~ プロローグ ~ |
彼女達は、愛されるために作られた。 |
~ 解説 ~ |
○目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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魔術真名詠唱 お願いだから無茶をしないで 駆け出す背中を見送る 初手で禹歩七星と浄化結界 王弟殿下にも キメラ側対応 中衛位置から 天恩天嗣3や浄化結界4での回復や鬼門封印で支援 余裕があれば九字で近づいてくる敵に攻撃 大切な人には幸せでいてほしい 少しでも苦しい思いが減りますようにって そう思うわ 好きな人には 笑っていて欲しいって… 貴女は違うの? アスモデウスを真っ直ぐ見て メンカウラー様は サンディスタムにとって大切な方 ううん それだけじゃなくて カフラー様も 弟君にはご無事でってそう思っているはずだもの だから お兄様の代わりにわたしたちが守るわ キメラ戦後は対アスモデウス 戦法はキメラと同様 誰も倒れることのないように |
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ファラオに成りすまし この国を 人々を 好き勝手にするのはここまでです 護衛とキメラ対応を仲間に任せアスモデスの元へ 適度に攻撃を繰り出しながら基本は足止めや行動の制限 「偽物」という言葉で豹変したことから彼女の拘りはそこなのだろうと予測し 煽る発言を重ねてこちらの思惑や撤退の判断を鈍らせ その間キメラを倒して貰い 皆がアスモデウスに攻撃出来るタイミングで一斉に攻勢に出る 止めとなる一撃をメンカウラーにと道を作る 喰人 愛して成り代わってそれで何か得られたか? お前の心は満たされたのか アスモデウス 底の抜けた瓶にいくら水を注いでも満ち足りる事はないのだろう しかし憐れみを向けるにはあまりにも彼女の罪は重い と拳に力を込める |
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……(黙ってアスモデウスを見つめて) 何でも、ないです 今は、するべきことを、頑張ります…… アスモデウス側へ移動 近づきすぎないように気をつけ位置取り 鬼門封印での支援と天恩天賜3での回復や 四神浄光・壱での毒の治療を中心に行動 どれも必要なさそうな時はすぐ動けるようにやや後方で待機 アスモデウスの動きに注意を 逃げそうな素振りが見えたら禁符の陣で拘束を試み アスモデウスさん… 誰も気付けないくらい、王様そっくりになれる程 愛してらしたの、ですね… 愛する人を、幾度も手に掛けて、寂しくはない、ですか? 虚しくは、ないですか…? 貴女の心は、痛んではいませんか…? 貴女は、貴女のままで、愛する事は…できなかったのですか……? |
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邪魔なキメラを殲滅する セパル達もキメラへ、味方が対応していないキメラがいたら牽制を依頼 王弟はアスモデウスへ ルーノは回復、解毒を優先しつつ遠距離から援護 ナツキはスキルを使い攻撃に徹する 範囲攻撃は味方を巻き込まない位置で受け被害軽減 最初は味方が狙うキメラへ集中攻撃で数を減らす 追加後、数が4体以下になったら均等に削る 満遍なく弱らせルーノがキメラの中心で禁符の陣を使用 動きを止め味方を支援し一気に全キメラ殲滅を狙う 逃走防止の為アスモデウスの危機感を煽らないよう、不利をギリギリまで悟らせない事が狙い キメラ殲滅後はアスモデウスへの攻撃に加勢 スキルを惜しまず使用、逃走は許さない 最後の一撃は王弟に託し、援護する |
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主にキメラが王弟殿へ行かない様、抑えて倒す 相手を知り、己を知れば百戦危うからず 兵法にある有名な言葉であるが アレには自己がない 確固たる自己もなく真似るのはただの模倣だ 「私にも確固たる自己はない」 基より私の中に私はいないのだから 本来居たであろう、元の私は何所を見た所で何所にも居ないのだ 「真白の中に、ただ一人立つ…不安しかないのは、解るつもりだ」 …いや、うん。メルキオスの様なのも居るには居るが なんでお笑いと真作を同列にする 同じ芸ではあるが、それはまた異なる事だろう まぁ、兎に角 真白の中を歩くその過程に、共に歩く存在が居てもいいはずだ 「他者を愛すとは、そう言う事ではないだろうか」 愛す存在はヒトと限らずに |
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奴にどんな事情があるのか 何のつもりで王に成り代わっていたのか そんなのは私にはどうでもいい事だ 今必要なのは奴の討伐 ここで逃がせば奴はまた同じ事を繰り返す 何としても王弟殿にトドメをを刺して貰うぞ ヴィオラ、王弟殿を頼む 魔術真名詠唱 キメラに突撃していく アスモデウスに向かった仲間にキメラが向かわないよう引き付け 新しい個体が出てきたらそちらへ なるべく長引かせないよう地烈豪震撃にて攻撃し早めに片を キメラが片付いたらアスモデウスの方へ応援に 奴が逃げ出す隙間を無くすように仲間と連携をしながら攻撃を ヴィオラの呟きに 確かに哀れだな 事情は知らんが、ああなったのは創り主の責任だろう いつか創り主をとっちめてやりたいものだ |
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アスモデウスが何をしたいのか全く理解できない 何故成り代わる?別に権力が欲しかった訳じゃあないんだろう? それとも単に成り代わりたかっただけ、か…? 自分が成り代わった所で元の対象は元のもののままだろう?アスモデウスも、対象も唯一のものだろう? そこに本物も偽物もあるか? 俺はアスモデウスの邪魔をする 真明詠唱後DE9で命中率を上げてDE6で遠距離から削る 他の仲間が削りやすいように俺はあいつの注意を削ぐだけだ 手荒でもいいからあの女に聞き出したいことはあるんだがな… あいつの裏にあるもの…具体的には何らかの組織や動きも気になるんだが 何が彼女をしてそうさせるか、その動機そのものが気になってな… |
