~ プロローグ ~ |
機械都市マーデナクキス。 |
~ 解説 ~ |
○目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【魔】 彼がオッペンハイマー… 唖然とする私にドクターが小突き、促されて挨拶 過去の記憶と言われて首を傾げる間に見えたビジョン これは、子供の頃の俺だ… 母の浪費癖を咎めて殴り続ける父親 隅で震える俺 勇気を出して叫んで掴みかかっても弾き飛ばされて蹴り飛ばされるだけ 俺は思わず近くにあったナイフで刺して… …あれは、死んでない ナイフが刺さった箇所、傷の深さ、血の出方…どれをとっても… 嘘だ…死んだから安心していた自分がいた… 血の気が引く感覚がする めまいが… 思わず膝をつく私にドクターが声をかける 立ち上がろうと思ったが彼女は首を横に振った …そう。だよな この状態じゃあ冷静に話が出来そうに…ない… |
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まずは誠意をみせること 困った時に 助け合える関係になりたい 難しいかもしれないけれど 皆が手を取り合える世界に 1 オッペンハイマーさん達にご挨拶 蜃という言葉に びくりと震えたシリウスの指をそっと握る 2 見えた過去に目を丸く 見上げたシリウスの顔が僅かに赤い 小さなシリウスあんな顔で笑っていたのね わたしも見てみたいな? 久しぶりにみたシリウスの表情に 満開の笑顔 3 友好関係はもちろん築きたいです シアちゃんがニホンで貰った伝葉や マドールチェさんの魔術通信を使って 何かあった時のために すぐに連絡ができるホットラインは作れないでしょうか 戦いだけじゃなくて 万が一災害があったときにも 連絡が早く取れたら 助かる命が増えると思うんです |
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過去の記憶 シャルルと酒を酌み交わしながら楽しそうに笑い、話をしている 師を呼び捨てにしているあれは、私ではないが私なのか 「先日、姪っ子が産まれてね」 「お前の妹の子ならきっと美人になるだろうな」 「美人になっても君の嫁にはあげないからね?」 「お前、いくつ年の差があると思ってるんだ」 彼と私は友人だった 死した後、彼の手で作り替えられたのか 生きてくれ、そんな言葉を聞いたような気がする だが私のようなケースは稀だろう 無理矢理作り替えられれば恨むのは当然だ ならば私にできるのは、その悲劇をもう生み出さないこと そして記憶は無くなっても生きて欲しいという願いに応えること 研究の為に手がいると言うならいくらでも手を貸そう |
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【魔】 1 ヨ 一度は戦闘人形計画は潰したと聞いていましたが未だ終わってはいないのですね それであなた達のような組織が… 私達は教団所属者の身ではありますが未来に向けて話し合えれば と ベ ヨセフ自ら出向くとはそれだけ本気なのだろうな 無いとは思うが万が一の時は任せてくれ 2 マドールチェ達の成り立ちの記録を視る 技術の悪用 子供の誘拐 人体実験 兵器としての使い潰し あの惨劇 現地人との衝突 天使の加護の消失 社会格差 それで尚戦争に向かわせる情勢 森の国の守護天使から見せられた光景を思い出さずにはいられない あの時は動揺を隠せなかった けど今は震えもしない こんなこと見るのに慣れたくはない けれど心を痛めるだけでは進めない |
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【魔】 1 マドールチェさん達の過去… 辛いものだったとしても、思い出したい気持ち、よく、わかります… 私も少し、思い出して…良かった、と思うから 2 目の前に現れた食卓を囲む家族の光景 お父さんと、お母さんと、お姉ちゃん、と 懐かしい、家族の顔 今の……蜃の…… 思い出させてくれて、ありがとう…… 3 みんなが交渉をするのを聞きながら、私に何ができるのかを考えます クリスと一緒に、協力するのは、大前提、で 他に、私にできるのは、いつか、この国が緑豊かな地になれるよう 植物を、植えていくこと 優しい気持ちになれる、環境を整えて………… 遠すぎる話かも、しれませんけれど そんな風になる為に、今、皆さんと仲良くしたい 信じ合いたいです |
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【魔】 じっとこちらを見る彼等を見て小さくため息 蜃の羅針盤?ひょっとしてこっちにも… 言いかけた直後、何かが見えた どこかの教会?礼拝堂? 「皆を許してあげて。一生懸命生きているの」 「許せるはずがない。これは裏切りよ。悪魔はあいつらよ!」 怒っているのは、私? …一体今のなんなの? 幻、だったのかしら もし自由な立場だとしたら、貴方は科学者でいたい?それとも指導者? 指導者の重圧って相当なものだと思うわ。私には無理だもの 適している人でも大変じゃないかしらって思ってね マーデナキクスの問題組織を潰せば貴方の枷は無くなるかしら? だったら教団が協力してその組織を潰す、でいいんじゃない? それだったら私、全力を出せるわ |
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アレイスターや創造神との戦いが迫る今 人同士が争っている場合じゃないと思う それに セラの故郷のこと オッペンハイマーさんたちとも 協力することができたら 室長の提案内容に賛成 マーデナキクスに生きる人たち 皆が平等に生きられるようになるといい リ:アークソサエティの過度の干渉を認めない そう条約が結べたら ウボーさん…バレンタイン家の協力があれば 貴族の同じ意見の人を纏められませんか? マーデナクキスの技術を紹介 味方になってもらえたら利益があると セラは警告と ヘルヘイムボマーやエリクサー生成魔法陣について情報提供 セ:この国でも同じ事をするかもしれない 充分に注意を 何かあったら知らせてください できる限り手伝いをさせてほしい |
