ニーベルンゲンに忍び寄る影
簡単 | すべて
2/8名
ニーベルンゲンに忍び寄る影 情報
担当 鞠りん GM
タイプ ショート
ジャンル 戦闘
条件 すべて
難易度 簡単
報酬 少し
相談期間 4 日
公開日 2019-05-14 00:00:00
出発日 2019-05-21 00:00:00
帰還日 2019-05-25



~ プロローグ ~

 『竜の渓谷に、ヨハネの使徒が出現した!』
 薔薇十字教団の指令部に緊張が走る。
 この情報を持って来たのは、『サリウス・ブラント』と名乗る遊牧草原を管理するデモン・半竜の一人。
 話によれば、ヨハネの使徒は、どこからともなく現れ、遅い動きながら遊牧草原を歩き進め、ニーベルンゲン草原の方向を目指しているという。
「ということは地上稼働型のヨハネの使徒。だがなぜだ?基本的にヨハネの使徒は魔力(マナ)の高い者を狙う」
「……それは」
 情報を持って来たデモンは表情を曇らせ、仕方がないといった感じで話をし出した。
「一人……一人我々の中で、マナが高い者がいる、俺の息子『トシュデン・ブラント』だ。多分ヨハネの使徒は息子を狙っている。そして息子が今居る場所は……ニーベルンゲン草原の集落だ」
 話を聞いた指令部の教団員は、なるほどと納得する。
 ヨハネの使徒に狙われるほどのマナの持ち主は、当然浄化師候補として教団に保護される。
 だが、このサリウスという男は、息子を教団に取られたくなかったのだろうと。
「ヨハネの使徒の討伐および軍事的支援は教団の義務。すぐに浄化師を向かわせることになるが、あなたの息子の保護も視野に入る」
「……やはり」
 予想通りの答えに、男は肩を落とすが、こればかりは世界のためにも、トシュデンのためにも、致し方ないことだと教団員は話を続けることにした。
「結論から言えば危険。息子さんも、あなたも、そしてドラゴンたちも。そう考えると、息子さんの保護が一番の対処法になってしまう」
「そうですか……。ヨハネの使徒の討伐と……トシュデンをよろしくお願いします」
「全力をつくすと約束しか出来ませんが」
 肩を落として部屋から出ていく男を、いたたまれなく見つめつつも、教団員は男が置いて行った情報を報告するために、集約を開始した。

 待つこと一日。
 すぐに竜の渓谷に待機しているレヴェナントに連絡を取り、情報収集した結果がこの司令部に集められた。
「ヨハネの使徒は地上稼働型一体、推定体長は三メートルほど。低速で移動をしているので、移動速度は10㎞から20㎞。ただ今まで見た中でも巨大な部類に入るそうです」
 次々と読み上げられる報告の数々。
「これは見た目からの判断でしょうが、四脚の足の右方向、その付根に魔方陣が見えたと報告にあります。おそらくこれがコアでしょう」
「付根とあるが、それは地面に接している場所なのか、それとも地面に近い場所なのか、それにより対処も大きく変わる」
 確かに教団員の言う通り。
 もし、地面に接している場所ならば、ヨハネの使徒が足を上げない限り、魔方陣を狙うのが難しい。
 達人ならば、四脚の一本ごと斬り落としてしまうだろうが。
「草原という障害物がない場所というのが辛いが、浄化師を向かわせれば、少なくともヨハネの使徒はターゲットを、サリウスの息子トシュデンから浄化師離すことが出来る」
 それにはこの会議に出席している司令部の教団員全員が同意。
「対象の保護と、ヨハネの使徒の討伐そしてパーツの回収。やることは多い」
 天使の姿をした悪魔のような生物から、貴重な素質を持った子供を助けつつ、討伐しなければならない。
 そして浄化師に指令が下る。
 ――ヨハネの使徒が子供に手をかける前に討伐しろ!!


