~ プロローグ ~ |
「どうしたどうした新人ども! そんなんじゃ『イレイス』にベリアル食わせる前に、てめえらの魂が喰われちまうぞ!」 |
~ 解説 ~ |
●訓練の概要 |
![](./img/wind_f2.png)
~ ゲームマスターより ~ |
PCの皆さま、PLの皆さま、こんにちは。久木です。 |
![](./img/wind_f2.png)
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
![]() |
【目的】 幻影ベリアルの殲滅 【基本戦術】 基本的に全員で固まって行動(後衛・中衛を中央に配置?) 索敵・陽動等で一時離れる場合は孤立や奇襲に注意 周囲に敵がいなければ外周沿いに索敵しながら移動(最初は初期位置から角へ) 付近に遮蔽物がある場合は少数で索敵に向かい、必要に応じて釣り出しを試みる 敵を発見したら交戦開始(陽動・誘導・攻撃・敵の観察等) 孤立や奇襲にも引き続き各自で注意する 【行動】 索敵の際、アイリスは『魔力探知』を行い、潜伏又は奇襲しようとしている幻影ベリアルを探す 【戦闘】 モルテ:味方への攻撃を庇うことも考えつつ、攻撃を行う。 アイリス:中衛から援護。ベリアルの急所を的確に狙う。 |
|||||||
|
||||||||
![]() |
◆目的 ベリアルの幻影殲滅 ◆行動 口寄魔方陣展開タイミングは仲間に合わせる 戦闘開始時に魔術真名宣言 以降、仲間と連携 広場角を初期位置と定め外周沿いにベリアル索敵、討伐 本隊と別働に分かれる際は本隊に留まり陣形維持。 陣形は中央に後衛中衛アライブ。周囲を前衛が囲む 攻撃集中を避けるため一人飛び出した仲間や 負傷者には声掛け掩護 ◆戦闘 グラの呪符による通常攻撃でベリアルの勢いを殺ぎ 次いでトウマルが剣で応戦。 敵数によってMP残に気を付けるが 魔方陣発見時点で敵の体力が大きく残っていたり 複数敵と対峙時はJM2 グラは眼前に集中しがちなトウマルにかわり 戦場全体看視 ◆索敵 見える範囲の敵討伐後 グラの天空天駆で遮蔽物影の残敵確認 |
|||||||
|
||||||||
![]() |
狼型のベリアルとの戦闘。 訓練だろうと何だろうと、所詮は幻影との戯れだ。早く終わらせるぞ。 エメと強く音を鳴らしながら手を合わせ、魔術真名を唱える。 私たちは陽動としてベリアルを直接攻撃に仕掛けよう。 捧身賢術で魔力を上げ、出現したベリアルに攻撃する。 背後は任せたぞ、エメ。 …なるほど、エメ、私の背中と背中を合わせてベリアルの背後を取られないようにするのか 他のエクソシスト達をフォローするために声かけあってローテーションでいけるか? 戦闘 アリアド:捧身賢術→5R経過まで通常攻撃→捧身賢術 エメラド:クロス・ジャッジ→魔力を尽きたら通常攻撃 |
|||||||
|
||||||||
![]() |
■目的 離脱者無しで訓練を完遂する ■索敵 周囲に敵がいなければ全員で移動しつつ索敵 最初は初期位置から角へ その後外周沿いに移動する ナツキは後衛を守れるよう構える ルーノは一時離れる者への奇襲、包囲を警戒 発見次第攻撃し妨害する ■交戦 敵を見つけ次第攻撃に移る 味方から離れず行動 ナツキは味方が対応していない敵や後衛へ向かう敵を優先して攻撃 また離脱者を出さない為、集中攻撃を受けたり負傷者・消耗の激しい者は庇い、加勢する ルーノは奇襲警戒&敵を観察し魔法陣を探す 奇襲は味方へ警告、攻撃で妨害 敵が体を庇う様子を見せたら弱点を疑い、庇う箇所への攻撃をナツキへ指示 対象へ攻撃し隙を作り、ナツキが「クロス・ジャッジ」をぶち込む |
|||||||
|
||||||||
![]() |
