~ プロローグ ~ |
「きみたち、ちょっと頼まれてくれないかな?」 |
~ 解説 ~ |
教皇国家アークソサエティ内ルネサンス地区に広がる『小人の森』に向かい、燐光の妖精ディアから『アマツカミの涙』を受けとってください。 |

~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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魔力量…え、消滅…!? 口を悲鳴の形に 寝てなきゃ!回復しますから、動かな… 回復する方法に こくこくと頷く 勿論です 行ってきます だからアリバさん ちゃんと休んでいてください 必死に懇願 ディアさんに 初めましてと挨拶 絵本の妖精みたい… ぽかんとした後 慌てて贈り物を 菫の透かし彫りのある 使い込まれた小型のライア 色々考えたんです だけど結局自分の好きな物になってしまって ディアさんは 音楽はお好きですか? 大きく息を吸って 演奏と歌 星は歌い 水面は煌く 寄せては返す花の香り 優しい手の温もり いつまでも側に 悲しい時も辛い時も 歌うと元気が出るの だから わたしからの贈り物はこれです どうでしょう?アリバさんを助けて頂けますか? 絡み歓迎 |
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美しいものが思い浮かばないとドクターに言ったら そりゃ君なら生い立ち上しょうがないよねと材料調達に回されたんだが…妙に納得がいかない… 金属塩の水溶液…人を中毒死させるか皮膚を焼くのか… それと高純度のアルコール…? あと黒い布…? こんなものでドクターは何を… はっまさか ドクター自ら手を下さなくとも私が… えっ違う? ドクターが置いた皿の後ろに黒い布を広げて暗くする そんな夢みたいな話が… 半信半疑で見守る中、ドクターが擦ったマッチの炎が青い炎に なんだ、あれはアルコールで燃える炎の色じゃないか。そんな都合よく…え!? 本当に炎が虹色に燃えていく様を見て、呆気に取られる ドクターは、魔法使いなんですか…? |
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エリクサーみたいな効果……でも人の命は、奪わない、のですね アリバさん、いつも頑張ってくれてるのですから、お願い、きいてあげたいです 満足して頂けるか、わかりませんけど、頑張ってみますね 美しい物…思いつくのは、友達、仲間達の笑顔 掛けられた優しい言葉…… どれも、持って行けないです…… クリスは何か、思いつきました? え、内緒、なんですか?(首傾げ 持っていったのは小さな鉢植え 私が花壇で育てていた、スノードロップ 小さいけれど強い花 嬉しいことや、楽しいことがあった時 お友達と何かをした時、全部話ながら育てた可愛い花 この花には、私の大切な思い出を、たくさん聞いて貰いました だからか、他の花より綺麗な気が、したんです |
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美しいもの…よし、私歌うわ まだトール以外の前で歌うのは恥ずかしいけれど 心を込めて歌えば、きっと気持ちは伝わるはず …と思っていたけど、実際にディアを目の前にしてみると緊張ガチガチ 素敵な声…きっと歌もとても上手に違いないわ 励まされてどうにかやる気を出し、歌い始める 小さいころ、ママがよく歌ってくれた子守唄 トールは私の歌をよく褒めてくれるけれど 私にとってはやっぱりママの歌が世界一だったわ ママにもう一度会いたい、あれでお別れなんて寂しい 歌い終えて、気が付くと涙ぐんでいる ご、ごめんなさい ステージの途中で泣き出すなんて、こんなことじゃダメよね でもこれが今の私の全力 もし認められなかったとしても悔いはないわ |
