~ プロローグ ~ |
「いや、実際困っていまして」 |
~ 解説 ~ |
【目的】 |

~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは。GM・土斑猫です。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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ふむ…常春ということは、芽吹きはすれど育たぬ、と …この現象は、植物だけなく動物にもいえるのだろうか? どちらにしろ困る事態ではあるな 飲み比べ それほど強いわけではないが…いいだろう、受けて立つ 「ふむ…葡萄酒とはまた違った味わいだ」 誘惑 …寝物語であれば、いくらでも 「とは言え、私が話せる事など多くはない…メルキオスの方が適任でしょう」 メルキオスが本来の意味で実行しそうになったら殴って止める 「姫、この者は貴方の様な純粋な方には合いません」 求婚 「我が身は森より始まりし者。しかし…」 姫と同じ時間は歩めません…同じ時間を歩まれる方にこそ、その言葉をおかけ下さい 誘惑される相方を見る …何故か、胸に違和感があった。 |
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心情: 神露、飲んだことないので気になります。 【飲み競べ】 ツィギィが飲み比べに参加。 勝ち負け気にせず、純粋に神露…もといアルコールを楽しんでいる。 【力競べ】 アーティが参戦。 会話術を駆使して相手にハッタリをかけます。 【誘惑】 ツィギィ:魔法使い(30歳)になったら良いですよと言う。16年待ってくれ。 アーティ:おういいぞ。でもタダでやる訳にはいかねぇ。ツィギィの呪いを少しでも弱めてくれるならこの身を差し出したっていい。 【求婚】 どちらも、特に相方と一緒にいることを条件にOKするだろう。 アーティ「やっぱいいやってなるくらいイチャついてやる」 |
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おのれ、藩主の巧妙な罠にかかってしまった。だがこれは、……こう言っては何だが、いずれやるべきだった実験のいい機会かもな。 姫は十中八九私よりエリーに食指を向けるだろう。エリーには悪いが、ここで彼女を明け渡すような態度を取らせてもらう。愛想を尽かされれば、私は平和を手にするだろう。だがあくまで私を慕うなら、……この子の正体と付き合い方について真剣に取り組まねばならない。 ……すまないエリー。私は君に許しを請わねばならない。君を見くびり、こんなことをしてしまったことを。 だが君はなぜそこまで私を…… 「エリーは全部お兄様のものだから」 何故だ。 「それがお兄様の研究課題です。魔術師なら解明してください」 |
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ベ 参ったな ヨ 参りましたね ベ しかし放っておいて季節が巡らない方が問題だ 何とかやってみよう ヨ この藩の方々の苦労を思うとそれしかなさそうですね… お初にお目にかかります 今日は誠心誠意お相手させて頂きます と少し緊張しながら挨拶し姫の相手 我儘に振り回される予感しかない 飲み競べ ベルトルド 真っ向勝負で受ける 蟒蛇が相手とはまた…お手柔らかにな 何のかんの言いながら楽しく飲む ヨナも勧められればお酒ではないと自分に言い聞かせ一口 気分ふわふわ 力競べ ヨナ 近距離ではやりあわず中距離維持しロックバーンで 相手の足元自体を崩す作戦 神露の影響で力加減はあまりできない かも 誘惑 ヨナ 困った方ですね と言いながらも姫に迫られ豪奢な架子床へ |
