~ プロローグ ~ |
「浄化師の諸君! いいか、司令部教団員であるヤコブ・フェーンが君たちに命ずる」 |
~ 解説 ~ |
●成功条件 |
~ ゲームマスターより ~ |
プロローグを乗っ取ってしまったヤコブですが、エピソードではちゃんと浄化師たちがメインです、安心してください。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【目的】 ・アイテム使用で対象の警戒を解きたい ・皆に行動を合わせ、穏やかのどかな雰囲気作りへの努力をしたい 「ヤコブ・フェーン──無能が。 行くぞアリア。苛立たしいが、構うだけ時間の無駄だ」 1.『憩いの広場にて、対象が日向ぼっこをしている』という目撃情報を元に、目標であるルベッタの姿を確認 2.檻を対象から見える範囲で遠目に離れた所に設置する ※シリウスのスキル実行後 3.温和と聞いている対象にゆっくりと近づき、警戒をさせずに近寄れる状態になったら、目の前で所持アイテムの非常食を全て開封し、そっと差し出す (食べることは強要しない) 4.その後の行動は周囲に合わせ、対象を警戒させない雰囲気作りに協力する |
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事前:普段ケルベレオンに使用しているおもちゃを借りれないか依頼 あおい: (救急箱)万が一に備えて用意しました 少しでも怪我はよくありません。気付いたら即手当てします 満腹後に疲れるまで遊べば眠ってしまいそうですね シリウスさんの対応後にゆっくり近づき おもちゃかマヤ(人形)を動かし興味を引かせる マヤ…舐められても少し我慢してね。 イザーク: まず信頼関係を築く事が大事だろう。武器は見えない様所持 事前に教わったケルベレオンの情報を元に接する もしもの噛みつき対策にカジュアルバンドを使用 疲れるぐらい遊ぶなら走り回らせた方がよさそうだな おもちゃなどを転がしたり追いかけっこをする あおいも表情硬いな…ほら君もリラックス |
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ルべッタちゃんの保護 戦闘行為をせず お家に連れて帰れますよう 皆で力を合わせてがんばります 広場に向かう前に 調教師さんから話を聞く ケルベレオンのもう少し細かい習性 好きなこと 嫌いなこと どんな風にすれば仲良くなれるか わかったことは皆に伝える 広場についたら まずシリウスが近づく 事前情報も参考に 警戒心が取れるよう 近づいても怒らない 触れられる程度になれば仲間に合図 食事をあげたり沢山撫でて仲良くなれたら 一緒に遊びましょう 追いかけっことかしたら ルベッタちゃんも心を開いてくれるかしら? 疲れたころに エマさんの演奏に合わせて歌を ルベッタちゃんが眠れば そっと寄り添って赤ちゃんにするように体をとんとん 使用スキル 動物好き 歌唱 |
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◆目的 ケルベレオンを戦わずに飼い主の元へ帰す ルベッタちゃんも私達も皆が嫌な思いをせずに任務を終えられますように ◆行動 ◇ミハエル アイテム【ソーイングセット】、アビリティ【裁縫・デザイン】を使って、事前に『ソラリユさん達から借りていた毛布』にリボンや花といった可愛らしい刺繍をします。 ルベッタ様が気に入ってくれるといいのですが。 ◇エマ ・ルベッタちゃんへのアピールはセイアッドさんの行動の後に行う。 ・アイテム【アイリッシュハープ】、アビリティ【楽器・作曲】を使って、一緒に歌ってくれるリチェさんと呼吸を合わせながら楽しげな曲を演奏。 ルベッタちゃんが遊び疲れて眠たそうにしてたら子守歌のメロディーを奏でますね |
