~ プロローグ ~ |
町外れにあるガゼボの前に一人、取り残されたように少女は立っていた。 |
~ 解説 ~ |
〇目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは、留菜マナです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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B ドクター落ち着いてください! ああ、リチェも撫でてくるし…もう成すがまま撫でられるしか無いか… …ドクター、ドクターも可愛いレディになられているんですからね…? 突如現れて名乗った二人に緊張する まさか…こいつら… 一瞬警戒したが…敵意はなさそうだな…ってドクター!? 何故警戒しないんだ…すごいな… 思わずぽかんとするが、そのままジェットコースターに連れていかれる羽目に …ドクター、子供になっても物理学者なんだな… 振り回されるまま乗り物に乗る間に時間は去り、 二人と別れた直後姿が戻っていた …純粋でしたね 直後ドクターの指摘にあっと声を上げる 純粋だから… そうじゃなければ怨みも忘れて生きることも出来た筈、だよな… |
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B …シリウス?どうして小さくなっているの? シアちゃんやレオノル先生に手を振って 小さな皆に会えるなんて思わなかった ふふ、ショーンさんも小さい! ぎゅっと抱きついて笑顔 森から出てきたふたりに息を飲む 柔らかな笑顔に我に返り挨拶を リチェルカーレ、です こんにちは 皆で一緒に遊びましょう? シリウスも…イヴルくんも、ね? 片手でシリウスの手を もう片方を彼らに伸ばす 皆で遊園地に カタリナちゃんは 歌は好き? 動物は? わたしはね… 好きなこと 家族のこと 許される限り お喋りを これは夢の世界 本当にはならない時間 わかっているの 壊したのはわたし達 イヴルさん カタリナさんが大好きだったのね …大丈夫よ ちゃんと前を向けるわ ただ悲しいだけなの |
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B な、なにが、起きたの、でしょう… クリスが、小さくて…わ、私も…? ここ、どこでしょう… 身体に引き摺られたか、精神面も幼くなり クリスの服の裾をぎゅっと掴んで背中に隠れる あ…リチェちゃん、レオノル先生… 無事だったんですね… 友人達を見つけてホッと息を吐き それに、あれ、は…カタリナさん、イヴルさん……? 何も知らない幼い二人の姿に胸が締め付けられる 遊園地で遊ぶ それは、幼い頃田舎に住んでて遊園地未体験の私には魅力的な誘いで カタリナちゃん、イヴルくん…一緒に遊んでくれます、か? メリーゴーランド 白い馬に乗った男子達は騎士様みたいですね カタリナちゃんに話し掛けてみます クリス、苦しまないで 貴方は罪なんて犯してない |
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【C】 やけに目線が低いような……?一体何が…… え……?身体が子供の頃に戻っています!それに、皆さんまで……! ああ、そんな……左手まで元通りです ?ステラは全然変わっていませんね…… この姿のままだと、どうにも落ち着きません 嫌な感覚を思い出すんです、より鮮明に…… ですので、一刻も早くここから脱出しなくては ……ここは……奥地? 私の生まれ育った故郷です…… それも、子供の頃のままで…… っ、そこにいるのは誰です!?あなたがこの奇妙な事象のげん、きょ……? ステラ:マーが突然おかしくなってぶっ倒れたんだ! だからオレがおんぶして、マーを守るんだ!そのままコルク?を追っかけてやるぞ! おいお前!さっさと元にもどせ!! |
