縁と絆を深めて・その5
普通 | すべて
8/8名
縁と絆を深めて・その5 情報
担当 春夏秋冬 GM
タイプ EX
ジャンル 日常
条件 すべて
難易度 普通
報酬 通常
相談期間 5 日
公開日 2020-04-23 00:00:00
出発日 2020-05-01 00:00:00
帰還日 2020-05-09



~ プロローグ ~

 教団本部室長室。
 今回も今までと同じく、浄化師に関連する人物についての話し合いがされていた。

「浄化師の家族に対する護衛体制は、当初の予定率を完遂しました」
 ウボーからの報告を受け、ヨセフは返す。
「第一段階は終わったということだな。第二段階への移行はどうなっている?」
「そちらについても進展しています」
 報告書を渡し、セレナが言った。
「各地の浄化師の家族を護衛するために配置した人員を、いざという時に連携して行動できるよう連絡網の構築が進んでいます。魔女の魔法だけでなく、万物学園にも協力して貰い、広域通信の拡充を急速に対処して貰っています」
「そうか。現時点でも労力を掛けているが、これからも苦労を掛けるな。俺の方も出来るだけ予算を引っ張って来るから、それで少しでも報いることが出来るよう体制を作っていきたい所だな」
 ここしばらく、徹夜仕事に近い勢いで書類仕事をしていたヨセフは、目元を揉んだあと続ける。
「護衛体制は巧くいきそうだが、個別の案件についてはどうなってる? そちらでも、出来る限り対処したい所だが」
 これにセパルが返した。
「そっちも、巧く行ってるよ。それぞれの国で、根回しもしているし。何かがあっても最大限、手助けできるよう準備を整えているよ」
「そうか、助かる。あとは、本部で保護した者達についてだが――」
「そっちも、大丈夫よ」
 ヨセフ達に協力している、カルタフィリスのマリエルが応える。
「この前来た先生も、上手くやってくれてるみたいだし。学生の子達の評判もいいわ。ただ、ちょっと研究室とかの片付けなんかが、大変みたいなんだけど……」
「時々、私達が片付けやご飯を作りに行かせて貰っています」
 マリエルと同じく、カルタフィリスのマリーが続ける。
「お好きな物とかが分からないので、出来るだけ色々な物をお出ししてます。あと、オッペンハイマーさんにお手紙を出せないか頼まれました」
「そうか……分かった。向こうにも、幾つか動きがあったようだ。こちらとしても連絡が取れれば助かる。出来る限りのことをしよう。他には、何かないか?」
 ヨセフの言葉に、マリエルは少し迷うような間を空けて返した。
「その……オクトの人達って、別に敵対する気はないのよね?」
「ああ、そうだが。この前受け入れた4人組に、何かあったのか?」
「ううん、そちらは大丈夫。幽霊の人は、メフィストが何か色々としたみたいで、前より存在が強化されて安定してるから、喜んでくれたみたいだし」
「うん。そっちは大丈夫だよ」
 マリエルの言葉に続けて、セパルが説明する。
「肉体の代わりに、教団本部の建物を憑代にして安定できるようにしたから。性質的には、家憑き幽霊(シルキー)みたいな感じになってるんだ。多分慣れてきたら、本部内ならどこでも一瞬で移動できるし、自分の手足みたいに本部内にある物なら動かせるようになると思う。本部から離れちゃうと、そうした性質は一端途切れちゃうけど、戻れば同じようになれるよ」
「ふむ。利点は在れど、不利益はない、といった所か。彼女に同行した3人は、どうだ?」
「そっちも大丈夫。色々と本部の中を案内して、少しずつだけど警戒解いてくれてるみたいだし」
「なら良かった。それで、他には――」
「……他のオクトに関わってる子も、別に良いのよね?」
 不安そうに言うマリエルに、ヨセフは返す。
「相手によるが……ああ、この前保護した女性のことか。色々と内部を探ったりしてるし、外部と連絡を取ろうとしてたりしたから軽く調べたが、まぁ、特に害はないから放置しているな。むしろ、色々とこちらの情報を流してくれた方が助かるから、もっとやって欲しいが」
「うん、その子なんだけど……あまり酷いことはしないであげてね」
「……ふむ。まぁ、それは構わん。ただ、悪い方向に行きそうなら止めるから、そのつもりでいてくれ。あと、教団と関わらない、そのなんだ、プライベートなことは関われないから、出来るだけ巧くしてくれると助かる。出来る限りのことは、するつもりだが」
「うん、分かってる……」
 少しばかり悩むように目を伏せるマリエルに、どうした物かと思いつつも、ヨセフは皆に纏めるように言った。
「それでは、これからも今までと同じくよろしく頼む。浄化師と、その家族。そして関わる人物達が、好き日々を過ごせるよう、力を貸してくれ」
 これに皆は、しっかりと応えた。

 そんなやり取りがあった後、ある指令が出されました。
 それは浄化師が家族に会えるよう、指令の形で便宜を図るので、希望者は申請して欲しいというものです。
 それだけでなく、離れ離れになってしまった家族が居るのなら、その家族を探す手助けをしてくれます。
 また、記憶を無くしたりなどで、家族のことが分からない場合は、その記憶を手繰ることから協力してくれるとの事でした。
 他にも、今まで関連する指令に参加した者については、そこからさらに何かあれば尽力するとの事でした。

 縁と絆を手繰る、この指令。
 アナタ達は、どう動きますか?


~ 解説 ~

○目的

自由設定を深める形のエピソードになります。

深まったな、と思えるプランでしたら成功以上になります。

○選択肢

以下の選択肢から、1つ選んでください。

1 家族に指令の形で会いに行く

家族から依頼を教団が受けたという名目で、それを指令としてこなすことになります。

理由などは、自由に決めて頂けます。

家族では無くても、家族に近いと思える相手なら、可能です。

2 離れてしまった家族に

どこに居るのか分からない家族を捜索することが出来ます。

教団本部の情報と、NPCの協力により、捜索が出来ます。

PCが持っている情報を照らし合わせ、教団本部の資料を調べたり、NPCから聞き込みが出来ます。

プランの内容によっては、NPCが自発的に情報提供をしてくれる流れになります。

3 無くした記憶を探る

何らかの理由で無くしてしまった記憶を手繰り、縁のある相手や集団を探ることが出来ます。

PCが持っている情報を照らし合わせ、教団本部の資料を調べたり、NPCから聞き込みが出来ます。

プランの内容によっては、NPCが自発的に情報提供をしてくれる流れになります。

4 前回からの続き

このシリーズの続きの展開を進められます。

○NPC

セパル 魔女関連や、その他諸々の情報を知っている可能性があります。
ウボー&セレナ 貴族や冒険者関連、その他諸々の情報を知っている可能性があります。
マリエル&マリー 終焉の夜明け団関連、および、終焉の夜明け団を経由した教団の情報を知っている可能性があります。

