~ プロローグ ~ |
蒸気機関車が走る線路に向けられる視線。 |
~ 解説 ~ |
〇目的、事件の真相解明 |

~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは、留菜マナです。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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…?被害者はレヴェナントと内通していたってことは聖女にとって強力な駒だったわけだよな? 仮に聖女が犯人なら、何故殺す必要がある? 調査で明らかにしたいのは ・レヴェナントの男が殺されたのと火災現場の跡は同じタイミングでできたものか ・火災現場に残る弾痕が果たしてレヴェナントの男を殺したものと同一か …時間に関わる問題だから前者は無理かもしれんが 男の死亡時刻を調べたい。死体は見られないだろうか… 駅舎で何か大きな音などは聞いたか複数の人間に聞き込み 無理ならなっちに廃屋辺りに入ってもらうか レールの周囲に弾丸が落ちていたりしないだろうか、探してみよう レールの弾丸跡にいる残留思念に触れて 今はとにかく情報が欲しい |
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どうしてこんな 酷いことを 先日の光の檻の事件を思い出す あの時は多分 わたしたちを止めるために でも今度は?何が目的なの 駅舎の調査 事件当日 何か変わったことはなかったか 機関車に関わらず乗客のことでも 事件に関係なさそうでもいい 駅員さんや働いている人 お客さん達に聞き込み リーディング現象はいつから起こっているのか 最近になって 起こり始めたということは 何か関係があるのかしら…? 小さなシリウスの指し示す方向へ進む 調査にいくカノンちゃんに 無茶はしないでと囁いて 火災現場ではレールに触れる どちらから銃が撃たれたのか 視た後 飛竜になったカノンちゃんに乗り上空から調査 わかったことは皆で共有 戦闘では初手で禹歩七星 回復と支援を |
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この間の、リチェちゃん達が乗っていた、列車の事故… もしかしたら、関係あったの、ですか? 関係ない人達が、たくさん怪我をしたと、聞いています… 悲しげに目を伏せて はい、真相を、探しましょう クリスやレオノル先生達と一緒に修理工場へ 私は話すのが苦手なので、そこはクリス達にお任せして ウィッチコンタクトでおかしな魔力が流れてる場所や物がないか確認します 犯人がこの工場に関係ある方なら、何かに触れたら思念が出てくるでしょうか 工具や修理されている機関車に触れてみましょう (7~8歳程の自分の姿に目を瞠る) ルゥちゃんには、立ち入り禁止の場所に、こっそり行ってみて貰います 戦闘時 天恩天賜で回復と、禁符の陣での支援を中心に |
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夢の聖女を提唱する女がラウレシカの妹とすると聖女も恐らくサクリファイス 光の檻を利用し死に至らしめるのもコルク達が邪魔だったのにも納得はできる しかし今回の機関車事故はどうだ あまりにも矜持が無い 何か不測の事態の結果かもしれないな 調査 アルバトゥルス駅舎 機関車事故について犠牲者に共通点は無かったか 乗客が集団でどこかに向かっていた可能性や 聖女を提唱してる女が扇動していなかったか聞き込み リーディング現象も不可解だが 今は事件の謎を解くヒントになると有効活用 駅舎の椅子に触れ事件のあった日の様子や兆候の有無 廃屋は残っていれば血痕、なければ弾丸か銃痕に触れレヴェナントの男の殺害状況を知る 何故殺しの必要があったのか |
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延焼火災が発生した現場へ向かう 手掛かりにはルーノが触れる 弾丸の跡が残るレールに触れる 機関車に弾丸雨注が浴びせられた時の状況が知りたい どんな弾丸がどんな風にどこから撃ち込まれ、どんな威力を齎したのか ドッペルには空からの捜索の協力を頼む 機関車を浄化師に邪魔されず狙い撃てるポイントを見つけたい ポイントで更に痕跡を探して触れてみる 知りたいのはそこに誰が居たのか 手掛かりに触れる際はブルーベルの丘での調査(第88話)の事も記憶から引き出す 夢の聖女と繋がっている人物の話 人込みで取り逃した女性 その関連情報を得られないか試す 戦闘ではナツキは前衛で交戦 ルーノは支援と、女性の捕獲を目的に敵後方へ回り込んで退路を断つ |
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~ リザルトノベル ~ |
