ミニマム・ノスタルジア
とても簡単 | すべて
8/8名
ミニマム・ノスタルジア 情報
担当 鞠りん GM
タイプ ショート
ジャンル 日常
条件 すべて
難易度 とても簡単
報酬 ほんの少し
相談期間 3 日
公開日 2019-03-15 00:00:00
出発日 2019-03-21 00:00:00
帰還日 2019-03-25



~ プロローグ ~


 教皇国家アークソサエティ、その中に存在する薔薇十字教団本部。更に東部にある教団寮の共有部分で、1人の浄化師が飲み物が入ったコップを持ち、頭を抱えながら歩いていた。
「参ったなぁ、こんな物を貰っても、使えないだろう」
 コップをユラユラと揺らし、中身の液体をため息混じりに見つめるのは、ライカンスロープの祓魔人【シモン・ルベ】である。

 事の始まりは、シモンが偶々食堂を通りかかった時に、偶々一緒になった教団員から、この飲み物を少々強引に押し付けられて、断り切れずに貰ってしまったため。
 どう考えても、あれはカレッジの研究員さんだ。そんな人が渡す飲み物と言えば魔術絡みと相場は決まっている。だからこそと困っているシモン。
 下手に捨てれば二次被害ということも考えられ、捨てるに捨てられず、こうして当てもなく寮内を歩いているんだが、どうすれば良いんだと悩みまくり中。
(思いっきり爆弾を持たされた気分だ)
 見た目はレモネードと言ったか?そんな飲み物に見えるが、どう考えても中身は別物だと判断出来る。
 いっそのこと本部から飛び出し、差し障りの無い場所に捨てる。そうだそれが良い!
 心が決まったシモンは、密かに教団寮から抜け出そうとしたが、それは突然現れたシモンのパートナーによって、あっさりと失敗に終ってしまった。
「シモン?そんなに慌ててどうしたのよ」
「いや、別に慌ててなどいないが、いきなりだなリリー?」
「なに言っているのよ、次の指令の話がしたくてシモンを探してたのよ。それなのにシモンったらどこにも居なくって、漸く見つけたんですからね!」
 彼女はシモンのパートナーで、ヴァンピールの【リリー・ロゼ】、勝ち気な性格で、毎回振り回されるのはシモンの方になる。
 だからリリーに見つかる前に処分したかったとは、シモンでもリリーには言えない……反論が怖い為に。
「??その手に持っている飲み物はなあに?シモンあなた甘い飲み物は苦手でしょう」
「これはだな……そう貰ったんだ、俺は要らんから捨てようとしていた」
「氷も入っていて、美味しそうなレモネードなのに、捨てるなんて勿体ないじゃない!」
「あっおいっリリー!?」
 シモンが持っていたコップをリリーは奪い取り、中身が分からない飲み物を、美味しそうに飲んでしまった!?
「リ……リリー?」
「んー美味しい、レモネードは清涼感があって良いわよね…………あ、あれ?」
「!?」
 あれ?とリリーが言った後、リリーの体がみるみると小さくなっていく。
 シモンは幻でも見るかのように、縮むリリーを茫然と見ていることしか出来ず、最後には子供の姿になってしまったリリーを、穴が開くほど見つめてしまっていた。


「……おじさんは誰?ここはどこ??ママ?パパ?あたし、こんな場所知らないよぉ」
「……はぁ!?」
 小さな子供の姿になってしまったリリー。しかもシモンのことを、知らないおじさんと言うところを見れば、記憶も子供にまで戻ってしまっているじゃないか!
(なんで服まで縮むんだ? いやいや、問題はそれじゃないだろ!)
「リ……じゃない、お嬢ちゃんは俺が分からないのか。とりあえず幾つなんだ?」
「私?5才よ。これからね、パパとママと一緒に馬車に乗って、ラミアーの農場を見学にいくの。そのあとに、おいしいお料理も出してくれるって。リリーは、パパとママと一緒に食事するのが楽しみなのに、変な場所に連れてこられちゃった!あーん!パパー!ママー!リリーを1人にしないでぇー!!」
「……リリー」
 リリーの家族はべリアルに襲われ、両親も兄妹も全員亡くなっている。
 そう、もう居ないはずの肉親が、まだ生きていたころの記憶なんだこれは。
(俺の知らないリリー。そして一番幸せだったころのリリー。あの飲み物のせいだと分かってはいるが……今すぐ治せとも言いにくい)
 先ほどの教団員を探して捕まえ、解毒薬を無理やりでも貰おうと思ったシモンだったが、リリーの行動や仕草を見ているうちに、そんな気も消えてしまった。
 ただ今は、不安がるリリーの側にいてやりたい。薬が抜ける間でもいいから、幸せな時を見守ってやりたいと思うシモン。
「パパとママが見つかるまで、俺が一緒にいてやる。ここで待っていれば来るかも知れないからな」
「ほんとう?おじさんと一緒にいるよ」
(嘘だが、悪い嘘じゃ無い)
 まだ浄化師になる前の、幸せそうなリリーに、己の5歳だったころを重ねるシモン。幸せだったころの思い出は捨てがたいものと、少しの間でいいから、普通の子供をあやすように、側に座ってリリーを見守ることにした。


