~ プロローグ ~ |
アルフ聖樹森の集落は、既に戦乱の予感でざわめいていた。 |
~ 解説 ~ |
〇目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは、留菜マナです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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コルクちゃん、あなたは何も悪くない だから泣かないで 自分のためじゃない 誰かのために頑張れる それができるのは とてもすごいことよ リシェ様を召喚 Aを依頼 お願いしますリシェ様 どうか力を貸してください…! ギガス対応 魔術真名詠唱 カノンちゃんに乗って回復と鬼門封印で支援 仲間と回復が被らぬよう 余裕があれば九字で攻撃 カノンちゃん 一緒に頑張ろう! 攻撃がきそうなら飛び降りて 雷龍で対応 カノンちゃん 退避を! ギガスさん わたしは諦めたくないの 生きる事 皆で手を取り合う事 新しい世界じゃなくてこの世界で 大切な人たちと一緒に だから だから…神様にだって抗ってみせる 誰も倒れることのないように力を尽くす 人の生きようとする意志を 彼らに示そう |
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ギガスは、先日、分かってて聖樹森まで、出てきました、よね 普通のベリアルとは、何かが、違うような でもコルクちゃんを、罪の無い人達を、苦しめたのは…… 魔術真名詠唱 ルゥちゃんにワイバーンになって貰い、乗せて貰ってブリジッタの所へ クリスが飛び降りた後、ルゥちゃんの背中から鬼門封印での支援と火界咒での攻撃を ブリジッタの気が逸れたら後ろ側へ降ろして貰い禁符の陣で拘束 今回は回復はイヴルさんやコルクちゃんにお任せして、攻撃と支援を中心に 回復が間に合わない時だけ天恩天賜を使います ブリジッタの様子にハッと もしかして、あなたは、ギガスの事、を… ギガスといられれば、幸せ、ですか? そうしたら、敵対しないで、くれますか? |
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コルク、何もお前は自分の行動を悔いる必要はない 悪いのはあいつらなんだからな ドクターと共にプリムローズへ 黒炎解放後プリムローズに攻撃する前にギガスの防御と魔法防御を下げる 悪いな!これも仲間のためなんだ! プリムローズにはポイズンショットで攻撃後エナジーショットで削っていく 毒が切れ次第すぐまたポイズンショットで攻撃 あいつは仲間を回復させるから厄介だ とにかく自分の治癒だけで手一杯かそれ以上に余裕がなくなるよう追いつめて、あいつを削っていくぞ 何が安楽死だ。救済だ。 生きたいと思う人間の希望を奪って全てを終わらせることの何が美徳だ 真の悪徳は、そういう独善性から生まれて人々を蝕んで行くんだ! |
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このギガスと言うベリアルは、何だか不思議な感じがするな ベリアルというのは他の生物を蹂躙する存在なのだと思っていたのだが とは言え、今までの報告書を見る限り人間とは違う思考なのも確かだろうが とにかく全力をぶつけるしかないか 私達はギガスの方へ行こう 魔術真名詠唱 ドッペルにワイバーンになって貰い、空からギガスの下へ ドッペル達にも攻撃を願い、危なくなったら逃げるように 粉骨砕心3で底上げ 命中が落ちてるからとにかく当たりそうな範囲の広い部分目がけて武器を振るう 献魂一擲でのレスポンスも狙いながら砕石飛礫を使い攻撃 ギガス一つ聞きたい お前は何故ここに来た 私達を試したかったのか もしかしたらこうなる事を望んでいたのか? |
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これで三大ベリアルの二人目…私達は着実に進んでいるわ 魔術真名詠唱 ドッペルにワイバーンに変身してもらい、乗る お願いね、アルエット サクリファイス残党を避けて飛び、一気にプリムローズに接近 飛び降りてまずは蘭身撃 その後スポットライトで引き付け、戦踏乱舞で味方の支援 哀れな聖女様、そろそろ年貢の納め時よ うちの家訓には、まず回復役から潰せとあるの これ以上ギガス達を元気にはさせないわ プリムローズは倒せたら捕縛 ギガス達と戦う味方に加勢に向かう まずはブッ倒すわ、生かすかどうかはそれから決める 攻撃はギガス優先 ギガスを生存させるならブリジッタも殺さない 片方だけ殺すのは筋が通らないって、ギガスが怒るかもしれないもの |
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アルフ聖樹森での戦いを終わらせる ギガスとブリジッタを戦闘不能に プリムローズは捕縛を目指す ブリジッタ対応班 ドッペルに騎乗して敵に接近 戦闘が始まればイヴルかコルクの支援を頼む 魔術真名詠唱 リ:戦闘乱舞と流麗鼓舞で仲間の能力上げ 支援をしながらブリジッタに攻撃 ヒットアンドアウェイで引きつけ 仲間が攻撃する隙を作る 魔力感知で相手の魔力の変化を見る 使われそうなら仲間に伝え注意喚起を 弱点の魔法陣の場所がわかれば伝える セ:ペンタクルシールドでアリシアさんの盾 目や武器を持つ手など 意識が逸れそうな場所をカードで攻撃 自分へのダメージはリヴァースフォーチュンで返す 戦闘不能を狙う 殺さない ブリジッタ戦後は仲間の手伝いに |
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サクラ:大変ねぇ。 キョウ:ですね。 サクラ:生存権をいじれる程能力は無いから。 キョウ:はい、皆さんに任せてしまう形になります。 サクラ:所で敵濃ゆすぎない? キョウ:ノーコメントで。 【行動】プリムローズ戦 ギガスは嫌いだから混ざらない。 敵に感情を持つと支障になりかねない。ほら、私は逆だから。 リンクマーカーⅡで命中力を上昇、ピンポイントショットで攻撃。 魔術の効果範囲に入らないように遠くから撃っていくわぁ。 プリムローズ、イヴルに嘘つかれた奴ね……今回喋っているのは イヴルじゃないし信じてみたら?別にイヴルの悪口じゃあないわよふふふっ。 私は敵を生かせるほどの余裕(強さ)ないから皆に頑張ってもらう事になるけど。 |
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ギガスへ攻撃を仕掛ける ドッペルが変身したワイバーンに乗って空からギガスへ最短距離で接近 イヴルの幻術を事前にギガス対応の味方へかけてもらい接近時のダメージを防ぐ ギガス頭上へ移動したらナツキは飛び降りて接近戦を仕掛ける 黒炎を発動、氷結斬を織り交ぜ凍結で魔術妨害を試みる ルーノはドッペルに乗ったまま上空から支援と、 スキルも使いドッペルと共に攻撃、ナツキの隙を埋める 隙を潰しつつ禁符の陣を発動、魔術や回復の使用を妨害 危険があればドッペルは離脱、ルーノも降りて戦う ギガスにとどめは刺さない 人を殺す理由がトールと同じなら、その心配はいらないと伝える為に 全力でギガスに挑み、その絶望を覆す力と意志がある事を示したい |
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~ リザルトノベル ~ |
天に召され、常しえの眠りについた者達。 「カタリナ様。小さく瞬く、あれは誰を送る光ですか?」 空に咲いた命の花を、少女は指差して、消えた地平へと暗い焔を煽る。 赤く染めた大地。 燃え盛る炎の灯は遥か越えて、逝く人の調べを奏でる。 来ぬ人の嘆きに幾千の星は落ちて。 想い出を焼き尽くして、創世は進む。 嘆きの大地に、赤い雨が降り注ぐ。 幾星霜の夢の果てに――。 それは、彼女が思い描く夢物語(新世界)へと変わる為の行程。 全ての生き物が、より良い生き物に生まれ変わる為の救済が成された新世界。 争いもなく、悲しみも憎しみもない。 無垢な人々だけの楽園。 それは崇高な理想郷のようなものだと、少女は――プリムローズは恣意していた。 〇散華の風 「……おにーちゃん、お姉ちゃん!」 戦場に降り立った『リチェルカーレ・リモージュ』達のもとに、コルクが駆け寄ってくる。 「コルクのせいで、皆が……」 多くの人々を巻き込んだ光の檻の騒動の真実。 偽コルクの正体。 プリムローズによって、コルクは予想だにしない真相を突きつけられていた。 堰き止めていた感情が溢れ出て、感傷は胸に広がり続ける。 「コルクちゃん、あなたは何も悪くない。だから、泣かないで」 リチェルカーレは、コルクと視線を合わせるように語り掛ける。 「自分のためじゃない。誰かのために頑張れる。それができるのは、とてもすごいことよ」 それは、コルクの頭を撫でるように優しい声音だった。 「でも、コルクの目的のせいで、皆が捕まったって……」 顔を上げたコルクは沈痛な想いを口にする。 今もなお、コルクの心に芽生えているのは罪悪感だった。 「コルク、何もお前は自分の行動を悔いる必要はない。悪いのはあいつらなんだからな」 『ショーン・ハイド』の視線の先には、膨大な魔力が蹂躙した惨状が横たわっている。 『シリウス・セイアッド』は惨事を引き起こしたギガス達へと目を向けた。 「天使と八百万の神の結界の中でもこの力。さすがは三強のベリアルだな」 シリウスは瞳を眇め、小さく呟く。 「コルク、さがれ」 「……うん」 シリウスはコルクの髪を軽くかき混ぜ、後方へと下がらせる。 「……戦闘は、俺達の領分だ」 決着への意志が、ただ静かにシリウスの胸中を満たしていた。 これまでの一連の行動。 ギガスの不審な動向に、様々な懸念が高まっていた。 「ギガスは、先日、分かってて聖樹森まで、出てきました、よね。普通のベリアルとは、何かが、違うような」 ギガスの有り様に、『アリシア・ムーンライト』は確かな違和感を覚える。 「ギガスが何を考えて、この森まで来たのかは判らないけど。トールみたいに、人を殺すのを楽しんでるようには見えないんだよな」 『クリストフ・フォンシラー』はギガスの真意を測りかねていた。 