~ プロローグ ~ |
教団本部室長室。 |
~ 解説 ~ |
○目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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1 もう各地で決戦が始まってる マリエル達も忙しくしてる 全ての決着がつく前に、リントに俺の家族を紹介しておきたい 休暇を申請し故郷の小さな港町へ かなり復興が進んで、ほとんど元通りなことにほっとしつつ 家族の墓参りに 父さん、母さん、アイリ(妹)…ただいま 今までろくに来れなくてごめん 皆の仇は…多分倒してもらえたし、色々あったけどひとまず落ち着いたから会いに来た パートナーも紹介するよ リントはちょっと意地悪なとこもあるけどいい奴なんだ 保護直後は、まだ祓魔人の素質が見られなかったんだ だから俺を浚った夜明け団について調べたくて、教団を出て探偵を始めたんだ まあ一応、学校には通わせてもらったし、お金も返さないとって… |
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…いや アンタも居てくれシキ …聞かせてくれ、ケーラ アンタは…俺がその『ギード』だって思ったのはなんでなんだ 赤子だった自分はすっかり成長している為、そう簡単に分かるものか? と疑問 …ギードは私にそっくりだった それに、どうしてかこの子はギードに違いないって思ったの と続けるケーラ そして「あなたが知りたいのは これじゃないわよね」と少しずつ話を始めたケーラ 自分が産まれて間もない頃に父親がベリアルになり そのまま行方知らずになったことを知らされる 自分の子までベリアルになることを想像したら怖くなり 子供と別れる選択を選んだという ケーラ 俺はベリアルにはならない |
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■4 ニホンの源隆斉と万斉に会いに行く 美味しい水羊羹(84話)のお返しとして、二人で選んだ甘い菓子を手土産にする ナツキはルーノや自分の事を楽しそうに話し、 源隆斉と万斉や両親の事も遠慮せず尋ねる これまで離れていた分の時間を、少しでも埋めたいと考えて 真神武士八家へ取り次いでくれた一 ヤマトタケルとの一戦で共闘した青葉、素月 選定試合で戦った茜と葵 みんなはどうしているかと自然と話題に 家族の近況を聞ける事がナツキにとっては嬉しい 色々な人のおかげで手に入れた家族との時間を大切に過ごす どんな戦いがあっても絶対にここに帰って来ると心に決めて、帰り際に振り返り ナツキ:いってきます! その時は当然ルーノと一緒のつもりで |
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サンディスタム ヘリオポリス 砂塵の影響を受けやすいこの地域の中では整理された区画 サンディスタム王の一件の時は暇がありませんでしたが… 一人アークソサエティに渡ってから一度も戻らずにいた家 両親も支部勤めの教団員。何かがあれば知ること位は出来るはず それに、頻繁に戻るほど暇な訳でもなかった 無意識に避けてきたのかもしれない 仲良とには程遠い しかし不仲ではなく「知らない」のが本音 甘えたい盛りの年は二人とも研究に忙殺されていた 自然な親子会話の仕方なんてもはやわからない 高い塀に囲まれた屋敷の庭から楽器の音色 父だ うまくはない 練習をする暇もなかったものね 屋敷の奥から聞こえる母と乳母の声 過渡期を過ぎ余暇が出来たのだろう |
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虚栄の孤島に…リア姉様に、会いに、行きます 開発の時に、何度か行ってますけれど 個人的な話を、してる場合じゃ、なかった、ですし 聞きにくかった、のも、あります、し… 姉様、正直に、答えて下さい 姉様は、アンデッド、なのですか? 姉の視線を追ってクリスの顔を見て クリスは…知ってた、んですね…? いいえ…私の為を思って、黙ってたのは、分かりますから… それなら、私、姉様に言いたい事が、あったんです 姉様、アンデッドになってでも生きててくれて、ありがとう… おかげで、また会えました 姉をぎゅっと抱き締めて クリスの言葉に少し笑って だって、クリスもアンデッドですもの… 抵抗は、ないですよ? そうですね、私も、姉様と帰りたいです… |
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ギガス戦の後 酷い怪我をしていたのにシリウスが医務室に顔を出さないと聞き彼を探す 中庭の奥 入り組んだ生垣の奥にある秘密の花園 大きな樹の根元に座るシリウスを見つけて 疲労の滲む顔に 黙って隣に座る …痛む? シリウスの「大丈夫」と「問題ない」は 信用しないことにしているの 天恩天嗣をかけながら 小さな声で あのね、シリウス あなたの村がなくなったのは あなたのせいじゃないわ ルシオさんに聞いたの 悪い大人がついた嘘だって 居場所がないって思わせる為に 小さなあなたに刷り込んだんだって…怒ってた あなたのせいじゃない あなたは悪くない ねえシリウス 悪い人の言葉とわたしの言葉、どちらを信じる? やっと浮かんだ笑顔に ぎゅっと彼を抱きしめる |
