~ プロローグ ~ |
それは魔女メフィストの一言から始まりました。 |
~ 解説 ~ |
○目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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1 ヴァーミリオンが騎士の末裔…か…知らなんだ とか考えてるうちに酷い罠に掛かってしまった… ドクター、魔力感知でどうにか脱出先をうげはぁっ えっドクター?何で私を押し倒すんですか? …ドクターのベアハッグはソーンケージ並の定番だから認定されなかったのでは さてドクターに重いという訳にも行かないしと思った直後、顔を持たれて何事かと思えば んんんんんんん!? どこでそんなの覚えたんですか!! 妙齢の女性なのですからもう少し慎みを…駄目だ遊ばれてる… もうドア開いてるのに…ドクター、いつになったら満足するんだろ… いや可愛いからいいんだが…いやよくない!?いや!どっちだ!? まあドクターが幸せだからいいか…可愛いしな… |
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故郷を失くした人たち そんな人たちのお手伝いができるのなら 頑張ろう 1 座り込んだ彼に慌てて駆け寄って 大丈夫!?貧血かしら あのね シリウス わたしの血を飲んでみるというのは? だってヴァンピールの人たち 好きな人の血は飲めるって 一応、わたしたち こ、こいびとなんだし… シリウスの頭を抱きよせる そんなことにならないわ 絶対よ ね?不味かったら吐き出していいから くすぐったい感触に目を細め 震える背中を撫で続ける どう? 良かった!あなたの救急箱になれるわね 開いた扉にきょとん バステト様に オクトの人のためにとお願い 対価ですか? ええとええと… 代わりになる可愛いリボンを あ!あとお昼寝用のクッションとか だめでしょうか?と不安そうな顔 |
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【魔】 え、と…いちゃいちゃって… (辺りをきょろきょろと見回し) さっきの声の方、どこかで見てるんでしょうか… 人前で、そんな、こと… 突然現れた花畑と家に驚き とても、素敵な景色ですね これ、クリスが? そう、ですね こんな所に住めたら、きっと、とても幸せだと、思います はい、もちろんです 私こそ、ずっと側にいさせて下さい そっと抱き返し 部屋が空いて見られてたことを思い出して真っ赤 猫の魔力の気配をウィッチ・コンタクトで追って 猫さん、支配の王玉って、知りませんか? 知ってたら、教えて下さい 以前聞いた姉といる姫様と言う言葉 きっと、この王国って… バステト様に アリシアと、申します みんなの幸せの為に、王玉を頂けないでしょうか |
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1 何だこの部屋は…意味が分からない だいたい何でアンタはノリノリなんだ そもそも、何をもっていちゃいちゃと判断するんだよ? はぁ!?キ…!? た、確かに初めてじゃないけど、というかいきなりしたのは悪いと思ってるけど! 改めてキスなんて言われてもうわぁ! 押し倒され固まる 別にいちゃいちゃするのが嫌なわけじゃないけど 強要されてやるのは癪だ 何よりいきなりこんなの恥ずかしい 心の準備がまだなのに迫られたら焦って逃げ出そうと ふにゃあ!? やめ…尻尾、離せ…! 力、抜ける… わ、笑ってないで、いいから離せ! キスでも何でもしてやるから! くたくたになった頃ようやく解放された ふらつきつつも猫を捕まえ、王玉をもらいにバステトのもとへ |
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支配の王玉を手に入れて オクトの人たちとの関係改善を ここの猫神様や猫騎士とも 仲良くなれるといいんだけれど リ:トラップや宝物が隠れている島かあ 何かわくわくする セ:自分でも解けないトラップ メフィストさん、昔からお茶目だったのね …怪我をしないようにねリューイ 楽しそうな弟に微笑んで 2 リ:追いかけっこ?楽しそうだねとお城に 坂道を転がってくる大きな石や 急に床が抜ける廊下を駆け抜けて 身が軽いのを生かして ぴょんぴょん飛びながら進む セ:まあ 仔猫が二匹 リューイの後ろを走る 上から降ってくる物は ペンタクルシールドで防御 交渉 くつろげるスペースを作るとかどうでしょう この島でも教団でも 日当たりの良い場所にクッションとか置いて |
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1 全てを悟られる前にとりあえず意識を朦朧とさせておこうかと思ったけど、そうは上手くいかないわね…流石ね。シロスケ 説明?聞いてたわよ?イチャイチャでしょ? 品位?大丈夫よ?どうせよい子のみんなはお目目をつぶってくれるし、悪い大人しか残らなくなるわよ それとも、よいこのみんな仕様がお望みかしら? 逃げるシロスケを隅に追い詰めてニンマリ 男だったら千載一遇のチャンスじゃない さぁ覚悟なさい!! 口紅をぬぐったものの気絶したシロスケの襟首をつかんでずるずると引きずり次の場所へ(すっごくつやつやしている) 猫の騎士たちに会ったら膝の上にのっけてブラッシングでもしてあげようかしら ついでにお腹を撫でさせてもらいましょ |
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3カジノ 勝負をしないと出られないと言うならするしかないが 何か…例えば命を賭けるとかではないのだな? そうでないのなら受けて立とう 勝負はポーカーを希望 ヴィオラ、そんな場合ではないと思うんだが 猫に夢中のヴィオラに溜息 勝負は時の運だが勝てるまでやればいつかは出られるだろう 表情が変わらない為どんな手が来てるのか読みにくい 勝てば即立ち上がる いや、勝ったのだから先を急ぐべきだろう ヴィオラ、もしかしてもっと撫でたいとか言うんじゃないだろうな? …もう一勝負だけだからな 他の者がもう外に出てることを祈り席に戻り 2回目の勝利でさすがにもういいだろうと部屋を出る 王玉があればこんな苦労はしなくて済むか よくお願いしなくては |
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3 ギャンブルで勝てばいいのね ハチワレの可愛い猫さん、私と勝負しましょう ところであなたにはお名前ってあるのかしら? なければ、クストと呼んでもいい? ポーカーで勝負 ポーカーフェイスは得意だけど致命的に引きが悪く、役なしの連続 むう…どうしてカードが揃わないのかしら… もう一度勝負よ! え…撫でればいいのね?お安い御用よ 喉や耳の後ろを優しく撫で 上機嫌で鼻歌交じりに ひとしきりモフモフを堪能したら再度勝負 …あら、今度はトールもやるの? 麻雀…やったことないけど、トールが教えてくれるなら 紅白戦ということは、味方のトールからロンしちゃダメなのね…難しそうだけど頑張るわ 猫を確保したらバステトの所へ 王玉をもらわなくちゃ |
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らしいな …メフィストと絡んだことないし どうなるかわからないけど 相性って 何基準だ…それ 無言でシキのハイタッチに応じる いちゃいちゃってのは、 ライラがヒューベルトにする、あれ(頬にキスのこと) 自分の頬を指でつついてみせる …前アンタの家に行ったときやってた(ため息) あの人たちっていうか正確には、ライラがやってた …普通に嫌 なんで男同士で… シキ…!? いきなりは止めろ…! …はいはい おずおずと シキの背に手を回して シキ、うるさい 耳元で変な笑いやめろ もう出れるから早く離れろ だからうるさいって |
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1【魔】 狭い部屋 仄かな灯り 漂う香の薫り そして寝具 もう一度聞き直す ヨ はい…? 今何と…? 私達は支配の王玉を取りに来たのであってですね… 喰人さんも何か言ってくださいっ 振り向くと既に上半身を寝台に投げ出し虚無顔の獣人 (どうしてこうなった)(どこから間違えた) ヨ あの 大丈夫ですか 気をしっかり(頬ぺしぺし ベ あ ああ 何とかな …で 口付けでもすれば満足なのか? 心を無にしてさっさと終わらせる いいな ぎしと音を立てる寝台 細い肩を掴む大きな手 ヨ ま 待ってください そうじゃなくて こういう感じで… 私が… 喰人の襟を掴みそのまま引き寄せ 辿々しいキスをあっさり受け入れてしまいながら …あまり巧くないな それもそうか 初めてだ何だと言っていた 続 |
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「ここは…外なの?」 なにかが作動したと思ったら、みずみずしい草花に風に揺れる木々の生える平原にいました。 「そうでもないみたいよぉ?スレイニーちゃん、こっちに扉があるもの」 ユニアさんが見つけた扉は開きません。 「出口の鍵は我々が持っているにゃ、しかし本物は1つで残りは偽物、出たいなら本物を探し当てて見せるにゃ!」 と、唐突に始まった当たりつき鬼ごっこに悪戦苦闘です。 バステトさんと交渉するために来たのに! 途中からイライラで手がでかけるユニアさんを説得しつつ、当たりを逃して最後の数匹。 でも隠れられて見当たらなくて… 「場所を占えないかしら?」 「うーん、それじゃあ木の枝を倒して倒れた方に行ってみましょうか」 |