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失われた命は戻らないけれど メンカウラー様を守り抜き 正当なファラオの後継であると示すお手伝いを >行動 戦闘開始時に魔術真名詠唱 アスモデウスへはキメラの妨害を排除した後 他の仲間と連携し一気に攻撃 それまでは それぞれの担当 リ:初手でメインアタッカーへ戦踏乱舞 キメラ側担当 仲間と連携しながら キメラが王弟側へいかないよう引きつけと攪乱 可能なら尻尾を切り離したい 中後衛の仲間への攻撃は防ぐ 自分への攻撃はスイッチヒッターで対応 セ:王弟殿下の護衛 ペンタクルシールドを展開 ヴィオラさんと協力して攻撃を防ぐ 余裕のある時は カードで近づいてくる敵にルーナ―プロテクションで攻撃 全体の様子を見 危険な時は声かけ 王弟が危ない時は盾に |
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~ リザルトノベル ~ |
「殺すわ」 キメラを従えるホムンクルス、アスモデウスが浄化師達の元へと近付いてくる。 対する浄化師達と王弟は、迎え撃つべく態勢を整えていた。 王弟の護衛に就く『セシリア・ブルー』に、パートナーである『リューイ・ウィンダリア』は声を掛ける。 「殿下を頼むね、セラ。きみも無茶はしないで」 「ええ、大丈夫。私のことは気にしないで」 セシリアは静かに返すと、護衛するメンカウラーに呼び掛けた。 「メンカウラー様も、無理はなさらず。ひとりきりで頑張る必要はないんです」 そこまで言うと、弟をたしなめる姉のように、続けて言った。 「男の子は、すぐに見栄を張って無茶をするんだから」 これにリューイが苦笑するように応える。 「あ、ひどい。無茶をしなきゃ駄目な時だってあるのに」 「そんな言葉は、もっと大きくなってから言ってちょうだい」 仲の良い姉弟のような2人の様子に、メンカウラーは余分な力を抜くように小さく笑みを浮かべ言った。 「気に掛けてくれてありがとう。けれど彼の言うように、無茶をしなければならない時もある。今がその時だ。でも私1人の力では足らないのも自覚している。君達の力を貸して欲しい。頼む」 「ええ、勿論ですよ、殿下」 「力になります。頼って下さい」 セシリアとリューイの応えにメンカウラーは力強さを感じながら、戦いに挑む。 「開け、九つの天を穿つ門」 魔術真名を唱え、リューイとセシリアは動く。 リューイは前衛の仲間に戦闘乱舞を掛けるため移動し、メンカウラーは前衛で戦う浄化師達の援護が出来る位置に向かう。 そしてセシリアがメンカウラーの護衛に就く中、仲間の浄化師達も適切に動いていた。 「ヴィオラ、王弟殿を頼む」 メンカウラーに一瞬視線を向け『ニコラ・トロワ』はパートナーである『ヴィオラ・ペール』に呼び掛ける。 これにヴィオラは、にこやかに返す。 「はい、任せて下さい」 そして2人は魔術真名詠唱。 「cooking and science」 戦力を上げ、ニコラはキメラの迎撃に。 ヴィオラはメンカウラーを護衛するために動く。 護衛に来てくれたヴィオラに、メンカウラーは返す。 「すまない。助かる」 これにヴィオラは笑顔で応え、続けて言った。 「この戦い、メンカウラー様は絶対に倒れてはいけません」 サンディスタムの未来のために、そしてメンカウラーに無茶をさせないように言った。 「お守りさせて頂きますね。攻撃のお邪魔になるような事は致しませんので」 にっこりと笑いかけ護衛してくれるヴィオラに、メンカウラーは信頼するように返した。 「ありがとう。頼む」 メンカウラーの護衛は十分。 残るはキメラとアスモデウスへの対処。 浄化師達は仲間を信頼し、それぞれの配置に就く。 「黄昏と黎明、明日を紡ぐ光をここに」 魔術真名を詠唱し、膨れ上がった戦力を叩きつけるべく『シリウス・セイアッド』はキメラに向け走り出そうとする。 そんな彼に、沈痛な想いを飲み込みながら『リチェルカーレ・リモージュ』は声を掛けた。 「お願いだから無茶をしないで」 それは、必要ならば自らの危険を省みないシリウスを思っての言葉。 少し前、3強と呼ばれる強力なべリアルに率いられた敵と戦った際に、危険な薬を使ってでも仲間を、そしてリチェルカーレを護ろうと戦ったのは忘れることはできない。 泣き出しそうな声で呼びかけるリチェルカーレに、シリウスは目を逸らす。 けれど少しでもリチェルカーレを安心させたくて応えた。 「――できる無茶しかしないから平気」 呟いて走り出そうとする彼に、リチェルカーレは送り出すように浄化結界を展開。 リチェルカーレの助けを得て、シリウスは敵へと走り出す。 シリウスにとっては、王族も貴族も必要性を感じない。 だからメンカウラーが王権を手にする助けとなるこの戦いも、意義を実感し辛い。 (……だけど、どうしても必要だというのなら) 少しでも良い王であればいい。 メンカウラーが、そうなるとリチェルカーレが言うのなら、手助けを惜しまない。 戦いの意思を刃に込め、シリウスは戦場に踏み込む。 キメラに向かうのは他の浄化師達も。 「その牙は己の為に」 魔術真名を詠唱し、『ナツキ・ヤクト』と『ルーノ・クロード』は戦いに挑む。 「ナツキ、まずは邪魔なキメラを、皆と協力して殲滅する。いけるな?」 「ああ……」 僅かに歯切れ悪く返すナツキ。 その視線は、キメラではなくアスモデウスに向いている。 (王弟殿下とのやり取りを見て、何か思うことがあったのだろうな) ルーノは思う。 他人を思いやれるナツキの在り様は、良きものだと。 けれど戦場では、時にそれが命取りになる。 ナツキのことを想い、ルーノは言った。 「ナツキ、今は目の前の相手に集中するんだ。それ以外のことに気を取られれば、誰も守ることはできない」 ルーノの言葉に、ナツキは息を飲むように黙ると、安心させるように笑みを浮かべ返した。 「そうだよな。今は、倒さなきゃいけない相手がいるんだ。ありがとな、ルーノ」 「気にするな。