~ プロローグ ~ |
教団本部室長室でヨセフは言った。 |
~ 解説 ~ |
○目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
リントとマリエルとマリー、四人でノルウェンディに アイスラグーンを見て回って…温水プール?いいけど… べ、別に水着目当てじゃないからな! 俺は泳ぎたい気分なだけだ!(チラッ) う、うん…か、可愛いけど… 赤くなったのをごまかすように泳ぎ始める 運動には自信あるから追い付けないはず…って、リー意外と速いな? 端まで泳ぎきって リント達がいない今がチャンスだ 改めてアンタには礼を言いたかったんだ あの時逃がしてくれてありがとう 俺が弟に似てるって言ってたけど、俺から言わせればリーの方こそ妹に似てるんだ だからってわけじゃないけど、ちゃんとアンタ達のことも大切に思っているから そろそろ合流して食事に行こうか! 照れ隠しで急ぎ |
||||||||
|
||||||||
…シキ 一番上の兄貴はどんなのだったんだ? アンタの兄貴のことはあまり知らないし 向こうから嫌われてても アンタまで嫌いになる必要はない …好きなら好きで良いだろそれで …ライラ 丁度もうそっちに戻るとこだった 二人のやりとりを眺めていると突然ライラに「アルくん、」と呼ばれた …アルくんって (やっぱ シキはライラに似たのか…) 迷惑かけちゃうかもしれないけれどこれからもシキのことよろしくね と微笑むライラ いまさらどうってことない 冷えるからそろそろ戻るぞ おい、シキも早く |
||||||||
|
||||||||
【魔】 酒でも飲みに来いって話だからヴァーミリオンの所に来たのはいいが …何なんだ? こないだあったっきりなのに 何であんなにドクターが懐いているんだ!? 変な魔術でも使ったのか!? ヴァーミリオン、初孫が生まれたじいさんみたいになってるぞ 自分の膝の上ですやすやと寝るドクターを見つつ話しを切り出す マーデナキクスで大捕物があってな 俺の実の親父だった 10の時に殺そうとした程度には縁もゆかりも切った ただ… ただ、部下を脅した時に、親父が頼られてなかったもんでな 呆れたというか、絶望した ああ、こいつと血が繋がっているのか、ってな 幼いながらに殺す程度には見限ったつもりなんだが すまんな、久々に会ったのに湿っぽくなった |
||||||||
|
||||||||
虚栄の孤島へ オクトの人の許可がでれば小さな庭の手入れを ずいぶん荒れてしまっているから綺麗にしたい アネモネ 朝顔 カスミソウ 苺の苗も植えておいたら 春にお姫様が摘めるかしら? 手伝ってくれるシリウスに ありがとうと笑顔 うん その辺りには茉莉花を リリアナさんが良いと言ったら 守り木をここにも植えたいわ 人と魔女と 皆が協力していたら いつか妖精さんもくるかもしれない どこかにいるダヌ様にも わたし達の声が聞こえるかも ルシオさんには会った? 少し強張る顔に 眉を下げて苦笑 わたしだったら 友だちが近くに来ているならお話したいな 彼の手をぎゅっと握って あなたの手は 守る人の手よ 大事な人を殺すなんて嘘 揺れる眼差しに笑顔 大丈夫よと囁いて |
||||||||
|
||||||||
【魔】 休暇、ですか…でしたら、あの、私、行きたいところが (クリスの言葉に一瞬パッと表情を輝かせて 自分で栽培したハーブから作ったお茶を数種類持参 お姫様、お体弱そうな気が、したので ぐっすり眠れたり、心が落ち着いたりする効果のあるもの を中心に選んでみました それから、思い出したときに植えて育てていた、勿忘草を花束にして二つ お姉ちゃん、と、姫様に… 良かったら、4人でお茶を飲めたら、と お茶菓子用のクッキーも用意して 2人に話したいことは 私、姉のことをお姉ちゃんと言うの、やめます、ね これからは、リア姉様、と 「お姉ちゃん」と呼ぶのは、姫様の特権、ですもの、ね 私も、姫様のいいお姉ちゃんに、なれるよう、頑張りますね |
||||||||
|
||||||||
今日は一日のんびりしよう 美味しいものを用意して 外で食べるのも楽しそうだよね 食堂で頼めば作ってもらえそうだけど たまには自分たちでやってみようか セ:リューイ、家に帰ってもいいらしいわよ? リ:この前戻ったばかりだもの いいよ セラもヴァイオレットさんのところに行ってみればいいのに セ:あちらも急にこられても困ると思うわ リ:じゃあ 結局いつも通りの休日だね 食堂でパンを分けてもらって 色々なディップソースやパテ作りに挑戦 作っているうちに楽しくなって 予想以上の量に バスケットにつめ デカンタにレモネードも入れて室長室にお裾分け 自分たちは中庭へ ピクニックみたいだと笑いながら食事 近いうちに大きな戦いが来る 今は力をためないと |
||||||||
|
||||||||
【魔】 いい天気ねー シロスケ荷物持ちにしてショッピングなんて最高よねー あと1件回ったらお茶にしましょ オープンテラスの席に二人で座っていると、ちょっと離れた所でヒューマンの男二人が何か呟いてるのが聞こえる ヴァンピールに対するよくある罵詈雑言よ 無視しましょ 喧嘩売ったら売ったで私達の品性が疑われるわ 放っておいたらシロスケが喧嘩売りに行った挙句、二人共怯えさせて唖然 おまけに私達のコーヒー代までさっきの連中が払うって言わせるって…すごいわね。シロスケ 排除していい、ね… そういうこと、シロスケだからできるのよ って言ってもあんまり理解できないでしょうけどね …ま、ありがと おかげでいい一日になったわ |
||||||||
|
||||||||
・行き先 シャルル先生のところへ 手土産は…オッペンハイマー氏チューンの自動車の設計図 ヴィオラ?また随分と大荷物だな まあ確かに先生は放っておくと研究室に籠もりっぱなしだからな たまにはいいかもしれない 先日見えた自分の過去を話し、何故マドールチェに作り替えたのかを尋ねたかった、のだが どう切り出したらいいものか ヴィオラの言うまま中庭へ そこで彼女が切り出した話に乗るように、実は、と 私の前身が先生の友人だった事を初めて知りました その話をお聞きしても? 仲の良い学者仲間だったこと、先生を庇って事故で死亡したこと 違う人間になるとは思ったが生きて欲しかった事を聞かされ この生を与えて貰えて良かったと心からの礼を先生に |
||||||||
|
||||||||
ニホンへ 温泉に浸かりながらニホンの酒を楽しむ ナツキは一度やってみたかったとはしゃいで ルーノはどこか上の空 ナツキ:こうして飲むのも最高だな! ルーノ:…ああ、そうだね ナツキ:ぼーっとして、どうかしたのか? 心配するナツキに、いつものように誤魔化さずルーノがぽつぽつ話し出す 浄化師になってからこれまで直面した困難はどうにか乗り越えた だがこの先は分からない どこかで間違えて、こんな穏やかな時間まで全て崩れ去ってしまうのではないか そんな事を考えている、と ルーノ:すまない、ただの弱音だ ナツキ:たまには良いだろ。それにどんなに弱音吐いたって、俺はルーノの味方だからな! ルーノ:君は…よく恥ずかしげもなくそんな事を… |
||||||||
|
||||||||
#139で話していた 師の書斎の整理の名目でファンの店へ 入り口から入ると客席でゆるりと寛いでいるのは#111で手合わせをした柳沢轟修 ベ …どうしてここに…?(素で驚く ヨ お知り合いですか? フ あら あなた達会ったことがあるの?まぁどこで?聞かせてちょうだいよ 轟修もまた驚きながら偶然の再会を喜ぶ 喰人の師とは旧知の仲(どちらかといえば悪友)で若い時は何かと果たし合いだ何だとやりあっていた 彼の亡き今もこうしてしばしばファンの店に顔を見せ 悪友の話で盛り上がりに来ている ドリフェスでははっきりと「勝てなかった」相手が目の前にいる事にうずうずを隠せない喰人 ベ また手合わせをお願いします 姉さん 裏庭を借りてもいいか? |
||||||||
|
||||||||
「…お休みだからってさ…僕、居なくてもいいよね?」 久しぶりは久しぶりだけど…やっぱりヤダよー!! エトワールに来たのはいい、でも目的地がここだとは聞いてない!!! 情けないのは解ってる!かっこ悪いのも解ってるけど!アレは別ものだよ!! 門柱にしがみ付く事、15分に亘る攻防末、家令のジェラルドさんに怒られて入りました 「地獄は脅かしてくるのなんていないじゃん!」 安全地帯(※モチヅキ)がお仕事中だから、絶対来るよ。あいつ、く 「やぁ、久しいな」 うぎゃぁぁぁぁ!!! ヴォルフラムは逃走した! しかし回り込まれてしまった!! 「いやはや、真神の末の坊やは脅かし甲斐があるな」 えぇ…これからの事この人?に聞いちゃうの? |
||||||||
|
||||||||
【魔】 今、タビ砂漠の只中に居る 養父殿の所は日帰りで行けるかどうか微妙なのでどうするかと思っていたら… 相棒に誘われた…祭、か 白い子供らの、甲高い声が響く …血筋に刻まれた歌声 綿々と受け継がれた歌を歌う子供…その中に居るメルキオスに似た面差しの子供が2人 「…トラブルメーカーだと、社会不適合者だと、私と自分を遠ざけようとするくせに、身内には甘いな、お前は」 一度懐に入れたら、何であろうとお前は守ろうとする 「確かに他人と価値観は致命的に違うかもしれんが、結局はお人好しだろ、お前」 レムについても、結構気にしてるし ……確かに、5つの子にしては魔力は高いかもしれない だが親元から離すには幼い 要経過観察、だろうな |
||||||||
|
||||||||
ステラとニホンの温泉を楽しみましょう 思えば、ステラを連れてそういった旅館に来るのは初めてですから、彼女とゆっくり休息を満喫したいですね 露天風呂がいいでしょうか、彼女は自然が好きですからね はぁ……気持ちいい…… 教団の大浴場も悪くないですが、この湯は格別です…… ス:おーんせんってすごいな~、いつもよりポカポカするぞ~ ステラ、そろそろ身体を洗いましょう あなたは髪が多いですから、こうして、丁寧に…… ス:マーだって髪の毛いっぱいだぞ、いつもはひもみたいにしてるから目立たないんだな ス:オレはそっちのマーもキレイでかわいいと思うぞ そうですか?ふふ、ありがとうございます さ、目を瞑ってください、流しますよ…… |
||||||||
|
||||||||
今回の休日はニホンの温泉に日帰り旅行 行く途中、見知った顔を見つけ…おじいちゃん?どうしてここへ? そうだったの、私達もちょうど温泉に行くところだったのよ そ、そそそうよ!新婚旅行とかじゃないから! というかまだ結婚の約束すらしていないし! 邪魔とかそんなこと全然ないからね! だからおじいちゃん達も一緒に行きましょう? ラクチェとともに女湯へ と思ったら、ここってもしかして混浴? しかもラクチェがいないし、湯気の向こうにいるのは…トール!? 婚前旅行…?それって私と結婚したいってこと? 嫌じゃないわ、ちょっと恥ずかしいだけ まさか私が結婚する日が来るなんて、思ってもみなかったんですもの じゃあ、今約束してくれる…? |
||||||||
|
||||||||