「でも、コルクちゃんを、罪の無い人達を、苦しめたのは……」 「うん、まあ、どちらにしてもやった事は許せるものではないんだけれど」 アリシアの悲しみに応えるように、クリストフは言った。 「このギガスと言うベリアルは、何だか不思議な感じがするな。ベリアルというのは、他の生物を蹂躙する存在なのだと思っていたのだが」 「色々分かっていながら、この森に来て、この状態……。先日倒した方(トール)とは思考回路が随分違うようですね」 『ニコラ・トロワ』の言葉を繋ぐように、『ヴィオラ・ペール』は応えた。 「とは言え、今までの報告書を見る限り、人間とは違う思考なのも確かだろうが。とにかく、全力をぶつけるしかないか」 「そうですね」 ニコラの決意に、ヴィオラは静観するギガスへと注意を傾ける。 これからの戦いの終着点に向け、それぞれが思いを募らせていく。 「これで、三大ベリアルの二人目……。私達は着実に進んでいるわ」 『リコリス・ラディアータ』はギガスを見据えて、確かな事実を口にする。 「始まりは小さな一歩だったけど、確実に近づいていってる。このまま、ギガス戦も突破しよう」 「ええ、もちろんよ」 『トール・フォルクス』の戦意に、リコリスは意気込むように応える。 信頼するように言葉を交わし、2人は戦場に向かう。 ワイバーンに姿を変えたドッペルに乗って目的地へと向かっていた際、『リューイ・ウィンダリア』達はブリジッタがギガスの為に動いた瞬間を目撃していた。 「あのベリアル……なんだろうね、すごく……」 「人間のようね。大切な相手のために動くなんて」 リューイの言葉を繋げるように、『セシリア・ブルー』は言った。 「うん。心があって感情があって、それならお互い分かり合うこともできるのかなって」 「私にもわからない。だけど、そう思うのなら、足掻いてみてもよいと思うわ」 リューイの想いに応えるように、セシリアは続ける。 「望む未来に近づくために」 セシリアは小さく笑う。 その未来の訪れを願って――。 「ギガスってさ、なんて言うかこう……トールとは違う感じだよな」 『ナツキ・ヤクト』は率直な感想を述べる。 「自分が不利になる可能性があっても、興味が湧いたら力を貸したりしてるよな。誘いに乗って、アルフ聖樹森に来たってのも、そういう感じみたいだしさ」 「確かにそうだな。だが、ギガス達によって苦しめられた者達もいる」 『ルーノ・クロード』は遭遇した時の出来事、報告書の内容を思い返し、改めてギガスを見据えた。 興味が湧いた相手の願いや想いを重んじるその反面、創造神の意思を最も尊重しているようにも見える。 それは、どこまでも危うく感じた。 「……なあ、ルーノ。あいつらを生かす事はできねぇかな?」 ナツキがぽつりと呟く。 『最強のトール』との戦いの時とは違う、強敵を前にした高揚感と確かな違和感。 それが何なのかは、ナツキにも分からない。 だが、これまでのギガスの経緯を聞いて、ナツキはそういう結論に行き着いた。 「ギガス達を生かすのか?」 ルーノは驚きを禁じ得なかった。 その発想は無かった。 しかし、それは破綻の可能性の方が大きい、あまりにも危険極まりない博打だった。 「それは……」 ナツキの提案に、ルーノは思わず唸る。 三強の一角を生かすという事実。 それはメリットよりも、リスクの方が大きいのではと感じたからだ。 「……私も生かしたい、です」 そこにアリシアが想いを口にする。 「助ける選択肢があるのなら助けたいです。ずっと、ベリアルになった人も助ける道を探していました」 「俺も、そう思うよ」 成すべき事を心に刻み、クリストフは決意を込めて言った。 「『命を奪う』以外の選択肢が選べるのなら、試してみたいとわたしも思います」 「……俺も、それで構わない」 リチェルカーレの想いを汲むように、シリウスは言った。 「ただ、ベリアルによって拘束されている魂が気がかりだな。創造神を倒したら、何とか出来るといいんだけど」 「そうね」 トールの懸念に、リコリスは返す。 魂の自我と、ベリアルそのものの自我は全く別の人格で、ベリアルとして活動を開始した瞬間から固有の人格、性格を有する。 魂は鎖で繋がれ、魔喰器(イレイス)によって喰わない限り、永久に拘束されたままとなってしまう。 「信じるしかないか」 「ええ」 トールの発言に、リコリスは先の未来へと希望を託した。 「私達も構わない」 「はい」 ニコラとヴィオラもまた、その想いに応える。 (その力をもっと違う事……人を生かすことには使えないのでしょうか……。そう告げた時、偽コルクちゃん――いえ、ギガスさんの表情には何らかの感情が帯びていました) ヴィオラの表情に一縷の光明が射す。 (その感情が、どんなものなのかは分かりませんが……それでも……) ギガス達を生存させる。 それで何が変わるのか、確固たる解答はまだ出ていない。 だが、怖れを越えなければ、得られない何かがある事を知っているから。 この手に輝くトリック・ディスクが、何よりもそれを証明しているのだから。 ヴィオラはニコラと共に、新たな未来の道を見据える決意を固めた。 「敵は生かす方針かしら」 「そうみたいですね。自分達はどちらでも構いません」 『サク・ニムラサ』の問い掛けに、『キョウ・ニムラサ』は応える。 「僕達もそれで構いません」 「うん。私達も構わないよ」 リューイと同様に、『レオノル・ペリエ』は頷いた。 「ただ、ギガスを生存させた場合、創造神側に付いたりしそうだよね。それ考えると怖い」 レオノルは真意を探るように、ギガスの出方を窺う。 「イヴルの件といい、ギガスは何がしたいんだろうね」 見逃す事にしたものの、レオノルはギガスの動向を測りかねる。 荒地の向こうでは、プリムローズが指示を飛ばし、何人もの手勢に命じていた。 「私達はプリムローズの方に行こうかな。言いたい事もあるしね」 「私達もプリムローズの方に行くわ」 レオノルの宣言に、リコリスが続いた。 (ギガスを生かすのか……) ルーノの戸惑いは続いている。 葛藤も続いている。 だが、ルーノが抱いた不安を吹き飛ばすように、ナツキは言った。 「ルーノ、いいだろ?」 「……分かった。なら、全力でやれ、ナツキ」 「おう、もちろんだぜ!」 拳を打ち合わせ、2人は戦闘準備を整える。 (以前の私なら、ベリアルの生存を選ぶ事はなかったかもしれない。しかし、今は違う) 「……変わったのは周囲を取り巻く状況か、私自身なのか」 ナツキから預けられている根付けを確かめながら、ルーノは苦笑を浮かべていた。 交錯する視線。 それぞれの武器を構えたシリウス達とギガス達が対峙する。 ドッペル達が呼び寄せた魔女と浄化師達もまた、サクリファイスの残党達を迎え撃つべく態勢を整えていた。 「サクリファイスの残党達は戦闘不能にさせて捕縛。終わったら、他の3体への応援を頼むね」 「はい」 クリストフからの指示に、魔女と浄化師達は応える。 「コルクとイヴルは私達の回復を、陰陽師達には魔女と浄化師達の回復を頼みたい」 「うん」 「分かった」 ルーノはコルクとイヴル、陰陽師達を呼び寄せ、回復の分担を頼んだ。 「イヴル、私達に幻影の魔術を掛けて貰えるだろうか?」 「ああ」 ルーノの指示どおり、イヴルはギガス戦に向かうシリウス達に幻影の魔術を掛ける。 「大変ねぇ」 「ですね」 サクの呟きに、キョウは同意する。 「生存権をいじれる程、能力は無いから」 「はい、皆さんに任せてしまう形になります」 サクの言葉を繋ぐように、キョウは言った。 「所で敵、濃ゆすぎない?」 「ノーコメントで」 戯れ合うように言葉を交わし、2人はドッペル――レニーのもとへ向かう。 「そういえば、どうしてプリムローズの方に行く事にしたのですか?」 「知りたい?」 キョウの疑問に、サクは艶やかな笑みを浮かべて問い返す。 「答えは知っていますが」 「ギガスが嫌いだからよ」 「そうですよね。同感です」 サクの答えに、キョウは苦笑混じりに言った。 「至高あれ、残花終影幻夢と消えよ」 魔術真名詠唱。 解放された戦力を携え、2人はワイバーンに姿を変えたレニーのもとへ走り出す。 荒地の戦場の只中、浄化師達はそれぞれの想いを抱いてドッペル達のもとへ向かう。 「黄昏と聡明 明日を紡ぐ光をここに」 魔術真名の詠唱。 リチェルカーレはシリウスと共に、ワイバーンに変わったドッペル――カノンに乗り込む。 「カノンちゃん、よろしくね」 リチェルカーレの声に反応して、カノンは頷いた。 (リシェ様は守ってみせる!) 絶対に守るという決意を胸に、リチェルカーレ達はカノンに乗って上空へと舞い上がっていく。 「アリシア、俺達はブリジッタの方に行くよ」 「はい……」 クリストフとアリシアは魔術真名を唱え、戦いへと挑む。 「月と太陽の合わさる時に」 クリストフは魔術真名の詠唱を終えると、アリシアと共にワイバーンに姿を変えたドッペル――ルゥに同乗した。 「上空なら、サクリファイスの妨害を受けずに、ギガス達のもとへ行けるかもしれないな」 ニコラは改めて、周囲の戦局を把握する。 「そうですね。ただ、地上からの攻撃、それにギガスさん達の動向に目を向ける必要がありそうです」 ヴィオラは応えると、魔術真名を詠唱する。 「cooking and science」 魔力を漲らせ、ワイバーンに姿を変えたドッペルに搭乗した。 「私達はギガスの方へ行こう」 「はい」 ニコラの呼び掛けに、ヴィオラは応えた。 「僕達も行くよ」 「私達は、あのブリジッタというベリアルね」 ドッペルのもとへに向かうリューイに、セシリアは応える。 (スケール5のベリアル。先程、見せたあの力。厳しい戦いになるわね) セシリアは冷静に戦況へと視線を巡らせた。 「闇の森に歌よ響け」 戦いに向かうべく、リコリスとトールは手を繋ぎ、魔術真名を詠唱する。 「お願いね、アルエット」 駆け寄ってきたリコリスの声に反応して、ドッペル――アルエットは大きく身体を動かす。 アルエットは突き抜けるように、空へと舞い上がっていた。 リコリス達を追って、シリウス達もまた空へと浮上する。 「お願いします、リシェ様。どうか力を貸してください……!」 リチェルカーレは想いを託す。 その声に応えるように、幼い少女が召喚される。 『ヴァルプルギス』一族の氏神であるリシェの化身が、神契の縁に従い、現れた。 