~ プロローグ ~ |
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~ 解説 ~ |
小人の森に赴き、事態を収拾してください。 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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事前 ティターニアの元へ 声を奪われた前回のことも含めてアリバとディアをどう思っているか 会話が出来なくとも筆談などで二人に伝えたい事を聞いて一緒に手紙を書き持参 一言ずつ確認しながらゆっくり 事後様子が落ち着いたらその手紙を二人に渡す 戦闘 アリバの抑え ヨナ 後衛。鏡を持つルーノさんへ注意が向かないよう続けざまにFN16で攻撃 今のアリバさんなら私の魔術をいなすのも容易いとしても… それでも手は止められません 喰人 前に出てアリバに張り付く。攻撃はなるべく受け、自らのHPを減らしながらJM12や14で攪乱 アリバが攻撃を躊躇し始めたらJM20 俺たちに勝つつもりはないんだろう? やっぱりお前は俺たちの知っている優しい奴だ |
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正当な、裁きか… 果たしていつの時代でも正当な裁きがあっただろうか まあ今回の件は裁きさえなかった訳だが… 妖精達に話を聞こう 無理には聞かないとフォローした上で、彼らが後悔しない道を可能な限り我々も選びたいと言おう ティターニアは兄を想うから言えないこともあるだろう 筆談で聞いてみよう アリバの注意を惹く 真名詠唱後黒炎解放でアリバの耐久を削ぐ ディア、何にせよ罪は償いきれないと思ってからが償いだ 協力はする 死なれても追放されても夢見が悪いしな アリバ、タリオの本質は目を潰されたら目を潰す以上は駄目だということだ 住処を更地にした挙句殺しかけたじゃ釣り合わんだろ …もうやめろ お前は一人じゃあないだろう |
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出発前にティターニアさんとお話を ディアさんのこと、どう思ってますか? 復讐、したい、ですか…? アリバさんは関係なく、貴女は…どうしたい、ですか? ティターニアさんの気持ちが知りたい、です 森に到着後、魔術真名詠唱 リチェちゃんと協力して皆さんに禹歩七星 ディアさんの方へ走ります 攻撃がこちらへ来そうなら式神召喚を使い ディアさんを庇います 占星術師のお二人が来られたらディアさんの回復を ディアさん… ティターニアさんとも、アリバさんとも、ちゃんとお話しましょう… ね? 自分の罪と向き合うのは、怖いと思います でも、そこから始めないと、何も進まないと、思うんです ディアさんが退避できたら、アリバさんの方にいる皆さんの支援に |
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誰も死んでほしくない だから 止めなくちゃ ティターニアさんたちに ふたりと一緒に 帰ってきたいと思っています それでいいですか? 駄目 殺さないで…! 魔術真名詠唱 シアちゃんと禹歩七星 ディアさんから離すよう アリバさんに向けて九字 アリバさん側へ 鏡が発動するまでディアさんに近づけない 回復をしながら 鬼門封印や禁符の陣 隙があれば アリバに抱きついて動きを止める 皆すごくすごく心配してる だからお願い 一緒に帰りましょう ディアさんにはティターニアさんに謝ってもらう 何ができるかわからないけど… だけど何かできることを わたしも一緒に探す アリバさん わたし怒っているのよ わたしだって心配したのに 回復したばかりなのに こんなこと |
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待ってアリバ! 現場を見て、突入前に思わず声が出る 魔術真名詠唱後ダッシュ スポットライトを使用してアリバの注意を引き付け ディアとアリバとが十分離れたら戦踏乱舞で前衛の支援 自分はそのままアリバを引き付けつつ回避重視で、鏡発動までの時間を稼ぐ 鏡が発動したら効果が切れるまで攻撃に転じる 哀れまないわ、あなたは敵じゃないから 私、アリバには感謝してるわ ファラステロに乗せてくれたこと とても楽しかった だから消えて欲しくなくてアマツカミの涙を取ってきた けどそれは、こんなことをさせるためじゃない それからディア…声がコンプレックスだったなんて知らなかった けど、知らないことは言い訳にならないと思うから…その、ごめんなさい |
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妹が声を奪われ、もう戻せないとなれば怒るのも判るが 一番いかんのは長老達だな 当時、何故目を背けた その時に適切に対処していれば、事はここまで拗れなかったんじゃないか? まあ、終わったことを言っても仕方ないか 今はアリバを止めよう 皆、二人とも助けたいらしいしな 魔術真名を唱えアリバの方へ向かう なるべく横や後ろに回り込みながらパイルドライブにて攻撃 鏡が発動したら取り押さえて説得を 神にも匹敵する力か 私の攻撃くらいではビクともせんだろうが しかしアリバよ その力を得られたのは誰のおかげだ その薬を作ったのは、そして持ってきたのは? 今のお前は皆の気持ちを踏みにじってると 本当は自覚してるのではないのか よく考えてみるんだな |
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アリバさんを止めること アリバさんとディアさんのふたりを生かすこと 解決策なんて思いつかないけど このままでは嫌だと思うから >戦闘 魔術真名詠唱 鏡発動まで粘りながら アリバに止まるよう説得 リ:初手で戦踏乱舞 アリバ側に向かうメインアタッカーの戦闘力を上げる アリバさん 止めてください! 他の人たちと一緒にディアさんと引き離すよう動く 鏡発動までの時間稼ぎ ディアさんから距離を 死角になる位置から攻撃 発動したら彼の動きを抑える セ:ディアさんの前に立ち ペンタクルシールドで護衛 魔力が切れたら自分で盾に 彼女のしたことに思う事がないわけじゃないけど それでも 殺させるわけにはいかない 守りを固め アリバの動きに注意 攻撃の際は周知 |