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~ リザルトノベル ~ |
美しい夜だった。漆黒の天頂に、霞の衣を纏った月が鎮座する。この国の言葉で、朧月と言うらしい。かの宴は、決まってこんな夜に催されるとか。 月の機嫌か。かの者の想いか。どちらが先かは、とんと分からないけれど――。 「参ったな」 身に纏わされた純白の神衣。慣れない着心地に辟易しながら、『ベルトルド・レーヴェ』は溜息をついた。 「参りましたね」 同意して頷く、『ヨナ・ミューエ』。違うのは、彼女が割と身を包む衣を気に入っている事。確かに、清楚な雅さを持つ意匠は、女性の心を掴むかも知れない。何でも、役目を担った者はこの神衣を来て事に当たるのが、習わしとか。 「しかし、放っておいて季節が巡らない方が問題だ。何とか、やってみよう」 「この藩の方々の苦労を思うと、それしかなさそうですね……」 そう言い合うと、二人は霞が飾る空を仰いだ。 「どこも、神サマってのは勝手だね」 「何か言ったか?」 相方、『メルキオス・ディーツ』が呟いた言葉に、『クォンタム・クワトロシリカ』は小首を傾げた。けれど、返るのはいつもと同じ、捉えどころのない笑顔。 「いやね。その衣装、似合うな~って言ったのさ。クォン」 「……あまり、しっくりはこないのだが……」 「いやいや、中々のモノだって。君の美貌が、良く栄える」 そう言って、メルキオスはヘラリと笑った。 「神露か。どんな味がするのだろうな?」 『アーティ・ランドルフ』の言葉に、『ツィギィ・クラーク』がメモを見ながら頷く。多分、忘れてしまった事の次第を確かめているのだろう。慣れた光景。構うことなく、続ける。 「酔えるらしいな。酒で酔うのとは違う原理らしいが、面白そうだ」 言葉とは裏腹に、その視線は相方から離れない。大方、神衣を纏った艶な姿に、見惚れていると言った所か。 「楽しみだ」 その言葉に、頷くツィギィ。 互いが思う楽しみとやらが、向かう先は何物か。それは、彼らだけが知る所。 「お兄様、どうですか? 似合いますか?」 甘い声で囁きながら、、『エリシャ・ヘス』は『イグナシオ・ヴァルデス』にしなだれかかった。纏っているのは、他と同じ純白の神衣。けれど、彼女はそれを下品ではない程度に着崩していた。はだけた襟元の膨らみが、甘美な色香を漂わせる。けれど、件の青年は全く意に介さない。 「エリー。その着こなし、趣旨からずれているぞ」 「もう。いけず」 頬を膨らませるエリシャ。そんな彼女をあしらいながら、イグナシオは思う。 (おのれ、藩主の巧妙な罠にかかってしまった。だがこれは、……こう言っては何だが、いずれやるべきだった実験のいい機会かもな) 腕に絡まる少女。その姿を映す、冷めた眼差し。 (姫は十中八九私よりエリーに食指を向けるだろう。エリーには悪いが、ここで彼女を明け渡すような態度を取らせてもらう。愛想を尽かされれば、私は平和を手にするだろう。だがあくまで私を慕うなら……) 彼がそこまで考えた時、不意に周囲の空気が変わった。 夜気の中、桜の香が満ちる。舞い散る花弁の中を、異形の者達が練り歩く。百鬼夜行。そう呼ぶのだと、この国の誰かが言った。その行軍の向こう。現れたのは、一際身体の大きな鬼神が四人。担ぐ、一基の神輿。近づいて来た彼らが、皆の前で地に下ろす。音もなく上がる幕。一際強い、香気が漂う。現れたのは、美しい顔立ちを、薄化粧で飾った歳頃14、5の少女。手にした扇で口元を隠し、クスリと笑む。 「おや。今年の華は、異国の者?」 転がる、鈴の様な声。纏った十二単をサラサラと揺らし、傅く皆の顔を覗いて回ると、嬉しそうに頷いた。 「良いね。今宵はどうぞ、楽しませておくれ」 そう言って、『珠結良之桜夜姫(たまゆらのさくやひめ)』はまたコロコロと笑った。 清漣透明な液体が、杯を満たす。