~ 解説 ~

●目的
 子供を保護しつつ、ヨハネの使徒を討伐すること。

●行動
 ヨハネの使徒は豊富なマナを持った、デモンの男の子をターゲットにして移動しているようです。
 男の子トシュデン・ブラントが居る場所は、ニーベルンゲン草原の集落。ヨハネの使徒が集落にたどり着く前に、ヨハネの使徒と戦闘を開始して下さい。

 今回は教団員にレヴェナントも竜の渓谷内で活動しています。
 子供の保護はそちらに任せ、ヨハネの使徒の討伐に専念するのもアリです。
 勿論、子供の保護に回るのもアリです。

●補足
 ヨハネの使徒は推定3メートル超え(2マス)、重量は1000㎏以上。
 攻撃方法・突進、蹴り上げ、踏み潰し、前足を振り下ろすなど。

 20メートル四方に追い込み戦闘開始。
 ただし障害物がありませんので、四隅にはヨハネの使徒が逃げられないように、教団員が武器を持ち待機しています。
 ですので逃げられる心配はせずに、思いっきり戦闘して下さい。


~ ゲームマスターより ~

 鞠りんです。
 ヨハネの使途出現!ターゲットにされた子供を保護しつつ討伐もして下さい。
 そこまで難しくはありません。ヨハネの使途は厳重な包囲網で抑えてから攻撃開始ですので、硬いでしょうが思いっきり攻撃しちゃってくださいね。
 みんなで攻撃すれば怖いものなんてありませんよね?よね?
 そして、プランによっては子供救出にもなります。さあ、その子は素直に聞き入れてくれるのか……は、お楽しみに。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

エリシャ・ヘス イグナシオ・ヴァルデス
女性 / マドールチェ / 魔性憑き 男性 / アンデッド / 狂信者
まずは使徒の討伐が先決だ

大きく重い敵の正面に出てはいけない。攻撃を諦めて全力ダッシュをしてでも正面に立たないことを優先する。この間に別方向から誰かが攻めてくれるだろう。
攻撃は足を狙う事。動きを止めるのは勿論、コアのある足を破壊できるかもしれない。
私はFN2で主に足の付け根を狙う。
エリーは敵の間合いに入るか入らないかの位置を取り続けて注意を惹き、味方の攻撃の隙を作る。そのために攻撃よりはBD1で回避を優先。

使徒を倒したら次はトシュデン君だな。
「君は選ばれたようだ。そして狙われている。あの使徒はその手始めだ」
英雄の悲しき宿命、といった感じで話してみるか(心理学)
ラニ・シェルロワ ラス・シェルレイ
女性 / 人間 / 断罪者 男性 / 人間 / 拷問官
ハローハロー、ガラクタ野郎
ささっと見つけてぶっ殺しましょうそうしましょう
…大丈夫、頭はちゃんとクールにね?

子供の救出はレヴェナントにお願いしましょ

初手魔術真名詠唱
JM8で先手を取り、使徒の意識をこちらに向かせる
仲間が駆けつけるまでは回避中心
脚の動きを見て攻撃を予測、攻撃方向を見て回避もしくは受け身を取り
少しでもダメージを減らす
その際にコアの位置を確認
コアが確認できなくとも「コアがない」足の位置を把握

基本方針は足への攻撃
敵が味方へ攻撃する際、足を振り上げた直後に自身に一番近い足の地面を抉るように
地面を崩すことでバランスを崩させる
動きの妨害が成功すればコアへ集中的にJM10
「往生際が悪いのよッ!」