 シモンが子供になってしまったリリーをあやして1時間ほど経ったころ、偶然通りかかったのは、よく組む仲間の【モリー】、事情を説明すれば、モリーはこの飲み物を知っていたよう。
「そりゃ初恋レモネードだ」
「初恋レモネード?」
「ああ、確か魔力を帯びた四葉のクローバーが、幼児逆行の効果を発揮する……だったか。心配するな、2時間もすれば元に戻る」
「……2時間か」
 少しの間だけ、幼いリリーと接して、シモンの方が儚い幸せにほだされてしまったのは確か。自分を知らなくてもいいから、幸せな夢を見ていて欲しい。そんな考えがシモンの中にはあったが、2時間で効果が切れてしまうと聞いて、シモンの心は心境複雑になる。
「おじさん、どうしたの?」
「いや、なんでもないんだ。ほら、まだお菓子も飲み物も沢山あるぞ」
「うん、食べる!」
 子供の純真な心は、日々戦いばかりの浄化師の心を癒してくれるよう。
 そしてシモンとリリーの話を聞いた、あなたたちも、2人が居る場所に来てしまった。
「見せ物じゃないぞ!」
「まあまあシモン、幼児逆行なんて中々見れるもんじゃないからな」
「こんなに集まった原因はオマエかモリー!」
「……みんな癒されたいのさ」
「…………」
 モリーの言葉にシモンは口を閉じる。
 ここに居る全員かは知らんが、確かに癒されたい心は存在する。それを止める権利などシモンには無いと思った。
「初恋レモネードだったよな、教団員さんから貰って来るか」
「あ、私の分もお願い」
(はっ!ちょっと待て!?)
 シモンは仲間たちが自分を見に来た理由が、シモンが考えていたことと違うのに気がついた。
 そう、あなたたちは「もしパートナーが5歳になってしまったら」と考えて、覗きに来ていたのだ。
 もしもの可能性に、あなたたちは、素知らぬ顔でパートナーに初恋レモネードをのませ、子供の姿に戻ってしまったパートナーに話かけてみた。
 2時間の間、5歳程度の子供になってしまったパートナーを、あなたはどうするのか。
 ――それは、あなた方次第。


~ 解説 ~

●目的
 初恋レモネードで、5歳程度の子供になってしまったパートナーを見守ること。

●行動
 5歳程度になってしまったパートナーですが、必ずしもリリーのように、幸せな5歳の頃とは限りません。
 悲しい過去の記憶を持つパートナーもいるはずです。

 絶対に記憶が5歳程度に戻ってしまうわけではなく、今現在の記憶を持ちつつ、体だけは子供になってしまうこともあります。
 プランには必ず記憶があるのか逆行してしまったかの有無、そして子供姿のパートナーと、2時間ほどどう過ごすのか記載して下さい。

 普通に子供をあやすのもよし。
 記憶があるパートナーとの不思議な時間を過ごすのもよし。
 パートナーの子供の頃を聞くのもよし。
 過ごすプランは自由です。

●注意
 初恋レモネードを飲めば、体は確実に5歳程度の子供に戻ってしまいます。それを防ぐことは出来ません。
 身体能力・魔力は、5歳児相当です。危険を回避する為にも教団の外に出るのはオススメしません。
 初恋レモネードの効果は、おおよそ2時間です。効果が切れると元の姿に戻ります。
 服は一緒に小さくなったとします。
(服だけはそのままで、脱げてしまうのは禁止です)

 では、変わってしまったパートナーとの時間をお過ごし下さい。


~ ゲームマスターより ~

 最近連続で登場してるなーの、鞠りんです。
 子供の頃の記憶は人それぞれです。
 幸せな記憶、悲しい記憶、複雑な記憶、そんな記憶を呼び覚まし、未来に向かって再度飛び立つが、このエピソードのコンセプトです。
 子供になってしまったパートナーと一緒に、この困難を乗り越えて下さいませ。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

テオドア・バークリー ハルト・ワーグナー
男性 / 人間 / 断罪者 男性 / 人間 / 悪魔祓い
今回の被害者、逆行。

お兄さん誰?父さんの知り合い?
ハルトお兄さん?ふーん…あれ、父さんは?
父さん、あとで遊んでくれるって言ってたのにー!
うーん、でもお父さんのお仕事の邪魔はしちゃ駄目って言われてるし…

えっ、ハルトお兄さんと?うん、いいよ!
呼ぶ時はハルでいいのか?
それじゃあハル、この建物って大きいの?探検に行こう!
ほら、はやくー!(手をぐいぐい引いて探検をせがむ)

ハル大丈夫か、どこか痛いのか?(険しい顔つきのハルトを見て怪我をしていると勘違い)
これでいいの?大人なのに変なのー
それじゃあ、ハルのこと俺がいっぱい褒めるな!
えーっと…ハルは優しいし、遊んでくれるし、面白いし…俺、ハルのこと大好きだ!
鈴理・あおい イザーク・デューラー
女性 / 人間 / 人形遣い 男性 / 生成 / 魔性憑き
アドリブ歓迎
※にこにこ笑う明るくて、かわいい物好きな少女

お兄さんだあれ?
お父さんが?…お母さんも来る?
うん、二人とも大好き。

髪がほどけちゃった…お兄さん結んで!
毎朝お母さんはかわいいリボンで髪を結ってくれるの
お父さんはマヤ(人形)をプレゼントしてくれたの

風になびくカーテンを見ながら(翻ったドレスに見えて)
おかあさん…行かないで、どうして…?