口に近づけると、爽やかな香気が鼻を擽る。ゆっくりと含めば、広がるのは仄かな甘味。飲み下せば、心地良い感覚が喉を下った。 空になった杯から口を離すと、ツィギィはホゥと息を吐く。胸の中が熱い。穏やかな恍惚が、ゆっくりと身体を満たしていく。 「美味いな」 彼を膝に乗せた、アーティ。答える代わりに頷くツィギィを、しっかりと抱きしめながら杯を重ねる。美食家である彼の心も、神露は捉えている様だった。杯に、新たな神露が注がれる。酌をするのは、白い狐の耳と尾を揺らす少女達。睦み合うツィギィとアーティを、楽しそうに眺めている。目麗しき少年と青年の、耽美極まりない関係。眼福とでも、思っているのかもしれない。けれど、当の二人はそんな外野の思いは何処吹く風。ただただ、自分達の世界へと埋没する。また、杯が空く。もう何杯目かも忘れた神露が、ユラユラと注ぎ落ちる。それを、ツィギィが口に運ぼうとしたその時。 「ほほう、客人。中々、いけるご様子」 下がる少女達の向こうから現れたのは、烏帽子直衣(えぼしのうし)を着込んだ貴族風の男。けれど、纏う気配は人間のそれではない。細い瞳孔。薄い唇からチロチロと出入りする二股の舌。蛇性の化。ツィギィを庇う様に身構えるアーティを見て、男は笑う。 「気負わなくても良い。姫の命でな。其方達と一つ、飲み競べなどして参れとの事」 そんな男の手には、瓶子が一本。 「如何?」 見ていた狐の少女達がクスクスと笑いながら、「あら、大変」「蟒蛇様は、お強いですよ」などとはやし立てる。 見やれば、上座に座した姫が神露をチビチビやりながら、ニヤニヤとこっちを見ていた。その顔に、ニコリと笑みを返すツィギィ。言葉よりも、行動で表す。迷う事なく、蟒蛇に向かってツイと杯を差し出した。 「おお、御仁が挑まれるか。見た目に合わず、豪胆な事よ」 「俺のツィギィを、甘く見るなよ」 ニヤリと笑むアーティ。その言葉に答える様に、ツィギィは満たされた杯をクイとあおった。 視線を巡らすと、同じ様な姿をした男達が他の面々にも飲み競べの誘いをかけている。どうやら蟒蛇は、一人ではないらしい。 皆それぞれ、「それほど強いわけではないが……」とか「お手柔らかにな」とか言いながら受けて立つ。競い合いとは言っても、殺伐としたものではない。皆、朗らかに談笑しながら酌み交わす。神露の味が、さらに妙なるものになった気がした。 「ふむ……葡萄酒とは、また違った味わいだ」 蟒蛇の一人と飲み競べをしていたクォンタム。そんな彼女の上に、黒い影が落ちる。視線を上げる。そこにいたのは、頭に二本の角を掲げた巨人。 鬼。 理解すると同時に、太い声が落ちる。 「娘御、中々やりおるな。どうじゃ? 一つ、儂と力競べといかんか?」 「何を言っておる」 相手をしていた蟒蛇が、言う。 「この者は今、我との勝負の最中ぞ。大方、女人の肌に触れたいだけであろう。助平は、引っ込んでおれ」 しかし、鬼はフフンと鼻を鳴らす。 「馬鹿め。儂の方も姫の命だわい。お主こそ、引っ込むがいい」 言葉に詰まる蟒蛇。どうやら、また姫の我侭らしい。やれやれとクォンタムが立ち上がろうとした、その時。 「その勝負、僕が買おうか?」 振り向けば、メルキオスが杯を置いて腰を上げていた。 「ほう? 主が相手をすると言うか」 「道化も、おどけてばかりじゃ飽きられるんでね」 「面白い」 ブンブンと腕を振り回す鬼の前に、ニヤニヤしながら進み出るメルキオス。 「大丈夫かえ?」 心配げに耳打ちする蟒蛇に、クォンタムは薄く笑って「ご覧あれ」と言った。 「勝敗は?」 「手段は何でも良い。相手を地に転がせば勝ちよ」 「へえ? それで良いの?」 「言うではないか。優男」 鬼は舌舐りすると、猛然と襲いかかる。しかし。 「おっと」 ヒョロリと交わすメルキオス。歯噛みした鬼が再び掴みかかるが、これまた楽々と交わされる。