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ケルベレオンを見るのってはじめてです どんな外見なんでしょう… …あ。す、すみません、依頼中なのに ルベッタちゃん捕獲を目指し、他のメンバー達と協力して行動する セイアッドさんが行動するまでは待機して様子を見守る 調教師から話を聞いてきた方から話を聞いて情報整理 平和的に解決できれば、一番ですよね 体力はそれなりにある方だと、思うので、頑張って一緒に遊びます…! 仲良くなれたら、嬉しいのですけれど… 基本的にスキルがないので後手後手行動 ルベッタちゃんが疲れて眠るまで一緒に遊ぶ 怒らせないよう言動には気を遣う 声を掛けるときは声色に気を付け、敵意があると認めらるような行動はしない 様子を見て大丈夫そうなら少し撫でてみる |
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◆心構え ・ケルベレオン…ルベッタさんを助けたい 頭が三つなんて…こ、怖い…けど… 温厚で賢い子…みたいだから…大丈夫、ですよね? ◆事前準備 ・応急処置 誰かが怪我をした際に、わたしも…お手伝い出来たらって…。 ◆捕獲 ・皆がルベッタと歩み寄る姿にキラキラ尊敬の眼差し ・勿論自身も檻へ誘導する際指示に従いながらお手伝い ・何事も怒らせないよう慎重に わ…皆さん凄い… わたしもルベッタさんの為に…自分が出来そうな事… 歌を歌えたり、動物に歩み寄れるのは…素敵だなと思います。 わたしもいつかそう言う事…な、何でもないです! ◆終了 ・檻越しか何かで主に許可を得てルベッタを撫でてみたい 動物は好きなのに怖がってちゃダメ…ですよね。 |
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・ツバキ 言っちゃえば、ただ逃げたペットを連れ戻して欲しいだけよね なら戦うような事は避けたいわね 捕獲に関しては大人数で行くと逆に警戒されちゃうし、 初めは少し離れて様子を見て、落ち着いた所を近寄ってそっとふれあってみようかしら 声掛けをしてゆっくり頭や体を撫でてみるわ 敵意を見せなきゃきっと大丈夫よ あとはサザーが変に刺激しないか不安ね…… ・サザーキア 本能が言っているニャ ケルベレオンは怖そうだから刺激はしたくないニャ 一緒に日当たりのいいところにいたいニャ! ツバキの目を盗んでこそこそ離れて、そのまま近くに寄って日向ぼっこニャ ボクはそいつに何もしないニャ 一緒に日向ぼっこした仲ってことでお友達になりたいニャ! |
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●リーゼ行動 現場へ向かうまでの間、広場周辺に住人や観光客がいないか確認を行います 立入禁止に興味本位に近寄るような……野次馬、と言えばよいのでしょうか? そうした方々がいらっしゃれば決して近寄らないよう警告を行います (捕縛の件自体に秘匿の必要性ある場合、教団絡みの危険性を孕む案件としての警告に留める) ルベッタちゃん捕縛の折には皆様の支援に徹します 標的を逃がさないよう視界の通りやすい後方にて待機しつつ監視 檻に入れる際に押し込む必要などがあればお手伝い致します ●ギル行動 基本的にはリーゼたんの行動のお手伝いしてあげるよ~ 僕は優秀なパートナーだからねぇ、フヒヒヒ! ●両者の関係 リーゼは基本的にギルの事は無視 |
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~ リザルトノベル ~ |
「ルベッタちゃんが捕獲できなければ、無能な諸君等には教団に居場所はない。分かっているな!」 ヤコブ・フェーンが熱弁を振るえば振るうほど部屋の温度が下がる一方だった。 白けた表情を浮かべる浄化師もいれば、シリウス・セイアッドのように無言だが、氷点下の視線をヤコブに向けるものも少なくない。彼のパートナーであるリチェルカーレ・リモージュは、同じく黙ってはいるものの、密かに握り拳をしながら「早くお家に連れて帰ってあげなくちゃ」と表情に書かれていた。 不穏な空気にようやくヤコブも気づいていたようで、任務を丸投げしようとしていたその矢先。 「……無能が。行くぞ、アリア。苛立たしいが、構うだけ時間の無駄だ」 「今回ばかりはミコトの言う通りだわ。あーあ、時間を無駄にしちゃった」 これ以上、話を聞いても無駄だと判断したミコト・カジョウが真っ先に部屋から出て行く。