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~ リザルトノベル ~ |
● 「アマツカミの涙を?」 浄化師たちの用件を聞いた燐光の妖精ディアは、長い睫毛に縁どられた目蓋をゆるりと上下させた。 「構いませんわ」 驚いたのは浄化師たちだ。貴重品ということで渋られるのではないかという危惧もあったが、美貌の妖精はあっさりと頷いたのだから。 「どうせ私は使いませんもの。貢物としていただいただけですし。ただし」 白くて細長い指を一本、ディアは立てる。浮かべられた微笑はまさに極上だった。 「美しいものを捧げなさい。その代わりに神薬を差し上げますわ」 了承した浄化師たちに笑みを深め、ディアは軽く手を叩いた。 次の瞬間、一組を残して他の浄化師たちは姿を消す。慌てる二人にディアは平然と告げた。 「空間を隔離しただけですわ。存在を認識できないだけで、近くにいますわよ。私を前にしているのです、魔法だということは察しがつくでしょう」 落ち着いて考えればそうだ。 ほっと安堵の息を吐いた二人に、ディアは優雅に、やや傲慢に顎を上げた。 「私を相手どって交渉しようというのなら、当然、持ってきているのでしょう? さぁ」 早く見せないと森の宝石は催促する。 ● 談話室のひとつで、【リコリス・ラディアータ】はカップをソーサーに戻す。 「よし、私、歌うわ」 「んん!?」 今まで見聞きしてきた『美しいもの』を頭の中で列挙していた【トール・フォルクス】は、驚きのあまり口に含んでいた珈琲を吹き出しそうになり、慌てて飲みこんだ結果、むけた。 トールが平常心をとり戻すのを待ってから、リコリスはもう一度言う。 「歌うわ」 口調こそ常と変わらないが、決意がこもった強い言葉だった。 じわりとトールの中に喜びが広がる。歌は、リコリスにとって大切なものだ。――母との繋がり、ともいえる。 ベリアルと化した母親を討伐し、見送ってからまだそれほど日があいていない。悔いこそなくとも、喪失感は未だ彼女の胸に巣食っていた。 それを、トールも知っている。 「……本当は、トール以外の前で歌うのは恥ずかしいわ」 半分ほど残った甘さの強いミルクティの水面から、恋人へとリコリスは視線を移した。 「でも、歌は『美しいもの』だと思うから」 「ああ」 万感をこめて、トールは大きく頷く。 「リコの歌はとても素敵だから、きっと気に入ってくれるさ」 「美しい?」 「もちろん」 ふっとリコリスが表情を緩める。残っていたミルクティを一息で飲み干して、立ち上がった。 「ところでトールはなにを持って行くの?」 「リコの歌。俺にとって一番、美しいものだから」 「そう」 素っ気ない返事ではあったが、リコリスの耳の先はほのかに赤い。自分のカップを空にして、トールは彼女の後を追った。 瞬きひとつの内に仲間たちの姿が消え、とっさにリコリスの前に出ていたトールは魔法と説明されて納得した。 「トールだ。アマツカミの涙を、どうか譲ってほしい」 「ええ。美しいものを私に捧げるなら。でもあれは人間の手には余るものですわ。それでも欲しいのかしら?」 「ああ。困っているのは妖精なんだ」 「……そう。誰かが消えかけていると」 同胞が消滅の危機にあると知り、ディアは目を伏せる。 告げない方がいい気がして、トールはあえてアリバの名を出さなかった。 「それで? 貴方がたが考える、美しいものとは?」 気をとりなおしたディアに、彼は半身を引く。背に庇っていたリコリスの姿を、ディアの目に映させた。 「リコの……、リコ?」 浅く速い呼吸を繰り返し、リコリスはじっと虚空を凝視している。握り締めた両手は、震えるほど強く力がこめられていた。 「リコ!」 緊張のあまり今にも倒れそうなリコリスの肩を掴んで軽く揺すり、トールは彼女の意識を現実に引き戻す。 はっとしたリコリスがよろめいた。 「しっかりしろ、大丈夫だって!」 