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魔術真名は即宣言 ディア救出の味方を援護する為 範囲に入り次第JM8や遠距離攻撃をアリバに仕掛け注意を引く アドナイの鏡はルーノが所持 10R後に使用、その際味方へ合図を送り効果発動に備えられるよう配慮 鏡を破壊されないよう注意を払い最優先で守る アリバの攻撃に巻き込まれたり不用意に目立たないよう 後方から生命半分以下の味方の回復・支援魔術での戦線維持に努める ナツキはルーノより1マス前を維持、JM3も使い間合いを調整 ルーノの被弾時に庇えるよう構えつつ スキルを惜しまず、アリバを抑える事を目的に交戦 弱体中はアリバを説得 アリバとディア、双方が自らの行いから目を逸らさず生きる事も 正当な裁きとなるのではないかと訴える |
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~ リザルトノベル ~ |
● 動揺が残る心を落ち着け、【ヨナ・ミューエ】は机上に置いた手を結んだ。 「ティターニアさんの、お気持ちを聞かせてください」 うつむいていた地精がはっとしたように顔を上げる。会議室に集った浄化師たちの視線が、ティターニアに集中した。 「ディアさんに声を奪われたときのことも、今回、アリバさんが……」 「事件を起こしたことも含めて。当事者であるお前の意見を、俺たちはまだ聞いていない」 言いよどんだヨナの言葉を【ベルトルド・レーヴェ】が接ぐ。 目蓋を伏せたティターニアから、そっとオベロンが離れた。 「ルーノ。鏡は汝が持つのだったな?」 「はい」 張りつめた空気の中、小声でオベロンに呼ばれて【ルーノ・クロード】は微かに目を見開きながら頷く。彼の隣席にいた【ナツキ・ヤクト】の意識もそちらに向いた。 「ただの道具ではあるが、神宝だ。それも今回は破壊されることが前提となっておる」 「危険が伴うことは承知しています」 毅然とした表情でルーノが請け負う。春精が口許だけで笑んだ。 「アリバがこれを見れば、真っ先に破壊しようとしてくるだろう」 「させねぇ。鏡もルーノも、俺が守る」 力強さを感じる口調でナツキが言った。ルーノの目元に柔らかな信頼が滲む。 「よい覚悟だ」 二人の間に感じられる絆に、オベロンは眩そうに目を細めた。 「これよりアドナイの鏡の使い方を教える」 「よろしくお願いします」 地精が長く沈黙し、春精が神宝の使い方を教授する一方、【リューイ・ウィンダリア】はきゅっと唇を噛んでいた。 「肩に力が入りすぎているわ」 少年の腕に【セシリア・ブルー】がそっと触れる。リューイは無意識のうちにとめていた息を深く吐き出した。 「セラ……」 「大事な人を傷つけられた怒りや悲しみ。私は、理解できるの」 「……うん」 「だけどこのやり方では、結局誰も救われないと思うから。時間がかかっても、違う方法を見つけて欲しいわ」 セシリアの青緑色の双眸に、輝くなにかを見つけたような顔をしたリューイが映っていた。ふっと少女の外見をしたマドールチェが笑む。 「私も、具体的な解決策なんて思いついていないの。でもこのままじゃ、誰も幸せになれない」 「そうだね。うん、そうだ。アリバさんをとめて、みんなで帰ってこよう」 「ええ」 ――ティターニアをとり囲む、凍ったような沈黙を破ったのは【アリシア・ムーンライト】だった。 「復讐、したい、ですか……?」 筆談用に持ち歩いている紙に添えられていたティターニアの指が、ぴくりと反応する。 「ディアさんのこと、どう思っていますか?」 「独断で突っ走ってるアリバのことなんて、考えなくていいよ。今重要なのは君の意見だ」 肩を竦めた【クリストフ・フォンシラー】の口振りには気軽さがあった。平素と大差ないその雰囲気が、会議室内のこの一角にだけ下りた重苦しさを緩和する。 「ティターニアさんの気持ちが、知りたい、です」 自身の近くにいる浄化師たちを、ティターニアは様々な感情がないまぜになった眼差しで見る。 ヨナはティターニアの白い手を握った。肩を揺らした地精の視線が、ヨナに固定される。 「本心を打ち明けるのって、とても怖いとは思います。でももし、貴女に争いをとめたいという気持ちがあれば、私たちは希望をもって赴くことができます。……だから、教えてください」 「小人の森にいる、お二人に、伝えたいことを……どうか……」 ゆっくりと、ティターニアがペンをとった。 「大丈夫だ、リコ。全員無事に帰ってくる」 「……そうね」 青ざめている【リコリス・ラディアータ】の肩を【トール・フォルクス】が励ますように優しく叩く。 爪が手のひらに食いこむほど強く拳を握っていたリコリスは、無機質な天井を仰ぎ見た。 「ディアに謝りたいの」 「ああ」 「それから、アリバにお礼も言いたい。だから、どちらにも死なれちゃ困るわ」 「裁きを欲しがってるって、オベロンたちは言うけどな。二人とももう、きっと十分に苦しんだんだ。本当に与えられるべきなのは、『落としどころ』だろう」 それでは足りないというのなら、アリアンスの継続に力を尽くしてほしい。同盟はこれからの戦いに不可欠の存在であり――妖精はすでに、浄化師たちの親しき隣人なのだ。 「妹の声を奪われ、二度目の復讐に乗り出した兄か」 「ニコラさん、もしかして私が声を奪われたら、アリバさんみたいに怒ってくれたりします?」 壁に背を預けた【ニコラ・トロワ】の呟きに、【ヴィオラ・ペール】がふふっと柔らかな笑声をこぼす。 彼女を一瞥し、ニコラは思案する素振りを見せた。 「いや、その前に確認事項があるな。……グラース」 「ん、なになに?」 「もしかして誤魔化されました?」 頬を膨らませて見せたヴィオラと何事もなかったような表情のニコラを、少年の姿の氷精が見比べた。 「ディアの声が奪われた当時、妖精全員で見逃すと決定したのは誰だ?」 「統精ディケだよ。