必要ならばプランで自由に出せます。

○その他

今回の自由設定を深めるエピソードは定期的に出す予定ですので、シリーズ的な物として進めることもできます。

シリーズ物として進める場合、展開によっては、個別シナリオとして進む場合もあります。

PCの家族などには、秘密裏に、魔女や冒険者の護衛が就くことになります。プランでその辺りを書くことも可能です。


~ ゲームマスターより ~

おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。

今回は、PCの自由設定を深める形のエピソード、第5弾です。

基本的には、PCの家族や縁のあるNPCを出したりして、自由設定を深めていきましょう! というエピソードになっています。

ですので、新規の方も、続けて入られている方も、問題なく参加いただける内容になっています。

今までのエピソードで出て来ました、関連するNPCを出していただいても構いませんし、新規で追加のNPCを出されても構いません。

自由度が高いエピソードになっていますので、可能な限りプランで書かれた内容を、世界観と各種設定に反しない範囲で、取り込ませていただこうと思います。

それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリザルトに頑張ります。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

アルトナ・ディール シキ・ファイネン
男性 / 人間 / 断罪者 男性 / エレメンツ / 悪魔祓い
 男性が口を開く前にシキがストップをかけた
…シキ?
俺はツェーザルに会うためにノルヴェンディまで来た
だから、平気だ
 先程の女性が 自分の産みの親ケーラだと告げられる
…あれが…
 他には何も言わず もう帰りなさいと言う男性
いやケーラに話を聞く それまでは帰れない
 小さな頃はとても可愛かったのにと困ったように笑う男性・ツェーザル
悪いけどいま反抗期だ
…俺が? シキが遊んでやれば良いだろ
…あれしかできないっての(あやとり)
あっち行くぞ(抱きかかえ)

…シキ、変なこと言ってないだろうな?
ベルロック・シックザール リントヴルム・ガラクシア
男性 / ライカンスロープ / 断罪者 男性 / 生成 / 占星術師

教団でマリエル達とリントの家の調査の続きをする

保護された幽霊とその仲間の他にも教団にオクトがいるらしいとは聞いていたが
以前見かけた祓魔人の女もそうだったのか…
教団とリントの家とを頻繁に行き来してるみたいだし、どう考えても泳がされてるよなこれ…
まあ、オクトとの融和路線が進んで、リントに危害が加わらないならそれでいいんだけど…一計?

はぁっ!?
何考えてんだアンタは?
第一、二人が了承するとは限らないだろ!
アンタ達はどうなんだ?

二人の答えがどうでも渋々了承
確かにリントは一対一の交際だと危なっかしい

マリエル達と分かれた後、リントの部屋に行き
許すのはあの二人だけだ
もし他に浮気したら、アンタを殺して俺も死ぬ
タオ・リンファ ステラ・ノーチェイン
女性 / 人間 / 断罪者 女性 / ヴァンピール / 拷問官

水都にて、依頼主に会ってきます
十数年ぶりに帰ってきましたが、これはあくまで指令……そちらも滞りなく片付けなければ
しかし、時間はあるので見て回ってもいいでしょう
だいぶ様変わりしていますから私も気になりますし


ここが指令の場所ですね
……知っている店のはずなのですが……こんなに立派だったでしょうか?

ええと、つまり私達に給仕をやってもらいたいと?
せ、制服もあるんですか……本格的ですね……


別れの朝には、彼女に挨拶しておきましょう
これから奥地に向かわなければ、あそこが私の故郷ですから
そうだ、よければいつか教団で料理を教えてみませんか?
あちらではあまり普及していないので、そうしてもらえると私も嬉しいんです
ショーン・ハイド レオノル・ペリエ
男性 / アンデッド / 悪魔祓い 女性 / エレメンツ / 狂信者
ど、ドクターから話は聞いていたが…
想像以上の悲惨さだな…
魔窟と化した研究室にげんなり
それを気にしないドクターの耐性は一体どうなってるんだ…?

熱の入った議論をする3人を他所に資料をまとめる
そういえば、以前ドクターからフランシーヌとクロヴィスという名前を聞いたが…?
ああ、彼等はニコラのきょうだいなのか…

ドクターは弟子入りしてシャルル先生の下で衣食住を共にしてた…
ドクターにとっちゃシャルル先生も含め第二の家族みたいなものなんだろうな

家族か…俺の父親…
俺はあの時あいつを刺しただけだ
死んだかどうかは確認してない
もし生きていたら…?
…そんな杞憂を考えてもしょうがないか
二人共、俺が殺したんだ
俺が…
ニコラ・トロワ ヴィオラ・ペール
男性 / マドールチェ / 拷問官 女性 / エレメンツ / 占星術師
あの救出の時以来お目に掛かっていないが、シャルル先生はお元気だろうか
何やら魔窟と化してるとか聞いた気がするのだが

共に訪ねたレオノルが先生を引っ張り出すのを見ながら辺りを確認する

なんだ、大したことはないでは無いではないか
どうやら話が大げさに伝わっているようだな

シャルル先生
そうですレオノルも言ってますが、先日自動車と言う物が実用化されまして
その話を先生に聞いて頂きたかったのです!
まだ結構揺れますし、も少し安定させる為にはどうしたらいいかと
特に医療用車両は揺れない方が患者の為には…!

ふと
ヴィオラの声が耳に入り

そう言えば、あの2人はどうしたのですか
まだ元の家に?
私も久しぶりにフランとクロに会いたいです
リチェルカーレ・リモージュ シリウス・セイアッド
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / ヴァンピール / 断罪者
39度6分… 酷い熱
シリウスの額に手を置いて 眉を下げ
今日はゆっくり休みましょう?

発熱の原因は 精神的なものと思う
最近続いた 使徒との戦闘や守護天使の試練
シリウスは平気と言ったけれど

…ショーンさんが ちゃんとカウンセリング受けなさいって
自分で思う以上に 心が傷ついているから
  
呟かれた言葉に 彼の小さい頃を思う
医療棟に入ることもできないシリウス
無理に聞かず違う話題を

ヨセフ室長がね シリウスの書類、いろいろ抜けているから埋めておきなさいって
なくなっては いないでしょう?
あなたがちゃんと覚えてる
わたし 知りたい
シリウスのご両親のこと 

昏倒するように眠りに落ちた 彼の額に唇を落とす
小さな声で子守歌
きっと お母さんがしたように
ルーノ・クロード ナツキ・ヤクト
男性 / ヴァンピール / 陰陽師 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
■4
お家騒動の解決の為、情報は多い方がいいとナツキが提案
再度、一に会いに行く

八家の状況、特に八狗頭家と斉藤家の情報と、ナツキの両親について尋ねる
どんな人たちか、ナツキの両親の出奔時とその後の様子等
前回の話の後、源隆斉にナツキの事を伝えた際の反応も聞いてみたい

純粋な親族への興味はもちろんあるが、それと同じくらい騒動の解決も望んでいる
ナツキから一に、昔暮らしていた場所をヨハネの使徒に襲撃された過去を話す
自分が喰人でヨハネの使徒を引き寄せやすいと、当時は知らなかった為だとも

ナツキ:あの時みたいに、知らないから何もできなかったなんて言いたくない
何が起こってるのかちゃんと理解して、出来る事を考えたいんだ
ラニ・シェルロワ ラス・シェルレイ
女性 / 人間 / 断罪者 男性 / 人間 / 拷問官
4 シィラと三人組にべったり
シィラに触れるようになってるー!(ほっぺぷにぷに)
メフィストさん、ありがと!
シ「本当に驚いたわ…エフェメラ様から聞いた通り、凄いお方なのね」
メラじぃちゃん聞いたらすっ転びそうね!