「でも、素敵な声で……、歌もきっと、上手に違いないわ」 震える声で放たれた呟きに、ディアは刹那だけ痛打を受けたような顔になる。だが、二人に気づかれる前に元の表情に戻った。 「失敗したら? 気に入らなかったら? アマツカミの涙は……」 「アマツカミの涙のことは一旦置いといて、今のリコの気持ちを歌にのせればいいんだと思う」 少しずつ、リコリスの手から力が抜けていく。 「リコの歌なら、神様だって感動させられるさ」 悪戯っぽくトールは笑って見せた。 「大げさだわ。でも、ありがとう」 過度の緊張は、心地よいレベルにまで下がった。トールの励ましは凍えるような恐れを、温かく解してくれる。 「心の準備はよろしくて?」 「ええ」 試すようなディアの問いに正面から応えて、リコリスは緑の匂いがする空気を吸った。 心をこめて紡ぐのは、幼いころ、母がよく歌ってくれた子守歌だ。 懐かしくなるような旋律に、トールは彼女が母を想って歌っているのだと察する。 (トールは私の歌をよく褒めてくれるけど) 澄んだ歌声が、隔離された空間に響く。 (私にとってはやっぱり、ママの歌が世界一だったわ) あの歌声に届かない。ちょっとだけ悔しくて、それ以上に愛しくて。 (ママにもう一度会いたい。あれでお別れなんて寂しい) 最後のフレーズを歌い終える。 拍手が鳴った。手を休めたトールの指先に拭われて、涙ぐんでいたのだとリコリスは自覚する。 「ご、ごめんなさい。ステージの途中で泣き出すなんて、こんなことじゃダメよね」 「ダメなんかじゃない。歌声はもちろん、誰かを想って歌うことそのものの美しさを俺は感じたよ。……素晴らしいステージだった」 全力を出し切ったリコリスの顔は、晴れやかだ。 しかし彼女の寂しさは完全になくなったわけではなく、トールにそれを癒すことはまだできない。 歯がゆくはある。だが焦るつもりはない。 「さてディア。君は……」 「ディア、どこか痛いの?」 抱えた膝に顔をうずめているディアの背を、恐る恐るリコリスが撫でる。妖精が首を左右に振った。 「私、私、歌えませんの。この声では、歌えませんのよ。だから――」 湿った声で途切れがちに、燐光の妖精は言う。 「美しい歌でしたわ。とても美しくて」 「……泣いているの?」 「妖精は泣きませんわ」 強がりと分かる発言に、二人は目を細めた。 ● 医務室にアリバを連行し、『妖精使用中』の札をかけたベッドに寝かせて【リチェルカーレ・リモージュ】はできるだけ厳しい表情を作った。 「ちゃんと休んでいてくださいね」 「はぁい。心配させてごめんねぇ」 「謝らないでください」 泣き出しそうな顔になった少女に、空精はうろたえる。 助けを求めるような視線を受け、【シリウス・セイアッド】はリチェルカーレを呼んだ。 「回復の方法は分かっている。大丈夫だ」 「……うん」 アリバが消滅しかけていると知り、真っ先に回復魔法を使おうとしたリチェルカーレは、不安げながらどうにか頷いた。 「アマツカミの涙をいただいて、すぐに帰ってきますから」 「待ってるねぇ」 意を決した様子でリチェルカーレは医務室を出ていく。シリウスも後を追おうとして、ベッドで上体を起こしているアリバを振り返った。 「役立たずなんてことはない」 淡々と告げられた言葉に、妖精は瞬く。 「人とともにいてくれるだけで、リチェは喜ぶ」 感情の色を濃くにじませることが少ないシリウスの双眸には、わずかながら心配が浮かんでいた。 「……ありがとうねぇ」 浅く頷き、彼も廊下に出る。 「本当に、みんないい子なんだから」 困ったような、誇らしいような。 複雑な思いで空精は呟いて、窓の外を見た。 燐光の妖精ディアは、伝えられていた情報通りかそれ以上の美しさを誇っていた。 まるで絵本から出てきたような彼女に、リチェルカーレは改めて見惚れる。 「リチェ」 シリウスの声にはっとして、少女は背筋を正した。 