~ プロローグ ~ |
「あなた、ちょっと遅くなっちゃったけど、今日も来たわ」 |
~ 解説 ~ |
【目的】 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、鳩子(はとこ)と申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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■目的 アナグマベリアル討伐。村人の慰撫。 ■行動 可能な限り最も迅速に到達可能な経路・手段で仲間と村へ。 昼のうちに可能な限り慰撫と準備。 準備中、村内の巣穴入口有無注意確認。 モニカは子供達を中心に、落ち着くまで話を聞き慰め抱きしめあやし宥める。 薙鎖は墓場周辺の物陰、樹の根本、草叢等の巣穴入口捜索。 敵を誘う場所以外の穴は香水二種塗布したティッシュ投下後埋め、岩や倒木で塞ぐ。 黄昏時以降、照明用意し残した穴の出口で警戒。薙鎖は穴より風下。 交戦時初手魔術真名。 モニカは前衛で仲間と分担し敵の進路及び穴への退路を阻む。 薙鎖は仲間後衛と同対象に符で攻撃。 事後、村周辺捜索し安全確認。 帰還後、上に国内巡回強化を提案。 |
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◆準備 セアラは村人のフォローへ 二次被害を防ぎたいので墓場に近づかないよう頼む 「ベリアルはわたし達が必ず倒すから!」 「心配しないで、今夜だけ家にいてくださいね」 口調は柔らかく キリアンは戦闘準備 生存者は探すが期待はしない 墓を荒らしにくい場所を想定戦場に 分担して穴を探し戦場へ繋がる以外の穴を廃材で塞ぐ ◆戦闘 夕方合流し墓場へ ベリアルが出現したら魔術真名唱え キリアンは前衛として仲間と分担、ベリアル1体を抑える セアラは仲間と攻撃集中し1体ずつ撃破を狙う スキル惜しまず使用 極力墓石を背にしないようにし被害低減 仲間の状況意識し危険時はフォローには入る ◆戦闘後 墓場をできる限り元通りに 花を供え安らかな眠りを祈る |
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現場に到着後。私は村人の慰撫を担当させていただきます。 …といっても私はお話を聞いたり励ましたりすることしかできませんが。 ですが私は占い師です人と話をするのはちょっと得意なんですよ。 とにかくまずは安心していただかないと。 恐怖を抱いたままでは余計な被害を招きかねませんから。 ありきたりですが「私達が来たからもう大丈夫」だ、まずはそう伝えたいですね。 簡単な怪我なら簡易救急箱がありますのでおっしゃっていただければ治療します。 夜 夜間の戦闘になりますのでランタンを携帯 戦闘準備をした場所に移動。 魔術真名詠唱後戦闘開始。 私は皆さんの援護をアルカナソードを使用。 村の方々のためにも必ず倒さないといけません。必ず。 |
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■準備 ルーノ 墓地で戦闘準備 穴を塞ぎつつ、墓地の外れで墓が少なく戦闘可能な広さがある場所を見繕う ナツキ 村へ 元気の無い子供が気になり目線を合わせて話しかけてみる 少し話して遊んでみたり、慣れてきたら遊びの延長で獣人変身 怖がらなければ軽くじゃれてみる 少しでも不安を和らげたい ■対ベリアル 被害を防ぐ為墓を背にしないよう行動 ルーノ 遠距離攻撃で気を引き 事前に調べた墓地の外れへ誘導 ナツキと同じ敵を攻撃 敵を見張り逃走を警戒、妨害する 敵が2匹以下なら増援・奇襲を警戒 察知次第味方に知らせ対応を促す ナツキ 敵の背後に回り挟撃 小型の片方をJM1で攻撃 交戦中の敵は常に注意を引く事で敵同士の連携を妨害 小型殲滅後、大型対応に加勢 |
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◆目的 敵の討伐 事件に終止符 ◆心情 問うなかれ誰がために鐘は鳴るやと …誰が死んでも、僕は悲しい ◆行動 アンナさんとドニさんにお礼 「生きててくれて、ありがとう」 街に着いたら墓で戦闘準備 遺体は弔い 壊れた柵を木材で簡易に直し、再び壊れたら音がなるよう仕掛け(鳴子 夕方までに再集合し打ち合わせ 僕達は一番大きな熊担当 墓を極力破壊しないと約束です 「終焉の花束を」 喰人・前衛 攻撃と挑発でクマを引きつけ戦闘位置へ誘導 仲間が戦いやすいよう気遣い 墓を守る為、逃げず武器で防御 敵が穴に逃げそうなら、スキルで足狙い 祓魔人・中衛 戦場全体を把握しながら支援攻撃 敵の触手、腕を狙い火力を削ぐ 敵が出現する穴を予測 戦闘後仲間の治療、墓の整理 |