今も中立を宣言してる妖精だけど、教団内ではたまに見るね」 「……ふむ」 この騒動は、誰も消滅させず殺させもせず、決着させる。 それを前提として、ニコラはその先を考えていた。 「アリバさんを、とめなくちゃ」 青と碧の目に涙をためて、しかし一滴もこぼさずに【リチェルカーレ・リモージュ】は声を震わせる。【シリウス・セイアッド】が小さく頷いた。 「ああ。誰も死なせない」 祈るようにリチェルカーレは指を絡める。 医務室からアリバがいなくなったときは、こんなことになるなんて思いもしなかった。 「ショーン、出発まであとどれくらい?」 「もうしばらくです」 囁くような声で【レオノル・ペリエ】に問われ、【ショーン・ハイド】は壁にかかった時計に目をやってから応じる。 「分かった。じゃあちょっと行ってくるよ」 「えっ」 驚きながらもショーンはレオノルの後を追った。 「ショーン、正当な裁きってなんだと思う?」 「……分かりません。不当な裁きはともかく、特に正当な裁きについては……、果たしていつの時代でも、あったかどうか」 「そうだね」 音を立てないようにショーンは扉を閉める。二人が廊下に出たことに、他の浄化師や妖精も気づいているだろう。 とはいえ各々、現在は心身の準備に忙しい。問われることも咎められることもない。 「だから、他の妖精たちにも聞きに行こう。無理にとは言わないけど、できるだけ多くの妖精が後悔しない道を選ぶために」 「このお手紙は、必ずお二人に届けます」 残された時間を目いっぱい使って、ティターニアは一通の手紙を書いた。ヨナが受けとり、懐に入れる。 「二人と一緒に、帰ってきたいと思います。それでいいですか?」 「ああ。頼む」 アドナイの鏡の使い方をルーノに教え終えたオベロンが、リチェルカーレの言葉に頷く。 「アリバさんのことも、ディアさんのことも、心配ですよね。……待っていてください。二人とも無事に連れてきますから」 ヴィオラがティターニアの手をとって微笑んだ。 ● 見る影もなく破壊された小人の森に到着し、浄化師たちは魔力が最も濃く感じられる場所を目指して走る。 不自然に盛り上がり小さな崖と化した地面や倒木を越えた先の光景に、先頭を行くリコリスが思わず声を上げた。 「待ってアリバ!」 倒れ伏したディアにとどめを刺そうとしていたアリバが振り返る。 トールがリコリスの手を握り、そのまま駆けた。 『闇の森に歌よ響け!』 声を揃え、魔術真名を唱える。 「あとちょっとなんだけどなぁ」 アリバが魔法の行使をとりやめていないことを悟り、リチェルカーレは叫んだ。 「だめ、殺さないで……!」 「とめるぞ」 強く頷いたリチェルカーレとシリウスが向かいあい、互いに手のひらをあわせて目を伏せる。 『黄昏と黎明、明日を紡ぐ光をここに』 「アリシア」 「はい……!」 剣を抜いたクリストフは、逆の手でアリシアの手を握った。 『月と太陽の合わさる時に』 「リューイ、覚悟はいい?」 「もちろん!」 リューイとセシリアも手を繋ぐ。 『開け、九つの天を穿つ門!』 「大変なことになっていますねぇ」 「行くぞ」 これは笑えないと首を傾けたヴィオラと冷静なニコラが指先を触れあわせる。 『cooking and science』 「妖精たちは誰も二人の死を望んでいなかった。過去の裁定を悔いている方もいた」 「はい。ここで諦めさせるわけにはいきません」 そうだ、とレオノルは笑ってショーンと手のひらをあわせた。 『正しいことを為せ、真のことを言え!』 「絶対守る」 「任せるよ」 それだけでいい、そこに信頼がある。ルーノとナツキは、拳をつきあわせた。 『その牙は己の為に』 アリシアとリチェルカーレの術が発動し、速力が底上げされる。軽くなった体でベルトルドは弾丸のように疾駆、アリバに拳を振りかぶった。 低高度とはいえ浮遊しているアリバがそれを避ける。ディアとアリバの距離が離れた。 「……ディアを置いて帰るなら、ぼくはきみたちに危害を加えないんだけどねぇ?」 「できません。私たちは、アリバさんもディアさんも連れて帰ります」 ディアを守るように立ち、ヨナは魔導書を構える。嫌な汗が背を伝った。 勝てないと本能が告げている。 それがどうしたと己を叱咤する。 「みんな、すごくすごく心配しています。だからお願い、一緒に帰りましょう」 「……経緯は聞いた。お前の気持ちは分かる、と思う。だけどとまれ」 「ディアさんにはティターニアさんに謝ってもらう。なにができるかは分からないけど……、だけど、なにかできることを私も一緒に探す!」 「ディアもアリバも殺させない。アリアンスなんて関係ない。リチェも俺も、お前を同族殺しにさせたくない」 真摯に放たれるリチェルカーレとシリウスの言葉に、アリバは眉尻を下げて笑う。 「……うん」 なにに対しての、肯定だったのか。 空精の足元から生えた蔓がディアを狙って伸びる。 「雷龍……!」 ディアの傍らに膝を突いたアリシアがそれを防いだ。 「まったく、どこに消えたのかと思えば。気持ちは分かるけどね、だからって他の人に心配かけていいわけないだろう」 剣の力を解放し、クリストフが呆れ顔になる。 ショーンの表情は苦かった。 「そもそもやりすぎだ。タリオの本質は目を潰されたら目を潰す以上のことは駄目ということだ。住処を更地にした挙句、殺しかけたじゃ釣り合わんだろ」 「どうしても裁いてほしいなら俺たちがやってやる。だから一旦、矛を収めないか」 クリストフの説得に、アリバは曖昧に首を振る。 続けて放たれた蔓をリューイが斬った。 「アリバさん、もうやめよう。ディアさんは間違いを犯した。絶対にしちゃ駄目なことだ。だけどそれでも僕は、あなたにとまってほしいと思う!」 浄化師たちが声をかける中、ニコラはアリバの背後に回り鎌を振るった。切っ先が妖精にあたる直前、噴き上がった土が壁となり攻撃を防ぐ。 ほとんど同時に自分を絡めとろうと伸びてきた蔓をニコラが引き裂き、捉えきれなかった分はリコリスが斬り裂いた。 「見もせずに防いだか。アリバよ、その力を得られたのは誰のおかげだ。その薬はなんのために作られ、誰が持ってきた? 今のお前は、皆の気持ちを踏みにじっていると本当は自覚しているのではないか」 「私、アリバには感謝してるわ。ファラステロに乗せてくれたこと、とても楽しかった。