「初めまして、リチェルカーレです。彼はパートナーの、シリウスです。よろしくお願いします」 「よろしく。さて、なにを捧げてくださるの?」 「……俺からは、コサージュを」 一歩進みでたシリウスが、ディアに月輝花のコサージュを渡す。トロール・ブルーで作られた装飾品が木漏れ日を受けてきらめいた。 「月輝花! 懐かしいですわ。私、アルフ聖樹林にずっといたものですから、あまりかの地には行ったことがないのですけれども。月輝花の花畑の美しさはよく覚えていますわ」 「……俺たちも、恐らく同じ光景を見た」 まぁ、と嬉しそうにディアが顔を輝かせる。シリウスとリチェルカーレの脳裏に、あの群生地がよぎった。 「妖精種なら摘めるんじゃないか?」 常夜の国の固有種である月輝花は、星月の光でしか芽吹かず、摘みとられた瞬間に朽ちてしまう不思議な花だ。 しかし妖精種なら、とシリウスは問うたが、ディアは憂えた顔で首を左右に振った。 「試しましたが、私ではだめでしたわ。春精ですらどうにもできないのだとか」 「オベロンさんでも……」 リチェルカーレは囁くような声で驚く。 ことあるごとに花を咲かせ、自身も普段は花で満ちた結界に住んでいるオベロンでも、摘めず咲かせられない花。 妖精は万能ではなく、世界にはまだ小さな謎が散らばっている。 「トロール・ブルーというのもいいですわ。私、この技術とても好きです。あの国には小生意気な氷精がいて近づきづらいですが、とても美しい。大切にしますわね」 「グラースとは不仲なのか?」 「顔をあわせるたびに小競り合いをする仲でしたわ」 過去形なのがシリウスの中で引っ掛かった。 だがそれを追求する前に、妖精の視線はリチェルカーレに移る。 「それは……ライア、でした?」 「はい」 少女が持つのは、使いこまれた小型のライアだ。菫の透かし彫が施されている。 「いろいろ考えたんです。だけど結局、自分が好きなものになってしまって。ディアさんは、音楽はお好きですか?」 「……ええ」 祈るように指を組みあわせ、ディアは頷く。リチェルカーレは微笑んで、そっと演奏を始めた。 「星は歌い、水面は煌めく」 大きく息を吸い、柔らかな旋律にあわせ歌う。清流のような歌声と紡がれる音色は、この上なく調和していた。 「寄せては返す花の香り――。優しい手の温もり、いつまでも側に――」 ――母の嫁入り道具なの。気に入ってもらえるかしら。 演奏はあまり上手じゃないと、緊張した面持ちでリチェルカーレが言っていたことをシリウスは思い出す。 今、彼女の横顔と指先には、迷いも過度の気負いもなかった。 最後の一小節を、リチェルカーレが奏で終える。途端に不安そうな顔になった彼女に、シリウスは表情を緩めた。 「大丈夫だ」 優しい声音も音色も、シリウスにとってはなにより美しいものだ。うん、とリチェルカーレは微笑んで、背筋を伸ばす。 「悲しいときもつらいときも、歌うと元気が出るの。だから、わたしからの贈りものはこれです。どうで……っ」 自身よりやや上背のある妖精に勢いよく抱きつかれ、リチェルカーレは目を見開く。シリウスも翡翠の双眸を丸くしていた。 「好きよ。とても美しい。ねぇ、私……っ」 ぐす、と鼻を啜るディアに、なにがあったのかリチェルカーレは分からない。 少女は妖精の髪を優しく撫でた。青年は穏やかにその光景を見守る。 美しき森の宝石は、しばらくそうしていた。 ● 「ずいぶん難しい顔をしているね、ショーン」 唸る【ショーン・ハイド】に、【レオノル・ペリエ】が細く成形して焼いた菓子の先を向けた。 「ドクターはもう決めましたか?」 「まぁね。ショーンは苦戦中かな」 「正直、全く思い浮かびません」 お手上げだとショーンは目を伏せる。 教団内にあるこの食堂で、もうずいぶん悩んでいる気がした。依頼を受けた以上、出発までになにか用意しなくてはならない。 難題だった。 「そりゃ、君の生い立ちならしょうがないよね。