~ プロローグ ~ |
その日、虚栄の孤島に建国されたトゥーレに対し、宣戦布告が行われた。 |
~ 解説 ~ |
○目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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中央へ ダヌ様にはMP回復を ヴァーミリオンにオクトの指揮と応援を頼む 中央に300、東と南に各100オクトの人員を アヤ付けられたんだ 落とし前付けてもらうぞ 中央に仲間が来るまで時間を稼ぐ 前は俺の弾丸を警戒していた 同じように邪魔として撃ち続け、デイムズに少しずつ近寄る 仲間が来たら黒炎解放 一気に近寄りデイムズの耐久を下げるために近距離で一発食らわせ、死霊の石で凌ぐ これはプライドだ 一発でもいいから当てたいだけだ 可能ならベリアル化させられた時ヘスティアでデイムズのRANを下げる 業は巡る RANを押し付ける一方で自分がその危機に陥れば自害か 実にいいご身分だな だがお前をベリアルにする訳にも死なせる訳にもいかんのだ |
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猊下もデイムズ卿も 何故争いを起こそうとするのかしら 実際に苦しむのはこの島の人なのに 傷つく人がひとりでも減るよう、頑張ろう ダヌ様には二人ともMP回復を 東側対応 援軍 魔女200人:浄化師250 オクトは敵2割減の段階で中央へ 上陸した敵が中央へ向かわないよう 敵が見えたら魔術真名詠唱 シアちゃんや他陰陽師と協力して禹歩七星 柵の所で待機 ガーゴイル達に シリウス達と敵を柵側へ誘導してと 無茶しないで 危なくなったら逃げるのよ 敵が近づいたら 鬼門封印 攻撃には雷龍で対応 シリウスの隣で支援と回復 トールさんの友人に目を見張る どうして 大切な人をこんな風に…っ! 涙をこらえ トールさんに回復と禹歩七星 東が片付けば中央へ 仲間の回復と支援 |
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戦場になることを知り黙々と収穫できそうな作物を収穫 少しでも、助けられる物は、助けたいです… リア姉様、姫様の護衛をお願い、します 王城は、絶対に守りますから… ダヌ様には二人共MP回復を願う クリスと東へ 魔女さん達に柵が見えにくくなるような幻影魔法と 上陸してきた敵のキメラへの攻撃を 浄化師さん達には柵の所で待機し、死人兵が来たら攻撃をお願い リチェちゃんや他陰陽師と禹歩七星 魔術真名詠唱 クリスの自動車に同乗 スピードには歯を食いしばって堪え こんなの、平気、です 移動する車内から火界咒で死人兵へ攻撃 こちらへ来て下さい 貴方達の苦しみも、これで、終われます… 全て終わったら、花の中で眠ってください… 終われば中央へ応援に |
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虚栄の孤島を守る ヨセフ室長のいる、今の教団本部が存続できるよう 南側担当 敵の侵攻をできるだけ防ぐ 配置についたら魔術真名詠唱 リ:始まったね セ:ええ。始まってしまったわ。大丈夫ね?リューイ リ:うん、大丈夫。僕たちは、僕たちにできることを リューイは支援と砲手の護衛 セシリアは魔術砲で敵船団を狙う リ:流麗鼓舞で砲手の命中率を上げる 切れる毎にかけ直し セ:魔術砲担当 ペンデュラムフォーチュンの魔力を込めて撃つ 焦らず目標を定めること 砲から撤退は仲間に準拠 白兵戦になればリューイは前衛 仲間と連携 敵の引きつけと攪乱 セシリアは中衛から支援 ルーナーエヴァージョンで敵回避を下げる 中央でも戦法は同じ 城への侵入を防ぐよう動く |
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整ってきたこの島を戦場にするのは残念なのだが ここで負ける訳にはいかん 壊れた物はまた作り直せば良い だからトーマス殿! 蒸気自動車の装甲を固く丈夫に、そして爆速仕様に変えるのを手伝ってくれ 南へ向かい 時間いっぱいまで自動車の改造をし 一台を東へ提供 味方の攻撃手には白兵戦になるまで後方待機を 陰陽師何人かに自動車で砲撃手の近くまで来て貰い 敵の砲撃が始まったら回復を頼む 私は別の一台で砲撃手の近くで待機 20R経過後、敵の艦隊が半減するか こちらの被害が体力半分を超えた者が出たら撤退指示 砲撃手達を乗せて後方まで全速力で下がる 上陸してきた敵には味方を巻き込まない位置でグラウンド・ゼロ セラと協力し他地区と連絡を取り合う |
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中央で王城防衛 王城への侵入阻止を重視 マドールチェを含む味方NPC5人一組×3組を城下町に配置 見取り図と敵味方配置を材料に、目の届きにくい位置を重点的に 別働部隊での王城への襲撃を警戒、索敵と排除を頼む キメラと死人兵を迎撃 劣勢の味方に加勢し突破を阻止 ナツキは前衛、ルーノは禁符の陣・回復で支援 敵が少ない場合は別部隊を警戒 デイムズが前に出たら応戦 ルーノは目立つように支援、攻撃を誘い雷龍で軽減 攻撃後の隙を味方の攻撃の機会とする為 転魔後、目で解析不能な黒炎の特殊能力+氷結斬の凍結で動きを止め フォボスでの無効・弱体化を防ぎ追撃に繋げたい 人形遣い→デイムズのRAN移動は禁符の陣で両者拘束し妨害 ベリアル化を阻止 |
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・リンファ ステラは仲間の皆さんと共にデイムズ達の本隊を迎撃 私はそれより離れたところで……メイと決着をつけます、二人きりで あの子の太刀筋は昔と何も変わっていなかった また昔みたいに、けれど命をかけて、戦う メイは私に向かっていくとき、一歩だけ空足になる 優しい子だから、きっとそんな癖がついてしまったんだろう 私だけが大人になった今は、昔は届かなかった距離 一歩を踏み出して、この刃は届く 終わったら、皆と合流しましょう 人形遣いがデイムズをベリアル化しようとしたら化蛇の波で行動を妨害してみます ・ステラ 味方を巻き込まないようにパイルドライブで死人兵達に攻撃 仲間と連携して追撃でパイルドライブをぶちこんで崩してやる! |
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事前に電気柵の位置などを確認し自分や味方がかからないように注意 東部で死人兵達を迎え撃つ 畑を荒らしてしまうのは忍びないけど、また耕しましょう ダヌ様の加護はHP 魔術真名詠唱 スポットライトで敵を引き付け、電気柵の方へ誘導 柵にかかった敵を攻撃…を繰り返す 哀れな子羊さん、追い立てられていらっしゃい 敵をあらかた倒したら、アネモイの転移で中央へ加勢に ファットの死人兵には、最低限の自衛のみで極力手を出さず、他の敵を優先して攻撃 …駄目よ、私はあなたを倒さない それはトールの役目だもの トールがやらなきゃいけないことだもの 私が手を出すのは、トールが折れてしまった後 さっさと片付けて、中央に急ぐわよ! |
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好き勝手させるわけにはいかないし!やってやらー!! 増援味方NPCと共に中央へ ケイト ペトル グリージョ エフェメラ 魔術真名発動 前線に出て敵の侵攻を食い止める 味方と足並みを揃えて 攻撃時は隙を与えず叩き込むようにラスと連携を キメラは…向こうも賢いだろうから、ただ撃つのも無理そうね それじゃ、上陸直後を狙うのは?エフェメラにキメラが地面に降り立つ瞬間を狙ってもらう 敵上陸後、優先は自身に近い敵から撃破を 周りを少しでも減らせば 間接的にあいつら(デイムズ)とも戦いやすくなるはず…! なお東、南の味方が中央への増援へ赴く際はアネモネの転移能力を発動するようアネモネに要請 アネモネちゃんお願いねー! |
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ヨ ここでもゲームですか。どうしてこうなってしまうのでしょうね ベ にしてもヨセフ。今回で教皇の地位を一気に獲りにいくつもりか ヨ そのようで では私達も命も賭して運命を勝ち取りにいきましょう 空から飛翔するキメラ軍団に王城入り口で真正面から備える 的は分かり易い方が良いでしょう?おいでなさい 迫る死人兵とキメラ軍にはFN20を撃ち数を減らす 以前は死人兵に対し躊躇しましたが…迷いは捨てます いまは すみません >デイムズ 魔眼に対し魔力感知+ウィッチコンタクトで令花ラヴィ叶花と協力し対策 あの眼さえ封じる術が見つかれば… 知り得た情報は仲間に知らせ勝機を見出す 今ならいけます! >人形遣い 喰人で肉弾戦を仕掛け隙を与えない |
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サクラ:言いたいことがあるなら言いなさいよ。 キョウ:中央(人形遣い)に会いに行かなくて良いのですか? サクラ:わざわざ集中力が乱れる場所に行く必要ないもの。 キョウ:ああ、火に油は危なかったですね。 サクラ:何か言ったかしらぁ? キョウ:敵がいます。早く撃ってください! 【行動】南側 サクラ リンクマーカーⅡで命中力を上げてピンポイントショットで敵艦を狙うわ。 なるべく重要そうな場所だったり出ている者を狙いましょう。 矢だからなぁ。あたると良いけど。 上陸されてもやる事は一緒。キョウヤに盾になってもらって私が攻撃。 すっごくわかりやすい。 死人兵?私が興味を持てた人はいないだろうし……死んでるし。 休ませてあげるわぁ |
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中央担当 ダヌ様の加護はHP 魔術真名詠唱して、人形遣いとその周辺の敵の対応 特にマリエル達の方に敵が行かないように位置等気をつけ なるべく安全な状態でマリエル達が術を使えるようにする デイムズは捕まえるがアンタの命は保障しない アンタはこれからの決戦にも世界にも必要のない奴だ! 人形遣いを煽ったり乱れ斬りで攻撃したりして人形遣いを自分達に引き付け 他の味方がデイムズに対応しやすくする こちらが攻撃されたら、ネメシスの能力でダメージを返す 転魔の使用状況に気をつける 人形遣いがデイムズにRANを押し付けるような挙動があれば阻止に向かう 距離が離れていた場合はアネモイの能力で人形遣いの目の前に短距離転移して攻撃 |
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デイムズ卿の双子の姉ラヴィさん(和樹は「お師匠」呼び)に協力を要請 親には護衛が手薄になることを詫びつつ決戦への覚悟を伝える ラヴィの了解を得て 仲間にはラヴィの正体、デイムズとの因縁、魔眼のことを開示 令花 ルーノさんと協力し城下に潜むチーム編成と配置の検討 適材適所を的確に選抜 「履歴書や地図とにらめっこならお任せください」 ルーナープロテクションで前線をサポート デイムズと同じ眼を持つラヴィの感覚を核として ヨナさんとも協力して魔眼を解析し 攻略のヒントを掴み仲間と共有 「もしかして、このような推測が立ちませんか?」 和樹 絶対防御ノ誓イで壁役に専念 「ヨナさん、お師匠、姉ちゃん、頼んだぜ。俺はみんなを必ず守る!」 |
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南配置 …正直、防御は得意じゃない ダヌ様、MP回復お願いします 地理把握と望遠鏡で敵との距離と進軍方向の確認 僕の仕事は白兵戦になってから 足の速い動物にトランス出来る人ってどれくらい居る? 馬とか狼とか 敵艦から敵兵がある程度上陸したら 横合いから突撃して囲まれそうになったりしたら、すぐ離脱を繰り返そうと思ってね 回復は陰陽師の皆に頼っちゃうけど 後、足が速くなくていい大人数部隊を後詰に幾つか 此方が砲撃受け始めたら移動開始 移動は砲撃の射線に入らない様、隠れながら気取られない様に 多少大回りして 離脱後に追いかけてくるのが多数いるなら、後詰の方へ移動して其方に対処して貰う 後詰に任せたら別方向へ デイムズは海にぶち込む |
