~ プロローグ ~ |
「お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」 |
~ 解説 ~ |
アストロン・アルゴを作成し、パートナーに渡してください。 |

~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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サウィンくん、ポモナくん 久しぶり! 満面の笑みでふたりをぎゅっと抱きしめる シリウスの呟きに 顔を赤くして ごめんなさい そうよね、もう立派な魔女見習いさんですもの 会えて嬉しいわ 今日はよろしくお願いします 守り石の説明を真剣に聞いて すてきね ええ、がんばって探してくる 森林に向かう 小さくても 澄んだ光を放つものを見つけたい 星の名前をもつ彼のために 怪我をしませんように 苦しい思いをしませんように …少しでも シリウスの笑顔が増えますように 精一杯の願いを込めて 色は青から碧 光の加減で色が変わる 涙型の石のペンダント この前のプレゼントのお返し ぽかんとしたシリウスの手をプレゼントごと包んで あなたに沢山の幸せが訪れますよう |
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お守りの石……願いを込めて大事な人に渡すのって、素敵ですね 探しに行く場所、森でもいいですか…? 何となくですけれど、森の方が良い石が見つかりそうだなって… 道中、魔物を退治したクリスの怪我を見て眉を顰める いつも、こんな風に怪我、するのですもの…… こう言う時にも笑ってしまう人だから だからこそ、守ってくれる物を身につけて欲しいと心から 石は薄紫のラベンダー色に変化 私の瞳の色の石…ずっとクリスを守って下さい、ね クリスと一緒にネックレスに加工 貰った守り石にほわっと微笑む 樹木の葉色、クリスの髪の色、ですね サウィンくんとポモナくんに会えたら お二人とも、大きくなりました? お元気そうで良かった…… きゅっと抱き締めて |
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※アドリブ歓迎します ※洞窟へ行く ※アクセサリーに付けられる名前や 説明がもしあるならお任せ うん、どうしてもやらなきゃならない用があるんだ。 敵が…ララエルは後ろに下がっていて。 (敵に向かってマッピングファイア連打) これがアストロン・アルゴ… (ララエルの為にアクセサリーを作りたいんだ。 頼む、力を貸してくれ…!) (鉱石がアクアマリン色に変わる) (…!ありがとう、アストロン・アルゴ) ララ、街に帰ろう。 (街にて) うん、まあ見ててよ。 (鉱石をイヤリングに加工する) (※彼は35話、71話でそれぞれアクアマリンの ネックレスとブレスレットをララエルに贈っている) (イヤリングをララエルにつける) 綺麗だよ、ララ。 |
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シキ、準備できたか。魔物出るかもって言われただろ、ちゃんとしとけ そういうことを言ってるんじゃな、…いや、やっぱ良い(溜息) ・洞窟 そう、だな …。 何が起こるか分からないし、手、貸せ(手を繋ごうという意味) はぐれたら元も子もないだろ。だから、だ つか、アルトナきゅんってなんだ。増やすなあだ名を いやんって…だもんって、かわいこぶるな (俺、段々とシキのツッコミ役になってるような気がする…) っ敵か あ、ああ。なんとか…アンタこそ、怪我ないか? ・石採取 ほんとに、透明なんだな シキが触ったら…!(色が変わった) ・加工 祓魔人の寮部屋 意外となるもんだな。形 …俺に? 敵…そう、か …じゃあ、その…ありがと(照) |
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どんな石になるんでしょうね 楽しみな気持ちと不安な気持ちが半々 敵に遭遇したらとの緊張から口数が少なめに 洞窟で採取 敵に遭遇せず終わりほっとする 覚悟はしていたつもりなんですけど… 全然できてなかったみたいですと苦笑 触れると藍色に変化 夜空の色 相方が付けるのに抵抗がなさそうな腕輪を選択 小さい物だとなくしそうと過った考え振り払い 視線に気づき首傾げ 黙々と作業するも相方の様子見かねて手伝いましょうかと声掛 断られてちょっとでしゃばりすぎたかなとしょんぼりするも あまりに真剣な様子が面白くもあり 行動が早いと困惑しつつも首元の感触にどきどき じゃあ私も…と相手の腕を取りはめる どうかアロイスくんの事を守ってあげてくださいね |
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ベ ポモナとサウィンは度々見かけていたが、元気そうでよかった ヨ それだけでなく魔女文化で交流を図ったりと 新しい道を模索してくれています ヨナ 心情 攫い風の件から間もない頃 少しほっとするような内容の指令 道中はいつも通りにしていたと思う 馬車の外に見える景色を眺めたり どんな加工をしようかの話 いつも通り 以前 一瞬意識が繋がって知ってしまったお互いの事 話すべきか否か 一言 今は大切だ と伝えるだけできっと笑ってくれるのに 喰人 心情 ヨナが務めて普段通りに振る舞っている そんな風にさせる程 心配させているのだろうか …らしくないといえば俺もそうだ 昔に区切りをつけていたつもりだったのに 記憶は未だ鮮明で ヨナが触れた石 濃青色 喰人 〃 薄紅色 |