メラじぃちゃん(エフェメラ)とお散歩! 本当は町に行きたかったんだけどねー 「人が多いとこはむり」 …真顔で言われたら仕方ないわよねぇ メラじぃちゃん、改めて聞くんだけど シィラのこととか、あたし達のこととか本当に良かったの? だって教団のことは簡単に許せるような事じゃないでしょ ……よく納得してくれたわよね? へ?あたし達?…ううん!保護されてから、ひどいことなんて何もなかったよ! 医療班の人たちは優しかったし、たまーに何か怖い人がいたけど それもお医者さん…?が追い払ってたし 今度紹介したげる!怒ると怖いけど 家族が増えたことが嬉しいから みんなで暮らせるために戦うよ 憎しみのためじゃなくて! |
||||||||
|
||||||||
アイスラグーンの温水プール (ビタミンカラーのハイネックビキニ+パレオ) 普段なら着ない色とデザイン イザークさんが驚いた顔をしている、やはり派手すぎたでしょうか…… あの…途中までは当たりです。 普段ならこのような水着は着ませんが、その…イザークさんなら水着姿も目立つかと思ったので、隣にいても失礼にならない位のものがと……やはり変ですよね 故郷の夏は短いところだったので泳ぐ機会がなくて 練習、ですか? イザークさんに手を繋いでもらってゆっくりと水の中を移動 水中で目を開けるとすぐ近くにイザークさんが ……人魚姫が王子様に出会ったのはこんな感じだったのかと……そんな事を思ったのは内緒です、絶対に! |
||||||||
~ リザルトノベル ~ |
浄化師達のささやかな休日。 それを皆は、それぞれ満喫していた。 ●4人でデート 降って湧いたお休みに、『リントヴルム・ガラクシア』は『ベルロック・シックザール』に提案した。 「休日、どこに行く?」 「ゆっくり寮で休むとか」 「ダメだよベル君! せっかくのお休みなのに。そうだ、アイスラグーンに行ってみない?」 「アイスラグーンって……ノルウェンディの観光名所だったか?」 「そうそう。アイスラグーンなら僕は断然温水プールを推すよ! 一緒に見て回ろう」 「アイスラグーンを見て回って……温水プール? いいけど……」 いまいちイメージが湧かないのか、ベルロックは普段と変わらないノリで返した。 けれどリントヴルムの提案に気持ちが変わる。 「じゃ、マリーとリーちゃんも連れて、4人で行こう」 「2人も誘うのか……」 (温水プール、なんだよな……) 「ベル君も見たいでしょ、2人の水着姿」 「べ、別に水着目当てじゃないからな!」 「またまたーそんなこと言って」 からかうようにリントヴルムは言いながら、ベルロックを引っ張って2人の元に。すると―― 「いいですね。行きましょう」 「うん、行こう」 マリーとマリエルは嬉しそうに頷いた。 そして現地に到着。 水着屋さんに向かう。 「一緒に選んでくれませんか?」 マリーの提案に、ベルロックとマリエルは顔を赤らめる。 「それは……」 「えっと、その……」 そんな2人にリントヴルムは助け舟を出すように言った。 「あとで見せて貰う楽しみが無くなっちゃうから、2人で選んできて」 これにマリーは笑みを浮かべ返す。 「分かりました。楽しみに待ってて下さいね」 そう言うと、マリエルの手を引っ張って水着屋さんに行った。 2人が選んでいる間に、リントヴルムとベルロックも選び着替えると合流場所で待っている。 「楽しみだね。2人の水着姿」 「べ、別に俺は……泳ぎたい気分なだけだ!」 照れ隠しのように返していると―― 「こめんなさい。待たせちゃって」 マリエルと手を繋いだマリーが声を掛けてきた。 「かわいいよ2人とも!」 マリエルとマリーの水着姿を見て褒めるリントヴルム。 2人ともツーピースの明るい色合いの水着を着ている。 マリエルは水着姿の上にパーカーを羽織って少し恥ずかしそうに。マリーはプロポーションが良いこともあって胸元をすっぽりカバーするようなハイネックスタイル。 「ほら、2人とも水着似合ってるよ、すごく可愛い!」 「う、うん……か、可愛いけど……」 2人の水着姿を見て、思わず返すベルロック。 けれど言ったあとに恥ずかしくなったのか、ごまかすように泳ぎ始める。 「運動には自信あるから追い付けないはず――」 「ベル?」 「って、リー意外と速いな?」 いつのまにか追い付いたマリーに驚いたように返す。 するとマリーは楽しそうな笑みを浮かべ、ねだるように言った。 「せっかくだから一緒に泳ぎません?」 これにベルロックは応え2人で泳ぐ。 端まで泳ぎ切ると周囲には人が居なかった。 (リント達がいない今がチャンスだ) 2人きりになったベルロックは、以前から思っていた気持ちをマリーに伝えた。 「改めてアンタには礼を言いたかったんだ。あの時逃がしてくれてありがとう」 「……」 無言で見つめるマリーに、ベルロックは続ける。 「俺が弟に似てるって言ってたけど、俺から言わせればリーの方こそ妹に似てるんだ。だからってわけじゃないけど、ちゃんとアンタ達のことも大切に思っているから」 「……嬉しい」 そっと手を重ね、マリーはベルロックに応える。 「私も……ベルもリントも、大切な人です。マリエルと一緒に、愛し合いましようね、旦那さま」 甘えるように、蠱惑的な笑みを浮かべるマリーに、ベルロックは息を飲む。 そんな彼にくすりと笑うと、マリーはいつもと同じ明るい表情で言った。 「大好き、ベル」 するとベルロックは顔を赤くし―― 「あ、ああ……そ、それより、そろそろ合流して食事に行こうか!」 照れ隠しで急いでリントヴルム達と合流しようとした。 その頃、リントヴルムとマリエルも言葉を交わしていた。 「ベル君もリーちゃんも速いね。僕達はのんびり泳ごうか。もしかしてベル君なりに気をきかせてくれたのかもしれないし」 そう言うとリントヴルムはマリエルと2人になれる場所まで一緒に泳いでいく。そして言った。 「実はマリーに話があったんだ。キミを独り占めして監禁しようなんて思ってたこと、ちゃんと謝ってないなと思って」 視線を重ね想いを告げる。 「もちろん今はそんなこと思ってないよ。4人で付き合うの、結果的によかったみたい。皆で支え合えるからね」 「うん……私も、良かったと思う……リント」 「なに?」 「大好き」 「僕もだよ、マリー」 2人は戯れ合うように笑顔を交わす。そしてベルロック達が戻って来たことに気付くと―― 「あ、2人が戻ってきた」 リントヴルム達も合流。 「そうだね、ご飯食べようか」 4人一緒にテーブルを囲み楽しく食事。 「ベル君僕がいなくて寂しかったでしょ? 今度はいっぱい構ってあげるね。はい、あーん」 「1人で食べられる!」 「……照れなくてもいいのに」 くすりと笑うリントヴルムだった。 ●墓参り 6月のノルウェンディ。 夏の気配が近付くこの時期でも、まだノルウェンディには冷たさが広がっている。 ひんやりとした風が吹く中、『シキ・ファイネン』は『アルトナ・ディール』と共に、ひとつの墓石の前に来ていた。 「ちゃんと掃除されてるんだ」 普段から手入れがされている墓石を前にして、シキは小さく笑みを浮かべる。 「掃除道具、持って来なくてもよかったかも」 見れば、シキの手には墓を掃除するための道具がある。 「しなくても良いかも?」 「せっかく来たんだ。していけば良い」 供える花を持っていたアルトナは、そっと花を降ろすと、シキと一緒に墓掃除を始める。 「ありがとう、アル~」 シキは礼を言いながら墓掃除を終わらせ花を供えると、静かに黙祷して故人に祈りをささげる。 同じようにアルトナも黙祷したあと、静かに問い掛けた。 「……シキ。一番上の兄貴はどんなのだったんだ? アンタの兄貴のことはあまり知らないし」 「え、どんな? うーん……」 アルトナの問い掛けに、シキは思い出に浸るような間を空けて応えていく。 「厳しい人だった。人にも自分にも」 普段よりも居住まいを正すようにしてシキは応えていく。 「メイナードは跡取りだったから余計にでもそうしなきゃって思ってたのかも。他の誰よりも努力してた。父様の期待に応えようとして……応える前に死んじゃったけど……」 嘆くよりも、どこか寂しそうに。 シキは、今は亡き兄のことを想い応えていった。 そんな彼の表情を見て、アルトナは言葉を交わす。 「シキ……アンタは、メイナードのことを、どう思ってたんだ」 シキが自分の気持ちを形に出来るよう。 手助けするように、アルトナは言葉を交わす。 その呼び掛けに、シキは思いを口にしていった。 「……俺は、んーと……その、雑草ちゃんなんて呼ばれて嫌われてたけど、やっぱりメイナードを嫌いになれない」 最早届かぬ過去に向け、どこか寂しげな笑顔をシキは向ける。 そんな彼の気持ちを引き上げるように、アルトナは言葉を届けていく。 「向こうから嫌われてても、アンタまで嫌いになる必要はない」 視線を合わせ、アルトナは言った。 「……好きなら好きで良いだろ、それで」 アルトナの言葉に、シキは受け止めるような間を空ける。 そして儚げで、けれど確かな笑みを浮かべ応えた。 「……うん。そうだよな」 シキは墓石を見詰める。 「また来るよ。メイナード」 そう言うと、花咲くような笑顔を、亡き兄に手向けるように浮かべた。 そして、くるりとアルトナに身体を向けると、いつものように明るい笑顔を浮かべ言った。 「アル戻ろうぜ。母様が――」 そう言って来た道に視線を向けると、そこには母であるライラの姿が見えた。 「――って、あれ、母様? 家で待ってるって……」 「そろそろ戻って来る頃かと思って、迎えに来たの」 明るい笑顔を浮かべるライラに、アルトナが返す。 「……ライラ。丁度もうそっちに戻るとこだった」 「そうなの? 良かった」 ライラは2人の様子を見詰めると、安心するような笑みを浮かべ言った。 「メイナードのお墓参りでシキが落ち込んでるんじゃないかしらと思ってたんだけど、そんなことは無かったみたいね」 「う……落ち込んでないです……! 母様、寒いので戻りましょう?」 照れ隠しのように言いながら、シキはライラを気遣うように言った。 そんな2人の様子を、アルトナは静かに眺めている。それに気付いたライラは、アルトナと視線を合わせると、シキに向けるようなやわらかな笑みを浮かべ呼び掛けた。 「アルくん――」 「……アルくんって」 (やっぱ、シキはライラに似たのか……) 2人は母子だな、とアルトナが実感していると、ライラは言った。 「迷惑かけちゃうかもしれないけれど、これからもシキのことよろしくね」 微笑むライラに、アルトナは当然だというように応える。 「いまさらどうってことない」 そう言うと、来た道に身体を向け続ける。 「冷えるからそろそろ戻るぞ」 これにライラは、くすりと笑い歩き出す。 「そうね、帰りましょう。シチューを作ったの。温まるから、食べていってね」 そしてライラとアルトナは2人で歩き出す。そこで、いつもは横に居るシキが来ないのに気付き、アルトナは呼び掛けた。 「おい、シキも早く」 「もー! アル待ってよー!」 慌てて追いかけるシキ。 あとに残るのは静かな墓石。 けれど、去って行く3人を見送るように、穏やかな風が吹いていった。 ●再会を祝して 「会いたかったよー!!」 「おう、よく来たな!!」 満面の笑みを浮かべ自分の回りをぐるぐる周る『レオノル・ペリエ』を、ヴァーミリオンは明るい笑顔で迎える。 それを見た『ショーン・ハイド』は、いささか戸惑う。 (酒でも飲みに来いって話だからヴァーミリオンの所に来たのはいいが……何なんだ?) 笑顔で言葉を交わし合うレオノルとヴァーミリオンに、ショーンは混乱するように呟く。 