~ プロローグ ~ |
機械都市マーデナクキス。 |
~ 解説 ~ |
○目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【魔】 …本当に生きていたか 追跡担当 アジトに着く前から見張りがいるかどうか警戒 いるなら捕獲し口を塞ぎ武器を突きつけて脅す ボスを呼べ。やらないならこの場で殺すぞとな 可能な限りユーゴを子供達から引き離す 合図があり次第威嚇射撃で大きな音を 敵が多ければ味方がいない箇所にマッピングファイア 黒炎は死人兵に使う 浄化師じゃない子供をユーゴが人質に取った場合は撃ち殺して止める ユーゴが捕獲できた場合引き渡す前に情報を引き出そう 大口の客ぐらいいるだろう あいつが臆病なのはよく知ってる 抵抗できない状態で可能な限り精神的に追い詰めてやる 医術も薬学も俺には人殺しの為の道具だ お前を追い詰める為に、俺は研鑽し続けたんだ |
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【魔】 奴隷にする為に、子供を浚うなんて……早く、助けてあげないと ユーゴと言う方は、ショーンさんの、お父さんなんですか……? そんなのって…… そうですね……今は、子供達が最優先、です クリスの運転する車に同乗 クリス?あの、何だか楽しそ…きゃっ 猛スピードで走り出した車に小さく悲鳴 降りた後しゃがみ込み スピード、出し過ぎ、です… 囮役から元に戻れると連が絡来たら禹歩七星を皆さんに その後思いっきりホイッスルを 魔術真名詠唱 戦闘中は鬼門封印と禁符の陣で支援 天恩天賜で回復 式神召喚の雷龍は…脅かすのに使えるでしょうか 敵が中へ戻らないよう、出入口には注意を払って 仲間と子供達が出てきたら敵を足止めして追いかけさせないよう |
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人身売買に奴隷…どうしてそんな酷いことを 必ず子どもたちを助ける こんな組織は無くさなくっちゃ ショーンさんのお父さんと知り呆然 シリウスの言葉にこくこくと 追跡班 小さくなったシリウスに 状況を一瞬忘れ わぁ!と 危ないことをしないでね お願いよ 適時シリウスと連絡 小さな声にはらはら 建物の場所が分かれば本部に連絡 子どもたちを逃がす場所を打ち合わせ 内部の様子がシリウスから伝われば 皆にも知らせる 皆と合わせて表で陽動 シアちゃんと一緒に禹歩七星 子どもたちを返して! 退魔律令で敵を跳ね飛ばす シリウスを見つけたら悲鳴を 回復と鬼門封印で支援 教団に協力とか そんなことじゃない 謝って 子どもたちに酷いことした事 謝ってください…! |
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囮役 伝葉は懐に忍ばせ、さらわれる 見張りがいる時はちゃんと子供のふりをして怯えて見せ、怪しまれないように 見られていないタイミングで伝葉で追跡班に場所など知らせる 追跡班到着、外での戦闘開始までは、捕まっている他の子供たちをなだめて落ち着かせる いい、秘密よ?きっともうすぐ助けが来るわ そうしたら、こっそり逃げ出しましょう 脱出経路とタイミングを見計らう ユーゴが人質を取ろうとしたら他の子を庇って自分が人質になるようにする 施設脱出、避難完了後、または人質にされた時に元の姿に戻る 驚いた?実は私、浄化師なの 怖いおじさん達をやっつけてくるから、安全な場所に隠れててね 追跡班と合流後、魔術真名詠唱して攻撃に参加 |
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ヨ サンディスタムにも人身売買はごく普通にありますが 奴隷の人生や幸せを考えるのは当然の義務 …とは言ってもそういう雇い主ばかりではないのはどこも同じなのでしょうね ベ そもそも非合法に浚って奴隷として捌くなど論外だ それを行っているのが縁者となれば複雑な気持ちもあろうが… ともかく俺達はこの組織の殲滅に努めよう 二人とも追跡側 自動車に乗るのは初めてですがこの技術 やはり凄い…心の中で感心 運転をお願いしながら施設突入へ意識を切り替える 仲間の合図と共にヨナの遠距離魔術で派手めに繰り出し敵の注意を外に向けさせ主に出てきた敵の相手を なるべく多く出てきてくれるといいんだがユーゴのような人物は警戒して引き籠るかもしれんな |
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■囮 ルーノは囮 一人きりで攫われた弱く従順な子供を演じる 脱出経路を定める為に周囲を見回す事も恐怖からの行動に見せかける 伝葉使用時は膝を抱え蹲って顔を伏せ、口元と伝葉を隠す 建物到着時、敵側が動いた時、元の姿に戻れるようになった時に連絡 敵が外に気を取られた隙に行動開始 さり気なく子供達を誘導、脱出させるか敵から引き離し退避を試みる 合流後は元の姿へ戻り、子供を保護しつつ交戦 ■追跡 ナツキは追跡 囮役が元に戻れる状態と伝葉で確認後、建物外の敵へ攻撃開始 陽動として敵を引っ張り出す 外に出て来た敵を確実に処理 ユーゴとごろつきは捕縛、特にユーゴは逃走経路を塞ぎ確実に捕える 死人兵は討伐 合流後は子供達へ被害がないよう注意 |
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奴隷商人 本当にいたんだ こんなこと絶対にやめさせないと 攫われた子どもたちの無事の救出が最優先 もちろん こんな組織は解体して黒幕はしっかり捕まえる リ:囮役 大人しい子どものフリを 建物についたら 他の仲間たちと情報共有 建物の大きさや間取り 敵の人数等 伝葉を使って追跡班に知らせる 大丈夫 絶対に助かるよ 怖がっている子に小さな声で 騒ぎが起これば子ども達を連れて脱出 攻撃されれば元に戻り 迎撃 セ:追跡班 適時リューイと連絡 無理のない範囲で ひとりで危ないことをしては駄目よ わかったことは書き出し 纏める 仲間とタイミングを合わせ 建物の外で陽動 子どもたちが出てくれば 護衛 リューイは三身撃で道を開く セラはシールドを使いながら守りを |