そうでした……母は、父や私よりもドレスや宝石を取ったんです。


けれど何よりも許せないのは…手を払いのけられた時に翻ったドレス……が、本当…に綺麗、だ…と…思っ…てしまった…わた…し

やめて下さい…我慢なん…て
(こらえ切れなうなってイザークにしがみついて泣く)
ヨナ・ミューエ ベルトルド・レーヴェ
女性 / エレメンツ / 狂信者 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
貸していた本を返してもらおうと喰人の部屋へ寄ってみれば
ここはどこだ おまえはだれだ
と警戒と混乱の様相の小さな喰人に驚く
この様子だと記憶まですっかり5歳児
どういう経緯で噂のレモネードを口にしたのか知る由もない
どうして??
ここはあなたの部屋で 私はパートナーのヨナです
正直に話すも子供の喰人は信じず
そんなのうそだ みんなはどこ
と毛を逆立て威嚇され膠着状態でいると大きく鳴る喰人のお腹
閃いて 何かあるはずとキッチンを見れば本人が作っただろう作り置きのスープとバスケットに入ったパン
温めて出してやると凄い勢いで食いつく
喰人の育った環境では食べ物は重要だったのだろう
急いで食べなくても誰も取ったりしませんよ 優しく話す
リチェルカーレ・リモージュ シリウス・セイアッド
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / ヴァンピール / 断罪者
レモネードを被ったシリウスに悲鳴
大丈夫、シリウス…え?
小さくなった彼に目をまん丸に
細い手足 ヴァンピール特有の耳
見間違いようのない翡翠の瞳
…シリウ、ス?

だれ という問いに少しだけ胸が痛む
でも 酷く怯えた様子に安心させてあげたいと思う
リチェ、よ こんにちはシリウス
膝をつき そっと頬に触れる
小さな呼ぶ声が嬉しくて満面の笑み

手を引いて中庭へ 
寒くない?お花は好きかしら
咲き初めの桜を見つけたの 一緒に見ましょう

ーなあに?
震える声に絶句 
…誰がそんなこと
泣きそうな彼の額にキス
シリウスは何も悪くないわ
わたし シリウスともっと仲良くなれたらって思ってる
初めて見る シリウスの満面の笑顔に息を呑む
抱きついてくる小さな体を 抱きしめる
リコリス・ラディアータ トール・フォルクス
女性 / エレメンツ / 魔性憑き 男性 / 人間 / 悪魔祓い
そうとは知らずレモネードを飲んでしまう
記憶なし逆行
今と違い無邪気で少しお姉さんぶっている

リコ…?って誰のこと?
私はララよ、ララ・ホルツフェラー
お兄ちゃんは誰?
それに、ママはどこ?
ママはね、今ぐあいが悪くて…お腹に赤ちゃんがいるからだって
だから私ね、ママに美味しいフルーツをあげたいの
2時間待ったらいいの?…2時間ってどれくらい…?

何度も「2時間経った?」と聞いては、時折家族の話をして過ごす

元に戻って事情を聞き
どうして私の本当の名前を?そう…子供に戻っていたのね

え、兄弟?そんなのいないわ…うっ!
(頭を押さえて蹲り)
どうして忘れていたのかしら…
あの時、弟妹になるはずだった赤ちゃんが、確かにいたことを
神楽坂・仁乃 大宮・成
女性 / 人間 / 人形遣い 男性 / アンデッド / 墓守
※記憶も一緒に逆行

【目的】

初恋レモネードを飲んでみる。

【行動】


初恋レモネード、私も試してみてもいいでしょうか。

もう一度純真だった5歳に戻ったら失った自分の気持ちに嘘のない偽りじゃない本当の自分を取り戻せないかな。
そんな都合のいいことあるわけないよね。

5歳)

※5歳の時は成に対してタメ。なるなると呼んでいた。一人称はにの。

なるなる?大きくなったね。

不思議そうに成を見つめる。
思い出したのは両親の死…

まま〜ぱぱ〜いかないで…
大泣きして成に抱きつく。
なるなるはどこにもいかないで…ずっとにののそばにいて。ひとりにしないで。約束だよ。

指切りを迫る。

なるなるはどうしてそんな顔するの…

言ってる意味がわからない。
ラニ・シェルロワ ラス・シェルレイ
女性 / 人間 / 断罪者 男性 / 人間 / 拷問官
アドリブ◎
縮む方:ラニ、記憶はあり
興味本位で飲んだは良いけど
本当に縮んだーっ!?ウソでしょ目線が違いすぎる!
ちょっとラス屈んでよ首が痛いだろ!!