何度やっても、結果は同じ。舞いを踊る様に動くメルキオスに、鬼は翻弄されるばかり。 「おのれ!! ヒョロヒョロと!!」 「僕は魔性憑きでね? 避けるのが仕事なんだ」 そんなやりとりも、数分だけ。手玉に取られた鬼が、バテてくる。 「そろそろ、いいかな?」 息も絶え絶えの鬼を見てほくそ笑むと、メルキオスはヒョイと足を出した。鬼の足が、それに絡まる。 あっけなかった。 「うおぉあ!?」 間の抜けた声と共に、盛大にひっくり返る。 「はい。お仕舞い」 メルキオスが、手に持った煙管でポンと鬼の頭を叩いた。 「ひ、卑怯な……」 「何を言うておる」 倒れた唸る鬼を見下ろしながら、蟒蛇が言う。 「何でもありと言うたは、お主であろう。それに、見よ」 言われて、見る。あったのは、仲間の鬼の燦々たる姿。アーティの会話術にキリキリ舞いさせられた者。そして、沢山の岩に埋まって目を回している者。傍らでは、顔をほんのり染めたヨナが「だいじょぶれすかぁ~」なんてフワフワした口調で言っている。 「お主、マシな方じゃぞ」 「む……」 赤い顔を青く染め、頷く鬼なのであった。 その様子を、等の姫は酷く楽しそうに眺めていた。 「ふふ。今年の華は、なかなかに愉しいのぅ」 そう言うと、長い黒髪を揺らして立ち上がる。 「そろそろ、妾も混ざろうかなぁ」 そして、桜の姫は上座から宴の席へと踏み出した。 その頃、エリシャはいつもの様にイグナシオに迫っていた。 「お兄様~。エリー、酔っちゃいましたぁ」 そんな事を言いながら、しなだれかかる。着崩していた着物がさらに乱れ、かなり大胆な格好になっている。けれど、当のイグナシオは目を奪われる事もない。ただ黙々と、神露を飲むだけ。 「もう。お兄様ったら……」 エリシャがむくれた、その時。 「何じゃ? 伽の相手が欲しいのか?」 「え?」 振り向くと、いつの間にか姫が立っていた。綺麗な顔をニコリと笑ませ、エリシャの顎をクイと上げる。 「先から、良いと思っていたのじゃ。丁度良い。夜の相手を申し付ける」 「な、何言ってますの!? エリーも貴女も、女ですの!!」 「関係ないわ!」 当たり前の指摘を、バッサリと切り捨てる。 「大体、男共ならとっくに声をかけたわ! なのに、乗り気だった優男は相方にぶん殴られて引きずっていかれるし、伊達男は代わりに相方の呪いを何とかしろとか面倒な事言いおるし、その相方に至っちゃ魔法使いになるまで待てとかぬかしおる! 待てるか! んなモン!」 少し離れた所で、皆のクシャミが響いた。 「そ、それなら……」 「良いのか?」 姫が、エリシャの後ろのイグナシオに目を向ける。 「だ、駄目!!」 「心配するな。好みじゃない」 そう言って、エリシャの首を一舐め。 「ひゃあ!」 「くく。良い声じゃ。もっと聞かせておくれ」 そんな言葉と共に、白い手がエリシャの襟を掴む。はだけようとする手を拒みながら、彼女は懇願した。 「だ、ダメです! エリーはお兄様だけのものだから!」 しかし、そんな彼女に向けられるのは冷たい言葉。 「エリー、私は君を私のものと認めただろうか」 「お兄様、助けて! エリー、汚されちゃう!」 光る眼鏡の奥に、その真意を隠しながらイグナシオは告げる。 「エリー、実を言うと私はね、自分でするより他人がしてるのを見てる方が好きなんだ。私を喜ばせるためならベリアルの玩具にされてもいいと言ったじゃないか」 かけられた言葉に、絶望に歪むエリシャの顔。 「いやぁ、お兄様の人でなしぃ!」 「やっと気づいたようだね、それが君のお兄様だ」 泣き叫ぶ声に、最後の絶望を突きつけようとした、その時。 「阿呆かー!!」 「ブッ!?」 飛んできた瓶子が、イグナシオの顔を強打した。見れば、飛んできた先には肩をいからせる姫の姿。 「お主な!? ここまで想うてくれる娘に、言うに事欠いて何ちゅう事抜かしおるんじゃ!?」 