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~ リザルトノベル ~ |
●南部戦線 開戦時刻より、半日ほど前。 まだ暗い中、『ニコラ・トロワ』は虚栄の孤島南部に訪れていた。 (整ってきたこの島を戦場にするのは残念なのだが、ここで負ける訳にはいかん) ニコラが向かっているのは、自分も関わった魔導蒸気自動車の整備工房。 そこには今、4台の自動車が配備され、今も整備をされていた。 『見せ場が来たんだから改造するゾ!』 人形を操りながら腹話術の要領で皆に檄を飛ばしているのはトーマス。 彼の指示の元、自動車は整備されている。 ニコラは、それを今回の戦いで使うつもりだった。 (タダでは済まないだろうな) 職人達の手で丹精込めて作られた自動車が破壊されるのは、正直忍びない。けれど―― (この島を、この島に住む人々を守る方がより大事だ) 知らず拳を握りしめながら思っていると、トーマスが声を掛けて来る。 『どうしタ? 自動車が気になるのカ?』 「……」 返す言葉を迷っていると、トーマスは続ける。 『気になるナラ、どこかの展示場にでも飾るカ?』 試すようなトーマスの言葉に、ニコラは返す。 「壊れた物はまた作り直せば良い」 決意を込め、宣言するように続ける。 「だからトーマス殿! 蒸気自動車の装甲を固く丈夫に、そして爆速仕様に変えるのを手伝ってくれ」 『良いゾ!』 楽しそうにトーマスは返す。 『玩具は遊んでこそ意味がアル! 燃えてキタ!』 はしゃぐようにして改造を始めるトーマスを、ニコラは手伝った。 改造を続ける内に日が昇り、他の場所の準備をしていた仲間もやって来る。 「ニコラ、自動車の整備は終わったのかい?」 整備を終え伸びをするニコラに声を掛けてきたのは『クリストフ・フォンシラー』。 これにニコラが返す。 「ああ、終わった」 そう言うとニコラは、クリストフの隣に居る『アリシア・ムーンライト』に声を掛ける。 「そちらも終ったのか?」 「はい。収穫できる物は、収穫しました」 東部も戦場になることを知ったアリシアは、黙々と収穫できる物を収穫していた。 (少しでも、助けられる物は、助けたいです……) これから起こる戦いに胸を痛めながら、アリシアはニコラに問い掛ける。 「ヴィオラさんは?」 「ヴィオラは今、魔女達と砲台の運用で話し合っている」 港に視線を向けニコラは言った。 彼のパートナーであるヴィオラは、今回の戦いの序盤では魔術砲の担当をする事にしている。 「南部の抑えに集中する予定だ。だから残りの地区は頼む」 「任せてよ。そのためにも、自動車を一台貸して貰えるかな?」 クリストフの頼みに、ニコラは応える。 「これを使ってくれ。チューンナップしてある。装甲を厚くした上で可能な限り馬力が出るように調整した。その分重さが増したが速度はギリギリまで出せるようにしてある。ただその分、ブレーキの利きが甘いから気をつけてくれ」 「分かった、ありがとう。それじゃ、早速使わせて貰うよ」 そう言うとクリストフは、アリシアを乗せ東部に向かう。 「少し慣らしてみるよ。アリシア、気をつけてね」 「はい」 アリシアの応えを聞いて、クリストフはフルスロットルをした後に急ブレーキをかけるなどして、事前の練習を行う。 その中で、アリシアは祈るように、姉であるエルリアとの会話を胸に抱く。 「リア姉様、姫様の護衛をお願い、します。王城は、絶対に守りますから……」 「ありがとう、シア。姫さまは、絶対に守るわ」 そう言うとエルリアは、アリシアを抱きしめる。 「本当なら、貴女も私が守りたい……死なないで、シア」 「大丈夫です。心配、しないで、リア姉様」 (……守ります) 決意を胸に、戦いの場へと向かう。 戦いの準備は進む。 それは魔術砲の運用法を詰めているヴィオラ達も例外じゃない。 「セパルさん、一緒に砲撃をお願いできませんか」 ヴィオラは、今回の戦いに協力してくれる魔女の代表であるセパルに声を掛ける。 「なるべく多くの戦艦を沈めたいのです」 これにセパルは快く応えた。 「もちろんだよ。他にも、何かあったら遠慮なく言ってね」 これにヴィオラは、少し考えたあと続ける。 「魔法で砲撃手の命中率を上げて貰うことは出来ますか?」 「それなら大丈夫。各自1人ずつ就けるよ。それで命中率は上げられる。あと、掛けるのは魔法だから、魔術なら相互干渉を起こさないで同系統の物を重ね掛けできるよ」 「なら、僕は流麗鼓舞を掛けようと思います」 話を聞いていた『リューイ・ウィンダリア』が提案する。 「僕以外にも魔性憑きの人は居ますから、その人達にも協力を頼めば、全員に掛けられると思います」 「良いですね。なら、私も魔性憑きの人達に協力して貰えるよう、話をしてみます」 リューイの提案にヴィオラは賛同し、話を詰めていく。その中で『セシリア・ブルー』も提案した。 「戦艦がこちらに砲撃をした時に当たりにくくなるよう、魔女さんに幻覚の魔法を掛けて貰うことは出来るかしら?」 これにセパルは応える。 「そっちも大丈夫。ただ、広い範囲に掛ける必要があるから、それに集中するためのまとまった人数が要るね。あと幻覚を掛けている間は他の魔法に集中できないから、他のことは出来なくなっちゃう。それと砲撃されたあと、出来る限り皆が退避する時間稼ぎが出来るけど、いつまで掛けるかが問題だね。みんなが退避したあとに撤退できるのが一番なんだけど、全員を一度に動かすタイミングを合わせるのが難しいね」 「それなら、私も含めたマドールチェで連絡を取ります」 セパルの言葉にセシリアが返す。 「あとでマドールチェの浄化師と連絡を取り合って、魔女さん達が撤退できるタイミングを統一できるよう話してきます」 「ありがとう。助かるよ」 セパルはセシリアに笑顔で礼を言うと、魔術砲の担当について話していく。 「一番距離が近い1番砲台はボクが担当するよ。残りの3つなんだけど――」 担当の話をしていると、そこに『レオノル・ペリエ』が走って来た。 「ごめん、電気柵の調整で遅くなっちゃった」 「お疲れさま、レオちゃん」 ヴィオラは、東部に設置してあった動物避けの電気柵の調整をしてきたレオノルを労うと、続けて言った。 「ショーンさんは、予定通り中央に行かれたんですか?」 「うん。デイムズに落とし前つけるんだって、張り切ってたよ」 レオノルのパートナーである『ショーン・ハイド』は、デイムズが攻めて来ると見られる中央の王城周辺の配置に就いている。 そこにはヴァーミリオン旗下のオクト精鋭も待機しており、連携を取る準備も出来ていた。 魔術砲の準備が整っていく中、他の浄化師達も準備をこなしていく。 「足の速い動物にトランス出来る人ってどれくらい居る?」 今回の戦いで協力する浄化師達に『ヴォルフラム・マカミ』は呼び掛けた。 「敵艦から敵兵がある程度上陸したら横合いから突撃して、囲まれそうになったりしたら、すぐ離脱を繰り返そうと思ってね」 「ヒット&アウェイで行くってことか」 ヴォルフラムの問い掛けに、熟練の浄化師が応える。 「戦場を走り回る遊撃役なら、犬や猫科のライカンスロープ部隊を組むと良いだろう。うちのチームもそうだが幾つかある。渡りをつけるとしよう」 「ありがとう。それで陣形とかどうしようか?」 ヴォルフラムの問い掛けに、虎のライカンスロープの男は応える。 「得意なことでまとまって進軍するのが良いだろう。普段から連携の訓練をしてるなら別だが、生憎とそうじゃない」 「うん、そうなるよね……ちなみに、普段はどんな戦い方をしているの?」 「うちのチームだと、突撃強襲部隊だな。普段は、べリアルやヨハネの使徒が大量発生した時に、横手から一気に踏み込んで群れを食い破るやり方だ。ライカンスロープは大抵そういう戦い方をするものが多い」 「分かるよ、それ」 苦笑しながらヴォルフラムは続ける。 「しかしそうなると、攻撃特化型になるから傷を受けた時が問題だよね。回復は陰陽師の皆に頼っちゃうけど、今回参加しているライカンスロープの中だとどれぐらい居るの?」 「……正直少ないな」 僅かに眉を寄せ男は返す。 「さっきも言ったが、大抵のヤツは敵に突進して暴れるのは得意だが、それ以外が向いてなくてな。今回は女神の加護で体力か魔力を継続回復して貰えるらしいが、それも考慮に入れる必要があるな」 「それなら、魔力の回復を勧める」 男の言葉に、『カグヤ・ミツルギ』が応えた。 「回復なら、私達陰陽師が出来る。でも、魔力は無理だから。魔力さえあれば、高い攻撃力を維持できる」 「ふむ……しかしそうなると、余計に陣形を考えて動かないとダメだな」 考える男に、ヴォルフラムが提案する。 「僕達ライカンスロープが遊撃役として前衛で出て行って、後衛に足が速くなくていい大人数部隊を組むと良いと思うんだ。遠距離で攻撃できる狂信者の人や悪魔祓いの人達とか。そこに回復役の陰陽師の人達も詰めて貰うと良いと思う」 「……ああ、それならいけるな」 男は頷くと動き出す。 「後詰めが得意なチームのリーダーと話を付けて来る。その間に、今回の陣形を皆に伝えておいてくれ。マドールチェ部隊が居るから、そいつに話を付ければ全体に伝えてくれる。そいつは――」 どこに居るかを聞き、ヴォルフラムはカグヤと共に向かう。 その道中、カグヤはヴォルフラムに言った。 「ヴォル、私は序盤、砲撃手の観測役に就く」 「分かったよ。そのあとは後詰めに行くの?」 「そのつもり。ただ、その前に砲撃班が後退できるサポートをする。戦いが始まったら別々で行動するから、その前に魔術真名は詠唱しておこう」 「うん、そうしよう」 2人は各所を回り、カグヤは観測手として観測用の機器を幾つか貸し出して貰い、全員に伝えるためにマドールチェと連携することにする。 準備は整っていく。 その中で、カグヤは島を見詰めていた。 「どうしたの?」 「虚栄の島の開発、関わりたかったなって思って」 ここ最近は研究と資料作成で忙殺されてカグヤは、ポツリと返す。 「フィールドワークもしたかった……今回みたいなことがなければ、機会があったかもしれないのに」 「……うん、そうだね」 ヴォルフラムは頷くと、笑顔で返す。 「でも大丈夫。デイムズ達をやっつければ良いんだ。やっつけて、海にでもぶち込もう」 「……うん」 ヴォルフラムの言葉に、笑顔で頷くカグヤだった。 敵を迎え撃ち準備は形になっていく。 その中で、狙撃主として位置取りに動いているのは『サク・ニムラサ』だった。 「……」 「言いたいことがあるなら言いなさいよ」 敵の上陸経路になる港口から視線をそらさず、サクラは横で佇む『キョウ・ニムラサ』に言った。 「中央に会いに行かなくて良いのですか?」 それは少し前の指令で、恐らくは親友と兄に関わることを告げてきた人形遣いのことだ。 サクラは、キョウにしか分からないほど少し、声を硬くして応える。 「わざわざ集中力が乱れる場所に行く必要ないもの」 「ああ、火に油は危なかったですね」 「何か言ったかしらぁ?」 「狙う場所が違います! 矢を向けないで下さい!」 矢先を向けて来るサクラに、キョウは諸手を上げて降参ポーズ。 サクラは溜め息をつくように苦笑すると、狙撃の練習に戻る。 「難しいですか?」 「距離は届くけど、命中精度が問題ねぇ」 そう言うとサクラは、山なりに矢を放つ。 空に向け放たれた矢は、弧を描きながら港のかなり先の海面を貫く。 通常の矢を一般人が射ったなら、有効射程距離はせいぜい100m前後。飛距離だけならさらに50m程度までなら伸びるが、今サクラが使っているのは蒸気機関を取り入れた両手弓。魔術により作られた特殊鋼を弦に、蒸気機関による弓引きと射出に補助が付いた物。そこに浄化師として強化された力で打ち出した矢は、飛距離だけなら一キロを超える。 一般人が生身で至近距離、しかも手加減無しで受けたなら、手足の末端部分なら千切れ飛び、胴体なら体ごと後方に吹っ飛ばされるぐらいの威力はあった。 しかし矢の特性上、空気抵抗を受ける範囲が大きく、どうしても直線ではなく曲線を意識して撃ち出さなければならない。 「アライブスキルで命中精度は上げられないんですか?」 「やってるわぁ。でも難しすぎるわね」 言いながら、試し撃ちを重ねる。 「さっき連絡が来たんですけど、魔女さんが命中力を上げてくれる魔法をみんなに掛けてくれるみたいです。あと魔性憑きの人達も、アライブスキルで強化してくれるみたいです」 「それなら、距離が稼げそうねぇ。