~ プロローグ ~ |
広大なノルウェンデイ領内。その果てにある、キグナート山脈。 |
~ 解説 ~ |
【目的】 |

~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは。土斑猫です。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【Bルート】 ・夜明け団戦 魔術真名詠唱後、戦闘開始 卵を背に、私達は攻撃を担い、極力リーダー格を狙います ・ベリアル戦 私達はスケール4に対処 黒炎を解放し全力を尽くします 相方が攻撃する際はもう一方が警戒し、互いに他方面からの攻撃に反応出来るよう動きます カレナさんの開闢の獣牙がヒュドラを穿ったら、連携し魂洗いで頭を落としにかかります また、剛袈紅蓮撃でヒュドラの動きを阻害し、そこに飛び込み獣牙烈爪突で斬りつけます ポイゾランを逆手にとり、化蛇の水に呪血を乗せ、ベルトルドさんが動きを封じたところにスケール3群目がけて水流を放ちましょう 水流は仲間や卵を避け、発動時は仲間に伝え射線の確保を 叛逆の羽風はステラに付与 |
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【魔】目的 竜の卵の死守 >終焉の夜明け団 攻撃重視で前へ 指揮を執る者を見つけたら近距離なら喰人遠距離ならヨナで積極的に狙い指揮を崩す 卵の守り優先で逃げる者は無理に深追いしない 逃げ帰るなら今のうちですよ でなければ…(構える ベリアルと交渉など 出来る筈がありません 貴女(コッペリア)はご自分が何をしたのかお忘れではないですか? ただ面白半分に人同士を争わせて嗤いたいだけなのでしょう? どうぞお構いなく! >ヒュドラ 他の二組と共に迎え撃ち 合図と共に喰人の黒炎解放&特殊能力発動しリンファとカレナとの連携に努める ヨナは近接職が1匹ずつに集中できるよう他を牽制する攻撃を放つ またFN17で魔力を高めFN11で頭部切断狙う |
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あの古龍の赤ちゃんが… 今度こそ 龍がひとに示してくれた想いに報いたい せめてお母さんの代わりに この子を守るわ 考えが違う相手には何をしてもいい それは 龍や琥珀姫様の家族を殺した人と同じ わたしたちは 殺したいんじゃないの 守りたいのよ 魔術真名詠唱 禹歩七星と浄化結界をかけ たまごの前へ 第1戦 状態異常回復をしながらたまご防衛たまご防衛 体力が半分を切った仲間に回復 防衛線を抜け たまごに接近する敵には九字で牽制 第2戦 禹歩七星 浄化結界をかけ直し 回復はNPCだけで追いつかない時だけ BS回復 敵攻撃には雷龍で対応 たまごへ近づけないよう 魔力感知使用 仲間に危険を周知 セルシアちゃんに防御強化を 敵撤退まで守り切る事 誰も倒れない事を目標 |
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1戦目 通常攻撃で攻撃 リーダー格を見つけたらそいつから叩く ベリアルと協力しない 「確かにとんでもない奴だけど…僕らの手で何とかするよ」 奴は過去の非道な教団その物だ アレには酷い目にあってるからね…僕達で打ち勝たなきゃダメなんだ 2戦目 スケール3、主にバンイップ型の相手 怒槌と通常攻撃でぶっ飛ばす 溜め技使いそうなら一旦離れる…けど、チュパカプラだっけ?あれ邪魔してきそうだよね 死角から、か…後ろとか足元へ攻撃、かな? スケール5 向かって来たのが双子のどっちかだったら没終する 壊れたらめっけもん程度 セルシアちゃんへ 羽風での強化、僕だけ頼むよー! 古代龍の最後の卵…か 龍の子生まれたら竜の渓谷に連れて行けばいいのかな? |
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■第一戦闘 卵の守り重視 卵に近付く敵を攻撃、敵多数なら禁符の陣で足止め ■第二戦闘 交戦中は互いの死角をカバーし合い不意打ちを防ぐ コッペリアとスケール5が卵や味方へ向かうなら、進路を塞ぎ最優先で妨害 ルーノは状態異常を四神浄光で解除、NPCで足りなければ天恩天賜 回復が追い付かない程劣勢なら禁符の陣で立て直し コッペリア妨害時は禹歩七星の上、敵の進路妨害 ナツキは1Rから黒炎解放 チュパカブラへスキルで攻撃 コッペリアは卵や仲間の防護の為に進路妨害と防戦を意識 スケール5はルーノと連携し反撃を挟む 叛逆の羽風後ルーノがアルメナに正面から攻撃、アルテラの盾防御を誘う 防御直後の隙に別方向からナツキが魔喰器特殊能力で攻撃 |
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生まれてくる命を第三者の思惑で勝手に扱う訳はいきません なにも負う事無く、ただ元気に生まれてくればいいと思います あおい: 終焉の夜明け団 誘囮糸で敵の集中をかき乱しながら闘う。 人が多いので、遠くからの敵の攻撃にも注意 ベリアル(ヒュドラ) 不用意に味方を弱体化しないように、自分の攻撃は スキルで敵を拘束したり・視線をそらせるなど血を流さない方法で攻撃 合図がきたら射線から距離を取る |
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対人戦 JM8と通常攻撃 とりあえず突っ込んでかき乱す 「…その間にリーダー格を倒せ」 …確かに、報告書を読む限り害悪と言って差し支えないロクデナシの様だがお前ら手は借りぬ 「ヒトの事はヒトでどうにかする」 対ベリアル スケール3の相手 対応優先はチュパカプラ>バンイップ JM8で先制、獣牙烈爪突で出血付与 バンイップ型が溜め技使う兆候を見たら チュパカプラ型の位置に注意しつつ一旦離れる 「愚痴ってないで働け、ボケ」 何処も彼処も古代龍の卵が欲しいんだからこうなる事は当たり前だろ 不当な扱いをさせない為に来たのだから セルシアへ 特殊スキルでの強化は私と相棒、両者頼む 「強化されてる内に、倒す…そしたら弱体化なぞ関係ない」 |
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~ リザルトノベル ~ |
冷たく、透麗な大気が満ちる。 その揺り篭に抱かれ、かの者は眠る。 委ねる事すら叶わなかった、母の温もり。 今は遠き、時の果て。 ただそれだけを、夢に見て。 ◆ 「あの古龍の……『アジ・ダハーカ』の、赤ちゃん……」 そそり立つ岩壁に、半ばまで埋まった玉虫色の卵。虹に鼓動するそれを、『リチェルカーレ・リモージュ』と『シリウス・セイアッド』は見上げる。 二人が想起するは、かの巨影。子を奪われ、悲しみと怒りと憎悪の果てに、滅びの権化となった古龍の女王。 流れ続ける深紅の涙は目に焼き付き、響き渡る慟哭は今となりても鼓膜を揺らす。 最期の最期まで、人を拒み、死滅を望み続けた魂。 神が手により救済されはしたものの、傷も罪過も、消える筈などありはせず。 だから、せめて。 そして、もう一つ。 人を友と呼び、救いを願った古龍の息子。かつて裏切ってしまった、その心。 繰り返す事は、許されない。 「今度こそ、龍(貴方)が人に示してくれた想いに報いたい……」 遠い空を望み、リチェルカーレは決意を告げる。 「守るわ。せめて、『貴女達』の代わりに……」 届くのかすら、分からないけれど。 卵が脈打つ。悠久に続く種の記憶。最後の一綴りを、内に宿し。 「千年か……。争い絶えなかった混乱の時代を、良く乗り越えたものだ」 「はい……」 見つめる『ベルトルド・レーヴェ』の声に頷き、『ヨナ・ミューエ』もまた。 「かの龍が遺した最後の命。私の目が黒いうちに、横暴はさせません。己の無力さを自覚させられる様な、あんな思いは、もう……」 願いを形に。握り締めた手が、微かに汗ばむ。 「古龍の最後の卵……か。無事に生まれたら、竜の渓谷に連れて行けばいいのかな……?」 「ごめんね……。お母さんに、会わせてあげられなくて……」 卵に語りかける『カグヤ・ミツルギ』と『ヴォルフラム・マカミ』。彼女達の背を見つめ、『クォンタム・クワトロシリカ』と『鈴理・あおい』は語る。 「……彼らは、先の戦いに参したのだったな」 「はい。元は人の愚行が招いた、惨劇……。かの戦いも犠牲は多く、過酷なものだったそうで……」 腕を組み、卵を見上げるクォンタム。 「それでも、また同じ道をなぞるか。何とも、人と言う奴は……」 「それを阻むのも、同じ人であるべきでしょう」 同じ様に見上げ、あおいは言う。 「生まれてくる命を、第三者の思惑で勝手に扱う訳はいきません。何も負う事無く、ただ元気に生まれて来ればばいいと思います」 全ては、かつての過ち。その贖罪。 吹き通る風の中、紫の髪を揺らして少女は見つめる。 氷精の世界。ただ一人、眠り続けるかの者を。 「マー」 囁く様に、『ステラ・ノーチェイン』は言う。 「何ですか? ステラ」 「一人、なのか? あいつも、ずっと。ひとりだったのか?」 その問いに、『タオ・リンファ』は彼女を見る。 自分と出会う前。決して優しくない世界を、たった一人で生きていた彼女。孤独の寂しさも。痛みも。虚しさも。きっと、その小さな身体は刻み込んだまま。 なればこそ、嘘を唄うは彼女の生に対する侮蔑。タオは、答える。 「はい。この子の母も、兄も、もういません。そして、古龍と言う種でさえも、もうこの子で最後です……」 「そうか……」 呟いて、目を伏せるステラ。その心を憂い、タオが頭を撫でようとした、その時。 「なら!」 大きな声と共に、顔が上がる。 「オレが、ともだちになる!」 輝く青い瞳。まっすぐに、見つめる。 「オレがアイツの友達になって、ひとりぼっちじゃなくするゾ!」 「ステラ……」 「マーが、オレにしてくれたみたいに!」 響く声。皆が、振り返る。 「だから! 早くでてこい! でてきて、一緒に!」 届ける想い。種も。時も。刻み込まれた、咎傷さえも。全て、全て。跳び超えて。 「ともだちに、なろう!」 遠い霊峰。凛々と木霊する、無邪気な願い。強ばった皆の心が、溶けていく。 そう。 今を。 未来を。 途切れた絆を。 紡ぎ癒すは、貴女達。 それならば。 わたし達は、その道を。 仰ぐ空に、祈る。 言い訳はしない。 許しも、乞わない。 全ての罪は、受け入れる。 だから。 だから。 せめて、この子達を。 明日への、希望を。 守って、欲しい。 ステラの声が、遠く消える。 想いを繋ぐ、文鳩の様に。 ◆ 「!」 耳をピクリと動かした『ナツキ・ヤクト』が、前に広がる森を見やる。 「……来たか?」 「ああ」 相方の『ルーノ・クロード』の問いに頷き、ホープ・レーベンを抜く。 彼らの動きに気づいた皆も、ゆっくりと身構える。 見据える、森の奥。落ち葉や枯れ枝を踏む音。近づいてくる、大勢の気配。 「真正面からかい? 芸がないねぇ。隠れて不意打ち狙うとか、すればいいのに」 「奴らとて、阿呆ではない。無駄な労力と悟っているのだろう。計画が狂った時点でな」 座っていた岩から飛び降りた『メルキオス・ディーツ』。ヘラヘラ笑う彼に答えながら、『イザーク・デューラー』が刃を構える。 「どの道、お馬鹿な事に変わりはないけどねぇ」 嘲笑うメルキオスの前で、森から現れる人影。 『終焉の夜明け団』。