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~ リザルトノベル ~ |
●惨劇に沈む村 瞬間移動を可能とする魔術式を件の村が有していなかったため、一行は近隣の都市に転移し、そこから現場に向けて急行することとなった。 急使が告げた僅かな情報によればベリアルはアナグマの習性をいくらか残しており、夜行性の可能性が高い。だが、もし万が一、夜が明けても巣穴に戻らず凶行が居住区にまで及んだとすれば――最悪の事態も考え得る。 移動によるタイムロスが致命的なものにならないことを願うしかなかった。 急ぎに急いで目的の村へ到着したのは、太陽が中天に達しようとする頃合いだった。 空は快晴。風はいささか強いが、良い散歩日和だと目を細めたくなるような天候である。 しかし眼前の村は、すっかり憔悴しきっていた。昼時だというのに、煮炊きの煙を上げる煙突は一つもない。 「おお……よくぞ、いらしてくださいました」 一睡もしていないのだと分かる様子の村長に迎えられ、浄化師たちは痛ましく思うと同時に安堵もした。 昼の間、ベリアルどもは林に留まっているのだ。 ひとまず猶予が与えられたことに息をつき、浄化師たちは各々の役目を果たすべく散開した。 住民の一部は近隣の村へ避難済だったが、体力の無い老人や女子供を中心に、まだかなりの人数が教会に身を寄せていた。腰かけて黙然と俯いている者もいれば、祭壇に跪く者もある。時折子どもや赤子の声が響くくらいで、大多数の大人は無言に沈んでいた。 少しでも災いを遠ざけようとしてか、それとも死者を悼むためか。祭壇の上では香が焚かれ、所狭しと灯明が捧げられている。 およそ百年前、神は滅びの裁定を下し、その執行人としてヨハネの使徒やベリアルを差し向けた――だがそれでも人は、祈らずにはいられないのだ。 戸口に近い席で、泣く赤子を抱き、あやすでもなく俯いている母親がいた。 シャルローザ・マリアージュは、その傍へしゃがみ、視線を合わせる。 「浄化師、様……?」 制服を目に留めて母親が覚束ない口ぶりで言うのに、はっきりと肯いた。 「はい。薔薇十字教団より派遣されて参りました、シャルローザと申します」 「同じくロメオだ」 ロメオ・オクタードはつい癖で煙草を出そうと懐に入れた手を空のまま元の位置に戻し、シャルローザに倣う。 母親は二人を見上げ、不意にぼろぼろと大粒の涙を零した。極限状態で凍りついていた感情が溶け、急に溢れ出したらしかった。その声に、周囲でうなだれていた人々も我に返ったように顔をあげた。浄化師様だ、と誰かが呟く。それまでぐずっていた赤子は、驚いたのかぴたりと泣き止んで、ふしぎそうに母親を見上げている。 「もう大丈夫です。私たちが、貴女がたを必ずお守りします」 シャルローザは優しく語りかけながら、母親の丸まった背を繰り返しさすった。 そこへ、おい、と酷く尖った声が割り込んだ。 「あんたたち、何人で来たんだ。本当に助けてくれるのか、あいつらを倒せるのか!」 険しく言い放ったのは、杖をつく老人だった。怒りで満ちているのが一目でわかる。 「私を含めて、十人で参りました。みなさんの平穏を取り戻せるよう、全力を尽くします」 「大丈夫だ、爺さん。今、仲間が討伐の準備をしている」 「日が暮れる頃、私達も合流して墓地に向かいます」 占い師という職業柄、話術に優れたシャルローザが主に話し、その内容をロメオが補強する形で、二人は言葉を尽くした。教会中の村人が耳をそばだてているであろうことを意識してのことだ。 パニックによって新たなトラブルや被害の拡大を招きたくないこともあるが、純粋に、人々に希望を持ってもらいたかった。 しかし、老人の激情は易々とは収まらない。 「信じていいのか? 倒せなかったらどうする、奴らが、こっちまで来ちまったら……!」 いっそ悲痛と言ってもいいような叫びを老爺が上げた時、ぽん、とその肩に色白の手が置かれた。 「おじいちゃん! いったん落ち着いて、お茶を飲もう? そんな大声を出したら、赤ちゃんもびっくりしちゃいます」 教会につくなり厨房へ向かったセアラ・オルコットだった。