~ プロローグ ~ |
たかだか一万年すら持たなかった。 |
~ 解説 ~ |
○目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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■1 天界でナツキの両親と再会 混乱するナツキをルーノが落ち着かせる 驚いて嬉しくて、話したい事もたくさんある でもそれを話す前に一番伝えたい事を ルーノを押して一歩前へ、ナツキが得意げに胸を張る ナツキ:ルーノ・クロード、俺の最高の相棒だぜ! ルーノ:私よりもっと他に伝える事が… ナツキ:なんだよ照れんなって! ■2 強引な招待に困惑しつつお茶会に参加 ルーノがヴァンピールを創った理由を尋ねる 文句を言うつもりはなく、創った本人から理由を聞ければ満足 誘いはもちろん拒む、譲れないものがある ルーノ:戦いばかりで構わない、ここに私の求めるものは無い ナツキ:他の誰かが苦しくないように戦うんだ、それに諦めないって言っただろ! |
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ベ 意味がわからない これは奴の仕業か ヨ 恐らく… ベ 全く タイミングってものを考えろ 1地獄で喰人の師匠(楊)と邂逅 ヨナよりも小柄だが横幅は倍もありそうなアライグマの獣人 楊 これはたまげたな 死ぬにはまだ早かろう? ベ 日帰り旅行みたいなもんだ しかし爺さんどうしてこっち(地獄)に 楊 ほっほ 若い頃ちっとばかりヤンチャをしていたからの それでそちらの人は ヨ ヨナと言います ベルトルドさんの今のパートナーです 楊 おおそうかそうか わしが死んだ後どうするかと心配しとったが そうか(目を細め) どうかね この唐変木は 仏頂面の喰人を横目にしょーもない話も交えながら楊は語る 今お前さん達が何をしようとしているかぼんやりと分かる あとはそうさな… 続 |
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1 霞がかった花畑 静かに流れる大きな川 大切な人を前に 立ち竦む彼の背を押す シリウス 今なら話ができるわ ごめんね 守ってあげられなくて ひとりにして 悲しく優しい 相手を想う言葉 シリウスもご両親も、同じこと言ってる 誰も悪くない そうでしょう? お父さん、お母さん シリウスはいつもわたしを守ってくれます 無茶ばかりするけど…わたしの大好きなひとです 少し歪んだシリウスの笑顔に 我慢していた涙が落ちる 2 告げられた言葉に首を振る わたしは神様じゃないから 全てを救うことはできません 親切にされると嬉しいから わたしも誰かに親切でありたい 意地悪をされると悲しいから 優しい人でありたい そうやって支え合える世界を作る為に わたし達は生きているの |
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死者と話すことが、できるのなら、私… はい、まだ思い出せません、けど きっと両親も、リア姉様と同じで、私の為に、命を… あ、そう、ですね 私もよく覚えてはなくて… 殴る!?え、どうして、そんな クリスの言葉に顔が火が付いたように熱くなって で、でも、きっと お父様は、殴ったりしない人だと、思います 断片的な記憶ですけど、いつも優しかった、気がしますし 再会した両親は、思っていたよりも若くて 顔を見た途端、思い出が溢れてきて お父様…お母様…私のせいで、ごめんなさい… そう謝るのが精一杯で 両親の腕の中で子供みたいに泣いてしまいました 落ち着いたらリア姉様の事も、報告して 私達、ちゃんと生きてます、から 見守ってて、ください、ね |
