~ プロローグ ~ |
今より少し、遠くの話。人が、その傲りから禁忌と神の怒りに触れた時代。 |
~ 解説 ~ |
【目的】 |
~ ゲームマスターより ~ |
追加説明 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
右班で行動 禹歩七星に礼を言い鵲に一人ずつ乗り込み龍の頭付近へ ヨナ 主スキルFN16陽気 鵲で空中戦中心 ヨハネの使徒の攻撃に注意しつつFN11等で最低限対応 私の魔力量でもこの数の前ではきりがないですね… 支配影響時は無理に宝珠へ攻撃せず 鵲を駆使しヨハネの使徒を多く引き付けるように飛ぶ カレナと協力しぎりぎりまで引き付け多くを巻き込むようFN13で貫き 龍の呼気を避け再び陰気の宝珠を狙う 彼女(龍)がベリアル化したのは過去の人間の…(言い淀む 再度封印が出来たとして 根本的解決に至らないのが悔しい 何か方法は無いの 喰人 主スキルJM11火気 上空より自ら龍に飛び乗り宝珠を目指す 鵲はヨハネの使徒を避け上空に並走させておく |
||||||||
|
||||||||
お母さん、だから 苦しくて悲しくて …わたしたちがあんな風にしてしまったのね スカートを握りしめる ーええ 大丈夫 魔術真名詠唱 左側から接近 初手で禹歩七星 禁符の陣に陽属性 セルシアさんも無茶はしないで 基本 天恩天嗣3での回復や禁符の陣で拘束 シアちゃん達と連携 効率的に回復と支援を 狙えれば木に小咒 火に九字 届く位置にある方へ 禁符の陣は 可能なら陰へ 無理なら 少しでも古龍が止まるよう近くの頭か体に 一瞬でもいい 龍の動きが止められれば 敵攻撃は回避 鵲から落ちないよう 仲間と助けあう 最悪の場合でも 龍に落ちるよう もうやめよう 貴女の子どもはもういないの ごめんなさいとしか 言えないけれど… 貴女の悲しみも 人の罪も 絶対に忘れたりしないから |
||||||||
|
||||||||
あれ、は 止めて、あげないと……だって、きっとあの龍は、泣いてます…… 鬼門封印に陰属性を付与して貰い 移動直前に魔術真名詠唱 右のチームに入り カレナさんを見て「よかった……」と微笑む 移動後すぐ右の皆に禹歩七星を掛け鵲が来るのに備える 大丈夫、何とかします、必ず…! クリスに頷いて見せてタイミングを見て鵲に捕まる 鵲さん、よろしく、お願いします…… そっと首を撫でて ヨハネの使徒の攻撃は必死で回避 仲間の様子を見、傷ついてる時は回復優先 大丈夫そうなら陽の宝珠の方へ 鬼門封印の陰を撃ち込む 陽が既に破壊されてれば木の方へ行き慈救咒を どうしても回避できなさそうなら、自分から龍の上に落下 クリスに拾って貰えそうなら手を伸ばす |
||||||||
|
||||||||
琥珀姫へ 削岩撃に陽の属性付与お願いします 左側チーム所属 琥珀の鵲使わせてもらって、基本は火の宝珠へ攻撃しに行くよ 火の宝珠へは乱打暴擲を使用 火の宝珠への攻撃しても、陽の宝珠への攻撃が終わってなかったら、其方へも行こうか 「まったく、忙しいな」 陽の宝珠は削岩撃使用 倒すのは難しく、でも退治される事が決まってる竜、か いや、今は退治じゃない 「アシッドから、解き放つんだ」 自らベリアルになった、過去の悲しみは消える事はないと思うけど… 「今は、貴方達を狩ろうなんて人、ほとんどいなくなったよ」 だから、過去じゃなくて今を、未来を見て欲しい 忘れてとは言わないよ またしでかさない様に見張って そして今度こそ一緒に生きよう |
||||||||
|
||||||||
…とんでもないことになったな だが、彼女達を助けた結果であることは後悔はしまい ドクターが先日仰ったことを現実にするためにも、犠牲は絶対に出さんぞ…! DE5に陰属性を付与 ドクターを抱えて鵲に乗り込むぞ 俺の仕事はドクターの護衛と陽属性の頭の撃破だ 少しでも当たりやすいようにDE5で攻撃する ドクターに使徒が襲ってくるようならDE14で攻撃して追い払う その刃先だけでも触れてみろ 俺が灰燼に帰してやる 根拠のない偽り、か… …凶行に及んだ人間を愚かだ、と一笑には付せんな 当時の人間には当時の人間なりの価値観がある だが…それが古龍の悲しみを齎したことは受け止めねばならん もう二度とこんな惨劇が起きぬよう、戒めねば… |
||||||||
|
||||||||
6つの頭の動きを止め 浄化を行える状況へ持っていくこと 近隣住民への被害は絶対に防ぎたい 皆と協力して ここで慟哭龍を止める リューイ:二身撃に木属性 セラ:ワンダリングワンドに水属性 それぞれの担当属性を最優先に狙う 魔術真名詠唱 右側から接近 リ:初手で戦踏乱舞 メインアタッカーの攻撃力を上げる 鵲に乗り水属性の頭へ 攪乱要員 ヴィオラさんへの注意を逸らしながら 二身撃で攻撃 セ:転移後 味方が攻撃に被弾しないようペンタクルシールドで防御 鵲に乗り土属性の頭へ レオノルさんをシールドで守りながらワンダリングワンドで攻撃 使徒の攻撃は基本回避 仲間との連携を重視して 仲間が撃墜されれば引き上げる 地面に落ちないよう気をつけて |
||||||||
|
||||||||
あの巨体をよく封印していた物だな あれとこの数の使徒をこの人数で何とかしろとは無茶を言ってくれる まあ、何とかするしか無いのだろうが 削岩撃に木属性付与を依頼 魔術真名詠唱 左チームで移動 速力を上げて貰ったら即座に鵲を捕まえ 足や尾が当たらない範囲へ飛ぶ ヴィオラ、気をつけて行け! 違う方向へ行くヴィオラに声を掛け ヨハネの使徒を回避しつつ陰の宝珠を捜す 見つければ乱打暴擲を使い攻撃 ヨナが攻撃しやすくなるよう、前に出て引き付ける 陰が終わればヴィオラ達の応援に 削岩撃で攻撃を 落下した時はなるべく龍の身体の上へ 宝珠めがけて駆け上がる 仲間が落ちたときは引き上げる ステ半減は気にせず行動 封じられたら、そのターンは回避に専念を |
||||||||
|
||||||||
