~ プロローグ ~ |
冬が、来る。 |
~ 解説 ~ |
今回はパートナーとの個別描写となります。 |
~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは! |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
キョウ:今の季節はベリーらしいですよ。 サクラ:あら葡萄はもう終わったのね。 キョウ:そうみたいですね……あれ、今回のベリーは季節外れのものだそうです。 サクラ:季節関係なく美味しいって事ねきっと。一杯取りましょうか。 【行動】Aベリー摘み サクラ たくさん取れば喜んでもらえるという事で競争しましょう。 というのは冗談よ。森に入るんだから二人でいないと危ないじゃない? あ、美味しそうな林檎。 キョウ 良いですね。負けま……えぇ……いや、いや、そうですね。 サクラが森で迷わない様にしっかり見てあげないといけませんか ちょっと話聞いてくれませんか?! |
||||||||
|
||||||||
【A】 こんな素敵な贈り物をくださる女神様はどんな方かしら 両手を胸の前で組み 上気した頬で辺りを見渡し 同じような様子のシアちゃんやレオノル先生に笑顔 沢山摘みましょう 踊るような足取りで森へ 色彩に乏しい冬の森 色鮮やかな苺に歓声 なんて綺麗なのかしら 駆け寄り 宝物のようにそっと触れ 少し分けてちょうだいね と囁きながら苺やベリーを摘む 仲良しのふたりの声に 木になる林檎に気づく 任せてください 木登りは小さい頃よくやったの 靴を脱いで木の上に もう ちょっと…っ!? 足を滑らせ 気が付いたらシリウスの腕の中 滅多に見ない焦った顔に目をぱちくり ーびっくりした ありがとうシリウス あなたがいたら 危ないことなんてないって言ったら怒るかしら? |
||||||||
|
||||||||
二人ともニットの帽子にマフラーに手袋 寒さ対策はしてもやっぱり寒い それでもお祭のにぎやかな空気に足取りはどこか軽く べ この村の伝承を元にした話が聞けるそうだ。語り部がいるのだろうか 何か手伝いをしながら是非聞きてみたいな ヨ あら、そちらの方に興味があるんですか ベ ああ。折角だし憶えて帰られればと思ってな 少し意外に思いつつ 二人して話を聞いているだけではただの観光客なのでヨナは観光案内の手伝いへ 上手くはないなりにこなす。忙しく歩き回り寒さを忘れられるのが幸い 案内の合間に広場を通ると丁度お話の真っ最中 喰人も混ざり 獣人変化をしながら話の中に登場する獣の役に徹している 話を盛り上げる為に提案したんでしょうか |
||||||||
|
||||||||
※アドリブ歓迎します ※69話も参照 いいかいララエル、収穫するのは ベリー、野苺、スグリだよ。 (ララエルに聞かれ、スグリの説明をする) (収穫はテキパキ) ララ、手を貸してごらん (ララエルの手を取り、息を吹き掛ける) (意地悪な笑みを浮かべ) そう言えばララ、今年のクリスマスの予定は決まった? (※シチュエーションノベル参照) ああ、わかったよ(クスクス笑い) 売り切れるといけないからね。 |
||||||||
|
||||||||
【A】 ドクター、凄く楽しそうだな… なんか知らないけど歌まで歌ってるし… そんなに飛び跳ねているとコケますy…ってコケた! ああもう言わんこっちゃない …エレメンツって森が得意ってわけじゃあないんですね あーはい分かりました倒れながら胸を張らないでください今から起こしますから …目を離している隙に林檎一つで女性陣がどえらいことをして思わず真っ青 …何で私に言わないんですか! ああもう、怪我を負ったらみんなどれだけ心配するか… 全く…林檎ぐらいなら何個でも取るのに。はいどうぞ …って、なんでこれを私に? は、はぁ…取るのが楽しい、と… …まあ、ドクターが嬉しそうな顔をしているからいいか… |
||||||||
|
||||||||