無理でも、ギリギリまで引き付けてから撃てばどうにかなるでしょ」 「ほどほどの所で退避しましょう。上陸した所を撃ってやれば良いんです」 「そうねぇ。その時は、防御は任せるわぁ」 矢を試し打ちするサクラに、頷くキョウだった。 皆の準備が整い、配置に就く。 そして開戦の時が近付いて来た。 時が過ぎるにつれ、周囲の空気が張り詰めていき、皆は無言になっていく。 戦意の高まりと緊張がピークに達し始めた頃、その伝令は来た。 『敵影確認! 各自戦闘体勢に移行!』 魔術通信により伝わる通り、海を越えて敵がやって来る。 少しずつ近づいてくる戦艦に、皆はパートナーと魔術真名を詠唱。 その後、各々の持ち場へと走り出す。 「始まったね」 「ええ。始まってしまったわ」 魔術真名を唱え終わり、声を掛けてきたリューイにセシリアは返す。 「大丈夫ね? リューイ」 「うん、大丈夫」 笑顔でリューイは応える。 「僕たちは、僕たちにできることを」 そう言うと、流麗鼓舞を掛けセシリアの命中力を上げ、自分の役割をこなすために走り出す。 「守ろう」 「ええ」 言葉を交わし、戦いを始める。 セシリアは魔術砲にアライブスキルを込めて魔力を流す。 同時に、仲間の砲撃手に魔術通信で連絡を取る。 『アライブスキルの装填終わりました。いつでも撃てます』 それを受けた皆は、各自連絡役に就いているマドールチェに状況を伝えて貰う。 「こちらもタロットナイフの装填が終わりました。セラちゃんの砲撃に合わせて、いつでも撃てます」 ヴィオラの応えに続き、皆は返していく。 「こっちも準備できたよ! 集中砲火して吹っ飛ばそう!」 レオノルはオーパーツグラウンドを装填。いつでも撃てるよう準備を終える。 「こっちも攻撃魔法を装填したよ! みんなが撃った後に、止めを刺すよ!」 最後の魔術砲もセパルが魔力を込め終え、あとは撃つのみ。 だが問題は、タイミングと敵の配置だ。 魔術砲に集中している彼女達では、敵艦の全体を俯瞰して見ることが出来ない。 そこに観測手として動いているカグヤが状況を伝えていく。 「敵艦、総数10。陣形は横陣から、近付くにつれて中央が突出。魔術砲の有効射程に入り次第、連絡する」 観測機器を使い、頭に叩き込んだ周辺海図と照らし合わせながら、敵の進行を予測。 (攻撃は、お願い) カグヤは祈るように思う。 元よりカグヤは陰陽師。攻勢向きではなく防衛の方が得意だ。それでも―― (守るのは、味方でも、自分でも) 決意するように思う。 (デイムズも、人形遣いも、貴族だろうと、奴らの好きになんかさせない) 決意を現実にするべく、神経を集中し敵の動きを見ながら、カウントダウンを開始する。 「敵艦、有効射程距離まで、あと5、4――」 カグヤの言葉をマドールチェが皆に伝える中。 「――2、1、撃って」 開戦の火蓋は切って落とされた。 『第一砲撃、開始します』 セシリアは魔術通信で皆に連絡すると、魔術砲を撃ち放つ。 撃ち出された魔力弾は、月の輝きを思わせる白色。 先頭の戦艦を揺らすほどの勢いで威力を叩き込み、同時に戦艦全体を白き輝きで包む。 その途端、戦艦の動きが鈍る。 セシリアが魔術砲に込めたアライブスキルは、ルーナーエヴァージョン。 運命に干渉するそのアライブスキルにより、戦艦の周囲の波の動きが急に変わり、動きを阻害する。 動きが鈍った敵艦は、良い的だ。 当然、その隙を全力で突く。 「第二砲撃、撃ちます」 「第三砲撃も合わせていくよ」 ヴィオラとレオノルが連携して砲撃を叩き込む。 撃ち出された巨大なふたつの魔力弾は、ひとつは敵艦の全てを囲むようにして無数の輝くカードが発生したかと思うと、次の瞬間には無数のナイフとなって戦艦に突き刺さる。 戦艦全体が震えるほどの数のナイフが次々に刺さり、至る所に傷が出来ていく。 そこに追撃。 巨大な無数の武器が戦艦を囲んだかと思うと、ナイフが刻んだ傷をさらに広げるように、一斉に襲いかかる。 斬り裂かれあるいは罅が入り、波しぶきが上がるほど大きく揺れる戦艦。 そこにセパルの砲撃がダメ押しで入る。 セパルの魔術砲から射出された魔力弾は海に落ちると、次の瞬間には戦艦よりも巨大な、海水で出来た人魚が発生。 それが高速で体当たりし、すでにボロボロになっていた戦艦を横倒しにした。 「こいつの止めはボクが刺すよ! 他のをお願い! これを沈め次第砲撃を合わせるよ!」 セパルの伝令に皆は応え、休むことなく砲撃を続けていく。 普段なら魔力切れを意識しなければならない所だが、今はダヌの加護がある。 休むことなく全力を叩き込んでいく。 立て続けに響く轟音。 それは途中から、敵の戦艦から撃ち出される砲門の音も合わさっていく。 耳をつんざくような巨大な音は体の芯にまで響いてくる。 音だけで体力を消耗しそうになるほどの撃ち合いの中、段々と敵の弾の命中が近くなる。 港近くの海面に敵の砲撃が当たり、空高く舞い上がるほどの水柱を次々作っていく。 「敵艦が射程距離に入る。後退時の援護をするから、今の内に退避をお願い」 敵の動きを見ていたカグヤが、マドールチェの浄化師を通じ状況を伝える。 それを聞き、待機していた浄化師達が一斉に動いた。 『自動車で迎えに行く。退避行動に移ってくれ』 魔術通信で、ニコラは砲撃手と周辺の仲間に連絡する。 それを聞き皆は動く。 「了解。まだ行けそうだけど、残りは上陸してきてから決着をつけるよ」 レオノルが最初に動く。 連絡役の浄化師達と共に、ニコラが運転する車の元に走り出す。 その間も、敵の砲撃は止まらない。 魔女の魔法のお蔭で、幸い命中することは無かったが、飛び散る破片だけでも危うい。 「今の内に退避しよう。これ以上はタダじゃ済まない」 周囲の仲間に声を掛けながら、レオノルは後退していく。 その途中、彼女の言葉を聞いたリューイは、セシリアの元に走った。 「セラ急いで!」 「先に行って。私は後から」 敵艦の砲撃が地響きを立てて近付く中、セシリアはギリギリまで粘ろうとする。 そんな彼女を、リューイは抱き上げた。 「リューイ!?」 「セラを置いて下がるなんて、できる訳ないだろうそんなこと!」 お姫さま抱っこの要領で抱き上げたまま、リューイはニコラの運転する車に辿り着く。 「2人とも乗って!」 先に乗り込んでいたレオノルが、リューイとセシリアを車の中に引っ張り込む。 2人が乗り込むとすぐに、ヴィオラが合流する。 「すまん遅れた」 「大丈夫です」 ヴィオラの返事にニコラは内心安堵すると、他の浄化師の状況を尋ねる。 「他の浄化師で怪我をした者は居ないか? 居るなら陰陽師に近くで待機して貰っているから連れていく」 「そちらも大丈夫です。魔女さん達が幻覚の魔法を掛けてくれたお蔭で砲弾の狙いはズレてましたから」 「そうか。魔女と言えばセパルはどうした?」 「すでに退避されて魔女さん達の指揮を執るそうです」 手短に状況を確認し、ひとまずは一端後方に退避する。 一方、今まで待機していた浄化師達は、即時戦闘が出来る位置に動いていた。 「本艦よりも先に、ボートで上陸して来るみたいですね」 敵艦の動きを確認していたキョウは、狙撃場所に向かうサクラと共に走りながら続ける。 「上陸する前に仕留められると良いんですが、いけますか?」 「試してみるわぁ」 サクラは獲物を狙う狩人の鋭さと、戦いの愉悦に目を細めながら敵を射る。 魔女により強化された一矢は、ボートに乗った敵の肩を貫く。 けれど肩を貫かれた敵は、何事も無かったかのように平然と矢を引き抜いた。 「何あれ? 不感症なのかしら?」 まるで痛みを感じていない敵に、つまらなそうにサクラは評する。 これにキョウは返した。 「死人兵ですね。死人が動いているだけですから、痛みを感じてないんでしょう」 「ああ、そういうこと」 キョウの言葉で、サクラは納得したというように返す。 そして敵ではなく、単なる障害物を見るような目で死人兵たちを見た。 「死人兵? 私が興味を持てた人はいないだろうし……死んでるし」 念のため目を凝らすが、そこに見知った顔は誰もいない。 「面白くは無いけれど――」 サクラは矢継ぎ早に連続射手。 狙いは頭部や心臓。 生きてもいない相手では気持ちが乗らないが、それなら少しでも早く終わらせるだけ。 「休ませてあげるわぁ」 針の穴を通すような精密射撃で、敵を次々撃ちぬいていった。 砲撃と上陸前の攻撃で、敵の数は半数近くまで削れる。 だがそれでも敵の数は多い。 数の上では敵の方が上だ。 だからこそ、仲間と連携して浄化師は動く。 「敵陣の横っ腹を食い破るよ!」 ヴォルフラムが、ライカンスロープの浄化師達と共に突撃する。 敵の正面を避け迂回する様にして移動していた彼らは、敵が態勢を整える前に跳び込む。 ヴォルフラムの動きに気付いた敵は、囲んで潰そうとするが、それはヴォルフラムの思惑通りの動き。 (まとめて叩き潰す!) 勢い良く両手斧シーラビリンスを振り上げ、渾身の力で振り降ろす。 グラウンド・ゼロの一撃。 敵の1人を叩き潰し、周囲の敵も強烈な風圧で地面に叩きつけた。 そこに仲間の浄化師達が追撃。 敵を側面から切り崩していく。 だが敵の数は多い。 数の暴力で倒れそうになるが、そこで連携を見せる。 傷を受けた仲間を皆で庇い、その間に獣人変身して一端離脱。 後衛の陰陽師達の元に向かい傷を癒して貰う。 「カグちゃん回復お願い!」 「分かった」 カグヤ達、回復役達は目まぐるしい勢いで傷付いた仲間を癒していく。 回復した浄化師達は、即座に戦線復帰。 数の不利を役割分担と連携でカバーする。 敵はそれに気付き潰そうとするが、それを仲間の浄化師がさせない。 「的が多いわぁ」 サクラは気だるげに呟きながら、カグヤ達回復役に向かう敵を次々射抜く。 それに気付いた敵が向かってくるも、キョウが体を張って動きを止める。 「ニコ、このままお願い!」 レオノルはニコラに運転を任せ、移動しながらソーンケージを撃ち放つ。 巨大な魔力の茨に、身体を絡め取られ引き裂かれる敵。 敵は反撃するために追い縋ろうとするが、ニコラの運転する車に追い付けない。 さらにレオノルを援護する様にセシリアとヴィオラがアライブスキルで攻撃。 追い付けず近付けても迎撃され、距離を取れば広範囲攻撃魔術を食らう。 それを避けようと、敵は分散して動こうとするが、そこにリューイが跳び込む。 (一箇所に集めて纏めて攻撃できるようにしないと) ヒット&アウェイで攻撃し、敵の動きを誘導すると、それにより集まった敵を、レオノルが纏めて攻撃した。 敵を確実に抑えていく。 だが、あまりにも敵の数が多い。 危うい拮抗状態を保っていた所に、神の雷が助けてくれる。 文字通り雨が降るような膨大な数の雷が、敵の全てを撃ち据える。 覇天の雷姫・アディティの轟雷は、敵を多いに薙ぎ払った。 敵の勢いが落ちる。 そこに浄化師達は一気に攻め込んでいった。 浄化師達は果敢に戦う。 それは他の地域も同じだった。 ●東部戦線 時は少し遡る。 東部の配置に就いた浄化師達も、戦いの準備を整えていた。 「柵まで誘き寄せる。しばらくここに伏せて、罠にかかったら数を減らしてくれ」 ルシオとカミラの2人に、『シリウス・セイアッド』は手順を話す。 「後詰めだが危険な役だ。無理はしないでくれ」 「ありがとう、シリウス」 明るい声でルシオは返した。 「無茶はしないさ。でも、やれることはする。シリウス達のお蔭で、この島でみんなが暮らせてるんだ。守るために精一杯頑張らないとね」 笑顔を浮かべるルシオ。 それは今の生活が大切だと感じさせる。その助けを自分が出来ていることがシリウスは嬉しい。 だからこそ、今回の戦いを負けるわけにはいかない。 (上層部なんて皆同じと思っていたけれど、トゥーレの人々やルシオが笑っている今は、今の室長だからこそとわかる) シリウスも、少しずつだが、色々な物や人と関わる内に変わってきている。だからこそ―― (以前の体制になんて、戻させない) 自分の身体を張ってでも、守り抜こうという意志を漲らせる。 そんなシリウスに、ルシオは言った。 「シリウスも無茶しちゃダメだぞ」 応えが返って来る前に続ける。 「リチェちゃんを泣かしちゃダメだぞ」 「……」 応えを返せないシリウスに、ルシオは苦笑する。 「お前のことを大事に想ってる人は、沢山いるんだ。俺だって、お前のことは大切だ。1人で突っ走らないで、みんなの手を借りよう」 笑顔で呼びかけるルシオに、シリウスは困ったような表情を浮かべていた。 それを離れた場所で見ていた『リチェルカーレ・リモージュ』は、微笑ましげに苦笑する。 (好かった。シリウスの助けになってくれる人達が居て) それが嬉しい。 