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【魔】 追跡側 ヴィオラなら大丈夫だとは思うが… 若干思案顔 魔術通信を使えるよう、セシリアとは違う車へ乗車 もし何かあればいつでも修理できるように 多少なら壊れても直せる 遠慮無く飛ばせ 襲撃開始で建物の扉をぶち破る 扉前に見張りがいるなら窓を割る 器物破損?知らんな 出てきた敵が纏まってきたら味方がいないのを確認してグラウンド・ゼロ 1人相手ならパイルドライブ ゴロツキ共は殺さず捕縛するよう注意 なるべく派手に音を立てるように、ゴロツキの悲鳴が響くように立ち回る 子供達が脱出してきたら中を確認 残った敵やユーゴをを捜す ヴィオラの思惑に気付けば、それに合わせて演技をしつつ隙を狙う それにしてもこの自動車 後で内部を見せて貰おう |
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~ リザルトノベル ~ |
マーデナクキスでの奴隷組織壊滅。 この指令を受け詳細を確認した『ショーン・ハイド』は、静かな心持ちで『父親』の載っている新聞の写しを見ていた。 (……本当に生きていたか) 少し前、マーデナクキスで受けた指令で、過去の光景を見ていたショーンは思う。 (似てきた、な……) 親子であることが否が応でも分かるほど、写真の姿と自分は似ていた。 だが、それだけのこと。 自分でも不思議なほど、事実は事実として受け入れ、ショーンは事前情報を頭に叩き込む。 彼の傍で同じように事前情報を確認している『レオノル・ペリエ』は、ショーンの様子を静かに分析していた。 (バシリオはもういない。彼の両親も死んだ。そこで全て一度終わったはずなんだ) ショーンの心境は、そういうことなのだろう。 (後始末、ってことになるのかな? とにもかくにも、これで本当に終わりになるよう決着をつけないと) そうしてショーンは落ち着いた様子を見せていたが、事情を知った者の中には呆然とする者も。 「ショーンさんのお父さん……」 話を聞いた『リチェルカーレ・リモージュ』は呆然と呟く。 そんな彼女を見て『シリウス・セイアッド』は言った。 「……やる事は変わらない。子どもたちを助けて組織を潰すんだろう?」 シリウスの言葉に、リチェルカーレは我に返り応える。 「ええ、必ず子どもたちを助けましょう。こんな組織は無くさなくっちゃ」 人身売買に奴隷。どうしてそんな酷いことをするのかと思いながら、リチェルカーレは決意を固める。 同じように子供達を助ける決意をしているのは『リューイ・ウィンダリア』。 「奴隷商人、本当にいたんだ」 事前情報を聞き、リューイは知らず拳を固める。 「こんなこと絶対にやめさせないと」 固く決意する彼の傍では『セシリア・ブルー』が新聞の写しを見ながら静かに言った。 「……自分が同じ目にあっても、同じことが言えるのかしらね」 新聞記事を見詰めながら薄く微笑を浮かべる。 そんな彼女にリューイは言った。 「ショーンさんの父親だなんて、信じられない」 「彼とは何の関係もない人よ。遠慮なく捕まってもらいましょう」 変わらず微笑みを浮かべたままのセシリアに、リューイは応える。 「うん。最優先は浚われた子供達を無事に救出することだけど、こんな組織は解体して黒幕はしっかり捕まえないと」 「ええ。ひとり残らず捕まえましょう」 子供達を救出する決意を固めるのは『アリシア・ムーンライト』も同じだ。 「奴隷にする為に、子供を浚うなんて……早く、助けてあげないと」 今も捕まっている子供達のことを想い心を痛めながら、同時に仲間であるショーンのことも気遣う。 「ユーゴと言う方は、ショーンさんの、お父さんなんですか……? そんなのって……」 どうするべきか迷う彼女に『クリストフ・フォンシラー』が支えるように言った。 「ショーンは覚悟を決めてるみたいだし、悪い事をしたなら罪を償わないとだからね」 クリストフは、やるべき事を成そうとしているショーンを見詰めたあと、続けて言った。 「今は子供達を助ける事を考えよう」 「そうですね……今は、子供達が最優先、です」 子供達を助け出すため、意識を集中するアリシアだった。 そうして子供達のことに想いを寄せる者もいれば、奴隷という制度自体に思うことがある者も。 「サンディスタムにも人身売買はごく普通にありますが、奴隷の人生や幸せを考えるのは当然の義務でしょうに。 ……とは言っても、そういう雇い主ばかりではないのはどこも同じなのでしょうね」 上層階級出身の『ヨナ・ミューエ』は、所有者というよりは雇用主としての目線で憤るように言った。 これに下層階級出身である『ベルトルド・レーヴェ』は返す。 「そもそも非合法に浚って奴隷として捌くなど論外だ」 奴隷制度の是非は一先ず置いてベルトルドは言った。 ヨナもベルトルドも、制度と実体を分けて考えている。 それはどこか、感情と理性を切り離しているように見えた。 ヨナもベルトルドも、本質的には2人とも感情的な人間だ。 ただ、それに振り回されないようにしている所が似ている。 もっともヨナが動的であるのに対し、ベルトルドが静的なので、ことある毎にヨナだけが暴れているように見えるが、根本的には似た者同士である。 実際ベルトルドは、事前情報を聞いて感情を揺れ動かされていた。 「奴隷商人か……それを行っているのが縁者となれば複雑な気持ちもあろうが……」 平静なショーンをちらりと見たあと、ベルトルドは意識を切り替えるように言った。 「ともかく俺達はこの組織の殲滅に努めよう」 これに頷くヨナだった。 事前情報を聞き終り、囮役と追跡役に分かれる。 「ルーノ。本当にいいのか?」 心配そうに『ナツキ・ヤクト』は、囮役を買って出た『ルーノ・クロード』に言った。 これにルーノは落ち着いた声で返す。 「私の方が囮役には向いている。大丈夫。しっかりと囮役を務めてみせるよ」 「そっか。分かった!」 ルーノの言葉を信じ、ナツキは笑顔で応える。 「人身売買組織をぶっ潰す為だからな……! 安心してくれよ、ルーノ。きっちり追いかけるからな」 「頼もしいな。なら後は任せるよ、ナツキ」 拳と拳を打ち合わせ、2人は気合を入れる。 そうしてパートナーを心配するのは『ニコラ・トロワ』も同じだ。 「子供達を早く助けないとですね。頑張りましょう」 囮役を申し出た『ヴィオラ・ペール』にニコラは思う。 (ヴィオラなら大丈夫だとは思うが……) 信頼してはいるが、それでも危険な場所に送り出さなければいけないヴィオラを見詰めながら、ニコラは若干思案顔になる。 それに気付いたヴィオラは、安心させるような笑顔を浮かべ言った。 「大丈夫です、ニコラさん」 笑顔のまま続ける。 「ニコラさんも、皆さんもいるんです。絶対に成功します」 「……そうだな。そうなるよう、私も全力を尽くそう」 安心させるように言うニコラに、笑顔で応えるヴィオラだった。 お互い声を掛け合い、信頼を確かめ合う。 それは『リコリス・ラディアータ』と『トール・フォルクス』も同じだった。 「連絡してくれたら、すぐに追いかける」 トールの言葉に、リコリスは笑顔で返す。 「頼りにしてるわよ、トール」 そう言うと、用意されている蒸気自動車に視線を向け続ける。 「トールが運転するのよね?」 「ああ。2台の内、こっちのを俺が運転するよ。出来るだけ早く着くから安心してくれ」 「ありがとう。でも、事故らないように気をつけてね」 「大丈夫。任せてくれ」 笑顔で応えるトールだった。 そして囮役にメフィストが魔法を掛ける。 足元に魔方陣が浮かび上がったかと思えば、見る見るうちに子供の姿に。 服装も子供の姿に合わせ変わっている。 「これでオッケーでーす。魔法で変わってるだけなので、外見も服装もちゃんと戻るので安心して下さーい」 メフィストが説明する中、子供の姿になったパートナーに、思わず歓声を上げる者も。 「わぁ!」 小さく可愛らしい姿になったシリウスの姿に、リチェルカーレは思わず声を上げる。 けれどすぐに我に返ると、心配するように言った。 「危ないことをしないでね。お願いよ」 リチェルカーレの心配気な囁きに、シリウスは息を吐いて表情を緩め応える。 「……ああいう場所には耐性がある。大丈夫だ」 シリウスの言葉に、リチェルカーレは小さく頷き送り出すのだった。 そうして送り出すのはセシリアも同じだ。 「私なら、子どもの姿にならなくても囮になれるのだけど……」 「しょうがないよ。マドールチェは警戒しているかもしれないんだから」 応えるリューイに、セシリアは視線を改めて向ける。 今の彼の姿は、かつて見た小さな姿。 懐かしさを感じながら、セシリアは続けて言った。 「お願いねリューイ」 「任せて。セラの分も頑張ってくる」 いつもよりも視線の近い顔を寄せ、2人はお互いに微笑んだ。 そして囮役は、子供達が浚われたと思しき場所を、それぞれ1人で歩いていた。 (この辺り、かな?) 人気は無く、けれど迷い込む程度には表通りに繋がる道がある裏通り。 レオノルは、ぼーっとしているように見えるよう、うろうろとしていた。 (さて、釣れるかな?) あまり時間を掛けて歩き回ると怪しまれる可能性もある。 囮役は複数で回っているので、その誰かが捕まればいいのだ。 逆に言えば、誰かが怪しまれれば、いま捕まっている子供達が危険にさらされる。 細心の注意を払いつつ、レオノルは誘拐犯を待ち構えていた。すると―― (人の気配?) 微かな物音に、つけられていることに気付く。 それは背後からだったが、前方を魔力探知で見れば、微かな魔力の揺らぎが見えた。 (物色してから逃げられないよう挟み撃ち、って所かな?) レオノルの予想は当たった。 突如背後から袋を被せられ、強引に抱えあげられる。 (慣れてるなぁ。どれだけ同じことしたんだか) 呆れるように思いながらレオノルは捕まった。 ほぼ同じ頃、他の囮役も捕まっていた。 「このっ、大人しくしろ!」 袋を被せられ、暴れるシリウスを男達が取り押さえる。 多少抵抗する方が相手の嗜虐心を煽ると経験から知っているシリウスは、捕まる際には適度に抵抗していた。 相手が手を上げて来れば諦めて大人しくなるつもりだったが、その気配はなく、力技で大人しくさせようとしていた。 (どういうことだ?) シリウスが訝しんでいると誘拐犯の声が聞こえる。 「くそっ、もう殴っちまえ!」 「馬鹿! 商品を傷つけたら社長に何されるかわかんねぇぞ!」 (商品……) 子供を物としてしか扱わない相手にシリウスは怒りが湧く。 その怒りをぶつけるように、しばらく暴れるシリウスだった。 皆が捕まる中、怯えたように演技をしながら情報を探る者も。 「おじさん達、誰……」 誘拐犯の男達に前後を挟まれたルーノは、どこか窺うような視線を向け声を掛ける。 ルーノの様子に扱いやすいと見たのか、誘拐犯の表情には余裕が浮かぶ。 (騙せているみたいだな。この調子で、いくとしよう) 不安要素を可能な限り排除するように、ルーノは演技を重ねていく。 そんな彼に、誘拐犯は品定めをするように問い掛けた。 「よう坊主。なんでこんな所に居るんだ?」 ルーノは怯えたような表情を見せながら返す。 「おれ……みんなと、はぐれて……」 相手が望む応えを返す。 (昔に戻ったみたいだな……) 子供の頃、大人達の顔色を窺っていた自分を思い出し、心の中でルーノは苦笑する。 けれど表情や仕草には欠片も出さずにいると、誘拐犯はルーノをカモだと見たのか、袋をかぶせて連れて行った。 そうして袋を被せられ囮役は捕まる。 視界が塞がれる中、運ばれる囮役は状況を判断していた。 (荷馬車、かしら? なにかに牽かせて運んでるわね) 袋を被せられたまま、リコリスは何かに乗り移動する。 (結構揺れるわね。馬、にしては足音が変だし) 気になったリコリスが袋越しに魔力探知を使ってみる。 少しでも分かればいいと思って使ってみたのだが、予想外のことが分かる。 (これ、普通の生き物じゃないわ) 魔力の流れがあまりにも歪だった。そうした魔力の形をした生き物をリコリスは見たことがある。 (まさか……) その懸念は、荷馬車から降ろされ、袋を外された時に確信に変わった。 (キメラ) 荷馬車を牽いていたのは、奇怪な姿をした四足獣に見えるキメラだった。 (こんなものまで使えるなんて……) 警戒するリコリスの表情に、怯えているのだと思った誘拐犯は脅かすように言った。 「大人しくついて来いよ。でないとこいつに頭から齧らせるからな」 誘拐犯の言葉におびえたようなふりをしながら、リコリスは建物の中に連れて行かれた。 そこには誘拐犯に捕まえられた子供達が捕えられていた。 先に捕まえられていた囮役は、演技をしながら子供達に声を掛けていく。 