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3 こ、ここは一体…… ステラ、大丈夫ですか? 皆さんと分断されてしまったのでしょうか。もしや、これがメフィストさんの言っていた罠……? !この声は……!? ……猫? 勝負はポーカーでも、ブラックジャックでも、ルールなら知っていますし、ルーレットでもなんでも 勝負内容は相手にお任せしましょう、勿論、公平が前提ですが 勝ったら出してもらえるんですね? 単純明快で助かりました、受けて立ちましょう! (数十分後) こ、こんなはずでは…… も、もう一度勝負です!これはきっと何かの間違いです…… バステトさんにはステラが接触したいそうです ス:じゃあ一緒にあそぼう! そしたらそいつがどんなヤツか分かってくるだろ? じゃあ……かけっこ! |
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よーし、あの人達の為にも頑張るわよ! …ところで兄弟って? あーっ!?ずるいずるい!あたしも今度混ぜてー!! 1 いちゃいちゃ…?えっイチャイチャってあの? マジで?こいつと!? じゃあシチュが大事でしょ!具体的に言うと美味しいお菓子とか! あとこの間作ってもらったドレスとか! (全部出され)…冗談のつもりだったんだけど、マジ? いつの間にかプリマヴェルも身に着けていて(アイテム参照) うぅ、これ着てると落ち着かない… やっぱりこれはシィラの為の服じゃないの …ふぇ(赤面) や、やだー!顔見ないでー! 照れ隠しにお菓子を食べ なんで!?何であたしってば急にドキドキしてんの!? |
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…これはトラップですか? 部屋の中にいる動物を探す事も必要そうですね 犬、猫…へ、ヘビ?(苦手)い、いえ動物は平等です。差別はいけません。 ……はい、よろしくお願いします 現時点では9匹ですね、あと一つはどこに…? なっなっ何を!? それは確かに条件を満たしますが……そういうトラップだったんですね いえ任務ですし…一応未来の…こ…んや…くしゃ…です、し(小声) 頭を撫でられるのは父ぐらいだけれど…でも大きくてなんだか安心する(少し寄りかかり) ……あのイザークさん、こんな所に一匹いました もしかして素直に動物をなでる部屋だったのですか!? (さっきの出来事を思いだし真っ赤になりながら)さあっ、部屋を出ましょう! |
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~ リザルトノベル ~ |
王城跡地に支配の王玉を探しに来た浄化師達。 皆は続々と、魔法の罠に掛かっていった。 ●エスキモーキスをアナタと (ヴァーミリオンが騎士の末裔……か……知らなんだ) 皆と一緒に王城跡地を探索している『ショーン・ハイド』は、指令に就くに当たって知らされた事実について考えていた。 彼の隣で一緒に探索しているのは『レオノル・ペリエ』。 彼女は他のエレメンツの浄化師と同じように、魔術探知で周囲を調べながら進んでいく。その途中―― 「ショーン!」 他のエレメンツの浄化師と同じく、魔力の変化に気付いたレオノルが警戒の声を上げる。 それにショーンが返すより早く、2人は出口のない部屋に跳ばされた。 「ここは……」 ショーンが油断なく警戒する中、気の抜けるような声が2人に掛けられた。 「よーく来ーたにゃー」 プラチナブロンドの毛並をした毛長の猫が、後ろ足で立ちながら状況を説明する。 「ここは、いちゃいちゃしないと出れない部屋にゃー。出たかったら、いちゃいちゃするにゃー」 わけの分からないことを言うと、猫は消える。 「魔法のトラップに掛かっちゃったみたいだね」 状況を把握したレオノルが言った。 「危険な感じはしないけど、だからってここに閉じ込められるわけにはいかないし。出口を探してみよう」 ショーンは頷くと、2人で部屋を探ってみる。 けれど出口らしきものは見つからなかった。 (ここは物理というより、ルールに縛られてる場所みたいだ。魔法で構成されてるみたいだけど、今すぐ解除するのは無理っぽいなぁ) しばらく魔術探知で周囲を解析していたレオノルは、結論を導き軽く頷くと、ショーンに視線を向ける。 ショーンは懸命に探っていたが、どうにも出来ないのを悟るとレオノルに身体を向け―― 「ドクター、魔力感知でどうにか脱出先を――」 尋ねたところで、レオノルにタックルされた。 「うげはぁっ」 ぽすんっ、と。タックルの勢いで、部屋に備え付けだった寝台の上に2人で倒れ込む。 「えっドクター? 何で私を押し倒すんですか?」 これにレオノルは、どこか悪戯っぽい表情で応えた。 「これはもう解除しようがないから言うこと聞いておこうかなって」 そう言うと、ぎゅっとショーンに抱き着く。 だが、何も起きない。 「要求レベルが高いな」 「……ドクターのベアハッグはソーンケージ並の定番だから認定されなかったのでは」 ショーンは努めて冷静に返しながらも、微妙に焦っている。 重なるレオノルの柔らかな重みに、意識が向いてしまいそうになるからだ。 だからレオノルに身体の上から離れて貰おうと思うが、なんて言えばいいのか思いつかない。 (ドクターに重いという訳にも行かないしな……) そんなことを思っていると、レオノルはショーンをじっと見つめたあと、眼鏡を外す。 「……ドクター?」 きょとんとするショーンの顔に手を伸ばし、そっと触れる。 「? ……??」 それでも状況が分かってないのか、無言で不思議そうに見つめるショーン。 (気づいてないみたいだ) レオノルはため息をつくように思うと、すっと顔を近づける。 おでこでショーンのおでこをこつん。 そして鼻と鼻を、ちょんっと触れ合わせる。 「んんんんんんん!?」 顔を真っ赤にするショーン。 「どこでそんなの覚えたんですか!!」 顔を真っ赤にしたまま慌てるショーンにレオノルは、ちょっと楽しくなって来る。 頭を撫でると、ハグをする。 「妙齢の女性なのですからもう少し慎みを――」 されるがままで、けれど止めようとするショーンに―― 「ショーンいい匂いするんだよねー」 レオノルは仔猫のように、ショーンの胸板に頭を寄せる。 (……駄目だ遊ばれてる……) 半ば諦め、ため息をつくように視線を周囲に向けると、今までなかった扉が出来ているのに気付く。 しかも、ちょっと開いてる。 (もうドア開いてるのに……ドクター、いつになったら満足するんだろ…… いや可愛いからいいんだが……いやよくない!? いや! どっちだ!?) 自分で自分に突っ込みを入れながら、レオノルに視線を向ける。 するとレオノルは楽しそうに、そして安心するように、心地好さげな表情をしていた。 小さく、ため息ひとつ。 (まあドクターが幸せだからいいか……可愛いしな……) 今の状況を受け入れるように想う、ショーンだった。 ●口づけは牙と共に (故郷を失くした人たち。そんな人たちのお手伝いができるのなら、頑張ろう) 皆と王城跡地を探索しながら『リチェルカーレ・リモージュ』は決意するように思う。 そんな彼女の隣で歩く『シリウス・セイアッド』は、見て分かるほど顔を青ざめさせていた。 本部防衛以降、酷い眩暈と耳鳴りが断続的にシリウスを責め立てている。 表情を取り繕うのには慣れているシリウスだったが、それがままならないほど症状は酷い。 「シリウス……」 心配そうな声が掛けられる。 大丈夫だ、と応えようとするが、すぐには返せないほど今のシリウスは憔悴していた。 そんな時だった。 2人は密室に跳ばされる。 「――リチェ!」 即座に警戒するシリウスに、気の抜ける声が掛けられた。 「よーく来ーたにゃー」 すらりとした白猫が状況を説明する。 「ここは、いちゃいちゃしないと出れない部屋にゃー。出たかったら、いちゃいちゃするにゃー」 そう言うと、ふっと消え失せる猫。 あまりな猫の言葉に、きょとんとするリチェルカーレ。 そんな彼女の様子に、張り詰めていた気が抜けていくシリウス。 そして今の状況を改めて理解し、思わず呻く。 「……あの猫……っ」 思わず力なく、ずるずると。壁に背中を預けるシリウス。 「大丈夫!? 貧血かしら」 慌てて駆け寄るリチェルカーレに、頭痛を堪えるような声が返ってくる。 「……平気だ。少し休んだら、出口を探――」 事態を打開しようと返すシリウスに、リチェルカーレは視線を合わせ提案した。 「あのね、シリウス。私の血を飲んでみるというのは?」 目を剥くシリウス。 「何を言って?」 「だってヴァンピールの人たち 好きな人の血は飲めるって。一応、私達、こ、こいびとなんだし……」 言葉が後ろになるほど、恥ずかしそうに小さくなるリチェルカーレに、シリウスは思わず言葉に詰まる。 「……」 「……」 お互い、思わず無言になる。 その沈黙が、少し2人を冷静にさせ、状況をより理解させる。 今さらながら、自分の提案に恥ずかしさを覚えて顔を真っ赤にするリチェルカーレに、シリウスも目元を赤くする。 とくとくと、お互いの鼓動が跳ねる中、シリウスは首を振り言った。 「……だめだ。お前を噛み殺したらどうするんだ!」 ほとんど悲鳴のような声を上げるシリウスに、リチェルカーレは慈しむように目を細め―― 「大丈夫」 シリウスの頭を抱き寄せ、温かな声で言った。 「そんなことにならないわ、絶対よ。ね? 不味かったら吐き出していいから」 抱き寄せながら、小さな子供にするように背中を撫でる。 じんわりと、リチェルカーレの想いがシリウスに融け込んでいく。 シリウスは、どこか縋るように。 そして求めるように、震える唇をリチェルカーレの首筋に近付ける。 口づけをするように、唇でリチェルカーレの首筋を食むように当てる。 「……ん」 くすぐったいような、ふるえるような、そんな感触。 体温が混ざり合うような感覚に、堪えるように小さく声を上げた。 けれど受け入れるように、リチェルカーレはシリウスの背中を撫で続ける。 だから、シリウスはリチェルカーレを求める。 鋭く、けれど可能な限り傷付けないよう小さく、牙を走らせる。 薄く肌を切り、滲み出るように血が流れ出る。 熱く、甘い。 そう感じてしまった自分が、本当に化け物なのではと、シリウスは自己嫌悪を感じてしまう。 だから、首筋から離れる。 