早速、温かい飲み物を配っていたらしい。少しばかり薬学の心得があるロメオは、漂ってくる香りが鎮静の作用を持つハーブのものだと気が付いた。 「今、スープも煮てるからね。こんな時だからこそ、ちゃんと食べないとダメですよ!」 「あ、ああ……」 溌剌としたセアラに毒気を抜かれたらしく、老人は差し出されるまま茶器を受け取った。落ち着かない様子で一同を見回す。 「……怒鳴って、すまなんだ。どうか、頼むよ、浄化師さん」 ぽつりと言ったきり、背を向ける。極大の不安がそのまま怒りに変換されてしまっていただけで、根は優しい老爺なのだろう。 「ベリアルは、わたし達が必ず倒すから! 心配しないで、今夜だけここにいてくださいね」 セアラは皆に聞こえるように、明るい声をあげた。 「あの、みなさん」 母親が、おずおずと呼びかける。目元に溜まる涙がまたひとつ、ぽろりと零れ落ちたが、彼女は微笑んでいた。 「どうぞ、よろしくお願いいたします。……この子に、平和な故郷を見せてやりたいのです」 浄化師に寄せられる期待は大きい。村の人々のため、未来のため、必ず倒さなければならない。 三人は決意を新たに頷いた。 モニカ・モニモニカとナツキ・ヤクトは、祭壇脇のスペースで子どもたちの相手をしていた。二人は互いのパートナーではないが、不安そうな子どもを放っておけないという共通の気質を持っていた。 まだ喋りが達者でない年頃からやんちゃの盛りまで、十人あまりが集まっている。 うさぎのぬいぐるみを抱きしめた少女が、モニカを見上げる。 「おねえちゃんたちも、エクソシストさまなの?」 「そうよ! ワタシたちが来たからには、もう安心して良いからね」 元気づけるように笑いかけるが、少女は顔色を曇らせた。 「でも、べりあるって、つよいんでしょ? う、うちのおとうさん、……き、きのう、銃もって出ていって……ア、ンナおねえちゃんが……っ」 言葉は途切れ途切れで支離滅裂だったが、充分、この子に降りかかった悲運がわかってしまった。モニカは堪らなくなって、しゃくりあげる子どもを抱きしめた。肩口で涙を受け止め、小さな頭を優しく撫でる。 「大丈夫だ」 悲しみは伝播する。不安げな顔をした子どもたちが寄ってくるのを、ナツキはまとめて腕に囲った。 「悪いヤツは俺たちがやっつけてやるから!」 ぎゅうぎゅうと抱きしめた後、わしゃわしゃと頭を撫ぜてやる。それから、ひとりひとり抱き上げたり、肩車したりとするうちに、子どもたちは徐々に笑顔を取り戻した。 四半刻も経つ頃には、子どもたちと一緒にハーブティを飲むモニカの傍ら、眠ってしまった子どもの枕になる黒い狼犬の姿があるのだった。 武器を構え、ベリアルや巣穴が隠れていやしないか探りながら林道を進む。アンナが襲われたと思しき地点の周囲は特に慎重に探ったが、それらしい穴は無かった。地下道は、自警団の面々が襲撃を受けた墓地周辺の林間に掘られているようだ。 「はー……予想はしてましたけど、ひでー有様っすね」 キリアン・ザジは、げんなりとした顔でぼやいた。生存者がいるかも、と希望を口にしていたパートナー、セアラにはとても見せられない惨状だ。 「飢えた野生動物とは違い、ベリアルは食べるために人を襲うのではないからね。……恐らく転化したばかりで、まだ殺し方が下手なんだろう」 倒れた墓石の陰を逐一確認しながら、ルーノ・クロードは平静を保った声で述べる。すぐに情を抱いてしまうパートナーと異なり、ルーノはあくまで仕事だという心持ちを崩さない。内心ナツキの姿勢には溜息をついているのだが、適材適所と割り切って役目を果たすのみだ。 「チッ……奴ら、随分といたぶったみてぇだ。肉片があっちこっちに散らばってやがる」 ルーノの言葉を裏付けるように、林間の様子を見てきたパンプティ・ブラッディが苦々しく言い捨てた。戦闘は好きなたちだが、殺戮となると話が別だ。 「村の方々の精神状態はすでに限界に近い……これ以上墓地を荒らさないよう、戦い方や場所に気を遣う必要がありますね」 リトル・フェイカーは愁眉を寄せて思案を巡らせた。たとえ縁もゆかりもない他人だとしても、命が喪われるのはいつだって悲しい。 「あったよ、アナグマの巣穴だ」 ルーノの声に、ぴりっとした緊張感が走る。 「思ったよりも小さいですね。墓地の中は、掘り進めにくいのかもしれません」 仲間と並んで穴を検分したフェイカーは憶測を述べた。何度も出入りを繰り返したという様子ではない。