~ プロローグ ~ |
「オホホホホホ、あたくしの召喚したこの強敵、あなたに倒せるかしらねぇ?」 |
~ 解説 ~ |
ゼヴィ夫人の力を借りて、弱点克服の為の成功体験を夢の中で味わいましょう。 |

~ ゲームマスターより ~ |
マスターの北織です。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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夢を見る・B 【心境】 双子の片割れと、おそろいでないと嫌 そんな私に夫人は片割れの趣味ではない、本来なら私自身が好む「衣服を強制的に与える」 上記の内容は祓魔人にとってはドぎつい(片割れとおそろいでない為) だが、夫人と喰人に褒められることで、何故か悪い気がしなくなる 【台詞】 レ:……これ、は? え。私が着るの……? でも。これ、あの子でも私の趣味でもないし、 テ:良いな。きっとレミネに似合うんじゃないか 2人に視線を向けられ、仕方なく了承 レ:……着替えたけど ムスっとした表情で2人の前に出る テ:似合ってる。レミネはそういう可愛らしいのが似合うな (似合うわけない、あの子と同じじゃないのに でも、悪い気しない……?) |
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俺が引く!何が起こるかわからない?ルド、そこがいいんじゃねぇか! C 失う悲しみを、ルドという唯一無二の相棒の存在によって精神を安定させる ルドは冷たいし、そっけないし、拒絶的だけど、俺みたいな酒浸りでテキトーで故郷を切り捨てられない男の手を取ってくれた 夢の内容 一人で遠くから出てきた孤児院の様子を眺めている 子供達は俺に気づく様子もなく遊んでて、ああ……あの人は 「姉ちゃん」 片思いして、ずっと追いかけて、最後は村の男と駆け落ちしていった姉ちゃん 忘れられなかった 「姉ちゃん」 伸ばしたその手を別の手が掴む ルドだった 「逃げるな」 負けられない気持ちが沸き上がる ニヤリと笑って、握り返した 「逃げねーよ」 |
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【夢を見る・カード】 ラシーファ・C 【見る夢】 そこは幼い頃に見た光景でした ただ殺戮による血の臭いがする、僕以外に生者のいない、森の集落 そんな自分の目の端に、ゼヴィ婦人の姿を見ました 彼女が出したのは、白い翼を持つ一人の竜の生成の姿 …思い出しました。集落を滅ぼしたのは『ヨハネの使徒』ではなく『彼』であったのだと ※1 剣を抜き駆け出して。一直線に向かった先で そこには邪魔をするように山と現れたヨハネの使徒が。 「おまえ達じゃ、ありません…!!」 無理やり攻撃を捌き、何時までも出てくる使徒の数多の核を壊しながら、無限の数を錯覚させる使徒の隙間を抜けるように、僕は使徒の群れに飛び込みました その目的は、ただ一つ※2 |
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・カード A 引いたのはシエラ ・弱点と克服 パートナーのディルクさんが怖くて、理不尽な指示にもつい言いなりになってしまうのが弱点です。 夫人は夢の中で私たちに護衛を頼んだ依頼人となり「浄化師が来たならもう安心」だと、わざとらしく『慢心』した言動をしてディルクさんを挑発。 私が止めるように言っても聞いてくれず、やがてディルクさんが夫人に銃口を向け……私は彼が依頼人を殺すのを止めるために彼に背き、身を挺して庇います。 「やればできるじゃない」 という満足気な声と、 「『言いなりになっていれば殺されない』なんて、それこそが彼の大嫌いで愚かな『慢心』ではなくて? オホホホホ」 その言葉と笑い声が響く中、目を覚ましました。 |