「こないだ会ったっきりなのに、何であんなにドクターが懐いているんだ!? 変な魔術でも使ったのか!?」 驚愕していると、ヴァーミリオンは好々爺のような笑顔で、レオノルに笑いかけていた。 「ヴァーミリオン、初孫が生まれたじいさんみたいになってるぞ」 「どうかしたか?」 「……? ショーンどうしたの?」 不思議そうに見つめる2人に、思わずショーンは言葉に詰まる。 そんなショーンを、ヴァーミリオンは明るく笑いながら迎え入れた。 「まぁ、中に入れ。とっときのヤツを用意してるんだ」 ヴァーミリオンに促され、ショーンとレオノルは彼の執務室に入る。 仕事用の机の他には、来客用のテーブルと迎え合わせになっている二脚のソファといった簡素な内装。 他には仕事用の棚が置かれていたが、よく見ればそこには、酒瓶とお菓子があった。 「好きに座ってくれ」 来客用のソファを示し、ヴァーミリオンは棚から酒瓶とお菓子を取りに行く。 その間にレオノルとショーンはソファに隣り合って座る。 しばらくしてヴァーミリオンも対面のソファに座ると、レオノルの前にお菓子の皿を置き、ショーンの前にブランデーの酒瓶を置く。 続けてショットグラスをみっつ置き言った。 「ショーン、お前はストレートで良いな? 嬢ちゃんはどうする? 度がきついから、水で薄めるか?」 「ううん、いいよ。ふたりと一緒が良い」 「そうか。なら、舐めるようにちびちび飲むと良い。こいつは香りが良いからな。酔う以外にも楽しめる」 そう言うと、ヴァーミリオンはグラスにブランデーを注ぐ。 その内のひとつを手にすると、ショーンの前に掲げ言った。 「再会を祝して」 ショーンは苦笑すると、自分もグラスを取り、軽く打ち合わせる。 「再会を祝して」 乾杯すると、くいっと一気に飲み干す。 すっと喉を滑り落ち、芳醇な香りが広がる。 次いで胃の腑が熱くなり、じんわりと熱が広がっていった。 「良い酒だな」 「お前と飲む酒だ。良い酒にしないとな」 笑顔を交わし合い、ショーンとヴァーミリオンは、お互いのグラスに酒を注ぎ合う。 それを嬉しそうにレオノルは見詰めながら、ちびちびとお酒を空にしていった。 しばらくお互いの近況を話し合っていると酒も回って来たのか、レオノルがうつらうつらとし出す。そしてショーンの膝を枕に眠りに落ちた。 自分の膝の上ですやすやと寝るレオノルを見詰めるショーンを、ヴァーミリオンは静かに見詰める。 そのまましばし沈黙が満ち、ヴァーミリオンは静かに待ち続けた。 やがて沈黙に応えるように、ショーンは口を開いた。 「マーデナキクスで大捕物があってな。俺の実の親父だった」 ヴァーミリオンは黙って聞き続ける。 「10の時に殺そうとした程度には縁もゆかりも切った。ただ――」 言葉を切り出す間を空けてショーンは続けた。 「ただ、部下を脅した時に、親父が頼られてなかったもんでな。呆れたというか、絶望した。 ああ、こいつと血が繋がっているのか、ってな。 幼いながらに殺す程度には見限ったつもりなんだが」 そう言うと、くいっと酒を飲み干し、気持ちを切り替えるように言った。 「すまんな、久々に会ったのに湿っぽくなった」 「良いじゃねぇか。心が渇いてひび割れるよりゃ、よっぽど良い」 そう言って、ヴァーミリオンもグラスを空にする。 そしてショーンに酒を注ぎたそうとすると―― 「ドクター!?」 寝ぼけたままのレオノルが、ショーンをギューッと抱きしめた。 「く、はははっ」 ヴァーミリオンは楽しそうに笑い、自分のグラスに酒を注ぎながら言った。 「慰めてくれてるみたいだな。良い子じゃねぇか。大事にしろよ、ショーン」 「……ああ」 静かに応えるショーンだった。 そしてレオノルの酔いも醒めた頃、帰路につくことに。その前にヴァーミリオンがショーンに頼む。 「酒瓶とグラス、炊事場に持ってってくれ」 「それぐらいしろ」 「えー、いいじゃねぇか。酒はこっちで用意したんだから、それぐらいしてくれてもよ」 「……分かった」 軽くため息ひとつ。ショーンは慣れた様子でテーブルを片付け持って行った。 ヴァーミリオンと2人きりになったレオノルは、ぽつりと言った。 「ショーンは私の支えになろうと頑張り過ぎてるきらいがあるんだ。だからどうしても私にはさっきみたいなこと言わない」 「そこは男の見栄ってヤツもあるのさ。良い女の前だと、張り切り過ぎるもんだ」 冗談めかして返すヴァーミリオンに、レオノルは苦笑しながら言った。 「男同士気兼ねないんだろうけどさ、迷惑かけちゃうけど……よろしくね」 「ああ、分かってるよ。気にすんな、嬢ちゃん」 ショーンには秘密の言葉を交わし、その日の再会は終わりをみせた。 ●再会 「……引っ越しでもするのか?」 山のような荷物を準備する『リチェルカーレ・リモージュ』に、『シリウス・セイアッド』は目を丸くする。 「庭作りに必要なの。オクトの人達に許可が貰えたから、王城跡地の庭の手入れをしようと思って」 そう言って準備を続けるリチェルカーレを見て、シリウスは手伝った。 全ての準備が整い、虚栄の孤島に訪れる。 オクトの人員に必要な物を運んで貰い、リチェルカーレは庭の手入れを始めた。 (楽しそうだな) 庭の手入れをするリチェルカーレを見て、シリウスは思い出す。 (そういえば、教団でも楽しそうに庭の手入れをしていたな) 花を植えていくリチェルカーレの幸せな顔を見て、シリウスも無意識に顔をほころばせる。 シリウスは穏やかな表情を見せながら、リチェルカーレの手伝いをしていた。 力仕事はシリウスが積極的に行い、花の知識が要る植え付けなどはリチェルカーレが中心になって作業をしていく。 「アネモネに朝顔にカスミソウ。苺の苗も植えておいたら、春にお姫様が摘めるかしら?」 いずれ花であふれるその時を思い、リチェルカーレは自然に笑顔が浮かぶ。 そんなリチェルカーレを心地好さ気に見ながら、シリウスは花の配置を尋ねた。 「これは、ここで良いのか?」 「うん。その辺りには茉莉花を。ありがとう、シリウス」 笑顔で応え、リチェルカーレは植える植物の配置を考えていく。 「リリアナさんが良いと言ったら、守り木をここにも植えたいわ」 その時を想像し、リチェルカーレは願うように言った。 「人と魔女と。皆が協力していたら、いつか妖精さんもくるかもしれない。どこかにいるダヌ様にも、わたし達の声が聞こえるかも」 リチェルカーレの願いに応えるように、心地好い涼風が頬を撫でる。 「気持ちの好い風」 「そうだな」 応えるシリウスにリチェルカーレは笑顔を向け、彼の背中を押すように言った。 「ルシオさんには会った?」 ぎくりと、シリウスの顔が強張る。 会いたい気持ちはある。 けれど怖いのだ。 近づいて何かあったらと、どうしても思ってしまう。 馬鹿げているとわかっていても、沁みついた恐怖は中々取れず、シリウスはルシオに会う決断が出来ないでいた。 そんなシリウスを見て、リチェルカーレは眉を下げ苦笑しながら続ける。 「わたしだったら、友だちが近くに来ているならお話したいな」 シリウスの手をぎゅっと握って、リチェルカーレは視線を合わせ言った。 「あなたの手は、守る人の手よ。大事な人を殺すなんて嘘」 リチェルカーレの細い指の感触と、至近距離の笑顔にシリウスは、ゆっくりと瞬く。 シリウスの揺れる眼差しに、リチェルカーレは笑顔で応え囁く。 「大丈夫よ」 背中を押され、シリウスはルシオを探しに行った。 しばらく探し、ルシオを見つけた。 「……」 王城跡地の補修資材を運んでいるルシオを見つけ、けれどすぐには声を掛けられない。 勢いをつけるような時間が過ぎた頃、シリウスはルシオに声を掛けることが出来た。 「……ルシオ」 思った以上に声が出てくれない。 けれど、ルシオは気付いた。 「シリウス!」 ルシオは笑顔を浮かべると、駆け寄る。 すぐ傍にまで来たルシオに、シリウスは掛ける言葉が見つからず、世間話をするように声を掛けた。 「……体調は?」 「シリウス達のお蔭で、良くなったよ」 笑顔を浮かべ、ルシオは応えていく。 「俺達に掛けられた転魔も解除して貰ったし、元気一杯だ。シリウスは、どうだ? 元気か?」 「俺は、平気」 ぽつりぽつりと、ルシオに話掛けられ応えていくシリウス。 最初に声を掛けたのはシリウスだが、いつのまにやらルシオが話しかけてくれる。 色々と話したいけれど、何を言えばいいのか分からない。 そんなシリウスの様子に、ルシオは頼みごとをする。 「シリウス、手を貸してくれないか? いま資材を運んでいるんだ。シリウスが手を貸してくれると助かるよ」 「……分かった」 資材運搬を2人でこなしながら、ルシオは話を振ってくれる。 「力持ちになったな、シリウス。教団でも、こういう仕事はするのか?」 「うん、偶に」 お互いの近況を、ぽつぽつと語り合う。 子供の頃のように言葉を交わせるようになった頃、ルシオは優しく言った。 「まだ誰かといるのが怖いのか?」 小さく頷くシリウス。そんなシリウスに、ルシオは言葉を贈る。 「いいんだよ、シリウス。お前は、誰かと一緒に居ても」 手の掛かる弟を見詰める優しい兄のように、ルシオは言った。 「お前と一緒に居ることを、望む人もいる。お前のパートナーの、あの子みたいにな」 「いいのだろうか」 震える声でシリウスは言った。 「俺は、あいつの横にいても」 「いいんだよ。それを望んでるんだ」 ルシオは想いを込め言った。 「彼女も、俺も。きっと他にも、お前と一緒に居ることを望む人が居る。覚えておいてくれ、シリウス」 ルシオの言葉にシリウスはすぐには応えられない。けれど―― 「……そうか」 小さく絞り出すような声で、シリウスは応えることが出来た。 ●お姉ちゃん 「休暇、ですか…でしたら、あの、私、行きたいところが」 休暇でどこに行きたいか尋ねる『クリストフ・フォンシラー』に『アリシア・ムーンライト』は一瞬パッと表情を輝かせる。 「お姉ちゃんに、会いに行きたいです」 「そうだね、エルリアに会いに行くかい?」 クリストフは柔らかな笑みを浮かべ応えた。 「俺も気になってたからね、この前はそれどころじゃ無かったし」 話が決まれば、早速行くことに。 道中、クリストフはアリシアに尋ねる。 「それ、自家製のお茶かい?」 「はい。自分で栽培した、ハーブをブレンドして、作っています」 大切そうに荷物を持ちながら続ける。 「お姫様、お体弱そうな気が、したので。ぐっすり眠れたり、心が落ち着いたりする効果のあるもの、を中心に選んでみました」 お土産は他にも。勿忘草の花束ふたつを持って来ている。 それは以前、過去を思い出してから植えていたものが育った花束だ。 「お姉ちゃん、と、姫様に……良かったら、4人でお茶を飲めたら、と」 クッキーも用意しているアリシアに、クリストフは頷いた。 そしてエルリア達のいる虚栄の孤島、王城跡地に到着。 島の開拓に当たって中心となるよう、いま王城跡地では改修工事の真っただ中。 真っ先に整えられた、王女であるメアリーの部屋にアリシア達は通された。 「シア、クリスも……」 メアリーの勉強を手伝っていたらしいエルリアが、アリシア達を迎え入れる。 「お姉ちゃん」 迎え入れてくれるエルリアに、アリシアがほっとしていると、メアリーがこちらを見ているのに気付く。 目が合うと、メアリーは恥ずかしそうに声を掛けてきた。 「シアお姉ちゃん」 はにかむような笑顔と好意を向けてくれる。 「姫様、これを」 アリシアが、お土産を渡す。 「わぁ、ありがとう! シアお姉ちゃん!」 