だから消えてほしくなくて、アマツカミの涙をとってきた。けどそれは、こんなことをさせるためじゃない!」 「冷静になって、話を聞いてくれ。こんなことをしても苦しいだけだって、本当はアリバも分かっているんだろ?」 トールとアリバの視線が交わる。薄く唇を開いたアリバは、堪えるように口を閉じた。 「邪魔をするなら、きみたちでも容赦しないよ」 「希望を守る牙になれ。解放しろ、ホープ・レーベン!」 無数の蔦がアリバの足元から地面を割って出現する。ナツキが裂帛の叫びとともに黒炎魔喰器を解放した。 「ディアさん、もう大丈夫です……!」 アリシアの治癒術がディアを包む。魔術としての性質そのものというより、こめられた魔力が薄れていたディアの体に確かな色をつけた。 「ばかね……。どうしてきたの……」 皮肉気に笑おうとしたのだろうが、ディアの表情は苦痛のままほとんど動かなかった。 「あなたにもきちんと償っていただくためですよ」 微笑んだヴィオラがアリシアにシールドを付与する。 「本当は声を奪ったこと、後悔してるのではありませんか? なら、それをきちんと誤って、償ってもらわなくては、ね?」 「ティターニアさんとも、アリバさんとも、ちゃんとお話ししましょう……。自分の罪と向きあうのは、怖いと思います。でも、そこから始めないと、なにも進まないと、思うんです……」 唇を噛み、ディアは目を伏せる。セシリアが妖精の名を呼んだ。 「必ず守ります。だからちゃんと受けとめてください。貴方がしてしまったこと、みんなが口をつぐんだって、なかったことにはなりません。……それに、その綺麗な声を手に入れて、貴女は今、幸せかしら?」 淡々とした問いかけに、ディアが肩を震わせた。セシリアは小さく笑う。 「私には幸せそうに見えない。後悔しているのなら、言葉にしなきゃ伝わりませんよ」 「わたくし……」 側にいる浄化師たちを。アリバの猛攻を防ぎ、受け、悲痛に歪んだ顔をそれでも上げ続けて、妖精に向きあう浄化師たちを。 今にも泣き出しそうな顔で大地と植物を操るアリバを。 確かめるように見て、ディアは拳を握った。 「もう、逃げたくありません」 細い声音には、強い意思がこめられている。 「アリバ! ディアとアリバ、どっちもが自分の罪から目をそらさずに生きるっていうのも、十分な裁きだろ!」1 「ディアが生きて償うということは、美を重んじる彼女が嫉妬で仲間を傷つけたという醜い自分から目をそらさず、受けとめるということ。その痛みを彼女が負う代わりに、憎しみと怒りを収めてはいただけませんか?」 飛んできた大木を両断したナツキが、戦いの轟音の中でも響くように叫ぶ。ルーノは治癒術を発動させながら、アリバに語りかけた。 「確かに自分の欲求のもと、ディア様は周囲と共謀して声を奪った」 陰気の魔力弾をアリバに飛ばしながら、レオノルは言う。魔術は妖精にあたる前に消されてしまったが、その隙を浄化師たちは見逃さない。 「でも君は私たちに頼んで、涙をもらって。そして自身の欲求のまま、彼女を殺そうとしている」 説くレオノルの視界で、殺到した浄化師たちの攻撃が次々と防がれ、かわされ、反撃される。 「それは自分が唾棄してきた彼女の行為と、本質的に変わるものか!」 アリバの目に狼狽が浮かんだ。シリウスの刃がアリバの腕を浅く裂く。 言葉は、アリバの胸に届いている。 「己が不条理をぶつけるために正当さを持ち出すな! それは欺瞞っていうんだ、なにが正しい裁きだ! 常に裁きを下すのは神じゃない、人の子だ!」 空精の目が、レオノルを映した。 「だから裁定には苦しみが伴う。己が欲求の為の行為と一緒にするな!」 「レオノルさん、避けてください!」 危機を察知したヨナの悲鳴じみた声。レオノルの反応は、刹那だけ遅れた。 彼女の右耳のすぐ側で爆発音。土の上に倒れたレオノルは、なにが起きたのか即座に確認する。 「ドクター!」 「大丈夫、それよりなにが……」 とっさにレオノルを引き倒したショーンに片手を挙げた。切れたのだろう、耳の端が痛い。 「空間の一部が急に歪んで、弾けたように見えました」 「重力操作……もしくは、空間魔法……?」 存在感がある程度安定し始めたディアをセシリアに任せ、前線に合流したアリシアが呟く。 「そうか、そもそもそちらが本命か」 急襲してくる植物の陰に隠れて生み出される拳大の歪みを見ながら、ニコラは理解する。 地精とともに生まれた空精。 本来、地に関するものの操作は地精の領分であり――空精が得意とするのは、空間と重力の操作だ。 ● ベルトルドが吹き飛び、倒れた巨木に背を打ちつける。 「ぐぅ……っ!」 「ベルトルドさん!」 空中で身を躍らせた蔓が激痛で動けないベルトルドを刺し貫こうと、すさまじい速度で迫る。すんでのところでヨナがライトレイを放って打ち砕いた。 「か、は……っ」 吊るし上げられていたリューイをショーンの弾丸が解放する。アリシアとリチェルカーレ、ルーノの治癒術の光が戦場で清く瞬いた。 「いやぁ、きついね」 「これが八百万の神の力か」 片膝を突いたクリストフは地に突き立てた陽炎剣ロキを支えに、ようやく姿勢を保つ。傍らに立ったシリウスの服にも、血の跡が鮮やかに描かれていた。 アリバの背後を狙い一撃を加えようとしたニコラの頭の中で警鐘が鳴る。とっさに右に跳んだ彼の左肩に深い裂傷が刻まれた。 「厄介な」 可視の植物操作に直前まで気づけない不可視の魔法。眉を顰めながらニコラは殺到する蔓を斬り払う。 奔ったトールの矢がそれを助けた。 「もうやめろ、アリバ!」 「あぐ……っ!」 トールの叫びにアリバは虚ろに笑む。無数の刃となって降り注ぐ葉を回避しきれず、リコリスが呻いた。 浄化師たちに攻撃と反撃を加えながらも、アリバはディアを虎視眈々と狙っている。 仰向けになったディアの胸元で、握り拳ほどの大きさの揺らぎを見つけ、セシリアが自身の魔力をぶつけた。強制的に発動させられた空間圧縮の魔法がギュルルと音を立てて弾ける。 「やりすぎですよ、アリバさん。これは謝らないとですよ?」 「そんな顔するくらいなら、こんな戦い終わらせろ!」 アリバを中心に天高く伸び、急降下して地を穿つ枝はヴィオラが撒いたタロットカードに防がれ、あるいはレオノルの杖先から放たれた陰気の魔力弾により粉砕される。 「ッらぁ!」 