見た目は短髪、言葉遣いもやんちゃなので今よりラスに似てる
持ち上げるなー!やめろって言ってるだろ恥ずかしい
暴れるが体格差があるのでほぼ無意味

初めて会った時?覚えてるよ!
「ドッペルゲンガーだぁ!」
仕方ないだろ あの時は本当にびっくりしたんだ
あたしはコレだし、アンタは髪長かったし!
…言葉遣い?しごかれたんだよ、あの子に
お前あいつが優しいだけだと思ってんの?凄い厳しいからな!
(しばらく会話をした後、少し笑って)
あの子のことで、笑えたの久しぶりだわ
ルーノ・クロード ナツキ・ヤクト
男性 / ヴァンピール / 陰陽師 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
子供になるのはルーノ
好奇心と悪戯心でナツキがレモネードを飲ませる

子供のルーノは知らない場所と人に驚いて逃げ出す
外に出る直前でナツキが追いつく
ナツキ:捕まえた!外は危ねぇぞ、ケガしたら家族が心配するだろ
ルーノ:…たぶん、しない。おれが「ふつまびと」だから、父さんも母さんもいらないんだって
ナツキ:なっ…

初めて知るルーノの過去にナツキが一瞬絶句
すぐ視線を合わせ話を続ける
ナツキ:もし本当にそうでも俺が心配する!俺にはルーノが必要だからな
ルーノ:…ふふ、初めて会うのにヘンなの。あれ?どうして名前…?

不思議そうなルーノをごまかし一緒に過ごして目一杯甘やかす
不安を除けるように、辛い事を思い出す暇が無いように


~ リザルトノベル ~


 あっと思った時には『テオドア・バークリー』が、初恋レモネードを飲んでしまった後で、その体は子供になってしまっていた。
「お兄さん誰?お父さんの知り合い?」
(こ、これは!記憶まで子供に戻っている?でも俺と会う少し前のテオ君……。やっぱ可愛いなぁ)
 ああ、今のテオドアと喋る時は、目線を同じくするために屈んであげないとと『ハルト・ワーグナー』は思う。
「俺はハルト。テオ君のお父様には凄くお世話になったんだ」
 ハルトの話を聞いたテオドアは、小首を傾げハルトを見つめる。
「ハルトお兄さん?ふーん。……あれ、お父さんは?」
 不安そうに父を探すテオドアに、思わず頬が緩みそうにはなるが。
「エドワード様なら、この奥で仕事の話をしているよ」
(……ってことにしとくかな)
「父さん、あとで遊んでくれるって言ってたのにー!うーん、でもお父さんのお仕事の邪魔はしちゃダメって言われてるしー」
 だとしたら、今のテオドアと遊んであげるべきと、ハルトは考える。
「だからさ、話が終わるまで俺と遊んでくれたら嬉しいな」
 口から出た言葉はこれ。でも、テオドアの顔がみるみると明るくなってゆく。
「えっ、ハルトお兄さんと?うん、いいよ!」
「俺のことはハルでいいよ」
 ふーんと考えるテオドアの仕草のなんと可愛いことか!
「それじゃあハル。この建物って大きいの?探検にいこう!ほら、早くー!」
 屈むハルトの手をグイグイと引き、探検をせがむテオドアに、ハルトは瞬時に負けてしまった。

 広大な教団内を探検するテオドアと、その後を追うように付いて歩くハルト。
(テオ君は探検好きだったなぁ)
 本当の子供の頃も、こうして探検ごっこをしていたのかと、二度と戻らない過去を思いふける。
(だからこそ、あの冷たい路地で、俺とテオ君は会えたわけだけど。
 もし、あの時テオ君が俺を見つけなかったら)
 そう、べリアルに襲撃され、あの路地に身を潜めるように隠れたハルト。それを見つけてくれたのが……テオドア。でなければ……
(俺、この世界の全てを呪ったまま死んでいた)
 過去を振り返り、立ち止まったまま険しい顔つきのハルトを見て、小さなテオドアは、ハルトが怪我をしていると勘違い。
「ハル大丈夫か?どこか痛いのか?」
 また屈んだハルトの頭を、痛くないよと言わんばかりに撫で出した。
(……やっぱり優しいねテオ君は)
「あのさ、暫くそのまま頭撫てくれる?」
 思わず出た言葉。優しいテオドアに甘える言葉。
「これでいいの?大人なのに変なのー」
「大人にはねー、甘えたくなる時があるんだよー」
「それじゃ、ハルのこと俺がいっぱいなぐさめるな!」
「ありがとう……テオ君」
 ありがとうの一言に、照れ笑いを浮かべ。
「えっと……。ハルは優しいし、遊んでくれるし、面白いし……。俺、ハルのこと大好きだ!」
 ――どうしよう、おれのておくんが、さいこうにかわいい!