目的 戦闘経験を積む 行動 全体 基本全員纏まって行動。(中後衛、重傷者は中央に配置?) 初期位置から角、外周沿いに移動しながら索敵、遭遇した敵と戦闘。お互いにフォロー。 遮蔽物の陰等必要に応じて陽動を行う。 PC シルシィは中衛、マリオスは前衛。 基本、本隊で戦闘。通常攻撃、アライブスキル使用。 索敵は…、周囲に注意、くらい、ね。 魔方陣も(特にシルシィは)敵全体を見て、見つけたら仲間に伝達。 魔方陣が体の横や後ろにあるなら、だれかが正面で注意を引きつけている間に、他のひとが回り込むとかするべき? 他に敵がいなければだけど。必要ならどっちでもやるから。 他はスピードに優れる、だから離れていても油断しないほうがいいかも。 |
|||||||
|
||||||||
![]() |
◆作戦(全体) 基本的に全員が固まって行動 一時的に別行動する場合も離れすぎず、フォローに入れる距離を保つ 開始後、フィールドの角へ移動 その後外周に沿って移動しながら敵を撃破 遮蔽物がある場合は少数で索敵、敵を発見したら本隊の場所まで誘き寄せる どの場合も敵に遭遇次第掃討 齟齬ある場合は仲間に合わせる ◆作戦(二人) 最初に魔術真名を唱える 互いに背中を守り合うつもりで臨む アユカの魔力探知でベリアルの位置を探りながら移動 必要あれば索敵のため遮蔽物を背に偵察、二人で交戦することにならないよう注意 戦闘時は後方からの攻撃で前衛を支援 複数敵を相手取る場合は動きを止めるため足元狙いの攻撃で牽制 同時に敵を観察し弱点を探る |
|||||||
|
||||||||
![]() |
■目的 ベリアル幻影全滅。 ■行動 事前に仲間と確認し、行動をすり合わせる。 射撃者及び負傷者を囲む円陣(壁際では壁を背にした半円)を仲間と形成。 確認方向分担し周囲警戒。 敵と遭遇し次第交戦。 交戦中も他方からの敵を適時確認。 周囲の敵殲滅後、隊列維持しつつ外周沿いから渦を描くように移動し索敵・交戦。 薙鎖はSH1常用。 常に手薄な味方後衛を庇護可能な位置確保。 触手で味方後衛を狙える敵がいる場合待機し、攻撃受けた味方後衛を庇護し防御。 上記非該当なら、仲間の攻撃対象及び敵属性(味方魔力探知使用者に魔方陣位置・色確認)を鑑み、一番倒し易い敵を攻撃。 モニカは前衛。BD1常用。 突出せず味方後衛への敵進路を阻みつつ攻撃。 |
|||||||
|
||||||||
![]() |
■目的 陽動&釣り出し ■行動 初めは皆と共に索敵 陣の守りに余裕できれば一緒に陽動する仲間と共に個人行動へ フォローし合える位置へ 物陰がある場所は慎重に 敵の数が多い強い時は無理せず陣地へ 攻撃を受けつつ距離を離さないようにして敵を皆の元へと誘う ・各々 ティは光明真言詠唱で防御力アップ ロスが前でティがその背後 初めは皆と一緒に陣を組み戦闘 触手はティが呪符で攻撃 ロスは敵が近付いたら払うように攻撃 ティは魔力探知による魔力の流れ確認 陣地を組んでいる時は陣の内部に変な魔力の流れがないか 陽動でフィールドに出た時は物陰等要注意しながら確認 陽動中は ほぼ背中合わせで行動 お互い盾をロスは前に構え ティは後ろに盾を向け奇襲に備える |
|||||||
~ リザルトノベル ~ |
首都エルドラド近郊、閃緑広場遺跡。対ベリアル戦闘訓練に参加するあなたたちは、ここに集められた。訓練開始の時刻になると、指導役の男性教団員があなたたちを見回して名乗る。 指導役のデニス・レオンハルトは二十代後半と思しき竜型のデモンで、十五歳で浄化師となってから十年以上も戦い続けてきたのだという。彼の顔には大きな傷が走っており、右の角は途中から折れていた。それは最初の任務――つまりは最初のパートナーを失った時に受けた傷だという話は、教団内でも有名だった。 訓練のサポートを行うのは、彼のパートナーであるヨウジ・キリサワという喰人と、オーレリア・ハンプトンという魔術鍛冶師。キリサワは定式陣の微調整を、ハンプトンは魔喰器の応急処置と装備の確認を担当するのだという。魔喰器を修理できるのは教団でもヴェルンド・ガロウだけなので、彼女がここで本格的な調整と修理を施すことはできない。彼女は診断書を作り、浄化師への影響を最小限に留めるための処置をするだけだ。 ● 「まずは8組の浄化師の参加、嬉しく思う。お前たちを万全の状態で任務に送り出せるよう、俺も全力で監督しよう」 彼がよく通る声で言うと、『マリオス・ロゼッティ』が小さく呟いた。 「訓練用の軍事魔術を使った模擬戦、ね。浄化師は貴重だから、未熟なまま送り出して失うわけには行かないか」 「……? どうかしたの、マリオス」 「ん、何でもない。実際、安全に訓練できるのは悪いことじゃないからな。……ああ、シィは僕の後ろに居るんだぞ?」 マリオスの過保護は今に始まったことではないが、これは訓練だ。守られてばかりでは意味がない。隣に居た『シルシィ・アスティリア』は、少し表情を曇らせた。 「では、訓練の開始はこれより10分後。それまで各自、準備運動などしておくように!」 レオンハルトは踵を返すと、キリサワやハンプトンと最終確認を行うために少し離れた場所へ行った。彼が歩いていくのを、『薙鎖・ラスカリス』は緊張した面持ちで見ていた。パートナーの『モニカ・モニモニカ』はそんな彼の心情を知っているのか、ただ優しく微笑んでいる。 「良かったな、ティ。救急箱使えて」 「はい、ロスさん。キリサワさんが箱の中身を入れ替えて、マーキングを消せるようにしてくれたみたいです」 そう話すのは、『ロス・レッグ』と『シンティラ・ウェルシコロル』。彼らはこれが最初の任務だ。ティは緊張しているようだが、ロスはそうでもないように見える。 「あ、開始まであと5分だよ、ナツキ。事前に決めた通り、そろそろみんなを呼ばないと」 制式の懐中時計で時刻を確認したのは、『ルーノ・クロード』というヴァンピールの男性。彼の相棒であるライカンスロープの『ナツキ・ヤクト』は、開始が待ちきれないのか、勇み足気味になっていた。 「落ち着いて臨めば問題はないさ。焦らず、ね」 「なんだよ、俺は落ち着いてるぜ? 大丈夫だって!」 ルーノは、いつもの人当たりの良い笑顔で受け流す。彼が他の参加者に声をかけると、時計を持っていた浄化師は揃って時刻を確認し、全員が走ってフィールドの角に移動する。 「ほう、最初は角で円陣を作るか。考えてきたな。キリサワ、何か言ってやれ」 参加者たちが見える位置に移動したレオンハルトがパートナーを促す。すると、どこからともなく声がした。 「フィールドをこれだけ広くしたのは、参加者同士を分断しやすくするため。だから、一次試験は合格かな」 彼は魔術を使って話しかけているようで、彼の本体は随分と遠くに居た。この定式陣は改良型で、陣の調整をする者は遠方からフィールド内の状況を確認でき、多少の制約はあるものの会話のやりとりも可能となっている。だがこの改良型の陣は未だ小型化されておらず、今回のフィールドが広いのはそのためでもあるのだと、柔和そうな声は語っていた。 「ハンプトン君があと1分だってさ、デニス。準備して」 「ああ、任せておけ」 そう言うとレオンハルトは、大きな翼を広げて上空へ舞い上がる。高度はそれほどでもないが、フィールド全体が一望でき、かつ幻影の攻撃が届かないような高さで彼は浮かんでいた。 「見てよアル! こんな広いところ、どうやって見るのかと思ったら!」 「ああ、意外だった」 円陣の外側に居た『エメラド・ルミナル』は驚いた声を上げるが、兄の『アリアド・ルミナル』は動じていないようだった。このヴァンピールの双子も、今回が初任務だ。 「訓練だろうと何だろうと、所詮は幻影との戯れだ。早く終わらせるぞ、エメ」 「そう言って舐めてかかると、痛い目遭っちゃうよ!」 エメラドは少し緊張しているようで、軽口を叩いてはいるものの膝が震えていた。アリアドはからかうように弟に話しかけるが、それでも弟の体調を心配しているようだった。 ● 「それではこれより、対ベリアル戦闘訓練を開始する! 武装を展開せよ!」 レオンハルトが上空から開始を宣言すると、参加者たちは一斉に口寄魔方陣を展開する。これが初めての使用だった者も少なくないが、全員が問題なく装備を出現させていた。それと同時に、遠くから複数の咆哮が届く。 