するとリチェルカーレは、視線を合わせ問い掛けた。 「どう?」 「――眩暈は止まった」 「良かった!」 シリウスの応えに、リチェルカーレは花開くような笑顔を浮かべ喜ぶ。 「あなたの救急箱になれるわね」 リチェルカーレの言葉と、何よりも嬉しそうな彼女の笑顔に、シリウスは息を飲む。 「……ふ」 気の抜けたシリウスは、思わず微笑した。 すると、扉が現れ独りでに開く。 それに気付いて、きょとんとするリチェルカーレだった。 ●ずっと、2人一緒に 「え、と……いちゃいちゃって……」 パートナーである『クリストフ・フォンシラー』と密室に飛ばされた『アリシア・ムーンライト』は、辺りをきょろきょろと見回し困惑するように言った。 「さっきの猫さん、どこかで見てるんでしょうか?」 状況を説明し消えた猫のことを思い出しながらアリシアは言った。 「人前で、そんな、こと……」 「そうだね」 アリシアに応えながら、クリストフは思う。 (いちゃいちゃするのはいいんだけど。それを見物されてるんだろう事がね) アリシアを見れば、恥ずかしそうに頬を染めている。 (アリシアが恥ずかしがって死にそうになるだろ、絶対に) とはいえ、そうしないと出られそうにない。 (せめてここがもう少し……そう、勿忘草の花畑みたいな場所なら) クリストフが、そう思った途端、周囲の景色が一変する。 雰囲気の好い個室が、花弁が散るように消えていき、代わりに広がったのは一面の花畑。 「ここって……」 見覚えのある景色に、クリストフは目を瞠る。 「もしかして、思った物が出てくる?」 (なら小さな洒落た家とか) 思うとすぐに、2人の近くに一軒の家が現れた。 「とても、素敵な景色ですね」 周囲の景色に、アリシアは嬉しそうに言った。 「これ、クリスが?」 クリストフは頷き応える。 「アリシアと将来住むならこんな場所がいいかなって思ったら出てきたよ」 視線を合わせ、やわらかな笑顔で続ける。 「どうかな?」 「そう、ですね」 アリシアは応えるように笑顔を浮かべ、花畑と家に視線を向け言った。 「こんな所に住めたら、きっと、とても幸せだと、思います」 「それなら好かった」 クリストフは、アリシアの手を取ると、うやうやしく手の甲にキスをする。 そして、手を繋いだまま、願うように言った。 「ずっと側にいてくれる?」 「はい、もちろんです。私こそ、ずっと側にいさせて下さい」 アリシアの応えにクリストフは、そっと引き寄せる。 そして、ぎゅっと抱き締めると髪を撫でた。 アリシアは応えるように、そっと抱き返す。 少しだけ、2人の時間を過ごした後、いつの間にか扉が出来ており、しかも少し開いているのに気付く。 「クリス……」 見られていることを思い出し顔を真っ赤にするアリシア。 アリシアの呼び掛けで状況に気付いたクリストフは、そっとアリシアから身体を離すと、先ほどの猫の探索に動く。 そして部屋を出る寸前―― 「マタタビ、出てこないかな?」 クリストフが小声で言うと、ふっと掌にマタタビの入った匂い袋が現れる。 苦笑しながら部屋を出て、猫の魔力の気配をウィッチ・コンタクトで追って行き、途中で一際濃い場所にまで辿り着くと、マタタビの匂い袋を取り出して置いてみる。すると―― 「うにゃ~ん」 猫が釣れた。 「にゃにゃにゃ~う。分かってるのに出ちゃうのにゃ~」 匂い袋に身体を擦りつけるようにして転がる三毛猫に、アリシアは腰を下ろし呼び掛けた。 「猫さん、支配の王玉って、知りませんか? 知ってたら、教えて下さい」 その問い掛けには熱が篭もっている。 (きっと、この王国って……) 以前聞いた、姉が世話役となっているという姫様。 それは、いま居る亡国に関わっているのだろう。 だから、姉の手かがりを得るためにも尋ねる。すると―― 「んにゃ~。王さまが知ってるにゃ~。案内するからついて来るにゃ~」 マタタビを堪能したあと三毛猫は応えると歩き出す。 その後を連いていくアリシアとクリストフだった。 ●彼の弱点 「何だこの部屋は……意味が分からない」 ムーディな密室に跳ばされた『ベルロック・シックザール』は、混乱するように言った。 ちなみに今いる部屋と言えば―― 全体的に淡いピンク。 天蓋つきベッドにムーディーな音楽が流れ。 状況を説明した猫が張り付けた『いちゃいちゃしないと出られない部屋』の張り紙が壁に貼られている。 (こういうの本で読んだことある) 状況を理解した『リントヴルム・ガラクシア』は、とりあえずベッドに座ってベルロックを手招きする。 「じゃあ、いちゃいちゃしよっか」 にっこり笑顔なリントヴルムに、ベルロックは突っ込みを入れるように返す。 「何でアンタはノリノリなんだ!」 「ベル君が相手だからだよ」 「~~っ! なんでそういうことをいつもいつもサラッと言えるんだよ!」 顔を赤らめながら、ベルロックは続けて言った。 「そもそも、何をもっていちゃいちゃと判断するんだよ?」 「何をもってって……うーん、キスとか?」 「はぁ!? キ……!?」 リントヴルムの提案に、更に顔を真っ赤にするベルロック。 そんなベルロックに、楽しそうに目を細めながらリントヴルムは言った。 「何を今更、そんなんで焦る段階でもないでしょうよ、僕達」 これにベルロックは、一瞬言葉に詰まるも、すぐに返す。 「た、確かに初めてじゃないけど、というかいきなりしたのは悪いと思ってるけど!」 当時のことを思い出し、恥ずかしさで鼓動が跳ねる。 そしていつまで経っても離れたままのベルロックに、リントヴルムは苦笑するようにため息ひとつ。 「……全く往生際が悪いなあ」 小さく呟くと、すっとベッドから腰を上げベルロックに近付く。そして―― 「改めてキスなんて言われても――うわぁ!」 リントヴルムはベルロックの手を取って引き寄せると、そのままベッドに向かって連れて行き、腰に腕を回して2人一緒にベッドに倒れ込む。 慌てて起き上がろうとするベルロックに、リントヴルムは逃がさないというように、押し倒すようにして引き戻す。 押し倒されて固まるベルロック。 恐怖や嫌悪でそうなっている訳じゃない。 けれど、今の状況は望んでいる訳でもない。 (別にいちゃいちゃするのが嫌なわけじゃないけど) リントヴルムに好意を抱いているのは自覚している。 けれど、いやだからこそ―― (強要されてやるのは癪だ) それになにより、いきなりこんなのは恥ずかしい。 だから逃げ出そうとする。すると―― 「キスするの、嫌?」 悲しげな、そして切なげな声に意識が奪われる。 「僕、ベル君ともいちゃいちゃしたいな」 じっと、求めるように見詰めるリントヴルムの眼差しに、ベルロックは意識を持って行かれそうになる。けれど―― (やっぱりダメだ! いきなりこんなの、無理!) 心の準備がまだなのに迫られてしまい、焦って逃げ出そうとする。 「あっ、待って!」 逃げ出すベルロックを引き止めようと、反射的に手を伸ばしたリントヴルムが掴んだのは、ベルロックの尻尾。 「ふにゃあ!?」 どこか甘えた声を上げてしまうベルロック。 「やめ……尻尾、離せ……! 力、抜ける……」 ふにゃふにゃになるベルロックに、思わず苦笑するリントヴルム。 「あ、ごめんね弱点だった?」 「わ、笑ってないで、いいから離せ! キスでも何でもしてやるから!」 「ホントに? 嬉しいな。でも、可愛いからしばらくこのままで」 「ふざけんな! バカ! ふにゃあ~」 にぎにぎしたり、くすぐるよう撫でたりして、しばらくベルロックを堪能するリントヴルム。 ひとしきり楽しんで、力の抜けているベルロックに、触れ合うような親愛のキスをして解放するリントヴルム。 「さて、これでいちゃいちゃしたことになるのかな?」 リントヴルムが呟くと、すぅっと、真正面の壁に扉が現れ独りでに開いた。 「出れるみたいだよ。さっきの猫を探そう、ベル君」 「……うぅ、酷い目に遭った」 くたくたになりながらもベルロックはベッドから起き上がり、リントヴルムと共に猫探しスタート。 「こっちにゃー」 「待て!」 楽しそうに逃げ回る猫に、懸命に追いかけるベルロック。 とはいえ先ほどの、リントヴルムからの尻尾いじりで、まだ力が入らないのか追い付かない。 「捕まえられないね~」 「暢気に言うなー! アンタのせいなんだからもっと走れ!」 「はーい。それじゃ、挟み撃ちにしようか」 そう言うと、リントヴルムは天空天駆で飛び上がり、障害物を乗り越えて猫を先回り。 「うにゃっ、それはズルいにゃっ」 「使える物を、使っているだけだよ」 「よし、捕まえた!」 協力して走り回る虎縞の猫を捕まえて、猫の案内に従いバステトの元に向かう2人だった。 ●風雲ねこねこ城の冒険 「トラップや宝物が隠れている島かあ。何かわくわくする」 虚栄の孤島に渡る船に乗りながら、『リューイ・ウィンダリア』は声を弾ませて言った。 これに『セシリア・ブルー』は、やんちゃな弟を見守る姉のように、くすりと小さく笑みを浮かべる。 「自分でも解けないトラップ。メフィストさん、昔からお茶目だったのね」 そこまで言うと、気をつけるように続ける。 「……怪我をしないようにね、リューイ」 「うん、分かってるよ」 安心させるように、リューイは返した。 そんなリューイの様子に、微笑みを浮かべるセシリアだった。 そして島に上陸。 目的地の王城跡地に辿り着き、皆で探索開始。 「支配の王玉を手に入れて、オクトの人たちとの関係改善に繋げよう」 意気込むリューイに、セシリアは微笑みながら頷く。 そして探索をしながら進んでいくと、ふっと皆が消え失せた。 「セラ!」 「リューイも気をつけて」 2人が警戒していると―― 「心配しなくても良いにゃ~」 「それぞれ跳ばされてるだけにゃ。安心するにゃ」 手の平に乗りそうな大きさの仔猫が2匹。2人の前に現れると、状況を説明した。 「みんな、危ないことは無いのね?」 「そうにゃ。遊――じゃないにゃ。わっちら猫の騎士の試練をクリアしたら、王さまに会えるのにゃ」 「手加減しないにゃー」 セシリアの問い掛けに応える仔猫2匹。 それを聞いていたリューイは目を輝かせる。 「昔話の冒険みたいだ。追いかけっこ? をするんだよね。