これなら、この一ヶ所を塞いでおきさえすれば、墓地への侵入を防げそうだった。 「遅くなってすみません……! 居住区の方には、巣穴はありませんでした」 林道の方から声を掛けてきたのは、モニカのパートナー、薙鎖・ラスカリスだ。 彼は小ぶりの荷車を曳いていた。村はずれに岩や倒木、廃材などが打ち捨てられた一画がある。使えそうなものを見繕い、すでに荷車一台分運んできてはいたが、穴を塞ぐ障害物はあればあるだけ良かった。 「おつかれさん」 「ありがとうございます。お一人じゃ重かったのでは」 「いえ、……出来ることは、何でもやりたいんです」 キリアンとフェイカーに労われた薙鎖は、控えめに首を振った。ベリアルの凶行を防げなかった無力感が、胸を重く塞いでいる。 「さ、とっとと穴を埋めちまおうじゃねぇか」 「そうですね。日暮れ前にベリアルが出てこないとも限りません。僕は、壊れた柵を簡単に直して、ちょっと仕掛けをしておこうと思います」 荷車を覗きこむパンプティとフェイカーに、薙鎖はごそごそと懐を探った。 「良かったら、これを使ってください」 差し出したのは、二種類の香水とティッシュだ。アナグマの習性通りであれば、敵は嗅覚が鋭い。匂いのきついものを仕込むことで、より遠ざけることができるかもしれない。 「いいねぇ。そんじゃ、手伝ってもらおうか」 パンプティと薙鎖はまず墓所内の穴を埋めることにした。フェイカーは長さのある枝と荷車の底で渦巻いていたロープを手に、柵の修復に向かう。 「俺は、戦闘に良さそうな場所を見繕って来るとしましょうかね」 ついでに、目についた範囲で遺品を回収しておくつもりだった。今を逃すと、戦闘中、さらに踏みにじられる可能性がある。 「私も行こう。出来れば三ヶ所は見つけたいところだからね」 キリアンとルーノは陰惨な爪痕の残る林へと入って行った。 ●希望を取り戻す戦い 「そろそろだね」 銀の懐中時計を手に、ルーノは呟いた。 もうじき、アンナが襲われた時分になろうとしている。 充分に仕掛けと打ち合わせを済ませた十人は、林道に集合していた。暗くなってから準備したのでは間に合わないので、既にランタンや松明には火を灯してある。 絶対に、ベリアルにこの境界を超えさせてはならない。 決意の目くばせを交わし、一団は夕暮れの墓地へと向かった。 風が吹いている。流されてきた雲が、次から次へと通り過ぎていった。 林の中で見つけた巣穴の内、程よい位置にあった穴を塞がずに残してある。浄化師たちは墓地の方向を意識しながら、穴の付近に控えた。 ベリアルは、ただひたすらに人間の殺戮を目的とする存在。浄化師自身が呼び寄せるための餌となる――もっとも、今度はこちらが喰らう番だ。 ざり、ざり、ざり…… 風音に紛れて微かに、しかし確実に、異質な音がする。 ベリアルは新たな巣穴を掘ることなく、意図通りにここまで誘導されてきてくれたようだ。墓苑の柵に仕掛けた鳴子も沈黙を保っている。 空は刻一刻と暮れていく。 土を掻く音が近い。 終焉の、とフェイカーは詩でも詠むように囁いた。 「花束を!」 フェイカーとパンプティの声が重なり、二人の片手の甲と甲が合わせられる。箍が外れる感覚。魔力の激しい生成がはじまり、全身に行き渡っていく。 「ナギサっ! ワタシたちもやるよ!」 モニカは小柄なパートナーの身体へ覆い被さるように抱きついた。 「縛の鎖を断ち、我と我らが腕にて抱こう」 漲る力を感じながら武器を構えた、まさにその瞬間、地中から黒々とした塊が飛び出した。 「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」 薙鎖はすかさず呪符を手に九字を切る。不可視の爪による斬撃が、ベリアルを墓地とは反対の方角へ弾き飛ばした。 「援護します!」 占星儀を構えたシャルローザがタロットを投擲し、さらに奥へと追い込む。低く唸ったベリアルは反動を利用して飛びかかったが、モニカは踊るような身のこなしで難なく躱す。敵に体勢を整える暇を与えず、ロメオが銃弾を撃ち込んだ。 作戦の第一段階は、敵の分断と移動だ。巣穴から距離を取ったところで、一組がベリアルの先を行き、囮となって誘導する。いったん墓地から引き離しさえすれば、眼前の人間を殺す欲で充満したベリアルが逃げ出すことは、まずない。 林間の僅かに開けた場所まで辿り着いたところで、シャルローザとロメオは魔術真名を唱えた。 「嘘とお菓子は甘いもの」 天候は浄化師に味方していた。