~ プロローグ ~ |
虚栄の孤島。 |
~ 解説 ~ |
○目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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畑…作物を植えられるように、なったんですね 皆さん、ありがとう、ございます それでは、何を植えましょう… 栄養が豊富で、何にでも使える作物は… 人参、ジャガイモ、玉葱、ほうれん草、辺りでしょうか 季節が、間に合いそうなら、サツマイモも育てたいところ、です 植物園は、どの辺が良いでしょうか リチェちゃんと相談して、薬草園にはハーブの類を数種類 診療所と連携できるよう、傷や熱に効く薬草も あの、リア姉様、姫様 一緒に、勿忘草の種を、植えませんか 薬草園の隅に皆で一緒に植えて 今、何だかショーンさんが、慌ててましたけど…どうしたんでしょう? あ、クリス ガーゴイルさんの捕獲、上手く行きそうです? 味方になってくれると、いいですね |
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…ドクターに指示書を渡されて電柵を作ることになったものの 嫌な予感が… 柵に使う木材は事前に島の人たちに切り出して貰っておく 鉄線は発注しておいて島に持ち込む 鉄線の一部は罠用に仲間に渡そう 組み立てて、ドクターの指示で魔結晶を埋め込んだ瞬間、嫌な予感が そこら辺にあった葉を投げたところ ジッ、と音がして、葉っぱが これはまずいと思ってドクターのところに殴り込み ドクター!何なんですかあの出力は! 意図してああしたと言われて脱力 せ、せめてもう少し…下げないと事故る… とりあえず進言は聞き入れてもらえて新しい指示が出たのでその通り組み直す つ、疲れた… ヴァーミリオン、いつかリアを連れてシャドウガルテンに行ってこいよ |
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せっかく蒸気自動車が配備されたのだから有効活用したいところだな まずは南地区に自動車の整備・点検を行う工場を建設したい それと東西南北の自警団詰所に車庫を作って貰えるよう提案してみよう できれば2台は置いておけるくらいの広さが欲しいな これで島を見回る時や他地区へ行く時にも時間短縮ができるはずだ にしても、ここの自動車はオッペンハイマー氏の設計ともまた違った改造がされてるな なかなか興味深い この自動車の安全性はどうなっているだろう 速く走れても危険では使い勝手が悪い できればトーマス氏に話を聞いてみたいところだ 安全性に問題が無ければ、住民に運転の仕方をレクチャーしよう 北の森はできれば太い道路を1本作って欲しい |
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■提案 西区へ向かう 整地が順調だと聞き 輸出のスピードアップの為、中央や南部へ繋がる道路の更なる舗装を提案 自警団詰所 他区の作業方法を取り入れて効率を上げ 西区の重要施設を守る方針での建設を提案 工房 参考までに誰に向けた品を作るのかを相談して確認する 戦いに携わる者と一般市民では求める物も違う ルーノ:汎用的な物なら身を守るアイテムだろうか ナツキ:お守り?アストロン・アルゴみたいだな! ■手段 大きな力が必要な所は魔女の魔法を、細かい作業は人力で行う 必要なら積極的に手伝う 普段作業している者達を邪魔しないよう、彼らの動き易さを重視して手を貸す 整地が落ち着き次第、その人員を自警団詰所の建設に回してもいいかもしれない |
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石をどけて、種を植えて 一歩ずつ前に進む 植物を育てるのも 国を作るのも似ているのね どうか素敵な国になりますように 精一杯のお手伝いを ガーゴイルを捕獲にいくシリウスを クリスさんとルシオさんに託す 休憩ちゃんと取ってね カミラさんもですよ ヴァンピールさんは 夏は特に注意です! シアちゃんや農地を使う人と相談 林檎も植えたらどうかしら 保存がきくし 栄養価も高いし… 診療所で使う薬を 薬草園で作れたら ニホンの魔法植物園を思い出し ここは魔女さんも多いし 魔法に使う薬草も育てられたらいい リリエラさんに連絡を取ってみようかしら シアちゃん達と勿忘草を植えながら 月輝花を思い出す ここでもあんな風に 光の中で咲く花を咲かせられないかしら |
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島の開拓を進める 居住区の屋根や硝子の補修を中心 何かあったら王城に島の人が避難することになるかも できるだけ早く直しておきたい 時間があれば 詰所や診療所建設の手伝いに 仲間やオクトの人とも協力して作業 リ:高い所の作業を率先して行う 穴を塞いだり傷んだ板を取り変えたり できることをひとつずつ セ:雨漏りがひどい所や穴の開いている場所を確認 作業がしやすいよう 材料や工具を運ぶ リ:硝子がはまれば、だいぶ落ち着くよね セ:職人さんか 魔女の魔法を使えばできるかしら 相談をしにいく 今回は無理でも 最終的に謁見の間はステンドグラスのようにできないか 王女様やヴァーミリオンさんに提案 好きな図案があれば入れてもらってはどうでしょう?と |
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投げ縄で野生の馬(又は乗れる動物)を馴らし、カウボーイや畜産の奴を連れて東区を探検だ。(乗馬) 有用な資源になる動物の群れを探す。新鮮な肉や良質な皮などの為にな。それらは布団などの物資にもできるだろう。運が良ければ希少な高級品になるのも見つかるかもしれん。 動物図鑑を持って、確認した動物の種類や群れの規模、見つかった場所を記録する。 解体人やタナー(皮なめし職人)を集めておいてくれ。移民に奴隷や賤民の類が多いならいるだろう。見つかった動物から何が得られるか、彼らに伺う。 ラファエラ、帰りに一頭ぐらい何か狩ってかないか?俺の馬さばきとお前の射撃ならできるだろう。そのナイフで血を抜け。 |
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~ リザルトノベル ~ |
虚栄の孤島の開拓協力。 指令で訪れた皆は、まずは責任者であるヴァーミリオンの元に訪れた。 「よく来てくれたな」 ヴァーミリオンが皆を歓迎する。 その場に居るのは彼だけでなく、浄化師達が手伝いに来てくれたということで、集まった島民もいる。それだけでなく―― 「みなさん、お手伝いに来てくれて、ありがとうございます」 王女であるメアリーも笑顔で出迎える。 開拓の手伝いに来てくれた浄化師達にお礼を言いたいと、待っていたのだ。 彼女の隣に居る侍女のエルリアも、同じように礼を言った。 「みなさん、今日はお忙しい中、来て頂いてありがとうございます。皆さんと協力して作業をしたいと、皆に集まって貰っています。人手が要るようでしたら、仰ってください」 エルリアの申し出に、『エフド・ジャーファル』が返す。 「人手を貸して貰えるなら助かる。可能なら、カウボーイや畜産が出来る者の手を借りたい」 「カウボーイって、牛でも捕まえるわけ? おじさん」 エフドの言葉に『ラファエラ・デル・セニオ』が問い掛ける。 これにエフドは応えた。 「牛じゃなくて馬だな。まだ島の中は整備された場所の方が少ないから、移動するには馬の方が便利だ。馬がいなけりゃ、代わりになる生き物を捕まえたい」 「馬は居るぜ」 エフドの言葉に、島民の1人、40半ばの男が返す。 「元々は、他所から連れて来たのが自然繁殖したみたいでな。こっちも捕まえて乗れるよう、鞍やらを作り終えた所だ。ちょうど良いから、俺達も連れて行って貰うぜ」 男の言葉に応えるように、数人が声を上げる。 