『私、皆の力になりたい』 まるで唄のように奏でる、葉の協和音。 『新しい世界じゃなくて、この世界で生きたいの。有るが儘、皆と一緒に――』 リチェルカーレの祈りに応えるように、リシェは緑葉の光を纏い、それを解き放った。 その途端、新緑の光が刃となって放たれる。 天地を揺るがす轟音。 閃光と共に駆け抜ける衝撃波。 戦場を照らす途轍もない光が、荒地を蹂躙した。 光に貫かれ、サクリファイスの残党達が次々と倒れ伏す。 「ギガス様、ばり、やばい攻撃ばい! 八百万の神の力やけん!」 体力を削られたブリジッタは浮上し、荒れ狂う戦場を俯瞰する。 彼女の動揺とは裏腹に、ギガスは魔力を収束させた。 天恩天賜2と天恩天賜3、2つのアライブスキルを組み合わせる。 その瞬間、広範囲の癒しの力が降り注ぎ、ギガスの周囲に居る者達を回復させた。 「プリムローズ、ギガス様達を回復するっちゃ!」 「はい!」 ブリジッタの指示に、プリムローズは即座にギガス達に回復魔術を掛ける。 「プリムローズは早めに倒した方が良さそうですね」 戦況に目を配っていたキョウが、持久戦に成りかねない不安材料を端的に言い表す。 「回復手が2人いるのは厄介ねぇ」 「こちらはもっといますけど」 サクの問い掛けに、キョウは上空から戦場を見下ろす。 魔女と浄化師達は、体力の減ったサクリファイスの残党達に対して、優位に戦いを進めていた。 陰陽師達はそれぞれの区間に分担し、傷ついた者達を回復していく。 しかし、サクリファイスの残党達の士気は衰えない。 神の使いであるベリアル――ギガス達が居れば勝てる。 そう思えるからこそ、サクリファイスの残党達は恐慌状態に陥らずに戦えているのだ。 別の――ワイバーンに姿を変えたドッペルに搭乗したコルクとイヴルは、すぐにサク達を回復、支援する事が出来るように追躡している。 「三強の狙いは一体、何なのかしら」 地上から放たれる魔術を回避しながら、セシリアはギガス達を見下ろし呟いた。 「『最強のトール』、『最操のコッペリア』、『最硬のギガス』。三強によって、それぞれ理念も考え方も違うわ。せめて、彼らの目的が何か分かれば良いのだけど」 「うん。けど、もしかしたら、今回の戦いで何か分かるかもしれない」 セシリアの疑念に、リューイが返す。 「そうね。それより今は、目の前の戦いに集中しましょう」 「分かった」 柔軟に動けるように、2人は慎重にブリジッタのもとへと近付いていく。 遠距離攻撃による一斉射撃。 地上から放たれる攻撃の数々を、ドッペル――らぷは華麗にかわしていく。 「凄い!! らぷちゃんの機動力!!」 レオノルの激励に、らぷは喜び勇んだ。 (らぷ、嬉しそうだな) 欣喜雀躍のように攻撃を回避し、小躍するらぷの姿を見て、ショーンの表情は知らぬ間に柔らかくなっていた。 やがて、ショーンは視線の先に、ギガス達の姿を捉える。 「Fiat eu stita et piriat mundus.」 決意を込められた解号に応え、怨嗟の銃・ランキュヌは黒炎を解放する。 瑠璃の炎を纏う黒き銃を構え、ショーンはギガスに狙いをつけた。 「むっ!」 ランキュヌの効果で、ギガスの防御と魔法防御を下げる。 「悪いな! これも仲間のためなんだ!」 「うむ。その仲間を想う有り様、善き哉」 ショーンの気概に、空を仰いだギガスは返す。 照準を切り変えたショーンは改めて、プリムローズに狙いを定めた。 「これは……!」 上空からのショーンの狙撃に、プリムローズは不意を突かれる。 ポイズンショットを放った後、ショーンはエナジーショットでプリムローズの体力を削っていく。 そこに、レオノルのオーパーツグラウンドが放たれた。 「ショーン、らぷちゃん。とにかく、プリムローズを苦しめていくよ!」 「はい、ドクター」 レオノルの呼び掛けに、ショーンとらぷは肯定する。 らぷはプリムローズが放つ魔術を避け、2人の攻撃の突破口を切り開いていく。 「らぷちゃん、すごいよね。たくさんなでなでしよう!」 レオノルが優しく撫でると、らぷは意気揚々に張り切る。 「私は前にカタリナ様からお伺いした、『ヴァルプルギス』一族の氏神となっている、八百万の神『リシェ』様を安楽死させてあげたい。他の誰の手でもなく、私自らの手で……」 プリムローズが歩みを進め、懐から短剣を取り出す。 「その邪魔はさせません!」 プリムローズはそう発したと同時に、魔方陣を展開した。 「羽天の剣」 天使が羽を広げるように短剣をひと振りすると、周囲の浄化師達が傷つきながら吹き飛ばされる。 「回復します!」 それでもすぐに配置していた陰陽師の1人が駆け寄り、倒れた浄化師達を回復しようとした。 そこにプリムローズは更なる追撃を放つ。 「させません! 召天の剣!」 短剣で突かれた肩口から、夥しいほどの血が流れ出す。 広範囲による魔術による連打で、浄化師達を回復しようとしていた陰陽師が地に倒れ臥す。 強力な魔結晶を得たプリムローズは次々に強化された魔術を発動し、魔女と浄化師達を苦しめていった。 「そこまでよ!」 サクリファイス残党達を避けて飛び、リコリス達は一気にプリムローズへと接近する。 リコリスはアルエットから飛び降り、プリムローズに向かい合う。 「飛行して、一気にここまで来たのですね……っ!」 そう告げる前に、プリムローズは上空からの狙撃に虚を突かれる。 リコリスが飛び降りるタイミングに合わせて、トールがピンポイントショットを放ってきたのだ。 「あなたの相手は、私がしてあげる!」 プリムローズが上空に居るトールに反撃しようとする前に、リコリスは間合いを詰めて、蘭身撃で攻撃を切り出した。 目にも留まらぬ素早いステップで、プリムローズに複数回の蹴りを加える。 その威力が、リコリスの意志の強さを伝える。 プリムローズが、リコリス達の攻撃に追われている間にトールは地上に降り立った。 「ありがとうアルエット、隠れていてくれ」 トールの気遣いに、アルエットは頷き、安全圏へと避難していく。 そのまま、リコリスはスポットライトで引き付け、戦踏乱舞で味方の支援をする。 「哀れな聖女様、そろそろ年貢の納め時よ」 魔術の攻撃を避けながら、リコリスは舞い踊るように動く。 それは陽動としての効果をみせ、プリムローズの意識を強制的にリコリスに向けさせる。 「うちの家訓には、まず回復役から潰せとあるの。これ以上、ギガス達を元気にはさせないわ」 「ああ、させない」 少し距離を取ったトールは、味方の陰などに隠れる事で死角に入り、前衛の攻撃に合わせて援護射撃を加える。 次第に自分の治癒だけで手一杯になりながらも、プリムローズは諦めずに前を見据えた。 「まだです」 上空からの攻撃、目の前の高速の技と狙撃を前にしても、プリムローズは攻撃を受け、または避けつつ、反撃の機会を窺う。 しかし、それは地上に降り立ったサク達によって防がれる。 「ギガスは嫌いだから混ざらない。敵に感情を持つと支障になりかねない。ほら、私は逆だから」 「ベリアルという存在だから罪なだけ。いや、実にどうでも良い事です。生かす事実も拘束されてる魂も」 サクはプリムローズに攻撃を加える為に、キョウはサクを庇う事を最優先に疾走した。 サクは弓を構えると、リンクマーカー2で命中力を上昇し、ピンポイントショットで攻撃。 プリムローズが放つ魔術の効果範囲に入らないように遠くから撃っていった。 「プリムローズ、イヴルに嘘つかれた奴ね……」 「イヴル?」 サクの言に、プリムローズは目の色を変える。 「今回、喋っているのは、イヴルじゃないし信じてみたら? 別に、イヴルの悪口じゃあないわよ、ふふふっ」 「もしかして、ギガス様をこの地にお呼びした方ですか?」 サクの問い掛けに、プリムローズははたと気づいたように唇を噛みしめた。 「知りたい? なら、私達を倒す事ね」 「では、その信用に値しない方の事を教えて頂きます!」 サクのその言葉に反応して、プリムローズの魔術は苛烈さを増していく。 「……信用に値しない方?」 地上に降り立ったイヴルは、サクとプリムローズのやり取りに絶句していた。 「私は敵を生かせるほどの余裕(強さ)ないから、皆に頑張ってもらう事になるけど」 サクの正確無比の狙撃に、プリムローズの体力は徐々に削られていった。 「これなら、どうでしょうか!」 「サクラ!」 キョウは光明真言2で防御力を上げ、なるべくサクを庇えるように徹する。 キョウはサクの前に出ると、広範囲の魔術を放ってきたプリムローズへと立ち塞がった。 (回復は他の人ができるから必要ないでしょう。残党はプリムローズに従うので、近くにいる可能性が高い) キョウはサクを庇いながらも、鬼門封印でプリムローズとその周囲に居るサクリファイス残党達の回避力低下を狙う。 その後方で、イヴルがプリムローズの魔術を受けた仲間の回復に奮闘していた。 (集中すべきはプリムローズ。確実に範囲に入るように気をつけましょうか) キョウは鬼門封印の射程に、プリムローズが含まれるように注意を払う。 サクもまた、臨戦態勢を解くこともなく、プリムローズとの戦闘を踏襲した。 プリムローズより速く、攻撃態勢に入り、矢を次々と撃っていく。 それでも、プリムローズは寸前で矢の連射を回避し、後方に跳んだ。 「私はリシェ様を安楽死させたいだけなのです。世界の救済の為に」 プリムローズは、祈りを捧げるように指を絡ませる。 魔術で周囲に居る者達へ行き届くようにしているのか、その凛とした声は上空に居るショーン達にも伝わった。 「全ての存在は、神の手によって生まれ変わる必要があります。それは八百万の神であるリシェ様とて同じ事です」 「そんな理由で、リシェ様にあんな夢を見せたんだ」 平坦なのに無性に熱を感じる言葉に、レオノルは表情を強張らせた。 「あんな夢……そうですか。本来なら、光の檻の時のように、リシェ様が望む安らかな夢を見れるはずなのですが……。どうやら、魔結晶を持っている私の望みの方が反映されてしまったようですね」 プリムローズはまるで微笑ましい事があったように笑みを綻ばせる。 「光の檻に使用した魔結晶よりも、遥かに強力な魔結晶だった事による影響なのでしょうか。なら、今度は安らかに痛みを感じない程の強大な攻撃で、リシェ様を即死させられるように尽力します。さあ、リシェ様を渡して下さい」 「ふざけるな!」 