魔女の魔法か?」 小屋に入った『ナツキ・ヤクト』が、声を上げる。 「少し落ち着け」 そう言って、ルーノは仄闇に沈む先を見つめた。 「なあ、ルーノ。魔女に会ったら、どうするんだ?」 並ぶ眼差しの視線に居心地悪そうにしながら、ナツキが問う。 「そうだな。他の魔女の為にも、人に害を及ぼす魔女がいると噂が広まるのは見過ごせない。まずは、接触したら事の真偽を確かめよう」 「質問は? 何か、考えてるか?」 自分を見つめる相棒をチラリと見て、ルーノは呟く。 「考えてはいるさ」 「……そうか」 何か、答える事を拒まれた様な気がした。だから、ナツキはそれだけを返した。 「大事な物を奪うとか魂を抜かれるなんて話も聞いたけど、本当なのか?」 魔女に会うなり、単刀直入にナツキが訊いた。簡単に、答えが返る筈もないだろう。ルーノは思う。しかし、 「否」 普通に、答えが返ってきた。 沈黙が流れる。しばし魔女を見つめた後、改めてナツキが訊く。 「……違うのか?」 「然り」 頷く。 「マジで?」 「然り」 やっぱり、頷く。 「え~……」 ポリポリと頭を掻きながら、ナツキがルーノを見る。 「……て、言ってんだけど?」 「いや、それならそれに越した事はないが……」 「やつがれが言、全て真理。されば、偽りとてもまた真理」 そう言って、魔女はケタケタと哂う。どうにも、調子が狂う。 と、魔女がルーノを見た。白い顔が、ニタリと笑む。 「其方奏でよ御魂の想い。術なる答えは我が内なれば」 ナツキが、息を飲む。 (お見通しか) ルーノは考えていた。 相手は魔女。先の言葉を素直に信じるのは危ない。話によれば、被害に合うのは運命を訊いた者。なら、相手をするのは一人で良い。 だから、彼はそれを口にする。 「そうだな、私は長生きできそうかい? 仕事柄危険は付き物でね」 「おい、ルーノ!?」 相方の行動に、思わず声を上げるナツキ。 魔女は、ルーノをしげしげと見る。 彼は、何も言わない。ナツキも、何も言えない。ただ、心の中で思う。 (また勝手に一人で決めやがって! ルーノのヤツ! 人に無茶だとか言うくせに、自分も同じじゃねぇか!? あーもう! もし不幸が起こる事になっても、俺が絶対阻止してやるからな!) やがて、魔女が口を開く。そして、 「其方に、先行く未来なし」 そう、紡いだ。 「なっ!?」 驚くナツキ。ルーノは、眉一つ動かさない。 「デタラメ言うな!そんな事……」 ナツキに構わず。魔女は続ける。 「次なる宴。其が終演。其方の道、そこにて途切れん」 「黙れ!」 ナツキが、剣を振り上げる。それを、ルーノが止めた。 「よせ」 「駄目だ!」 猛りのままに、ナツキは牙を剥く。 「さあ、言え! 嘘だと言え! 言わなきゃ……」 「嘘だよ」 言った。あっさりと。 再び落ちる、沈黙。 「嘘嘘。本気にすんな」 哂い混じりの声。楽しそう。 「……て・め・ぇ……」 「落ち着け」 半泣きで殴りかかろうとするナツキ。止めるルーノも、こめかみをヒクつかせている。 魔女は言う。 「そも、其は其方が想いにあらじ。真実偽り定めんが故の、戯言」 「む……」 「戯言に、返るは戯言。可笑しくも、無し」 ルーノは呻く。どうにも、腹の探り合いでは向こうが上。ただ、それ以上の事はしてこない。手玉に取られても、それで魔法や呪いがかかる気配もない。本当に、話好きなだけで害意はないのか。 考える彼に向かって、魔女が問う。 「さてさて、誠なる道繰りは如何?」 少しの間を置いて、ルーノは頷く。相手が見えた以上、リスクを侵す必要はないだろう。 真意を、話す。 