~ プロローグ ~ |
大地にひしめくベリアルの大群が、緑野を黒に染めて町に迫り来る。 |
~ 解説 ~ |
〇目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは、留菜マナです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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辺りの風景に唇を噛みしめ スカートを握りしめ もっと早く気づけたら 何かできたのかしら シリウスの警告にはっと顔を上げる 皆、どうして コルクちゃんも…? やめましょう こんなに沢山の人が亡くなったの これ以上悲しいことは見たくない 魔術真名詠唱 初手でシアちゃんと協力して禹歩七星 回復をメインに 鬼門封印や禁符の陣で敵の足止め 自分への攻撃は回避 コルクちゃん もうやめよう 人は 罪深いだけの生き物じゃない 優しい心も 労わり合う心も持ってる 貴女のお母さんは 優しい人だったんでしょう? 2戦目 必要ならコルクちゃん 浄化師仲間の回復 シアちゃんと同乗 カノンちゃん よろしくね 戦法は変わらず フィロさんへ向かう人たちの支援 シアちゃんへの攻撃は庇う |
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コルクちゃん… 悲しげに目を伏せ リチェちゃんと協力して仲間達に禹歩七星 鬼門封印で支援、天恩天賜で回復を この戦いの、意味は、なに? 人を操って、戦わせて… 本当は、そんな事、したくないのでは、ないですか? コルクちゃん、私は、あなたと戦いたくない… 本当に、仲良くしたいです… 一戦目後 コルクちゃんが助かれば、良かった…と手を握って 二戦目はリチェちゃんとカノンちゃんに カノンちゃん、よろしくお願い、します ルゥちゃん、クリスとシリウスさんを、お願い… フィロさんの方へ向かう前衛陣の援護を中心に ベリアルや使徒は禁符の陣で拘束 必要なら回復を 私達が狙われたら回避 間に合わない時は式神召喚で防御を フィロさんの目的は、なに…? |
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…コルク、もうやめろ 苦しいことは、自分がよく分かっているだろう…? 親なんて関係ない 子供の幸せの為に動かない親なんて… 教団員はマッピングファイアで攻撃する 仲間を巻き込まない様に奥の方にいる教団員に狙いをつけて複数巻き込む 空中戦になったら黒炎魔喰器の効果でフィロの防御と魔法防御を下げる あいつはエアーズスナイプで攻撃するぞ お前とコルクがどういう関係かは詳しくは知らん だがな、何れにせよ親を名乗って子供を利用するその神経が俺は心底気に食わん! 子供が親の所有物であってなるものか! お前は使い勝手のいい奴隷に我が子という体の良い名前を付けて虚栄に酔っているだけだ! 貴様のような奴は地獄に堕ちて永遠に苦しめ! |
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「訓練場ではよく見る人だけど、図書館で見るのは珍しいと思ったんだよね」 なるべく魔術は使わないで無力化出来るといいんだけど… 「ちょ、僕近接攻撃しか出来ないんだけど?!」 飛ばれたら手も足も出ないよ! へ、ドッペル?何で、此処に… 「よし、それじゃドッペル改めレティーシア、あいつぶっ倒す手伝いしてくれる?」 カグちゃんと二人でワイバーンになったレティーシアに乗って追いかけるよ 僕は完全近接型だから、近寄ってくる敵の迎撃担当 地烈豪震撃でぶっ飛ばすよ 人間が罪深いと言うなら、そういう風に創った神様だって罪深いと思う 自分は何の責も負わずに一からやり直すから死んでくれって言われて 納得出来る様に人間は作られてない |
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一戦目 操られた浄化師に驚きと同時に合点がいく ヨ ⋯得意の薬で記憶を操作していたのですね ベ (舌打ち)この村の犠牲者が不自然に多かった理由がこれか 子供になんてことをさせる 敵浄化師の武器を弾き飛ばしたり昏倒などを狙い 深傷を負わさないように戦う 黒炎解放はなし コルクの迷いを確信に変えたい あのお母様とやらは 君を救う気はない あれは君から全てを奪い罪まで背負わせた悪魔だ ひとかけらの望みを捨てきれずここまできてしまったのでしょう? コルクさんの本心が抗いたがっているのなら 自分の その心を信じて 2戦目 あなたがワイバーンに? 分かりました 行きましょう 強化も助かる あとは俺達に任せておけ(安心させるように |