【A】 わ、あ……素敵な、森……ですね 少し、お邪魔します 森の前で一礼し歩を進める 森が大好きなので少し頬が紅潮 あ!リチェちゃん、レオノル先生、あそこにたくさん……! でも、こんなに寒いのに、苺がなってるって、不思議…… 苺だけじゃ、ないんですね あれって……林檎、ですか? え、梨もあるんですか?すごい……! 見に行こうとして木の根に躓き 痛みを覚悟してぎゅっと目を瞑るも 身体が途中で止まる 見上げればクリスの苦笑い あ、ごめんなさ…(言いかけて遮られ) その、ありがとう…… え、笑……っ!? そ、その、こう、でしょうか…… 一生懸命笑おうとするも引きつり気味 その後の言葉に思わずパアッと笑顔に はい、みんなで行きたいです……! |
||||||||
|
||||||||
屋台やるよ! とりあえず生地と果物なるべく沢山、かな。 林檎、梨、苺、その他ベリー類と分けてコンポートを作って 生地は小麦粉と水、塩少々、ベーキングパウダーを入れて練った物を用意 がっつり系も作ろう 折角キノコも採れるって言うし、肉は…ここら辺だと猪かトナカイかな? お肉のミンチとキノコ、玉ねぎ、塩コショウ少々、それとニホンで貰った味噌で味付け コンポートを包む生地はそれぞれのシロップを少し入れて、色付け又は包み方を変えたりして区別が付き易い様にする それぞれを包んで、肉饅頭と果物は蒸籠は別にして沸騰した鍋の上に置いて蒸す 「やぁ、こんにちわ ニホンの料理でね、温かくてこの場で食べれる物なんだけど、お一つどう?」 |
||||||||
~ リザルトノベル ~ |
● サルーグの森は清々しい空気で満ちていた。薄く白のベールで包まれた中、木漏れ日の下で恵みが鮮やかに色づいている。 「ねぇ、キョウヤ。たくさん取れば喜んでもらえる、という事で競争しましょう」 赤い頭巾をかぶった『サク・ニムラサ』は御伽噺のように遊びへと誘う。 指には女王の駒。先刻、チェスの野良試合で村人から勝ち取ったものだ。姉を探す愛しい焦り声を聴きながら得た勝利の証を、サクはポケットの中に滑り込ませる。 「良いですね。負けませ……」 好戦的な色を宿した『キョウ・ニムラサ』の言葉は最後まで続かなかった。 「というのは冗談よ。森に入るんだから二人でいないと危ないじゃない?」 「……えぇ……」 キョウの闘争心は一瞬で鎮火した。 形の良い柳眉をハの字にして、絞り出す声はやりきれなさに満ちている。 しかし複雑な面持ちを直ぐに拭い去った。この切り替えの早さこそ、振り回されることに長けた……否、慣れた者の長所と言えよう。 「いや、いや、そうですね」 キョウは大人びた表情を作ると頷いた。まるで自らに反省を促すよう腕を組み、淡く髪を揺らして歩く。 「サクラが森の中で迷わない様にしっかり見てあげないといけませんから」 「あ、美味しそうな林檎」 「ちょっと話聞いてくれませんか?!」 せめて話の途中で別のものに興味をうつすのは止めて!? そう言わんばかりの表情は、どこか愛すべき小動物を思わせる。 慣れと平気は似ている。だが、別物であるのだ。 スパイスの効いたキョウの悲哀を聞きながらサクは振り返った。林檎に伸ばした手もそのままだ。 「足元にスグリとベリーがなっているからキョウヤはそっちを取ってちょうだい」 「はぁ、もう。まったく」 楽し気なサクにキョウは脱力ぎみに肩を落とした。 「仕方ありませんね」 「ほらこっちにもあるわよ」 氷の粒が指先を冷たく彩る。自然とお互いの口元に浮かんだ淡い微笑みは、雪と違って消える事はない。 「先ほど村長さんから聞いたのですが、今の季節はベリーらしいですよ」 「あら葡萄はもう終わったのね」 ほんのつい先日、葡萄を踏んでワインを造ったばかりだと言うのに。 瞬きの間に季節は移ろい、森の葉も落ちてしまった。世界は緩やかにユールへと向かって時計の針を進めている。 「そうみたいですね。それと、今回のベリーは季節外れのものだそうです。妖精の悪戯で季節外れにって噂を聞きました」 「面白そうねぇ。