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…なんか騒がしいと思ったらシロスケじゃない 何してるの? 机の上に散らばる書類に目をやりふぅんと一言 また変なことしてるわねぇ まさかこんな封印された吸血鬼だなんて大ボラ信じてるわけないわよね? 私が教団に来たときになんか知らないけど変に広まった噂よ 嘘に決まってるじゃない 大体にして、私のこと調べたってよっぽど上手く調べない限りは何も見つからないと思うわよ だって、肝心の私でさえ私自身のことよく理解してないもの ポカンとするシロスケを見て小さく笑う ハッタリや嘘じゃないわよ ホントに気になるなら死に物ぐるいで調べてみなさいな なんか見つけたら…そうね。いいこいいこして頭ぐらいは撫でてあげようかしら? |
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私達は、蓮と睡蓮だった ちがう花だけれど、とってもよく似ている まるで私達みたいって、幼い日 あの子と、水面に揺れる睡蓮を眺めて言った 「なんで……?メイ……」 「なんで私じゃなかったの……?」 妹は私よりも適合する人を見つけた 私とだって契約できたのに、あの子の隣は私じゃなかった 私には、あの子しかいなかったのに あの子は優しかった だから、慰めさえひどく無責任に見えて 明日、メイは教団に引き取られる 澄み渡る夜、蓮華が咲く頃 私はあの子を…… 殺してでも私はなりたかった 選ばれたかった それを望んだ でも、どうしてだっけ どうして私は浄化師になりたかったんだっけ ああ、そうだ 気づいたときには 遅かった その夜、私は片腕と 妹を失った |
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~ リザルトノベル ~ |
家族との縁と絆を深め、あるいは過去の自身を知るための指令。 参加した浄化師達は、それぞれ動いていた。 ●相棒とお墓参り 決戦への足音が近付く中、『ベルロック・シックザール』は『リントヴルム・ガラクシア』に呼び掛けた。 「リント、連いて来て欲しい所がある」 真面目な表情のベルロックに、リントヴルムは迎え入れるような笑顔を浮かべ応えた。 「嬉しいね、デートのお誘いかな?」 「違う」 小さくため息をつくように返し、ベルロックは言った。 「俺の家族のことを、アンタに紹介したい」 「……そうなんだ」 リントヴルムは静かにベルロックを見詰める。 それが続きの言葉をねだるように待っているのだと感じ取ったベルロックは、自分の思いを告げた。 「もう各地で決戦が始まって、マリエル達も忙しくしてる。その時は近付いてる筈だ。だから、全ての決着がつく前に、リントに俺の家族を紹介しておきたい」 「分かったよ」 リントヴルムは愛でるようにベルロックを見詰めながら応えた。 「僕も、君の家族のことを知りたい。今日は僕が代表して会いに行くよ。マリー達はまた今度誘って来ようね」 「ああ」 静かに頷くベルロックだった。 そして2人は休暇を貰い、小さな港町へと訪れていた。 「ここが、ベル君の故郷なんだ」 「ああ」 興味深げに周囲を見回すリントヴルムに、ベルロックは穏やかな声で応える。 それに気付いたリントヴルムは、明るい声で言った。 「嬉しそうな顔してるよ、ベル君」 「……そうか?」 「うん。ほっとしてる顔だね」 (ほっとしてる、か……) リントヴルムの指摘が、すとんとベルロックの胸に落ちる。 (そうだな……そうかもしれない) べリアルに襲われ壊滅させられた故郷。 そこへと戻ろうとしたのは区切りをつけるため。 だから、故郷がどうなっているかは、あまり考えないでいた。 (怖かったのかも、しれないな) ふと、そう思う。 懐かしい、二度と取り戻せない過去と向き合うのが怖かったのかもしれない。 けれど戻って来た故郷は、復興を始めている。 だから、ほっとした。 家並みや、そこに住む人々は変わってしまったかもしれない。 けれど故郷は、変わらずここにあった。 (俺独りなら、今日ここに来ることは出来なかっただろうな) きっと、それは真実だ。 「どうしたの? ベル君」 見詰めて来るベルロックの視線に気づいて、リントヴルムは悪戯っぽく返す。 「ひょっとして、見惚れちゃった? 僕のこと」 いつもと変わらぬリントヴルムに、ベルロックは苦笑すると足を速める。 「馬鹿なこと言ってないで、早く行くぞ」 口ではそう言いながら、リントヴルムが連いて来れるような速さで進むベルロック。 「かわいいなぁ、ベル君は」 くすくすと笑いながら、追いかけるリントヴルム。 そして2人は、港町の外れにある墓地へと訪れた。 「父さん、母さん、アイリ……ただいま」 両親と、そして妹の眠る墓前に訪れ、ベルロックは帰郷を告げる。 彼の隣に寄り添うリントヴルムは、普段と変わらぬ表情で。 けれど静かに佇んでいた。 僅かな間、穏やかな沈黙が流れる。 溢れる想いを言葉に繋げる間を空けて、ベルロックは言葉を続ける。 「今までろくに来れなくてごめん。皆の仇は……多分倒してもらえたし、色々あったけどひとまず落ち着いたから会いに来た」 そしてリントヴルムに視線を向けたあと続ける。 「パートナーも紹介するよ。リントはちょっと意地悪なとこもあるけどいい奴なんだ」 「初めまして、パートナーのリントです。こう言ってるけどベル君は本当は僕のことが大好きだから心配しないでね」 気安い掛け合いを交わしながら、今と、そしてこれからのことを墓前に報告する。 2人の言葉に返すように、穏やかな風が流れていった。 そして墓前への報告が終わり、2人は帰途に就く。 道中、リントヴルムは以前から気になっていたことをベルロックに尋ねた。 「この町がベリアルに襲われた後、教団に保護されたんだよね? どうして教団に入らず外で探偵なんてやってたの?」 「保護直後は、まだ祓魔人の素質が見られなかったんだ」 当時を思い出しているのか、懐かしそうに目を細めながらベルロックは返す。 「だから俺を浚った夜明け団について調べたくて、教団を出て探偵を始めたんだ。