~ リザルトノベル ~

 広いニーベルン草原を移動するヨハネの使徒、だがその巨体ゆえに歩みは遅い。
 その特性を生かし、教団員は予定通りにヨハネの使徒の四隅を囲むことに成功し、教団本部から持参した、強力結界を展開させた。……それでヨハネの使徒の歩みを完全に止められるとは思わないが。
 それでもこれで、ヨハネの使徒は浄化師たちの包囲網の中。後はじっくりとコアを正確に探し当て、破壊すれば済むこと……だったのだが予定が狂ったとしか言いようがない。
「まさか、あたしたちだけになるなんてね」
 そう愚痴を溢すのは、双剣のイレイスを構えた『ラニ・シェルロワ』。
「違うだろ、オレたち四人だ」
 辺りを見回しニヤリと笑う『ラス・シェルレイ』、集まった浄化師は四人。
 これは偶々教団本部で、手の空いている浄化師が殆ど不在だったため。その緊急性も考えられ、ラニたち四人に指令が下った。
「まずはヨハネの使徒の討伐が先決でしょう」
「ヨハネの使徒は、マナの高い者を優先して狙いますわ、お兄様」
 『イグナシオ・ヴァルデス』と『エリシャ・ヘス』は、それでもなお移動しようとするヨハネの使徒を見つめながら、弱点である魔方陣を確認出来ないか?そう考えているよう。
「足の付根って話だよね?」
「そうだな。右脚のどこか、正確には載っていなかったんだ」
 司令部で聞いたのは『四脚の足の右方向、その付根に魔方陣が見えた』それだけ。
 もう一つ聞いたのは、今回ターゲットにされている子供、トシュデンを保護し教団に連れ帰ることの二点。
「この人数でさ、討伐と保護は難しいんじゃない?」
「私もラニさん、貴女の意見に同意します。今戦力を分散させてしまっては、勝てるものも勝てなくなってしまいます」
 情報解析能力と問われれば、研究が生き甲斐のイグナシオが一番高い。
 そしてイグナシオの意見に、ラニもラスも異論一つありはしない。
「でもさ、トシュデンくんだったよね。その子の保護は……そこにいるレヴェナントにお願いしましょ!」
「ラニ、お前な!」
「ガラクタ野郎を、ぶったおしましょ、そうしましょ」
 さっさと待機中のレヴェナントたちの元に行き、子供の保護をお願いするラニを見て『大丈夫か?』と思うのは、ラスだけではないはず。
(絶対にハイになってっだろ!)
 相手はヨハネの使徒。
 ラニが一番憎悪するヨハネの使徒。
 こうなるとラニは止まらない。あれが動かなくなるまで止まることを知らない。
 ――ラスが危惧しているのはその点。
 そんなラスも、ヨハネの使徒に対する恨みはある。忘れていることもあるが、その復讐心は本物。
 ただし、ラニほど表に出さないようにしているだけのこと。
「ラニ、分かっていると思うが」
「……大丈夫。頭はちゃんとクールにね?」
(全然分かってないだろ)
 笑顔で答えは返って来たが、今のラニは双剣を振り回し準備万端。というより攻撃体勢丸出しというか、本能そのままに突っ込んで行くようにしか見えない。
 ……と、思いきや。
「流石に分かってる。今回は人数も少ない。……大丈夫だよ、だから早く追いついて来なさい」
(やっぱり分かってないだろ!)
 真面目に聞いていれば……これだ。ラスが落胆するのだって、当たり前の話。

「面白いですね」
「……お兄様は、ああいうのがお好みですか?」
 ラニとラスのやり取りを見ていて、軽く笑ったイグナシオに、エリシャがすかさず反応を示した。
「見ていて面白いというだけ。どうしたエリー」
「……いえ」
 出どころ知らずのマドールチェは、イグナシオを見て、なにか考えているような感じを受ける。
「……?」
 そんなエリシャの行動が、理解出来ないのはイグナシオのほう。
 普段はイグナシオに絡みまくる、元気なエリシャの考える姿は、あまり見られるものではない。
「ん……。足が弱点か。コア狙いに行くとはいえ、足自体が頑丈ではなく、狙われやすいだろうに。神の考えることは分からないな」
 ――だからイグナシオは話を変える、目の前のヨハネの使徒に集中するために。
「お兄様、簡単に足と言いますが、その足は攻撃物でもありますわ」
「そう。だからエリー、貴女の身軽さが鍵となります。向こうのお二人は攻撃中心になりそうですから、囮を頼めますか?」
 ラニとラスの攻撃特性は接近戦。ならば攻撃のタイミングを作る、囮役は必要不可欠。
 残念ながら、遠距離攻撃型のイグナシオに、エリシャほどの回避能力は……ない。
「エリー、大きく重い敵の正面に出てはいけない。攻撃を諦めて、全力でダッシュしてでも、正面に立たないことを優先する。いいね?」
(その間に、別方向から攻めてくれるだろう)
 今の位置取りからして、ラニとラスはヨハネの使徒を挟んだ向こう側。こちらからエリシャで気を惹き付ければ、向こう側に隙が出来、攻撃しやすくなるだろうというイグナシオの計算。
(上手くいけばいいが)
 失敗すれば命はないだろう。その程度はイグナシオだとて分かっている。
 だから……失敗は許されない。全力を出し、ヨハネの使徒を殲滅するまで。