パートナーのアリア・ソラリユもその後に続く。それを切っ掛けに他の浄化師も部屋から次々に出て行く。 「待て! お前たち、私の話はまだ終わっていないぞ!」 引き留めようとするが、その制止を聞くものはおらず、残ったのはヤコブの傲慢な態度と貴族優先主義に異を唱えようとしていたリーゼ・アインベルクと、そのパートナーであるギル・マイヤーだけだった。 「ふ、ふむ。出て行った奴らとは違い、お前たちは中々見所があるじゃないか!」 「私は貴方に言いたいことがあって残っていただけです」 「ふん、何だ? 折角だから聞いてやろうではないか。言ってみよ」 「あの言い方はないと思います! 人々を守る為に力を使うのが、教団員としての勤めではないのですか!?」 真面目な少女はヤコブのやり方に反発する。美少女から口答えされたヤコブは先ほどの浄化師たちの態度を思いだし、ついに怒りを爆発させた。 「全く最近の新人はどうなっているんだ!? 教育がなっておらん!」 「そうですよね~、ヤコブ様。僕もそう思います、全くあいつらときたら!」 「なっ!? 貴方どっちの味方なんですか!」 ヤコブに媚びへつらうギルの手のひら替えしにリーゼは非難の声を上げる。 「そんなのぉ、(権力を持っている)ヤコブ様の味方に決まってるじゃないか!」 ぼさぼさの髪で表情は分かりづらいが、陰湿そうな表情で楽しげに笑っているのを見て、リーゼは唇を噛む。 「うんうん、君は目の付け所がいいな、ギル君だったかな? 君のことはよく覚えておくよ。しかし、パートナーの躾がなっちゃいないんじゃないかい?」 「心配しないで下さい、ヤコブ様。僕がしっかりとリーゼた……ちゃんをしっかりと躾直しますから!」 自分に敬意を払うギルを見て気を良くしたのか肩に手を置き、「頼んだぞ」と言って上機嫌で部屋から立ち去って行った。 完全にヤコブがいなくなったのを確認すると先ほどまでの態度とは一変し、ネチっこい口調でいじりだした。 「あ~あ、リーゼたん上の人を怒らせちゃって、パートナーである僕にまで迷惑がかかるじゃないか」 「あ、貴方は自分のことだけしか考えていないんですね!」 「僕たち運命共同体なんだから……あぁ、運命共同体っていい響きだなぁ。僕のリーゼたん……」 「貴方のものになったつもりはありません!」 その時のことを思いだし、リーゼは大きくため息を付く。 今は他のメンバーの代わり、封鎖した周辺に野次馬がいないか巡回中だった。隣に「リーゼたんのお手伝いをしてあげるなんて、僕って優しい。フヒヒヒ!」と付きまとってくる男がいなければ、もっと任務に集中できるのに。 (私も広場で同じ教団の女の子と仲良くしたい……) やるせない現実にため息を付かずにはいられないリーゼ。 「リーゼさん、そちらの見回りは終わりましたか?」 そう声を掛けてきたのは鈴理・あおいだった。その隣にはパートナーであるイザーク・デューラーがいる。 「はい! ……野次馬が何人かいましたが、問題ないですよ」 「そうですか、こちらも何人かの観光客が知らないで近づいていたようなので近寄らないよう注意しておきました」 「全くリーゼたんをナンパするなんて、けしからん! いいぞ、もっとやれ」 「ギル!」 ぼそりと呟いたギルに顔を赤くしながら抗議する。 「それは……大変でしたね」 あおいが労ってくれるのに、リーゼは癒されるのだった。 * 一方、憩いの広場の方では、ケルベレオンを探すチームと事前準備をするチームに分かれて動き出していた。 そんな中、レガート・リシュテンは真っ先にルベッタを発見した。目撃情報の通り、芝生のある木の木陰でルベッタは悠然と体を横たえていた。レガートの存在に気づいているのか、威嚇はしないものの金色の目がじっと見ている。 レガートに敵意がないことを悟ったのか、それとも興味を失ったのかは分からないが猫のように芝生に顔を伏せた。 レガートとルベッタが見つめ合っていたのは数秒のことだった。無意識の内に握りしめていた手は汗だらけだった。 やはり温厚だと言われても番犬として飼われているだけある。丸腰で猛獣と向かい合うのは、浄化師といえども冷や汗ものだ。 同時に本で読むのと実物を見るのとでは全く違うなと知識欲が刺激される。 (三頭というのは感情も共有しているのだろうか興味深いな。