 ――飲ませてしまった。『鈴理・あおい』に初恋レモネードを。
 小さくなっていく、あおいを見つめ『イザーク・デューラー』は、今と印象が違うと思ってしまう。
 普段の真面目さがなりを潜め、イザークに対してニコニコと明るく笑うその仕草に、可愛いとさえ思ってしまった。
「お兄さんだあれ?」
「俺はイザーク。ああ、もうすぐお父さんが迎えに来るから」
(記憶まで逆行したのか)
「お父さんが?……お母さんも来る?」
 あおいの母は、5歳の時に、あおいと父を捨て出ていったはず。
「……お母さん好き、かい?」
「うん、二人とも大好き」
(この時はまだ母親と不仲ではなさそうだな)
 同じ5歳の記憶でも、まだ母と一緒だったあおいの記憶なのだ。
 だとすれば、余計なことは言えないと考えるイザーク。そんなあおいは、小さくなり解けてしまった髪紐をイザークに差し出した。
「髪がほどけちゃった。お兄さん結んで!」
「髪を?」
 受け取ったはいいが、女性の髪を結ぶのに慣れていないイザークは四苦八苦。あおいは、ちょっとだけ振り返り、イザークをチラ見している。
「毎朝お母さんは、可愛いリボンで髪を結んでくれるの」
「……そうか」
「お父さんは、マヤをプレゼントしてくれたの」
 微笑ましいあおいの言葉の数々に、イザークはなにも言えなくなっていくが、髪を結び終わったあおいは、風になびくカーテンを見た瞬間、その表情がドンドンと辛く悲しいものに変化していく。
「お母さん……いかないで、どうして……?」
 そう、思い出したのは、母があおいの手を拒絶した記憶。揺れるカーテンが、母のドレスに見えてしまい、よみがえった今までの記憶の数々。

「そうでした……。母は、父や私よりも、ドレスや宝石を取ったんです」
 冷静に言うあおいは、今のあおい。
 カーテンが引き金になってしまい、記憶だけが戻ってしまった。
「現在の記憶に戻ったのか」
「はい。けれど何より許せないのは、手を払い除けられたときに、翻ったドレスが、本当……に綺麗だ……と……思っ……てしまった……わた……し」
 捨てられた母のドレスを『綺麗』と思ってしまったあおい。
 いつか『綺麗』な物の為に、大切な物を踏みにじるかも知れない。そう思い怯えていたのかと思うイザーク。その証拠に、あおいは涙を流しているのだから。
「あおいが悪いわけじゃない。むしろ今までよく頑張ってきたな。
 ……泣くのも我慢していたんだろ?」
「やめて下さい……我慢……て」
 イザークの優しい言葉に堪えきれず、あおいはイザークにしがみついて、声を殺して泣く。今まで我慢していた全てを出してしまうかのごとく。
 そんなあおいを止めないイザーク。今だけ、今だけは泣いてしまえばいい。
 ――いいさ、ここに居るのは5歳の女の子なんだから。


 「ベルトルドさん。もう、またです」
 軽いため息を吐いて、教団内を歩く『ヨナ・ミューエ』は、今日こそ『ベルトルド・レーヴェ』に貸している本を返して貰おうと、ベルトルドの部屋に寄ってみれば、小さな獣人が一人佇んでいた。
「ここはどこだ。おまえはだれだ」
 と、ヨナに対して警戒と混乱模様のパートナーにびっくり!
 しかもベルトルドは小柄で痩せていて、今のたくましいベルトルドの影さえないありさま。
(そ、そうです。みんなが初恋レモネードの話をしてました。でも、どうしてベルトルドさんが飲んだのでしょう?)
 言葉の感じから考えるに、記憶まですっかり5歳児に逆行しているよう。
 まずやるべきは、この場所とヨナ自身を分からせること。そう思ったヨナは、ベルトルドに話かけてみることにした。
「ここは、あなたの部屋で、私はパートナーのヨナです」
 正直に話したヨナだが、ベルトルドは全く信じていなさそう。
「そんなのうそだ。みんなはどこ」
 と、毛を逆立て威嚇されては、ヨナだってなかなか動けない。
 暫く膠着状態で立ち尽くすヨナとベルトルドだが、それを崩したのは『ぐう~』という、大きな音を鳴らしたベルトルドのお腹だった。
「お腹すいているの?ちょっと待っててね」
 ヨナがベルトルドの状態を察して、何かあるはずとキッチンを見れば、ベルトルド本人が作ったであろう、作り置きのスープとバスケットに入ったパン。
 それを温めて出してあげると、ベルトルドは凄い勢いで食べ出し始めた。
「急がなくても、誰も取ったりしませんよ」
 だからこそ、ヨナはことさら優しくベルトルドに話した。