楽しそうだ」 「そうにゃそうにゃ」 「追いかけっこにゃ」 盛り上がるリューイと仔猫2匹に、微笑ましげにセシリアは笑みを浮かべる。 (この先の交渉が上手くいくかはわからないけど、まずはひとつひとつ信頼を積み上げていかないと。それがきっと、今必要なことね) 先のことも見据えやる気をみせるセシリアは、リューイと一緒にスタートの時を待つ。 「10数えたら始まりにゃー」 「それまで動いちゃダメにゃ。ダメにゃ」 仔猫2匹は、後ろ足で立って身振り手振りを踏まえ説明すると、たたたっと走り出す。 「いーち」 「にーい――」 仔猫なので、全力で走ってはいるのだが、それほど速くはない。 まだまだ見える程度に離れた所で―― 「じゅーう」 追いかけっこ、スタート。 「行こう、セラ」 笑顔でリューイはセシリアの手を取ると、引っ張るように走り出す。 「慌てちゃだめよ」 苦笑しながらセシリアも一緒に走る。 すぐに追いつくと思っていたのだが―― 「うわっ」 走れば走るほど、傾斜が急になる。 坂道になり、こけないようにしていると、後ろからゴロゴロという音が。 「セラ、岩が!」 大きな岩が後ろから転がって来た。 「落ち着いて避けましょう」 繋いでいた手を離し、2人は避ける。 避けると岩は、ふっと消えてしまう。 「うわっ、消えちゃったよ」 「これも魔法のトラップかしら?」 「きっとそうだよ。他には何かあるのかな」 楽しそうに声を弾ませるリューイに、苦笑しながらセシリアは一緒に走っていく。 すると今度は、床が抜けるトラップが。 「セラ、気をつけて!」 魔力探知で予兆が見えるリューイは、セシリアに声を掛けながら進んでいく。 リューイは、魔性憑きらしい軽やかなステップで、ぴょんぴょん跳びながら進む。 一方セシリアは、ふわりと優雅に。 そうして進んでいくと、今度は長い廊下に辿り着く。 すると、ごごごっ、という音をさせ、ゆっくりと天井が下がって来る。 「セラ!」 「早く走り抜けましょう」 廊下を走りきれば大丈夫そうなので、2人は走る。 リューイはセシリアと手を繋ぎ、引っ張るようにして一緒に走っていたが―― 「こっちのが動きやすいよ」 ひょいっとセシリアを抱き上げて、スピードアップ。 お姫さま抱っこをされながら、セシリアは目をぱちくり。 「前は私がだっこしてあげたのに」 「3つくらいの時の話を持ち出さないで! 今は成長したんだから」 「大きくなったこと。もっとゆっくり成長してくれていいのに」 「僕はもっと早く。強くなりたいと思ってるよ」 会話を重ねながら、廊下を走り抜ける。 その先は、広い執務室になっていた。 「ここに、居るはずだよね」 「隠れてるんだと思うわ」 2人は部屋を探索。 (猫なら狭いところが好きじゃないかしら) セシリアが周囲を見渡すと、部屋の棚のひとつに箱がある。 リューイと顔を見合わせ、そろりそろりと近付いて、そっと箱の蓋を上げる。 中には、丸まってくっ付き合う、2匹の仔猫。 「見つけた」 嬉しそうな声を上げ、リューイは仔猫を抱き上げる。 「にゃー、見つかったにゃー」 「見つかっちゃったにゃー」 ごろごろと喉を鳴らしながら体を摺り寄せる2匹の仔猫と、それを抱き上げ笑顔を見せるリューイに、微笑を浮かべるセシリアだった。 ●肉食彼女と草食彼氏 「ここは、いちゃいちゃしないと出れない部屋にゃー。出たかったら、いちゃいちゃするにゃー」 (なに言ってんだ?) 突如現れた猫の言葉に『バルダー・アーテル』は軽く混乱する。 (いきなりこんな場所に跳ばされて、どうなるかと思えば……) げんなりとしていると、猫は続けて言った。 「逃げようとしても逃げられないから、がんばるにゃー」 気のせいか、バルダーの後ろに向かって言ったように感じる。 (……ちょっと待て) 激烈に嫌な予感が背筋を走り、考えるよりも早く前方にダッシュ。 すると風切り音と共に、後頭部があった場所を何かが通り過ぎる音がした。 「あら、残念」 バルダーの後頭部を蹴り損なった『スティレッタ・オンブラ』は、心底残念そうに言った。 「全てを悟られる前に、とりあえず意識を朦朧とさせておこうかと思ったけど、そうは上手くいかないわね……流石ね。シロスケ」 「ちょっと待て」 状況をいやおうなしに理解したバルダーは、冷や汗を流しながら言った。 「何する気だ」 「野暮なことを訊くわね。そんなの決まってるじゃない」 憐れな獲物を前にした肉食獣のような笑みを浮かべるスティレッタに、バルダーは小さく呟く。 「獣を目覚めさせてしまった……」 (いや前から目覚めてたんだ……) 色々と身の危険――男の純情だとかその他諸々が、風前の灯のごとく揺らいでいるのを直感したバルダーは、落ち着かせるように言った。 「説明聞いてただろ!?」 「説明? 聞いてたわよ? イチャイチャでしょ?」 「違うイチャイチャじゃない! 品位を守れって話だ!」 必死なバルダーに、見下ろすような妖艶な笑みを浮かべスティレッタは返す。 「品位? 大丈夫よ? どうせよい子のみんなはお目目をつぶってくれるし、悪い大人しか残らなくなるわよ」 スティレッタの言葉に、ふわりと紙が2人の間に落ちてくる。 それには、こう書かれていた。 ――オッケーにゃ。おめめ、ぎゅってするにゃ。 「あら、物分かりが好いわね」 「ふざけんなよ猫ー!」 バルダーの味方は0である。 「待て、落ち着け。見られてないからって、ここには指令で来てるんだ。浄化師としての品位を第一にだな――」 「バカねぇ。浄化師である前に、男と女でしょ。いい大人なんだから、艶ごとのひとつやふたつ――」 「お前さっき悪い大人とか言ってただろーっ。俺は悪い大人になる気はないからな」 これにスティレッタは、軽くため息ひとつ。 そして、本人にとっては譲歩するように言った。 「しょうがないわねぇ。なら、よいこのみんな仕様がお望みかしら?」 「よい子のみんなが見られる程度の範囲……」 一瞬口車に乗りそうになるバルダーだったが、それでも意志は固い。 「いやそれでも俺は譲れるか馬鹿野郎!!」 そう言うと全力ダッシュ。 この部屋から出られないかと探しまくる。 が、無駄。 (扉、扉自体がとこにもないじゃないか!) 焦るバルダーに、猫からの紙が追加でふわり。 ――諦めるにゃ。 「ふざけるなー!」 「往生際が悪いわねぇ」 ゆっくりと近づくスティレッタ。 どうにか逃げられないかと、密室の中を走り回るバルダー。 じわじわと追い詰められながら、バルダーは思う。 (誰だこんな凶悪な生物兵器を祓魔人として登録した人間は――) 採用官は、とんだとばっちりである。 そんなこんなで、延々と密室を走り回りながらも、そもそもがそんなに逃げられるほどの広さは無いので追い詰められるバルダー。 「よせ、近寄るな!」 部屋の隅に追い詰められ、絶体絶命のバルダー。 追い詰めたスティレッタは、ニンマリ笑顔で言った。 「男だったら千載一遇のチャンスじゃない」 「千載一遇のチャンスなのはお前だろう!!」 なんとか会話で危機を打開しようとするも、もはや言葉は要らぬとばかりに近付いてくるスティレッタ。 「さぁ覚悟なさい!!」 「だっだれか! たすけ――」 そして部屋を覗いていた猫は、視線を外した。 しばし過ぎた頃、王城跡地の一角に、すうっと扉が現れる。 かちゃりと扉を開け、出てきたのはスティレッタ。 なんというか、めっちゃつやっつやしていた。 そして彼女の後に、しばらくしてから、よれよれになりながら口にべったりと赤い口紅をつけたバルダーが出て来る。 バルダーは、口紅を手で拭うと―― 「おのれ……猫どもめ……」 それだけ言うと、へにゃへにゃと崩れるように倒れ伏し気絶した。 「シロスケ? しょうがないわねぇ」 バルダーの襟首を掴んで、ズルズルと引っ張りながら次の場所に進むスティレッタだった。 ●ギャンブルにゃんブル 「わあ、可愛い猫ちゃんがいますよ、ニコラさん」 カジノテーブルの上にお座りしている、ディーラー服の上半分を着た猫に『ヴィオラ・ペール』は歓声を上げる。 「ね、ナデナデしても良いですか?」 「ヴィオラ、そんな場合ではないと思うんだが」 猫に夢中なヴィオラに、『ニコラ・トロワ』は軽くため息ひとつ。 「そうでした」 ニコラの言葉に、猫に手を伸ばそうとしていたヴィオラは手を引っ込める。 その間も、ニコラは状況把握に努めていた。 (探索中にここに跳ばされたと思ったら、これはどういうことだ?) 周囲を見渡せば、広々としたカジノが広がっている。 何度か実戦を潜り抜け、危険な場所かどうかは肌で感じ取れるので、そういった物とは無縁だとは実感できているものの、それでも得体のしれない場所なのには違いない。 すると、ディーラー猫が口を開いた。 「よく来たにゃー」 喋る猫に軽く驚くも、何度目かの生を繰り返した猫なのだと理解し、問い掛ける。 「ここは、どこなのだろうか? 私達は、先ほどまで王城跡地を探索していたのだが」 ニコラの問い掛けに、ディーラー猫は応えた。 「ここは猫カジノ、にゃすベガスにゃ! そしてあちしは、にゃんブラー、チップにゃ!」 自己紹介と共に状況を説明する。 「なるほど。勝負をしないと出られないと言うならするしかないが、何か……例えば命を賭けるとかではないのだな?」 念のために尋ねるニコラに、チップは応える。 「そんな事しにゃいにゃ! こわいにゃ!」 チップの応えに納得したニコラは返す。 「承知した。では、受けて立とう。勝負は……ポーカーを希望する」 (勝負は時の運だが勝てるまでやればいつかは出られるだろう) ニコラは部屋を出ることを一番に考え、勝負を決める。 するとチップは質問してくる。 「何のポーカーをするにゃ?」 「……なに?」 思わず聞き返すニコラに、チップは応える。 「色々あるにゃー。昔からあるのだと、手札を隠したままのクローズド・ポーカーがあるけど、最近は何枚か手札を伏せて戦うスタッド・ポーカーもあるにゃ。テキサスホールデムみたいなフロップ・ポーカーもあるのにゃ」 「……そんなに種類があるのか?」 「あるにゃ。ん~にゃ、ベット(賭け)ラウンドの事とか、知ってるかにゃ?」 「勝負ごとにチップを幾ら掛けられるかを決める制限時間だったと思うが」 「にゃう、そうにゃんだけど……にゃう、分かったにゃ。