~ プロローグ ~ |
何処かの国の、辺境。広い。広い。広野の果て。地図から消され。名すら奪われ。存在の証全てを失った村が、一つ。 |
~ 解説 ~ |
【指令内容】 |

~ ゲームマスターより ~ |
追加情報 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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正義と言うのは、最悪の毒だ、ね… …琥珀姫、ご忠告痛み入る…と、言いたい所だが まあ言いたいことは後に取っておこう その為にも琥珀姫は守る アダマス担当 黒炎解放してアダマスの防御と魔法防御を下げ仲間が攻撃しやすい状況を作る 攻撃はピンポイントショットで 万が一アダマスがリチェ、ヴィオラやドクターに接近してくるようならクリムゾンストックで攻撃して追い払えるようにしよう 正義が毒とは言い得て妙かもしれん 極めて扱いが難しい だがな、ベラドンナも薬として有用だ 正義を批判するのは道理だ だからと言って正義を批判するだけの状態になるのは人として終わってると思う それは毒の恐ろしさに怖気づいて薬に怯え、病に倒れ伏せるのと同じだ |
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ヨ 貴女ともあろう方がいやに殊勝な態度ですね 他の仲間達がアダマス討伐に向かいました 必ず成し遂げると信じています 私達は貴女の足止めが仕事 この先へは行かせません ベ 初めて会った時には随分と酷い目にあった気もするが⋯ さて 今日はどうだろうな(苦笑混じり 魔術真名を唱え 皆や助っ人と協力し 姫を一歩でも進ませないようあらゆる技を惜しみなく魔力切れまで全力全ツッパ ヨナ 確かに慟哭龍を元に戻したかった 人の 私のエゴとしても でも だからって こんな 今更⋯ 今更ですよ! 貴女はベリアルになった訳じゃない 意思を持った人間です だって 今になってやっぱり後悔が出てきてしまったのでしょう? 琥珀に囚われた村の人々と赦し合えなくとも 私が貴女達を 続 |
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琥珀姫様は大切な人よ どんな宝物だって 代わりになんてならない シリウスの手に 涙をこらえて ええ 勿論 わたしは。わたしたちは 守るために戦いたいの アダマス側担当 戦闘位置に付けば魔術真名詠唱 無茶をしないでシリウス 小さく囁いて泣きそうな顔 禹歩七星を皆に 中衛位置から 天恩天嗣での回復、鬼門封印や禁符の陣で支援 体力が半分を切った人から優先で 最後まで誰も倒れないよう 全体を見て 大技が来るなら注意喚起を 自分への攻撃は回避 何百年たっても薄れない悲しみや苦しみ 八百万の神を生むほどの憎悪 …どれほどの嘆きが込められているのかと思う だけどわたしは 「殺さないで」と願った 女の子と同じように思うわ 殺さないで そしてどうか 死なないで |
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琥珀姫の方へ 戦闘前にこちらの皆さんに浄化結界を 傷ついた方には天恩天賜3で回復 状態異常には四神浄光・肆で対応 狙われた時には式神召喚で耐えます 琥珀姫様 私は、貴女の気持ち、少しだけ判ります 私の姉も…私を庇って、私の代わりに、狂気に囚われた人達の前に… 私がいなければ、と 私が祓魔人になんてならなければ、と 自分を呪って、私は、過去を失いました だから琥珀姫様の気持ち、少しだけ、判ります 自分が許せなくて だからこそ、誰かの役に立ちたくて 私が今、こうして戦ってるのと似たような気持ちなのかなって… だけど お願いします 琥珀姫様、死なないで下さい 貴女がいなくなるなんて、嫌です きっと涙が、止まらなくなります 今だって…(涙目 |
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上層部の考えそうなことね ただでエリニュスの心臓を手に入れようなんて しかも、消耗するのは私みたいな室長の犬なら、浄化師や琥珀姫がどうなろうと痛くも痒くもないんでしょう アダマス担当 魔術真名詠唱 スポットライトで敵の目を引き付けつつ、戦踏乱舞で前衛の支援 目の前を横切ったり、立ち塞がる等で敵を撹乱し足止めする 後衛のトールにアダマスと琥珀姫との位置関係、距離を測ってもらい そこからなるべくアダマスを遠ざけるように動く 哀れで不格好なシンデレラさん 時間切れの鐘が鳴るまで踊りましょう? 戦闘後 琥珀姫…復讐の是非を問うつもりはないわ 私は所詮母殺しですもの ただ、今までの指令で手助けしてくれたことは感謝してる |
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ヨセフ室長からの通達の遂行を 命令だから、じゃなくて 僕たち自身が 琥珀姫に生きていてほしいから >戦闘 琥珀姫側 彼女をアダマスの方へ行かせない 魔術真名詠唱 リューイ 初手で戦闘乱舞を仲間に 前衛位置 他の前衛と連携を取りながら姫の足止め 攻撃の切れ目がないように セシリア アークブーストを前衛に付与 ペンタクルシールドを使い アリシアさんの護衛 回復の要である彼女の盾に >会話 リ:止まってください!僕たちは宝石なんてほしくない 貴女が生きていてくれる方が 何倍も嬉しいんです 死んでほしくなんてない セ:家族を奪われた悲しさを 否定なんてできません 私たちに償う必要はありません どうしてもというなら 生きて力を貸していただきたいわ |
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相変わらず上層部は胸くそ悪い命令をしてくれるものだな ま、室長からの指令があるのが救いか こうなれば上層部に一泡吹かせてやろうではないか 敵はスケール5相当か 気合いを入れるぞ アダマス側へ向かう 魔術真名を詠唱 仲間達がアダマスの気を惹いてる隙に近づき没終での攻撃を 武器防具破壊が叶うまで繰り返す 敵からの攻撃は献魂一擲でのカウンターで対処 仲間が危険な状態になりそうな時は大声を出しながら攻撃 こちらへと引き付ける 仲間達と連携し、誰か1人に攻撃が集中しないよう気をつけて 娘が自分の代わりに犠牲になった その事実は確かに重い だが今ここで琥珀姫が犠牲になれば ここにいる仲間達の心がどうなるか 分からない人ではないと思いたいな |