二頭は頭を伏せているけれど、もう一頭はこちらを警戒し続けていますね) 広場に向かう前にパートナーである唐崎・翠と話していた会話を思い出した。 「ケルベレオンを見るのは初めてです。どんな外見なんでしょう……あ。す、すみません、依頼中なのに」 この時、お互い任務から逸れたことを考えていた事に対して、「似た者同士ですね」と笑い合ったのだ。 (翠さん、実物を見たら驚くだろうな……) レガートは背中を見せることなく、ゆっくりと後ろ歩きで立ち去る。ルベッタの見えない位置まで来ると安堵の息を吐き、仲間たちに報せるべく走り出した。 事前準備のチームの方では、檻やルベッタを懐柔する道具の手配、広場の周辺に人がいないかの巡回などで慌ただしく動いていた。 ミハエル・ガードナーはアリアから借りた毛布を持っていた。事前に借りていたシンプルな毛布にミハエルがリボンや花などの女の子が好みそうな可愛らしい刺繍を施したものへと変わっていた。 「毛布、可愛くなりましたね!」 「ルベッタ様が気に入って下さるよう心を込めました」 「きっとルベッタちゃんも気に入ってくれます、だってこんなに素敵なんですから!」 可愛らしくなった毛布に目をきらきらと輝かせながら見つめるエマ・シュトルツ。 「うわあ、普通の毛布だったのに可愛くなってる! これ時間かかったんじゃないの?」 アリアが毛布の仕上がりを見て、興奮気味に声をかける。その横で感心したように見ていたミコトがミハエルに尋ねる。 「確かに刺繍は手間がいるものと聞く、大変だったのではないだろうか?」 「問題ありませんよ。お恥ずかしながら裁縫の腕はプロには及ばず、簡単なものばかりしかできませんでしたが」 ミハエルは一貫して謙遜する姿勢を崩さない。アリアは受け取った毛布を大事そうに受け取った。 「うにゃー、あの毛布でごろごろしたいニャー」 「ダメよ、サザー。あれは捕獲のために使うんだから」 うずうずと毛布を目で追うサザーキア・スティラに相方であるツバキ・アカツキが釘を刺す。 「……こ、怖いけど……温厚で賢い子……みたいだから、……大丈夫、ですよね?」 ルベッタ捕獲を前にして肩に力が入っている杜郷・唯月を見かねて、泉世・瞬が声をかける。 「うーん、仕事上、一二度見たことはあるんだけどね。俺動物好きなんだけど、……なんだか吠えられる事が多いんだー、だから、あんまり近寄ったことなくて……」 「そ、そうなんですか。ちょっと、……意外です」 「何がー?」 「え、えっと……瞬さん何でもスマートにこなせる、から……動物にも、好かれるんだろうなって……思ってて……すみません……」 「そんなことないよー。でも、そういう風に俺思われてたんだ。なんか嬉しいや」 照れくさそうに頬をかく瞬にホッとした表情を浮かべる唯月。 「俺……動物好きなんだけどなぁ。悲しいっ、裏方で頑張るけどさ。俺もルベッタちゃんの為に何かしたいよー!」 「き、きっと大丈夫です……この任務を、頑張ることが……ルベッタさんの為になりますよ……!」 落ち込む瞬を励ますように両手で握り拳をつくって励ます唯月だった。 「……温厚とはいえ、番犬をするような生き物だ。むやみに手を出すなよ」 「ええ! ぎゅっとするのは仲良くなってからね」 リチェルカーレの返答にシリウスは額を押さえながら、大きくため息を吐き出した。 リチェルカーレがルベッタと触れ合えるとはしゃいでいる一方で、シリウスは一抹の不安を感じながらも調教師に言われた言葉を思いだしていた。 「ケルベレオンに留まらず野生の生物を躾するために重要なことは一つです。誰が強者なのかを分からせる事です!」 「え?」 調教師にケルベレオンと接する上で気をつけるべきことは何かと質問していたリチェルカーレが突然のことに固まる。 「あ、あの私が聞きたいことはそういうことではなくて――」 リチェルカーレが根気強く質問を続け、調教師からケルベレオンの習性や好きなもの、嫌いなものを聞き出した。ルベッタの使っていた特殊な生地を使った遊び道具――細長いエビ型クッションも借りることができた。 シリウスも調教師の話を横で聞いていたが、何度も調教前のケルベレオンには気をつけるように言っていたことが気にかかっていた。 