リーダーらしき男が、忌々しげに舌打ちをする。 「ヨセフの犬共が……。やはり、嗅ぎつけていたか……」 「鼻が利くのは、何もお前達の専売特許じゃない」 対峙するルーノが、皮肉げに笑む。 「ほざけ……」 リーダーの言葉に習う様に、ゾロゾロと現れる信者達。 「随分と、出てきたね」 「50人くらい、でしょうか……?」 「あれだけの人数でないと、ベリアルには対処出来ないという判断だろう」 「あまり、愉快な話ではないな」 各々が魔術真名の詠唱を終え、前に出る。 「皆……」 「気をつけてね」 卵の守りにつくリチェルカーレとカグヤが、声がける。禹歩七星と浄化結界を纏い、頷く皆。 「あくまで本命は、ベリアルの方だ」 「ちゃちゃっと、終わらせちゃうに限るね」 ある程度近づいた所で、立ち止まる双方。先頭に立つリーダーの男を睨み、ヨナが告げる。 「逃げ帰るなら今のうちですよ。でなければ……」 魔力光が灯る、黄昏の魔導書。構える彼女を、侮蔑の視線が返す。 冷淡な、叫びが響く。 「殺れ!!」 指示と共に、前列の信者達が一斉に火弾を放つ。雨の様に降り注ぐ火弾を掻い潜り、疾走する浄化師達。応じる様に、残りの信者達が刃を抜いて襲いかかる。 「しっかし、こういう大挙で来るのマジ勘弁だよね」 「愚痴ってないで働け、ボケ」 「いやん、怒られたー」 戯るメルキオスを叱りつけ、クォンタムは敵陣に向かって突っ込む。 「何処も彼処も、古龍の卵が欲しいんだから。こうなる事は、当たり前だろ」 ソードバニッシュで眼前の敵を薙ぎ倒して、呟く。 「不当な扱いをさせない為に、来たのだから」 冷静な心の中で滾る、熱い意思。 「……この間に、リーダー格を倒せ」 振り抜いた断罪が、また一人敵を挫いた。 「出来るだけ仲間を減らすな! 下手に消耗すれば、ベリアルに対抗出来なくなるぞ!」 「個々の技能で劣ろうが、数はこちらが上だ! 数人がかりで一人、仕留めろ!」 周囲の信者達に指示を飛ばす二人。見れば、他の信者達とは服装も装備も違う。斬りかかってきた信者を拳撃で崩したベルトルドが、近くで戦っていたシリウスに声をかける。 「おい」 「ああ」 言いたい事を察し、頷く。 「あの二人が指示系統……。リーダーと、副リーダーでしょう」 「片方はさっき偉そうにしてたし。間違い、なさそうだね」 駆け寄ってきたタオとヴォルフラムも、同意する。 「なら……」 「手筈通りに」 真の脅威は、夜明け団ではない。何処かで戦況を伺っているであろう、ベリアル達。それと相対する前に疲弊する事が得策でないのは、浄化師とて同じ事。 故に、最小の浪費で収める為に講じていた方針。 ――優先して頭を潰し、信者達の戦意を喪失させる――。 振り向いたシリウスが、後衛のルーノに合図を送る。 頷いたルーノが、禁符の陣をバラ撒く。攻めかかろうとした信者達が縛られると同時に、呼びかける。 「頼む!」 届いた号令。皆が、頷く。 「了解です!」 「まかせてもらおう!」 浄化師達の動きが、変わる。 「さあ、行くぜ!」 愛刀、ホープ・レーベンを振りかぶり、ナツキが吠える。 「怪我したくない奴は下がれ! そうでない奴は、遠慮なくぶっ倒す!」 猛りのままに、疾走。なぎ払う大剣が、悲鳴を上げる信者達を数人まとめて叩き伏せた。 「お願い! マヤ!」 白金の意思と共に、あおいとマヤが踊る。 誘囮糸。 綺羅々と輝く白糸と人形の舞いが、信者達の意識を酔い惑わす。 ふらつきながらも炎弾を放とうとする彼らの中に舞い降りる、大翼の影。 「悪いが、『あの者』は我らが始祖の系譜を継ぐべき存在。お前達の玩具にする訳には、いかん」 不敵に笑む、イザーク。龍血の帝(みかど)が、軽やかに翔ぶ。 「大人しく、帰ってもらおう」 猛スピードでうねる、氷剣(ライム・ブルーム)。ただでさえ曖昧な正気が、攪乱される。訳も分からず暴発した炎弾を味方同士で食らい合い、信者達はバタバタと倒れ伏した。 「くそ! ひょろひょろと!」 「逃げ回らずに、正々堂々と剣を受けたらどうだ!?」 「そう言われてもね~。これが僕のスタイルだからね~」 喚く信者達の間を、ヘラヘラ笑いながらすり抜けて行くメルキオス。捉えどころのない動きに苛立った一人が怒鳴る。 「ええい、面倒だ! 取り囲んで、四方から串刺しにしろ!」 「分かった!」 取り囲まれたメルキオス、『あらら』と目を丸くする。 「死ね!」 振り下ろされる刃。閃く閃光。呻きを上げてバタバタと倒れる、信者達。 「まだまだ。詰めが甘いよ~」 尽くスイッチヒッターで打ち返したメルキオスが、またヘラリと笑ってそう言った。 「お、おのれ……」 見る見る内に崩されていく布陣に、歯噛みをする副リーダー。 「おい!」 かけられた声に我に帰ると、眼前に迫る蒼刃。咄嗟に長剣を抜いて、受け止める。 鍔迫り合う刃の向こう。冷淡に見つめる緑の瞳。 「犬が……!」 「それはお前達も、同じだろう?」 淡々と返すシリウス。叫ぶ様に、問いかける。 「何故、アレイスター様に抗う!? 神が憎くはないのか!? このまま、神の暴虐に委ねるつもりか!?」 「そんなつもりは、ない」 「ならば、何故!?」 「お前達の目指す世界は、弱者を踏み台にして強者だけが栄える世界だ」 激しい音と共に、互いの剣が弾かれる。飛びずさり、距離を取る二人。 シリウスは、言う。 「神とアレイスターが、すげ変わっただけ」 副リーダーの左手。展開する魔方陣。包む、炎。 「今と、何が違う?」 「統べるのは、人だ!」 怒号を発し、炎の手で掴みかかる。 「人が人を律し、人が作った法に人が従う! 完璧な世界だ! 何が、間違っている!?」 「間違ってはいない。言葉、だけは」 躱し、跳ね上げるアステリオス。打たれた手から、長剣が飛ぶ。 「だが、それを委ねられるべきは、我欲に溺れない信念と絶対に偏らない正当性を持つ者だけ。そして……」 揺らぐ副リーダーを追撃。繰り出した蹴りが、さらに相手を崩す。 「人間は、まだその域に至れない。例え、アレイスターであっても」 「馬鹿な事を……」 「だが、事実だ」 背後から響く、声。ギクリと振り返った先。滑り込んで来る、黒い影。 「それから目を背け続ける限り……」 脇腹に叩き込まれる、重い拳。メキメキと軋む肋骨を貫き、衝撃が抜ける。 「お前達の望郷は、いずれ崩れる砂礫の城に過ぎない」 意識を失い、倒れる副リーダー。彼を見下ろし、ベルトルドは静かに告げた。 「人は、この世で最も智と心に富んだ存在だ! それが世を統べるべきなのは、当然だろう!」 「その傲慢が、今の歪みを生んだのでは?」 「世界が成熟する為には、必要な痛みだ!」 激しく打ち合う刃。距離を取るタオに向かって、リーダーの男が氷弾を放つ。 「犠牲のない社会など、有り得はしない!」 氷弾を打ち払い、タオが返す。 「犠牲になって良い存在など、ありはしません」 「生温い理想を抜かすな! 愚物が!」 続けて投げつけようとした短剣を、薙いだ大斧が落とす。 「でもね、その理想を追わなくなったら、人間の存在価値なんてなくなるよ」 連続で降り注ぐ氷弾と短剣を打ち弾きながら、振りかぶるヴォルフラム。 「確かに愚かかもしれないけど、納得する程には枯れてないからね」 振り下ろす斧。炸裂する没終。受けた長剣が、微塵と散る。 「おのれぇ!」 怒りの声と共に、魔方陣を展開しようとしたその時。 「お? おこったのか?」 「え?」 頭の上から降ってきた声。見上げた先に、小さい影。と同時に降ってくる鉄塊。 「でもなー! おこってんのは、オレもだゾ!」 上向いた顔面。めり込む、鎚。 「赤ちゃんいじめるなんて、サイッコーに悪いコトなんだからな!」 剛袈紅蓮撃。叩き伏せられた頭が、地面に当たって派手に跳ねる。 「ハンセーしろ!」 声もなく昏倒したリーダーを一瞥し、着地したステラはツンとそっぽを向いた。 リーダーと副リーダーの轟沈を見た信者達の間に、動揺が走る。けれど。 「リーダー達がやられたぞ!」 「慌てるな! 想定の内だ!」 「後は、個々の判断で動け!」 「我らの主は、あくまでアレイスター様だ! この命、全てかの方に捧げると決めたのだ!」 「必ずや、アレイスター様の元に古龍の力を! 世界に、人が王たる秩序を!」 「おお!」 飛び交う意思が、崩れかけていた信者達を奮い立たせる。 「……挫けない……!」 「些か、甘く見ていたか」 歯噛みするあおいの横で、イザークが再び構えを取る。 「奴らにも、それなりの矜持があるか……」 「やれやれ。これだから盲信ってのは厄介なんだよね~」 僅かばかりの感嘆が篭ったクォンタムの声に、メルキオスは大袈裟に溜息をついた。 「……当てが、外れましたか……」 後衛に下がっていたヨナが、開いた魔導書に魔力を灯す。 迎撃準備。 さらに下がった場所で、リチェルカーレとカグヤも身構える。 「あの勢い……抜けてくる……」 「ええ、守りましょう。絶対に」 「うん」 決死の勢いに押され始める浄化師達。こうなると、数の差がモノを言う。 応戦に手一杯になる前衛陣の横を、幾人もの信者が抜けてくる。内幾人かはヨナがエアースラストで打ち倒すが、手が回る筈もない。 刃を振りかざして迫る信者達。リチェルカーレとカグヤが迎撃しようとした、その時。 「随分と、大変そうですのねぇ」 囁く様な。 けれど、嫌にハッキリと聞こえた声。 下がる温度。 氷柱が鳴く様な、悪寒。 固まる二人の、鼓膜に優しく。 もう、一声。 「手伝って、差し上げますの」 瞬間。深紅の華が、戦場のあちこちで咲いて散った。 ◆ 「ぐぁあああああ!!」 「!」 「あおい! 下がれ!」 突然の事に竦んだあおいを、イザークが引き戻す。彼らの前には、絶叫する信者。そして、彼に覆い被さってその目に長い舌を突き刺す、異形のモノ。 眼窩に潜り込んだ長虫の様な舌が、ドクンドクンと何かを啜り上げる。信者の声は見る見る細くなり、消える。崩れ落ちる信者から舌を引き抜き、飛びず去る異形。 「ヂヂヂヂヂヂヂヂ」 震える長細い首。そこから鳴る、濁った哄笑。 「……ベリアル……」 青ざめた顔で、あおいが呟いた。 悲鳴と共に、飛び散る鮮血。肉片。目を見開いて下がるナツキの前で、生きたまま裂けてゆく信者の身体。人を、素手で紙切れの如く引き裂く怪物。手に絡みつく臓物を投げ捨て、血塗れの顔をニタリと笑ませる。その足元には、先刻ナツキに倒されて昏倒した男。ゆっくりと、上がる足。 「やめろ! ソイツは、もう……」 声は、届かない。無慈悲に落ちた足が、男の頭を踏み潰した。 「シャアアアアアッ!」 裂帛の気合と共に、二閃三閃する手刀。生身である筈のソレが、研ぎ澄まされた刃の様に人の身を切り刻んでいく。瞬く間に数人を肉塊に変えると、手に付いた血をシャッと振り落とす。 「フシュウウ……」 静かに呼気を吐く其れは、全身を緑鱗の鎧装で覆った魔人。鎧の奥で、金色の目が昏く輝く。無造作に振るわれた長い尾が、背後から火弾を撃とうとした信者を枯れ木の如くへし折った。 「……スケール、4……」 対峙するタオ。彼女の頬を、冷たい汗が撫でる。 「来たか……」 緊張と確かな恐怖を飲み込んで、ルーノは冷静に戦場を見渡す。 周囲で展開される一方的な殺戮。リーダー格を失ったとは言え、それなりの手練である筈の夜明け団の戦闘員達。それが、成す術もなく惨殺されていく。対抗する為に備えてきた筈の数も。装備も。まるで意味を成していない。それだけ、圧倒的なのだ。 油断なく戦闘の構えを取りながら、戦力の把握を試みる。 高速移動の、スケール3個体。三体。