三人とも困ったことない?
ヨセフ室長が何とかしてくれたから大丈夫だとは思うけど
よく受け入れたわね とケイトに言われればキョトンとした顔で
だって勝手に暴れたりしないでしょ?流石にあたしのおやつ取ったら怒るけど!

あたしにとってシィラは幼馴染だもの
つまりシィラの仲間であるあんた達はあたしにとって大事な人!
…え、何で笑うの?

ところで「ろくでもない場所なら掻っ攫う」って前言ってたけど、ホント?



~ リザルトノベル ~

 家族との縁と絆を深め、あるいは過去の自身を知るための指令。
 参加した浄化師達は、それぞれ動いていた。

●養父との再会
 ブロンドの髪に翠の双眸をした男性に家の中へと招かれた『アルトナ・ディール』と『シキ・ファイネン』は、温かなお茶を勧められていた。
「寒かっただろう。温まるよ」
 ふわりと湯気の立つお茶からは、どこか懐かしい匂いがした。
 パチパチと暖炉の薪が音を立て燃えている。
 ほっと一息つけるような、そんな温かさが家には満ちていた。
 そんな心地好い家の中で、向かい合わせの椅子に座ったアルトナは、目の前の男性を真っ直ぐに見つめている。
「…………」
 離れてしまっていた年月を埋めるように、じっと見つめるアルトナ。
 そんな彼を、男性は苦笑するように目を細めて見つめたあと、口を開こうとした。その寸前――
「待って」
「……シキ?」
 男性が口を開く前に止めたシキに、アルトナは視線を向ける。
 シキは視線を合わせながら、アルトナのことを想い言った。
「アル、ほんとに聞くんだよ、な?」
 これにアルトナは、芯の通った声で返す。
「俺はツェーザルに会うためにノルヴェンディまで来た。だから、平気だ」
 アルトナの様子に、見ていた男性――ツェーザルは、安堵するように小さく笑みを浮かべる。
 それはまるで、アルトナの成長を喜んでいるように見えた。
 2人の様子に、シキは受け入れるように返す。
「……分かった。続けていいぜ」
 シキの言葉を合図にするように、アルトナとツェーザルは言葉を交わす。
 それは家の中に招かれる前に出会った女性についての事だった。
「さっきのは、誰なんだ」
 僅かに、ツェーザルは言葉を選ぶような間を空ける。
 そして彼が告げたのは、余分な物を挟まない事実のみだった。
「彼女の名前は、ケーラ・ブリーゲル。君の実の母親だ」
 ツェーザルの言葉に、シキは思う。
(銀髪に薄めの青眼……やっぱあれが――)
 その思いは、アルトナも同じだった。
「……あれが……」
 自分の産みの親だというケーラのことを、どう思っているのかは、その表情からは読み切れない。
 けれど、強く思っていることだけは読み取れた。
 だからだろう。ツェーザルは短く言った。
「もう帰りなさい」
 他には何も言わず、諭すように言うツェーザルに、アルトナは強い意志を瞳に込め返した。
「いやケーラに話を聞く。それまでは帰れない」
「どうしてもかい?」
「ああ」
 譲らぬアルトナに、ツェーザルは困ったように苦笑しながら言った。
「小さな頃はとても可愛かったのに」
「悪いけどいま反抗期だ」
 ツェーザルが思案するように目を細めていると、1人の女の子がアルトナの元に近付き、好奇心一杯の眼差しで見つめていた。
 それを見たシキが提案する。
「アルせっかくだし遊んであげたら?」
「……俺が? シキが遊んでやれば良いだろ」
 すると女の子が、アルトナの服を掴む。
「その子アルと遊びたいってさ! アルなんだかんだ面倒見いーじゃんか」
「……あれしかできないっての」
「あやとりの糸なら、その子が持ってるよ」
 ツェーザルの言葉と、じっと見つめる女の子に、アルトナは困ったように眉を寄せたあと応えた。
「あっち行くぞ」
 女の子を抱きかかえ、アルトナは部屋を出て行く。
 シキはアルトナの姿が見えなくなったのを確認してから、ツェーザルに言った。
「……ツェーザル、さん」
「ヒューベルト様やライラ様はお元気ですか?」
 過去を懐かしむような声で尋ねるツェーザルに、シキは返していく。
「元気。相変わらず、だけど」
 近況報告のような言葉を交わしたあと、本題に入った。
「それより、ケーラさんはなんで今ごろ子供を……?」
「分かりません。それは彼女に聞いてみないと」
「そっか……」
 シキは小さく返すと、アルトナのことを想い、続けて言った。
「アルって、あんな性格だから口には出さないけど、ずっと会いたかったはず。ツェーザルさんに」
「……」
 言葉は返さず、けれど真摯に受け止めるように見詰めるツェーザルに、シキは願うように言った。
「話してやってよ。ちゃんと」
「…………」
 思い悩むようにツェーザルは返せないでいる。
 けれどそれは、真剣に考えているからだと、シキには思えた。
 そうして話していると、戻ってきたアルトナが、2人の様子を見て言った。
「……シキ、変なこと言ってないだろうな?」
「えへへー言ってませーん」
 シキは明るく返すと、ツェーザルの出してくれたお茶を飲む。
 その温かさは体と心に染み入るようで、一息つけるような優しさがあった。