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私達はアダマスの迎撃に向かいます この先には行かせません。 琥珀姫と会った日、彼女は大切なことを気づかせてくれましたから 魔術真名の詠唱と、黒炎解放によって全力で挑みます 私は裁きで力を引き上げ、ステラは削岩撃でアダマスを攻撃 強い衝撃を持つ攻撃を出し続け、アダマスの動きを阻害しましょう 盾を構えたら私かステラのどちらかが攻撃を止められている間に、もう一方が背後に回り攻撃します 槌はきっと威力を殺しきれない、受け止めず身を翻して立ち止まらず、逆にインファイトで攻めます 行かせないと……言ったはずです! 危うくなったら、化蛇の力を発動しアダマスを激流で押し流します 誰も殺めていないなら……彼女はまだ戻れます、きっと |
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~ リザルトノベル ~ |
星が、進む。六枚の光翼。絶える事なき、願いを乗せて。 「……相変わらず、上層部は胸くそ悪い命令をしてくれるものだな。ま、室長からの指令があるのが救いか……」 「上層部は、彼女を何だと思ってるのでしょう……。きっと、浄化師(私達)に危機が迫った時も、こんな風に見捨てる選択をするのでしょうね……。そして、ご本人がそれでいいと思ってる節があるのが問題でしょうか……」 継ぎし願いは、復讐。形は負。紛れなき、負の想い。されど、切なる願いに変わりなく。 「上層部の考えそうな事ね。ただで、宝石を手に入れようなんて。しかも、消耗するのは私みたいな室長の犬なら、浄化師や琥珀姫がどうなろうと痛くも痒くもないんでしょう」 「俺達が犬かとうかはともかく、ずいぶん手の込んだ自殺だな……。寝覚めが悪くなるから、止めさせてもらわないと」 星は飛ぶ。距離も。命の概念さえも飛び越えて。ただ、孕む怨讐の求めるままに。 「あの方は、大切な人……。どんな宝物だって、代わりになんてならない。私は。私達は。守るために、戦いたいの」 翼が軋む。枷を撃たれた、翼が。けれど、問題ない。時間は、充分。 「大切な人を、あんなやり方で奪われたら……。私に彼女の様な力があれば、きっと同じ事をしたでしょう」 「復讐はだめだ、とは……言わないの?」 「正しいけれど、意味がない気がするの……。家族を奪われたのは、彼女だもの」 「……だけど、僕は……あの女(ひと)に止まってほしい。生きてほしいと、そう思う……」 「ええ、それでいいと思うわ。貴方の言葉を、伝えましょう」 時は、もうすぐ。復讐の成就は、もうすぐそこ。 星は、飛ぶ。 他なる想いを、見返りもせず。 ◆ 「腕は大丈夫? ショーン」 「ええ。問題ありません」 先の戦いで落とされた左腕。アンデッドとしての特性。仲間達の処置。医療班の尽力で回復が叶ったそれを確かめながら、『ショーン・ハイド』は『レオノル・ペリエ』の問いに答える。聞いた彼女は、小さく頷いて押し黙る。険しい、横顔。怒っている。『彼女』が語った過去に。そして、『彼女』の選択に。分かる。それは、自分も同じだから。 「正義と言うのは、最悪の毒だ、ね……。ご忠告、痛み入る……。と、言いたい所だが……」 伏せていた視線を上げる。いるのは、彼らを戦いの地へ送る為に集まった魔女達。 彼女達は、言う。 「あの日の狂気の果てに、姫は傷を負った」 「傷を呪いに変えないために、琥珀の中へと己を封じた」 「けれど、封印は解けた。砕けた」 「想いに触れて。願いを、受けて」 「傷は疼く。人の、心として。疼いて、疼いて。呪いとなる」 「姫は、止まらない。止められない。人たる心は、暴走する」 「私達では、癒せない。届かない。敵わない」 ――もう、忘れてしまったから――。 「だから、だから……」 蜂蜜色の帽子とドレスを着た少女が、泣き腫らした眼差しで願う。 「お願い……どうか……どうか、あの方を。姫様を、助けて……」 「だいじょぶだ! まかせろ!」 そう言って、胸を叩く『ステラ・ノーチェイン』。彼女の手に、顔を埋める『ハニー・リリカル』。見つめ、ショーンは呟く。 「言いたい事は……後に取っておきます」 レオノルが、見る。 「その為にも、守ります」 新たな命が通う手を、握り締める。叶えた、意味と共に。 頷く意思は、皆共に。 「『アダマス』、次点出現位置、特定完了」 「琥珀姫。現在位置、確認」 「転送を、開始します」 「皆様……」 「どうか、ご武運を」 巻き上がる光の向こうで、魔女達が祈る。 彼女達だけではない。皆が、祈っている。かつて、『彼女』と縁を結んだ者達が。 魔女達は言った。『忘れてしまった』と。けど。 ――忘れてなんか、いない――。 誰かが、呟いた。 そう。今、貴女達が抱く願いは間違いなく。そして、それは必ず。 光が飛ぶ。 皆の願いを、乗せて。 速く。疾く。光よりも、はやく。 ◆ 目の前にあった顔は、穏やかだった。 優しかった。 嬉しそうだった。 今まで見た、どの表情よりも。 人間、だった。 「どうした? 子供達」 紡ぐ声は、咏う鈴。 「こんな、夜更けに。眠く、ないのか?」 まるで、幼子をあやす様に。 「眠れないなら、おいで。わたしの、家に」 その温もりを、求める様に。 「甘いミルクでも、入れようか? 怖い夢も、祓おう。そうすれば……」 愚図る娘を、なだめる様に。 「朝は、すぐに来るよ」 深く。深く。愛しむ、様に。 「貴女ともあろう方が、いやに殊勝な態度ですね……」 『ヨナ・ミューエ』が、言う。『彼女』の顔を、見つめながら。 「他の仲間達が、アダマス討伐に向かいました。必ず成し遂げると、信じています」 『彼女』――琥珀姫が、目を細める。 「私達は、貴女の足止めが仕事。この先へは、行かせません」 「駄目だ」 拒絶。 「アレは、わたしの罪を狩りに来た。君達が、関わる必要はない」 「何故、そんな事を、言うんですか……?」 差し掲げた手から、光が舞う。