外見から察するに、素体は吸血性の危険生物、『チュパカプラ』。 怪力の、スケール3個体。同じく、三体。水陸両性の肉食巨獣、『バンイップ』。 そして、明らかに一線を画する戦闘力を見せるアレらは、スケール4、四体。素体は原型こそ乏しいものの、恐らくは何かしらの爬虫類系魔獣。 合計、十体。全てが、高スケール。 (多い……! これだけの数の、高スケールが……) 戦慄し、そして気づく。奇妙な、事。 (攻撃して、こない……?) そう。ベリアル達が牙を向けるのは、全て終焉の夜明け団の信者達ばかり。本来の敵である筈の浄化師(自分)達には、全く攻撃を仕掛けてこない。 (どういうつもりだ……?) 見回せば、他の浄化師達も困惑している。 「やめろ!」 「もはや戦えぬ者にまで、手を出すな!」 ナツキやイザークの様に阻止しようとする者もいるが、彼らを嘲笑うかの様に虐殺は続く。見る見る地面を覆っていく、屍と血溜り。流石の狂信の使徒達にも、恐怖と絶望の色が漂い始める。 「ルーノ、このままでは皆殺しにされるぞ」 近くにいたクォンタムが言う。 「考えは合わんが、それなりの誇りはある連中だ。むざむざ化け物の餌食にするのも、寝覚めが悪い」 「……そうだね」 どの道、戦わなければならない相手。魂の捕食を許して強化されるのも、得策ではない。それに、夜明け団も同じ人間。共通の敵を前にすれば、共闘出来る可能性もある。それを狙うならば、尚更行動は早い方が望ましい。 「よし」 決意したルーノが、皆に指示を出そうとしたその時。 「ルーノさん! 上!」 聞こえたのは、リチェルカーレの声。ハッと上を仰いだ瞬間。 天を覆う、無数の氷刃。 絨毯爆撃の様なそれが、残りの信者達を一瞬で粉砕する。 「………!!」 降り注ぐ、鮮血と肉片の雨。絶句する浄化師達に、親しげな声がかかる。 「ごきげんよう。愚かで可愛い、子羊達」 ゆっくりと降り来る、可憐な姿。長い黄金(こがね)の神。漆黒のドレス。幼くも、美しい顔。認めた幾人かが、顔を強ばらせる。 「……コッペリア……」 引き攣り呟く、ヨナの声。 走る、戦慄。 「コッペリア……この娘が……」 「三強……スケール5か!」 未遭遇だったメンバーが、驚きとも戸惑いともつかない声を上げる。 それほどまでにかの者の姿は愛らしく、美しい。 「ご存知の方もいれば、初めましての方もいますの。結構な事」 コロコロと笑い、ヨナを示す。 「そちらの可愛い方が仰られたとおり、わたくしが、『最操のコッペリア』。皆様、良くしてくださいませね」 冗談とも本気とも取れない調子で、そんな事を言うコッペリア。冷ややかに見上げていたシリウスが、問う。 「……何をしに来た。アジ・ダハーカの様に、あの子龍も手駒にする気か?」 「そうだと、言ったら?」 事も無げに返された言葉。浄化師達が、無言で身構える。 「あら? 皆様、怖い顔。お気に入りませんでしたの?」 「当たり前なんだよね」 「私達が、何の為にここにいると?」 剣呑に答える、ヴォルフラムとあおい。向けられる視線と殺気。意にも介さず、またコロコロと笑う。 「まあ、そんなに怒らないで欲しいですの。今日は、お話があってきましたのよ?」 「話……?」 「何の事だ?」 ヨナとベルトルドの問いも、軽く流す。 「そう急かさないでくださいの。まずは……」 コッペリアの瑠璃の瞳が、チロリと流れる。 「魚は釣れましたの。餌はもう、必要ありませんの」 「!」 気づいたクォンタムが、叫ぶ。 「お前達、逃げろ!」 声の先には、戦意を失い逃げようとする信者達の姿。けれど――。 「アルテラ。アルメナ」 呼びかける声に応じて、二つの影が舞う。 「心得ました」 「はぁーい! かしこまりー!」 静かに輝く、蒼の光。 振り落ちた氷の盾。幾重にも穿ち、退路を断つ。 激しく眩く、朱の閃。 空を裂く回転刃。不可思議に翔んで、首を断つ。 吹き上がる、鮮血の飛沫。折り重なって倒れる、信者達の身体。塵芥の様に捨て置いて、二人の踊り子は主の元へと舞い戻る。 「……何?」 「貴女達は……」 彼女達の姿。イザークとリチェルカーレの戸惑いは、皆のモノ。 一人。長い蒼の髪。容姿端麗。大盾を携え、泉色の法衣を纏う。 一人。短い朱の髪。所作快活。複重の鎖刃を持ちて、炎色の闘衣を纏う。 共に、麗しき少女。されど、纏う気配は悍ましく。 「ベリアル……?」 「しかし、この姿は……」 一瞬の錯綜の後、ルーノとカグヤが行き着く。 「人型……」 「まさか!」 微笑んだコッペリアが言う。『二人共、ご挨拶を』と。 静々と、頭を垂れる。蒼の少女。 「スケール5、『月影のアルテラ』と申します。不束な者ですが、どうぞお見知りおきを」 嬉々と笑って、手を上げる。朱の少女。 「はっじめましてー。同じくスケール5、『陽光のアルメナ』っすー。おバカだけど、なっかよくして欲しいっすー」 表面は、酷く親しげ。けれど、孕む殺気は奈落の如く。 「スケール5……」 「三強の、他にも……!」 汗で滑る手を握り締める、シリウスとタオ。 想起する記憶。 ――『報いの神兵・アダマス』――。 かつて戦ったその存在は、ベリアル・スケール5と同等と言われていた。 そして、実際に鉾を交えて得た答えは。 ――『強い』――。 五組の浄化師、内にシリウスとタオを交えた黒炎使い三人と単体で対峙。にも関わらず、繰り広げたのは互角以上の戦い。否、防御無効化の権能がなければ、こちらが全滅していた可能性すらある。 それと同格の存在が、三体。 (凌げるか……?) 他の皆も、かの戦いの情報は得ている。危惧は、同じ。 「だから、そんなに怖い顔をしないで欲しいですの」 笑うコッペリア。全てを、見透かす様に。 「言いましたでしょ? 此度は、貴方方とお話がありますの」 見下ろす視線。自分を見つめている事に気づく、ルーノ。 「聞いて、くださりますよねぇ?」 ――拒めば、殺す――。 雄弁に語る、瑠璃の瞳。躊躇するルーノに声がかかる。 「ルーノ。頼む」 「恐らく、俺達の中で一番合理的で理性的な判断が出来るのは、お前だ」 イザークとベルトルドの言葉に、皆も頷く。 「そうだな。私とこの馬鹿では、話にもなるまい」 隣のメルキオスを小突きながら言う、クォンタム。 「貴方になら、委ねられます」 「そうだね。君なら、心置きなく付き合える」 あおいに、ヴォルフラム。そして――。 無骨な拳が、トンと肩を叩く。振り向けば、ニカリと微笑む見慣れた顔。 「大丈夫だ! 自信持て、ルーノ」 相棒の言葉が、最後の一押し。ハァと、溜息をつく。 「やれやれ……。皆、調子が良いな」 向き直る先には、面白そうな顔のコッペリア。 「随分と、面倒なお役を担ってらっしゃりますのね」 「ああ。全くだよ」 苦笑して、見上げる。 「総意は得た。代表は、私だ」 委ねられた運命を背負い、告げる。 「話とやらを、聞こう。最操の、コッペリア」 邪姫の顔が、禍しく笑んだ。 ◆ 「『コレ』」 細い指が示すのは、地面。転がる、終焉の夜明け団の亡骸。 「と言うか、『コレ』の『上』」 「上……?」 怪訝な顔をするルーノ。コロコロと、笑う。 「決まってますの? 夜明け団(コレ)の上と言ったら、教団(貴方方)の、上司の方々ですの」 そう。終焉の夜明け団は天人、アレイスター・エリファスの信望者達。即ち、彼を頂点と崇める教団上層部の手駒でもある。 そして、現在。その上層部は、本部室長であるヨセフ・アークライト及び追随する浄化師達と対立状態にある。 互いに、刃を交えるまでに。 「大変ですわねぇ? 同じ子羊でありながら、頭が違うだけで角を付き合う羽目になるとは」 話す声に混じる、嘲り。ルーノが。そして、皆も。眉を顰める。その様子を面白げに眺めて、コッペリアは続ける。 「率直に言って」 スルリと降りてくるコッペリア。視線をルーノと合わせる。 「邪魔でしょう?」 微笑みながら、傾げる小首。 「特に、あの『デイムズ』とか言う戦争屋。随分と手に余ってらっしゃる様で?」 「……何が、言いたい?」 あからさまな悪意が篭る口調に、流石にイラついたのか。少し険のこもった声で、ルーノが問う。 待っていた言葉だったのだろう。小さな口を大きく歪ませ、コッペリアは言い放つ。 「殺して、差し上げましょうか?」 思いもしない言葉。皆が、ざわつく。 「どういう、意味だ?」 「そのままですの」 投げ返された問い。笑って、返す。 「殺して差し上げますの。デイムズも。それに傅く人形達も。ベリアル(わたくし達)が」 ユラリと踊る、小さな手。転がっていた亡骸が、パンと弾ける。飛び散った血が、ルーノの頬を濡らす。 「お膳立てをしてくださいな。ヨセフ派(貴方方)が。アレを、戦場に引っ張り出して。五月蝿い小虫達を引きつけて。そうすれば、わたくし達が全て終わらせて差し上げますの」 スス、と近づく。近くなる、互いの顔。咄嗟に武器に手をかけるナツキを、視線で制する。 「悪い話では、ないでしょう?」 綺麗な顔に、ひび割れの笑み。張り付けながら、誘う。 「アレは、わたくし達にとっても邪魔なモノ。易く片付けられれば、こちらとしても御の字。当然、対価など頂きませんし? 事が終われば、また存分に殺し合いましょう? そう、これは……」 薄い唇が、耳に寄る。くすぐる、枯れ華の香。 「ほんの束の間の、お慰み」 甘い囁き。悪魔の、蠱惑。 「如何?」 孕む悪意は伝える。拒めば、終わり。お前達の命も。子龍の運命も。全ては、それまでと。 しばしの間。 夜民の賢士は思う。 (……コッペリアも他の高スケールも、何かを守りながら戦える相手ではない。応じた方が、効率的にこの場を凌げる。……だが……) チラリと、背後を見る。視線の先。静かに息づく、卵。 過るのは、かの谷の風景。青空を駆る、友の姿。 (……どうも、な……) フッと笑い、視線を上げる。待っていたコッペリアが、小首を傾げる。 「決めたよ」 ハッキリと、声に出す。背後から伝わる、緊張の気配。「あら、お早い事」と、ワザとらしい反応。 「では、お答えは?」 「まあ、急がないでくれ。その前に、皆の言葉も聞いて欲しい」 聞いたコッペリア。あらと、嘲る。 「土壇場で、責任放棄?」 「心配いらない。あくまで、決定権は私に託されている。単純に、皆にも発言の権利くらい与えたいだけさ。もっとも……」 ニヤリと、不敵な笑み。 「皆、私の思う通りの言葉を発してくれるだろうがね」 言って、視線で促す。ポカンとする皆。そして――。 最初に笑んだのは、タオ。口を開き、朗々と唱う。 「言いたい事は、よく分かりました。魅力的な提案だとは思います。彼らには、私達も悩まされていますから。沿って、ご提案の答えを言い渡しましょう」 ニヤリと笑って、立てた親指を下に向ける。 「くそ食らえ、です」 「だゾ!」 すかさず真似する、ステラ。ちょっとだけ、教育に悪い。 退屈そうに欠伸をしていたアルメナが、ピタリと止まる。浮かぶ笑み。酷く。酷く。嬉しそう。 「ベリアルと交渉など、出来る筈がありません」 次に声を上げたのは、ヨナ。青い瞳を、コッペリアに向ける。 「貴女は、ご自分が何をしたのかお忘れではないですか?」 思い出す。 二人の友の、いつかの苦しみ。 悲しき古龍の、止まぬ慟哭。 「どうせ、ただ面白半分に人同士を争わせて嗤いたいだけなのでしょう?」 ぶつけるのは、抱き続けていた憤り。 「どうぞ、お構いなく!」 「……とまあ、そういう訳だ」 鼻息荒くする相方の隣で、肩を竦めるベルトルド。 勿論、その結論に異議はなく。 頬に手を当てたアルテラ。あらあらと、困った様に小首を傾げる。 