縁と絆を深めて・その2
とても簡単 | すべて
8/8名
縁と絆を深めて・その2 情報
担当 春夏秋冬 GM
タイプ EX
ジャンル 日常
条件 すべて
難易度 とても簡単
報酬 通常
相談期間 5 日
公開日 2020-01-18 00:00:00
出発日 2020-01-26 00:00:00
帰還日 2020-02-02



~ プロローグ ~

 教団本部室長室。
 そこで、ひとつの話し合いが行われていた。
「なら、浄化師の家族の警護は、整いつつあるんだな」
 静かな声で問い掛けたのは、室長ヨセフ。
 これに返したのは、この場にいる者の1人、魔女のセパルだった。
「うん。ボクの方は、魔女の伝手を頼って、動いて貰ってるよ。
 サンディスタムは、乳母の魔女オマイマに連絡役になって貰って、商人とかの振りをして現地に溶け込んで貰ってる。
 他の場所も、花屋さんのバイトに応募して通ったりして、いざという時には動けるようにして貰ってるから」
 セパルに続けて、死んだふり浄化師のウボーが補足する。
「足りない所は、冒険者に補って貰っています。荒事以外にも精通している者を集めましたから、巧くやってくれる筈です。雇う費用ですが――」
「室長が当座の資金を用意してくれたので助かります」
 ウボーの言葉を継ぐように、彼のパートナーであるセレナが言った。
「かなりの金額でしたけど、使途を誤魔化して用意するのは大変じゃなかったですか?」
「いや。ちょうどカモが来たんでな」
 悪辣な笑みを浮かべヨセフは言った。
「自分の腐った悪行を、こちらに押し付けようとした貴族が居たんでな。窓口になった班長を経由して、教団に大口の寄付をさせた。向こうは、口止め料のつもりだろうがな」
「あ、それについてだけど、とりあえず全部どうにかできる準備整ったから」
 セパルは軽い口調で言った。
「死んだふりの工作するの2度目だし、万全だよ」
「そうか、なら良い。工作が終了したら、さらに口止め料を搾り取ろう」
「……貴方達、黒くない?」
 呆れたように言うのは、カルタフィリスのマリエル。
 これにヨセフ達は返す。
「気にするな。利用できる者は利用しないとな」
「搾り取れるだけ取っちゃえば好いのよ」
「好き嫌いはダメだな」
「清濁は合わせて飲むもんだよねー」
「……馬鹿なことをしたわね、その貴族」
 マリエルの言葉に、ヨセフは応えた。
「そうだな。だが、これ以上馬鹿なことをされても困る。折角の機会をくれたんだ。潰れて貰おう」
「出来るんですか?」
 興味深げに訊きながら、かつてはマリエルの中に魂だけで居た、今はライカンスロープの姿をしたマリーが、紅茶を皆に配っていく。
「話を聞いてると、大貴族みたいですけど」
「準備は要る。だが潰す」
 紅茶を飲み、一息ついた所で、ヨセフは続けて言った。
「売られた喧嘩は買う主義でな。きっちり後悔して貰おう」
「皆さん、やんちゃなんですね」
 くすくすと笑いながら、マリーは皆に紅茶を配り終えた。
 しばし紅茶を楽しんで、皆は話を続ける。
「とりあえず、外周部の準備は整ってるよ。だから浄化師の子達を、家族に会いに行かせてあげても大丈夫」
 セパルの言葉に、ヨセフは返す。
「そうか。なら、続けていくとしよう。それと同時に――」
 ヨセフは幾つもの資料を見ながら言った。
「前回の指令で、情報を望む者達に応える必要がある。とはいえ――」
「色々と下準備が要りそうですね」
 ウボーがヨセフの言葉を引き継ぐように言った。
「ニホンでは、センダイ藩にある冒険者ギルドを経由して、関係者とみられる情報を集めて貰っています。
 また、八百万の神のまとめ役である、なんじゃもんじゃ様にお話して、必要があれば便宜を図っていただけると言っていただけました」
「ニホン関連は、どうにかなりそうだな」
「はい。まだ、情報を詰めるのに本人達の話が必要かもしれませんが、それがあればさらに進めていけるでしょう」
「となると他の場所が気になる所だが、そちらはどうだ?」
「ノルウェンディは、私の叔父であるロロ・ヴァイキングに便宜を図って貰えるよう話してきました。あそこで必要なことがあれば、してくれる筈です。それと――」
「泡沫の魔女エフェメラの居場所に関する情報を手に入れたよ」
 セパルが、ウボーの言葉を引き継ぐように言った。
「話を聞いて、ひょっとしたら禁術に関わることかもしれないから、話を聞くつもり。
 禁術の中には、使ったあとに幽霊になって留まっちゃう可能性の物もあるし、聞いとかないとね」
「それ以外の所は、最初に言ったみたいに、家族を警護できる準備が整って来てますから、大丈夫だと思います。問題は――」
 軽く眉を寄せ、セレナは言った。
「このオクトという組織ですね」
「ああ。規模が大き過ぎる」
 ヨセフは資料に目を通しながら続ける。
「銀朱のヴァーミリオンと呼ばれるヴァンピールを首魁にした組織……あまりにも『大き過ぎる』な」
 含みを込めヨセフは言った。これにマリエルが問い掛ける。
「なにか気になる所でもあるの?」
「巨大化する速さが道理に合わん」
 現在、集められるだけ集められた資料。
 全容からすれば断片でしかないそれを繋ぎ合せ推論し、ヨセフは直感する。
「この短時間でここまで巨大化する筈がない。大きさもそうだが、分裂していないのがありえん」
「何者かの意図が介入している、と」
 ウボーの問い掛けに、逆にヨセフは問い掛けた。
「仮にだが、お前の家が、これに関わるとしたらどうする?」
「食います」
 あっさりと言った。
「潰すよりも、そちらを選びますね」
「悪食貴族と言われているだけはあるな」
「それが一番、皆が得をしますから。ただ、ウチの家なら、ここまで大きくなる前に食いますが、今の状況は違いますね」
「肥え太らせている、ということか」
「ええ。そうだとしか思えません」
「だろうな。だが、妙な感じだ――」
 資料を改めて見ながらヨセフは言った。
「介入の色がひとつじゃない。ひとつは、おそらくナハトが動いているだろうが、他にも――」
「ちょっと見せて」
 ヨセフ達の話を聞いていたマリエルは、資料を受け取り目を通すと言った。
「……ねぇ。ここに出てる名前って、組織の幹部なのよね」
「そうだが……知ってる名があったのか?」
「ライナー・ドールズ。人形遣いの偽名のひとつよ」
「……終焉の夜明け団も関わっているかもしれんということか」
 しばし黙考した後、ヨセフは言った。
「とにかく、これまで情報を求めた者には出来る限りのサポートを。これから家族に会いに行く者についても同様だ。忙しくなるが、よろしく頼む」
 ヨセフの言葉に、皆は頷いた。

 そんなやり取りがあった後、ある指令が出されました。
 それは浄化師が家族に会えるよう、指令の形で便宜を図るので、希望者は申請して欲しいというものです。
 それだけでなく、離れ離れになってしまった家族が居るのなら、その家族を探す手助けをしてくれます。
 また、記憶を無くしたりなどで、家族のことが分からない場合は、その記憶を手繰ることから協力してくれるとの事でした。
 他にも、今まで関連する指令に参加した者については、そこからさらに何かあれば尽力するとの事でした。

 縁と絆を手繰る、この指令。
 アナタ達は、どう動きますか?