でか!?ガラクタ野郎までうじゃうじゃと! …今回は構ってられるか!絶対に止めないと! メイン属性は土 初手魔術真名詠唱 初期位置は右 転移後、鵲へ騎乗し宝珠を目指す 使徒との戦闘は極力回避 使徒と自分の位置が直線状にならないように 包囲された際は急上昇で突破を 『支配』を受けた場合は回避に専念 受けている間は特にアジ・ダハーカの羽と尾の近くにはいかないように 避けきれないと判断すれば体の上に落ちる位置で落下を 宝珠までたどり着いた際はJM8を使用 破壊確認後はまだ破壊されてない属性の味方のサポートへ 陽(陰)がまだ攻撃できてなかった場合はJM3 味方落下時は救助へ 希望があれば指定位置に降ろす |
||||||||
~ リザルトノベル ~ |
昏い空間の中に、豪雷の様な咆哮が響く。 ある魔女の魔法によって映し出される、映像。じき戦場となるその場所を、集った浄化師達は教団本部の待機室の中で見ていた。 「デカイな……」 「そうだね。あれが、『大災』か……」 呟き、頷いたのは、『ベルトルド・レーヴェ』と『クリストフ・フォンシラー』。彼らの見つめる映像の中には、噴煙の様な土煙を巻き上げながら進む六つ首の龍の姿。周囲に映り込む山々や森林と比べても、その尋常ではない巨大さが分かる。 『慟哭龍 アジ・ダハーカ』。それが、深淵の眠りから覚めた災いの名。 「スケール2で、この有様か……」 「進化された時の事なんて、考えたくもないね……」 かの龍が歩いた後の惨状に呻いたのは、『ニコラ・トロワ』。彼に合わせる様に、『ヴォルフラム・マカミ』も溜息をつく。 「加えて、馬鹿げた数のオマケ付きと来てる。村や町に入られたら、目も当てられない事になるぞ……」 『ラス・シェルレイ』が見つめるのは、龍に付き従う様に飛ぶ白い群れ。『ヨハネの使徒』。数は、有に200を超える。その様は、まるで巨島に巣食う海鳥の様。 「これだけの大事だと言うのに、何故上層部は動かない?」 「警戒してるみたいだよ。寝首を掻かれるのを」 「?」 苦々しげな『シリウス・セイアッド』の疑問に答えたのは、『レオノル・ペリエ』。眼鏡の奥の目を皮肉げに笑ませながら、エレメンツの才女は冷ややかに言う。 「例のスケール5のベリアル達……『三強』とか言ったかな? 連中が、この件を陽動にして本部や他の重要拠点を襲撃する事を恐れてるんだってさ」 「『あれ』の優先順位を落とす程に、あの三人が脅威だと?」 自分の言葉に問い返して来た『セシリア・ブルー』に笑いかけ、レオノルは頷く。 「お偉いさん達は、そう言う評価らしいね」 聞いた真実。その歪さに、シリウスもセシリアも黙って天井を見上げる。『上層部(彼ら)』がいる筈の、場所を。 「とんでもない事になったな」 「ショーンさん……」 苦々しげな自分の呟きに、応じられた声。自分を不安そうに見上げる『リューイ・ウィンダリア』にフッと笑いかけると、『ショーン・ハイド』は言う。 「大丈夫だ。『彼女達』を助けた結果である事は、後悔しない。特に、アレを見てはな……」 苦笑いと共に促す先には、屯する『彼女』達の姿。 「それじゃあ、アリシアさんは植物学と薬学のスペシャリストと言う訳で!?」 「え……? あ……べ、別にスペシャリスト、と言う訳では……」 目をキラキラさせて迫ってきた『セルシア・スカーレル』の勢いに、『アリシア・ムーンライト』は思わずタジタジになった。 「いやいや!! お話聞いただけで、もう凄い、凄い!! わたしなんて、まだ実験用植物の交配失敗する時あるのに!!」 「は……はぁ……」 そんな二人のやり取りを見ていた、『ヨナ・ミューエ』と『カグヤ・ミツルギ』。顔を合わせてヒソヒソ話す。 「……何か、今までと様子が違いませんか? あの娘……」 「……人見知りするタチ……だったのかな……?」 狼狽を隠せない二人を他所に、セルシアの高テンションは続く。 「ああ、友達になった人が同じ魔術研究者!! それも、この道のプロ!! 何という僥倖!!」 言いながら、何やら紙を取り出してアリシアに渡す。 「これ、見て!! ずっと研究してる魔術薬のレシピ!! 行き詰ってて!! アドバイス、お願い!!」 オズオズとメモを受け取り、目を通す。 「ええと……チミドロマンドラゴラの根に……シビレモズルの蔓……キグルイタケの胞子と……?????」 読むに連れて、強ばっていくアリシアの顔。何だ何だと覗き込むヨナとカグヤの顔も、同じく強張る。 「どう!?」 「ど……どうって……」 書いてあった材料の効能。幻覚。催淫。思考障害。魂魄剥離。etc、etc……。 どう塩梅に気を使っても。どんなに処方に苦心しても。まともなモノが出来る道筋が、全然見えない。 「あ……あの、これで、一体、何を……?」 「ん? 未来永劫、決めた人以外好きになったら精神ボン! する薬」 「……え゛……?」 何か物凄く普通に答えられて、固まる魔術研究者三人。 「まあね、そりゃね、ありえないよ? カレナが、わたし以外の人間に惹かれる何て事、そりゃもう、ベリアルが悟りを開いて慈愛と世界平和を語り始めるくらいに、ない。幾千幾万転生したって、ありえない。でもね、けどね、世の中に絶対はないってのが真理だし? だったら、備えはしておかなくちゃ。だってカレナはわたしのだし? 駄目だし? 絶対だし? ありえないし? 当然だし? だからね? ね? ね? ね?」 ハイライトの失せた目が、爛々と光る。三人の背筋を這い登る、いや~な怖気。 「大丈夫。例えそうなっても、わたしがずっと側にいるから。 愛するから。 繋いどくから。放さないから。逃がさないから」 言ってる事が、だんだん狂気じみてくる。 (え……? え……? え……? あの、その、こ、これって……) (ヤ、ヤン……デレ……) (な、何か微妙にヴォルと同じ気配が……って、いやいやいや) 戦慄するアリシア達を他所に、感極まったのか、身をかき抱くセルシア。 「ああ、もうすぐカレナとの契りが幾世代先も永遠のモノに……何て素敵なんだろう!! わたし、考えただけで……ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」 「ひぃいいいいいい!!」 響く深淵の笑い声。三人に出来る事は、怯えながら身を寄せ合うだけ。 「ふふっ。セルシアさんて、本当にカレナさんの事が好きなんですね」 「えへへ。可愛いでしょ?」 「……あ、良いんだ……」 不気味に笑い続けるセルシアと、嬉しそうに照れる『カレナ・メルア』。