つかつかと近づくと、胸倉を掴んで顔を寄せる。 「どんな小賢しい思惑あっての事かは知らんがな、そんな事でこの娘の想いは断てんぞ!? 見てみぃ!!」 言って促す先には、地面に座り込むエリシャの姿。キュッと引き結ばれた、小さな唇。その端から血が流れているのを見て取り、イグナシオはハッと目を見開いた。 「この娘、無理に散らせば舌を噛み切る覚悟じゃ。その想いの重さも、お主は分からんか!?」 「………」 返すべき言葉はない。俯くイグナシオを一瞥すると、姫はエリシャに向かう。ビクリと震える彼女の頭を、クシャリと撫ぜる。 「心配しなくて良い。もう、手は出さんわ」 人の想いは、怖いしな。そう言って、笑う。 「根元で眠る骸に呪われるなんぞ、笑い話にもならん。後は、二人で話をつけよ」 そして、姫は背を向けて歩いていく。その姿を見つめるエリシャ。そんな彼女の後ろに、気配が一つ。振り向けば、そこにはイグナシオがいた。 苦悩の滲む表情で、彼は言う。 「……すまないエリー。私は君に許しを請わねばならない。君を見くびり、こんな事をしてしまった事を」 そこにはもう、先までの冷徹な探究者の気配はない。彼は、問う。 「だが……君はなぜ、そこまで私を……?」 「エリーは、全部お兄様のものだから」 答えは簡潔にして、完璧だった。 「何故だ?」 「それが、お兄様の研究課題です。魔術師なら、解明してください」 哀れな想い人にそう答えると、エリシャはいつも通りの顔でニコリと笑った。 「やれやれ……。どうも、異国(あっち)の者は勝手が違っていかん。やりづらいわ……」 頭をポリポリ掻きながら歩く姫。と、視線を感じて立ち止まる。目をやれば、タンコブを作って昏倒しているメルキオスと、彼に膝枕をしているクォンタムの姿。 「何じゃ?」 問う姫。クォンタムは言う。 「今の行い、見事でございました」 「ん?」 一瞬ポカンとするが、すぐに照れた様にはにかむ。 「いやぁ。女子(おなご)の想いは、違えさせると怖いからのぅ」 コロコロと笑うと、クォンタムもまた優しく微笑む。 「我侭な方と聞いていましたが、流石に神を冠するお方。ご立派です」 「何じゃ? こましておるのか?」 「いえ。そんな気は……」 慌てるクォンタムを見て、姫はもう一度笑う。 「真面目な奴じゃなぁ。そこらの男より、余程気持ちがいい」 そう言うと、スルスルと近づいて見下ろす。 「良き者よ。どうじゃ? 妾とつがわんか?」 かけられた言葉。少し間を置いて、畏まる。 「寝物語であれば、いくらでも。とは言え、私が話せる事など多くはない。メルキオスの方が、適任でしょう」 「そのメルキオスとやらは、そこで伸びておるのじゃが?」 示す先には、横たわるメルキオス。キッパリと言う。 「この者は、貴方の様な純粋な方には合いません」 「おやおや」 腰を屈める姫。視線が、クォンタムのそれと合う。 「申しておるのは、そういう意味ではない。正味、”つがい”にならんかと言う事じゃ」 かけられた言葉に、軽く見開かれる紺碧の瞳。 「世に生じて幾星霜。いい加減、一人で居るのも飽きた。相手が其方なら、心持ちも良かろう」 「姫……」 「大事にするぞ。どうじゃ?」 しばしの間。やがて、静かな声で彼女は言う。 「我が身は森より始まりし者。しかし……」 穏やかに、答えを紡ぐ。 「姫と同じ時間は歩めません……。時間を歩まれる方にこそ、その言葉をおかけ下さい」 また、しばしの沈黙。やがて、ヘラリと笑う姫。 「やれやれ。フラれたか」 「申し訳ありません……」 「よいよい。戯れじゃ。忘れてくれ」 そう言って、立ち上がる。 「妾を切ってまで、選んだのじゃ。逃がすなよ」 「は……?」 言葉の意味が分からない。戸惑う、クォンタム。 「何じゃ? 気づいとらんのか」 コロコロと転がる、笑い声。 「妾が、その男に粉をかけた時じゃ。何か、妙な心持ちになったじゃろう?」 