「大丈夫ですよ、きっと助けが来るから」 女の子を安心させるように、ヴィオラは小さく声を掛ける。 これに女の子は、縋るよう視線を向けて来た。 (こんな小さな子供を……) まだ5、6歳でしかない女の子の怯えた表情を見て、ヴィオラは憤りを感じる。 周りを見れば、同じように年ごろの子供が数十人捕らわれていた。 (もう少しだけ待ってて下さいね。絶対に、助けてあげますから) そう思っていると、見張り役らしい男が、睨みつけるようにして近付いてくる。 「……」 ヴィオラは無言で、怯えたように体を縮こませる。 少しでも怪しまれないよう演技をしていると、それを真に受けたのか、見張り役の男は下卑た笑みを浮かべ離れていった。 (大丈夫、みたいですね) 気付かれていないと判断したヴィオラが、少しでも情報を得ようと周囲を見渡そうとすると―― 「大丈夫?」 心配そうな声が掛けられる。 「ありがとう。大丈夫よ」 ヴィオラは礼を言うように応えると、アイコンタクトを声を掛けてきた相手、リューイに返す。 「よかった……君達も、この地下室に連れて来られたの?」 小さく言葉を交わしながら、さりげなく建物の構造についての情報を交わす。 怪しまれないよう注意しながら、最小限の言葉で連絡を交わすと、リューイは離れる。 そこで周囲の広さや子供達の位置、合せて見張り役の配置や人数などを確認する。 そうしていると、他の囮役の仲間達もこの場に集められる。 リューイは、その度に細心の注意を払いながら近づき情報を交換し、現状を大まかではあるが纏め上げた。 その時、1人の男が、この場に入って来る。 「社長!」 卑屈に声を掛けて来る見張り役の手下に、誘拐犯の首領であるユーゴは静かに言った。 「今日の仕入れは、どれだ?」 「それでしたら、あいつと――」 手下は囮役の浄化師達を指さし説明する。 それを聞きながら囮役を見詰めるユーゴの眼差しには、欠片も油断は無かった。 下手に視線を合わせると拙いと判断した囮役の浄化師達は、怯えたように顔を伏せる。 しばらくすると安心したように、手下に指示を出すユーゴを、気付かれないよう気をつけながらレオノルは観察した。 (うん。ショーンに仕草とか似てるけど、スーツといい見た目といい虚栄心が強そうだな……内心が弱いタイプかなぁ) レオノルの洞察通り、ユーゴは虚栄心が強いように見える。 それでいて子供であろうと細心の注意を払うさまは、用心深いのを通り過ぎているように見えた。 だがそれだけに、ユーゴがいる間は下手な動きが出来ない。 様子見をしている間に囮役の浄化師達は、自分達に掛けられた魔法が、いつでも自由に解くことが出来るようになったのを感じとった。 第1段階目の準備は整う。 そんな中、ユーゴが地下室を出て行ったのを確認してから、囮役の浄化師達は伝葉で仲間に状況を伝える。 リューイが皆から集めた情報を、見張り役から離れた場所で、まずはルーノが膝を抱え蹲って顔を伏せ、口元と伝葉を隠しながら連絡した。 「囮役は全員捕まって集められている。状況は――」 ルーノからの連絡を受け、追跡役の浄化師達は動く。 「ルーノから連絡が来た! 急ごう!」 ナツキの呼び掛けに応えるように、皆は2台に分かれ乗り込む。 「多少なら壊れても直せる。遠慮無く飛ばせ」 「頼もしいね。助かるよ」 ニコラの力強い言葉に、運転役のクリストフは笑みを浮かべる。 「今回は飛ばして良いんだよね」 「クリス? あの、何だか楽しそ……」 「みんなしっかり捕まってなよ」 アリシアが小首を傾げる中、クリストフは急速発進。 「きゃっ」 思わず驚いて小さく悲鳴を上げるアリシアに、後部座席のリチェルカーレが声を掛ける。 「シアちゃん。シートベルトっていうのを付けるみたいよ」 「これ、ですね」 クリストフの隣、助手席に座っているせいで、よりスピードを感じられるアリシアはシートベルトを付けていく。 その間に、伝葉を介して新たな連絡が入って来る。 「浚われた子供達は囮役と一緒に地下室で監禁されているようだ」 ヴィオラからの連絡を受け、ニコラは車内の皆に伝えると、魔術通信を介し別の車両に乗っているセシリアに情報伝達。 運転中にも連絡を行き届けるために、魔術通信が使えるニコラとセシリアは分かれて乗っていた。 「――ということだ。残りの情報は、隙を見て伝えるらしい。それぞれ分担して連絡するそうだから、伝葉は待機しておいて欲しい」 ニコラはヴィオラからの連絡を皆に伝える。 囮役は、1人で全ての情報を伝えるのは見張りに気付かれる可能性が高いということで、分担して短時間の連絡をするようにしたらしい。 途切れ途切れではあるが、囮役から情報が伝わってくる。 「分かったわ。子供達を守りながら移動するのね」 リチェルカーレは伝葉から伝わってくる、声を潜めたシリウスの声にはらはらしながら返していく。 (どうか誰も怪我をしませんように) 懸命に祈りながら、リチェルカーレは伝えられた情報を皆と共有していく。 その間も、車は猛スピードで進む。 慣れない外国の地形ではあったが、オッペンハイマーが用意した伝葉の魔力を大まかに辿る装置を使い、ショーンは地図と照らし合わせてナビゲートする。 「クリス、少し先を右に迂回してくれ」 「分かった。スピードを落とさないから、掴まってて」 「クリス!?」 アリシアが再び小さく悲鳴を上げる中、猛スピードで進む。 それはもう1台の車も同じだ。 (リコ、待っててくれ) アクセルをべタ踏みしながら、トールは爆速で車を走らせる。 彼の隣の助手席でナビゲートしていたセシリアは、先行するニコラから魔術通信で連絡を受け指示を出す。 「この先を右に迂回するそうよ」 「分かった。皆しっかり捕まっててくれ」 指示を受けたトールは、ブレーキで速度を緩めることなくカーブを曲がる。 タイヤと地面がこすれる音が響く中、ナツキは楽しそうに声を上げる。 「すっげーな、蒸気自動車ってのは、こんなにスピードが出るんだな」 「ええ、凄いですね」 ナツキの言葉に頷くヨナ。 「自動車に乗るのは初めてですがこの技術、やはり凄い……」 気のせいか、興奮したように目を輝かせている。それを見たベルトルドは、念のために言った。 「ヨナ。お前は機会があっても運転しない方が良いぞ」 「何でですか?」 自覚無さ気に、不思議そうに聞き返すヨナに、機会があっても止めねばと思うベルトルドだった。 そうして猛スピードで進み、子供達が捕えられている建物の近くに追跡班は辿り着く。 