浄化結界。皆を、抱く。 「琥珀姫様……」 『アリシア・ムーンライト』は語りかける。瞳を、涙で濡らして。 「貴女の気持ち、少しだけ判ります……」 震える声音。 「私の姉も……私を庇って、私の代わりに、狂気に囚われた人達に……」 思い手繰る、かの記憶。 「私がいなければ、と」 怖く。悍ましく。冷たい記憶。 「私が祓魔人になんてならなければ、と」 己の全てを否定した、忌憶。 「自分を呪って、私は、過去を失いました」 それでも、彼女は向かい合う。 「だから、少しだけ、判ります。自分が、許せなくて。だからこそ、誰かの役に立ちたくて。私が今、こうして戦ってるのと似たような気持ちなのかなって……」 疼く古傷。その痛み。 「だけど!」 噛み伏せて。 「お願いします」 祈る。 「死なないで下さい!」 譲れない、願い。 「貴女がいなくなるなんて、嫌です!」 届ける、ために。 「……きっと涙が、止まらなくなります……。今だって……」 ただ、その為に。 「だから、だから……」 願う。 「私達と、一緒に……」 最後の言の葉。受け止めて。本当に、嬉しそうに受け止めて。それでも、琥珀の姫は言う。皆を、見回して。 「……ショーンは、いないのか?」 「え……?」 「あの子の魔力を感じる。向こうか? あの子は」 『クリストフ・フォンシラー』が頷く。小さな、溜息一つ。 「聞いたよ。危うかった、そうだな。そして、君も」 『セシリア・ブルー』が、息を呑む。 「黒炎が、及ばなかったんだな。覆せぬモノが、現れたんだな」 「……ああ」 肯定する、『ベルトルド・レーヴェ』。知っている。隠す意味は、ない。 「怖かったね。 怖かっただろう」 過る記憶。微かに引きつる、『リューイ・ウィンダリア』。 仄暗い、牢獄。 舞い踊る、告死の蝶。 白痴の、仮面。 青く燃える、目。 どうしようもない、『死』。 「知って、悟ったよ」 琥珀色のローブが、微かに揺れる。 「どんなに強くても。どんなに力を得ても」 夜風が、乱れる。 「君達は、人間だ」 舞い始める、琥珀の光。 「逃れられない。いつか、死は君達を捕まえる。君達は、行ってしまう」 小さな肩。震える。 「あの子の、様に……」 見つめる目。悲しくて、優しくて、儚い。 「だから、わたしは力を残す。君達を縫い留める、力を残す」 展開する、魔方陣。 「もう、怖い思いはさせない……」 転移魔法。 稼働しようとしたそれを、双剣が貫く。 落とす視線。リューイが、見上げる。 「ヨナさんが、言った筈です……」 見返す瞳は、何処までも。 「行かせません」 背後から突き出された拳が、腹部を捉える。意識を刈り取る、一撃。けれど。 浮かび上がる、琥珀の霊装。あっけなく、弾き返す。 「やはり、易くはないか」 下がったベルトルドが、再び構えを取る。 「初めて会った時には、随分と酷い目にあった気もするが……」 思い出す。遠くて近い、あの日。 「さて。今日はどうだろうな?」 苦笑して、拳を握り込む。 「力って言うのは、心臓の事かい?」 クリストフ。静かな声。 「馬鹿な事を、言わないでくれないか?」 けれど、とても怒った声。 「俺達は、貴女の死なんて望んではいない」 構えるロキ。陽炎に揺れる刀身。彼女を、映す。 「貴女は、既に俺達の仲間。恩人という側面もある」 踏み出す。 「そんな人を犠牲にして手に入る物なんて、いらない」 真っ直ぐに、見つめる。 「俺達の為を思うのなら、考え直してくれ!」 走り出す。彼女に向かって。 「生きて、俺達の手を取る事を考えてくれ!」 幾多の祈りの元に、断ち切るべきは呪い。母の愛と言う、哀しい呪い。 其に縛られ、彼女は微笑む。 「困った子達だ」 一つ。二つ。三つ。四つ……。 「じゃあ、遊ぼうか」 展開する、魔方陣。12個。 「ほんの、少しだけ」 召喚される、琥珀の蕾。 「遅いから」 綻び開く、華。 「遊んだら、お眠り」 クルリ、クルリと。踊り出す。 ――琥珀麗装・夢幻抱華(パンタシア・アストラガルス)――。 「グッスリと」 囁く声は、子守歌。 ◆ 「始まった、な……」 魔術通信で連絡を取っていた『二コラ・トロワ』が、静かに呟く。 「あの方にとっては、何処までも子供なんですね。私達は」 そう言って、『ヴィオラ・ペール』はくすぐったそうに笑う。 「些か、過保護だけどな」 「少しは反抗してやらないと、分からないかもね」 『トール・フォルクス』と『リコリス・ラディアータ』も、笑う。 「娘が自分の代わりに犠牲になった。その事実は、確かに重い」 ニコラが、言う。 「だが、今自分が犠牲になれば、ここにいる仲間達の心がどうなるか。分からない人ではないと、思いたいな」 「分かってくれます。あの方なら」 彼女がいる筈の、峰。見つめる、『タオ・リンファ』。 「その為にも……」 「はい。必ず……」 頷く、『リチェルカーレ・リモージュ』。肩に置かれる手。それに、自分の手を重ねながら。 重なる温もり。目を細める、『シリウス・セイアッド』。どうか、彼女にも。 脳裏を過る、上層部からの指令。従う道理など、ありはしない。従うべきは、己の心。 「勝手な事は、させない……」 抱く決意は、ただ一つ。 ザワリ。 感じる気配。研ぎ澄まされた、野生の感覚。誰よりも、鋭く。 上向く、青い瞳。 「マー! みんな!!」 ステラが、叫ぶ。 「きた!!」 途端、夜天に走る閃一条。 空を。雲を。大気を。一直線に断ち払い、落ちる六翼の星。 轟音。揺らぐ地。巻き上がる、粉塵。洛星の暴威と共に、広がる光輪。光翼。 輝きの中、立ち上がる巨体。丈、三メートル。白銀の神鋼を纏い、兜の奥に煌くは碧の四眼。両手に携える、鎚と刃盾。放つ神気。暴風となりて、顕界を薙ぐ。 報いの神兵、『アダマス』。 復讐の権能。絶対たる、代行者。 「随分と、派手ね」 飛び退き、身構えるリコリス。 「ポイント的中だ。 魔女さん方」 トールが、武器を構える。 「皆、魔術真名を!」 レオノルの声。一斉に発動する、スペル。 包囲する様に、高まる魔力。意にも介さず、見上げる。遥か峰。断罪すべき、咎の人。 開く六翼。回る光輪。飛び立つ、瞬間。 「させない!」 それより早く、リチェルカーレの声。 縛る、鬼門封印。撃音と共に、白銀を撃つ刃。 「この先は……」 一瞬で懐に潜り込んだタオ。押し込む刃が、ギリギリと火花を散らす。 