二人を交互に見て、微笑ましそうに笑む『ヴィオラ・ペール』。そして、そんな皆さんを何とも言えない顔で見回すのは、『ラニ・シェルロワ』。 彼女の呟きが聞こえたのか聞こえないのか、カレナは隣にいた『リチェルカーレ・リモージュ』に向き直る。 「そう言えば、リチェさん。先は、ボクのセルシアがお世話になって」 「あ、いえ。あの時は、私も助けてもらったし」 深々と頭を下げるカレナに、慌てて畏まるリチェルカーレ。 「シレっと『ボクの』とか言ったよ……」 聞いてたラニ。思わず突っ込む。 「この御恩は必ず。例え、この身を代価にしても……」 その言葉に、リチェルカーレが反応する。 「馬鹿な事、言っちゃ駄目! そんな事したら、またセルシアさんが……」 「あ、大丈夫大丈夫。その時は、ボクのセルシアも一緒に逝ってくれるから」 「………」 こっちも、サラッと闇を吐いた。とりあえず、聞かなかった事にする。 「ま、まあ、それはそれとして……」 カレナの肩を、ポンと叩くラニ。こちらはこちらで、不穏ににこやか。 「どうせなら、お礼はもっと実のある形でして欲しいわね~」 「と、言うと?」 首を傾げるカレナに、ヒソヒソと耳打ち。聞いた顔から、血の気が下がる。 「こ、高級喫茶『スイートドリーム』のオリジナルケーキバイキング時間無制限コース……人数分奢り……」 「そ。この位、当然でしょ?」 ニッコリと笑いかけるラニから、ズザザッと後ずさるカレナ。 「む、無理無理!! 高い!! お給料、なくなっちゃう!! 次のイベントで買う予定の推し絵師さんの新刊が……!!」 「問答無用!! こちとら、どんだけ大変な目に会ったと思ってんの!? ゴチャゴチャ言わずに出すモン出しなさい!!」 「ひぃい!!」 ノリは、後輩をカツアゲする怖いパイセン。 「た、助けて!! ボクのセルシア!!」 「だが断る」 即答。 「って言うか、わたしも大変だったし。わたしにも奢れ」 「う……裏切られた……」 ガクリと崩れ落ちるカレナ。また、アウェイクニング・ベリアルなぞ発症しなければ良いと思う。 「……要求がレベルアップしてるぞ……」 「やれやれ、緊張感がないな……」 じゃれる相方達を呆れた目で見るラスの横で、溜息をつくニコラ。そんな彼に、ベルトルドが言う。 「いや。アレでいい」 見つめるのは、画面の中で猛る魔軍の情景。 「変に気負えば、迷いが生まれる。そうなれば、食われるだけだ。あの、巨大な死にな」 「私も、そう思うよ」 楽しそうに見物していたレオノルも、また。 「今回の件は、些か重いよ。責任も、至った事情も。余計な迷いを、抱いちゃいけない。少しでも、心には防波堤を建てて置くべきだ」 「防波堤か……。確かに、な……」 頷くニコラに微笑むと、レオノルは再び皆の方に視線を向ける。 「それにしても、セルシア(彼女)は見所があるね。あの研究に対する熱意と一途さは、感心に値する。いつか必ず、目的に到達出来ると思うな」 「……いや、ドクター。それはそれで、非常に問題があるのでは……」 爽やかに断言する師に、ひっそりと突っ込むショーンだったりする。 『どうやら、気構えは上々の様だね。子供達』 不意に、薄闇の中に響く声。騒いでいた皆の顔から、稚気が消える。協力者、『麗石の魔女・琥珀姫』の声だった。 『『鵲(カササギ)』の調整が終わった。これから、君達を『アレ』の元へと転送する』 頷く、皆。同時に足元に展開する魔方陣。声は、言う。 『手筈は説明した通りだ。なるべく羽や足に巻き込まれ辛い所に送るが、あの通りだからな。油断はするなよ』 「琥珀姫様……」 回る光の中で、リチェルカーレが話しかける。 「ありがとうございます。力を、貸してくれて……」 『……『その娘達』とは、仲良くなれたようじゃないか』 「はい」 『一緒にやりたい事とか、あるだろう?』 優しい、問い。微笑み、頷く。 『なら、言う事は一つだ』 舞い上がる光の粒子が、視界を覆っていく。輝く世界の向こうから聞こえる言葉は、いつかも聞いた一つだけ。 ――帰って、おいで――。 そして、世界が巡る。 ――午後8時30分。アジ・ダハーカ、体側右――。 視界が開けた瞬間、飛び込んできたのは埋め尽くす金色(こんじき)の鱗の山。立ち込める礫煙の中、地震の様に揺らぐ大地。必死に体勢を維持しながら、ラニが叫ぶ。 「でか!? ガラクタ野郎も、うじゃうじゃと!」 その声に応じる様に、周囲を飛行していた使徒達のモノアイがギロリと流れる。瞬時に獲物を補足。一斉に行動を開始する。 「来るぞ」 「気を付けて!」 ベルトルドとセシリアが、警戒の声を放つ。宙を駆け、或るいは地を走り、瞬く間に距離を詰めてくる使徒達。 「来るか! ガラクタ野郎!」 「……大丈夫か?」 奮起する様に身構える相方に、声をかけるラス。 「分かってる! 優先順位は、間違えない! 絶対に止めないと!」 ラニが答えた瞬間、使徒達のコアが赤く光った。 「!」 「皆、避けて!!」 クリストフの声に、反射的に身を翻す。間を置かず、それまでいた地面を穿つ、赤い閃光。溶けた石が、白い煙を上げる。 「熱線!?」 「贅沢なモン、持ってるわね!」 毒づく間に、間合いを詰めた使徒。畳まれていた前脚が跳ね上がり、赤光の刃が伸びる。 「今回は構ってられないっつの!」 ラニが、踊りかかってきた使徒を迎え撃とうとした瞬間。 「だよね」 声と共に、響く轟音。真横から打ち出された鉄杭が、使徒を吹っ飛ばした。腹に大穴を開けられた使徒。機動力を失い、転がった先でジタバタもがく。 「へえ。やるじゃん」 パイルバンカーを構え直すカレナを見て、ラニが口笛を吹く。 「使徒(こいつら)、ベリアルと違って再生しないし。取り合えず、動けない様に壊しとけばいいかなって」 言いながら、飛んできた熱線をパイルバンカーの背で弾く。 「出来る限り、ボクが落とすから。皆は、龍(あれ)に集中して」 「でも……」 「平気。せっかく拾って貰った命だし。無駄にするほど、恩知らずじゃないよ」 心配そうに声がけるリューイにそう答えると、カレナは視線を上げる。 「それよりも……来たみたい」 見れば、後方の空に幾つもの魔方陣が浮いている。その中から落ちてくるのは、大きな翼を広げた鳥の様な影。