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ベ あの少女 この間の ヨ (変化に気付く)喰人さん 私達姿が ベ またやっかいな薬を使われたみたいだな ヨ …!あれはカタリナ…?丁度私達と同じ位… ここは過去の幻想なのでしょうか? ベ この姿になったのにも何か意味があるのかもな 追いかけよう A 戸惑いながらも招かれ彼女達の両親に会う サクリファイスを信奉する前なのだろう 天才と呼ばれた少女とその両親の平穏とも言える日常 自分そう変わらない境遇(とついでに外見) 強力な魔術師だのに浄化師の才が無いだけで 私とカタリナでこうも進む道は変わるものなのですか… と内心衝撃を受ける しかも彼女の家から多額の資金を要求し それが尽きたら異端審問 あまりにも酷い仕打ち と目を伏せ 喰人の表情も硬い |
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手…そうだな …なんか、元の姿よりヒートアップしてないか アンタ はいはい…一気に外見相応になったなアンタは …頼りにして 任せて良いんだよな? シキ シキ、静かに 手を引いて階段の影に隠れコルクの様子を見る …ん? ってカタリナにイヴル? いたのかいつの間に さっき待ってろって言っただろ …はいはい 分かった ならカタリナ達は向こうの柱の影 一旦 庭に出て周り込めば気づかれないだろ で 挟み打ちで捕まえよう …良いだろ? シキ はいはい お兄さんぶらないでもアンタは十分かっこいいって(棒読み) シキの頭をポンポン撫でるように叩き …カタリナ達は準備できたみたいだな 行くぞ 捕まえる (…カタリナもイヴルも、話で聞いた通り仲良かったんだな…) |
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C ここは…私の故郷の村 最後に見たあの光景そのまま そして物陰からチラチラこっちを見ているのは…コルクね あのクソガキ、どうしてくれようかと思っていたけど フィロに利用されてるって知ったからちょっと複雑な気分ね …そうね、まずはあの子に話を聞かなきゃ こっちよ、ついて来て 自宅まで追いつめ、トールを遮ってコルクに問いかける コルク、あなたのママってどんな人なの? フィロではないんでしょう だって、「生き返って」って言ってたもの… あなたが今盾にしているのが、うちのソファーの残骸 私のママがよく座っていた場所 ママがいないの、寂しくて辛いよね… でもね、生き返らせるわけにはいかないの コルクに飛び付いて抱き締める …捕まえた! |
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~ リザルトノベル ~ |
● 「な、なにが、起きたの、でしょう……。クリスが、小さくて……わ、私も……?」 『アリシア・ムーンライト』は、自身の身に起きた変化に戸惑っていた。 「ここ、どこでしょう……」 身体に引き摺られたのか、精神面も幼くなる。 アリシアは心細そうに『クリストフ・フォンシラー』の服の裾をぎゅっと掴んで、彼の背中に隠れた。 (小さくなったアリシア。俺の目線も低い。つまり、これは――) 意外な局面に、クリストフは周囲の光景を視野に入れながら模索した。 「ここは遊園地?」 とにかくここから出ようと二人で歩き出して、いつの間にか森の中へと歩を進めている事に気付く。 奇妙で不可思議な現象。 「アリシア。ほら、ショーン達とシリウス達がいるよ」 その道中で、クリストフは同じく子供の姿になっているショーン達を発見した。 「あ……リチェちゃん、レオノル先生……。無事だったんですね……」 アリシアは、友人達の姿を見つけて、ホッと安堵の息を吐いた。 「無事だったみたいで良かった、けど、みんなちっちゃいね」 クリストフは笑って応える。 「……あれ? ショーンなの!?」 『レオノル・ペリエ』は、予想外な光景を目の当たりにして驚愕していた。 「わー! 黒髪黒目! 小っちゃい! 撫でたい!」 「ドクター、落ち着いてください!」 有言実行とばかりに頭を撫でてくるレオノルに、『ショーン・ハイド』は丁重に応える。 「私だけではありません」 「え……?」 ショーンに指摘された事により、レオノルは周囲の状況を把握する。 「クリス君もシアちゃんもリチェちゃんもシリウス君も子供だ……。みんな、可愛い……!」 レオノルはきらきらとした瞳で周囲を見渡した。 「……シリウス? どうして小さくなっているの?」 「……俺だけじゃない。