ベリーの事を女神の贈り物と呼ぶ人もいたわ」 例えば対戦相手の老人がそうであったように。クイーンの駒を取り出し、サクは再び指で遊ぶ。 不思議そうに首をかしげるキョウの耳元で、しゃらりと花が笑った。 「結局、何で実るのでしょうか?」 「わからないわ」 「ですねー」 うん、うんと頷きあって。 「けれど季節関係なく美味しいって事ね、きっと」 眼前に広がる熟したベリーの茂みは新雪の瑞々しさに濡れ、輝いている。 「一杯採りましょうか」 「ほどほどに、ですよ?」 灰と紫の瞳をもつ悪戯妖精が瞬けば。 紫と黒の瞳が、ひたとその背中を見張っていた。 ● 「寒いな」 「寒いですね」 ニットの帽子にマフラー。合わせた手袋も足元からの冷気には通用しない。『ヨナ・ミューエ』と『ベルトルド・レーヴェ』は同時に身を震わせた。 村長の家を辞した二人は準備の進む大通りを歩く。 「村の伝承を元にした話が聞けるそうだ」 「あら、そちらの方に興味があるんですか」 意外そうなヨナに向かってベルトルドは頷いた。 「ああ。折角だし憶えて帰れればと思ってな」 「春の女神の話かね」 二人の話が聞こえたのか、屋台を組み立てていた者が集まる。 「語り部がどこに居るか知らないか」 「アデラ婆さんなら広場じゃろ。劇の準備をしちょるからな」 「ならば手伝いついでに話を聞いてくるとしよう」 「私は観光案内を手伝おうと思います」 振り返ったベルトルドはぎょっとした。ヨナの両手は大量の串焼きや飴といった屋台の食べ物が握られている。 「少し目を離した隙に何があった」 「頂きました」 言い切ったものの、語尾には疑問が滲んでいる。正確には押しつけられた、と言うべきか。 「私、一見するとただの観光客ですね」 二人が纏う雰囲気はどこか楽し気だ。 忙しく案内をしていたヨナは子供たちのひと際大きな歓声に顔をあげた。 冬の神に焦がれる春の女神。 しかし彼女が近づくと、冬の神は消えてしまう。 気づいて欲しいと泣く女神を夜を司る獣が慰める。 ――冬の神に贈り物をすればいい。 ――貴女らしい贈り物を彼へ送れば、きっと彼も気づいてくれるはず。 ――私は夜。闇に紛れれば、嫉妬深い雪の目も掻い潜れよう。 しかし夜の獣は雪の白さと明るさで雪に見つかってしまう。 中央舞台では見覚えのある黒豹が雪役の村人に囲まれていた。 「今年の『夜の獣』役、カッコいいなぁ!」 木刀を躱し縦横無尽に舞台を駆ける夜の獣。 宙返りをすれば観客の子供達が再び沸いた。 思わず見入ってしまったヨナの意識を引き戻したのは子供の泣き声だった。 歳は四つほどか。独りでしゃくりあげている少女の前に屈んで目を合わる。 「どうかしましたか」 「ママとパパが、いないの」 泣いている子供の相手なんてどうすればいいのか。こんな時にベルトルドさんがいれば……と自然に舞台へとむかう視線と気持ちを必死に止める。 握った拳を解き、ヨナは少女の両手を優しく握った。 「わかりました。一緒に探しましょう?」 お父さんやお母さんは、どんな人? ぽつりぽつりと情報を引き出しながら、手を繋いで通りを歩く。いくらかヨナに気を許したのか、遠慮がちに少女が手を引っ張った。 「おねえちゃん、おなかすいた」 ヨナはヴォルフラム達の屋台で饅頭を一つ買うと、半分に割った。 「はい、どうぞ。熱いですから気をつけて」 「おいしい!」 「それは良かった」 饅頭にかぶりつく少女が見せた初めての笑顔。手渡したカグヤと一緒にヨナの顔もほころぶ。 「オーセ!」 近くから驚きと喜びに満ちた男女の声が聞こえた。 「パパ、ママ!」 飛びつく少女を夫婦が抱きとめる。 「貴女が娘を見つけてくれたのですね、本当にありがとうございます!」 「ありがとう、おねえちゃん」 手を振る家族の姿が人混みに紛れてから、ヨナは小さく息を吐いた。 胸に込み上げるのは安堵と、そして一人で成し遂げられたという小さな充足感だ。 劇は、もう終わってしまっただろうか。 緩んだ頬はそのまま、ヨナは踵を返す。 