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神様が勝手に決めた罪なんか知らない 私は私の心の正義に従って、コルク、あなたを助ける 魔術真名詠唱 味方の支援を貰って突貫 洗脳浄化師は進路を塞ぐ奴だけを必要最低限のみ攻撃 なるべくすり抜けるように回避してコルクのもとへ向かう さあ、来たわよコルク 抵抗しないようなら抱き締めて保護 二戦目 飛んで、アルエット! 主力のシリウス、クリス組の露払いのためにやや先行 まずは道を作るわ 直進コースやや外れてスポットライト使用 敵を集めてトールに撃ってもらう フィロの前に立ち塞がる敵ワイバーンに肉薄したら、ジャンプして飛びかかり三身撃 攻撃後離脱して拾ってもらう トール!着地任せた! 無事にアルエットに飛び乗れたら次のワイバーンへ |
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~ リザルトノベル ~ |
コルクは、あの日まで毎日が楽しくて仕方がなかった。 日々、友達と遊んで、家に帰れば優しい笑顔で母親が迎え入れてくれる。 そんな当たり前の幸せな日々。 今では、どんなに望んでも決して手に入らない過去の幻想。 思い出から想起されたのは、痛切さよりも愛しさの度合いだった。 ――おかあさんに会いたい。 そう恋い焦がれても、その代償はあまりにも大きすぎて目も当てられない現実を前に、コルクは静かに目を瞑った。 〇偽善者は笑う 同行を求めてきた浄化師達が、町の住民達の亡骸を埋葬する。 町には、サクリファイスが蹂躙した惨状が横たわっていた。 「どう、して……」 目の前の状況に、『アリシア・ムーンライト』は悲しげな顔をする。 辺りは、ただ死の香りだけが漂っていた。 (妙だな) 訪れた町の有り様に、『ベルトルド・レーヴェ』は確かな違和感を覚える。 浄化師達が指令で赴いたのなら、生き延びた者達がいてもおかしくない。 だが、町は死の廃墟へと姿を変え、彼らが戦闘を行った形跡すらない。 生存者の存在など感じられない程、町は荒廃していた。 (この町の犠牲者が多すぎる。どういう事だ) ふと沸いた疑問は胸をざわつかせる。 「もっと早く気づけたら、何かできたのかしら」 周囲の悲惨な風景に、『リチェルカーレ・リモージュ』は唇を噛みしめ、スカートの裾を握りしめた。 その時、同行していた浄化師達の歪みが表面化する。 「――構えろ!」 それに気付いた『シリウス・セイアッド』は、リチェルカーレを背後に庇い、警告を発した。 その瞬間、厚い雲に覆われた空から、魔術を伴った炎の雨が降り注いでくる。 シリウス達はそれを避けると、武器を向けてくる浄化師達に目を細めた。 シリウスの警告に、リチェルカーレははっと顔を上げる。 「浄化師のおにーちゃん、おねえちゃん。コルクの戦域へようこそ」 唐突な第三者の声。 コルクの高らかな声音は、廃墟に朗々と響いた。 「罪を犯した人間は滅び、世界を救済するための生贄にならないといけないんだよー」 コルクの宣言と共に、同行していた浄化師達は彼女の周囲を取り囲む。 操られている浄化師達の行動に、『ヨナ・ミューエ』は驚きと同時に合点がいく。 「……得意の薬で、記憶を操作していたのですね」 「この町の犠牲者が、不自然に多かった理由がこれか。子供になんてことをさせる」 町が無惨な末路へと至った真実。 先程まで抱いていた懸念が払拭したベルトルドは苦々しく舌打ちした。 「コルクちゃん……」 アリシアは悲しげに目を伏せる。 「皆、どうして。コルクちゃんも……?」 「この間、アリシアの記憶を奪ったみたいに、彼らに何かしたのかな」 リチェルカーレの疑問に応えるように、『クリストフ・フォンシラー』は言った。 「コルクちゃん。本当に、俺達を倒したいと思ってる?」 「それは……」 クリストフの言葉に、コルクは拳を握りしめ、苦悩の表情を晒す。 「やめましょう。こんなに沢山の人が亡くなったの。これ以上、悲しいことは見たくない」 リチェルカーレは真摯に訴えかけた。 痛いような沈黙。 やがて、感情の消えた瞳とともに、コルクはあくまでも自分に言い聞かせるように答える。 「でも、罪を犯した人間は滅び、世界を救済するための生贄にならないといけないから……」 「神様が勝手に決めた罪なんか知らない」 「あ……」 『リコリス・ラディアータ』の言葉に反応して、コルクは顔を上げた。 コルクの脳裏で、幻の世界で出会った時のリコリスの言葉が反芻する。 「哀れ、と言わないってことは、リコはコルクを敵だと思ってないってことだ」 『トール・フォルクス』は、リコリスの想いを察したように表情を緩めた。 「私は、私の心の正義に従って、コルク、あなたを助ける」 「ああ、絶対助けよう」 決意を抱く彼女を支えるように、トールは戦いの意志を固める。 最初から、同行した浄化師達の異変に気づいている者達もいた。 「おかしいと、思った……」 『カグヤ・ミツルギ』は、自身の推測を確信に変えていた。 「普段、図書館にいない人が、調べ物してる、から……」 「訓練場ではよく見る人だけど、図書館で見るのは珍しいと思ったんだよね」 カグヤの言葉に、『ヴォルフラム・マカミ』は相槌を打つ。 「なるべく、魔術は使わないで無力化出来るといいんだけど……」 コルクを取り囲む浄化師達の剣幕に、ヴォルフラムは事の重さを噛みしめる。 コルク達が魔術の薬品によって、見えない鎖に絡め取られている事を危惧している者もいた。 「浄化師といい、コルクといい……薬漬けになってる訳だよね……。使い捨て、なわけだよね……」 フィロの魂胆を見抜き、『レオノル・ペリエ』は静かな怒りを抱いていた。 (コルクの母親ね……) 戦いに赴く前、先程のコルクとのやり取りが心に浮かぶ。 本当の母親への愛。 偽りの母親への憎しみ。 魔術の薬品によって引き起こされたその感情が、コルクを追いつめている。 詭弁に過ぎないフィロのやり口に、レオノルは心中で誓う。 (コルクの心が苛まれているなら、解放してあげないと) 町の廃墟の只中に、敵味方に分かれた浄化師達が互いの信念を貫いて向かい合う。 「黄昏と聡明 明日を紡ぐ光をここに」 魔術真名の詠唱。 そして、リチェルカーレは初手でアリシアと協力して、皆に禹歩七星を掛けていく。 先手を打ったシリウスは、リチェルカーレ達の支援を受けながら敵浄化師達のもとへと赴いた。 「――っ」 ベリアルリングのブーストを上乗せしたシリウスは、コルク周囲の敵浄化師に一気に近づき、ソードバニッシュを放つ。 尋常ならざる速さに、敵浄化師は対応できない。 敵浄化師は何が起こったのか、分からないまま、その場に崩れ落ちる。 「――邪魔だ。寝ていろ」 シリウスは仲間と連携を取り、少しでも早く敵浄化師を倒す。 操られた浄化師達を倒すべく動くのは、他の浄化師達も同様だ。 「アリシア、行くよ」 「はい……」 クリストフとアリシアは魔術真名を唱え、戦いへと挑む。 「月と太陽の合わさる時に」 膨れ上がった戦力を叩きつけるべく、クリストフは疾駆する。 だが、黒炎解放はせず、スキルも使わないように、敵浄化師達の無力化を狙う。 こちらからの攻撃は手足を狙い、敵浄化師の攻撃は即座に回避した。 そちらに敵浄化師の注意が引かれている隙をついて、距離を詰めたリチェルカーレは禁符の陣を発動。 敵浄化師の動きを止めたリチェルカーレは、アリシアと共に鬼門封印で仲間を支援する。 「アリシア、リチェちゃん、ありがとう」 クリストフの攻撃は、コルクまでの道筋へと繋がっていく。 「闇の森に歌よ響け」 戦いに向かうべく、リコリスとトールは魔術真名を詠唱する。 爆発的に膨れ上がった戦力を感じながら、二人は動く。 「トール、援護をお願い」 「分かった。任せてくれ」 リコリスは味方の支援を貰って、コルク達の元へと跳び込む。 突貫したリコリスは、進路を塞ぐ敵浄化師だけを必要最低限のみ攻撃を加えた。 襲いかかってくる敵浄化師をなるべくすり抜けるように回避して、コルクのもとへ向かう。 それでも、身を呈して行かせまいとする敵浄化師。 「させるか」 そこに、トールが先んじて狙撃を放つ。 敵浄化師の足元等を狙って足止めし、コルクまでの進路を切り開いていく。 「ベルトルドさん!」 「ああ!」 「くっ!」 ベルトルドは、ヨナの援護を受けながら、背後から忍び寄ってきた敵浄化師の武器を弾き飛ばした。 2人は息の合った連携で、昏倒などを狙い、彼らに深傷を負わせないように戦い合う。 コルクの迷いを確信に変えたい一心で、ヨナ達は前へと突き進んでいった。 「カグちゃん、行くよ!」 「うん……」 ヴォルフラムは、カグヤの援護を受けながら戦闘態勢に入る。 「通させてもらうよ!」 「――っ!」 ヴォルフラムは魔術を使わず、敵浄化師達の動きを牽制しながら、無力化していく。 後方に控えたカグヤは、呪符での通常攻撃で敵浄化師達の動きに対応する。 「皆、コルクちゃんに伝えたい事があるんだ。しばらく眠ってもらうよ!」 ヴォルフラムはシーラビリンスで、迫りくる敵浄化師達を迎撃した。 「コルク様のもとに行かせるな!」 ヴォルフラム達の動きに、焦った敵浄化師達が反応した。 (そう来るだろうな) 敵浄化師達が固まっている場所を狙って、『ショーン・ハイド』がマッピングファイアで攻撃する。 仲間を巻き込まない様に、奥の方にいる敵浄化師に狙いをつけて巻き込んでいった。 そこにレオノルが追撃となるソーンケージを叩き込む。 魔力で形作られた茨。 限界まで収束させたソーンケージは、固まっている敵浄化師達を貫く。 「早くカタをつけよう。ショーンも気づいてるみたいだけど、コルクの様子がおかしい感じがするしさ」 「はい、ドクター」 身体を震わせ、何かに抗うようなコルクの様子に、ショーンは案じるように眉を動かした。 やがて、戦いの趨勢は決着を見せる。 コルク以外は、全て気絶し、戦闘不能へと追い込まれていた。 「さあ、来たわよコルク」 「こ、来ないで!」 目の前に迫ったリコリスを前にして、コルクは抵抗せず、身体を強張らせる。 「……捕まえた!」 「あ……」 その瞬間、リコリスはコルクを優しく抱き締めた。 包み込むような温もりに、コルクから怯えの色が消え失せていく。 「……戦闘は、俺達の領分だ。お前が傷つく必要はない」 「えっ……?」 剣を下ろしたシリウスを見て、身構えていたコルクは呆気に取られる。 「コルクちゃん、もうやめよう。人は、罪深いだけの生き物じゃない。優しい心も、労わり合う心も持ってる。貴女のお母さんは、優しい人だったんでしょう?」 「おかあさん……」 リチェルカーレの暖かい声音に、コルクは母親と過ごした儚き過去へと想いを馳せた。 「この戦いの、意味は、なに? 人を操って、戦わせて……」 「戦いの意味……。出来る限りの情報と新たな同胞を集める為に必要な事だったから……」 アリシアの問いに、コルクは改めて、フィロの指示を思い返す。 