お前も、他の連中も縮んでいる」 どこか呑気な『リチェルカーレ・リモージュ』の言葉に、『シリウス・セイアッド』は大きく息を吐いた。 「小さな皆に会えるなんて思わなかった」 シリウスの指摘に、リチェルカーレはぱあっと顔を輝かせる。 こちらに気付いたアリシアとレオノルに手を振って喜ぶ。 「ふふ、ショーンさんも小さい!」 リチェルカーレは、ショーンにぎゅっと抱きついて満面の笑顔を浮かべた。 そして、レオノルと共に、ショーンの頭をふわりと撫でる。 「ああ、リチェも撫でてくるし……もう成すがまま撫でられるしか無いか……」 進退窮まったショーンは、窮地に立たされた気分で息を詰める。 「……ドクター。ドクターも、可愛いレディになられているんですからね……?」 ショーンの訴えに、レオノルは笑顔を花咲かせる。 楽しげなリチェルカーレ達を見て、シリウスは遠い目をしていた。 その時、何者かが近づいている気配を感じて、シリウス達は身を固くする。 すると、森の奥からエレメンツの少年と少女が姿を現した。 「そこに誰かいるのですね」 彼女は穏やかに微笑んだ。 「私はカタリナですわ。こちらはイヴル。もしよろしければ、あなた達のお名前をお伺いしたいのです」 カタリナは両手でドレスの裾を摘まんで、優雅な礼をする。 彼女に付き添っていたイヴルは少し警戒するように、シリウス達のことを見つめていた。 「カタリナちゃん!? イヴル君!?」 (まさか……こいつら……) 突如、現れて名乗った二人を前にして、ショーンに緊張が走る。 「かわいい! 遊ぼうよ!」 「一瞬警戒したが……敵意はなさそうだな……ってドクター!?」 レオノルの想定外の発言に、ショーンは思わず、虚を突かれた。 「何故、警戒しないんだ……。すごいな……」 ショーンは思わず呆気に取られる。 (……俺達に反応しない。本当に、子供の……?) 目を見開いたシリウスは、困惑の心情を抱きながらイヴルと睨み合う。 「リチェルカーレ、です。こんにちは」 息を呑んでいたリチェルカーレは、カタリナの柔らかな笑顔に我に返り、挨拶を返す。 「それに、あれ、は……カタリナさん、イヴルさん……?」 皆のもとに歩み寄っていたアリシアは、声を震わせる。 何も知らない幼い頃の二人の姿に、胸が締め付けられる心地がした。 (カタリナとイヴルが何故、ここにいるのかは判らないけど、もしかしたら何か情報を得られるかもしれない) 「そうだ、みんなで遊ぼう」 クリストフは、それぞれの筋を鑑みた一連の提案をしてみる。 そして、先程の遊園地で遊ぶ事を提示した。 遊園地で遊ぶ――。 それは幼い頃、田舎に住んでいて、遊園地未体験のアリシアには魅力的な誘いだった。 「カタリナちゃん、イヴルくん……、一緒に遊んでくれます、か?」 「遊園地……」 アリシアの誘いに、カタリナ達は不意を打たれる。 「皆で一緒に遊びましょう? シリウスも……イヴルくんも、ね?」 リチェルカーレは片手でシリウスの手を、もう片方を彼らへと伸ばした。 普段よりも、小さなリチェルカーレの手に瞬き一つ。 普通の子供に見えるカタリナ達を見て、シリウスは再度、瞬きをする。 「――行こう」 「はい」 シリウスが小さく呼びかけると、カタリナ達は躊躇いながらも頷いた。 「私、ジェットコースターがいい!!」 遊園地にたどり着いたレオノルが、皆に薦めてきたのはジェットコースターだった。 「あれは、力学的に極めて興味深い乗り物でね! 最初に上がった時のエネルギーだけで、あれだけのスピードを……」 「興味深いですわ」 レオノルの説明に、カタリナは好奇心の眼差しを浮かべる。 「説明するより乗って、速さを体感しよう!」 「シリウス、行きましょう」 「……ああ」 先導するレオノルに導かれて、リチェルカーレ達は遊園地を巡る。 「次は、コーヒーカップ! 遊星歯車機構って仕組みがあってね……」 「……ドクター、子供になっても物理学者なんだな……」 レオノルに振り回されるまま、ショーンは乗り物に乗る。 やがて、幻想的なメリーゴーラウンドの馬車に、女子達は腰を降ろす。 「白い馬に乗った男子達は、騎士様みたいですね」 「騎士様……」 ゆっくりと動き出す景色。 アリシアの言葉に、カタリナはイヴルの顔を見遣った。 「カタリナちゃんは、歌は好き?」 「はい、よく讃美歌を歌いますわ」 「動物は?」 幻想的な光景に彩られながら、リチェルカーレ達は語り続ける。 