クルリと旋回すると、そのまま低空をこちらに向かって疾走してくる。 「あれが……」 「鵲か!」 「行って! ボクも、すぐに!」 突進してきた使徒を殴り飛ばしながら、カレナが叫ぶ。アリシアとリューイは頷き合うと、禹歩七星と戦踏乱舞を発動。 「ありがとうございます」 ヨナとベルトルドが礼を言い、タイミングを見計らって接近した鵲に飛び乗る。 「死ぬなよ!」 「約束、あるんだからね!」 「待ってるから!」 「どうか!」 他の皆も、魔術真名を唱えて次々と鵲に飛び乗っていく。 「頼りにしてるよ」 「了解です!」 クリストフもまた、カレナと頷き合うと鵲を捕まえる。ふと下を見ると、彼女の背を見つめるアリシアの姿。微笑んで、声をかける。 「一緒に、乗るかい?」 見上げる、アリシア。やっぱり微笑んで、首を振る。 「大丈夫、何とかします。必ず……」 「そうか。気をつけて……」 全てを理解する顔で頷いて、鵲を駆る。空高く上がっていく彼を見送り、視線を前に立つ少女に向ける。凛と立つ、後ろ姿。蝕んでいた気配は、微塵もない。想いが、満ちる。 「よかった……」 優しく呟いて、駆けて来る鵲に手を伸ばした。 「皆、行ったかなー?」 辺りを見回す、カレナ。すると、一羽の鵲が近くに浮いていた。 「待ってて、くれるの?」 答える様に、首を上下に動かす。 「ありがとう。じゃ、もう少しね」 見つめる先には、皆の後を追う様に迫る使徒の一団。 「さ、頑張ろうか! ボクのセルシア!」 呼びかける声と共に、ガシャンとパイルバンカーが薬莢を吐き出した。 同時刻。アジ・ダハーカ、体側左。 「大人しくしておけ」 火花を散らして痙攣する使徒。その額のコアに、大斧の刃が叩き込まれる。動きを止めた使徒から刃を引き抜いたニコラが、感心しながら眼鏡を直す。 「よく、こんな代物で使徒を落とせるものだな」 彼の視線の先には、使徒の首関節に突き刺さったダガーが一本。 「面白い技術だね。自前(オリジナル)かな?」 興味深げに覗き込んだレオノルが、ダガーの持ち主であるセルシアに訊く。 「『毒華鳥(ピトフーイ)』……。自分の魔力を相手の魔力中枢に打ち込んで、その部分を麻痺させるの。わたし、力とかないから。代わりにと思って」 「成程。原理はベリアルの『ハウエア』と同じか……」 頷くレオノルに、セルシアも頷き返す。 「破壊力はないけど、足止め位は」 「十分だ」 同様に転がっていた使徒に止めを刺したシリウスが、言う。 「少しでも削ってくれるなら、助かる。君に、負担はかけてしまうが……」 「大丈夫。手数だけは、多いから」 セルシアの手が動いた途端、ジャッと音が鳴る。見れば、握られていたダガーが四本に増えていた。 「わあ、凄い。手品みたいですね」 「昔の、飯の種」 はしゃぐヴィオラに、澄まして答える。 「皆……」 「来るよ」 カグヤとヴォルフラムの言葉に振り向けば、こちらに向かってくる群れが二つ。一つは使徒の第二陣。もう一つは、舞い降りた鵲達。鵲が使徒を追い抜くのを見て、ショーンが頷く。 「速さは、こちらが上の様だな」 「結構な事だ」 そう言って、ニコラとヴィオラが接近してきた鵲に飛び乗る。 「先に行く」 「運動神経は悪くは無いつもりですが……。ほんと、女性に何をさせるんですか。教団は」 舞い上がる二人に続く様に、ショーンがレオノルを抱え上げる。 「ドクター」 「うん」 乗り込んだ鵲の背の上。身を乗り出したレオノルが、声をかける。 「無事でね。君とは、色々語り合ってみたいからさ」 かけられた言葉に、気恥ずかしそうに頷くセルシア。 「私達も、行くから……。大変だけど、お願い……」 「君の愛の形、応援してるからね!」 「……そこはあんまり、通じ合って欲しくないかも……」 サムズアップして、ニッコリするヴォルフラム。微妙に不安そうな言葉を吐いて、カグヤ達も空へと発った。 残るのは、リチェルカーレとシリウスだけ。二人に向かって、セルシアは言う。 「貴女達も、行って。わたし、少し減らしてから行くから」 「………」 不意に駆け寄る、リチェルカーレ。セルシアの右手を、両手で握り締める。丸くなる彼女の目を見つめ、囁く。 「無茶は、しないで」 身体に満ちる力。禹歩七星。かけ終わると、リチェルカーレは踵を返して待っていたシリウスと共に鵲に乗り込んだ。 「………」 セルシアは、しばし握られた手を見つめると、バックステップで待機していた鵲に飛び乗る。 「……友達、か……」 ゆっくりと舞い上がりながら、その手を頬に当てる。残る温もりを、確かめる様に。 「いいなぁ……」 呟く。酷く、静かな声で。 「素敵だなぁ……。温かいなぁ……」 少しずつ、上がる高度。先行く皆との道を、遮る様に。 「無くしたくないなぁ……。壊されたく、ないなぁ……。ねぇ、カレナ……」 迫る使徒の群れ。それを、昏い眼差しが見つめる。 「そう言う訳だからさぁ……。ねぇ、君達……」 軽やかに響く音。両手に翼の様に広がる、八本のダガー。 ニコリと笑んで、与える言の葉は一つ。 「死んで、くれない?」 光を得た深淵は、なお深く。揺れる笑みの下、毒鳥の嘴(はし)が妖しく光った。 浄化師達を乗せた鵲は、昇っていく。追う使徒達を捨て残し、高く。高く。もっと、高く。視界の横を、龍の頭部が過ぎていく。攻撃に備えてペンタクルシールドを展開していたヴィオラが、それに気づいた。 「泣いてる……?」 六つの頭部に光る、十二の目。その全てから、真っ赤な滴りが流れていた。まるで、鮮血に染まる涙の様に。 隣を飛んでいたニコラが、言う。 「奴はベリアル化する為に、大量のアシッドを飲み込んだ。体内に充満するアシッドが、溢れ出ているのかもしれん」 「でも……あれは……」 表情を曇らせるヴィオラを見て、ニコラは目を細める。 「余計な事は、考えるな」 「でも……」 「囚われれば、飲まれるぞ」 「……はい」 頷く相方に頷き返すと、ニコラは舵を切る。自分が成すべき役目に向かって。 「気をつけて行け」 「ニコラさんも、無茶はしないで下さいね」 そしてヴィオラもまた、舵を切る。割り切れない思いを、残したまま。 龍の涙を見たのは、ヴィオラだけではない。 「彼女がベリアル化したのは、過去の人間の……」 唇を噛みながら、ヨナは思う。贖罪などと、傲慢は言わない。けれど、せめて癒す事は。 