「本当は、そんな事、したくないのでは、ないですか? コルクちゃん、私は、あなたと戦いたくない……。本当に、仲良くしたいです……」 「……コルクも、仲良くしたい。でも、仲良くしたら、お母様に怒られるの」 アリシアの懇願に、コルクの胸に言い知れない不安が蘇った。 上空にいるフィロが何も言わないのが、余計に不安を掻き立てる。 「……コルク、もうやめろ。苦しいことは、自分がよく分かっているだろう……?」 「でも、お母様が、そうしないといけないって言っていたから……」 ショーンの言葉に、コルクの心は息詰まりそうだった。 コルクは今まで、サクリファイスの理念を正義と信じ、フィロの期待と母親の無念を背負って使命に邁進してきた。 「親なんて関係ない。子供の幸せの為に動かない親なんて……」 「幸せ……」 ショーンは、自らの過去を思い告げる。 「あのお母様とやらは、君を救う気はない。あれは、君から全てを奪い、罪まで背負わせた悪魔だ」 「ひとかけらの望みを捨てきれず、ここまできてしまったのでしょう?」 ベルトルドの言葉を繋げるように、ヨナは真意を尋ねる。 「おかあさんを生き返させてくれる……。お母様は、そう言っていたから……」 それは――自分で口にした言葉なのに、切実な響きを伴っていた。 「コルクさんの本心が抗いたがっているのなら、自分の――その心を信じて」 「自分の、心……」 ヨナは、コルクの心を導くように述べる。 やがて、想いを伝えようとしたコルクの身体が不意に傾いた。 「コルク!」 「頭が、痛い……」 リコリスが弾かれたように、コルクを抱き止める。 弱々しい息を吐くコルクと蠢く闇。 彼女の心の中で、本来の感情とサクリファイスによって植え付けられた使命が鬩ぎ合っていた。 「……コルク、浄化師のおにーちゃん達を元に戻したい」 「分かったわ」 コルクはリコリスに支えられながら、倒れている敵浄化師達のもとへと歩み寄る。 コルクは、敵浄化師達に対して、記憶改竄を解除する魔術を施した。 「ぐっ……」 やがて、洗脳が解けた浄化師達は喘ぐような声を上げ、目を覚ます。 「ここは……」 「ご、ごめんなさい……」 上半身を起こした浄化師達に、コルクは今までの顛末を説明する。 話が進むにつれ、浄化師達の表情が深刻さを増していく。 コルクが全てを話し終えた後、浄化師達は辛辣そうな表情を浮かべていた。 「俺達、大変な事をしてしまったんだな……」 一瞬の静寂の後、浄化師達は悲痛な想いをそのまま口に出した。 「ごめんなさい……ごめんなさい……」 責苦を負う覚悟で、コルクは何度も深罪する。 「コルクちゃんのせいじゃないよ」 「うん……。本当に、謝る必要があるのは、フィロだから……」 ヴォルフラムの労りの言葉に、カグヤは同意した。 「だから、過去じゃなくて今を、未来を見てほしい」 ヴォルフラムは優しげに微笑みかける。 コルクの醜さも弱さも、全て包み込んでゆくように温もりが伝わった。 〇天統べる飛竜 コルクが自ら、浄化師達を元に戻したという事実。 「残念です……」 上空で、その様子を見ていた人物は嘆息する。 残酷であまりにも慈悲のない言葉と共に――『それ』は落とされた。 「何だ……?」 上空の異変に気付いたのは、2人。 ショーンは全体を見渡し、何かあればすぐに対応できるよう集中していたからこそ、気付くことが出来た。 (あれは……?) 魔力探知を使い、周囲を見極めていたヨナも、戦場へと落ちる輝線の如き魔力に気付く。 魔力の源を探るべく上空を見上げたヨナは、その瞬間、怖気にも似た悪寒に襲われる。 そこに居たのは、ワイバーンに乗ったフィロだった。 「気をつけろ!」 「上空から狙われています!」 ショーンとヨナが発した警告に、コルクは全てを察した。 「おにーちゃん、お姉ちゃん、コルクから離れてーー!!」 「コルク!」 コルクはあらん限りの叫びと共に、リコリス達から離れる。 そして、最後の力を振り絞って、廃墟の奥へと駆け出した。 「何が起きたんだ……?」 洗脳の解けた浄化師達が、戸惑いを浮かべたその時―― 鋭く重い音が響き、血飛沫を散らしながら、コルクの身体が吹き飛んだ。 「――っ」 転げて這いつくばったコルクの姿に、浄化師達は明確な異変を目の当たりにする。 横たわったコルクから夥しい血が地に零れ落ちた。 眼前で起こった悲劇。 目の前で起こった変化に悲鳴を上げる余裕もなく、浄化師達はそれらを甘んじて受け入れるしかなかった。 「コルク!」 駆け寄ってきたリコリスに応えたのは、微かな吐息だけ。 コルクは死の淵に沈もうとしていた。 「あなた達を、私達の同胞に迎え入れようと思っていたのですが、甘く見過ぎていたようですね」 「なっ!」 上空から俯瞰するフィロは先程、魔力弾で吹き飛ばしたコルクのことなど眼中にないように、ヴォルフラム達だけを見ていた。 柔和な表情。 だが、瞳の奥には確かな陰りがある。 (……おかあ……さま) それは、全身全霊の心の叫び。 だが、フィロの冷たい視線がコルクを射抜く。 コルクの希望は絶望に反転し、淡い期待は水の泡と化した。 (酷い……) 鋭い眼光に貫かれたコルクを見て、カグヤは痛ましい表情を浮かべる。 フィロは力尽きたコルクを一瞥し、死を迎えたのだと判断した。 