●告白
(保護された幽霊とその仲間の他にも教団にオクトがいるらしいとは聞いてたけど、以前見かけた祓魔人の女もそうだったのか……)
 教団でマリエル達と一緒に『リントヴルム・ガラクシア』の家のことを調査していた『ベルロック・シックザール』は、報告書を確認して言った。
「教団とリントの家とを頻繁に行き来してるみたいだし、どう考えても泳がされてるよなこれ……」
 ベルロックの言葉に続けるようにマリエルが言った。
「室長は、そのつもりみたい。でも、このままだと彼女、余計なことに巻き込まれちゃうかもしれないから、どうにかしてあげたいの。色々と事情があるみたいだけど、それで傷付くのは、ダメだもの」
 マリエルは過去の自分と重ねている部分もあるのか心配そうに言った。
 これに応えるようにリントヴルムが言った。
「一時はどうなることかと思ったけど、ヴィラに気を使ってくれてありがとうね」
 安心させるように笑顔を浮かべ続ける。
「僕も知り合いをどうにかするのは気が引けるし、オクトとは和解できればいいなと思ってるから」
 これに同意するベルロック。
「まあ、オクトとの融和路線が進んで、リントに危害が加わらないならそれでいいんだけど……」
「そこは僕が気をつければいい所だから、気を付けるよ。ただ、彼女が僕の婚約者扱いされてるのは心外だな……ここは一計を案じよう」
「……一計?」
 聞き返すベルロックに、リントヴルムは口元に指を当て楽しそうに返す。
「まだ秘密。もう少し、形になったら教えるよ」
 満面の笑顔でリントヴルムは言った。
「というわけで、マリー、リーちゃん。僕達と付き合おう!」
「はぁっ!?」
 思わず声を上げるベルロック。
 そんな彼の反応を楽しみながら、リントヴルムはマリエルとマリーに告白した。
「ヴィラを避けるためだけじゃなくて本気だよ」
 視線を合わせ、続ける。
「セパルさん達だって3人でお付き合いしてるし、僕達が4人で付き合ってもいいんじゃないかな?
 真面目にうちの血筋を考えると、多人数交際は悪くない案だと思うんだ。
 1人を愛すると、僕も狂ってしまうかもしれないし」
「何考えてんだアンタは?」
 呆れたように言いながらベルロックは続ける。
「第一、2人が了承するとは限らないだろ! アンタ達はどうなんだ?」
 ベルロックが2人に視線を向け、その表情を見ると思わず言葉に詰まる。
「……」
「……」
 マリエルは、ぼうっと熱に浮かされたような表情で。
 マリーは、楽しそうな表情をしていた。
 しばらくそのままの表情でいた2人だが、マリエルは顔を俯かせ、掠れた声で言った。
「いいの、かな……」
 ぎゅっと、手を握り締め不安の声を上げる。
「私が……そんな……」
「もちろんだよ」
 震える手に、手を乗せて。
 リントヴルムは優しい声で言った。
「付き合って欲しいんだ、マリエル」
「…………」
 マリエルは、すぐには応えない。
 じっと俯いていたが、不安と緊張した面持ちで伏せていた顔を上げると、願いを口にした。
「……リント……お願いがあるの」
「なに?」
「あのね……好きって……言っても良い?」
 マリエルの願いに、一瞬虚を突かれたような表情をしたリントヴルムは、静かに応える。
「うん。聞かせて欲しい」
 リントヴルムの言葉に勇気を貰い、マリエルは想いを口にした。
「好き……大好き。リント……大好き」
「僕も、大好きだよ。マリー」
 リントヴルムの言葉に、マリエルは強張っていた体から力が抜けていく。
 ほにゃりと、嬉しそうに笑顔を浮かべ、恥ずかしそうに頬を染める。
「嬉しい……大好き、リント」
 好きだと言えることが何よりも嬉しいのだというように、喜びを浮かべるマリエル。
 そしてベルロックを見詰め、ねだるように言った。
「ベルも、好きって、言っても良い?」
「……ああ」
 受け入れてくれたベルロックに、満面の笑顔でマリエルは言った。
「好き。大好き。ベルも、大好き」
 混じり気のない純粋な好意を向けられ、頬を染めるベルロックだった。
 そんな3人を見ていたマリーは、心地好さそうに言った。
「私も。マリエルも、ベルも、リントも好きですよ。だから、愛し合いましょう。愛して下さいね、旦那さま」
 ベルロックとリントヴルムに甘えるような声で言うと、その甘い声のまま、続ける。
「みんなでいっぱい、愛し合いましょう。でも、浮気はダメですよ。隠れてそんなことしたら、絶対に、許しませんから」
 笑顔のまま、言った。

 そしてお互いに、好きだと言い合いっこをしてから、その日はそれぞれの部屋に分かれることにした。
 リントヴルムがマリエルとマリーと分かれ部屋に戻ると、男性なので部屋に行けたベルロックが言った。

「許すのはあの二人だけだ。もし他に浮気したら、アンタを殺して俺も死ぬ」
 純粋混じり気なしの本気に、くすぐったさを感じながらリントヴルムは思う。
(……あれ? もしかしてベル君も結構ヤンデレなのでは……?)
 そう思うと、お似合いなのかな? とも思える、リントヴルムだった。

●思い出の場所に
「ステラ、あまり道草をしてはいけませんよ」
 あちらこちらを見て回る『ステラ・ノーチェイン』に、『タオ・リンファ』は苦笑しながら声を掛ける。
「わかってるぞ、マー」
 ステラは手を振って返すと、変わらずあっちを見たりこっちを見たり。
 指令で訪れた水都を物珍しそうに探索していた。
 リンファから離れないようにして探索しているステラに、迷子になることは無さそうだと安堵する。
 だから周囲の景色に意識を向ける余裕が出来た。
(だいぶ様変わりしているようですね)
 かつてよく訪れた場所とはいえ、すでに離れて十数年は経っている。
 想い出の景色とは変わっているのも道理というもの。
(どう変わったかは、気になる所ですが……これは指令なのですから、そちらを滞りなく片付けなければ)
 浄化師として己を律していると、ステラが走り寄って言った。
「マー、あそこ、なんだかおもしろそうだ」
 期待感いっぱいの眼差しで見つめるステラに、リンファは苦笑しながら返す。
「土産物屋さん、みたいですね」
「おー、そうだな、そうだなっ」
 覗いてみたそうなステラに、リンファは応える。
「覗いてみたいですか?」
「いいのか!?」
「指定された時間まで、まだありますし、それまで見て回りましょう」
「やったー!」
 リンファの言葉に、笑顔で土産物屋に走り出すステラ。
 同じように笑顔を浮かべ、追いかけるリンファだった。

 そして幾つかお店を覗いてみたあと、目的地に辿り着く。
 そこは水都で名を馳せる料理店。
 味良し、量多め。お値段もお手頃。
 多くのお客さんが、ひっきりなしにやって来る名店だ。

「ここが指令の場所ですね」
「おおきいな!」
「そうですね。……知っている店のはずなのですが……こんなに立派だったでしょうか?」
 かつては小さな食堂だった筈が、目の前の建物は御殿のような立派さだ。
 記憶を探っていると、元気の良い声で出迎えられる。
「教団の方! 来てくれて助かるヨ! お茶でも淹れるから上がってネ」
 お団子ヘアの同年代の女性に、リンファは懐かしさを覚えた。
「その喋り方に、その髪型……まさか」
「およ? ワタシを知ってる……ンー……?」
 お互い見詰め合い――
「ミンミン!!」
「リンファ!?」
 知己との再会に喜びの声を上げる。
「久しぶりだヨー!!! 元気だったカ!?」
 熱く抱きつかれ、リンファも抱擁を返す。
「久しぶりですね。ミンミンも元気そうで何よりです」
 再会を喜び合い、話をしたい所だったが、けれど状況が許さない。
「もっと話したいけど、今は緊急ネ。早速、手伝って欲しいヨ!」
 そう言うと、ミンミンはリンファとステラを引っ張り従業員室に。
「これに着替えて手伝って欲しいヨ!」
 それは清潔感と可愛らしさのある店の制服。
「どういうことなんでしょう?」
 事情を聞くと説明してくれる。
 何でも店主であるミンミンの父親が、お客からの無茶ぶりに応え、50人前を一気に作れる大鍋を連続して振るい腰を痛めてしまったとのこと。
「ええと、つまり私達に給仕をやってもらいたいと?」
「そういうことネ! リンファも、そっちの子のもあるから大丈夫ヨ!」
「せ、制服もあるんですか……本格的ですね……」
 勢いに押されるリンファの横で、ステラは興味を持ったのか、すでに着替えを始めていた。