残留思念――『リーディング現象』。 それは魂の残滓。 非業の死を遂げた亡霊達の想いが、物に触れた人物の過去の姿を模して、ここで起きた出来事を伝えてくる現象。 彼らの想いは同じ過ちを繰り返さないように、同じ悲劇を起こさせないように記憶の残滓を伝える。 残り香のように。 散りゆく花に全てを溶かして――。 〇2つの事件を紐解いて 「この間の、リチェちゃん達が乗っていた、列車の事故……」 光の檻の騒動で起きた列車のトラブルを思い返し、『アリシア・ムーンライト』は表情を曇らせる。 「もしかしたら、関係あったの、ですか? 関係ない人達が、たくさん怪我をしたと、聞いています……」 「ラウレシカの妹が犯人……本当にそうなんだろうか」 悲しげに目を伏せたアリシアに応えるように、『クリストフ・フォンシラー』は言った。 「何にせよ、情報が無さ過ぎる。アリシア、真相を探るよ」 「はい、真相を、探しましょう」 成すべき事を心に刻み、アリシアは決意を込めて頷いた。 「うーん。今回は、物理的な事故なんだね。夢に囚われてる人はいない訳だ……多分」 『レオノル・ペリエ』は指令書に目を落とし、思考する。 「レヴェナントも、こないだはゾンビにされてたし、大変だね……」 「そう、ですね……」 レオノルの顧慮に、アリシアは哀惜の念に堪えない。 「機関車事故と殺人事件かぁ。なかなか、穏やかじゃないね。何とかして真相を突き止めないと」 街中を歩きながら、レオノルは決意を固める。 「それにしても、『伝葉』の許可が下りて良かったよ」 「実験用の伝葉が、運ばれてきていたの、ですね」 「ああ」 アリシアの言葉に頷くと、クリストフは教団から渡された伝葉を皆に渡す。 クリストフは事前に、伝葉の使用を教団に申請していた。 伝葉を用いた広域連絡網を使って、互いの情報を共有する事を提案したのだ。 伝葉については運が良く、偶然、教団に実験用の伝葉が運ばれてきていたので、今回は特例的に使用することが出来た。 だが、次も同じように使えるかは分からない。 「アリシア、レオノル先生。俺達は、鉄道修理工場に行こうか」 「はい……」 「そうだね。何か手がかりが見つかるといいなぁ」 アリシアとレオノルは頷いて、事件の真相を突き止めるべく、鉄道修理工場へと向かった。 連絡手段を得た浄化師達は、それぞれの調査場所へと赴いていく。 「どうしてこんな、酷いことを」 『リチェルカーレ・リモージュ』は悲痛な面持ちで呟く。 「サクリファイスの残党が絡んでいるのだろうか」 凄惨な事故の指令書を見て、『シリウス・セイアッド』は眉を顰めた。 サクリファイスは、テロを引き起こす事を一切、躊躇わない連中だ。 だが、意味もなく蒸気機関車の乗員全員を殺すかと思うと疑問を感じる。 リチェルカーレは先日、光の檻の事件で起きたトラブルを思い出す。 「あの時は多分、わたしたちを止めるために。でも今度は? 何が目的なの」 「連中のいう『魂の救済』のためか?」 彼女の震える声を聞き、シリウスは思考を巡らせる。 だが、まだ、思案する為の情報が足りない。 「――手がかりが少ない。まだ、何もわからない、か」 悲しみに満ちた彼女の想いに応える術を見つける為に――。 シリウスは、アルバトゥルス駅舎へと足を進めた。 リチェルカーレ達は駅舎の改札口の近くで、周辺の人に聞き込みをしていた。 「事件当日、何か変わったことはなかったかしら?」 「大きな音がしたね」 リチェルカーレの問い掛けに、構内を回っていた駅員が応える。 (機関車に関わらず乗客のことでも、事件に関係なさそうでもいい。何か手がかりになるかもしれないわ) リチェルカーレはそう願って、様々な人達に声を掛けていく。 「リーディング現象は、いつから起こっているの?」 「最近だよ」 残留思念に話し掛けていた少女が、リチェルカーレの疑問に答える。 「最近になって、起こり始めたということは、何か関係があるのかしら……?」 リチェルカーレは今回の事故との関連性を視野に入れた。 周辺の様子を窺っていたシリウスは駅の改札に触れてみる。 光が放ち、やがて5,6才の頃のシリウスの姿が現れた。 シリウスは子供の頃の自分の姿に目を見開く。 『レヴェナントの彼は、ここから汽車に乗ろうとしてたんだ』 「……レヴェナントの、彼は? 当日、ここから汽車に乗ったのか?」 残留思念が語った言葉に、シリウスは疑問を投げ掛ける。 だが、シリウスの疑問に応える前に、子供の頃のシリウスは姿を消してしまった。 「これが残留思念なのね」 驚嘆に堪えないリチェルカーレに同意しつつ、シリウスは男性の姿を探す為に改札口の奥に目を向ける。 (ひとりだったのか) 『ひとりだった』 シリウスは残留思念が指し示した物を順に触れて、想いを伝えていった。 (どんな様子か) 『いつもと変わりない様子だった』 シリウスは心中で、残留思念に語り掛ける。 (誰かと一緒にいなかったか) 『一緒にはいなかったけど、誰かに付けられているみたいだった』 (付けられている……? 尾行されていたのか?) シリウスは残留思念が発した言葉を反芻する。 リチェルカーレ達は、小さなシリウスの指し示す方向へと進んでいく。 やがて、残留思念は立ち入り禁止区域の方向へと指し示した。 「……カノン、見にいけるか?」 「ええ、大丈夫よ」 立ち入り禁止区域へと視線を投じたシリウスは、ドッペル――カノンに尋ねる。 「怪しい人間でも物でもいい。見つけたら教えてくれ」 「分かったわ」 静かなシリウスの声に、カノンは頷いて応える。 調査に出向こうとするカノンに、リチェルカーレはそっと囁いた。 「カノンちゃん、無茶はしないで」 「ありがとう」 リチェルカーレの気遣いに、カノンは嬉しそうに微笑んだ。 暫時の間。 霧の塊から姿を変えたカノンが戻ってくる。 「カノンちゃん、どうだった?」 リチェルカーレの問い掛けに、カノンは躊躇いつつも応える。 「ここは駅務室だったわ。駅員の人の話によると、殺人事件があった昼間、廃屋の近くで不審な男が目撃されていたみたいなの」 「不審な男。レヴェナントの男を尾行していた男か」 シリウスは男への警戒心を強めた。 リチェルカーレ達と同じく、『ヨナ・ミューエ』達もアルバトゥルス駅舎の調査に向かっていた。 「夢の聖女を提唱する女が、ラウレシカの妹とすると聖女も恐らくサクリファイス。光の檻を利用し、死に至らしめるのもコルク達が邪魔だったのにも納得はできる」 『ベルトルド・レーヴェ』は今回、発生した不可解な事故へと着目する。 「しかし、今回の機関車事故はどうだ。あまりにも矜持が無い。何か、不測の事態の結果かもしれないな」 「まだ、情報が少ないですね」 ベルトルドの懸念に、ヨナは応えた。 ブリテン方面に運行していた蒸気機関車で起きた不審な延焼火災。 