 お腹が満たされて少しは気を許したのか、ベルトルドが再び口を開く。
「おまえのいってることは、よくわからないけど、みんなもここにいるのか?」
 ベルトルドの5歳の記憶なのだから、本来居るべき場所はスラム街。みんなはスラムの子供たちのこと。その程度はベルトルドから直接聞いて、ヨナだって知っている。
「……皆はここにはいません」
「そうか」
 ベルトルドから見えるのは、まだパンが沢山入ったバスケット。それを、すす……と引き寄せ。
「おれ、みんなのところに、もってかえりたい」
 5歳といえば、愛を享受だけでもおかしくない年頃だというのに、そんなことを気にしてしまう環境にベルトルドは身を置いていた。
 それに気づいたヨナは言葉にならず、ただベルトルドをそっと抱きしめ。
「分かりました。かごいっぱいにして持っていきましょうね」
 そう柄にもない下手な嘘をついてしまっていた。
 一方ベルトルドはというと、身じろぎ出来ずにいるが、ヨナの言葉を聞いて。
(なぜこの人は泣きそうなんだろ)
 そう不思議に思うが、その腕の中は、その言葉は、優しくて安心する。
 ――少しの間だけこうしていたいと思うベルトルドだった。


 面白半分に、みんなが初恋レモネードを持ち歩くのを眺めていたが、その中の一人がつまずき『リチェルカーレ・リモージュ』に向けて、ひっくり返したレモネードから庇った『シリウス・セイアッド』だったが。
「だ、大丈夫、シリウス!?」
 慌てたリチェルカーレを安心させるように「大丈夫」と答えるが、その途端傾いた視界に、シリウスの意識は飛んだ。
「え?……シリウ、ス?」
 みるみると小さくなったシリウスに、リチェルカーレの目は驚きで、まんまる状態。
 でも、細い手足にヴァンピール特有の耳。だけど見間違いようがない、シリウスの翡翠の瞳全てがシリウスを指している。
 そんなシリウスは、教団の制服に気づいて、怯えた表情を見せた。シリウスには教団全てが恐怖の対象。そう、シリウスの幼少時は、教団の実験動物扱いだったがゆえの拒絶の反応。
「……だれ?どうして、ぼくのなまえ」
 『だれ』という問いに、少しだけ胸が痛むのはリチェルカーレの方。でも、酷く怯えた様子のシリウスを安心させてあげたいと思う。
「リチェよ、こんにちはシリウス」
 膝をつき、リチェルカーレがそっと手を伸ばすと、シリウスは叩かれるのではないかと、びくりと肩をすくめたが軽く頬に触れられただけ。
 その優しい笑顔と手に、シリウスの目が見開く。
「……リチェ?」
 と、知らず小さく叫んでしまっていた。
 その小さな叫ぶ声を聞き取ったリチェルカーレは、嬉しくてシリウスに向かって満面の笑みを返したのであった。

 小さなシリウスの手を引いてやって来たリチェルカーレ。シリウスの方は、まだ不安げな表情を崩してはいない。
「寒くない?お花は好きかしら。咲き始めの桜を見つけたの、一緒に見ましょう」
 繋がれた手と、リチェルカーレの綺麗な青と碧の瞳をシリウスはじっと見て、シリウスはおそるおそるリチェルカーレに話しかけた。
「あの、ね。ぼくといていいの?」
「……なあに?」
「だって、ぼくのせいでみんな死んだって。あぶないから、ここでかくりするんだって」
 震えるシリウスの声に、リチェルカーレの方が絶句する。
「……誰がそんなこと」
 誰からか言われるたび、苦しくなる胸をおさえるシリウス。そんな泣きそうなシリウスに、リチェルカーレは自然にシリウスの小さな額にキスをしていた。
「シリウスは何も悪くないわ」
 額の暖かな感触に視線を上げ、その言葉の意味を理解して、シリウスは瞬きをひとつ。
「ほんと、に?」
「わたし、シリウスともっと仲良くなれたらって思ってる」
 頷くリチェルカーレに、シリウスは頬を染めて、不思議なくらい笑顔になれる。
 初めて見るシリウスの満面の笑顔に、息を呑むリチェルカーレ。これがシリウスの本当の笑顔。
 ――そして抱きついてくる小さな体を、優しく抱きしめ返した。


「あっ、リコ!その飲み物は……!」
 噂を聞きつけ貰ったはいいが『リコリス・ラディアータ』に飲ませようかどうか迷っていた『トール・フォルクス』だったが、リコリスは、そうとは知らずに初恋レモネードを飲んでしまった。
 本当に子供に戻ってしまったリコリスに驚くものの、トールは思いきってリコリスに話かけてみた。
「リコ?」
「リコ……?ってだれのこと?私はララよ、ララ・ホルツフェラー。お兄ちゃんはだれ?」
「リ、リコ?え?ララ?」
(記憶まで5歳に?)
「そうか……。それが本当の名前……。いやいや、何でもない、こっちの話。
 俺はトールだよ、よろしくな」
 それで何をしていたの?と、続けて聞いて見れば、リコリス……いや、ララなのか?ララはお姉さんぶって話し出した。
「ママはどこ?ママはね、今ぐあいが悪くて……。お腹に赤ちゃんがいるからだって。だからね、ママに美味しいフルーツをあげたいの」
 困ったのはトールの方で、ママを探すララにどう言い訳すればいいのやら。
 そう、2時間俺が引き留めればいいと、トールは答えを出す。
「えーっと……。君のお母さんは、今は……そう!お医者様に診て貰っているんだ!後2時間くらいで戻ってくるよ」
 ――それまで、ここで待っていてくれるかな?
 そう誤魔化し言い切れば、ララは不思議そうな顔をして、トールを見つめている。
「2時間待ったらいいの?……2時間ってどれくらい?」
 そう言われても2時間を言葉で表すのは難しく、トールは話ながら2時間を待つことに決めた。
「私、お姉ちゃんになるのよ」
 兄弟がいたのかと思いつつ、折角なので色々聞いてみるトール。お腹の子供は双子とか、母親はニホンの出身の歌手で、ヒットした曲を歌ってくれたりとか。……その度に「2時間経った?」と聞かれるのが少々辛い。