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ステラ、私の側を離れないように ……まずは貴重な対話の場を用意していただき、ありがとうございます 羅針盤を使うのはメフィストさんで、こちらは見ているだけではありますが、やはり緊張しますね…… 普通なら無理難題かもしれませんが、メフィストさんなら信頼できます 交渉の提案は、取り戻した記憶を辿れるようマドールチェの方々に縁のある人や探しものの捜索を教団が協力するというのはどうでしょうか ヨセフ室長は既に何度か、私達浄化師に指令の形で協力をしてくださっていますし、本当に教皇になれるのであれば活動規模も今より拡大できると思います あとは、かつての魔術人形問題の追求と、再発させない為の教団内部の改革も視野に入れては |
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~ リザルトノベル ~ |
●マドールチェ達との会談 広い講堂のような場所で、浄化師とマドールチェ達は相対していた。 「ステラ、私の側を離れないように」 今にもマドールチェ達に声を掛けに行きそうな『ステラ・ノーチェイン』に『タオ・リンファ』は注意するように声を掛ける。 「勝手に話掛けてはいけませんよ」 「なんでだ? 友達になりに来たんだろ?」 不思議そうに聞き返すステラに、それを見ていたオッペンハイマーが近付く。 気付いたリンファは、居住まいを正し挨拶した。 「……貴重な対話の場を用意していただき、ありがとうございます」 「こちらこそ。願ってもないことだよ」 そしてステラに視線を向けると、穏やかな声で言った。 「元気の良いお嬢さん。私達も、君達と友達になれれば良いと思っているよ」 「おー、なら友達になろう!」 「ふふ、そうだね。でも残念ながら、その前にクリアしなければならない課題があるんだ」 そう言うとオッペンハイマーは、ヨセフとメフィストに視線を向ける。 「正直、予想外です。これほど早く課題をクリアできるとは思いませんでした。それにヨセフ室長。貴方が直接ここに来たことは驚きですね」 「誠意の証しと思って欲しい」 「なるほど。危険だとは思わなかったのですか?」 「貴方達に憎まれることも、交渉材料のひとつとしてここに来ている」 「憎む、ですか」 「ああ。感情をぶつける相手は必要だろう。でなければ漠然とした集団に、際限のない憎悪をぶつけることになる」 「感情の明確化と指向性の限定ですか?」 「そうだ。誰を憎めば良いのか分からないよりも、ぶん殴れば気持ちが晴れる相手がいる方が、健康的だ」 「はは、確かに。ですが、それだと貴方が受ける危険性は増しますよ」 「構わない。私には、頼りになる浄化師が居る」 この場に居る浄化師達を示し、ヨセフは続ける。 「憎むなら私を憎めば良い。そして彼らを頼って欲しい。そうなるために、ここに来た」 「……貴方1人で、私達の憎悪を受け止められると?」 「私個人では無理だ。だが、教皇という教団のトップであれば話は変わる。私は教皇になる。貴方達は、私という個人ではなく、教皇という象徴を殴りつけることが出来る」 「……本気ですか?」 「もちろんだ。そのためには、貴方達の協力が不可欠だ」 そう言って手を差し出すヨセフに、この場に居るマドールチェ達はざわめく。 だが、そのざわめきをオッペンハイマーが黙らせる。 「貴方の提案が実現することを望みます」 力強く握手する。 それを見たマドールチェ達は、自分達の感情を飲み込み、オッペンハイマーの意思に従うように沈黙した。 (彼がオッペンハイマー……) マドールチェ達の様子を見て『ショーン・ハイド』は唖然とする。 (技術者として優秀だとは聞いていたが、それだけじゃない) マドールチェ達の反応を見れば分かる。 指導者として信頼されるほど、多くのことを成し遂げてきたのだろう。 そう思っていると、隣りに居た『レオノル・ペリエ』に軽く小突かれる。 気付けば、オッペンハイマーがこちらに近付いていた。 慌ててショーンは挨拶する。 「初めまして。……貴方のことは、なんとお呼びすれば?」 「教授、と皆には呼ばれているよ。教え子には、マスターと呼ばれているがね」 オッペンハイマーは穏やかな笑みを浮かべ応えると、レオノルに視線を向ける。 「君は、シャルルの弟子だね。彼から、今回の会談に参加すると手紙を貰ったよ」 「レオノル・ペリエです、教授。師から貴方のことを聞きました」 「彼は元気かい?」 「はい。また、貴方と共に研究をしたいと言っていました」 「そうなることを、私も望むよ」 レオノルと親愛を交わすように握手をすると、他の浄化師の元にもオッペンハイマーは向かう。 「今日は、よろしくお願いします」 近付いて来たオッペンハイマーに『リチェルカーレ・リモージュ』は挨拶する。 彼女の挨拶に合せ、隣りに居た『シリウス・セイアッド』も小さく頭を下げた。 これにオッペンハイマーは小さく笑みを浮かべ返す。 「私の方こそ、よろしく頼むよ。これから良い関係を結べることを願っている」 「はい」 視線を合わせリチェルカーレは応える。 「皆さんのために、みんなで出来ることをしたいと思います」 誠意を込め、飾らぬ想いを口にする。 困った時に、助け合える関係になりたい。 そうなるためなら、努力は惜しまない。 「難しいかもしれないけれど、皆が手を取り合える世界にしたいです」 「……そうなれば素敵だね。そのためにも、貴方達の用意してくれた『蜃』には期待しているよ」 蜃という言葉に、シリウスは一瞬だけ指に震えが走る。 それに気付いたリチェルカーレは、落ち着かせるようにシリウスの指をそっと握った。 オッペンハイマーは2人の様子に気づくも、余計なことは言わず他の浄化師達に挨拶に向かう。 