「わたしはね……」 好きな事、家族の事。 リチェルカーレ達は許される限り、お喋りを続けた。 (これは夢の世界。本当にはならない時間) 夢が終わる。奇跡が終わる。 (分かっているの、壊したのはわたし達) お別れの時間は、もうすぐそこに迫っていた。 (本当のカタリナといる時は、あんな顔をしていたのか) シリウスはイヴルを窺い見る。 カタリナと一緒にいる時のイヴルの穏やかな表情、優しい眼差しが全てを物語っていた。 どこか名残り惜しくも、遊園地の前でカタリナ達と別れる。 その直後に姿が戻り、元の町に立っていた。 「……純粋でしたね」 ショーンの言葉に、レオノルは肩を竦める。 「純粋だから、人は残酷になれる。人が最も残酷になるのは、自分の義が正しいと確信したときだ。魔女狩り然り、ね」 ドクターの指摘に、ショーンはあっと声を上げる。 「純粋だから……。そうじゃなければ、怨みも忘れて生きることも出来た筈、だよな……」 夜霧のように、運命の歯車は揺らいでいた。 「イヴルさん、カタリナさんが大好きだったのね」 「泣くな」 シリウスは、顔を覆うリチェルカーレの髪に触れる。涙が零れ落ちた。 「……死んだ人間は取り戻せない。だけど、イヴルやコルクになら、まだできることがあるはず」 「……大丈夫よ。ちゃんと前を向けるわ。ただ、悲しいだけなの」 リチェルカーレの胸に悲しみが広がる。 遊園地で見たカタリナの微笑みが、脳裏に焼き付いて離れなかった。 クリストフは考える。 カタリナ達と過ごした時間は楽しく、満ち足りていた。 何も知らない彼らは、普通の子供だったと言う事を実感する。 (ここからどうして、カタリナはああなった? もし、このまま、真っ直ぐ育っていれば……) それはあり得ない未来。 それでもクリストフは思考する。 「クリス、苦しまないで。貴方は罪なんて犯してない」 「大丈夫、苦しんでるわけじゃないよ。世の中って理不尽だなと思ってさ」 アリシアの言葉に、クリストフは優しく笑みで返した。 ● 「やけに目線が低いような……? 一体、何が……」 『タオ・リンファ』は、自身の身体に違和感を感じた。 「え……? 身体が、子供の頃に戻っています! それに、皆さんまで……!」 リンファは戸惑うように、周囲を確認する。 「ああ、そんな……。左手まで元通りです」 左手をかざしたリンファは、そこで、『ステラ・ノーチェイン』の風貌が変わっていない事に気付く。 「? ステラは全然変わっていませんね……」 「フッ、オレの方がデカいな」 スッと自分とリンファの身長を手で比べて、ステラは得意げに笑うように言う。 「あの、怒っていいですか?」 その言葉に、リンファは苛立ちを覚える。 しかし、すぐに自身の姿を見て、怪訝な表情を浮かべた。 「この姿のままだと、どうにも落ち着きません。嫌な感覚を思い出すんです。より鮮明に……ですので、一刻も早くここから脱出しなくては」 「マー。オレが、ぜったい見つけてやるからな」 リンファ達が捜索していると、やがて、竹林に囲まれた集落にたどり着いた。 「……ここは……奥地? 私の生まれ育った故郷です……。それも、子供の頃のままで……っ、そこにいるのは誰です!? あなたがこの奇妙な事象のげん、きょ……?」 その考えは、跡形もなく消し飛んだ。 気配を感じた自宅で見つけたのは、自分の妹――メイファだった。 『お姉ちゃん……どうして……?』 リンファは怯えた色を顔に滲ませ、弾かれたようにその場から後退る。 『どうして、私を……』 焦点の合わない眼差しは妹に固定され、驚愕の表情は凍てついたように崩れない。 『■■■■』 「――っ!?」 紡がれる呪詛の言葉。 リンファはパニックで過呼吸を起こし、嘔吐し気絶した。 左手は、その時に精神と比例して、古傷がどんどん元に戻っていく。 「マー!」 ステラが叫ぶ。 その時、町で見かけたコルクが集落の外へと駆けていく姿が見えた。 「マーが突然、おかしくなってぶっ倒れたんだ!」 ステラが気を失ったリンファを背負う。 「だから、オレがおんぶして、マーを守るんだ! そのまま、コルクを追っかけてやるぞ!」 ステラは、逃走するコルクを追いかける。 「おい、お前! さっさと元にもどせ!」 「ついて来ないでー」 逃げに徹するコルクは、すぐさま振り仰ぐ。 「マー、大丈夫だ。