「考えが違う相手には、何をしてもいい……。それは、龍や琥珀姫様の家族を殺した人と同じ……」 リチェルカーレ。ぶつけるのは、決して揺るがぬ誓い。 「わたし達は、殺したいんじゃないの! 守りたいのよ!」 「……デイムズにも上層部にも、何の義理もないが……」 シリウス。向ける、鋭い視線。 「生まれてくる龍の命を、奴らなんかの血では汚せない」 言い切る、低い声。意思を示す様に輝く、蒼刃。 ほう、と感嘆の息をつくスケール4。鎧の奥で光る眼差し。蠢いた手が、ゴキキと鳴る。 「確かにとんでもない奴だけど……僕らの手で何とかするよ」 宙を仰ぐ、ヴォルフラム。 「奴は、過去の非道な教団その物だ」 思い起こす、昏い傷。 「アレには、酷い目にあってるからね……。僕達で打ち勝たなきゃ、ダメなんだ」 微笑んで告げる、固き決意。 「他者を己と同じモノと思わない外道でも、魂を持つ人である事には変わらない。貴女達に殺させたら、その魂は取り込まれて貴女達が力をつける、でしょう?」 姑息な腹積もりなど、お見通し。堪えなき賢智彩る、聡明な心。 「食べたら、お腹壊しそう、だけど」 クスリと笑って、カグヤは皮肉を飛ばす。 「ヂヂヂ……」 皿の様な目を細める、タイプ・チュパカプラ。濁った音で喉を鳴らし、長虫の舌をズルリと舐めずる。 極上の獲物。その血の甘美。恍惚の中、夢見る様に。 「あそこにいるのは、俺達の始祖が孫子。そして、種の後世を継ぎし至宝」 背後の卵を示して、イザークは己の胸を叩く。 「その眼前だ。先達として、汚い打算を図る醜態など晒す訳にはいかない」 新たな命。示すべきは、己が種の誇り。恥じぬ、矜持。 見上げる先。気高く尊い、彼の顔。あおいもまた、清き想いと共に頷く。 餌の意を得たる、タイプ・バンイップ。目眩く、殺戮衝動と肉食獣の本能。感極まる様に唸り、身を震わせる。滴り落ちるは、血臭が香る緑の唾液。 赤く血走る目。向けるは主。開放を告げる、握鎖の命。 「……確かに、報告書を読む限り害悪と言って差し支えないロクデナシの様だが……」 冷ややかな眼差しを送りながら、淡々と告げるクォンタム。 「お前らの手は、借りぬ」 移す視線の先。無念の表情のまま強ばった、夜明け団の信者の骸が数多。 「ヒトの事は、ヒトでどうにかする」 交わる事は永久になく。それでも、殉じた誇りにせめても手向けを。 手にした双剣。冷たく猛け鳴く、其が魂。 「えー…どっかの支部の室長だっけ?」 ポリポリと頭を掻きながら、視線を泳がすメルキオス。 「よく知らんけど、クソ野郎なんだっけ?」 言葉と裏腹に、その声音にいい加減な響きはない。 「一応、身内の不始末だしねぇ……。自分のケツくらい、自分で拭くよ」 道化の裏に、見え隠れするのは確かな信念。 「君らの手助けなんて、いらないさ~」 ヘラリと笑い、切り捨てる。 「な~にか、不穏な雰囲気ですのねぇ」 浄化師達の言葉を聞いていたコッペリア。何処か機嫌良さそうに、そんな事を言う。 もっとも、手下(てか)達を制す鎖はまだ解かない。 目の前に立つ、最後の二人。ニヤニヤしながら、促す。 「ナツキ」 ルーノの声に、前を向くナツキ。 真っ直ぐにコッペリアを見据え、口を開く。 「……俺は、お前とは手を組みたくない」 らしくなく、静かな声。けれど。 「夜明け団もお前も、本人の気持ち関係なく利用しようとしてるのが気に入らねぇ……」 熱い心は、すぐに想いの炎を灯す。 「アジ・ダハーカの仔にも、自分の生き方を決める権利くらいあるはずだろ!」 言い放つは、信じる正道の導。 「声の大きい坊やですの」 耳を抑えながら、向ける視線。 ルーノ。 「では、お聞きしますの。責任者さん?」 最終確認。微かに下がる、気温。 「お答えは?」 「却下だ」 あっさりと、答える。 「言っただろう? 皆は、私の思う通りの事を言ってくれると。それに……」 ニヤリと、不敵な笑み。 「お前は、手を組むには少々危険過ぎる」 「では、交渉決裂と言う事ですのね?」 言って、『やれやれ』と片手で顔を覆うコッペリア。 「残念ですの……。OKと言って頂ければ……」 溜息混じりの声。スルリと落ちる、手。 現れるのは、『邪悪』の具現。怖気立つ、壮絶な笑顔。 「そんな愚物は、この場で背骨ごと首を抜いて差し上げましたのにぃ」 途端、ベリアル達から溢れ出す暴風の様な殺気。動き出す、スケール3と4。 「やはり、そういう魂胆でしたか」 「まったく。タチが悪い事、この上もないな」 素早く戦闘態勢を取りながら、ヨナとベルトルドが苦笑する。 「 タオ、イザーク! 黒炎でスケール4へ対応を! スケール3は数で押さえる! シリウスを中心に、カグヤとクォンタム!」 「分かりました!」 「了解した」 「気をつけて行くよ。カグちゃん」 「うん」 ルーノの指示に従って、各々の相手に向かう皆。残ったベルトルドが、ルーノに問う。 「さて、俺達はどうすればいい?」 「私やナツキと共に、皆の援護を。そして――」 向ける視線の先。そこには、未だ動かない三体のスケール5の姿。 「奴らが動き出した時の、対処を頼む」 その言葉に、ベルトルドとヨナ。愛刀を構え直した、ナツキは叫ぶ。 「分かった! なら、行くぜ! 希望を守る牙になれ! 解放しろ、ホープ・レーベン!」 高らかに、解号。 希望を背負う大剣が、黒き炎を吹いた。 ◆ 「ヂヂヂヂヂヂヂッ!」 濁った声を散らしながら、三体のベリアルが跳ね回る。タイプ・チュパカプラ。強靭な脚力が生み出すスピードは、人間の視認能力を遥かに凌駕する。 「速い……!」 何とか鬼門封印で動きを封じようとする、カグヤ。けれど、あまりの速さに術式構築が間に合わない。 「ヂヂヂ! 女! 美味しソう!」 頭上から降る濁声。悪寒と同時に、影が落ちる。 「カグちゃん!」 咄嗟にチュパカプラとカグヤの間に滑り込む、ヴォルフラム。チュパカプラは、そのまま装備した鍵爪で彼にしがみつく。裂けた口からまろび出る長い舌が、ヴォルフラムの肩に突き刺さる。 「ぐっ!」 妖しく蠢く舌が、ドクドクと何かを吸い上げる。 咄嗟に九字を放つカグヤ。チュパカプラはあっさり獲物を放すと、跳んで避ける。 ガクリと膝をつく、ヴォルフラム。 「ヴォル!」 「だ、大丈夫だよ……」 青い顔で微笑む彼。それでも、カグヤの目は見逃さない。 異常に減った、生命エネルギー。見れば、襲ったチュパカプラのそれが増大している。 「エネルギー吸収能力……」 緊張に強張る彼女を、丸皿の様な目が見つめる。 「次ハ、貴女」 長蟲の舌をくねらせて、悍ましい声がせせら笑う。 「僕より速いのか。まいったねぇ」 飛び回るチュパカプラの攻撃を、スレスレで躱すメルキオス。やれやれと息をついたその時。 「おい!」 かけられる、クォンタムの声。 ハッと振り向いた先に、仁王立つ魔獣。 タイプ・バンイップ。いつの間にか、距離を詰めていた。 巨体に収束する、異様な魔力。悪寒が、走る。 「やば!」 「バオゥッ!」 距離を取ろうとするも、一瞬遅く。突進したバンイップが、彼を弾く。 受け身を取りつつ、転がる。 「大丈夫か!?」 「あー、うん。衝撃の割には、ダメージが……」 怪訝に思ったその時、バキンと鳴る破砕音。 「ん?」 「ありゃ?」 上着を捲り上げると、バラバラと落ちる金属の欠片。身に着けていた防具、『幽鬼の鎧』の成れの果て。あの程度の衝撃で壊れるなど、ありえない筈なのに。 「バフゥ! ハずレ! ガらクタ!」 野太い声で、バンイップが愚痴る。 「……装備破壊能力か!?」 気づいたクォンタムが、呻く。 「うへぇ。煙管は勘弁してほしいなぁ。特注品なんだけど」 「なラ! ソノ刀! よこセ!」 「いやぁ、それも困るんだよねぇ」 「我侭! 聞かン!」 「あ、やっぱり?」 へララと笑う、メルキオス。伝う汗は、酷く冷たい。 「装備とエネルギー……。徐々に削って、抵抗力を奪う気か?」 四方から襲い掛かる、チュパカプラの爪とバンイップの斧。禹歩七星で底上げした速さで弾きながら、シリウスは分析する。 チラリと見る視線の先では、光明真言で防御しながら援護を行うリチェルカーレの姿。 こちらの回復手段。彼女とカグヤ、そしてルーノが持つ四神浄光と天恩天賜。当然、回数には限界がある。何とか、手が尽きる前に片を付けなければいけない。 移す視線。先には、動かないスケール5三体。そして、明らかに彼女達を牽制しながら戦うルーノ達の姿。 「頼む……」 そう呟き、シリウスは再び目の前の敵に向かう。 ズン! 重い震脚が、地を揺らす。 手刀を構えたスケール4、四体。強い声で、対峙するイザーク達に言う。 「名乗るがいい! 人の戦士よ!」 「……?」 怪訝な顔をする皆を前に、鱗鎧の魔人の口上は続く。 「我ら『死道凶蛇』! 最操の御方の命により、汝らの今生の道を断ちし者。せめてもの手向け、その名を我らが魂に刻む! 名乗られよ!」 ポカンとする皆。タオがクスリと、苦笑する。 「参りましたね。よもや、ベリアルに士道を求められるとは」 「全くだ」 応じて、皆もまた武器を構える。 「浄化師、魔性憑きのイザーク・デューラー! 相手をしよう!」 「同じく! 断罪者、タオ・リンファ! 受けて立ちます!」 「ステラだゾー!」 「あ、ええと……鈴理・あおいです!」 聞いた凶蛇達の目、笑む様に光る。 「承った。然らば……」 昂ぶる声と共に、篭る力。 「参る!」 瞬間、掻き消える四体。通り過ぎる、豪風の如き殺気。 「!」 それだけで、煽られたあおいが悲鳴と共に吹き飛ばされる。小さなステラに至っては、『うひゃー!』とか言いながらコロコロと転がっていく始末。 「………!」 既で避けた、タオとイザーク。掠っただけの筈の肩が、ビリビリと痺れる。絶句しながら振り向いた先。静かに呼気を吹きながら、構え直す凶蛇達。 「……獣のソレではありません……。確かな、武の技……」 「何処で収めたか知らないが……厄介だな……」 本能に任せた蛮業ではなく、確かな技術に律された武。余程に、危険。気を入れ直す間もあればこそ、再び響く覇気の鳴動。 「シャアアアアアッ!!」 「二度も!」 「遅れを取るとでも!?」 繰り出される手刀に、剣閃を合わせる二人。甲高い、音が響く。 散る火花。ギリギリと軋み合う、鋼の刃と手刀。 「素手で……」 「黒炎魔喰器を……!」 「我らが鱗鎧の刃、屍造りの鈍ら如きに劣ると思ったか!?」 拮抗する力。動きを封じられた二人の視界の隅、走る影。残り二体の凶蛇。 「ちっ!」 「来るか!?」 何とか迎撃しようとする二人。しかし、二体は無視して走る。 「え?」 呆気に取られた瞬間、響く激音。打ち合わさり、白く蒸気を上げる手甲と手刀。 「ふ……。隙を付けるかと思ったんだがな」 「それ程の闘気、気づかぬ筈もあるまい」 拳を軋ませながら笑むベルトルド。同じく、手刀を押し込みながら哂う凶蛇。 「名を、伺おう」 「断罪者、ベルトルド・レーヴェだ。もっとも……」 地を弾き、蹴り上がる脚。双方、同時。 「思い出になるつもりはないがな!」 「さればこそ!」 二人の闘士の力。激しく撃ち合い、大気を揺らす。 「……あのタイミングで、防ぎますか……」 砕かれたオーパーツグラウンドの破片が、パラパラと散る。降り注ぐ錬成の武具を軒並み薙いだ凶蛇が、ゆっくりと立ち上がる。 揺れる眼光。映す、ヨナ。 「女。名は?」 「……狂信者、ヨナ・ミューエ」 「承った」 構える、凶蛇。 「其方の力は察した。相手として、不足なし」 「……随分と、公正な判断ですね」 「戦場に立つ者に、尊卑の差などない」 「………!」 