だからこそ、彼らの居場所を失わせるわけにはいかない。 (猊下もデイムズ卿も、何故争いを起こそうとするのかしら。実際に苦しむのはこの島の人なのに) リチェルカーレには、国や教団のような組織の都合を知る術は無い。 けれどそれでも、今の流れは善くないものなのは分かる。 (傷つく人がひとりでも減るよう、頑張ろう) 決意を胸に、リチェルカーレはガーゴイル達の元に向かう。 魔女の魔法により契約しているガーゴイル達は、大人しく従っている。 「シリウス達と協力して、柵に誘導してね」 魔女の魔法ファミリアの効果で、言葉のやりとりまでは叶わないが、ある程度の意思の疎通は出来る。 「無茶しないで、危なくなったら逃げるのよ」 硬い岩のようなガーゴイルの身体を軽く叩いてやると、ゴロゴロと喉を鳴らすような音で返してきた。 2人が準備をしているように、同じく東部での戦いに就いた『リコリス・ラディアータ 』と『トール・フォルクス』も戦いの準備をしている。 「レオノル先生が電気柵の威力を上げてくれているから、そこに誘導しましょう」 浄化師や魔女達に、リコリスは戦いの手順を伝えていく。 「電気柵は、魔女さんの魔法で見えないようにして貰えるかしら?」 「ええ、出来るわ」 リコリスの要望に魔女の1人が応える。 「セパル姐さんほどじゃないけど、幻惑系の魔法が使えるのが何人かいるから、協力して掛けるわ。あと、待機してる人達もギリギリまで隠せるけど、その魔法を掛けている間は他の魔法が使えないから、他のことは出来そうにないわ」 「分かったわ、ありがとう。それなら魔法を掛けて貰ってる間は、護衛に就いて貰う人が要るわね」 リコリスの言葉に、浄化師の1人が返す。 「それなら墓守の浄化師が何人かいる。手配をしよう」 「助かるわ」 リコリスは笑顔で応え、自分の戦場での役割を伝える。 「私はスポットライトを使って、出来る限り敵を引き付けて誘導するつもり」 「かなり危険な役だが、良いのか?」 浄化師の男の問い掛けにリコリスは返す。 「ええ、任せて。幸い、引きつけ役には慣れてるの。巧くやるわ」 今までの戦闘で熟練の域に達しつつあるリコリスは、余裕ではなく確信を込めて返した。 それを見て浄化師の男は感心したように笑みを浮かべ、助力を申し出た。 「頼もしいな。だが万が一ということもある。俺も墓守だから、あんたに向かう攻撃を引き受けることが出来る。勇敢なあんたの助けをさせてくれ」 「ありがとう。頼りにしてるわ」 笑顔で応えるリコリスだった。 そうしてリコリスが連携のためのやり取りをしている頃、トールも話を付けていく。 「もう一頭、馬を貸して貰えるかな?」 トールは、オクトの1人に頼んだ。 「シリウスと一緒に、敵を追い立てる役に就こうと思うんだ」 今回の戦いでは、電気柵に敵を誘導することで、ダメージを与えると共に敵の動きを限定するつもりでいる。 トールの話を聞いたオクトの1人は、馬を2頭連れて来てくれた。 「こいつらなら大丈夫だ。落ち着いたやつらだから、少々危ない所でもこっちの言うことを聞いて動いてくれる」 そういってトールに2頭を渡すと、切実な声で言った。 「悪いなぁ、儂は戦えるほど強くないからなぁ。こうして、こいつらを送り出してるぐらいしか出来ん」 馬の首を撫でながら男は言った。 彼は非戦闘員だが、馬の扱いに優れているということで、自分からここに来ている。 馬が好きな彼にとって、戦争に送り出すのは辛いのだろう。 それでも今ここに居るのは、島を守りたいからだ。 「済まんけど、よろしく頼むわ」 そう言って、周囲の畑や植物園に目を向ける。 「荒らされるんだろうなぁ、ここも」 そこに、作戦会議を終わらせたリコリスが近付き言った。 「畑を荒らしてしまうのは忍びないけど、また耕しましょう。手伝うわ」 「……そうか、その時は、よろしく頼むわぁ」 くしゃりと笑い皺の浮かぶ笑顔を浮かべオクトの男は返した。 そうして準備が整う中、蒸気自動車に乗ったクリストフとアリシアが到着し、南部の状況を話す。 「南部の方は予定通り準備が進んでるよ。マドールチェの人に連絡して貰えるよう頼んでるから、向こうに敵が攻めてきたら伝わる筈だ」 「こちらの準備は、どうなって、いますか?」 アリシアの問い掛けにリコリスが応える。 「シアが言っていたように、魔女さん達には幻影魔法を掛けて貰う手筈を整えているわ。もし敵が上空から来た時も、対応して貰えるよう話をしてる」 リコリスに続けてトールが言った。 「敵を誘導する手筈も整えてる。馬も用意して貰ったし、シリウスと一緒に追い立てるよ」 話の途中からシリウスとリチェルカーレも加わり、状況確認は進む。 「敵を電気柵に追い込んだあとの、一斉攻撃の準備を頼んだ」 シリウスに続けて、リチェルカーレも言った。 「アディティ様の召喚準備も終わってるから、いつでも来て貰えるわ」 話を詰め終わり、クリストフは皆の戦意を高めるように言った。 「デイムズの下で働くなんて真っ平だ。この島を好きにされるのも面白くないし、室長も王城も必ず守ろう」 クリストフの言葉に、皆は力強く返した。 そして皆は、それぞれの配置に動く。 待つこと暫し。 戦闘前の刃物めいた緊張が続く中、その伝令は来た。 『敵、南部に進軍! 南部戦闘開始する!』 南部のマドールチェからの魔術通信。 それからほどなくして、東部で海上の見張りについていたマドールチェの浄化師から連絡が来る。 『敵影確認! 各員、戦闘体勢に移れ!』 即座に皆は動く。 魔術真名を詠唱し、リチェルカーレやアリシアの様な陰陽師達は、禹歩七星を掛け機動力を引き上げる。 シリウスとトールは馬に乗り、敵が上陸してもすぐに動けるような配置に就く。 「アリシア、行くよ」 「はい」 クリストフは蒸気自動車にアリシアを乗せ、その機動力を生かし、敵に先制攻撃を与え誘導する役に就く。 「いよいよね」 やや後方に控えたリコリスは、敵の動きに合わせ走り出す準備をしていた。 全員が持ち場に就く。 その頃には敵の戦艦は、岸から100mほどの距離に近づいている。 港のある南部とは違い、戦艦でそれ以上進めば浅瀬に乗り上げることになるため、敵はその距離から進軍を開始した。 膨大な数の飛行型キメラが、それぞれ1人の死人兵を乗せ戦艦から飛び立つ。 そのルートは2種類。 高度を上げ中央へと真っ直ぐに進む者と、東部に降り立つ者。 中央に進む者は無視し、東部に降り立つ者達に意識を集中する。 敵の先陣が降り立ち、陣形を組もうとした所で、浄化師はアディティを召喚した。 「風情に欠ける相手でありんすなぁ」 召喚に応じ現れたアディティは、この場に居る全てを見下ろす高所から死人兵とキメラ達を見詰めると、その力を振るった。 千を優に超える轟雷が、一斉に降り注ぐ。 耳をつんざくほどの轟音と、周囲を圧する閃光。 神鳴る力を受けた敵は、大いに傷を受けた。 それを合図に、浄化師達は敵に突撃する。 「アリシア、舌噛まないようにしてくれよ!」 クリストフは自動車をフルスロットル。 一気に最高速まで引き上げると、そのまま敵陣に突っ込む。 急加速にアリシアは歯を食いしばって堪え、意欲を示すようにクリストフへ返す。 「こんなの、平気、です」 アリシアの応えにクリストフは笑みを浮かべると、さらに加速。 敵は迎撃しようとするが、チューンナップされた車の速さとクリストフのドライブテクニックで、尽く避けられる。そして―― 「行くよアリシア!」 クリストフは敵の群れに車を跳び込ませた。 次々跳ね飛ばされる敵。 その状態でアクセルを全開にしつつ、旋回。 跳ね飛ばされた敵は体がおかしな方向にねじれていたりしたが、死人兵たちはお構いなしに追い縋って来る。 そこにアリシアの火界咒が放たれる。 炎の龍が死人兵に食らい付き、注意を引いていく。 「こちらへ来て下さい」 火界咒を放ちながら、死人兵たちに悼むような眼差しを向けアリシアは呟く。 「貴方達の苦しみも、これで、終われます……」 跳ね飛ばされ焼かれ、それでも襲い掛かって来る死人兵達が追い縋ってくる中、アリシアは祈るように言った。 「全て終わったら、花の中で眠ってください……」 死者に安らぎたる眠りを。 彼らにもたらすため、クリストフとアリシアは敵の群れを引きつけた。 死人兵たちがまとまって追いかけて来ると、それを電気柵へと誘導する。 魔女の魔法により電気柵は見えず、まだ気づかれてはいない。 そのまま死人兵を誘導しようとするが、そこでキメラ達が邪魔をしようとする。 焦げた翼を羽ばたかせ、空を飛んでクリストフとアリシアの乗る車に襲い掛かろうとした。 そこに魔女による攻撃魔法が放たれる。 アディティの雷撃で弱っていたキメラ達は、攻撃魔法を受け次々に墜落する。 もし元気なままだったら、何匹かは車に追い付いていただろうが、それは叶わない。 墜落した所に、ガーゴイル達が追撃を掛けた。 魔女とガーゴイルがキメラを抑える中、直近で対応するべきは死人兵。 クリストフとアリシアが電気柵に誘導するが、敵の数が多い。 横に広がろうとした所で、トールとシリウスが馬で牽制する。 「そっちには行かせない」 トールは馬に乗りながら、マッピングファイア。 無数の矢を放ち貫くと、敵の注意を引き誘導する。 それはシリウスも同じだ。 「……もう少しだけ頑張ってくれ」 シリウスは乗っている馬に声を掛けながら、敵を誘導する。 敵が追い付けそうになるギリギリの速さで馬を走らせながら、敵の攻撃を察知し、馬を操り避けさせる。 少しずつ、敵の進行方向が誘導されていく。 それを決定的にするように、リコリスが動いた。 「こっちよ。哀れな子羊さん、追い立てられていらっしゃい」 リコリスはスポットライトを使い、敵の意識を強制的に引きつける。 魔術効果を持つ舞踏を見た敵の集団は、纏まって襲い掛かって来た。 それを引きつけた所で、リコリスは全力疾走。 電気柵へと向かうが、それを横手から逃げ道を封じるようにして、敵の一団が動こうとする。 そこに放たれる、トールのマッピングファイア。リコリスに敵を追いつけさせない。 全力疾走していたリコリスは、電気柵の直前で、魔女の魔法により宙に浮く。 結果、電気柵を飛び越えるリコリス。 そこに追い駆けるようにして死人兵は突っ込んでくると、盛大な音と共に電気で焼かれた。 敵の動きが明らかに停滞する。 そこで待機していた襲撃班が、一斉に襲い掛かった。 遠距離広範囲魔術が連続して叩き込まれると、近接組が個別に撃破。 そこにシリウスも加わる。 ベリアルリングでブーストしたシリウスは、ソードバニッシュによる先制斬撃。 一太刀の元に斬り伏せると、黒炎解放。 「光は降魔の剣となりて、全てを切り裂く」 全力を惜しみなく出し切り、敵の群れへと我が身を省みない勢いで突進する。 そこにクリストフが援護に向かう。 「お前の力を示せ、ロキ!」 黒炎解放。 敵の攻撃で動きが止まった車から跳び出し、シリウスに向かう敵を斬り裂くと、背を守るような位置に就く。 「背中は守る。だから思いっきりやりなよ」 「……頼む」 言葉短く、そして信頼する様に返すと、攻撃だけに集中した。 その様子を目の端で捕えたリチェルカーレが、心配げに一瞬意識を向けてしまう。 そこに敵が跳び込んで来ようとしたが、カミラの双剣が斬り裂いた。 「怪我は無いか?」 「大丈夫です」 リチェルカーレが言葉を返している間に、近付こうとした敵がまとめて禁符の陣で拘束封印される。 そこから即座に炎の龍で焼き尽くすルシオ。 「怪我がないみたいだね。好かった」 人懐っこい笑顔を浮かべ、リチェルカーレの無事を喜ぶ。 「シリウスに頼まれてたからね。君を頼むって」 そしてシリウスに一瞬視線を向けたあと続ける。 「シリウスが気になるなら、近くまで俺とカミラで守るよ。行くかい?」 「はい、お願いします」 リチェルカーレは強く応えると、ルシオとカミラの護衛でシリウスの元に向かう。 その途中、アリシアとも合流。 2人ともに護衛され、シリウスとクリストフの元に辿り着き、共に戦っていく。 情勢は浄化師有利。 それでも敵である死人兵は恐れを感じず向かって来る。 トールは彼らと戦いながら、かつての相棒の姿を見た。 「ファット……! まさかお前が死人兵に……」 驚愕に声を上げる。 普段とは違うトールの様子に、リコリス達が援護も考え走り寄る。 「トール! 知ってる、人なの?」 リコリスの問い掛けに、苦しげにトールは応えた。 「冒険者をしてた頃の相棒だ。なんで、こんな――」 感受性が強く心優しい性格で、吊るされた兎にすら涙する、トール以上のお人好し。 