~ 解説 ~

○目的

自由設定を深める形のエピソードになります。

深まったな、と思えるプランでしたら成功以上になります。

○選択肢

以下の選択肢から、1つ選んでください。

1 家族に指令の形で会いに行く

家族から依頼を教団が受けたという名目で、それを指令としてこなすことになります。

理由などは、自由に決めて頂けます。

家族では無くても、家族に近いと思える相手なら、可能です。

2 離れてしまった家族に

どこに居るのか分からない家族を捜索することが出来ます。

教団本部の情報と、NPCの協力により、捜索が出来ます。

PCが持っている情報を照らし合わせ、教団本部の資料を調べたり、NPCから聞き込みが出来ます。

プランの内容によっては、NPCが自発的に情報提供をしてくれる流れになります。

3 無くした記憶を探る

何らかの理由で無くしてしまった記憶を手繰り、縁のある相手や集団を探ることが出来ます。

PCが持っている情報を照らし合わせ、教団本部の資料を調べたり、NPCから聞き込みが出来ます。

プランの内容によっては、NPCが自発的に情報提供をしてくれる流れになります。

4 前回からの続き

このシリーズの続きの展開を進められます。

○NPC

セパル 魔女関連や、その他諸々の情報を知っている可能性があります。
ウボー&セレナ 貴族や冒険者関連、その他諸々の情報を知っている可能性があります。
マリエル&マリー 終焉の夜明け団関連、および、終焉の夜明け団を経由した教団の情報を知っている可能性があります。

必要ならばプランで自由に出せます。

○その他

今回の自由設定を深めるエピソードは定期的に出す予定ですので、シリーズ的な物として進めることもできます。

シリーズ物として進める場合、展開によっては、個別シナリオとして進む場合もあります。

PCの家族などには、秘密裏に、魔女や冒険者の護衛が就くことになります。プランでその辺りを書くことも可能です。


~ ゲームマスターより ~

おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。

今回は、PCの自由設定を深める形のエピソード、第2弾です。

前回と少し変えた所は、シリーズ物として継続して出す物ですので、今回から、前回の続きを引き継いで進められる物にしています。

そしてプロローグにて、前回の内容や、リクエスト形式で頂いた各種設定を反映させる形で書いています。

そうした部分を、これから出来るだけ出せるように進めていきたいと思います。

また、このシリーズを進める中で、個別エピソードとして展開させていただく場合もあります。そうした前振りとして進めていただくことも可能です。

そして今回から、前回では舞台に出来なかった場所の内、アルフ聖樹森を舞台に出来ます。機械都市マーデナクキスは、もう少々お待ちください。

それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリザルトに頑張ります。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

アルトナ・ディール シキ・ファイネン
男性 / 人間 / 断罪者 男性 / エレメンツ / 悪魔祓い
ラ:ファイネンで雇う魔術師にはお部屋を一つお貸しする決まりなの
 父が使っていた部屋に通された
ラ:貴方がもしもお父さんを知りたいのなら ここは自由にして? べーくん(夫)には許可を貰っているわ
(べーくん…シキはこの人似か…)
 一人になり 部屋をぐるりと観察 本棚ばかりあり 机がぽつん

…シキ?
…俺はあの人を殆ど知らないから知りたい

いや これは俺の問題、
…そうだったな 悪かった…
シキ 協力してくれるか?
はいはい…抱きつくな
 とは言いつつ彼の背を撫でる

シキ、
 一冊の絵本を見せる
これはあの人が描いた絵本
毎日 あやとり(9話)とあの人が渡してくれたこれ読んでた
…綺麗で輝いてて 俺が星を好きになるきっかけをくれた本
これを?
ああ 分かった
ルーノ・クロード ナツキ・ヤクト
男性 / ヴァンピール / 陰陽師 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
■4
前回調査を頼んでいたナツキの親族について、セパル達に情報を聞きに行く
今にも飛び出しそうなナツキを、苦笑しつつルーノが止める
ナツキ:なぁ、俺達も動いた方が良いか?やっぱ直接ニホンに行くとか!
ルーノ:…行き先も決めずにどこへ行くつもりだい?

その際セパル達にも、ニホンを訪れた時(72話)の事、
特になんじゃもんじゃ様とのやり取りを伝えておく
八百万の神の力が必要になる可能性に、ルーノは気を引き締める
他の八百万の神様にもそのうち会えるかもしれないと、ナツキは心を弾ませる

セパル達に礼を言い、調べてもらった情報をもとに次の行動を考える
更に調査が必要なら引き続き頼みたい
自分達にできる事があるならもちろん動く
ベルロック・シックザール リントヴルム・ガラクシア
男性 / ライカンスロープ / 断罪者 男性 / 生成 / 占星術師

リントの両親の現在の動向を探ってもらった
クリスマスに見た限りじゃ、とても里帰りできる雰囲気じゃなかったし

危険なのは、母親にリントが生きていると知られた時のことだ
リントの口ぶりじゃ、強引に息子を取り戻そうとしてくるかもしれない
親子を引き裂く教団を敵とみなし、敵対派閥に手を貸すかもしれない
そして父親は、妻さえいればそれでいい類の輩だ
妻の味方をする可能性もある
…室長の手を煩わせることになるかもしれないな

それにしても、なんでアンタの家こんな病んでる連中ばっかりなんだ?家系か?

俺と『恋人になって、一緒に暮らす』ってことか?
やれるもんならやってみろ、それも含めてアンタを受け入れて、愛してやる
挑発的に笑み
ショーン・ハイド レオノル・ペリエ
男性 / アンデッド / 悪魔祓い 女性 / エレメンツ / 狂信者
室長、書類を持ってきました
…?何も聞いてませんが?

この間ドクターが倒した賊の身元が分かった?
…オクト
ええ。潜入先の一つですよ
ここに来たキッカケもご存知でしょう
暴力親父を刺し、母を助けたものの、色目を使って来た母に恐れをなして殺して逃げてきたからですよ
それで殺しと裏切りに適性があると思われたんでしょうね
エージェントの仕事はつまらなくはなかったですが、もうそんなのは疲れたんですよ
今はただ、シリウスやドクターに降りかかる火の粉を払えればいい
それだけです

部屋を出てしばらくしてから握りこぶしを作り一人怒る

馬鹿な。オクトが終焉の夜明け団を…?
悪しき教団を嫌っていたお前が…
何を考えている!ヴァーミリオン…!
アリシア・ムーンライト クリストフ・フォンシラー
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / アンデッド / 断罪者
お話を聞いた後、クリスのお家に泊めて頂く事に、なりました
診療所なら薬が必要だと思い、お手伝いを申し出ました
看護師のお母様が色々教えて下さって…
私の母は、どんな感じだったのかなと
未だ思い出せない両親を思っていたら、患者さんのおばあさんに声を掛けられました

私、お母様に、似てますか?