「スピード、出し過ぎ、です……」 建物からは見えない位置で車から降りたアリシアは、降りた後しゃがみ込み呟く。 「ごめん。帰りは安全運転にするから」 クリストフが宥めるように言う中、後続のトール達も到着し合流する。 「まずは見張りがいるかを確認してから進もう」 かつてエージェントとして活動していたショーンは、その時の経験からなのか、慣れた様子で提案する。 その提案に従い、皆は何かあればすぐに動けるよう配置を取り、建物の影に沿うようにして距離を詰める。 「見張りは居ないようだ。このまま突入することになるが、囮役と連絡が取れるか?」 ショーンの問い掛けに、可能な限り適時リューイと連絡を取り合っていたセシリアが返す。 「今は無理ね。向こうからの連絡が無いから。下手にこちらから連絡したら気付かれるかもしれしないわ」 「それなら、こちらから、分かるようにしましょう」 アリシアはそう言うと、持って来ていた黄金ホイッスルを取り出す。 ヨハネの使徒の残骸で作成された笛は、200m先の相手にも聞こえる優れもの。 それにトールが賛同する。 「良いと思う。こちらに注意を引きつけて陽動にもなるし。俺も信号拳銃を使って陽動するよ」 そう言うとトールは、持って来ていた信号拳銃を取り出す。 そこに加わるようにヨナは言った。 「陽動でしたら、私は派手にエクスプロージョンを入り口付近に目掛け撃とうと思います」 準備は整い、連携して浄化師は動き出す。 前衛組が走り出すと、中衛と後衛組も、お互いの死角をカバーするように走り出す。 それと同時に、アリシアは黄金ホイッスルを響かせる。 これにより、建物の中に居る囮役達に救出の到来を告げ、合せて陽動も開始。 トールが信号拳銃を撃ち上げると、それを合図にするようにヨナが威力を絞りエクスプロージョンを入り口付近に放つ。 爆音と轟音が響き、信号拳銃の煙幕が空に広がる。 この騒ぎに気付いたゴロツキが数人、顔をひきつらせながら出てきた。 「なんだぁ! お前ら!」 ゴロツキ達は、暴力を振るうことに慣れた動きで襲い掛かって来ようとしたが、普段からベリアルと戦っている浄化師からすると、単なる雑魚であった。 ショーンは即座に動くと、ゴロツキの腕を取りひねりあげると、地面に叩きつけ拘束する。 「テメェ!」 残ったゴロツキの1人がショーンに襲い掛かろうとするが、ベルトルドが立ち塞がり腹を撃つ。 「ぐぇっ」 あまりの痛みに転げまわるゴロツキ。それを見た残りは情けない声を上げて建物の中に逃げ出した。 それをすぐさま追いかけたのはニコラ。 手にした大鎌デモン・オブ・ソウルで建物の扉をぶち破る。 十字に叩き切ると、蹴破り粉砕。 「お、お前何すんだ! これはお前、アレだ! 器物損壊ってヤツだぞ!」 「器物破損? 知らんな」 文句を言うゴロツキに、ニコラはデモン・オブ・ソウルで返す。 殺さないよう気をつけて、一撃で叩きのめした。 出てきたゴロツキをあっという間に一掃すると、クリストフは建物に入り大きく声を響かせた。 「敵襲だ! 応援頼む!」 役者にもなれそうな高度な演技力の甲斐もあり、釣られて出てくるゴロツキ達。 それを手早く制圧していく浄化師達。 クリストフは次々叩き伏せると、陽動も兼ね爆裂斬を使い、建物の一部を爆発させゴロツキ達を更に集める。 次々叩きのめされるゴロツキ達。 その1人を拘束しながらショーンが凄味のある声で言った。 「ボスを呼べ。やらないならこの場で殺すぞ」 これにゴロツキは泣きごとで返す。 「む、無理だ。社長が、俺達の言うことなんて聞いてくれるわけねぇよ」 他のゴロツキ達も、同じようなことを口々に返す。 「一致団結している組織ではないようですし、意外と『脆い』ですね」 ヨナの指摘通り、ゴロツキ達は脆い。 元より金に釣られて集まっただけなので、忠誠心も向上心も何も無く、弱い者は虐げるが強い者には抵抗らしい抵抗すら出来ない。 ゴロツキ達を叩きのめし拘束していると、伝葉で連絡を取っていたセシリアが言った。 「子供達を連れてユーゴが逃げようとしてるみたい。リューイ達が対応してくれてる」 それを聞いた浄化師達は、すぐに応援に駆け付けようとする。 だが、それを妨害する新たな敵が現れた。 建物の入り口付近。 建物の中に入った浄化師達を逃がさないと言わんばかりに、口寄せ魔方陣が発生。 すると続々と武器を持った敵が現れる。 それには皆、見覚えがあった。 「死人兵……という事は人形遣いが……」 ベルトルドは歯噛みする。 「確かにこんな組織あいつが喜びそうなものだ」 嫌悪感に眉を顰めながら、囲まれる前にベルトルドは打って出る。 死人兵の群れに跳び出すと、竜哭の特殊能力を発動。 僅かな間とはいえ動きを止める。 その隙に、残りの浄化師達も動いた。 「ここは俺達が抑えるよ! みんなは囮役と合流してくれ!」 クリストフはアリシアと連携して死人兵と戦いながら、パートナーが囮役に就いている仲間に向け言った。 「すまん!」 ショーンは礼を告げ、建物の中に向かって走り出す。 他の浄化師達も走り出し、クリストフとアリシアは、仲間の元に死人兵が向かわないよう、建物の中で迎え撃つ。 一方、外に出たベルトルドと合流したヨナは、連携しながら建物の中に死人兵が一度に向かわないよう戦っていた。 状況が大きく動く中、囮役として子供達と一緒に居る浄化師達も対処していた。 「大丈夫、絶対に助かるよ」 小さな声でリューイは怖がっている子供に声を掛ける。 安心させてやりながら、少しずつ子供達を移動させていた。 同じように仲間も動く。 「こっちに。一緒に居ましょう」 ヴィオラは小さな女の子の手を取ると、逃げ出し易いよう誘導する。 集まって来た所で、リコリスが子供達に逃げ出す準備をするよう促す。 「いい、秘密よ? きっともうすぐ助けが来るわ。そうしたら、こっそり逃げ出しましょう」 驚いたような表情を見せる子供に笑顔で応えながら、監視役の大人達の視線から逃れるように、怪しまれないよう子供達に連絡を重ねていった。 少しずつ、逃げ出す準備が整っていく。 それは追跡役が暴れていてくれたことが大きい。 「どうなってる! 状況は!」 「わ、分かりません」 「馬鹿が! 見に行って来い!」 「は、はい!」 ユーゴの叱責に、怯えた手下が慌てて出て行く。 襲撃され状況が芳しくないことが分かり、それまでの余裕のメッキが剥げ、神経質そうな表情が現れていた。 