それをこの場に居るマドールチェ達は、じっと見ている。 (どうしたら仲良くなれるでしょうか) マドールチェ達の様子に『ヴィオラ・ペール』は思う。 (今日来てくれた人達だけでも、これだけたくさん……被害に遭われたマドールチェの方達全員なら、どれほど居られるんでしょう) 皆と分かり合うのは、困難な道だろう。 だが、ヴィオラは隣に居る『ニコラ・トロワ』に静かに視線を向けたあと思う。 (少しでも、皆さんと仲良くなれる手助けが出来れば――) 自分が出来ることは無いかと考えていた。 同じように他の浄化師も、それぞれ思う。 「相当、思う所があるみたいだな……」 マドールチェに視線を向けながら『バルダー・アーテル』は呟く。 「そうね」 同意するように『スティレッタ・オンブラ』は返しながら、マドールチェ達の視線に小さくため息をつく。 じっとこちらを見続ける彼らの視線は重たく、それだけで彼らが受けた過去がどれほどだったか実感できてしまえるからだ。 同じように、彼らの視線を受ける『クリストフ・フォンシラー』は思う。 (この人達、みんな攫われて作り替えられた人達なのか。しかも似たようなことが、現在進行形で行われてる……) どうすれば良いのか? 思い悩むクリストフの隣に居た『アリシア・ムーンライト』は、願うように呟いた。 「マドールチェさん達の過去……取り戻してあげたいです……」 これに視線を向けるクリストフに、アリシアは続ける。 「辛いものだったとしても、思い出したい気持ち、よく、わかります……私も少し、思い出して……良かった、と思うから」 クリストフは小さく頷き応える。 「俺も、そう思うよ。みんなの記憶を、戻してあげたい」 それぞれが思う中、マドールチェの1人が『セシリア・ブルー』の元に近付く。 その姿は、年頃こそ違うものの、セシリアに良く似ていた。 「セラの家族?」 セシリアと似通った顔立ちの女性に『リューイ・ウィンダリア』は目を丸くして思わず尋ねる。 これにセシリアは、小さく笑みを浮かべると静かに返した。 「私は両親がいるわけじゃないから。……でも、そうね。姉妹といえるのかしら?」 セシリアは近付いて来た女性に、スカートの裾をつまみ、ちょこんと挨拶。 「はじめまして、セシリアです。作られた時には『ブルー』と、個体名を与えられていました」 「『ヴァイオレット』よ。貴女が『ブルー』なら、私の姉に当たるわ」 「そうなんですか?」 思わず聞き返すリューイに、ヴァイオレットは応える。 「ええ。ブルーはプロトタイプに与えられた個体名だから。原型個体として、魔力を抜いて活動停止させた上で、疑似的なコールドスリープ状態で保存されていた記録はあるけれど――」 セシリアとリューイの2人を見て、ヴァイオレットは心地好さげな笑みを浮かべる。 「好い出会いがあったみたいね。ブルー姉さんは」 「ええ。貴女達との出会いも、そうなることを願っているわ」 思いがけず縁のある相手と出会え話を弾ませる者がいれば、これからの交渉に意気込む者も。 「一度は戦闘人形計画は潰したと聞いていましたが、未だ終わってはいないのですね」 マドールチェ達の視線を受け止めながら『ヨナ・ミューエ』は呟く。 「私達は教団所属者の身ではありますが、少しでも彼らの力になれるよう、未来に向けて話し合えれば」 「そうだな」 ヨナの隣に居た『ベルトルド・レーヴェ』が返す。 「ヨセフ自ら出向するほど、こちらは本気なんだ。それを活かせるよう、俺達も力にならないと」 「ぜひ頼む」 ベルトルドの言葉が聞こえていたのか、ヨセフは近付きベルトルドの肩を叩く。 これにベルトルドは応える。 「分かった。それと無いとは思うが万が一の時は任せてくれ」 そうして、ひと通りの挨拶が済んだ所で、蜃の羅針盤の調整が終わったらしいメフィストが皆に言った。 「準備できましたよー。では、始めますねー」 これに皆が固唾を飲む中、過去の再演は始まった。 ●過去再演 (過去の記憶、か……) 首を傾げながらマドールチェ達の様子を見ていたショーンは、眩暈のような感覚と共に過去の再演を目の当たりにした。 「何で分からない!」 男が女を殴りつけている。 (これは――) 部屋の隅で体を縮こませる少年の姿に、自分が何を見ているのかをショーンは理解した。 (子供の頃の俺だ……) 母の浪費癖を咎めて殴り続ける父親。 「お前のために言っているんだ!」 いつもそうだった。 お前のために。 そのために、してやっている。 他人の過ちや弱さを嗅ぎ取るのが巧い男だった。 そして嗅ぎつけたそれを傷つけることに躊躇のない男だった。 なじられ殴られ傷付けられる。 日々、そんな毎日だった。 けれど、その日は違った。 いつものように殴られる母。 何も出来ない無力さに部屋の隅で蹲り、けれどついに耐え切れず父に掴みかかり―― 「お前もか!」 母と同じく殴りつけられる。 「何で分からない! お前らのためにしてやってるのに!」 その言葉に罪の意識はなく、正しいことをしているのだという確信だけがあった。 だから、どれほど殴り蹴りつけようが、容赦がなかった。 結局の所、それが原因だった。 憎しみや嫌悪だとか、そんな物を感じる余裕などなく。 まさしく反射的に、近くにあったナイフで刺して―― (……あれは、死んでない) ショーンは過去の再演を見て気付く。 (ナイフが刺さった箇所、傷の深さ、血の出方……どれをとっても……嘘だ……) 死んだと思っていたから、安心していた自分がいた。 なのに、違った。 「……っ」 めまいがする。 思わず膝をつくショーンに―― 「ショーン」 レオノルが声を掛けてくれた。 熱が引くように、レオノルの声が眩暈を和らげてくれる。 ショーンは立ち上がろうとするが、レオノルが首を横に振って止めてくれた。 (……そう。だよな) 安静にするように、ショーンは腰を下ろす。 (この状態じゃあ冷静に話が出来そうに……ない……) 静かに息をつくショーンに寄り添うように、レオノルは傍に居続けた。 過去の再演を見てしまい、ショーンは過去が終わっていないことを知る。 それは今へと続く因果。 