絶え間ない風のおかげで雲はすぐに流れ、月光がランタンの火が及ばぬ範囲まで照らし出す。 羽根つきベレー帽を装備するモニカは、常にも増して軽やかにステップを踏み、敵を翻弄した。ベリアルが気を逸らしそうになれば呪符とタロットカードがそれを妨げ、一瞬の停止を見逃さずに弾丸が撃ち込まれる。 次第に、ベリアルの動きに鈍さが見えてきた。 その隙をついて、モニカが短剣を振るう。 「えいッ!」 変化は劇的だった。 醜悪な奇声が轟く。隙間なく触手の生えそろう肩の獣皮が引き裂け、体液が滴った。ベリアルの核である魔方陣を短剣が傷つけたのだ。 空中に、鎖に繋がれた黒い人影が浮かびあがる。 「あれは、自警団の皆の……!」 「モニカさん、下がって!」 重傷を負いながらも、ベリアルは殺意を緩めない。薙鎖は呪符を放ってモニカに距離を取らせた。 「もう一息だ!」 ロメオの言葉に応じるように、シャルローザはアライブスキルを発動させる。タロットカードが捉えどころのない軌道を描き、怒り狂うベリアルを襲った。黒い体がぐらりと揺らぐ。 「とどめだ……ッ!」 ロメオは裂けた肩を狙い、エナジーショットを放った。 「明日へ続く今日のために!」 「その牙は己のために」 二組の浄化師が、同時に魔術真名を唱える。目の前では、巣穴から新たなベリアルが全身を現したところだった。 セアラは即座にワーニングショットを放ち、敵を巣穴から引き離す。 ベリアルはすぐさま跳躍の姿勢をとったが、 「させないよ」 ルーノのロッドから放たれた魔力弾がそれを阻んだ。 二頭目のベリアルとの戦いは、ひとつめの戦場より数メートル東へ移動した場所に展開された。 「おらッ!」 ベリアルの先を走り囮となったナツキは、くるりと身を翻し、向かってくる敵に正面から斬りかかった。子どもたちの顔を思い出しながら、強い意志を込めて剣を振り下ろす。通常のアナグマでは有り得ない異常に発達した牙と刃とがぶつかり、ガキンッと硬質な音を立てた。 「せいッ!」 ナツキに気を取られているベリアルの背面を、キリアンが斬り払う。触手を切断し獣皮を裂いたが、深手には至らない。 「少々、近づきすぎだよ」 ルーノが魔力弾を打ち込み、断罪者二人に間合いを取り直す猶予を与えた。射程の長さを活かして戦況を俯瞰し、隙のない援護を行う。 その内に、ベリアルが前肢を高く掲げた。 「させないッ!」 セアラは立て続けに矢を射ち込む。大打撃を与えるのは難しいがベリアルの動きを妨げる。 とにもかくにも、ベリアルをこの地上に留め続けるのが肝要だ。地面を掘らせる暇を与えず、攻撃を繰り出し続ける。 「わっ、と」 片手剣では、どうしても敵との距離が近くなる。鞭のようにしなった触手が、デモンであるキリアンの翼を掠めた。 「キリー!」 「大丈夫、っすよ!」 パートナーの焦った声に返しながら、触手を切断する。一瞬バランスを崩したが、負傷というほどのものではない。 「二人とも、一旦下がるんだ!」 セアラがワーニングショットを射ち込むのに重ねて、ルーノも九字を切った。 束の間、ベリアルの動きが止まる。 その機を逃さず、ナツキとキリアンは剣を振りかぶった。 「クロス・ジャッジ!」 ベリアルの体躯を左右から十字に斬りつける。おぞましい断末魔があがる中、魔方陣が浮かび上がったかと思うと、魂を捕える鎖ともども霧散した。 二頭のベリアルが塵へと帰した頃、フェイカーとパンプティは二メートル近いベリアルと一進一退の攻防を繰り広げていた。 ベリアルが僅かな時間差で現れたところまでは順調だったのだが、巨大な分、追い込みきれず巣穴から距離を置くのに半ば失敗していた。ここで決着をつける決心を固め、松明は木の股に挿しこんである。 「まさか……」 居住区にはもっと多くの人間がいると、気が付いているのだろうか。執拗に墓地の方――ひいては居住区の方へ頭を向けるベリアルに、フェイカーは唇を噛んだ。二人のすぐ後ろにある巣穴に潜られたら、大惨事を招きかねない。 触手を逆立てて、ベリアルが咆哮をあげる。鼓膜が破れそうな衝撃波を浴び、二人の動きが一瞬、鈍る。その隙をつき、牙を剥くベリアルがその巨体からは想像も出来ないような素早さで迫ってくる。 「しまっ……」 「フェイカー!」 かろうじて割り込んだパンプティの斧が凶爪を受け止めた。フェイカーはすぐさま九字を斬り、伸しかかるベリアルを突き放す。相手はぐらりと体勢を崩したが、倒れるには至らない。 追撃を加えなければ、と二人が構えた矢先、突然、ベリアルが叫びながら転倒した。 