「何か、方法は……」 分からない。術も。この戦いの果てに待つ、結論も。 「ヨナ!」 ベルトルドの声に、ハッと我に返る。瞬間、頬を掠める赤い閃光。いつの間にか、使徒達の攻撃範囲に入っていた。接近する機体。伸びた前脚に、灯る光刃。 「悩む事さえ、おこがましいと……」 切りかかる使徒。赤熱する刃が、身体に触れようとした瞬間。激しい炸裂音が、宙を揺らす。腹に開いた大穴から煙を吹き、落ちていく使徒。見れば、真下から突き上げを見舞ったカレナが、『間に合ったぁ』と息を吐いていた。鵲を駆る姿は、ボロボロ。使徒の群れを、強引に突っ切ってきたらしい。その様に、目が覚める。そう。今は悩む時では、ない。 放つ、ソーンケージ。限界まで収束させたそれ。カレナの脇をすり抜けて、背後の使徒二体をまとめて貫く。 「わあ、ビックリしたぁ」 「貴女達だけに押し付けていては、申し訳ないですね」 目をパチクリさせているカレナに笑いかけると、鵲の首を巡らせる。 「少しでも引きつけて、落とします。サポートを」 「はーい!」 少女らしい、無邪気な声。それがとても、尊く思えた。 「良かった……」 遠目にヨナの無事を確かめたセシリアが、ホッと息をつく。使徒達が、彼女達を追う。『無理はしないで』と呟き、周囲を見回す。 ヨナ達に誘われていく、使徒。周囲の敵の数が減っている。動くなら、今。 「リューイ……」 呼びかけかけて、止まる。リューイが、龍を見ていた。龍が流す、涙を見ていた。 「……大きい、ね……」 独りごちる様な、声。何かを感じて、寄り添う。 「凄く、大きい……」 「ええ……」 頷く。 「子を奪われた、母の慟哭……。『ひと』への憎悪が、形を持ってしまったのね……」 「彼女も、人間(僕達)が……」 少年の顔に滲む、苦悩。セシリアも、顔を曇らせる。 「だけど……止めないと……」 振り絞る様な、声。黙って、頷くだけ。 リューイが、振り払う様に鵲を駆る。遠ざかる背を、セシリアは見つめる。 「せめて、悲しみを受け止めましょう……。出来る事は、きっと……」 投げかける様に囁いて、彼女もまた空を駆けた。 「アジ・ダハーカ……。神話の中の魔龍と、同じ名前……」 カグヤの囁きに、ヴォルフラムが目を向ける。 「話の中の龍も、退治されなかった……。倒せずに、幽閉されてた……」 まるで、今までの彼女の様に。 「でも、終末の時の後、退治される事が決まってる……」 ギュッと、胸元を握り締める。絞り出す声が、悲しく揺れる。 「……私達は、終末の世に……居るという事、なのかな……?」 「……倒すのは難しく、でも退治される事が決まってる龍……か……」 カグヤの話を刻み込む様に呟く、ヴォルフラム。そして、キッと前を向く。 「違うよ。カグちゃん」 「………?」 「今は、退治じゃない!」 上げる声。呼応する様に、鵲が急降下を始める。猛り鳴る風の中で、ヴォルフラムは叫ぶ。 「解き放つんだ!」 使徒達の攻撃を掻い潜り、向かう先は龍の首。六本の内の、一本。 「自分でベリアルになる程の悲しみ。きっと、消える事はないけれど……」 迫る頭部。額に光る宝珠の色は、赤。 「もう、貴女達を狩ろうなんて人は、ほとんどいない!」 構える斧に、黄土の光が灯る。 「だから、見て! 過去じゃなくて、今を! 未来を!!」 見る見る大きくなる、宝珠。ヴォルフラムが、乱打暴擲を放とうとしたその時。 龍が、吼えた。青色の宝珠を頂く首。遠く、高く。轟く慟哭。青一色に染まる、世界。 「ぐぅ!?」 乱れる、動悸。急激に抜けていく、力。たまらず膝をつく、ヴォルフラム。揺らぐ鵲に、殺到する使徒達。 「駄目!」 咄嗟に操作を代わるカグヤ。力を取り戻した鵲が、上を向く。急加速。追いすがる使徒を振り切り、熱線の射程外へ。 「しっかり、 ヴォル!」 「ああ、大丈夫……」 荒い息をつきながら、微笑んで見せる。 「今のが、『支配(ルーラー)』……」 「はは……まるで、『虫の良い事言うな』って、ぶん殴られたみたいだよ……」 力なく言う、ヴォルフラム。カグヤはただ、唇を噛み締めた。 龍が吼える。呼びかけも。懇願も。懺悔さえも、拒絶する様に。輝く極彩。目まぐるしく、染まる世界。乱れる、理(ことわり)。まるで、今は亡き筈の想いの様に。 龍は進む。絶えなき慟哭の果て。ただ。ただ。滅びだけを願って。 「は……はぁっ……」 膝をついたリチェルカーレが、胸を押さえる。支配の苦しみに喘ぐ彼女を、シリウスは必死に守る。 「リチェ、大丈夫か!?」 ようやく抜けた戦域。自分もボロボロになりながら、労わる。 「これが……あの女(ひと)の、心……」 絶え絶えの息で、呟くリチェルカーレ。耳の中で反響する、慟哭。 「お母さん、だから……」 苛むのは、支配とはまた別の痛み。 「苦しくて……悲しくて……私、達……が……人(私達)が……」 責め立てる、残響。人の罪を。種の罪過を。延々と。炎々と。それでも――。 スカートを、握りしめる。食いしばる。涙が、溢れない様に。心が、挫けない様に。 「……行けるか?」 シリウスが、問う。優しく。でも、辛そうに。 「ええ、大丈夫……」 儚い、けれど決意の返事。小さく、頷く。 踵を返す、鵲。乱れ飛ぶ熱線と光刃を掻い潜り、頭の一つへ。見えたのは黄の宝珠と、それに向かって急降下する鳥影。 ――クリストフ――。 風切る刃に、紫の光が灯る。同時に、下で満ちる魔力の気配。紫の宝珠を頂く頭が、咆哮を上げようと口を開く。 「!」 咄嗟に入るのは、禁符の陣の詠唱。隙を逃さず、襲いかかる使徒二体。一体の刃を、シリウスが受け止める。もう一体。刃を振り上げた所で、飛来したダガーに急所を穿たれる。 「お願い!」 飛ばす陣。付与された性は、陽。紫の宝玉、性は陰。倍加する力。絡まる枷。頭の動きが鈍る。襲いかかる、反動。必死に耐える。 クリストフが、吼える。ソードバニッシュ。付加された力は、陰。全力で、叩き込む。一瞬、眩く輝く黄の宝珠。それが、最期。光はゆっくりと輝きを失い、消えた。 「……なかなかシンドイ、ね……。これ……」 「ドクター、私の後ろに」 胸を押さえて息を吐くレオノルに、呼びかけるショーン。使徒の猛攻の中、応戦に手一杯。震える身を、抱き上げる事もままならない。 「全く……。憎悪で心臓を鷲掴みにされたみたいだよ……」 言いながら放つ、ロックバーン。