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サクラ:…… キョウ:…… サクラ:寝ようかしら。 キョウ:まだ夜ですよ? サクラ:もー次会う時は地盤が固まった時って言ったじゃなーい。 キョウ:そうそう、タイミングも事前に合わせてドヤ顔できめて サクラ:ドヤ顔してたの……? キョウ:してませんでしたか? 【行動】2 サクラ キョウヤと同じ物を飲みながら花冠でも作りましょうか。 なんでも、出てきてくれるようだし。 ついでに面白い話をしてくれると嬉しいわぁ。 ・死んだら欲しいものが手に入る? じゃあ、親友もビャクヤ兄さんも? 愛してくれるパパとママも手に入るのかしら。 ……確かにそうだったわ。 あははっくそみたいな場所ね。 そんな場所で寂しく過ごすあなたに素敵な(花冠)プレゼント |
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なんだ…?この絶望を煮詰めたような光景は… じりじりとする空気の中、あたりを見回してみる 一瞬、見覚えのある姿が見えて呆然 あれは―― 声を上げた直後、こちらにその女が向かってくる 身体が何故か硬直していて逃げられないと思った直後、横から爆風が ドクター…? 逃げようという言葉に弾かれたように反応し、ドクターを抱えて逃げる あれは、母です 私が殺した筈の 酷い女でした 私が父を刺したのもあるのでしょうが…私に経済的にも精神的にも依存するようになりましてね おまけに自分の望むようにならなければ私を呪うように責めましたよ 出来なければ罵倒され殺されかけ…だから、私が。 |
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待って見覚えがあるんだけど あんた いつか見た…! って 気が抜ける面してるわね こんなとこ呼び出して 無駄な抵抗はやめろって? こっちに来いという言葉に激昂し ふざけんな 言うに事欠いて今更何ほざいてんだバーカ! 何が慈悲だよ 何が救済だよこの(怒りのあまり言葉になってない罵声) 告げられた言葉に一瞬固まる 否定はしない 家族がいればそれでいい それに偽りはなく でも「この世界」で生きるって決めたの 仮に造り直されたとして そこに「今」のあたしはいない あたしはね あんたが造ったガラクタ野郎もあんたも大嫌いなのよ 残念でした 他のみんなみたいにキレイな動機じゃなくて 徹頭徹尾ちっぽけな恨み貫いてやるわよバーカ!!! |
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2 ラファエラ 貴方様の仰ることは、カルトの勧誘とどう違うのでしょうか。(神がその気になれば理想郷を作れることを示してもらう) エフド ……提案としては魅力的です。 ラ:あんな有様にしといて次が良くなるかは疑わしいけど、できると思うならやりなさい。 でもその前に焼き入れに行く。悪趣味な実験に付き合わされたんだから。 エ:より良い生き物とやらに生まれ変わっても、お前の下手くそで無責任なやり方と、クソの山に放り出されたことは忘れん。 国の滅亡と失策、父の過ち、そして創造神。何にせよ、強権的な上の都合で人生と運命を好き勝手、しかも暴力的に決められることに怒っています。 |
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~ リザルトノベル ~ |