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■アストロン・アルゴ 洞窟へ向かう 足場が悪いとルーノがぼやいた程度で、特に苦労もなく石を入手 ルーノの石は、冴えた月のような、月輝花を思わせる白い色へ ナツキの石は、太陽の光やひまわりの花のような温かい黄色へ 不思議な現象に興味を持つルーノと、すごいなと素直に喜ぶナツキ 細かい作業に苦戦するナツキをルーノが手助けしつつ、どちらも首飾りに加工 お互いに交換する形で渡す ルーノ:本当に力があるかは分からない、と言っていたが… ナツキ:難しい理屈より、こういうのは信じたモン勝ちだぜ! ルーノ:…確かにその通りかもしれないな ■サウィンとポモナ 完成したアストロン・アルゴの首飾りを二人に見せ、良い体験ができたと感謝を伝える |
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「ふふっふふふっ」 『楽しそうですね?』 「当たり前じゃない!お返しができるんだから!」 『え、誰に何を返すのですか?』 「……わからないの?なら秘密よ。」 【行動】 『(サクラが想う大切な人……自分(サクラ)自身ですか……?』 「今ものすごく失礼なこと考えていなかった?」 『……気のせいです。早く石を見つけてお返しをしに行きましょう』 「え?あ、そうね。お返しするために早く終わらせないとね。」 「ほら、プレゼントよ。」『へ……自分にですか?!』 「何そんなに驚いているの。喜ばせる(お返しする)のは当然でしょう。」 『あ、ありがとうございます。(照れながらも喜んでいる)』 指輪は左手の小指に。意味は【幸せを逃がさない】 |
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~ リザルトノベル ~ |
● 守り石に魔法をかける場所の設営をしていたポモナとサウィンは、満面の笑みを浮かべた『リチェルカーレ・リモージュ』にぎゅっと抱きしめられ、目を見開いた。 「サウィンくん、ポモナくん、久しぶり!」 「……リチェ、それくらいで。困っている」 笑うポモナと狼狽えるサウィンを見て、『シリウス・セイアッド』がひとつため息をこぼして言う。リチェルカーレは何度か瞬いてから、ふわりと頬を赤くした。 「ごめんなさい。そうよね、もう立派な魔女見習いさんですもの」 少し名残惜しそうに離れたリチェルカーレに照れたような笑みを見せてから、魔女見習いたちはシリウスにも挨拶をする。 少女の微笑と魔女見習いたちの明るい顔つきを見て、シリウスは表情を緩めた。 「エイバとは、上手くやっているのか?」 問いはポモナに放たれたものだ。少年はくすぐったそうに首を縮めてから、大きく頷いた。 「そうか」 「会えて嬉しいわ。今日はよろしくお願いします」 「よろしく!」 「よろしくお願いします。では改めて、説明しますね」 魔女の守り石――アストロン・アルゴ。 それがある場所、作り方、加工についての説明と諸注意を、サウィンはリチェルカーレとシリウスの反応をうかがいつつ口にする。 「以上です。ご質問等はありますか?」 逡巡してから、シリウスは首を左右に振った。 「すてきね」 真剣に聞いていたリチェルカーレにも疑問点はない。 「道中、魔物が出るかもしれませんので、くれぐれもお気をつけて」 「ええ、頑張って探してくる」 教えられたのは、深い森の奥深く。 じめじめしていて薄暗く、地表に露出した巨木の根や苔むした岩があちらこちらにあった。 周囲を警戒しつつ、シリウスは先に進む。リチェルカーレは教団本部を出てからずっと、頬を強張らせている。 まるでなにか強い決意を胸に抱えているように。 (家族に贈るものなのだろう) 教団の掟で原則として会うことができない家族を、リチェルカーレが大切に思っていることは知っている。 少女のその心を眩く思いながら、シリウスは樹木から垂れさがる蔦を双剣で斬った。 途端に視界が開ける。 「すごいわ……!」 感嘆の声を上げるリチェルカーレに、シリウスはただ頷いた。 草木の代わりに水晶のような、透明な石が乱立している。大きいものも小さいものもあり、そのすべてが森林内でここにだけ降り注ぐ陽光を受けて煌めいていた。 「どれがいいかしら……」 「このあたりはすでに魔物の出没地帯だ。気をつけろ」 上の空だと分かる声音で了承したリチェルカーレが、ふらふらとアストロン・アルゴの原石の間を歩いていく。 きらきらと音がしそうな水晶群を、シリウスは見回した。 不意に悪寒が青年の背を貫く。 「リチェ!」 いつの間にか離れた場所にいた少女の背に、鳥型の魔物が迫っていた。シリウスは言葉を放ちきるより早く、足元の水晶を踏み割って疾駆し、魔物の背を斬る。 けたたましく鳴いて敵は地に落ちた。 「危ない場所に行くなとあれほど……!」 今さら冷や汗を掻いていることを自覚しながら咎めようとしたシリウスは、リチェルカーレが真摯な顔つきでアストロン・アルゴを選別していることに気づき、口を閉ざす。 やれやれとひとつため息をついて、瞳を伏せる少女の横顔を眺めた。 微かな笑みが、青年の口許に浮かぶ。 持ち帰った石を、二人の魔女見習いが厚手の布の上に置き、魔法をかけた。 (怪我をしませんように) 強く願いながら少女は柊の模様が浮かんだアストロン・アルゴに手を伸ばす。 (苦しい思いをしませんように) 斜め後ろに立って見守ってくれている、彼を想う。 (……少しでも、シリウスの笑顔が増えますように) 布の上の石は小さいが、あの水晶群でひときわ澄んだ光を放っていた。星の名前を持つ彼に最も似合うと直感して、リチェルカーレはこれに決めたのだ。 精一杯の願いをこめて石に触れる。途端に、透明だった石が色を変えた。 青。しかし指先でつまんで角度を変えてみると、碧になる。 「きれい……」 そっとそれを両手で包みこんで、リチェルカーレは加工用の部屋に向かう。 「シリウス」 廊下で少女を待っていたシリウスは、壁から背を離して彼女を迎えた。 「終わったか。直接会いに行くのは難しいだろうが……」 「あのね、この前のプレゼントのお返しをしたくて」 やや緊張した様子のリチェルカーレが、シリウスに涙型の石がついたペンダントを渡した。