「行かせません!」 応じもしない。碧の四眼は、ただ峰を見つめる。 「あら、つれないのね」 頭上より響く声。 高く舞ったリコリスが、アダマスの頭頂に短剣を突き立てる。渾身を込めた一撃。如実に、意思を伝える。 「哀れで不格好なシンデレラさん。時間切れの鐘が鳴るまで、踊りましょう?」 動きが、止まる。 ――敵性・認識――。 ――妨害行動・確認――。 ―― 排 除 ――。 定められた、思考ルート。碧い四眼が、朱に染まる。 鋭い閃刃へと変わる翼。リコリスに、襲いかかる。 「!」 既で躱す。振り上がる鎚。束縛を、無きが如く。 「速い!」 「リコちゃん!」 ヴィオラが動く。ペンタクルシールド。遮る、様に。構いもしない。叩きつけ、諸共に弾き飛ばす。 「リコリスさん!」 叫ぶタオ。旋回してきた鎚が襲う。 「くっ!」 化蛇で受ける。黒炎魔喰器。普通では傷すらつかないソレが、軋みを上げる。殺しきれない、威力。叩き伏せられた身体が、地で跳ねる。 「ぐ、ぅ!」 掲げられる刃盾。振り下ろす。首を断つ、ギロチンの様に。 降り注ぐ弾幕。トールと、ショーン。レオノルが放つ、ライトレイ。突撃する、三つの影。 滑り込んだシリウスが刃盾を受ける。制裁。青い稲妻を纏う双刃が、白光の鎧を撃つ。 踏み込んだニコラとステラ。全力でぶつける、没終と削岩撃。 「マーから、はなれろ!」 一瞬止まる、盾。ニコラが叫ぶ。 「抜けろ!」 軋む身体を引きずり、転がり出るタオ。 「リコちゃん! タオさん!」 駆けつけたリチェルカーレが、二人の治癒を開始する。 「すみ、ません……」 「ありがと……リチェ……」 三人を庇う様に、ヴィオラがシールドを張る。 「二人共、大丈夫ですか!?」 「シールド越しで、アバラ何本か持って行かれたわ……」 喘ぎながら、リコリスが言う。 「力も速さも桁違い……。スケール5相当とは、聞いていましたが……」 タオが向ける視線の向こうで、一旦距離を取るシリウス達三人。銃撃が止む。現れるのは、傷一つない白銀の巨体。 ニコラが、舌打ちをする。 「硬い……」 「想定内だけど、長期戦決定ね……。リチェ、大丈夫?」 リコリスの問いに、『ええ』と頷く。唯一の回復源。彼女の脱落は、即敗北に繋がる。 「リチェちゃんは、必ず守ります。だから……」 「皆……」 ヴィオラとリチェルカーレの言葉に頷き返し、立ち上がるタオとリコリス。付与される、禹歩七星。駆け出そうとした瞬間、白く染まる視界。 見れば、アダマスが背に負う光輪が眩く輝いていた。ヴィオラが、咄嗟にルーナーエヴァージョンを放つ。弾き散らし、弾丸の様に飛び出す巨体。 「ドクター!!」 ショーンが叫ぶ。身を躱すレオノル。微かに、掠る。それだけで、馬車に撥ねられた様に身体が舞った。 「くぅっ!」 叩きつけられ、転がる。駆け寄ろうとするショーンを制して、ヨロヨロと立ち上がる。ズキリと痛む肩。ヒビでも、入っただろうか。視線を向ける先。大砲を打ち込んだかの様に抉り飛ばされた森林。落ちる木片の雨の奥で、朱い眼光が昏く閃く。 「やれやれ……。先が思いやられるよ……」 微かに血の香る息を吐き、レオノルは苦笑した。 ◆ 「……いけないな……」 轟音が響く麓を見て、琥珀姫は呟く。 「早く行かないと、向こうが危ない。子供達、そろそろ眠ってくれないか?」 向ける視線の向こうには、荒い息をつくクリストフ達の姿。 「悪いが……」 「そんなに易々と!」 戦闘乱舞の補助を受け、突貫をかけるベルトルドとクリストフ。互いの武器を振りかぶったその時、回転しながら行く手を塞ぐ琥珀の華。展開する魔方陣。片や透麗な茨の蔦。片や淡く輝く雲。 「ちっ!」 「また!」 アークブーストの効果を嘲笑う様にまとわり付く、雲と茨。襲うのは、強烈な陶酔と痺れ。マキナーズリングの加護すら上回り、意識と身体を侵す。 「リューイ!」 「攻撃を!」 「はい!」 耐える二人に応じて、リューイが走る。パーフェクトステップからの跳躍。華の群れを飛び越え、双剣を突き立てる。見上げる姫。顕現する、霊装。易々と、止める。構わない。押し込む。 「アリシアさん、解除を!」 「はい!」 アリシアが、四神浄光を放つ。踊る華。幾重もの、魔法。 「させないわ!」 「落とします!」 セシリアが、ペンタクルシールドを展開する。ヨナは、エクスプロージョンで迫る法の群れを相殺。華達は止まらない。華麗に舞い、魔法の雨を降らせ続ける。 琥珀麗装・夢幻抱華(パンタシア・アストラガルス)。 12の華は、個々が自立稼働する魔法砲台。自在に飛び回り、幾種もの魔法を同時に放つ。それは、場に12人の魔術師が存在するに等しく。数で勝る浄化師達を、容易く上回る。魔術真名の詠唱も。黒炎の開放も。叶う底上げは、全て。けれど、及ばない。まだ、及ばない。 「……大魔女とは言え、出鱈目が過ぎますね……」 「承知していた事です」 懸命に凌ぐセシリアに檄を飛ばし、ヨナは呼びかける。 「確かに、慟哭龍(あの子)を元に戻したかった! 人の、私のエゴとしても! でも、だからって! こんな、今更……今更ですよ!」 降り注ぐ魔法を、撃ち払いながら。 「貴女はベリアルになった訳じゃない! 意思を持った人間です! だって、今になってやっぱり後悔が出てきてしまったのでしょう!?」 届くだろうか。否、届けなければ。 「例え、囚われた人々と赦し合えなくとも! 私が貴女を赦します! だから、終わらせましょう!? 今日を以って、琥珀の呪いの連鎖を!」 「……わたしは、人間じゃないよ」 琥珀の瞳が、微笑む。儚く。悲しく。 「わたしは、化け物だ。たった一人の娘さえ守れず、その傷を他人の未来を奪う事でしか誤魔化せない、悍ましい化け物だ」 自嘲。何処までも。どうしようも。 「その化け物が、やっと意味を得たんだ。悍ましかっただけの、生に。だから……」 「聞けないな」 遮る声。先の呪を解除されたベルトルドが、新たに蝕む呪に耐えながら拳を突き入れる。展開する霊装。阻まれる。それでも。 「人……いや、心を持つ者全ては、罪や間違いを犯すものなのだろう」 握り締める拳。ねじ込む。 「創造神が言う、理想世界の再構築。その方が、遥かに簡単だとしても」 道を、届ける道を。 「それでも、ここが。この世界が、俺達の生きる世界だ」 その世界に、貴女も在るのだと言う事を。 