「そいつは助かる」 エフドは、声を上げた者達を見ながら言った。 「鞍もあるなら、捕まえた馬に乗って軽く狩りをしたいんだが……難しいか?」 「そりゃな」 男が返す。 「生まれた時から育ててる馬ならともかく、野生の馬は気性が荒いからな。どんなに早くても、乗れるようになるまで月単位で掛かるんだが……」 どうにかできないかと悩む男に、島民の1人である、魔女のエレナが応える。 「それは大丈夫。ファミリアって魔法を使えば、こちらの言うことを聞いてくれるようになるから。ただ、捕まえないと無理だから、そこはお願いね」 「分かった。なら、投げ縄を首に掛けて捕まえるとしよう。あんたが連いて来てくれるのか?」 エフドの問い掛けに、エレナは返す。 「私は、リリィと一緒に西部の工房に行くから無理」 「ごめんなさいね。でも、あとでセパルさんとメフィストさんが、ガーゴイルにファミリアの魔法を掛けるための魔女を連れて来てくれるって言ってたから、そっちから人を回して貰えるように話をつけておくわ」 「助かる」 エフドが魔女のリリィに礼を言うと、話がまとまるのを待っていた『リチェルカーレ・リモージュ』が声を掛ける。 「ガーゴイルにファミリアの魔法を掛けるのは、牧羊犬みたいになって貰うためですよね?」 これにリリィが返す。 「ええ。住む場所とかご飯をあげる契約をして、面倒を見る代わりに懐いて貰うの」 「それは、他の魔法生物にも使えるんですか?」 目を輝かせながらリチェルカーレが尋ねる。 動物や幻獣、妖精種との共存を望む彼女にとって、ファミリアの魔法は興味深いのだ。 そんな彼女を『シリウス・セイアッド』は、和んだ眼差しで目を細めて見詰める。 2人の様子に苦笑しながら、エレナが応えた。 「知能が高い相手だと、抵抗されるから無理だけど、そうじゃなきゃ大丈夫。ちゃんと面倒を見る覚悟があるなら、向こうもこちらに応えてくれるわ」 エレナの応えを聞いて『クリストフ・フォンシラー』が返す。 「それは良いね。東部には畑を作るつもりだったから、荒らされないよう守って貰えそうだ。アリシア、植えるんだよね?」 「はい。野菜と、あとは、薬草を」 クリストフの問い掛けに『アリシア・ムーンライト』は応えると、メアリーとエルリアに視線を向け言った。 「あの、リア姉様、姫様。一緒に、勿忘草の種を、植えませんか。薬草園を作るので、その隅に、皆で一緒に植えて」 「良いの!?」 「姫さま」 乗り気なメアリーをエルリアが止める。 「あまり王城から離れてはいけません。護衛の手配をしなければいけませんから――」 「なら俺が護衛に連いていく。心配すんな」 心配するエルリアにヴァーミリオンが返した。 「偶には姫さまも外に出るぐらいいだろ」 「でも――」 「護衛は俺だけじゃない。浄化師だっているんだ。なぁ?」 目配せするヴァーミリオンに、アリシアが続ける。 「大丈夫です。私も、護衛に就けます」 「俺もみんなもいるんだから大丈夫だよ。エルリアだって来るんだろ?」 アリシアとクリストフの言葉に、エルリアはメアリーと視線を合わせる。 メアリーの期待感いっぱいの眼差しに、エルリアは小さく笑みを浮かべ応えた。 「分かりました。でもその前に、汚れても良い服に着替えましょう、姫さま」 「うん!」 エルリアの言葉に、久しぶりに外に出ることのできるメアリーは満面の笑顔を浮かべた。 メアリーの笑顔に皆は和みつつ、行き場所を決めていく。 「俺は東部に行こうと思う。ドクターの頼んでくれた資材は届いているんだろう?」 エルリアに『ショーン・ハイド』が尋ねると、応えはすぐに返ってくる。 「はい。朝の内に持って行って貰っています」 「助かる。それでドクターは、どこに向かわれるのですか?」 ショーンの問い掛けに、『レオノル・ペリエ』は返した。 「南区に行こうと思ってるんだ。あそこは色々と、面白そうなものがあるみたいだし」 レオノルの言葉に、『ニコラ・トロワ』が続けた。 「私も南部に行こうと思っている。あそこには蒸気自動車が配備されているようだが、整備や点検を行える工場を作りたい」 「良いね。それじゃ私は、魔術砲の方に行かせて貰おうかな」 レオノルはニコラの提案に返すと、続けて言った。 「それじゃ、東区と南区は行く人は決まったね。あとは――」 「北区は、私が行こうと思います」 レオノルの言葉に続けるようにして、『ヴィオラ・ペール』が言った。 「北区の森にはダヌ様が居られるようですから、あまり奥地に人が入り込まないよう整備したいですね」 「北区に行くのか? なら、できれば太い道路を1本作って欲しい」 「太い道路、ですか?」 ニコラの言葉に、ヴィオラは少し考え込むように軽く首を傾げると、意図を理解し返した。 「なるほど、採れた物を運ぶのに、自動車が入れる道が欲しいということですね」 「ああ。かなり食料が豊かなのだろう? それを効率よく運べる手段は欲しい」 「なら、車の出入りできる幹線となる道路の周りに、歩くための遊歩道も付けたいですね。作業が大変になりそうですけれど……すみませんが、人手を用意していただけますか?」 ヴィオラがヴァーミリオンに尋ねると、すんなり応えが返ってくる。 「それなら多目に人を派遣するぜ。ちょうどあそこは、アークソサエティの大貴族から支援したいって話が来てたからな。後でそっちも来るっていうから、協力してやってくれ」 「はい、分かりました」 ヴィオラが返し、これで残った場所は西区と中央。そのうち西区を、『ルーノ・クロード』と『ナツキ・ヤクト』が提案する。 「西区は整地が順調だということだから、工房で作る製品を輸出するためのスピードアップに、中央や南部へ繋がる道路を舗装すると良いと思う」 これにエレナが返した。 「そうしてくれると助かるわ。あと、工房でつくるアイテムを今考え中なんだけど、アイデアがあると助かるわ。手伝ってくれる?」 「ああ、分かった。ナツキも、構わないかな?」 「おう、良いぜ! 魔法で、色んなアイテム作るんだろ? どんなのできるか、面白そうだよな」 「そのためにも、アイデアが欲しいの。ナツキ達のアイデアがあると嬉しいわ」 「任せろ!」 リリィの呼び掛けに、笑顔で返すナツキだった。 これで残りは中央。これに関しては『リューイ・ウィンダリア』と『セシリア・ブルー』が申し出た。 「僕達は中央区に行きます。前に来た時に、家屋の手伝いをしましたから、その続きをしたいと思います」 「そちらをして、余裕があれば他の所も手伝おうと思っています」 そこまで言うと、リューイが提案する。 「謁見の間に、ステンドグラスのような物を設置できないでしょうか?」 「ステンドグラスねぇ……」 考え込むヴァーミリオンに、リューイは続ける。 「国の象徴となる場所には、そういう物も必要だと思うんです。好きな図案があれば入れてもらってはどうでしょう?」 「ん……まぁ、そういうのも必要か……」 ヴァーミリオンがメアリーに視線を向けながら考えていると、メアリーはキラキラと期待するように目を輝かせている。 それに気付いたヴァーミリオンは苦笑すると、リューイ達に返した。 「分かった。それなら俺の方から話を通しておく。必要な物があれば言うと良い。港が出来あがったから、物資も回るようになったからな。用意出来る」 「ありがとうございます」 「なら、必要な物があればお願いします」 リューイとセシリアの2人が礼を言い、話はまとまる。 そして皆は、それぞれの受け持ちの場所に向かうことにした。 ●中央区 「屋根の補修なら、僕がやります」 セシリアと共に中央区の居住域に訪れたリューイは、身軽さを活かし高所の作業を行う。 ひょいっと梯子を上ると、屋根の状態を確認。 「傷んでいる所がありますから、張り替えておきます」 オクトの1人に呼び掛けると、板を手にして、応えが返ってくる。 「助かるよ。屋根板投げるから、受け取ってくれ」 投げ上げられたので、危なげなく受け取る。 「金槌とかも投げて貰えますか?」 道具を頼むと、そこにセシリアが持って来てくれる。 