一瞬目を細め、ヨナは言う。 「……やめてください」 「ふむ?」 「罪悪感に、駆られます」 瞬間。 「マヤ! お願い!」 背後から響く、あおいの声。舞う、人形。踊る、糸。 絡縛糸。 締め付ける糸が、動きを封じる。 「む……!」 「刃が通じないならば……!」 ヨナの声に応じる様に、小さな影が跳ぶ。 「くっらえ―――!!」 振り下ろす鉄槌。ステラの、パイルドライブ。 「打撃ならば、どうです!?」 力と重量を乗せた一撃が、凶蛇の胸を撃つ。ひしゃげる鎧。飛び散る血が、ステラの顔を濡らす。 衝撃のままに吹っ飛ぶ凶蛇。地面を削り、沈黙する様を見届けたあおいが言う。 「やったで、しょうか……」 「魔方陣の位置こそ分かりませんが、完璧に入りました。無事では、済まないでしょう」 横たわる凶蛇。見つめるヨナの脳裏を、彼の先の言葉が過る。 「……些か、気は咎めますが……」 「気に病む必要はない」 「!」 平然と響いた声。あおいとヨナが、ハッと目を向ける。 視線の先、起き上がる凶蛇。 「戦いにおいて、勝利の為に策を弄するは当然の事。恥じる事では、ない」 コキコキと鳴らす首。胸を穿った穴が、猛スピードで塞がっていく。 「再生が……速い!」 目を見張る二人に向かって、凶蛇は言う。 「我らが素体は『水蛇(ヒュドラ)』。この身は、その不死性を受け継いでいる。故に、そう易くは絶えぬ。それより……」 彼の手が、ヨナ達の背後を示す。 「その娘は、放っておいて良いのか?」 「え……?」 振り向いた先。そこには、膝をついて荒い息をつくステラの姿。 「ステラさん!?」 「どうしたんですか!?」 「う~……。なんか……力が……出ないん、だゾ……」 駆け寄った二人に向かって、か細い声で呻くステラ。 「……『ポイゾラン』……」 凶蛇の声に、振り返るヨナ。続ける、言葉。 「我らが、権能だ。この身に流れしは、魔力帯びし『呪血』。一度付着すれば、身を蝕む。しばしの間、命を半減させると言う形でな」 息を飲む、あおい。睨む、ヨナ。 「不死の生命力と、生命力の半減……。随分と、えげつない組み合わせですね……」 「案ずるな」 皮肉をそんな言葉で返すと、凶蛇はトントンと自分の首を叩く。 「我らが急所は、『首(ここ)』だ。首(ここ)を断てば、我らの命運は尽きる」 「!」 思わぬ告白に、場の浄化師全員が目を見開く。 「……どう言う、つもりですか……?」 「知れた事」 ヨナの問いに、凶蛇は笑って答える。 「リスクのない死合いに、何の意味が在ると言うのだ?」 「――!」 また皆が、息を呑む。 「さあ、続けよう。強き人の戦士よ」 そう言って、凶蛇は再び構えを取る。 「……本当に、やり辛い……」 ほんの一瞬の躊躇い。そして、ヨナはまた前を向く。 「あー、いいっすねー! いいっすねー! 皆、楽しそうっすねー!」 「……少しは静かにしなさいな。アルメナ」 辛抱堪らないと言った様子の妹を、アルテラが諌める。けれど、高揚した血は収まらない。アルメナは、後ろに立つコッペリアにねだる様に言う。 「ねえねえ、お姉様! ダメっすか? 殺っちゃ、ダメっすかぁ~?」 駄々をこねる手下(てか)に微笑み、彼女は言う。 「駄目ですの。もう少し、お待ちなさい」 「えぇ~~~」 「お姉様のおっしゃる事ですよ。お聞きなさい」 二人の姉的存在に窘められ、ブーたれるアルメナ。そんな彼女に、コッペリアは告げる。 「もう少し、良い子にしてなさい。そうすれば……」 また浮かぶ、亀裂の笑み。 「もっと、楽しくなりますの……」 舌を舐めずる様な、甘い声。 ◆ 「くそ! ピョンピョンピョンピョン、うるせぇぞ!」 「落ち着け、ナツキ! 焦れば、思う壷だ!」 からかう様に飛び回る、チュパカプラ。空振りを繰り返して苛つくナツキを制しながら、ルーノは確かな焦りを覚えていた。 スケール3との戦いは、切迫していた。 高速で動き回るチュパカプラと、高い攻撃力を持つバンイップの連携攻撃。ただでさえ対処困難な上に、その権能がジワジワと戦力を削っていく。シリウスやナツキの黒炎所有者もチュパカプラの動きに翻弄され、得意の戦術に持ち込めない。 自分達、回復役の消耗も激しい。このままでは、後に控えているスケール5達への対応もままならなくなる。 (せめて、もう少し手数があれば……) 歯噛みをした、その時。 「ルーノ! 前だ!」 耳に届く、相方の声。ハッと向いた先。見下ろす、巨大な影。 バンイップ。 迂闊にも、接近を許してしまったのか。 「要! 殺す!」 既に掲げられていた斧が振り下ろされる。防御も、ナツキの援護も間に合わない。 最期の足掻き。九字を斬ろうとした、その瞬間。 鋭く鳴く、風切りの音。 少し遅れて聞こえた、バンイップの悲鳴。 見れば、その左目には突き刺さった一本のダガー。 「あれは!?」 同時に、飛びかかろうとしていたチュパカプラも悲鳴を上げて落ちる。その脚にも、ダガーが一本。 「あれあれ。結構なザマです事」 軽口と共に隣に落ちる、白銀の風。 聞き覚えのあるソレに視線を向ければ、同様に見上げる深緑の瞳。 「その切はどうもー。優男さん」 皮肉に笑う、小悪魔の顔。『セルシア・スカーレル』は高らかに宣言する。 「セルシアちゃんと、下僕一同! 室長様の命により、定刻通り只今到着ー!」 風の流れが、変わる。 「む!?」 必殺の意で振り下ろした手刀が、厚い装甲に止められる。掲げたウニコルヌスの下で、朱毛の少女がニッと笑む。 「大丈夫? ボクの盟友」 「おー!」 振り向いた盟友、『カレナ・メルア』。満面の笑みを浮かべる、ステラ。カレナは言う。 「ま、ボク達だけじゃないんだけど」 途端、何処からともなく降ってくる魔力。受けた皆の身体に、戻る力。 「天恩天賜……! それも、最高位……!」 向けた視線の先。カグヤが見たモノ。それは、一斉に術式を展開する新たな浄化師達の姿。 「皆……!」 疲れ切った心に、灯る希望。 「セルシアさん、カレナさん、皆さん……!」 「ヒーローは遅れてやってくる、ってやつか」 綻ぶヨナと、笑みを浮かべるベルトルド。 「……加勢か?」 「悪いな」 笑むイザークに、凶蛇はやはり不敵な笑いを返す。 「構わん。なれば、尚の事愉しめよう」 「全く、厄介な奴らだ!」 噛み合っていた刃。更なる猛りを持って弾き合う。 「室長の指示か。助かる」 「ホント。あっち行ったり、こっち来たり。忙しいったら。まあ……」 ルーノの顔を、ニヤニヤしながら見上げるセルシア。 「誰かさんのテンパる顔見れたのは、とっても愉悦ですけどー」 どうやら、いつぞやのトンチキ自白剤の件を根に持っているらしい。察したルーノ。呆れた様に溜息をつく。 「随分と、執念深いな。疲れないか?」 「当たり前! 三時間正座&無休憩説教コンボの恨み、そう容易く解けようか!」 そりゃ、辛い。 「自業自得だろう」 「嫌な、男!」 ツンとそっぽを向くセルシア。相手にするだけ、気力の無駄と悟る。話を変える、ルーノ。 「話は聞いている。『取って置き』が、あるそうだな」 「あるよ」 そっぽを向いたまま、答える。 「……やる?」 チラリと見た目が、問う。けれど。 「まだだ」 即断は、しない。 「リスクがあるのも、知っている。好機を、待つ」 「……いいね。そういうの、嫌いじゃない」 ニヤリと笑むセルシア。 奸計の、軍師が二人。身を潜め、牙を研ぐ。 (強い。そしてやはり、数が多い……) 凶蛇との戦いを続けながら、タオは思う。援軍が来てくれたとは言え、ベリアル達が弱くなる訳でもない。何とか、勢いを削がなければ (どうやって崩せば……) チラリと見る、他の戦い。凶蛇達は元より、スケール3も手強い。厄介なのは、攪乱を担当しているチュパカプラ。せめても、アレを……。 と、不意に持ち上がる記憶が一つ。 ――ワテら、上位権限とか言うヤツで、連中ノ毒効きマせんデナ――。 数ヶ月前。ある指令で出会った存在の言葉。何故、今になってこんなモノが。思った瞬間。 (もしかして!) 咄嗟に飛び下がり、距離を取る。同時に、呼びかけるのは――。 「ベルトルドさん! カレナさん!」 届いた声。二人が、振り向いた。 タオが距離を取るのを診て、凶蛇は目を細めた。 逃げたのではない。恐れたのでもない。そんな、卑小な輩ではない。 理解していた。ならば――。 (策を、練るか?) 追撃し、阻もうかとも思った。けれど。 (……無粋!) 闘士としての本能が疼く。策もまた、かの者達の武の術。なれば敢えて受け、全身全霊を持って捩じ伏せる。其こそ、誉れ。 視線を、巡らせる。皆にも、追う気配はない。 当然。想いは兄弟、同じなれば。 (是非もなし!) 血が、滾る。 例えそれが、戦いにおいての愚だとしても。 「!」 微かに感じたヒリつきに、シリウスが視線を向ける。 「シリウス!」 卵を守る、リチェルカーレの声。彼女も、気づいた。 知っている、この感覚。 あの時、絶対たる神兵の権能。噛み砕いた、破獣の牙。それが、唸りを上げている。再び、開闢の咆哮を上げるため。 ならば! 「皆! 備えろ!」 響かせた声。視線が、集まる。 「道が、開く!」 絶対の、確信。 「……優男さん?」 セルシアの問いかけに、頷くルーノ。 「ああ、準備を」 「りょーかい」 妖しい笑み。毒鳥が、翼を開く。 炸裂する、エクスプロージョン。受けた凶蛇が、ほくそ笑む。 「愚かな。この様な火芸で我らが……」 「ええ。倒せるなんて、思っていません」 爆炎の向こうから聞こえた、ヨナの声。訝しんだ瞬間、炎の壁が破れた。 突っ込んできたのは、炎と同じ髪色の少女。黒炎を纏ったパイルバンカーが、薬莢を吐く。 「目晦ましか!?」 「『開闢の獣牙(フォールティア・デンス)』!!」 貫こうと迫る、破獣の牙。組んだ両腕で、遮る。 抉る鉄杭。悲鳴を上げる、鱗鎧。 「ぬぅおおおおおっ!!」 突貫の激衝を、渾身で止める。 「微温いわ!」 蹴り上げる脚が、カレナの脇腹を抉る。 「かはっ!」 「なかなかの威力! されど、足りぬ!」 「えへへ……」 吹き飛ぶカレナが、血を吐きながら笑う。瞬間。 バキンッ! 「何!?」 何かが吹き飛ぶ感覚に、思わず上げる困惑の声。 そう。『開闢の獣牙(フォールティア・デンス)』が破壊するのは、肉体にあらず。触れた『防御力』という概念を破壊する、絶対位相の概念効果。 落ちるカレナを、あおいが人形と糸で受け止める。それを目で追った瞬間、降り来る覇気。 「チェエエエエエエ!!」 タオ。振り下ろされた化蛇が、裂帛の気合と共に凶蛇の左腕を襲う。黒炎の威力を、防御力を失った鎧が抗える筈もない。断ち切られた腕が、舞う。されど、狼狽はない。 「愚かな! 我らが権能を忘れたか!?」 絶たれた腕から吹き出す鮮血。命を蝕む、呪毒の血。けれど、タオは笑う。 「忘れる筈など、ないでしょう?」 「!?」 「皆さん、避けて!」 響くのは、ヨナの声。そして。 「万象浄災! 飲み喰らえ! 化蛇!」 化蛇、権能開放。躍り出る烈流の神蛇が、吹き出る呪血を押し流す。 「何と!?」 「行きなさい!」 呪血を飲み込んだ巨蛇。幾多に分かれ、向かう先は――。 スケール3の、群れ。 「成程」 「そう言う事ね!」 即座に意を察した浄化師達が、退避する。狼狽するのは、残されたスケール3達。動きの遅いバンイップはともかく、チュパカプラ達は回避を試みる。 「喰らワナいヨ!」 跳躍しようとした、その時。 「九天咆哮! 哭け! 竜哭!」 解号と共に、響く咆哮。届いたチュパカプラ達の動きが、ピタリと止まる。 