「なら、間違いは決して忘れず、いつか赦し、赦され、魂の解放を夢みながら」 共に、在るのだと言う事を。 「生きようじゃないか!」 華が揺れる。その優しさを、尊ぶ様に。 「そうです!」 双剣を押し込みながら、リューイも叫ぶ。セシリアも、叫ぶ。 「止まってください! 僕達は宝石なんて欲しくない! 貴女が生きていてくれる方が、何倍も嬉しいんです!」 「家族を奪われた悲しさを、否定なんて出来ません! 私たちに償う必要なんてないんです! それでもと言うのなら、生きてください! 生きて、力を貸してください!」 振り下ろされるロキ。霊装と打ち合い、火花を散らす。笑う、クリストフ。 「分かってくれるまで、諦めないよ! 琥珀姫!」 見つめ、目を伏せる。 「……そうだな。君達に、嘘はやめよう……」 華が舞う。キュルリキュルリと、華が舞う。 「後悔とか。贖罪とか。わたしの想いは、そんな崇高なモノじゃない」 纏う、魔力。 「君達の、苦しみを見たくない」 皆を、弾き飛ばす。 「君達を、送りたくない」 華の群れ。形を、結ぶ。 「そんな、自分勝手な願いだよ」 組み上げられる、巨大な魔方陣。息を、呑む。 「子より先に逝くのは、母の特権だ」 輝く、五芒。 「分かって、おくれ」 迸る、琥珀の光。 式神・雷龍、複数召喚。ペンタクルシールド、多重展開。ロキ、権能全開放。捧身賢術・エクスプロージョン、連続発射。 使える術、全てを持って受け止める。それで、やっと拮抗。反撃をし続けるヨナ。苦しい息の下から、背後のベルトルドとリューイに伝える。 「凌ぎます……! 止まったら、すぐに!」 「ああ」 「はい!」 構えを取る、二人。蝕む疲労は、限界。それでも。 「……強く、なったね……」 嬉しそうな声。同時に、陣の構成に加わっていなかった華が二つ。閃光を飛ばす。狙いは、二人の足元。地面から這い上がった琥珀の蔓が、彼らの足に絡みつく。 「何!?」 「しまっ……!」 「ベルトルドさん!? リューイさん!?」 「気を逸らしちゃ駄目だ! 押し切られる!」 アリシアに声がけたクリストフの視線の前。佇む姫の頭上。展開する、新たな魔方陣。 「何!?」 「そんな! まだ……!」 回る陣の中からポロポロと落ちてくる、何か。舞い上がるのは、鳥とも蝙蝠ともつかない生き物。 「あれは……」 「吸精蠱!」 『吸精蠱』。意識を吸い取る、魔法生物。噛まれれば、一撃で昏倒に至る。 「まさか……この砲撃が、囮……」 歯噛みするヨナ達に向かって、吸精蠱の群れが跳ぶ。迎撃は出来ない。動けば、琥珀の光が全てを刈り取る。 「さあ、終わりだ。子供達」 囁く。 「君達は、暖かかった。あの子の、様に」 誘う様に。 「ありがとう……」 咏う様に。 「……ごめんね……」 最後の声が、聞こえた。 ◆ 「出し惜しみしてどうにかなる相手じゃない! 行くぞ!」 「分かった!」 「はい!」 ショーンの号令の元に、シリウスとタオが解号を放つ。 ランキュヌ。アステリオス。化蛇。黒炎、一斉開放。 「喰らえ!」 火を吹く、ランキュヌ。怨嗟の蒼炎を纏った魔弾が、アダマスを穿つ。瞬間、巨体を焔が包む。 ランキュヌは、その呪焔によって敵の防御力を下げる。例外は、ない。 「タオ!」 「行きます!」 飛び込むシリウスとタオ。牙を剥く、アステリオスと化蛇。 響く、金属音。微かだが、確かな傷を刻む。 (入った!) (行けるか!) 思った、その時。 広がる、光の波紋。 「え……?」 弾ける閃光。二人が、悲鳴と共に吹き飛ぶ。 「何!?」 「シリウス! タオさん!?」 駆けつけたヴィオラとリチェルカーレが見たのは、二人の身体に刻まれる傷。それは、彼らが刻んだモノと同じ痕。 「反射……! 傷を受けると、同じダメージを弾き返すのか!?」 レオノルの言葉。戦慄が走る。 「何よ、ソレ……」 「弱過ぎず、強過ぎず、程々に……か?」 「随分な無茶ぶりを、してくれるものだ……」 苦笑いするニコラの頬を伝う、汗。攻めあぐねる。と、リコリスの横を小さな影が走り抜けた。 「え?」 驚く視線の先。弾丸の様に突撃する、ステラ。アダマスの背後に回り込み、大ジャンプ。 「そんな事……」 いっぱいに、振りかぶる。 「しっるかぁ―――っ!!」 アダマスの頭頂を叩く、大きな音。反応する光翼。閃刃となって、襲う。 「うわわ!」 何とか身を捻って回避。ポトンと下に落っこちる。踏み潰そうと上がる、鋼の足。 「ステラ!」 タオの叫びを裂いて走る、風切り音。加減なしのピンポイントショットが、足を弾く。 「全く、無茶するな。お転婆嬢ちゃん」 「だが、お陰で目が覚めた」 トールの援護を背に、ニコラが走る。 「竦んでたって、どうにもならないものね!」 戦踏乱舞を舞いながら飛び込んできたリコリスが、ステラを拾い上げる。追う、鎚。 「うおおおお!!」 突っ込んできたニコラが、献魂一擲で弾き返す。 「ほら、こっちよ!」 スポットライトで幻惑するリコリス。追うアダマスの死角から、雨の様に降り注ぐ魔弾とライトレイ。 「まあ、そういう事だよね!」 「元より、無茶は承知の上です!」 弾幕を張るレオノルとショーンの後ろ。ヴィオラのペンタクルシールドの影で治癒を受けたシリウスとタオが立ち上がる。 「無茶を、しないで……。シリウス……」 気遣うリチェルカーレに頷き、敵を見据える。堅固な装甲。報いの権能。手の中の、蒼刃を見る。アステリオスの権能。使えば、突破出来るかもしれない。けれど、それはただ一度だけの切り札。倒し切れなければ、後がなくなる。焦ってはいけない。焦るべき時では、ない。今は、ただ。 「食い止める!」 「はい!」 アダマスに浮かぶ、小さな魔方陣。トールのヘル・ターゲット。後衛陣の援護を背に、走る。薙ぎ払う鎚を躱し、足に切りつけるタオ。隙を狙う様に跳ぶシリウス。反対からは、ニコラ。挟撃する様に、振り下ろす。硬い音。一瞬速く上がった鎚の柄と刃盾が、受け止める。そのまま、押し倒す様に両者を地面に叩きつけた。 「こいつ……」 「せめて、怯んでくれれば……」 リコリスとタオが、歯噛みする。 アダマスは、女神エリニュスの権能。性質的には、ゴーレムに近い。痛みを感じず、恐怖も抱かない。その防御を超えさえすれば、ダメージは通る。魔術も通じる。けれど、それが隙に繋がらない。怯みも怯えもないまま、委細構わず動き続ける。