掛けられた言葉に首を傾げて
確かに黒髪は似てると思いますけど…
でも似てるなら、嬉しいです

え、マザコン?

誰がと聞こうとしたらクリスに耳を塞がれ

大丈夫ですよ、マザコンなんて思ってません
だってお母様と私、全然違いますから

おばあさんやお母様とクリスのやり取りを見ていて心が癒やされる気がしました
だから
村跡に行ってみる決心がつきました
リチェルカーレ・リモージュ シリウス・セイアッド
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / ヴァンピール / 断罪者


まあシリウス 先生といつの間にか仲良しになって
僅かに困惑したようなシリウスに笑う
わたし お茶淹れてくる
レオノル先生 ゆっくりお話してください

お茶を淹れつつ
ショーンさんも後で来るかしら
彼といると 普段より表情が動くシリウスを思う
お父さんみたい?と言ったら怒っていたけれど 大切なのね
そういえば いつから知り合いなのかしら

聞こえてきた言葉に足が止まる
諭すような先生の声 震えているシリウスの声

大切なものなんていらない
頼りにするものもなくていい

以前聞いたシリウスの言葉を思い出す
あれは 「大切な人は殺してしまう」と
そんな風に思って …言われてきたから?
そんなことって
柱の陰にしゃがみ込む
泣いちゃだめと思うのに 涙が止まらない
サク・ニムラサ キョウ・ニムラサ
女性 / ヴァンピール / 悪魔祓い 男性 / ヴァンピール / 陰陽師
サクラ
………
……

自分(私)しか知らないことがあるからって、私しか知らない子がいるからって嫉妬しないでくれない?
私があの子(親友)を一番最初に見つけるって決めていたのに。
邪魔しないでもらえるかしら。
はあ、ビャクヤ兄の事調べてたから油断してた私が悪いのかもね?
まあいいや。情報の照らし合わせしましょうよ。

キョウ
……ちょっと怒らないで下さい。
仕方ないじゃないですか!気になったんですから!!
これ自分のせいじゃないですよ!教えてくれないサクラが悪いから!
嫉妬ではありません!
ですから!それを自分(キョウヤ)に教えていたらこの状況にはなっていません!
ヤシェロ兄様も気になりますけど……うーはい。わかりました。
ヨナ・ミューエ ベルトルド・レーヴェ
女性 / エレメンツ / 狂信者 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
4
繁華街の小さな飯店へ二人で訪れる
師の娘、喰人からすると姉(重要)が一人で切り盛りする店

つい先日会った時 再会のの喜びも程々に一人なのををひどくどやされた
曰く どうしてパートナーを連れてこなかったんだ と
二十程も離れているこの姉には一時期生活面で世話になったのもあり頭が上がらない
よって日を改めて二人で訪れた

ベルトルドさんのお師匠さまのご家族…どんな方でしょうね(そわそわ
は 初めましてヨナ・ミューエと申します

あら~!と高い声で歓迎するアライグマの獣人の女性が歓待と当時に質問攻め
二人の近状に興味深々の様子

ヨ ええと あの
ベ 姉さんその辺で ヨナが困っているだろう
フ あらやだあたしったらつい ごめんなさいね 続


~ リザルトノベル ~

 家族との縁と絆を深め、あるいは過去の自身を知るための指令。
 参加した浄化師達は、それぞれ動いていた。

○独りではなく2人で
「……ここが」
 どこか懐かしい空気を感じさせる部屋に案内された『アルトナ・ディール』が呟くと、彼のパートナーである『シキ・ファイネン』の母親である『ライラ・ファイネン』が応えるように言った。
「この部屋を、貴方の養父であるツェーザル・ディール君に使って貰っていたの」
 ライラは、シキが部屋に入り易いよう、先に中に入ると続けて言った。
「ファイネンで雇う魔術師には、お部屋をひとつお貸しする決まりなの」
 視線を合わせ、やわらかな声で続ける。
「貴方がもしもお父さんを知りたいのなら ここは自由にして? べーくんには許可を貰っているわ」
「……べーくん?」
「夫のことよ」
 茶目っ気のある声で応えるライラに、自然とシキのことが思い浮かぶ。
(べーくん……シキはこの人似か……)
 似ているな、と思う。それが何故だか、ほっと一息つけるような安心感を浮かび上がらせた。
「当時のままで、部屋の配置とかは動かしてないわ。調べたいことがあれば、探して貰っても大丈夫よ」
 ライラは柔らかな笑顔を浮かべ言うと、静かに部屋を去っていく。
 あとにはアルトナ1人。
 しんっ、と静まりかえる部屋で、心を落ち着かせるような間を空けて、アルトナは部屋を見渡した。
 今でも掃除されているのか、埃を被っている様子はない。
 それだけで、ツェーザル・ディールという人物が、この家で大事に扱われていたのが分かる。
「……昔から、変わらなかったんだな」
 苦笑するように、部屋を見て呟く。
 どちらかと言えば、荷物の種類は少ない部屋だった。
 机がひとつ、ぽつんとある以外は、あとは本棚ばかり。
 けれど幾つもある本棚には、たくさんの本が収められている。
「これは……」
 郷愁に誘われて、1冊の本を手に取る。
「ここにも、あったんだな」
 自然と穏やかな笑みが浮かぶ。
 手に取ったのは、1冊の絵本。手描きであるため、子供の頃に見た物とは細部が少し違うが、間違えることはない。
「……ひょっとして、他にも」
 アルトナは手にした絵本を大切そうに本棚に収めると、他の書籍にも目を通していった。