だが、彼が過去から今へと繋いだものは、それだけでない。 それをシリウスとリチェルカーレは見ていた。 1人の男の子が、中庭の奥まった場所で蹲っている。 その姿を見て、リチェルカーレは気付く。 (シリウス) それは幼い頃のシリウス。 救いなどないと、呪詛を注がれていた頃の、彼のひととき。 けれど、手を伸ばしてくれる人はいたのだ。 「……何をしている?」 戸惑ったような声を掛けられ、幼いシリウスは、びくりと顔を上げる。 怯えたような視線を向けるシリウスに、彼は困ったように眉を寄せ尋ねた。 「ここに収容されているのか。何をされた」 怯えさせないよう、気をつけて。 出来る限り、その時の彼の出来る最大限に穏やかな声で尋ねていく。けれど―― 「……」 応えは無く、幼いシリウスは、じっと彼を見詰め続けることしか出来ない。 問われても応えられないシリウスに、彼は困ったように頬を掻く。そして―― 「甘いもの、好きか?」 「……?」 困惑する幼いシリウスに、苦笑するように彼は目を細める。 「口、あけてみろ」 彼に言われ、おずおずと口を空ける幼いシリウス。 そこに、彼は飴玉を放り込む。 「……っ」 思わず目を丸くして、口を閉じるシリウス。 舌の上に乗る、甘い飴玉。 甘いものというより、味がするものを食べたのが久しぶりで、知らず頬が緩む。 「おい、しい」 小さな声に、彼は―― 「そうか」 ぽんっと、幼いシリウスの頭に手を乗せて、ショーンは満足そうな笑顔でシリウスを撫でた。 (こんなことが、あったんだ) シリウスの幼い頃の過去を目にして、リチェルカーレは目を丸くする。 そして、シリウスが気になって彼を見上げる。すると―― 「…………」 無言で、頬を僅かに赤らめる彼の姿が。 「小さなシリウス、あんな顔で笑っていたのね」 頬を染めたまま、シリウスは視線を合わせる。 「わたしも見てみたいな?」 リチェルカーレの言葉に、困ったような、それでいて穏やかな日常を感じさせる落ち着いた表情を見せるシリウス。 久しぶりにみた彼の表情に、満開の笑顔を浮かべるリチェルカーレだった。 過去の再演は、今へと繋がり、続いているのだと感じさせる。 それは、たとえ一度『終わった』あとに続くものであっても変わらない。 過ぎ去りし『終わった』自分を見詰めながら、ニコラは今を思っていた。 (あれは、私か……?) 記憶にない、けれど直感で理解する。 師であるシャルルと酒を酌み交わしながら楽しそうに笑い、話をしている『彼』。 (師を呼び捨てにしているあれは、私ではないが私なのか) それが事実なのだと、ニコラは理解した。 「先日、姪っ子が産まれてね」 目元を緩め、手酌で酒を注ぐシャルルに『彼』は楽しそうに目を細め応える。 「お前の妹の子ならきっと美人になるだろうな」 「もちろんだよ。今度会いに来てくれ。かわいいんだ。ああ、でも――」 くいっと手元の酒を飲み干し、シャルルは上機嫌で続ける。 「美人になっても君の嫁にはあげないからね?」 「お前、いくつ年の差があると思ってるんだ」 苦笑しながら、『彼』はシャルルと酒を酌み交わす。 それは親しいからこその気安さが、見ているだけで感じられる。 (そうか――) ニコラは気付く。 (彼と私は友人だった) 今この時だけは、師と呼ばず。 失われた『彼』のように、シャルルを想う。 (死した後、彼の手で作り替えられたのか) 生きた人間が素材にされないように。 シャルル達が遺体からマドールチェを作れる技術を作り上げ、それが今の自分を作ったのだと、ニコラは実感した。 ――生きてくれ。 「……」 それは自分でない自分。『彼』に掛けられたシャルルの言葉だったのだろうか? 記憶にない筈のその言葉を、ニコラは聞いた気がした。 (私は、望まれて、生まれた) 感謝するように、想う。 だが同時に、思う。 (私のようなケースは稀だろう) 過去の記憶を見て、涙を流しているマドールチェ達を見詰めニコラは思う。 (無理矢理作り替えられれば恨むのは当然だ。ならば――) ニコラは決意する。 (私にできるのは、その悲劇をもう生み出さないこと。そして記憶は無くなっても生きて欲しいという願いに応えること。研究の為に手がいると言うならいくらでも手を貸そう) 決意する彼の隣で、ヴィオラも過去の再演を見ていた。 (ニコラさん……?) 赤ちゃんの頃の自分を見詰める、ニコラに良く似た『彼』。 (でも少し違うような、あれは一体……) 疑問は解けることなく胸に残る。だから決める。 (任務が終わったら伯父様に聞いてみましょうか、気になりますもの) 今へと繋がる過去を知ることを、望むヴィオラだった。 家族の過去を、皆は見ていく。 それはアリシアも同様だった。 「シア、お皿並べてくれる?」 「うん」 どこか甘えるような声で、幼いアリシアが返す。 「お母さん、今日のごはん、な~に?」 「今日は、シアの好きな物ばかりよ」 「ほんと? やったー」 喜ぶ幼いアリシアに、姉が笑顔を浮かべながら、皿を並べるのを手伝ってくれる。 母の手料理がテーブルに並べられ、仕事の片付けを終わらせた父も席につき、家族団らんの食事をしていた。 (お父さんと、お母さんと、お姉ちゃん、と) 目の前に現れた食卓を囲む家族の光景。 懐かしい、家族の顔に、閉ざされていた過去の記憶が解れていく。 それは失われた、けれど大切な人達との、大事な記憶。 ふっと、陽炎が揺らめくように消えたあとでも、その想いは変わらない。 (今の……蜃の……) 心からの感謝をこめ、アリシアは呟いた。 「思い出させてくれて、ありがとう……」 そんな彼女に寄り添うように居るクリストフは、彼女の言葉に、安堵するように表情を和らげた。 (アリシアは、家族を見たのか。そうか良かった……) 自分が見た物とは違うものを見たらしいアリシアに、クリストフは胸を撫で下ろす。 そう思ってしまうほど、クリストフが見た物は凄惨だった。 無理矢理連れて行かれる子供達。 目はうつろで、もはや泣き叫ぶ気力もないようだった。 (見えたのは過去にマドールチェにされた子供達の姿か) 知らず、眉をひそめる。 (あれが過去、実際に行われたこと。そして、今も行われようとしているなら、絶対に止めないと) 悲惨な過去に、それを繰り返させないとクリストフは決意した。 そうした過去の悲惨な事実を見る者は他にもいた。 (こんなことが、過去にあったんですね) 歯を食いしばるような想いで、ヨナは目の前の光景を見ていた。 技術の悪用。子供の誘拐。人体実験。 そこから繋がる兵器としての使い潰しと、起るべくして起こった惨劇。 過去は今へと繋がり、広がっていく。 現地人との衝突。天使の加護の消失。社会格差と戦争に向かわせる情勢。 森の国の守護天使から見せられた光景を思い出さずにはいられない。 あの時は動揺を隠せなかった。 けど今は震えもしない (こんなことを見るのに慣れたくはない。けれど――) ヨナは理解している。 (心を痛めるだけでは進めない) 思うだけでなく実行を。悼むだけでなく拳を握り、必要なら叩きつける。 ヨナの決意と同じくするように、ベルトルドは目の前の光景を注視する。 (少しでも得られる情報はないか?) 僅かなことも逃さないと見詰めていると、記録の端々にどこかで見た雰囲気の人物。 「ヨナ」 同じ者を見ているか確認するために呼び掛ける。 「あれは……」 「まさか人形遣い……?」 2人の認識が重なると、更なる過去の再演へと繋がった。 そこには、あらゆる体の欠片が揃っていた。 「神を」 「神へ届く者を」 「我らは作らなければならない」 それは狂気。 あらゆる問題を解決するべく、創造神に直接嘆願が出来る者を作り出す計画。 「救世主を」 それを望み、優れた生き物の身体を組み合わせる。 速い者の足を切り落とし。 器用な者の腕を切り取り。 よく見る者の目玉を抉り出し。 八百万の肉の欠片さえ使い。 体の欠片を組み合わせ。 アレイスターにより体系化される前の、迷信と非効率が混ざった魔術と、数えきれないほどの犠牲の果てに『それ』は生まれた。 歓喜を浮かべる者達を見詰め『それ』は呟く。 「さて、どう遊びましょうか」 人形遣いは『悪魔』のように微笑んだ。 「今、のは……」 「人形遣いの過去か……?」 混乱する精神を抑えるように呟くヨナとベルトルドだった。 皆はそれぞれ、過去の再演を見て思いにふける。 中には、記憶にない筈の過去を見せられ、呆然とする者もいた。 (まさか、これって……) 周囲の状況を見ていたスティレッタは、仲間の浄化師の様子に、過去の再演を見る事が出来るのはマドールチェ達だけではないことに気付く。 だから警戒するように声を上げようとした。 「蜃の羅針盤? ひょっとしてこっちにも――」 言いかけた直後、スティレッタにとっての過去の再演が始まる。 (……ここって) 景色が一変し、その光景に思わず呟く。 「どこかの教会? 礼拝堂?」 そこは厳かな空気に包まれた場所だった。 本来なら、祈りと願いに包まれた場所である筈のそこは、けれど怒気で満ちていた。 「皆を許してあげて。一生懸命生きているの」 声が聞こえる。 声の主は分からない。 けれど応える人物は、嫌でも分かった。 「許せるはずがない。これは裏切りよ。悪魔はあいつらよ!」 (怒っているのは、私?) それはスティレッタだった。 激情のままに、声を張り上げている。 なのに、知らない。そんな記憶はない。 呆然としているスティレッタの横で、彼女とは違うものを見ていたバルダーが呟く。 「はー……」 マドールチェ達の過去を見て、感心するように一言。 「人形っつーのもなかなか苦労してんだな……」 呟いたバルダーは、隣りのスティレッタがどう思ってるのか気になり視線を向けると、彼女は呆然としていた。 「……スティレッタ?」 魂が抜けたような表情の彼女に、バルダーは唖然とする。 「スティレッタ?」 呼び掛けながら、目の前で手を振ってみる。 それでも反応しない彼女に、どうした物かと思っていると―― 「……一体今のなんなの?」 「何なの? ってそりゃこっちの台詞だ」 思わず返すバルダーの声に、スティレッタは現実に戻ってきたような表情になると小さく呟く。 「幻、だったのかしら」 彼女の言葉に、肩を竦めるように息をつくバルダーだった。 記憶にない過去。 それを見ているのは他にも居た。 一面に広がる豊かな自然。 (ここは) 多種多様な緑で彩られた渓谷に、セシリアは望郷の念を覚える。 記憶には無い。 けれど、魂が識っている。 この場所は自分にとって、懐かしい場所なのだと。 その想いに応えるように、優しい風が吹く。 風は花弁を舞わせ、空へと昇らせる。 流れる花弁に促され視線を空に向ければ、見上げた空に雁の群れが見えた。 「……綺麗だ」 リューイの言葉に、セシリアは頷くように思う。 (ああ、そうだ。私は――) 自分ではない自分。 記憶にない記憶。 思い出すことが出来なくても、識っている。 (――この景色がとても好きだったんだわ……) 「……セラ」 リューイに声を掛けられて、セシリアは気付く。 知らぬ内に、自分は目の前の光景に見惚れていたのだと。 過ぎ去りし過去に想いを馳せながら、けれど今、傍に居る彼のことを思う。 (気遣わせてしまったかしら?) 自分を見詰めるリューイに、セシリアは静かに微笑みを返す。 「とても懐かしい。……思い出せてよかった」 それは見惚れてしまうほど、晴れやかな微笑みだった。 「そっか。好かった」 リューイも笑みを浮かべる。 セシリアが過去を大切に想いながらも、捕らわれることなく今を思っていると感じたからだ。 過去は前世のようなもの。 そう割り切っているセシリアは、動揺することなく、リューイと同胞たちのために出来ることを考えていた。 そうして自分達の過去を見る者もいれば、そうではない誰かの過去を見る者もいた。 「羅針盤を使うのはメフィストさんで、こちらは見ているだけではありますが、やはり緊張しますね……」 過去の再演が起る前、リンファは少しだけ構えるように緊張していた。 だが同時に、信頼もしていた。 「普通なら無理難題かもしれませんが、メフィストさんなら信頼できます」 そうして過去の再演が起り、それをリンファたちは目の当たりにした。 