「金槌は危ないから、持って行くわよ」 「大丈夫。危なくないよ」 そう返すとリューイは、絶妙なバランス感覚で、投げ上げられた金槌と釘の入った袋を受け取った。 受け取ると、早速屋根を直していく。傷んだ所を取り外し、代わりの板を金槌で打ちつける。 その間に、セシリアは他の補修個所を点検する。 雨漏りがひどい所や穴の開いている場所を確認し、すぐに作業が出来るよう、材料や工具を運んでいく。 カンカンカン、トントントン 補修の音があちらこちらで響いている。 港の補修が終っていることもあり、物資が多く入って来ているので、前回より補修の質も量も上がっている。 とはいえ足らない物も、もちろんある。 「硝子がはまれば、だいぶ落ち着くよね」 屋根の補修を終えたリューイが、ひょいっと地面に跳び下り、近くを通り掛かったセシリアに呼び掛けた。 「そうね」 セシリアは家々を見回し応える。 「外観もだけど、木の窓で風や雨は防げても、外の明かりが入って来ないと不便だし。ガラスがあると良いわね」 「資材で入って来てないの?」 「ガラスは割物だから、輸送が大変らしいわ。だからそういうのは、もっと余裕が出来てからにするみたい」 「そうなんだ……だったら、島で作れないのかな?」 セシリアは、少し考えてから返す。 「……どうかしら? 職人さんか、魔女の魔法を使えばできるかもしれないわね」 「なら、聞きに行ってみる? ちょうど、この辺りの補修で手伝いの必要な物は終わったみたいだし。詰所や診療所の手伝いが必要か、訊いておきたかったから」 「そうね。聞きに行きましょう」 2人は、作業の配分を決めている王城に向かうことにする。 その道中、とある区画を横切ったリューイは、興味深げに言った。 「あそこって――」 「図書館を作るみたいね」 元々は、数軒の廃屋があった場所が更地にされ、基礎工事がされているのを見詰めながらセシリアは続ける。 「前に出した要望を受け入れてくれたみたいね」 「仕事が速いね」 「それだけ、みんなも必要だと思っているんだと思う」 セシリアは図書館予定地を見詰めながら続ける。 「過去を忘れない事、歴史を覚えておくことは大切だと思うもの」 マドールチェであるセシリアは感慨深げに言った。 それに気付いたリューイは、どこか誓うように返す。 「過去は大事だよ。同じ過ちを繰り返さないためにも、覚えておけるようにしないと」 リューイの言葉に、セシリアは小さく笑みを浮かべる。そして前を向いて言った。 「そうね。過ちを忘れずに前に進むために、必要ね。そのためにも――」 リューイの手を引きながら、セシリアは前に進む。 「今はまず、住むところを安定させないと」 「うん」 リューイは笑顔でセシリアに応え、2人は王城に到着。 そこにはメフィストとセパルが来ていた。 「こんにちは」 「手伝いに来てくれたんですか?」 リューイとセシリアの呼び掛けに2人は応える。 「そうでーす」 「ファミリアが使える魔女と、ダヌ様に会いに行くっていうウボーとセレナの付き添いで来たんだ。もちろん、手伝いもするつもりだよ」 2人の応えを聞いて、セシリアが尋ねた。 「異国には、魔力のある文字を刻んで魔除けにすることがあるって聞いたのだけれど、お2人も出来るのかしら?」 これにリューイが返す。 「ここは支配の宝玉で守れるんでしょう?」 「そうね。でも、守りは多い方が良いと思うから」 セシリアは懸念を口にした。 「宝玉のことは教団上層部も知っているでしょう。彼らの知らない守りがあった方がいいと思うの」 「……今後のために?」 「ええ、今後のために」 セシリアとリューイのやり取りを聞いたメフィストが応える。 「できますよー。ただー、魔力が必要ですけどもー」 「それならこっちで用意するよ」 「セっちゃんがですかー?」 「ゲッシュで貯めてるのがあるから、それを使うよ」 そう言うとセパルは魔力を励起する。すると、見えている肌のいたる所に刻印が浮かび上がった。 「……それって、魔力の塊ですか?」 魔力探知で確認したリューイが問い掛けると、セパルは説明する。 「誓約術(ゲッシュ)って魔法で、自分の魔力を貯蔵して、いざという時に使えるようにしておく魔法だよ」 浮かんだ刻印を消し続ける。 「魔女を含めて魔法使いは自分が生成した魔力を直接使えないけど、一端外部魔力に変換したあとなら使えるからね。あとボクみたいなのだと生成魔力が多すぎて、周囲に悪影響を与える可能性もあるから、抑える意味でも使ってるんだ。魔力の貯蓄と余計なアクシデントが起きないための保険みたいなものだね」 「それを使って貰っても良いんですか?」 気遣うようなリューイの問い掛けに、セパルは笑顔で返した。 「大丈夫。元々、君達に協力すると決めた時から、全部使い切るつもりだったから。幸い、今まで使わなきゃいけない時は無かったけど、折角だから今使おう」 「……でも、今使ってしまったら、自分を守る時に使えなくなるんじゃ?」 セシリアの言葉にセパルは返す。 「大丈夫大丈夫。自分の身は自分で守れるし、ウボーやセレナもいるから。それに誓約術(ゲッシュ)で固定してる魔力だから、自分のためには使えないんだよね」 「どういうことなんですか?」 リューイの疑問にセパルは応える。 「誓約術(ゲッシュ)って、自分自身に制約を掛けることで使えるようになる魔法なんだ。ボクの場合は『貯め込んだ魔力を自分のためには使わない』って制約だね。それに300年ぐらい貯めこんでるから、余裕があるよ。とりあえず、100年分ぐらい使うつもり」 「では私が受け取りますよー」 「持ち逃げしないでよ」 「酷いでーす! パパを信じて欲しいでーす!」 「だから信じられないんだけど」 などといったやりとりの後、セパルの貯めこんだ魔力を使い、王城の周囲に魔法を掛けていく。 「これって、どういう魔法なんですか?」 王城周辺に、魔力で文字を刻みこんでいくメフィストにリューイが尋ねると応えが返ってくる。 「刻印術(スティグマ)と言いまーす。魔力と術式を物や人に刻んでー、魔法が自動的に発動するようにした物でーす。仮にこの城が攻められてもー、少しの間は耐えられるようにしますよー」 そこまで言うと、セシリアとリューイにメフィストは頼む。 「私ひとりだけだと時間がかかるのでー、手伝ってくれませんかー」 そう言うとメフィストは、魔力と術式を込めた文字を宙に浮かび上がらせ、リューイとセシリアに渡す。 「それを等間隔に地面に設置して下さーい。設置する時にー、少し魔力を使わないといけないのですがー、浄化師の貴方達なら大丈夫でーす」 リューイとセシリアの2人は了承すると、メフィストの指示に従って設置していく。 その途中で、ガラスの件を思い出し、メフィストとセパルに尋ねる。 「ガラスをこの島で作ることは出来ないんでしょうか? 魔法では無理ですか?」 「もし作れるなら、ステンドグラスもあると良いのだけれど」 「それなら、エレナとリリィが得意だから、訊いて来るよ」 セパルは応えると、魔女のエレナとリリィの居る西区に向かう。 その頃、西区でも開拓は進んでいた。 ●西区 トントントン、カンカンカン。 釘を打つ音がする。 整地が終わり工房の建設が進む中、ルーノとナツキは自警団詰所の手伝いをしていた。 「ナツキ、それは柱に使うらしい。向こうに持って行ってくれるか?」 「おう、任せとけ」 ナツキは太い木材を肩に担いで作業員の元に持って行く。 その間に、ルーノは現場監督と話し合う。 「ここには工房があるから、それを守るための設備があると良いと思う」 「それなら、ちぃと予定より広めに作った方が良いな」 話を纏めれば、次は他の区域に繋がる道路について話し合う。 「中央や、港のある南区に繋がる道路の整備が出来るよう、許可は取って来たよ。資材も優先して持って来て貰えるように頼んでおいた」 「そりゃ助かる。形式としちゃ、石畳にするのか?」 「そのようだ。石畳用の石材を、あとで持って来てくれるらしい」 ルーノと現場監督の話を聞いていたリリィが、話に加わる。 「石材の細かい調整はこちらでするから、欲しい規格があるなら教えて。