プリムローズのその願いに呼応して、銃を構えたショーンは激昂した。 「何が安楽死だ。救済だ。生きたいと思う人間の希望を奪って、全てを終わらせることの何が美徳だ。真の悪徳は、そういう独善性から生まれて人々を蝕んで行くんだ!」 「安楽死の何が悪いのですか?」 ショーンの鋭い怒声。 それでもプリムローズは意に介さないように、不思議そうにショーンに尋ねる。 その台詞を聞いたショーンの表情は耐えきれないほど、怒りに満ちたものだった。 プリムローズの毒が切れ次第、ショーンはすぐまたポイズンショットで攻撃する。 「安楽死がいいか悪いかが問題なんじゃなくてさ。勝手に人間が滅ぶべきって決め付けて、勝手に当事者の同意を取らないでさ、勝手に自由意志を奪って、一番大事な命を奪うってことが大問題なんだよね」 レオノルの瞳に強い怒りの意思が宿る。 「あとさ、私、リシェ様にあんな辛くて苦しい世界を見せたこと、絶対に許さないから」 「辛くて苦しい? 何故ですか。あの終焉の世界を見たからこそ、リシェ様は神が導いてくれる理想の世界を求める筈です。神に協力する八百万の神の先駆けになるのではないでしょうか?」 プリムローズの挑戦するような訴えに、レオノルは少しも退かずに告げた。 「リシェ様がどれだけ苦しんだか分かりもしない癖に、理想だ何だのたまうな!」 「……随分な言い分ですね。私からすれば、あなた達が言っている事の方が理解出来ません」 怒りに満ちた、それでいて深く抉り込むようなレオノルの意思に、プリムローズもまた、負けずと鋭く切り返す。 「私は、サクリファイスである事を誇りに思っています。それが私の正しさで、私の行動理念です。それのどこがおかしいのですか?」 「おかしいわよ! 十分にね!」 プリムローズの注意が上空に向いている隙を逃さず、リコリスは斬撃を叩き込む。 「その理想、いい加減、終わらせてあげる!」 プリムローズが振り向く前に、死角から跳び込んだリコリスが高速の動きで複数回の蹴りを加える。 蓄積されていくダメージ。 「召天の剣!」 追い詰められたプリムローズは起死回生を願って、掩護射撃を行ってくるトールに狙いを定めた。 プリムローズはトールにだけ攻撃が及ぶように射程を絞っている。 そして、強力な魔術を放てるようにと、威力を一点に集めていた。 誰が見ても完璧な不意討ちを前にして、トールには動揺の色は見受けられなかった。 むしろ、初めからプリムローズが攻撃をする瞬間を見切っていたように、トールは後方に移動して魔術をかわす。 「なっ!」 「今だ!」 トールはエナジーショットを放ち、プリムローズを翻弄した。 トールの狙撃に、プリムローズの動きが一瞬、止まる。 「そこだよ!」 「――っ!」 そこに、レオノルはオーパーツグラウンドをプリムローズに解き放つ。 魔力で形成された岩を武器に変え、プリムローズに投擲し、魔力攻撃によるダメージを与えた。 サクのピンポイントショットで体力を削られた状態に、上乗せする毒へのダメージ。 絶え間ない攻撃を受け、回復が追いつけなくなったプリムローズは傷を負い、後退していく。 そこにリコリスの短剣の切っ先が突き付けられる。 「ここまでよ!」 「……残念です。せっかく、ギガス様から魔結晶を頂いたのに、上手く使いこなせなかったみたいですね」 息を呑み、プリムローズは力尽きたように膝を付く。 痛いような沈黙。 やがて、感情の消えた瞳とともに、プリムローズはあくまでも自分に言い聞かせるように呟いた。 「罪を犯した人間は滅び、世界を救済するための生贄にならないといけないのに……」 「神様が勝手に決めた罪なんか知らない」 「……っ」 リコリスの言葉に反応して、プリムローズは顔を上げた。 「私は、私の心の正義に従って、リシェ様を助ける」 「ああ、絶対助けよう」 決意を抱く彼女を支えるように、トールは戦いの意志を固める。 「私はただ、全ての生き物がより良い生き物に生まれ変わる為の救済の手助けがしたかっただけなのに……」 心から発したプリムローズの言に、レオノルは首を振った。 「分かってないね。リシェ様は死ぬ事を望んでいない。この世界で生きる事を望んでいるんだよ」 「でも、生まれ変われば、理想の世界で――」 「リシェ様がどれだけ生きたいと望んだのか分かりもしない癖に、理想だ何だのたまうな!」 プリムローズの詭弁を遮って、レオノルは言葉を叩き付けた。 レオノルの言葉は現実を伴って耳朶を震わせる。 「生きたいのか……」 プリムローズは搾り出すように、言葉を反芻した。 『ヴァルプルギス』一族の氏神となっている八百万の神を安らかに死なせてあげる事。 それが、カタリナの為に出来る唯一無二の恩返しだと彼女は頑なに信じていた。 しかし、結局、それも相手の領域に踏み込むことが出来ない彼女なりの恐怖の表れだった。 「トール、行きましょう!」 「ああ、行こう」 リコリスの呼び掛けに応えるように、トールはギガス達のもとへと疾走する。 プリムローズを捕縛した後、リコリス達がギガスのもとへ、ショーン達はブリジッタのもとへ戦いの加勢へと向かう。 それぞれが新たな戦いに赴く中、サク達は残り、捕縛したプリムローズの見張りに付いていた。 「ブリジッタの方には、加勢に行かないのですか?」 「ブリジッタは、ギガスの事を言うから混ざらないわ」 「ですよね」 サクの意見に、キョウは同意する。 「ギガスにブリジッタ。わざわざ、集中力が乱れる場所に行く必要ないもの」 サクが見つめる空の先で、閃光が走った。 「それにプリムローズは、私達に『夢に干渉する能力』を使っていないわよねぇ。ブルーベルの丘周辺のみに発動し、それ以外の場所では行使出来ないみたいだけど、万が一っていう事があるじゃない」 「そうですね。念の為、魔結晶は回収して置きましょう」 サクの警告に同調するように、キョウはプリムローズが持っている強力な魔結晶を回収しようとした。 だが、プリムローズは頑なに魔結晶を手放そうとしない。 「私達は、神が導いてくれる理想の世界でしか生きられない。だから、この魔結晶は渡せません」 プリムローズは、ギガスから渡された魔結晶に固執する。 根強く張った独善的な考えは、彼女の心を頑なに閉ざし続けた。 「そんなの分からないわねぇ」 「本当に、この世界では生きられないのですか?」 サクとキョウの即座の切り返しに、プリムローズの心は動揺し、胸をかき乱した。 「い、言った筈です。だからこそ、私達は今まで、来るべき神の変革に梯子を掛ける行動を起こしてきたのですから」 「前から思っていたけれど、あなた達ってやっぱり、聖人ぶっているわねぇ」 率直極まりないサクの意見に、プリムローズは狼狽する。 「せ……わ――私達が行っているのは、全ての生き物がより良い生き物に生まれ変わる為の救済の手助けです。それは神の慈悲の手助けになるのではありませんか?」 問いの形を取った断言の矛先は、サクに向かっていた。 「あらあらぁ、神頼みしか知らないから大変よねぇ」 「本気でそう告げているのでしたら、大層な大義名分ですね」 「暴論です!」 一転して、感情的になったプリムローズ。 それに、サクを守るような位置に就いていたキョウは声を掛けた。 「その言葉、そのまま、お返しします」 「所でプリムローズといい、敵、濃ゆすぎない?」 「それは、あくまでもノーコメントで」 再発したサクの疑問に応えると、キョウはプリムローズが持っている強力な魔結晶を回収する。 「ギガスとブリジッタは皆さんに任せて、自分達はプリムローズの見張りをしましょうか。ついでに、この一帯の残党を捕縛する手伝いをしましょう」 「ええ、休ませてあげるわぁ」 キョウの発案に、サクは精密射撃で周辺の敵を次々と撃ち抜いていく。 プリムローズの見張りをしている合間に、サク達は周辺のサクリファイスの残党達を迎撃していった。 〇罪渦の炎 時は、プリムローズ戦が開始されようとしていた頃に遡る。 (うち、やっぱー、アルフ聖樹森、すかん。大きく力が削がれて動きが鈍るけ。それに、あの守護天使どもが邪魔をしなかったら、トール様は――) 群青の空。秋枯れの荒地。 ブリジッタは、上空から迫ってきたクリストフ達に目を向けた。 (ギガス様の援護に行きたいけん。でも、その為には、浄化師どもの不意を突く必要があるっちゃ) ブリジッタは意識を戦いに集中するために瞼を閉じる。 目の前に映る心象は、逆鱗の炎。 暴け出すのは、真実。 真なる心は光を求める。 (うち、ギガス様のこと、好いとうけん。ギガス様の側にいたいっちゃ。でも……) それは遠い夢。 叶わぬ筈の果ての夢。 (だから、ギガス様の力が回復するまでの間だけでも、うちはギガス様の力になりとーと!) ブリジッタが再び、目を開けた時、その明眸には確かな決意が宿っていた。 「クリス、気をつけて」 ブリジッタの不意を突く為に上空から地上へと向かうクリストフに、アリシアは不安を滲ませる。 「ああ。ルゥちゃん、アリシアを頼むね」 クリストフの呼び掛けに、敵の魔術をかわす為に旋回していたルゥは頷いた。 「開け、九つの天を穿つ門」 セシリアと共に魔力回路を完全開放すると、リューイは後方から追躡してきたイヴル達へと声を掛ける。 「イヴルさんとコルクさんも、ドッペルさんに乗ってきたんですね」 「ああ。すぐに支援が出来るようにしたいからな。私はギガスとプリムローズの方に向かう者達の回復と支援を、メインに行っていこうと思っている」 「コルクは、ブリジッタさんの方に向かう人達のところに行く事にしたの」 振り返ったリューイ達に、イヴルとコルクはメインの回復と支援の分担を分けつつも、それぞれ臨機応変に対応していく事を伝える。 「イヴルさん、コルクさん、よろしくお願いします。コルクさん、一緒に頑張りましょう」 「うん」 リューイの呼び掛けに、コルクは嬉しそうに微笑んだ。 「僕は、戦踏乱舞と流麗鼓舞を皆に掛けるよ」 「分かったわ」 仲間の支援に向かうリューイに、セシリアは応える。 「怪我をしないようにね、セラ」 「貴方もね。リューイ」 2人はお互いを信じ、視線を交わす。 「ギガスとブリジッタに力を示そう」 新たな未来を掴み取る決意を込め、リューイはギガス達を見据えながら宣言する。 「人の可能性を信じてもらうために全力を尽くすよ」 「そうね」 セシリアは柔らかな笑みを浮かべ、リューイに応える。 