「村の伝承は冬苺のスイーツをたっぷり用意してベルトルドさんから聞かせて貰いましょう」 彼自身の武勇伝と共に。 ● 冬の森。単一な色彩の中に突如として現れた一面の赤。 ――こんな素敵な贈り物をくださる女神様はどんな方かしら? 白くまろい頬が熟れたベリーのように染まる。溢れる感動を伝えるように『リチェルカーレ・リモージュ』は両手を胸の前で組んだ。 「シアちゃん、レオノル先生!」 横を見れば自分と同じような友の姿。自然と交差した眼差しに破顔する。 「沢山摘みましょうね」 弾ける歓声。吐く息が白雲のようにたなびいている。揺れる白羽のローブが、白銀の世界の中でふわりと舞った。 「……足元を見て歩いてくれ」 心配性の声がサクリと足音を立て続く。 返ってきた生返事に『シリウス・セイアッド』の吐息は銀世界に落ちて消えた。 人が多いとは言え森の中。警戒は必要だが水を差すのも気が引けるとシリウスは集団から一歩引いたところに立った。ここからなら周囲を見渡せる。 視線の先ではアリシアとレオノルが互いのパートナーから助け起こされていた。 「たいへんそうだな」 他人事のように呟く。その言葉が自分に返って来るとは、この時のシリウスは思ってもいなかった。 「なんて綺麗なのかしら」 屈んだリチェルカーレは宝物のように果実に触れる。 「少し分けてちょうだいね」 応えるように熟したベリーはその丸く大粒な実をほろりと零す。夢中になって摘んでいると困惑した声が耳に届いた。顔を上げればアリシアとレオノルが木になった林檎を見上げている。 「任せてください。木登りは小さい頃よくやったの」 靴を脱いで木に登るリチェルカーレは確かに木登りが得意だったのだ。シリウスが目を離した隙に、小柄な身体はするりと枝の上に跨った。 「もう、ちょっと……っ!?」 林檎に指で触れそうな距離。霜と氷の季節は静かに牙をむいた。水気を含んだ林檎の樹皮の上から、ずるりと滑った手足が放り出される。 宙に浮く身体、悲鳴。リチェルカーレはそれらを遠い世界の出来事のように認識していた。 「びっくりした……」 「――っお前は! 何で、こんなッ」 落下の先に待っていたのは背を打つ冷たい痛みではなく、間近で見上げるパートナーの滅多にない焦り顔。その言葉に、表情に、いっそ場違いに感じるほどの愛おしさがリチェルカーレの胸にこみ上げた。 「ありがとう、シリウス」 シリウスは怒るような戸惑うような顔で、何度か口を開閉させた。 「……頼むから、危ないことをしないでくれ」 責める言葉はどれも形にならなかった。代わりに、シリウスはあどけない瞳に向かって祈った。眼前の笑顔を慈しむように苦笑すると、リチェルカーレを地面へ下ろす。 ――ねぇ、シリウス。あなたがいたら危ないことなんてないって言ったら、怒るかしら? 小さな告解は風に攫われる。 シリウスが不思議そうな顔で振り返った。 雪の結晶が踊る。流れる髪を耳にかけ、眩しそうに眼を細めるリチェルカーレが、そこに立っていた。 ● 「わ、あ。素敵な、森……ですね」 お邪魔しますと『アリシア・ムーンライト』は頬を紅潮させ森の前で一礼をする。敬意と親愛をこめた挨拶を森は静寂で受けとめた。 「アリシアは森も好きなのは知ってたけど」 新雪に並ぶ足跡を生み落とし『クリストフ・フォンシラー』は穏やかに目を細める。 「あんなに嬉しそうにしてるのを見ると、森に妬けてしまうなあ」 声に出すほどには冗談で。思うほどには本気の言葉。 苺実る雪の広場ではしゃぐ三人。熟れた実をつけた藪を見つけ楽し気な歓声をあげる。 しかし向かう足取りは危なげで、見守る者たちに自然と緊張が走った。 視線が交差する。 そこには同志の苦労を労う色が浮かんでいた。彼らは無言で頷いた。あれはコケる、と。 「こんなに寒いのに、苺がなってるって、不思議……」 「苺の他にも実っているようだよ」 「あれって、林檎、ですか?」 アリシアが疑問を白い呼吸に乗せるとレオノルが上を示した。 「え、梨もあるんですか? すごい……!」 アリシアは思わず息を飲んだ。 弓のようにしなった枝の先に大きな林檎が赤い実をつけている。 