相棒なんだから、当然だ」 2人は笑みを浮かべ、拳と拳を合わせると、それぞれの役割に動く。 「皆の援護を頼む」 ルーノは、同行するセパル達に指示を出す。 「オッケー。任せて」 指示に応じ、セパル達は先行して進むシリウス達の援護に向かう。 (私も、皆の援護をしなければ) ルーノは指示を出した後、即座に全体の動向を把握し動き出す。 同様にナツキも状況を把握し、シリウス達の死角に移動するキメラ達を迎撃するべく動く。 キメラ達への迎撃。 それを集中して行うためには、牽制役も必要となる。 もちろん、仲間の浄化師が向かっていた。 「我ら、闘争の中に生を見出す者なり」 魔術真名を唱え、仲間の魔術の援護を受けながら『クォンタム・クワトロシリカ』と『メルキオス・ディーツ』はキメラに向かい走り出す。 「王弟殿にキメラが向かわないよう向かうぞ」 「いいよ」 クォンタムの言葉にメルキオスは軽い口調で返し、続けて問い掛けた。 「キメラを倒した後はどうするの? 向こうも気になるみたいだけど」 アスモデウスに向かう仲間の動きを示しながらメルキオスは問い掛け、クォンタムは返す。 「余裕があれば、倒す」 「ふ~ん、それだけでいいの? アレに、なにか言いたそうなことがあるみたいだけど」 「それは……」 クォンタムはアスモデウスに視線を向け思う。 (相手を知り、己を知れば百戦危うからず。兵法にある有名な言葉であるが、アレには自己がない。確固たる自己もなく真似るのはただの模倣だ) そう思ってしまうのは、自分自身に重ねてしまう所があるからだ。 「アレは他人を真似るしかない偽者なのだろう。それは自己がないからだ。私と同じように」 一瞬言葉を区切り、断言するように続ける。 「私にも確固たる自己はない」 身に着けていたペンダントの石の名前以外、何も覚えていない自分。 (基より私の中に私はいないのだから。本来居たであろう、元の私は何所を見た所で何所にも居ないのだ) 苦悩するように思うクォンタムにメルキオスは、いつもと変わらぬ軽い口調を変えず言った。 「アレと君は、同じじゃない。気になるなら言葉を掛けてみればいい。きっと違うってわかるからさ」 そう言うと、キメラ達に視線を向け続ける。 「でもまずは、あいつらをどうにかしないと。いつもと変わらず同じように、避けまくって倒そうよ」 「……やる事は何時もと一緒、か」 いつもと変わらぬメルキオスに、クォンタムの心は軽くなる。 そして2人は不敵な笑みを浮かべ、キメラを翻弄するべく走り出した。 仲間の浄化師の活躍により、キメラは抑えられていく。 その助けを無駄にせず、アスモデウスの元に向かう者も居た。 「アリシア?」 いつにも増して口数の少ない『アリシア・ムーンライト』を気遣って、『クリストフ・フォンシラー』は声を掛ける。 黙ってアスモデウスを見詰めていたアリシアは、小さくかぶりを振ると、意識を切り替えるように応えた。 「何でも、ないです。今は、するべきことを、頑張ります……」 アリシアの応えにクリストフは小さく頷いて返す。 「そうか。終わったら聞くからね」 アリシアの想いを少しでも軽くするように言いながら、クリストフはアリシアと共に魔術真名を詠唱する。 「月と太陽の合わさる時に」 魔力回路解放。 膨れ上がった戦力を叩きつけるべくアスモデウスの元に。 前に立ち塞がるキメラ達は、仲間が抑えてくれている。 迂回するように移動しながら、同じくアスモデウスに当たる仲間の動きに合わせて移動する。 (俺達だけで倒す必要はない。まずは皆がキメラを倒してくれるまで、確実に抑える) アスモデウスを抑えるべく向う者は他にも。 「正しいことを為せ、真のことを言え」 魔術真名を唱え『レオノル・ペリエ』と『ショーン・ハイド』は、それぞれの役割に就くために一端別行動をとる。 「それじゃ、私はキメラの抑えに向かうから、ショーンはアスモデウスの抑えを頼むよ」 「はい。分かりました、ドクター」 ショーンは応えながらアスモデウスに視線を向ける。 その視線には、不可解な物を見るような色が滲んでいた。 それに気付いたレオノルは言った。 「あれだけ他人になりきる彼女の能力って凄いよね」 ショーンの思いを言葉に出来るよう、呼び水になるように続ける。 「対象に興味を持ち、内外の構造から本質に至るまできちんと観察してものにした結果だ。その対象への姿勢と能力は賞賛に値するんじゃないかな」 「……そういうものでしょうか?」 ショーンには理解できない。あるいは、理解したくないのかもしれない。 (何故成り代わる? 別に権力が欲しかった訳じゃあないんだろう? それとも単に成り代わりたかっただけ、か……?) 成り変わるとは、ある意味、今の自分を捨ててしまうことに等しい。 かつての記憶がなく『周囲からの証言から復元した自分』が、今の自分の始まりであるショーンにとって、容易く自分を捨ててしまえるようなアスモデウスの行為は理解しがたいものだ。 (自分が成り代わった所で元の対象は元のもののままだろう? アスモデウスも、対象も唯一のものだろう? そこに本物も偽物もあるか?) 「私には……アスモデウスが何をしたいのか全く理解できないんです」 告解のように告げるショーンに、レオノルは応えるように言った。 「……ショーン、理解できないってことは君に彼女のような要素は一切ないってことだ。安心しなよ」 レオノルの言葉に、ショーンは一瞬息を飲むように沈黙する。 けれどすぐに、レオノルの言葉に応えるように小さな笑みを浮かべ返した。 「ありがとうございます。ドクター」 ひとこと礼を返すと、戦いに挑む。 「アスモデウスを抑えます。ドクターはキメラを頼みます」 「もちろんだよ、ショーン」 2人は笑みを交わし走り出す。 浄化師達は、それぞれの役割をこなすため動く。 王弟を護衛し、キメラを抑え、アスモデウスに向かい合う。 そうしてアスモデウスに、最初に向かい合ったのは『ヨナ・ミューエ』だった。 「ファラオに成りすまし、この国を、人々を、好き勝手にするのはここまでです」 アスモデウスの前に立ち、ヨナは言い切った。 その眼は、真っ直ぐにアスモデウスに向き合っている。 ヨナのまっすぐな視線に、アスモデウスは視線を合わせ返した。 「成りすます?」 その眼差しには、どろりとした激情が融けている。 (やはり、それがキーワードですか) メンカウラーに告げられた『偽物』という言葉に反応したアスモデウスに、ヨナは思う。 (『偽物』という言葉で豹変したなら、それが彼女の拘りの筈) そこを突くことをヨナは決める。 それはアスモデウスの過去を想像できないからでも、敵だと決めた相手に対する非情さからでもない。 ヨナは分かっている。 自分は、全てを知ることなど出来ないと。 出来ることは、今できる最善に全てを費やすことでしかない。 知れば後悔することもあるだろう。迷うこともあるだろう。 だが過去に拘るあまり、未来を捨てることなど出来ない。 未来を繋げるために、いま出せる全力を尽くす。 それが自分だと、ヨナは自覚する。 だからこそ、いま取り得る手段全てを費やすことに迷いはない。 「貴女は本物ではありません」 宣告と同時に、攻撃魔術を放つ。 ソーンケージ。 魔力で形作られた茨で絡めとりながら続けて言った。 「偽物である貴女は、ここで討ち取ります」 この言葉に、アスモデウスの表情から色が失せる。 (掛かった!) 注意を引くことに成功したとヨナが確信した瞬間、アスモデウスは凄まじい速さで間合いを詰めてきた。 (速い!) ヨナが迎撃する余裕すらなく、一瞬で間合いに跳び込んでくる。 ソーンケージで肌をズタズタにされながら、それにはまるで頓着せず。 ヨナの眼を潰そうと手刀を繰り出し―― 「させん」 ずんっ! と地響きをさせる震脚と共に、『ベルトルド・レーヴェ』がアスモデウスに手刀を放つ。 ザックリと脇腹を切り裂かれるアスモデウス。 ベルトルドは攻撃の手を止めることなく、腕を掴み固定した上で2撃目を打とうとする。 しかしアスモデウスは、するりと逃げる。 先ほどの直線的で素速い動きとは違う、巧妙な動き。 (まさか、こいつ、今まで成り変わった相手の動きが出来るのか) 武術家としての直感で理解する。 (拙い) ベルトルドは距離を取るアスモデウスから離れまいと間合いを詰める。 その瞬間、アスモデウスは毒魔術を放った。 「蕩けて腐れ」 発動の呪文を唱えると、周囲一帯に黒霧のような何かが発生。 その中に居た者は、焼けつくような痛みを味わった。 (これは、毒か――) 痛みを無視し、ベルトルドはアスモデウスに肉薄する。 (こいつは誰かが抑えておかないと駄目だ) 近接戦の出来るベルトルドは攻撃の手を休めず、アスモデウスの移動を阻害し続ける。 それがアスモデウスと戦う際の最適解。 アスモデウスの戦術は、広範囲かつ遠距離まで届く毒魔術を使ったヒット&アウェイ。 毒で継続したダメージを与えつつ、自分は相手の攻撃が届き辛い距離まで逃げる。 時間は多少かかるが、確実に敵対する相手を葬る戦術。 これを防ぐには、誰かがアスモデウスの移動を止めるため近接戦を挑み続けるしかない。 だが近接戦で戦うということは、確実に間近で毒魔術を受けるということ。 そのままでは、絶対にやられる。 防ぐには、仲間の助けが必要だ。 いま、クリストフが援護に来たように。 「アリシア、ベルトルドの回復を」 クリストフはアリシアに告げると、一気にアスモデウスとの間合いを詰める。 瞬速の踏み込みと共に繰り出したのはソードバニッシュ。 アスモデウスの肩を斬り裂き注意を引くと、ベルトルドに呼び掛ける。 「俺が引き付けている間に回復を!」 「頼む!」 毒を重ねて受けたベルトルドは一端離脱。 即座にアリシアは毒を消し体力を回復させる。 その間に、遠距離攻撃手段を持った仲間がクリストフの援護を。 ショーンはリンクマーカーで狙撃箇所にマーカーを浮かび上がらせ、的確にハイパースナイプ。 針の穴を通すような正確さで、アスモデウスの肩を撃ち抜いた。 (他の仲間が削りやすいように俺はあいつの注意を削ぐだけだ) 仲間の援護を意識して動き、それは成果を見せる。 同じように、ヨナは攻撃魔術を放つ。 (皆さんがキメラを倒し終るまで抑えないと) 仲間を信じ、魔力の全てを振り絞るような勢いで放ち続けた。 これによりアスモデウスは抑えられる。 近接戦の2人が代わる代わる移動を阻害し、遠距離攻撃手段を持つ者が援護するように攻撃。 回復役のアリシアは戦線維持の要として、的確に動いた。 その間に、キメラは倒されていく。 「引きつける、数を減らしてくれ」 シリウスは同行するウボー達に頼む。 「分かった。だが、無理はしないでくれ」 ウボーは返すと、シリウスの死角を守るようにしてセレナとセパルと連携しキメラを攻撃。 背後の守りを気にしなくてもよくなったシリウスは、奮迅の勢いでキメラに刃を振るう。 瞬速の踏み込みと共に振るうのはソードバニッシュ。 深々とキメラの右前足を斬り裂く。 だがキメラは傷など無視し即座に反撃。 斬り裂かれた右前足を叩きつけようとする。 それをシリウスは、あえて浅く受けた。 肩を切り裂かせると、それにより制裁を発動させ、カウンターの斬撃を叩きつける。 ソードバニッシュで傷付けた箇所を、さらに深く斬り裂く。 連続した斬撃を受け、明らかにキメラの動きが鈍る。 しかしキメラの攻撃は止まらない。 毒を持った尻尾をシリウス目掛け撃ち出す。 シリウスは、それも避けない。 さらに前に踏み込み、顔面目掛け撃ち出された毒の尻尾を双剣で迎撃。 右剣で受け止めるように斬りつけると、即座に左剣で連撃。 双剣で挟むようにして、毒の尻尾を斬り飛ばした。 シリウスは強さを見せる。 今までの戦闘経験で、すでに彼の力量は元帥クラスに近付いている。 強い。だが、あまりにも1人で前に出過ぎている。 それは仲間を、なによりもリチェルカーレを傷つけないようにするためのもの。 同時に、心の奥底にわだかまる自罰的な意識が彼を走らせる。 しかしそれが、彼を窮地に追い込む。 キメラに止めを刺そうと、さらに刃を振るおうとした時、黒霧が周囲を覆った。 アスモデウスの毒魔術。 効果範囲が広すぎるため、離れたシリウスにも影響が出たのだ。 肌を焼かれるような痛みが走る。 それはシリウスの動きを、僅かだが鈍らせた。 その隙を逃さず、死に掛けのキメラは全力攻撃。 後のことなど知らぬと言わんばかりの猛攻。 シリウスは捌くが、移動を止められる。 そこに2体のキメラが駆けて来る。 