それじゃクローズド・ポーカーで、1回でも勝てれば良いことにするにゃ」 チップの説明にニコラは頷き、ヴィオラも参加することにする。 「ポーカーをするのですか? では私もニコラさんと一緒に参加させて下さいね。2人で挑めばどちらかは勝てるかもしれませんし」 というわけで、早速勝負。 チップは、トランプのカードが納められているカードシューターから1枚ずつカードを取り出し、2人に渡していく。 「んっしょ、んっしょ。あげるにゃ」 (あ、かわいい) カードを配るチップの様子にヴィオラは和む。 そして勝負をしていき―― 「勝ったにゃー」 チップが連続で勝つ。 「負けちゃいました」 「撫でるにゃ~」 負けるたび、ヴィオラがチップを撫でてやる。 (このまま負け続けたら、ずっとナデナデできるかも) 笑顔でチップを撫でながら思うヴィオラ。 と思っていた所で、ニコラがフルハウスで勝つ。 「さて、行くか」 勝ったので出口の扉が現れたのを確認したニコラは、即座に椅子から立ち上がる。そこにヴィオラが―― 「可哀相ですし、もう一回勝負してあげません?」 これにニコラは、ため息をつくように返す。 「ヴィオラ、もしかしてもっと撫でたいとか言うんじゃないだろうな?」 「え? そんな訳ないじゃないですか、ふふっ」 ヴィオラは動揺を隠し笑顔で押し切る。 「だってもう一勝負したからってニコラさんが負けるとは限りませんもの、ね?」 「……もう一勝負だけだからな」 ニコラはヴィオラの笑顔に負けて席に戻る。 (他の者がもう外に出ていると良いんだが) そう思いながら勝負を再開。 3連敗したあとに勝ったので、さすがに今度は外に出る。 (王玉があればこんな苦労はしなくて済むか) 改めて支配の王玉探索に意気込むニコラに、チップを抱きかかえながら後を付いていくヴィオラだった。 ●2人と2匹で麻雀しよう 「ギャンブルで勝てばいいのね」 にゃすベガスに『トール・フォルクス』と共に跳ばされた『リコリス・ラディアータ』は、目の前のハチワレ模様の猫に尋ねる。 「ハチワレの可愛い猫さん、私と勝負しましょう」 「勝負にゃー」 ディーラー服の上半分を着たギャンブラー猫、にゃんブラーは前足を上げて喜ぶと、どんなポーカーをするか尋ねてくる。 「どれが良いにゃ?」 「色々あるのね。それじゃ、クローズド・ポーカーでお願いしようかしら」 「オッケーにゃ」 にゃんブラーは頷くと、ポーカーテーブルが現れ、そこにぴょんと乗る。 「ここでするにゃー」 にゃんブラーに促されリコリスが席に着くと、ひとつ質問した。 「ところであなたにはお名前ってあるのかしら?」 「6つあるにゃー」 「6つも!?」 「そうにゃー。一番最初に死んだ時に呼ばれてたのがマオで――」 7回目の猫生をおくっているらしいハチワレ猫は、それぞれの猫生で飼われていた飼い主から貰った名前を口にする。 「――で、6つにゃ。でも、今は誰にも飼われてにゃいから、名前は無いにゃ」 これを聞いたリコリスは、ひとつ提案する。 「なら、クストと呼んでもいい?」 「にゅふ~、好いのにゃ。わっちは今日からクストにゃ」 尻尾をくねくねさせながらクストは応えると、勝負を開始する。 「カードを配るにゃー」 カードシューターからカードを取り出し、1枚1枚カードを配っていく。 「ありがとう」 リコリスは礼を言うとカードを受けとり、札を確認する。 それを横からトールが、ひょいっと覗き込む。 (さて、手札は) リコリスがやる気をみせているので、まずは口を挟まずお手並み拝見とばかりに見てみたのだが―― (これじゃ勝てないかもな……リコ、カードは苦手みたいだし) 良くない手札を見て、トールは固まってしまう。 そうとは知らないリコリスは、カードとにらめっこ。 (むう……どうしてカードが揃わないのかしら……) ポーカーフェイスで表情は読ませないが、致命的に引きが悪く揃わない。 「4枚お願い」 「分かったにゃー」 カード交換をして、いざ勝負。 「ワンペアよ」 「ツーペアにゃ」 最初の勝負はクストの勝利。 「負けちゃった。もう一度勝負よ!」 リコリスの呼び掛けに―― 「にゃふふ~。まだ勝負したいかにゃ?」 「もちろんよ」 「いいにゃ~。その代り、撫でるにゃ~」 「え……撫でればいいのね? お安い御用よ」 トコトコと近付いて来たクストを抱っこすると、喉や耳の後ろを優しく撫でやる。 「にゃふふ、にゅふ~」 撫でられて、ご機嫌に喉を鳴らすクスト。 すると、新たに猫が1匹現れる。 「にゃ。わっちも撫でるにゃ~」 クストとは色違いのハチワレ猫が、トコトコとトールに近付く。 「え~と、名前は――」 「ルクルにゃ」 トールに名乗ると、ルクルは足元で待機。 トールは苦笑しながら撫でてやると、続けて言った。 「数が揃ったし、2対2の紅白戦で麻雀勝負をしないか?」 「あら、今度はトールもやるの?」 問い掛けるリコリスにトールは応える。 「リコには俺がルールと簡単なコツを教えるよ」 「麻雀……やったことないけど、トールが教えてくれるなら」 ということで麻雀勝負。 勝負の前に、トールはリコリスに耳打ちする。 「なるべく自分が親の時にアガるように心がけるんだ。でも行けると思ったらそれにこだわらず思い切ってな」 作戦を打ち合わせ。 「紅白戦ということは、味方のトールからロンしちゃダメなのね……難しそうだけど頑張るわ」 麻雀のルールを覚えた所で、トールとリコリスは勝負に挑む。すると―― 「それじゃ麻雀部屋に」 「模様替えにゃ」 クストとルクルが前足で何かを招くようにくいくい動かすと、周囲の景色が一変する。 (カジノの中に雀荘的空間が……!) トールが驚く中、一瞬で麻雀卓が現れる。 「それじゃ、始めるにゃー」 というわけで、麻雀開始。 東風戦で、親はトールから。 牌を並べ、順調に打っていく。 「ポン」 トールはリコリスのアシストを考え、猫2匹の流れを断ち切るような動きで打っていく。そして―― 「ロンよ」 「うにゃ」 負けていたルクルが勝ちを急いで出した牌を拾い、リーチをしていたリコリスが上がる。 「えっと、これって、何点になるのかしら?」 「それは――」 役を確認したトールは、笑顔で応える。 「裏ドラが乗ったから跳満。リコは親だったから18000だ」 「にゃうっ、飛んだにゃ」 ハコ割れになるハチワレ猫。 これにてリコリスとトールの勝利。とはいえ―― (最初の方で良い牌が揃ってたから勝てたけど、そうじゃなかったら分からなかったな) 麻雀はまだまだ初心者だったこともあり、引きの良さで勝利を引き寄せたという感じではあった。 そんな内心ひやひやしていた所に、クストとルクルが泣きのお願い。 「もう1回、もう1回にゃー」 「もっと遊ぶにゃー」 これにトールは苦笑しながら言った。 「え? もう一度勝負? うーんどうしようかな。もう1回撫でさせてくれたら考えてみるよ」 「いいにゃー」 「撫でるにゃー」 2匹はそう言うと、トールとリコリスの元に。 するとトールとリコリスは2匹を抱き上げ―― 「捕まえた」 「支配の王玉のある場所に案内して貰うわね」 2匹を抱きかかえたまま、にゃすベガスから外に出る扉に向かう。 「にゃう~」 「捕まっちゃったにゃ~」 抱き抱えられる2匹は、まんざらでもない声を上げ、一緒に外に出て行くのであった。 ●なかよし2人 「この島の迷宮全部、メフィストさんが作ったんだ」 虚栄の孤島に上陸した『シキ・ファイネン』は、物珍しげに周囲を見渡しながら言った。 「本人にも、今どうなってるのか分からないんだって」 「……らしいな」 シキの隣で歩いていた『アルトナ・ディール』は、視線を向け応える。 「メフィストと絡んだことないし、どんなトラップがあるかもわからないけど気をつけないとな」 「うんうん、そうそう」 アルトナの応えに、シキは笑顔で返す。 「俺もそう思ってた。やっぱ俺とアルって相性いーじゃん」 「相性って 何基準だ……それ」 「俺とアルトナきゅん基準だよ~。いえいっ」 アルトナに返しながら、ハイタッチを求めるシキ。 「……」 無言のまま、シキのハイタッチに応じるアルトナだった。 そして王城跡地に到着。 しばらく皆と探索していると、2人一緒に密室へと跳ばされた。 「よーく来ーたにゃー」 「……?」 状況がつかめない内に現れた喋る猫に、シキとアルトナが混乱していると、猫が状況を説明する。 「ここは、いちゃいちゃしないと出れない部屋にゃー。出たかったら、いちゃいちゃするにゃー」 「ちょっと待て、どういうことだ」 「うにゃ?」 状況がつかめきれないアルトナが猫に問い掛ける。 消えようとしていた猫は呼び掛けられ、さらに説明する。 「ここはバステトさまが作った部屋にゃ。ここから出るにゃら、いちゃいちゃしにゃいと出れないのにゃー」 「バステトって、誰? ひょっとして、メフィストさんと関係ある?」 シキの問い掛けに猫は応える。 「メフィスト? にゅ~……思い出したにゃっ。バステトさまが昔飼わせてやってたって言ってたヤツにゃ」 「飼わせてたって、ひょっとして猫なのか?」 「そうにゃ。バステトさまは、猫の王さまなのにゃ。えらいのにゃ」 アルトナの問い掛けに応えると、猫は最後に言って消え失せる。 「とにかく、ここから出たければいちゃいちゃするしかないのにゃ。がんばるにゃー」 言うなり消える猫。 あとにはシキとアルトナの2人。 「アルくん、どうしよう」 「どうするもなにも。いちゃいちゃしないと部屋を出られないってことだろ」 落ち着いた声で言うアルトナに、シキは慌てて返す。 「え、い……いちゃいちゃ? なにそれ?!」 「なにって――」 変わらず落ち着いた声で応えると、アルトナは自分の頬を指でつついてみせる。 「あ、なるほど……」 アルトナの話に、思わず頷くシキだったが―― 「って、いや意味は分かる、じゃなくて違うっなんでアルが知ってんの!?」 アルトナの言っていることが、シキの両親がしていた頬にキスのことだと理解し慌てる。 そんなシキに、アルトナは落ち着いた声で返した。 「……前アンタの家に行ったときやってた」 ため息をつきながら、アルトナはシキの実家を2人で訪れた時のことを話す。 「……げ、なにそれ。最悪。