 そうして彼が本棚に触れ合っている頃、シキはライラを見つけ尋ねていた。

「母様。あの……アルトナ見ませんでしたか?」
 これにライラは、くすりと笑みを浮かべ応える。
「彼の養父の部屋に案内してるわ。ほら、私が掃除していた部屋があったでしょう? そこに行ってみなさい」
「行ってみます」
 早速行こうとするシキの手をライラは握り、視線を合わせ願うように言った。
「あの子の助けになってあげてね」
「……もちろんです。母様」
 力強く頷くと、部屋に訪れ呼び掛ける。
「アル!」
「……シキ?」
「今母様とすれ違った。アルがここに居るって。ツェーザルさんのこと……知りたいの?」
 アルトナは目を伏せ応える。
「……俺は、あの人を殆ど知らないから知りたい」
「……協力させてよ。アル」
「いや、これは俺の問題――」
「ああ、もうっ」
 独りで全てを解決しようとするアルトナに、シキは視線を真っ直ぐに合わせ言った。
「言ったじゃん。アルはもう一人じゃない。一人で居る必要はないって」
 それは雪積もるエドで、約束するように告げられた言葉。
「無理すんな。今は俺が居るんだ」
 シキの言葉に、アルトナは自分では気づかない穏やかな笑みを浮かべ、応えた。
「……そうだったな、悪かった……シキ、協力してくれるか?」
(アルが俺を頼ってくれる……!)
「いやん。うれしーアルトナきゅーん」
「はいはい……抱きつくな」
 苦笑しながら、シキの背中を撫でるアルトナ。
 そしてそっと離れると――
「シキ」
 本棚から1冊の絵本を手に取り見せる。
「何か見つけた? アル――その星空の絵本……」
 以前、見た事のある絵本によく似たそれを、シキは熱心に見つめる。
 そんな彼に苦笑しながらアルトナは言った。
「これはあの人が描いた絵本」
 懐かしそうに言った。
「毎日、あやとりと、あの人が渡してくれたこれ読んでた……綺麗で輝いてて、俺が星を好きになるきっかけをくれた本」
「ツェーザルさんが? 思い出が詰まった本なんだな」
 アルトナの言葉に、シキは真剣な声で言った。
「絵本。今度俺にも見せてくれる? 次はこっそりじゃなくて、ちゃんと」
「これを? ああ、分かった」
 優しい声で、アルトナは頷く。
 それ以来、アルトナの心が優しくなったように感じるシキだった。

○縁を手繰る
「なぁ、俺達も動いた方が良いか? やっぱ直接ニホンに行くとか!」
「……行き先も決めずに、どこへ行くつもりだい?」
 今にも跳び出しそうな勢いの『ナツキ・ヤクト』を、パートナーである『ルーノ・クロード』は苦笑しながら止める。
 するとナツキは、ぱたぱたと尻尾をふりながら言った。
「だって、情報色々探してもらえて、手掛かりが増えてさ。本当に会えるかもしれないって、会ってみたいって思えるようになったんだ」
 そう言うと、同席しているセパルに視線を合わせ続ける。
「セパル達のおかげだな! ありがとう!」
 これにセパルは返す。
「やる気になってくれたから、ボクも嬉しいよ」
「私からもお礼を言わせてくれ。ありがとう」
 ルーノは、そこまで言うと、真摯な声で続ける。
「ただ、他の皆の調査もあるだろう。セパル達だけに任せる気はない。必要なことがあれば言って欲しい。出来ることなら、手助けしたい」
「おう! 任せてくれよ! それで、何したら良い!」
「……ナツキ、落ち着いて。何かをするかを決めるには、その前に持っている情報を出していく必要があるんだ」
「それは……分かってるけどさ、でも……」
「大丈夫。私達だけで調べるんじゃないんだ。慌てず、確実に一歩ずつ、前に進んでいこう」
 ルーノはナツキの手綱を握るように宥めつつ、やる気が空回らないように気を配る。
(色々と気を回す必要があるな……だが、前回の及び腰よりも、この方が彼らしい)
 意気込むナツキを見て、ルーノもやる気を見せていた。
 そんな2人の様子に、くすりとセパルは笑みを浮かべ言った。
「ルーノくんの言う通りだよ。慌てて動くより、まずは一歩ずつ前に進まないとね。という訳で、まずはボク達で集めた情報から教えるね」
「分かった!」
「よろしく頼むよ」
 2人が頷いた所で、セパルは集めた情報を伝える。
「まず、前回に見せて貰った、ナツキくんのお母さんの形見の根付けについて」
「何か分かったのか!?」
 身を乗り出すように聞き返すナツキに、セパルは応える。
「ドリーマーズ・フェスでやってた物産展に参加した商人から話を聞けたよ。
 やっぱり、エド幕府直轄地になってる地域で作られた物だよ」
「そうなのか? それで!」
「ナツキ。慌てない」
「うっ、そうだけど……」
 尻尾を垂れ下がらせながら自分を抑えるナツキに、セパルは苦笑しながら続ける。
「慌てないでも大丈夫。ちゃんと全部、話してあげるからね。
 それで根付けなんだけど、あの地域の武士団が、家族に贈る物みたい」
「なら、ナツキの母親は、その武士団の関係者ということだろうか?」
 ナツキ問い掛けにセパルは返す。
「うん、その可能性は高いよ。
 元々は、その武士団が祭っている八百万の神、大口真神の牙や爪を削った物を、子供の成長を願って贈る物だったみたい。
 だけど人が増えてからは量が足らないから、古木で代用してるみたいだね」
「八百万の神、か……」
「どうかしたの?」
 ルーノはセパルに尋ねられ、少し前の指令のことを話す。
「ニホンで初詣の警護に協力した時の話なんだが――」
 ルーノは、なんじゃもんじゃと話をし、必要があれば尽力してくれると言ってくれたと話す。
「そうなの? じゃあ、あそこでの騒動、知ってるのかな?」
「騒動!?」
 思わず聞き返すナツキに、セパルは応える。
「あ、騒動って言っちゃうと、ちょっと違うかな? 実を言うとあそこの武士団、色々とごたついてるみたいなんだ」
「どういうことなんだ!?」
 聞き返すナツキにセパルは応える。
「元々その武士団は、8つの氏族がまとまって出来たものなんだ。
 狼や犬のライカンスロープだったから、そのまとめ役は『八狗頭』って名乗ってる。
 ただ時代の流れと共に平家――ニホンに昔いた有力武士の家だけど、その流れを汲む斉藤家もまとめ役になってたみたい。
 それで交代してまとめ役を歴任してたんだけど、どうもその辺りでごたついてるらしいよ」
「なにがあったんだ!?」
「それはもっと調べてみないと。だから、さらに調査しようと思う。そういえば――」
 セパルは先ほどの、ルーノの言葉を思い出し言った。
「2人は、ニホンの初詣の警護に行ったんだよね? その時、神選組の人に会ったと思うんだけど、その中に、関わり合いのある人が居るみたい。狼士隊の隊長をしてる人で、斉藤一って――」
「会ったことあるぜ! その人!」
「そうなの!? ん、なら、話を聞いてみる。待ってて」
 セパルの応えに、頷く2人だった。