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(夢の内容をララエルから聞き) 残飯…ベリアル…? (ララエルの肩を掴み)何だってそんな、トラウマの夢を進んで見ようとしたんだ! 君の親は、君に腐った残飯を食べさせたり、靴で踏んだり、髪を引っ張ったり してきたじゃないか! そんな夢、酷すぎるよ… (ララエルから「強い私になるんです!」と説得され) ララエルはもう十分強いよ。 それから…もしまたゼヴィ夫人が現れて、タロットを渡されたら…今度は夢の中に僕を呼んで。 どんなベリアルでも、僕がこの手で殺す。殺しつくしてやるから――(目を据わらせ) 本当の親じゃないなら、ララの本当の両親を捜そう。僕も手伝うからさ。 |
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カードを引くのはリーゼ 引いたカードはC ●リーゼ行動 引いたカードは吊された男……ですか たしか正位置であれば意味は忍耐、努力、修行など……私の心掛けている要素ですね 逆位置の場合は、報われない・終わりが見えない・自己犠牲…… ……我ながら、正位置以上に私に合っている気がいたします このカードにまつわる夢となると……想像もつきませんね 悪い夢を見てしまう予感はいたしますが 日頃の任務に向けての体調管理の為にも睡眠を取らないわけにもまいりません ●ギル行動 僕はあんな怪しいカードには係わらず傍観しとくよ 帰っても女子寮には入れないしリーゼたんに会えないからヒマだなー ※今回は可能な限りリーゼの描写重視希望 |
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あの女の人って、ジョシュアみたいな呪い師さんなのかなあ? 【C】 夢の中でもゼヴィさんに会ったよ 困ってる方が沢山いるからと色んな人を紹介された その人たちは掃除や洗濯ができなかったり ご飯を作ってほしいとか、小さい子の面倒を見てほしいとかで私に頼んできた 家事手伝いはわりと得意だから、よーし頑張るよ!って引き受けたんだけどね やってもやっても仕事を増やされるばかりなのと… 本当に困ってるのか怪しい人もいるんだよね でも疑うのはよくない、かな、でも嫌だな… あれやこれやと仕事を頼まれて途方に暮れてた時に ジョシュアがいきなり現れて助けてくれた! いつもへらっと笑ってるんだけど、今は凄く真剣な表情…かっこいいなあ。 |
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◆克服法 ・気づいたらベリアルと戦おうとしていた ・どこからともなく聞こえる声にとりあえず戦う事を決意 「えっ…ぇえ???」 「と、とにかく…戦えばいいんです、よね? が、頑張ります…!」 「瞬さん、わたしはあなたに信じてもらって… まだまだ…ですけど…凄く自信に繋がって、ます…! でもあなたに甘えてばかりではダメ…ですよね 今度は…わたしも…瞬さんの事、信じないと…!」 (それに…守られてばかりじゃ…瞬さんが… これはそう言う事ですよね?) ◆夢から覚めて ・瞬に歩み寄ろうと思う 「不思議な夢…でした… でも思えば瞬さんはいつも歩み寄って下さっていたのに… …このままではダメです! わ、わたしも瞬さんの事、知らなくちゃ…!」 |
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~ リザルトノベル ~ |