そこにサクリファイスが介入する謂れはない。 彼らが事を成すだけの理由が見当たらなかった。 「ここで、何か手がかりを掴めるといいのですが」 ヨナは事故の真相を求めて、アルバトゥルス駅舎へと目を向けた。 アルバトゥルス駅舎で、ヨナ達は機関車事故についての聞き込み捜査をしていた。 「機関車事故についてなのですが、犠牲者に共通点は無かったですか?」 「ああ、特になかったよ」 駅員の証言をもとに、ヨナはさらに聞き込みを続ける。 「乗客が集団でどこかに向かっていた可能性や、夢の聖女を提唱してる女性が機関車に扇動していませんでしたか?」 「いや、なかったな」 「そうですか」 真相解明の端緒を掴む為に、ヨナ達は手がかりを求めていく。 「リーディング現象も不可解だが、今は事件の謎を解くヒントになる」 「そうですね」 ベルトルドの言葉に、ヨナは残留思念を有効活用する為に構内へと視線を向ける。 手近にあった駅舎の椅子に触れ、ヨナは想いを込めた。 椅子から光が放され、子供の頃のヨナが姿を現す。 「私、ですね」 『男の人が、その日、乗る予定だった機関車に乗らずに引き返したの』 「引き返した? 何故、機関車に乗らずに引き返したのでしょうか」 『行方不明だった娘に会う必要があったから』 ヨナの呟きに反応したように、残留思念は事件のあった日の様子や兆候の有無を語った。 ヨナ達は駅舎の聞き込みを一通り終えた後、廃屋に向かい、残っていた血痕に触れた。 (何故、殺しの必要があったのか) 『犯人はレヴェナントの男に対して、遺恨があった』 ベルトルドが事件の顛末を願うと、残留思念は再び、現れて、レヴェナントの男の殺害状況を伝えてきた。 「……小さな私やベルトルドさんの姿でお話されるのも不思議な気分ですね。その口から紡がれる言葉はちっとも私達ではないけれど」 「確かにな」 残留思念は、ヨナとベルトルドに事件の有り様を証言してくる。 だが、姿は同じでも、残留思念が発した言葉はどこか平坦で端的な口調だった。 「……犯人はレヴェナントの男に対して、遺恨があったから、でしたか」 「何かしらの揉め事があったのかもしれないな」 それでも2人は切に訴えてくる残留思念の訴えによく耳を傾けて、事件の真相へと近づいていく。 「立入禁止区域ですね」 「ああ、ここはユエに任せるしかないな」 駅舎に戻ったヨナとベルトルドは、立入禁止区域の手前で踏み止まる。 「ユエさん、お願いします」 「うん」 ヨナの願いに、ドッペル――ユエは霧状で侵入した。 そこで、何が行われているのか。 誰かの会話などあれば、聞き耳を立てる。 ヨナ達が立入禁止区域について探っていると、やがて霧の塊から姿を変えたユエが戻ってきた。 「ユエさん、どうでしたか?」 「ここは、駅務室だったの」 「駅務室ですか……?」 ユエの意外な発言に、警戒していたヨナは虚を突かれる。 「火災事故があった日、機関車にその日、乗る手筈だった人が途中で乗るのを止めたみたい」 「乗るのを止めた人がいるのですね。残留思念が告げていた人物でしょうか?」 ヨナは確かな違和感を覚える。 (乗るのを止めた人物は、今回の事件に関係があるのかもしれませんね) 徐々にヨナの中で、残留思念が口にした言葉の謎が結びついて形を成していく。 ヨナ達は伝葉を使って、今まで得た情報を皆に知らせた。 アルバトゥルス駅舎の調査を行いながら、『ショーン・ハイド』は事件の不可解な点を割り出していっていた。 「……? 被害者はレヴェナントと内通していたってことは、聖女にとって強力な駒だったわけだよな?」 状況がいまいち呑み込めず、ショーンは苦々しい顔で眉を顰める。 「仮に聖女が犯人なら、何故、殺す必要がある?」 今回の犯行に違和感を感じたショーンは、教団に戻った際の出来事を振り返る。 『男の死亡時刻を調べたい。死体は見られないだろうか……』 ショーンは前もって、レヴェナントの男の遺体を調べる為に教団に戻っていた。 予め許可を取り、男の遺体を改めて確認する。 その事を踏まえて、アルバトゥルス駅舎で事故当日、駅舎で何か大きな音などは聞いたか、複数の乗客に聞き込みをした。 その結果、爆発音のような大きな音を数名、聞いており、火災発生時刻をある程度、絞る事が出来た。 周辺の情報収集により、レヴェナントの男の死亡推定時刻が白昼、延焼火災が発生したのが翌日の朝方だったという事が判明する。 (時間にズレがあるな。同一人物によるものなのか、それとも――) 事件の真相に迫るにはまだ、判断材料が足りない。 レヴェナントの男が殺されたのと火災現場の跡は同じタイミングでできたものか。 火災現場に残る弾痕が、果たしてレヴェナントの男を殺したものと同一のものなのか。 (……時間に関わる問題だから、前者は無理かもしれんが) ショーンは状況を窺知し、加味していく。 「この事件は、聖女が生じていなかった不慮の結果によるものかもしれんな」 ショーンは伝葉を使って皆に情報を知らせると、2つの事件の関連性を探る為に、今度は火災現場へと足を運んだ。 ● 「凄いです、ね……」 「そうだね、これは凄いな」 感嘆の溜息を吐くアリシアに同意しつつ、クリストフは言った。 案内された先では、工員達が様々な工程を得て、車両の整備をしていた。 「鉄道修理工場、久しぶりだね」 久しぶりに目にした光景に、レオノルは心を踊らせる。 だが、すぐに思考を切り替えて、工場内部を注意深く見渡す。 事故が発生した機関車は見当たらなかったが、解体した車体を垣間見る事ができた。 「少し話を聞かせてもらえるかい?」 「ああ、いいよ」 作業をしている工員達を呼び止めて、クリストフは火災事故に関する疑問を口にする。 「機関車の事故の時、ここにいなかった者は誰か分からないかな?」 「機関車の事故は、始発だったからな。 まだ、工場に来ていない者達の方が多かったな」 クリストフは工員の言質に聞いて、さらに問いを示す。 