ということで、材料を調達してきてくれないかな?」 「材料?」 「ひとりひとつじゃなくていいんだよ。なら、ここは私に任せて」 眼鏡の奥の双眸をレオノルが細くする。 妙に納得のいかない思いもあったが、他に案もない。ショーンは咳払いをひとつして、立ち上がった。 「……行ってきます」 「行ってらっしゃい。これよろしくね」 用意してあった紙を彼に渡し、学者はひらりと手を振る。 「……それにしても、妖精って思ったより大変なんだね。自分の身を削ってるんだ……」 ショーンを見送ったレオノルが、ぱきんと焼き菓子を唇と指の間で折った。 「大丈夫かな」 猶予はそれほどないだろう。 それだけだろうか。 焦燥のような、不安感のような。言い知れないなにかをレオノルは感じていた。 「例の物は持ってきてるね?」 「はい。金属塩の水溶液と高純度のアルコール、あとは黒い布を」 「よし」 小人の森、ディアの正面。魔法による隔離が施されたこの空間は、レオノルの予想通り少し明るすぎる。 「なにを見せてくださるのです?」 「まぁまぁ、もうちょっと待ってください。ショーン、布を張っ……」 「……はっ! ドクターが手を下さなくとも、私が」 「え? ショーン、エージョントモードに入ってるけど、違うよ!?」 「えっ違う?」 得物に手をかけていたショーンが瞬く。違う、と繰り返したレオノルと片手に持った二本の瓶を見比べ、 「中毒死させるか、皮膚を焼くのでは?」 「しないよ……」 「か、返り討ちにしますわよ!?」 「余興です! そういう冗談ですから!」 構えたディアにレオノルは両手を上げて敵意がないことを示す。そもそもこれで妖精は死なないかと、ショーンも武器から手を離した。 「虹色の炎を作るんだよ」 本当は実物を見せてから説明したかったのだが、こうなっては仕方ない。レオノルは観念した口ぶりで明かす。 「虹色の炎?」 妖精とショーンの声が重なった。 「専門外の技術だけど、炎色反応っていうらしい。プリズムも考えたけど、ガラス加工は大変だ。世界一美しい数式も、ウケがよくないだろうし」 ちらりと学者は妖精の顔を見る。 ディアはもう、先ほどのやりとりを忘れたようだった。興味深そうにショーンが持つ瓶を見つめている。 「ですが、そんな夢みたいな話が……」 半信半疑のショーンに、レオノルは自信に満ちた笑みを向けた。 「大丈夫、ショーンのおかげで準備は万端だよ。失敗なんてしない」 「……はい」 教え子が頷いたのを確認してから、レオノルは持ってきた陶器の皿を置いた。瓶を受けとって開封し、熱に強いその器に金属塩の溶液とアルコールを入れる。 皿の後ろで黒い布を広げ、ショーンは固唾をのんで見入っていた。ディアも注目している。 「魔術と違って、道具さえあれば誰しもできる」 マッチを擦ったレオノルの声が、涼やかに響いた。 「それが科学であって、だからこの炎は美しい。――さぁ、ご覧あれ」 陶器に立つ炎は、青い。 なんだ、とショーンは肩を落とした。珍しい色ではない。アルコールを燃やせば炎は青くなる。 だが、次の瞬間。 「……え!?」 「まぁ……!」 青かった炎が。 虹色に変わっていく。 ショーンは呆気にとられ、ディアは炎にふらりと近づいた。燃えるから、とレオノルがそれ以上の接近を制する。 「ドクターは、魔法使いなんですか……?」 虹色の炎に気をとられたまま、呆然とショーンは呟いた。レオノルが小さく笑う。 「魔法じゃないから、私はこの炎が大好きなんだ」 「とても、美しいです」 「ありがとう。ショーンもこれから、美しいものを見つければいいさ」 それは希望に満ちた言葉だった。 胸を突かれたようにショーンはレオノルを見る。虹色の炎を従えるように立って、学者は口の端を上げた。 「なにより、ディア様に気に入ってもらえれば嬉しいのですが」 「気に入りましたわ、気に入らないはずがありませんわ!」 炎に釘付けのディアが声を弾ませる。 