「マー、あれ、ひげじゃないか?」 ステラの言葉に視線を向けると、そこにはメフィストと、黒髪の女性の姿があった。 「メフィストさん、ですね」 リンファは思わず、目をぱちくりする。なぜなら―― 「ひげなのにひげがないな?」 ステラの言う通り、いま2人が見ているメフィストには髭が生えてない。 (ひょっとして、若い頃のメフィストさんですか? それに、あの女性は――) 好奇心に促され、ついつい視線を向けてしまう。 見れば、2人は随分と親しげだった。 「メフィ、お昼何が良い?」 洗濯物を干しながら、女性がメフィストに呼び掛ける。 するとメフィストは、洗濯物の入った籠を持って来ながら応えた。 「甘い物が良いですねー」 「じゃ、パンケーキにする? バターは、この前作ったのがあるし。ジャムは何にする?」 「この前食べた木苺のジャムが良いですねー。美味しかったでーす」 「分かった。なら、あとで森に木苺を取りに行きましょう」 「なら私も行きまーす」 そして2人で森に行く。 「今日も森は豊作ね」 「いっぱい採って帰りましょーう」 「ほどほどにね。作り過ぎても2人だと余っちゃうし」 「大丈夫でーす。全部食べまーす」 「食いしん坊。お腹すいた? それなら、はい」 女性は木苺をひとつ採り、メフィストの口元に。 「メフィ、あ~ん」 女性に誘われるがままに、メフィストは木苺をパクリ。 するとメフィストも木苺をひとつ採り、女性の口元に。 「パールもどうぞー」 「あ~ん」 パールと呼ばれた女性も、ひと口でパクリ。 「美味しい」 「美味しいですねー」 くすくすと、2人は楽しげに笑い合う。 今この時の日常が何よりも大事なのだというような、喜びに満ちた笑顔だった。 なんというか、甘い。 (これは、ひょっとして――) 仲睦まじい2人の様子に、リンファは見ていて恥ずかしさを感じてしまう。 (メフィストさんの、新婚生活なのでは……) などと思っていると―― 「のーう! それはシークレットでーす!」 慌てた様子のメフィストがやって来る。 「おー、こっちはひげがあるな」 「すみません。見る気はなかったのですが……」 「謝らなくても大丈夫でーす。でもシークレットにして欲しいでーす。恥ずかしいですからー」 「それは……指令なので、報告書になりますから……」 「おーう」 微妙に顔を引きつらせるメフィストだった。 などということがありつつも、過去の再演が終わる。 マドールチェ達が過去を受け止めるように固まる中、いち早くオッペンハイマーは平常心を取り戻し、研究者としての好奇心を浮かべ言った。 「なるほど……大したものだ。それを使えば、べリアルの内部にある魂を確認できる」 メフィストが持つ蜃の羅針盤を見詰めながら続ける。 「肉体情報ではなく、魂を起点にして過去を読み出しているんでしょう?」 「大まかにはそうですねー」 メフィストの応えに、オッペンハイマーは頷く。 「やはり。なら、べリアルが取り込んだ魂を読み込み個別に照会すれば、それ以外のべリアルの魂だけを排除できる。その後に、残った魂を変成した肉体に定着させれば、人間にすることが出来る」 「理論上はそうですねー。ただ、べリアル1体につき、人に出来るのは魂ひとつだけでーす。肉体はひとつしかありませんから―。残りは解放するだけでーす」 「でしょうね。それでも誰も助けられないよりは良い。そのための研究なら幾らでも力になりたい所だ。だが――」 マドールチェ達の指導者として、オッペンハイマーは言った。 「全ては、成すべき事を終わらせてからだ。さあ、交渉を始めましょう」 迷いないオッペンハイマーの様子に、レオノルは思う。 (彼には志がある。シャルル先生の頼みが断られてもしょうがないよね……) だからこそ今は交渉に集中する。 (私達は彼の志に乗るべきだ。そして交渉の本質は相手の度量に何をいくら支払えるかを見せるか、それが如何に相手に有用かをアピールするかだ) 差し出すカードを何にするべきか、目まぐるしく思考した。 それは他の浄化師達も同じ。 張り詰めた緊張感が漂う中、交渉が始まった。 ●交渉 「――いま提示した物が、私が貴方達に差し出せる物だ」 ヨセフの提示にマドールチェ達はざわめく。 そこに、ため息ひとつ。 「バルダー・アーテル。何か意見があるのか?」 ヨセフに促されるようにして、バルダーは言った。 「教皇になるから協力しろってねぇ……そりゃあちょっと筋が悪すぎませんかね?」 「ふむ。どういうことだ?」 間の手を入れるヨセフに、バルダーは続ける。 「明日の百より今日の五十って言いましてね。大体アンタ、教団が今までどんだけ色んな事フイにしたか分かってる筈だ。仮に教皇になった所で反故にだってできるだろう」 「そのつもりはない。と言っても、信じ辛いだろうな」 ヨセフは否定せず、マドールチェ達の内心を肯定するように言った。 「だからこそ、信じて貰うには誠意を見せるしかない。どうすれば良いだろうか?」 これにバルダーは返す。 「せめて補償金の数十パーセントでも前払いするとか、食糧供給するとか、そういう即効性のあるもの提供しないと交渉として悪……ってぇ!」 痛みに声を上げ、バルダーはスティレッタに言った。 「スティレッタ! ヒールで爪先踏むのよせ……」 バルダーの非難の声を気にしないというように、颯爽と前に出るスティレッタにヨセフは言った。 「スティレッタ・オンブラ。何か言いたいことがあるのか?」 「室長にはありません。ですが彼にはあります」 オッペンハイマーに視線を向けるスティレッタに、ヨセフは促す。 「なら、頼む」 ヨセフに促され、スティレッタはオッペンハイマーに向け言った。 「もし自由な立場だとしたら、貴方は科学者でいたい? それとも指導者?」 スティレッタの言葉に、オッペンハイマーは耳を傾け、2人は言葉を交わす。 「指導者の重圧って相当なものだと思うわ。私には無理だもの。適している人でも大変じゃないかしらって思ってね」 「そうだね。