「大丈夫か?!」 「間に合って良かった!」 ロメオとセアラのショットが、ベリアルの背中を抉ったのだ。 「パンプティさん、今です!」 「任せなぁっ!」 パンプティは斧を振り上げ、ベリアルの無防備に晒された腹部へ渾身の一撃を見舞った。 ●夜明けの村 「アンナさん、気分はどうですか?」 一夜明けて、セアラとキリアンは花を手に診療所を訪ねていた。 アンナ・バローの意識が戻ったと聞いたからだ。 彼女はべリアルが無事に討伐されたと聞くと、静かに涙をこぼした。しばらく黙り込んでいたが、ふと、セアラの手元へ引き寄せられるように目を動かす。 「それ、マグノリアね……」 「はい。村の人にお願いして、一枝頂いてきたんです。ここに飾ってもいいですか?」 アンナが目顔で頷くのに、セアラは棚の上にあった花瓶へその枝を挿した。 純白の花びらが、天を向いて咲いている。 それを眺め、アンナは唇を震わせた。 「ありがとう……ほんとうに、ありがとう」 新たな涙があふれて、包帯へと吸い込まれていった。 長居は体に障る。間もなく二人は診療所を後にした。 「村の手伝いをしてから帰りたいな」 セアラはぽつりと呟いた。出来る限りのことを頑張ったし、ベリアルも倒した。でも、村に残された傷痕を思うと手放しには喜べない。キリアンはそんなパートナーを見下ろして一考したが、結局、当初浮かんだ言葉を飲み込んでセアラの背を軽くたたいた。 「お嬢の気が済むようにしたら良いでしょーが」 「うん……!」 セアラは顔を上げて、前へ踏み出した。 「ルーノ! それ、こっちにくれるか?」 屈託のない声でナツキが催促する。肉体労働は趣味じゃないんだけどね、と胸中で呟きながら、ルーノは木材を手に取った。 周囲では村人たちが墓石の位置を戻したり、ベリアルに踏み散らかされた跡を掃き清めたりしている。緊張の中で数日を過ごして疲れているだろうに、死者を弔い、墓地を元通りにしてからでなければ休めないと主張した者たちだ。 ナツキが率先して手伝いを申し出たため、それに付き合う形でルーノも作業に参加していた。 「にいちゃん、これ動かせるか?」 「任せろって!」 ルーノの心情をよそに、ナツキは村人相手に胸を張っている。 殺された自警団の遺体はまっさきに棺に納められたが、下草にはまだ生々しい血の跡が染みついていた。 その程近くに、フェイカーとパンプティの姿があった。足元には、拳大の石。イレイスによって倒されたベリアルの肉体は、砂となって消失する。だから二人は残っていた巣穴を塞いだ後、その内の一つに墓標となる石を置いたのだった。 「なあ、フェイカー。敵を倒し、憎み、戦う。それを正義と呼ぶのなら、敵を憎めないお前は悪だぜ?」 「……はい。僕は、悪です。だからこうして、アナグマの墓まで作ってる。君と隠れて」 「ん。ちげぇねぇや」 人と獣の関係、アシッド、ラグナロク――因果関係に思いを巡らせれば、自身を善であると言い張ることは難しい。 「墓地の方を手伝うとするか」 踵を返した矢先、がさりと音がした。すわ残党か、と俄かに警戒するも、そこにいたのは一人の青年だった。尻餅をついている。二人の鋭い視線を受け止める羽目になって、腰を抜かしたらしい。 「え、あ……」 その怯えきった様子に、フェイカーはひとつ思い当たった。 「ドニさん、ですね」 「お、おれ……」 そばに歩み寄り、目の高さを合わせる。 「生きててくれて、ありがとう」 村一番の臆病者は、途端に滂沱の涙を流して叫び声をあげた。拳を振りかぶり、激しく地面を叩く。切れ切れに聞き取れるのは、死んだ仲間への詫び、何もせず逃げた自分への怒りだ。彼は、これから深い悔恨を抱いて生きていかなければならない。 フェイカーとパンプティは、慟哭が治まるまでドニの傍らに付き添った。 「これですっかり見回り終わったね」 改めて村とその周辺の安全確認を行っていたモニカと薙鎖は、スタート地点である教会の近くまで戻って来ていた。 「……帰ったら、もっと巡回を強化できないか掛けあってみようと思うんです」 「良いと思う! 国外は難しいかもしれないけど、せめて国内ぐらいはね」 もう後手に回るのは嫌だった。今回のことだって、一ヶ月前の事件を受けて巡回を増やしていれば、防げていたかもしれないのだ。 「ワタシも一緒に提案するよ。でもその前に、いま出来ることをやろう!」 教会の戸は開け放され、遠目にも中の様子が伺える。シャルローザとロメオが、杖をつく老人と穏やかに会話しているのが見えた。彼らの他にも、自警団の葬儀を行うために多くの人が集まっている。子どもの姿もあった。 「ナギサ、行こう!」 「はい」 二人は連れ立って教会へ向かった。 春の農村に、弔いの鐘が鳴る。死者の安寧を祈って、長く、長く。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[29] 薙鎖・ラスカリス 2018/05/02-23:51