ルーノ目がけて落ちてきた枝は、ナツキが半ばから叩き斬った。ルーノを庇い続ける彼も、無事ではない。 「ディアを渡してくれないかなぁ。それでこの戦いは終わるんだよぉ」 「渡しません……!」 「誰も死なせない、みんなで帰るって約束したんです!」 アリシアが召喚した雷龍が成長しかけていた大樹を噛み砕く。リチェルカーレは低い位置に浮かぶアリバを見据え、声を張った。 ここに、諦めている者などひとりもいない。 妖精たちを連れて帰る。犠牲はひとりも出さない。その決意は浄化師たちの胸に、季節外れの向日葵のように真っ直ぐ、光(きぼう)の方を見て咲いている。 「そうだね。きみたちはそういう子たちだった」 片手で顔を覆ったアリバが呟く。地面が揺れた。 (もう長くはもたない) 自分も仲間たちも、体力魔力ともに限界が見えている。誰がいつ動けなくなってもおかしくない。一方で、アリバは余裕綽々といった様子だ。 (急いでくれ……!) 懐に入れたアドナイの鏡に、ルーノは服の上から触れる。 「皆さん、防御を!」 空精から膨大な魔力の流れを感じたリューイが悲鳴交じりの喚起を飛ばす。 直後、ただでさえめちゃくちゃだった地面から大量の木の根が伸びあがる。避けたところに空間の揺らぎ。炸裂をかわそうとすれば断割された大地をさらに細切れにして現れた植物の餌食になる。 パートナーを呼ぶ声が、庇おうとする姿が、悲鳴が、広範囲にわたる攻撃の合間に見え隠れする。 ぱ、とただの幻だったというように猛攻が終わり消えた後、広がっていたのは惨状だった。 「逃げなさい、よ……」 「いいえ。必ず守ると約束しましたもの」 シールドを張り、かつディアに覆いかぶさるようにして彼女を守ったセシリアが口の端を上げる。背中を起点として全身に走る痛みについて、セシリアは考えないことにした。 「あと何回、耐えられるかなぁ?」 なぶるような言葉とは裏腹に、アリバの表情は痛々しく歪んでいる。 まさか間にあわないのかと、ルーノの顔に焦りが浮かぶ。 ――不意に、なにかが全身に絡みつくような、温かな感覚を覚えた。 はっとしたルーノが懐に手を入れた。手鏡の縁の、繊細な金細工の感触。冷たかったはずのそれは、移った体温とは違う熱を帯びている。 「もう、終わりにしましょう」 とり出した神宝に、ルーノはしっかりとアリバを映す。 「アドナイの鏡!? どうして……!」 逆転の一手に浄化師たちの顔が明るくなった。 鏡を粉砕しようとアリバが地面から生やした蔓をルーノに向ける。 クリストフとシリウスが一閃し、ベルトルドが横手から折った。リューイとリコリスの剣閃が走り、ニコラは軽々と大鎌を振るう。ヨナとレオノルの光弾が蔓に紛れるように発生した魔法を相殺した。 それでも逃れた一本を、ヴィオラのシールドを受けたナツキが斬る。大丈夫、とセシリアはディアの手を握った。 「ああもう!」 「逃がすか!」 蒼天に逃れようとしたアリバの頭上をトールの矢が疾走する。反射的に低空の位置に戻ったアリバの腰に、リチェルカーレが抱きついた。 「なんっ」 「わたし、わたし……っ、怒っているのよ……っ!」 白い頬から血を流す少女は声を振り絞る。 「わたしだって心配したのに。回復したばかりなのに、こんな……」 「リチェ!」 「逃げ……っ」 痛みも疲労も忘れてシリウスが手を伸ばすより早く。 妖精と浄化師一名を映したまま、アドナイの鏡が最高出力で発動した。 白光に包まれた二人から膨大な量の魔力が吸い上げられていく。 唐突に鏡が魔力の吸引をやめた。 かたかたと揺れ、ばりんと普通の鏡のように割れる。途端に、今度は鏡から魔力があふれ出した。 ほんの数時間前の美しい景観などない小人の森に、アマツカミの魔力があふれる。 「とわっ」 少し宙に浮く程度の力さえ失い、アリバは落ちた。 一瞬だけ気を失っていたリチェルカーレは目を開き、周囲を見て安堵の息をつく。 「ええと……。アリバさんが庇ってくださって……」 「そうか……」 心配かけてごめんなさいとリチェルカーレが目蓋を伏せる。シリウスは今にも崩れ落ちそうだった。アリバが明後日の方を向く。 「どうせその鏡、割れたときに持ち主が生きてるなら魔力は戻るんだけどねぇ」 「それでも守ったのだろう? やっぱりお前は、俺たちの知っている優しいやつだ」 「本気出したら俺たちを殺せるのに、そうしなかったしな」 ベルトルドが胸を張り、ナツキが地面に腰を下ろす。 「アリバさん、弟や妹は、兄や姉にずっと側にいて欲しいんだよ。自分のために傷ついたら、とても悲しい」 「まして貴方が消えたら、ティターニア様だけじゃなく、他の妖精たちや私たちも、悲しみますよ」 切なげにリューイは眉尻を下げ、レオノルは生徒に言い聞かせるような口調で告げた。 「ディアだけじゃなく、アリバにも生きて欲しい。それに声を失ったティターニアが兄貴まで失うなんて、そんなの絶対だめだ」 「裁いてくれというならやってやるよ。でもまずは、二人とも謝るところからだろ」 俯くアリバにナツキが言葉を重ね、クリストフは妖精たちを順に見る。 セシリアに支えられながら、ディアが体を起こした。 「帰って、ティターニアさんにも謝りましょう?」 リチェルカーレが微笑んで、アリバの袖を引く。 傷だらけではあったが、浄化師たちの表情は穏やかだった。アリバとディア、双方に正面から向きあうという、優しい温もりが見てとれた。 だから。 「……ありがとう」 泣き出しそうな顔でアリバが笑う。 その姿が――透けた。 「でももう時間切れみたいだ。ごめんねぇ」 引きつった声がリチェルカーレの喉からあふれる。 「いやよ、だって、だってみんなで帰るって、アリバさんも一緒に……っ!」 「だめです……!」 「く……っ」 こんな結末、認められない。 アリシアとルーノもなけなしの魔力を振り絞り、アリバに治癒を施す。アリバの体は実体をとり戻して、また空気にさらわれるように薄くなった。 「この空気中のマナを吸うとか、できないのか!」 「あはは」 「笑いごとじゃないわよ!」 声を荒げたレオノルにアリバは眉尻を下げ、リコリスが叱責を飛ばす。アリバの向こうにある倒木が、彼よりもはっきりと見えていた。 「ティターニアさんからの、手紙です。皆さん、お二人の帰りをお待ちなんですよ」 「あの子から……」 凍りついたように重い体を動かして、ヨナはアリバに手紙を渡す。