○深愛
「これが、報告書だよ」
「ありがとう」
 セパルから『リントヴルム・ガラクシア』は報告書を受け取る。
 中身は、リントヴルムの両親についての現状を調べて貰ったものだ。
(クリスマスに見た限りじゃ、とても里帰りできる雰囲気じゃなかったし)
 少し前のクリスマスに、偶然出会った父親のことを思い出す。
(さて、どうなっていることやら)
 報告書をリントヴルムは読んでみる。
「……はぁ」
 思わずため息が漏れてしまう。
「どうした?」
 同席している『ベルロック・シックザール』が訝しげに問い掛ける。
 これにリントヴルムは、苦笑するような笑顔を浮かべ、報告書を手渡した。
「僕の口から説明する前に、読んでみて」
「……何が書いてあるんだよ」
 リントヴルムの様子から、読む前から嫌な予感がする。
 けれどベルロックは受け取ると、しっかりと読み込んでいく。
 読めば読むほど眉を寄せ、読み終わるとベルロックは言った。
「なんでアンタ、死んだことになってるんだ」
 ベルロックの言う通り、リントヴルムは死んだことになっているらしい。
 報告書によれば、リントヴルムの父であるニールは、自分の妻であるメリアに『息子は死んだ』と言い聞かせているようだ。
 そのせいで呆然自失になっているメリアを、エトワールの屋敷に軟禁状態にしているらしい。
「父さんにとっては、してやったりな状況かもね」
 リントヴルムは両親のことを思い出しながら言った。
「父さんにとって僕は、母さんを奪う憎い相手、ぐらいにしか思ってないだろうし」
「どういう父親なんだ」
 ため息をつくようにベルロックは言った。
「自分の子供に妻を奪われるって、なんでそんなこと思うんだよ」
「そう思うぐらい、母さんの僕に対する執着は強いんだ」
 リントヴルムは、母の自分に対する執着がどれほど強いかを語っていく。
 聞けば聞くほど、ベルロックは頭痛を堪えるような表情になっていった。
「……今の話を聞いてると、危険なのは母親の方かもな」
 ベルロックは、危惧を口にする。
「危険なのは、母親にアンタが生きていると知られた時だ。強引に息子を取り戻そうとしてくるかもしれない。
 ひょっとしたら、親子を引き裂く教団を敵とみなし、敵対派閥に手を貸すかもしれないんじゃないか?
 父親は、妻さえいればそれでいいように思えるから、妻の味方をする可能性もある。
 今、アンタの父親は、どこの派閥についてるんだ?」
 これにリントヴルムは、ため息をついて応える。
「父さんは、貴族としては変わり者で、現在どこの派閥にもついてないみたいだけど……母さんのためなら、なんでもするからなぁ」
「……それだと最悪、室長の手を煩わせることになるかもしれないな」
 ベルロックの言葉に頷くリントヴルム。
「場合によっては、セパルさん達に『三回目の工作』をお願いする羽目になっちゃうかもね。自由に動きづらくなるのは嫌なんだけどなあ……」
「それは、どうしようもなくなった時の手だよ」
 セパルが2人に返す。
「でも、まだ取れる手はあると思う。そのためなら室長くんも、ボク達も、それにキミ達を想っている子達も、マリエルちゃんやマリーも、手を貸してあげたいと思っているんだ。だから、2人だけで思い詰めちゃダメだよ。いつでもキミ達のために手を伸ばす準備は、みんな出来てるんだから」
 これにリントヴルムとベルロックは、苦笑するようにお互いを見合わせる。
「まぁ、出来ることは全部やらなきゃダメだよね」
「ああ、そうだな。しかしそれにしても――」
 ベルロックは、しみじみと言った。
「なんでアンタの家こんな病んでる連中ばっかりなんだ? 家系か?」
 これにリントヴルムは、蠱惑的な笑みを浮かべ応える。
「クリスマスの時に父さんが言ったことの意味、知りたい?」
「俺が、リントに壊されるってヤツか」
「うん、それ。ガラクシア家の者は愛する人に執着し、邪魔者はすべて排除する。いわば愛に狂う家系なんだ。
 もし僕がベル君に本気になったら、その矛先が君に向かうかもしれないってこと。そうなったらどうする?」
「俺と『恋人になって、一緒に暮らす』ってことか?」
 ベルロックは、挑発的な笑みを浮かべ応えた。
「やれるもんならやってみろ、それも含めてアンタを受け入れて、愛してやる」
 ベルロックの応えに、蠱惑的な笑みを深めるリントヴルムだった。

○決意を支えてくれる日常
 過去の話を聞くために『クリストフ・フォンシラー』と共に、彼の実家に訪れていた『アリシア・ムーンライト』は、診療所の手伝いをしていた。
「これで、良いと、思います」
 薬の調合を終えたアリシアは、看護師として診療所で働いているクリストフの母親に言った。
 薬は、周辺で取れた薬草から作っている。
 都市部から離れたこの辺りでは、現地で取れる薬草を使って作る必要があるが、高度な植物学と薬学の知識を持ったアリシアは、十分すぎるほどの成果を見せていた。
「ありがとう」
 クリストフの母親は笑顔で薬を受け取ると、それぞれ分量を分けていく。
「人それぞれ、必要な用量があるけれど、定期的に来診する人達用に、あらかじめ小分けにしているの」
 単純な知識ではなく、現場に則した経験からくる要領をクリストフの母親は教えていく。
「色々と、やり方が、あるんですね」
 アリシアは感心するように聞き、お願いする。
「もっと、教えて貰っても、良いですか?」
 これにクリストフの母親は、笑顔で応える。
「ええ、もちろんよ。聞きたいことがあったら、なんでも言ってね」
「はい」
 クリストフの母親の笑顔を見詰めながら、アリシアは思った。
(笑顔が、似てる、気がします)
 どこかクリストフと似ている笑顔に温かな気持ちになりながら、アリシアは話を聞いていった。
 そうしている間、診療所で父親の手伝いをしているクリストフは、アリシアのことを気に掛ける。
(馴染んでるみたいで、良かった。とはいえ――)
 クリストフは、ここに来た目的を思う。
(できればアリシアの村の跡地を調べてみたい気もするんだけど。7年も経ってるから何もない可能性が高いだろうけど、気持ちの整理をつけるためにも必要だしな)
 そう思いつつも、患者さんが途切れず来るので、今はその余裕がない。
 クリストフもアリシアも、診療所の手伝いに勤しんでいた。
 そんな中、アリシアは、テキパキと働くクリストフの母親を見て思う。
(私の母は、どんな感じだったのでしょう……)
 未だ思い出せない記憶を想いながら、手伝いをしていた、
 すると、声を掛けられる。
「ありゃ、今日は若い子が手伝いに来てくれたんだねぇ」
 元気な声に視線を向ければ、そこに居たのは1人のおばあさん。
 その声を診療所で聞いていたクリストフは、苦笑混じりに懐かしさを感じる。
(あの婆ちゃん、相変わらず元気だな)
 そう思っていると、おばあさんのお喋りは止まらない。
「あんれまぁ、よく似てるわ。親戚の子かい?」
「私、お母様に、似てますか?」
 小首を傾げアリシアが返す。
「確かに黒髪は似てると思いますけど……でも似てるなら、嬉しいです」
 これに、おばあさんは笑顔を深める。
「ありゃありゃ、ひょっとして先生の所のボンの好い人かい? あはははっ、やっぱマザコンだから、似てる人連れて来たねぇ」
「え、マザコン?」
 誰がと聞こうとした所で――
「ちょっと待った! 誰がマザコンだって?」
 慌てて出てきたクリストフに耳を塞がれる。
「婆ちゃんいい加減な事言わないでくれよ。アリシアが黒髪なのはたまたまなんだよ。父さんと好みが似てるって、婆ちゃん頼むからひとりで納得しないくれって」
 軽く赤面するクリストフに、くすりとアリシアは笑みを浮かべ応える。
「大丈夫ですよ、マザコンなんて思ってません。だってお母様と私、全然違いますから。お母様みたいに、色々なことが、出来るようになりたいって、思います」
「そうなの? それなら、うん、良かった」
 アリシアから向けられた笑顔と言葉に、クリストフはホッとする。
 そんな彼をからかうように、クリストフの母親や、おばあさんが言葉を掛けていく。
 戯れ合うような皆のやり取りに、アリシアは心が癒されていく気がした。
 だから、彼女は決意する。
「クリス」
 支えてくれるクリストフと、心癒される皆とのやり取りが、アリシアの背中を押すように促してくれた。
「村跡に行ってみる決心がつきました」
「……分かった」
 クリストフはアリシアの決意に頷いて――
「何があっても俺が支えるからね」
 誓いの言葉を告げた。
 それを嬉しそうに受け止めるアリシアだった。