思案気に考え込んでいたシリウスだが、 「皆さん、ルベッタさんが見つかりましたよ」 レガートの声で現実に引き戻される。 全員が集合したところでレガートが口を開いた。 「南の方にある芝生の所にいました。ですが、こちらが思っていた以上に警戒心が強いようです」 「なら、俺が行く」 シリウスが他に意見はあるかと尋ねようとしたとき、リチェルカーレが声を上げた。 「シリウスが行く前に調教師さんから聞いた話をしていいですか? まだ皆さんに話していなかったので、私から説明しますね」 シリウスの方を見て確認を取ると、彼は無言で頷いた。リチェルカーレが調教師に聞いてきたことをそのまま伝えていく。 一通り伝え終わった頃、翠が聞いた内容を情報整理するように呟いた。 「好きなものが音楽と甘いものだなんて、可愛らしいですね。特に果実や蜂蜜を好むところが女の子みたいだわ」 「見た目は可愛らしいと言うよりかっこいいと言った方がいいですけどね」 翠の言葉にレガートが苦笑いするように答える。 「そうなんですか? 私てっきり可愛いものだとばかりに」 「可愛いと思うかは個人の感性だと思いますよ。……確か、強い匂いや大きな音には警戒してしまうそうなので、優しく声をかけてゆっくりと近づく方がいいかもしれませんね。見た限りは猫にも近い気性も備えているように見えましたよ」 そうシリウスに伝えると彼は黙って頷いた。 「言っちゃえば、ただ逃げたペットを連れ戻して欲しいだけよね。なら戦うようなことは避けたいわね。捕獲に関しては大人数で行くと逆に警戒されちゃうし、初めは少し離れて様子をみた方がいいかしら、ね。サザー」 仲間たちの話を聞いていたツバキはサザーに話しかけるが、 「サザー、いい? 変に刺激しちゃ……あら? サザー?」 「だいじょーぶ、何もしないニャ、一緒にお昼寝するニャー」 そう言ってサザーキアが走り去った。そのままルベッタのいる方向へとツバキが止める暇もなく、消えていく背中。我に返ったツバキは慌ててその背中を追って走り出すのだった。 「っ!?」 シリウスがルベッタのいる芝生に着いたとき、ルベッタと木の間を挟んで猫耳の少女が無防備に「うにゃー」と鳴きながら昼寝をしていた。彼女の相方であるツバキも遠くから離れた位置で必死に身振り手振りで合図しているようだが、サザーキアは全く気づいていなかった。むしろそのまま呑気に眠り始めている。 後ろから「どうしましょう!?」という仲間たちの動揺する声が聞こえてくる。ルベッタも騒々しさに気づいたのか、三つ頭の内一つ頭がこちらを警戒するように顔を上げた。 シリウスは想定外の事態に動揺するが、そのまま計画通りに動くことに決めた。 「俺は敵じゃない」 普段の彼からしたら随分と優しい声音で話しかける。 丸腰のままゆっくりと2メートル手前まで近づいて片膝を着く。ルベッタの警戒心が解けるまで辛抱強く待つことにした。 こちらが気を引いている間に、サザーキアが逃げてくれないかと考えていたが、すでに彼女は夢の中に飛び立ってしまっていて無理そうだ。 どれくらい時間が経っただろう。 唸り声こそ上げないものの一つ頭はこちらをじっと見ている。シリウスはそっと下の方から手を伸ばした。それに一つ頭だけでなく、三つ頭が反応し、真ん中の頭が警戒しながらも鼻をひくつかせながら、匂いを嗅いだ瞬間。 「っ!」 「グウゥッ……」 シリウスの伸ばした手のひらにルベッタの鋭い牙が食い込み、地面に血がぽたぽたと流れ落ちる。 離れて見ていた仲間たちも一瞬空気が張り詰める。シリウスは後ろを振り返ることなく、仲間たちに片手で手を出すなと合図を送ったことで収まる。 だが、パートナーであるリチェルカーレは動揺したままだった。後ろでシリウスが血を流すのを見てリチェルカーレが声にならない悲鳴を上げる。 咄嗟にシリウスに駆け寄ろうとするのをミコトが引き留め、アリアが落ち着かせようとしている。あおいと唯月は応急手当がいつでもできるよう準備していた。 「怖がらなくていい、大丈夫だ」 子供に言い聞かせるように優しく声をかけ続けるが、ルベッタはシリウスの手を噛んだまま放そうとしない。 「あおい、ちょっといいだろうか」 「イザークさん、こんなときに何ですか」 てきぱきと医療キットを準備していたあおいに声をかけたイザークはある提案を持ちかけた。 