メアリーは、お土産を貰い喜ぶ。 屈託のないメアリーの様子にエルリアは微笑むと、お茶菓子のクッキーを受け取り言った。 「ちょうど休憩しようと思っていたところなの。お茶にしましょう」 「なら、私も、手伝います」 「大丈夫よ。今日は貴女はお客さまなんだから。私に用意をさせて」 エルリアは、やんわりと止めると、手慣れた様子でアリシアの持って来てくれたお茶を淹れる。 その間に、アリシア達は部屋に備え付けのテーブルに座る。 「シアお姉ちゃん、今日はずっといるの?」 「はい。時間が、許す限りは」 「本当? やったー! あのね、あのね。話したいこと、一杯あるの。シアお姉ちゃん」 嬉しそうな笑顔を浮かべるメアリーに、アリシアも笑顔で返しながら思う。 (シアお姉ちゃん……) そう呼ばれるのが、なんだかくすぐったい。 そして同時に、メアリーがエルリアのことを、お姉ちゃんと呼んでいることを思い出す。 (姫さまにとっては、お姉ちゃんが、お姉ちゃん、なんですね) そのことに気付くと、ひとつの決心をする。その間に、エルリアは皆にお茶とお菓子を配り終え、4人でテーブルを囲んでお茶会を始める。 それぞれが離れていた頃の話をしながら、時に笑い、時に相手のことを想い悲しみを飲み込みながら、話は弾む。 楽しいお喋りが続き、しばらくしてから、アリシアは自身の決意を口にした。 「私、姉のことをお姉ちゃんと言うの、やめます、ね」 驚いたように見詰めるエルリアとメアリーに応えるように、アリシアは続ける。 「これからは、リア姉様、と。『お姉ちゃん』と呼ぶのは、姫様の特権、ですもの、ね」 「……シアお姉ちゃんは、寂しくないの?」 気遣うように自分を見詰めるメアリーにアリシアは笑顔で応えた。 「リア姉様が頑張ったから、姫様に、お姉ちゃんと、呼んで貰えるように、なったんだと思います。私も、姫様のいいお姉ちゃんに、なれるよう、頑張りますね」 アリシアの言葉に、エルリアは静かな笑みを浮かべた。 そのあともお茶会は続き、お茶のおかわりの用意に席を立ったエルリアのあとに、クリストフが続き声を掛けた。 「エルリア……もしかして、アンデッドになってるかい? 何となくそんな気がして」 「気付いていたの?」 「アリシアは気付いてないから、黙ってた方が良いなら言わない。一度死んだと知ればたぶん彼女は、また自分を責めるだろうから。だけど黙っててバレたら、と言う気もしてね」 「……ありがとう。黙っておいて。あの子の負担になりたくないから」 穏やかな表情で応えるエルリアに、クリストフは真摯に言った。 「それと君がピンチの時に俺も駆け付けられなくてごめん。逆算してみると、あの頃、俺もアンデッドになってて。父さんが君達の救出に行くのが遅れたのも、俺の事でうちの両親も一杯一杯だったからで」 「気にしないで。今日会えただけで、十分だから」 静かな表情で応えるエルリアに、クリストフは続ける。 「今からでも取り戻せると良いよね。4人でさ」 「……ええ」 その言葉を実現させるように、その日は4人で楽しく過ごしたのだった。 ●のんびり休日 「リューイ、家に帰ってもいいらしいわよ?」 「この前戻ったばかりだもの、いいよ」 休暇をどうするか尋ねる『セシリア・ブルー』に『リューイ・ウィンダリア』は応える。 「セラもヴァイオレットさんのところに行ってみればいいのに」 「あちらも急にこられても困ると思うわ」 「じゃあ 結局いつも通りの休日だね」 「そうね。今日くらい、仕事のことを考えるのはやめましょう。のんびりするのも大切よ」 「うん。今日は一日のんびりしよう」 リューイはセシリアに返すと、ひとつの提案をする。 「美味しいものを用意して、外で食べるのも楽しそうだよね。食堂で頼めば作ってもらえそうだけど、たまには自分たちでやってみようか」 「いいわね。何が良い?」 「ん~、あまり手の込んだ物は大変そうだし、簡単に作れるものが良いかな」 「そう? それなら、サンドイッチでも作りましょう」 「うん。そうと決まれば、食堂に行こう」 笑顔を浮かべ、リューイはセシリアと一緒に食堂に向かう。 その途中、書類の束を持って室長室に向かうウボーの姿を発見する。 「仕事、大変そうだね」 「そうね。私達だけでなく、いつ休んでいるのかわからない室長室の人たちにも、少しくらい休んでほしいのだけど」 思案顔のセシリアに、リューイは提案する。 「ねぇ、サンドイッチを作ったら、お裾分けしてあげようよ」 「いいわね。いつも夜中に紅茶やコーヒーばかりで、あまり食べてないみたいだし。美味しい物を作って持って行ってあげましょう」 というわけで、2人は食堂に向かう。 到着し料理人にわけを話すと、スライスされたパンと一緒に材料も用意してくれる。 「今日の料理に必要な分は確保してあるから、全部使っていいよ」 「ありがとうございます」 「助かります」 リューイとセシリアは料理人に礼を言うと、早速料理開始。 「リューイ。指を切らないで」 「そんなに小さくないよ! 大丈夫」 子供に注意するように声を掛けるセシリアに、リューイは少し拗ねたように顔を膨らませる。 そんなリューイの扱いは慣れたものというように、すました顔でセシリアは返した。 「あらごめんなさい」 くすりと心の中で微笑しながら、セシリアはリューイと一緒にサンドイッチを作っていく。 「お腹に溜まるものが良いよね?」 「甘いサンドイッチも良いものよ」 2人はそれぞれ、思い思いに作っていく。 色々なディップソースやパテ作りに挑戦。作っていく内に楽しくなる。 アンチョビに、臭味を取るためのバジルを加えた魚系のディップソースや、牛乳につけ臭味を取ったあと煮込んだ鳥レバーをパテにしたものをパンに挟んでいく。 お腹に溜まりそうなサンドイッチは、蒸し鶏にマヨネーズ系のディップソースを絡めたものや、豚のハムやベーコンをこんがり焼いてマスタードソースと混ぜたもの。 他にはデザート用の甘いサンドイッチも。 ホイップさせた生クリームに果物を挟んだものや、かぼちゃの甘い部分を砂糖で煮てパテにしたものに、ナッツ類を砕いた物を混ぜたものも。 美味しそうなサンドイッチをたくさん作り、デカンタにレモネードも入れると、料理人に礼を言ってから、バスケットに詰めて持って行く。 まずは、室長室にお裾分け。 「……仕事の邪魔しちゃ悪いかな?」 「部屋の前に置いていきましょうか?」 こっそりと、ドアの前にバスケットを置いていく。 それに警備員は気付くも、面白そうに見つめている。 「内緒にしてね」 笑いかけながら声を掛けるセシリアに、警備員も笑みで返す。 メモをひとつ。 ――いつもありがとうございます。 バスケットに挟むと、2人はダッシュでその場を離れた。 くすくすと笑い合いながら、2人は教団本部の中庭に向かう。 今日は青空。気持ちのいい天気に伸びをして、外でランチタイム。 「ピクニックみたいだ!」 喜ぶリューイに、セシリアも笑顔を浮かべ、シートを敷いて2人で楽しく食事。 「美味しい!」 「ええ、美味しいわ」 リューイに応え、セシリアは続ける。 「沢山食べて大きくなってね」 「大丈夫。こんなに美味しいんだもん。たくさん食べるよ」 (それに、近いうちに大きな戦いが来る。今は力をためないと) 静かな決意を抱きながら、リューイはセシリアと楽しく食事をした。 そうしていると、虚栄の孤島で出会った猫達が寄ってくる。 「食べるかい?」 「食べるにゃー!」 猫達と戯れながら、ゆったりと過ごした。 楽しいランチが過ぎ、2人で楽しく休日を過ごし寮に帰ると、それぞれの部屋前にバスケットが。そこには―― ――礼を言う。美味い食事は活力の元だ。 ――ありがとう。美味しかったよ。 ヨセフとウボーからのメモと共に、焼き菓子がバスケットには入っていた。 のんびりとした休日を過ごした2人だった。 ●好き1日を2人で 買い物袋を下げながら『バルダー・アーテル』は天を仰いだ。 美味いツマミでも肴に、酒を飲むかと食堂に向かったのが運のつき。 どうやらバルダーを探していたらしい『スティレッタ・オンブラ』に見つかり、強引に荷物持ちに引っ張り出されていた。 (ああくそ……人がすっかり酒浸りになってる所を引っ張りやがって……) ため息をつくようにバルダーが思っていれば、スティレッタは楽しげに言った。 「いい天気ねー。シロスケ荷物持ちにしてショッピングなんて最高よねー」 「俺は最高じゃねぇよ」 ツッコミを入れるバルダー。 「大体にして何でこんなに靴ばっかり買うんだ! お前はタコか!」 「そんなに言うなら、シロスケも買ってみなさいな」 「靴買うぐらいなら酒を買う」 「分かってないわねー」 肩を竦めるように返すと、スティレッタは買い物に戻る。 何を言っても口では勝てないと思ったのか、渋々ついていくバルダー。 十分振り回された所で、ショッピングを満喫したスティレッタはバルダーに呼び掛ける。 「あと1件回ったらお茶にしましょ」 「……ああ」 どうせなら酒場が良いと言いたい所だったが、言っても無駄だと思い黙っている。 (……何で女ってああも頻繁にお茶をしたがるんだろうな) 男の自分には分からんと諦めながら、残り1件も一緒に回る。 「ありがと。奢るわよ」 「へいへい」 ようやく終わりかと思い、息を抜くようにしてカフェに入る。 「カフェラテをひとつ。シロスケは?」 「同じものでいい」 オープンテラスに座り注文する。 今日は快晴。 青空が広がり、心地好い涼風が頬を撫でる。 オープンテラスは開放的で、それでいて落ち着けるほどには静かだった。 「ん……」 伸びをするように、バルダーは空を見上げる。 ぼーっと青空を眺めていると、余計な雑念が流れていくようで気分が良かった。 だというのに、それを台無しにする声が聞こえた。 「派手な女だな。しかもヴァンピールか」 「コーヒーより血でも飲んでる方がお似合いだろうに。来る場所を考えろ」 (……なに言ってんだ) バルダーは信じられないものを聞いた気分になり、声の主に視線を向ける。 するとヒューマンの男が2人、スティレッタに蔑むような視線を向けていた。 「ヴァンピールに対するよくある罵詈雑言よ」 「言い返さないのか……?」 「無視しましょ。喧嘩売ったら売ったで私達の品性が疑われるわ」 慣れた様子で返すスティレッタ。 (慣れるぐらい、繰り返してきたってのか) そう思ったバルダーは男達の元に近寄ると、彼らの席のテーブルに足を引っかけて吹っ飛ばし、胸倉を掴んだ。 「……何か用か?」 何も返せない男に、ドスの利いた声で言った。 「さっきから聞こえてんだよ。ヒューマン様がいいご身分だなぁ?」 「お、お前も、ヒューマンだろうが」 「そりゃあ俺への侮辱だよな?」 バルダーは、さらに締め上げながら言った。 「お前らと一緒にすんな」 そのまま締め上げていると、男達は許しを請うように、バルダー達の伝票を掴み支払いを済ませ、逃げ出すようにその場を去った。 「……すごいわね。シロスケ」 唖然としたスティレッタの呟きに、席に戻ったバルダーは応えた。 「……ああいう弱い奴いじめて悦に入ってる弱い手合いはこの世界から排除していいんだよ。世の中の為にならん。ったく、今日もいい日じゃねぇなぁ……」 愚痴をこぼすように言うと、バルダーは空を仰ぐ。 空の青さと清々しさは変わらないというのに、それは酷く遠くに感じた。 そんなバルダーを見詰めていたスティレッタは、小さく呟く。 「排除していい、ね……」 過去を振り返るような間を空けて、スティレッタはバルダーに言った。 