「それは必要ない、私の道行きなら私の……」 そこまで言って、ナツキがジーッと見ている事に気づく。コホンと、咳払いを一つ。 「……私達の手で変えるのが、筋だろう」 「おう!」 満足げに尻尾を振るナツキ。その様を、魔女がニタニタしながら見ている。 「……何か?」 問えば返る。魔女は、一言。 「愛」 ルーノは黙って、魔女の頭を小突いた。 「なあ、ルーノ」 「何だ?」 「お前、何であんな事聞いたんだ?」 相棒の問いに、ルーノは間を置いて答えた。 「アレの言う通り、切実に考えていた訳じゃない……。ただ……」 「ただ?」 「戦いの合間に日常に戻った時、あと何度こんな平和な時間を過ごせるのだろうと考える事が最近増えた……。それを、思い出しただけだ」 そして、ルーノは宙を仰ぐ。ナツキも「そうか」とだけ言って、宙を仰ぐ。 ケタケタと哂う声だけが、天蓋の中に響いて消えた。 ●ヨナ・ミューエとベルトルド・レーヴェの場合 彼女に向かって、ヨナは言う。 「人間は神に打ち勝つことが出来るか……なんて事を本気で聞きに来た訳ではありません」 その人外なる者に。 「人の不幸を眺めて、あなたの欲しいものは手に入りますか? その笑顔とは裏腹に、心は泣いているように見えます」 どこまでも、凛とした姿勢で。 「今日は私ではなく、あなたの話を聞きたいと思って来ました。あなたを駆り立てる原因は何?」 問い詰め。 「私は人々を助ける立場にありますが、魔女であるあなたも助けたいと思っています。どうしても誰かの大事な物を取り上げて、不幸にしたいのならば、私を不幸にしてみせてください。それでどうなろうと、必ず乗り越えてみせます」 迫り。 「根競べなら、負けません」 言い放った。 そして、当の魔女は―― 嬉しそうに、小首を傾げた。 少し、前―― 「……随分と、遊ばれた。大丈夫か?」 「ええ。少し、頭痛がしますけど」 天蓋の前に立つ『ベルトルド・レーヴェ』に問われ、ヨナはそう答えた。 「頭の中をのぞき見られた。あの『眼差し』の仕業か?」 「多分、魔女の端末かと。企みがあってか、ただの趣味かは分かりませんが」 「どちらにしろ、褒められた嗜好ではないな」 そして、ベルトルドは天蓋のレースに手をかける。開ける前に、チラリと見るのは隣りの相方。妙に力が入っている。何と言うか、嫌な兆候。かの相方、思い過ぎるとどうにも突っ走る。また、無茶をしなければいいが。まあ、散々弄ばれた後だし、流石にそれはないと思いたいが……。 世の中、そんなに甘くはなかった。 顔を合わせた途端に、『あれ』である。 ベルトルドはヨナの手を取ると、隅まで引っ張っていく。ここなら、話も聞かれまい。 「何ですか?」 「……また、後先考えずに物を言っただろう」 「あれは、私が不幸と思わなければいい話かなと」 「主観の話じゃないか」 「あら。重要ですよ。辛い事がある=不幸とは限らないでしょう」 フンス、と胸を張るヨナ。 駄目だ。こうなったら動かない。まあ、一理はあるが。 肩を竦めていると、誰かに肩を叩かれた。 振り返ると、件の魔女がいた。気配がない。少し、ビビる。 「かの者、其方が伴侶」 ……何か、誤解があるらしい。 とは言うものの、1から説明するのも時間がかかる。まあ、大した問題でもないだろう。取り敢えず、「そうだ」と言っておく。 隣りで話を聞いていたヨナが、何故か赤い顔をしている。知らないフリをした。 「面白き」 あれを、面白いと言うか。こいつも、相当らしい。 「くれ」 そう言って、手を前に出す。手には、茶色の紙。見てみると、「離婚届」の文字があった。 ……やはり、正しい説明を怠るのは得策ではない。 