あの人たちアルの前でなにやって――」 羞恥で顔を赤くするシキに、アルトナは難しそうな表情をしながら言った。 「それで、どうする? 俺は……普通に嫌。なんで男同士で……」 これにシキは、視線を合わせ返す。 「うー……確かに男同士ではやだけど、俺はアルトナきゅんなら大歓迎ー!」 そう言うと、むぎゅっと正面から抱きつく。 「シキ……!? いきなりは止めろ……!」 ため息をつくように返しながらも、拒絶するようなことは無い。 そんなアルトナに、シキは笑顔で言った。 「いーじゃんかあ、ルーくんー」 そう言いながら、変わらず抱きついてくるシキに、アルトナは応える。 「……はいはい」 言葉はぶっきらぼうに。 けれど気遣うようにおずおずと、シキの背に手を回し抱きしめる。 「ルーくん……えへへ」 抱きしめ返されて思わずにこにこになるシキ。 そんなシキにアルトナは、ため息をつくように返す。 「シキ、うるさい。耳元で変な笑いやめろ」 そんなことを言いながらも、2人でむぎゅむぎゅ、抱きしめあいっこ。 すると、部屋の壁に扉が現れ独りでに開いた。それに気付いたアルトナは、抱きしめあいっこしたまま言った。 「もう出れるから早く離れろ」 「むむむ……ちょー冷たい……! アルトナきゅん! しおたいおーはんたーい! だぜ!」 「だからうるさいって」 言葉ではそんなことを言いながらも、シキと離れないよう、一緒に部屋を出るアルトナだった。 そして部屋から出た2人は、今度は王城内の様々なトラップに掛かってしまう。 けれど2人で協力して全てをクリア。 途中で猫を見つけ捕えると、バステトの居る場所に、2人一緒に向かって行った。 ●いちゃいちゃというよりは―― 狭い部屋に仄かな灯り。 漂う香の薫りは甘く、寝具に誘うように広がっている。 そんな部屋に跳ばされた『ヨナ・ミューエ』は、思わず聞き返した。 「はい……? 今何と……?」 「いちゃいちゃしないと出られない部屋なのにゃ」 「ちょっと待って下さい……私達は支配の王玉を取りに来たのであってですね……ベルトルドさんも何か言ってくださいっ」 助けを求めるように後ろを振り返ると、寝台に上半身を投げ出した『ベルトルド・レーヴェ』が見えた。 「顔が虚無ってるのにゃ」 「ベルトルドさん!」 ヨナの声を、どこか遠くにベルトルドは聞いていた。 (どうしてこうなった。どこから間違えた) なんだか無常を感じているっぽいベルトルドに、ヨナは近寄り気つけをするように頬をぺしぺし。 「あの、大丈夫ですか、気をしっかり」 「あ、ああ。何とかな」 とりあえず悟りの世界に行きそうになった意識を引き戻したベルトルドは、疲れた表情で言った。 「……で、口付けでもすれば満足なのか?」 「そ、それは……」 返事に困ったヨナが背後の猫に訊こうと振り返るが、すでに居ない。 「……」 「……」 とりあえず沈黙。 しかし、そのままでいても何も起きないので、諦めたような口調でベルトルドが言った。 「心を無にしてさっさと終わらせる。いいな」 作業感あふれるベルトルドの言葉に、ヨナは目を伏せる。 そんなヨナの様子に、一瞬ためらうようなそぶりを見せたベルトルドだったが、このままでは埒が明かないと腰を掴んで引き寄せる。 「ぁ……」 小さく声を上げ、ぽすんっ、と寝台に腰を落とすヨナ。 身体を硬くしたヨナを落ち着かせるような間を空けると、ベルトルドは距離を詰めた。 ぎしり、と。寝台が軋む音に、ヨナはベルトルドに顔を向ける。 するとベルトルドは、ヨナの細い肩を大きな手で掴んだ。 「ま、待ってください」 思わずヨナは声を上げる。 「そうじゃなくて」 ヨナはベルトルドの襟を掴むと―― 「こういう感じで……私が……」 ベルトルドを引き寄せ口づけをした。 息を止め、身体を強張らせ、触れ合うのですらない、押し当てるような、辿々しいしい口づけ。 (……あまり巧くないな) ヨナの口づけに、ベルトルドは思わず思ってしまう。そして思い出す。 (それもそうか。初めてだ何だと言っていた気がする) どこか、いま行われている行為から意識を逸らす。 感情と情動を切り離し、他人事のように淡々と思っていた。 それは、意識しては拙いと、心のどこかで思っているからだ。 そんな風に、自分の熱をベルトルドが抑えようとしていると、それに気付かないヨナは不安そうな声を上げる。 「ど、どうして……」 部屋に変化が無いのに気付き、今のキスでは足らないのだと結論付ける。 「なら、もう一度――」 こうなったら、出られるまで何度でも。 開き直ったのか、先ほどよりも落ち着いた様子で、ヨナは口づけをしようとする。 そこで、ベルトルドの我慢の糸は切れた。 「お前な。俺を何だと思っているんだ」 「ぇ、ひゃうっ」 腰と肩に腕を回したベルトルドに寝台に押し倒されて、ヨナは声を上げる。 何か言うよりも早くベルトルドに覆いかぶされて、反射的にヨナは言った。 「待って。わ、私からするので……っ」 「もう聞けないな」 止めようとするヨナの両手首を掴みながら、熱の篭もった声でベルトルドは言った。 「大体お前が俺に触れる時やめろと言って聞いた試しがあるか」 「う……それは……」 反論できずにいると、ベルトルドは顔を近づけて来る。 思わずヨナが目を閉じると、ざわりと産毛が逆立つような感触が肌を広がる。 それは猫が匂い付けをするように。 ヨナの頬や首筋に、ベルトルドが擦り寄る。 くすぐったさにも似た感触に、小さく息を漏らすと、そこに唇を落とされた。 「んん……」 触れ合うような、静かな口づけ。 それだけで、じんわりと熱が広がり、力が抜ける。 惚けたように吐息を漏らしていると、いつの間にか襟のボタンを器用に外される。 「待っ、そこ、んんっ」 肌が露わになった鎖骨を甘噛みされる。 「な、なんで」 「口の構造がヨナ達とは違うんでな。キスするならこっちだ」 「そ、そうなんです――って、違います。そういうことじゃ、んんっ」 ヨナを黙らせるように、ベルトルドはキスを降らせ、甘噛みしていく。 匂い付けするように柔らかな毛並みを摺り寄せ肌を震わせると、味わうように甘噛みしていく。 それが段々と下に降りて行きそうになった所で―― ぺいっ。 2人は部屋の外に放り出された。 「…………」 「…………」 無言の2人。 しばらく熱を醒ますような間を空けてから―― 「……悪い。やりすぎた」 「いえ……」 乱れた心と服を直していくと、顔を見合わせられない中、探索に戻る。 「……行きましょう。ベルトルドさん」 「そうだな」 喧嘩した時とも違う何とも言えない空気で2人は進む。お互い―― (……あんな顔もするんですね) (……あんな顔もするんだな) と思いながら。 ●ねこねこ捕獲 「ここは……外なの?」 周囲に広がる光景に『スレイニー・ティルティエ』は思わず声を上げた。 先ほどまで皆と一緒に王城跡地を探索していたのだが、魔力探知をしていた『ユニア・シズヴィーレ』が警告の声を上げたかと思えば、次の瞬間、ここに跳ばされていた。 見渡すばかりに広がる平原。 それが今いる場所だ。 みずみずしい草花と、風に揺れる木々が生えている。 不思議そうにスレイニーが周囲を見回していると、魔力探知で探索していたユニアが声を掛けた。 「外じゃないみたいよぉ? スレイニーちゃん、こっちに扉があるもの」 ユニアに呼ばれ、スレイニーは彼女の元に走り寄る。 「扉がありますね」 平原に、ぽつんと立っている一枚の扉。 試しにドアノブに手を掛け動かしてみようとするが、びくともしない。 「これ、なんなんでしょうか?」 「さぁ、なにかしら? 魔法が関係しているみたいだけど」 ユニアが、より詳しく調べようとすると、気の抜けた声が掛けられる。 「それは出口の扉にゃ」 声の主に視線を向けると、そこには5匹の猫が居た。 「喋ってる」 「何回か死んだ猫は喋り出すって言うから、そういう猫なんでしょうね」 「そうにゃ」 猫達は2人に応える。 「わっちらはバステトさまに仕える猫の騎士なのにゃ」 「猫の騎士? バステトさまって?」 スレイニーの疑問に猫達は応える。 「バステトさまは猫の王さまなのにゃ。支配の王玉を持っててえらいのにゃ」 「支配の王玉を持っているんですか!? 私達は、それを取りに来たんです」 スレイニーが説明すると、猫達は応える。 「そうなのにゃ? にゃったら、バステトさまに頼めば好いにゃ」 「なら、バステトさんに会わせて貰えますか?」 「にゅふふ~、会いたければ、わっちらを捕まえるのにゃ」 「捕まえればいいのね」 ひょいっと首根っこを摑まえて持ち上げるユニア。 「にゃー、まだにゃまだにゃ。10数えてからにゃ」 「面倒ね」 軽くため息をつくユニアに、スレイニーが間に入る。 「ユニアさん、猫さん達に付き合ってあげましょう」 「スレイニーちゃんが、そう言うならしょうがないわねぇ」 というわけで猫との鬼ごっこをすることに。 「出口の鍵は我々が持っているにゃ、しかし本物は1つで残りは偽物なのにゃ、出たいなら本物を探し当ててみせるにゃ」 説明すると一斉に走り出す。 「いーち」 「にーい」 カウントダウンを口にする猫達が数え終わるまで待って、スレイニーとユニアは鬼ごっこを開始する。 「待って下さい」 「こっちにゃこっちにゃー」 スレイニーは真っ向勝負で走り回る。 (バステトさんに支配の王玉を譲って貰えるように交渉しないといけないのに) 気持ちが焦る中、猫を追い駆ける。 「捕まえた!」 「にゃう!? まだ捕まるのは嫌にゃー」 捕まえたかと思えば、するりと抜けだす猫。 「逃げないで下さい!」 スレイニーは悪戦苦闘しながらも、1匹ずつ確実に捕まえていこうとする。 一方ユニアといえば、最初はスレイニーに追従し普通に追いかけていたけれど―― 「ちょこまかと」 「こっちにゃこっちにゃ」 「捕まらないにゃー」 「……面倒ね」 途中から腹を立ててきたのか、実力行使に出ようとする。 「ぶっとばせば大人しくなるわよね」 ということで、手にしたマジックブックに魔力を込める。 「ダメですよ、ユニアさん」 慌てて止めるスレイニー。 「怪我させちゃったら可哀そうです」 「……スレイニーちゃんが言うなら、しょうがないわね」 スレイニーに宥められ、ユニアは一緒に猫を捕まえていく。 