「そういうこと、シロスケだからできるのよ。って言ってもあんまり理解できないでしょうけどね」 それは責めるのではなく、まるで自分の体験を語るかのような静けさがあった。 いつもよりも深く落ち着いた声に、思わずバルダーは、スティレッタに視線を向ける。 するとスティレッタは、どこか儚い、月下の花のような笑みを浮かべ言った。 「……ま、ありがと」 「……」 一瞬、スティレッタの笑みに見入ってしまったバルダーは、それを誤魔化すようにカフェラテを飲み干した。 ゆったりと休んだあと、再びショッピング開始。 「まだ見て回るのかよ……」 「なに言ってるの。まだまだこれからよ」 いつもの調子に戻ったスティレッタに肩を竦め、その日は1日付き合うバルダーだった。 そして寮に戻り。去り際にスティレッタは礼を口にする。 「ありがと。おかげでいい一日になったわ」 普段と変わらぬ、艶やかな笑顔。 それに肩を竦めるようにして返し、寮に戻るバルダーだった。 ●過去と今の想い 「随分たくさん作ったんだな」 休暇を共に過ごすため、『ヴィオラ・ペール』の寮の前に迎えに来た『ニコラ・トロワ』は、彼女の荷物を見て言った。 これにヴィオラは笑顔で返す。 「せっかくの休暇なんですもの。フランさんとクロさんも誘って中庭でピクニックでもと思って」 彼女が用意した荷物には、朝から張り切って作ったお弁当やおやつ、飲み物が入ったポット等が盛り沢山。 「一緒に、伯父様も誘おうと思っているんです。伯父様少しはお日様に当たった方がいいと思うんですよ」 「まあ確かに先生は放っておくと研究室に籠もりっぱなしだからな。たまにはいいかもしれない」 ニコラは頷くと、ヴィオラの用意した荷物の大半を持ち上げる。 「重くないですか?」 「大丈夫だ。ただ、手が塞がるから、私の手土産を持って行ってくれるか?」 「これですね?」 ヴィオラが手にしたのは、ちょっとした本ぐらいの厚みがある紙の束だった。 「これって――」 「オッペンハイマー氏がチューンした自動車の設計図だ。シャルル先生なら喜ばれると思ってな」 「ええ、喜ぶと思います」 くすりと笑い、ヴィオラはニコラと共にシャルルの研究室に。 「研究室、綺麗です! さすがフランさん達がいると違いますね」 以前とは見違えるように整頓された部屋に、ヴィオラは感嘆の声を上げる。 これにシャルルの助手をしていたフランシーヌとクロヴィスが応えた。 「ありがとう。来た時はどうなるかと思ったけれど、どうにかなったわ」 「先生には良い環境で研究をして貰いたいのでな」 2人の服装は、メイド服と執事服。 マドールチェとして目覚め、シャルルの生活能力の無さをどうにかせねばと決めた2人は、実験助手ではなく身の回りの世話や秘書として活躍していた。 「美味しそうな匂いがするわね。ピクニックでもするの?」 ニコラの手荷物を見たフランシーヌが問うと、ヴィオラが応えた。 「伯父様と、フランさんとクロさんも誘って、中庭でピクニックをしようと思ってきたんです」 「あら、素敵」 「2人のお蔭で研究室も綺麗ですから、安心してピクニックできます、ふふっ」 ヴィオラの提案に乗り気なフランシーヌ。 早速、シャルルを引っ張っていこうとする。 「先生、可愛い姪御さんのお誘いです。もちろん行きますよね?」 「ああ、そうだね。折角だから行くとしよう。ただ――」 シャルルは、ヴィオラが手に持つ紙の束に視線を向けながら言った。 「それは、なんだね?」 「オッペンハイマー氏がチューンした自動車の設計図です。喜ばれるかと思い持ってきました」 「オッペンハイマーの! それは素敵だ!」 目を輝かせ設計図を手に取ろうとするシャルルからフランシーヌは、ひょいっと設計図を手に取り言った。 「あとにしましょう、先生。まずはピクニックです」 「ああ、うん、そうだね」 玩具を目の前にした子供のようなシャルルに苦笑しながら、皆でピクニックに向かう。 「好い天気です」 ヴィオラの言う通り、今日は快晴。 心地好い涼風も流れ、ピクニックをするには絶好の日和だ。 「まずは、お弁当を広げましょう」 ヴィオラの呼び掛けに応え、皆でシートを敷き、お弁当を広げていく。 その最中、ニコラは悩んでいた。 (先日見えた自分の過去を話し、何故マドールチェに作り替えたのかを尋ねたかった、のだが。どう切り出したらいいものか) 自動車の設計図を手土産に会いに行こうとしたのも、それが目的のひとつだ。 けれど口に出すタイミングを計りかね、いつ尋ねようかと迷っている。 そんな時、ヴィオラが思い出したように口を開いた。 「そう言えば、この間任務で過去を見ちゃったんですけど。ニコラさんによく似た方が赤ちゃんの私を見てたんですよね。ニコラさんとは4歳の時に知り合ったので不思議で」 ヴィオラの言葉に、シャルルは息を飲む。 そこにニコラは、話に乗るようにして口を開いた。 「実は、私の前身が先生の友人だった事を初めて知りました」 その時に知り得た過去について話すと、続けて訊いた。 「『彼』について、お聞きしても?」 ニコラの問い掛けに、シャルルは過去を懐かしむような声で応えた。 「彼は、私の大切な友人だったんだ」 大事な思い出をシャルルは語る。 仲の良い学者仲間だったこと。シャルルを庇って事故で死亡したこと。 そして違う人間になるとは思ったが、生きて欲しかったことを話してくれた。 「先生――」 話を聞き終え、ニコラは自分の気持ちを率直に告げた。 「この生を与えて貰えて良かったです。ありがとうございます、先生」 「……そうか」 涙ぐむシャルル。 そんなシャルルに笑顔を与えるように、ヴィオラはニコラが話した、過去のシャルルが口にしたことについて言った。 「伯父様、『お嫁にやらない』とかそう言うのフラグって言うんですよ?」 「え、ええ!? そうなのかい!?」 慌てるシャルルと、いつもと変わらず落ち着いて見えるニコラに視線を向けたあと、ヴィオラは心の中で呟く。 (まだそんなつもりはないですけど、ね) くすりと笑いながら、ヴィオラはニコラ達と一緒に、ピクニックを楽しんだ。 ●酔いに語らう 「ルーノ! ニホンの温泉行こうぜ!」 尻尾をふりふりしながら『ナツキ・ヤクト』は、『ルーノ・クロード』に提案した。 「ニホンの温泉か……まぁ、悪くはないが」 「だろ! へへっ、露天風呂でニホンの酒、憧れてたんだよな!」 「ゆっくりつかるのが目的ではないんだな」 苦笑するルーノに、ナツキは笑顔で言った。 「それも良いけどさ、一回やってみたかったんだ。なんだか楽しそうじゃんか。なぁ、行こうぜ、ルーノ」 前のめりで提案するナツキに、ルーノは頷いた。 そして2人は、ニホンの温泉に。 「ようこそ、おいでなさいました」 教団から勧められた温泉宿に着くと、仲居が荷物を預かり部屋に案内する。 「話は聞いております。離れの露天風呂が貸切になっていますから、そこを使って下さい」 「分かった! ありがとう!」 笑顔で礼を言うナツキに、仲居は笑顔で応える。 「お酒の用意もさせて貰いますので、その間に浴衣にでも着替えておいて下さい。それと、のぼせたり悪酔いしたりするのを防いでくれますから、風呂に入る前は、部屋に備え付けのお菓子を食べておくと良いですよ」 仲居の勧めもあり、甘いお菓子を食べるナツキとルーノ。 「甘いな、これ。なんだろ?」 「何かの果物を干した物のようだが」 干し柿を食べたあと、2人は浴衣に着替える。 「帯、もう少し下じゃないか?」 「ふむ。こうだろうか?」 慣れない浴衣に着替え終わると、仲居が戻ってきて露天風呂に案内される。 「うわ、雰囲気あるな!」 露天風呂に案内され、はしゃぐナツキ。 岩造りの露天風呂は、よく手入れがされている。 露天風呂自体に風情があったが、周囲も良く整えられていた。 手入れのされた庭園が広がり、今の時期は青葉が鮮やかだ。 「よし、早速入ろうぜ、ルーノ!」 ぱぱっと脱衣所で着替えると、ナツキは体に湯を掛け温泉にダイブ。 「結構広いぜ、ルーノ!」 温泉の、端から端まで走るナツキ。 「ゆっくりつかるんじゃ……ああ、違うか。湯船につかりながらニホンのお酒を飲むのが目的だったな」 苦笑しながらルーノも温泉に入る。 長湯が出来るよう調整されたお湯は身体をひたすと、じんわりと温かさがしみ込んでくる。 張り詰めた力が抜けていくような心地好さに、ルーノは息をつく。 「いいものだな」 「おう! じゃ、次は酒を飲もうぜ!」 ナツキは、仲居が用意してくれたお酒を取りに行く。 氷が詰められた桶に2本の徳利が入った物と、もうひとつは、熱湯の入った桶に2本の徳利が入った物。 冷と熱燗の両方を楽しめるよう、用意してくれていた。 「ルーノ、どっちから飲む?」 「それじゃ、熱い方を貰おう」 お互いが御猪口に酌をして―― 「乾杯」 「おう、乾杯」 くいっと一息で飲み干す。熱燗なので口に含んだ途端、強い香気が広がる。 すっきりとした甘みを感じたかと思うと、一瞬で引いたあとに辛みが感じられた。 清涼感と、しっかりとした味わいが楽しめるお酒だった。 「うん、美味い」 「ああ、美味いな」 ほうっ、と2人は息をつき、ニホンのお酒を楽しんでいく。 温泉湯のじんわりとした温かさと、お酒がもたらす体の内から広がる熱。 それらが融け合い、微睡むような心地好さを感じていた。 意識が蕩けていく。 余計な物が無くなり、素直になれるような気持ち好さ。 「こうして飲むのも最高だな!」 「……ああ、そうだね」 普段とは違うルーノの様子に、ナツキは声を掛ける。 「ぼーっとして、どうかしたのか?」 「……この先のことを、考えていたんだ」 素直に思ったことを口にして、苦笑するようにルーノは思う。 (酔って、しまったかな……) きっとそうだ。 酒に酔ったせいでなければ、こんなにも本音を隠さず口にするなんて、ありえない。 そう思いながら言葉は止まらなかった。 「浄化師になってからこれまで直面した困難はどうにか乗り越えた。だがこの先は分からない。どこかで間違えて、こんな穏やかな時間まで全て崩れ去ってしまうのではないか。そんな事を考えている……すまない、ただの弱音だ」 ルーノの言葉を聞いてナツキは思う。 (ルーノが弱音なんて珍しい。そういえば教団本部の襲撃の時、少し様子がおかしかったっけ……もしかしたら、もっとずっと前から不安だったのかも) そして苦笑するように思う。 (謝る事なんてないのにな。いつも相談に乗ってもらってるみたいに、俺だって力になりたいんだからさ) そう思うからこそ、ナツキはルーノに応えた。 「たまには良いだろ。それにどんなに弱音吐いたって、俺はルーノの味方だからな!」 ナツキの応えに、ルーノは思う。 (ああ、やはり私は酔っている。失望させる危険を冒して弱音を漏らす事も、『味方だ』と言われただけでこんなに嬉しくなる事だって……きっと全部酒のせいだ) 「君は……よく恥ずかしげもなくそんな事を……」 そう返しながらも、悪くないと思っている自分がいる。 これも全て、お酒のせいだ。 ああ、だから、今だけは―― 「ナツキ。飲むとしようか」 「ああ」 2人は笑顔を交わし、酒を酌み交わした。 ●合縁奇縁 「まぁまぁ! よく来たねぇ!」 出会うなり、『ヨナ・ミューエ』は楊・芳(ヤン・ファン)に抱きしめられた。 「あ、あの……」 初めて会った時と変わらぬ歓迎ぶりに、何と返せば良いのかヨナは迷う。 (お久しぶりです、というほどには時間が経ってませんし、こういう時は――) などと迷っていると、横に居た『ベルトルド・レーヴェ』が先に言った。 「ただいま、姉さん」 その言葉が、ヨナの胸にすとんと落ちた。 「……その、ただいま、です……」 ヨナの言葉に、ファンは満面の笑顔を浮かべる。 「おかえり、2人とも。今日も、お父ちゃんの遺品を整理するんだったね。でもその前に、ご飯はどうするんだい? お腹へってないかい?」 「大丈夫です。先に、整理をしてからにしようと思います」 「そうかい。それじゃ、お入り」 ファンは2人を店に入れると、そのまま書斎のある部屋に向かう。 「ああ、そうそう――」 書斎に向かう途中、ファンは言った。 「今日は、お父ちゃんの友達も来ててね。ひょっとしたら、面白い話を聞けるかもしれないよ」 「ご友人、ですか」 「どの方面の友人なのかによると思うが」 あらかじめフォローを入れるように言うベルトルドに、ヨナが詳しく聞こうとした時だった。 「おお、奇遇だな」 「……どうしてここに……?」 以前ニホンでベルトルドが出会った相手が、そこに居た。 「お知り合いですか?」 ヨナの問い掛けにベルトルドが応えるより早く―― 「あら、あなた達会ったことがあるの? まぁまぁどこで? 聞かせてちょうだいよ」 ファンが興味津々といった様子で訊いてきた。 「以前、仕事でニホンに行った時に、手合せして貰った相手だ」 「おう。いい試合だったぜ」 からからと笑う柳沢・轟修に、ファンは目を丸くして言った。 「おじさんも相変わらずねぇ。その話、詳しく聞かせなさいよ。ちょっと待ってなさい。お茶持って来るから」 そう言うとファンは、いそいそと食堂にお茶を取りに行く。 「お茶なら土産で持って来たのがあるだろ。それ淹れてくれ」 「はいはい、待ってなさいよ」 気安く声を掛け合う轟修とファン。 それだけで近しい仲なのが分かる。 今いる場所は客間だということもあり、ヨナとベルトルドも座っていると、お茶を淹れてきたファンが戻り言った。 「さぁ、話してちょうだいな」 そこから、話は弾んだ。 「あいつとは、まぁ悪友ってヤツでな」 苦笑いしながら轟修は言った。 「若ぇころは、果し合いだのなんだのやり合った仲だ。その縁もあって、偶にファンに会いに来るわけさ」 お茶を飲み干し続ける。 「今日来たのは、坊主とやり合って、久しぶりに会いに来たいと思って来たってわけよ」 「ベルトルドさんとの勝負が切っ掛け、ということですか」 「おう、そういうことよ。ひょっとしたら、あの野郎が縁を結んだのかもしれねぇな」 からからと笑ったあと、ベルトルドを見て轟修の笑みが強まる。 「前にやり合った時から間はそれほど開いちゃいねぇが、強くなったかい?」 「試してみますか?」 以前はっきりと『勝てなかった』相手が目の前に居る。 ベルトルドは再戦を望み、うずうずとしていた。 「ははっ、やんちゃ坊主が」 轟修は立ち上がると、笑顔を浮かべながらファンに言った。 「裏庭借りるぜ」 「はいはい、好きにしてちょうだいな」 「姉さん、裏庭を借ります」 ベルトルドも応えると、轟修に向かい言った。 「また手合わせをお願いします」 「おう。相手してやるよ」 いそいそと出て行く2人を見送りながら、ファンは呆れたように。ヨナは流れに乗れず呆然としていた。 「男ってのはまったくしょうがないね。今日は何をしに来たのかすっかり忘れちゃってんだから」 ファンの言葉で我に返ったヨナが応える。 「では、私だけでも」 するとファンは、手をパタパタ振りながら返す。 「いいのいいの。今日はやめ。飲茶でも作って待ってましょ。ヨナちゃん料理は得意?」 「……ええ、と。その、勉強中です」 神妙な顔つきになるヨナに、ファンは明るく笑顔を浮かべ言った。 「分かったわ。それじゃ手伝ってちょうだい」 そして男共は拳で語り合い、ヨナ達は料理に勤しむ。 それぞれ有意義な時間を過ごしたあと、皆で卓を囲んでお茶をした。 飲茶は様々で、中には少々不格好な叉焼包もあったが、味は折り紙付きの美味しさだった。 お喋りと飲茶を楽しんだあと、再会を約束して帰途につく。 「予定外でしたけど、こういうのも悪くないですね」 ファンの店を振り返りヨナは言った。 「またここに来れる機会が増えるのだから」 「ああ」 穏やかな声で応えるベルトルドだった。 ●幽霊さん 目的地が分かった途端、それまで笑顔だった『ヴォルフラム・マカミ』は、尻尾をうなだれさせた。 「……お休みだからってさ……僕、居なくてもいいよね?」 これに『カグヤ・ミツルギ』は返した。 「そんなことない。久しぶりだから、ちょうどいい」 「久しぶりは久しぶりだけど……やっぱりヤダよー!!」 ヴォルフラムは目的地に近付くほど耳を伏せさせ、全身で拒絶している。 けれどカグヤがさっさと先に進むので、追いかけていく。 そして2人は目的地に着いた。 「エトワールに来たのはいい、でも目的地がここだとは聞いてない!!!」 「うん、言ってないから」 カグヤの実家である屋敷を前にして声を上げるヴォルフラムに、カグヤは静かに返した。 ヴォルフラムの反応には理由がある。 カグヤも、それを知ってはいるのだが、今日はその原因を作った相手と会うつもりで来たので否応なしである。 「ヴォル、入って」 「やだよー」 カグヤはヴォルフラムの腰を掴んで屋敷に入れようとするが、体格差があるので無理だった。 どうしたものかと思っていると―― 「お帰りなさいませ、カグヤさま。ヴォルフラムさまも、ようこそ」 片眼鏡を付けたロマンスグレーの執事服姿をした男性、ジェラルドがやって来て2人を迎え入れた。 ヴォルフラムの声が聞こえてきたので来たらしい。 カグヤの家の家令である彼は、当然ながらカグヤの味方である。つまり―― 「さあ、どうぞ」 カグヤと一緒にヴォルフラムの腰に腕を回し、強引に屋敷の中に入れようとする。 「やだー!」 門柱を掴んで抵抗するヴォルフラム。たっぷり15分も抵抗したあと―― 「門柱に傷が付きます」 きかん坊を嗜めるように、ジェラルドはヴォルフラムに拳骨一発。 「うぅ……」 べそべそしながら屋敷の中に渋々入った。ヴォルフラムの様子に、カグヤはため息をつくように言った。 「ヴォル、情けない」 これにヴォルフラムは泣き言を口にした。 「情けないのは解ってる! かっこ悪いのも解ってるけど! アレは別ものだよ!!」 悲鳴のような声を上げるヴォルフラム。 「ここに来るなら地獄の方がマシだよ!」 「そこまで?」 「だって地獄は脅かしてくるのなんていないじゃん!」 「地獄よりもウチが怖いってどうなの?」 ヴォルフラムの言葉に思わず返すカグヤ。 苦笑するように見詰めながら、同時に思う。 (……何時も斧で戦う姿が想像できないぐらい耳ぺそっとしてるし、尻尾巻いてるし。ちょっとかわいい) 脱線しかけた思考を戻し、カグヤは屋敷に来た理由を口にした。 「今日は、幽霊さんに、聞きたい事、あって来たの」 カグヤの言葉を聞いてヴォルフラムは血の気が引く。 「あいつに会いに来たの!」 思わず声を上げるヴォルフラム。 10歳の頃、子供を驚かすのが趣味の幽霊、御剣水月に散々恐怖を与えられトラウマになっているのでしかたがない。 「安全地帯がお仕事中だから、絶対来るよ。あいつ、く」 カグヤの父であるモチヅキが居れば姿を現せないのだが、残念ながら今日はカレッジで教鞭をとっている。なので―― 「やぁ、久しいな」 「うぎゃぁぁぁぁ!!!」 突如現れた水月に、ヴォルフラムは悲鳴を上げて逃げる。 しかし残念。逃げられなかった! 「わああああああ!!!」 「いやはや、真神の末の坊やは脅かし甲斐があるな」 「……そんなだから姉さま達にも避けられる」 ため息をつくようにカグヤは言うと、水月に呼び掛けた。 「幽霊さんに、聞きたいことがあって、来ました」 「えぇ……これからの事この人? に聞いちゃうの?」 おっかなびっくりで水月を見ながらツッコミを入れるヴォルフラム。 一方、水月はノリノリで聞き返した。 「なになに? 面白いこと?」 カグヤは問い掛ける。 「ウチの家に、私の味方してくれそうな、神様は、居ますか? 水月様。アレイスターと、戦います。そして、創造神と、戦います。それには、八百万の神々の、助力が必要です」 これに水月は、過去を懐かしむような間を空けて応えた。 「よくは知らないけど、アークソサエティの八百万の神々が騒がしいし、それに関わったら力を貸してくれるんじゃない?」 「どういう、こと?」 聞き返すカグヤに水月は応える。 「ニホンの古い文献にも、似たようなことになった記述があるんだよ。その時は祟り神を鎮めたり、死の権化みたいなのを調伏するのに協力するためだったらしいけど。それよりさ――」 水月は屋敷の地下を指さし言った。 「ウチの護衛に来てる魔女さんに聞いたんだけど、アレイスターの造った魔方陣がウチの屋敷の力場に引っかかってるんだってさ。で、それが最近活発になってるんだ。魔女さんには近い内に何とかするから絶対関わるなって言われてるんだけど、少しぐらいいいよね?」 「ダメだと思う」 「やめて!!!」 ツッコミを入れるカグヤとヴォルフラム。 後日、そのことをヨセフに伝えると、メフィストが素っ飛んで来て言った。 「あとちょっとで準備が整うのでそれまで触っちゃダメでーす!」 一月以内に関連する指令が出されると聞かされた2人だった。 ●子供達が捧ぐ神歌 それは突然の提案だった。 「クォン、君行きたい所はあるかい?」 「どういうことだ?」 聞き返す『クォンタム・クワトロシリカ』に、『メルキオス・ディーツ』は応えた。 「指令の形で休みを貰えるらしいよ。日帰りぐらいなら、融通が利くみたい」 (休み、か……) メルキオスの説明を聞いて、クォンタムは少し考える。 (養父殿の所……は、日帰りで行けるかどうか微妙だな。ならば、どうするか……) 行く先を考えつけずに迷っていると、それを察したのか、メルキオスは言った。 「特になければニムファの花、見に行かない?」 「ニムファの花?」 聞き返すクォンタムに、メルキオスは応える。 「蒼衣の民が管理するオアシスに、ニムファって呼ばれる睡蓮の八百万の神が居てね。年に一度、この時期にニムファに水と命の守護を請う歌を子供らが捧げるんだ」 「祭、か……」 思案顔のクォンタムをその気にさせるように、メルキオスは続ける。 「子供達の歌が気に入られて了承されれば、白い花が青くなるんだよ。見に行こうよ」 そう言うと、いつもの漂々とした表情を潜め、やわらかな気配で言った。 「今年は甥と姪も歌い手でね……初めての晴れ舞台なんだ」 「……そうなのか」 心を動かされるクォンタムに、最後の一押しとなる言葉を伝える。 「頼み事もあるから見に来いって伝書鳥が着て……君ご指名なんだ」 「……そういうことか」 クォンタムは納得したというように返した。 「頼みごとに応えられるか分からないが、そういうことなら行こう」 「ありがとう」 メルキオスは笑顔を浮かべると、いつもの漂々とした声で礼を言った。 そして2人は、オアシスに訪れている。 場所は、タビ砂漠の只中。 命を飲み干す渇いた砂漠の中に、そのオアシスはあった。 (命に満ちているな) クォンタムの感想通り、砂漠の中とは思えないほど、オアシスには多くの命が溢れていた。 青々とした緑が広がり、背の高いナツメヤシの木も数多い。 多くの鳥が羽を休めるようにして木にとまっている。 それらの命を支えるのが、オアシスの中心である泉だ。 かなりの大きさがある。 