直撃を受けた使徒が、落ちる。 「そんな心、もうない筈なんだけどね……」 弱々しく笑う彼女。『無理をしては……』と言うショーンの腕を借りて、立ち上がる。 「皆、頑張ってる。もちろん、君も。休んでいる訳には、いかないよ……」 ふらつきながら、龍を見下ろす。 「何で、昔の人は彼女に関するモノを焚書してしまったんだろう……。こんな時に備えるために、必要なのに……」 青い瞳が揺れる。何かに、苛立つ様に。 「……それに、浄化されたら、彼女はどうなるんだろう……?」 譫言の様に、紡ぐ言葉。誰に、向けたモノか。 「寂しく……ないかな……? まだ仲間は、いるのかな……?」 彼女らしくはない、迷い。ショーンが、ゆっくりと口を開く。 「ドクター。私は、思います」 「……?」 「……凶行に及んだ人間達を愚かだと、一笑には付せません。当時の人間には、当時の人間なりの価値観がありました。まして、ラグナロクの最中。生と死が隣り合う中で、やまれぬ事情もあった筈です」 「………」 「ですが」 見上げる瞳。飛び交う使徒を迎撃しながら、続ける。 「それが彼女の悲しみを齎した事は、受け止めなければいけません。二度と、こんな惨劇が起きぬよう、戒める事。それが……」 真っ直ぐに見据え、放つ銃弾。四方に飛んだそれが、複数の使徒を撃ち抜く。硝煙の上がる銃口を下ろし、言葉を結ぶ。 「今に生きる、私達の役目かと……」 「………」 見上げていたレオノルの表情が、フッと緩む。 「やれやれ。『負うた子に教えられ』とは、よく言ったものだよ」 「すいません。口が過ぎました」 「いや、ありがとう。お陰で、目が覚めた」 かざす手。浮かぶ、複数の青い魔方陣。 「君の意見に、賛同するよ。そして、それを成すには……」 合わせる、照準。狙うのは、マッピングファイアによって一掃された空間の向こう。黄土の、宝珠。 「私達は、生きなきゃならない。絶対に!」 放たれる、無数のアクアエッジ。周囲の使徒を巻き込みながら飛んだそれが、宝珠へと突き刺さる。 「ごめんね。でも、譲る事は出来ないんだ……」 見つめる視線。宝珠の光が、眠る様に消えた。 「はぁっ!!」 気迫と共に放たれた爆裂斬が、龍の目で爆ぜる。生物にとって、最大の弱点の一つ。流石の巨体も、ビクリと震える。 「ラス! 今だ!」 返す手で使徒を弾きながら、ベルトルドが叫ぶ。声を受けたラスが、斧を振り上げる。灯る魔力は、火。全てを込めて振り下ろす先は、緑の宝珠。 乱打暴擲。 弾ける魔力。光が、失せる。 「これで三つ!!」 「動きは!?」 「駄目です! まだ、止まりません!」 援護をしながら上空を旋回していたアリシア。彼女の言葉に、ラスとベルトルドは歯噛みする。 「やっぱり、全ての宝珠を潰さないと……」 「行けるか? ラス」 「アンタ程、自在には行かないが……」 龍の身体の上。鵲を撃墜されて落ちたラスと、自ら降りて走る事を選んだベルトルド。受けたダメージには当然、差がある。 「オレは何とかなる。アンタは、他の宝珠を」 ラスの言葉にベルトルドが頷こうとした、その時。 悲鳴が、聞こえた。 振り仰げば、空に広がる爆炎。綺羅々と輝く琥珀の破片と共に落ちていく、ヨナの姿。 「あの馬鹿!」 舌打ちし、跳躍するベルトルド。空中でヨナを抱き止めると、そのまま共に落ちていく。見る見る迫る、地面。すれすれの所で、追ってきた鵲が受け止める。 「お前!」 怒鳴ろうと見下ろせば、微笑むヨナの顔。 「信じて、いたので」 その言葉に、ベルトルドはハァと溜息をついた。 「ああ、良かったぁ」 上空では、ヨナの無事を確認したカレナが青息を吐いていた。冷や汗を拭い、皆の援護に戻ろうとした時。 「!」 ハッと上を見る。昏い空と、遠く輝く明けの明星。何も、ない。誰も、いない。けれど。 「……これって……『アイツ』の……」 呟く声は、微かに震えていた。 「このぉ!!」 叩きつける刃。赤い宝珠の輝きが、消える。 「くそ! 止まらない! 吼えるの、ウザったい! それに……」 荒い息を吐きながら、毒づくラニ。その背に、赤い光。 「危ない!」 展開したペンタクルシールドが、熱線を弾く。返す手で放たれたワンダリングワンドが、使徒を落とした。 「サンキュ」 降りてきたセシリアに礼を言うラニ。鵲を落とされたラニは、彼女の援護を受けながら宝珠までたどり着いていた。しかし。 「にしても……」 「はい……」 見回す二人。取り囲む使徒の密度が、高くなっていた。相当数を落としたとは言え、残数はまだ200体以上。それが、残った宝珠を守る様に集結している。 幾重にも並んだ使徒のコアが、赤く光る。二人に集中する、照準光。 「……ヤバくない? コレ……」 「ですね……」 二人の言葉を肯定する様に、熱線が掃射されようとしたその時。 遠くの方で、何かが白い帯を引いて打ち上げられた。一拍の間をおいて破裂音が響き、キラキラと光る粒子が辺り一面に降ってくる。 「ん?」 整然と並んでいた照準が、乱れる。光だけではない。使徒達自身も、混乱する様に迷走を始めていた。 「な、なになに!?」 「これは……『魔力チャフ』!?」 粒子を手に取ったセシリアが、声を上げる。 『魔力チャフ』。魔力を装填したデコイを広範囲にばら撒き、探知系の能力を攪乱する軍事兵器。 「という事は……」 巡らせたセシリアの視界に、龍の破壊領域から離れた場所を並走する騎馬隊が映る。 「ノルウェンディ国軍!」 応える様に、雄々しい時の声が響いた。 「来てくれたんだね! すまない!」 戦域を離れ、隊に近づいたクリストフ。先頭を走る隊長騎に声をかける。 「礼を言うはこちらの方! 民の為の尽力、感謝する!」 走りながら応じる隊長。けれど、その表情に余裕はない。 「だが、時間がない! 最初の村は、すぐそこ!」 「!」 ハッと前を見るクリストフ。彼の視界に小さく、集落らしきモノが映る。 「住民の避難が完了していない! 病や老いで動けぬ者もいる! 何としても、到達する前に龍(ヤツ)を止めてくれ!」 「使徒は俺達が攪乱する! どうか!」 「浄化師(貴方)達にしか出来ない! 娘がいるんだ!」 口々に叫ぶ兵士達。彼らに向かって頷くと、クリストフは鵲の舵を切った。 次々と上がる白煙。