 そしてお手伝い開始。

「マー! 3番と7番に!」
「はい! やーっ! お待たせしました!」
 料理というよりもアトラクション。
 そんな勢いでリンファとステラは手伝っていく。
 賑やかな配膳も、お店の売りなので、テキパキ派手に動く2人に、お客さんからも好評だった。

 日が暮れるまで働いて、終われば料理を振る舞われる。

「どんどん食べて欲しいネ! それと今日は泊まっていくネ!」

 ミンミンの好意をありがたく受けとり、ステラとリンファは一夜の宿を借りることにした。
 その日の夜、リンファは懐かしい過去を夢に見る。

「あ……お姉ちゃん、見て! あの子……」
「すごい! 私達とおなじぐらいに見えるのに」
 それはミンミンと、妹であるメイファとの想い出。
「はい! 特製肉まんネ!」
「わあ、おいしそう……あ、でももうお金が……」
「いいヨ! 今日はサービスネ!」
「えっ? くれるの? ありがとうっ!」
 リンファはミンミンに礼を言い、リンファと一緒に肉まんを仲良く食べる。
「また来ようね、お姉ちゃん」
「うん、今度はちゃーんと買ってあげよ!」

 それは懐かしき夢。
 今では遠き幻想だった。

 夢から醒めた次の日。
 リンファはミンミンと言葉を交わす。

「故郷に、行くのネ」
 リンファからメイファのことを聞いたミンミンは、気遣うように言った。
 これにリンファは穏やかな笑みを浮かべ返す。
「あそこが私の故郷ですから」
 そして再会に繋がるかもしれない提案をした。
「そうだ、よければいつか教団で料理を教えてみませんか? あちらではあまり普及していないので、そうしてもらえると私も嬉しいんです」
 笑顔で応えたくれたミンミンに、同じく笑顔で応えるリンファだった。

●父母の過去
 お家騒動に関して聞くためニホンに来ていた『ナツキ・ヤクト』は、『ルーノ・クロード』と共に斉藤一の元に訪れていた。
「美味しいですよ」
 神選組の詰所奥に案内された2人は水羊羹を一に勧められる。
「この水羊羹は、源隆斉殿と万斉殿が人に頼み持って来てくれたものです。私の元に、貴方たち2人が訪れたことを話したあと贈ってくれました。きっと、ナツキ殿に食べさせてあげたいと思われたのでしょう」
「……そう、なのかな」
 ナツキの言葉に一は応える。
「はい。おふたりとも立場がありますし、あれで不器用な方達ですから口には出されませんが、きっとそうです」
「……そっか」
 ナツキは水羊羹をじっと見つめていたが、味わうように食べていった。
 全てを食べ終わり、お茶を飲んで一息ついた所で、ナツキは一に尋ねた。
「色々、話を聞きたいんだ。母さんや父さんの事。それに八家の状況や、八狗頭家と斉藤家の事。他にも、なんでも良いんだ。母さんと父さんが出奔したあと、どうだったのかも知りたいし……」
 これに一は知る限りの全てを話してくれた。
「ナツキ殿。貴方の御母上と御父上は……そうですね、今の貴方達2人のようでした」
「それは、どういうことだろうか?」
 聞き返すルーノに一は応える。
「ナツキ殿の御母上は元気が好く、ご自身の気持ちに、正直に生きられる方でした。御父上は、静かで思慮深い方でした。雰囲気も、ルーノ殿に良く似られています」
 一言も聞き逃すまいと熱心に聞いているナツキに、一は続ける。
「おふたりは幼馴染でした。元々、源隆斉殿と万斉殿が深く交流されていましたから。八家当主を継ぐ可能性がある長子として、あまり同年代の他の子と話すことができなかったおふたりにとって、最も近しく、好い仲でした」
 そこまで言うと、当時を思い出しているのか僅かに眉を寄せ続けた。
「おふたりは好きあっておられたと思います。ですがその想いは叶えられる筈はありませんでした。八家間の婚姻により、特定の家が強くなり過ぎないよう、他家との婚姻は禁じられていましたから」
「だから、出奔したのかな……」
 ナツキの言葉に一は応える。
「いいえ。それよりも弟と家のことを考えてのことだと思います。おふたりとも弟が居られたのですが、私の眼から見ても、当主としての能力は明らかに高かったのです。それに、おふたりが当主につけば、一生飼い殺しの目に遭う。それを避けるために出奔された筈です」
「それで迷惑した人って、居ないのかな」
 ナツキは真摯に言った。
「もし居たなら、俺が出来ることなら何でもしたい。今の騒動で悲しい顔する人がいるならますます放っておけない。前に話した時、一がそうだったからさ」
「大丈夫ですよ、ナツキ殿」
 一は穏やかな表情で言った。
「確かに混乱はありました。ですが、だからこそ変化の兆しも生まれたのです。
 元々、今の制度は時代に合わなくなっていました。本来なら変えるべきでしたが、無理でした。
 ですがナツキ殿のご両親が出奔されたことで切っ掛けが生まれ、そして今、ナツキ殿達の助力で八家は変わろうとしている。
 それを源隆斉殿や万斉殿も、理解されているのです。
 だからこそ、出奔されたおふたりの行方探しを途中で止められましたから」
「探すの、止めたんだ……」
「はい。ですが、ずっと気にされていました。
 ナツキ殿。源隆斉殿も万斉殿も、口にはされませんでしたが、貴方のことを気にされていました。よければ、貴方の話を教えて貰えませんか?」
 これにナツキは、昔暮らしていた場所をヨハネの使徒に襲撃された過去を話す。
 自分が喰人でヨハネの使徒を引き寄せやすいと、当時は知らなかった為だとも話した。
「あの時みたいに、知らないから何もできなかったなんて言いたくない。何が起こってるのかちゃんと理解して、出来る事を考えたいんだ」
 ナツキの言葉に、ルーノは思う。
(孤児院の件は、ナツキのせいではないだろうに)
 全てを背負おうとするようなナツキの言葉をルーノは気に掛けるが、今は口を挟むべきではないと我慢して黙る。
 それに気付いた一は、苦笑するように目を細め言った。
「ナツキ殿。貴方が生まれ、今ここに来てくれている。それだけで、変われなかった八家が変わろうとしているのです。
 だから貴方は、貴方の思うままに、一番良いと思ったことをして下さい」
「……分かった。なら、俺が役に立てることがあったら何でも言ってくれ」
 ナツキは力強く言うと、母の形見である根付けに誓うように視線を向ける。
 それを見ていた一は言った。
「分かりました。それでしたら、源隆斉殿や万斉殿に会ってあげてください」
「会って、くれるかな……」
「大丈夫です。その時は、根付けの話をされると良いかもしれません。特に万斉殿は、ご子息に渡すつもりだった根付けを渡せず悔んでおられるようでしたから」
「……ああ。分かった」
 一の言葉に、力強く応えたナツキだった。