清んだ水には青々とした葉と共に、純白の花が咲き誇っていた。 (あれが、ニムファか) 美しい花をクォンタムは見詰める。 そこにメルキオスは声を掛けてきた。 「そろそろ歌が始まるよ。聴いてやってよ」 メルキオスに促され、クォンタムは2人で聴きに行く。 見れば、この日のために新調した服を着た子供達が、親に見守られている。 緊張した張り詰めた空気が広がり、皆が沈黙する中、子供達による神歌は始まった。 白い子供らの、甲高い声が響く。 それは自分達の一族の歴史であり、その先を紡ぐために捧げる歌。 (……血筋に刻まれた歌声) それは繋がりであり、自らの起源を意識するための儀式。 綿々と受け継がれた歌を歌う子供達。その中に居るメルキオスに似た面差しの子供が2人。 その内の1人を見て、クォンタムは気付いた。 「メルキオス」 「……僕が喰人だから、血縁からも僕と同じ様に喰人が出ると思う」 クォンタムの呼び掛けに、メルキオスは応える。 「……甥っ子のメトジェイが、5つなのに色々と覚えるの早いらしくてね」 いつもと変わらぬ漂々とした表情のまま。けれど声に想いを滲ませ続ける。 「兄ちゃんが心配してるんだ」 「……」 無言でメルキオスの言葉を聞いたあと、小さく笑みを浮かべクォンタムは言った。 「……トラブルメーカーだと、社会不適合者だと、私と自分を遠ざけようとするくせに、身内には甘いな、お前は」 今までの付き合いで、クォンタムは解っている。 (一度懐に入れたら、何であろうとお前は守ろうとする) けれどメルキオスは、いつもと変わらぬ漂々とした声で、はぐらかす様に言った。 「別に遠ざけてる訳じゃないよ。ただ、価値観が違うから、距離感を保ってるだけだよ。僕は、そういうものだし」 「確かに他人と価値観は致命的に違うかもしれんが、結局はお人好しだろ、お前」 メルキオスとの縁を繋ぐように、クォンタムは言った。 「レムについても、結構気にしてるし」 「何、ただのお節介焼きさ」 肩を竦めるように返すメルキオスに、クォンタムは苦笑する。 そして改めて、魔力探知でメルキオスの甥を見詰めた。 「……確かに、5つの子にしては魔力は高いかもしれない」 魔力探知による見立てを告げると、次いで自分としての判断を口にした。 「だが親元から離すには幼い。要経過観察、だろうな」 「そっか」 メルキオスは目を細めると、鋭い笑みを浮かべ続ける。 「あの子は、楽しい人生が送れるかもしれないね」 「そういうものか?」 「踏み均された道より獣道の方がスリルがあるでしょ」 「それも、あの子次第か」 メルキオスに返したクォンタムが見詰める中、子供達の歌声に応え、ニムファの花は蒼天のような美しい青へと変わっていった。 ●貴女といる幸せ 「はぁ……気持ちいい……」 露天風呂に浸かりながら、『タオ・リンファ』は蕩けるような声を上げた。 「教団の大浴場も悪くないですが、この湯は格別です……」 「おー、きもちいいな!」 タオの言葉に、『ステラ・ノーチェイン』は機嫌好さ気に応える。 「おーんせんってすごいな~、いつもよりポカポカするぞ~」 笑顔を浮かべるステラを見て、リンファは来て良かったと思った。 いま2人が居るのは、ニホンの温泉。 指令の形で休暇が出たので、リンファが選んだのだ。 (ステラとゆっくり休息を満喫したいですね) そう思ったリンファは、ゆったりできると噂で聞いたニホンの温泉に訪れ、ステラと共に旅館での一泊旅行を手配して貰い、現地に訪れた。 「マー、ここが旅館なのか!?」 旅館に着くと好奇心一杯の眼差しで尋ねるステラに、リンファは応える。 「ええ。アークソサエティとは違う、素朴さがありますね」 自然の濃い場所にある温泉旅館は、周囲に融け込むような素朴さがあった。 (思えば、ステラを連れてこういった旅館に来るのは初めてです) はしゃぐステラと共に部屋に着くと、用意されていたお菓子を食べ、早速温泉に入ることに。 「内風呂と露天風呂があるのですか」 (露天風呂がいいでしょうか、彼女は自然が好きですからね) ステラのことを第一に考え露天風呂に入ると、その心地好さに、思わず声が出てしまったのだ。 「ふぅ……本当に、気持ちいい……」 乳白色の湯を、リンファは掌で掬い上げる。 さらりとした湯は、じんわりと体の芯まで温めてくれ、疲れを洗い流すように消してくれた。 その心地好さを、より深く味わうように、リンファは首まで浸かってみる。 見ていたステラも、同じように首まで浸かり、2人そろって心地好さ気に息をつく。 しっかり体も温まり、ぽーっと意識が蕩けて来た所で、湯から上がる。 「ステラ、そろそろ身体を洗いましょう」 「おー、分かったー」 リンファに言われ、ステラは露天風呂から出ると、備え付けの椅子に座る。 そこでリンファは背中に回ると言った。 「先に髪を洗いましょう」 まずは髪をお湯で流す。 するとステラは反射的に、犬がするように身体を振って水を弾き飛ばそうとした。 「ステラ、周りに水が跳んじゃうから、ダメですよ」 「ん、気をつける」 我慢するように応えるステラに、リンファは苦笑しながらシャンプーを付けてやる。 最初は頭皮を揉むように、その後に髪の毛をほぐすようにして洗っていく。 「あなたは髪が多いですから、こうして、丁寧に……」 「マーだって髪の毛いっぱいだぞ、いつもはひもみたいにしてるから目立たないんだな」 ステラの言う通り、いまリンファは、三つ編みにしている髪をほどいている。 戦闘の邪魔にならないよう、普段はキツめに編んでいるので分かり辛いが、ほどいた今は緩やかに波打つ黒髪が背中に流れていた。 「オレはそっちのマーもキレイでかわいいと思うぞ」 「そうですか? ふふ、ありがとうございます」 褒めてくれたステラに笑顔で応え、十分に髪を洗ってやったリンファは洗い流してやる。 「さ、目を瞑ってください、流しますよ……」 「ん、分かった」 ぎゅっと目を瞑った所に、お湯を流し綺麗にしてやった。 そのあとお互い背中を流し、体を洗った後に再び温泉に浸かり堪能する。 体の芯まで温もったあと、のぼせてしまう前に上がり部屋に戻った。 部屋に戻ると、用意されていた髪を乾かす多目的魔術符を使い、髪をさらさらに。 乾き切ったので、リンファは普段と同じく三つ編みにしていく。 それを見ていたステラは言った。 「なあなあ! それやってみたい! オレもマーみたいにしてくれ!」 戯れるように抱きついてくるステラに、リンファは笑顔で応える。 「はい。三つ編みにしてあげますから、椅子に座って下さい」 大人用の椅子なので、床に届かない足をパタパタさせながら、ステラはリンファを待っている。 くすりとリンファは笑い、ステラの髪を掬い取ると、まずは櫛で梳いていく。 梳き終ると、髪に癖がつかないよう気をつけて、ゆっくり三つ編みを作っていった。 「はい、出来ました」 「お~……!」 ステラは姿見の鏡で自分を見ながら、リンファが編んでくれた三つ編みをペタペタ触る。 すると期待感たっぷりの眼差しで、ステラはリンファを見上げ訊いて来た。 「どーだ? オレ似合ってるか!?」 「ええ、もちろんです」 「そっかー」 リンファの言葉に、溢れるように喜びを笑顔と共に浮かべるステラ。 ステラの笑顔を見て、リンファは思う。 (彼女と出会ってから、どれほどの笑顔を見て、どれだけの笑顔になっただろう) それはきっと、数えきれないほど。 ステラの笑顔に応え、ふと姿見の鏡に映る自分の顔を見て、リンファは気付いた。 自分でも気づけないほど、自然に浮かぶ笑顔。 (ああ、そっか) ステラに貰った笑顔に、リンファは理解した。 (私って今、幸せなんだ) 貴女といる幸せを。 今この時は、静かに受け入れるリンファだった。 ●プロポーズ 「……おじいちゃん? どうしてここへ?」 休暇でニホンに訪れた『リコリス・ラディアータ』は、意図せず出会った祖父に驚いた。 これに祖父である佳治郎は返す。 「なに、ちょいと温泉に行こうと思ってな」 「養生に来たんよ」 佳治郎の言葉に続けたのは、秘密裏に浄化師の家族の護衛に動いている魔女、ラクチェ。 「おい、余計なこと言うんじゃねぇよ。心配させんな」 「どういうこと?」 尋ねるリコリスに、ラクチェが応える。 「佳治郎はん、腰を痛めて湯治に来てはるんよ」 「もう、だいぶ良くなってるけどな」 強がるように言う佳治郎に、くすくす笑うラクチェ。 軽口を言い合える2人に苦笑しながら、リコリスは言った。 「そうだったの、私達もちょうど温泉に行くところだったのよ」 「そうなのか? へぇ、そいつは……」 佳治郎は、リコリスに寄り添うように居る『トール・フォルクス』を見て、好々爺といった笑顔を浮かべ言った。 「新婚旅行で来たのか?」 「え? し、新婚旅行……!?」 トールはリコリス共々顔を赤くし、慌てて返す。 「いや、俺達は日頃の疲れを癒しに来ただけで、そういのじゃないですよ」 「そ、そそそうよ! 新婚旅行とかじゃないから! というかまだ結婚の約束すらしていないし!」 2人の様子に、佳治郎は笑顔を浮かべ返す。 「はははっ、そういうことかい。なら、2人の邪魔しちゃ悪い。こっちはこっちで、温泉に行くからよ」 「せやねぇ。水入らずの邪魔、せぇへんようにせんとねぇ」 そう言って笑顔で離れようとする佳治郎達を、リコリスは慌てて止める。 「邪魔とかそんなこと全然ないからね! だからおじいちゃん達も一緒に行きましょう?」 「そうか?」 孫娘に呼び止められ、嬉しそうに笑顔を浮かべる佳治郎。その隣で、少し思案顔のラクチェ。 そのあと話はまとまり、4人で温泉に行くことに。 「温泉の当てはあるのか?」 「教団で教えて貰った所に行こうかと思ってるの。ここなんだけど――」 リコリスの取り出した地図を見て佳治郎たちは応える。 「おお、そこか。好い所だぜ」 「せやねぇ。2人にぴったりの温泉やと思うわぁ」 楽しくお喋りをしながら向かう中、トールは先程の、佳治郎たちとのやり取りを思い出し小さく呟く。 「……さっきの口ぶりだと、リコをもらっていいのかな……?」 何かを決意するように呟いた。 そして温泉宿に到着。 荷物を置くため、佳治郎たちの部屋に行ったあと温泉に向かおうとしたのだが、ラクチェに話掛けられ、しばらく時間が過ぎてから、男女分かれて脱衣所に。 道中、リコリスにラクチェは言った。 「ごめんなぁ。先に行っといてくれへん?」 「どうしたの?」 「忘れ物したんよ。脱衣所はこのまま進んだ先にあるから、先に入っといてぇ」 そう言うと、ぱたぱたと小走りで来た道を戻る。 それを小首を傾げながら見たあと、リコリスは温泉に向かった。 ちょうどその頃、トールも1人で温泉に向かうことになっていた。 「あれ? 佳治郎さん、そっちは部屋ですけど……」 部屋に戻ろうとする佳治郎にトールが呼び掛けると、佳治郎は返した。 「ラクチェに呼ばれてたの思い出してな。悪いが、先に言っといてくれ」 「ラクチェさんに呼ばれてる? ……あっ」 小さく声を上げ、トールはラクチェの気遣いに気付く。 「それじゃ俺一人で男湯に行ってきます」 そう言うとトールは、ひとつの決意と共に混浴へと向う。 混浴の温泉に入ると、どういうわけか他に人が居なかった。 中は霧のような濃い湯気が広がっている。 そこで慌てているリコリスに気付く。 「リコ」 「トール!?」 さらに慌てるリコリスに、トールはそのままの距離を保って言った。 「ララ、新婚旅行は気が早いけど、婚前旅行ならどうかな?」 