そんな彼が、いま魂を封じられ死人兵になっている。 「虫も殺せないような優しい男だったのに、作ることが何より好きな奴だったのに……」 悲しみが溢れる。 せめて少しでも早く終わらせてやろうと矢を射るが、ファットが手にしている武器を見て狙いが逸れる。 手にしているのは巨大なハンマー。 刃のついた武器を怖がり、飛び道具は巧く使えなかった彼が選んだ武器。 かつてのことが思い浮かび、心が乱れずにはいられなかった。 トールの様子に気づいた仲間が駆け寄る。 「どうして、大切な人をこんな風に……っ!」 「酷い……」 リチェルカーレとアリシアは息を飲むように声を上げ、それでも何かをしようと、トールの傷を癒していく。 「……辛ければ、代わる」 静かなシリウスの申し出。 それにトールは、覚悟を込め返した。 「……悪い、みんな。これは俺が自分でやるべきだと思う。これ以上あいつに、大嫌いな戦いをさせたくない」 決意を込め、矢を放つ。 それを受けながらファットは突っ込んでくる。 同時に、他の死人兵も流れ込んでくるが、それをリコリス達は止めた。 リコリスは余計な敵をスポットライトで引きつけながら、向かって来ようとしたファットからは離れる。 「……駄目よ、私はあなたを倒さない。それはトールの役目だもの。トールがやらなきゃいけないことだもの」 (私が手を出すのは、トールが折れてしまった後) 言葉を飲み込み援護に動く。 それは他の仲間も同じ。 「邪魔はさせないよ」 クリストフは爆裂斬で敵を斬り裂き、仲間と共に、トールとファットの戦いの邪魔をさせない。 混戦の中、仲間のお蔭で一対一の戦いになる。それを制したのは、トールだった。 「……ファット」 心臓を矢で貫き動きを止めたファットに、トールは苦しげに呼び掛ける。 それが、終わり逝くファットに届いた。 「トール……?」 「ファット!」 消え逝く前、ファットは正気に戻る。 おぼろげながら状況を理解したファットは言った。 「ごめんな。辛いこと、させちまったな」 「……そんな、こと」 言葉が返せないトールを支えるようにリコリスが傍に寄る。 寄り添う2人。 その姿を見て、ファットは笑った。 「幸せになれよ、トール」 トールとリコリスの2人を祝福する様な笑顔を最後に、ファットは塵となり消えていった。 「……っ!」 絶叫をトールは飲み込む。 今は戦場。悲しみの声を上げる時ではない。 そして彼は浄化師だ。 「全員、解放してやろう……ファット、みたいに」 トールの言葉に皆は頷き、果敢に戦いへと身を投じて行った。 戦いは過熱していく。 それは中央でも変わらなかった。 ●中央戦線 時は少し遡る。 中央の配置に就いた浄化師達も、戦闘準備を整えていた。 (この地を荒らさせん) 周辺の地形を実際に歩くことで体に叩き込みながら、『ショーン・ハイド』は決意する。 そこにオクトの首領であるヴァーミリオンが声を掛けてきた。 「頼りにしてるぜ、ショーン」 「期待には応える。そちらの準備は?」 「抜かりはねぇよ。いつかはこうなると分かってたからな。この時のために練兵した精鋭を配置してる」 「準備が良いな」 「まぁな。1人で喧嘩してた時の方が気楽だったが、今みたいのも悪くねぇ」 「……守るものがある方が良いか?」 「さてな。でもま、お前の大事なお嬢ちゃんも気に掛けてくれてんだ。あとは、やりきるだけさ」 ショーンは、レオノルの言葉を思い出す。 「ここはショーンの大事な仲間の居場所なんだ。蹂躙させるわけにはいかないよ」 今レオノルは、南部に向かっている。 恐らく向こうの方が、戦いの始まりは早いだろう。 敵の進行は、上陸の邪魔になる木々が生えていない東部と南部。 その内南部は港があり、軍艦を接舷することも出来る。 恐らくそこに、最大数の上陸要員を配置して来る筈だ。 厳しい戦いになるのは間違いない。 けれどショーンは信じている。 レオノルが、そして仲間が、敵を食い止め倒してくれると。だからこそ―― (俺は、ここを死守する) ショーンは自らの役割を自覚していた。 こうした戦いの準備を積み上げていくのは、『ルーノ・クロード』も変わらない。 「5人一組のチームを3チーム。配置は、こことここと、あとはここが良いと思うのだが、どうだろうか?」 ルーノは城下町の詳細な地図を確認しながら、マドールチェを含む浄化師達とブリーフィングを行う。 これに、熟練者のマドールチェの男が返した。 「目の届き辛い場所を重点的に見て回る形だな」 「ああ。恐らく中央には、デイムズの主力本隊が来る。場合によってはそちらにこちらの注意を引きつけたうえで、別働隊が王城に襲撃してくる可能性もある。それを防ぎたい」 「分かった。なら、連絡と足止めに特化した編成を組む。他の部隊の配置も考えれば、時間を稼げさえすれば、挟撃することも可能だろう」 ルーノ達は、敵の動きに何があっても対応できるよう、戦力の偏りが無いように話し合う。 その中で、話に加わっていた『桃山・令花』が申し出る。 「地図とにらめっこならお任せください。最適な経路を提案してみせます」 彼女の胸には、一冊の魔導書が抱かれている。 それは願望の書である叶花。 今回の戦いに魔導書っ子達も参加しているが、叶花は魔導書形態で、令花と共に居た。 「連携を考えると、予備戦力はここと、あとはここに――」 令花の提案を聞いたルーノは、地図を確認したあと返す。 「いけそうだね。なら、令花にはオペレーターとして全体把握をして貰いたい。頼めるだろうか?」 「はい、任せて下さい!」 張り切って応える令花に、マドールチェの男が仲間を呼び、令花の補助として同行することになった。 連携と即時対応、そして奇襲を防ぐ布陣を組み上げていく。 この布陣だと、敵を一気に殲滅することは難しいが、時間を稼ぎ不意打ちを防ぐことが出来る。 それがルーノが主体になって作られた。 (私達だけで決着をつける必要はない。時間を稼ぎさえすれば、東部と南部の味方が応援に来てくれる。王城に避難する一般人や王女達を守るためには、倒すことよりも守ることを意識する必要がある) 仲間を信じ、戦いの目的を見据え、ルーノは事前準備を続けていく。 それは『ナツキ・ヤクト』も同じだ。 「王城に近付く相手を排除して欲しいんだ」 ナツキは、魔女のエレナとリリィに頼む。 これに2人は、快く返した。 「もちろんよ」 「任せてちょうだい。ナツキやルーノ達が気にせず戦えるよう、みんなで守るわ」 エレナとリリィの言葉に、集まっていた魔女達も賛同する。 それがナツキには嬉しかった。 今この時、皆で力を合わせて立ち向かおうとしている。 これまでの積み重ねと、皆との関わり合いが形になっているように思えた。 (絶対に、守るんだ) 決意を胸に、ナツキは皆と連絡を取り合っていった。 そうして皆が準備を整える中、『桃山・和樹』は魔女であるラヴィと共に走っていた。 「結論から言うと、無理じゃ」 「そこをなんとかならないかな、師匠」 和樹は難しそうな表情で、ラヴィに返した。 いま2人が話しているのは、デイムズの魔眼の対応だ。 デイムズの魔眼は肉親であるラヴィの物なので、なんとか出来ないか訊いたのだ。 これにラヴィは応える。 「あいつが外部から干渉できるような弱点を放置しているとは思えん。せめて事前にあいつの魔眼の今の状態を調べられれば可能性はあったが、急には無理じゃな」 「だったら、どうにもならないってことか」 眉を寄せる和樹に、ラヴィは返した。 「そうとも限らん。前にあいつと戦った浄化師からの情報が、鍵になる」 「そうなのか!?」 「うむ。黒炎じゃ」 ラヴィは説明する。 「前の戦いでは、黒炎には解析の魔眼は役に立たんかったらしい。あれからまだ時間も経っとらん。対処するのは不可能じゃろう。そこを突く」 「なるほど……あ、だから、黒炎が使えるヘスティアの所に向かってるんだな!」 「そういうことじゃ。じゃがそのためには、黒炎が使える魔導書の娘が要になる。それだけに狙われる可能性が高いが――」 「任せてくれ師匠! 体を張ってでも盾になって守ってやる!」 「その意気じゃ。それと、狂信者で広範囲に破壊力のある魔術を使える者に知り合いは居らぬか? この策の助けになって欲しいんじゃが」 「だったら任せてくれ! ピッタリの人に会わせるよ!」 そう言って和樹が向かう先、王城の前に、『ヨナ・ミューエ』は『ベルトルド・レーヴェ』と共に待機していた。 「ここでもゲームですか。どうしてこうなってしまうのでしょうね」 「さてな。余程遊びが好きとみえる」 ため息をつくようにベルトルドは応えると、続けて言った。 「にしてもヨセフ。今回で教皇の地位を一気に獲りにいくつもりか」 「そのようで。では私達も命も賭して運命を勝ち取りにいきましょう」 重ねた戦いの中で、自らのスタンスを確立して来たヨナは、迷いを見せず応えた。 そこに和樹とラヴィが走って来る。 「ヨナさん! 力を貸してくれ!」 「どうしたんですか!?」 驚いたように聞き返すヨナに、ラヴィが策を説明する。 「それは……確かにやってみる価値はありますね。分かりました、協力します」 ヨナの協力を取り付けた和樹とラヴィは、今度は魔導書っ子たちの元に向かう。 そこでは、『ラニ・シェルロワ』が魔導書っ子たちと元気に声を掛け合っていた。 「あいつらをやっつけるのに、力を貸してね!」 「うん!」 「やるー!」 「がんばる!」 ちっちゃな手で握り拳を作り、魔導書っ子たちは振り上げる。 やる気は十分なようだ。 ラニ達の様子に、『ラス・シェルレイ』は苦笑する様に小さく笑い、家族とも言える仲間に声を掛ける。 「みんな、力を貸してくれ」 「もちろんだ、兄弟」 グリージョは漂々とした笑みを浮かべ、皆に声を掛ける。 「やろうぜ、みんなで」 「当然でしょ!」 ケイトは笑みを浮かべ応える。 「ラニちゃんとラスくんが体を張ってくれるってのに、アタシらが戦わないでどうすんの! 2人とも、守るからね!」 「そうそう。みんなで力を合わせれば、怖いもんなんてないよ」 ケイトの言葉に、ペトルも笑みを浮かべ返すと、最後の1人、エフェメラにも笑顔を向け言った。 「シィラのお師匠さんも、俺達が守りますよ。だから、安心してくださいな」 「う、うむ」 身体をかちこちに硬くしてエフェメラは返す。 その様子が気になったラニとラスが声を掛ける。 「メラじぃちゃん、怖くないよ。アタシ達がいるんだから」 「俺たちで守るから、大丈夫だ」 これにエフェメラは、か細い声で返した。 「いや、その……怖いのも、あるが……それ以上に、人が、一杯で」 普段独りで引きこもっているエフェメラにとって、数百人も人が居る状況は慣れないようだ。 そこにグリージョが声を掛ける。 「シィラから伝言を預かっています」 「そ、そうなのか?」 エフェメラが食いつくように聞き返し、グリージョは応える。 「あの子達を、ラニとラスを守ってあげてください。私は今そちらに会いに行けないけれど、貴方のことを想い、願っています」 「……そうか」 グリージョから聞いた伝言に、エフェメラは涙ぐむように黙ってしまうが、すぐにやる気を見せた。 「分かった。我の力で、守ろう。シィラのために使えなかった力を、ここで使う」 「その意気よ、メラじぃちゃん!」 ラニの言葉に、頷くエフェメラだった。 近しい者達と戦いの意欲を高めていく。 それは『リントヴルム・ガラクシア』と『ベルロック・シックザール』も同じだった。 「マリーはシャドウ・バインドで敵の足止め。リーちゃんは味方の支援と攻撃をお願いするよ」 リントヴルムは、今回の戦いに同行してくれたマリエルとマリーに言った。 「多分、人形遣いも出て来る。あいつが出てきたら、一緒に止めよう」 これに頷くマリエル。 「うん。でも、アイツが出てきたら危ないから、リントもベルも気をつけて。何かあったら、下がってね。私達が、盾になるから」 「ダメだ」 マリエルの言葉に、ベルロックが返す。 「リントと俺が前に出る。2人には出来るだけ敵が向かわないようにするから、支援と援護に集中してくれ」 「でも、それだと2人が危ないよ……私達なら、怪我をしてもすぐに治るし、別に平気だから――」 「マリエル」 マリーが、マリエルの腕に腕を絡めながら、優しい声で言った。 「リントとベルの気持ちを受けとりましょう。私達はその上で、2人のために動けば良いんだから」 マリーの言葉と、リントヴルムとベルロックの強い眼差しに、マリエルは頷く。 「分かった……2人とも、怪我しないように私達で援護するから。だから2人も、無茶しちゃダメよ」 涙ぐむような表情で心配そうに言うマリエルに、リントヴルムは笑顔で応える。 