ネームレス・ワンに喚ばれ、浄化師達は、あの世に訪れていた。 ●父母との邂逅 「ナツキ」 その声は記憶にない。けれど―― 「大きくなったね」 呼び掛けてくれる、その人が、母親なのだと『ナツキ・ヤクト』は識っていた。 「……っ」 想いが大き過ぎて言葉が出てくれない。 なにを言えば良いのか分からず混乱するナツキに、『ルーノ・クロード』が呼び掛ける。 「ナツキ」 心配し、落ち着くよう気に掛けてくれる声。 その声を耳にして、ナツキは一番最初に言うべき言葉が決まった。 「ルーノ・クロード、俺の最高の相棒だぜ!」 ルーノを押して一歩前へ、ナツキは得意げに胸を張りながら、相棒の名前を母親に伝えた。 くすりと、ナツキの母は微笑ましげに2人を見詰める。 彼女の隣に居る男性も、同じような表情をしていた。 この状況に、ルーノは困惑した声を上げる。 「ナツキ、こちらの2人は、知っている人なのだろうか? それ以前に、今の状況を整理しないと」 ルーノの言葉を聞いたナツキは、興奮したように返す。 「母さんだ! 母さんなんだよ!」 「それは、死に別れたという、君の母親のことなんだろうか?」 「おう!」 状況の把握よりも、母親に会えた喜びで笑顔が一杯のナツキに、ルーノは次に返す言葉を迷う。 そこに、ナツキの父親が状況を説明してくれた。 「――という訳で、2人は天界に来ているんだよ」 「天界って……俺達も死んじまったって事か!?」 「いいや、違うよ、ナツキ。2人とも、生きたまま来ているんだ」 穏やかな声で、ナツキの父親は分かり易く説明してくれる。 それを横で、安心した表情で聞いているナツキの母。 これだけで2人の仲が伝わってくる。 (良い両親だな) ルーノが羨ましく思っていると、状況を理解したナツキが、改めてルーノのことを父母に告げた。 「ルーノはスゲーんだぜ!」 「私よりもっと他に伝える事が……」 「なんだよ照れんなって!」 「……照れてなど、いない。それよりも、他に言うべき事があるだろう?」 「おう! 一杯ある! でもその前に、ルーノのことを母さんと父さんに伝えたいんだ。ルーノがいなかったら、今の俺はなかったと思うからさ」 「……」 なんと返せば良いのか悩むルーノを、ナツキの父母は微笑ましげに見詰めていた。 そしてナツキは、母と父に、今までのことを話す。 孤児院での生活。ルーノとの出会い。浄化師としての戦いと、その中で出会えた八狗頭家を含めた家族のこと。 それを父母は時に笑顔で、時に涙ぐみながら話を聞き、言葉を交わした。 別離の時を埋め合わせるように話していった。 「ナツキが生きていてくれて嬉しい」 「精一杯、生きたいように、生きなさい」 母と父からの言葉を贈られる。 そして父母の2人は、ルーノに深々と頭を下げ言った。 「貴方のお蔭で、ナツキの今がある。ありがとう」 「これからも、よろしくお願いします」 その言葉をナツキとルーノは受け取り、創造神であるネームレス・ワンのお茶会に向かった。 「ようこそ。両親との再会は気に入って貰えたかな?」 ネームレス・ワンの言葉に、ナツキは返した。 「ありがと! すっげー嬉しかった」 「それは好かった。じゃあ、次は僕とお喋りでもしようよ。欲しいものがあれば何でも言いなよ。なんでも出て来るから」 「何でも? じゃあクッキーと紅茶を……おお、すげぇ!」 望み通りの物が山ほど出てくる中、お茶会は始まる。 その中で、ルーノは問い掛けた。 「なぜ、ヴァンピールを創ったんだ」 それは純粋な疑問から来る問い掛け。 (排斥される為に創られた種ではないのだと、信じたい) どのような答えだろうと文句を言うつもりは無く、けれど祈るように答えを待つ。 これにネームレス・ワンは応えた。 「人による滅びを回避するためだよ。新しい種族を隣人として、あるいは弟や妹として受け入れてくれて、良い方向に向かって欲しかったんだけどね。そうはならなかったよ」 ネームレス・ワンの応えに、息をつくようにルーノは力を抜く。 そこでネームレス・ワンは提案した。 「ここなら争いも無く在り続けられるよ。だから死になよ」 これにルーノとナツキは返した。 「戦いばかりで構わない、ここに私の求めるものは無い」 「他の誰かが苦しくないように戦うんだ、それに諦めないって言っただろ!」 