「婚前旅行……? それって私と結婚したいってこと?」 「ああ」 「……」 トールの応えを聞いて、リコリスは無言になる。 それはいきなりのことで混乱したから。 とはいえ応えが返ってこないので、トールは不安になって聞き返す。 「嫌、かな……」 「嫌じゃないわ!」 応えはすぐに返って来た。 「その、ちょっと恥ずかしいだけ。まさか私が結婚する日が来るなんて、思ってもみなかったんですもの」 「それじゃ」 「うん。その、これって、プロポーズ、よね?」 期待と不安と恥ずかしさを滲ませ、リコリスは言った。 「じゃあ、今約束してくれる……?」 リコリスの想いに、トールは応えた。 「ララ、俺と結婚して欲しい。ずっと、大切にする。愛してるよ、ララ」 「……うん、私も。大好きよ、トール。結婚しましょう」 結婚と愛の誓いを、交わし合う2人だった。 ラクチェが魔法で温泉に2人以外が訪れないようにしている中、ゆったりと温泉に浸かるリコリスとトールだった。 ●おじいちゃんに会いに行く 「メラじぃちゃん! 一緒に買い物に行こう!」 休暇を共に過ごそうと、魔女エフェメラの家に訪れた『ラニ・シェルロワ』に、エフェメラは真顔で応えた。 「人が多いとこはむり」 これに『ラス・シェルレイ』は、気遣うように言った。 「無理強いはしません……ヒトには慣れませんか?」 「いや、昔を思い出して……涙が出てきそうで……うぅ」 実際に涙ぐみながら応えるエフェメラ。 (涙腺弱いな……この人) さて、どうしよう? ラスが思案していると、ラニが提案する。 「3人で一緒に、お散歩に行こう!」 「それなら……」 エフェメラが頷くと、3人で近所の砂浜をお散歩する。 「綺麗な砂浜ね。貝とか獲れるのかしら?」 「ああ。砂浜を掘ると出て来るよ。あとで獲ってあげるから、お土産に持って帰ると良い」 「ありがとー」 喜ぶラニにエフェメラは、にこにこ笑顔。 完全に孫娘を溺愛する爺さま、といった様子である。 もっとも見た目は若いので、傍から見ると老成した雰囲気とのギャップに混乱したりする。 (独りでここに居るのも、関係してるのかな?) 年寄りめいた雰囲気を滲ませるエフェメラを見詰めながら、そんなことをラスは思っていた。 (誰とも関わらないと、余計に老け込んじゃいそうだし。う~ん) 表情には出さず悩んでいると、ラニがエフェメラに問い掛けた。 「メラじぃちゃん、改めて聞くんだけど。シィラのこととか、あたし達のこととか本当に良かったの?」 (直球に訊くなぁ……) ラニの問い掛けにラスは溜め息をつくも、自分も気になっていたのでエフェメラに視線を向ける。 するとエフェメラは、静かに返した。 「なにか、気になることがあるのか?」 「だって教団のことは簡単に許せるような事じゃないでしょ」 そう言うとラニは、気遣うような声で続ける。 「……よく納得してくれたわよね?」 これにエフェメラは、しみじみと言った。 「憎しみがないと言えば嘘になるよ。でも、現にシィラはまだ存在してるし。憎しみ続けるのも、しんどいし」 「……なる程」 エフェメラの応えに、思わず苦笑するラス。 するとエフェメラは、ラニとラスを見詰め言った。 「それより我はきみ達が、ひどい目に合わなかったかが心配だよ」 「へ? あたし達? ……ううん! 保護されてから、ひどいことなんて何もなかったよ!」 明るい声でラニは応える。それに続けてラスも言った。 「……故郷のこと以外は、平気でしたよ。医療班の職員の方は優しい人でしたから」 「医療班の人たちは優しかったし、たまーに何か怖い人がいたけど。それもお医者さん……? が追い払ってたし」 「良い人も、居たんだな」 「今度紹介したげる! 怒ると怖いけど」 「そうか……」 エフェメラはラニの言葉に笑みを浮かべ頷くと、今度は心配そうな表情で言った。 「お医者と、そんなに親しくなるほど、怪我をしたりしたのか? 戦って怪我をしたなら――」 伝えるべき言葉を迷うエフェメラに、ラニは元気好く返した。 「心配しないで! 戦いたいから、戦っているんだから。だって――」 希望に溢れた笑顔を浮かべ、ラニは言い切った。 「家族が増えたことが嬉しいから。みんなで暮らせるために戦うよ。憎しみのためじゃなくて!」 「……家族、そうだな」 同意するラス。2人を見詰め、エフェメラは涙ぐむ。 「……我も、家族が増えて……良かっ……ずびっ」 「あ、また泣いてる」 「メラじぃちゃん、泣かなくても大丈夫。みんな、居るからね」 「……うむ、そうだな」 泣き笑いのような顔で、ラニとラスに応えるエフェメラだった。 そのあと3人で散歩を続け。 帰り際にお土産だからと、砂浜に埋まっている貝を魔法で掘り起し、かご一杯に入れて渡された。 そしてシィラへの手紙を渡される。 「あの子が大変な時に、力になれなかった我だが……それでも、大事に想っている。きみ達も含めて、幸せを祈っているよ」 手紙を受け取ったラニとラスは、教団に戻るとエフェメラからの手紙をシィラへと渡すのだった。 受け取ったシィラは喜びながら、同時に直接会えない寂しさを浮かべていた。 そのあと、ラニとラスがエフェメラ達のことを考えながら教団の中を歩いていると、メフィストが声を掛けてきた。 「おーう。どうかしたのでーすかー?」 2人の表情を見て気になったらしい。軽く事情を話すと、メフィストは言った。 「それならシィラちゃんをシルキーにランクアップさせる手助けに呼んでみるのも良いかもですねー」 「どういうことなの?」 聞き返すラニにメフィストは続ける。 「これからと、その先も考えて、出来ればシルキーになって欲しいのですよー。シルキーが居る建物は、加護が得られるので好いのでーす。シルキーから更にランクアップしたら、家神みたいになれますしねー」 話を聞いていると、エフェメラぐらい力のある魔女が協力するなら、今よりもシィラは自由に動き回れるようになるし、守護する建物に関する能力も得られ、相互に利益があるとのことだった。そして―― 「それよりも、地上に縛られるのを止め、あの世に行って転生できるよう、禁術の反動から自由になりたいのなら、それもひとつの選択でーす。選ぶも選ばないも自由ですしー、必要なら手を貸しますよー」 メフィストの話を聞き、考え込む2人だった。 ●人魚姫と王子様 ノルウェンディの観光名所。 巨大な温水プール施設であるアイスラグーン。 休暇で訪れた『イザーク・デューラー』は、『鈴理・あおい』を待っていた。 (なにか、あったんだろうか) おちついた感じの水着とパーカーを羽織り、待ち合わせ場所にいるイザークは、あおいが来るのが遅いので心配する。 折角の休暇、それも丸1日費やしても良いということで、少し遠出をしてみようと、イザークはアイスラグーンに誘った。 誘った時は、嬉しそうな表情を見せてくれたあおいだが、アイスラグーンに近付くにつれ、なにか勝負に挑む前のような、緊張した様子だったのが気になっている。 (ひょっとして、あおいは泳げなかったのだろうか? そうだとしたら他の場所に誘えば良かったか……) あおいのことを考え、イザークがやきもきしていると―― 「イザークさん」 いつの間にか近付いていたあおいに声を掛けられ、イザークは振り向く。 「あおい……――」 彼女の姿を見て、イザークは思わず息を飲む。 今のあおいの姿は、ビタミンカラーのハイネックビキニにパレオを身に付けている。 華やかで活動的で、とても可愛らしかった。 (イザークさんが驚いた顔をしている、やはり派手すぎたでしょうか……) 普段なら着ない色とデザイン。 今の自分の姿を見るイザークの様子に、あおいは気落ちした様子になる。 するとイザークは慌てて言った。 「よく似合っている、あおい」 「本当、ですか……?」 「もちろんだ」 「でも、驚いた顔されてましたし……」 「そんなことはない。あおいの事だから、おちついた感じでくると思ってたんだ。だから私もそれに合わせるよう、おちついた水着にしたんだ」 イザークの言葉に、あおいは安堵するような表情を見せると応える。 「あの……途中までは当たりです。普段ならこのような水着は着ませんが、その……イザークさんなら水着姿も目立つかと思ったので、隣にいても失礼にならない位のものがと……やはり変ですよね」 「変とは思ってないさ、似合ってると思っている」 「……ありがとうございます」 はにかんだ笑みを浮かべ、あおいは礼を言った。そして―― 「あおい、行こう」 「はい」 2人は笑顔で温水プールに向かう。 「どこから行ってみようか?」 イザークは尋ねる。 アイスラグーンは幾つもの温水プールがあり、中には流れるプールや、魔女の魔法を使って空に映し出される屋外シアター。 他には水上演劇もあり、好みにあった場所に行くことが出来る。 あおいは軽く見まわして応えた。 「あちらの、泳ぐ用のプールにしませんか?」 それは、それなりの深さと広さがある温水プール。 流れるプールじゃないので、自分のペースで泳げる。 「あのプールだな。ところであおいは泳げるのか?」 「いえ。故郷の夏は短いところだったので泳ぐ機会がなくて」 「分かった、それなら練習しようか」 「練習、ですか?」 「ああ」 イザークに手を引かれ、あおいは温泉プールに入る。 温かで心地好い。 「まずは顔を水につけるところから始めよう」 「はい」 イザークに応え、温泉に顔をつける。 温泉なので、どこかお風呂に入っているような感じがして、抵抗感は少なくて済んだ。 「大丈夫、みたいです」 顔を上げて応えるあおい。 リラックスして余裕があるようなので、次の段階に進んでみる。 「慣れたら浮かんでみようか。大丈夫、手は握ってるから」 イザークはあおいと手を繋ぎ、より深い場所に行ってみる。 途中から、あおいの身長だと足が届かなくなったが、イザークが手を繋いでいてくれるので安心できた。 「その調子だ。浮かぶのも、出来るようになったみたいだな」 「はい」 軽く足を動かしバランスを取るあおいにイザークは、もう一段階先に進むことにした。 「そこまで出来たら、あとは水の中に潜ることさえ出来れば泳げるようになると思う。試してみるか?」 「はい。お願いします」 生真面目に応えるあおいに心地好さ気に笑みを浮かべ、イザークは水中へと誘った。 あおいが落ち着くように、穏やかに笑いながら、ゆっくりと体を沈める。 手を繋いでいたあおいも、応えるように体を沈めた。 水中に潜ると音が遠ざかり、より繋いだ手の確かさが伝わってくる。 繋いだ手の先。イザークとあおいは視線を重ねた。 見詰め合う2人は思う。 (……人魚姫が王子様に出会ったのはこんな感じだったのでしょうか……) 水中で目を開けた先、すぐ近くにいるイザークを見詰めあおいは想い。 (まるで人魚みたいだ) 天井からさす光の中、パレオがひらひらとゆらめき、あおいを見詰めイザークは想う。 くすりと、2人は音もなく笑みを交わす。 お互いが相手に感じた想いは、心の中で、ひそやかに内緒にしながら。 そうして2人は、ゆったりと泳ぎを楽しんだ。 そのあと、軽く食事をとり、今度は水上演劇を2人で観賞する。 題名は『人魚姫』。 魔法により水で作られた大きなクラゲの上に乗り、楽しんだ。 仲良く手を繋ぎ、重ねながら。 好き休暇を過ごすことの出来た、2人だった。 かくして浄化師達の休日は終わる。 それぞれ好き一日を過ごすことの出来た、休日だった。
|
||||||||
*** 活躍者 *** |
|
|
|||
該当者なし |
|