「君はマヤを動かせるだろう。借りてきたおもちゃを動かして気を引いてみるのはどうだろうか?」 「……動かすことはできますが、刺激してしまわないでしょうか?」 「万が一の場合に備えて俺が動こう。もちろん峰打ちですませるさ」 不安げに呟くあおいに後押しする。あおいは迷いを振り切り、顔を上げる。借りてきたエビ型クッションを取り出し、操り始めた。 「いきますよ、エビさん」 赤いエビがぴょんぴょん跳ねながらシリウスに近づいていく。シリウスの周りをぴょこんと近づいては離れるエビにルベッタの狩猟本能が擽られたようで三つ頭とも目が釘付けだ。 エビが挑発するようにちょっと近づいてすぐ逃げだそうとした瞬間、ルベッタは本能に負けたのか飛びかかった。そのままエビを両腕で抱きしめて頭にかぶりついている。 それを見て、操っていたあおいはホッと安堵のため息をもらした。 「上出来だ!」 「ええ、イザークさんの提案のおかげです。それでシリウスさんは大丈夫でしたか?」 「ああ、彼は今手当を受けているようだよ。心配ない、それほどひどい怪我ではないようだ」 その言葉を聞き、安心した表情を浮かべるあおい。 「今のように君はもう少しリラックスした方がいい」 「今は任務中ですから、気を抜くなんてできません。私は怪我の様子を見てきます」 「なら、俺はケルベレオンの方を見ておこう」 イザークの言葉に頷くとあおいはシリウスたちのところへ足早に向かった。 「ごめんなさい……シリウス」 「何を謝っているんだ、お前は」 「任務なのにはしゃいでしまって……私がしっかりしていたら」 「お前のせいじゃない、気にするな」 「でも……」 暗い表情で俯くリチェルカーレにシリウスは表情こそ変わらないものの内心困っていた。そんな二人の間で唯月は気まずそうに手当を続けていた。 「あの、シリウスさん大丈夫でしたか?」 「ああ、問題ない」 気まずい空気の中、あおいが声をかけると、シリウスが素っ気なく返事する。 「お手伝いしようかと思って来たんですが、その必要はないようですね」 「包帯がきれいに巻かれていますね」とあおいが誉めると、唯月が照れたように俯く。 「私も手際よく手当できるように見習いたいです」 「えっと、あの……ぁありがとう、ございます」 ぎこちないながらも二人が会話する横でシリウスたちは互いに無言のまま時間が過ぎていく。 「アリア、ルベッタと一緒にお昼寝するのは諦めろ」 隣にいたミコトがそういうのをアリアは驚いた表情で見ていた。 (確かに「大きな獣って素敵よね。傍にいると安心するというか。そうだ! 一緒にお昼寝とかいいわよね」って、はしゃいでいたけど、ミコトは聞き流しているみたいだったし、まさか覚えているとは思わないじゃない) 「……やっぱり危ないかしら?」 「お前がルベッタと昼寝しようと言っても俺は認める気はないが」 未練たらたらに尋ねるアリアにミコトはきっぱりと答える。 「それに折角ガードナーさんが刺繍してくれた毛布もあのエビのように噛みつかれてボロボロになる未来しか見えないのだが」 ミコトが指さした先には、ルベッタに弄ばれてボロボロになったエビが頭からかじられているのが見えた。 「……そうね、可愛らしくなったのにボロボロになったら、なんだか悲しいわよね。今回は諦めるけど、いつか絶対に撫でたりするんだから!」 今回は、を強調するアリアは全く諦めているようには見えない。ミコトは深くため息を付くのだった。 「とにかく、俺は非常食を食べるか試しに行ってくる」 「そうね、お腹空いているからイライラしてるのかもしれないし」 ミコトは非常食を全て開封し、ルベッタから少し離れた場所に置くが、ルベッタはエビに夢中だ。匂いを嗅ぐどころか見向きもされず、ミコトは肩を落としてアリアの所まで戻ってきた。 「っふふ、全く見向きもされなかったわね」 「……笑いたければ笑え」 アリアはツボにはまったのか、声を押し殺しながら肩を震わせていた。 ルベッタと疲れさせるまで遊ぶどころか、警戒心が解けているのかも微妙なところ。 現状手詰まりになったところで、優しく揺りかごを揺らすような子守唄が広場に響き始めた。 