「ヂ……!?」 「何?……コレ……?」 竜哭の権能。開放したベルトルドが、笑む。 「悪いな。少し、大人しくしていてくれ」 スケール3達を、飲み込む激流。蛇の腑の中、呪毒が犯す。 「……アイツ等の魔力、半減したよ」 魔力探知で確認したセルシアが、告げる。 「よし」 頷くルーノ。高らかに、放つ。 「皆、風を受けろ! 反撃だ!」 「はいはーい! みなさーん! ご希望の方は、お返事どうぞー!」 そんな声と共に、ジャッと広げるダガー。 何やら、楽しそう。いつの間にか、ヤンデレにS属性でも加わったのだろうか。 届いた声に、クォンタムが目を向ける。 「……『叛逆の羽風』と言う奴か。能力を向上させるらしいな」 「受けるの?」 「当たり前だ。お前もだぞ」 あからさまに嫌そうな顔をする相方に、しっかりと釘を刺す。 「痛いらしいけどねぇ。反動もあるって言うし」 「バカタレ。女々しい事を言ってる場合か」 本気ではないと知りつつも、取り敢えずツッコミは入れておく。 「強化されてる内に、倒す……。それならば、弱体化なぞ関係ない」 「ま、そりゃそうだけどね~」 頭を掻いて頷くメルキオス。そも、鬱憤が溜まっているのは自分も同じ。 「セルシアちゃーん! 強化、僕だけ頼むよー!」 「ヴォル……」 心配そうなカグヤに、微笑むヴォルフラム。 「カグちゃんの柔肌、痕つけていいのは僕だけだから」 「……もう」 顔を赤らめる恋人に、真面目な顔になって言う。 「龍の子が生まれたら、教えてあげよう。お母さんの事も、お兄さんの事も。きっと、僕達の役目だ」 「うん……」 「その為にも、必ず勝つよ」 「うん」 チラリと見る、背後。脈打つ卵。救えなかった、願い。せめても、想いを。 決意を固め、カグヤは新たな符を引き抜く。 突き刺さるダガー。激痛が、熱に。力になって、身体を巡る。 大きく息を吐き、指一本に至るまで循環させる。 古龍を縛る因縁。必ず、この場で。あの時、もう一歩届かなかった手。それを、今度こそ。 「光は、降魔の剣となりて……」 紡ぐ解号。 「全てを、切り裂く……」 満ちた力の発現。アステリオスが、黒炎に揺らめく。 大気に満ち行く雷気に気づき、視線を送る。 リチェルカーレ。 細い身体に、突き立つダガー。血に染む衣装と髪を巻き上げて、顕現するは守護の雷龍。其はまるで、亡きて尚我が子を守る、かの古龍の御霊の如く。 「シリウス……行きましょう!」 静かに、呼びかける声。頷き、走る。 巻き上がる、断罪の炎。翠水晶の、剣士が吼える。 漆黒に彩った蒼剣が、身動き叶わぬ魔の首を撥ねた。 「こちらは、終了。わたしはあっちに行くけど……」 ルーノとナツキに向かって、ニヤリと笑むセルシア。 「あんた達は、どうする?」 「決まってんだろ! 頼む!」 間髪入れず答えるナツキに、ルーノも続く。 「魔術の威力も上がるのだろう? 拒む理由は、ないな」 「あーいよ!」 手の中で、クルクルと回すダガー。逆手に持って、酷く荒っぽく突き刺した。 ……多分、余計な怨念が篭ってる。 「ふふ……ははははは!」 再生を終えた腕で顔を抑え、酷く愉快そうに凶蛇は笑う。 「見事! 見事だ! よもや、我が権能を逆手に取るとは! 恐るべきかな! 人の叡智!」 「以前、不本意ながらベリアルと言葉を交えました……」 息を整えながら、タオは話す。 「上位権限という存在……自分よりスケールの『低い』ベリアルの能力は効かないと。ならば……」 想起する、少々滑稽だった彼らの顔。奇妙な縁に、ささやかな感謝を。 「言葉通りなら、つまり、逆の立場なら効くという事……」 「我らが同胞から得たか……。まさしく、天啓よ」 「ええ、敵の言葉に教えられるのも癪ですが……」 キッと、鋭く視線。 「ここからは、調子に乗らせていただきます!」 「是非もなし!」 互いに、駆け出す。真っ直ぐに。交わる、寸前。 タオの足が、ガクリと落ちる。疲労の限界。 (こんな時に!) 「天の理、我に有り!」 凶蛇が、必殺の手刀を振り上げる。 「盟友のヨメ―――っ!!!」 響く、声。 「たのむ―――!!!」 答える様に、風切る毒の嘴(はし)。 穿つそれが、清い身体を犯す。 「何!?」 驚愕の声を上げる、凶蛇。 幕引きの刃を落とそうとしたその時、タオとの間に走り込んだ小さな影。 「マーは!」 「ステラ!」 「やらせないからな―――っ!!!」 過する力に軋む、幼い身体。構わない。力いっぱい、叩きつける。 剛袈紅蓮撃。 その身はまだ、破獣の権能の虜。抗う力なく、風穴が穿つ。 「がぁあああああっ!!」 初めて上げる、苦痛の叫び。揺らぐ身体。傾ぐ視界に、映る閃光。 「終わりです!」 一閃する、化蛇。魂洗い。凶蛇の首が、胴を離れる。 「……その様な……顔を、するな……」 落ちる彼が、言う。 「束ねる、力……想う……力……紛れなき、『人』の……力……」 今際の言葉。タオが、口を噛む。 「良き……死合いで、あった……」 満足げに遺し、禍つの闘士は砂に散る。 「……恐ろしき権能よ。されど……」 血を吐くカレナと、彼女を守るあおいを凶蛇が見下ろす。 「その技、ただ一度きりのモノと見た。なれば……」 チラと見る、かの方向。ギリリと握り込む、拳。 「兄弟の死は、無意にあらず!」 「貴方は……」 「その者の首、我が兄弟への手向けとさせてもらう!」 「!」 咄嗟に糸を繰る、あおい。守る様に飛び出したマヤを弾き、手刀を振り上げる。 「覚悟!」 打ち下ろされる手刀。あおいが、思わず目を瞑った時――。 激しく響く、硬質の音。目を開けた先、守る様に立つ有翼の背中。 「悪いが、俺の許嫁(フィアンセ)を冥土の手土産にされちゃ困る」 「……愛とやらの為に殉じるか……。ならば……」 止まる言葉。イザークの身体に刺さる、ダガーを見る。 「……兄弟を挫いた娘が受けていた、術か……」 「仲間の補助魔術も受けている。十分、相手になるだろう」 鎧の奥の目が、何かを見透かす様に細まる。 「身体の戒めを切る術と見た。反動が、有る筈。我を倒しても、まだ御方達がいる。自ら、死道を選ぶか」 「……今、だけだ」 「?」 「お前を倒し、あおいを守る……。それが、今の俺の全てだ」 ニヤリと笑う、イザーク。 「付き合って、もらうぞ?」 一拍の沈黙。そして。 「ふ、ふふふ……ふははははははっ!!」 響き渡る、歓喜の哄笑。昂ぶりと共に、構える凶蛇。 「良かろう、 竜人の戦士! 存分に!」 「ああ!」 瞬間、ぶつかる二人。繰り出される手刀や蹴り、そして尾の演武。全てを研ぎ澄ましたステップスマッシュで弾き、舞う様に懐へと入り込む。 「はぁっ!」 裂帛の気合。渾身の一撃が胸の鱗鎧を砕き、内部へと潜り込む。 「呪いを、受けるか!?」 「想定済みだ!」 苦痛を堪えて叫ぶ凶蛇の声を、イザークの雄叫びが掻き消す。 「汝冠するは氷精の王覇! 凍て尽くせ! ライム・ブルーム!」 吹き上がる黒炎。炎の型を模する、絶対冷気。凶蛇の身体を、呪血ごと凍てつかせていく。 「貴様!」 「砕けろ!」 押し込む氷刃。凶蛇が、半ばまで凍てついた左手を強引に振り下ろす。 「ぐっ!?」 強かに打たれ、膝を突くイザーク。凍て切った腕が折れ砕けるが、構わない。もう片方の腕を、振り上げる。 「貰った!」 鋭い貫手を、イザークの後頭部に落とす。しかし。 「ぬぅ!?」 既の所で、腕に絡みしがみつくマヤ。渾身の力で糸を引く、あおい。 「イザークさん!」 呼び声。力が、漲る。 「うぉおおおおお!」 翼を広げ、駆け上がる。凶蛇の身体。一撃。二撃。凍りつき、脆くなった鎧を穿ちながら。 「ぐぉおぁあああ!!」 「終わりだぁあああ!」 交差する声。一つは絶望。一つは、希望。そして――。 三撃。 ――三身撃――。 高く、討ち飛ばされた首が笑む。 「これ、が……『愛』、とやら、か……」 遺す言葉は、納得に満ちて。 「全く……大した、モノ……よ……」 散じた砂が、風に散る。 「くはぁ!!」 「イザークさん!」 力尽き、崩れ落ちる彼に駆け寄るあおい。 「無事か……? あおい……」 「はい! はい!」 寄り添う二人。繋ぐ様に、絡むマヤ。 「アハハ……すっごいや……」 もはや助ける力もなく、見守っていたカレナが笑う。 けど――。 ――頃合い、ですの――。 ――お行き、なさい――。 ゾク。 襲う、懐かしい怖気。 映る空。見えた、モノ。 「二人共、逃げて―――っ!!」 「え?」 一瞬の、空白。 もう、手遅れ。 隕石が堕ちたが如く。破砕し、陥没する地面。吹き飛ばされる、あおいとイザーク。塵煙の中から飛び出す、回転刃。理不尽。縦横無尽。人知の、向こう。 咄嗟にあおいを庇ったイザークが、袈裟懸けに切り裂かれる。貫く衝撃。庇われた、あおいごと。意思を持つ様に、うねる鎖。疲れ切った、タオとステラを薙ぎ倒す。そのまま、イザークとあおいに這い寄ろうとしていた、カレナの背に一撃。 一瞬で、五人。たっぷりと血を吸って、戻っていく回転刃。掴む、細腕。赤い舌が、濡れた刃をペロと舐める。 「あーっはははははっ!! いーい感じっす!! さいっこう――――っ!!!」 「少しは自重なさい。アルメナ。この調子では、直ぐに終わってしまいますよ?」 薄れゆく塵煙の中から現れる、二つの人影。 蒼い髪。月影のアルテラ。 紅い髪。陽光のアルメナ。 陰陽の姉妹、スケール5。 手にした刃を弄りながら、妹のアルメナが言う。 「だいじょぶっすよー。ガソリン切れのガラクタを、片付けただけっす。遊ぶのに、邪魔っすからねー」 そんな彼女に向かって、走る風切り。 飛んできたダガー。スルと動いたアルテラ。大盾で、優雅に弾く。 向けた視線の先。燃える目で睨みつける、セルシアの姿。 「貴様ら……カレナを! よくも!」 見たアルメナが、哂う。 「なーんか、激おこっすねー」 「先に掃除した方々の中に、恋人でもいた様ですね。お可哀想に」 「あーらら。悪い事したっすねー。んじゃ、お詫びにおんなじ様にしてあげるっすー」 アルメナの手の上で回転を始める刃。重力を無視した様に、浮かび上がる。 「ほいっと」 猛スピードで迫る刃。ダガーを投げるも、弾かれるだけ。 「――――っ!」 「あははー。六匹めー」 回転する刃が、セルシアの首を狩ろうとしたその時。 飛んできた無数の錬成刃が、回転刃にぶつかる。回転刃は無きが如くに進むが、気持ちスピードが落ちる。 「ベルトルドさん!」 「分かっている!」 素早く走り寄ったベルトルドが、立ち尽くすセルシアを抱え転げる。彼の肩を掠める刃。黒毛と少しの血を噛んで、主の元へと戻る。 「大丈夫か? セルシア」 「あいつら……カレナを……カレナを……」 「落ち着いて! 魔力探知で見てください! 魔力が消えてない! 皆、まだ生きています!」 錯乱するセルシアを宥めるヨナの言葉にも、余裕はない。皆の傷が深いのは、確か。手当てが遅れれば、危うい事に変わりはない。 「ベルトルドさん、見ましたか? オーパーツグラウンドを当てた時……」 「ああ。まるで関係ない様に進んできたな」 「と、言う事は……」 「カレナと同じ、『防御無効化能力』……」 瞬間、落ちる影。 「!」 「あったりっす――っ!」 確認する間もあらばこそ、転げて逃げる。砲弾の着弾の様に降り立つ影、二つ。同時に、跳ねる。蒼い影、ヨナに。紅い影、ベルトルドとセルシアに。 「逃げちゃ!」 「いけませんよ?」 速い。対処が、間に合わない。 貫手。 刃。 無情に。 「スケール5! 動いた!」 「まずい!」 イザーク達が蹴散らかされるのを見たカグヤとヴォルフラムが、叫ぶ。 