シリウス1人なら、それは致命に繋がっただろう。 だが、彼には仲間が居る。 「新手は私が抑えるよ! だからシリウスの助けに!」 レオノルは、リチェルカーレに呼び掛け、シリウスに向かうキメラ達にソーンケージを放つ。 魔力の茨はキメラ達を絡めとり傷を与える。 しかしキメラ達は止まらない。 傷など無視し走り続ける。 (拙い、2撃目を撃たないと) レオノルは体内魔力を活性化させると、キメラ達に向け2撃目のソーンケージを撃とうとする。 だが僅かに間に合わない。 キメラ達がシリウスに襲い掛かろうとした瞬間、ルーノとナツキがキメラの前に立ち塞がる。 「ナツキ、禁符の陣で抑える。援護を」 「おう! 任せとけ!」 力強いナツキの声を背に受けながら、ルーノは2体のキメラの前に跳び込む。 キメラの爪が届きそうな距離まで間合いを詰めると、禁符の陣を発動。 手にした両手杖に込めた魔力をキメラに向け放ち、拘束と封印に成功する。 そこに間髪入れずナツキが跳び込む。 突進の勢いも込めた獣牙烈爪突。 キメラの脇腹に深々と突き刺すと、そのまま体全体をひねり斬り裂く。 「ガアアアア!」 キメラは叫ぶように吠えるが、ルーノの禁符の陣の効果により反撃は叶わない。 その状況を見極め、ルーノはナツキに言った。 「この2体は私が抑え続ける。その間に倒してくれ」 「分かった!」 ナツキは力強く応えると、全力でキメラに攻撃を重ねる。 (これなら、この2体は私達だけで対処できる) ナツキの奮闘を見てルーノは判断すると、レオノルに呼び掛けた。 「こちらは私達で対処する! 悪いが、他の場所を助けに行ってくれ!」 「分かった! それじゃ、そっちは頼むね!」 レオノルは返し、キメラ2体を抑えている王弟組の元に向かう。 一連の動きの中で、シリウスはキメラ1体を単独で倒す。 だが無傷ではない。それでも仲間の元に向かおうとする彼に、リチェルカーレが解毒と回復に動いた。 その間も戦いは続く。 アスモデウスの元に向かおうとするキメラを抑えているのは、メルキオスとクォンタムのコンビ。 「ほらほら、どうした。こっちだよ」 メルキオスは魔性憑きとしての巧みなフットワークを活かしキメラを翻弄する。 キメラの爪や牙が届くギリギリで軽やかに動き回り、決して攻撃を届かせない。 右からの薙ぎ払いをバックステップで躱し、毒の尻尾の刺突を見極め避けた。 回避を重ね、キメラの注意を引きつける。 その隙を突き、クォンタムはエッジスラストを叩き込む。 キメラの死角から一気に跳び込み、脇腹を鋭く斬り裂く。 「いいね、クォン。その調子」 「お前も攻撃しろ」 漂々とするメルキオスに、クォンタムは声を掛ける。 それにへらへらと笑みを浮かべ返すメルキオス。 「大丈夫大丈夫。好機は逃さないよ」 その言葉を証明するように、キメラがクォンタムに攻撃をしようとした瞬間、メルキオスは踏み込み斬撃。 浅かったが、キメラの気を引くには十分。 「さあ、来なよ。青衣の民の戦いを、見せてやる」 メルキオスは、クォンタムの攻撃が通り易いよう、キメラを引き付けていった。 メルキオスとクォンタムのコンビにより、キメラの1体は抑えられる。 残り7体の内、1体はシリウスが既に倒し、2体をセパル達が叩き、さらに2体をルーノとナツキが追い詰めていく。 そして残りの2体を、王弟組が倒していく。 リューイとニコラがキメラに攻撃を重ねる。 (まずは尻尾を斬り落とす) リューイはキメラの手数を減らすため、危険を覚悟して距離を詰める。 まっすぐに踏み込むように見せかけて、寸前でフェイント。 キメラの爪が届くギリギリの距離で横に跳ぶ。 空振りするキメラの爪。 その好機を逃さず、さらにリューイは距離を詰める。 1歩、2歩―― あと1手の踏み込みで斬撃が届く距離で、キメラは毒の尻尾を放つ。 心臓目掛け跳んでくるそれを、リューイはあえて、軽傷で済む範囲で受ける。 腕を切り裂かれるように受け、その瞬間、スイッチヒッターを発動。 カウンターの斬撃で、毒の尻尾を斬り落とした。 (毒は――大丈夫) リューイは浄化結界を張ってくれていたリチェルカーレに心の中で感謝する。 今回、リチェルカーレを含めた陰陽師の活躍はめざましい。 回復や解毒だけでなく敵の拘束と封印など、毒による遅延戦闘を主体とする敵との戦いの要を成していた。 (毒の危険はない。これなら、しばらくは僕1人で抑えられる) リューイは状況を判断し、セシリアに向け言った。 「セラ!」 短い呼び掛け。 だがそれだけで、セシリアはリューイの意図を読む。 「リューイが抑えてくれる間にもう1体を集中して叩きましょう!」 セシリアの呼び掛けに、ニコラに集中して支援が入る。 「ニコラさん!」 ヴィオラは呼び掛けと共に、魔力を込めたタロットカードを投擲する。 それはニコラを爪で切り裂こうとしたキメラに突き刺さり、動きを一瞬とはいえ止める。 その隙を逃さず、ニコラは渾身の一撃を叩きつけた。 地烈豪震撃。 地響きをさせるほどの強烈な一撃は、キメラの右前足を粉砕するように破壊した。 動きが止まるキメラ。そこに一斉攻撃。 セシリアとヴィオラが魔力を込めたタロットカードを投擲し左前足を切り裂くと、傷口に叩きつけるようにメンカウラーの攻撃魔術が放たれる。 魔力で形造られた土の槍が左前足を貫き、結果、キメラは自重を支えられずに倒れる。 そこにニコラの地烈豪震撃が炸裂。 キメラの頭を叩き潰し倒した。 倒すとすぐに、リューイが抑えているキメラに皆で集中攻撃。 援軍に来てくれたレオノルがソーンケージを放つと、皆は連続攻撃。短時間で仕留めた。 この時点で、他のキメラもほぼ倒されている。 だから、皆はアスモデウスを抑えてくれる仲間の元に向かう。 ニコラはアスモデウスに視線を向け戦意を高める。 (奴にどんな事情があるのか、何のつもりで王に成り代わっていたのか、そんなのは私にはどうでもいい事だ) 倒すべき敵として意識する。 (今必要なのは奴の討伐。ここで逃がせば奴はまた同じ事を繰り返す。何としても王弟殿にトドメをを刺して貰うぞ) 同じようにメンカウラーにアスモデウス討伐を望むのはセシリア。 (アスモデウス討伐は 王権の正当性を示す意味合いもあるけれど、メンカウラー様なりのけじめなんだと思う) 決意を込めたメンカウラーの眼差しをちらりと見てセシリアは思う。 (サンディスタムの、王弟様の未来が明るいものとなるよう、少しでも力になれたらいいのだけれど) 望む未来を掴むため、アスモデウス討伐に皆は集まってくる。 その間も、戦いは続いていた。 ベルトルドが近接戦を仕掛け、ヨナが支援の攻撃魔術を放つ。 2人の連携でも抑えられない所を、ショーンが狙撃で牽制。 その間に、先程まで集中して近接戦を行っていたクリストフはアリシアに回復して貰う。 お互いを気遣うように、クリストフとアリシアは寄り添っている。 それをアスモデウスは見た。 「……――」 無言のまま表情の全てが消える。 だが瞳にドロリとした激情を宿し、クリストフとアリシアに向け走る。 当然、連続した攻撃が叩き込まれるが、全ての傷を無視して2人に接近。 「アリシア下がって!」 守るように前に出るクリストフ。 しかしアリシアは前に出ると、真っ直ぐに向かってくるアスモデウスと視線を合わせた。 視線と視線が重なる。 その眼差しに、アスモデウスは何を見たのか? 本来なら距離を取って毒魔術を放つべき所を、掴みかからんとするように距離を詰め、アリシアの禁符の陣に囚われた。 手を伸ばせば触れ合えるほどの距離。 その距離でアリシアは言った。 「アスモデウスさん……」 静かに告げる。 「誰も気付けないくらい、王様そっくりになれる程、愛してらしたの、ですね……」 「……――」 アスモデウスは無言。 だが何かに堪えるように、アリシアを睨みつけている。 その視線から目を逸らさず、アリシアは訴えかけるように言った。 「愛する人を、幾度も手に掛けて、寂しくはない、ですか? 虚しくは、ないですか……? 貴女の心は、痛んではいませんか……? 貴女は、貴女のままで、愛する事は……できなかったのですか……?」 「……なに、を――」 アスモデウスは視線だけで殺せそうなほどの強さでアリシアを睨みつけながら、けれど返す言葉が出てこない。 そこに、この場に集まった浄化師達が言葉をぶつけていく。 「大切な人には幸せでいてほしい。少しでも苦しい思いが減りますようにって、そう思うわ」 リチェルカーレは、シリウスの傍に寄り添いながら言葉を掛けていく。 「好きな人には、笑っていて欲しいって……貴女は違うの?」 真っ直ぐに視線を合わせ、リチェルカーレは思いを告げる。 これにアスモデウスは、ひきつった笑みを浮かべ返した。 「笑って貰ったら、私の物になるの? 違うわ。誰も私の物になんかならない。なら、私が愛する人にならないと――」 「なれないわ」 リチェルカーレは言い切った。 「だって貴女は、メンカウラー様を殺そうとしたもの」 視線を逸らすことなく続ける。 「メンカウラー様は、サンディスタムにとって大切な方。 ううん、それだけじゃなくて、カフラー様も、弟君にはご無事でってそう思っているはずだもの。 でも貴女は、殺そうとした。 だから、お兄様の代わりに私達が守るわ」 王弟を殺そうとした時点で、愛した筈の相手になりきれていない。 真実を告げるようなリチェルカーレの言葉にアスモデウスの表情が歪む。 それは自分を成り立たせる芯が揺らいでいるように見えた。 「違う、私は――」 抗うように反論しようとするアスモデウスに、レオノルが言葉を掛ける。 「アスモデウス、君は何を考え、想っているの?」 その声の響きには、純粋な疑問があった。 「それだけの能力は何らかの執着、いや愛故だ。 君を憐れむ訳じゃあない。そこまでの探求心を同じように真似したいだけさ」 レオノルの隣で彼女の言葉を聞いていたショーンは思う。 (なにがアスモデウスに、ここまでのことをさせた?) その疑問の一端を、アスモデウスは口にした。 「真似たい? ふ、ふふっ、バカねぇ、そんなの簡単よ。全部無くせば良い。自分の中に何も無い真っ白なままなら、誰かになることなんて簡単よ……」 軽やかに言うと、次いで絶望を語るように、静かに言った。 「簡単なのよ……あの人以外は……」 のっぺりとした虚無の空白を顔に張り付けるアスモデウスに、クォンタムが言葉を掛ける。 「真白の中に、ただ1人立つ……不安しかないのは、解るつもりだ」 自らの記憶がないクォンタムは、共感するように言った。 それにアスモデウスが返すより速く、メルキオスが続けるように言う。 「相手を知って真似て……その後どうすんの?」 「本物になるに決まっているでしょう」 アスモデウスの応えにメルキオスは、つまらなそうに返した。 「モノマネはモノマネでしかないんだよ」 そしておどけたように続ける。 「モノマネは本物にどれだけ似てるか、もしくはお笑いに突き抜けるかだよね?」 これに返したのは、アスモデウスではなくクォンタム。 「……いや、うん。メルキオスの様なのも居るには居るが、なんでお笑いと真作を同列にする」 「どっちも芸事の類じゃない」 メルキオスの返しに、クォンタムはため息をつくように応える。 「同じ芸ではあるが、それはまた異なる事だろう」 そしてアスモデウスと視線を合わせ言った。 「真白の中を歩くその過程に、共に歩く存在が居てもいいはずだ。他者を愛すとは、そういう事ではないだろうか。それはヒトに限らないだろう」 これにアスモデウスは返さない。 睨みつける彼女に、メルキオスは静かに言った。 「君の人生、それで楽しいの? 共に笑って共に泣いてくれる、そんな相棒は、居なかったの? だとしたら、それは寂しい人生だねぇ」 漂々とした表情を一瞬消し、メルキオスは断言する。 「相手を蹴飛ばしてその命を糧に生きる。それは愛じゃない。敵対してるって言うんだよ」 「違うわ!」 メルキオスの言葉にアスモデウスは鬼気とした笑みを浮かべ叫ぶ。 「これは愛よ! 愛する人に私は成るの! それが、それだけが、私の愛よ!」 叫び、無理やり禁符の陣から逃れる。 反動で体中を引き裂かれながら、それでも笑みを浮かべ襲い掛かって来た。 当然、迎え撃つ浄化師達。 だが刃を向けながら、ナツキは迷うように呟く。 「好きな人なのに殺して成り代わるなんて、なんで……」 苦しげに、そして迷うように呟くナツキに、ルーノは言った。 「同情は良いが躊躇は不要だよ、ナツキ」 ナツキが迷わず戦えるよう、言い切った。 「愛情表現は人それぞれ。