エマはルベッタから離れた位置にあるベンチに腰掛け、アイリッシュハープを奏でる。それを見守るミハエルはエマを守るように位置取っていた。 繊細で優しげなメロディーは、ゆるやかな波のように広がっていく。ルベッタの耳もぴくりと動かすと、遊ぶのをやめて音楽に反応する。ゆっくりと体を起こすと、まるでエマの演奏に耳を澄ませているような反応を見せた。 隣に立つミハエルはエマが楽しそうに演奏するのを見て、微笑を浮かべた。ミハエルは演奏する直前のことを思い返す。 「ルベッタちゃんは音楽を好きだと聞きました、私が演奏すれば少しは警戒を解いてくれるかもしれません。私、皆さんが傷つくのもルベッタちゃんが人を傷つけるのも見たくないんです!」 「エマ様……」 「浄化師の任務は戦うばかりじゃないって、戦わなくても解決できるんだって、証明したいんです」 エマがスカートをぐっと握りしめる。 ミハエルはエマがそんなことを考えていたことを見抜けなかった自分を恥じる。 「エマ様、あなたの望み通りに」 ミハエルの葛藤すら宥めるように揺籃歌はエマの心情を映し出すように暖かで何かを願い、祈るようなメロディーが奏でられていく。 それはルベッタも例外ではなく、三つ頭がうとうとと揺れていた。 「……きれい」 そんなハープの優しいメロディーにリチェルカーレは俯いていた顔を上げる。落ち込んでいたリチェルカーレの心に響く音色。 「リチェ」 静かな声でシリウスに名前を呼ばれ、肩が一瞬震える。何を言われるのか待っていたリチェルカーレにかけられた言葉は優しいものだった。 「お前が失敗したと思うなら、任務で挽回すればいい」 「はい!」 不器用なシリウスなりの励ましにリチェルカーレは立ち上がった。 (落ち込んで立ち止まってたらダメだわ。……シリウスは待っていてくれるけど、それに甘えてばかりなのはもっとイヤ) 深く息を吸い込むとリチェルカーレは背を真っ直ぐに伸ばし、胸で両手を組むと、ハープの奏でるメロディーに合わせて歌い出した。 ソプラノの清廉な歌声が暖かみのあるハープの音色と重なり、心地よいハーモニーを生み出す。 誰もが二人の奏でる子守歌に聞きほれていた。 一曲終わっても、また別の曲をエマは奏で続けている。 歌い終わってぼんやりとしているリチェルカーレにシリウスが声をかける。 「リチェ見ろ」 シリウスが指さした先には、ルベッタが芝生の上で眠っていた。 「俺じゃできなかった。お前にしかできないことだ」 淡々と事実だけを伝えるシリウス。その言葉にリチェルカーレは言いたいことがあるのに何を言えばいいのかまとまらず、もどかしい気持ちに駆られる。なんとか口にできた言葉は、 「あの、怪我は……大丈夫でしたか?」 「大したことない。犬に噛まれた程度だ」 そう言ってルベッタの方へとシリウスは去って行ってしまう。 ルベッタが眠っている内にサザーキアを回収することに成功したツバキは仁王立ちしたまま、笑顔を浮かべる。額に青筋が浮かんでいるのを見て、サザーキアは逃げだそうとするが、 「はい大人しくして、正座」 「ニャ!」 首根っこを掴まれ、逃走を阻止される。 「言いたいことは色々あるわ、でも……」 ツバキは言葉を一旦区切り、 「アレと一緒にお昼寝するとは何事よ、アンタの野生の本能はどこに行ったの!?」 「芝生の上のお昼寝は気持ちよかったニャ」 「素直な感想ありがとう。でもそういうことじゃないのよ」 ペットに言い聞かせるようにツバキは何度も何度も危ない行為はしないよう言い含める。サザーキアは「ニャー」と鳴くばかりだ。 一通りの説教が終わると、ツバキは額を押さえ、 「後でみんなに謝りに行かなくちゃ。もちろんサザーも行くのよ」 「……めんどくさいニャー」 散歩を嫌がるペットのようにサザーキアはツバキに首根っこを持たれると、そのまま謝罪行脚に行くことになった。 その後、ルベッタを檻に入れるまで一悶着ありつつも、なんとか依頼主の元まで送り届けることができた。 アリアの持っていた毛布はルベッタを落ち着かせるための敷物として活用された後、そのまま気に入ってしまったルベッタが手放さなかったそうだ。後日、依頼主から新品の毛布が代わりに送り届けられるのだった。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[30] 鈴理・あおい 2018/04/21-23:52