想いを込めて、さらに続ける。 「私の……私達の望む未来は、ここには無い」 「カミサマが俺達を嫌ってないのは分かった。俺だって正直嫌いじゃない。ただ、譲れないだけなんだ」 2人の応えに、ネームレス・ワンは微笑ましげに眼を細める。 それは幼子を見守る穏やかな老爺のようにも見えた。 だが、相手は創造神。 笑顔を浮かべ、2人に応えた。 「好いよ。好きにしなよ。生きたいというなら、生きていけば良い。そうしたいというのなら――」 ルーノとナツキを地上へ送り返しながら、変わらぬ笑顔のまま言った。 「僕を殺しにおいで。待っているよ」 その言葉を最後に、ナツキとルーノは地上へと戻った。 ●師からの贈り物 ふと気付けば、2人は荒涼たる大地に居た。 「意味がわからない。これは奴の仕業か」 「恐らく……」 何故か、服装が乱れていないかを気にする『ヨナ・ミューエ』に『ベルトルド・レーヴェ』は、おあずけを食らった猫のような気配を滲ませ返した。 「全く。タイミングってものを考えろ」 どういう訳か、2人は気まずそうに視線を合わさない。 そこに、声が掛けられた。 「これはたまげたな。死ぬにはまだ早かろう?」 ベルトルドは息を飲む。 その声を間違える訳がない。 「爺さん」 心乱れながらも、かろうじて呼び掛けることが出来た。 「ベルトルドさん、この方は」 普段なら見る事の出来ないベルトルドの様子に、ヨナが声を掛ける。 それを耳にしたベルトルドは、すぅっと心が落ち着いて来るのを感じた。 「ほほぅ~」 ヨナよりも小柄だが横幅は倍もありそうなアライグマの獣人は、2人の様子を見て楽しげに笑みを浮かべる。 「人生に彩りが出来たみたいじゃの」 「何の話だ」 ため息をつくようにベルトルドは返す。 そこには気安い空気が流れていた。 (嬉しそう、ですね) ヨナが興味深げにベルトルドを見詰めていると、気まずそうに応えが返ってきた。 「この爺さんは、俺の師匠で以前のパートナーだ。大往生で、死んだ筈だがな」 「それは……なら、ここは――」 「地獄じゃよ」 ベルトルドの師匠――楊の応えに、ヨナは驚き、ベルトルドは受け入れるような表情をしていた。 それを見ていた楊は、続けて言った。 「それで、何故ここに居る。仕事なんでな。聞かせて貰うぞ」 「仕事?」 聞き返すベルトルドに、楊は応えた。 「地獄の獄卒じゃよ。まだまだひよっこじゃがな」 「獄卒!?」 思わず聞き返すベルトルドに、楊は返す。 「戦う術のある見込みのある者は、ハデス様に勧誘されるんでな」 からからと笑い、楊は再び問い掛ける。 「それで、なんで来たんじゃ?」 どう説明したものか考えたあと、さらりとベルトルドは応えた。 「日帰り旅行みたいなもんだ。しかし爺さんどうしてこっちに」 「ほっほ。若い頃ちっとばかりヤンチャをしていたからの」 そう言うと楊は興味深げにヨナに視線を向け続ける。 「それでそちらの人は」 「ヨナと言います。ベルトルドさんの今のパートナーです」 応えはすぐに本人が返す。 これに楊は笑みを深める。 「おおそうかそうか。わしが死んだ後どうするかと心配しとったが。そうか」 感慨深げに目を細めると、楽しげに言った。 「どうかね。この唐変木は」 「真っ直ぐな人です。それなのに、融通が利きます」 「お前な……」 仏頂面のベルトルドを肴に、ヨナと楊の会話は進む。 それは楊が死んでからのベルトルドと、ヨナと出会う前のベルトルドについての話。 話が進み、現状を理解した楊は、ベルトルドとヨナの2人に視線を向け言った。 「今お前さん達が何をしようとしているかぼんやりと分かる。あとはそうさな……」 生きている内は伝えられなかった言葉を、楊はベルトルドに贈った。 「力があったとて何に使うかは己次第。これはただの我儘だが わしのような後悔はしないでおくれ」 それは師として、弟子に伝えたいことだった。 