攻撃すれば、確実にカウンターを食らう。技術も戦術も、意味がない。純粋な、ダメージのぶつけ合い。モノを言うのは、お互いの攻撃力と耐久力。浄化師も、生身の人間。神威との、耐久戦。 分が、悪い。 飛ぶ、禁符の陣。ほんの一時、縛る。攻撃範囲外に、転げ出る。血を吐き捨てながら、シリウスはニコラに問う。 「夜明けまで……どれくらいだ……?」 「あと、四時間程だ……」 長い。 (持つか……?) 過る、疑念。握り締める、アステリオスの柄。 ――駄目だ――。 権能を開放した後の、隙。反撃されれば、恐らく。誰か一人でも脱落すれば、耐え抜く事は出来ない。全てが、終わる。 「くっ!」 振り払う様に、走り出す。冷たく見下ろす、四眼。向こうに見える、小さな背中。辛い業を負うには、あまりにも、あまりにも小さな背中。 「罪も咎もあるのは……俺も同じ……」 呟く。 「それでも……」 光を纏う、蒼刃。 「それでも! 生きたいと願っては、いけないのか!?」 全力で叩き込む、反旗の剣。無情に広がる、光の波紋。重い斬衝。弾かれる。流れる視界の向こうで、輝く光輪。 遠い。あまりにも、遠い。 ◆ 叩きつける、琥珀の激流。襲いかかる、吸精蠱。どうする事も、出来ない。 (駄目!) ヨナが、目を瞑った瞬間。 天を駆ける、蹄の音。雄々しき、嘶き。走る、風切り。 雨の様に降り注いだダガーが、吸精蠱の群れを尽く貫き落とす。 「何!?」 霊装に弾かれて落ちたソレを、姫が見る。 「これは……!」 背後に降りる、気配。 「皆、大丈夫……どころじゃないな。コレ」 聞き覚えのある、声。目を、見開く。 振り向いた先で、風に舞う白銀の髪。小悪魔の様な顔が、ニカリと笑む。 「おひさ」 「セルシア(さん・ちゃん)!!!」 一斉の呼びかけに、感極まった様な顔をする『セルシア・スカーレル』。『ああ~、やっぱいいな。コレ』とか言っている。 「お前……」 「指令で、旅に出た筈じゃ……」 問う、ベルトルドとリューイ。セルシアが、空を指差す。見上げた先。八足の蹄を鳴らす、漆黒の戦馬。 「スレイプニル……」 「オーディン様が言ったの。『かの魔女は、我が友の救済に尽力してくれた。星に迎えるは、まだ早い』って」 皆の顔に戻る、光。 「それじゃ、『あの娘』も……」 アリシアの言葉に、頷く。示すのは、かの場所。 「もう、置いてきた」 力が、戻る。失くした筈の、力が。 「さて、琥珀さん。事情聞いたけど、ちょっと自分勝手じゃない? お礼、まだしてないんだけどね。わたし達」 ジャっと開く、ダガーの束。ちょっとだけ、怒った笑み。 ヨナは、思う。 足りなかった。及ばなかった。束ねて。束ねて。それでも、あと少し。けど。それが確かに、今ここに。 湧き上がる。身体の、底から。 「いけます!!」 皆が、頷いた。 力が、増している。 挫いたのに。確かに、ねじ伏せたのに。 天を、仰ぐ。 静かに見下ろす、スレイプニル。黒珠の瞳の向こう。映る、かの姿。 「お前も、違うと言うのか……。オーディン……」 答えは、目の前に――。 ◆ 星と化した、アダマスが迫る。身体、動かない。叫ぶ、リチェの声。酷く、遠い。 (俺は……最期まで……) 唇を噛み締めた、その時――。 「さっせるかぁ――――っ!!」 降ってきた声。響く轟音。薬莢を散らし、打ち出す鉄杭。落下速度と己の重量を乗せて、走る星を穿つ。 衝撃。歪む、軌道。弾かれながら、着地。流れ舞う、焔朱のポニーテール。即時充填。スタンバイ。 「もう、一発!!」 アダマスの横っ腹に、叩き込む。広がる波紋。互いに、吹っ飛ぶ。 「うっぴゃー!?」 ゴロゴロと転がって。そこらの木にぶつかって。ようやく、止まった。 ステラが、嬉しそうに手を振る。 「おおー、盟友! よくきたなー!!」 「えへへ、久しぶりー」 落ちてきた木の葉に埋まりながら答える、『カレナ・メルア』。 「カレナ。お前、何でここに?」 「あ、どうも。ショーンさん。実は、かくかくしかじか……」 見下ろすショーンに、手っ取り早く事情を説明。 「そうか……。オーディンが……」 「うん」 峰を、見上げる。そこにいる、彼女を。 ――あんたを想う者が、まだいたぞ――。 託された願いを、握り締める。確かな、力と共に。 「力が、必要だ。お前の破壊力、当てにするぞ」 「モチのロン!」 頷き合う二人。コツンと、拳を合わせた。 「カレナちゃん!」 抱きついてくる、リチェルカーレ。受け止めたカレナが、小さく呻く。ハッと見下ろすと、彼女の鳩尾に大きく滲む赤。 「……さっきの、反射か?」 大きく息をついたシリウスが、唇を噛む。 「すまない……」 「気にしないで。考えなしでブッパしたの、ボクだから。それより……」 口に滲む血を拭い、見るのは皆の攻撃をモノともせずに暴れるアダマス。 「硬いね。アイツ」 「全くだ」 治癒を終えたニコラが、言う。すぐに立たない足。限界が、近い。 「かと言って、デカイのをかませば『ソレ』だ。手に負えん」 「………」 「カレナちゃん?」 考え込む、カレナ。シールドで治癒の時間を稼いでいたヴィオラが、怪訝そうな顔をする。 「ねえ……」 ポソリ。 「一計あるけど、乗る?」 皆が、目を向ける。無邪気な顔が、ニコリと笑んだ。 ◆ 「とは、言うものの……」 激しくぶつかる魔力の奔流を見ながら、肩を落とすセルシア。 「毒華鳥(ピトフーイ)、弾かれちゃった……。アレ駄目だと、わたしの存在意義、八割減なんだよね……」 あらら……。 思わずズッコケそうになって、慌てて体勢直す皆。危ない。 「ちょっと! セルシアさん!」 「散々盛り上げといて、速攻で落とさないでください!」 セシリアとリューイのツッコミに、『だってぇ~』とか言って縮こまる。 「どうもコイツらが来ると、調子が狂うな……」 「ま、まあ、これがこの娘達の良い所……」 米神を押さえるベルトルド。苦笑いしながらフォローしようとしたヨナが、止まる。 (毒華鳥(ピトフーイ)……?) かの技は、敵の魔力中枢に自身の魔力を打ち込み、魔力循環を阻害。停止させるモノ。 と、言う事は……。 「セルシアさん」 「ん?」 「『逆』は?」 問う言葉。セルシアが、目を細める。 「逆って?」 「毒華鳥(ピトフーイ)の理論の逆転です。魔力循環を阻害ではなく、促進させてブーストをかける事は?」 察する。