それ用に作るから」 「そりゃいい。ならあとは、道を整えるだけだな」 「手伝うことはあるだろうか? あるなら遠慮なく言って欲しい」 ルーノの申し出に、現場監督は返す。 「じゃ、整地用の道具持って来て貰えるか? その間に俺は、人を纏めるから」 「分かった。取りに行こう」 ルーノは応え、整地用の道具置き場に向かうと、そこにナツキがやって来る。 「これ持って行けばいいのか?」 「ああ。手伝ってくれるか?」 ナツキは笑顔で応え、2人で次々運んでいく。 すべて運び終わると、その頃には人が集まっていた。 「ありがとよ。あとは、ここは俺達でやっとけるから、他の所に手伝いに行ってやってくれ」 現場監督の言葉に、次は何を手伝おうかと、ナツキとルーノが周囲を見回していると、エレナとリリィに声を掛けられた。 「今からマジックアイテムの試作品を作ろうと思うの。良かったら手伝ってくれない?」 「アイデアを出してくれると嬉しいわ」 「それは構わないが、まだ工房ができてないのに作れるのか?」 ルーノの疑問にリリィが応える。 「本格的な物を大量生産するのは無理だけど、ちょっとしたものなら作れるわ。私達だけだと考えが偏っちゃいそうだから、2人の考えを聞きたいの」 この提案に、ナツキは乗り気で返す。 「いいぜ! 面白そうじゃんか。それになんだかわくわくするな」 「わくわく?」 小首を傾げて聞き返すエレナに、ナツキは応える。 「ああ。だって工房で作られる物が外の世界に出て行くなんて、わくわくする!」 楽しげなナツキに、エレナも楽しそうな笑顔を浮かべ返す。 「そうね。ふふ、ナツキに言われると、私も楽しくなってきちゃった。早速作りましょう、ナツキ」 遊びに誘うように、楽しげにエレナは、ナツキの手を引っ張って連れていく。 そんな2人を、ルーノとリリィは苦笑するように見詰めたあと追い駆ける。 4人が向かったのは、工房予定地のすぐ近く。 そこで魔方陣を地面に造り出し、エレナとリリィは説明する。 「基本的には、この魔方陣に材料を入れて、魔力を通してマジックアイテムを作っていくの」 「工房が出来たら、魔法が使えない人でも手順を覚えれば、自分の魔力で作れるような設備を作るつもり」 「でもその前に、何を作るか、幾つか決めておきたいの」 「2人は浄化師だし、色々な道具も見てきて使ってきたと思うから、それも含めて教えて貰えると助かるわ」 この問い掛けに、ルーノが応える。 「まずは誰に向けた品を作るかを、決めた方が良いと思う。それによって、変わって来ると思うからね。例えば、戦いに携わる者と一般市民では求める物も違うからね」 これを聞いて、ナツキが続ける。 「武器や防具もいいし、暑さや寒さを和らげるアイテムなんてのも面白そうだ。どんなものが作れるんだ?」 ナツキの問い掛けにエレナが返す。 「基本的には、なんでも作れるわね。戦闘用品でも、日常品でも。それぞれ特化した物も作れるけど――」 「その気になれば、汎用性のある物も作れるわ」 エレナの言葉にリリィが続ける。 「材料となる物と魔力が揃えば、大抵の物は作れるわね。幸いこの島は魔結晶が豊富だし、日常品に加護を掛けて、戦闘にも耐えられる物を作れると思うわ。そういう意味で、汎用性のある物も作れると思うの」 「なるほど……」 リリィとエレナの説明を聞いて、ルーノは少し考えてから返した。 「汎用的な物なら身を守るアイテムだろうか」 「お守り? アストロン・アルゴみたいだな!」 ルーノの言葉を聞いて返すナツキに、リリィとエレナは言った。 「懐かしい! 子供の頃に作ったわ!」 「2人とも、よく知ってたわね」 「前に、作って貰ったことがあるんだ」 ナツキは2人に応えると、身に着けていたアストロン・アルゴを取り出して見せる。 「わぁ、綺麗ね。ふふ、アストロン・アルゴは、込められた想いで見た目が変わるの」 「これを作った時の想いが、とてもよく込められているわ」 2人の言葉を聞いていたルーノが尋ねる。 「ここでは、アストロン・アルゴは作れないんだろうか?」 これにリリィが残念そうに応える。 「材料が足らないから、難しいわね」 「そうか……なら、似たような物は作れないだろうか?」 ルーノは自分のアストロン・アルゴも取り出して見せながら続ける。 「アストロン・アルゴのように、守りの力を持つアイテムが作れれば良いと思う。例えば魔結晶の魔力を使って、一度だけ危険から身を守ってくれる物ではどうだろう」 リリィとエレナは少し考え込んで応える。 「出来る、と思う。どんな危険からも守ってくれるっていうのは難しいと思うけど、近付けることは出来るわ」 「強力な物は、純度の高い魔結晶が必要になると思うけど、やれると思う」 2人は実現のために必要な材料や術式について話し合う。 それを聞きながら、ルーノはアイデアを出していく。 「魔結晶をあえてここで加工するなら、使い勝手や高い性能等の付加価値をつける必要があると思う」 その意見は、魔女達のことを思ってのこと。 (この国と魔女のイメージが良くなる物であれば尚良い) 言葉には出さないが、そうなって欲しいという気持ちが感じられた。 それにナツキは気付く。 (……この国や魔女を心配してるって、ルーノも素直に言えば良いのに) ナツキが苦笑すると、リリィとエレナも同じように苦笑している。 それに気付いたナツキと2人の魔女達は、ルーノのことを想い、笑みを交わし合った。 そんなこんなでアイデアを出し合い、試作品作り開始。 出来あがった物をルーノとナツキが手に取っていると、セパルがやって来て言った。 「ステンドグラスとか作って欲しいんだけど――って、何作ってるの?」 皆で説明すると、セパルは返す。 「加護の力を持ったアイテムか……それなら、ダヌ様の枝とかも使ったら良いんじゃない?」 「貰って良いのか?」 ナツキの問い掛けにセパルは返す。 「大丈夫だと思うよ。今、ウボーとセレナが挨拶に行ってる所だと思うから、材料で貰えないか聞いて来るね」 そう言うとセパルは北区の大森林地帯に向かう。 そこでも、開拓は進んでいた。 ●北区 「ここを起点にして広げるのはどうでしょう?」 北区に訪れたヴィオラは、現場監督に提案した。 「ここなら森の入り口で平坦ですから、公園のような物が作り易いと思います」 ヴィオラの提案に現場監督は返す。 「そうだな。整地も楽だし、道路と繋げるのも楽だから、立地としちゃ良いな。それで、やるのは良いんだが、どれぐらいの広さにするんだい?」 「道路を繋げるのでしたら、自警団の詰め所も設置できると良いと思うんです。その分、広くなっちゃいますけど、できますか?」 「それなら大丈夫だ。他にはねぇかい? あとで付け足すことになると、どうしても歪になるんでな。必要なもんがあったら、言ってくれ」 「でしたら……そうですね、他の区域に繋げる道路には、遊歩道も併設して貰えると助かります。あと、崖や危険な動物の住処の近くにはロープを張ったり柵を作ったり、案内表示板も立てて注意を促せるといいでしょうか」 「それなら出来る。案内表示は、現地に設置すんのと、まとめて見れるのを公園に作っとくか。まぁ、奥地に入るヤツは、そうそう居ないとは思うけどよ」 「奥地についてなんですが、祭壇を作りたいので、手伝って貰えますか?」 「祭壇?」 「ええ。この森には、ダヌ様が居られますから。ダヌ様のための祭壇を作ろうと思うんです」 「なるほどね。となると、どこが良いかな? ちょっと待ってくれ。この前作った地図が――」 現場監督が地図を探しに向かおうとすると、軽いざわめきが起っているのに気付く。 視線を向けると、そこには島外民だと思われる一団が見えた。 「ウボーさんと、セレナさん?」 一団を率いている人物に気付いたヴィオラは声を掛ける。 「こんにちは」 ウボー達も言葉を返し、ここに来た理由を語る。 「ダヌ様に会いに来られたんですか?」 ヴィオラの言葉にウボーが返した。 「ああ。ダヌ様は、うちの家の祭神だから。家の者を代表してお目通りに来たんだ」 ウボーは説明すると、そのあと現状をヴィオラ達から聞く。 