「この失敗すら恐らく、神のお導きです。いずれ来る未来、あなた達は敗北する。それは今日ではなかった、それだけの事……」 「どういうことかな?」 ヴォルフラムの疑問に発したのは、提案でも懐柔でもなく、断固とした命令。 「神が人間を滅ぼすと決めたのですから、人間は滅びを受け入れるべきなのです」 「ちょ、僕、近接攻撃しか出来ないんだけど?!」 フィロは、ヴォルフラムの視線など一顧だにせずに空へと舞い上がっていく。 魔術、遠距離攻撃が放たれたが、フィロには届かない。 「大丈夫か!」 「ま、待ってて、すぐに回復するから……」 浄化師達はコルクの回復に専念した。 「わたし達も回復します!」 「コルクちゃん、頑張って……!」 リチェルカーレとアリシアもまた、瀕死に陥ったコルクの回復に奔走する。 「飛ばれたら、手も足も出ないよ!」 「呪符も魔術も射程外……どうしたら……」 ヴォルフラムの懸念に、カグヤは天恩天賜でコルクを回復しながら空を見上げる。 やがて、アリシア達の回復のお陰で、コルクはうっすらと意識を取り戻した。 「良かった……」 アリシアは目覚めたコルクの手を握って、優しく微笑む。 それに応えるように、コルクの唇は儚い微笑を作ろうとしていた。 「彼らを戻してくれてありがとう、コルクちゃん」 クリストフが穏やかに笑って感謝する。 「君達、コルクちゃんを頼んだよ」 「はい」 クリストフの言葉に、浄化師達はコルクを守る意思を固めた。 「問題は、どうやってフィロのもとに行くかだよね」 「任せて、下さい……」 クリストフの疑問に応えるように、ドッペル達がパートナー、もしくは教団員の姿で現れる。 「へ、ドッペル? 何で此処に……」 「ドッペル……?」 「霧の塊の状態で、ついて来ていた……」 ヴォルフラムとカグヤの問いに、ドッペルは答えた。 「新たに覚えた大型の生物の変身能力を使えば、ワイバーンに姿を変えることが出来るよ」 「空中戦か! らぷちゃんすごい!! って感動してる場合じゃないか……」 ドッペル――らぷの発言に、レオノルは歓喜の声を上げた後、すぐに状況を把握する。 カグヤはドッペルの前に立つと、聖なる儀式のような壮厳さで約定を結ぶ。 「ドッペル……貴方に名と姿を与えます……。名は、レティーシア……姿は絵で見せた、あの人の姿」 「レティーシア……」 姿を変えたドッペル――レティーシアは、その名前を噛みしめる。 次第にその表情は、天啓を受けたように引き締まっていった。 「擬態生物のままが、弱いなら、存在を補強、する」 カグヤは表情を緩めて続ける。 「……大丈夫、かあさまから、許可貰った。かあさまに変化してくれた、お礼」 「ありがとうございます」 カグヤの言葉に、レティーシアは緊張した面持ちで応えた。 「よし、それじゃドッペル改めレティーシア、あいつ、ぶっ倒す手伝いしてくれる?」 「はい」 ヴォルフラムの要望に応えるように、レティーシア達はワイバーンへと姿を変えようとする。 「皆、待って……。コルク、ドッペルさん達の強化をしたい……」 「コルク、大丈夫?」 「う、うん……」 コルクはリコリスに支えられながら、ドッペル達のもとに歩み寄った。 そして、ドッペル達を魔術で強化する。 「わたし達も禹歩七星を掛けるわ。シアちゃん」 「はい……」 リチェルカーレに呼び掛けられ、アリシアは応えた。 アリシア達の禹歩七星による祝福を受け、ドッペル達は通常のワイバーンにも引けを取らない力を得る。 「ヨナさん、ベルトルドさん。私も力になりたいの……」 「あなたがワイバーンに? 分かりました。行きましょう」 ドッペルが柔らかく微笑むと、ヨナは優しげな眼差しを送る。 「強化も助かる。あとは俺達に任せておけ」 「……うん」 横たわるコルクを安心させるように、ベルトルドは言った。 ドッペル達はワイバーンへと姿を変え、フィロがいる上空へと視線を走らせた。 「カノンちゃん、よろしくね」 「カノンちゃん、よろしくお願い、します。ルゥちゃん、クリスとシリウスさんを、お願い……」 リチェルカーレはアリシアと共に、カノンに同乗する。 「リチェちゃん、カノンちゃん、アリシアを頼むよ」 クリストフはシリウスと共に、ルゥに同乗した。 「飛んで、アルエット!」 リコリスの声に反応して、ドッペル――アルエットは大きく身体を動かす。 アルエットは突き抜けるように、空へと舞い上がっていた。 リコリス達を追って、クリストフ達もまた空へと浮上する。 厚い雲を突き抜けると、どこまでも果てがないような青空が、クリストフ達の視界一面に広がった。 周辺には、数多くの浮き雲が点在しており、そこには朗らかな陽光が見受けられる。 その中に、明らかに異彩を放っているものがあった。 機能美など全くない鳥型のベリアルの群れ。 そして、鳥型のベリアルに混じって、ヨハネの使徒が外敵を拒むように旋回している。 「まずは道を作るわ」 リコリスの言葉に、クリストフ達は一斉に戦闘態勢に入る。 主力のクリストフ達の露払いのために、リコリス達はやや先行した。 直進コースから少し外れて、スポットライトを発動。 べリアルとヨハネの使徒の攻撃を避けながら、舞い踊るように動く。 それは陽動としての効果をみせ、敵の意識を強制的にリコリスに向けさせる。 