「未来予測なんて関係ない。人は変われる生き物だということをお見せしましょう」 「うん。絶望の未来は変えられると信じているから。皆と一緒なら、必ず!」 「ええ」 決意を込めるリューイを支えるように、セシリアは戦いの意志を固めた。 アルフ聖樹森は、守護天使『カチーナ』と八百万の神による2重結界のせいで、ベリアルは大きく力を削がれる。 とはいえ、スケール5のベリアルは、それでも脅威に値した。 「俺がまず、ブリジッタの不意を突いてみるよ」 クリストフは、リューイ達に戦いの先陣を切る事を伝える。 「コルクちゃん。今回は合図があるまで、俺の回復をしないでくれないか」 先陣を切る前、クリストフはコルクに頼む。 その申し出に、コルクは不安を飲み込みながら応えた。 「うん。……お兄ちゃん、無理はしないでね」 「もちろんだよ」 優しく笑顔で返し、クリストフはブリジッタが待つ戦場を見定める。 そして、位置を見計らったように、ブリジッタの真上で飛び降りた。 「お前の力を示せ、ロキ!」 「真上から来たやけん! なしかい!」 解号に応え、陽炎剣ロキは黒炎を解放する。 力を漲らせたクリストフは着地すると、即座にブリジッタのもとへと向かう。 「さっちがそげな事、せんでいい! 喰らえっちゃ!」 真上から攻めてきた事に驚きつつも、ブリジッタは大剣を構え、嵐のような斬撃をぶちかましてきた。 (速いな!) 辛うじて避けたクリストフは、大剣を再度、振りかざしてきたブリジッタから一旦、距離を置く。 近接戦闘に特化した攻撃。 ブリジッタの猛攻が、その威力を痛感させる。 ブリジッタの一撃一撃は、とてつもなく重く――速い。 裁きや制裁でブリジッタの攻撃を捌きながら、クリストフは反撃のチャンスを見計らう。 「ルゥちゃん、お願い、します」 アリシアの声に反応して、ルゥは翼をはためかせ、要望に応える。 アリシアはブリジッタの隙を見て、ルゥの背中から鬼門封印での支援と火界咒での攻撃を放つ。 「まだ、浄化師どもがおったやね!」 ブリジッタは煩そうに、火界咒で受けた傷を急速再生する。 ブリジッタの気が逸れたと同時に、アリシアはルゥに頼み、彼女の後ろ側へと降ろして貰う。 そして、不意を突く形で、禁符の陣でブリジッタを拘束した。 「動きがばり、悪くなったけん! こうなったら――」 「させないよ!」 ドッペルから降り立ったと同時に、リューイが戦闘乱舞と流麗鼓舞で仲間の能力を上げる。 そのまま、動きが鈍ったブリジッタの隙を逃さず、リューイは迫った。 反撃の隙を与えぬように、攻撃を叩き込む。 ヒットアンドアウェイ。 素早いステップで、3撃を加える。 リューイはブリジッタを攪乱させて隙を作り、他の仲間が攻撃しやすいように動いていった。 アリシアが攻撃と支援に集中出来るように、疾走したセシリアが護衛に就き、ペンタクルシールドを展開する。 同時に、目や武器を持つ手など、ブリジッタの意識が逸れそうな場所をタロットカードで攻撃し、援護に動く。 「攻撃と支援に集中してください。その間は全力で守ります」 「はい、ありがとうございます……」 セシリアの護衛を受け、アリシアはクリストフ達の援護をしていく。 「これならどうかな!」 「すかん攻撃や……」 クリストフが傷つきながらも放った斬撃が、ブリジッタを斬り裂く。 同時に、傷口が凍りついた。 氷結斬により更に動きが鈍りながら、ブリジッタはそれでも浴びせるような連撃を繰り出してくる。 動きを阻害されてもなお、猛威を奮ってくる彼女に対して、クリストフ達は連携し、惜しみなく戦力を叩きつけていった。 ギガスへと向かっていたシリウス達もまた、地上と空中の分担に分かれて行動する。 前もって掛けて貰った幻影の魔術によって、接近時のダメージは大幅に減らせていた。 地上に降りて戦う者。 ドッペルに搭乗したまま、援護に回る者。 地上と空中の戦域、2つの連携の下地が出来ていた。 「ルノ、ありがとうな」 最短距離で接近したナツキは、ここまで送り届けてくれたドッペル――ワイバーンに姿を変えたルノに礼を述べる。 「私達は上空から援護する。ナツキ、無理はするな」 「する気はねぇよ。ただ――」 ルーノの気遣いに、ナツキはギガスを見据えて言った。 「もし、人を殺す理由がトールと同じなら、その心配はいらないと伝えたいんだ」 滅びの未来を示されても、ナツキは戦う意志を高める。 「あいつとは全力で挑みたい。そして、その絶望を覆す力と意志がある事を示したいんだ」 ナツキはこの一瞬一瞬を噛み締め、充足を感じていた。 「俺だけじゃない、ルーノも、みんなもいるんだ。なあ、ルーノ、やってやろうぜ」 「ああ。やるぞ、ナツキ」 ナツキの意気込みに、ルーノは苦笑を浮かべて返す。 拳を打ち合い、2人は戦意を固める。 ルーノの視界では、地上の戦いが今も、苛烈さを極めている。 周辺の森全体を揺らす衝撃が、魔女と浄化師達、サクリファイスの残党達の戦闘の激しさを物語っていた。 だが、次第に魔女と浄化師達が押し始め、体力の減ったサクリファイスの残党達を捕縛して回っている。 「ナツキ、今だ!」 「おう、やってやるぜ!」 ギガスの頭上へと移動したナツキは、ルノから飛び降りて接近戦を仕掛ける。 ルーノの呼声に応えるように、ナツキは声を上げ、黒炎を解放した。 「希望を守る牙になれ。解放しろ、ホープ・レーベン!」 解号と共に黒炎が吹きあがる。 理性を保ったままアウェイクニング・ベリアルを発動したナツキは、そこから最大の攻撃を惜しみなく叩き込む。 氷結斬を織り交ぜ、凍結で魔術妨害を試みる。 だが、ナツキの渾身の攻撃を、ギガスは造作もなく回避した。 「お主はあの時、彼女のもとを訪れた者だな」 「久しぶりだな」 思い出されるのは、初めて対峙した時の出来事。 「あの時は何も話せねぇかったけど、伝えたい事があってさ。ここまで来たんだ。相手になって貰うぜ!」 「うむ。その有りよう、善き哉。ならば、儂も汝の心意気に応えるとしよう」 残像が残るほど速く激烈な打突。 ナツキは手にしたホープ・レーベンで、ギガスの初撃を受け止めるも、予想以上の衝撃によろめく。 そのまま、掌底打ちを叩き込もうとしたギガスだったが、それは低空飛行をしてきたルノによって阻まれる。 (動きが速い……!) その間際に、ルーノが放った炎の蛇は、ギガスが後方に跳んだ事によって回避されてしまう。 「どこ見てんだ」 「むっ……!」 上空に上がったルノに目を向けたギガスに対して、ナツキは必中の刃を放った。 防御も回避も不可能な必中の攻撃。 ギガスは大きく切り裂かれ、同時に凍り付く。 氷結斬も込めた一撃は、ギガスの動きを確実に鈍くした。 「ドッペル。他のドッペル達と協力して、上空からの援護を頼む」 地上に降り立ったニコラは、傍で控えているドッペルに視線を向ける。 「ただし、危なくなったら逃げるようにな」 「ドッペルさんは無理しないで下さいね。危なくなったら撤退して下さい」 ニコラとヴィオラの呼び掛けに呼応するように、ドッペルは頷いた。 「ドッペルさん、ここまで運んでくれてありがとうございます」 ヴィオラは、ここまで運んでくれた子に優しく微笑んだ。 ドッペルは皆と協力して戦う為に、他のドッペル達のもとへと舞い上がっていく。 「ヴィオラは、私達の支援を頼む」 「はい、任せて下さい」 デモン・オブ・ソウルを手にしたニコラの言葉に、ヴィオラは応える。 ニコラはギガスに接近して、粉骨砕心3で自身の攻撃力を底上げした。 命中が低下した分、とにかく当たりそうな範囲の広い部分を目がけてデモン・オブ・ソウルを振るう。 ニコラの渾身の力を乗せた一撃が走る。 だが、ギガスはそれを回避すると、一瞬で間合いを詰めてきた。 加えて、ヴィオラが不意を突く形でタロットカードを投擲しても、即座に魑魅魍魎ノ壁で対処してくる。 (速い!) 瞬く間に叩き込まれた拳。 危うく打ち負けそうになるが、ニコラは反撃の献魂一擲を叩き込む。 渾身の力を込め、打ち出すが、ギガスはそれに合わせるように体捌きでかわし、すぐさま間隙を衝いてくる。 それをぎりぎりのタイミングでかわしたニコラは砕石飛礫を使い、ギガスに攻撃を叩き込んでいく。 (攻防一体の構え。簡単には止められんか) 敵の強さを実感しながらも、ニコラはデモン・オブ・ソウルを振るい続けた。 ニコラの攻撃のタイミングに合わせて、ドッペル達がギガスとの距離を詰めていき、その動きを阻んでいった。 (皆さんの支援を。少しでも攻撃に繋げられるようにしたいです) ヴィオラはリヴァースフォーチュンでギガスの攻撃を捌きながら、ニコラ達の連携に気を取られてる隙を見計らい、ギガスのもとへ接近する。 タロットウォールの効果を使いながら、デス・ペナルティを発動。 デスペナルティの効果が切れ次第、その場を離脱し、仲間に回復して貰い再度、接近を試みる。 ニコラ達の連携によって、積み重なっていくダメージ。 急速再生しながら、ギガスはニコラ達の動きに対処していった。 「天使と八百万の神の結界の中、そして身体を削っている状態でこの力か」 上空から見下ろしたシリウスは苦々しく呟いた。 弱体化している影響か、前に偽コルクとして対面した時よりも動きが鈍っているようにも感じられる。 しかし、それでも脅威には変わりない。 「シリウス、気をつけて」 「リチェも無理はするな」 お互いを想い合う言葉を交わし合い、リチェルカーレとシリウスはカノンに乗って、ギガスが居る戦場に向かう。 シリウスはカノンを接近させると、全力を出していく。 「光は降魔の剣となりて、全てを切り裂く」 手にした黒炎魔喰器、蒼剣アステリオスを解号する。 ベリアルリングによる戦力の底上げ。 魔術真名の詠唱も合わせた超常の強化を手にしたシリウスは飛び降り、先に降りたナツキやニコラと挟撃になるように接近していく。 「……カノン。リチェを頼んだ」 旋回するカノンにリチェルカーレを託し、シリウスは駆け出していった。 瞬速の接近。一気に縮まる両者の距離。 シリウスは瞬く間に間合いを詰めると、黒炎解放の力も加えたソードバニッシュを放つ。 先制の一撃。 しかし、ギガスはシリウス達の連携の切れ間を的確に捉え、最小限の動きでそれを回避した。 (弱体化してる状態で、この動きか。ギガスが弱体化している間に片をつけたい) シリウスは一瞬で距離を詰め、死角からの攻撃を繰り出す。 