「魔法でも虹色の炎は作れますが、こちらの方がずっと美しいですわ。ねぇ、どうすればずっと置いておけますの?」 「いずれ消えますよ。ですが、作り方をお教えします。材料はディア様ならすぐに集められるでしょうから」 森の宝石が熱心に講義に望む。 揺らぐ虹色の炎にショーンは視線を投じ、ついで背筋を伸ばしているレオノルを見た。 「魔法ではなく、科学」 与えられた、あるいは借り受けた力ではなく。 研究と研鑽の果てに生み出された虹炎が、燃える。 ● 作戦会議室を出て、【アリシア・ムーンライト】は小さく息をついた。 「エリクサーとかいうから、びっくりしたよね」 「はい……」 彼女の内心を汲みとった【クリストフ・フォンシラー】が肩をすくめる。小さく笑んでからアリシアは目を閉じた。 「人の命を、奪わないと聞いて……、安心しましたが……」 「緊急事態だね」 空精アリバが消滅しかけている。 まだ衝撃から脱し切れていないらしく、アリシアの顔色はあまりよくなかった。 「アリバさん、いつも頑張ってくれてるのですから、お願い、聞いてあげたいです」 「そうだね。危険なものじゃないなら俺も異論はないかな」 励ますようにクリストフが微笑む。アリシアの体から少し緊張が抜けた。 「美しいもの、ですよね……」 「深く考えながら歩いたら転ぶよ」 「転びません……」 からかう口調で言われ、アリシアが明後日の方を向く。喉の奥で笑いながら、クリストフは彼女の血色が戻りつつあることに安心していた。 このところ立て続けに災禍に見舞われている。アリシアにはできるだけ、平穏でいてほしかった。 (友だち、仲間たちの笑顔、かけられた優しい言葉……) 思いつく限り、美しいものを頭に浮かべていく。口元がほころぶのが自分でも分かった。 どれもアリシアにとって美しいものだ。だが同時に、持って行けないものであり、捧げられないものだった。 (他に、なにか……) 悩むアリシアが本当に転ばないようにさり気なく気を配りつつ、クリストフは内心で呟く。 (俺にとって美しいものって、ひとつな気がするんだけどなぁ) 傍らの彼女がどこに向かって歩いているのか、クリストフは知らなかった。特に困るわけではなく、必要なら自分が誘導すればいいので気にならない。 (アリシアからもらったアクセとかも綺麗だけど、あげちゃうわけにはいかないし) 妖精だろうと神だろうと、アリシアがくれた『宝物』を譲り渡す気はなかった。 加えるなら、『唯一の美しいもの』も捧げる気はない。 ぴたりとアリシアの足がとまった。クリストフも立ちどまる。 「クリスはなにか、思いつきました?」 「うん、思いつきはしたんだけど……、内緒」 「え、内緒、なんですか?」 首を傾けるアリシアに、クリストフはくすりと笑った。 「もしかしたら怒られるかもだからね」 仲間たちから隔離され、燐光の妖精と対峙したアリシアの横顔には緊張の色があった。 そっと一礼し、彼女はディアに改めて挨拶をする。 「アリシア・ムーンライトです」 「クリストフ・フォンシラーです」 「ディアと申しますわ。貴方がたはなにを捧げてくださいますの?」 期待に目を輝かせるディアとクリストフを、アリシアが見比べる。クリストフが頷いた。 細く息を吸って、アリシアは一歩、ディアに近づく。 「私からは、こちらを……」 「花?」 「スノードロップ、です。私が、花壇で、育てました……」 「育てましたの? 魔法で咲かせたのではなく?」 鉢植えを受けとり、ディアは目を丸くする。はい、とアリシアははにかんだ。 「この花には、私の大切な思い出を、たくさん聞いてもらいました。だから……、他の花より綺麗な気が、したんです」 スノードロップは小さく愛らしいが、一方で強い花だ。 嬉しいことや楽しいことがあったとき、友人となにかをしたとき。アリシアはこの花にそれらの話をしながら、大切に育てた。 「気に入って、いただけましたか……?」 矯めつ眇めつ、様々な方向から白い花を観察していたディアが、はっとして鉢植えを抱き締める。 