そんなユーゴの目に付くように、気付かれないよう移動していたルーノは、怯えたような眼差しで大人達を見詰めている。 それはルーノの策だった。 (子供に殺されかけたユーゴであれば、反抗の危険がある者より弱い者を人質に選ぶ筈) 子供達を危険に曝さない為に弱者を装い、自分を囮に使う。 (……普通の子の人質が、因縁の相手と対峙するショーンの障害となってもいけない) その思慮深さが、この場で実を結ぶ。 「おい、お前」 「……ぁ」 ユーゴに手首を掴まれたルーノは、怯えたように声を上げ逃げるようなそぶりをするが、強引に引っ張られる。 「連いて来い。お前は盾だ。逆らえば殺す」 ユーゴの恫喝に、ルーノは諦めたような表情を見せ大人しく従う。 その直前、ルーノは仲間に視線を送り、それを合図に皆は動き始めた。 「セラ、今から子供達を逃がすよ」 リューイは伝葉でセシリアに状況を伝えると、即座に部屋の入口に猛ダッシュ。 この場に居る見張り役が反応できない速さで動くと魔法を解除。 元の姿に戻ると、三身撃で入口の警護役を一瞬で斬り伏せた。 「逃げて!」 リューイが出口を確保し子供達に呼び掛ける。 そこでようやく見張り役たちは動き始めるが、浄化師の動きの方がより速い。 子供達を抑えに来たゴロツキにリコリスが跳び出す。 同時に元の姿に戻り一瞬で叩きのめすと、子供達に茶目っ気のある笑顔を向けた。 「驚いた? 実は私、浄化師なの」 子供達に余裕を持たせるように、明るく軽い口調で続ける。 「怖いおじさん達は私達がやっつけちゃうから、みんなは逃げて」 状況が動く中、ヴィオラはニコラと適時連絡。 「みんな元の姿に戻って子供達の退避を始めています。合流しましょう」 連絡を取っていることに気付いたゴロツキが襲い掛かって来るが、ヴィオラは元の姿に戻ると迎撃。 (驚くといいのですよ、ふふっ) タロットカードをゴロツキの足に投擲し動きを止める。 「お、お前、なんだ! なんで大人に!」 混乱するゴロツキを、ヴィオラは危なげなく制圧していった。 浄化師の活躍で出口までの道が開ける。 「こっちだよ! 早く!」 出口を守るリューイの呼び掛けに子供達が走り出す。 それをゴロツキ達は抑えようとするが、レオノルが防ぐ。 「させないよ!」 レオノルはファイヤーボールを投げつけ撹乱すると、続けてソーンケージを発動。 魔力で形作られた茨が、子供達を守る壁となって立ちはだかった。 その隙に子供達は走り出す。 護衛するように並走する浄化師達。 それを見たユーゴは、舌打ちしながらルーノを人質として連れて部屋を出る。 この段階で、敵と味方の集まりは幾つかに分かれる。 ひとつは、子供達を連れ脱出する組。救出に来た追跡班と合流するべく動いている。 もうひとつは、建物の外と入口で死人兵を抑えている組。 最後のひとつが、逃走しているユーゴと連れていかれるルーノの組。 この内、子供を連れ脱出していた組は、救出に来た追跡班と合流していた。 「セラ! 子供達を!」 リューイは子供達を守る壁になりながらセシリアに声を掛ける。 セシリアは即座に応え、タロットカードでゴロツキ達が近寄らないようにしながら子供達を引き受ける。 「こっちよ。大丈夫、誰も傷付けさせないから」 セシリアは優しく声を掛けながら子供達を誘導していく。 「トール!」 「リコ!」 リコリスとトールは互いに気付くと声を掛け合い、連携してゴロツキ達を制圧していく。 その際は殺さないよう気をつけて、死なない程度に打ちのめした。 (普通の犯罪者……と言うと語弊があるけど、この手合いは普通に裁かれないとな) トールはそう思いながらも、リコリスに危害を加えようとする相手には一切容赦なく、弓矢で撃ち抜いていった。 子供達を逃がしていく浄化師達。 それをゴロツキ達は防ごうとするが、それを許す浄化師ではない。 「子どもたちを返して!」 リチェルカーレは襲い掛かって来たゴロツキを退魔律令で跳ね飛ばし子供達を逃がしていく。 そこに殿を務めていたシリウスが合流。 子供達とリチェルカーレを守るように剣を振るう。 状況は明らかに浄化師達に優勢。 この場に居る浄化師達の強さには、ゴロツキでは歯が立たない。 その状況を崩すように、魔方陣から死人兵が現れた。 (させん) 気付いたシリウスが即座に前に出る。 魔法を解除し元の姿に戻ると、1人で2体の死人兵を相手取る。 「シリウス!」 リチェルカーレは悲鳴のような声を上げるが、シリウスはそちらからは目を逸らし死人兵に集中する。 幾らか軽い傷を負うが、すぐさまリチェルカーレが回復させると援護に動く。 敵を抑えつつ子供達を逃がす。 問題なくこなす中、ヴィオラがこの場に居ないユーゴについて連絡する。 「ルーノさんを人質にして逃げてます。誰か援護に行ってあげてください」 「分かった!」 ヴィオラの言葉を聞いてナツキが走り出す。 さらに続けてショーンもユーゴとの決着をつけるべく、ユーゴの逃げていった場所に向け走り出した。 追跡者がユーゴに迫る。 その頃、建物の入り口とすぐ外で暴れていた死人兵は討伐されつつあった。 「クリス」 「ああ、こいつで最後だ」 アリシアとクリストフは連携して死人兵を倒し、残りは1人。 明らかに追い詰められている死人兵だが、感情を封じられている彼は構わず切り掛かって来た。 全体重を乗せた突きを放って来る。 それをクリストフは避けない。 真正面から受け、刺さったかと思えば、しかし刃は通らず。 逆に死人兵の腹が貫かれた。 クリストフの持つ黒炎魔喰器ロキの特殊能力による反射で、威力をそのまま返したのだ。 腹を貫かれ動きが止まった死人兵に、クリストフは追撃。 氷結斬で腕を斬り裂き凍結させる。 まともに剣が振るえなくなる死人兵。 すると死人兵は捨て身の突進をしてくる。 だが、それをアリシアが迎撃。雷龍を召喚し死人兵の動きを完全に止めると、そこにクリストフは止めを刺す。 2人の活躍で、建物の入り口には敵がいなくなる。 そこに子供達を連れた浄化師達がやって来る。 「敵は?」 「建物の中は片付けたよ。外も、決着がついてるはずだ」 シリウスにクリストフが応えるように、外に居た死人兵は片付けられている。 けれど、それを操っていた人形遣いが外の2人と相対していた。 「面白いですねぇ、これ」 10才ぐらいの少女の姿をした人形遣いが、自分に仕掛けられた伝葉を手に取り興味深げに言った。 