オレがぜったい助けてやるからな」 ステラが決意と共に、一足飛びに跳んだからだ。 「ぜったいに助けてやるからな!」 「助ける……?」 強い気概が、コルクの耳朶を打つ。 「マー? おかあさん?」 「マーは、マーだ!」 ステラはそのまま、唖然としたコルクを捉える。 その瞬間、ステラ達の姿は元に戻り、元の町に立っていた。 ● 「あの少女。この間の」 「ベルトルドさん、私達、姿が」 「また、厄介な薬を使われたみたいだな」 子供の姿になっている事に気付いた『ヨナ・ミューエ』の言葉に、『ベルトルド・レーヴェ』は怪訝そうに顔をしかめる。 その時、ヨナ達は自分の目を疑った。 森の奥から、エレメンツの少年と少女が姿を現したからだ。 「……! あれはカタリナ……? 丁度、私達と同じ位……。ここは過去の幻想なのでしょうか?」 「この姿になったのにも、何か意味があるのかもな。追いかけよう」 ヨナの驚愕に応えるように、ベルトルドは言った。 「お父様、お母様。ヨナさんとベルトルドさんですわ」 「お初にお目にかかります」 ヨナ達は戸惑いながらも招かれ、カタリナ達の両親に会った。 サクリファイスを信奉する前なのだろう。 天才と呼ばれた少女と、その両親の平穏とも言える日常。 その光景は、ヨナに既視感を抱かせる。 ヴァンピールの父親とエレメンツの母親。 ヨナもまた、両親の親世代が移民として移り住み、種族は違うが境遇が似ている事から結ばれていた。 自分とそう変わらない境遇、似た外見、強力な魔術師。 それなのに浄化師の才が無いというだけで―― (私とカタリナで、こうも進む道が変わるものなのですか……) ヨナは内心、衝撃を受ける。 やがて訪れた教団からの使いの来訪は、一瞬にして周囲の空気を硬化させた。 しかも、カタリナの家から多額の資金を要求し、それが尽きたら彼女の両親を異端審問にかける。 「あまりにも酷い仕打ち」 ヨナは目を伏せ、声を震わせる。 ベルトルドの表情も硬い。 カタリナの屋敷は異様な雰囲気に包まれていた。 「お父様、お母様!」 カタリナ達が悲痛な声を上げる。 恐慌状態へと陥り、永遠と思える苦痛の時間が続く。 「しかし……これ以上、彼女達の過去に触れてしまうと再び、イヴル達と対峙した時、決心が鈍ってしまいそうで……」 ヨナは心苦しそうに視線を逸らし、事態の重さを噛みしめた。 一度に様々なことが起こりすぎて、思考の方向性はなかなか定まりそうになかった。 その時、ベルトルドが何かに気がついた様子で提案する。 「……確か、彼女の両親は、地下大監獄に投獄されているという話だったな。ヨセフ室長の権力が高くなった今なら、彼らを冤罪だったとして解放が出来るのではないか?」 「出来たとしても、カタリナ亡き今、弁明も意味は為しませんし、恨まれるのは確実でしょうが、今のイヴルとカタリナに何かしらの変化を起こせるかもしれません」 ベルトルドは、ヨナの真意を察した。 「戻りましょう……。今日はお招きありがとうございました。また、お会い出来ますよう」 ヨナ達は祈るようにその場を離れる。 消えゆく屋敷に差し込む何条かの光線はどこか神々しく、漠然と希望を感じさせた。 屋敷の中を歩く、幸せそうな少年と少女。 その笑顔を微笑ましく眺める彼女達の両親。 それは幸せだった家族の風景。 在りし日の光景。 しかし、ここには、もう笑顔も幸せも安らぎも無い。 あるのは、厳然とした現実だけだった――。 ● 幼い頃のカタリナ達との邂逅を果たした、『ヴォルフラム・マカミ』達は馬車に乗っていた。 四人を乗せた馬車が街道を走る。 『カグヤ・ミツルギ』が、車窓から風景を眺めると、次第にルネサンス特有の自然豊かな台地が広がっていた。 「ヴォルの故郷……」 「どんな場所なのです?」 カグヤとカタリナは、車窓からヴォルフラムに視線を移す。 「僕の村は、葡萄農家なんだ。その葡萄で、ワインやお酢を作るんだよ」 「……葡萄畑」 ヴォルフラムの説明に、イヴルは興味深そうに車窓を眺めた。 やがて、馬車は葡萄畑の前で止まる。 直通の馬車だが、御者に頼んで一時的に降ろしてもらえたのだ。 実際は、まだ収穫時期ではないのだが、幻の世界では既に青々茂った葉に混じって、赤や緑の葡萄が実っている。 (すごい……) 広い土地が一斉に実をつける姿を見て、カグヤは心を弾ませた。 