それにより、複数の敵がリコリスに向かった。 「今だ!」 トールは、集中した敵の群れをマッピングファイアで吹き飛ばす。 リコリス達は、多数のべリアルとヨハネの使徒の注意を惹き付けた。 だが、敵は無限に発生する。 認識も意識もしているのに反応しても間に合わない――そんな致命的な攻撃は仲間達が対応した。 「行かせません!」 無限に湧く敵が、一斉にリコリス達に群がる前に、ヨナは遠距離からエアースラストで妨害した。 「レティーシア、行くよ!」 ヴォルフラムは近寄ってくる敵を、地烈豪震撃でぶっ飛ばす。 リチェルカーレとアリシアは鬼門封印で支援、天恩天賜で皆の回復をしていった。 2人は連携して、こちらに向かってきたベリアルやヨハネの使徒を禁符の陣で拘束する。 そこにカグヤはレティーシアの飛行位置を定めながら、呪符や小咒で攻撃を仕掛けた。 「ヴォル!」 「任せて!」 しかし、ヨハネの使徒の第2撃が迫ってくる。 今度はヴォルフラムが攻めに転じる。 カグヤも即座に振り向いて応戦した。 「それじゃ、フィロまでの道を切り開いていこうか」 「……うん」 戦いが激化していく中、ヴォルフラム達はフィロ達への進路を妨害する敵を薙ぎ倒していた。 度重なる攻防の末、視界が開け、フィロまでの道が切り開かれる。 「……ワイバーン。ドッペル達の仕業ですか」 フィロは何の感慨もなく、周囲の敵ワイバーン達を新たな防衛陣形へと旋回させた。 「――っ」 ヨハネの使徒達の猛攻を受け、フィロは空へと吹き飛ばされる。 しかし、フィロは吹き飛ばされながらも空中で姿勢を立て直し、舞い降りてきた別の敵ワイバーンの背中に足をつく。 周囲の敵の混乱が収まる前に、シリウスはルゥを接近させると全力を出していく。 「光は降魔の剣となりて、全てを切り裂く」 手にした黒炎魔喰器、蒼剣アステリオスを解号する。 シリウスの意志に応え、アステリオスは黒炎を解放し、シリウスを包みこむ。 次の瞬間、黒炎が消えると同時に現れたのは、刻印のように魔方陣が身体に浮かぶシリウスの姿。 アウェイクニング・ベリアル。 覚醒状態のシリウスは、理性を保ったまま、戦闘力に更なる強化を掛ける。 ベリアルリングによる戦力の底上げ。 魔術真名の詠唱も合わせた超常の強化は、かってない領域へ誘う強さを見せた。 (まずはフィロまでたどり着く) 最優先は、フィロを死なないように叩き落とす事。 襲いかかってきたベリアルに狙いを付けると、一気に駆ける。 ソードバニッシュ。 べリアルはシリウスの動きに気付く余裕すらなく、一太刀で斬り裂かれた。 低スケールべリアルでは、今のシリウスの強さに抗う術は無い。 ただの一太刀で滅び去る。 圧倒的な強さを見せるシリウスだが、油断はしない。 黒炎解放の効果が続く間に、シリウスは敵ワイバーンを足場に飛び移りながら攻撃し、仲間との連携を意識した。 「……世界を憎むのは勝手だが、無関係な子どもを巻き込むな」 「邪魔です!」 フィロは敵ワイバーンを扇動し、魔術を用いた武術で致命傷を回避する。 同乗したクリストフも同様に黒炎解放した。 「お前の力を示せ、ロキ!」 解号に応え、陽炎剣ロキは黒炎を解放する。 全身を黒炎に包まれたクリストフは、黒炎が晴れるとアウェイクニング・ベリアルとしての姿を現した。 クリストフの全身に力が漲る。 「ルゥちゃん、ちょっとこの辺飛んでて」 クリストフは、フィロの周りにいるワイバーンの一体に飛び移り、爆裂斬。 攻撃を叩き込むと同時に、ルゥへ再び、飛び乗った。 ショーンは今出せる最大戦力を叩きつけるべく、黒炎魔喰器を用いる。 「Fiat eu stita et piriat mundus.」 正義を行うべし、たとえ世界が滅ぶとも。 決意を込められた解号に応え、怨嗟の銃・ランキュヌは黒炎を解放する。 ショーンを包み込むと、理性を保ったままアウェイクニング・ベリアルへと覚醒させた。 瑠璃の炎を纏う黒き銃を構え、ショーンはフィロに狙いをつける。 「――っ。不愉快です!」 ランキュヌの効果で、フィロの防御と魔法防御を下げた。 同時にエアーズスナイプで、風の流れやフィロの動きを読み、精密な射撃を行う。 「シリウスさん、クリスさん、ショーンさん、やってみたい事があります。ワイバーンへの攻撃は待って下さい」 「ああ」 「分かったよ」 「了解した」 ヨナの言葉に、シリウス達は応える。 「今です」 ヨナは敵ワイバーンに飛び乗り、揺さぶられながらも魔力探知とウイッチ・コンタクトを併用する。 (やはり、薬品だけではなく、魔術式が用られている。お願いします。目を覚まして下さい……!) ヨナは必死に、敵ワイバーンの洗脳の解除を試みた。 その行為はやがて実る。 ヨナを降り落とそうとしていた敵ワイバーンの動きが止まったのだ。 ヨナは成功した事への歓喜の表情を浮かべる。 「何かきっかけさえあれば、この子達も元に戻る筈……!」 「まったく、見ているこちらの寿命が縮む。なあ?」 ベルトルドの言葉に、ドッペルは頷いて同意する。 同様の手段で洗脳を解除し、敵ワイバーンを味方につけたヨナはエクスプロージョンで対抗し戦う。 ベルトルドはそのままドッペルを操縦し、囮のように動く。 