「ラス、いくよ」
 ラスの正面に立ち、ラスの目を見つめるラニのその行動は。
「……使うのか?」
「使わないと勝てない。……この世からヨハネの使徒を殲滅するためにも。そのための力でしょ?」
 ラニとラスの憎しみは暗く深い。だから……ラスも同意する、魔術真名を使うラニの決意を。
 ラスもラニの目を見つめ、両手を絡ませ強く握り、息を合わせて口にする。二人の魔術真名、その言葉の全てを敵に乗せて。
『叫びよ、天堕とす増歌となれ』
 二人の力が合わさり一つになった魔方陣が、輝きを最大にする。
 その輝きの中で、納得したように手を離した。
「行こう。あたしは冷静だからさ」
「ああ、行こう」
 瞬時に互いに距離を取り、ラニは牽制のための一撃を放つ。
「ハローハローガラクタ野郎!あたしが相手になってあげるよ!」
 攻撃が命中したのと、ラニのマナに惹かれ、ヨハネの使徒が歩みを止め、ラニに目を向けたのは同時のこと。
 そう、今ターゲットはトシュデンから、ここに居る浄化師たちに切り替わった。
「こっちにも居るぞ!」
 少し離れた位置に陣取ったラスが、右側の足にその大斧を振り下ろしてみたが、コアである魔方陣は見つけられず。
「ここじゃないのか?」
 右側の足の付根。そう言われても、この巨体では範囲が広く、見つけるのは容易いことではない。
「ねえラス、このデカブツのバランスを崩したら、コアを見つけられないかしら?」
「簡単に言うな」
(推定1000キロの巨体のバランスを崩すだと!?)
 どう考えても無理。……いや、ヨハネの使徒の足は体から見れば細く、地面に接しているのは僅かな部分。
 爪先に行けば行くほど、爪のようになっているのが特徴なのだから、もしかしたら出来るのかも知れない。
 そこまで考えた時、ラスにもラニがなにを考えたか読めた。
「だがな、そんな隙があるか?」
「うーん……。ガラクタが足を上げた瞬間?」
「こっちも危険だぞ」
 と、その時。
「囮はエリーに任せて欲しいですわ!」
 向こうから大声を上げるエリシャと、その更に後方で魔術準備を済ませているイグナシオ。
 戦力的にはラニたちが上。ならばイグナシオたちは支援に回ればよい。
「エリーの動きを止められるかしら?」
(お兄様は言いました。攻撃より敵を惹き付け回避すれと。ですから、エリーはお兄様の命に従います)
 その小柄な体を活かし、ヨハネの使徒の足元を素早く動き回るエリシャ。
 回避しつつも、コアを見つけられればイグナシオが喜ぶ。エリシャの行動原理は全てイグナシオただ一人。
「エリー一人では、もしもという可能性がある」
 込めるように炸裂する、イグナシオが放つ魔術弾攻撃は、エリシャをすり抜け、ヨハネの使徒の足の関節部に命中するが、複数の弾全てが命中するわけもなく、幾らかは反れたが足止めくらいにはなったよう。
 エリシャを囮に使ったからとはいえ、エリシャに無駄な怪我をして欲しいのではない。
 ただ適材適所というのだろう。攻撃よりも、その体を活かした回避行動が、今は一番適していると判断したのみ。
 イグナシオの意図を汲み取ったエリシャは走る。
 輝弾の援護を受け、マドールチェ特有の身長の小ささを利用し、エリシャはヨハネの使徒の四脚の中に突入。
「どこ……ですの?」
 外側から見えなくとも、内側から見えることも存在する。
 だが、ヨハネの使徒が体を地面につければ、エリシャは終わる。
 その前に逃げなければならない。
(右側、右側の付根?)
 付根とは言うが、この生物の足は爪のようで、人間でいう膝の部分が付根……関節部。
 なぜ、その重大なことに誰も気づかなかったのだろう?
 エリシャは様子を見ながら、一瞬だけ止まった。
「……!ありましたわ!!」
 右前足の関節部、それも内側に折れた中心に、光る魔方陣が!
 確認が出来れば後は囮で十分と、エリシャの存在に気づいたヨハネの使徒が、前足を蹴るように内側に向けたのを回避し、正面ではなく横へと飛び出した。