「大丈夫。マリーの泣き顔は魅力的だけど、今日はそれを楽しむ余裕はないだろうからね。マリーが泣かないで済むように頑張るよ」 「……なんで泣き顔を向けられて喜んでるんだよ」 ため息をつくようにベルロックが言うと、リントヴルムは満面の笑顔で応えた。 「好きな子の泣き顔も、僕は好きだよ。それが僕のための泣き顔なら、なおさらだね。あ、もちろんベル君の泣き顔も、大好物だよ」 「……お前な」 今度は本当にため息をつくベルロックだった。 近しい者と言葉を交わし、皆は戦いへと向かっていく。 その中には、愛すべき肉親との最後の戦いに向かう者もいる。 「ステラ。仲間の皆さんと共にデイムズ達の本隊迎撃を頼みます」 保護者では無くパートナーとして、『タオ・リンファ』は『ステラ・ノーチェイン』を頼る。 「私はそれより離れたところで……メイと決着をつけます、2人きりで」 清んだ決意を抱くリンファに、ステラは安心させるような笑顔を浮かべ応えた。 「任せろ! ひげから貰った、これもあるし、大丈夫だ!」 そう言ってステラが見せたのは、以前の指令で、メフィストが起動させた魔方陣の効果で作った、ステラ自身の魔力から作った魔結晶。 火の属性を持つ赤い欠片は、メフィストの手により加工されている。 「私は他に色々しないといけないことがあるので助けに行けませんがー、それを持って行って下さーい。錬丹術を使って精製しましたからー、きっと役に立つ筈でーす。ピンチの時は、食べてみて下さーい」 その時のことを思い出しながら、ステラは言った。 「ピンチになってもひとりでやれる! だからマーは、あいつに会いに行ってやれ!」 「……はい!」 ステラの成長と、送り出される嬉しさに、リンファは力強く返した。 そして皆の準備は整う。 開戦の時が近付く中、鋭い緊張が張り詰めていく。 それが高まっていく中、開戦を告げる伝令が走った。 『敵、南部に進軍! 南部戦闘開始する!』 敵の先陣連絡が入る。 最初に敵が狙いをつけたのは港のある南部。 そこからほどなくして、さらに伝令が入る。 『敵、東部に進軍! 中央に向けキメラの群れ多数! 対応されたし!』 中央に向かって来る敵の知らせに、全員が戦闘体勢へと移行。 その中で、轟音が響く。 女神アディティの轟雷が、敵が中央に辿り着く前に降り注ぐ。 それにより、敵は中央に辿り着く前にダメージを負っている。 けれど油断なく待ち構える中、敵影を確認した。 「行くわよ、みんな」 ラスは家族と共に、敵の一団に向かう。 それは数百のキメラの群れ。 アディティの轟雷を受け焼け焦げているが、お構いなしに攻めてくる。 「ケイト、ペトル、この距離から撃てる?」 魔銃使いの2人に訊けば、戦闘に意識を切り替えた2人は、キメラ達との距離を目算し応えて来る。 「高度が高いわね。もう少し降りて来てからじゃないと」 「それにどう動くかが問題だな」 これを聞いたラニは考え込む。 「キメラは……向こうも賢いだろうから、ただ撃つのも無理そうね」 以前の戦闘で得た経験を含めた提案をする。 「メラじぃちゃん、上陸直後を狙うことはできる? キメラが地面に降り立った瞬間を狙って欲しいの」 「うむ、分かった。やってみよう」 緊張した声でエフェメラが応えると、周囲の魔力を支配下におく。 支配下においた魔力に法式を流し込むと、キメラの着地予想地点に広げた。そして―― 「波濤奔流」 魔法名の詠唱と同時に、巨大な津波が発生しキメラと背に乗っていた死人兵達を飲み干した。 それを連続してエフェメラは叩き込む。 「すごい! メラじぃちゃん!」 「う、うむ」 ガチガチに身体を緊張させながら応えるエフェメラ。 どうやら怖いらしい。 そんなエフェメラに、ラニは笑顔を浮かべ声を掛ける。 「メラじぃちゃん、ありがとう! こっからは、あたし達が好いとこ見せるからね!」 「そ、そうか。だが気をつけるんだぞ」 心配するエフェメラの声を背に受けて、ラニはラスたちと敵に向け走り出す。 「好き勝手させるわけにはいかないし! やってやらー!!」 ラニは突進し、並行する様にラスが走る。 側面をケイトとペトルが援護するように動き、グリージョが皆の死角を防ぐように立ち回っていく。 (周りを少しでも減らせば、間接的にあいつらとも戦いやすくなるはず……!) ラニは削斬で敵を削り倒しながら、敵の首領であるデイムズの動きも考え戦っていく。 デイムズは周囲には見当たらず、恐らくは王城周辺に直接乗り込んでいる筈だ。 そちらに増援を向かわせないためにも、ここで敵を確実に倒す必要がある。 ラニは敵に真っ直ぐに跳び込み、不意を突こうとする敵はケイトとペトルが確実に仕留めてくれる。 初手でエフェメラの魔法もあり、敵は無傷の者は少ない。 むしろ敵によっては、腕や足がおかしな方向にひしゃげている者さえいる。 それにも拘らず、敵の勢いは変わらない。 すでに死人である敵は、自分の体が壊れる事などお構いなしに襲い掛かってくる。 (本当に……話には聞いていたが、本当にろくでもない連中だな……!) 死者を冒涜する敵に、ラスは怒りを込め刃を振るう。 「やられてたまるかよ、あの人の為にも!!」 室長であるヨセフ達のためにも、ラスは全力で戦っていった。 戦いは激しさを増していく。 その中で敵首領であるデイムズは堂々と姿を誇示する。 「掛かって来るがいい!」 あえて一人で、浄化師達の前に現れる。 当然、幾人もの浄化師達が襲い掛かるが、その全てをデイムズは捌く。 「脆い!」 疾風の如き速さで戦場を縦横無尽に走り続けながら、次々に浄化師を斬り裂く。 あまりの勢いに誰も止められない。たが―― 「来たか」 デイムズは疾走の軌道を変え、突然横に跳ぶ。 それとほぼ同時に響く銃声。 狙ったのはショーン。 距離を取った上での遠距離狙撃。 「どうした! 狙いが甘いぞ!」 デイムズの声に、ショーンは心を揺らすことなく次弾を撃つ。 (安い挑発だ) 狙撃手としての鉄の心で、連続射撃。 その全てを避けられるが、それは前提の上だ。 (距離を詰めてくる気はないようだな。なら、こちらから距離を詰める) 仲間の攻撃に合せ狙撃を繰り返しながら、少しずつ少しずつ距離を詰めていく。 ショーンの黒炎魔喰器ランキュヌは特殊能力として、黒炎解放中に1人だけ、撃ちぬいた相手の物理と魔力両方の守りを低下させる。 多数の敵には向いてないが、使い所を巧くすれば、格上の相手も倒せる大物食いの性能を持つ。 それだけにデイムズは警戒している。 同時に、早めに黒炎を解放させ、能力の使用を無駄撃ちさせるつもりだ。 (その手に乗る気はないぞ) 仲間が、いつか確実に隙を作ってくれる。 それを信じ、ショーンは静かな戦いを続けていた。 デイムズは、それに気付きながら、強兵の死人兵を少数連れているのみ。 それは陽動だ。 すでにキメラから降り立った死人兵が、ゲリラ戦を挑むように散っている。 それに対する対応が無ければ拙かったが、浄化師の事前準備がそれを上回る。 「Dの3に敵出現。編成は4」 マドールチェの浄化師の連絡を受け、令花は即座に返信する。 「Cの2の部隊を向かわせて下さい! 同時にEの3にも伝達! 周囲に敵影が無いなら挟撃できます!」 広げた地図から一時も目を離さず、令花は伝わってくる情報を捌き最適経路を計算。 目まぐるしく変わる戦場の変遷を頭の中で組み上げながら、地図に重ねていく。 それは神経を使う。削られるように精神が摩耗していくのを実感する。 だが止まる訳にはいかない。ここで最適な情報を伝えられるかで状況は変わってくるのだ。 (頑張らないと――) プレッシャーに押し潰されそうになりながら、令花は情報を捌いていく。すると―― (叶花?) とくんっ、と。手にした叶花から脈打つような温かさが流れてくる。 それはまるで、大丈夫だよ、と、励まされているような優しさがあった。 (ありがとう、叶花) 叶花の励ましと、魔導書としての叶花の能力に助けられながら、令花は敵の情報を伝えていった。 これらの動きにより、敵のゲリラ戦に対抗できる。 しかし、そちらに戦力が割かれている間に、敵は動く。 貰うは王城。 死人兵を降ろしたキメラ達の群れが、一斉に向かう。 それを指揮するのは人形遣い。 「さて、摘まみ食いでもさせて貰いましょう」 王城に避難している一般人と王女を虐殺するべく、キメラを率い空から急降下してくる。 だが、その前に立ちはだかる者がいる。 「九天咆哮」 静かな解号と共に、ベルトルドが黒炎解放し特殊能力を発動する。 竜哭が震え撃音を響かせ、その音が浸透したすべてのキメラ達の動きを一時的に封じる。 人形遣いも含め、空を飛んでいたキメラ達は地面に墜落すると激突。 肉が潰れ骨が折れる音をさせ大いにダメージを受けるが、それでも立ち上がり王城に向かおうとする。 そこに無数のナイフが降り注ぐ。 マリエルによるシャドウバインド。 それを受けたキメラ達は動きを封じられ、そこにベルロックは突進すると、乱れ斬りで斬り裂いていく。 「おやおや」 キメラ達が斬り裂かれるのを見て、人形遣いは楽しげに言った。 「頑張りますねぇ。遊んで貰いましょうか」 亀裂のような薄く壊れた笑みを浮かべ、人形遣いはベルロックに襲い掛かる。 そこにマリエルのシャドウバインドが射出され、人形遣いは回避。 避けることで生れた隙を逃さず、ベルロックは乱れ斬りで斬り裂く。 「人形遣い!」 強い敵意と決意を込め、ベルロックは声を上げる。 「デイムズは捕まえるがアンタの命は保障しない。アンタはこれからの決戦にも世界にも必要のない奴だ!」 「もちろんですよ」 笑顔で切り刻まれながら、人形遣いは応える。 「私がこの世界に不要なのは当然です。なにせ私は世界の『大敵』なのですから」 意味の分からないことを人形遣いは言う。 それに意識が引かれそうになるが、ベルロックは無視して攻撃に専念する。 (このままこいつはここで足止めする。そうすればデイムズに向かう仲間の負担が楽になる筈だ) 身体を張って人形遣いを抑える。それに―― 「かわいらしいですねぇ」 けらけらと笑いながら人形遣いは攻勢に移る。 「お仲間のために私をここで抑えるつもりですね? そんなもの、食い破ってあげましょう」 人形遣いは少女の身体を組み換え、竜の腕や尻尾を体中から生やし攻撃する。 「ベル!」 マリエルが悲鳴のような声を上げ、シャドウバインドで人形遣いの動きを封じようとする。 だが、人形遣いが生やした腕の一本がベルロックに襲い掛かり―― (避けない!) ベルロックは回避せず攻撃。 乱れ斬りで斬り裂くも、人形遣いの竜の腕の一撃を食らい吹っ飛ばされる。 だが、それもベルロックの計算の内。 「ほう?」 ベルロックと同じように吹っ飛ばされる人形遣い。 復讐の書ネメシスの効果による応報が発揮され、自分自身の攻撃を人形遣いは受けたのだ。 吹っ飛ばされた人形遣いは即座に立ちあがるが、そこにマリーの追撃が入る。 膝を蹴り砕く。 体勢が崩れた所で、顎を蹴り上げ空高く跳ね上げる。そして―― 「デイジー」 「お任せを」 手甲の形に変化した魔法少女ステッキに呼び掛け、魔法を発動。 一気に空に向かって跳躍すると、蹴り上げた人形遣いに追い付き、渾身の一撃を叩き込む。 「私の大切な旦那さまを傷つけた報いです」 轟音。 人形遣いを殴りつける音が響き、ほぼ同時に人形遣いは地面に激突。 潰れた身体を再生させる人形遣いにリントヴルムが、魔力を込めたタロットカードを投擲し切り裂いていく。 「おやおや、酷いですねぇ。泣いてしまいますよ?」 「君の涙は遠慮しておくよ」 タロットカードを投擲し続けながら、リントヴルムは言った。 「僕は好きな子の泣いてる顔とかも好きだけど、僕以外の奴に泣かされるのは許せないんだよね。できればキミとは今日で最後にしたいね」 人形遣いの様子を見ながらリントヴルムは攻撃を続けていく。 その中で人形遣いに、べリアル化の兆候である刻印の様な魔方陣が浮かび上がっていく。 (これ転魔ってヤツかな? デイムズが使うらしいけど。あまりやりすぎると、デイムズがベリアル化するくらい転魔しちゃうかな? そうなる前にカタをつけたいね) 一気に抹殺しようとするが、その気配を察したのか人形遣いは背から翼を生やし逃げ出そうとする。 そこにヨナのエクスプロージョンが叩き込まれた。 爆発する人形遣い。 翼は吹き飛び、全身が焼け焦げる。 しかしその状態から急速再生。 即座に動こうとした所に、ベルトルドが肉弾戦を挑む。 爆裂斬で腕を吹き飛ばし、氷結斬で体中を凍らせる。 そこから首を掴み、地面に叩きつける磔刺。 