●4人と2人で、なかよしこよし
「シィラに触れるようになってるー!」
 満面の笑顔で『ラニ・シェルロワ』は、幽霊なシィラの頬をぷにぷにする。
「ほらほら、ラスも触ってみなさいってば。ぷにぷによ、ぷにぷに」
 シィラを背中から抱きしめながらぷにぷにするラニに『ラス・シェルレイ』は苦笑するように返す。
「ほどほどにな。シィラも、嫌だったら言うんだぞ」
「そんなことないわよ。ねー、シィラ」
「そうね」
 くすくすと楽しそうに笑いながら、ラニの頬をぷにぷにするシィラ。
 そんな3人の様子に、残りの3人組が笑みを浮かべる。
「仲が良いって好いわよね~」
「ああ、まったくだ。というわけで俺も――」
「アンタはダメでしょ!」
「おいおい。お前らこそ、ほどほどにな」
 お調子者なペトルに、突っ込みを入れるケイト。
 それを見て笑みを浮かべているグリージョ。
 近しい空気を纏いながら、皆で教団を歩いていた。
「調子はどう? 変な所は無い?」
 シィラにべったりとくっつきながらラニは尋ねる。
「大丈夫よ。むしろとっても調子が好いの」
 これにラニは笑顔で言った。
「好かった~。メフィストさん、ありがとー!」
 喜ぶラニに、シィラは神妙な顔になって返す。
「こんなことになるなんて、本当に驚いたわ……エフェメラ様から聞いた通り、凄いお方なのね」
「そうよね。メラじぃちゃん聞いたらすっ転びそうね!」
「メラじぃちゃんって……ひょっとして、会いに行ったことあるの?」
「ええ。私達のこと、孫みたいなものだって言ってくれたの。シィラのことも、とても大切に想ってくれてたわ」
「そうなの……会えたのね……ああ、それなら、私も会いに行かないと」
「それならセパルさんに後で話しておくよ。手紙とかなら、すぐにでも渡してくれると思うよ」
 嬉しそうに世話を焼くラス。
 仲の良い家族といった3人の様子に、ペトルとケイトは頬を緩める。
 そしてグリージョは、ラスを見て苦笑した。
「ラス。何でお前が気を張るんだ」
 仲良く歩きながらも、周囲に気を張っているラスに気付いたのだ。
 これにラスは不思議そうに尋ねる。
「? 何でって、別にオレは何も……」
 どうやら無自覚だったらしいラスは、自分の気持ちを整理する様に返す。
「室長のことは信頼してるし、多分上手くやってくれたんだろうなとは思うけど、やっぱり変なちょっかいかけられたら心配だからさ」
 ラスの言葉続けるように、ラニは3人組に言った。
「3人とも困ったことない? ヨセフ室長が何とかしてくれたから大丈夫だとは思うけど」
 ラニの言葉に、ケイトは返す。
「今でも思うんだけど、よく私達を受け入れたわね」
 しみじみというケイトに、ラニはキョトンとした顔で返した。
「だって勝手に暴れたりしないでしょ? 流石にあたしのおやつ取ったら怒るけど!」
 そう言うと、自分の気持ちを素直に口にする。
「あたしにとってシィラは幼馴染だもの。つまりシィラの仲間であるあんた達はあたしにとって大事な人!」
 これに楽しそうに笑みを浮かべる3人組。
「……え、何で笑うの?」
「それはもちろん、君がかわいいからさ、ラニちゃん」
「そうそう、かわいいわよね~。ってアンタは、どさくさまぎれに肩抱こうとしてんじゃないのペトル!」
 ケイトに軽くはたかれるペトル。
 それを横で、くすくす笑いながら見ているグリージョ。
 そんなグリージョに、ラ二は訊いた。
「ところで『ろくでもない場所なら掻っ攫う』って前言ってたけど、ホント?」
「ああ、今でも変わってないぜ」
「そうなんだ……でもここは、そんなとこじゃないわ。だから――」
「ああ、分かってるよ」
 仲の良い親戚の子供にするように、ぽんっとラニの頭に手を乗せながらグリージョは言った。
「心配しなくても良い。お前らが居たい場所なら、何もしないさ」
「そっか、ありがと。グリージョ」
「どういたしまして。ラニ」
 そうして6人は、教団を一緒に回っていく。
 その途中、少し離れた位置で、グリージョはラスに尋ねた。
「なぁ、ひとつ聞いても良いか?」
「良いけど、何を?」
「なに、シィラとお前さんの出会いについてな。話したくなければ、話さなくても良いぞ」
 これにラスは、当時を思い出すような間を空けて応えた。
「オレはシィラに拾ってもらったというか……本当は、貴族の出身なんだ」
 グリージョは静かに、ラスの言葉を聞き続ける。
「喰人ってわかってからは、ずっと訓練漬けで。何度も殺されかけて……死にたくなくて、逃げた。仲間もいたけど、多分みんな……」
「そっか」
「うわっ!?」
 話を聞いたグリージョは、ラスの頭をわしゃわしゃする。
「ある意味、俺達と同じだな。だったら、俺達は兄弟みたいなもんだ。何かあったら、気軽に話せよ、兄弟」
 拳を向けるグリージョに――
「ああ」
 こつりと拳を当てるラスだった。

●貴女の瞳に両親を想う
「39度6分……酷い熱」
 長椅子に横たわる『シリウス・セイアッド』から体温計を受け取り確認した『リチェルカーレ・リモージュ』は、心配そうに手を伸ばす。
「今日は、ゆっくり休みましょう?」
 熱を帯びたシリウスの額に手を置いて、心配そうに眉を下げ言った。
 これにシリウスは、力のない声で返す。
「平気だ」
 そう言うと起き上がろうとするシリウスを、あやすようにリチェルカーレは止めた。
「無理しちゃダメよ。こんなに熱があるんだもの」
「…………」
 無言で、渋々というように従うシリウスに、リチェルカーレは小さく息をついた。

 今2人が居るのは知己の研究室だ。
 なぜ居るのかと言えば、呼吸がおかしいシリウスをリチェルカーレが見つけたからだ。
 医務室に行こうというリチェルカーレの言葉を断固拒否するシリウスに、それならばと引っ張られ、この場所に来て寝かしつけられている。