「エリー!」
「右前足中間、関節の内側に魔方陣がありましたわ!」
「内側」
「外から攻撃しにくい場所に!」
 エリシャの言葉に反応したラニとラスが、考えたことを実行するために動く。
「丁度足を上げてくれたし、ベストタイミングだね」
 双剣に力を乗せた攻撃を、地面に叩きつけ。
「あぁ、こんなタイミングはないな」
 追い討ちと言わんばかりに、ラニが攻撃した場所を、再度斧でえぐるように攻撃すれば、その場にだけ大穴が出来、バランスを取ろうと足を地面につけたヨハネの使徒は、二人の目測通りに足を取られ、その巨体のバランスを崩す。
「やったー!」
「上手くいった。そして……魔方陣も見えるぞ!」
 足を取られたヨハネの使徒は、その大きな爪を前に伸ばすことになり、関節部がむき出しになる。そこにあるコアを見せてしまうように。
「これでコアだけ狙えます。エリーはそのままヨハネの使徒の注意を惹きなさい」
「はい!」
 イグナシオの言葉の元に、ヨハネの使徒の視界の中を走るエリシャ。
「この隙を狙って、あたしたちはコアを攻撃するよ」
「分かっているラニ」
 魔術真名で上がった能力をフルに使い、一気にヨハネの使徒に詰めより突きの一手。
 だが、それで破壊出来るほど甘くはない。
 立て続けの双剣による斬撃を加え、ラニは追いついたラスに、その場を開け渡す。
「はぁぁー!」
 飛び引いたラニに替わり、ラスの重く鉄槌のような斧が、コアをぶっ叩く。
「ちっ、一撃じゃ無理か」
 ラニとラスが体勢を建て直している間、イグナシオの魔術散弾が、コアに向かって飛んで来る。
「やはり硬いですね」
 硬質を誇るのがヨハネの使徒。その動きは遅くとも、頑丈さで村や街を破壊し尽くす。
 だからこそ!ここで食い止めなければならない。
 ヨハネの使徒からの攻撃はエリシャに任せたまま、ラニはもう一度、足の付根へと特効をかける。
「往生際が悪いのよー!」
 コアを見つければ、勝機はぐっと浄化師側に傾く。いや、既に勝負は決まったも同然。
「いっけー!あたしのイレイス!!」
 両手に持った剣を最大限に振り、魔方陣を突き抜け本体であるコアへ、その二つの剣を突き刺した。
 『グオォォォー』とでも表現すればよいのだろうか?
 ラニの一撃で魔方陣を破壊されたヨハネの使徒は、最後の足掻きのような音を辺りに響かせ。
「しつこいんだっ!」
 振り回した斧は、コアに正確に当たり、そしてコアは……光の欠片のように砕け散る。
 命の元を失ったヨハネの使徒が、その質量を変化させ、大地へと倒れてゆくのを、四人それぞれが、それぞれの思いを抱えて見つめる。
 ――そう、これは勝者の特権。
 完全にその動きを止めたヨハネの使徒。
 今は神よりも人が勝利した証。
「なんとか……倒せましたか」
 神の使徒を、たった四人の浄化師だけで倒した。
 これは後々有名話になるのだが、今は安心と気が抜けるのが先のよう。
「やれば出来るじゃん、あたしたち」
「そうだな。出来れば次はもう少し人手が欲しい」
 全力を出し切り、背中合わせで草むらに座ってしまったラニとラス。残骸となったヨハネの使徒を見て思うのは……憎悪の対象を討伐した、ちょっとだけの優越感。
「……少しは気が済んだかラニ?」
「少しね。でも、ヨハネの使徒は、まだまだ沢山存在する。あたしは……最後の一体になるまで、戦い続けると思うよ」
「そうか、そうだな。最後の一体まで倒せればいい」
 どちらともなく空を見上げ、そして後始末のために立ち上がる。
 ヨハネの使徒は討伐したが、もう一つの問題の、トシュデンの元に向かうために。