死人兵を倒していたベルトルド達の前に現れた人形遣いに、ヨナは伝葉を取り付けようとしたのだ。 「これを私に付けて、どうするつもりだったんです?」 「教えると思いますか」 「知りたければ大人しく捕まれ」 油断なく構えるヨナとベルトルドに、人形遣いは笑みを浮かべ返す。 「……ああ、そういえば、そちらにはマリエルさんがいたんですねぇ。彼女から私の中継点のことを聞いたんでしょう? なるほどなるほど。嫌いではないですよ、そういう貪欲さは」 クツクツと喉を鳴らすように笑うと、人形遣いは続けて言った。 「ですが、残念。もうこの国には中継点はありません。元々この国に居たのは、面白い見世物が見れるかと思っていたからですが、それも大抵終わりましたからねぇ」 (中継点が無い? ……まさか) 人形遣いの言葉にヨナは、ひとつの結論が浮かぶ。 「その姿が、本体……」 「そうですよ。現時点の、ですけどねぇ」 人形遣いは笑みを浮かべながら応えると続けて言った。 「この国は、それなりに楽しめました。あとは少しばかり派手な花火を上げて終わりにしましょう。その招待状に、これは使わせて貰いますよ」 そう言うと、人形遣いの背中が盛り上がり、蝙蝠のような羽が生えた。 「その羽は……人形遣い、貴方は一体……」 人形遣いの異様な姿に、ヨナは反射的に魔力探知を使う。見れば、複数の異質な魔力が駆け巡っているのが分かる。その魔力の形は、今まで戦いの中で見たことがあった。 「まさか、キメラなのですか……」 「憐れな失敗作と一緒にしないで下さい」 笑顔で人形遣いは応えた。 「キメラは、わざと失敗するように作られた欠陥品です。本来は、複数の生物の要素を組み合わせ新生物を作り出す禁術。生み出された生物は強力であるが故に『悪魔』と呼ばれますがね。アレイスターは、ネクロノミコンと名付けた法の書に記しましたが、別に彼が生み出すよりも前に成功させた者もいるのですよ。私を、生み出した者達のようにね」 そう言うと人形遣いは静かに飛び去っていった。 ヨナの行動により、人形遣いとのイレギュラーな会話が過ぎ去った頃、ユーゴは追い詰められていた。 「近寄るな!」 数人の手下を連れてナツキに追い詰められたユーゴは、子供姿のルーノの首に刃物を押し付ける。 「武器を捨てろ。この子供を殺すぞ」 この状況に、ルーノとナツキはアイコンタクトでお互いの意図を読みあう。 「分かった。捨てれば良いんだろ」 ナツキが武器を捨てた瞬間、ユーゴの張り詰めた気配が、僅かだが緩む。 その瞬間、ルーノとナツキは同時に動いていた。 子供姿のルーノがユーゴの足を踏み抜く。 「ぐぁっ」 ユーゴの拘束が緩んだ所で、ナツキは獣人変身。狼犬の姿になると、ユーゴに体当たり。 不意をつかれ転げるユーゴ。 その隙にルーノは拘束から逃れると、前方にダッシュ。 魔法を解き大人の姿に戻ると、ナツキが床に落とした武器を投げ渡す。 「サンキュ! ルーノ!」 武器を手にしたナツキは瞬く間にゴロツキを倒し、逃げようとした者もルーノが魔力弾を叩き込み無力化する。 「悪い、ルーノ。助けに来るのが遅れた」 「いや、良いタイミングだよ」 「そっか。待つのきつくなかったか?」 「まさか。必ず来ると信じていたからね」 言葉を交わしながら、2人は息の合った連携で全ての手下を無力化した。 「ここまでだ。大人しく投降して貰う」 ルーノが落ち着いた声で投降を促すが、ユーゴは怯えた表情で逃げようとする。 それを追い駆けようとした瞬間、魔方陣が現れ死人兵が召喚され、ルーノとナツキに襲い掛かった。 迎撃する2人。その隙に逃げ出すユーゴ。 そこにショーンが追い付いた。そこで―― 「ここは私達で抑える。先に行ってくれ」 ルーノは、ユーゴをショーンに任せた。 「すまん」 一言告げると、ショーンはユーゴを追い立てるべく走った。 ユーゴは逃げ続けるも、屋上で追いつめられる。 そこで新たな魔方陣が発生すると、死人兵が現れた。 「こ、殺せ!」 ユーゴの命に従い、死人兵はショーンに向かおうとする。 だが、ショーンの方が速かった。 「Fiat eu stita et piriat mundus.」 解号を唱え黒炎解放。 一撃のもとに、死人兵をヘッドショッドで打ち倒した。 「へ、ぁ……あああああ――」 自分を守る者が無くなったことを知ったユーゴは、怯えた声を上げ懇願するように言った。 「ま、待て。話を聞け。俺のやってることは、必要なことなんだ。だから――」 言い訳するように喚くユーゴ。 だがショーンは無言で距離を詰めていく。 「ひっ」 ショーンの無言の威圧に、ユーゴは思わず座り込む。 どこか卑屈な表情を浮かべショーンを見上げたユーゴは、ようやくそこで気付いた。 「お前……バシリオ」 ショーンは応えず、銃弾を撃ち込んだ。 「――っ」 足元に銃弾を撃ち込まれたユーゴは声にならない悲鳴を上げ、そんなユーゴをショーンは見下ろしながら言った。 「お前の知っている全てを話して貰う。大口の客ぐらいいるだろう」 怯えたように見上げるユーゴを見下ろしながら、ショーンは淡々と言った。 「お前が臆病なのはよく知ってる。抵抗できない状態で可能な限り精神的に追い詰めてやるよ。医術も薬学も俺には人殺しの為の道具だ。お前を追い詰める為に、俺は研鑽し続けたんだ」 淡々としたその声は、全てが事実なのだとユーゴに分からせた。 全てを悟ったユーゴは、心が折れたように放心した。 かくして決着はついた。 子供達を救出した浄化師は、伝葉でオッペンハイマー達に連絡。 すぐに子供達を迎えに車を出すと返って来た。 迎えが来るまでの間、浄化師達は子供達を安心させるように声を掛ける。 「もう、大丈夫ですよ」 安堵で涙を流す子供に、アリシアは優しく声を掛ける。 「大丈夫、もう怖い人は来ないから。もうすぐお家へ帰れるよ」 セシリアはリューイと一緒に子供達に声をかけ、少しでも心の傷が残らないように努めていた。 同じようにヴィオラも声を掛けていく。 「よく頑張りましたね。もう、怖い思いをしなくても大丈夫ですよ」 浄化師達が声を掛けてくれることで、子供達は落ち着き始めていた。 そうした子供達のケアをすると同時に、捕まえた奴隷組織が逃げられないよう、しっかりと拘束していく。 「しっかり罪は償って貰うわよ」 リコリスは、建物の中にあった縄で男達を縛りながら道理を説く。 