「え……?」 「其が答えじゃ。早う気づけよ」 そんな言葉を残して離れていく、小柄な背中。それを、クォンタムはポカンと見送った。 「やれやれ。前途多難そうじゃなぁ……」 「全くだ」 誰ともなしに、呟いた言葉。それに、横から響いた合いの手。目を向ければ、スイヨスイヨと寝息を立てるツィギィを膝に抱いた、アーティの姿。 「おや。潰れてしもうたか」 「ああ。酒は、初めてなんでな」 「神露じゃ。酒ではないぞ。……とは言え……」 二人の後ろには、真っ赤な顔で目を回している蟒蛇が一匹。変化もすっかり解けて、大きな蛇の実体をデローンと伸ばしている。 「蟒蛇に飲み勝ったのか……。大したモンじゃ」 「いや、相討ちだ」 「それでもじゃ」 興味深げにツィギィの顔を覗き込む姫に、アーティは言う。 「フラれたな」 「ああ。神の求婚を断るとは、罰当たりな娘じゃ」 「辛いか?」 かけられた言葉。チロリと視線を返して、ヘラリと笑う。 「馬鹿を言え。何年在ると思うとる? もう、慣れたわ」 「そうか……」 アーティも、ニヤリと笑う。 「代わりに婿になってやっても、良かったんだがな」 「阿呆。二号さんなんぞ、こちらから願い下げじゃ」 間髪入れずに返って来た言葉。笑みが、苦笑に変わる。 「お見通しか」 「分からいでか」 フンと小さな鼻を鳴らして、ツィギィを愛でるアーティを睨む。 「やっぱいいやってなるくらい、イチャついてやろうと思ったんだがな」 「全く、どいつもこいつも」 わざとらしくプリプリしながら、ふと真顔に戻る。見つめる先には、眠るツィギィの顔。 「……難義な祟りを、もろうとるな……」 「ああ……」 「どうにかしてやりたいが、生憎妾の術の範疇外じゃ……」 その言葉に、一瞬アーティの顔に影が射す。けれど、それも一瞬。 「そうか……」 「所詮は老いぼれた桜の化。全能には及ばぬ。許せ」 「仕方ないさ」 気丈に、けれど辛そうに頷く彼。姫が、大きく息をつく。 「たまに来い。他の神(やつら)に話を回しておく。老いぼれ仲間には、一人くらい術を知る奴が在るやも知れぬ」 その言葉に和らぐ、アーティの表情。まろび出るのは、心からの思い。 「あんた、いい女だな……」 「何も出んぞ」 そして、互いに笑みを与え合う。もう一度、少年の寝顔を愛でると、神は次の席へと向かった。 「で、余ったのは其方等と」 潰れた蟒蛇の傍らで、少しも乱れず神露を嗜むベルトルド。そんな彼を見下ろしながら、姫はハァと溜息をついた。 「……何か、不満そうだな……」 流石に余り物されたのは不本意なのか、少し憮然とした調子で返すベルトルド。らしくない態度は、それなりに酔いが回っているが故か。 「いや、悪くはないんじゃがな~。何というか、お主は『そっち』の対象じゃないんじゃよな~」 そうボヤくと、ベルトルドの頭に頬を乗せて擦り付ける。 モフモフ。 「うん。やっぱり、需要こっち」 それなりに、ご満悦。対してベルトルド。憮然の二乗。 「あのな……。そういう事をするのは……」 「私だけでいいんですよ~」 そんな言葉と共に、飛びついてきたのはヨナ。姫に習う様に、ベルトルドの頭に頬を擦り付ける。 モフモフ。 何か、いつもより激しい。ベルトルド、たまらずがなる。 「おい! 酔ってるだろ!? あれほど飲み過ぎるなと言ったのに!!」 「大丈夫れすよ~。酔ってませ~ん」 「酔っ払いは皆、そう言うんじゃ」 そう言って頷くと、姫はベルトルドの頭を挟んでヨナの顔をしげしげと見る。 「?」 「……何だ?」 その様子を不審に思ったのか、ヨナはホワホワ顔で小首を傾げ、ベルトルドはそのまま問いを口にする。けれど、姫は何処吹く風。構う事なく、しげしげ。 「う~む。顔は良いな。髪の質も匂いも良し。肌の白さもきめ細かさも合格点。些かバストが小さいのが気になるが……まあ、許容範囲内じゃな」 「???」 