間近で見る林檎の木は思った以上に巨大だ。 「一応、私は背の低い男性ぐらいの背はあると思うんだけど」 「あの位置では届きそうもありませんね」 見上げながら呟いたレオノルとアリシアの後ろで任せてくださいと声がした。 するすると木に登るリチェルカーレ。しかし、あと少しで手が届くというところで細い体が傾いだ。 「あぶない!」 悲鳴をあげたアリシアの横を風が通り抜けた。間一髪のところで華奢な身体を受け止めるシリウスの姿にアリシアはホッと息をつく。 「リチェちゃ……あっ」 案じて駆けだそうとしたアリシアのつま先に何かが絡んだ。地面から浮き出した固い大樹の根。アリシアは無防備なまま、身体を前方へと投げ出してしまう。 固く目を瞑り来るべき衝撃に備えるが、しかしいつまでたっても痛みが来ない。 「く、クリス?」 薄らと目を開けたアリシアが見たのは、自分を抱きとめるクリストフの苦笑いだった。予想していたと言わんばかりの眼差しにアリシアの頬に血が集まる。 反射的に俯いてしまったアリシアはクリストフの額に冷や汗が滲んでいることに気づかない。 「あ、私、ごめんなさ……」 「アリシア」 謝罪は優しく遮られた。 「君の言葉を聞けるなら、ごめんじゃない言葉の方がいいかなあ」 ね、と乞われるように甘く言われ、アリシアは逡巡する。 「その、ありがとう……」 「うん」 満足そうなクリストフの笑顔に、アリシアはほっと息を吐く。 「じゃあお礼にちょっと笑ってよ」 「え……っ!?」 追加されたお願いにアリシアは再び顔色を変えた。 「うん、さっき森に入る時に見せた笑顔」 嬉しさに満ちたあの顔を自分にも向けてくれたら。 クリストフのささやかな願いを知らないアリシアの表情に、力がこもった。 「そ、その、こう、でしょうか……」 一生懸命だ。 クリストフもアリシアの頑張りについては文句のつけようがない。 ただし、この引きつった顔が笑顔と呼べるかと問われると……作戦変更だ。 「これが終わったら苺のスイーツを買いに行こうか?」 その花咲く笑顔は、まるで春が来たかのように訪れた。 「はい、みんなで行きたいです……!」 ● 「いっちごーらずべりーすーぐーりー♪」 雪原に散る真紅を目指して銀兎が跳ねる。 「ドクター、すごく楽しそうだな……」 ぽつりと聞こえた声に『レオノル・ペリエ』は紅潮した顔で振り返り、んふふと喜びを噛み締めるように笑った。 「そりゃあそうさ。アリシアちゃんやリチェちゃんがいるのも嬉しいからねー」 「そうですか」 足元危うい三人娘。何かありそうで不安だと、眉を下げたままの『ショーン・ハイド』は答える。 「そんなに飛び跳ねているとコケますよ」 「そんなに心配しなくても……ピエッ」 「ってコケた!」 立てたフラグは即回収。つるりと滑った足は重力に従い、可愛い声と共に雪の中に消えた。 ほら、言わんこっちゃない。 台詞を顔に貼りつけてショーンは雪の中を見下ろす。 「……エレメンツって森が得意ってわけじゃあないんですね」 「森が得意は偏見だよ。私はミズガルズ出身だし!」 仰向けになったレオノルは得意そうに胸を張る。 「あーはい分かりました倒れながら胸を張らないでください今から起こしますから」 早口で言い切ったショーンは、当然のように差し出された両手を掴んだ。 広場に点在する木には季節外れの林檎や梨が実っている。中でも一際巨大な林檎の木から、レオノルは目が離せないでいた。 「あの林檎をエアーズで撃ち落とせないかな」 「どうでしょうか……」 そして事件は起こった。 枝から落ちたリチェルカーレ。根に躓いたアリシア。そして……。 「ドクター!!」 パートナーを抱きとめるシリウスとクリストフ。その間をショーンが真っ青な顔で割り込んだ。 「何で私に言わないんですか! ああもう、怪我を負ったらみんなどれだけ心配するか……」 申し訳ないとレオノルは視線を下げた。先程まで彼女が見上げていたのは真っ赤に熟れた林檎の実。事情を察したショーンは言葉を切り、本日何度目かの溜息を吐く。 