●信じる事 「何でこんな事にっ」 檻に監禁された『泉世・瞬(みなせ・まどか)』は自身を縛る縄を解こうともがき、鉄格子に体当たりする。 彼の眼前では『杜郷・唯月(もりさと・いづき)』が1匹のベリアルに対峙していた。 「『何で』ですって? ご自分の弱点も分からないならずっとこのままね」 ゼヴィ夫人は鉄格子越しに瞬を見据え冷たく言い放つと、今度はその視線を唯月に向ける。 「彼を助けたければあなた一人で戦うことね」 「えっ……ぇえ?」 唯月は状況が呑み込めないながらもとりあえず戦闘態勢に入る。 「と、とにかく……戦えばいいんです、よね?」 「いづ!!」 (一人でなんか駄目だ! 俺の「弱点」って……何?) 瞬は濁流から砂金でも見つけるかのような心境で必死で心の澱をさらい始めた。 夫人はベリアルを前にする唯月に語りかける。 「あなた、彼をどこまで信じてらっしゃるの? あたくしにはあなたたちの『信頼』がどうにも脆く見えるわ……彼をもっと信じなさいな」 唯月はベリアルから目を離さぬまま、夫人の言葉の意味を考えた。 (守られてばかりじゃ……それじゃ瞬さんが……そういう事ですよね?) 「が、頑張ります……!」 ひとりベリアルに立ち向かう唯月に瞬は気が気ではない。 瞬の脳裏に、片時も忘れ得ない喪失の光景――昔の相方と共に挑んだ指令で一緒に玉砕したにも関わらず自分だけがアンデッドとして生き返った――が甦る。 「あんなのは二度と御免だ、だから俺は……」 (「あんなの」……?) 唯月は心当たりの無い言葉に首を傾げつつも、これまで見せた事のない瞬の苦しげな表情に胸が軋み、ベリアルの攻撃に耐えながら言った。 「瞬さん、わたしはあなたに信じてもらって……まだまだ……ですけど……凄く自信に繋がって、ます……! でもあなたに甘えてばかりではダメ……ですよね」 「そんな……こと……いづは守らなきゃな存在、だよ?」 唯月は首を横に振る。 「今度は……わたしも……瞬さんの事、信じます……! だから……っ」 唯月はそれ以上何も言わなかったが、瞬には彼女が「わたしを信じて」と……そう言った気がした。 (ああ……そうか) 瞬はもがき暴れるのをやめて唯月を見つめる。 「うん、いづなら出来るよ……」 夢から覚めた瞬は枕の下を見る。 彼の引いた「吊された男」のカードはやはり消えていた。 「俺の守り方、ちょっと間違ってた……?」 夢を振り返りながら、瞬は考える。 「ちゃんと話そう……これからの為にも。彼女とは……いつ会えるかな……」 その頃、唯月の気持ちにも変化が現れていた。 「思えば瞬さんはいつも歩み寄って下さっていたのに……このままではダメです! わたしも瞬さんの事、知らなくちゃ……!」 信頼を深めた二人が瞬の過去を共有出来る日は、いつかきっと来る。 ●慢心の綱渡り 「愚者」のカードを枕の下に忍ばせ夢の世界に舞い降りた『シエラ・エステス』は、ひたすら「恐怖」を味わう事となる。 ベリアルの棲む森を抜けなければならないというゼヴィ夫人の護衛を引き受けたシエラと『ディルク・ベヘタシオン』だったが、ディルクの方はかなり殺気立っていた。 原因は他ならぬ夫人である。 「浄化師の護衛があるなら何の心配もいらないわ」 「ふ、夫人っ、そういう自信過剰な言動は……」 シエラは夫人に忠告するが、夫人は何処吹く風だ。 「浄化師がいるのにベリアルなんかにやられるわけがないでしょう?」 「ですから慢心は御法度で……」 カチリ……とディルクの銃の撃鉄が下がる不気味な音がした。 「あなた浄化師でしょう? あたくしの身は安全だわ。オホホホホ」 仏の顔もといディルクの威嚇も三度まで、である。 ディルクは遂にライフルの銃口を夫人に突きつけた。 「自分は守られているから安全? ならば死ね」 シエラの思考は目まぐるしく回転する。 (さすがに依頼人を殺すのはダメです!) 「……シエラ、退け」 気付くと、夫人に向けられていた筈の銃口はシエラの眉間を突いていた。 額には嫌な汗が噴き出し、口の中は渇き、疲れている訳でもないのに膝はガクガクと笑う。 それでもシエラはその背に夫人を庇い、刮目してディルクを見上げた。 「ど、退きませんっ! 私はディルクさんに過ちを犯してほしくありません! し、死にたくないけど、死んでも退きませんっ!」 そう叫んでぎゅっと両の瞼を閉じた直後……。 「やればできるじゃない」 背後から、夫人のどこか満足げな声が聞こえてくる。 シエラが振り向くと、夫人が妖艶な笑みを湛えていた。 