「ここにいる者達の身元は全員、確かだよね?」 「ああ。今いる奴らの身元は全員、判明しているよ」 工員の答えに、クリストフは質問を重ねていった。 「立ち入り禁止の場所には何があるのか、教えてもらってもいいかな?」 「解体された廃車が置かれている。危険だから、入らないようにしてくれよ」 (……なら、延焼火災が発生した機関車も、そこにありそうだね) クリストフは心算し、捜索場所を絞り込む。 「最近、様子のおかしい者はいなかった?」 「そういえば、最近、理由も言わないで、ここを辞めた奴がいてさ。なんて言うか、何か思い悩んでいるみたいだったんだよな」 脈絡のない言葉を発する工員に、クリストフはさらにその情報を探ってみる。 「その人物の担当は何だったか、教えてもらえる? あと、私物等はあるのかな? もし、あるなら、見せて貰えると助かるよ」 「車両の解体を担当していたよ。私物はこの写真しかないな」 「ありがとう」 クリストフは工員から写真を受け取った。 「私も少し、話を聞かせてもらってもいいかな?」 「ああ、何だい?」 一方、レオノルは溶接作業をしている工員達に声を掛ける。 「最近、修理工場で何か妙な案件抱えたりしなかった?」 「特にそういった案件はなかったな」 レオノルの問い掛けに、工員は間を開けて答えた。 「この工場で修理されたものについてのチェック体制ってどうなってるの?」 「品質管理部門があって、そっちに回されているな」 「そっちも見学してもいい?」 「ああ、構わないよ」 レオノルの申し出に、作業をしていた工員は頷いた。 「事故を起こした該当の車両は、修理や整備ってされてたの? 修理等をしたのは誰? その人達は今、どこに?」 「修理を担当していたのは俺達だよ。整備は別の奴らだ。車両の修理や整備は常にしていたから、何かあればすぐに気付くと思うけどな」 クリストフと会話していた工員達が名乗りを上げる。 「火災事故があったのは、朝方だよね。事故を起こした該当の車両の修理や整備はいつ頃してたの?」 「事故があった日は、前日の夜だな。車両の修理や整備が終わった後は、工場を閉めて帰宅したよ」 (工場を閉めて帰宅したという事は、その間、該当の車両を誰も見ていないよね。事故ったってことは、この修理工場で誰かが何か細工をして、人為的に事故を起こしたってことも考えられるね) 工員の話を踏まえて、レオノルは車両の状況を把握した。 (いろいろと確認したい事が多いね。火災現場は、ショーンに任せようかな……) ショーンから事前に聞いた情報をもとに、火災事故の詳細を照らし合わせていく。 (僅かに魔力を感じますね。思念は、もしかして呪いの類いなのでしょうか……?) クリストフ達が情報収集をしている間、アリシアはウィッチコンタクトでおかしな魔力が流れている場所や物がないか、不測の事態に備えていた。 (犯人がこの工場に関係ある方なら、何かに触れたら思念が出てくるでしょうか) アリシアは願うように工具に触れる。 その瞬間、工具が光を放つ。 光が消えた後、そこには7~8歳程のアリシアの姿があった。 (私……?) アリシアは、子供頃の自分の姿に目を瞠る。 『女の人がここに来て、車両に触れていました……』 「女の人……?」 残留思念は、アリシアを導くように応えた。 アリシアは、今度は修理されている機関車に触れる。 再び、残留思念が現れて、立ち入り禁止の場所を示す。 「ルゥちゃん、お願い、します」 「はい……」 アリシアの願いに、ドッペル――ルゥは工員達に見つからないように、霧の塊の状態で立ち入り禁止の場所へと入っていった。 銘々の時間が経過する。 やがて、霧の塊から姿を変えたルゥが戻ってきた。 「ルゥちゃん、どうでした、か?」 「炭水車から、後部車両を繋ぐ連結器が外れて、いました」 沈痛な表情を浮かべるルゥを見て、アリシアは車両の悲惨さを感じ取る。 「もしかして、ここで、誰かが連結器に細工をしていたの、ですか?」 「そうみたいだね」 「レオノル先生」 アリシアの疑問に、品質管理部門へ聞き込みに行っていたレオノルは応えた。 「事故前日の夜、怪しい人物がこの工場付近で目撃されていたよ。恐らく、夢の聖女を提唱している女性だろうね」 「アリシア、レオノル先生、これを見てくれるかい?」 その時、男の担当区域や写真に触れて、残留思念の声を聞いていたクリストフが2人に声を掛ける。 「ラウレシカ……? それにこの人は、私達に残留思念の事を説明してくれた乗客だね」 クリストフが写真の裏側を見せると、レオノルは自分の考えを辿るように凝視した。 男、妻、幼い息子、赤子の古い家族写真。 そこには男の名前と並んで、ラウレシカの名前があった。 「ルゥちゃんが持ってきた情報も含めて、皆に連絡をしよう」 「何か解ると、いいのですけど……」 クリストフの言葉に、アリシアは不安を払拭させるように頷いた。 今までの情報を突き合わせて、何が真実か考える。 ● 延焼火災が発生した現場。 そこは列車が走る線路以外は、銃弾を遮る遮蔽物が一切ない。 絶好の狙撃場所ともいえた。 (レールの周囲に、弾丸が落ちていたりしないだろうか) ショーンは周辺をくまなく捜索し、弾丸の行方を探す。 さらにレールの弾丸跡に残存している残留思念に触れて、感覚を研ぎ澄ませる。 (今はとにかく、情報が欲しい) ショーンの想いに応えるように、残留思念は姿を現し、弾丸が放された場所を示す。 残留思念が示した場所には、先に調査に赴いていたリチェルカーレ達が居た。 「ショーン達も来ているな」 「本当だわ」 シリウスの指摘に、リチェルカーレはぱあっと顔を輝かせた。 こちらに気付いたショーンに手を振って喜ぶ。 「このレールね」 調査を再開したリチェルカーレは、徴証が残留するレールに触れる。 「どちらから銃が撃たれたのかしら?」 