予想外の展開に、シリウスはぽかんとする。 「……俺に?」 浅く顎を引いた少女が、プレゼントごとシリウスの手を包むように握った。 「あなたにたくさんの幸せが訪れますよう」 ぱっと上げられたリチェルカーレの顔は、春風のように優しい。緩やかに伝わる温もりは染み入るようで、シリウスの心にまで熱が届いた。 手を離すこともできず、耳元を赤く染めたシリウスは彼女の瞳と同じ色の石を見つめる。 「……ありがとう」 ようやくの思いで伝えた感謝に、リチェルカーレは笑みを深めた。 ● きゅっと『アリシア・ムーンライト』はサウィンとポモナを抱き締めた。 「お二人とも、大きくなりました?」 「まじ? 身長伸びてる?」 「本当ですか……!?」 「はい。成長期、だからでしょうか……。お元気そうでよかった……」 純粋に目を輝かせるポモナと緊張しつつも喜ぶサウィンを見る限り、どうやら楽しくすごせているようだと、去年の騒動を思い返しながら『クリストフ・フォンシラー』は目を細めた。 「なにか困ったことはない? いつでも力になるからね」 「エイバがピーマンをさぁ」 「今そういうのいいから!」 早速とばかりに言いかけたポモナを遮ってから、サウィンは咳払いをする。腕は解き、視線は子どもたちにあわせたまま、アリシアがわずかに目を細めた。 「では早速ですが、アストロン・アルゴについて説明します」 一通りの説明と諸注意を聞き終え、アリシアとクリストフは教団が所有している馬車に乗る。 「探しに行く場所、森でもいいですか……?」 「森? もちろん構わないよ」 扉を閉めようとしていた御者に、クリストフが行先を告げた。魔女見習いたちが言っていた森の入り口までは、馬車で移動できる。 「なんとなくですけれど、森の方がいい石が見つかりそうだなって……」 「うん。アリシアは森が好きだし、森に好かれてる気がするしね」 「……そうだと、いいですね……」 動き出し、わずかに揺れる馬車の中で、クリストフが微笑む。アリシアは素敵な石が見つかることを願って、目蓋を伏せた。 魔物も現れるという深い森の中は湿っぽくて薄暗く、生物の気配が点在し、ぞっとするような鳥の声がときおり響いていた。 「っと」 大型の犬とも猫ともつかない単眼の魔物の一撃を軽くかわし、クリストフは大きく踏みこむ。 態勢を整えきれていなかった魔物は回避することもままならず、クリストフが持つサーベルによる刺突を受けて喚声を上げた。 「はい、おしまい」 むやみに暴れて逃げ出そうとした四足の魔物の喉を引き抜いた刃で刺し貫けば、周囲にしばしの静寂が訪れる。 戦いの行く末を見物していた知性ある野獣たちが、狩れる相手ではないと判断してそっと逃げ去るための沈黙だった。 「しばらくは安全かな。アリシア、怪我は?」 「……ありません」 「よかった。じゃあ先に進もうか」 「いえ、その前に」 心持ち硬い声で引き留めた彼女を振り返ろうとしたクリストフの左手が、優しい光に包まれる。アリシアの天恩天賜だと気づくころには、治療は終わっていた。 「いつも、こんな風に怪我、するのですもの……」 「これくらい平気だよ」 かすり傷だと笑うクリストフに、アリシアは苦いものを飲んだような、微妙な顔になる。 (うーん、対応間違えたかな) 表情を変えないまま、どうしたものかとクリストフは内心で首を傾けた。アリシアが小さく息をつく。 「もう少しで、目的地だと、思います……」 「そうだね。行こうか」 サーベルを片手に歩き出すクリストフの背を見ながら、アリシアは改めて願った。 (こういうときにも、笑ってしまう人だから) だからこそ、彼を守ってくれるものを身につけてほしい。 そこからしばらく進むと途端に視界が開け、水晶群が姿を現した。 あたりに警戒しつつもアストロン・アルゴの原石を採取し、教団本部に戻って魔女見習い二人に魔法をかけてもらうと、透明の石の中に柊の模様が浮かんだ。 「彼女を守るのは俺の役目だとは思うけどね」 加工用に用意された部屋で、一緒にネックレスと作りながらクリストフは肩をすくめる。その隣で、アリシアは真剣な表情で自身が触れた際に変色した石を見つめていた。 (ずっとクリスを守ってください、ね) 願うアリシアに、クリストフが声をかける。 「完成した?」 「……はい」 「じゃあ、交換しようか」 「では、私から……」 頷いたアリシアは、クリストフの手に自身が作ったネックレスをそっと載せた。 「これ、アリシアの瞳の色、だね」 「はい……」 ラベンダーのような薄紫色の石を、クリストフは柔らかな眼差しで見つめる。アリシアは膝の上で指を組んだ。 「あまり、無茶は……しないで、ください」 「そうだね」 真摯な祈りをこめて告げられた言葉に、彼はふと真剣な顔つきになった。 「ずっと君が見てるんだから、無茶はしない。約束するよ。……大切にする」 誓いを口にしたクリストフは、アリシアの片手を掬うようにとって緑色の守り石がついたネックレスを渡す。 ほわっとアリシアが微笑んだ。 「樹木の葉色、クリスの髪の色、ですね」 彼女が喜んでくれるなら、と参加した守り石作りが成功したことを、その表情から知ってクリストフは満足げに首肯した。 「大切に、します……」 「そうしてくれると嬉しいな。あと、アリシアも無茶はしないでね」 「はい……」 そっとアリシアが緑色の守り石を撫でる。クリストフはもう傷跡もない左手を一瞥して、ネックレスを首にかけた。 綺麗な色だ、と改めて口にしたらきっと彼女は照れてしまうのだろう。 ● 「お待たせ、ララ。ちょっと行きたいところがあるんだけど、ついてきてくれるかな?」 「はいっ」 食堂で甘いミルクティーを飲んでいた『ララエル・エリーゼ』は『ラウル・イースト』に声をかけられ、椅子から跳ねるように下りた。 ラウルが先に手を回していたため、門前で御者と馬車が待っている。 「ラウル、どうしてどうくつに行くんですか?」 彼が御者に示していた場所を思い返しながら、ララエルはこてんと首を傾けた。 