「あなた、『言いなりになっていれば殺されない』なんて思ってなくて? でもそれこそが彼の大嫌いで愚かな『慢心』じゃないかしら?」 金言を残し、夫人はシエラの前から去っていく……。 翌日。 「おいシエラ、何だその自信ありげな顔は?」 ベリアル退治に向かう道中ディルクがシエラを睨んだ。 「何か慢心してんじゃねぇか?」 シエラの顔から血の気が引く。 「そ、そんな事は決してっ!」 (夢では過ちを犯そうとするディルクさんに逆らえたのでちょっと自信が付いた気がしてたんですが、いざ本物を前にすると……うう、これ、弱点を克服できたって言えるんでしょうか?) 肩を落とすシエラの様子を見て、ディルクは人知れず息を吐いた。 (弱点克服のカードか……どんな夢を見たのかは知らんが、妙な自信には軽く釘を刺しておかねぇとな……とはいえ、何の自信も無く隷属していれば殺されないと思ってるような奴ならいずれ殺すつもりだったが、多少自信のある顔も出来るならその心配は無さそうだな) 自信と慢心は紙一重……シエラの綱渡りは果てしなく続く。 ●模倣からの脱却 逆さまの女教皇は『レミネ・ビアズリー』に試練を与える。 「こ、ここは?」 レミネは何故かランウェイの上に立っている。 観客もちゃんといる……『ティーノ・ジラルディ』だ。 「あたくしはこんな服をデザインした覚えはなくってよ!」 そう言いながら現れたのは、レミネに「女教皇」のカードを与えたゼヴィ夫人。 夫人はレミネの服を「こんな服」と一刀両断すると、困惑する彼女を無理やりランウェイの裏に引きずり込む。 夫人は有無を言わさず淡い水色のスカートをレミネの体に当てた。 風にそよぐ柔らかな生地に小ぶりな花柄をあしらった可愛らしいスカートだ。 (何これ、こんなのあの子の趣味じゃない。だから私も好きじゃない) 双子の「あの子」の趣味嗜好を模倣する癖のあるレミネは、夫人の持ってきたスカートに嫌悪感を示す。 しかし……。 「さあ、早く着なさい」 「……こ、これ……え? 私が着るの……?」 レミネの顔にサーッと縦線が入った。 (む、無理! いやああぁぁぁっ!!) 「モデルが服を選り好みするんじゃなくてよ! いつまで観客を待たせるの!」 (モデルになった覚えはないわよぉぉぉっ!!) 夫人は暴れる彼女に無理やり頭からズボッとスカートを被せると、更にスカートの色に合ったボーダー柄のニットを着せ、仕上げにスカートの腰にリボンを結んで彼女の細い首に花を模った首飾りまで付け、とどめにレミネの足を持ち上げ靴を脱がせて代わりに小綺麗なパンプスをはめ込んだ。 「や、やめ……」 履き慣れた靴を取り戻そうとレミネは手を伸ばしたが、 「チェェストォォッ!」 と夫人は豪快に遠くへ靴を蹴り飛ばす。 敗北を悟りその場に頽れたレミネを夫人が無理やり立たせ、ランウェイに押し出す。 何も言えず俯くレミネに観客席からティーノが微笑んだ。 「うん、いいな。すごく似合ってる。レミネはそういう可愛らしいのが似合うな」 だが、レミネはその言葉を素直に受け取れない。 (似合うわけない、あの子と同じじゃないのに) 彼女が日頃模倣したがる双子の「あの子」にはいつもの服が似合っている、つまりそっくりな容姿の自分にもそうである筈……なのに。 「……でも。これ、あの子の趣味でも私の趣味でもないし」 どこか言い訳がましい、そんな気がするのは……。 「それこそあなたが真に望んでいる姿なのよ。ええ、あなたらしくて本当に素敵だわ」 という夫人の声が遠くに響く。 (私、本当は……) 夢から覚めたレミネは 「酷い夢だった……」 と溜め息を吐いた。 だが、彼女は気付いている。 (でも、結局最後は悪い気がしなかった……) レミネが本当に模倣から脱却する時は、「ありのままのレミネが好き」というティーノの後押しがきっと必要になるだろう。 そう、夢の中で微笑んでくれたように……。 ●その手を離すな ゼヴィ夫人は『アシエト・ラヴ』にとって見慣れた光景と忘れ得ぬ人物を召喚した。 「ここは……」 (俺の育った孤児院じゃねーか! それに、ああ、あの人は……) 「姉ちゃん!」 