「お疲れ様エリー。見事に囮役を果たしてくれましたね」
「はい。エリーはお兄様のお役に立ってこそのエリーです」
 そう言うエリシャの顔は複雑そう。
 先ほどといい、あまり見ないエリシャの態度にイグナシオは不信感を覚える。
「なにかありましたかエリー?」
 言おうか、言わないか迷いながら、エリシャは小さな声でイグナシオに告げる。
「もしかして、お兄様って呼び方が気に入りませんか?もっと気安げなのがお好きですか?」
「……?」
 なぜエリシャは、こんなことを言い出したのだろうか?
(……なるほど)
 エリシャの見つめる方向には、先を歩くラニとラスの姿。
 兄妹かと思うような二人の気安さ、それがエリシャの心に疑問をもたらした。
 イグナシオ以外に興味を示し、エリシャ自身が考え答えを口にする。それは今までのエリシャには、殆ど見られなかった行動。
 でも、これ以上の気安さというのも、一抹の不安がある。
「仕事と勉強の邪魔にならなければ、どうだっていいよ。大体君は既に十分気安すすぎだろう」
「だってエリーは全部お兄様のものですから、いつでも気安く、そしてどう使ってもいいって意思表示をしないと」
(これは、やぶ蛇と言いましたか?)
 エリシャ望みは、あの二人を見て羨ましいと疑問を持ったのではなく、今以上にイグナシオと親密になること。
 これは困ったと、イグナシオはまた話を変えて見ることにした。
「では気安く相談をしよう。トシュデン君にどう話そうか」
 エリシャはイグナシオが言葉をかければ、間違いなく思考がそちらに傾く。それを上手く利用しようと思ったが、エリシャの答えは……半分予想通り、半分意外性のあるものだった。
「彼が、お兄様の驚異になったら考えます」
(あくまでも、私中心の思考)
 トシュデンが、イグナシオに対しての敵と見なせば、エリシャは躊躇いもなく剣を抜くだろう。教団の掟に逆らってでも。
「……分かった。彼の前では、なにも言わず、なにもするな」
「それをお兄様が望むのであれば、エリーはそうします」
「……あぁ」
 これでイグナシオの命令なく、エリシャは動かない。
 大切な浄化師の卵を、今潰すわけにはいかず、イグナシオは致し方なくだが、エリシャを自身に縛りつけた。

 戦闘区域から少し離れた場所に、レヴェナントたちに囲まれ保護されていた、デモンの子供が俯いて立っている。
 この子がトシュデン。貴重な浄化師候補。
 ラニとラスは、トシュデンの無事を知り、ほっとするも、最後に一つだけ問題が残されていることには気づいている。
「あーそっか、勧誘しないといけないんだっけ?」
「……でもさ、あの子」
 立ち上がるマナ。俯き拳を握ったままの姿。それはあの頃のラニそのもの。
 町を人を破壊尽くされ、残ったものは復讐心だけ。
 トシュデンは、一人でもヨハネの使徒に立ち向かおうとしていたと、ラニはすぐに悟った。
「あんたがトシュデン?」
「……あぁ」
 まだ10歳くらいだろうか?綺麗な顔立ちの上にある、デモン特有の長い角があるのも違和感はなく、大人になれば見目麗しくなるであろう。
 ただし、その目は復讐者の暗い目だが。
「お前、ヨハネの使徒を、ぶっ殺すことしか考えていなかったな!?」
 ラスも気づいた。トシュデンの内なる心を。
「それがなにが悪い!大切な草原を、こんなにメチャメチャにしやがって!俺でも、ヨハネの使徒に一撃くらい入れられる!」
「それで君は殺されてもいいと?」
 後から追いついたイグナシオが、気が高ぶったままのトシュデンに、冷静に話しかけることを選択した。
「君は選ばれたようだ。そして狙われている。あの使徒はその手始めだ。君がここに居る限り、次々と狙われ、君が大切にしているこの草原も、君の仲間たちも全て狙われ殺されることになる」
「……それは」
 強力なマナを持ったトシュデンが居るだけで、この地は危険に冒される。
 トシュデンが悪いわけではない。これもまた、素質を持って産まれて来た者の運命。
「じゃ俺はどこに行けばいい?狙われるのは、どこに居ても同じだろ」
「いや、一つだけ道はある。教団に行き浄化師になること。それが君に与えられた選択肢だ」
「浄化師……俺に一生戦えと?」
(このままじゃ平行線だよ)
 イグナシオの言い分はもっともだが、揺れている子供を頷かせるには、押しの一手が足りない。
 全てを捨て教団に行くことは、家族が生存しているトシュデンに取って、辛い選択になるのも、ラニは理解している。
 ――だからこそ!
 ラニは明るく振る舞う。トシュデンの心を溶かすために。
「あははー。……まぁ無理になれって言える立場じゃないけど、一個言えるのは、アレをぶっ殺す環境が整うわよ」
「アレ」
 トシュデンが見るのは、すでに命が消えたヨハネの使徒の残骸。
 この人数だけで、本当にあの大きいのを倒してしまった実力は本物。
「……行きなさいトシュデン。教団に行くのがお前のためだ」
「父さん!」
 最後には、誰が言うよりも家族の言葉。
 揺れているトシュデンを押す、一番の言葉。
「分かった。俺は教団に行く。行って父さんたちを護れる浄化師になる」
「あぁ、行って来い」
 こうして、ヨハネの使徒を倒した強者四人とトシュデンは、後始末を教団員に任せ、教団本部へと帰還すべく、転移方舟に向かい、その一歩を踏み出した。