「ええ、ええ! 私、花なんて魔法で咲かせればいいと思っていましたが……。この花はなんだか特別美しく見えますわ」 「愛情がこもっているからじゃないかな」 「愛情……」 クリストフの言葉に、ディアは天啓を受けたように瞠目していた。 「さて、俺からはこれだよ」 言うが早いか、彼は照れたようにうつむいていたアリシアの肩を掴み、くるりと半回転させた。 「クリス?」 「俺が美しいと思うのは、彼女の髪」 動きにあわせて踊ったアリシアの髪が、そぅっと落ち着いた。 「あらあら」 片手を口元にあてたディアの目が好奇心にきらめく。 状況をのみこみ切れないアリシアは瞬きすらとめていた。 「艶やかで滑らかで、とてもいい手触りだし。これ以上のものはないんじゃないかなと」 「私も触ってもよろしくて?」 「うーん」 「冗談ですわ。夜を紡いだような髪色は確かに美しいですし、艶や滑らかさは光沢で分かりますわ」 「あ、あの……っ」 「合格らしいよ、アリシア」 ようやく我に返ったアリシアに、クリストフは片目をつむって笑う。彼女の白い頬にほんのりと朱が差した。 怒られるかもしれない美しいもの、とは、つまりこういうことだ。 「といっても捧げられないんだけどね。見るだけで許してもらえるかな?」 「よろしい。ひと房だけ、などと言ってもはぐらかされる気がしますし、この睦まじさは――懐かしい、ですもの」 遠い過去を想うように、妖精は目を細める。 ● 教団に戻った浄化師たちは、医務室で休んでいる空精アリバの元に急いだ。 「お帰りぃ」 のんびりと迎えるアリバの体が、一瞬だけ透ける。人を模した姿を保つことさえままならないらしい。 「急いで飲んで」 押しつけるようにリコリスから渡された瓶の栓を抜き、アリバは透明な液体を飲み干した。 直後、彼からあふれんばかりの魔力を感じる。 「……どう、ですか……?」 それでも不安を拭いきれなくて、リチェルカーレは泣き出しそうな顔で尋ねた。アリバは左手の人差し指と中指を立てて見せる。 「生き返ったって感じだよぉ。ありがとうねぇ」 「よかったです……」 アリシアは胸を撫でおろす。 「一件落着だね」 よかったよかったと、レオノルが首を回す。 「……あまり無理をするな」 「そうだよ。妖精って不安定な存在なんでしょ」 緩んだ空気の中、シリウスが忠告し、クリストフが首を縦に振る。えへへ、とアリバははにかんだ。 「困ったことがあったら言えよ。力になるから」 「無力の証明とも迷惑とも考えることはない。……今回は特に、いいものも見られた」 トールは片目をつむり、ショーンは虹色の炎を想う。 「うん。また頼らせてもらうよぉ」 いつものように空精は笑って。 全盛期の力をとり戻したアリバが姿を消したのは、それから間もなくのことだ。
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*** 活躍者 *** |
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[5] リコリス・ラディアータ 2020/02/07-13:40
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[4] リチェルカーレ・リモージュ 2020/02/06-23:53
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[3] レオノル・ペリエ 2020/02/06-23:52
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[2] アリシア・ムーンライト 2020/02/06-23:49
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