アシエトは瞠目する。 忘れるものか……彼女に恋したあの年月を、彼女を失ったあの日を…… ……アシエトは彼女に恋焦がれ、純粋で一遍の曇りもない心でひたすら追いかけていた。 だが、彼女は村の男と駆け落ちし、アシエトの硝子のハートには決して消えぬひびが残った……。 孤児院の子供たちは離れた場所から眺めているアシエトに気付く様子もなく無邪気に遊び、「姉ちゃん」もアシエトには見向きもしない。 「姉ちゃん」 彼女の中に自分はいない……それを見せつけられる度にアシエトの心はミシミシと音を立てるのに、その手は自然と彼女に伸びる。 その時。 「逃げるな」 アシエトが伸ばした手を『ルドハイド・ラーマ』がかっ攫った。 アシエトは反射的にその手を振り払おうとしたが、静かに佇むルドハイドの手には思いがけず力がこもっている。 それがアシエトに妙に心地よい反発心を呼び起こした。 「絶対逃げねーよ!」 アシエトはルドハイドの手を負けじと強く握り返す。 その面にどこか挑発的な笑みを浮かべながら……。 翌朝。 部屋を出てきたアシエトの顔を見てルドハイドはぴくりと眉を動かした。 (昨日は「何が起こるか分からない? ルド、そこがいいんじゃねぇか!」と啖呵を切っていたからな、夢の中で打ちのめされるかと思いきや……やけに晴れ晴れしているな) 「振り切れたようだな」 ルドハイドはアシエトに全てを見透かしたような余裕めいた調子で声を掛ける。 「おう」 アシエトは夢の中と同じように口端を上げた。 「ルド、俺は逃げない」 (はて……意味は理解出来んが、こいつがそう言うのには、それなりの覚悟があるんだろう) ルドハイドは相変わらずの冷めた口調で返す。 「そうか。その言葉、忘れるなよ」 「おうよ」 秘かに気合のこもった返事を聞いたルドハイドは踵を返し本部に向かった。 (そもそもあいつの手を取ったのはごく簡単、御しやすいからだ。実際、付き合ってみると成程御しやすい。しかし……) 「思い通りにいかない所もある……それが『アシエト』だ」 「ん? ルド、何か言ったか?」 追いかけてきたアシエトをルドハイドはからかう。 「いや、あのカード、俺が引いてもロクな事にならんかっただろうと思ってな。やめといて良かった」 「そういえば俺が引こうとした時も『大丈夫か?』って心配してくれたよな?」 「形だけな」 「なっ、ルドお前ーっ!」 生きている限り記憶は消えない。 心に負った傷も。 だが、アシエトがその痛みから「逃げる」事は決してないだろう。 彼の手を離さぬ唯一無二の相棒が傍にいるのだから。 ●自分の気持ち 「吊された男」のカードを引いた『ベアトリス・セルヴァル』に、ゼヴィ夫人は「困ってる人」を大量召喚し押し付ける。 「仕事を休めないの。息子の面倒見てくれる?」 「足を骨折したせいで掃除が出来ないわ」 「ぎっくり腰で洗濯が辛いのぅ」 「お腹空いたよー、ご飯作ってよー」 ベアトリスは笑顔で頷くと、 「よーし、頑張るよー!」 と腕まくりをして要望に応え始めた。 (兄弟姉妹の多い大家族で育ったから、家事手伝いはわりと得意だしね!) そんな彼女を眺めながら夫人はどこか不気味な笑みを浮かべる。 (やってもやっても終わらない……) 預かった子供は悪戯三昧、骨折女はまさかの散らかし魔、ぎっくり腰の老婆は家族の洗濯物をどんどん追加、食事を作ってあげた子供は何度も皿をひっくり返す。 皆ベアトリスに謝るが、その行動は全く改められない。 しかも、悪戯小僧は明らかにベアトリスの反応を楽しんでいるし、骨折女は時折二足歩行、老婆は立って井戸端会議、挙げ句空腹の子供はポケットから飴玉を出してしゃぶり出す。 明朗快活で世話好きな彼女も、これにはさすがにモヤモヤし始めた。 (みんな、本当に困ってるのか怪しいよね……ううん、疑うのは良くない、かな……でも、嫌だな、こんなの……) 終わりの見えない仕事を前にベアトリスが途方に暮れた時。 「すいませんがねぇ子豚の時間は有限なもんで勘弁してくださいね」 『ジョシュア・デッドマン』がベアトリスを庇うようにして「困ってる人」たちの前に立ちはだかったのだ。 