ニーベルンゲンに忍び寄る影
(執筆:鞠りん GM)



*** 活躍者 ***

  • ラニ・シェルロワ
    願うのは一つだけよ
  • ラス・シェルレイ
    …思い出さないと

ラニ・シェルロワ
女性 / 人間 / 断罪者
ラス・シェルレイ
男性 / 人間 / 拷問官




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2019/05/10-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。  
 

[5] ラニ・シェルロワ 2019/05/20-19:38

んー…もう一組ぐらいって思ってたけど、来なさそうね
本格的な救出そのものはレヴェナントの人に任せちゃいましょうか
まぁ一言二言、声はかけるつもりだけど  
 

[4] イグナシオ・ヴァルデス 2019/05/19-00:30

助かります、このままでは私とエリーだけでやるのかと冷や冷やしてたところでしたから。

保護については私も同じことを考えていました。もう1組来ない限りは(字数に)余力があれば、とするべきでしょう。
 
 

[3] ラニ・シェルロワ 2019/05/18-23:32

はーい初めまして!断罪者のラニ・シェルロワと拷問官のラス・シェルレイよ。よろしくね
保護も大事、その為にも早急にヨハネの使徒はささーっとぶちのめしに行かないとねぇ

えーとでかくて重い奴。真正面きって戦うのはこの人数だとちょーっと危険?
浄化師の方に興味は向けてくれるでしょうけど、まぁ早めに接敵するに越したことはないと思う
足にコアついてんの?やだぁ壊される前に踏み潰すって?うわ腹立つぶち壊す

ラス「あー…相方がどうもハイになってて申し訳ない
どちらにせよ、オレ達も足を重点的に狙うことになるな
ところで、子供の保護はどうする?
オレとしては…今の人数が増えないようならレヴェナントの人達に任せた方がいいと思うが」  
 

[2] イグナシオ・ヴァルデス 2019/05/18-17:31

魔性憑きのエリシャと、狂信者のイグナシオです。
まだ我々だけですが、方針は書いておきます。
息子さんと別れようというセニョール・ブラントの覚悟を無にするわけにはいきません。必ず使徒を討伐しましょう。

私とエリーは使徒の討伐を優先して動きます。
この使徒は大きく重いので、機体そのものが危険な武器といえましょう。最大限正面に立たないようにしながら、足を攻めて動きを止めたい所です。その足に弱点があるなら尚のこと。

しかしなぜ足に弱点を。コアそのものは狙いにくいとはいえ、体の中では頑丈とも言えない部分の筈だ。大きいならまず足から狙われる可能性も高いだろうに。神の考える事はわからないな。