「ユニアさん、そっちに行きました!」 「任せて」 挟み撃ちにするようにして次々捕まえると、その度に現れた檻に入れていく。 「にゃう。捕まっちゃったのにゃ」 捕まると大人しく檻に入る猫達。 4匹まで捕まえたのだが、手に入れた鍵は本物ではなく、残り1匹を見つけなければいけなくなる。 なのに、隠れられて見つからない。そこでユニアが提案した。 「場所を占えないかしら?」 これにスレイニーは少し考えてから応える。 「うーん、それじゃあ木の枝を倒して倒れた方に行ってみましょうか」 試してみると、1本の木に向かって倒れる。行ってみると―― 「見つけました」 「見つかったにゃー」 木に登っていた猫をスレイニーが発見。 声を掛けると、しゅたっと降りて来て鍵を渡してくれた。 それを扉の鍵穴に掛けると、すんなりと開き外に出れる。 「ようやく出れたわね。あとはバステトに会いに行かないと」 「それなら我々が案内するにゃー」 いつの間にか檻から出ていた猫達が口々に言った。 「はい、お願いします」 笑顔で応え、猫達に案内されながら、ユニアと一緒に向かうスレイニーだった。 ●勝負事は冷静さが大事 「こ、ここは一体……」 猫カジノ、にゃすベガスに跳ばされた『タオ・リンファ』は、周囲の状況に困惑した。 見渡せば、無人のカジノテーブルが際限なく並んでいる。 (先程まで皆さんと一緒に居た筈なのに……そうだ、ステラは――) 慌てて『ステラ・ノーチェイン』を探すと、彼女は面白そうにカードやサイコロを手に取っていた。 「マー、ここなんだ?」 リンファが声を掛けるより早く、彼女の視線に気づいたステラが走り寄ってくる。 「ステラ、大丈夫ですか?」 「おー、なんともないぞ」 平然としているステラの様子に、ほっと胸を撫で下ろす。 (どうやら、ここに跳ばされただけで、他に何かをされたというわけではなさそうですね。それにしても――) 改めて周囲を見渡したあと、リンファは言った。 「皆さんと分断されてしまったのでしょうか。もしや、これがメフィストさんの言っていた罠……?」 リンファが推測していると―― 「よーく来ーたにゃー」 ディーラー服の上を身につけたギャンブル猫、にゃんブラーに声を掛けられる。 「マー、猫が喋ってるぞ!」 「……喋ってますね」 リンファは少し驚くも、何度か死んで生き返った猫は喋ることを思い出し、自分を落ち着かせるような間を空けて尋ねた。 「貴方は、誰ですか? ここに私達を跳ばしたのは、貴方ですか?」 これに、にゃんブラーは応える。 「わちしは、バステトさまに仕える猫の騎士にしてにゃんブラー、ラッキーにゃ。ここに2人を跳ばしたのは、お城の魔法の罠を使ったバステトさまにゃ」 「城の罠を発動させられるんですか!? ひょっとして、バステトという方は支配の王玉を持っているのでは……」 「持ってるにゃ」 「なら、私達に渡して貰えませんか。私達は、それを取りに来たんです」 リンファが事情を説明すると、ラッキーは勝負を挑む。 「支配の王玉が欲しいにゃら、バステトさまに会って頼むと良いにゃ。でもバステトさまに会いに行くにゃら、ここでわちしと勝負して勝たなきゃダメなのにゃ」 「勝ったら出してもらえるんですね? 単純明快で助かりました、受けて立ちましょう!」 「オッケーにゃ。それじゃ勝負するにゃ」 ラッキーは頷くと、カジノテーブルのひとつに、ひょいっと乗る。 リンファはステラと一緒に、ラッキーの居るカジノテーブルの席に座ると続けて言った。 「勝負はポーカーでも、ブラックジャックでも、ルールなら知っていますし、ルーレットでもなんでも。勝負内容は貴方にお任せします。勿論、公平が前提ですが」 「もちろんにゃ。そうじゃにゃいと面白くないのにゃ」 ラッキーは応えると、トランプの納められたカードシューターからカードを引きながら言った。 「それじゃ、ブラックジャックをするのにゃ」 「良いですよ。始めましょう」 そして勝負が始まる。 ちなみにブラックジャックは、戦術を知り冷静に駆使できると、大体50%程度の確率で勝てるゲームである。 逆に言うと、戦術を知らなかったり冷静さに掛けると、相手が熟練者なら負ける可能性が跳ね上がる。つまり―― 「も、もう一度勝負です! これはきっと何かの間違いです……」 「撫でてくれるにゃら好いにゃー」 思いっきり負けるリンファ。 単純な力量でラッキーに負けている上に、生真面目さが仇になり熱くなり過ぎているので、運を掴むこともできない。なので―― 「こ、こんなはずでは……」 「これで29連敗にゃ……」 飽きてきた、というような気怠い声を上げるラッキー。 でも撫でられるのは止めない。 (私は一体……あと何回撫でればいいのでしょうか……) そう思ってしまうほど負け続けた。そこでステラが勝負を申し出る。 「なーなー! オレにもやらせてくれ!」 「いいにゃー」 というわけで、ステラが参戦。 今までリンファとラッキーの勝負を見てルールを把握したステラは、問題なく勝負をしていき―― 「おっ! これオレの勝ちか? 勝ちだよな!?」 それを見ていたリンファは、思わずラッキーに言った。 「ス……ステラばっかりずるいです! 私にも勝たせてください!!」 これにステラは不思議そうに言った。 「??? マーが負けてたのはわざとじゃなかったのか?」 「そんなわけないじゃないですか!?」 「だってあんなにたくさん負けてたし」 「それは……」 思わず言葉に詰まるリンファだった。 そんなこんなで、ステラが勝ったので外に出られる。 現れた扉を開けると、そこは王宮の間。 玉座で寝転がっているバステトの居る場所だった。 「バステトさま、連れてきたにゃ」 「直接連れて来たの? 他の子達はまだ来てないわよ」 このやり取りを聞いて、ステラがバステトに走り寄り言った。 「支配の王玉っていうの持ってるならくれ!」 「あら、欲しいの? でも、それなら何か対価が欲しいわね」 「じゃあ一緒にあそぼう!」 笑顔で返すステラ。 「そしたらそいつがどんなヤツか分かってくるだろ?」 これにバステトは、くすりと笑うと応える。 「いいけれど、何して遊ぶの?」 「じゃあ……かけっこ!」 「あらあら。結構速いわよ、私」 そう言うとバステトは玉座から降りステラと距離を取る。そして―― 「さあ、捕まえてごらんなさいな」 「捕まえるぞー」 そして1人と1匹は鬼ごっこ。 皆が集まるまで、かけっこを続けた。 ●ときめく彼女 今回の指令内容を聞いて『ラニ・シェルロワ』と『ラス・シェルレイ』は、いつも以上に意気込んでいた。 「よーし、あの人達の為にも頑張るわよ!」 「よし、任せろ。兄弟たちが、平和に暮らせるなら」 ラスの言葉に、ラニは小首を傾げ尋ねる。 「……ところで兄弟って?」 「……兄弟? あぁ、グリージョたちのことだが」 「え? どういうこと?」 聞き返すラニに、ラスは少し前のことを話す。 「シィラと一緒に教団をみんなで回った時があっただろ? その時に――」 それは、家族と言えるシィラと一緒に居た3人組の1人。グリージョと2人で話していた時のことだった。 話を聞いたラニは、ラスの服を引っ張りながら言った。 「あーっ!? ずるいずるい! あたしも今度混ぜてー!!」 「ちょ、分かった分かった! 分かったら引っ張るなラニ!!」 などと、戯れ合うような掛け合いをしつつ、目的地の王城跡地に到着。 皆と一緒に探索していたのだが、密室に跳ばされる。 「え、なにこれ?」 「魔法の罠か?」 2人が警戒していると、一匹の猫が現れ言った。 「よーく来ーたにゃー」 間の抜けた声を上げると続ける。 「ここは、いちゃいちゃしないと出れない部屋にゃー。出たかったら、いちゃいちゃするにゃー」 「……」 「……」 2人とも、状況を理解するような間を空けたあと―― 「いちゃいちゃ……? えっイチャイチャってあの?」 「いちゃいちゃ……? あぁ……」 軽く混乱するラニと、色々と察するラス。 そしてラニは、ラスに視線を向け言った。 「マジで? こいつと!?」 「そりゃお前しかいないだろ」 息の合った返しをするラス。 状況を理解したラニは、どこか抵抗するように言った。 「じゃあシチュが大事でしょ! 具体的に言うと美味しいお菓子とか! あとこの間作ってもらったドレスとか!」 「おい、いくらなんでも我儘言い過ぎ――」 「大丈夫にゃー」 「……マジか」 猫が右前足を手招きするように動かすと、可愛らしいテーブルに美味しそうなお菓子が小皿に乗って現れ、ラニの服装まで変わっている。 「……冗談のつもりだったんだけど、マジ?」 自分の姿を見て、ラニは茫然と呟く。 今の彼女の姿は、花開く春の装いを思わせる。 シィラのイメージカラーを意識した萌黄色のワンピースタイプのインナーウェア、プリマヴェルを身につけて、その彩りを活かすようなシースルーのドレスを上に重ねている。 「うぅ、これ着てると落ち着かない……」 恥ずかしくなったのか、思わず自分を隠すように縮こまっていると、じっと見ているラスに気付く。 するとラスは言った。 「うん、やっぱり似合ってる」 ラスの言葉に、ラニは赤面しそうになる自分を抑えながら返す。 「似合うって……これはシィラの為の服じゃない」 ラニの言葉に、ラスは不思議そうに見つめながら応えた。 「……? そりゃシィラには似合うかもしれないけれど、それはお前の為の服だ」 そして笑顔を向けながら、自然な声で言った。 「似合ってるし、可愛いよ」 「……ふぇ」 ラニは顔を真っ赤にすると、ラスの視線から逃げるように、お菓子の乗ったテーブルに向かう。 「や、やだー! 顔見ないでー!」 恥ずかしさで顔を俯かせるラニに、ラスは苦笑しながら言った。 「照れるな、顔見せろ」 寄り添うように傍に行くと、顔を合わせ続ける。 「いいじゃないか、似合ってて可愛いのは事実なんだし」 「…………っ!」 自分を見詰めるラスの眼差しに、ラニは最早何も返せず、顔を赤くしながら照れ隠しでお菓子を食べる。 (なんで!? 何であたしってば急にドキドキしてんの!?) そんなラニに苦笑しながら、一緒にお菓子を食べるラスだった。 ちなみに―― 「もう開いてるにゃー」 部屋から出れることに気付いたのは、猫の呼び掛けよりも、しばらくしてから。 