「はいそこの子、わざとおもちゃ隠して子豚に探させない。奥さん、歩けるなら自分で掃除して。お婆さん、立ってられるならリハビリ代わりに洗濯どうぞ。そこの君は暫くその飴玉で十分」 普段は面倒くさがってへらへらと笑っているジョシュアが、困ってるかどうか分からない連中に真剣な表情でピシャリと物を言いあしらう。 無駄が嫌いで合理的な彼らしい言動で。 (ジョシュアさんかっこいいなあ……) すると、思わず魅入ってしまったベアトリスにジョシュアが振り向いた。 「前もって言っておく。これからうるさく言うのは……こんな事言いたくないが君を気に入っているからだ」 「ジョシュアさん?」 「子豚、君はスーパーヒーローじゃない。一人で何でもできる訳じゃあない、だから私がいるんだ。何でも受け入れて親身になれるのは良い事だが、自分の気持ちを犠牲にするな。嫌ならちゃんと断れ。でないと、本当に助けたい人を助けられなくなる時が来るぞ」 耳の痛い言葉の筈なのに、何故かジョシュアのそれはベアトリスの心にじんわりと温かく響く。 「あの子もこれでちょっとは分かったみたいね、オホホホホ」 夫人は優しく微笑むと、二人の気付かぬうちに姿を消すのだった……。 ●反撃の狼煙 『リーゼ・アインベルク』の枕の下には逆位置の「吊された男」。 (意味は、「報われない、終わりが見えない、自己犠牲」……確か、正位置であれば「忍耐、努力、修行」などでしたね。こちらは普段私が心掛けている要素ですが、我ながら……正位置以上に逆位置の意味の方が私に合っている気がいたします……) ゼヴィ夫人の話では、カードが見せる夢はかなりドぎついらしい。 悪夢となるのは間違いないだろうが、真面目なリーゼは体調管理を第一に睡眠を取る。 その頃、男子寮に戻っていた『ギル・マイヤー』はぼんやりと天井を見上げながら呟いた。 「僕はあんな怪しいカードには関わりたくないもんね。あーあ、女子寮には入れないしリーゼたんに会えないし、ヒマだなー」 ギルが暇を持て余している一方、夢の中のリーゼには地獄の責め苦が始まる。 ゼヴィ夫人は広場のど真ん中でカードの絵柄よろしくリーゼを逆さ吊りにすると、スライム状のベリアルを何体も召喚した。 実在しないスライムベリアルとは……本当に夫人は夢の中ではやりたい放題なさるようだ。 恐怖に慄くリーゼに、スライムベリアルは謎の連携で挑む。 1体がリーゼに張り付き触手で懸命に服の胸元を引っ張り、別の1体は触手をその隙間に滑り込ませたり太腿に絡ませたり、また別の1体は触手を鞭のようにぺしんぺしんとリーゼに打ち付け彼女の服にダメージを与えるという……これ、誰得だ? こんな無残な仕打ちで得をする者など限られている。 「あっと少し! あっと少し!」 リーゼの周囲にたかる男共だ。 男共の中にはちゃっかりギルの姿もあった。 「いやあっ……離してっ、見ないでくださいっ! いやあぁぁっ……」 リーゼは懸命に体を振り涙ながらに抵抗するが、男共のテンションは上がる一方だ。 「もったいぶってねーで見せろ!」 「スライムベリアル、もっと服下ろせ!」 「ヒャッハー! ポロリ切望!」 男共の罵詈雑言と下卑た歓声、邪な視線や嘲笑……絶望感に呑み込まれそうになったリーゼだったが、視界の隅に男共と一緒になって騒ぐギルの姿を捉えた瞬間、プツリと何かが切れた。 「……いい加減にして下さぁいっ!」 リーゼは全力で体を振りスライムベリアルを払いのけると火事場の馬鹿力で縄を緩ませ剣を抜き、縄とベリアルを一刀両断する。 更に、着地したリーゼは剣を鞘に収めると、棍棒代わりにしてギルと男共をめった打ちにした。 「何が宗家ですか何が格上ですか何が『リーゼたん』ですか! 私はこんなに悩んでいるのです……っ!」 だらしない笑みを浮かべながら昏倒しているギルを見下ろすリーゼに、夫人が声を掛ける。 「その意気やよし、オホホホホ」 夫人の高笑いを遠くに聞きながら目を覚ましたリーゼの顔には、僅かに清々しさが浮かんでいた。 ●凄惨たる、白 逆位置の「吊された男」が見せたのは、救いようのない悪夢と……。 ゼヴィ夫人が『ラシーファ・エルダム』に用意した舞台は、とある森の集落だった。 だが、血の臭いが充満し赤黒い血溜まりの散在する光景は常軌を逸している。 それでもラシーファには見知った場所だった。 そう、ここは彼の故郷。 「あなたの『終わり』は見えるのかしらねぇ?」 夫人は竜の生成を1人召喚しラシーファに剣を投げ渡すと意味深な言葉と共に踵を返す。 彼女が召喚した生成の白い翼がラシーファの記憶を一気に巻き戻した。 「……思い出しました」 故郷の集落はヨハネの使徒に滅ぼされた、ラシーファはずっとそう信じて生きてきた。 当時の記憶は曖昧なまま混迷し、全てはヨハネの使徒によるものだと思っていた。 ……だが、真実は違っていた。 (集落を滅ぼしたのは「ヨハネの使徒」ではなく、「彼」です……) 縺れていた糸は全て解かれた。 混迷を確信に変えたラシーファは即座に夫人から受け取った剣を抜き生成に一直線に突進する。 (あの純白の存在を殺さなければ……あの時「殺す意味も価値も無い」とばかりに僕だけ生かした報いを受けさせなければ!) 「あなたを殺して、僕はあの時失った『己の価値』を取り戻すんです!」 しかし、夫人は容赦なく大量のヨハネの使徒を召喚しラシーファの行く手を阻んだ。 「おまえ達じゃ、ありません……!!」 ラシーファは幾度となくその切っ先でヨハネの使徒の核をひと突きに破壊し、彼自身も傷を負い血を流しながら一歩また一歩と生成に迫る。 あの「白」を見失わないように……。 道を切り開きやっとの思いでその先に捉えた生成に、ラシーファは剣を振りかぶった。 (ついに……!) 剣を振り下ろした瞬間、ラシーファの胸の内にはこれまで味わった事のない達成感が溢れ彼の心を埋め尽くした……が。 白翼の生成はラシーファに背を向けたまま跡形もなく姿を消した。 まるで、ラシーファの事など「どうでもよい」とばかりに……。 翌日ラシーファに対面した『アルティス・ディア』は半ば愕然として尋ねる。 「どうしたんだいラシファ、酷い顔をしているよ?」 アルティスの問いに、ラシーファは俯いたまま答えた。 「確かに成功したのに……今は、失敗しました」 ラシーファは言葉に詰まり、それ以上何も言えない。 代わりに彼の目尻から涙が一筋流れ落ちた。 アルティスにはラシーファの言葉の意味が理解しきれなかったが、それでも彼は矢も楯もたまらずラシーファをそっと抱き寄せる。 「がらにもないね……」 (この私が、こんな風に胸を貸すくらいしか出来ないのが辛いと思うなんてね……) 「吊された男」が見せたのは、果たして悪夢だけだったのか…… ラシーファがそれを悟るのは、まだ先の話かもしれない。 ●強き「出来損ない」 「『出来損ない』にはこれがお似合いよ!」 ゼヴィ夫人は『ララエル・エリーゼ』に残飯を投げつける。 腐敗臭のするそれは触手の生えたベリアル……そう、夫人が召喚した残飯ベリアルだ。 「……んぐっ!」 ララエルの口に、円らな瞳に、カビの生えた残飯ベリアルの一部が舞い込み涙が溢れる。 逃避欲求が脳を掠めた瞬間、ララエルは『ラウル・イースト』に己が何を誓ったかを思い出した。 ――ララエルは「吊された男」のカードを握りしめながらラウルに請うた。 「ラウル、夢は私に見させて貰えませんか……!?」 ラウルは血相を変えて止めるが、ララエルはカードを手放さない。 「私は……「強い私」になるんです!」 ララエルの本気に負けて、ラウルは彼女に渋々カードと共に眠る事を許したのだった―― 「ラウル、見ていて下さいね……ルル、力を貸して!」 ララエルは涙を拭い人形「ルル」を手に夫人を睨んだ。 「私はもう……残飯ベリアルには負けません……!」 次々と乱投される残飯ベリアルは再びララエルの口や鼻に入り込む。 「ごほっ……うぅっ……ま、負けないもん……!」 吐き気に襲われ胃を押し上げられながらも、ララエルはルルと共に残飯ベリアルを迎撃した。 