降り注ぐチャフが、センサーを狂わせる。統率を失う使徒をすり抜け、接近する鵲。 「ヴォル!」 「ああ!」 掲げる斧。金色に輝く刃を、力いっぱい紫の宝珠に叩きつけた。 「陰気! 落とした!」 「後、一つだ!!」 叫ぶカグヤと、ヴォルフラム。残るは、水気の宝珠。 「これが、最後か!?」 鵲から飛び降りたニコラとリューイが、青の宝珠へ駆け寄る。 「急いでください! もう、村が!!」 脇に付けた鵲の上から、ヴィオラが叫ぶ。 「よし!」 ニコラが斧を構えたその時、一機の使徒が突進してきた。身軽なリューイは咄嗟にかわすものの、攻撃の体勢に入っていたニコラは間に合わない。 「うぉお!?」 真正面からぶつかられ、そのまま空中へと押し出される。 「ニコラさん!」 一瞬、躊躇するヴィオラ。リューイが、叫ぶ。 「行ってください! これは、僕が!!」 「……お願い!」 そう言って、ヴィオラは落ちるニコラを追う。残されたリューイ。剣を構えて、宝珠を見る。 「これさえ、撃てば……」 一瞬脳裏を過るのは、涙を流す龍の姿。振り払う様に、頭を振る。 「止めるんだ! それが、僕の役目なんだから!」 言い聞かす言葉。柄を握り締め、振り上げる。 ――瞬間、周囲の温度が引く様に下がった――。 「あら? やっちゃいますの? 坊や」 背後から、響いた声。聞き覚えのあるそれに、リューイの身体が固まる。 「でも、それは正しい事なのかしら?」 ゆっくりと、近づく気配。血の気が引く。肌が、泡立つ。 「知っているのではなくて? この子が、何でこうなったのか」 冷たい吐息が、耳朶に当たる。枯れた華の香気。甘い。死を、思わせる程に。 「そうですのよ。人(貴方)達が堕としたの。この子の、たった一人の……」 伸びてくる、白い手。優しく頬を、愛撫する。 「息子を殺して」 心臓が、跳ねる。斬り込む様な、痛みと共に。 「突き刺して。引きずり倒して。止めを刺せないから、生きたまま切り刻んで」 触れる肌は、冷たい。まるで、屍人のそれの様に。 「それを全部、この子の前でやったんですの。結界で動けない、この子の前で」 悍ましい、真実。知らなかった。知りたくなかった。 「ねえ、お優しい坊や。どう思う? どう、感じる?」 意識が染まる。昏く。何処までも、昏く。 「正義はどっち? 悪魔は、どっち?」 震える身体。頬を流れる、雫。 「どうすればいい? 刻まれた絶望。眠れない夜。痛い、傷。どうやって、癒せばいい?」 分かる。分かってしまう。痛みも。悲しみも。答え、さえも。 「選びなさいな。坊や」 笑む、気配。 「癒されるべきは、誰? 救われるべきは、誰? 罰せられるべきは、誰?」 とても、優しく。とても、冷酷に。 「全ては貴方の、思い次第」 伸し掛る。小さな肩に。闇が。罪が。絶望が。 「選びなさい。全てを賭けて、選びなさい」 突きつける。あまりにも残酷な、選択。 「さあ」 答えなんて、一つしかないのに。 「滅びるべきは、誰?」 抜ける力。枯れる、心。剣が、落ちる。 氷割れた闇が、ケタケタと笑った。 「村が! 間に合わない!!」 「ちくしょう! どうなってるんだ!?」 叫ぶ皆の行く手を、無数の使徒が阻む。響き渡る慟哭。疲れ果てた身体を、打ちのめす。 「止まって! お願い、止まって!!」 光の失せた宝玉。縋り付く様に、アリシアが叫ぶ。 「違うんです! あの人達は……あそこにいる人達は違うんです! 貴女の仇では……子供を殺した人達じゃないんです!」 願いは、届かない。届くべき、場所もない。 「分かって! お願いだから! それを知る貴女が、同じ悲しみを増やさないで!」 龍は進む。想いも。悲しみも。憎悪すらも。代価に捧げ。空っぽの、慟哭だけを纏って。 「駄目ぇ!!」 願いは虚しく、虚空に散る。村はもう、目の前。 吼える衝撃が、リューイの意識を呼び戻した。振り返った先。そこには、風になびく赤いポニーテール。構えられた鉄杭が、ガシャンと唸る。 「いい所でしたのに。いけない娘ですの」 遊びを邪魔された子供の様な顔で、最操のコッペリアは笑う。 「うっさい! ボクの友達を、誑かすな!」 子犬の様に牙をむくカレナ。その姿を、リューイは呆然と見守る。 「誑かすなんて、心外ですの。わたくしは、正しい道を示そうとしただけ……」 「それが余計な事だって言ってるんだ! この、ロリババア!」 「ロリ……!?」 ピシリと固まるコッペリア。その隙に、カレナは呼びかける。 「リューイ君、聞いて。上手く言えないし、そんな暇もないけど、ちょっとだけ」 振り向く事はしない。眼前の魔性を見据えたまま、少女は紡ぐ。 「正しい事なんて、分からない。君もだし、ボクだってそう。色々間違えたし、これからも間違える」 凛と響く声。爛れた心が、微かに揺れる。 「でもね、確かな事はある。君は、君達は、助けてくれた。ボクを。ボクのセルシアを。だから、ボク達は生きてる。生きて、こうして大事な君達を守れてる。それだけは、確かな事」 風が吹く。髪が舞う。まるで、戦乙女の翼の様に。 「ボクは決めたんだ。君達が救ってくれたこの命で、今度は君達を、沢山の人を守ろうって。そして、それはきっとこれまで君が救ってきた人達も同じ」 光が射す。遠く、山峯の果てから。 「沢山の間違いの中で、ほんのちょっとの奇跡を繋いでいける。それだけで、いい。許されないかもしれない。いつか、罰を受けるかも知れない。けど、それでも……」 カレナが、こちらを向いた。少しだけ。光の中で。 「掴める奇跡だけは、諦めちゃ駄目だから」 少年と、同い年の筈の微笑みは、とても。とても――。 「むきゃー!!」 怒号と共に、青白い焔柱が吹き上がる。叩きつける氷風。冷気と憤怒を纏ったコッペリアが、爛々と目を光らせる。 「言うに事欠いてロリババアとは……! 子羊と言えども、許せないですの!」 「だってアンタ、そんな形してボクらよりずっと年上じゃんか! ババアじゃん!」 「まだ言うかー!!」 「ふーんだ! ババー! ババー! 大年増―!!」 ヒクヒクと絶句するコッペリア。言葉の暴力は、こんな巨悪にも有効らしい。 「……コ・ロ・ス……」 キレました。キレますよね。 コッペリアが、吹き荒ぶ蒼炎を放つ。周囲の大気を凍てつかせながら迫るそれは、さながら終末の浄火。 「それが……」 身をかわすカレナ。