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[29] 鈴理・あおい 2018/04/21-23:52
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[28] リチェルカーレ・リモージュ 2018/04/21-21:53
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[27] ミコト・カジョウ 2018/04/21-21:51
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[26] 杜郷・唯月 2018/04/21-16:02
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[25] ミハエル・ガードナー 2018/04/21-09:09 | ||
[24] ミコト・カジョウ 2018/04/21-00:12 | ||
[23] リチェルカーレ・リモージュ 2018/04/20-23:05 | ||
[22] リーゼ・アインベルク 2018/04/20-20:35
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[21] ミコト・カジョウ 2018/04/20-19:01 | ||
[20] 杜郷・唯月 2018/04/20-03:38 | ||
[19] 唐崎・翠 2018/04/20-03:11
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[18] イザーク・デューラー 2018/04/20-01:19 | ||
[17] ミハエル・ガードナー 2018/04/19-22:47 | ||
[16] エマ・シュトルツ 2018/04/19-22:06 | ||
[15] ミコト・カジョウ 2018/04/19-21:31
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[14] ミコト・カジョウ 2018/04/19-21:31 | ||
[13] リチェルカーレ・リモージュ 2018/04/19-21:30 | ||
[12] ツバキ・アカツキ 2018/04/19-14:39
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[11] エマ・シュトルツ 2018/04/19-07:25 | ||
[10] 杜郷・唯月 2018/04/19-02:25
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[9] ミコト・カジョウ 2018/04/17-12:34 | ||
[8] リチェルカーレ・リモージュ 2018/04/16-22:31
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[7] 唐崎・翠 2018/04/15-04:32
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[6] エマ・シュトルツ 2018/04/15-01:02 | ||
[5] リチェルカーレ・リモージュ 2018/04/15-00:13
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[4] ミコト・カジョウ 2018/04/14-22:20 | ||
[3] 鈴理・あおい 2018/04/14-21:31
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[2] ミコト・カジョウ 2018/04/14-17:00
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