「前にした葡萄の収穫手伝いは楽しかったね」 「……うん」 「収穫、楽しそうですわ」 ヴォルフラムとカグヤの会話を訊いて、カタリナは顔を輝かせた。 「ヴォルフラムさんの実家は、どんな感じなんだ?」 「ヴォルの実家は、物凄い大所帯だった……」 イヴルの疑問に、カグヤは初めて彼の故郷に訪れた時の事を思い出しながら応える。 「行ってみたいですわ」 「なら、覚悟してね。きっと、手荒い歓迎を受けるから」 カタリナの要望に、ヴォルフラムは笑みを返した。 馬車に再び、乗ったヴォルフラム達は、レンガ造りの家が立ち並ぶ街へとやってきた。 「優しい風……」 馬車から降りたカタリナは目を伏せ、祈りを捧げるように指を絡ませる。 「ヴォルの故郷は、優しさに包まれている気がする……」 「ああ……」 カグヤの言葉に、風を感じていたイヴルは同意する。 「二人の両親って、どんな人なのかな?」 「お父様は、厳格ながらも優しい人ですわ。お母様は信心深い人なのですよ」 ヴォルフラムの質問に、カタリナは軽やかに応えた。 「イヴルの両親も優しい人ですわ」 「先に答える必要はないだろう」 イヴルが露骨に慌てた様子で訴える。 「いつか、お二人を、私達の家にお招きしたいのです」 カタリナは可憐な笑みを浮かべて、想いを口にした。 先程からの緊張感が、別の意味を持つ。 彼女達の幸せな日々はやがて、瞬く間に崩壊する事を知っていたからだ。 「じゃあ、行くよ。――ただいま!」 不穏な空気を払拭するように、ヴォルフラムは家の扉を開いた。 この後、四人は熱烈な歓待を受け、彼らを歓迎する宴が用意された。 ● 「アル、一緒に追いかけよ! はぐれるかもだし、手繋いどこーぜ?」 「手……そうだな」 『シキ・ファイネン』の言葉に、『アルトナ・ディール』は静かな声で返した。 「……」 シキは、子供の姿のアルトナをまじまじと見つめる。 「あー、ちっちゃいアル、かわいー。あーん、ムッとした顔で見上げないでー。俺もう、ムリぃ……!」 シキは堪えきれなくなったように、アルトナをぎゅーっと抱きしめた。 「……なんか、元の姿よりヒートアップしてないか、アンタ」 「むー、最近、あまあまだから油断してた……! 塩態度、やだってば!」 アルトナの平坦な言葉に、シキは口を尖らせる。 「はいはい。……一気に外見相応になったな、アンタは」 「アルは、いつも以上にひどい!」 適当にあしらう態度に、シキは再度、抗議の声を上げた。 コルクが逃げたシキの実家を見つめながら、アルトナはシキに尋ねる。 「……頼りにして、任せて良いんだよな? シキ」 「ファイネン家なら、どこがどうなってるとか俺、分かる! 逃がさねえぜ!」 アルトナの言葉に、シキは誇らしげに言った。 「シキ、静かに」 アルトナはシキの手を引いて、階段の影に隠れ、コルクの様子を窺い見る。 そこで、カタリナ達が側にいる事に気づいた。 「……ん? って、カタリナにイヴル? いたのか、いつの間に。さっき待ってろって言っただろ」 「私達もお手伝いさせてほしいのです」 「……はいはい、分かった。なら、カタリナ達は向こうの柱の影、一旦、庭に出て周り込めば気づかれないだろ。で、挟み撃ちで捕まえよう」 アルトナの配慮を受けて、カタリナ達は一礼すると駆けていく。 「え、あんな柱あった? 撤去したような……。父様が危ないからって、あれ?」 シキが不可解そうに首を傾げる。 「……良いだろ? シキ」 「お、おうっ! 任せろ、アル!」 アルトナの指示に、気を取り直したシキは返した。 「アルが機転効くのなんかズルい。俺の方がお兄さんなんだぜ?」 「はいはい。お兄さんぶらないでも、アンタは充分、かっこいいって」 シキの不満そうな視線が注がれる中、アルトナの反応は棒読みの如く素っ気ない。 「アル、いけめん……っ。もっと、心込めて言ってほしいけど!」 そんなシキの頭をポンポン撫でるように叩き、アルトナは作戦を決行した。 「……カタリナ達は準備できたみたいだな。行くぞ、捕まえる」 「よっしゃっ、やってやるぜ!」 アルトナの言葉に、シキは笑顔で応える。 (……カタリナもイヴルも、話で聞いた通り、仲良かったんだな……) アルトナは配置に付いているカタリナ達を一瞥し、シキと共にコルクを捕まえる為に駆け出した。 ● 「ここは……私の故郷の村。最後に見たあの光景そのまま。