「――というわけで、奥地にダヌ様のための祭壇を作ろうと思うんです」 「それなら、公園に作ったらいいと思う」 ウボーがヴィオラ達に説明する。 「ダヌ様は賑やかなのが好きだから。公園の中に社を作って、その中に祭壇を作れば、ちょくちょく御出でになられると思う」 「そうなんですか?」 「ああ。とりあえず、ダヌ様にもお伝えしたいから、お喚びしよう」 ウボーはそう言うと、連れて来ていた一団に指示を出す。 すると、いきなり宴の用意を始める。 「あの、これは?」 状況が分からずヴィオラが尋ねると、ウボーは説明した。 「近くで賑やかにしていると、ダヌ様は誘われて来られるんだ」 「そういうものなんですか?」 「ああ。八百万の神によるけれど、大抵はこの方法で御出でになられるよ」 そう言うと、テキパキ宴の準備を終わらせ、皆に言った。 「ダヌ様を勧請するのに宴を開きたいんだ。賑やかになればなるほど来られる可能性が上がるから、良ければ参加してくれ」 そして口寄せ魔方陣で料理や飲み物を召喚し、皆に勧める。 ヴィオラも参加して、料理を楽しむ。 「美味しいですね」 実家がレストランを経営しているヴィオラは、材料の良さと料理人の腕の確かさに感心する。 (下ごしらえに手間を掛けてますね。素材の良さを活かしてます) レシピを考えながら食べていると、他の場所で作業している皆のことも浮かんでくる。なので―― 「あの、この料理、他の地域の皆さんの所にも持って行ってあげても良いですか?」 ヴィオラは皆のことを考え提案する。するとセレナが返した。 「大丈夫よ。多めに作って用意してるから、あとで届けて貰えるよう手配しておくわ」 そう言うとセレナは、連れて来ていた何人かの舞踏家と一緒に、神へと捧げる神楽舞いを踊る。 優麗で厳かな神楽舞いに目を奪われていると―― 「あらあらあらあら、なにかしら」 いつのまにやら現れたダヌが、満面の笑顔を浮かべていた。 「ダヌ様、ですか?」 ヴィオラが問い掛けると、ダヌは笑顔のまま返す。 「ええ、そうよ。貴女達は、この島の子かしら?」 ダヌの問い掛けにヴィオラが状況を説明する。 「――というわけで、ダヌ様の居られる森に手を加えるのを許していただきたいんです」 「分かったわ。それで、ここにおうちを作ってくれるの?」 「お家……祭壇のことですね。はい、作らせていただけますか?」 「嬉しいわ。そこまでして貰えるなら、私も何かしないとダメね」 そう言うと、ダヌを中心として濃密な魔力が島中に広がった。 「この島を、私の守護地にするわ。大したことは出来ないけれど、何かあれば力を貸すわ」 「ありがとうございます」 ダヌの加護に、笑顔で礼を返すヴィオラだった。 北区の開拓も進む。 他の地域も、同じように進んでいた。 ●東区 「シアお姉ちゃん、ここ? ここに植えるの?」 東区の農地に来たメアリーは、笑顔を浮かべアリシアに呼び掛ける。 すでに整地が終わり土も耕されたそこは、立派な畑になっていた。 「はい。ここに、植えましょう」 メアリーの様子に、くすりとアリシアは笑みを浮かべながら傍に寄る。 「思ったより、広いですね。これなら、色々な物が植えられそうです」 「なに植えるの?」 メアリーは、ぱたぱたと走り寄ると、好奇心一杯の眼差しでアリシアを見上げている。 「そうですね……まずは、栄養が豊富で、何にでも使える作物が良いでしょうから……人参、ジャガイモ、玉葱、ほうれん草、辺りでしょうか」 「シチューが出来るね!」 「はい。シチュー、好きなんですか?」 「うん、好きー! お姉ちゃんが作ってくれるシチュー、大好き!」 メアリーの言葉に一緒に居るエルリアが苦笑する。 (リア姉様、姫様に、シチューを作って、あげるんですね) 戦いではない姉の一面を知ることが出来て、アリシアは嬉しくなる。 自然と笑顔が浮かぶ中、今の時期でも植えられる物を考えていく。 「季節が、間に合いそうなら、サツマイモも育てたいところ、です。他には……」 そこまで考えて、一緒に居るリチェルカーレに呼び掛ける。 「リチェちゃんは、植えたいものが、ありますか?」 「林檎も植えたらどうかしら」 リチェルカーレは応える。 「保存がきくし 栄養価も高いし……あとは、診療所で使う薬を 薬草園で作れたら良いと思うわ」 以前に訪れた、ニホンの魔法植物園を思い出しながら続ける。 「ここは魔女さんも多いし、魔法に使う薬草も育てられたらいいと思うの」 「植物園ですか? 好いですね」 アリシアは笑顔で返し、周囲を見渡し続ける。 「植物園は、どの辺が良いでしょうか?」 リチェルカーレも一緒に候補地を探していると、声を掛けられる。 「魔法に使う薬草を育てたいなら、あの辺りが良いと思うわ」 「リリエラさん」 見知った顔の魔女に、リチェルカーレは呼び掛ける。 「来てくれたんですね」 「ええ。セパルが、ダヌ様に会いに行くって聞いたから。それに、なんじゃもんじゃ様が、ダヌ様を起こしてくれたお礼に、幾つか魔法の種を持って行って欲しいと言われたから来たの」 「なら、これから会いに行かれるんですか?」 「あとで行くわ。その前に、折角だから、手伝わせて」 というわけで、リリエラにサポートして貰いながら植え付けを始める。 「畑は、まだ苗が、来てないみたいですから、植物園から、始めましょう」 そう言うとアリシアは、用意して貰っていた苗を持って来る。 「シアお姉ちゃん、これなに?」 小首を傾げるメアリーに、アリシアは応える。 「勿忘草、の苗です」 「知ってる! それシロップに入ってる花だよね!」 「はい、そうですよ」 アリシアは応えると、苗を幾つかメアリーに渡す。 それをメアリーは大事そうに受け取ると、植物園の予定地にぱたぱたと走り出す。 「シアお姉ちゃん。ここ、ここで良いんだよね。植えるよー」 目を輝かせてアリシア達を待っているメアリーに、苦笑を浮かべながら皆は向かう。 その様子を、少し離れた位置で見ていたクリストフは、微笑ましげに笑みを浮かべながら言った。 「植え付けを始めるみたいだね。なら、苗を食べられないように、動物を何とかしないとだよねえ」 クリストフが少し離れた位置に視線を向けると、ウサギなどの動物がこちらを見ているのに気付く。 そこにエフドが声を掛けてきた。 「これから周囲の動物を少し狩り獲る。しばらくは動物が近付かなくなるだろうから、その間に対策をしておいてくれ」 「分かった。なら、そっちは頼むよ」 十数人の一団を連れ離れていくエフド達に声を掛けると、クリストフは野生動物の対策に動く。 「ショーン、柵を作るの?」 クリストフが方法を探っていると、用意されていた木材を運んでいるショーンに気付き声を掛ける。 「人手は要る?」 「ああ。人手は多い方が助かる」 ヴァーミリオンも含めたオクトと協力していたショーンは、クリストフの申し出を受け入れる。 「資材は用意されてるが、囲わなきゃならない範囲が広いからな。人手は多いほど良い」 「分かった。じゃあ手伝うよ」 クリストフは応えると、他にも人手を集めるために一端離れる。 その間も、ショーンはオクト達と一緒に柵を作っている。 作ってはいるのだが、何故だか微妙な表情だった。 (嫌な予感がする) いま作っている柵は、レオノルに渡された指示書通りに作っている物だ。 単なる鉄条網で境界線を作るだけでは足らないと、電気を通す仕様になってはいるらしいが、その割には部品が多い。 (ドクター張り切ってたが……大丈夫、だよな?) 「おう、どうした、ショーン」 微妙な表情で柵を作っていると、ヴァーミリオンに声を掛けられる。 「心配性な顔してるな」 「……なんでもない」 「はははっ、なんだ、嬢ちゃんのことでも考えてんのか?」 「……応える必然性が無い」 「ははっ、お前、顔に感情が出るようになったなぁ。良いこったぜ」 「やかましい。余計なこと言ってないで手伝え」 「おう、任せろ」 ヴァーミリオンも加わって柵を作っていく。 とはいえ、人手が足らない。 それを補うために、クリストフはシリウスを引っ張って連れていく。 「手伝えば良いんだな?」 「ああ。