「このお嬢さんは、言い出したら聞かないからな」 気を取り直し、話を切り出すベルトルド。魔女が、嬉しそうに笑む。薄々感じていたが、やはり、そうか。 「これ以上人々の不安を煽り脅威となるならば、教団が本格的に動き出す」 動じない。 「セパルの耳に入れば、都合が悪いんじゃないか?」 やっぱり、動じない。 「幕引きのタイミングを見誤る程、愚かでもないだろう?」 ケタケタ。哂う。 「……望みには対価を。対価には望みを」 唐突に話し出す。身構える、ベルトルド。 「其は摂理。其は理。得れば失う。変える叶わぬ、真理の縛り」 紡ぐ声。歌う様に。奏でる様に。 「やつがれ然り。此方の享楽。対価なれば、死も然り」 「……享楽の対価であれば、死も受け入れると?」 「然り。然り」 「馬鹿な事を、言わないでください!」 憤慨したのは、ヨナ。ベルトルドとの間に、割って入る。 「命を、たった一つの命を、一時の享楽の為に捨てるというのですか!?そんな事……」 「愚か。故、愛しき」 そう呟いて、魔女は彼女を見つめる。 「其が、在る意味。限らず。全ての在。在るが意味」 息を飲むヨナ。そんな彼女の肩を、ベルトルドが叩く。 「そうだ、ヨナ。こいつは、享楽の為に道繰りをするんじゃない。道繰りが、生そのものなんだ」 「そんな事……」 「やつがれのみに、あらず」 理解しかねるヨナに、魔女は言う。 「想い。望み。願い。欲望。其は全て、生在りし者在りし証。そう……」 伸びる手。 「其方が、その『願い』の為に在る様に……」 「!」 冷たい感触が、ヨナの頬を撫でる。 「故に、やつがれは愛おしい。その願いのままに生きる其方が」 そして、魔女は道を示す。その存在の在るままに。 「其方は、そのままに在れ。されば、道はそのままに続く」 もう一度、ヨナの頬を一撫で。魔女は、ベルトルドの方を向く。 一言。 「くれ」 「やらん」 そう返して、ベルトルドは苦笑した。 ●終演 気が付くと、全員が同じ天蓋の下に立っていた。 皆の前には、彼女が立っている。今まで会っていた『彼女』と、同じだけど違う彼女が。 「対価は確かに、頂戴致しましてございます」 彼女の手の中に浮かぶのは、人数分だけの本。 「この中に記されますは、貴女方の辿る道。それを頂戴するが、やつがれの代価でございますれば」 ペラペラとめくられる、本の頁。それに楽しげに眺め、彼女は言う。 「尚、貴女様方の対価に応じるには、やつがれの用意した対価では少々足らぬ様でして。つきましては、至らぬ分、少々道を繰らせていただきました。何、憂う事はございません。お分かりとは思いますが、それで不幸になるかどうかは貴女方次第。所詮、道は道に過ぎませぬ故」 言葉と共に、世界が欠け始める。彼女の、姿諸共。 「貴女方の道は良きモノなれば。満たすには十分でございました。しばし、やつがれは去りましょう。次なる道が、入り用となる時まで」 欠ける世界と共に、彼女は消えていく。 「迷いし時は、お呼びがけを。その道、存分に繰って差し上げます故」 ケタケタという、哂い声と共に。 気づくと、薄暗い街路に立っていた。 誰かが、欠伸をする。 見れば、遠い空が白く染まっていく。 ああ、夜が明けるのだ。 まずは、帰ろう。そして、グッスリ眠ろう。報告は、その後で良い筈。 遠い朝日が、昇っていく。胡乱な、夢の終わりと共に。 何処かで、ケタケタと哂う声が聞こえた様な気がした。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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