まあ一応、学校には通わせてもらったし、お金も返さないとって……」 「……え、それじゃあ祓魔人になった時教団には黙ってたわけ? 自分の力で調べたかったから? 放っといたら死ぬかもしれなかったのに? お金返すにしたって教団にいた方が安全だし仕事もあるじゃん絶対」 ベルロックの言葉を聞いたリントヴルムは、目を丸くして驚いたように言った。そして―― 「はあ……ベル君ってホント放っとけないよね」 思わず抱きしめながら、感謝する様に言った。 「あの時、出会っておいて良かった」 その言葉に返すことが出来ず、顔を赤く染めながら、抱きしめられるベルロックだった。 ●母子対面 母子が向かい合う。 それは邂逅にも近い再会。 生まれて間もない自分を置き去りにした実母(ケーラ・ブリーゲル)を、『アルトナ・ディール』は静かに見つめていた。 彼の隣に座っている『シキ・ファイネン』は、どこか場違いな気持ちになる。 (俺、ここに居ても良いのかな?) いま3人が居るのは、ケーラの自宅だ。 アルトナが養父であるツェーザルに会いに行き、そこで彼から、ケーラが実母であることを知らされたアルトナは、彼女に当時のことを聞くために会いに来ていた。 (どうしよう……) 沈黙を続けるアルトナにちらりと視線を向けながら、シキは考える。 ケーラの自宅に訪れ部屋に案内されたあと、お茶を出され向き合っていたのだが、そこから話が進まない。 すでにお茶が冷めるほど、時間が経っていた。 (俺が居るから、話せないでいるのかな……?) 思い悩んだシキは、アルトナに問い掛けた。 「うーん……これ俺も居ていーの? アル。話し終わるまでその辺にいようか?」 「……いや アンタも居てくれシキ」 じっと視線を合わせ、アルトナは応える。 その眼差しを見て、シキは余計にアルトナを放っておけなくなった。 「アルが良いなら……」 シキの応えに、どこかアルトナの表情が和らぐ。 それは安堵するような柔らかさがあった。 ケーラはアルトナの表情に気付くと、僅かに目を細め、アルトナの言葉を待っていた。 彼女の様子を見て、シキは思う。 (アルって雰囲気から見た目までこの人に似てる……かも) シキの視線に、ケーラは気付かない。 それほどにアルトナを見詰めている。 アルトナは、その眼差しに返しながら、踏ん切りをつけるように軽く息をつく。 そして過去と向き合うように表情を引き締め、実母であるケーラに問い掛けた。 「……聞かせてくれ、ケーラ」 ケーラはアルトナの言葉を聞きのがすまいとするかのように黙っている。 熱を込めた視線を向けるケーラに、アルトナは続けた。 「アンタは……俺がその『ギード』だって思ったのはなんでなんだ」 純粋に疑問を口にする。 「アンタが『ギード』を置き去りにした時は赤子だった筈だ。今の俺を見て、なんでそう思った」 すっかり成長している自分のことを、そう簡単に分かるものか? それは恨み言ではなく、純然たる疑問。その問い掛けを聞いて―― 「……」 ケーラは小さく息をつく。 それはまるで、息子から最初に掛けられた言葉が憎しみではないことに安堵しているようにも見えた。 ケーラは静かに語っていく。 「……ギードは私にそっくりだった。それに、どうしてかこの子はギードに違いないって思ったの」 自嘲じみた笑みを浮かべ、続けて言った。 「あなたが知りたいのは これじゃないわよね」 「……」 肯定も否定もしないアルトナに、ケーラは当時の事情を話していく。 「貴方が生まれて間もない頃にあの人が……貴方の父親がべリアルになったの」 淡々と事実を語っていく。 「べリアルになったあの人は、あの人じゃなかった」 当時を思い出しているのか、恐怖を飲み込むような声で続ける。 「顔はね、あの人のままだった。同じ顔のままで、見た事のない表情で、殺そうとしたの。私と……貴方を」 語る毎に視線を伏せる。 「怖かった。怖くて……逃げ出した。どうやって逃げ出したか、覚えてないわ。逃げて逃げて……あの時、貴方の泣き声で気付かれて追い付かれるんじゃないかって思いながら逃げ続けたの……」 喋る毎に血の気が引いていく。 それでも気丈さを見せながら、その時のことを話し続けた。 「逃げ続けて、逃げた先に家があって、少しの間だけ匿って貰ったの。そのあと……そこに居続ける訳にもいかないから、家に戻って……その時には、あの人は居なかったわ。でも――」 そこまで言うと、懺悔するように続けた。 「貴方は居た。怖かったの。貴方も、あの人と同じようにべリアルになるんじゃないかって。怖くて、だから……貴方を置き去りにした」 「……」 無言のまま、アルトナはケーラの言葉を聞き終えた。 (アルくん……) アルトナの隣で話を聞いていたシキは、アルトナの反応が気がかりになり表情を見詰める。 その表情は、どこか穏やかだった。 落ち着いた声で、アルトナはケーラに言った。 「ケーラ。俺はベリアルにはならない」 母とは呼ばず、けれど誓うようなアルトナの言葉に、ケーラは伏せていた視線を上げ、我が子を見た。 静かに、アルトナとケーラの2人は、お互いを確かめ合うように見詰め合う。 (……うん、そっか) アルトナの言葉と様子に、シキは思う。 (俺が心配することじゃないか) 安堵する様に思うシキだった。 ●帰省 「よく来たな従兄弟殿!」 ぶんぶん尻尾を振りながら、『ナツキ・ヤクト』の従兄妹である茜が、同じく従兄弟である葵と共に迎え入れる。 「ルーノ殿もよく来たな! 今日は泊っていくのか!」 「茜、それぐらいに。今日2人は、お爺様に会いに来たのですから」 苦笑する様に葵は止めると、ナツキと『ルーノ・クロード』に視線を向け言った。 「お爺様は、応接間でお2人をお待ちしています。案内しますので、どうぞついて来て下さい」 葵に促され、ナツキとルーノの2人は源隆斉と万斉の待つ応接間へと進む。 