○気になるなら、追っかけろ!
 皆の家族や縁のある人達の調査をしているセパル達に、『キョウ・ニムラサ』は『サク・ニムラサ』が居ない時を見計らい、ひとつ頼みごとをする。
「調べて欲しいことがあるんです」
 それはサクラの親友のこと。
 いつもどこかで、姉が心に留めていることは気付いていた。
 それがキョウの心にチクチクと突き刺さる。
 心に突き刺さった棘に促されるように調査を頼み、結果を聞こうとした所に、サクラが現れた。

「サクラ……!」
「………………」
 防音の効いた部屋で調査結果を聞こうとした所で、サクラが無言で部屋に入って来る。
 そのままキョウの前に行くと、見下ろすような眼差しで言った。
「私があの子を一番最初に見つけるって決めていたのに。邪魔しないでもらえるかしら」
「……ちょっと怒らないで下さい。仕方ないじゃないですか! 気になったんですから!! これ自分のせいじゃないですよ! 教えてくれないサクラが悪いから!」
 言い訳するようなキョウにサクラは、ため息をつくように返す。
「私しか知らないことがあるからって、私しか知らない子がいるからって、嫉妬しないでくれない?」
「嫉妬ではありません! ですから! それを自分に教えていたらこの状況にはなっていません!」
 暫く睨み合う。そして力を抜くように言った。
「はあ、ビャクヤ兄の事調べてたから油断してた私が悪いのかもね? まあいいや。情報の照らし合わせしましょうよ」
「ヤシェロ兄様も気になりますけど……うーはい。わかりました」
 2人が落ち着いた所で、セパル達は調査結果を伝えていく。
 ちなみにセパル達は、鉄火場を山ほど潜り抜けてるせいか、先ほどの2人の様子をどこか微笑ましげに見ていた。
 それはさておき、結果を聞いていく。
「メアリー・シェリー。種族はエレメンツ。家族構成は、父母と兄が1人――」
 詳細を聞いていく。
 キョウは真剣に。
 サクラは気のないように――見えて、一言も逃さないように。
 話し終えたあと、セパルは尋ねた。
「いま話した内容で、間違いは無いかな?」
「……ええ。私が知っている事と、ひとつも違いはないわぁ」
 気だるげに、失望を隠し応える。
 知っていることしか、セパルは話さなかった。
 肝心な、今どこに居るのかを教えてくれないなら、これ以上聞く必要はない。
 そう思い席を立とうとした。その時だった――
「とりあえず今話したこと全部嘘だから」
「……は?」
 思わず気の抜けた声が出るサクラ。
 彼女が聞き返すより速く、キョウが食いつく。
「どういうことですか!」
「偽装された経歴と家族だってこと」
 セパルに続けて、セレナとウボーが続ける。
「調べてたら、失踪する直前に貴族の暗殺があったわ。私達は、関連してると思う」
「それと、お兄さんが、独自に調べた形跡がある。その過程で、ニホンに行ったみたいだな」
 いきなり予想外のことを告げられ無言のサクラとキョウ。
 そこにセパルは、サクラに言った。
「これからも調べるけど、その前にひとつ聞かせて。キミの親友に出逢えたら、どうするつもり?」
「…………」
 すぐには返せない。するとセパルは言った。
「参考に言うと、ボクが親友に殺されかけた時は、思いっきりひっぱたいたよ。んで、その後思いっきり喧嘩して、話を聞いたよ」
「……どういう状況なの?」
 聞き返すサクラに返す。
「ボクの時は、家族を殺された復讐で無差別殺人しようとした子を止めようとした時だよ。止めようとしたら殺されかけて、んで、その後見つけてまずはひっぱたいて、その後喧嘩して話を聞ける状態にして仲直りしたよ」
「……なにが言いたいの?」
「殺されそうになっても、友達に戻れるってこと」
 数百年生きているセパルは言った。
「怒るのも憎むのも自由だし、仲直りするのも愛するのも見限るのも自由ってこと。
 サクラちゃん1人なら難しくても、ボクもみんなも、なにより弟くんも居るんだ。
 力を貸すよ。だから、色んな可能性を考えよう」
「…………」
 無言のサクラに、キョウが言った。
「セパルさんの言う通りです……自分も力を尽くします」
「……生意気ねぇ」
「ふえ!?」
 笑顔を浮かべ、むにゅうとキョウの頬を摘まむサクラ。
「頼りにしてるわよぉ」
「ふぁい」
 サクラにされるがままに、けれど頼られて、嬉しそうなキョウだった。