「全員、よくやった! ちなみに幻影の数は俺にも分からん、後は思い切りやれ!」 そう言うと、彼は更に高く舞い上がる。新人たちの戦いに口や手を出す気は、どうやら無いらしかった。 「あの先輩、結構適当だねー。かーくんもそう思わない?」 「まあ……。それよりも、アユカさんの背中は私が守ります。どうか傍を離れないでください」 上空のレオンハルトを見上げて呟いたのは、『アユカ・セイロウ』と『花咲・楓』の二人。彼女たちも今回の指令が、浄化師としての最初の任務だった。 「では皆、事前に決めた通りに。いつも通りにやれば、やっていけるだろう」 「モルテ。余裕を見せるのはいいけど、あまり前に出すぎないでよ?」 本能的な恐怖と嫌悪を呼び起こすベリアルの咆哮を物ともせず、『モルテ・フューリー』は躊躇うことなく剣を地に突き立て、右手を剣に添える。『アイリス・フーリエ』はパートナーの左手を取ると、指を絡めて二人で詠唱した。 「――星降る夜の誓いを、此処に。」 二人に、強力な魔力が満ちていく。口火を切った彼女たちに続いて、残りの浄化師も次々に魔術真名を口にした。 「――滿たせ」 「翠色の双星よ、幸運の光を照らし給え!」 「その牙は己の為に!」 「我らの意志の元に!」 「雨のち、希望咲く!」 「――束縛の鎖を断ち、我と我らが腕にて抱こう」 「守り抜けなかった自分達の心に楔を」 互いの腕をクロスさせる者、二人の拳を突き合わせる者、相手の手首を掴む者、儀式のように片手で音を鳴らす者。動作は様々だが、彼ら全員がこの言葉に絶対の信念を込めていることは疑いようもない。 「実戦形式だけど、訓練だしな。試したい事はいろいろある。それに、相談の時は皆に助けられたし、頑張らないと」 「そうですか。トーマがそう言うのでしたら、私も頑張りましょう。援護しますよ」 装備の展開を終えて、『トウマル・ウツギ』と『グラナーダ・リラ』は身構えながら話す。彼らは一度戦闘任務を経験しているが、それでも実戦経験に乏しいことにあまり変わりはない。二人はこの訓練で、お互いの戦い方を確認しようとしていた。 「全員、見どころがあるじゃないか。結果が楽しみだよ」 レオンハルトは上空で一人呟く。定式陣を通してそれを聞いたキリサワは、静かに微笑んでいた。 ● 「それじゃ、まずは移動と索敵だな!」 素早いナツキが真っ先に飛び出す。少なくとも敵は居ないように思えた。 「――待って! 止まって、ナツキさん!」 シルシィが叫ぶ。ナツキが怪訝そうな顔で立ち止まると、アイリスが続けて話す。 「敵よ。近くに2体、遠くに4体。突出すると囲まれるわ」 彼女たちはそれぞれに探知を行い、互いの情報を重ね合わせることで敵のおおまかな位置を把握していた。ナツキは二人に感謝して、その場で呼吸を整える。 「――強い魔力が1つ。すぐには来ませんが、増援は1体です」 「『魔力探知』で探った最新のベリアルの位置、みんなに伝えるね」 シンティラが不自然な魔力を探り当て、アユカが更新した敵の位置情報に従い、陣形を円から前衛と後衛の2段の横列へと変更する。初戦闘の浄化師が何組かいるとは思えない、淀みない連携だった。 「では私は、上空から見落としがないか確認しましょう」 言うが早いか、リラが大きく翼を広げて飛び立つ。見落としが無いことを彼が大声で伝えると、少し上で飛んでいたレオンハルトと目が合った。 「天空天駆による索敵、新米にしては上出来の発想だ。お前もデモンならば知っているとは思うが、飛行中の我々は驚くほど無防備だ。遠距離攻撃型や飛行型の敵とやり合う時は注意しろよ」 「口出し、しないのでは?」 それを聞いたレオンハルトは、「ただ感想を言っただけだ」とにやりと笑う。リラは男から視線を外して地上へと舞い戻り、彼に向けられる子供のようなトウマルの瞳からもそっと視線を逸らすのだった。 獣の咆哮が響く。それは幻影から発されたものとはいえ、人間の心をかき乱すのには十分だった。 「いよいよだな。行くぞ」 先行して飛び出したナツキに続いて、モルテが剣を構えた。各自が常解魔術を使用して戦闘態勢を整える。