「敵がいたら、あぶないですよ?」 洞窟の名前自体は聞いたことがなかったが、そういった場所には得てして魔物やベリアルがいると、これまでの経験から知っている。 「うん。どうしてもやらなきゃならない用があるんだ」 微笑んだラウルに、ララエルは何度か瞬いてから大きく頷いて拳を握った。 「分かりました! あぶないことがあっても、私がラウルを守ります!」 双眸にやる気をみなぎらせるララエルに、ラウルは曖昧な返事をする。 陽の光が入らない洞窟は、しかしぼんやりと明るかった。苔や一部の鉱石が明滅するように発光しているためだ。 道幅は二人が並んでもまだ余裕がある程度で、分かれ道は少なくない。 「まいごになりそうです……」 「大丈夫だよ。よく見たら印があるから」 「どこですか?」 「こことか」 何度目かの分岐点でラウルは岩を指し示す。暗くて見えづらいが、植物のような模様が小さく刻まれていた。 迷ってしまったらこれを探せ、というのも魔女見習いの教えだ。 「よかった、これなら帰れますね!」 「そうだね」 応えつつ、ラウルはララエルの一歩前に出た。不思議そうな顔をしたララエルが、暗闇からのそりと現れたそれを見て肩を跳ねさせる。 「きゃっ、敵が……っ」 「ララエルは後ろに下がっていて」 言うが早いか、ラウルの狙撃銃が火を噴いた。突進してこようとしていた四つ目の獣が怒声を洞窟内に響かせる。 その後ろから同様の肉食獣じみた獣が数体、現れるのが見えた。 「ラウル、私も戦います!」 「大丈夫だよ。僕ひとりでも、すぐに片づくから」 「そんな……ラウルひとりでなんて!」 盾になっている一体の真後ろにいた個体が大きく口を開く。そこに炎塊が宿ったのを見てとり、ララエルは前に出ようとした。 すかさずラウルが少女の行く手を遮る。彼が放った弾丸は放たれかけていた火炎ごと敵の口腔を撃ち抜いた。 「ララ、怪我はない?」 「ありません。ラウルは……?」 「ないよ」 心配そうに見上げてくるララエルを、ラウルはそっと撫でる。 絶え間なく引き金を引き続け、二体が倒れたころには残りの個体は逃げだしていた。その選択をできる知性があるなら、不意打ちもしてこないだろう。 そこからしばらく進むと、唐突に視界が明るくなった。 「これがアストロン・アルゴ……」 「すごいです!」 ほのかな明りを宿す水晶群が、洞窟の最奥の空間を埋め尽くしている。はしゃいだララエルがその真ん中でくるりと回った。 「ラウル……、この石はなんですか?」 「アストロン・アルゴ。魔女の守り石の、原石だよ」 「普通の石にしか見えませんが……」 綺麗だが、魔力は感じない。それほど特別なものとは思えず、ララエルは屈んでじっと石を観察した。 強い願いをこめて、ラウルは石をひとつ採取する。 途中、街に寄ってから二人は教団本部に戻った。魔女見習いが魔法をかけると、透明だったアストロン・アルゴに柊の模様が浮かぶ。 (ララエルのためにアクセサリーを作りたいんだ) 両手で石を両手で包むように持ち、ラウルは目を閉じた。 (頼む、力を貸してくれ……!) 不意に手のひらの中の温度が変わる。目を開き、手を解くと、一連の動作を見守っていたララエルが歓声を上げた。 「わっ、石の色が変わった……?」 透明だったアストロン・アルゴは、美しいアクアマリンに色を変えている。息をのんだラウルは口元に笑みを刻んだ。 (ありがとう、アストロン・アルゴ) 「ララ、街に戻ろう」 「はい!」 二人が向かったのは、先ほど立ち寄った場所――アクセサリーの加工を行っている店だった。 「ラウル、なにをしてるんですか?」 「うん、まあ見ててよ」 自由に使用できるスペースで、ラウルは守り石を丁寧に二等分し、さらに手を加えていく。 彼の隣に座ったララエルは興味深くその迷いのない動きを見ていた。 「できた。ララ、動かないでね」 手際よく完成させたものを、ラウルはララエルの両耳につける。最後に、卓上にあった鏡に彼女を映した。 「きれい……」 動きにあわせて揺れる、アクアマリンの石がついたイヤリングにララエルは目を大きく見開く。 「綺麗だよ、ララ。よく似合ってる」 思い通りの仕上がりにラウルは目を細める。 「このネックレスも、ブレスレットも、今度はイヤリングまで……。嬉しです、ラウル」 彼からの三つめの贈り物に、ララエルは無邪気ににっこりと笑った。その表情が愛しくて、ラウルは笑みを深める。 またひとつ、彼女の宝物に彼からの贈り物が増えた。 ● 「シキ、準備できたか。魔物が出るかもって言われただろ、ちゃんとしとけ」 「準備万端だぜ!」 洞窟の入り口で、準備体操をしていた『シキ・ファイネン』が親指を立てる。 「魔物が出てきても大丈夫っ! アルにはオレがついてる」 「そういうことを言ってるんじゃな……、いや、やっぱいい」 はあ、とため息をつき、『アルトナ・ディール』は今日も元気なシキから洞窟に視線を滑らせる。二人の背後には教団が所有している馬車があり、御者がいた。 「よーし、突撃だ!」 「ああ」 「その前にルーくん、手貸して」 歩き出しかけていたアルトナは立ちどまり、差し出された手とシキの顔を見比べる。逆の手で無造作に狙撃銃を握る彼は、急かすように手首から先を振った。 「魔術真名、唱えとこーぜ」 にっとシキが笑う。 説明を行った魔女見習いたちは、魔物はいると言ったがその強さにまでは言及していなかった。危険の程度が分からない以上、入念に準備をしても損はない。 「そう、だな」 一理あると納得し、アルトナはシキと手のひらをあわせる。 視線を交え互いの呼吸をはかり、魔力の生産量を開放するその言葉を同時に唱えた。 「行こう」 洞窟内部はほのかに明るい。岩肌や天井の苔、ぽつぽつと生えた背の低い植物の一部などが、明滅するように発光しているためだ。 道幅は二人が並んでもまだ余裕がある程度だった。分岐がいくつかあるものの、よく見れば地面に植物のような模様が刻まれているため、迷子にはならない。 ぴちゃん、と天井から水が落ちる音が響く。 「シキ」 「んー?」 