『向こうから撃たれたの』 リチェルカーレの想いに応えるように、残留思念は弾丸が撃たれた場所を指し示した。 (火災の原因は何か) 『レールに銃弾の嵐が打ち込まれたんだ』 (殺害目的なら、誰を狙ったのか) 『レヴェナントの男を殺害した犯人だ』 シリウスの想いに、残留思念は応えていく。 何度か残留思念を視た後、リチェルカーレ達は飛竜になったカノンに乗り、上空から調査する。 そして、今までの調査で解った事を伝葉で皆に伝えた。 「ここで、火災が発生したようだな」 延焼火災が発生した現場にたどり着いた『ルーノ・クロード』は、周囲の状況を確認する。 仮借のない焼け焦げたレールの状況を見るに、激しい驟雨の銃弾が打ち込まれたように見えた。 「ひでぇ事しやがるぜ。だけど、ルーノ。どうして、ブリテン方面に運行していた機関車だけを狙ったんだろ」 「言われてみれば、そうだな。銃弾を放った者はやはり、乗客として乗る予定だった『レヴェナントの男を殺害した犯人』を狙ったとも考えられる」 『ナツキ・ヤクト』が発した疑問に、ルーノは伝葉で聞いた事を踏まえて思案を重ねる。 アルバトゥルス駅舎にいた乗客から聞いた残留思念による現象。 残留思念の情報を得られれば、何か解るかもしれない。 「よーし、また、残留思念が出るか試そうぜ!」 「ナツキ、待て。手掛かりには私が触れる」 「ルーノが?」 ルーノの制止の声に、レールに触れようとしたナツキの手が止まる。 「手掛かりに、私が触れるのは、前にブルーベルの丘で見た女性も情報収集の材料にする為だ。その状況や姿を思い出しつつ、残留思念を発生させたい」 ルーノは手掛かりを求めて、弾丸の跡が残るレールに触れた。 「――っ」 その瞬間、レールが光を放つ。 光が止んだ後、ルーノ達はゆっくりと瞼を開ける。 そこには、子供の頃のルーノの姿があった。 「おー、すげぇな! 子供のルーノだぜ!」 『魔力探知を掻い潜る特殊な消音狙撃銃は、向こうから放たれたんだ』 「ルーノ、向こうから放たれたみてぇだな!」 ナツキは楽しそうに、残留思念から情報をもらおうと話しかける。 だが、子供時代に良い思い出のないルーノは少し複雑な心境で事の成り行きを見つめていた。 (……しかし、何もその姿で出てこなくてもいいだろう) ルーノが目頭を押さえていると、子供の頃のルーノはその言葉だけを残して姿を消してしまった。 (――これを繰り返し行うのか) ルーノは手がかりを得る為だと己に言い聞かせ、残留思念による調査を再開する。 機関車に弾丸雨注が浴びせられた時の状況。 どんな弾丸がどんな風に、どこから撃ち込まれ、どんな威力を齎したのか。 ルーノ達は残留思念から、様々な情報を拾っていった。 「使用された弾丸は12.7mm弾か。レールと細工が施されていた連結器を集中的に狙っている。かなりの威力だったようだね」 ルーノは残留思念と伝葉で伝えられた情報を鑑みて、事件当日の出来事を一つ一つ繋ぎ合わせていく。 「詳しい狙撃ポイントの場所は、ルノに空からの捜索を頼もうぜ!」 「そうだな。ルノ、頼めるかい?」 「ああ」 ナツキとルーノの要望に応えるように、ドッペル――ルノはワイバーンへと姿を変え、上空へと視線を走らせる。 「ルノ、頼むな!」 ナツキの声に反応して、ルノは大きく身体を動かす。 ルーノ達を搭乗させたルノは突き抜けるように、空へと舞い上がっていた。 ルーノは上空から、事件現場を事細かく検証する。 やがて、今までの残留思念の情報をもとにした結果、機関車を浄化師に邪魔されず、狙い撃てるポイントの目星を付けた。 ルーノ達が上空の調査を終えると、ルノは示された狙撃ポイントへと降り立つ。 「ここにも痕跡があるのか」 ルーノが視線を巡らせていると、痕跡らしきものを発見する。 (ブルーベルの丘での調査で聞いた夢の聖女と繋がっている人物の話。人込みで取り逃したあの女性。今度こそ、彼女に繋がる情報を示してくれ) ルーノは想いを込めて、狙撃ポイントと推定した痕跡に触れてみる。 知りたいのは、ここに誰が居たのか――。 痕跡が光を放ち、やがて再び、子供の頃のルーノの姿が現れた。 「延焼火災を引き起こしたのは、誰なんだ?」 『夢の聖女と繋がっている人物が、火災を引き起こしたんだ』 「やはり、彼女か……。だが、何故、レヴェナントの男を殺害した犯人を狙ったんだろうか」 そこに込められた情感から、ルーノは延焼火災を発生させたのは夢の聖女を提唱していた女性――ラウレシカの妹だと察する。 「ルーノ、皆に連絡しようぜ!」 「そうだな」 ナツキに応えるように、ルーノは伝葉で皆に状況を伝えた。 ● 伝葉を用いて情報を伝え合った後、浄化師達は延焼火災が発生した現場に集まっていた。 「厄介な事件ですね」 その捉えどころのない2つの事件の不可解さに、ヨナは思考を走らせる。 『機関車事故を引き起こした犯人』 ・事故が発生したのは、レヴェナントが殺害された翌日の朝方。 ・リーディング現象は最近、発生した現象で、呪いの類い。 ・火災事故があった日、機関車にその日、乗る手筈だったレヴェナント殺害の犯人が途中で乗るのを止めた。 レヴェナント殺害の犯人が乗るのを止めた理由は、娘である機関車事故を引き起こした犯人に会う為。 機関車事故を引き起こした犯人は、レヴェナント殺害の犯人を狙っていた。 ・使われた銃は、魔力探知を掻い潜る特殊な消音狙撃銃、使用された弾丸は12.7mm弾。 ・銃弾の嵐がレールに打ち込まれた事と、連結器に細工が施されていた事による人為的な事故。 ・犯人は、夢の聖女を提唱していた人物。 『レヴェナント殺害の犯人』 ・レヴェナントの男の死亡推定時刻は昼間。 ・犯人は、レヴェナントの男を尾行していた。 ・レヴェナントの男は、当日、アルバトゥルス駅舎から機関車に乗ろうとしていた。 しかし、駅舎の近くの廃屋で遺体が発見された事から、乗る前に犯人から呼び止められた可能性がある。 ・犯人はレヴェナントの男に対して、遺恨があった。 ・最近、鉄道修理工場を辞めた人物が、ラウレシカの父親。 ・残留思念の事を説明した乗客は、ラウレシカの父親。 ・ショーンが確認した結果、レヴェナントの男を殺したものは、火災現場に残る弾痕と同一ではない。 今まで集めた情報を照らし合わせて導き出された結論。 それは、蒸気機関車の事故を引き起こした犯人。 レヴェナント殺害の犯人。 双方の犯人は異なるという事だった。 だが、機関車の事故を引き起こした犯人は、機関車に細工したりと、明らかにレヴェナントを殺害した犯人を狙っていた節が見受けられた。 これらの前提を前にして、ルーノは自分の予測を確信へと変える。 「サクリファイスに内通していたレヴェナントは、聖女にとって強力な駒だったようだ。その彼を殺害した男に、夢の聖女を提唱していた彼女は意趣返し――彼らのいう救済をしようとしているのかもしれないな」 「救済かぁ……。きっと良い事をしてると思ってるんだろうけど、それで誰かを傷付けなきゃならないってなら、俺は賛成できねぇな」 「賛成出来ない? 何故ですか?」 ナツキの言葉に反応して、冷淡な声と共に一筋の銃弾が放たれた。 「なっ!」 「罪を犯した人間は滅び、世界を救済するための生贄にならないといけないのでしょう?」 ナツキが避けると、いつの間にか――忍び寄っていた彼女は声高に疑念を呈する。 「レヴェナントの男は強力な駒でした。それなのに、この男は勘違いで無意味に死なせてしまいましたのです」 彼女の手によって、銃弾を打ち込まれた男が放り投げられる。 その人物は、写真に写っていた男――ラウレシカの父親だった。 「しかも、この男は私と兄の父親だと告げてきたのですよ。これはもはや、粛清に値するべき事柄でしょう?」 「どうしてそんな事を? あなたの父親ではないのですか?」 「だからこそです」 ヨナの訴えに、彼女は相好を崩す。 「この男にはね、蒸気機関車に乗って故郷の実家に戻ろうとしていた時に、ふと目を離した隙に兄と私をサクリファイスに連れさらわれたという過去があるのです」 彼女は朗らかに、晴れやかに、言祝ぐように語った。 その笑顔が、何故かどうしようもなく、ヨナの心を騒がせる。 「だからこそ、この男は、自分の息子達を攫ったサクリファイスの男の存在を突き止め、情報を聞き出そうとしていました」 彼女はまるで昔話でも語るように続ける。 「でも、その情報自体に瑕疵があり、殺害するべき対象を取り違えてしまったのです。『自分の息子達を攫ったサクリファイスの信者だと思っていた人物』は、実際は『無関係なレヴェナントの男』だったというね」 声色一つ変えず、彼女は淡々と言い切る。 人違いによる殺人事件。 戦慄が胸の奥に浸透するまで、さすがに幾許かの時間を必要とした。 クリストフは写真に記載されていた彼女の名前を思い出す。 「メルル。君の目的は一体?」 「目的は、この男を殺害する事です。今まで放置していたくせに、この男は今更、父親面して、私達の行方を探そうとしてきました。私達――サクリファイスの行動を阻害してきたこの男を野放しには出来なくなったの」 クリストフの問いに、彼女は――メルルは威嚇するように連続で発砲した。 平原の様相は姿を変え、砲煙弾雨の飛び交う戦場へと変わる。 「皆、禹歩七星を掛けるわ」 リチェルカーレの禹歩七星により、皆の移動速度が跳ね上がった。 「あの人を止めなくちゃ」 「ああ」 リチェルカーレの祈るような決意と共に、シリウスは剣を閃かせる。 彼女の間合いに飛び込み、捕縛を狙う。 リチェルカーレは鬼門封印で、メルルの機動力を削ぎ、戦いを有利に進行していく。 「夢の聖女の事を触れ回っている一方で、こんなあからさまな殺しをして……」 ヨナの眼差しが、メルルを真っ直ぐに捉える。 「聖女様の意向とは大分かけ離れたやり方、一体どういうおつもりです?」 「私のやり方は、聖女様も同意の上です」 ヨナの台詞に応じたメルルは、冷淡な空気を纏った。 「私は、今まで数えきれない程の罪を犯しました。多くの人々をこの銃で殺めてきました。あなた達が私を殺さなくても、近い未来、私は何らかの形で死ぬ事になる」 「――っ」 当たる寸前の所で打ち込まれた弾丸。 アビスブリザードを放とうとしていたヨナは視線を誘起される。 「殺害願望、他殺願望、というのでしょうか。誰かを殺したい。でも、私自身も殺してほしい。私は物心ついた頃から、サクリファイスの信者に囲まれた生活を送ってきました。だからでしょうか。生まれ育った環境からか、そういった願望を持っている。兄にその事を話すと、愚者の発想だと苦笑されましたが」 「あなたは何を言っているのですか?」 「あなたには決して理解できない道理ですよ。あなたが私の事を理解できないのと同じように、私もあなたの事を理解できませんから」 一向に窺い知れない真意が、ヨナの胸のうちを騒がせた。 「でも、彼女は――夢の聖女であるプリムローズ様は違った。私の願望を認めた上で、この地に住まう者達を一緒に苦しませずに死なせましょう。その上で一緒に死にましょう。そう誘ってくれました」 「よくわかんねぇけど……でも、俺は納得できねぇな。誰かを巻き添えにするようなやり方はさ!」 真正面から、ナツキが跳び込む。 獣の如き激しさで間合いを詰め、突進の勢いも込めた獣牙烈爪突を放った。 「私も同感だよ! メルル、君のやり方には賛同できない」 「――っ」 ルーノは仲間への支援をしつつ、避けようとしたメルルの後方へ回り込んで退路を断つ。 アリシアが鬼門封印で足止めし、ベルトルドがメルルの抑えに走る。 度重なる攻撃を受けながらも、メルルは手にした銃を構え、距離を取った。 「それでも、私は彼女のお陰で、これから為すべき目的と自身の願望を成就する手段を得ました」 メルルの思想は止まらない。 