(……たいしたことないのに)
 どこか子供のように思うシリウスだが、そんなわけはない。
 長椅子に体を横たえていると、誤魔化していた眩暈が悪化した気さえしている。
 とてもではないが、1人にしておけるわけはない。
(熱の原因は、精神的なものかしら)
 苦しそうなシリウスに、リチェルカーレは思う。
 最近続いた、使徒との戦闘や守護天使の試練。
 シリウスは平気だと言うけれど、リチェルカーレは、そんなことは無いと感じていた。
 だから少しでもシリウスの苦しみが軽くなって欲しくて、リチェルカーレは言った。
「……ショーンさんが、ちゃんとカウンセリング受けなさいって。自分で思う以上に、心が傷ついているから」
「……検査も投薬も一生分やった」
 カウンセリングと聞いて、露骨に目を逸らすシリウス。
「心配されているのはわかるが、二度と医療棟に近づきたくない」
(シリウス……)
 リチェルカーレはシリウスの言葉に、彼の子供の頃を想う。
 それはきっと、医療棟に入ることもできないほど、辛い過去だったのだろう。
 だからそれ以上を無理に聞かず、違う話題を口にした。
「ヨセフ室長がね。シリウスの書類、いろいろ抜けているから埋めておきなさいって」
「……書類……?」
 リチェルカーレの言葉に、のろのろとシリウスは反応する。
「親の、名前や……故郷……必要ない……言われ――」
 途切れ途切れに、過去の辛い仕打ちを思い出しながら応えていく。
 そんな彼に、リチェルカーレは語り掛けるように言った。
「なくなっては、いないでしょう?」
 シリウスを見詰め、続ける。
「あなたがちゃんと覚えてる」
 リチェルカーレの言葉にシリウスは、ゆっくりと瞬く。
 2人は見詰め合い、リチェルカーレは願いを告げた。
「わたし、知りたい。シリウスのご両親のこと」
 見詰め合うリチェルカーレの、蒼と翠。二色の眼差しに、記憶の中の両親が映る。
「覚えていてもいいのだろうか」
 言葉にするたび、早く忘れろと突きつけられた、子供の頃の自分。
 過去を思い出しながら、祈るようにシリウスは言った。
 熱で浮かされたシリウスの視線を受け止め、リチェルカーレは頷く。
 それは許しであるかのように、シリウスの心を軽くしてくれた。
 だから、応えることが出来る。
「父さ、ん……は……リゲル――」
 覚えている。父のこと。そして母のことを。
「母さん、は……マリア……」
 忘れられる筈もない。
 失った過去。戻らない平穏。
 けれどそれでも、確かにあったのだ。
 父も、母も。
 家族が共にあり、幸せだった日々が。
 忘れる事など、出来る筈もない。
 だからこそ、シリウスは苦しむのだ。
(父さん……母さん……)
 両親と共に過ごした懐かしき日々。
 ヨハネの使徒に蹂躙され、地図から消されてしまった故郷。
(いつか帰ることはできるのだろうか)
 望郷がシリウスの胸を焦がす。
 けれど悲しみだけに落ちていくことは無い。
 それはリチェルカーレが傍に居てくれるから。
(リチェ)
 焦がれるような、そして大切だからこそ、恐れるような気持ちを抱き、シリウスは静かに眠りに落ちていった。
「……シリウス?」
 ささやくような声で、リチェルカーレは呼び掛ける。
 応えは返って来ることは無く。けれど安らかな寝息の音に、安堵するように息をつく。
 慈しむような想いと共に、求める気持ちと祈りを込めて、リチェルカーレはシリウスの額に唇を落とした。
「大丈夫よ、シリウス。みんなも――わたしも、貴方の傍に居るから」
 愛おしそうに頭を撫で、リチェルカーレは小さな声で子守歌を奏でる。
(きっと、お母さんがしたように)
 今このひとときだけは、好き夢を。
 シリウスを想い、歌い続けるリチェルカーレだった。

●研究室を、お片付け
 シャルルの研究室に皆で訪れることになった切っ掛けは『ニコラ・トロワ』の、こんな一言からだった。
「あの救出の時以来お目に掛かっていないが、シャルル先生はお元気だろうか?」
 これに『ヴィオラ・ペール』が返す。
「そういえば、伯父様の様子を見に行くのがすっかり遅くなってしまいました」
 研究者としては一流だが、生活力が反比例している伯父に、胸騒ぎを覚えるヴィオラ。
 それを強めるように、ニコラは続けて言った。
「何やら魔窟と化してるとか聞いた気がするのだが」
「伯父様に会いに行きましょう」
 即決のヴィオラだった。

 研究室へと向かう道すがら『ショーン・ハイド』と『レオノル・ペリエ』と出会い、シャルルの様子を見に行くことを告げると、2人も連いて来ることになった。
 そして4人で魔術学院へと向かい、3階の一般教室に併設されている研究室の扉を開けた。
 研究室は、完全に魔窟だった。