○姉さんに会いに行こう
「あんたがヨナちゃんかい! よく来たね!」
 繁華街の小さな飯店へ『ベルトルド・レーヴェ』と共に訪れた『ヨナ・ミューエ』は、店主である楊・芳(ヤン・ファン)に抱きしめられた。
「あ、あの、その」
 挨拶する間もなく抱きしめられ、あわあわするヨナ。
 予定だと、キリっと自己紹介しつつ挨拶するつもりだったので、予想外の出来事に慌てている。
 そんなヨナの様子に、ファンは笑顔を浮かべ身体を離す。
「悪かったね。ベル坊から話を聞いて、いつ会えるかずーっと待ち遠しかったから。いざ会えたら、嬉しくなっちまってね」
「ベル坊?」
「……姉さん、その、子供の頃の呼び名はちょっと――」
 バツの悪そうに言うベルトルドに、ファンはベルトルドの前に行き言った。
「なに言ってんだい。どんなにデカくなっちまっても、あたしにとっちゃベル坊はベル坊だよ」
 ファンは小柄なアライグマの獣人なので、長身のベルトルドの前に行くと見上げる形になるが、傍で見ていると小さくなっているのはベルトルドのように見える。
 ベルトルドは困った顔をしながら言った。
「それはそうなんだが、今日はヨナも居ることだし――」
「あら、ヨナちゃんの前で良いとこ見せたいのかい?」
「いや、そういうことではなく……」
 ファンとベルトルドのやりとりに、くすりとヨナは笑みを浮かべる。
(家族、なんですね)
 2人のやり取りにヨナは実感すると、改めて挨拶をした。
「ファンさん。は、初めましてヨナ・ミューエと申します」
 そわそわとしながら、緊張で少し早口になりながら挨拶する。
 するとファンは笑顔を浮かべた。
「あら~、嬉しいじゃないの。礼儀正しい子ねぇ。ベル坊がそっけないから、ヨナちゃんがいつもこんな風に挨拶してくれるの?」
「……それは」
 微妙に視線を逸らすヨナ。
 そこに矢継ぎ早に質問するファン。
「いつもご飯ちゃんと食べてる? ベル坊ったら独りの時は雑にしか食事摂らないからねぇ。仕事の時は迷惑掛けてない? お父ちゃんにあちこち連れまわされて器用に相手出来るけど踏み込むのは苦手だからねぇ。それと――」
 2人の近況に興味津々なのか、次から次に問い掛ける。
「ええと、あの」
「姉さんその辺で。ヨナが困っているだろう」
 居たたまれなくなってベルトルドが止めると、ファンは手をパタパタ振って応えた。
「あらやだあたしったらつい。ごめんなさいね」
 そう言うと2人を改めて見つめ、笑みを浮かべ言った。
「心配していたけど、そんな必要もなかったみたいね」
「心配される年齢でもないだろうに」
「こういうのは、年じゃないのよ。それより飲茶用意したから、食べていって」
 言うなり店の中に。
 これにヨナとベルトルドはお互いを見合わせ、苦笑しながら中へと入る。
 飲茶をつまみながら、歓談を続けた。
「お父ちゃんがベル坊を連れて来た時は年の割に小さくてねぇ」
「そうなんですか?」
「ああ、そうさ」
 ファンは当時を思い出し笑みを浮かべ、ヨナに返す。
「それまであんまり食べてなかったみたいだから、しょうがなかったんだろうけど。でもその後、食べ出したらもりもり大きくなってね。
 でも大変だったよ、当時は。ご飯を出したら、いつの間にか人のいない場所に持って行って1人で食べてるんだから」
「……まぁ、そういう時期もあったな」
 視線を逸らし肉まんを食べるベルトルド。
 そこから当時の話をしている内に、ベルトルドの師の話へと移り、ファンは思い出したように手を叩く。
「そうそう、父ちゃんがたまに帰ってきては土産物置き場に使っていた書斎、そのままになっているのよ。暇な時でいいから片付けを手伝いに来てくれない?」
 そう言うとヨナに視線を向け続ける。
「ヨナちゃんも一緒に、どうかしら? 昔の写真の1枚や2枚でてくるかもしれないわ」
「……! いきますっ」
「いや、ガラクタばかりだと思うぞ」
「でも各地の思い出の品なんでしょう? 見たいです」
「ほら! それに重いものもあって男手が必要なのよ」
「……わかったわかった。俺も気になってはいたんだ」
 軽くため息をつき頷くベルトルドに、ファンは『パンっ!』と手を叩き喜ぶ
「はい決まり! 助かるわ~」
「楽しみです」
 笑顔で書斎に向かうヨナとファンに、苦笑しながらついて行くベルトルドだった。

○這い寄る過去
「室長、書類を持ってきました」
 偽装工作用の書類を持って来た『ショーン・ハイド』に、ヨセフは言った。
「話は聞いているか?」
 書類を受けとりながら世間話のように、自然な口調で問い掛ける。
「……? 何も聞いてませんが?」
 そこで説明を受けたショーンの表情は険しいものになる。
「この間ドクターが倒した賊の身元が分かった?」
「ああ。オクト。知っているな」
「……オクト」
 自分を落ち着かせるようにショーンは呟くと、仮面のような無表情で返す。
「ええ。潜入先の一つですよ。
 ここに来たキッカケもご存知でしょう。
 暴力親父を刺し、母を助けたものの、色目を使って来た母に恐れをなして殺して逃げてきたからですよ。
 それで殺しと裏切りに適性があると思われたんでしょうね。
 エージェントの仕事はつまらなくはなかったですが、もうそんなのは疲れたんですよ。
 今はただ、シリウスやドクターに降りかかる火の粉を払えればいい。
 それだけです」
 一方的に話すショーンを、ヨセフは黙って見つめる。
 しばし無言の時間が過ぎたあと、ヨセフは封筒に入った資料を手渡した。
「……これは?」
「現時点で分かっているオクトの概要だ。自室で確認した後、戻してくれ」
「……」
 無言で受け取ると、ショーンは自室に戻り確認する。
「馬鹿な。オクトが終焉の夜明け団を……?」
 指が食い込むほどの強さで握り拳を作り、独り怒りの声を上げた。
「悪しき教団を嫌っていたお前が……。
 何を考えている! ヴァーミリオン……!」
 激しい感情が湧きあがり、自分を抑えるのに必死になる。
 短くない時間が過ぎたあと、ショーンは資料を戻しに、再び室長室を訪れた。
「中身は確認したな。なら、頼みたいことがある」
「……なにをですか?」
 淡々とした声で聞き返すショーンに、ヨセフは言った。
「幾つかあるが、まずは、お前が隠していたことの決着を付けて来い」
「……どういう意味ですか」
 刃物めいた鋭さで返すショーンに、ヨセフは言った。
「お前より先に、お前のパートナーが、お前の隠し事の決着をつけるために動いている」
「ドクターが……?」
「そうだ。だが、お前でなければ届かないこともある。動け」
「……はっ」
 乾いた笑いが上がる。
 ショーンは不信の眼差しで見つめながら言った。
「命令ですか?」
「いや、頼み事だ」
「……なにが目的なんです? こんな――」
「死者との約束だ」
 ヨセフは真っ直ぐに視線を合わせ言った。
「浄化師を護る。その約束を果たすため、頼んでいる」
「……どういう、ことなんですか?」
 ショーンの問い掛けにヨセフは応えた。
「今回の件で、俺はお前の過去を知った。だから、俺の過去も話そう。俺には妹が居た――」
 揺るがない覚悟を瞳に宿しヨセフは言った。
「妹は、俺とは比べ物にならないぐらい、浄化師の才能が有った。そのせいで、聖十字軍に編成されることになった」
「……それは」
 ショーンは言葉に詰まる。
 聖十字軍はヨハネの使徒が発生するという奇跡の塔を探索するために編成され、2人を残し全滅した。つまり――
「妹は死んだよ。クロートが死の間際に連れて帰ってくれたが、会えた時には虫の息だった。息を引き取る直前に、あいつは言った。
 私の傍に居て、優しくしてくれたみたいに、浄化師のみんなを護ってほしい、と。
 あいつの最後の頼みを、俺は約束した。その約束を守るため、俺はここに居る。
 ショーン・ハイド――」
 視線を合わせヨセフは言い切った。
「お前も俺が護るべき浄化師の1人だ。他の浄化師と同じく。
 だが、俺独りの力では足らない。だから、頼む。力を貸してくれ」 
「…………」
 ショーンは言葉を返せない。
 そこにヨセフは続けて言った。
「オクトは、その背後に大きな蠢きがある。それを知るためにも、お前の過去の知識が必要だ。それに『シリウス・セイアッド』にも話を聞く必要がある」
「! どいういことなんですか!」
 詰め寄るショーンにヨセフは言った。
「シリウスに実験を行っていた研究員が、オクトに関わっている可能性がある。しかも、当時の実験で死亡した筈の子供達が、成長し使われているかもしれん」
「……それは」
 次々告げられる事実に心を落ち着かせようとするショーンにヨセフは言った。
「オクトは巨大な組織だ。しかも幾つもの思惑が絡んでいる。その中では、首領のヴァーミリオンも、望まぬことをせざるを得ないのかもしれん。それを知るきっかけにするために、お前やシリウスから過去を聞く必要がある。だが、過去を話すことに堪えられないなら、無理強いをする気はない」
「…………」
 ヨセフの言葉に、その時のショーンは応えることはできなかった。