綺麗な顔に浮かぶ、薄笑み。 「『出来る』」 答えは、簡潔。 「立証は?」 「済み」 簡潔。 「検体は?」 「わたし」 簡潔。 「提案しなかった、理由は?」 「リスク」 簡潔。 「詳細を」 「魔力回路の循環方向に後押しをかけて、リミッターを飛ばす。身体能力・魔力放出量が倍加するけど、一時的。終了後に反動が来て、能力が極端に低下する」 最後。 「……死にますか?」 「ない」 ニヤリ。 ヨナの口元にも浮かぶ、笑み。 「だ、そうですよ? ベルトルドさん。クリスさん。リューイさん」 呼びかけられた三人。同じく、浮かべる笑み。 「悪くない」 「いいね」 「ですね」 次に問うのは、アリシアとセシリア。 「如何です?」 「ちょっと、心配、ですけど……」 「言ってる場合じゃ、ありませんね」 総意、確認。 「セルシアさん!!」 「OK!!」 広げる両手。展開する、ダガー。 「覚悟してね! 神経イっちゃうから! めっちゃ、痛いよ!」 「問題ない」 「今更だね」 「お願いします!」 そう。経験と技能で及ばないのなら。 ――束ねた力で、ねじ伏せる――。 「ようし! 働け! 男共!!」 楽しげな声に乗り、毒鳥が舞う。 ◆ 「それが、お前の……」 「うん。『ウニコルヌス』の、権能」 目を、向ける。 パイルバンカー型の黒炎魔喰器、『破獣 ウニコルヌス』。カレナは続ける。 「一回こっきり。全部の防御権能と、防御力を壊す。その間に、全部削れれば……」 「ふむ……」 顎に手を当て、考えるニコラ。 「策とも言えん策だが……」 迷うだけの、余力はない。 頷く、シリウス。 「頼めるか?」 「りょーかい」 飛び起きるカレナ。リチェルカーレが、もう一度抱く。 「気をつけてね……」 歩み寄って来る、レオノル。 「私が、援護するよ」 「うん。お願い」 頷き合い、走り出す。 「皆には、私達で伝えよう」 「ああ」 別方向に駆け出す、ニコラとシリウス。 見送るリチェルカーレ。少しふらつく彼女に、ヴィオラがフチュールプロメスの花弁を渡す。 「もう少し。気張りますよ」 「はい」 頷いて、リチェルカーレは白い花弁を食んだ。 「ねえ、レオノルさん」 隣りを走る彼女に、カレナが声をかける。 「何だい?」 「話、聞いた。『アレ』の中の人達、恨んでるんだね。琥珀さんの事」 「………」 「どう思う? ボク達は、正しいのかな?」 少しの間。思いを象り、声に出す。 「……何て言うかさ」 見つめる、紫の瞳。 「母親に歪んだ依存を受けてた実例見たからさ、親の愛情どうこう言うのは好きじゃあないんだけど……」 巡る、かの女(ひと)の顔。 「いずれのケースにせよ」 向ける、信じ続ける真理。 「『人の命は星より重い』で、いいんじゃないかな?」 「……だね」 ニパリと笑む、カレナ。 「ボクも、よく分かんない。小さい頃、お母さんに売られたから」 「………」 「だから、ボクには今が全部。琥珀さんも、好き。ずっと、一緒に」 掲げる、鉄杭。 「それで、いい!」 迫るアダマス。鎚を掲げる巨体に、降り注ぐライトレイ。 「カレナちゃん!」 「うん!」 レオノルの声。答える。 「万物砕破! 抉り貫げ!」 解号。迸る、黒炎。 弾幕を抜けるアダマス。輝く光輪。飛び放とうとした身体を、突然の激流が押し留める。 「行かせないと……言った筈です!」 タオ。化蛇の権能。もがく巨体を、水の巨蛇が喰らい込む。 「盟友!」 振り下ろされる鎚。全身で打ち払い、ステラが叫ぶ。 「やっちゃえ!!」 「ウニコルヌス!」 漆黒の炎を纏い、破獣が吼える。 ◆ あの時。 あの瞬間。 決めた事。 誓った事。 わたしは、翼に ボクは、牙に。 差し伸べてくれた、あなた達。 教えてくれた、キミ達。 この空っぽを抱いてくれた、皆の為に。 風を、裂いて。 壁を、砕いて。 必ず。 絶対。 道を、開く。 ――『叛逆の羽風(イカルス・アルビオン)』――。 ――『開闢の獣牙(フォールティア・デンス)』――。 ◆ 風を裂き、閃いた嘴(はし)が突き刺さる。 巡る、毒。 毒は痛みとなり。 痛みは熱となり。 熱は力となり。 想いを届ける、翼となる。 ◆ 獣が吼える。猛り。荒び。神の臓へと牙を立てる。 牙は抉り。穿ち砕く。 ヒビ入る光鏡。 爆ぜる権能。 神威の壁を吐き捨て、獣は示す。 願いへ続く、かの道を。 彼女達が、叫ぶ。 「みんな!」 「行って!!」 ◆ 夜天に高く、漆黒の焔柱が昇る。 己が主の猛りを喰らい、ロキが昂ぶる。 「うぉおおおおおおお!!」 雄叫びと共に、振り抜くクリストフ。 弾かれる、琥珀の砲光。断末の光粉と化して、彼方へ消え去る。 「何!?」 姫の顔。初めて浮かぶ、動揺。 砕ける蔦。舞い飛ぶ琥珀の欠片の中を、獣と少年が走る。瞬時で肉薄。拳撃。斬閃。散り爆ぜる、琥珀の華。 驚愕の中で、姫は理解する。 「まさか! リミッターを!?」 肯定する様に、残影が踊る。次々と散らす、華。 「よせ! そんな事をしたら、君達の身体が!」 遠雷の如く響く咆哮。凄まじい波動が、彼女の動きを止める。 「駄目だとは、言わせない」 竜哭の権能。笑む、ベルトルド。 「大事な人の為に、全てを」 リューイが言う。また一つ、華弁を散らして。 「貴女と、同じです!」 「!」 残った華。それを、タロットと九字が弾く。振り向けば、両腕にダガーを刺したアリシアとセシリア。 「無駄だよ。琥珀さん」 セルシア。その腕にも、朱に濡れる刃。最後の華を、落として。 「この人達は、諦めない。どんな罪からも、どんな暗闇からも。必ず、貴女を引っ張り出す。わたし達に、そうした様に。だから……」 クスリと、小悪魔。面白そうに。 「諦めて、怒られなよ。怖~い、『お姉様』に」 視界の端で、黄金が舞う。 顔を向けた瞬間、思いっきり頬を張られた。 落ちる帽子。長い琥珀の髪が、流れる。 襟首を掴む、華奢な手。引き寄せられた先。ぐちゃぐちゃになった、ヨナの顔。 「もうっ!」 吐き出す。 「あと一つ位、我侭を聞いてくれてもいいじゃないですか!」 足に刺さったダガーの痛みも、吹き飛ばす勢いで。 「貴女を縛る鎖だって、私は解き放ちたいの!!」 濡れた、青い瞳。 同じ、色。 (子の心、親知らずってのも、ありかもよ?) 懐かしい、声。 (ね、お母さん……) 確かに。 「アリア……」 落ちる雫。 優しく。 暖かく。 