時にはドッペルを、洗脳解除の際、敵ワイバーンから降り落とされたヨナの落下地点へと飛行させ、ドッペルの背中へと着地させる。 ここまでの間に、3体のワイバーンを元に戻す事に成功していた。 「もはや、邪魔ですね!」 だが、フィロの蹴り足が、洗脳の解けたワイバーン達を捉え、突き飛ばす。 そのまま、残りのワイバーン達を扇動し、襲いかかってきたベリアル達の攻撃から逃れる。 「ショーン、合わせるよ!」 「はい!」 レオノルの攻撃魔術に合わせ、ショーンは精密な狙撃を行う。 エアーズスナイプ。 一陣の風のような素早い動きは、フィロの初動を凌駕し、撃ち抜く。 そこに間髪入れず、レオノルのソーンケージが放たれる。 魔力で形作られた茨は、ショーンの狙撃で動きが止まったフィロ達を一斉に貫いた。 「まるでドラゴンライダーだな」 アルエットの補助をしていたトールは、攻撃を受けて動きが鈍っているワイバーンにギリギリまで近づく。 「リコ、今だ!」 「ええ!」 周囲に敵がいないのを確認してからタイミングを計り、トールはリコリスとアルエットに合図を送る。 「くっ!」 リコリスはフィロの前に立ち塞がる敵ワイバーンに肉薄すると、そのままジャンプして飛びかかり、三身撃を放つ。 攻撃後、空中へと離脱したリコリスは、こちらに向かうトールに言った。 「トール! 着地任せた!」 「アルエット、急降下! リコが飛ぶ方角に先回りしてキャッチしてくれ」 リコリスは無事にアルエットに飛び乗ると、次のワイバーンへと攻撃を転換する。 「全く無茶するよな……!」 その際に、襲いかかってくる周囲のベリアルとヨハネの使徒は、トールが斉射し打ち抜いた。 やがて、敵ワイバーンは、フィロが乗っている存在だけになった。 「敵は実質、フィロとワイバーン1体になったよ。三体のワイバーンは、こちらの味方をしてくれるし、フィロまでの移動手段は確保できたよね」 「はい」 フィロのもとへと赴くレオノルを支えるように、ショーンは戦いの意志を固めた。 ショーンによる、フィロの動きを読んだ狙撃。 同時に、レオノルのソーンケージが再度、放たれる。 魔力で形作られた茨は、ショーンの狙撃で動きが止まったフィロ達を一斉に貫いた。 度重なるダメージを受け、フィロを乗せた敵ワイバーンは落下していく。 フィロ自身もまた、幾多の傷を負っている。 それでも、フィロの余裕は崩れない。 「素晴らしいコンビネーションですね」 フィロの放った爆炎による遠距離攻撃を掻い潜り、シリウスとクリストフの連携攻撃が放たれる。 2人の攻撃は、フィロを吹き飛ばし、地上へと叩き落とす。 死なないように木々が密集した場所に落とすと、クリストフ達はフィロを捕縛していった。 〇異邦者の呼び声 「すぐに教団へ連行しないのですか?」 「色々、聞きたいこともあるだろうしな」 捕縛されたフィロが怪訝そうに訊ねると、トールはクリストフ達へと視線を向ける。 「フィロさんの目的は、なに……?」 「カタリナ様亡き今、カタリナ様の意思を継げるのは私達、幹部だけです。その役目は、人である私達がするべき事であり、それが人の贖罪になり得るのです」 アリシアの疑問に、フィロは決然と答える。 そこで、クリストフが核心に迫る疑問を口にした。 「どういう意味かな?」 「私達、幹部は、カタリナ様と共に、ギガス様から神が為そうとしている『世界の救済』の話を聞きました」 「ギガス……」 どこかで聞き覚えのある名前――。 そこで、クリストフはサンディスタムで、スケール5べリアル――3強と呼ばれるべリアル達と遭遇した時のことを思い出す。 「サクリファイスと関わり合いを持ってたんだね」 「全ての存在は、神の手によって生まれ変わる必要があるのです」 平坦なのに無性に熱を感じる言葉に、ヴォルフラムは表情を強張らせる。 「人間が罪深いと言うなら、そういう風に創った神様だって罪深いと思う。自分は何の責も負わずに一からやり直すから、死んでくれって言われて納得出来る様に人間は作られてない」 「人は、存在そのものが罪なのです」 ヴォルフラムの強い言葉に、フィロは平然と返した。 「貴女の行為はもはや信仰とは呼べず、ただ悲観して道連れをいくばか増やすだけ。神の代弁者のつもりで、誰より絶望している貴女のような人がいるから、私達は神に逆うのです」 ヨナの迷いのない瞳が、フィロを真っ直ぐに捉える。 「存在そのものが罪だなどと、そんな事を言わせない為に」 それでもなお、フィロは超然とした態度を崩す事はない。 その時、浄化師達に支えられたコルクが、フィロへと歩み寄る。 「お母様……」 「まだ、生きていたのですか?」 「――っ!」 フィロの冷淡な声が、コルクの心に突き刺さった。 コルクの澄んだ瞳から、絶望感で満たされた大粒の涙が零れていった。 悲しみが、頬を止めどなく流れていく。 「お前とコルクが、どういう関係かは詳しくは知らん。だがな、何れにせよ、親を名乗って子供を利用するその神経が俺は心底気に食わん!」 ショーンの表情は耐えきれないほど、怒りに満ちたものだった。 「子供が親の所有物であってなるものか! お前は使い勝手のいい奴隷に、我が子という体の良い名前を付けて虚栄に酔っているだけだ!」 「それのどこが悪いのですか?」 フィロの物言いに、ショーンはさらに激昂する。 