「ラス、開いたわよ!」 顔を赤くしたまま、ラニは熱を醒ますように部屋を一足先に出る。 その時には、着ていたドレスもいつもの服装になっていたので残念に思いながら、すぐに後を追いかけるラスだった。 ●貴方の大きな手 「……これはトラップですか?」 やたらと広々とした密室に跳ばされた『鈴理・あおい』は、周囲を見渡しながら呟く。 これに傍に居た『イザーク・デューラー』は返した。 「魔法のトラップがあるという話だったが、これがそうなんだろう。今の所、危険な感じはしないが――」 何かあればすぐに、あおいを守れる位置を意識しながら、イザークは周囲を調べようとする。すると―― 「よーく来ーたにゃー」 間の抜けた声が掛けられた。 見れば、1匹の猫が喋っているのに気付く。 「イザークさん」 「何度か死んで生き返った猫は喋るというが、その類か?」 警戒する2人に、猫は応えた。 「わっちは、バステトさまに使える猫の騎士、ミオにゃ」 「猫の騎士?」 聞き返すあおいに、ミオと名乗った猫は詳細を説明し、話を聞いたイザークは尋ねる。 「……つまり、支配の王玉を持っているバステトと交渉するには、この部屋から出ないといけないということだな?」 「そうにゃ。そして、ここから出たいのにゃら、この部屋にいる生き物をなでて気持ちよくさせないといけないのにゃ」 「この部屋に居る、ですか?」 周囲を軽く見渡し、あおいは聞き返す。 部屋は、ちょっとした広間ぐらいの大きさがあり、いたる所に家具が置かれている。 寝台に机にタンスに食器棚。他にも種類は多い。 そしてパッと見た限りでは、動物の姿が見えない。 「ひょっとして、隠れているんですか?」 「そうにゃ。全部で10種類いるにゃ。頑張って見つけてなでるのにゃ」 そう言うとミオは、ふっと掻き消えた。 「消えちゃいましたね」 「ああ。これであとは、動物を全て見つけ出さないといけないというわけだ」 「そうですね。早く見つけましょう。みなさんと、合流しないといけませんから」 あおいは頷くと、イザークと一緒に動物探しを開始する。 「あの机とか、どうでしょう? さっき、少し動いたような気がします」 あおいの提案で、まずは立派な執務机に向かう。 近付くと、カリカリという音が聞こえてくる。 耳をそばだてれば、執務机の高さのある引き出しの内側から、ひっかくような音だということが分かる。 「この中に、居そうですね」 ゆっくりと引き出しを引くと―― 「ひゃん」 小さな仔犬が1匹入っていた。 「まずは1匹目だな」 イザークが手を伸ばすと、仔犬はぴょんっと引き出しを跳び出し尻尾をふりながら、少し離れた距離で2人を見ている。 それはどう見ても、遊ぼ、と体全体で示している。なので―― 「ひゃん」 「待て――」 イザークが近付くと、尻尾をふりながら走り出す仔犬。 「あおい」 「はい。私は反対側から追いかけます」 2人で挟み込むようにして仔犬と追いかけっこ。 しばらく走り回り捕まえる。 「よし、捕まえた」 イザークが捕まえ持ち上げると、おあいが頭を撫でる。 「いい子ですね」 「ひゃん」 あおいに撫でられ嬉しそうに吠えると仔犬は、ぽんっという音と白煙と共に消え失せた。 「残りは9種類ですね」 「ああ、早く探すとしよう」 そして2人は次々見つけて撫でていく。中には―― 「……ヘビ?」 あおいの苦手な生き物も。 とぐろを巻く白蛇。けれど―― 「い、いえ動物は平等です。差別はいけません」 あおいは頑張って撫でようとする。とはいえ恐る恐るといった様子に、イザークが助け舟を出す。 「これは俺が対応しよう」 「でも……」 「なに、誰にでも苦手な物はある。もし着ぐるみの動物が出たらその時は頼む」 表情が変わらない着ぐるみが苦手なイザークが冗談めかして言うと、あおいは肩の力を抜くようにして返す。 「……はい、よろしくお願いします」 そうして9種類まで見つけて撫で終るも、最後の1匹がどうしても見つからない。 (どういうことだ……もしかして――) 思いついたイザークは―― 「あおい、ちょっと」 あおいに声を掛けると、2人でソファに座り、少し頭を引き寄せて撫でた。 「なっなっ何を!?」 慌てるあおいにイザークは説明する。 「最後の動物は俺達だと思う」 「それは確かに条件を満たしますが……そういうトラップだったんですね」 「ああ。撫でられるのが嫌なら――」 「いえ任務ですし……一応未来の……こ……んや……くしゃ……です、し」 恥ずかしそうに、言葉の後ろになるほど小声になるあおいを、イザークは出来るだけ優しく撫でる。 (大きな手) 撫でられながら、あおいは思う。 (頭を撫でられるのは父ぐらいだけれど……でも大きくてなんだか安心する) ほっと息を抜くように、あおいは力を抜き少し寄りかかる。 あおいの様子に、イザークも安堵すると言った。 「これで大丈夫かな」 すると、小さな羽ばたきと共に、小鳥があおいの膝の上に降り立つ。 「……あのイザークさん、こんな所に1匹いました。もしかして素直に動物をなでる部屋だったのですか!?」 「……あ」 2人そろって赤面する。そして―― 「さあっ、部屋を出ましょう!」 小鳥を撫で終ったあおいは、先ほどのことを思い出し真っ赤になりながら、誤魔化すように声を上げ2人一緒に部屋を出て行くのだった。 こうして、皆は魔法のトラップをクリアし、バステトの元に。 集まった所で交渉を始めた。 ●交渉しよう 「支配の王玉をいただけませんか」 いちゃいちゃ部屋の件があり、普段よりかなり低い声でヨナは言った。 これにバステトは、ころころと笑いながら返す。 「別に良いわよ。でも、ただでは駄目よ。なにか、対価をちょうだいな」 「対価ですか?」 バステトの言葉に、リチェルカーレは応える。 「ええとええと……代わりになる可愛いリボンを。あ! あとお昼寝用のクッションとか」 そこまで言うと、不安そうに尋ねる。 「だめでしょうか?」 「いいえ。魅力的な提案ね。でも、もっと欲しいわね」 茶目っ気を込めてバステトは続ける。 「ここに居るのは、私だけじゃないもの」 「そうにゃそうにゃ。わっちらも良いもの欲しいにゃー」 10数匹の猫が口々に要求する。 すると、リューイとセシリアが続けて提案する。 「くつろげるスペースを作るとかどうでしょう」 「この島でも教団でも、日当たりの良い場所にクッションとか置いて作ります」 「あら、好いわね」 乗り気なバステト。そこに猫達が追加で注文を出してくる。 「美味しいもの欲しいにゃー」 「3食昼寝付きならもっと良いにゃー」 これにシリウスが、ため息をつくように返す。 「……食い物なら、サンディスタムでもニホンでも頼めば集められる気がする」 「ホントかにゃ?」 「お肉におさかにゃ」 「ミルクも好いにゃー」 口々に言いながら、シリウスとリチェルカーレの足元に擦り寄って来る猫達。 リチェルカーレが撫でてやっていると、あおいがバステトに提案する。 「撫でるのは、どうでしょう?」 「あら、エステ? 好いわね。して貰えるかしら」 あおいとイザークに撫でられご機嫌に喉を鳴らすバステトに、羨ましそうに見ている猫の騎士達。 それを見たスティレッタが言った。 「貴方達も撫でてあげましょうか?」 「好いのかにゃ!?」 「ええ。ブラシがあれば、ブラッシングしてあげても好いんだけど」 「あるにゃー」 ぽんっと現れたブラシを手にし、一緒に現れたソファに座りながら、猫達を膝に乗せブラッシングをしてやる。 背中だけでなく、お腹も撫でてやる。 そうしてバステトと猫達がリラックスした所で、レオノルが更に提案する。 「猫神様、王玉を下さいましたら皆様に最近首都で大流行している液状おやつを献上したいかと存じます……まずはこのカリカリを……」 「ごはんにゃー」 バステトに渡す前に、猫達にたかられるレオノル。 それを楽しげに見ていたバステトは続ける。 「新しい味は、試してみたいわ」 これにヴィオラが返した。 「でしたら、王玉と引き換えに撫で撫でと美味しいお料理とお菓子では如何です?」 「あら、素敵」 くすりと笑みを浮かべバステトは続ける。 「ふふ、色々とお供えしてくれるのね」 「なんなら、毎日でもお供えするよ」 クリストフが、更に一押しするように言った。 「王玉をくれたら、毎日お供えするよう教団に言っとくよ。何が好き?」 「美味しい物なら何でも好きよ」 バステトはそう言うと、アリシアに視線を向け言った。 「菫の花のような瞳の子。どうしたの? お願いがあるなら、言っても好いのよ」 どこか思いつめた表情をしていたアリシアは、願うように言った。 「アリシアと、申します。みんなの幸せの為に、王玉を頂けないでしょうか」 「貴女の言う『みんな』の中には、大切な人が居るの?」 優しい呼び掛けに、アリシアは応えた。 「……はい。姉が……王玉が、あれば……会えるようになるかも、しれないんです」 家族のためにも一生懸命頼むアリシア。 同じように、家族のことを想いラスも頼んだ。 「……宝玉を譲ってはいただけないか。オレ達の家族が、平和に過ごせる場所が必要なんだ」 ラスに合わせて、ラニも願う。 「あの人たちが、ほんとの仲間と過ごせる場所を、見つけてあげたいの」 「……そう」 尻尾をくねらせ、バステトは応える。 「好いわ。王玉はあげましょう」 そこまで言うと、茶目っ気を込め続ける。 「その代り、美味しいご飯とお昼寝できる場所は、お願いね」 「もちろんです。任せて下さい」 頷くスレイニーに、機嫌良さ気に喉を鳴らすバステトだった。 こうして支配の王玉を手に入れる。 対価として、教団に猫の騎士達と一緒に来たバステトは、リボンを首に着け、ピンクのクッションに寝転がりながら、お供え物を食べたり撫でられたり。 「とりあえず、100年ぐらい居させてもらおうかしら」 そう言って、教団に居付くことになる、バステトと猫の騎士達だった。
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*** 活躍者 *** |
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