空精がそれを開き、穏やかな目で読んだ。 「諦めるな」 「そうですよ、まだなにか手段が……!」 ニコラの思考が高速で回る。胸元を握り締めたリューイの隣で、セシリアもアリバを救う方法を考えていた。 悪態をついたナツキが奥歯を噛み締める。膝から崩れたリコリスをトールが支えた。ヴィオラの目に悲哀が浮かび、ショーンは瞑目する。 消えそうな空精にベルトルドが一歩寄った。両手で顔を覆ったアリシアの肩をクリストフが抱く。腕にすがる少女の涙と眼前の光景に、シリウスは拳を握る。 打つ手はない。 アリバの消滅は、とめられない。空精は自分の魔力を使い切ってから、アマツカミの涙で得たかりそめの魔力を使っていた。 鏡は割れたが、アリバの身に還る魔力はこの空気の中に、一片もない。 「まだ仲直りしていないですわよ……!」 「ぼくが消えれば許すも許さないもないよぉ。あとはきみとティターニアの問題だからねぇ」 手紙を胸に押しあてたアリバに、ディアが手を伸ばした。 指先は決して届かない。たとえ至近にいたとしても――その手はもはや、アリバをすり抜けただろう。 「ヨナちゃん、ベルトルドくん」 消えゆく妖精は、浄化師たちの顔をゆっくりと見回す。 「ショーンくん、レオノル先生」 ひとりひとりの名を。彼が呼んできた、呼び方で。 「アリシアちゃん、クリスくん」 それぞれとの思い出を、吟味するように。 「リチェちゃん、シリウスくん」 足先と手先から、文字通り『消えて』行きながら。 「リコちゃん、トールくん」 満足そうな顔で。泣き出しそうな声で。 「ニコラくん、ヴィオラちゃん」 いや、と掠れた声で言ったのは、誰だっただろう。 「リューイくん、セシリアちゃん」 空精の眼差しは、慈愛に満ちている。 「ルーノくん、ナツキくん」 人を誰よりも愛した妖精は。 妖精種は神につかず人にもつかず、中立であれとされた時代、それでも人を乗せて蒸気機関車を走らせていた『罪精』は。 「人間に、きみたちに見送られるなんて、ちょっと前じゃ考えられなかったなぁ。ありがとう、あとのことは任せるねぇ」 ああそれと、とほとんど顔しか残っていないアリバは付け加える。 「ディア。アリアンスを頼んだよぉ」 「馬鹿なことを言わないで! これが最後なんて認めませんわ! そのために浄化師たちが頑張ったと、どうして……っ!」 「いやほんまに。なんで消えようとしてはるん?」 泣声が、嗚咽が、アリバを呼ぶ声が、刹那とまった。 「だ……誰だ?」 トールの問いには応えず、空色の方々に跳ねた長髪をなびかせて、少女にも少年にも見える『それ』はふよふよと宙を浮き、アリバの目の前でとまった。 唖然とする一同を順に見て、ひとつ頷く。 「まぁええわ。大方のことは知っとるし。やらなあかんことも分かっとるし」 言い終えるより早く、それの足元から魔力が噴き出る。 強風と砂塵に浄化師たちはとっさに顔を庇った。 「……空気中の魔力が薄い……?」 魔力を敏感に察知したヨナが気づく。レオノルが大きく目を見開いた。 「妖精か!」 八百万の神が消滅する際、放たれた魔力が偶然固まって生まれるのが、妖精だ。 つまり、『アドナイの鏡が割れることで空気中に放たれたアマツカミの魔力が塊となり、新たな妖精を生むこともある』。 アリバがこの戦闘で使った程度の魔力では、アマツカミの涙で得た力は大して損なわれなかったのだ。 「では、貴方は……」 「わえはアマツカミの涙から生まれた妖精。ほんまはそうならんはずやったんやけど、誰かさんたちが死なんといてやらやっぱり死にとうないやら、この期に及んで願ったせいでこうなった」 妖精を愛し人を愛したアマツカミ――天津神の、涙の中に残っていた本当に微かな心が。 空気中に魔力を散らせた折に浄化師たちとアリバの感情に触れて励起し、この状況を打開するために『妖精を生んだ』。 「例外中の例外や。それなりの神さんやったからできたっちゅうか、一種の奇跡っちゅうか……、まぁええか。ほい、終わり」 「え?」 「あら……?」 気がつけばアリバの体は元に戻り、ディアも回復していた。 代わりに新たな妖精が疲労困憊といった様子で、荒れた地面にへたりこむ。 「帰り、ひとり多くてもええ?」 「もちろん。でもその前にひとつ」 まだ呆然としているアリシアの涙を拭き、クリストフはバツが悪そうなアリバの前に立って、 「い……っ!?」 空精の脳天に思い切り拳を打ちこんだ。 ゴンッ、と相当痛い音が響く。浄化師たちが息をのみ、新たな妖精はヒュウと口笛を吹いた。 頭を押さえてアリバは悶絶する。クリストフは最高の笑顔で拳骨を落とした手を振った。 「心配かけてるんじゃないよ」 それは、アリバとディアを助けるために集った浄化師たちの心の声でもある。 後日談。 新たな妖精は春精オベロンにより天精エポックと名づけられた。アリアンスの一員として迎え入れられ、現在は小人の森再生計画の指揮をとっている。 アリバとディアの『裁き』については、教皇ではなく浄化師に委ねられることになった。 曰く――。 昔と同じ関係とはいかなくても、仲直りをする。 皆で協力してめちゃくちゃになった森を元に戻す。もちろんずっと目を背けていた妖精たちも一緒に。 アリアンス継続に尽力する。 互いに互いの罪としっかりと向きあう。 など。 アリバとディアはこれを慎んで受け入れた。ディアはティターニアの声になることも誓った。 一方、妖精側もついに重い腰を上げ、二人の罰を示した。 アリバはオベロンの結界の一種である花檻で過ごし、外出の際には浄化師一組以上の監視を受けること。 ディアはティターニアの補佐役としてアリアンスの維持及び各地の情報収集に努めること。 これにも、アリバとディアは逆らわなかった。 戦いと報告が終わり、目まぐるしく状況が動いて。 夜が明ける。 ● 「ほら」 「……分かっていますよ」 ベルトルドに今さら躊躇うなと背を押され、ヨナは自ら進み出る。 「ティターニアさん」 魔術学院の一階、カフェテリアの日当たりがいい席に地精はいた。 「座ってもいいか?」 どうぞ、と地精が頷いた。 じっくりとヨナは言葉を選ぶ。 「……ありがとうございました。手紙のおかげで、アリバさんが最後の最後に生きたいと願ってくれたような気がして」 迷ってから続ける。 