流れるような連続攻撃で人形遣いの身体を粉砕していくが、平然と再生していく人形遣い。 「やはり好いですねぇ、貴方」 ベルトルドを、ねとつく視線で見詰めながら人形遣いは言った。 「欲しいですねぇ」 「それは意味のあることなのか?」 攻撃の手を緩めず、ベルトルドは人形遣いに呼び掛ける。 「無闇に他者を取り入れたとて動きが粗悪になる一方じゃないか。お前が求めるのはこんな仮初めの何かではないだろう?」 「それがどうかしたんですかぁ?」 ねちょりと笑いながら人形遣いは応える。 「楽して手に入るなら、それで良いじゃないですか」 「あなたはそれで良いんですか?」 ヨナが戦いに加わり問い掛ける。 「人形遣い。あなた、誰かを愛したことはおありですか? 愛されたことは?」 「いやですねぇ。私はアナタ達全てを愛してますとも。食材に掛けるスパイス程度には」 にちゃあ、とした笑みを浮かべ続ける。 「愛されたいとも思いませんから、どうでも良いですが、そうですねぇ、必要なら脳をいじくればいくらでも愛を囁いてくれますよ。お手軽でしょう?」 愛などその程度。 言外に告げる人形遣いに、ヨナは薄らと笑みを浮かべる。 「……ふふ。そうですか」 人形遣いとの会話の中で、ヨナは自身の深い場所へと一歩進む。 それは自身の存在証明に関わるような、昏き淵。 より強い力を、魔術を求め、ヨナは魔力探知を発動した。 (デイムズと人形遣い、2人を繋ぐ転魔の術式を見極める) ウィッチ・コンタクトの助けも借り、高速解析。 進めば進むほど目の奥で発熱するような痛みが広がるが耐える。 (私の目よ、どうか耐えて) 目が焼かれるような苦痛に耐えるヨナの様子に気づいた人形遣いは、少し焦った様子でキメラと死人兵を呼ぶ。 「殺しなさい」 ヨナ達に一斉に襲いかかって来る。 やむを得ず迎撃するヨナ達。 向かってくるは死人兵。 彼らに悼むような眼差しを向けながらも、ヨナは迷わない。 「いまは、すみません」 ベルトルドと仲間達と共に、駆逐していった。 その間に人形遣いは距離を取り、追加の死人兵を呼び出す。 それは全員が、強力な死人兵。 その内のひとり、メイファと、リンファは邂逅を果たす。 「メイ」 静かな心で、リンファはメイファの前に立ちはだかる。 「化蛇。力を貸して下さい」 今もてる全ての力を。 全身全霊でメイファに応えるべく、黒炎を解放する。 「メイ。決着をつけましょう」 メイファだけを見詰め、リンファは走る。 距離は一瞬にして詰まり、激突。 初手、2人とも抜き打ちから始まった。 刀と刀の撃ち合う音が響く。 初撃から、お互い繰り出すは必殺。 僅かな悪手が最期へと繋がる死線の境界。 死の上を、2人ともが踏み込む。 お互いを殺すべく振るわれる刃。 なのに、どうしてか、その刃は清んでいた。 殺し合いを重ねながら、リンファの心に浮かぶのは、幼いころ2人でこなした稽古の想い出。 (ああ、なにも、変わってない) メイファの太刀筋は昔と何も変わっていなかった。 また昔みたいに、けれど命をかけて、2人は戦う。 2人の力は拮抗する。 終わりの見えない戦い。 そのまま戦えば、死者であるメイファが、いずれ勝者となっただろう。 だが、過去の想い出が。メイファとリンファが重ねた日々が、勝敗を分けた。 死線に放たれる一閃。 その直前、メイファの動きを、リンファは知っていた。 (メイは私に向かっていくとき、一歩だけ空足になる) それはあるか無いかのズレ。 知らなければ対応できない。 けれどリンファは知っていた。 (優しい子だから、きっとそんな癖がついてしまったんだろう) 身体が自然と動く。 リンファが子供の頃には届かなかった距離。 けれどリンファだけが大人になった今は―― 一歩を踏み出して、その刃は届く。 先に届いたのはリンファの一撃。 けれど差し違えるように、メイファの一撃も届く。 斬り裂かれる。けれどそれをメイファからの贈り物のように慈しみながら、リンファは消えゆくメイファを抱きしめる。 抱きしめ想いを伝える。 「私が、エクソシストになりたかったのは、私がメイを、殺したのは……」 魂を振り絞るように伝える。 「メイと……離ればなれになりたくなかったから……ずっとどこまでも、一緒でいたかったから……っ!!」 消えゆくメイファに、その言葉は届く。 「……お姉ちゃん」 最後の時、正気に戻ったメイファは想いを告げた。 「私もっ……本当は……おねえちゃんといっしょにいたかった……! あの時、慰めるよりも、お姉ちゃんと一緒がいいって伝えればよかったのにっ……!」 想いを口にし、2人は泣きながら笑う。 「私達、ほんとうによく似てるね」 「うん、似なくていいところまで、そっくりで」 取り戻せぬ過去。 けれど今へと繋げる想いはある。 「ねえ、もう一度、約束しよ……? 私の分まで、みんなを助けてあげて」 「……する、必ず。約束、今度こそ守るよ。メイ……」 塵へと変わり消えていくメイファに、リンファは誓った。そこに―― 「隙だらけですよ」 笑みを浮かべ人形遣いが襲い掛かろうとする。しかし―― 「させん」 ベルトルドが迎撃。 「空気を読め」 「知らない言葉ですねぇ」 ベルトルドに殴り飛ばされながら、けらけらと笑う人形遣いだった。 戦いは佳境へと近づく。 敵を殲滅していくが、味方の被害も次々出て来る。 その内、もっとも大きく暴れているのはデイムズ。 縦横無尽に走り回り、あらゆる攻撃を避けながら斬り裂いていく。 すでに転魔による強化が行われ、魔眼による回避補助がされているが、それよりも厄介なのはデイムズの積み上げてきた戦闘経験。 とにかく戦いが巧い。 適度に動きに緩急をつけることで、疲れで動けなくなることを回避し、浄化師達の同士討ちを誘うような位置取りをして来る。 斬り裂き重傷にするが止めは刺さず、怪我をした浄化師の回復に労力を割かせる。 その上で、キメラや死人兵を的確に指示することで動かしていた。 そのせいで、中央に配置された戦力は押されている。 このままでは押し切られる可能性さえあった。 それを防ぐため、ナツキはルーノと共に敵の殲滅に動く。 「ナツキ、デイムズは後回しだ。今はキメラと死人兵の排除に全力を注ごう」 「おう!」 情勢を見極めていたルーノが指示を出し、ナツキが応える。 いま2人が陣取っているのは王城付近。 他は落とされても再起が図れるが、ここが落とされれば一般人も王女も終わる。 ナツキは王城へと向かって来る一団に向け突進。 獲物を狩り獲る獣の如き勢いで距離を詰め、その勢いも込めた突きを放つ。 獣牙烈爪突。 一撃で心臓を突き刺し、死人兵の1人を打ち倒す。 塵となっていく死人兵にナツキは悼むような視線を向けるも、動きを止めることなく攻撃を続けていく。 そこに横手から敵が突進して来るが、ルーノが立ちはだかり防ぐ。 禁符の陣で拘束封印すると、遠距離から放たれた攻撃魔法を雷龍を放ち迎撃。 被害を最小限に抑えながら敵の動きを止める。 「ナツキ、頼む!」 「任せとけ!」 ルーノと入れ替わりにナツキが前に出ると、禁符の陣で動きが鈍った敵に氷結斬。 全身を凍りつかせ動きを止めている間に、他の敵を捌いていった。 ナツキとルーノの連携に、敵は接近戦では不利と見て遠距離攻撃を纏めて放とうとする。 次々浮かび上がる攻撃用魔方陣。 魔力が注ぎ込まれ発動されそうになる瞬間、まとめてかき消された。 「ナツキ、ルーノ! 遠距離魔術はこっちで対処するから、接近戦の相手をお願い!」 エレナとリリィは呼び掛けると、ナツキとルーノに強化の魔法を掛ける。 「ありがと! 助かる!」 ナツキは礼を言うと、今まで以上に速くなった足を生かし、敵陣を縦横無尽に駆けていく。 奮闘するナツキに敵が集中しないよう、ルーノは目立つように前に出て自分に敵の注意を引きつける。 それは敵の注意を引くことで、敵に生じた隙を味方に突いて貰うため。 ルーノの身体を張った陽動に敵が引っ掛かった所で、ウボーとセレナが息の合った連携攻撃で次々仕留めていく。 ナツキとルーノの活躍で、敵の勢いが少しずつだが落ちていく。 それに気付いたデイムズが、死人兵を連れ突進してきた。 「元気の良いことだ」 デイムズはナツキよりも先にルーノを狙う。 それに気付いたルーノは、あえて距離を取らず前に出る。 (デイムズは気に入らない。だから身の危険というコストを支払ってでも奴に打ち勝つ) ルーノは雷龍を放ち、デイムズの剣閃を防ごうとする。 だが、それをデイムズは切り裂く。 そこから更に距離を詰めて来ようとするデイムズ。 退かないルーノ。 (切り裂かれても構わない。攻撃をしてきた隙を捕え禁符の陣で動きを止める) 決死の覚悟で迎え撃つルーノに、デイムズは楽しげに笑みを浮かべるが、直前で舌打ちをするようにして横に跳んだ。 ほぼ同時に銃声が響く。 ショーンの狙撃。 辛うじて避けたデイムズに、ナツキが斬り掛かる。 「これ以上王城には近づけさせねぇ!」 ナツキの猛攻を捌きながらデイムズは楽しげに返す。 「守るために剣を振るうか、若いの!」 「守るさ!」 前へ前へと踏み込みながらナツキは攻撃の手を止めない。 「この島のみんなも、王女様も、みんな守る! この魔喰器は守る為に手に入れたんだからな!」 (弱いままじゃ守れない、だから求めた力なんだ) 強い意志と力を示すナツキにデイムズの笑みは強まる。 だがそれで加減されることは無く、むしろ攻撃の苛烈さは増し、ナツキの剣が弾かれた。 そこにウボーとセレナの援護が入る。 ナツキが態勢を整える猶予を作るように攻撃。 それすらデイムズは捌き、戦いは白熱していった。 状況は拮抗。 だが、南部と東部からの伝令が、それを崩す。 『南部より伝令! 情勢有利につき援軍を中央に送る!』 『東部より伝令! 情勢有利につき援軍を中央に送る!』 この伝令を受け、中央戦力は一気に攻勢に出る。 援軍を信じ、いま出せる全力を叩きつけていく。 一気に押されるデイムズ達。 この状況でもデイムズは慌てることなく、中央の戦力を自分の元に集め一点突破を図ろうとする。 しかし、浄化師の動きの方が速い。 「アネモネちゃんお願いねー!」 「うん!」 ラニの呼び掛けに応え、転移の魔導書アネモイが、南部と東部からの援軍を転移させた。 最初に転移して来たのは、魔導蒸気自動車。 ニコラの運転する車は、デイムズ達の近くに転移。 状況を把握したニコラは敵陣目掛けフルスロットル。 敵は避けるも、陣形が乱れる。 そこにニコラは跳び出しグラウンド・ゼロで纏めて敵を叩き潰す。 さらに同乗していたヴィオラやセシリア、そしてリューイが敵を翻弄するように攻撃。 止めを刺すように、レオノルがソーンケージを放ち敵を纏めて魔力の茨で捕える。 「今だよショーン!」 デイムズの周囲から敵が一時的に一掃される。 そこで呼び掛けたレオノルに、ショーンは応えた。 デイムズに向かって全力疾走。 捨て身の覚悟で近付くショーンに危険を感じたデイムズは距離を取ろうとするが、そこにステラが跳びかかる。 「逃げんな!」 「邪魔だ野良犬が!」 デイムズは容赦なく全力攻撃。 ステラは防ぎ切れず大きくダメージを受けるが、ショーンが近付く時間を確実に稼いだ。 「デイムズ!」 ショーンは注意を引くため、あえて大きく声を上げながら接近。 ステラに足止めされたデイムズは、回避よりも迎撃を選ぶ。 斬撃の間合いに距離を詰めるデイムズ。 必殺の間合いで、けれどショーンは避けなかった。 それは島を守り仲間を守るためでもある。だが同時に―― (これはプライドだ。一発でもいいから当てたいだけだ) 男の意地をショーンは見せる。 デイムズから退くことなく、逆袈裟にショーンは斬り裂かれた。 肉と骨が断たれる致死の一撃。 だがそれはショーンの命を奪うことは出来なかった。 死霊の石の効果で片腕が千切れ飛ぶも、致死を免れたショーンは残った腕でランキュヌをデイムズの肩に押し当て、零距離射撃。 「っ! 貴様!」 デイムズは肩を撃たれ急速再生させるが、ランキュヌの特殊効果は確実に食い込んでいる。 「ちっ!」 デイムズは舌打ちしながらハンドサインで死人兵に指示。 決死の突撃をしたショーンに死人兵が襲い掛かる。 そこに割って入るヴァーミリオン。 オクト達も打って出ると、ショーンを守るように壁になる。 その隙にアネモイの能力でショーンを安全な後方へと転移。即座に陰陽師の仲間が回復に動いた。 ショーンの一撃が決着の引き金となる。 物理魔力双方の防御力が低下している今が、デイムズを倒す絶好の機会。 そこに、デイムズの姉であるラヴィが指示を飛ばす。 「和樹! 儂とヘスティアを守れ!」 