 そしてショーンとヨセフが言葉を交わしていた頃、『レオノル・ペリエ』はシリウスと言葉を交わそうとしていた。

「まあシリウス。先生といつの間にか仲良しになって」
 微笑ましげに『リチェルカーレ・リモージュ』は、レオノルを前にして座っているシリウスに言った。
 いま3人が居るのは談話室。
 レオノルに呼ばれリチェルカーレとシリウスは訪れたのだが、そこでレオノルは、シリウスに話したいことがあると言ったのだ。
 リチェルカーレは、僅かに困惑したようなシリウスに笑顔を向け、言葉を続ける。
「私、お茶淹れてくる。レオノル先生、ゆっくりお話してください」
 2人のために、談話室から少し離れた給湯室に向かい、お茶を淹れに行く。
 お茶を淹れつつ、この場に居ないショーンのことを思う。
(ショーンさんも後で来るかしら)
 来てくれると良いな、と思う。
 ショーンと居ると、いつもよりシリウスの表情は動くのだ。
 もっと気持ちを出してくれても良いと思っているリチェルカーレは、そうしてくれるショーンに感謝していた。
(お父さんみたい? と言ったら怒っていたけれど、大切なのね)
 その時のことを思い出し、くすりと小さく笑みを浮かべる。
 そして、小さな疑問が浮かぶ。
(そういえば、いつから知り合いなのかしら)

 リチェルカーレが疑問を抱いている頃、レオノルはショーンの事実をシリウスに告げていた。

「――俺に何か」
 最初に口を開いたのはシリウス。
 訝しげに見詰める彼に、レオノルは言った。
「ショーンから聞いたけど、記憶、忘れてなかったみたいだよ」
 シリウスの表情が消え失せる。色の失せた表情のまま、小さく呟いた。
「……記憶? 忘れてない……?」
 我を忘れたような空白が数秒続く。
 それが過ぎた後に浮かんだのは、どうしようもない激情だった。
「――嘘だ。だってあいつ、俺を見て『誰だ』と……!」
「二重スパイだったみたいでさ、忘れたフリしてたのは多分、自分や周りのためだろうね」
 重ねられた言葉に、シリウスは茫然と言葉を無くす。
 そこにレオノルは、続けて言った。
「それでもシリウス君を気にかけてたのは心配だったからみたい。今は危ない橋は渡ってないと思うよ」
 レオノルの言葉を聞き、シリウスの心には、ショーンがアンデッドとして蘇ったと聞いた時の記憶が浮かび上がる。
 自分の記憶がないと知った時は辛かった。
 でも、生きていてくれた。それが何よりも、嬉しかった。
 そして思った。
 生きていてくれたなら、必要以上近づかない、と。
 親しくなんてならなくていい。
 そうしたら、自分を忘れた彼なら『呪い』も効果がないのでは――
 そう思って、ここまで来た。だから――
「……じゃあ、離れないと」
 感情を殺し、恐怖を抱きながら言った。
「今度こそ、俺はショーンを殺してしまう」
 大切な人ほど殺してしまう。
 あいつからも。リチェからも。離れないと。
 それは幼き日に刻まれた呪い。それに囚われたシリウスに、レオノルは諭すように言った。
「あのね。君が癒えぬ傷を見続けるのは、君を傷つけた人達の思う壺なんだよ」
 自らの過去と共に、レオノルは語り続ける。
「私も女には学問が出来ないって呪いの言葉を聞き続けたから辛さは分かるけど、だから呪いに屈しちゃダメなんだ。
 過去を否定しろって話じゃない。過去は今存在していないから過去なんだ」
 呪いを祓うように、レオノルは語り掛け続ける。
「もし君が言われ続けていた仮説が正しいなら、今度は私達で守ろう。
 君には、その力がある。
 今すぐ立ち直る必要はない。
 ただ、私の言葉が理解できるまで、覚えてくれればいい。
 必ず、助けるから」
 レオノルの言葉に、かつてリチェルカーレが贈ってくれた言葉が心に浮かぶ。

 あなたは悪くない。

(……違う。違うんだ……)
 罪や罰を恐れているのではなく、ただただ、大切な人達のことを想い、シリウスはレオノルに返す。
「……貴女が正しい。わかっていると思う」
 まっすぐ自分を見るレオノルの青い目に、顔を歪めながら応える。
「だけど駄目なんだ。もしあいつらが正しかったら? そう思うと」
 震える指を握り込み、それ以上、言葉を続けることが出来なかった。
 そんな彼の言葉を聞いて、部屋の外でリチェルカーレは涙を流していた。
(なんで、こんな……――)
 リチェルカーレは思わずにはいられない。
 レオノルの諭すような声と、震えるシリウスの声。
 それが聞こえて来て、堪らず部屋の扉の前まで近付き、そこでシリウスの言葉を聞いて、何を言えば良いのかが分からなくなる。

 大切なものなんていらない。
 頼りにするものもなくていい。

 かつて聞いたシリウスの言葉を思い出す。
 そして、その真意を理解した。
(あれは、『大切な人は殺してしまう』と、そんな風に思って、……言われてきたから?)
「そんなことって――」
 耐える事など出来ず、逃げるようにその場を離れる。
 そして柱の陰にしゃがみ込み、涙を零し続けた。
(泣いちゃ、だめなのに――)
 そう思うのに、涙は止まってくれなかった。
 何をするべきなのか分からず、シリウスを想い涙を流すことだけが、今のリチェルカーレが出来ることだった。
 その涙が向かう先が何処なのかは、誰も答えることはできなかった。
 いまは、まだ――

 こうして、それぞれ浄化師達は絆を巡る。
 その先が何処に向かうか分からずとも、幸多かれと、思わずにはいられなかった。


縁と絆を深めて・その2
(執筆:春夏秋冬 GM)



*** 活躍者 ***


該当者なし




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2020/01/18-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。  
 

[6] シキ・ファイネン 2020/01/25-17:34

 
 

[5] シキ・ファイネン 2020/01/25-17:33

……よし。
ちょっと遅れちまったけど今回もよろしく! アルトナきゅんとシキでっす!  
 

[4] アリシア・ムーンライト 2020/01/25-14:41

 
 

[3] レオノル・ペリエ 2020/01/25-14:37

 
 

[2] リチェルカーレ・リモージュ 2020/01/25-13:46