「私は、これからも多くの者達を殺めたい。そして、そんな私を止める為に殺してほしい」 「どう、して……」 尋常ならざる嘆願に、アリシアは悲しげな顔をする。 「多くの者達は、私のような思想の者達を異常だと危険視するでしょう。それでも私の考えは変わらない。変える事は出来ない」 メルルは憤怒と嗜虐の両者に彩られた声音でそう宣言した。 「サクリファイスの信者になった者達だって、無理やり連れさらわれ、信者になった者もいるのですよ。でも、サクリファイスの信者になった事で、今までの辛かった出来事から救われた者達もいる。生き苦しかった生活から抜け出した者達もいる」 メルルは優しく囁きかける。 「虐められている人を助けても、また別の人が虐められるだけ。差別を受けている人を助けても、また別の誰かが差別を受けるだけ」 慟哭があった。屈辱があった。無念の怨嗟と喪失があった。 それは数多を費やしても、何1つ得る事のなかった者達の徒労の連鎖。 「あなた達が神を倒しても、それはいつまでも変わらない。でも、新世界になれば、私のような思想の者達も苦しまずに生きられる世界になるでしょう」 狂おしいほどの愛を込めて、メルルは神に祈りを捧げる。 「私は死んで、神が導いてくれる新世界で生きたい。でも、それと同時に、この地に住まう者達を道連れにしたい」 泥沼に首まで浸かった者は、得てして道連れを欲しようとする。 しかし、そう発した瞬間、ショーンの一撃が、それまでメルルの居た場所を通過した。 ぎりぎりの所で回避した彼女はそこから素早く獲物を構え、攻撃態勢を整える。 「不満そうですね」 「当たり前だ」 怒りを込め、ショーンは応えた。 「お前と聖女が、どういう関係かは詳しくは知らん。だがな、何れにせよ、神に依存しているその神経が俺は心底気に食わん!」 ショーンは、メルルと間合いの取り合いをしながら狙撃を続ける。 「ショーンの言う通りだよ!」 ライトレイを放ちながら、レオノルは言葉を投げ掛けた。 「結局、メルル。君は、神の――聖女の導き手を演じたかったんでしょ?」 「プリムローズ様は――神は、私の救い主なのです。導き手として力になりたいのですよ」 レオノルの言動を気に留めることもなく、メルルは範囲射撃を行う。 「戦わないと分かり合えないのなら、付き合ってあげるよ。もっとも、君の思想を理解する気はないけどね!」 クリストフが踏み込みと共に放つのはソードバニッシュ。 メルルに反応する余裕を与えず、一息に斬撃を叩き込んだ。 絶え間ない攻撃を受け、メルルは傷を負い、膝を付く。 そこにシリウスの剣の切っ先が突き付けられる。 「……動くな!」 「……私はここまでのようですね」 メルルは観念したように銃を下ろす。 「私は以前から、あなた方の事を知っていたのです。あなた方が兄に初めてお会いした時から……」 ひっそりと声を殺すように囁いた後、メルルはご満悦の表情を浮かべる。 「私達の事を、あの時から知っていたのですか?」 「兄はね、あの時、視認した戦闘の模様を、魔術で遠くに居る私へと映像を送っていたのです。だから、兄は負担の少ないボマーばかりを使っていたの」 驚きを滲ませたヨナを前にして、メルルは諭すように言う。 「では、ブルーベルの丘で、私達を見ていたのは……」 「もちろん、プリムローズ様に、あなた方の事を報告するため」 ヨナの懸念を見透かして、メルルは喘ぐように応える。 「この先、神の干渉がなければ、滅亡する世界。遅かれ早かれ、いずれはこの地に住まう者達は全て死に絶えることになるでしょう」 やがてくる成就の時を期待して、メルルは嫣然と微笑んだ。 「さあ、プリムローズ様。全ての嘆きを刈り取りましょう。全ての苦悩を刈り取りましょう。間もなく、神はそれを成し遂げてくれるのだから――」 締め括りとばかりに、メルルは揺るぎない信念を語った。 高い声は独特の響きを伴い、ルーノ達を揺さぶる。 ルーノ達に捕縛されても、メルルは自身が思い描く思想を抱き続け、決着の行方を彼女達へと託した。 〇雨止みを待つ (メルル、あなたまでいなくなってしまうなんて……) 薄暗い小部屋の中で、少女は――プリムローズは哀しみに暮れるように水晶盤に触れる。 彼女の座る椅子の脇に設けられた水晶盤には、浄化師達に捕らえられるメルルの姿が映し出されていた。 (でも、メルル、安心して。私達の悲願は必ず、成し遂げてみせます) 決意を固めるプリムローズの耳に、けたたましい声が響き渡った。 「そーとー疲れた!! ねえ、目的の八百万の神って、この子でいいん?」 「はい。ブリジッタ様、お手数をお掛けしてしまって申し訳ございません」 かなり疲れたと言い張る少女ベリアルに、プリムローズは頭を垂れ、労いの言葉を掛ける。 少女ベリアル――『心象のブリジッタ』が抱えているのは、幼い少女の姿の八百万の神。 彼女は眸に涙の跡を残したまま、意識を失っていた。 「うち、やっぱー、アルフ聖樹森、すかん。守護天使と八百万の神による2重結界のせいで、大きく力が削がれるやろ」 「『すかん』……。嫌いという事ですか?」 「そうそう。力が削がれる上に、集落の人間達も邪魔して来て、でったんきつかったー」 ブリジッタは凄くきつそうな面持ちで応える。 アルフ聖樹森は、森全体を守護天使『カチーナ』が護り、各地域を八百万の神が護っている。 それゆえに、他の地域からやってきたべリアルやヨハネの使徒などは、カチーナと八百万の神による2重の結界により大きく力を削がれてしまう。 たとえ、彼女のように、スケール5のベリアルだったとしてもだ。 「で、この子を苦しませずに死なせたいやけん?」 「はい、安らかに死なせたいのです」 プリムローズは八百万の神の少女を見て小さく驚き、けれど、すぐに花のように微笑んだ。 それは……まるでこの日を待ちわびていたというばかりの確かな笑み。 彼女はゆっくりと、ギガスのもとへと歩み寄る。 