「任せてくれ師匠!」 すでに幾つもの傷を負っていた和樹だが、大型盾を構え敵からの壁役として身体を張った。 それに気付いたデイムズが抹殺を死人兵に命ずるも和樹が身を挺して守る。 その猶予に、ラヴィは全力を尽くす。 「ヘスティア、黒炎を」 「うん!」 ヘスティアはラヴィに黒炎を付与。 だがそれを自身の強化ではなく、デイムズに向け放つ。 デイムズに向かった黒炎は、デイムズを包み込むドーム状に展開。 これによりデイムズは、黒炎により視界が遮られ外の様子が見えない。 しかしそれはラヴィ達も同様。黒炎のドームの中に居るデイムズの居場所が分からない。 けれどラヴィは策を使った。 「ヨナ殿! 頼む!」 「任せて下さい!」 ヨナは魔力探知を使い、黒炎のドームの上に重なるようにしてマーキングされた魔力の動きを見極める。 それは黒炎のドームの中に居るデイムズの動きをラヴィが示した物。 「お前の魔眼に儂は直接干渉できんが、それは元々儂の目じゃ。この距離なら居場所が分かる」 それはただ一度の不意打ち。 魔眼を封じられたデイムズに、ヨナが渾身のエクスプロージョンを放つ。 不意打ちでまともに食らったデイムズは、爆発により黒炎のドームの外まで吹っ飛ばされた。 絶対の好機。 そこでステラが動く。 (立たなきゃ……) デイムズにより瀕死の重傷を負ったステラは、無理やり立ち上がると、ひとつの欠片を落とす。 「あ……そうだ、これ……」 それはメフィストの手による練丹。 「……へへ、これ喰えるって言ってたよな」 赤い魔結晶を飲み込む。 「もう一度、戦わせてくれ!」 火気の魔力に包まれ炎を纏ったステラが、デイムズに突進する。 どれほど傷を負おうと立ち上がり向かってくる姿。 その姿を見て、デイムズは獰猛な笑みを浮かべる。 「野良犬が、成長したものだ」 デイムズは避けず迎え撃ち、真正面から撃ち合った。 僅かな間だが、互角にぶつかり合う。 だが練丹の効果が切れ、押し負けそうになった所に、ナツキが跳び込んだ。 「希望を守る牙になれ。解放しろ、ホープ・レーベン!」 黒炎解放。 そして全ての力を乗せた一撃を放つ。 それはホープレーベンの特殊能力を乗せた一撃。 必中の一撃はデイムズを斬り裂き、氷結斬も込めた威力は、デイムズの体の表面を凍結させ動きを封じた。 それは決着だった。 しかし、そこに人形遣いが水を差す。 転魔の逆流によるデイムズのべリアル化。 気付いた皆は人形遣いを攻撃。 南部から転移してきたサクラが心臓を射抜き動きを止めた所で、シリウスとクリストフが斬り裂き、『今この場に居る』人形遣いに止めを刺した。 だがデイムズのべリアル化は止まらない。 黒炎で進行を緩めるも間に合わない。 それを見たラヴィが、叶花から貰った『必ずかなうであろう』おみくじをぎゅっと握り締める。 そしてデイムズと自身の因果線を結ぶことを決意した。 「この馬鹿と転魔を結ぶ! 誰でも良い手を貸してくれ!」 「私が!」 転魔の解析をしていたヨナが協力。 術式を起動し、デイムズとラヴィを転魔で結ぶと、ラヴィはデイムズの業の半分を引き受けた。 「半分こ、じゃな。これならベリアルにはなるまい」 自害しようとしていたデイムズの頭を、ぺしりと叩き、ラヴィは言った。 「これが儂の制裁。生きて償え。死ぬのは許さん!」 「……ふん」 打ち負かされ、殺されることもなく、自害を止められ、べリアル化さえ防がれる。 「業腹だが……お前達の勝ちだ」 浄化師達の勝利をデイムズが告げ、戦いは終わりをみせた。
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*** 活躍者 *** |
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[66] サク・ニムラサ 2020/09/06-21:12
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[65] リューイ・ウィンダリア 2020/09/06-21:00
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[64] ラニ・シェルロワ 2020/09/06-20:23
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[63] 桃山・令花 2020/09/06-19:58
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[62] ルーノ・クロード 2020/09/06-18:24
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[61] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/06-18:21 | ||
[60] カグヤ・ミツルギ 2020/09/06-16:54
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[59] リコリス・ラディアータ 2020/09/06-16:11 | ||
[58] ルーノ・クロード 2020/09/06-16:01 | ||
[57] ヨナ・ミューエ 2020/09/06-14:32
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[56] ヴィオラ・ペール 2020/09/06-14:01 | ||
[55] ラニ・シェルロワ 2020/09/06-13:11 | ||
[54] レオノル・ペリエ 2020/09/06-11:32
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[53] リューイ・ウィンダリア 2020/09/06-11:09 | ||
[52] クリストフ・フォンシラー 2020/09/06-10:48
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[51] ヴォルフラム・マカミ 2020/09/06-10:10 | ||
[50] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/06-09:22 | ||
[49] リントヴルム・ガラクシア 2020/09/06-08:55
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[48] 桃山・和樹 2020/09/06-05:30 | ||
[47] 桃山・令花 2020/09/06-05:28 | ||
[46] ルーノ・クロード 2020/09/06-03:25 | ||
[45] タオ・リンファ 2020/09/06-01:04 | ||
[44] リコリス・ラディアータ 2020/09/06-00:39
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[43] リコリス・ラディアータ 2020/09/06-00:31
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[42] ヴィオラ・ペール 2020/09/05-22:39 | ||
[41] サク・ニムラサ 2020/09/05-21:30
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[40] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/05-18:12
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[39] レオノル・ペリエ 2020/09/05-17:05 | ||
[38] ルーノ・クロード 2020/09/05-16:33 | ||
[37] ヴィオラ・ペール 2020/09/05-14:21 | ||
[36] 桃山・令花 2020/09/05-12:16
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[35] 桃山・令花 2020/09/05-12:14
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[34] 桃山・令花 2020/09/05-12:14
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[33] リコリス・ラディアータ 2020/09/05-11:47 | ||
[32] クリストフ・フォンシラー 2020/09/05-11:21 | ||
[31] リューイ・ウィンダリア 2020/09/05-10:16 | ||
[30] 桃山・和樹 2020/09/05-02:28 | ||
[29] 桃山・令花 2020/09/05-02:11
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[28] ルーノ・クロード 2020/09/05-02:07
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[27] ルーノ・クロード 2020/09/05-02:02 | ||
[26] 桃山・令花 2020/09/05-02:02 | ||
[25] 桃山・和樹 2020/09/05-01:59 | ||
[24] ヨナ・ミューエ 2020/09/04-23:55
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[23] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/04-22:53
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[22] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/04-22:20 | ||
[21] クリストフ・フォンシラー 2020/09/04-21:26 | ||
[20] ヴォルフラム・マカミ 2020/09/04-20:19 | ||
[19] 桃山・令花 2020/09/04-16:03 | ||
[18] リントヴルム・ガラクシア 2020/09/04-11:21 | ||
[17] 桃山・令花 2020/09/04-08:12 | ||
[16] ルーノ・クロード 2020/09/04-01:06 | ||
[15] ヨナ・ミューエ 2020/09/03-21:31 | ||
[14] 桃山・令花 2020/09/03-19:20
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[13] クリストフ・フォンシラー 2020/09/03-18:49 | ||
[12] リコリス・ラディアータ 2020/09/03-11:36 | ||
[11] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/03-01:04 | ||
[10] タオ・リンファ 2020/09/03-00:31 | ||
[9] リューイ・ウィンダリア 2020/09/02-20:23
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[8] レオノル・ペリエ 2020/09/01-21:39 | ||
[7] ルーノ・クロード 2020/09/01-20:20 | ||
[6] ヴィオラ・ペール 2020/08/31-23:54 | ||
[5] ラニ・シェルロワ 2020/08/31-22:00 | ||
[4] リチェルカーレ・リモージュ 2020/08/31-20:30 | ||
[3] クリストフ・フォンシラー 2020/08/31-18:22 | ||
[2] リコリス・ラディアータ 2020/08/31-11:53 |