琥珀が、溶けた。 ◆ 「食らいなさい!」 舞い降りたリコリスが、アダマスに刃を突き立てる。一直線。切り裂く。まるで、木板を裂く様に。 「いける!」 飛び退く彼女の後ろ。構えるトール。ショーン。 「それなら!」 「遠慮はせん!」 同時に放つ、ピンポイントショット。神金の身体を、次々と穿つ。空いた穴、覗く虚ろが、呻きを上げる。 孕む呪い。怨嗟の声。 何故、邪魔するの? もう少しなのに、と。 けれど、降り注ぐライトレイがそれをかき消す。 「ふざけるな!」 告げる、レオノル。 「咎とか! 罪とか! そんなの以前の問題だよ! あんた達が囚われたのは、当然なんだ!」 抱いていた、怒り。痛み。 「何で魔女狩りだからって、娘さんをボロボロにしたのさ! 親しかったんだろ!? 優しかったんだろ!? それを、掌を返す様に!」 ぶつける。叩きつける。 「卑怯だよ! 不誠実だよ!」 彼女の、思いを。あの日の、悲しみを。 「あんた達は、化け物だったんだ! あの日! とっくに! そして、今も! そんなのの、望みなんて!」 全ての、心を。 「私は、認めない!!」 弾ける、閃光。足掻く様に、輝く光輪。突進しようとする巨体を、シールドと封印が阻む。負荷。耐える、ヴィオラとリチェルカーレ。 「何百年経っても、薄れない悲しみ……苦しみ……神を生む程の、憎悪……」 呟く。小さな、声で。 「どれほどの、嘆きが込められているのかと思う……」 見上げる。凶気に輝く四眼。真っ直ぐに。 「だけど!」 軋みを上げて、腕が上がる。 「それでも、願うわ! 『殺さないで』と願った、あの子の様に!」 振り下ろされる、鎚。刃盾。 「殺さないで! そして……」 二人の両脇を、影が抜ける。 「どうか、死なないでって!」 武器諸共宙に舞う、鋼の両腕。断ち切った、ニコラとタオ。叫ぶ。 「ステラ!」 「行け!」 小さな影が、明星に飛ぶ。断罪の、獣の様に。 「ぶっとべー!!!」 全力で、叩きつける。跳ねる、アダマス。砕ける、胸鎧。虚ろの中、脈打つ結晶。エリニュスの、心臓。堕ちゆく先に、立つ影。シリウス。 「……もう、いい……」 構える蒼刃。揺れる、黒炎。 「眠れ……」 アステリオス、権能全力開放。 蒼華の閃雷。貫く、心臓。 長く響く慟哭。昇る朝日の中で、復讐の神兵は綺羅と消えた。 ◆ 「正義が毒とは、言い得て妙かもしれん……。だが、ベラドンナも薬として有用だ。正義を批判するのは道理。だからと言って、それだけになるのは人として終わってる。それは、毒の恐ろしさに怖気づいて薬に怯え、病に倒れ伏せるのと同じだ……」 「……復讐の是非を問うつもりはないわ。私は、所詮母殺しですもの。ただ、今まで助けてくれた事は、感謝してる……」 「こんな終わり方じゃ、残される方だって困るよ。まだ、やれる事は残ってる。その後で考えたって、遅くはないさ……」 「夜明け……綺麗ですね。貴女も、そう思えるでしょう? なら……」 「……『ざまぁ見ろ』で、いいんだよ。そんな図々しさがあっても、これっぽっちもバチは当たらないと思うよ? それが、生きるって事じゃないかな……」 「貴女が死んでしまったら、私も、ステラも、皆も悲しいです……。それはきっと、罪ですよ……?」 ◆ 「全く、若造達が言ってくれるものだ……」 ベッドで眠るステラの髪を弄り、苦笑する。 「あの……」 振り向く。彼女が、立っていた。 「どうした?」 「貴女の……本当の名前、聞いた事ありませんでしたね」 見れば、戸口にも数人の影。 「教えて、下さい。私は、その名で呼びたいのです……」 見つめる、瞳。同じ、色。 ああ。そうだな。 もう少し、だけ。 「ナス……」 「え?」 「『ナス・マクスゥエル』。わたしの、真名だ。覚えて、おおき」 そして、琥珀の姫と呼ばれる彼女は、優しく。とても優しく。 笑った。
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*** 活躍者 *** |
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[18] リチェルカーレ・リモージュ 2020/03/17-21:14 | ||
[17] リコリス・ラディアータ 2020/03/17-14:36
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[16] クリストフ・フォンシラー 2020/03/16-22:19 | ||
[15] ヨナ・ミューエ 2020/03/16-21:41
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[14] リコリス・ラディアータ 2020/03/14-21:57 | ||
[13] リューイ・ウィンダリア 2020/03/13-23:44
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[12] タオ・リンファ 2020/03/12-23:02 | ||
[11] ニコラ・トロワ 2020/03/12-22:28
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[10] リチェルカーレ・リモージュ 2020/03/11-23:16
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[9] クリストフ・フォンシラー 2020/03/11-21:43 | ||
[8] レオノル・ペリエ 2020/03/11-21:24
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[7] ヨナ・ミューエ 2020/03/11-16:08 | ||
[6] リューイ・ウィンダリア 2020/03/11-00:17 | ||
[5] リコリス・ラディアータ 2020/03/10-23:33 | ||
[4] ニコラ・トロワ 2020/03/10-23:03 | ||
[3] クリストフ・フォンシラー 2020/03/10-22:14 | ||
[2] リチェルカーレ・リモージュ 2020/03/10-21:30 |