その合間に、ルーノはナツキに問い掛けた。 「家族水入らずで話をしなくていいのかい?」 「ルーノが一緒じゃダメなのか?」 「駄目ではないが……」 考え込むルーノに、葵と茜が言った。 「ルーノ殿とお会いすることを、お爺様も楽しみにされています」 「そうだぞ! せっかくだから、お爺様と話してあげてくれ!」 2人の言葉にルーノが苦笑していると、応接間へと辿り着く。 「どうぞ」 葵に促され、ナツキとルーノは障子を開けて部屋に入る。 そこでは源隆斉と万斉が、お茶の用意をして待っていた。 「よく来たな」 「立っているのもなんだ。座りなさい」 源隆斉と万斉に迎え入れられ、ナツキは笑顔で返す。 「ただいま! じいちゃん!」 元気なナツキに、源隆斉と万斉は苦笑する。 すると源隆斉がお茶をたてはじめ、万斉が座る場所を指示した。 「そこと、そこに座ると良い。気兼ねせずとも好い。今日は、2人は客人として迎えるのだからな」 2人は座ると、ナツキが持って来ていたお菓子の箱を万斉に渡す。 「これは?」 「アークソサエティのお菓子だよ。水羊羹、美味かったからさ。そのお礼に持って来たんだ」 「ほぅ?」 万斉が包みを広げ箱を開けると、中に入っていたのは色々な種類のクッキー。 「美味いんだぜ。食べてくれよ」 にこにこ笑顔でナツキは言った。 それはクリスマスの時に購入したクッキーを売っていたお店のものだ。 「ちょうど良い。茶菓子として貰うとしよう」 そう言うと万斉は、用意されていた花を模した茶菓子の入った皿に、ナツキが持って来たクッキーを載せる。 それを皆に配り終えた頃、お茶をたて終った源隆斉が、まずはルーノに茶碗を渡す。 「格式ばった作法は気にせず、飲んでみなさい」 穏やかな声で、源隆斉は言った。 そしてお茶会が始まる。 喉を潤し、お菓子を口にして、味について話をして場が温まって来た所で、ナツキは尋ねた。 「あの、さ……父さんと母さんのこと、聞いても良いかな?」 これに最初に応えたのは源隆斉だった。 「お前に良く似た娘であった」 静かに続ける。 「快活な性格をしておってな。男勝りな所もあり、周りを引っ張っておった」 源隆斉のあとに、万斉が続ける。 「引っ張られておったのは、お前の父も同じでな。幼いころは、よく後を付いて行ったものよ」 「そうなんだ……」 懐かしそうに話してくれる源隆斉と万斉に、ナツキの心の中に温かい物が生まれる。 その温かさに促されるように、会話は弾んでいった。 「一は、今どうしてるんだろ?」 真神武士八家へ取り次いでくれた一の話をしたり―― 「みんな強いよな。青葉おじさんや素月おじさんもそうだし、茜や葵だって、手合せしてみて強いって思ったよ」 家族である皆の話をしていく。 源隆斉と万斉は話の聞き役に回り、そこから話を振ってくる。 「茜と葵は、アークソサエティに留学することになろう。その時は、世話を掛けるかもしれんがよろしく頼む」 「そうなのか!? 任せてくれよ! その時は、出来る限りのことをするよ!」 笑顔を浮かべ打ち解けていくナツキ。 それをルーノは心地好く見ていた。 (せめて邪魔をしないように……) 気を使いつつ、つい大げさ過ぎる所を突っ込んだり、ナツキが覚えていない部分を補足したり。 いつの間にか、ルーノも話の輪に加わる。話を交わしながら、ルーノは思う。 (お家騒動と聞いた時の懸念はもう無い。あの時話を進めてよかった) 笑顔を浮かべるナツキを見て、心からルーノは思った。 楽しい話は過ぎ、やがて帰る時間になる。 「また、いつでも来い」 「待っておる」 源隆斉と万斉、そして茜や葵に、門の前まで見送られる。 皆の顔には、家族を送り出す気安さがあった。 ナツキは、それが嬉しい。 (……全部失くしたと思ってたのに、教団の他にもう一つ帰る場所が出来た気がする) 家族の居る場所。 (ここにルーノと帰って来る、そんな未来を勝ち取りたい。諦められない理由、また増えちまったな) 想いを胸に、帰途に就く。 見送られながら歩き始めた所で、ルーノを見詰め誓うように言った。 「ルーノ。俺、どんな戦いがあっても絶対にここに帰って来る」 「ああ、もちろんだ」 約束する様に、2人は拳と拳を打ち合わせる。そして―― 「いってきます!」 後ろを振り返り声を上げると、家族が手を振り声を上げ送り出してくれた。 ●突撃、実家訪問 サンディスタム、ヘリオポリス。 実家のある、その場所に、『ヨナ・ミューエ』は訪れていた。 (サンディスタム王の一件の時は暇がありませんでしたが……) 独りでアークソサエティに渡ってから一度も戻らずにいた家。 そこへの足取りは重い。 今、両親がどうなっているのかを知らない。 両親も支部勤めの教団員である以上、何かがあれば知ること位は出来るはずという気持ちはあった。 けれど積極的に知ろうとも思わなかった。 より正確に言えば、知ろうという気持ちを持てなかったと言うべきだ。 (頻繁に戻るほど暇な訳でもなかった。でも、無意識に避けてきたのかもしれない) 両親との仲は、良いというには程遠い。 しかし不仲ではなく『知らない』というのが本音だ。 甘えたい盛りの年は2人とも研究に忙殺されていたせいで、自然な親子の会話の仕方なんて最早分からない。 (両親は今、魔喰器の管理を任されている筈) 仕事に意識を向けるようにして実家へと進む。 けれど近付くにつれ、どうしようもなく足取りが重くなる。 (この角を曲がれば家の門――) そこまで近づいて、足が止まる。 (帰って何を話せばいい。浄化師の指令の事? 創造神の事? ベルトルドさんの事? 何を話したって家族は歓迎してくれるだろう。それでも――) 敷居は高い。 そう思ってしまい、進めなくなる。 そこに気安い声が掛けられた。 「ここまで来て何を迷ってるんだ」 不意に落ちて来る言葉。