手分けした方が、早く終わるだろうからさ」 シリウスとクリストフの2人も加わって、柵作りは急ピッチで進む。 そして完成、したのだが―― (激烈に嫌な予感がする) 柵が出来あがり、その効果を見るために農作業をしていた皆も集まる中、電気を通すための魔結晶を嵌め込むショーンは確信していた。 「これで電気が通ってるのか?」 ヴァーミリオンが電気の通っている柵に近付くと、嗅覚の鋭い彼は軽く眉を寄せる。 「おい、この匂い……青臭いというか、雷が落ちたあとの匂いがするんだが」 「……ちょっと離れてろ」 そう言うとショーンは、足元にあった葉っぱを手に取り柵に投げてみる。 バチイッ! 破裂音と閃光と共に、一瞬で葉っぱは焼けた挙句に吹き飛んだ。 「……殺す気か?」 「これじゃ野菜泥棒の心配はないねえ」 シリウスはぼそりと、クリストフは苦笑しながら感想を口にする。 「……ドクターに話をつけに行く」 ショーンは、ため息ひとつ。一端、魔結晶を取り外し、レオノルの居る南区に猛ダッシュ。 「今、何だかショーンさんが、慌ててましたけど……どうしたんでしょう?」 小首を傾げるアリシア。 クリストフはアリシアに笑って返した後、皆に提案した。 「柵だけだと難しいから、これはガーゴイル捕獲も考えた方が良いと思う」 「それが良いだろう」 頷くシリウス。 それを聞いていたリチェルカーレは目を輝かせる。 「ガーゴイルを捕まえるのね」 そして続けて言った。 「でも、怪我をさせたらかわいそう。無傷で捕まえられないかしら?」 これにクリストフが返す。 「そうだね。できれば怪我をさせたくないし罠を仕掛けてみよう。ガーゴイルって、何を食べるんだろう?」 これに魔女のリリエラが応えた。 「元が蝙蝠だから、基本は雑食ね。人間が食べるものなら、大体食べるわ。魔法生物になってるから味覚も変わってるみたいだから、人間が美味しいと思う物なら、ガーゴイルも好きだと思うわ」 話を聞いていると、そこにセレナ達がやって来る。 「料理を持って来たの。良かったら食べて」 そう言って、口寄せ魔方陣で料理の数々を置いていく。その中に、熟した果物が幾つか用意されていたので、それを手に取ってクリストフは言った。 「これ、ガーゴイルを誘き寄せるのに使えないかな?」 「良いと思うわ」 リリエラが返す。 「この島に居るガーゴイルの原型は、多分、昆虫を主食にしている小型蝙蝠から変化したものじゃなくて、果物とか花を主食にしている大型のものから変化したものだと思うの。だから果物なら、寄って来ると思うわ。罠に使う時は、中身を割ったりして、匂いで誘き寄せると良いかも」 リリエラの話を聞いて、具体的な作戦を考える。 「それじゃ、果物で誘い出して捕まえよう。ショーンが鉄線を使っても良いって言ってたから、これも使って――」 細かい部分までクリストフが話し合い纏めると、手分けして皆は動くことに。 「シリウスを、お願いします」 リチェルカーレは、シリウスのことをルシオに頼む。 シリウスが困ったような表情をしていると―― 「無理をしちゃダメだぞ、シリウス」 明るい声でルシオが呼び掛ける。 「今日は俺がお目付け役になるから、よろしくな」 「……そうか」 さらに困った顔になるシリウス。 そんなシリウスに、くすりとリチェルカーレは小さく笑うと、皆を送り出す。 「休憩ちゃんと取ってね。カミラさんもですよ。ヴァンピールさんは、夏は特に注意です!」 これにシリウスだけでなく、カミラも困ったような顔つきになりながら、ガーゴイル捕獲に向かう。 同じように、アリシアもクリストフに声を掛け送り出す。 「ガーゴイルさんの捕獲、上手くいくと良いですね。味方になってくれると、嬉しいです」 これにクリストフは笑顔で返す。 「どうだろうね、成功を祈ってて」 手を振って離れるクリストフに、同じように手を振って返すアリシアだった。 そうしてガーゴイル捕獲に皆が動き始めている頃、同じように現地の動物を捕えるべく、エフドとラファエラは奮闘していた。 「あの黒毛が、群れのボスっぽいな」 エフドは投げ縄を手に野生の馬の群れに近付く。 「そういうの分かるの? おじさん」 同行するラファエラが尋ねると、エフドは馬から目を離さず応える。 「群れの中での位置や目線でなんとなくな」 「よく分かるわね」 「慣れと経験ってヤツだ」 「ふ~ん。それって――」 ラファエラが聞き返そうとした時、状況が動く。 エフドの対面に移動していたオクトの1人が、ハンドサインで準備が整ったことを知らせて来た。 等間隔に離れた位置で、3人が投げ縄を手に配置に就いている。 狩りの始まりを告げる緊迫が皆に広がっていく。 位置的に、最初に動くのはエフド。 馬をできる限り刺激しないよう、声を上げずハンドサインで連絡を取り合い、ギリギリの距離まで近づくと、まずはエフドが縄を投げる。 即座に馬は気付くも、エフドの投げ縄が首に掛かる方が速い。 投げ縄が首に掛かり、馬は暴れて逃げようとするが、そこに次々と新手の投げ縄が掛かった。 数人がかりで首に縄をかけ、それでも暴れる馬に振り回されそうになる。 単純に捕まえるなら、首よりも足を狙った方が良いのだが、今回は乗馬用に捕まえるのが目的だ。 下手に足に縄を掛けて倒れられでもしたら、かなりの割合で骨が折れる。 馬は足が折れれば後は緩慢に死ぬので、それを避けるためにも、労力は掛かるが首に縄を掛けて抑えるしかない。 暴れ回る馬の力を数人がかりで分散し疲れさせる。 それでも群れのボスである馬は頑強で、ある程度落ち着かせるだけでも数分全力を出す必要があった。 ようやく、馬に疲れが見えた頃―― 「ラファエラ、少しの間頼む」 「ちょ、おじさん!」 縄を渡され、馬に引き摺られそうになっているラファエラを後にして、エフドは馬に駆け寄る。 触れ合うことが出来るほどの距離に近づくと、アライブスキルである搦メ手を発動した。 エフドが放出した魔力が術式に従い、幾つもの亡者の手を召喚する。 亡者の手は暴れる馬に憑りつくと、そのまま拘束した。 「今だ! 魔法を掛けてくれ!」 エフドの呼び掛けに応え、魔女が駆け寄り馬の鼻先に手を当てる。 すると、暴れていた馬は少しずつ大人しくなり、最後には恭順するようにぴたりと止まった。 「契約成功。群れの世話をする代わりに、こちらに従うようにしたわ。これあくまでも契約だから、ちゃんと世話はしてね。でないと契約を破ったことになって、言うこと聞いてくれなくなるから」 魔女の話を聞いたあと、エフドは馬の首を軽く叩く。 すると馬は従うように頭を下げた。 「大丈夫みたいだな。可能なら、こいつに乗って狩りをしたいんだが、出来るか?」 これに魔女と、オクト達が応える。 「疲れてるみたいだし、回復させる魔法を掛けるから、ちょっと待ってて」 「乗るんなら鞍やらつける。ちょいと待っててくれ」 慣れた様子で、皆は動いていく。 その間、暇なので―― 「兎に、あと鳥もいるわね。あれは……」 周囲にどんな動物が居るのか、ラファエラは持って来ていた動物図鑑を片手に、数と種類、そして群れの分布などを記していく。 「アライグマもいるのね」 「マジか!?」 ラファエラの言葉を聞いて、元奴隷の1人が歓喜の声を上げる。 「アライグマが居るなら捕まえてくれ。あいつらの毛皮は帽子にするにゃ良いし、何より肉が美味いんだよ」 「美味しいの? アライグマって」 「美味いぜ! 赤み肉なんだが臭味は少なくてよ。鶏肉みてぇな歯応えなんだけど牛みたいな味してて、とにかく美味ぇんだ」 熱弁する男にエフドが尋ねる。 「仕留める時に気をつけた方が良い点はあるか? あと、他に仕留めて欲しいものや、仕留めたあとに注意したい点があったら言ってくれ」 「お、他にも獲って来てくれんのか。だったら――」 男は、ラファエラが書き記していた動物の分布図を確認してから応える。 「アライグマ以外は兎と、あとは鳩が味が良いから仕留めてくれると助かる。仕留める時は、出来るだけ頭を狙ってくれ。でないと皮を剥ぎ取っても使える部分が少なくなるからな。