モルテとナツキが幻影1体に攻撃すると、もう一方の幻影は触手を円陣中心に向けて放った。 「――――っ、外したわ! やはり精度に難ありね、占星儀って武器は!」 「カバーしますよ、アイリス」 地上に降りたばかりのリラが九字を切ると、升目状の衝撃が触手を1本切り刻む。 「もう1本はワタシが引き受けるよ。守ってあげるから、安心してね」 後衛に居たモニカが飛び出し、触手と後衛の間に割って入る。彼女は流麗なステップで攻撃を全てかわし、触手をナイフで細かく刻んだ。 「弱点の位置、分かりました! 2体とも顎の裏側です!」 「攻撃前後の隙を狙って。大丈夫だナツキ、焦らずね!」 幻影の体に浮かんだ魔方陣を見つけ、シルシィとルーノが伝達する。二人が無防備になった隙をついて、もう1体の幻影が後衛めがけて突っ込んでくる。 「――させません」 薙鎖は一足踏み込んで、銅の小盾で攻撃を防ぐ。動作の隙はやや大きいものの、彼は手本通りの美しい型で受け流して幻影を側方へと追いやる。ルミナル兄弟は続けざまに攻撃を仕掛けたが、アリアドの魔弾はあと一歩のところで避けられる。 「外したか。エメ、任せた」 「うん、任せてよアル! ――クロス・ジャッジっ!」 敵が飛びかかる隙を突いてエメラドが鎌を振り抜き、幻影の下顎に十字を刻む。体力のほとんどを削られた敵は唸り声を上げ、魂を縛る鎖をあらわにした。囚われの魂もおそらくは幻なのだろうが、その姿はひどく哀れに見えた。 「アンタの魂、解放してやる。……幻に言っても仕方ないか」 すうっと息を吸い込み、トウマルが剣を振り下ろす。鎖は断ち切られ、幻影は消滅した。魂の幻は、微笑んでいたように見えた。 モルテとナツキが戦っていた幻影は、二人の攻撃によってかなり痛手を負っていた。そこにマリオスがもう一度斬撃を叩き込むと、やはりこちらも同じように鎖をあらわにする。 「ロスさん、行けますよ!」 「よっし、任せろ、ティ!」 シンティラが幻影の動きを封じると、ロスは地面を力強く蹴って斧を大きく振りかぶる。落下の勢いを乗せた打撃は、幻影の鎖を粉々に砕いた。攻撃を終えた彼らに代わり、消耗の少ない薙鎖とアリアドが最前線に、楓が中衛にそれぞれ飛び出す。同時に、残りの幻影が姿を見せた。 ● 「前衛2人で5体は分が悪い。誰か入ってくれないか」 後方に向かって楓が呼びかけると、息を整えたモルテが飛んでくる。彼女は体勢を立て直したアイリスとアユカを連れてサポートに入った。 「待たせた、これより援護する。私とお前のパートナーも、中衛で支援してくれるはずだ」 「では他の前衛が来るまで、僕が残りを引き付けます」 薙鎖が盾を構え、すっと前に出る。彼は真言を唱えて防御力を一時的に引き上げた。 幻影の叫びが連鎖して、おぞましい響きを奏でる。走り出す敵をそれぞれが対応すると、薙鎖が残った3体を引き付けようと行動する。その刹那、彼の横からナツキが凄まじい勢いで飛び出してきた。 「1匹は俺がやる、残りは後ろが来るまで凌いでくれ!」 「あ、ありがとうございます」 薙鎖は戸惑うも、それならばと残り2体を全力で相手取る。彼は先ほどより滑らかな動きで猛攻をいなし続けていた。 「2体までは見えたけど、動きが速い。それに弱点の位置も違う……」 楓とアイリスが幻影を牽制する間、アユカは敵の弱点を探っていた。彼女がベリアル5体の弱点を一度に探ろうとしていると、後方からシルシィが追い付き、魔術による探知を開始した。 「ナツキさんのほうは右前足付け根。薙鎖さんのほうは、誰か別の人が1体引き受けてくれたら……」 彼女は右手をぎゅっと握り、悔しそうに言う。それから二人は判明している弱点部位を大声で伝達し、前衛の援護に回った。 「お前の弱点は、腹だったな」 中衛の牽制攻撃で怯んだ幻影の隙を、アリアドは見逃さなかった。『捧身賢術』と魔術真名により攻撃力を大幅に高めた彼は、盾で幻影を受け止めると、敵の勢いを利用して上空へ跳ね上げる。幻影が姿勢を変えるよりも早く、彼は敵の腹部へ魔弾を叩き込んだ。