それは―― 「ベルトルドさん!?」 パートナーである『ベルトルド・レーヴェ』の声だった。 「来てたんですか!?」 羞恥で顔が赤くなる。 それを誤魔化すように、ヨナは声を上げた。 「確かに帰るとは伝えていましたけど来るなら言ってくださいよ!」 これにベルトルドは、ひょいっと触れ合うことが出来るほど近付き言った。 「可愛いパートナーが気になってな。ほら、もう諦めろ。会いに来たんだろう?」 「そうですけど……ちょっと手を引っ張らないで、まだ決心が」 口では拒絶するようなことを言いながら、けれどその実、ただのポーズ。 (そうやって躊躇している私をこうして引っ張り上げてくれるんですね、ベルトルドさんは) 分かっている。自覚している。 けれどそれでも良いと、ベルトルドの優しさに甘えている。 ベルトルドに手を引かれ家の前まで行くと、高い塀に囲まれた屋敷の庭から楽器の音色。 (父だ) 苦笑するように思う。 (巧くは、ないですね) 「家族が弾いてるのか?」 「父です。タールを嗜んでますから」 サンディスタム地方に伝わる弦楽器。 想い出の中では、使われていなかったが時折手入れをされていたのを覚えている。 (練習をする暇もなかったものね) 門を開けて中へ。 すると屋敷の奥から聞こえる母と乳母の声。 (過渡期を過ぎ余暇が出来たのでしょうね) 小さな頃は感じた事のない日常が、家から伝わって来た。 「行くか?」 「はい」 ベルトルドに促され、ヨナは玄関を開け家の中に。 「ヨナです。戻りました」 どこかよそよそしく。 ただいま、とは言えなくて。 それでも帰って来たことを知らせると、両親が乳母と一緒に迎え入れてくれた。 「……」 「……」 お互い無言。そこに―― 「なにをこんな所で突っ立ってるんです。ジャンナお嬢さまもサフル坊ちゃんも可愛い娘が帰って来たんですから、声のひとつも掛けてあげてくださいな」 快活とした声で、乳母であるオマイマが発破をかける。 「……え?」 思わず、ぽかんとするヨナ。 昔の、仕事はするが極力距離を取っていたオマイマの様子に目を丸くする。 「……なんで?」 つい口に出てしまった疑問に、オマイマが応える。 「昔と違う、ですか? そりゃそうですよ。ヨナお嬢さまが小さい頃は、親子の水入らずを邪魔しないよう気を使ってたもんです。かわいい盛りの頃をアタシが盗っちゃダメですからね。でも、もう大人なんですから気遣いはぽーいっと捨てちゃいます」 「え……ええ!?」 ヨナが驚いていると、素を出したオマイマは続ける。 「さあさあ、入った入った。そんな鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔してどうするんです。ヨナお嬢さまは見た目はあの子に似てますけど真面目過ぎです。ふわふわ感が足りません。ふわふわ感が」 オマイマは、友人であるヨナの祖母を思い出し続ける。 「あの子はあの子で今どこに居るのか知りませんけど、まぁ、あの子なら大丈夫でしょう。それより、あの子直伝のシチュー、一緒に作るんでしょう?」 ヨナの母であるジャンナは話を振られ、ヨナに言った。 「……ヨナ、母の、貴女のお婆様のシチューを一緒に作りましょう。用意してるの」 「用意って、なんでそんな――」 「セパルにヨナお嬢さまがこちらに来るって聞いて用意してたんですよ」 「セパルさんって、知り合いなんですか!?」 「古い友人ですよ」 笑顔で返すオマイマに、全ての状況を理解したヨナは、ジャンナに連れられて厨房に。 そして残ったベルトルドは―― 「……君が、ヨナのパートナーか」 「……はい」 えもいわれぬ緊張感を漂わせ、ヨナの父であるサフルと言葉を交わしていった。 この日は随分と賑やかな一日になったのであった。 ●姉妹の願い 休暇を貰えることが決まったその日、『クリストフ・フォンシラー』は『アリシア・ムーンライト』に尋ねた。 「行きたい所があるのかな、アリシア」 気遣い尋ねてくれたクリストフに、アリシアは決意を込めた眼差しを向け応えた。 「虚栄の孤島に……リア姉様に、会いに、行きます」 クリストフと視線を合わせたまま、続ける。 「開発の時に、何度か行ってますけれど。個人的な話を、してる場合じゃ、なかった、ですし。聞きにくかった、のも、あります、し……」 「そうだね、開拓の仕事をしてる時はそっちの話ばかりだったし。行ってみようか」 クリストフは小さく頷くと応えた。 「ちょうどエルリアに用もあったし」 「はい」 クリストフの言葉に、いつもよりも強く頷くアリシアだった。 そして2人は虚栄の孤島へと渡り、エルリアに会いに行く。 「シア。クリスも。いらっしゃい。歓迎するわ」 エルリアは笑顔で2人を迎え入れ、王城内の自分の部屋に案内する。 「大分、部屋も整ってきたね。足りないものは無いかい?」 「いいえ、大丈夫。みんなが助けてくれるから、十分よ」 エルリアは和やかな声でクリストフに返しながら、お茶を淹れていく。 ブレンドして作られた薬草茶は香りが良く、その匂いだけで心を落ち着かせてくれた。 それが、アリシアの助けになる。 どこか思いつめたような表情をしていたアリシアは、薬草茶の香りで少し和らぐ。 「どうぞ。飲んで。新しく作ってみたお茶なの。感想を聞かせてくれると嬉しいわ」 アリシアの表情に気付いていたエルリアは、そのことには言及せず、静かにお茶を勧める。 「ありがとう。じゃ、貰おうかな」 クリストフは、エルリアの気遣いに乗るようにしてお茶をいただく。 「うん、香りが良いね。渋味が無くて、ほんのり甘い感じがするよ」 笑顔でエルリアに感想を伝えると、笑顔のままアリシアに勧める。 「飲んでごらん。美味しいよ」 「……はい」 アリシアはクリストフに勧められ、お茶を飲む。 「……美味しいです」 アリシアの表情が、さらに和らぐ。 