そのまま、宙に身を躍らせる。 「む!?」 「カレナさん!?」 「こっちの思う壺!!」 瞬間、射出されるパイルバンカーの鉄杭。長い鎖を引いて飛んだそれが、コッペリアの身体を巻き取る。 「あ、あら? ですの」 不意をつかれたコッペリア。そのまま、落ちるカレナに引っ張られて宙に踊る。 「あーれー!?」 「カレナさん!!」 駆け寄る、リューイ。コッペリア諸共落ちていくカレナが、精一杯の声で呼びかける。 「前を見て! 答えはきっと、そこにあるから!」 「!」 弾かれる様に、前を向く。あったのは、間近に迫った村の光景。そして――。 ――赤ん坊を抱き、崩れ落ちた母親。そして、彼女達を守ろうと、両手を広げる少女の姿――。 高鳴る、鼓動。声が、響く。優しい、微笑みと共に。 そう。役目なんかじゃない。ただ、この手で――。 もう、迷いはなかった。 爆ぜる魔力光。 衝撃が、龍の身体を突き抜ける。 ハッと顔を上げる皆。軋む龍が、六つの頭全てが、慟哭を上げる。まるで、最期の抵抗の様に。 乱れ狂う、理(ことわり)。支配に押しつぶされ、崩れ落ちる皆の前。迷走していた使徒達のコアが輝く。無数の照準が向けられるのは、村。見える、全ての人々。白の天兵が継ぐは、あまりにも悲しい、彼女の意思。 ――せめて、一人でも――。 動けない浄化師達の前で、幾条もの無情の業火が放たれる。 けれど。 それよりも速く閃いた、一筋の閃光。不規則な起動を描いたそれが、一瞬で全ての使徒のコアを貫く。巻き起こる無数の爆炎。紅く染まる明星の向こうに、人々は見た。 空に浮く、八つ足の黒馬。そして、それを駆る銀鎧の戦士の姿を。 「……オーディン……」 呟かれた言葉は、誰のものか。 堕ちゆく炎塊。白みゆく、空。その中で、全ては夢の如くに消えた。 ――午前6時27分。アジ・ダハーカ、停止――。 尚その頃、動かなくなった龍の首にて。 「ア・ン・タ・は~! 何処まで面倒かけたら、気が済むのよ~!!」 「ア、アハハハハ……」 必死のセシリアに支えられて、身を乗り出したラニ。その手に足を掴まれてぶら下がるのは、ボロボロの体(てい)のカレナ。カッコつけた手前、非常にバツが悪い。 額に青筋浮かべたラニが、がなる。 「お礼!! スペシャルDXウルトラロイヤルタピオカミルクティーLLサイズ!! 人数分、追加ぁ!!」 「ふ、ふみゃあぁあ~~~!!」 「いいから、早く上がって~!!」 朝焼けの空に、三者三様の声が響いた。
|
||||||||
*** 活躍者 *** |
|
|
|||
該当者なし |
| ||
[42] リチェルカーレ・リモージュ 2019/12/13-22:00 | ||
[41] クリストフ・フォンシラー 2019/12/13-21:24 | ||
[40] レオノル・ペリエ 2019/12/13-21:05
| ||
[39] リューイ・ウィンダリア 2019/12/13-20:41
| ||
[38] カグヤ・ミツルギ 2019/12/12-23:47 | ||
[37] ヨナ・ミューエ 2019/12/12-00:49 | ||
[36] アリシア・ムーンライト 2019/12/11-23:27
| ||
[35] リチェルカーレ・リモージュ 2019/12/11-23:08 | ||
[34] ニコラ・トロワ 2019/12/11-22:36
| ||
[33] ニコラ・トロワ 2019/12/11-22:33
| ||
[32] クリストフ・フォンシラー 2019/12/11-22:24 | ||
[31] ヨナ・ミューエ 2019/12/11-22:03
| ||
[30] ヨナ・ミューエ 2019/12/11-19:24 | ||
[29] ラニ・シェルロワ 2019/12/11-18:13
| ||
[28] クリストフ・フォンシラー 2019/12/10-23:38 | ||
[27] リューイ・ウィンダリア 2019/12/10-23:24
| ||
[26] リチェルカーレ・リモージュ 2019/12/09-23:43 | ||
[25] レオノル・ペリエ 2019/12/09-23:27 | ||
[24] ヴォルフラム・マカミ 2019/12/09-23:24
| ||
[23] クリストフ・フォンシラー 2019/12/09-23:13 | ||
[22] ヴォルフラム・マカミ 2019/12/09-22:52
| ||
[21] ニコラ・トロワ 2019/12/09-21:55 | ||
[20] リューイ・ウィンダリア 2019/12/09-20:19 | ||
[19] クリストフ・フォンシラー 2019/12/09-17:49 | ||
[18] ヨナ・ミューエ 2019/12/09-16:03 | ||
[17] ラニ・シェルロワ 2019/12/09-00:20 | ||
[16] レオノル・ペリエ 2019/12/08-22:40 | ||
[15] ニコラ・トロワ 2019/12/08-22:11 | ||
[14] シリウス・セイアッド 2019/12/08-22:02 | ||
[13] リチェルカーレ・リモージュ 2019/12/08-21:44 | ||
[12] リューイ・ウィンダリア 2019/12/08-10:07 | ||
[11] クリストフ・フォンシラー 2019/12/08-00:36 | ||
[10] リチェルカーレ・リモージュ 2019/12/07-23:02 | ||
[9] リューイ・ウィンダリア 2019/12/07-20:16
| ||
[8] ラス・シェルレイ 2019/12/07-19:55 | ||
[7] ヨナ・ミューエ 2019/12/07-16:29 | ||
[6] ニコラ・トロワ 2019/12/07-14:57 | ||
[5] レオノル・ペリエ 2019/12/06-22:36
| ||
[4] リチェルカーレ・リモージュ 2019/12/06-20:56 | ||
[3] クリストフ・フォンシラー 2019/12/06-20:47 | ||
[2] ヴォルフラム・マカミ 2019/12/06-16:15
|