「全く……林檎ぐらいなら何個でも取るのに」 言うが早いかショーンは幹を駆け上がった。一瞬で登った枝の先で林檎をもぎ取ると目を大きく開いたレオノルの顔が目に入る。 「はい」 飛んできた重たい実を、レオノルは受け取った。よく熟れて果肉の詰まった実だ。赤く艶めく中にはきっと黄金色の蜜が詰まっているだろう。 二人のカゴが満ちるまで、さほど時間はかからなかった。 ショーンが採った林檎を一つ、レオノルは自分のカゴから取り出した。 「一番おいしそうなのはショーンにあげるよ。何個も取ってくれたし」 「えぇ? これ、ドクターがムキになって狙ってたやつじゃないですか。本当にいいんですか?」 「ムキになっては余計だよ。取るのが楽しいからやっていただけだからね」 ショーンが顔をあげると、後ろ手を組んだレオノルが首を傾げるところだった。 「上機嫌ですね、ドクター?」 「そうかもしれないね」 ――だって君が美味しいものを目の前にしてる顔を見るの。私、すごく好きなんだ。 ● 「わあ……冬の森って幻想的で素敵ですね!」 走ったリスが雪を蹴落とし、枝に積もったパウダースノーが辺りに散った。『ララエル・エリーゼ』の前には緑と赤、そして眩しい白が広がっていた。 「いいかいララエル、収穫するのはベリー、野苺、スグリだよ」 『ラウル・イースト』は、ララエルの感動と森の静けさを邪魔しない様に、静かな声で念をおす。 「そういえばラウル、スグリって何ですか?」 「以前に葡萄の収穫を手伝ったことを覚えてる?」 「はい!」 甘い香りに包まれた葡萄園。記憶の始めは朧気だが、甘い安らぎと瑞々しい葡萄色が紡いだ優しい時間をララエルは覚えていた。 「スグリは葡萄と同じで実が房状になっていてね。小さくて真っ赤な実をつけるんだ」 見つけたらまた教えてあげるねと微笑むラウルにララエルはきゅっと拳を握り、全身で頷いた。 「わかりました、しゅーかくするのはベリーと、野苺とスグリですね!」 「そうだよ、たくさん摘んで村の人を驚かせてあげよう」 「はい!」 森の中、木立の合い間に点在する赤い実をラウルは素早く見つけ、熟した実を手慣れた様子で摘み取っていく。 一方、一粒一粒を大切に摘んでいたララエルはベリーのように赤くなった両手を祈るように組んだ。 「はうう……手がかじかみます……凍っちゃいそうです……」 「ララ、手を貸してごらん」 「手、ですか?」 ほら、と。ラウルはララエルの手を両の掌で包み込んだ。 与えられる体温がゆるゆると、ララエルの冷たくなった手を溶かしていく。暖かな吐息に包まれ、強張っていた指先が痺れた。 ララエルの頬と唇に血の色が戻り、とろけるように緩む。 「ラウルの体温はきっと、高いんですね」 感心したララエルに向かって、ラウルは意地の悪い笑みを向けた。 「そう言えばララ、今年のクリスマスの予定は決まった?」 悪戯っ子のような問いかけに、そこにあった全てのスグリよりも更に赤く、ララエルの頬は染まった。 「あわわわ、く、クリスマスの予定ですか!?」 去年のクリスマス。忘れることなど出来ない思い出と感情に翻弄され、あわあわと忙しなく表情を変えるララエル。反対に、ラウルは笑顔を浮かべたままだ。 「えっと、えっと、まだです……っ」 絞り出すように告げる声。恥じらうように閉じられた睫毛が震える。あまりに無垢で無防備だ。 溢れる想い。零れた情動。 仄暗さの中、自分に向かって小さくほころんだ笑顔。あの夜から、一年が経とうとしている。 「ほら、ラウル!」 ララエルの声でラウルの意識は現実へと引き戻された。腰を浮かせたララエルが、ラウルの手を両手で包み返している。 ラウルは少しだけ目を開いたが、慌てるララエルは気づかない。 「食材を持ち帰ってヴォルフラムさんの屋台に行きましょう!」 「ああ、わかったよ」 クスクスと囁くような笑い声が静かに雪の上へ降り注ぐ。ラウルは繋いだままの両手を愛おし気に見下ろした。 「売り切れるといけないからね」 ● 「何を買うんじゃ?」 「生地の材料と果物をなるべく沢山、かな。