あとは、俺達はあっちの川の近くにいるから、仕留めた奴は出来るだけ早く持って来てくれ」 「なんで川にいるわけ?」 ラファエラの問い掛けに男は返す。 「腸を出した後、すぐ川に浸けんだ。そうすりゃ傷み辛くなるし、皮とかはがす時に楽なんでな」 「ここらの血抜きはそうするのか」 エフドの言葉に男は返す。 「ここだと川が近いからな。そうじゃなけりゃ、血を抜いてすぐに肉にバラしちまうよ。道具がありゃ、血も別に除けといて、内臓と混ぜてソーセージにでもすんだがな」 そこまで言うと、感慨深く呟く。 「俺らが食えるのは、そんなのぐらいだったからなぁ……ととっ、すまねぇ、余計なこと言っちまった。それじゃ狩りの方、頼むぜ」 男の話を聞き終わる頃に、馬の用意が終わる。 エフドは慣れた様子で馬に乗ると、ラファエラに手を差し出し言った。 「ラファエラ、俺の後ろに乗ってくれ」 「あら、1人で行くんじゃないの?」 「2人の方が捗る。俺の馬さばきとお前の射撃ならできるだろう。狩り獲ったなら、そのナイフで血を抜け」 「……そうね。使わないと色々と錆びついちゃいそうだし、良いわよ」 ラファエラはエフドの手を取り、後ろに乗る。 「それじゃ、行くぞ」 自分の手足のように馬を操りながら、エフドは少し奥地に向かう。 (前にも、こういう時があったわね) ラファエラは1年と少し前、ノルウェンディでのことを思い出す。 あの時は、身を焼くような焦燥と悔しさに追い立てられていた。けれど今は―― 「懐かしい気がしない? エフド」 あの時と同じように、ラファエラは名前でエフドを呼ぶ。 しかしその響きには、あの時の赤熱は無く。代わりに、より多くを歩んできた重みがあった。 「……そうだな」 ラファエラの言葉の響きを感じ取りながら、エフドは馬を進ませる。 するとラファエラは、再び声を掛けてきた。 「ねぇ、なんでわざわざ馬に乗って狩りをするわけ? 車も配備されてるみたいだし、それでも良かったんじゃない?」 効率性を問い掛けるラファエラに、エフドは理由を返した。 「今回は車は使わない。動物相手には目立ちすぎるだろうし、不整地を走り回るにはまだ発展途上だろう。地理や群れの習性を把握するまでは活かしにくいし、群れを追って誘導するにも小回りが足りない。科学が台頭しても、こういう古典的なやり方はまだ必要だ」 いつになく熱を込めて。何かを伝えようとするかのように言葉を重ねる。 「狩猟講座なんて申し込んだっけ?」 「いや、俺も以前はこういう暮らしをしてたって知ってほしくてな」 エフドの応えに、ラファエラは軽くため息ひとつ。 初めて出会った頃は少女でしかなかった彼女は、けれど今は大人の女として成長し始めている。 「おじさん、自意識過剰な質問するけど、この前のあなたのママの事といい、自分の事と引き換えに私の話をさせたがってる?」 返事はすぐには返ってこない。 先回りされて出鼻をくじかれたエフドは、迷うような間を空けて返した。 「違うとは言えない」 「ごめん、まだ無理」 否定の言葉。けれど―― 「でもいつかは話すから」 相棒として信頼する様に、ラファエラは返した。 そうして2人で狩りを行っている頃、ガーゴイル捕縛の用意は整いつつあった。 (この位置が良いな) 誘き寄せるための果物から幾らか離れた場所で、シリウスは待機していた。 隣りにはカミラが居る。 それぞれ位置取りをしている内に自然と分かれて組むことになったのだが、近くに他の者がいない中でカミラは言った。 「……少し、良いか?」 「なんだ?」 視線を向けると、思い詰めたカミラの顔が見える。 彼女はその表情のまま言った。 「報いは私が受ける。だからルシオと仲良くしてくれないか」 「……なにを言ってる?」 言っていることが分からず聞き返すと、カミラは言った。 「あの時、私はお前達を殺そうとしたから……でもルシオは悪くない、私が勝手にそうしようとしただけだから、だから――」 必死にカミラは言い続ける。 話を聞いていると、どうやらシリウス達と戦うことになった時のことを話しているらしい。 「悪いのは私だから。ルシオじゃないんだ。ルシオは、お前のことを大事に想ってるし好いヤツなんだ」 自罰的にカミラは言い続ける。 もっと早くに謝りたかったらしいが、機会が無く、ようやく巡ってきた今、語り続けた。 「今はまだ、償えてないけど、それが終ったら邪魔にならないよう消えるから」 「そんなこと、しなくて良い」 シリウスは言い切った。 「ルシオが悲しむ」 「……」 何も返せないカミラに、シリウスは言った。 「お前が何か思う所があるなら、これから返せば良い」 そう言うとシリウスは、近付いてくるガーゴイルに身体を向ける。 「まずは、ここからだ。手を貸してくれ」 「……分かった」 短くカミラは応えると、シリウスのサポートに回る。 シリウスがガーゴイルに向かうと、カミラはガーゴイルの注意を引くように前に出る。 そちらにガーゴイルの注意が向いている隙に、シリウスは背後から顔を覆うように布をかぶせた。 (猛禽類は視界を覆うと大人しくなる。ガーゴイルはどうだ?) しかしシリウスの思惑通りにはいかない。 ガーゴイルは、蝙蝠が魔力で変化したものだ。 そして蝙蝠は、超音波で周囲を探る能力を持っている。 視界を封じられても、周囲の状況を把握して居るガーゴイルは、シリウスを引き離そうと暴れた。 「暴れるな。取って食いやしない」 シリウスが力付くで抑えに回ると、すぐにカミラも援護する。 2人で押さえていると、クリストフとルシオも助けに来て、どうにかして動きを抑え込んだ。 その隙に、魔女がガーゴイルの顔に手を当て魔法を掛けると、大人しくなった。 「なんとかなったか」 シリウスは軽くため息ひとつ。 力を抜くように息を抜くと、他のガーゴイルも、同じように捕まえていった。 そうして皆が奮闘している頃、南区でも色々と動いていた。 ●南区 「直接、潮風が当たると車体に良くない。それを考えると、この辺りに作りたい」 南区に訪れたニコラは、配備された蒸気自動車を整備、点検できる工場設置について話し合う。 「風が強いなら、風防を作ると良いが、必要だろうか?」 ニコラの問い掛けに、現場監督が応える。 「いや、ここまで離れてるなら大丈夫だろ」 工場予定地として区画整理を始めたここは、港からは幾分離れている。 「デケェ台風が来ると分からねぇが、それでも波を被ったりとかはねぇよ。それより、工場作るのはいいんだが、どのくらいの広さが居るんだ?」 「そうだな――」 ニコラは少し考え込んでから返す。 「整備と改修をする場所が、可能なら別々に欲しい。その上で、格納場所もいる。あとは、車体を釣り上げたり出来ると便利だから、高さもあると良い」 「あ~、なるほどね。悪いんだが、ざっとで良いんで、見取り図を描いてくれるか」 「分かった。製図用紙はあるか?」 「それならこっちだ。簡易なもんだが、製図版もある。それ使ってくれ」 そう言うと現場監督は、折り畳み式の机を広げ、そこに製図版と用紙を置く。 「助かる。少し待っててくれ」 ニコラは筆を執ると、大まかな製図を仕上げていく。 その間に、現場監督たちは工場予定地の整地を行っていた。 小一時間ほどして、ニコラは現場監督を呼んだ。 「大雑把だが、形としてはこうなる」 1枚だけでなく、2枚渡す。 「こちらが工場の物だ。残りのこちらは、各地区の警備団詰め所に作って欲しい車庫の見取り図だ。2台は置いておけるくらいの広さで作ってある。車庫があれば、島を見回る時や他地区へ行く時にも時間短縮ができるはずだ。すまないが、あとで他の地区にも伝えてくれると助かる」 「んー、なるほどなるほど」 現場監督は確認すると、笑顔で返した。 「これだけ描かれてたら十分だ。あとは任せてくれ」 「頼む」 ニコラは応えると、整地の邪魔をしないよう離れ、代わりに蒸気自動車の点検に向かう。 「ふむ。ここの自動車はオッペンハイマー氏の設計ともまた違った改造がされてるな」 足回りやサスペンションなど、外から見て分かる大きな変更点だけでなく、エンジンなども確認する。 「なかなか興味深い。