「人の繋がりというのは己の生き様により結ばれるもの。結ばれた縁を大事にしていきなさい」 「……」 ベルトルドは無言で言葉を受け取る。 それに楊は苦笑しながら続けた。 「少し湿っぽくなってしまったか。生きとる間はこんな話ちっともしなかったからの」 そう言うと、楽しげな笑みを浮かべ提案する。 「せっかくここまで来たんじゃ。土産のひとつもくれてやろう」 そう言うと構える。 「生きている内は、わしが老い、お前は未熟じゃった。だが、今は違う。伝えられなんだ技と奥義、受け取れ」 「――上等だ」 楽しげに2人は笑みを浮かべ、技の応酬を繰り出した。そして―― 「成長したが、動きの癖は変わらんな」 「死んでまでよく覚えているな」 「当たり前じゃ。お前と過ごした時間は忘れんよ」 武で2人は語り合う。 (似てますね、2人とも) くすりと笑みを浮かべるヨナだった。 そして別れの時が来る。 別れ際、ベルトルドは振り絞るように言った。 「師匠。俺は……またあんたと酒が飲みたいよ」 ベルトルドの言葉に、楊は一瞬目を見開くと、笑顔で見送った。 (言えなかったな。俺もだ、とも。師のようになりたい、とも) 言葉ではなく武で語り合いながらも、それでも言葉で交わせなかった想いを胸に抱く。 無意識に強く握った拳に小さな手が重ねられ、ベルトルドは強く強く握り返した。 それは夜を共に過ごし、朝を迎えた時も同じだった。 ●似たもの親子 霞がかった花畑と静かに流れる大きな川。 天界の一角で『シリウス・セイアッド』は懐かしい声に呼び掛けられた。 「シリウス」 その声は、忘れようもない。 「……大きくなったのね」 「よく、生きていてくれた」 シリウスのことを想う優しい声。 それが本物だと、シリウスは解る。 だからこそ、知らず後ろに下がりそうになった。けれど―― 「シリウス」 穏やかな声と、シリウスの手を繋いでくれる温かな手が彼を繋ぎ止めてくれる。 「……」 言葉もなく、シリウスは『リチェルカーレ・リモージュ』を見詰める。 それは自責の念に駆られ、怯えた眼差し。 目の前の優しく声をかけてくれた2人。 父と母を自分が殺したのではと、縛られている思いから動けないでいた。 だからこそリチェルカーレは、シリウスの背中を押すように声を掛ける。 「シリウス。今なら話ができるわ」 以前、指令で出会ったシリウスの父親。 その時は悲しい再会だったけれど、今は違う。 シリウスが掛けられた呪詛から解き放たれてくれることを願い、背中を押した。 それでも、シリウスは一歩を踏み出せない。 そこに手を伸ばすように、両親は想いを告げた。 「ごめんね。守ってあげられなくて。ひとりにして」 それは子を想う親の懺悔の言葉。 シリウスは両親の謝罪に目を見張り、振り絞るような声で返した。 「違う。悪いのは俺だ」 罪を負うべきは自分だと、シリウスは両親に告げる。 「俺があの時戦えていたら。……そもそも俺がいなければ……っ」 震える指を握り込み下を向く。 そんなシリウスと彼の両親を見て、リチェルカーレは言った。 「ご両親と、そっくりなのね、シリウス」 リチェルカーレの言葉にシリウスが視線を向けると、彼女は優しく微笑んでいた。 「シリウスもご両親も、同じこと言ってる」 口にするのは、悲しく優しい、相手を想う言葉。 それがシリウスと両親の本質だと、リチェルカーレは感じ取る。 だからこそ、何ひとつ迷いなく、真実を告げるように言った。 「誰も悪くない。そうでしょう?」 そして両親に笑顔を向けながら、感謝の言葉を口にする。 「お父さん、お母さん シリウスはいつもわたしを守ってくれます。無茶ばかりするけど……わたしの大好きなひとです」 リチェルカーレの告白に、両親は一瞬息を飲むような間を空けて、安堵するような笑顔を浮かべた。 