「『出来損ない』、凄く嫌な言葉……でも、過去の嫌な事を断ち切って、私は凄く強い私になるの……!!」 ルルを伴ったララエルの渾身の一撃が最後の残飯ベリアルを直撃、砂となって消えた直後……。 「そうそう、あなたの親、本当の親じゃないかもねぇ」 ゼヴィ夫人はニヤリと笑ってララエルに背を向けた。 「……え? それって……!?」 (本当の……お父様とお母様じゃ、ない……って……) 問いただそうとしたララエルだったが、無情かな、カードの見せる夢はここで終わってしまう……。 翌日、夢の詳細を聞いたラウルはやはり血相を変えてララエルの肩を掴む。 「残飯ベリアルって……何だってそんなトラウマの夢を! 君の親が君に何をしてきたか……そんな夢、酷すぎるよ……」 ララエルが夢の中で腐った残飯を食べさせられ、靴で踏まれ、髪を掴まれ引きずり回されたのかと思うと、ラウルは胸が痛んで仕方がなかった。 「でも、私強くなれたと思います!」 「……ララエルはもう十分強いよ。それと、夫人が夢の中で最後に言った事が本当なら、ララの本当の両親を捜そう。僕も手伝うからさ」 ラウルはほんの一瞬苦笑を見せた後、目を据わらせる。 「もしまた夫人にカードをもらうような事があったら……今度は夢の中に僕を呼んで。どんなベリアルでも、僕がこの手で殺す。殺し尽くしてやるから……」 泣いてされるがままだった「出来損ない」はもういない。 今の彼女は心から頼れるパートナーに恵まれ、己の過去に向き合う強さも得たのだから。
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*** 活躍者 *** |
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[12] ラウル・イースト 2018/04/26-22:40
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[11] ジョシュア・デッドマン 2018/04/25-21:19
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[10] 杜郷・唯月 2018/04/25-00:10
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[9] ラウル・イースト 2018/04/24-22:12
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[8] レミネ・ビアズリー 2018/04/24-21:18
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[7] シエラ・エステス 2018/04/24-19:14
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[6] ベアトリス・セルヴァル 2018/04/24-02:35
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[5] リーゼ・アインベルク 2018/04/23-20:17
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[4] ラウル・イースト 2018/04/23-12:18
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[3] ラシーファ・エルダム 2018/04/23-08:36
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[2] アシエト・ラヴ 2018/04/23-01:52
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