それをエルリアは、嬉しそうに見つめていた。 彼女の視線に気づいたアリシアは、視線を合わせ、今日訪れた理由を口にした。 「姉様、正直に、答えて下さい。姉様は、アンデッド、なのですか?」 アリシアの問い掛けに、クリストフは驚きで鼓動が跳ねる。 そこにエルリアが視線を合わせて来た。 気付いたクリストフは、静かに首を横に振る。 エルリアの視線を追い、クリストフの様子を見たアリシアは気付く。 「クリスは……知ってた、んですね……?」 確かめるように訊いてくるアリシアに、クリストフは状況を理解した。 (ああ、そうか……この間の指令……エルリアの偽物が『アンデッドになった』って言ってたっけ) それは少し前、八百万の神との契約のため、試練を受けた時のことだ。 (あの時からずっと抱えてたのか) 「黙っててごめん……」 謝るクリストフに、アリシアは慌てて返す。 「いいえ……私の為を思って、黙ってたのは、分かりますから……」 そしてエルリアに視線を向け言った。 「私、姉様に言いたい事が、あったんです」 席を立ち、エルリアの傍に寄り添うように近付き、想いを口にする。 「姉様、アンデッドになってでも生きててくれて、ありがとう……おかげで、また会えました」 ぎゅっと抱きしめるアリシア。 「……シア」 涙を堪えるような声で、アリシアを抱きしめ返すエルリア。 2人の姿を見て、クリストフは言った。 「良かった、傷ついてはいないみたいだね」 これにアリシアは、くすりと笑って返す。 「だって、クリスもアンデッドですもの……抵抗は、ないですよ?」 「それなら良かった。ありがとう、アリシア」 クリストフはアリシアに礼を返すと、エルリアに提案した。 「エルリア、ここが落ち着いてからでいいんだけど、一度俺達と一緒に故郷に行かないか?」 僅かに息を飲むエルリアに、クリストフは続ける。 「両親に君のことを知らせたら連れてこいってうるさくて。帰るのが嫌じゃなかったらさ」 クリストフの言葉に、アリシアも賛同する。 「そうですね、私も、姉様と帰りたいです……」 2人の呼び掛けにエルリアは、儚い笑みを浮かべながら応えた。 「ええ……いつか、私も……帰りたい」 泣きそうな表情で返すエルリアだった。 そして3人は、楽しくお茶会を過ごした。 時が過ぎ、アリシアとクリストフが教団に戻らなければいけない時間が近付き、エルリアは見送りに行こうとする。そこに―― 「エルリア、ちょいと悪いんだが、急ぎの用でな。こっちとこっちの書類、印を押しといてくれ」 ヴァーミリオンが顔を出し頼んできた。 「分かりました。ごめんなさい、すぐに戻るから待っててくれる?」 「うん、もちろんだよ」 「待ってます、リア姉様」 2人に見送られ急いで走り出すエルリアが離れると、ヴァーミリオンは言った。 「今すぐは無理だが、島が落ち着いたら故郷に帰れるぐらいの休暇は出す。その時は、あいつのこと頼む」 ヴァーミリオンの言葉に、笑顔で返すアリシアとクリストフだった。 ●木漏れ日に2人で それは3強の1人である、トールとの戦闘から間もない時のことだった。 「医務室に行っていないんですか!?」 医務員からの話を聞いて、『リチェルカーレ・リモージュ』は驚いたように声を上げた。 「まだ完全に治ってないのに」 「そうなんだよ」 医務員は、ため息交じりに言った。 「彼も色々あるみたいだから、無理に連れていくのは、こちらとしても難しくてね。かといって放っておく訳にもいかないし。今、他の医務員も彼を探しているから、もし彼を見つけたら声を掛けてくれないかな」 「はい、分かりました。お世話をお掛けします」 リチェルカーレは頭を下げると、『シリウス・セイアッド』を探しに走り出す。 (シリウス、どこにいるの?) そうして彼女が必死に走り回っている頃、シリウスは医務員から逃げ出していた。 「シリウスくん! 少しで良いから医務室に来て!」 「……」 医務員の声を、シリウスは聞こえないふりをして無視するが―― 「シリウスくん! 聞こえてるだろ! あーもう、子供じゃないんだから! 少しは医者の言うことを聞きなさい!」 医務員は、大声を張り上げてシリウスを呼ぶ。 しかし、それでもシリウスは聞こえないふりをして逃げ出そうとした。なので―― 「毎回毎回聞こえないふりしてもダメだよ! 今日という今日は来て貰うからね!」 医務員は猛然とダッシュ。メッチャ速い。 「――!」 気付いたシリウスも猛然とダッシュ。 戦闘力は元帥クラスなシリウスは、全力疾走して医務員を振り切った。 行き着く先は中庭。 長い教団生活で、人が来ない場所は知っている。 細い生垣のトンネルをぬけ、緑の天蓋の広がる小さな空間に。 目指すのは、中庭に植えられた大木。 体を預けるように背をつけ、ゆっくりと座り込む。 涼やかな風が吹き抜ける中、詰めていた息を吐き目を閉じた。 そこに人の気配が。 目を閉じていても分かる。 けれどシリウスは逃げ出すことなく座り続け、傍らにぬくもりを感じた。 「……痛む?」 心配そうなリチェルカーレの声。 見なくても、気遣ってくれているのが分かった。 「……このくらい、問題ない」 目を開け、視線を向けると、首を振り応える。 そんなシリウスに、リチェルカーレは天恩天嗣を掛ける。 「……大丈夫だ」 「シリウス」 リチェルカーレは、笑みを含んだ声で言った。 「シリウスの『大丈夫』と『問題ない』は、信用しないことにしているの」 「……」 リチェルカーレの返事に、シリウスは誤魔化すように視線を逸らす。 それは痛みも感情も、表に出したらろくなことにならないと、小さなころから身に着いた習慣から来る物だった。 生きているだけで、お前は周りの人間を殺すと。 だからこれは罰だと、毎日言われた言葉が、拭いようもなく沁みついている。 