興味深そうにあたりを見ながら歩いていたシキは、担いだ銃で自らの肩をとんとんと叩く。油断しているような無防備な態度を横目で確認して、アルトナは小さく息をついた。 「なにが起こるか分からないし、手、貸せ」 「……え、手?」 きょとんとして動きをとめたシキにあわせ、アルトナもとまる。 「はぐれたら元も子もないだろ。だから、だ」 分かったなら早くしろと、アルトナは小さく息をつく。 固まっていたシキの表情が、へらりと崩れた。 「アルトナきゅんのそーゆートコ、大好きかも。俺」 照れつつシキはアルトナの手を握る。心底から嬉しそうに頬を緩めている彼を引く形で、アルトナは歩みを再開した。 「つか、アルトナきゅんってなんだ。増やすなあだ名を」 「いやん。アルトナきゅんはアルトナきゅんだもん」 身をくねらせるシキにアルトナ苦い顔になる。 「いやんって……だもんって、かわいこぶるな」 (俺、だんだんシキの突っこみなってるような気がする……) 気のせいなのかそうでないのか、考えこみそうになったアルトナの意識を、シキの鋭い声が現実に戻した。 「アル!」 「……っ、敵か……!」 手を離したシキの狙撃銃が、現れた四つ目の四足獣を撃つ。敵はふらついたが、咆哮を響かせながら突進してきた。 鋭い爪による一撃をアルトナはかわし、敵の懐に入りこんで急所を一閃する。魔物の怒号をかき消すように、銃声が鳴った。 どう、と魔物が倒れる。後続がいないことを確かめてから、アルトナは肩の力を抜いた。 「だ、大丈夫だったか、アルトナ?」 「……あ、ああ。アンタこそ、怪我ないか?」 「俺は平気」 心配性のシキが狼狽えながらアルトナの周りを回る。 「落ち着け。先に進むぞ」 「あ、置いてくなよアルトナきゅんー!」 まだ眉尻を下げているシキの先に立ち、アルトナは歩き出した。 彼と繋いでいた手を一度強く握りしめて、シキもすぐに後を追う。 アストロン・アルゴで埋め尽くされた洞窟最奥部から教団本部に戻り、魔女見習いたちに魔法をかけてもらうと、透明の原石に柊の模様が浮かび上がった。 厚手の布に包れたそれを持ち、二人は教団寮のアルトナの部屋に向かう。 「ほんとに透明なんだな」 「これから色が変わるんだっけ?」 そっとシキが守り石をとる。 「シキが触ったら……!」 「おー、色がついた……!」 透明だったアストロン・アルゴが、アイスブルーに色を変えた。シキは石をつまみ、まじまじと観察する。 「へえ、面白いな、アル!」 「……ああ。悪くない」 気合を入れ直してシキは石の加工にとりかかった。アルトナは器用に動くシキの手を、ぼんやりと眺める。 「うー、こんなもん……か?」 しばらく経ち、シキが室内の灯りに透かしたのは、一個の指輪だった。 「意外と形になるもんだな」 感心したアルトナに、シキはくるりと向き直る。 「じゃあこれはアルに」 「……俺に?」 「だって守り石だろ? 俺は敵からアルを守りたい。そう思いながら加工したんだぜ!」 明るく笑んだシキがアルトナの手のひらに指輪を載せた。 「敵……。そう、か」 贈り物を見つめ、アルトナはひとつ咳払いをする。 「じゃあ、その……、ありがと」 小声で言った彼は照れていることを悟られないようにするため、すっと顔をそむけた。 「アルにお礼言われちゃった」 えへへ、とシキはとろけたような顔になる。 願いをこめられた守り石が、きらりと光った。 ● ぴちゃん、と音が響く。 肌を粟立たせた『フレデリカ・アスター』は、それが天井から滴った水の音だと気づき、息をついた。 「もうすぐ目的地だね!」 暗い洞窟を魔女見習いたちに教えてもらった目印を頼りに進む『アロイス・フェガリ』の明るい声に、フレデリカは頷く。 「どんな石になるんでしょうね」 「全然想像つかない。楽しみだね!」 朗らかに笑うアロイスに、フレデリカは曖昧な表情を浮かべる。 視界が開けた途端、苔や名前も知らない鉱石が放っていた微かな光が強さを増す。 「あった!」 「……アストロン・アルゴ、ですね」 光源となっているのは、洞窟最奥部を埋め尽くしている水晶群だ。 といっても、ひとつひとつはそれほどの光度ではないらしいと、フレデリカは足元に落ちていた欠片を拾って思う。 「見つけられてよかったね!」 「はい」 「どうしたの?」 ほっとした様子のフレデリカに、アロイスは首を傾けた。フレデリカは眉尻を下げて微笑む。 「敵に遭遇した場合のことを、ずっと考えていたんです。覚悟はしていたつもりなんですけど……」 全然できてなかったみたいです、と少女は苦笑した。 アロイスはぽかんとする。そういえば魔女見習いたちが、魔物が出るかもしれないと言っていたことを思い出した。 「ちゃんとそこまで考えてるとか、立派すぎる……。俺、めちゃくちゃ遠足気分だった」 「でも、とりあえず杞憂に終わりましたので……」 「よーし、帰り道は俺もしっかり警戒するよ!」 「気をつけて帰りましょう」 意気軒高なアロイスに、緊張が解けきったフレデリカが今度は自然な笑みを見せる。 浄化師としての任務も洞窟にくるのも、二人とも初めてだ。元より楽しそうなアロイスだけでなく、あたりの安全確認がすめばフレデリカの気分も上向きになった。 「きれいだね」 「はい。こういうところもあるんですね」 幻想的な光景を眺めながら、二人は水晶群の中からこれと思うアストロン・アルゴを見つけ、採取した。 幸いなことに帰り道も魔物に出くわすことなく、洞窟前で待ってくれていた馬車に乗って教団本部に戻る。 魔女見習いたちに魔法をかけてもらうと、透明のアストロン・アルゴの中に柊の模様が浮かんだ。 厚手の布に包まれたそれを手に、二人は加工用に用意されている部屋に向かう。 「せーのっ」 席に着いた二人は、アロイスの掛け声でそれぞれの石に触れた。 ふわりとフレデリカのアストロン・アルゴが夜空を思わせる藍色に染まり、アロイスのものは明るい黄色に変わる。 「おおー」 「本当に色が変わりましたね」 ささやかな感動を胸に、二人は守り石をしばらく観察した。 