大変であることは確かだ」 「なら、マーデナキクスの問題組織を潰せば貴方の枷は無くなるかしら?」 「軽くはなるだろうね」 「だったら教団が協力してその組織を潰す、でいいんじゃない? それだったら私、全力を出せるわ」 交渉は少しずつ、だが確実に熱を帯びていく。 それを黙って拝聴していたヴィオラは、同じように黙って聞いていたマドールチェの1人、ヴァイオレットに声を掛ける。 「キッチンをお借りできませんか?」 「構いませんけれど、お茶でも淹れるんですか?」 ヴァイオレットの問い掛けにヴィオラは返した。 「難しい話をすると糖分が欲しくなる事もありますし。腹が減っては戦はできぬと言いますから。良ければ軽食とお茶を私に用意させて頂けないでしょうか」 これにヴァイオレットは小さく笑みを浮かべると応える。 「1人では大変でしょう。私も手伝わせて貰っても好いかしら?」 これにヴァイオレットは柔らかな笑みを浮かべ応える。 「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」 2人は笑顔を浮かべると、途中で何人かの手伝いも加わり軽食とお茶の準備に向かう。 その間も交渉は続いていた。 「室長の交渉事項はカードとしては最強だけど、傍から見て保証されてるかは分からないのが問題だと思います」 レオノルの言葉に、ヨセフは先を促す。 「なら、どうしたら良いと思う?」 「オッペンハイマーさんとしては担保が欲しいと思うんです」 レオノルはオッペンハイマーに視線を向けたあと続ける。 「つまり短中期的に見て教団が彼のうまみになるような提案をする必要があるんです」 「つまり具体的には、どういうことだ?」 ヨセフの言葉に促され、レオノルは案を口にした。 「教団の利点は支部の範囲の広さと人員の多さ、それと情報量です。犯罪の捜査だって一日の長がある。それを担保として提供しなきゃ。 こちらとしては奴隷組織の壊滅のために人手を出すとか、教団が持ちうる情報を開示して共有するとか」 「奴隷組織の壊滅に協力してくれるのは魅力的だね」 レオノルの提案に興味を持つオッペンハイマー。 それをさらに強めるように、ヨセフは皆の意見を聞いていく。 「こちらが出来ることは、可能な限りしたい。他には、何かないだろうか?」 これにクリストフが応える。 「室長の提案は理に叶ってると思う。けど現在進行形であれが行われてるなら、それを先に潰すべきだ」 クリストフは過去の再演で見た、浚われる子供達のことを思いながら続ける。 「目の前で起っていることをどうにかしないと、オッペンハイマーさん達も、こちらに手を貸す余裕は生まれない。だから、その手伝いを俺達にさせてくれないだろうか」 「手伝い、かね?」 聞き返すオッペンハイマーに、クリストフは応える。 「敵に顔がばれていない、マドールチェではない仲間がいると便利だと思うよ。潜入して中枢部を叩くとか、攫われた子供達を救出してくるとか何でもやるよ」 出来ること全てをやろうとするクリストフに、隣りで寄り添うアリシアは思う。 (私に、何が、できるんでしょうか) クリストフに視線を向け考える。 (クリスと一緒に、協力するのは、大前提、で。他に、私にできるのは――) 必死にアリシアは考えていく。 それがまとまる間にも、交渉は続く。 「……対価は早く渡せるものも必要では」 シリウスが静かな声で提案する。 「まずは情報の共有を」 シリウスは、これまでの指令で得た三強ベリアルや人形遣い、そしてアレイスターや創造神の動きを伝える。 「この国でも何かを企んでいる。迎え撃つのに戦力が必要なら、少しは役に立てる」 シリウスの言葉に、マドールチェ達はざわめく。 それは彼らの知らなかった敵勢力となりうる情報を聞いたからだ。 そこにセシリアは、情報を補強するように言った。 「気をつけて下さい」 セシリアは、これまで終焉の夜明け団が起こしてきた、ヘルヘイムボマーやエリクサー生成魔法陣についての情報を提供する。 「この国でも同じ事をするかもしれない。充分に注意を、何かあったら知らせてください。できる限り手伝いをさせてほしい」 「それは同胞としての言葉かね?」 セシリアの言葉に、オッペンハイマーは柔らかな笑みを浮かべ言った。 それはどこか試すような、あるいは信頼するような笑みだった。 この場に居るマドールチェ達が注目する中、彼らと視線を合わせ、そしてリューイにも視線を向け言った。 「仲間と同胞のために協力してほしいんです。室長も、もちろん、貴方の協力も望みます。オッペンハイマーさん」 「ああ、そうだね」 同胞であるマドールチェ達に言い聞かせるように、オッペンハイマーは言った。 「私達が同胞を想うように、君達も仲間を想っている。当然だ。そして君達の中には、我々の同胞でもある者もいる。我々は、お互いを尊重する必要があるのだろう。そのために必要なことは、なんだろうね?」 オッペンハイマーは問い掛けに、リューイは自分の気持ちも込め応えた。 「マーデナキクスに生きる人たち、皆が平等に生きられるようになるといいと思います」 そうなるために、リューイは更に提案した。 「アークソサエティの過度の干渉を認めない。そう条約が結べたら」 そこまで言うと、ヨセフと視線を合わせ尋ねる。 「ウボーさん……バレンタイン家の協力があれば、貴族の同じ意見の人を纏められませんか? マーデナクキスの技術を紹介して、味方になってもらえたら利益があると」 「難しいと思うが、不可能ではないだろうな。問題は、どんな技術を提示するか……」 ヨセフの言葉に、ベルトルドが応えるように言った。 「この国の機械技術の高さは既にアークソサエティを凌駕している。それを活かして自動車などの技術の結晶を各国に売り出し貿易を通じて国交を深める事はどうだろうか?」 「自動車、かね」 興味深げにオッペンハイマーは尋ねる。 「あれは確かに、面白い。叶うものなら色々といじってみたい所だが、問題は燃料となる魔結晶だ。下手をすれば、資源戦争になりかねない」 「それについては考えがある」 ベルトルドはメフィストを呼び寄せ続ける。 