今のリチェルカーレは、そのことを知っている。 そして、今の彼女は1人じゃない。 シリウスのことをよく知る皆の助けもある。 だからこそ、リチェルカーレは確信を持って言う事が出来た。 「あのね、シリウス。あなたの村がなくなったのは、あなたのせいじゃないわ」 体を強張らせるシリウスを気遣いながら、続ける。 「ルシオさんに聞いたの。悪い大人がついた嘘だって。居場所がないって思わせる為に、小さなあなたに刷り込んだんだって……怒ってた」 それは虚栄の孤島に、開拓の手伝いで訪れた時のこと。 東部で畑や植物園の手伝えを終えたあと、労うように声を掛けてくれたルシオと、自然とシリウスの話になり、聞いたことだった。 リチェルカーレの言葉に、シリウスは目を見開く。 どこか迷い子の様な彼を見詰め、リチェルカーレは言った。 「あなたのせいじゃない、あなたは悪くない」 そう言うと、優しく見詰めながら問い掛ける。 「ねえシリウス。悪い人の言葉とわたしの言葉、どちらを信じる?」 笑みを含んだ、シリウスを想っての問い掛け。 それを聞いたシリウスは、憑き物が落ちるように、強張った体から余計な力みが消える。 見詰めた先には、いつも自分を引き上げてくれる優しい眼差し。 「……」 言葉を返す余裕は無く。 けれど自然と笑みが浮かび、リチェルカーレの言葉に返していた。 やっと浮かんだ笑顔にリチェルカーレは、ぎゅっとシリウスを抱きしめる。 側にいること。大切だと思うこと。 (願う事くらいは許されるだろうか) 祈りをこめて、シリウスはリチェルカーレの細い体を抱きしめた。 ●過去探索の始まり それは、昼日中から酒を好きなだけ飲める店のある、裏通りを歩いていた時のことだった。 「なんだお前ら」 暴漢の1人の腕をひねりあげながら、『バルダー・アーテル』は気だるげに誰何の声を上げる。 (人が楽しく迎え酒をしゃれ込もうとわざわざこんな所に来たってのに、何してくれてんだか) 軽くため息ひとつ。 それが余裕があるように見えたのか、バルダーに噛み付くように暴漢の1人が言った。 「そいつから手を離せ! 悪魔の女のヒモ男が!」 「ちょっと待ておい」 あまりにも聞き捨てならない言葉に、思わず語気が強くなる。 「誰がヒモ男だ!」 「うるさい! 昼日中から酒の匂いさせて悪魔の女に引っ張りまわされるような奴がヒモ男でなくてなんだ!」 「ふざけんな! 酒の匂い――は、ともかく! 悪魔女に振り回されるってなんだ!」 腕をひねって捕えていた男を暴漢達に突き飛ばしながら声を上げると、暴漢達は口々に返した。 「とぼけんな! 見た奴がいるんだぞ!」 「昼中、悪魔の女に引っ張られて山ほどの荷物を持って疲れ切った姿を!」 「あんなんで逃げ出さず連いていくのは、カミさんの尻に敷かれまくった亭主かM男かヒモ男だけだ!」 「ふざけんなあああっ!」 さすがにキレた。 「なんだそりゃ! 欠片も身に覚えがねぇぞ!」 バルダーの激昂に反応して、暴漢達が襲い掛かってくる。 それを返り討ちにしていくバルダー。 普段、べリアルやらの怪物と戦っているので、そこらの暴漢達が敵う筈もない。 とはいえ、あとに残るほどの怪我をさせるのも何なので、手加減はする。 その辺りは冷静であった。 とはいえ手加減しているだけに、相手も反撃しながら悪態をつく余裕がある。 「このっ、とぼけてんじゃねぇぞ! 悪魔の女に連れ回されてる時に、カフェで飲んでる客に手を出しただろ!」 それがバルダーの記憶を刺激する。 (ひょっとして、あの時のことか?) それは少し前、休暇をパートナーである『スティレッタ・オンブラ』の買い物に付き合わされて潰された時のこと。 (まかさ、こいつらの言う悪魔の女ってのは――) 「お前ら、さっきから言ってる悪魔の女ってのは、ヴァンピールの女のことか?」 「白々しい! すっとぼけてんじゃねぇぞ!」 殴り掛かって来る暴漢達をぶちのめしながら、バルダーは諦めるように思った。 (今日も酒はおあずけか) ため息をつきながら、暴漢達を全て叩きのめしていった。 そして放置するわけにもいかないので、教団本部に連れていく。 「……酷い目にあった」 悪態をつきながら連行された暴漢達を見ながら呟いていると、スティレッタに背中から声を掛けられた。 「……なんか騒がしいと思ったらシロスケじゃない。何してるの?」 「なんでもない」 「ふぅん」 明らかに話を逸らされるが、スティレッタは薄らと目を細めて返すのみ。 なんとなく、捕えた獲物をどうしようかと思案しているように見えたので、そそくさとバルダーはスティレッタから離れる。 けれど、離れた後もスティレッタのことが気になった。 (悪魔の女、ねぇ) 暴漢達が口にしたその言葉が、何を意味するのか? (そもそもあいつには謎が多いんだよな) 歩きながら思う。 (あいつから過去の話は全く聞いちゃいない。マーデナキクスで変なもん見たぐらいの話だ) 気になったバルダーは、重い腰を上げてスティレッタについて調べる。すると―― 「何だこりゃ!?」 資料室で集めた資料に目を通して思わず声を上げる。 「『あまりに強すぎる力を持ったがために封印された吸血鬼』とかそりゃないだろ!! 何調べたらこうなるんだ!! 誰だそんな封印といた馬鹿は!! おかげで俺が生贄にされてるじゃないか!!」 「なに騒いでんのよシロスケ」 いつの間に資料室に入っていたのか、気が付くとスティレッタが背後に居て、バルダーが広げた資料に目を通す。 「また変なことしてるわねぇ」 ぴんっと指で資料を弾き、スティレッタは続ける。 「まさかこんな封印された吸血鬼だなんて大ボラ信じてるわけないわよね?」 「……違うのか?」 「私が教団に来たときになんか知らないけど変に広まった噂よ。嘘に決まってるじゃない」 呆れたような口調で、スティレッタは返す。 