「貴様のような奴は地獄に堕ちて、永遠に苦しめ!」 ショーンは湧き上がる怒りを抑えきれず憤慨した。 「ショーンが酷い母親の下で育ったの知ってるからさ。結局、フィロは母親という女神を演じたかったんでしょ?」 「そうかもしれませんね」 この局面においても変わらぬ、打てば響くような返答。 「そういうのやめようよ。凄く不細工だ」 レオノルの言動を気に留めることもなく、フィロは磊落に笑う。 「それで、何か得られたか? お前の心は満たされたのか」 「はい、満たされました」 ベルトルドの静かな憤りに、フィロは愉悦に満ちた表情を浮かべた。 「あなた達は、どうして――」 意識の一瞬の空隙。 真意を探ろうとしたヨナの言葉を遮って、フィロの手元から光が漏れる。 「それ以上動くな!」 「させないよ!」 「――っ」 しかし、魔術が発動する前に、トールとヴォルフラムがフィロの手を取り押さえた。 拘束されても、敵を葬ろうとするその覚悟。 これ以上、情報を渡すまいとする強い意思。 瓦解した後も続くサクリファイスの信念。 ヴォルフラム達は、サクリファイスの不気味さ、底知れなさを改めて実感する。 「フィロは、どこに、向かおうとしていたのか……」 「お母様は、ラウレシカ様のところに行こうとしていたの」 カグヤの言葉に、コルクは子細を伝える。 「ラウレシカ……?」 「お母様と同じ、サクリファイスの幹部の人……」 「同じ幹部のもとに向かおうとしていたのですね」 ヨナは、フィロの意図する所に気が付いた。 やがて、フィロは自らが操っていた浄化師達の手によって、教団へと連行されていく。 「……コルク、もう帰る場所がない」 寄る辺を失くしたコルクは、暗い表情を浮かべる。 「コルクさん。フィロが用いた薬品を解析する為にも、教団に行きませんか?」 「コルクちゃんの居場所は、これからわたし達と一緒に探しましょう」 「……うん」 ヨナとリチェルカーレの提案に、コルクは花が綻ぶように無垢な笑顔を浮かべた。 ● 「……もう少しだな」 イヴルとカタリナは、ラウレシカとの待ち合わせ場所へと向かっていた。 これから必要なのは、自分の向かう先を決断する事。 戦う為の力を得た以上、その答えもまた、戦いの中しか見付け出せないのかもしれない。 誰かを傷つけた代償を、自分もいつか支払う事になる。 だが、それでも果たしたい。 ――彼女との約束。 イヴルの見上げた空はいつの間にか、何処までも遠く青褪めていた。
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*** 活躍者 *** |
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[17] クリストフ・フォンシラー 2020/04/02-23:46
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[16] リコリス・ラディアータ 2020/04/02-22:54
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[15] アリシア・ムーンライト 2020/04/02-21:47
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[14] リチェルカーレ・リモージュ 2020/04/02-21:41
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[13] クリストフ・フォンシラー 2020/04/01-21:54 | ||
[12] リコリス・ラディアータ 2020/04/01-15:29
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[11] リチェルカーレ・リモージュ 2020/03/31-23:55 | ||
[10] ヨナ・ミューエ 2020/03/30-18:58 | ||
[9] ヴォルフラム・マカミ 2020/03/29-12:01
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[8] リチェルカーレ・リモージュ 2020/03/28-20:22
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[7] クリストフ・フォンシラー 2020/03/28-14:50 | ||
[6] ショーン・ハイド 2020/03/27-23:31 | ||
[5] クリストフ・フォンシラー 2020/03/27-22:57 | ||
[4] ヨナ・ミューエ 2020/03/27-21:52 | ||
[3] リチェルカーレ・リモージュ 2020/03/27-19:56
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[2] クリストフ・フォンシラー 2020/03/26-22:28
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