「来たか!」 「ルーノ! 行かねぇと!!」 振り返る、ルーノ。 場にはまだ、バンイップが二体。 迷う。けれど。 「迷うな! 行け!」 届く、クォンタムの声。 「このデカブツ共は、私とメルキオスで片付ける! 羽風の効果は残っている! 遅れはとらん!」 「壊された分の負債も、払ってもらわないとね~」 二人の言葉、迷いを断つ。 ルーノより早く目の前を横切る影。シリウス。 「リチェとカグヤ、援軍の皆を率いて来てくれ! 援護と回復が、必要だ!」 「分かった! ナツキ! ヴォルフラム!」 「了解!」 「行くぜ!」 走りゆく皆を見送り、前を向くクォンタム。 見下ろすバンイップ達が、嘲笑う。 「アルテラ様! アルメナ様! 強イ!」 「お前達! 勝てナい!」 「皆! 死ヌ!」 けれど、クォンタムとメルキオスも不敵に笑う。 「どうかな?」 「後悔するの、そっちかもよぉ~?」 援軍の浄化師達が、去り際に魔術を飛ばす。満ちる力の中、壮絶に笑む二人。 「もっともぉ~」 「その前に、お前達が死ぬがな」 恐れを知らぬ狂戦士(バンイップ)。その背を、確かな悪寒が走る。 間に合わなかった。 逃れる術はなかった。 だけど。 「お前達……」 「どうして……」 ベルトルドとヨナ。腕の中のセルシアも、目を見開く。 貫き、切り裂く筈だった貫手と刃。 遮ったのは。 鱗鎧の背中。 スケール4。死道凶蛇。残りの、二体。 上位種の必殺をその身で受け止め、彼らは血を吹く。 「貴方達……」 「どういうつもりっすか……?」 冷たく響く声。怯む事なく、答える。 「申し訳ありませぬ! されど!」 「この者達は、我らが兄弟の仇!」 「そして、認めし宿敵!」 「例え、貴女様方と言えど!」 「譲る訳には、いきませぬ!」 雄々しき声。 絶句する、ヨナとベルトルド。 燃えていた。殺戮しか知らない筈の、魂。それが、確かな誇りに。 けれど、惨性の巫女達はせせら笑う。何処までも深い、奈落の様に。 「……仕方ありませんね……」 「それじゃあ……」 ――死ね――。 瞬間、バラバラに細断される凶蛇達。呆然と見上げる、ベルトルドとヨナ。砂と化す寸前の、彼らが遺す。 ――戦士よ――。 ――次の世、あらば――。 ――決着を――。 散華。 舞う砂が、ヨナの掌にぱらぱらと落ちた。 残った鎧を踏み崩し、双子が笑う。 「馬鹿っすねー!」 「下らない拘りの為に、主の意向に逆らうなど……」 嘲りの言葉が、途切れた。 双子を襲う、衝撃。 受け止めた、盾と鎖の向こう。燃える、眼差し。 「貴様ら……」 「許さねぇ!!」 シリウスと、ナツキ。見ていた。彼らも。 「あらら? 鬼オコ?」 「怖いですね? 何を怒っておられるのです?」 「お前らの胸に、聞きやがれ!」 主の憤りのまま、猛り立つホープ・レーペン。燃え上がる黒炎が、アルメナの顔を照らす。 「彼らもベリアルですよ? 浄化師(貴方達)には、益な事だと思いますが?」 「そうだな……」 アステリオスを押し込みながら、呟くシリウス。 「……奴らは、敵だ。魂を喰らい、罪なき者を殺した。紛れもない、敵だ。だが……」 寡黙な筈の、彼の声。怒りが、彩る。 「お前達は、それ以上の外道だ!」 「うわ、めんどくさ……」 「怖い……」 嫌な顔をして飛び退く二人。その動きを、飛んできた鬼門封印と禁符の陣が縛る。 「およ?」 「あら?」 カグヤとルーノ。二人の陰陽師。冷めた声で、告げる。 「ああ。全く、器が知れるよ」 「分からないのね……。仲間の誇りも、想いも……」 「結局……」 回り込む影。ヴォルフラム。 「その程度なんだよね! 君達は!」 薙ぎ払う、斧。束縛を無視する様に、クルリと回るアルテラ。大盾で、受け止める。ぶつかる瞬間、没終発動。 「無駄です」 涼しい声が、言う。 「わたくしの『スヴェル』は、全ての攻撃を無力化します。例え、どの様な……」 「だから、何さ!」 構わない。そのまま、力づくで押し込む。 「……話くらい、聞いてくださいませんでしょうか」 ぼやいた途端、別方向から飛んでくるダガーとエアースラスト。 「……五月蝿いですね」 光る、アルテラの目。顕現した氷の盾が、尽く弾く。鉄壁の、防御。けど。 「こちらの盾役は抑えます!」 「そっちの、バカレッドの方を落として」 「ちょ、おま! バカレッドって何すかー!!」 「自分でバカと!」 「言ってたじゃないですか!」 「こ、こんの珍竹林コンビ――!!」 アルメナが喚いた途端、さらにぶつかる重い拳撃。 「んにゃにゃ!?」 「ベルトルド!」 「無事だったか……」 「すまん。遅れた」 笑いかけるナツキとシリウスに、静かに返すベルトルド。 「押すぞ!」 「おお!!」 吹き上がる、三つの黒炎。ジェット噴射の様に、圧殺する。 「いや、ちょっと! タンマタンマ! ノーリンチ! ノーいじめっすー!!」 「……黒炎の使い手三人……。アルメナだけでは、手に余りますか」 溜息をつくアルテラに、ヴォルフラムが言う。 「行かせると思う!?」 「思ってませんよ」 瞬間、地面から湧き上がった霜柱がヴォルフラムの足を凍てつかせる。 「しまった!」 「取り敢えず、死んでください」 構える貫手から、氷柱が伸びる。 「さよなら」 ヴォルフラムの心臓を貫こうとする、氷の槍。けれど。 「!」 咆哮を上げて割り込んだ雷龍が、それを阻む。同時に束縛する、二つの拘束。 振り返る先。凛と立つリチェルカーレ。そして、ルーノ。カグヤ。 「もう、傷つけさせない! 誰一人!」 氷の様だったアルテラの顔が、微かに歪む。 「ちょっと兄さん達! 何か、あちしに攻撃全振りしてないっすか!?」 せめぎ合いの中、喚くアルメナを睨む三人。 「当たり前だろ! バカ!」 「お前の武器の、馬鹿げた能力は把握している」 「なら、こちらも馬鹿正直な対応をするだけだ」 「分かったか! バカ!」 馬鹿、ゲシュタルト崩壊。 プッチン。 切れた。 「バカバカ言うなっす―――――!!」 激高と共に、アルメナの足が地面を叩く。瞬間。 轟音と共に、地面が爆ぜる。零距離炎爆魔法。爆弾が落ちた様な威力と炎が、周囲を蹂躙する。 成す術なく、吹き飛ばされる浄化師達。 「あっはっは――っ!! ザマーミロっす――!!!」 吹き荒れる爆風の中、笑うアルメナ。自由を得、鎌首を擡げる鎖回転刃。『イムフル』。 「みーんな、刺身にしてやるっす!! 小指の先から、サクサクってー!!」 「ち、ちくしょう……!」 「しまった……」 身を起こそうとするベルトルド達。けれど、火傷に軋む身体は言う事を効かない。 舌舐りをする様に、イムフルが踊る。 「み、皆……」 爆心地から比較的遠くにいた、リチェルカーレ。痛む身体を引きずり、皆を守ろうと雷龍召喚を試みる。けれど。 落ちる、影。 見上げる。 立ち塞がったアルテラが、蒼く輝く目で見下ろしていた。 「癇に障ったので、八つ裂きにしようと思いましたが……」 腰を屈め、視線をリチェルカーレに合わせる。伸びた手、彼女の顎をクイと上げる。 「可愛い、顔……」 薄氷の様な、笑顔。 「気が、変わりました。キレイに中身を抜いて、飾り物にしましょう」 もう片方の手が、氷を纏う。 「だ、駄目……」 少し、離れた場所。転がっていた、ヨナが呻く。 皆の、窮地。 動かない、身体。 絶望。 霞む、視界の向こう。 ――静かに、息づく卵――。 「ち、がう……こんなのは、違う……」 過る、走馬灯。 仲間。 宿敵。 止まない、慟哭。 命。 「私が……」 手を、伸ばす。 「私が、願うのは……」 求める先。輝く、卵。 「人が……人として……」 夢見る、明日。 「龍が、龍として……当たり前に、生まれて……生きる……」 届くのか。届かないのだろうか。 「そんな、世界……」 終わりが、近づく。 「龍の子よ……お願いします……」 でも。それでも。 「私に……皆に……どうか……」 諦めるなんて、出来なくて。 「希望の、光を……」 だから。 「………!」 戦いを見つめていたコッペリアが、ふと天を仰いだ。 「……ああ……」 呟いて。 「そう……貴女は……」 少しだけ。 「親でなく……」 寂しそうに。 「子を、取るですのね……」 理解を、示した。 ――慟哭が、響く――。 ◆ 唐突に、膝が崩れた。 獲物に喰いかかろうとしていたイムフルが、魂が抜けた様に落ちる。 「な……ん、すか……?コレ……」 地面に手を付いたまま、困惑の声を上げるアルメナ。 「馬鹿、な……今の、……は……」 同じ様に、伏したアルテラ。混乱のままに、呟く。 彼女を見つめたまま、リチェルカーレは忘我していた。 理解が、追いつかなかった。 有り得る筈が、なかった。 だって。だって、今の『声』は。『慟哭』は――。 再び響く、遠雷の如きソレ。 苦悶の声を上げ、さらに崩れ落ちる双子の魔。 「これは……」 ベルトルドが。 「何故……」 シリウスが。 「どうして、これは……」 ヴォルフラムが。 「ルー……ラー?」 カグヤが。 『支配(ルーラー)』。 全ての元素を統べ、自然の理を司る権能。 今は亡き、『かの古龍』の声。 「――――っ!!」 ヨナが。 そしてあの時、共に戦った者達が。天を、仰ぐ。 果たして、そこに。 『彼女』は、いた。 空を覆う巨体。 四枚の巨翼。 そして、六つの頭。 身体に色はなく、朧の様に儚い存在感。現世のモノでは、ない。 けれど、その姿は紛う事なく。 「『アジ・ダハーカ』……?」 「あの、古龍の、魂……」 「僕達を……」 「助けて、くれた……?」 誰かが、『どうして』と呟こうとした時。 「あ……」 ヨナが、気づく。 『彼女』の上から落ちてくる、もう一つの存在。遥かに小さい。けれど十分に大きな『ソレ』は。 「古龍の、息子……?」 呟く、リチェルカーレ。 そう。 人を友と呼び。 人に殺され。 それでも、人の救いを願った。 優しい。優しい。 龍の、息子。 伝え、語り。 彼は、落ちていく。高い空から、まっすぐに。 アジ・ダハーカの御霊が、光る。 別れる、六色の光。 息子の後を、追う様に。 向かう先は。 息づく、卵。 新しい、家族の腕。 星が落ちる、瞬間。 虚ろな意識の中で。 皆が、聞いた。 優しい。 優しい。 二つの、声。 ――ありがとう――。と。 光が、満ちる。 暖かい、光。 浮かび上がる、六色の宝珠。 愛しむ様に、抱く中。 昇華していく、卵の殻。 現れるのは、小さな人型。 巫女服を纏った、幼い少女。 たなびく羽衣。 龍の翼。 龍の角。 生成の様な姿。 けれど。 纏う神気は。清く。気高く。 彼女の胸に輝く、金の勾玉。 開く、双眼。 深い。深い。空の彩。 祝福が、響く。 そう。其は、正しく。 ――新たなる、神の顕現――。 「ふっ……ざけんじゃねっすよぉ――――っ!!」 激高の声を上げ、アルメナが立ち上がる。 支配に蝕まれる身体を震わせながら、荒び叫ぶ。 「アンタは! 古龍(アンタら)は、主に救われたんすよ!? それを、何裏切ってるっすか!? 『八百万』になんか、生ってるっすか!?」 神龍の少女は、答えない。 ただ、悲しげな瞳でアルメナを見つめる。 「………!!」 「……駄目です……。アルメナ……」 妹に呼びかけ、アルテラも立ち上がる。 「古龍(彼女達)は、人につきました……。もはや、『敵』です……!」 空色の瞳。伝える、肯定の意。 「……上等っすよ……」 憎しみの篭った声と共に、イムフルを掴む。 「ならこの場で、始末してやるだけっす――――っ!!」 イムフルを振りかざした瞬間。 神龍の少女が、口を開く。 流れ出る、声。澄み渡る、音。清き、歌。 