「なにに加工するか決めた?」 「決めました。アロイスくんは?」 「完成してからのお楽しみ」 片目をつむったアロイスに、フレデリカは小さく笑って作業を開始する。 (本当は決まってないんだよね) 机上の道具を見定めるフレデリカの横顔を眺めながら、アロイスは悩んだ。 「どうかしましたか?」 「なんでもないよ」 視線に気づいたフレデリカが瞬く。アロイスは慌てて手を振り、少女から視線を引き剥がした。 (やっぱり、女の子に贈るわけだし……) 首飾りにしよう、と決めてアロイスは道具をとる。 一方でフレデリカは腕輪を作っていた。アロイスが抵抗なくつけられるだろう、と考えたためであり、決して小さいものだとなくしそうだと危ぶんだためではない。 (違いますから) 自分に言い聞かせるように否定しつつ、黙々と作業をする。 「……あの」 「ん?」 「……手伝いましょうか?」 不器用なアロイスは横目で見る限りでも分かるほどに苦戦していた。見かねたフレデリカの申し出を、アロイスは困ったように笑って断る。 「ん、大丈夫」 「そう……ですか」 でしゃばりすぎたかな、としょんぼりしたフレデリカにアロイスは慌てた。 「あ、迷惑とかそういうんじゃないよ! ただ、君に贈るものだから、これは俺がひとりで完成させなきゃだめなんだ……!」 「分かりました。頑張りましょう」 「うん!」 真剣な様子でアロイスは再び作業に没頭した。双眸には使命感が燃えている。 普段とは異なるその様子が面白くもあり、フレデリカは頬を緩めた。 一時間近くが経過して、アロイスが快哉を叫んだ。 「できたー!」 「おめでとうございます。私もできました」 小さく拍手したフレデリカの背後に、アロイスが回る。 行動の速さに困惑した少女は、首元を掠めたアロイスの手の感触にどきりとした。 「じゃん! できはまあ、なんというかオリジナリティある感じだけど、気持ちはたくさんこめたから!」 少年はフレデリカの隣の席に戻り、太陽のように笑う。 「きみの未来が明るいものでありますように」 「……ありがとうございます。じゃあ、私も」 はにかんだフレデリカは、彼の腕をとって輪をはめた。 「どうか、アロイスくんのことを守ってあげてくださいね」 「ありがとう、フレデリカ」 最後に願いをこめて、手を離す。彼は少し照れたようだった。 ● アストロン・アルゴが採取できる現場に教団が所有する馬車は向かっていた。 カーテンを開いた『ヨナ・ミューエ』は流れていく景色をぼんやりと眺め、対面に座る『ベルトルド・レーヴェ』は腕を組んで目を閉じている。 沈黙は、最近の中では比較的心地よいものだった。そう感じられる程度には張りつめていた二人の間柄が緩んだらしいと、ヨナは横目で彼の表情をうかがいつつ分析する。 あるいは、そうであれと願ったのかもしれない。 「ポモナとサウィンは度々見かけていたが、元気そうでよかった」 先に口を開いたのはベルトルドだった。窓に肩を寄せていたヨナは姿勢を正す。目蓋を開けたベルトルドの双眸には、柔らかな光があった。 ふっとヨナの口許も緩む。 「ええ。それだけでなく、魔女の文化で交流を図ったりと、新しい道を模索してくれています」 「あの二人だからこそできることも、閃くこともあるだろう」 「魔女と人間。双方の懸け橋になってくれるといいですね」 いえ、とヨナは小さく首を振る。 「なってくれます。今回がそうであるように」 首を振って肯定したベルトルドが話題を転じた。 「そういえば、なにに加工するか決めたのか?」 「……戦闘の邪魔にならず、日常的に身につけられるものを、と考えてはいますが、具体的には」 「まだか」 苦みと戸惑いが混ざった表情でヨナは頷く。ベルトルドは馬車の天井を仰ぎ見た。 「俺も決まっていない」 「時間はあります。ゆっくり決めましょう」 「……そうだな。せっかくの守り石だ、身につけられるものにはしたいが」 思考に没入するようにベルトルドは口を閉ざす。ヨナは膝で重ねた手に、少し力をこめた。 (本当は、もっと言うべきことがあるのに) この空気感にほっとするのは、決して嘘ではない。何気ない会話も大切に思える。 しかし話しあうべきは、一瞬意識が繋がったことで知ってしまったお互いのことなのではないかと、心の隅が問いかけていた。 (一言、今は大切だと伝えるだけで、きっと笑ってくれるのに) 最初は誰でもよかった、今は違うのだと。 心からの言葉は、今日もヨナの喉の奥で絡まったままうまく出てきてくれない。 水晶群、とでも表現するべきアストロン・アルゴの絶景を見ながら、ベルトルドはヨナから目を離さないように注意する。 彼女はきらきらと音がしそうな光景を前に高揚し、一度鉱石に足をとられかけただけで、あとは真剣に採取していた。ベルトルドも透明な石の欠片を入手して、待たせていた馬車に乗った。 務めて普段通りに振舞うヨナを前に、ベルトルドは内心で息を吐く。 (そんな風にさせるほど、心配させているのだろうか) 今の彼女は、らしくない。具体的にどこがと聞かれれば、これまでの経験がそう告げているのだと応える他ないのだが、つまりは雰囲気で分かる。 そして、自分もまた、らしくない。 (昔に区切りはつけたつもりだったのだが) 記憶は未だ、残酷なほど鮮明だ。 教団本部に戻った二人は、魔女見習いの元に向かった。ポモナとサウィンが鉱石に魔法をかけると、透明の中に柊の模様が浮き上がる。 「手にとってみてください」 微笑むサウィンに促され、二人はほとんど同時に色のない石に触れた。 途端、内側から滲み出るように鉱石の色が変わる。 ヨナのアストロン・アルゴは、夜明け前を思わせる濃い青色に。 ベルトルドのアストロン・アルゴは、夕焼けを思わせる薄紅色に。 「すごいな」 「こんな風に色がつくんですね」 感嘆の息をついた二人に、ポモナが明るく笑った。 「あっちの部屋で加工して交換してくれよな!」 魔女の守り石は、大切な人に渡すことで効果を発揮するといわれている。 言葉がなくとも相手を思いやる文化は、今の自分たちにぴったりな気がして、ヨナはそっと石を握った。 