屋台を出そうと思ってね」 活気溢れる市で『ヴォルフラム・マカミ』は祭りの空気に乗せられ笑った。 「皆の衆、聞いたか!?」 「応!!」 「えっ?」 「これ持ってけ」 「これもじゃ」 押しつけられるのは売り物の野菜や果物のカゴ。ヴォルフラムは目を白黒させた。 「お、お代は?」 「そんなもん後じゃ。使えそうなもんは全部持ってけ」 さすがはノルウェンディ。大らか過ぎる気風というべきか。この調子では誰が何を提供したかなど、誰も覚えていないだろう。 売上は村長に渡そうとヴォルフラムは思う。パートナーもきっと賛成してくれるはずだ。 「ありがとう、後で食べに来てね!」 返事代わりに背中を叩かれ、ラズベリーがころりと転がった。 「そういえば、嬢ちゃんの姿が見えんのう?」 「あぁ、カグちゃんなら今頃……」 「……ごめん、ください」 中央広場。 屋台の受付天蓋に現れた小さな手が、記入済みの貸出申請書をテーブルにのせた。 「必要機材。野外用コンロ、二つ……それが設置できる屋台、お願い、します」 「お嬢ちゃんが料理を?」 『カグヤ・ミツルギ』はふるりと否定した。 「料理、はできない」 俯く横顔は少し悲し気だ。 「私が料理すると、高確率で謎の物体になる、から……」 カグヤの言葉には静かな迫力があった。 「でも、それ以外のお手伝いは……できる」 ヴォルフラムが料理。それ以外の接客や事務といった雑務はカグヤが引き受けると決めたのだ。 「頑張りな」 「うん」 くつくつ。鍋に映る林檎の満月。赤や青の炎の横で粉雪のように小麦粉が舞う。 ワインレッドやルビー色の鍋が楽しげに甘い湯気を奏でれば、コンポートのできあがり。 「生地はこんなものか」 村のパン屋から分けてもらった苺の酵母や果物の煮汁を合わせると、白く柔らかな生地は中身と同じ、パステルカラーに染まった。愛らしい饅頭が蒸籠の上に並べられ、湯気を纏い甘さを香りたてている。 「これ……」 カグヤが抱えるのはトナカイや猪の肉だ。美しいサシと脂が赤身にマーブル模様を描いている。根菜、玉ねぎ、腸詰め肉にハーブ。それにザルいっぱいのキノコ。 「折角だからがっつり系も作ろう」 流れる手が動き出す。 手早く肉と野菜を刻むとニホンで買った調味料「味噌」を下味に入れ、余っていた白い生地で包んだ。 肉饅頭と果物饅頭。蒸籠前の行列が途切れることはない。その中には迷子を連れたヨナの姿もあった。売り子のカグヤにも気合が入る。 「こりゃあ、何じゃ?」 「色々な具材を包んで蒸す、パンみたいなの……」 「可愛い! それに美味しいわ」 手渡した相手の喜ぶ言葉や表情を見て、カグヤは照れくさそうにはにかんだ。 思い出すのは故国の風景。遠く離れた場所でも、美味しさはちゃんと伝わる。 「大成功だね、カグちゃん」 耳元で囁いたヴォルフラムにカグヤは小さく頷いた。わぁ、と歓声が聞こえ、道が大きく開く。 「あ、森に行ってた皆が帰ってきたみたいだね」 ベリーが詰まったカゴをたくさん抱え、戻ってきた仲間の姿を認めたカグヤは大きく手を振った。 数多の蒸籠からたなびく湯気が今か今かと冷えきった浄化師たちを待ちわびている。 「おかえり、なさい……!」
|
||||||||
*** 活躍者 *** |
|
|
|||||
|
| ||
[10] ヴォルフラム・マカミ 2019/12/06-14:46
| ||
[9] ララエル・エリーゼ 2019/12/06-12:19
| ||
[8] ヴォルフラム・マカミ 2019/12/05-23:02
| ||
[7] レオノル・ペリエ 2019/12/05-21:59
| ||
[6] アリシア・ムーンライト 2019/12/05-21:42
| ||
[5] リチェルカーレ・リモージュ 2019/12/05-21:01
| ||
[4] ララエル・エリーゼ 2019/12/05-14:47 | ||
[3] ヨナ・ミューエ 2019/12/05-14:34 | ||
[2] ヴォルフラム・マカミ 2019/12/05-12:08
|