「おい! 何の話してるんだ!?」 まだ要領を得ないヨナ。 察したベルトルド。非常に焦る。 で、当の姫は二人の思いなぞ何処吹く風。 「良し。其方に決めた」 「ふえ……?」 ポカンとするヨナの手を、ムンズと掴む姫。そのまま、ズルズルと引きずっていく。 「お、おい!!」 相方の操の危機に、慌てて止めようとするベルトルド。しかし、そんな彼を無数の眷属達が取り囲んだ。 「すまん! どいてくれ!!」 少々語気を荒めるが、眷属達は動じない。 「おい! 聞いて……ウガボッ!?」 もう一度怒鳴ろうとした口に、突っ込まれる瓶子。それを掲げた女郎蜘蛛が、ベルトルドに神露を注ぎ込みながら笑う。 「お客人。まだ飲み足りない様ですね。それなら、どうぞ鱈腹」 「ゴポッ! ゴポポ!!」 何とか飲み干したベルトルド。プハッと止まりかけた息をつく。 「そんな場合では……」 けれど、上げた視線の前には、延々と広がる瓶子の群れ。 「まあまあ」 「さあさあ」 「どんどん」 合いの手と共に、滝の様に落とされる神露。 「ヨナー!! 逃げろー!!」 それが、断末魔。 蠱惑の激流に、さしものベルトルドも敢え無く沈んだ。 ヨナが連れて来られたのは、大きな桜の根元。そこにある、豪奢な架子床の中。桜色の褥の上で、座らせた彼女に姫は身を寄せる。 「何。怖がる事はない。天蓋の模様を数える内に、終わるゆえ」 そう言って、ヨナの胸元に手を差し込もうとする。けれど――。 「困った方ですね」 そんな言葉と共に、ギュッと頭を抱え込まれた。姫、面食らう。 「こ、これ!! 立場が逆じゃ!! 妾は『受け』じゃなくて『攻め』……」 無視する様に、更にギュウと抱きしめられる。鼻腔を満たす甘い香りと、柔らかな温もり。高鳴る鼓動に被せる様に、ヨナが言う。 「……春以外の季節は、お好きですか?」 「……?」 耳に触れる吐息。緊張と共に、満ちていく恍惚。 「夏の夕立後の、土の匂い……ひぐらしの声……秋の豊穣……夕暮れ時の、長い日差し……冬の冷えた日の、空の高さ……雪の中の静寂……」 歌の様に紡がれる、優しい囁き。安らいでいく、心。 「その移ろいの先……また、命芽吹く春がやってくる……」 ふと気づく。己を包む温もりもまた、鼓動を速めている事を。 「私は、その命の営みに溢れた世界が堪らなく愛おしいのです……」 彼女もまた、緊張しているのだと気づく。それがまた、愛おしい。 「だから、今日が終わったら……」 次の紡ぎは知れていた。だから、思う。 「私に……貴方を慕う人々に……春の終わりを、見せてくださいね……」 せめて、この泡沫の刻が、少しでも長く続く様にと。 「約束ですよ……」 頬を撫でる手の優しさを、懐かしく感じるは酔い故か。 そして、二つの意識はまどろみの海に溶け合う様に沈んでいった。 目が覚めたのは、けたたましく鳴く蝉の声によって。 霞がかった頭を振るい、身を起こす。そこにあったのは、花の麗景から新緑の壮観へと衣を変えた桜の古木。 注ぐ日光は熱く肌を焼き、空は大きく白雲を掲げる。 そう。 季節が、移ろいでいた。 それから数日。一行は、酷い二日酔いに悩まされたとか。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[4] ヨナ・ミューエ 2019/07/05-15:51
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[3] ツィギィ・クラーク 2019/07/02-21:37
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[2] メルキオス・ディーツ 2019/07/01-01:17
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