「お二人とも、今日はありがとうございます」 「いい魔法を見せてもらった」 「こちらこそ、ご参加ありがとうございます」 「大切にするんだぞ!」 魔女見習いたちに見送られ、ヨナとベルトルドは加工用の部屋に入る。細く息を吐き出して、ヨナはベルトルドを呼んだ。 「ブレスレットにしませんか」 「揃いのか?」 「……嫌ですか?」 「いや。いいんじゃないか。邪魔にならず、身につけられる」 二人で並んで座り、銀のチェーンとアストロン・アルゴを繋ぎあわせ、チャームブレスレットを作った。サイズこそ違うが、デザインは一緒だ。 「では……、魔女のご加護がありますように」 「ヨナにも」 改まって渡すと少しむず痒いですね、と思ったがヨナは言わないことにした。代わりに、腕につけたブレスレットを指でなぞる。 薄紅色の石は心なしか温かく、見ていると心が休まるようだった。 「あれ、ベルトルドさん?」 気がつけば、濃い青の石を手首につけている彼の姿がない。 「飯にでも行くか。二人はどうだ」 「あ、ちょっと待ってください……!」 立ち上がったヨナは廊下から聞こえてきた彼の声と、はしゃぐ子どもたちの歓声を慌てて追いかけた。 ● 湿っぽい洞窟の内部は岩や段差もあり、分かれ道もあって、足場が悪いだけでなく、魔女見習いたちから事前に教えてもらった攻略法を知らなければ迷子になりそうだった。 苔や周囲の鉱石がぼんやりと光っているため光源が必須でないことを差し引いても、ため息をつかざるを得ない。 「ナツキ、転ばないようにね」 「おう、おぉっ」 言ったそばから背後で間の抜けた声が上がり、『ルーノ・クロード』は振り返った。 二人が並んで歩いても余裕がある道の端に屈んだ『ナツキ・ヤクト』が目を輝かせる。 「この石も綺麗だぞ!」 「……そうだね」 滑って転んだか、そうでなければ魔物でも出たのではないかと背筋を凍らせていたルーノは、ナツキが目を輝かせてつまんでいる桃色の石を見て苦笑した。 「持って帰ってやろうかなぁ」 「安全の保障はされていないとはいえ、魔女が頻繁に出入りする洞窟だ。不用意に中のものを持ち帰るべきではないと思うよ」 「それもそうか」 名残惜しそうにナツキは石を戻して立ち上がる。 魔物と遭遇することもなく、二人は目的地でアストロン・アルゴを採取し、教団本部に戻った。 待ち受けていた魔女見習いたちに魔法をかけたもらった瞬間、透明の鉱石に柊の模様が浮かぶ。ナツキは初めて見る種類の魔法に喜び、ルーノは不思議な現象に興味をひかれていた。 厚手の布に包まれたアストロン・アルゴを、加工用の部屋に持って行く。二人並んで座り、この謎が多き魔女の守り石をしばらく眺めた。 触れた瞬間、この透明の石は色を変えるらしい。 「せーので行くぞ。……せーの!」 期待に染まったナツキの声にあわせ、同時に石に触れる。 途端、内側から色があふれるように変化が起こった。 ナツキが触れた石は、太陽や向日葵を連想させる温かな黄色に染まる。ルーノが触れた石は、冴えた月か、彼の故郷に咲く月下の花、月輝花のような白に変わった。 「おおー!」 「……すごいな。なにに反応して変わったのか……」 歓声を上げたナツキは様々な角度から石を観察し、ルーノは眼前で起こった現象について驚嘆を抱きながら考える。 体温か、それとも微弱な魔力に反応したのか。魔女見習いたちに聞けばわかるのだろうか。 「さっそく加工しようぜ、ルーノ!」 首飾りにしよう、という話は採取中にしていた。二人は魔女見習いたちが用意した道具箱の中から必要なものを選び出し、製作にとりかかる。 「なんだこのパーツ」 「それはこっちにつけるものだよ」 「こっちの小さいのは?」 「ここ」 「こ……ここか?」 「そう。こうすれば入るから」 細かい作業に苦戦するナツキをルーノが手助けしつつ、どうにか首飾りを形にしていく。 「よしできた!」 「お疲れ様」 「ルーノが手伝ってくれたおかげだ。ありがとうな」 「どういたしまして」 くすぐったく笑んだルーノに、ナツキは完成した首飾りを差し出した。 「交換しようぜ」 「本当に力があるかは分からない、と言っていたが……」 「難しい理屈より、こういうのは信じたモン勝ちだぜ!」 「……確かにその通りかもしれないな」 アストロン・アルゴは大切な人に渡すことで、その効果を発揮する。あくまで伝承でしかないが、ナツキの言う通り信じてみるのも悪くはない。 (ひとりで色々抱えこんじまうルーノを、守ってくれ) 真摯なナツキの願いがこもった石が、ルーノの手に渡る。どうか、とナツキは自分が作った首飾りから手を離す寸前まで、祈るようにそう思い続けていた。 (……たまにはちゃんと、相談してほしいんだけどな) 胸中でつけ足したナツキの瞳に、白い石がついた首飾りが映る。 「はい」 渡すルーノもまた、最後まで強く願っていた。 (無茶をしがちなナツキを、守ってくれ) 嬉しそうにルーノが染めた石を眺めるナツキを見て、ふとアストロン・アルゴが願望を結実させる効果を持つとも言われていると思い出した。 手のひらに載った、明るい黄色の石を両手で包みこんでルーノは目を伏せる。 (このささやかな平穏が奪われないように) 全く、柄でもないと内心で苦笑しながら目蓋を開くと、ナツキが首飾りをつけたところだった。 「見せに行こうぜ!」 「そうだね、お礼も言わないと」 この企画をしてくれた魔女見習いの救出には、二人もかかわっていたのだ。どうしているか心配していたが、自分にできることをしようと行動に移した姿に安心した。 魔女見習いの元に駆け寄ったナツキが、はしゃいだ声を上げる。 「サウィン、ポモナ! 見てくれよ、これ!」 「興味深い体験ができた、ありがとう」 追いついたルーノが笑みを向けると、魔女見習いたちが照れたように頬を緩めた。 「とてもお似合いです」 「どっちもキレーな色だな!」 「だろ? 魔女については知らないことばっかりだし、また色々教えてくれよな!」 「もちろん!」 