「…………」
 あまりの惨状に、思わず無言で額を抑えるヴィオラ。
 言葉もない、といった様子である。
 同じように驚愕しているのはショーン。
「ど、ドクターから話は聞いていたが……想像以上の悲惨さだな……」
 魔窟と化した研究室にげんなりする。
 そんな一般人な2人に対し、研究者な2人は平然としていた。
「なんだ、大したことはないでは無いではないか。どうやら話が大げさに伝わっているようだな」
 研究室の惨状を見渡した上で、こともなげに言うニコラ。
「……」
「……」
 言葉を返せず、思わず無言になるヴィオラとショーン。
 そんな2人の前で、レオノルも平然とした様子で部屋を見渡す。
「シャルルせんせーい?」
 論文や資料や研究資材で雑然としている中、来客用のソファにレオノルが視線を向ける。
 そこには、無数の紙束に埋もれて仮眠しているシャルルの姿が。
「あ、いたいた」
 慣れているのか、器用に論文などを避け、シャルルを起こしに行く。
 傍から見ると、紙束で埋もれたシャルルを救助しに行っているようにしか見えない。
 のではあるが、ニコラは平然と言った。
「寝る間も惜しんで研究されているようだな」
「他にも気にする所はあると思うんですけど」
 ため息をつくようにヴィオラは応える。
「もう少し整理整頓をされた方が良いと思います」
「そうか? 元居た研究室に比べれば、どうということはあるまい」
「ニコラさん……確かに元の研究所よりはまだマシかもですが、これも十分惨事だと――」
 話の途中で、ニコラは散らばっていた論文のひとつを目に留め、そちらに意識を集中している。
「……聞いてませんね。学者な皆様はほっといて片付けましょうか」
 ため息ひとつ。
 ヴィオラは慣れてるのか、テキパキと片付けようとする。
「片付けるなら、手伝おう」
「ありがとうございます、ショーンさん」
 ショーンの提案にヴィオラは笑顔で応え、2人で片付けを始める。
「資料も多いようだが、置く場所を聞いた方が良いだろうか?」
「いえ、それよりも邪魔にならないよう、纏めることから始めましょう」
 ヴィオラは今までの経験から導かれた最適解を口にする。
「中身を確認しても私にはよく判りませんから、何となく関連してそうな書類を同じ箱の中に入れてしまいましょう」
 畳まれていた紙の箱を見つけたヴィオラは、ばっさりと書類をまとめ次々入れていく。
「きっちり片付けたってどうせ無駄ですもの。最低限の生活スペースが作れればいいです、ふふっ」
 これまでの苦労が伝わってくるような言葉だった。
「……なるほど」
 何となく普段の様子を理解するショーン。
(この状況だと、足の踏み場にも困るだろうに……それを気にしないドクターの耐性は一体どうなってるんだ……?)
 そんなことを思っている間に、研究者な3人は、いつのまにか研究談議に花を咲かせていた。
「先生、相変わらず面白そうな研究してらっしゃいますね」
 シャルルの最近の研究について話が弾み、その勢いのまま、レオノルは自分達が関わった研究を話題にする。
「あ、そうそう先生! こないだマーデナキクスに行って自動車の開発に携わってきたんです!」
「マーデナキクスに行ったのかい?」
 興味深げに訊いてくるシャルルに、レオノルは続ける。
「その後にインスピレーションを得て熱効率が可能な限り最大になる内燃機関を――」
 レオノルの話を聞いて、シャルルは面白そうに返していく。
「なるほど。つまり効率的な内燃機関を使った移動機械を作ろうってことだね。それが自動車というわけだ」
 これにニコラが続ける。
「シャルル先生」
 ぐいっと積極的に、研究者の熱を込め意見を求める。
「そうですレオノルも言ってますが、先日自動車という物が実用化されまして。その話を先生に聞いて頂きたかったのです!」
「それは面白そうだね」
 子供のように目を輝かせるシャルルにニコラは続ける。
「まだ結構揺れますし、もう少し安定させる為にはどうしたらいいかと。特に医療用車両は揺れない方が患者の為には……!」
 熱弁するニコラにシャルルは応えていく。
「サスペンションや足回りを専用に作っていく必要があるだろうね。医療用車両なら、搭載しないといけない機材の重さも相当な物になるだろうから、強度を考えて材質は――」
「先生、この論文に書かれている合金が使えませんか?」
「それを使うなら、構造はこの論文に書かれている――」
 議論は盛り上がり、研究者な3人の話し合いは止まらない。
 そんな3人に苦笑しながら、ヴィオラはショーンと一緒に研究室の片付けを続けていく。
「これは、こっちにまとめておいて良いだろうか?」
「はい、お願いします」
 テキパキと応え手際よく片付けるヴィオラに、ショーンは感心したように言った。
「さすがに慣れているな。いつも大変だっただろう」
「そうでもないですよ。手助けして貰っていましたから」
「手助け? ああ、そういえば、以前ドクターからフランシーヌとクロヴィスという名前を聞いたが……?」
「フランシーヌさんとクロヴィスさんですか?」
 家族のことを言うような、気安く温かな雰囲気でヴィオラは応える。
「ニコラさんのお姉さんとお兄さんですね。あのお2人がいれば伯父様の面倒を見てくれると……」
「ああ、彼等はニコラのきょうだいなのか……」
 ヴィオラとショーンが話をしていると、それが聞こえていたニコラがシャルルに訊いた。
「そう言えば、あの2人はどうしたのですか? まだ元の家に?」
「ああ、留守番して貰っているよ。こちらに呼び寄せることも考えたけれど、部屋とかを用意して貰わないといけないからね」
 これを聞いたヴィオラが提案する。
「呼んで貰えるように教団に話してみましょうか」
 同意するように続けるニコラ。
「私も久しぶりにフランとクロに会いたいです」
「そうだね。私も会いたいよ」
 3人の会話を聞いていたショーンは、静かに思う。
(家族、か……)
 思い浮かぶのは、自分の家族。
(俺の父親……俺はあの時あいつを刺しただけだ。死んだかどうかは確認してない。もし生きていたら……?)
 ざわめく思いに、自分に言い聞かせる。
(……そんな杞憂を考えてもしょうがないか。2人共、俺が殺したんだ。俺が……)
 周囲に悟られぬよう顔には出さず、黙々と片付けを続けるショーンだった。
 そうして研究室が片付いていく中で、レオノルは気掛かりなことについて、シャルルと話をする。
「所で、先日先生をお迎えした時に会った人形遣いってやつ、死体を応用してさも自分の分身のように動かしているんです。何か対策等心当たり、ありませんかね……?」
「死体を応用して? それは……」
「何か知っておられるんですか?」
 レオノルの問い掛けにシャルルは応える。
「マドールチェの運用案に、それに近い内容の物があったんだ。大元は、教団が出来るよりも前に書かれた文献が元らしい」
「教団が出来る前? それって、魔術が今のように体系化される前の時代ですよね?」
「ああ。大元の文献だと、魂と魂を繋げ精神的な情報網、インナーネットワークと言うらしいけれど、それを作ろうとしたみたいなんだ。それ自体は失敗したらしいんだけれど、そこから発想を得て、魂の無い複数の肉体を、ひとつの魂で操れるようにしようという計画があったんだ。私は反対だったから、オッペンハイマーに情報を伝え、計画は消失したらしい」
「それが、死体を応用する技術に繋がっているということでしょうか?」
「あくまでも、仮定だけれどね。そしてすまない。仮定が当たっていたとしても、具体的な対策は、少なくとも今すぐは思いつかないな」
 すまなそうに言うシャルルに、レオノルは慌てて返した。
「いえ、気にしないで下さい」
 そう言うと、もう一つの気掛かりなことについて話をした。
「魔術学園で聞いたのですが、ベリアル化した人間を新しい人間種族にするにはマドールチェの技術が応用できると聞いたんですが……ご協力お願いできますでしょうか?」
「そんなことが……いや待て、マドールチェの技術は、魔術的な部分は『転生』に近い。魂がべリアル内に残っているなら、べリアルの肉体をマドールチェの技術を応用して変換し、別の人間種族と規定できる構造体に作り変えてしまえば……」
 少し考え込んだ後、シャルルは承諾した。
「私が手伝える事なら、何でもしようと思う。ただ、私だけの力では足らない。だから、オッペンハイマーに協力して貰えるように手紙を出そうと思う」
「オッペンハイマーと連絡が取れるのですか?」
 レオノルの問い掛けにシャルルは応えた。
「彼とは手紙でやりとりしていたんだ。ここしばらくは私が送るばかりで、返信は無かったけれどね。でも、手紙を送る意味はあると思う。彼に手紙を送るルートは複数あるから、その全てを使って連絡を取ってみるよ」
「ありがとうございます、先生」
 礼を言うレオノルに、笑顔で返すシャルルだった。

 その後、ヨセフの協力の元、オッペンハイマーへの手紙が複数ルートで出されることになった。
 同時に、シャルルの助手という名目で、ニコラのきょうだいであるフランシーヌとクロヴィスが教団に来れるよう、書類仕事に勤しむヨセフだった。

 こうして、それぞれ浄化師達は絆を巡る。
 その先が何処に向かうか分からずとも、幸多かれと、思わずにはいられなかった。


縁と絆を深めて・その5
(執筆:春夏秋冬 GM)



*** 活躍者 ***


該当者なし




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2020/04/23-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。