ソードバニッシュと氷結斬を組み合わせ、仲間との連携を意識した。 「カノンちゃん、一緒に頑張ろう!」 リチェルカーレはカノンに乗って、回復と鬼門封印でシリウス達の支援をする。 他の仲間と回復が被らぬように、気を配って動いていった。 戦いが激化していく中、ブリジッタはギガスの戦局へと目を向ける。 「ギガス様、動きに切れがないけん……。あのぎょーらしい結界のせいや」 クリストフ達と対峙していたブリジッタは、剣呑の眼差しで上空の魔方陣を見上げる。 「ギガス様は、『最高』のギガス様やのに……」 「最高?」 「最硬ではないのね」 ブリジッタの謎めいた呟きに、リューイとセシリアは反応した。 「ギガス様は、積み重ねた努力の末に至高の域に到達したベリアル。ゆえに至高たる、最硬にして最高のギガス様やけん!」 「そうなのね」 ブリジッタの語気を強めた口上に、セシリアは納得したように返す。 そのまま、ブリジッタは圧倒的な攻撃力と速度で、四方八方から攻勢を掛け続ける。 止めとばかりにブリジッタが大剣を振り降ろそうとした瞬間、クリストフは反旗の剣を叩き込んだ。 応報の魔術が、クリストフが受けた傷をブリジッタに与える。 「しゃーしい攻撃っちゃ!」 一瞬で無数の傷を受けたブリジッタは急速再生すると、一気にクリストフの間合いまで詰めてくる。 激化する戦い。 その合間に、コルクは傷ついた仲間のもとへ疾走した。 コルクの回復が間に合わない時だけ、アリシアは仲間の傷を癒していく。 「喰らえっちゃ!」 ブリジッタは今度は上空に居るドッペル達に対して、魔法を連打してきた。 上空に滑るように迫る爆炎の嵐。 思わぬ方向からの不意討ちに、ギガスと対峙していたリチェルカーレ達は回避を余儀なくされる。 「カノンちゃん、退避を!」 リチェルカーレは飛び降りて、遠距離から放たれたブリジッタの魔法を雷龍を放ち、迎撃する。 「ルノ、ありがとう」 禁符の陣でギガスの動きを阻害しようとしていたルーノは、ルノを離脱させ、地上へと降りた。 (ドッペルさん、ありがとうございます) ヴィオラは仲間の支援をしながらも、他のドッペル達と共に安全圏へと避難していくドッペルを見送る。 「……あれは!」 「らぷちゃん、一旦、ここから退避するよ!」 ブリジッタのもとへ戦いの加勢に向かっていたショーンとレオノルもまた、らぷを危険領域から退避させた。 上空に居るドッペル達にブリジッタの注意が引かれている隙をついて、リューイが跳び込む。 (魔方陣を見つけて、攻撃できるようにしないと) ヒットアンドアウェイで攻撃し、ブリジッタの動きを誘導する。 セシリアはタロットカードで攻撃しながら、自分へと向かってきた嵐のような斬撃にはリヴァースフォーチュンで返す。 (このままじゃ、ギガス様のもとへ加勢に行けないけん。こうなったら、奥の手っちゃ!) 動きを阻まれたブリジッタは、そこで纏う空気を変える。 (これは……!) リューイは魔力感知で、ブリジッタの魔力の変化を垣間見た。 「大きな魔法がきます!」 リューイはクリストフ達に状況を伝え、注意喚起を促す。 「『フィアトルクス』っちゃ!!」 瞬間的にリューイが警告を発したのと同時に、ブリジッタは上空へと舞い上がった。 勢いよく振り上げられた虹色の大剣から、今までと比較にならない規模の魔力が放射されて、空に巨大な裂け目を描き出した。 その裂け目から、途方もない焔の塊が轟音と共に落下する。 (まずい) ブリジッタの動きに、クリストフは焦る。 (あんなのが地上に落ちたら、大変な事になる) 魔女と浄化師達が、サクリファイスの残党達の大半を捕縛し終えている。 既にこちらに応援に向かう為の準備をしていたが、ブリジッタはそれを見越して強力な魔法を放ってきたのだ。 止めようにも、既に焔の塊は目の前まで迫ってきている。 セシリアが魔術通信で、こちらの状況を連絡しているが間に合わない。 (このままだと止められない……。いや、ギリギリで跳ね返せないか) 焦燥感に急かされるように、クリストフは決断した。 黒炎魔喰器、陽炎剣ロキの特殊能力が発動。 焔の塊が地上に落下しようとした瞬間、逆にそれはブリジッタに跳ね返ってきた。 自らの攻撃を受け、ブリジッタは大きく吹き飛ばされる。 「……許さないっちゃ!」 制止したその距離で、ブリジッタは傷付きながらも立て続けに大技を放った。 暗く響く声に連動し、逆鱗の炎が沸き起こる。 大剣が唸りを上げて、爆炎という赤い軌跡を空に描き、全てを貫徹する威力を秘めて激発する。 反射直後のクリストフを目掛けて、ブリジッタは急降下し、襲い掛かってきた。 (この地は荒らさせん) そこにらぷを接近させ、加勢に来たショーンの狙撃が撃ち込まれた。 「集落の者達の落とし前を付けさせてもらうぞ」 「痛いけん!」 頬を掠めるような一撃に、ブリジッタはショーンに標的を変え、突進しようとする。 「させないよ!」 だが、レオノルのオーパーツグラウンドがそれを許さず、一進一退の距離を保つ。 それはやがて、ショーン達がブリジッタを引き付けている形へとなった。 「左手の甲から、魔力が供給されています」 全体を俯瞰していたリューイは、魔力探知を用いて魔方陣の場所を突き止める。 「分かった」 クリストフはブリジッタの動きを見極めると、まっすぐに飛び込む。 渾身の力を込めた氷結斬。 左手の甲が斬り裂かれ、ブリジッタは力尽きたように崩れ落ちる。 「なしてや。うちは世界を守りたかっただけやけん……」 ブリジッタが呟いた嘆きに、セシリアは彼女との戦いに赴く前からの疑問に触れた。 「不思議なものね。ベリアルである貴女が『世界を守る』というなんて」 「僕たちもそう思うよ。世界を、大切な人の暮らす世界を守りたい」 セシリアの言葉を繋ぐように、リューイは言った。 「私たちの力はちっぽけだけれど、神の意志に従うつもりはないの」 セシリアは、ブリジッタの真意を確かめるように問い掛ける。 「生きようと願うのは罪かしら?」 「……罪やろ」 セシリアの疑問に、身体を起こしたブリジッタは苛立ちをぶつけるように吐き捨てた。 「誰が決めたの?」 「あの御方や。それに、うちが知っている限りの者達は――絶望の未来を見たベリアルは皆、そう思っているけん」 「私はそうは思わない。皆で生きる道を選ぶわ」 ブリジッタは一瞬、呆気に取られたが、すぐに言い返す。 「そんなの不可能っちゃ! 今まで、この終焉の未来を見て、お前達の絶滅を選ばなかったべリアルは居ないけん!」 ブリジッタはギガスに視線を向け、断固たる口調で言い切る。 「ギガス様だって、あの御方の意に従い、お前達を殺してやることが功徳だと思っている筈や。だから、うちはそんなギガス様の力になりたいけん」 独特の響きを伴って発せられた語尾。 アリシアは、必死に言い募るブリジッタの様子を見てハッとした。 「もしかして、あなたは、ギガスの事、を……」 アリシアの問いに、ブリジッタは答えない。 だが、その時、迸った表情だけで一目瞭然だった。 「ギガスといられれば、幸せ、ですか? そうしたら、敵対しないで、くれますか?」 アリシアの想定外の発言に、ブリジッタは時間が制止したように絶句する。 「かつて、必ず討伐しろと言われ、倒した相手には愛する人がいた」 思考に滑り込んだ過去を振り払うように、クリストフは強引に言葉にする。 「ブリジッタ、お前もそうなのか。ギガスと一緒に、どこかで静かに暮らすことを望むかい?」 「――っ」 ギガスの側に居る事。 それはいつか、ブリジッタが思い描いた夢の果てで――。 だからこそ、溢れる想いに、言葉が追いつかないとばかりに戸惑う。 「……無理に決まっているけん。ギガス様には、やらなくてはならない事があるんよ。ずっと側に居る事なんて叶わん」 「やらなくてはいけない事?」 「どういう事だ?」 セシリアと地上に降り立ったショーンの問いに、ブリジッタは覆せない事実だけを口にする。 「うちも詳しい事は知らんっちゃ……。でも、ずっと側に居る事なんて叶わん」 その顔に浮かんだのは、精一杯強がったような、不器用な表情。 思い出すのは、ギガスと初めて出会ったアルフ聖樹森での出来事。 「……うちはそれでも、ギガス様の力になりとーと」 ブリジッタはあの時と全く同じ想いを反芻した。 〇絶対指標 上空に居たリチェルカーレ達が地上に降り、魔女と浄化師達は陣形を取り、ギガスに迫ってきた。 サク達と共に、サクリファイスの残党達の見張りに残っている者も居る。 「後は、ギガスだけみたいだわぁ」 「残党は、これで全てですね」 情勢を見極めていたサクの言葉に、キョウはそれに応える。 (残ったのは儂1人か) 状況を把握したギガスは、破邪の舞と禁符の陣とソーンケージ、3つのアライブスキルを組み合わせる。 攻防一体のアライブスキルへと変化させたギガスはそれを解き放つ。 自身のバッドステータスの一時的な無効化と、シリウス達の動きの阻害、そこに追撃となるソーンケージが叩き込まれた。 魔力で形作られた茨。 限界まで収束させたソーンケージは、固まっていた魔女と浄化師達を貫く。 「動きが……!」 「これは禁符の陣か……。それに複数の魔術を組み合わせる事が出来るのか」 シリウスとニコラの思考は一つの推論を導く。 動きを阻害されたシリウス達に対して、ギガスは更なる攻撃を繰り出そうとする。 そこに、踏み込んできたリコリスが立ち塞がった。 「させないわよ!」 「ああ」 トールは前衛のリコリス達の攻撃に合わせ、援護射撃をする。 リコリスは魔性憑きらしい軽快な動きで、ギガスを翻弄するように立ち回る。 死角に入り込み、連続した蹴りを叩き込もうとした。 疾風の如き速さの蹴り。 風切り音とともに、リコリスが踏み込む。 しかし、その瞬間、強風に吹き付けられたように、リコリスの全身が左に振られる。 (思った以上に、速いわね……!) 攻撃を繰り出されたと気づくまで、一瞬の間を要した。 それ程までにギガスの動作は早い。 今度は、右方向に体を揺さぶられる。 卓越された打突と蹴りが、視認速度を越えて襲いかかってくる。 密度の高い攻撃に晒され、リコリスの体力がじわじわと削り取られていった。 「――来なさい!」 ギガスの圧力に、思わず下がりそうになる自分を鼓舞し、リコリスは前に出る。 リコリスの動きに合わせ、トールは援護するべくギガスに照準を合わせた。 