 一通り話を聞いた頃に本当に2時間が経過し、元の姿に戻ったリコリスに安心するトール。悪戯はするものじゃないと、しみじみ実感。
 そして悪戯した罰なのか、2時間の間の事情説明に奔走することに。これはトールが悪いので致し方ない。
「……ララ?」
「どうして私の本当の名前を?」
「リコが自分で言った」
「そう、私は……子供に戻っていたのね」
 初恋レモネードの説明を聞いて、漸く納得したリコリス。
「ああ、ごめん。嫌なら今まで通りにリコって呼ぶよ。ところでリコには兄弟がいたのか?一度も聞いたことがなかったから」
「え、兄弟?そんなのいないわ……うっ!」
 急にリコリスに襲いかかる頭痛。その痛みが消える寸前に見えたのは、過去の……母が大きなお腹を抱えて笑っている思い出。
「私……。どうして忘れていたのかしら」
 あの時、弟妹になるはずだった赤ちゃんが、確かにいたことを。
  ――リコリスは思い出した。


 ――もう一度、あの頃の仁乃に会えるなら。
 『大宮・成』は、貰った初恋レモネードを見つめながら考える。
「初恋レモネードですか成。私も試してもいいでしょうか」
 成が持っていたレモネードを後ろから見つめ、声をかけたのは『神楽坂・仁乃』である。
 成に考えがあるように、仁乃にも考えはある。
 もう一度、純真だった5歳に戻ったら、失った仁乃の気持ちに……嘘のない偽りじゃない、本当に仁乃を取り戻せないかという考え。
 ――そんな都合がいいこと、あるわけがないと分かっていても。
「え?試す……あぁ!?」
 仁乃の声に驚いて、後ろを振り返った成と同時に、仁乃は成からレモネードをひったくり、一気に飲んでしまっていた。

 小さくなった仁乃を見下ろす成と、小さくなってしまい成を見上げる仁乃。いつもとは真逆の光景。
「なるなる?大きくなったね」
 仁乃から見れば、成が仁乃の身長を追い越したと思っているらしい。
「……なるなる」
 それは昔、仁乃が成のことを呼んでいた頃に使っていた愛称。ということは、今の仁乃の記憶は5歳。それに気づいて成はドキッとする。
 不思議そうに成を見つめていた仁乃だったが、次に思い出したものは……両親の死の悲しい記憶。
「まま~ぱぱ~いかないで。にのをひとりにしないで」
 辛い記憶に泣きじゃくる仁乃。成に抱きつき大泣きする仁乃。そう、仁乃の両親が死んだのは、仁乃が5歳の時だった。
「僕がいるからね」
 大泣きする仁乃の頭を優しく撫で、少しでも安心させようとする成だったが。
「なるなるはどこにもいかないで。ずっとにののそばにいて。ひとりにしないで。約束だよ」
 仁乃が成に差し出したのは小さな小指。仁乃は約束の証として、指切りを迫って来た。
『どこにもいかない。ずっとそばにいる』
 遠い5歳の時の約束。そして守れなかった約束。
 今と同じく指切りを迫られ約束したのに、結局成は仁乃を一人にしてしまったことを思い出す。
 過去を思い出し悲しい顔の成に、仁乃の不安も増してしまったよう。
「なるなるはどうしてそんな顔をするの」
(どうしてって……。約束を守れなかったから)
 今更謝っても、どうにもならなくても、成には仁乃に何を言っていいのか分からずに。
「約束守れなくてごめんね」
 そう仁乃に謝ってしまっていた。
「??」
 でも、5歳の仁乃には、成が言っている意味は分からない。
「なるなる、ゆびきりは?」
「……うん」
「約束」
「うん、約束だよにの」
 ――だから……指切りをした。