これに男達は、卑屈な笑みを浮かべ返した。 「なぁ、アンタら教団の人間だろ? だったら、知ってること話すからよ、手加減してくれよ。な、協力するからよ」 どこまでも自分のことしか考えていない男達に、浄化師達は眉をひそめる。 それだけでは我慢できず、声を上げる者も。 「教団に協力とか、そんなことじゃない。謝って。子どもたちに酷いことした事、謝ってください……!」 リチェルカーレの必死の呼び掛けに、男達は応えた。 「謝ったら、なにかしてくれるのか?」 卑屈に窺うような声で聞き返す男達に、リチェルカーレは絶句する。 根本的に、男達には罪の意識が無い。 それが出来るから、あるいは簡単に稼げるから。 その程度で子供達を浚うような人間だった。 彼らの首領であるユーゴは、一気に老けたように覇気が無くなっている。 それを見詰めるショーンは、感情の色が見えなかった。 そんなショーンを見詰めたベルトルドは小さく呟く。 「……そうか」 (殺さなかったんだな) それがショーンの決着。 だが、それで心が晴れるかと言えば違う。そこに―― 「ショーン」 子供姿のレオノルがショーンの足に抱き着く。 「ドクター!?」 驚くショーンにレオノルは言った。 「私を育ててくれた叔父上はよくこれで喜んでくれたんだ。ショーンも安らぐかなって」 「……――」 レオノルの言葉にショーンは言葉で返せない。 けれど救われたような、小さく儚い笑みを浮かべ応えることは出来た。 日常が戻ってくる。 「迎えが来たようだ。まずは子供達を乗せてあげよう」 ルーノは穏やかな声で、皆に促す。 皆は応え、子供達を乗せ、捕まえた奴隷組織の者達も別の車に乗せると、帰途につくことに。 「さて、帰りは安全運転だ」 「ああ。事故らないよう、ゆっくり帰ろう」 クリストフとトールに呼び掛けられ、皆は車に乗る。 この時には皆、張り詰めた表情も薄らぎ、日常の顔を見せている。 例えばニコラは、戦士ではなく研究者としての顔になっていた。 「どうかしたんですか? ニコラさん」 「この自動車、後で内部を見せて貰おうと思ってな」 いつものニコラの様子にヴィオラは、くすりと笑う。 それは日常に帰って来たと安堵できる笑みでもあった。 浄化師達は、そんな日常に戻れる笑みを子供達に取り戻させ、事件を解決へと導いたのだった。
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*** 活躍者 *** |
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[25] リチェルカーレ・リモージュ 2020/06/16-22:02
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[24] クリストフ・フォンシラー 2020/06/16-21:12
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[23] リューイ・ウィンダリア 2020/06/16-19:48
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[22] リコリス・ラディアータ 2020/06/16-10:07 | ||
[21] ナツキ・ヤクト 2020/06/16-00:24
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[20] リチェルカーレ・リモージュ 2020/06/16-00:05 | ||
[19] ヨナ・ミューエ 2020/06/15-23:26 | ||
[18] クリストフ・フォンシラー 2020/06/15-23:14
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[17] ルーノ・クロード 2020/06/15-22:29 | ||
[16] ヴィオラ・ペール 2020/06/15-21:47 | ||
[15] リコリス・ラディアータ 2020/06/15-11:03
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[14] リチェルカーレ・リモージュ 2020/06/14-23:20
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[13] ルーノ・クロード 2020/06/14-22:15
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[12] クリストフ・フォンシラー 2020/06/14-21:50
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[11] クリストフ・フォンシラー 2020/06/14-21:48 | ||
[10] リューイ・ウィンダリア 2020/06/14-09:43
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[9] ヴィオラ・ペール 2020/06/13-22:07
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[8] ショーン・ハイド 2020/06/13-20:22 | ||
[7] リチェルカーレ・リモージュ 2020/06/13-06:58
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[6] ヨナ・ミューエ 2020/06/13-00:34 | ||
[5] ルーノ・クロード 2020/06/12-23:29 | ||
[4] クリストフ・フォンシラー 2020/06/12-21:48 | ||
[3] リコリス・ラディアータ 2020/06/12-21:36
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[2] ショーン・ハイド 2020/06/12-08:36
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