元の形を活かしながら、この地に合った特殊化がされている」 表情は冷静だが、楽しさを滲ませ車を点検していく。ひと通り終わると―― (この自動車の安全性はどうなっているだろう) 実走について考える。 (速く走れても危険では使い勝手が悪い。できればトーマス氏に話を聞いてみたいところだ) そう思ったニコラは、現場監督たちに尋ねた。 「トーマス氏は――この自動車を改造した技師は、どこに居るだろうか?」 「あの騒がしい人か……」 何度か話したことがあるのか、疲れた様子で現場監督は応える。 「今の時間なら港じゃないか?」 「分かった。なら、この車を借りる」 そう言ってニコラは車の1台に乗り込み、港に向かった。 港では、レオノルが楽しげに魔術砲を調べていた。 「この砲いいなー」 『そうだロ! 蒸気を使っているのがイカスゾ!』 現地に居たトーマスが、人形を使ってレオノルに返す。 『バーンと撃ってドーンと爆発して粉みじんだゾ!』 かなり剣呑なことを言っているが、レオノルは平然と聞き返す。 「万物学園のやつみたいに魔術込めたらそのまま撃てるのかな……今出力はどれぐらい?」 『50%以上は行ってるゾ! あと魔術を込めて撃てるから試してみロ!』 「できるんだ。じゃ、遠慮なく」 試しにオーパーツグラウンドを込めて撃ってみると、普段の5倍はありそうな武器の数々が発生し、水面に命中。 爆音と共に幾つもの水柱を上げた。 「うん、結構威力あるね。これ、もっと出力上げられない?」 『調整が要るナ!』 「そうなんだ。それなら――」 レオノルは魔力探知で魔術砲を見ながら、トーマスと意見交換する。 「ここの魔力の通りが悪いみたいだから、どうにかできないかな?」 『ここカ? それなら回路を付け替えテ――』 レオノルの意見を聞きながら、魔術砲を改良していく。 「とりあえず、こんなものかな? どれくらい変わったか、試しに撃ってみるか」 再び魔術砲をレオノルが撃とうとした所に―― 「ドクター!」 全力疾走してきたショーンが声を掛けてきた。 「ショーン!? どうしたの? そんなに泡を食って」 「どうしたの、じゃありません! 何なんですかあの出力は!」 電気柵のことを話すと、レオノルは不思議そうに返した。 「予定通りだよ」 「……威力大き過ぎませんか」 「そうかな? だって、人間あたりが盗みに来たらあの程度じゃないと懲りないじゃん」 レオノルの言葉を聞いて、『うわぁ』という表情を見せるショーン。 「せ、せめてもう少し……下げないと事故ります……」 「威力下げるの? ちぇー」 渋々、電柵の出力低下に応じるレオノル。 新しい指示を聞いて、ほっと一息つくショーン。 そこに、蒸気自動車に乗ったニコラがやって来た。 「ショーン、どうしたんだ?」 ニコラにショーンが事情を説明していると、レオノルが思い立つ。 「そういや、ふと思ったんだけど、車に砲や銃って付けらんないかな……? 装甲を厚くする必要があるけどさ。ここはともかくとして広いところなら機動力活かせそうなものができそうじゃん」 これにトーマスが返す。 『すぐには無理だゾ! オリジナルの魔術砲と違っテ、量産型は重さもあるし反動もあるからナ! 蒸気自動車自体を大きくしないと無理ダ!』 「そっかー。じゃあ、追加でもうひとつ。この島、灯台ってどうなってるの? あるなら復旧させたいし、ないなら欲しいなぁ」 『知らン!』 興味のないことには、心底役に立たないトーマス。 仕方ないので他の現場の人間を捕まえて訊いてみると、相当古い物はあるが、老朽化が激しく危ないため、一端壊して造り直すとのこと。 なので、夜に船のやり取りは出来ないとのことだった。 「それなら、手伝えることがあれば手伝うよ」 そう言うとレオノルは、灯台再建の手伝いに向かう。 一方、ニコラはトーマスに訊きたいことがあったので聞いていた。 「蒸気自動車に危険はないんだろうか?」 『無いゾ! バーと走らせてギューって突っ込んでドドーンとぶつかっても平気だゾ!』 「……ぶつかる前提の時点で駄目だと思うのだが」 (運転マニュアルは、こちらで作った方が良いな) トーマスの応えに、静かに決意するニコラだった。 そのあとニコラは、ショーンを蒸気自動車に乗せて東区に連れていく。 到着すると、皆が薬草園の場所に集まっているのに気付く。 「どうしたんだ?」 ショーンがヴァーミリオンに尋ねると応えが返ってくる。 「魔法の花を植えてるんだよ」 リリエラから貰った苗を植えている、リチェルカーレやアリシアを見詰めながら続ける。 「あの2人が、月輝花みたいに、光の中で咲く花を咲かせられないかって言ってな。それを聞いて、あの魔女さんが出してくれた」 「月輝花、か……」 「ああ。あの花は、お日さまの光と周囲の魔力を取り込んで、属性に応じた色合いの花を咲かせるらしい。日輪花って名前らしいが、夜になると、溜め込んだお日さまの光と魔力を放ちながら、ほのかに光るらしい。月や星明りの中だと、一層綺麗なんだとさ」 「シャドウガルテンの月輝花みたいに、か」 「さてな。俺は見に行ったことがねぇから、分からねぇけどよ」 「見に行けば良いだろ」 「ははっ、エミリアにも言われたな」 「だったら、いつかリアを連れてシャドウガルテンに行ってこいよ」 「おいおい。オッサンの旅路に、若い娘を巻き込んでどうすんだ。あいつが行きたいってんなら、小遣いでもやって送り出すさ」 「……お前と一緒に行くことに意味があると思うんだがな」 ため息をつくように返すショーンだった。 そうして、皆の協力で開拓は進む。 各地域を手伝ってくれたお蔭で、かなり進んだ。 北区は、ダヌの祭壇を納めた社と自然公園が作られ、それによりダヌが島全域の加護を行うことになり。 東区は、畑や植物園に苗を植え、野生動物が荒らさないよう、適切な威力の電気柵が張り巡らされ、ガーゴイルが周囲を巡回してくれることになった。同時に、有用な野生動物の分布が幾らか分かり、捕えた馬を使うことで、定期的に狩りを行える体制が取れるようになった。 南区は、既に配備されている魔術砲の完全整備へと近づき、車両工場の建設や、灯台建設が進んでいく。 西区は、工房の建設が完成へと近づき、日用品として所有者を守ってくれるような、そんなマジックアイテムを、まずは作っていくことに決まった。そしてステンドグラスなど、ガラス製品製造の注文も入ったので、それに対応することにした。 そして中央区は、家屋の修繕がかなり進み、皆が快適に住めるようになってきた。そして王城は、魔女のセパルとメフィストの協力の元、防衛力が上がった。 かなりの成果を上げ、浄化師達は島の繁栄に協力することが出来たのであった。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[8] エフド・ジャーファル 2020/08/05-09:23
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[7] レオノル・ペリエ 2020/08/03-21:59
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[6] リューイ・ウィンダリア 2020/08/01-23:08
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[5] ヴィオラ・ペール 2020/08/01-21:30 | ||
[4] ルーノ・クロード 2020/08/01-18:26
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[3] リチェルカーレ・リモージュ 2020/07/31-23:48
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[2] クリストフ・フォンシラー 2020/07/31-22:03
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