とはいえ、これは到底許せるものではない。これ以上同じことを繰り返させないためにも、ここで止めるぞ、ナツキ」 ルーノの言葉に、ナツキは一瞬息を飲む。 だがすぐに、確かな意志を込め返した。 「……わかってる。こんな事は繰り返させない、絶対ここで止めてやる!」 アスモデウスを止めるべく、ナツキは全力を尽くす。 同様に、皆も全力を尽くしていく。 残る敵はアスモデウスのみ。 全てを出し切るように攻撃を重ねる中、アスモデウスの間近で戦うベルトルドは言った。 「愛して成り代わってそれで何か得られたか? お前の心は満たされたのか、アスモデウス」 「どうでもいいわ」 凄惨な笑みを浮かべアスモデウスは返す。 「愛さえあれば、どうでもいい」 決して手に入らない物を渇望するように言った。 その渇望の響きでベルトルドは気付く。 (底の抜けた瓶にいくら水を注いでも満ち足りる事はないのと同じだ) 全ての喜びも愛も、アスモデウスは飲み込みながら受け止めることが出来ない。 憐れだと思う。しかし―― (憐れみを向けるにはあまりにも彼女の罪は重い) 拳に力を込める。 ホムンクルスは作られた存在。彼女が望んでこうなった訳ではないのも理解している。 しかし今更間違っているなどと言い放つ程傲慢にもなれない。 ただ拳で、止めることしか出来なかった。 浄化師達は攻撃を重ねる。 周囲を囲まれ、幾度となく攻撃を受けたアスモデウスは消耗していき、ついにその時はやって来た。 「今です! メンカウラー様!」 全体の流れを見ていたセシリアが、隣りで共に戦うメンカウラーに促す。 それを受けメンカウラーは土の槍を魔力で構築。 同時に、アスモデウスへの射線を空ける浄化師達。 「兄上の仇、討たせて貰う」 浄化師達の助けを借り撃ち出された土の槍は、アスモデウスの胸を貫く。 胸に風穴を開けたアスモデウスは、そのまま倒れ伏した。 「――っ、ごふっ」 その状態でもホムンクルスであるアスモデウスは生きている。 時間さえかければ回復さえするだろう。 その前に取り押さえるべく、皆が向かおうとした時だった。 アスモデウスを覆うように巨大な魔方陣が発生する。 異変に浄化師が距離を取る中、空間を転移して天使と1人の男が現れた。 「君達の勝ちだ」 男の静かな声。 ただそれだけで、その場に居る皆は飲まれたように沈黙する。 見ただけで否応なしに理解させられる。 男の圧倒的な存在感と、男の背後に居る天使の強大さに。 男は理知的であり、物静かである様にさえ見えるのに、どうしようもない畏怖を感じさせる。 天使は6枚の翼を背に持ち、全身を拘束され、目と口は覆われている。そうでありながら、美しい女性であるように見えた。 「悪いが、これは回収させて貰う」 男はそう言うと、アスモデウスの首に魔方陣を発生させ、頭だけを手の上に転移させた。 「首から下があれば、倒した証拠にはなるだろう」 そう言うと、首だけのアスモデウスに視線を向ける。 視線を向けられたアスモデウスは、恍惚とした表情を浮かべていた。 そして男が、その場から転移しようとした時―― 浄化師達は一斉に攻撃した。 刃を、拳を。あるいは銃弾と魔術を叩き込む。 その全てを、男は受け止めた。 刃や拳、そして銃弾は魔力障壁で受け止め、魔術は発動する前に解体される。 「悪いが、今ここで戦う気はない」 全てを受け止めた男は、僅かに指先を上げる。 すると男の前に一冊の魔導書が現れ、それに呼応し天使が動く。 天使の羽が僅かに羽ばたく。 それだけで、浄化師達は動けなくなった。 (なんなの、これ――) 魔力探知で天使を『視た』レオノルは驚嘆する。 (これ、魔術でも魔法でもない……まさか、神方術?) 魔術や魔法を越えた神の操る術。 それが神方術。 いま天使はそれを行使し浄化師達を拘束している。 浄化師達が動けない中、今度こそ男はその場を去ろうとした。 その寸前、アリシアが言った。 「アスモデウスさんを、どうする、気なんですか?」 これに男は興味深げに視線を向ける。 「名で呼ぶか、これを」 アスモデウスに視線を落とし、男は応えた。 「これは保険だ。パーツが揃わなかった場合の」 あくまでも物のように語る男に、リチェルカーレは言った。 「その人は、物じゃないわ」 「いいや、違う」 男は即座に否定する。 「私が作った、私の物だ。自分が作った物をどうするかは、私の自由だ」 「……ずいぶんな物言いだな。神にでもなったつもりなのか?」 揶揄するように言うシリウスに、男は応えた。 「あのような出来の悪い代物と一緒にされたくはない」 まるで直接神に会ったことがあるように男は言った。 「あれは、死のない世界を創ることも出来ない、不出来な代物だ。私は違う。いずれ私が創造主となれば、全ての苦しみがない世界に出来る」 男は夢を語る。 それは傲慢にして肥大した妄想。 けれど男ならば出来ると、思ってしまう。 そう思ってしまうほどの何かが、男にはあった。 男の言動と存在感。それが浄化師達にひとりの名を浮かび上がらせる。 「……貴方は、アレイスターなの?」 セシリアの問い掛けに男は応えた。 「そうだ」 穏やかに応え、続ける。 「君達は、この国の危機を救った。感嘆しよう。そして認めよう。君達浄化師は、私と、創造神のゲームのプレイヤーとして盤上に上がったと」 魔方陣で転移しながら最後に言った。 「いずれ、創造主の権能を得るための戦いで、逢いまみえるだろう。それまで死なぬことだ。 私は、その時が来るまで君達に手を出す気はない。だが、私を利用して己が欲望を満たそうとする者達は別だ。 戦う力を蓄えるまでは、叛意を気付かれないようにしたまえ」 その言葉を最後に、アレイスターはアスモデウスの頭部を手にして消え失せた。 あとに残された浄化師達は、虚脱するような疲労感を感じながらも、今できることをするしかない。 そんな浄化師達に、メンカウラーは言った。 「礼を言わせて欲しい」 胸に手を当て、万感の思いを込め告げる。 「君達の助けがなければ、兄上の仇を取ることはできなかった。この恩に報いるためなら、私は何でもするつもりだ。たとえ、先ほどの男が敵に成ったとしても」 あえてアレイスターの名を出さず、メンカウラーは宣言する。 それが浄化師達に現実感を取り戻させる。 