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[28] リトル・フェイカー 2018/05/02-22:24
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[27] ナツキ・ヤクト 2018/05/02-21:43
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[26] セアラ・オルコット 2018/05/02-21:05
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[25] ナツキ・ヤクト 2018/05/02-17:12
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[24] リトル・フェイカー 2018/05/01-23:40
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[23] リトル・フェイカー 2018/05/01-23:29 | ||
[22] 薙鎖・ラスカリス 2018/05/01-21:45
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[21] モニカ・モニモニカ 2018/04/30-22:49
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[20] 薙鎖・ラスカリス 2018/04/30-22:45
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[19] ルーノ・クロード 2018/04/30-21:29 | ||
[18] ロメオ・オクタード 2018/04/30-03:45 | ||
[17] キリアン・ザジ 2018/04/30-01:10 | ||
[16] キリアン・ザジ 2018/04/30-01:04 | ||
[15] リトル・フェイカー 2018/04/29-21:30 | ||
[14] ナツキ・ヤクト 2018/04/29-20:51 | ||
[13] ロメオ・オクタード 2018/04/29-12:01 | ||
[12] ルーノ・クロード 2018/04/27-22:54 | ||
[11] ロメオ・オクタード 2018/04/27-16:41
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[10] セアラ・オルコット 2018/04/27-15:00 | ||
[9] ロメオ・オクタード 2018/04/27-11:22 | ||
[8] 薙鎖・ラスカリス 2018/04/27-06:58
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[7] モニカ・モニモニカ 2018/04/27-00:29 | ||
[6] キリアン・ザジ 2018/04/27-00:26 | ||
[5] セアラ・オルコット 2018/04/27-00:15
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[4] 薙鎖・ラスカリス 2018/04/26-23:52
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[3] シャルローザ・マリアージュ 2018/04/26-12:26
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[2] モニカ・モニモニカ 2018/04/26-00:33
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