両親とリチェルカーレの笑顔に、シリウスは少し歪んでいるけれど、笑顔を浮かべてくれる。 その笑顔に、リチェルカーレは我慢していた涙を零す。 気付いたシリウスが、どうすれば良いのか固まっていると、両親に抱きしめられた。 「……顔を見せて」 強張るシリウスの髪を撫でながら、2人は願いを口にする。 「お前の幸せを祈っている。……元気で」 子を想う親の言葉。 それは強く強く、心に響いた。 だからこそシリウスは、腕を伸ばし2人にしがみつく。 なんとか笑顔を作り頷くと、両親を安心させたくて、祈るように願いを口にした。 「――俺は大丈夫。心配しないで。死後の世界なんて知らない、だけどどうか安らかに」 お互いを確かめ合うように、しっかりと抱きしめ合い、言葉を交わし、再会の時は過ぎていった。 そして別れの時が過ぎ、創造神のお茶会に招かれる。 シリウスはネームレス・ワンからリチェルカーレを庇う位置に立ち、真っ直ぐに見据える。 「警戒しなくても良いよ。それより座らない? 欲しい物があれば何でも出すよ」 けれど座らない2人に、ネームレス・ワンは残念そうに肩を竦めると、軽い口調で提案した。 「戦いばかりだと苦しいだろうから早く死になよ。こっに来たら欲しいものは何でも手に入るよ」 これにリチェルカーレは首を振り、自分の思いを返した。 「私は死にたいとは思いません」 まっすぐに視線を合わせ続ける。 「わたしは神様じゃないから、全てを救うことはできません。親切にされると嬉しいから、わたしも誰かに親切でありたい。意地悪をされると悲しいから、優しい人でありたい。そうやって支え合える世界を作る為に、わたし達は生きているし、その世界で生きていたい」 リチェルカーレの言葉に合せ、シリウスも告げる。 「――お前に与えられる幸福なんていらない。俺の後悔も救いも、お前なんかにわかりっこない」 「それはそうさ。だってそれは、君達だけのものなんだから」 ネームレス・ワンは、創り手としての想いで返した。 「君達は自由だよ。僕が創ったのは、人形じゃないんだから。何を誰を憎み愛そうが、それは君達のものさ。そして、僕は君達を救いたいんじゃない」 視線を合わせ続ける。 「苦しめ続けたくないだけだよ。ただ、それだけ。でも、その苦しみを望むというのなら、僕を殺しにおいで。苦しみの中で生きることも、君達の自由なんだから」 その言葉を最後に、シリウスとリチェルカーレは地上に戻った。 ●両親にご挨拶 「ここは、あの世、なのですか?」 ネームレス・ワンに招かれた『アリシア・ムーンライト』は、周囲を見詰め呟いた。 見渡す限り白の領域。 そこが地上から離れた幽世であり、ここから天国や地獄に行けるのだということが、何故だか解る。 「あの世ということは、死んでしまった人と会うことが出来るかもしれないね」 アリシアの呟きに『クリストフ・フォンシラー』は応えながら、状況を推測する。 (ここが何処だか解るのは、俺達を招いた創造神のせいなんだろうな。敵意があるみたいじゃないけど、ここからどうするか?) 次にとるべき行動を考えていると、アリシアは熱の篭もった声で言った。 「死者と話すことが、できるのなら、私……」 「ご両親に会いたい、そうだろう?」 これにアリシアは視線を合わせると、頷きながら応えた。 「はい、まだ思い出せません、けど……きっと両親も、リア姉様と同じで、私の為に、命を……」 「俺も会ったことあるはずなんだよなあ。どんな人だったか思い出そうとしてるんだけど……」 「あ、そう、ですね。私もよく覚えてはなくて……」 どこか思いつめたように、アリシアの表情は沈んでいる。 アリシアの気持ちを察したクリストフは、敢えて軽い口調で返した。 「まあ君の親父さんに殴られる覚悟はしておこうか」 「殴る!? え、どうして、そんな」 「え? だって『お嬢さんを僕にください』って挨拶しなきゃだしね?」 「……っ!」 