先ほどの男が何者であったとしても、出来ることをするしかない。 そして今すべきことは、戦いの事後処理をすることだ。 リチェルカーレとアリシア、そしてルーノが、残った魔力で皆の怪我を癒していく。 その中で、想いを呟く者も。 「それにしても、アスモデウス……彼女も可哀相ですね……」 ヴィオラの呟きに、ニコラは返した。 「確かに哀れだな。ああなったのは創り主の責任だろう。あんな創り主では、ああなるのも分かる気がする。いつか創り主をとっちめてやりたいものだ」 2人と同じように、アスモデウスに対して思う者は他にも。 アスモデウスの残された身体に視線を向け、哀しそうなアリシアにクリストフは呼び掛ける。 「アリシア?」 「……大丈夫、です」 安心させるように小さく笑みを浮かべるアリシアに、クリストフは言葉を掛け続けた。 そして皆の怪我も癒され、残されたアスモデウスの身体の前にメンカウラーは向かう。 「…………」 その眼差しは複雑な色を滲ませている。 仇を討った今、悲しみの色がより強かった。 そんなメンカウラーに、ナツキが言った。 「その、こんなこと頼むのは筋違いかもしれないけど、アスモデウスの体を弔ってやることはできないかな。 メンカウラーさんにとっては、仇だと思うけど、こんな風に体だけ置いていかれてさ、ほっとけねぇんだ」 ナツキの言葉に、メンカウラーは穏やかな顔つきになる。 そして静かな声で応えた。 「ああ、分かってる。出来る限りのことを、するつもりだ」 憎悪よりも哀しみを抱き、メンカウラーは君主の道を進む。 それは苦しい道だろう。 それを進もうとする彼に、ヨナは言葉を掛けた。 「メンカウラー様のお覚悟。確かに見届けました」 サンディスタムを故郷に持つ者として告げる。 「今まで。二つの国の間柄は良いものとは言えませんでした。 それを変えようとしたのは、他でもないメンカウラー様です。 サンディスタムもこれから変わるでしょう。いえ、変えて行きましょう」 そこまで言うと、迷うような間を空け続ける。 「私は今、アークソサエティに身を置いていますが、この国で育ちました。 ですからサンディスタムでの事は他人事では無かったのです。 少しだけ心配なのは メンカウラー様がしっかりしすぎな方だということ。 どうか、お一人で抱え込まないでくださいね。 私達もおりますから」 そう言うと、不敬と思いつつ手を重ねる。 そんなヨナを見詰めていたメンカウラーは、ふっと力を抜くように笑みを浮かべ言った。 「間違っていたらすまない。貴女がこの国の出身だというのなら、イレイス研究所に身内の方が居ないだろうか?」 これに驚いた表情を見せるヨナに、メンカウラーは苦笑しながら言った。 「今回の騒動で、私に力を貸してくれ、国の立て直しに協力してくれる人達の中に、イレイス研究所の人達も居るんだ。もし機会があれば、力を貸してあげて欲しい」 メンカウラーの願いに、ヨナは決意を込めるように返した。 「はい。私達が力になれることなら、力をお貸しします」 この応えに、嬉しそうに笑顔を浮かべるメンカウラーだった。 こうして一連の事件は決着を見せる。 浄化師達の活躍のお蔭で、国は崩壊する事もなく、大勢の人々の命と未来が守られた。 見事な結末を導いた、浄化師達の活躍だった。
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*** 活躍者 *** |
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[18] ルーノ・クロード 2019/11/26-11:38
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[17] リチェルカーレ・リモージュ 2019/11/25-22:18
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[16] リューイ・ウィンダリア 2019/11/25-20:56
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[15] クォンタム・クワトロシリカ 2019/11/25-19:53
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[14] クリストフ・フォンシラー 2019/11/25-19:00
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[13] ヨナ・ミューエ 2019/11/25-07:39
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[12] ニコラ・トロワ 2019/11/24-23:00
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[11] クリストフ・フォンシラー 2019/11/24-22:53 | ||
[10] レオノル・ペリエ 2019/11/24-18:05
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[9] リチェルカーレ・リモージュ 2019/11/23-23:35 | ||
[8] ルーノ・クロード 2019/11/23-11:30 | ||
[7] リューイ・ウィンダリア 2019/11/23-11:13
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[6] クリストフ・フォンシラー 2019/11/23-09:52 | ||
[5] ヨナ・ミューエ 2019/11/23-08:33 | ||
[4] メルキオス・ディーツ 2019/11/23-02:24 | ||
[3] リチェルカーレ・リモージュ 2019/11/22-22:54 | ||
[2] ニコラ・トロワ 2019/11/22-19:49
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