「大体にして、私のこと調べたってよっぽど上手く調べない限りは何も見つからないと思うわよ。だって、肝心の私でさえ私自身のことよく理解してないもの」 「……どういうこった?」 ポカンとするバルダーを見て、スティレッタは小さく笑いながら応える。 「ハッタリや嘘じゃないわよ」 密やかに、それでいて艶のある笑みを浮かべ言った。 「ホントに気になるなら死に物ぐるいで調べてみなさいな。なんか見つけたら……そうね。いいこいいこして頭ぐらいは撫でてあげようかしら?」 スティレッタの笑みに、ため息で応えるバルダーだった。 ●過去の追憶 帰って来た故郷は、思い出とはかけ離れている。 けれど面影を追わずには、いられなかった。 「マー……」 気遣うような声を、『タオ・リンファ』は『ステラ・ノーチェイン』に掛ける。 「大丈夫です。ステラ」 応える声は穏やかで、どこか儚くも見えた。 けれど同時に、決意を迎えようとするかのような確かさが、そこにはあった。 「少し、見て回りましょう」 心の中に生まれた決意を、より明確な形にするため、故郷を歩きながら過去と再会する。 (私達は、蓮と睡蓮だった) 妹を、想う。 掛け替えのない片割れのようでありながら、違う。 だけど、同じように見える姉妹。 (ちがう花だけれど、とってもよく似ている) 過去を幻視する。 想い出の中で浮かぶ過去の自分と妹は、とても幸せそうだった。 妹は、メイファは、水面に揺れる睡蓮を自分と一緒に見詰めている。 「お姉ちゃん、あれ」 「うん、まるで私達みたい」 幼き日々。 メイファと共に居る日々が終わることなど考えつく事すら出来ない、そんな無垢なひととき。 それが続けば良かった。 変わらなければ良かった。 けれど自分自身で変え、終わらせてしまった。 「なんで……? メイ……」 信じられなかった。信じたく、なかった。 「なんで私じゃなかったの……?」 妹は私よりも適合する人を見つけた。 私とだって契約できたのに、あの子の隣は私じゃなかった。 私には、あの子しかいなかったのに。なのに―― 「大丈夫だよ。お姉ちゃんにもきっと……すぐに、パートナーが見つかる筈だから……」 あの子は優しかった。 だから、慰めさえひどく無責任に見えて。 (私は、堕ちてしまった) 水面に咲く花が、ぽとりと落ちる。 浮かぶことすら出来ず沈み、泥のぬかるみに捕らわれる。 もはや花と泥の境目などありはしない。 自分がどう在りたかったのか、原初の想いは融け消えて。 存在意義が揺らいで崩れる。 (明日、メイは教団に引き取られる) メイファが居なくなる。 澄み渡る夜、蓮華が咲く頃。 その時、私は思っていた。 (私はあの子を……) どうしようもなく、渇望する。 (殺してでも私はなりたかった) 選ばれたかった。それを望んだ。なのに―― (どうして私は浄化師になりたかったんだっけ) 堕ちた自分は気付けない。気付けたのは、全てが終わった後だった。 (ああ、そうだ) 気づいたときには、遅かった。 水の魔力が溢れ、メイファを飲み込んでいく。 その夜、私は片腕と―― ――妹を失った。 喪失は終わらない。 「……なんで、こんな……」 言葉にならない嗚咽を、母は溢れさせる。 苦しんで欲しくなくて近付こうとしたら、母から遠ざけられるように、顔をはたかれた。 「この薄汚い恥知らずめが」 侮蔑と嫌悪が、父の顔には浮かんでいた。 「お父様……お母さん……私、違うの……」 縋るように言葉を掛けても、返って来たのは拒絶だった。 「屑め、二度と我等の前に顔を見せるな」 そこで、家族の全ては終わった。 家を追い出され、遠くの教団の施設に預けられた。 そこからの日々は、終わったまま続く、喪失の日々だった。 それでも、何かを成そうと。 なにかを残そうと、もがき足掻いた。 終わった家族だとしても。 妹が、この世に居なくても。 それでも何かを成さねばならぬと足掻いて、何も掴めず。 喪失のみが、人生だと思い知らされる。 故郷がヨハネの使徒に襲撃されたと知ったのは、教団施設に預けられてから、2年も経ってのことだった。 失っていたことに気付く事すら出来ず、何かを成そうとしていた。 全てが無駄だった。 そうだとしても、変わらなかった。 変えることなど、出来なかった。 壊れた機械のように、もはや何処にも、何者にも繋がらぬ過去の残滓に突き動かされて、動き続けた。 救われぬ終焉。 行き着く果ては、そこにしかない。けれど、なのに―― 「……ステラ」 ぎゅっと、左手を繋がれる。 視線を向ければ、ステラが笑顔を浮かべていた。 (そう、ですね) 繋いだ手を確かめるように、リンファは握り返す。 (あの時、ステラと出会えてなかったら) 今の自分は、いなかっただろう。 (私は、今を生きている) 過去の追想を巡る旅は、ひとつの終わりをみせる。 辿り着いた先は、ひとつの池。 あの日と変わらず、蓮と睡蓮が咲いている。 終わりと喪失が幾らあろうとも、世の理は、それのみにあらず。 出会いと始まりも、世界のひとつ。 いつかすべてが終焉に飲まれるとしても、それは変わらない。 ならばあとは、どう生きるか。 選べるのは、自分だけだ。 「メイ……」 水面に咲く蓮と睡蓮を見詰めながら、ステラは誓う。 「私の本当の想い、あなたに必ず伝えるから」 「大丈夫」 共にあると言うように、ステラは続けた。 「マーなら、きっとできる」 ステラの言葉に応えるように、繋いだ手に力を込めるリンファだった。 こうして、それぞれ浄化師達は絆を巡る。 その先が何処に向かうか分からずとも、幸多かれと、思わずにはいられなかった。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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