「本当は、貴方を連れて行きたかった」 地精が微かに瞠目した。忘れてくださいと、ヨナは首を左右に振る。 死にたくないと願った者がいたと、エポックは言った。 あれはきっと、アリバを指していたのだ。 『お礼を言うのは私です。ありがとう』 手元の紙にそこまで書き、ティターニアは少し悩んでからつけ足した。 『きっと貴方たちがいてくれたから、兄は未練を抱けたのです。貴方たちの未来を見たいから』 「そう、でしょうか……」 『私も同じ』 はにかむヨナに、ティターニアは微笑む。 「ふむ。ティターニア、ペンを貸してくれ」 ベルトルドは不思議そうな顔をする妖精から使いこまれた筆記具を借り、先ほどの文章に一文字足した。 「こうだろう」 ――貴方たち『と』の、未来を見たいから。 魔術学院の出入り口の扉の、すぐ脇の壁。 膝を抱えて座るディアの隣に、リコリスはそっと腰を下ろした。 「中にいますの」 「勇気が出ない?」 ディアの正面で膝を折ったトールの問いに、妖精は小さく頷く。 「……ごめんなさい」 「どうしてリコリスが謝りますの?」 困惑した顔を上げたディアに、リコリスはだって、と続ける。 「声がコンプレックスだなんて知らなかったわ。けど、知らないことは言い訳にならないと思うから……」 「いいえ」 徐々に俯いていくリコリスの手を、妖精は握った。 「確かにわたくし、元の声が嫌いでした。あの子の声に憧れて少し借りるつもりで術をかけて、結果として奪いましたわ」 「戻らないって知らなかったのか?」 瞠目したトールの問いに、ディアは首肯する。 「愚かでした。なにより彼女から歌を奪ったのですから」 「ティターニアの、歌……」 「とても綺麗な歌でしたの。わたくしは、歌えませんけれど」 彼女の声を手に入れてなお、ディアは歌えない。 歌い方を知らないのだ。 「貴女の歌を聞いて、それを思い出しましたわ。だから……、泣いてませんけど。ええ、とにかく謝らないで」 その代わりに、また歌ってほしい。 緊張が滲んだ声で、妖精は願う。 馬車に向かおうとしたリチェルカーレとシリウスを、後ろから呼びとめる声があった。 「リチェ! シリウス!」 「オベロンさん!」 ぱっとリチェルカーレが顔を輝かせる。 「今から森か?」 「はい」 手に持った小振りのバスケットを少女は掲げる。一回りほど大きいものをシリウスが持っていた。 「弁当か? 我も森に行くのだが、相伴に預かっていいか?」 「もちろんです」 「ティターニアについていなくていいのか?」 ふわりと笑んだリチェルカーレの返答に喜んでいたオベロンは、シリウスの問いに切なく頬を緩める。 「よい。心配がまるでないわけではないが、他の妖精が間に入らぬ方がよかろう」 ティターニアとディアは、今日話しあうことになっている。タイミングは二人次第だ。 きちんと仲直りできるかもしれないし、喧嘩になるかもしれない。どちらにしてももう、妖精たちが口を挟むことはない。 「どちらかが出奔した場合は、任せた」 そうならないと確信した口振りで言ってから、ふと春精は真面目な顔になる。 「ありがとう、浄化師たち」 「大切な隣人たちのためですから」 当然だとリチェルカーレは微笑み、シリウスが頷いた。 くしゃりと顔を歪めた春精が、慌てて明後日の方を向く。 昨日の今日だ、当然とはいえ小人の森はめちゃくちゃだった。 それでも足の踏み場程度はある。せっせと立ち働く妖精たちが、着実に修復しているらしい。 「おー、きたんか」 「お疲れ様です、エポックさん!」 「手伝いにきました。あとで他の方々もきますよ」 抱えていた荷物を安全そうなところに置き、リューイが背筋を正して元気よく挨拶する。セシリアも一礼した。 「ありがたいなぁ。弁当とかある?」 「はい。とりあえず今は飲み物だけですが」 「ええよ、ちょうだい。人の作るもんはうまいって、センパイたちが自慢してくるんや」 当の先輩妖精たちも、リューイが真摯な顔つきでカップに注いでいるお茶に興味津々らしい。あとで、とセシリアが目で合図する。 「どうぞ」 「ありがとー。……うん、うまいな。妖精に味覚があってよかった」 「空腹や喉の渇きもあるんですか?」 「ない。けど五感がある以上、うまいもんは飲み食いしたい」 御伽噺に軽く語られるだけだった魔法生命体の実情をまたひとつ知り、リューイの瞳が好奇心にきらめく。 そんな少年を少女は温かく見守っていた。 「では張り切っていきましょう!」 シャベルを手に持ったリューイが意気込む。セシリアは微笑して頷いた。 後ろから突っこんできたなにかに片腕をとられ、つんのめった。ほとんど同時に真冬の昼間であることを差し引いても冷たいと感じる温度。 並んで歩いていた二人の間に、少年がいた。 「グラース?」 ナツキの右腕とルーノの左腕に子どもらしい細腕を絡めている氷精は、顔を上げない。 案じたナツキが頭を撫でると、ようやく口を開いた。 「ありがと」 風に掻き消されそうな声は、湿っぽく震えている。 「アリバとディアを助けてくれて、ありがと」 「どういたしまして」 ルーノが小さく笑む。優しい声音が効いたのか、グラースが鼻をすすった。 「グラースもディアと話したか?」 「あとで。今はティターニアと話してるはずだから」 「そうか」 元々ディアとグラースは口喧嘩が多いものの、気のあう妖精だったらしい。ティターニアの声が奪われたことに腹を立てているにしても、このまま死に別れるのは嫌だったのだ。 無論、アリバを失うことも。 「仲直り、できそうですか?」 「頑張る……」 二人の腕をとったまま、グラースは袖に顔を擦りつけて涙を拭く。 「だから、冷たいお菓子差し入れてね」 「もちろんです」 「とびきりうまいやつ、持って行くぜ」 顔を上げたグラースは嬉しそうに笑った。 「さすがオベロンの結界。ここも花であふれてるね」 「綺麗……ですが、寂しい、です」 「見飽きたって言う方が、ぼく的には重大かなぁ」 あと、と蔓草と茨でできた巨大な檻の中で、アリバは苦笑する。 「きみたちがあっさり入ってきちゃうのもね」 「やぁアリバ。元気そうでよかった」 「お加減は、どうですか……?」 人差し指と中指でつまんだ鍵をクリストフは軽く振って見せた。花檻と現実空間を繋ぐ扉を開くためのものであり、管理者である春精が『うっかり』教団のエントランスに置き忘れたものだ。 