「ギガス様、ブリジッタ様。私はカタリナ様の為に成し遂げたい事があるのです」 「うむ」 「成し遂げたい事って、この子に関係あるけん?」 プリムローズはギガス達の前で再度、膝を付き、頭を垂れた。 「カタリナ様は、世間から見捨てられていた私に救いの手を差し伸べてくれました。村の人々から魔女だと迫害を受け、殺されかけた私を救ってくれました」 プリムローズは目を伏せ、自身の過去を語る。 彼女は怨讐派の魔女の血筋を引いていながら、サクリファイスの幹部になったという経歴があった。 最も、彼女自身の魔女としての血は薄く、夢に干渉する力くらいしか携えていない。 「私はカタリナ様に出会った事で、今まで感じた事がない程、穏やかな日々を過ごす事が出来ました。魔女の血筋という身分であっても、思想が同じであれば、と彼らは私を受け入れてくれました。サクリファイスの教えを聞かされた時、驚きはしましたが、それと同時に共感もしました」 プリムローズは記憶を辿るように、思い出を語り続ける。 「カタリナ様と共に、ギガス様に出会った事で私の想いはより一層、強くなりました。私は、全ての生き物がより良い生き物に生まれ変わる為の救済の手助けがしたい」 あの日、カタリナ達と共に、ギガスに出会った事でプリムローズの運命は変動した。 「それは八百万の神とて同じ事です。私は前にカタリナからお伺いした、『ヴァルプルギス』一族の氏神となっている、八百万の神『リシェ』様を安楽死させてあげたい。他の誰の手でもなく、私自らの手で……」 恩人であるカタリナと出会った後の思い出は、どれを思い出しても鮮明に描ける。 『ヴァルプルギス』一族の氏神となっている八百万の神を安らかに死なせてあげる事。 それが、カタリナの為に出来る唯一無二の恩返しだと彼女は固く信じていた。 「でも、私の力だけでは、八百万の神であるリシェ様を安らかに死なせてあげられない」 プリムローズは祈りを捧げるように渇望した。 「ギガス様、ブリジッタ様。どうか未熟な私に、お力添えをして頂けませんでしょうか……」 「その在りよう、善き哉」 ギガスは両手を合わせ、プリムローズに返す。 「主は、自らを卑下する必要はない。恩義に報いようとする在りようは、主をより望む自分へと近づける結果になるであろう」 そう言うと、ギガスは懐かしむような笑みを浮かべて続ける。 「カタリナは善き者であった。主がカタリナの為に成そうというのなら、力を貸そう」 「ギガス様がそう言うなら、うちも力を貸すっちゃ!」 「ギガス様、ブリジッタ様、ありがとうございます」 自分の不甲斐なさに落ち込むプリムローズを励ますように、ギガスとブリジッタは応えた。 全ての生き物が、より良い生き物に生まれ変わる為の救済が成された新世界。 それは何よりも美しいものだと、プリムローズは盲信していた。
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*** 活躍者 *** |
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[15] ヨナ・ミューエ 2020/07/24-23:13
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[14] リチェルカーレ・リモージュ 2020/07/24-22:57
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[13] ルーノ・クロード 2020/07/24-21:40
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[12] クリストフ・フォンシラー 2020/07/24-15:06 | ||
[11] ルーノ・クロード 2020/07/24-00:47
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[10] リチェルカーレ・リモージュ 2020/07/23-23:37
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[9] レオノル・ペリエ 2020/07/23-19:53
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[8] ルーノ・クロード 2020/07/22-23:24
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[7] ヨナ・ミューエ 2020/07/20-01:21
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[6] クリストフ・フォンシラー 2020/07/19-23:32
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[5] リチェルカーレ・リモージュ 2020/07/19-22:10
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[4] レオノル・ペリエ 2020/07/19-00:32
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[3] クリストフ・フォンシラー 2020/07/18-20:57
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[2] リチェルカーレ・リモージュ 2020/07/18-09:50
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