胸の勾玉が。浮かぶ六色の宝珠が。輝く。 溢れた八色の光は輪を成して。広がる。包む。全てを、抱く。 「な、何すか!? コレ!」 通り過ぎる光の風の中、呻くアルメナ。アルテラが、察する。 「これは、『天恩天賜』……? いや、それよりも遥かに……」 「んな!?」 妹の声に、視線を上げる。見えたのは、立ち上がる浄化師達の姿。 「馬鹿な……! いくら回復した所で、あの傷では……」 言いかけて、驚愕する。 傷が、消えてゆく。治癒と言う、レベルではない。まるで、傷という事象自体が無かった様に、消えてゆく。 それだけではない。体力も。魔力も。全てが、逆回しの様に戻っていく。 「まさか……」 行き着いた結論に、走る戦慄。 「あの八百万が得た権能は……『命』……!?」 ギリッ! 牙を、噛み締める。 『命』を統べる八百万。それは即ち、創造神の絶対性を揺るがす可能性を持つと言う事。今ではない。それはまだ、ずっと先の未来。けれど。神である以上、その極みに至るは絶対。 危険! あまりにも、危険! 殺さねばならない。何としても、この場で。 氷槍。繰り出そうとした身体を、雷龍が咥えこむ。 「!」 振り向けば、雷を纏って立つリチェルカーレの姿。万全に戻った身体。術の威力が、違う。 「言ったわ。もう、誰も傷つけさせないって!」 「邪魔をしますか……」 雷龍を打ち伏せて、一撃を加えようとした所に、迫る殺気。振り向けば、アステリオスを構えて疾走してくるシリウス。咄嗟に、スヴェルで受ける。瞬間、発動するアステリオスの防御無効の権能。 最強の剣と、最凶の盾。 決めるのは、心の強さ。 弾け割るスヴェル。胸から肩を切り裂かれたアルテラが、悲鳴を上げて倒れる。 「姉貴!」 ベルトルドとナツキを相手にしていたアルメナが、悲鳴を上げる。 「畜生! 畜生! 何で、こうなるっすか!? 主の理想を叶える為に生まれたあちしらが、何で!?」 「理想?」 ベルトルドが、問う。 「仲間を殺してまで追う理想に、何の意味がある?」 「平和のためっす! 永遠不変の、平和な世界! それが、主の理想っす! その為の犠牲は……」 「そうか。ならば」 繰り出されるイムフルを掻い潜り、放つ爆裂斬。抉り込む爆炎が、先のお返しと共にアルメナを吹き飛ばす。 「ガァッ!?」 「創造神の理想郷とやらも、痴れたモノだな」 「こ、この……」 血反吐を吐きながら、手に灯す火炎。炸裂させようとした時、落ちる影。 「そして……」 跳び上がり、上段に構えたナツキが言う。 「そんな世界……」 権能開放。炎を纏う、ホープ・レーペン。振り下ろされる、必中必殺の斬撃。防ごうとしたイムフルを断ち、アルメナの胸を薙ぐ。 「俺達は、御免なんだ」 血を吹いて倒れるアルメナにそう言って、ナツキは大きく息を吐いた。 突如吹き上がる、氷風。蹂躙する嵐が、皆の視界と動きを奪う。 気づけば、双子を抱えて浮かぶコッペリアの姿。 「お姉……様……」 「ごめん……っす……」 「構いませんの。少し、眠りなさい」 泣きじゃくる双子にそう言って、コッペリアは浄化師達を見る。 「良いモノを、見させて頂きましたの。この娘達も、良い勉強になりましたの。次に見える時は、もっと良い持て成しも出来ましょう」 「……逃げるのかい?」 「そう思って下さって、結構ですの。正直、感心しましたの。だから……」 ルーノの問いにそう答えて、コッペリアは笑む。 「この次は『我慢してあげた分』、わたくしも混ぜて下さいませね?」 穏やかな声が孕む邪気。皆の背が、微かに泡立つ。 「それでは、ご機嫌よう」 そう言って、転送の魔方陣を展開する。稼働する間際、チラと視線を向ける。 見つめる、神龍の姫。微笑みを、向ける。 「……主が、お許しになりましたのね?」 頷く、姫。 「なら、せめても睦み合いなさい。かつて無くした、その時を」 ゆっくりと、頭を垂れる姫。習う様に、光る宝珠達。 「この次は、敵。容赦は、しませんの」 言い残し、消えるコッペリア。 姫は、頭を下げ続ける。絶えぬ感謝の意を、伝える様に。 ◆ 夕焼けに染まる空の下、楽しげな音が鳴り響く。 音の元は神龍の姫。彼女の歌声。 浄化師の皆が見守る中、姫は踊る。すっかり元気になったステラと手を繋ぎ、あおいの繰るマヤと輪を作り。 クルリクルリと、舞っては踊る。 「……で、結局アジ・ダハーカと息子さんの魂は、あの娘の魂に融合したの?」 ヴォルフラムの問いに、カグヤは『ううん』と首を降る。 「融合なんかしていない。それは、世界の理だから。あの女(ひと)達の魂は、あそこ」 指差す先は、姫の胸の勾玉と、守る様に周囲を回る六色の宝珠。 「あれが、アジ・ダハーカとお兄さんの化身。ああやって、あの娘を守ってる」 「それじゃあ、あの娘はお母さん達と……」 「うん。ずっと、一緒」 歓喜に顔を綻ばせたヴォルフラムが、カグヤに抱きつく。ムキュウと言いながら、笑うカグヤ。 「生まれたばっかだってのに、センスあるねぇ~。なかなかだよ。あのダンス」 「付き合うステラは、大変そうだがな。まあ、友達宣言したのは自分だ。仕方あるまい」 「明日は、筋肉痛でしょうね。アレは」 見つめるクォンタムとメルキオス。タオの顔にも、笑みが浮かぶ。 「何か、乗ってきたよ。僕も、混ざろうかな~」 「お、じゃあ俺も行こうか?」 舞台に上がろうとするメルキオスとナツキ。すかさずイザークがツッコミを入れる。 「やめておけ。可憐な少女達の舞いに良い年の男が混じるなど、ぶち壊しにも程がある」 あんまりな言い草に、マジでずっこける二人。皆が、笑う。 穏やかな空気の中、ヨナは考えていた。 光の中で、『彼女』の意思が言って来た。 あの娘には、まだ名がない。 だから、貴女達がつけてほしい。 古龍と人。双方の命を尊べる、貴女達が。 あの娘の未来を、導く名を。 ――と。 声はきっと、他の者達にも届いている。 一度、話し合いが必要だろう。 何せ、一世一代の重大指令なのだから。 黄昏に落ち行く世界の中で。 喜びの歌が流れゆく。 輝き抱く、六彩の光。 クルリクルリと、姫が舞う。 クルリクルリと、命が踊る。
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*** 活躍者 *** |
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[36] ヨナ・ミューエ 2020/05/14-23:21
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[35] ルーノ・クロード 2020/05/14-23:02
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[34] ルーノ・クロード 2020/05/14-22:56
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[33] リチェルカーレ・リモージュ 2020/05/14-22:01
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[32] ヴォルフラム・マカミ 2020/05/14-22:01
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[31] ルーノ・クロード 2020/05/14-21:44
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[30] タオ・リンファ 2020/05/14-21:33 | ||
[29] ヨナ・ミューエ 2020/05/14-20:02
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[28] ルーノ・クロード 2020/05/14-19:30
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[27] クォンタム・クワトロシリカ 2020/05/14-17:59
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[26] ルーノ・クロード 2020/05/14-17:00 | ||
[25] ヴォルフラム・マカミ 2020/05/14-16:58
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[24] ヴォルフラム・マカミ 2020/05/14-16:48
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[23] ヴォルフラム・マカミ 2020/05/14-16:48
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[22] メルキオス・ディーツ 2020/05/14-09:29
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[21] ヨナ・ミューエ 2020/05/14-01:52 | ||
[20] リチェルカーレ・リモージュ 2020/05/13-23:28
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[19] リチェルカーレ・リモージュ 2020/05/13-22:30 | ||
[18] 鈴理・あおい 2020/05/13-22:10
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[17] 鈴理・あおい 2020/05/13-22:05 | ||
[16] ルーノ・クロード 2020/05/13-21:21 | ||
[15] タオ・リンファ 2020/05/12-22:11 | ||
[14] ヨナ・ミューエ 2020/05/12-02:47 | ||
[13] リチェルカーレ・リモージュ 2020/05/11-22:51
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[12] リチェルカーレ・リモージュ 2020/05/11-22:48 | ||
[11] ルーノ・クロード 2020/05/11-01:39 | ||
[10] タオ・リンファ 2020/05/10-22:10 | ||
[9] ヨナ・ミューエ 2020/05/10-16:56 | ||
[8] リチェルカーレ・リモージュ 2020/05/10-12:30 | ||
[7] 鈴理・あおい 2020/05/10-12:14 | ||
[6] ヴォルフラム・マカミ 2020/05/10-01:32
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[5] ルーノ・クロード 2020/05/09-14:01 | ||
[4] リチェルカーレ・リモージュ 2020/05/08-18:08
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[3] タオ・リンファ 2020/05/08-02:00 | ||
[2] ヨナ・ミューエ 2020/05/07-22:37 |