地上にどしゃりと落ちた幻影は、そのまま鎖を現す。 「誰でもいい、頼む」 「――任せろ、アリアド」 楓の目が鋭くなる。一呼吸置いた後、彼は素早く照準を合わせてボウガンのトリガーを引いた。ボルトは狙い違わず鎖を断ち、幻影が一つ消滅する。 「こいつは、右前脚付け根!」 ナツキは彼めがけて飛びかかる幻影の下に潜り込むと、魔方陣のある位置に素早く十字の斬撃を食らわせる。力を失って落ちてくる幻影を、彼は剣で受け流して後方へ下がった。 「さっきは外したけれど、幸運は二度も続かないわよ、ベリアルさん」 ナツキが飛び退いたのを見計らい、出現した鎖にアイリスが魔弾を放ち消滅させた。残りの幻影は、3体だ。 ● 戦闘を続けるうちに、浄化師たちは最初の位置から随分と移動していた。仲間との連携や陣形に気を配っていたお陰か、彼らはこれまで分断されることなく戦い続けている。 「ここまでやるとは、想定外だね」 音声伝達の機能を一時的に切ったキリサワがハンプトンに話す。彼女もこくりと頷き、彼に同意した。 「ええ。魔喰器も含め、武具の状態は至って良好。魔術鍛冶屋の職人としては、言うことなし」 彼女は水晶玉に投影されたフィールドの様子を見ながら、手元の表にしきりに何か書きつけていた。 「ここまでは負傷者0。かなり良い結果だ。でも次の攻撃は凌げるだろうか」 彼女は「さあ」と短く返し、水晶の中に浮かんだ像の角度を変え始める。キリサワも定式陣の音声伝達機能を再び入れ、訓練の確認を再開した。 後続の到着を確認すると、薙鎖は中衛や後衛の庇護に回るためその場を離脱しようとする。だが前線向きの仲間が駆けつけるよりも先に、彼が相手をしていた幻影が1体、右肩に噛み付いた。 「傷の代わりと言っても、所詮は魔力によるマーキングです。別に下がることも――っ!?」 薙鎖はがくんと膝を落とす。攻撃を受けた箇所が恐ろしいほど重かった。右腕を上げようとするたび奇妙な感覚に襲われる。するとフィールド全体に、キリサワの声が届いた。 「ここでは傷の部位と程度に応じて、行動に制約がかけられるんだ。不正されたらたまらないからね」 薙鎖が荒い呼吸を整えていると、マリオスとモニカが彼の前方へ飛び出した。二人とも、仲間やパートナーにこれ以上怪我をさせまいと必死だった。 「薙鎖!? これ以上、やらせるかよ……!」 敵を1体倒したナツキが、訓練ということも忘れて仲間に傷を負わせた幻影を睨む。彼は全速で敵に向かうと、剣を思い切り薙ぎ払ってその幻影を吹き飛ばす。その拍子に、この個体の弱点である腹部が見えた。 「今、治療しますからね!」 後方の遮蔽物の影で準備していたシンティラが簡易救急箱を取り出し、薙鎖の到着と同時に応急処置を開始する。箱の中身は全て訓練用のものになっており、応急処置を実践できるようになっていた。マーキングが薄れるに従い、彼の肩や腕にあった違和感が取れていく。 「……あの敵の属性は、全て『陰気』です。僕の纏っていた魔力と、同じ色をしていました」 薙鎖が、傷の代償に掴んだ情報を伝える。周辺を警戒していたロスにシンティラが告げると、ロスはすぐさま前線へと走っていった。それに続いて走り出す薙鎖は、悔しそうに唇を噛んでいた。 ● 「これであと2体だ!」 モルテが幻影に致命傷を与え、返す刃で鎖を断ち切る。左足首を負傷していた彼女は消滅を確認すると早めに後方へと下がり、手の空いていたアリアドと薙鎖がすかさず代わる。 「ナギサをやったの、キミだよね。許さないから」 幻影の背後を取ったモニカが、踊るようなステップで斬撃を繰り出す。弱点属性の攻撃に幻影は怯み、彼女を威嚇するような姿勢を取った。すると背後から九字の印が飛んできて幻影を切り刻む。突出していたモニカを見て、駆けつけてきたトウマルとリラだった。幻影はその場で倒れ、モニカへ弱点の腹をさらけ出す。 「そいつ譲る。恨みがあるんだろ、アンタ」 「――ありがとう、感謝するね」 モニカは幻影の腹部めがけてナイフを突き立てる。そして出現した鎖を、彼女は切り刻んだ。 (随分、悪趣味な幻影ですね) 幻の魂が解放されるとき、それらは一様に人間のような表情を浮かべる。『ファントム・トレース』が学院の技術の結晶だということはよく分かったが、幻影の姿はあまりにも真に迫りすぎていた。魂の幻にモデルでもいるのだろうかと考えるほどに。 (もっともベリアルの姿のほうが、おぞましいですけれど) 誰にも悟られぬよう、リラは表情を変えずに考えていた。 残りの敵は、ナツキが引き受けた1体だけとなった。彼は怒りに我を忘れて斬撃を繰り出し続けていた。彼の背中めがけて幻影は触手を伸ばすが、触手は途中で魔弾とボルトに弾かれ消滅した。楓とアユカの放った攻撃だった。 「ばっちりだね、かーくん。息が合ってきたんじゃないかな」 楓はそれを聞くと、これまで覚えたことのない安堵感に襲われる。剣を捨て、彼女の前に立って守れない自分を歯痒く思っていたが、このような形で認められるとは思ってもみなかった。 「……息が合ってきたのならば、何よりです」 彼はこみ上げる数々の感情を抑えて、それだけ答えた。 「ごめんねナツキさん、遅くなっちゃった!」 追いついたエメラドがナツキの横に立つ。エメラドが先に飛び出して牽制すると、ナツキはその隙を突いてクロス・ジャッジを叩き込む。 「これで――終わりだ!」 出現した鎖に、渾身の一撃を食らわせる。鎖に縛られた魂の幻は、静かな微笑みを残して消滅していった。 「全幻影の撃破を確認、戦闘を終了する! 全員、武装を解除せよ!」 上空からレオンハルトの声が響く。その場にへたり込む者、仲間やパートナーの健闘を称える者と、訓練を終えた浄化師たちの反応は様々だった。 「なんとか終わったね、アル」 装備を全て解除し終えてから、エメラドが兄に言った。彼はそれまで極度の緊張に晒されていたのか、戦闘態勢を解除するとがくりと片膝をつく。 「やはり病院送りのようだな」 兄の冗談に力なく笑うエメラド。そんな弟の様子を察してか、アリアドはそれとなく弟を気遣った。 「その震え、訓練中はよく堪えた」 「――ありがとう、アル」 大切な人々を守るために浄化師となった彼が、その「大切な存在」から努力を認められた。それはエメラドにとって、何にも増して嬉しいことだったのだろう。眩しいほどの笑顔で、彼は笑っていた。 ● 「幻影は合計7体、所要時間は基準より大幅に少ない。負傷判定も1名のみ。お疲れさま、素晴らしい結果だ」 再び一ヶ所に集められた浄化師たちにキリサワが告げる。定式陣は既に解除されていて、今では彼も自由に動くことが可能だった。彼はレオンハルトよりも幾らか年下に見えるエレメンツだった。 「応急手当も上手く行ってたし、魔喰器も問題ない。武具の調整がしたければ、魔術鍛冶屋のある別棟まで来て。一日で調整してみせる」 ハンプトンは背の低いマドールチェの少女だった。もっともマドールチェの年齢は、外見では分からないのだが。 「広いフィールドで分断されることもなく、各自が役割を意識して上手く連携していた。回復や負傷者の後退タイミングも問題ない。さて、最終結果だが、結論だけ言うぞ。大成功だ!」 参加者から安堵や歓喜の声が上がる。レオンハルトは咎めないものの、咳払いを一つする。 「ベリアルには様々な形態やスケールが存在する、見たことがあっても油断しないように。それと魔術真名の効果持続時間の感覚は、体にしっかりと叩き込んでおけ。質問はあるか?」 所感を述べ終わったレオンハルトに、ルーノが問いを投げかける。 「この訓練は大成功だということでしたが、どうでしょう先輩。少しは長生きできそうですか、私たちは」 真面目な表情で見据える彼に、レオンハルトもまた真摯に答えた。 「噂は知っている。正直なところ、俺にその真偽は分からん。ただ」 最初の任務でパートナーを失ったこと、それから訓練に励んだこと、自分と同じ思いをさせないために新人をとことん教育していること。彼はそれらを告げてから答えた。 「お前たちは見込みがある。だが、油断や慢心こそが最大の敵だ。初心を忘れず励め」 「デニスってば、いつも固いんだから。 ……君たちなら大丈夫。いつでも仲間を、そして何よりも自分を信じてほしい。君たちの未来を切り拓くのはいつだって君たちだし、窮地を救ってくれるのはいつも仲間やパートナーだ。浄化師は持ちつ持たれつ、なんてね」 キリサワが笑顔で参加者に話す。おそらくこの二人はいつもこの調子だ。訓練に参加した新人浄化師たちも、いずれはこのような余裕やより強固な信頼関係を築いていくのかもしれない。 日はまだ高かったが、参加者たちは皆一様にくたくただった。寮に帰るまでが訓練だとどやすレオンハルトに追い立てられ、参加者はのろのろと教団本部への帰途に就く。彼らの顔は、心地よい疲労感と安堵感で満たされていた。
|
||||||||
![]() |
![]() |
![]() |
*** 活躍者 *** |
| ||
[38] トウマル・ウツギ 2018/04/25-23:50
| ||
[37] 花咲・楓 2018/04/25-23:21
| ||
[36] 薙鎖・ラスカリス 2018/04/25-23:16
| ||
[35] ロス・レッグ 2018/04/25-23:12 | ||
[34] ルーノ・クロード 2018/04/25-23:02
| ||
[33] シルシィ・アスティリア 2018/04/25-21:36
| ||
[32] アイリス・フーリエ 2018/04/25-20:48
| ||
[31] エメラド・ルミナル 2018/04/25-19:57
| ||
[30] ロス・レッグ 2018/04/25-00:47
| ||
[29] ルーノ・クロード 2018/04/24-21:54 | ||
[28] ロス・レッグ 2018/04/24-20:38
| ||
[27] シンティラ・ウェルシコロル 2018/04/24-08:24
| ||
[26] ルーノ・クロード 2018/04/23-23:50 | ||
[25] トウマル・ウツギ 2018/04/23-22:59
| ||
[24] トウマル・ウツギ 2018/04/23-22:49
| ||
[23] シルシィ・アスティリア 2018/04/23-22:31 | ||
[22] トウマル・ウツギ 2018/04/23-20:50
| ||
[21] トウマル・ウツギ 2018/04/23-20:45 | ||
[20] シンティラ・ウェルシコロル 2018/04/23-19:06
| ||
[19] アリアド・ルミナル 2018/04/23-16:31
| ||
[18] 花咲・楓 2018/04/23-04:18 | ||
[17] シンティラ・ウェルシコロル 2018/04/23-01:57 | ||
[16] 薙鎖・ラスカリス 2018/04/22-23:59 | ||
[15] ルーノ・クロード 2018/04/22-23:40
| ||
[14] 薙鎖・ラスカリス 2018/04/22-21:26 | ||
[13] アリアド・ルミナル 2018/04/22-19:06
| ||
[12] トウマル・ウツギ 2018/04/22-15:18
| ||
[11] シンティラ・ウェルシコロル 2018/04/22-13:33 | ||
[10] ルーノ・クロード 2018/04/22-12:35 | ||
[9] シルシィ・アスティリア 2018/04/22-06:53 | ||
[8] トウマル・ウツギ 2018/04/21-15:02
| ||
[7] アイリス・フーリエ 2018/04/21-07:57
| ||
[6] シンティラ・ウェルシコロル 2018/04/21-07:02
| ||
[5] エメラド・ルミナル 2018/04/21-01:21
| ||
[4] ルーノ・クロード 2018/04/21-00:55 | ||
[3] シルシィ・アスティリア 2018/04/21-00:33
| ||
[2] 薙鎖・ラスカリス 2018/04/21-00:23
|