袋を檻の妙に広い隙間に入れながら、アリシアは眉尻を下げる。 「元気だよ。ちょっと頭が痛いけど」 「あはは、自業自得だからね?」 「反省してるよ……。チョコレートクッキーもらちゃったけど……」 「私が、焼きました」 「……いただきます」 差し入れを見たアリバは、喜びと申しわけなさが等分された笑みを浮かべた。 「あんなことして、普通に接してもらえてるの、なんだかなぁ」 「恥ずかしい?」 「……ちょっと」 「悪役なんて似合わないって知れてよかったんじゃない?」 「アリバさんは、いい妖精さん、です」 真剣な表情のアリシアに言われ、空精は唸りながらクッキーを食べた。 「ディケだな?」 ニコラの声に反応し、顔を上げた妖精は無言で対面を指した。彼が座り、失礼しますと小声で断ってからヴィオラも腰を下ろす。 「率直に聞く。なぜ事件当時、妖精全員で目を背けることを選んだ」 「ティターニアさんまで向きあおうとしていませんでしたよね。本人の意思かもしれませんが、妖精さんたちの決定を重視したともとれます」 「……妖精はもとより数が少なく、あのころは占精より凶兆の報せがもたらされていた」 ディケは背もたれに体を預けた。 「妖精間で派閥争いなどしている場合ではない。よって、決定権を妖精たちより委ねられた私は、両者を見過ごすと決めた」 「そうであったとしても、あまりにも不適切だ」 過去を蒸し返しても仕方ない。分かってはいるが、ここまで事が拗れることになった原因をニコラは知りたかった。 結論としては、全体のために少数が切り捨てられたということらしい。 「ヴィオラ」 「いけませんねぇ。これはディケさんもごめんなさい案件ですよ」 「……なんだそれは」 「はい立ってくださいー。ふふっ、きちんと心をこめないとだめですからね?」 「そういうことだ」 どういうことだ、と頬を引きつらせたディケが、引きずられていく。 さて、とレオノルは語り出す。 「妖精たちは今回の浄化師の勇気ある働きに感銘を受け、また、神への勝機を見出した。結果、全妖精がアリアンスに名を連ねることになった」 「よかったねぇ」 レオノルが持ってきたドーナツを齧りながら、アリバは困り顔で笑う。 「最初から、貴方はこの結果を狙っていたのでは?」 「……ドクター?」 なにを言っているのかと、ショーンは瞬いた。アリバが行ったことは復讐であり、裁きを欲しての蛮行だったはずだ。 「違うと私は思うんだよ、ショーン。いや、最初はそう思っていたんだけどね。よく考えたらおかしいんだ」 例えば、どうして今なのか。 アリアンスがようやく地盤を固めようとしている時期を、わざわざ選んだのか。 「消滅を理由とするなら、アマツカミの涙で魔力を維持して、アリアンスが完全なものになるのを待てばいい」 ディアは同盟に興味があり、浄化師にも友好的だった。どうとでもなったはずだ。 「そうせずに今回の手口を選んだのは、自らの死を以てアリアンスを完全なものにするためでは?」 「……考えすぎだよぉ」 「そうですか」 空精は笑い、レオノルはあっさりと引く。 絶句したショーンは、色とりどりの花弁が舞う空を見上げた。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[26] リチェルカーレ・リモージュ 2020/02/22-19:06
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[25] リューイ・ウィンダリア 2020/02/21-22:34
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[24] ルーノ・クロード 2020/02/21-22:26 | ||
[23] クリストフ・フォンシラー 2020/02/21-22:25 | ||
[22] ヨナ・ミューエ 2020/02/21-11:47 | ||
[21] リコリス・ラディアータ 2020/02/21-00:49 | ||
[20] リチェルカーレ・リモージュ 2020/02/20-22:58 | ||
[19] レオノル・ペリエ 2020/02/20-21:05 | ||
[18] ヴィオラ・ペール 2020/02/20-20:48 | ||
[17] ヨナ・ミューエ 2020/02/20-04:38 | ||
[16] ルーノ・クロード 2020/02/20-01:36 | ||
[15] リューイ・ウィンダリア 2020/02/20-01:07 | ||
[14] リチェルカーレ・リモージュ 2020/02/18-23:24 | ||
[13] クリストフ・フォンシラー 2020/02/18-21:13
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[12] クリストフ・フォンシラー 2020/02/18-21:09 | ||
[11] リコリス・ラディアータ 2020/02/18-20:51 | ||
[10] リューイ・ウィンダリア 2020/02/17-22:58
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[9] ナツキ・ヤクト 2020/02/17-22:57 | ||
[8] ヴィオラ・ペール 2020/02/17-22:13 | ||
[7] リチェルカーレ・リモージュ 2020/02/17-21:59 | ||
[6] ヨナ・ミューエ 2020/02/16-22:04 | ||
[5] リチェルカーレ・リモージュ 2020/02/16-10:42
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[4] クリストフ・フォンシラー 2020/02/16-09:51 | ||
[3] レオノル・ペリエ 2020/02/16-01:09 | ||
[2] リコリス・ラディアータ 2020/02/16-00:28
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