そして、物陰からチラチラ、こっちを見ているのは……コルクね」 「森の中の小さな村。ベリアルに襲われた跡が生々しい。少し離れたところにあるのが、リコの家か……」 『リコリス・ラディアータ』の言葉に、『トール・フォルクス』は複雑な心境を抱いた。 「あのクソガキ、どうしてくれようかと思っていたけど、フィロに利用されてるって知ったから、ちょっと複雑な気分ね」 トールは、様子を窺ってくるコルクを視認し、気遣うようにリコリスに視線を向ける。 先程までいたカタリナ達は、いつの間にかいなくなっている。 突如、物陰に隠れていたコルクが踵を返し、駆け出した。 「あ、コルクが逃げた。あの薬のせいでここに来たなら、追いかけて元に戻る方法を聞き出さないと」 「……そうね、まずはあの子に話を聞かなきゃ。こっちよ、ついて来て」 リコリスに案内され、トールは彼女の家へと逃げたコルクを追いかける。 「おかあ、さん……、助けて……」 トール達によって追いつめられ、逃げ場を失ったコルクはソファーを盾にして怯えた。 「『お母様』と『おかあさん』は別人のことを指しているように思えたけど、君がフィロの言い付け通りに何かをすれば『おかあさん』が戻ってくるって、そういう風に言われたのか?」 「お母様は、そう言っていたから……」 トールの疑問に、コルクは切羽詰まった表情で俯いた。 それが答えだった。 ちらっと先程のカタリナの姿を思い出し、トールは確かな事実を口にする。 「コルク、君は利用されているんだ。本当に帰ってくる保証はないし、あってもおそらくドッペル……」 「コルク、あなたのママってどんな人なの? フィロではないんでしょう。だって、『生き返って』って言ってたもの……」 リコリスは、そこでトールを遮ってコルクに問いかける。 「リコ? 何を言って……。そうか、リコはコルクを助けたいんだな」 トールは二人を見遣り、どこか安心するような表情を浮かべた。 「おかあさんは優しくて、いつもコルクのお願いを聞いてくれたの……」 リコリスの言葉に、コルクはか細い声で答える。 「でも、コルクのせいでいなくなった」 コルクは不安と寂しさが織り交ざった表情で、身体を小刻みに震わせた。 「あなたが今盾にしているのが、うちのソファーの残骸。私のママがよく座っていた場所」 「あ……」 リコリスの言葉に反応して、コルクが顔を上げる。 「ママがいないの、寂しくて辛いよね……。でもね、生き返らせるわけにはいかないの」 リコリスは、怯えるコルクに飛び付いて抱き締める。 「……捕まえた!」 リコリスは包み込むような、優しい微笑みを表情に刻んだ。 「捕まっちゃった……」 コルクの声が嗚咽に遮られ、虚空に溶ける。 その瞬間、リコリス達の姿が元に戻り、元の町に立っていた。 コルクはもういない。 いつか聴いた母親の子守唄が、リコリスの耳の奥で蘇った。
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*** 活躍者 *** |
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[7] ヨナ・ミューエ 2020/03/13-23:32
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[6] リチェルカーレ・リモージュ 2020/03/13-22:13
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[5] クリストフ・フォンシラー 2020/03/13-22:05
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[4] シキ・ファイネン 2020/03/13-19:14
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[3] リコリス・ラディアータ 2020/03/13-14:45
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[2] ヴォルフラム・マカミ 2020/03/13-14:04
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