リコリスとギガスの距離が一気に詰まり、激突する。 しかし、その眼差しからは、戦意が薄れることはない。 「まずはブッ倒すわ。生かすかどうかは、それから決める」 リコリスはそう告げると、スポットライトを発動する。 優美な舞踏に魔力を込め、強制的にギガスの意識を自身に向けさせた。 リコリスは的確に致命傷を避け、ギガスの猛攻を凌ぎ続ける。 絶え間ない攻撃の応酬。 だが、喰らっても怯む事なく、シリウス達は次の攻撃に移る。 近接戦闘での壮絶な打ち合いが続いた。 「主らは何ゆえ、あの御方の意思に抗う?」 「……殺させない」 ギガスの拳打を捌き、かわしながら、シリウスは続ける。 「創造神だろうが、三強のベリアルだろうが。もう二度と俺の手の届く場所で、誰も!」 シリウスは決意を込め、前へと踏み込む。 「ギガスさん、わたしは諦めたくないの」 リチェルカーレのその想いが、彼女の意志の強さをギガスに伝える。 「生きる事、皆で手を取り合う事。新しい世界じゃなくてこの世界で。大切な人たちと一緒に」 リチェルカーレは今まで起きた様々な出来事を、しっかりと目に焼き付ける。 そして、心に刻み付けていく。 「だから、だから……神様にだって抗ってみせる」 誰も倒れることのないように力を尽くす。 人の生きようとする強い意志を、リチェルカーレは示した。 想いを持つ相手。 その想いの強さ故に、この戦場に立っている相手。 身体が動かなくなるまで、心が挫けるまで、果ては命を落とすまで戦い続ける。 『その役目は、人である私達がするべき事であり、それが人の贖罪になり得るのですわ』 昔日が囁く。 かって、カタリナがギガスに対して貫いた揺るぎなき意思。 その信念から想起される、様々な思い出が脳裏をよぎる。 それはいつか見た人の行く末で、人の矜持だった。 「うむ、善かろう。主らに譲れないものがあるように、儂とて譲るつもりはない。儂も、殺し魂を捕獲するが存在意義。徒に苦痛を与えるは本意ではない。苦しめず、殺してやろう」 「くっ――」 今までの速度をさらに越える瞬発。 ニコラが反応しきれないほど速い。 そこに、シリウスが一撃を放つ。 蒼剣アステリオスの特殊能力を込めた一閃。 アステリオスの十字斬撃が、物理と魔力全ての防御をすり抜け、ギガスを斬り裂く。 「善き哉」 しかし、それを受けてなお、ギガスは立ち塞がる。 拳打を駆使し、周囲に襲い掛かって来た浄化師全てを打ち倒した。 傷付いた仲間を癒そうと、リチェルカーレとイヴルが駆け寄る。 「そちらには行かせん」 そこに追撃が行われようとしたが、ニコラがギガスの行く手を阻止するように立ち塞がった。 「今の内に距離を取って下さい」 ヴィオラはリヴァースフォーチュンで、ギガスの攻撃を捌きながら声を掛ける。 ヴィオラのサポートで、それまで攻撃していた浄化師達は距離を取り、回復へと向かう。 ニコラ達は息の合った連携で、隙を潰しつつ戦い合う。 ギガスの迷いを確信に変えたい一心で、ニコラ達は前へと突き進んでいった。 激戦に次ぐ激戦。 「むっ!」 ギガスは動きを阻まれながらも、3重の捧身賢術、エクスプロージョン、4つのアライブスキルを組み合わせる。 凶悪な威力を持つアライブスキルへと変化させたギガスはそれを解き放つ。 3重の捧身賢術により強化されたエクスプロージョンは、瞬く間に絶大な威力を炸裂した。 その威力は凄まじく、間近にいるニコラ達だけではなく、周辺に居た浄化師達をも一挙に吹き飛ばした。 戦いは再び、膠着状態に戻っていた。 ギガスの気迫を折るどころか、五分五分の状態に持ち込まれている。 せめてギガスの体力を消耗させる事が出来ていれば良いのだが、一向に衰えない闘気を見るに、それも怪しい。 だが、それは立ち上がったニコラ達も同様だ。 (そう、か) デモン・オブ・ソウルを再び、手にしたニコラは心中で呟く。 1人ではない。 たったそれだけの事で、人は強くなれる。 仲間が居る。 その事実が、決意を何倍にも強くした。 「ギガス、一つ聞きたい。お前は何故、ここに来た」 ニコラは静かに語り掛ける。 「私達を試したかったのか。もしかしたら、こうなる事を望んでいたのか?」 「儂がこの場に来たは、あの者の結末に興味を持ったため」 「イヴルさんの?」 リチェルカーレの躊躇いに、ギガスは仲間の回復に奔走するイヴルを視界に収め、応えた。 「儂の与える死の形は『安楽死』。その考えの是非を知るために、一度は死を望みながら、リシェという八百万の神を生かしたいと思ったであろう、あの者の行く末に興味を持ったまでよ」 ギガスのその発言は、ルーノの心を捉える。 「『安楽死』は必要無い。世界を良くするには創り直しでなく、今を積み重ねて変えていく方法もある」 ルーノの胸中に、過去に抱いた感情と似た想いが再び、込み上げてくる。 「長い時間が必要で越えるべき障害も多い、甘い理想かもしれない」 それでも、ルーノは確固たる意思を示す。 「……しかし、その理想は追うに値する希望だ。これまでの経験が、そう信じさせてくれる」 裏を知れば、同じ事象でも見方が変わる。 見方が変われば、世界が変わる。 ルーノの想いに応えるように、ナツキは続けた。 「トールが言ってたみたいに、ギガスもあのカミサマ、ネームレス・ワンに絶望しかない未来を見せられたんだよな。人を殺すのはその未来が現実になる前に……って事なのか?」 「うむ、その通りだ。儂はあの御方の意に従い、汝らを殺してやることが功徳だと思っている。そこに居るブリジッタも同じく」 ギガスは視線をブリジッタへと注ぐ。 ベリアルの存在理由。 世界に纏わる真実を知った事で、今まで信じてきたものが根本的から崩れ去っていく感覚。 絶望の未来を知ってなお、ナツキは前だけを見据える。 「だったら、心配はいらないぜ。そんな未来は、俺達が変えてやる!」 ナツキのその声は、有無を言わさぬ力強さを孕む。 その言葉は、傷付き、倒れていた浄化師達の勇気を沸き立てる。 ヴィオラは前に進み出ると、その瞳に強い意思を湛えて問い掛けた。 「貴方にはまだ、人の心も残っているのではないのですか?」 今までの戦いを通じて、ヴィオラの中に生じた躊躇。 時を忘れ、我を忘れ、全てを省みずに一心に突き進む。 それは、人もベリアルも同じなのかもしれないと――。 「人を害さず、生きることはできませんか? 私達は、貴方を生かしたいのです」 人とベリアルは根源的に繋がらない。 不可視の関係性。 それでも――。 (この先の戦いを乗り越えれば、ベリアルとも生きる事が出来る筈だと信じていますから) ヴィオラは、ベリアルを神の呪縛から救い、彼らによって囚われた魂を解放する手段がある事を願う。 「うむ、善かろう。ならば、その力を示してみるが良い」 ギガスは再び、戦いへと意識を向ける。 そこに、リューイ達がブリジッタとの戦いを終え、駆け付けてきた。 「僕達は、僕達にできることを」 リューイはそう言うと、戦闘乱舞と流麗鼓舞を仲間に掛け、自分の役割をこなすために走り出す。 「行こう」 「ええ」 セシリアと言葉を交わし、戦闘態勢へと入る。 「ショーン、私達も行くよ!」 「はい、ドクター」 レオノルの呼び掛けに、ショーンは応えた。 ドッペル達は離れ、全ての浄化師達が大地に着地する。 距離を保ったシリウス達とギガスが対峙した。 この休戦は言わば、暗黙の合意。 もう、次のインターバルはない。 言葉は無くとも、睨み合う互いの目がそう告げている。 合図はなかった。 だが、まるで示し合わせたように、シリウス達は動いた。 強烈な意思の衝突。 赤く仄暗い残光が走り、シリウス達とギガスが激突する。 シリウスはそのまま、二撃三撃と連続して攻撃を繰り出す。 接近時は攻撃に集中し、意識をより先鋭化する。 自分の意思の在り処。 膨れ上がっていく自分の思い。 それを形にするために。 「これで決めるわ!」 リコリスは攻撃を避けながら間合いを詰め、蘭身撃による蹴りを叩き込む。 「ああ、これで終わらせる」 前衛の攻撃に合わせ、トールは援護射撃を放つ。 決着への飛翔。 双方、万全の体勢で最後の交錯に挑む。 いずれも、一撃に込めた威力を物語っていた。 そこにルーノが距離を詰め、禁符の陣で動きを阻む。 「ナツキ、頼む!」 「任せとけ!」 ギガスの動きを止めたルーノと入れ替わり、ナツキが前に出る。 禁符の陣で動きが鈍ったギガスに氷結斬。 既に黒炎解放の効果は切れていたが、全身を凍りつかせる。 ナツキ達がギガスの動きを止めている間に、リコリスは仲間達と連携し、奮闘していった。 ギガスは次第に追い詰められていく。 そこから止めへと繋げるため、リューイが跳び込んだ。 反撃の隙を与えぬように、攻撃を叩き込む。 「全身の再生に連動して、心臓部から魔力が供給されてるよ」 レオノルは魔力探知で、冷静に魔方陣の場所を見極める。 「これで決める!」 急速再生されるその前に、シリウスの攻撃が放たれる。 ソードバニッシュと氷結斬を組み合わせたその攻撃は、ギガスの強度な防御を突き破った。 尾羽打ち枯らし、それでもどこか満たされたようなギガスの姿。 だが、浄化師達は、ギガス達に止めを刺さない。 「ギガスを生存させるなら、ブリジッタも殺さない」 「うちも?」 リコリスの言葉に反応して、ブリジッタは目を見開いた。 「片方だけ殺すのは筋が通らないって、ギガスが怒るかもしれないもの」 そう応えるリコリスの瞳に迷いはなかった。 「生存させることでどうなるかは分からないけど、悪い方向に行かなければいいな……」 トールは不安を募らせる。 それでもようやく、霧がかかっていた未来の道標がはっきりと輪郭を伴って見えてきた――。 戦いは決着を見せる。 それでもまだ、大地は荒れていて、激しい戦いの残り香を漂わせていた。 だが、戦いが帰結した今、リシェがプリムローズ達によって狙われる事はない。 「これで、リシェ様を守る事が出来たみたいだね」 「そうですね」 レオノルが満足げな笑みを広げて言う一方で、ショーンは安堵の表情を浮かべる。 「……分からん。どうして、うちらを助けたんや?」 「私達は、皆で生きる道を選ぶわ。ベリアルである貴女達も含めてね」 セシリアは戸惑うブリジッタを意識して語り掛けた。 「あら、何処に行くのかしら?」 反射的に動こうとしたギガスを、サクは先んじてその動線を塞いだ。 「愚者たるアレイスターのもとよ」 「アレイスターさん?」 