「またぜひ、ご参加ください」 両手を上げたサウィンとナツキがぱんとハイタッチをし、ポモナがはにかむ。 和やかな光景を、ルーノは温かな気持ちで見守っていた。 ● 「ふふっ、ふふふっ」 警戒も遠慮もなく前進する『サク・ニムラサ』の笑声を聞き、『キョウ・ニムラサ』は彼女の斜め後ろで首を傾けた。 「楽しそうですね?」 「当り前じゃない! お返しができるんだから!」 「え、誰になにを返すのですか?」 殺り返す的なことですか、と続けかけた言葉をキョウは自然にのみこんだ。わざわざ藪を突いて蛇を出すこともない。 くるりとサクが振り返る。決して足場がいいわけではないのだが、不思議と彼女はつまずかなかった。ひょいと軽く飛んで障害物を越えて見せる。 (後ろにも目がついているんですか?) 笑顔で小石を蹴り飛ばされそうな問いも、キョウはこの際伏せておくことにした。 「……分からないの?」 「自分が知っている人ですか?」 瞬きながらキョウはサクがお返しをしそうな人物を思い出そうとする。サクはじっと弟を見据えていた。 不可思議な沈黙が下りる。 耐えきれなくなって、キョウは両手を肩の高さに上げた。 「降参で……」 「なら秘密よ」 口の端を上げたサクは突き放すような口調でキョウの言葉を遮り、前を向く。細いが永遠に敵いそうにない背中を眺めながら、キョウは内心で唸った。 心当たりがない。 (アストロン・アルゴは大切な人に渡すもの……) その決まりを破るつもりは、サクにもなさそうだ。上機嫌に歩く彼女はきっと、大切な人にこれから採取する石を渡す。 ならば物騒なことにはならない、と思考を整理しなおしたところで、ひとりだけ思いつく相手がいることに気づいた。 (サクラ自身ですか……?) 「今物凄く失礼なこと考えていなかった?」 「……気のせいです。早く石を見つけてお返しをしに行きましょう」 「え? あ、そうね。お返しをするために早く終わらせないとね」 自分自身に願いをこめて贈るお返し。 姉の反応を見る限りその推測もどこかずれているような気がして、キョウは悩む。 だが結局のところ、サクの真意を推し量ることなどできはしないのだと結論づけて、周囲の警戒に意識を注ぐことにした。 難なくアストロン・アルゴの採取を終え、教団本部に戻った二人は無色透明の石を魔女見習いたちに見せる。二人の少年の内の片方が、アストロン・アルゴに魔法をかけた。 柊の模様が浮かんだ石は、厚手の布に包まれた状態で渡される。誰かが触れた瞬間、色が変わり、二度と変化しないためらしい。うっかり他の誰かが触れる、という事故を防ぐ目的だ。 鼻歌まで歌い出しそうなサクを先頭に、加工用に用意された部屋に入った。キョウが隣に座ったのを横目で確認してから、サクは躊躇なく石に触れる。 直後、内側から色が滲むように、アストロン・アルゴが変色した。 「いい色ね」 「そうですね。確かにこれは、サクラの色です」 妖艶な紫になった魔女の守り石を見て、キョウは浅く顎を引く。これは間違いなく、姉の色だ。 「さーて」 机上に置かれていた道具箱をあさり、必要なものをすいすいと出していくサクを、キョウは眺める。 たとえこの先に血みどろ的なことが待ち受けているとしても、サクが楽しいならそれはそれでありだと思えてきた。 (いいのではないでしょうか) どうやら彼女は指輪を作るつもりらしい。 完成図はすでに頭の中にあるのだろう、サクの手に迷いはない。手伝いを買って出る間もなく、紫の石がはめられた装飾品が完成する。 「でーきた」 「綺麗な指輪だと思います」 「そうでしょう? ほら、プレゼントよ」 「……へ?」 自分の指につける様子がないサクを見て、では誰かに渡しに行くのだろうと席を立ちかけていたキョウは、半端な姿勢で固まった。 目の前には指輪。サクの双眸には弟の姿が映っている。 「自分にですか!?」 たっぷり三拍おいて、キョウは驚きのあまり仰け反った。倒れかけた椅子を慌てて支える。サクは心外だとばかりに眉を跳ね上げた。 「なにそんなに驚いてるの。喜ばせるのは当然でしょう」 「喜ばせるって……」 「お返しよ。ハロウィンの」 「あ、ああ……あの……」 今日もサクがつけている、夜空のような髪飾り。深い青とアカい粒が、室内の灯りにきらめいた。 動揺が収まるのと同じ速度で、喜びと照れがこみあげてくる。お礼を、お返しをもらえるなんて思っていなかった。サクがそういうことをしてくれるなんて、想像していなかった。 でも、そんなの、こんなの。 (嬉しいに決まっているでしょう) どうしようもなく頬が緩む。 「弾丸の方がよかった?」 「えっ」 「冗談よ!」 悪戯じみた笑顔を浮かべたサクが、左手で指輪をつまんだ。 「手を出して。左ね。つけてあげるわ」 「あ、ありがとうございます」 指輪はするりとキョウの左手の小指にはまる。サイズはぴったりだった。 (幸せを逃がさない、でしたか) 至近で見たり明かりに透かしたりと、様々な角度から指輪を見ながら、キョウは思い出す。指輪は、どの指にはめるかによって意味があるのだ。 「似合うじゃない」 満足そうに笑うサクに、キョウははにかみながら頷いた。
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*** 活躍者 *** |
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[4] アリシア・ムーンライト 2019/10/25-20:55
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[3] リチェルカーレ・リモージュ 2019/10/25-19:53
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[2] アルトナ・ディール 2019/10/23-23:51
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