 みんなが噂をしているので、興味本位で初恋レモネードを飲んでみた『ラニ・シェルロワ』は、縮んだ自分の体を見て大はしゃぎ。
「本当に縮んだーっ!嘘でしょ、目線が違いすぎる!
 ちょっとラス屈んでよ、首が痛いだろ!!」
 そう言われて、ラニの目線の高さまで屈むのは『ラス・シェルレイ』。初恋レモネードなんてと思っていたが、本当に縮むとは。
「うわ、すっげぇ……本当に縮んだ」
 言葉から考えて、ラニは記憶はあるらしい。ただし言葉使いは完全に昔に戻っているが、それもラニらしいとラスは考える。
 そして、小さなラニを見て、やってみたくなったこと。
「……えい」
 抱っこしてラニを振り回すように、クルクルと回してみることだったりする。
「持ち上げるなー!回すなー!やめろと言っているだろ恥ずかしい」
 バタバタと暴れてみるが、体格差がありすぎて無意味に近いとラニは半分諦め境地。
 今とはちがい、5歳のラニは見た目が短髪、言葉使いもやんちゃで、どことなくラスに似てなくもない雰囲気がある。
「うん、面白いな」
 それを感じて、更に楽しんでいるのは、ラスの方だったりするのは内緒。
「や~め~ろ~!!」
 あまりにもラニが暴れるので下ろしたラスだが、今度はラニの顔をまじまじと見てしまう。
「なあ、オレと出会った時のことを覚えているか?」
「初めて会った時?覚えているよ!」
 思うことは2人とも同じ。会って初めて思ったこと、それは。
『ドッペルゲンガーだぁー!』
 声を揃えて同じ言葉を言うラニとラス。つい顔を見合わせて笑ってしまう。
「……いきなり何言ってるんだと思ったよ」
「仕方ないだろ。あの時は本当にびっくりしたんだ。あたしはコレだし、アンタは髪長かったし!」
「そうだな。オレも髪長かったし、お前は髪短かったし、逆だった」
(本当逆だよなぁ……。あのやんちゃ坊主が)
 まだラスが出会っていない頃のラニの姿に、これはこれで新鮮な気分になれるというもの。
「お前よくその状態から今のアレまで持っていかれたな?」
「……言葉使い?しごかれたんだよ、あの子に」
「……あぁそうか、彼女が」
「お前あいつが優しいだけだと思ってんの?凄い厳しいからな!」
「厳しい?そうか?……いや、そうだったな」
 少々あやふやな記憶だが、覚えていることは覚えている。優しく厳しい、それが彼女だったと。
「あの子のことで笑えたの久しぶりだわ」
 そう言って笑うラニに、ラスも安心して笑い返す。
 ――だからもう少しだけ、このままで。


「ふっふー、手に入れたぜ。まってろよルーノ」
 初恋レモネードをひっさげ、ご機嫌に『ルーノ・クロード』の元に向かう『ナツキ・ヤクト』。理由?そんなものは簡単、好奇心と悪戯心に決まっているのがナツキらしい。
「ルーノ、ジュースだぜ」
「珍しいね、ナツキが飲み物を持って来るなんて」
「たまにはあるだろ。ほらよ」
 ナツキが差し出せば、ルーノは素直にコップを受け取った。
「ああ、ありがとう」
 そう言い、疑いすらせずにナツキから渡された、初恋レモネードを飲んでしまったルーノは、すぐに子供に早変わりしてしまう。

「ここ……どこ?」
 小さなルーノは記憶も5歳に逆行してしまったらしく、辺りを見回し、知らない場所と人(ナツキ)に驚いて、急に部屋を飛び出し逃げ出してしまった!
「お、おい!」
 外に出ては危険と慌てて追いかけるナツキだが、小さなルーノの足は予想以上に素早く、教団の正門近くで漸く追いつき、その手を握って捕まえることが出来た。
「捕まえた!外は危ねぇぞ、ケガしたら家族が心配するだろ」
 ナツキに捕まり怯えるルーノ。誰もルーノを守ってくれない、その思いからルーノは逃げるという選択をし行動に出ただけ。
「……たぶん、しない。おれがふつまびとだから、父さんも母さんもいらないんだって」
「なっ!?」
 初めて知るルーノの辛い過去に、ナツキははっと息がつまり絶句するのを隠しきれない。
(子供のルーノってどんなだろうな!……ってノリだったけど、面白がっている場合じゃねぇな)
 親が子供にこんなことを言うなんて、そんなことがあるのだろうか。
 ルーノはそれをずっと抱えていたのか?
 小さいのにたった一人きりで……もしかしたら今でも?
(ずっと……。ずっと俺にまで隠して、ルーノは辛い過去に耐えてきたのか)
 そう考えた瞬間、ナツキは膝を折り、ルーノと目線を合わせて話を続けることにした。
「もし、本当にそうでも俺が心配する!俺にはルーノが必要だからな」
「……ふふ。初めて会うのにヘンなの。あれ?どうして名前……?」
 不思議そうに考えるルーノを誤魔化しながらも説得し、初恋レモネードが効いている時間を一緒に過ごして、ルーノを目一杯甘やかす!
 そう心に決めたナツキは、ルーノの手を繋ったまま教団の中へと戻ってゆく。
 今は少しの間だが、不安を除けるように、辛いことを思い出す暇がないように。
 いつものようにナツキが騒いでいればいい、ルーノが辛いことを忘れるまで。
「大丈夫、俺がついているからな」
 ――今も、そしてこれからもずっと。


ミニマム・ノスタルジア
(執筆:鞠りん GM)



*** 活躍者 ***

  • 神楽坂・仁乃
    私は強くなるしかないんです
  • 大宮・成
    僕の命は仁乃の為にあるから

神楽坂・仁乃
女性 / 人間 / 人形遣い
大宮・成
男性 / アンデッド / 墓守




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2019/03/02-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。