ギガスの発言に、リチェルカーレは首を傾げる。 「儂ら、三強の一番の目的はアレイスターなり」 「一番の目的? どういう事だ?」 ニコラの疑問に、ギガスは振り向いた。 「もしかして、それがブリジッタの告げていた、やらなくてはいけない事かな?」 「うむ」 クリストフの指摘は正鵠を射ていた。 「儂ら、三強は、最初はアレイスターを倒すべく、3人で集まって探しておった。だが、それを知ったアレイスターは隠れてしまい、配下のホムンクルスを動かすだけになってしまった」 ギガスは事実を如実に語る。 「3人で集まっているとアレイスターが出て来ないことを確認した儂らは、その後は個別に分かれて探索しておった。その合間合間に、儂はサクリファイスなどと関わる内に、そちらに重きを置くようになっていった」 カタリナ達と邂逅を果たした、過ぎ去りし日々――。 ギガスは過去を顧みたのか、捕縛されているプリムローズの姿を注視する。 他の三強、トールとコッペリアもまた、ギガスと同様に浄化師などに関わる内に、そちらに重きを置くようになっていった。 「今ではアレイスターを殺すことよりも、自分達が関わった相手との決着を付けたり、関わった者達の行く末を見極めることに重きを置くようになっていった」 (つまり、アレイスターは共通の敵といったところでしょうか) ギガスが伝えた事の経緯に、キョウは状況を噛みしめる。 (三強の目的が、アレイスターかぁ。それにサクリファイスに重きを置くようになったってことは、カタリナと縁が深かったから、イヴルに興味を抱いたってことも考えられるね) ギガスの話を踏まえて、レオノルは状況を把握した。 (魔結晶を渡してイヴルの手助けをしたり、イヴルの誘いに応じたのもそういう理由からだろうね) レオノルは、イヴルを物言いたげな目で見つめる。 「アレイスターを討ち獲るまでは、お主らの申し出は可能な限り、守ろう」 ギガスのその決意は、どこまでもブリジッタを奮い立たせた。 「ギガス様、うちも一緒に行くっちゃ!」 「お主を、アレイスターのもとへ連れて行くわけには行かぬ」 ブリジッタは表情を曇らせる。 だが、たとえ、その願いが拒まれようと、ブリジッタはひたむきで真摯な想いを口にした。 「だったら、暫くの間だけでも同行させてほしいけん」 「……うむ、善かろう。ならば、暫しの間、お主の同行を認めよう」 「ギガス様、ありがとうっちゃ。感謝しとうよ」 ブリジッタはこれ以上なく、喜びを噛み締める。 自分の想いに、ギガスが応えてくれる。 これがブリジッタにとって、どれほど心の拠り所になったのか。 ギガスはきっと、知らないだろう。 「近いうちに、また。汝らとは会うことになるだろう」 ギガスはその言葉を残して、ブリジッタと共に宙に浮かび、飛び去っていった。 最後の一瞬、イヴルはギガスと視線が通うのを感じた。 やがて、リシェがコルクとドッペル達に連れられて、この場に訪れる。 浄化師達の召喚に応じた後、避難した集落の住民の元で、他の八百万の神と共に守られていたのだ。 「イヴル、みんな」 「おう、力、貸してくれてありがとうな」 「うん、私の方こそ、助けてくれてありがとう」 ナツキの感謝の言葉に、リシェもまた、深謝し、小さく微笑んだ。 「リシェ、すまない。私は教団に戻らないといけない」 イヴルが目線を合わせると、リシェは指切りを求めるように小指を立てていた。 幼い頃、カタリナと交わした約束の証。 痛切なる懇願の仕草を前にして、イヴルは強烈な既視感を覚える。 「イヴル、また、会いに来てほしいの」 「ああ、約束する」 イヴルがそう答えた瞬間に、咲き零れたリシェの笑顔。 やがて、イヴルは愛おしそうに笑いながら、そっと指切りした。 イヴルとリシェ。 行く先の違う2人に、荒涼のざわめきはただ、等しく駆け巡っていた。 アルフ聖樹森の上空。 その真下では、戦いが終結した事で、集落の住民達が元の営みに戻っていた。 「あの浄化師どもに出会ってから、変な感じや」 ブリジッタは複雑な心境を抱いたまま、そう呟く。 「命を救われたけん……。それに変な事を言ってきたけど、うちにはそういうの、難しいんよ」 消え入るようなその独白には、微かに自嘲の陰りがあった。 「ギガス様、あの辺りやけん。うちが、ギガス様と出会ったのは」 「うむ、そうだったな」 ギガスは懐かしむように、ブリジッタが示した森の一角を見つめる。 「ギガス様と出会った時、集落の人間の子供が、うちらに遊ぼうと言ってきたやん。すぐに人間が来て、子供を必死に連れて行きよったよんよ」 様々な記憶の断片が、ブリジッタに一つの真実を呼び起こす。 「そういえば、あの八百万の神を守っていた浄化師どもも必死だったけん。それってもしかして、うちがギガス様の力になりとーと、と思っているのと同じだったんやろか」 「そうかもしれぬな」 ブリジッタが発した疑問に、ギガスは応える。 ギガスは人類愛を持ったベリアル。 人を愛するが故に、苦しませずに殺そうとしていた。 サクリファイスなどに惹かれ、関わった者達の行く末を見極めることに重きを置くようになっていった。 そして、ひとつの決着を垣間見た際に、浄化師達によって殺されずに生かされた。 だからこそ、ギガスは、その分の借りは返す形で、アレイスターを討ちに行く。 いつしか微睡む森を抜け、凍てつく月がギガス達を照らしていた。 「空がざわめいているっちゃ。戦いが近いのかもしれん」 ブリジッタは確信を込めて言った。 天は星月の囁きに充ちて、地にある統べてを慈しむ。 繰り返した遠い記憶には還れない。 幾度と過ぎる陽の眠り。 一時の喜びに、永遠を描いて。 焔の道を差し示す――。
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*** 活躍者 *** |
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[28] ナツキ・ヤクト 2020/09/11-22:38
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[27] クリストフ・フォンシラー 2020/09/11-21:53
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[26] リコリス・ラディアータ 2020/09/11-21:49
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[25] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/11-21:23
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[24] クリストフ・フォンシラー 2020/09/11-21:21
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[23] ナツキ・ヤクト 2020/09/11-21:18
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[22] クリストフ・フォンシラー 2020/09/11-21:07
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[21] ナツキ・ヤクト 2020/09/11-20:21
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[20] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/11-19:35
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[19] ナツキ・ヤクト 2020/09/11-11:56 | ||
[18] サク・ニムラサ 2020/09/11-01:44
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[17] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/11-00:34 | ||
[16] クリストフ・フォンシラー 2020/09/10-22:09 | ||
[15] ニコラ・トロワ 2020/09/10-21:25
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[14] リューイ・ウィンダリア 2020/09/10-20:09 | ||
[13] ナツキ・ヤクト 2020/09/09-23:03 | ||
[12] クリストフ・フォンシラー 2020/09/09-17:58 | ||
[11] リコリス・ラディアータ 2020/09/09-13:27 | ||
[10] キョウ・ニムラサ 2020/09/09-02:12
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[9] シリウス・セイアッド 2020/09/08-23:13 | ||
[8] レオノル・ペリエ 2020/09/08-23:04
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[7] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/08-22:51 | ||
[6] ニコラ・トロワ 2020/09/07-22:00 | ||
[5] リューイ・ウィンダリア 2020/09/07-20:49
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[4] リコリス・ラディアータ 2020/09/07-10:14 | ||
[3] クリストフ・フォンシラー 2020/09/07-00:23 | ||
[2] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/05-11:33 |