「メフィストから伝えられた魔術で、魔力の高い浄化師を抱える教団から提供できる」 「それは興味深いね。術式はどうなってるんだい?」 興味を持ったオッペンハイマーに、メフィストに手伝わせ魔結晶をベルトルドは作ってみせ実演する。 「……なるほど。これは、将来の基幹産業の中枢に成り得る魔術だね」 興奮を抑えるように言うオッペンハイマーに、ベルトルドは提案だけでなく、交渉を重ねる。 「それに価値を見出してくれたなら、独占するのではなく皆に分け与えてくれ」 「どういうことかな?」 これにベルトルドは応える。 「この国の救護院に行ったことがある。あれは救護院というよりスラムだった。ああいう場所が数えきれないほどあるぐらい、この国の格差は酷い。それがある限り、本当の意味で国は栄えない。平等にしろとは言わん。だが飢えることなく明日を夢見ることが出来る国にしてくれ。独立の為の国力を付けるには、それが必要だ」 スラム出身のベルトルドは実感を込めて言う。 それにオッペンハイマーが考え込んでいる間に、ヨセフにもベルトルドは言った。 「ヨセフにも頼みがある。教皇になった暁にはアークソサエティの政治の透明性を徹底すると約束して欲しい」 社会の底辺を生きたことがあるからこそ、いつもより饒舌に、ベルトルドは想いを口にした。 それにオッペンハイマーは応える。 「確かに、国力を高め格差をなくし独立を勝ち取るためにも、それを成すための糧となる大元は必要だ。それだけの価値が自動車にあるのかが問題だが――」 これにニコラが返す。 「その可能性はあります。実際に関わってみて実感しました」 「実際に関わったのかね?」 オッペンハイマーの問い掛けに、ニコラだけでなくリューイやレオノル、そしてクリストフ達、実際に自動車に関わった者達が口々に有用性を説明した。 「ドクターカーも作れる。その時に医者が必要なら手伝うよ」 クリストフ達の話を聞いて考え込むオッペンハイマーに、ずっと考え続けていたアリシアが口を開く。 「皆さんと、仲良くしたい、です」 想いを込めアリシアは言った。 「私にできるのは、いつか、この国が緑豊かな地になれるよう、植物を、植えていくこと。優しい気持ちになれる、環境を整えて…………遠すぎる話かも、しれませんけれど」 それは理想のひとつ。 だが、あまりにも遠い道。 それでもアリシアは、そうなることを望む。 「そんな風になる為に、今、皆さんと仲良くしたい。信じ合いたいです」 必死に想いを告げるアリシアに、オッペンハイマーは返す。 「それは、私達と友好関係を築きたいということかね?」 これにリチェルカーレが返した。 「友好関係はもちろん築きたいです」 そして想いだけでなく提案を口にする。 「シアちゃんがニホンで貰った伝葉や、マドールチェさんの魔術通信を使って、何かあった時のために、すぐに連絡ができるホットラインは作れないでしょうか」 「広域連絡網、かね?」 興味を持ったオッペンハイマーに、リチェルカーレは続ける。 「戦いだけじゃなくて、万が一災害があったときにも、連絡が早く取れたら助かる命が増えると思うんです」 「なるほど……それが出来るなら、確かに魅力的だ」 交渉は形になりつつある。そこにリンファは提案を重ねた。 「取り戻した記憶を辿れるよう、マドールチェの方々に縁のある人や探しものの捜索を教団が協力するというのはどうでしょうか?」 これにマドールチェ達が目を向ける中、リンファは続けた。 「ヨセフ室長は既に何度か、私達浄化師に指令の形で協力をしてくださっていますし、本当に教皇になれるのであれば活動規模も今より拡大できると思います」 「それは、皆が望むだろうね」 オッペンハイマーの応えに、リンファは重ねて提案した。 「あとは、かつての魔術人形問題の追求と、再発させない為の教団内部の改革も視野に入れては」 「もちろん、そのつもりだ」 オッペンハイマー達に応えるように、リンファの言葉に返すヨセフだった。 幾つかの提案と交渉の末、話は纏まった。 それは浄化師の提案が大きい。 実務での協力を今後も話し合うことが決まった所で、ヴィオラがスコーンとお茶を持って来た。 (同じ釜のメシを食う、ではありませんけれど。少しでも気持ちが和むよう願いを込めて) その想いが形になるように。 交渉の終わりは、和やかなお茶会をひととき楽しんで終わりをみせた。
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*** 活躍者 *** |
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[8] スティレッタ・オンブラ 2020/05/20-18:05
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[7] ヨナ・ミューエ 2020/05/19-22:45
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[6] レオノル・ペリエ 2020/05/17-21:54
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[5] ヴィオラ・ペール 2020/05/17-21:49
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[4] クリストフ・フォンシラー 2020/05/17-19:34
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[3] リチェルカーレ・リモージュ 2020/05/17-19:21
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[2] リューイ・ウィンダリア 2020/05/17-14:33
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