クリストフの言葉に、アリシアは顔に火が付いたように熱くなる。 そして慌てて返した。 「で、でも、きっと。お父様は、殴ったりしない人だと、思います。断片的な記憶ですけど、いつも優しかった、気がしますし」 「うん、そうだね。それじゃ――」 顔を赤く染めたままのアリシアの手を取って、クリストフは一緒に歩き出す。 「じゃあ天国へ行ってみようか」 「はい」 2人は手を繋ぎ、しばらく歩く。 そうすれば会えるのだという確信を抱きながら進むと、やがて草原の中に建つ一軒家に辿り着いた。 そこに居たのは一組の男女。 歳の頃は30に届くかどうかといったところ。 2人を見て、アリシアは確信した。 (お父様……お母様……) 顔を見た途端、思い出が溢れてくる。 幾つもの想いが胸中で渦巻き、歩みが止まってしまったアリシアに、両親が駆け寄って来ると抱きしめた。 「……シア」 万感の想いを込め、愛娘の名を呼ぶ。 両親が自分のことを想っていてくれるのだということが呼び掛けだけで伝わり、アリシアは生きている内にその想いに返せなかったことに、どうしようもない自責の念に駆られた。 「お父様……お母様……私のせいで、ごめんなさい……」 「それは違うよ、シア」 幼子に語り掛けるような優しい声で、両親はアリシアに応えた。 「お前のせいじゃない。お前も、リアも、まだ子供だったんだ。子供を守るのが大人の、親である私達の役目なんだ。本当なら、お前達を連れてもっと早くに逃げるべきだった」 「ごめんね。ちゃんと守ってあげられなくて……なのに生きていてくれて、好かった」 「……っ」 両親の言葉に、アリシアは我慢できず涙を溢れさせる。 しがみ付き子供のように泣くアリシアを、両親は優しく抱きしめ続けた。 それを見ていたクリストフは思い出す。 (ああ、そうだ。エルリアの両親は、こういう人達だった) 昔日の思い出が心に浮かんでくる。 それは最早還らぬ過去だとしても、これからを生き抜く力となる。 アリシアとクリストフは過去を受け取り、より良く明日を生きていく強さを得た。 「お父様……お母様……」 涙をぬぐい、アリシアは親に甘える子供ではなく、大人として両親を安心させるように言った。 「もう、大丈夫です。2人と逢えて、嬉しかった……リア姉様にも、お父様とお母様の想いは伝えますね」 そしてアリシアは、エルリアのことを両親に伝える。 両親は驚き涙ぐみながらも喜ぶ。 「そうか……好かった」 「生きていてくれて嬉しいと、伝えてくれる?」 「はい。必ず」 アリシアは両親と視線を重ねながら約束すると、願いを口にする。 「私達、ちゃんと生きてます、から。見守ってて、ください、ね」 「ああ、もちろんだよ」 「ずっと、見守っているわ」 家族の約束。 そこに加わるため、クリストフは真摯に宣言した。 「アリシアもエルリアもきっと守ります」 そして安心させるように続けた。 「アリシアもエルリアも、誰かを守れるほど強いですけれど、それでも守りたいですから」 これに両親が驚いた表情を見せると、クリストフは茶目っ気を込めて返した。 「2人とも強くなりましたよ」 そう言うとクリストフは、アリシアとエルリアの今を伝えるのだった。 家族の語らいを続け、両親が安堵するような表情を見せてくれた頃、アリシアとクリストフは地上へと戻ることになった。 その途中、クリストフは呟く。 「首洗って待ってろよ!」 「好いよ。待ってるから。生きたいなら、僕を殺しにおいで」 楽しげな声が、返ってくるのであった。 ●花冠をアナタに 「……」 「……」 ネームレス・ワンに突如招かれた『サク・ニムラサ』と『キョウ・ニムラサ』は、状況を理解し無言になる。 お互い顔を見合わせ、先に口を開いたのはサクラだった。 「寝ようかしら」 「まだ夜ですよ?」 ため息をつくように返すキョウに、サクラは形の好い眉を僅かに潜めると、お茶会のテーブルを前に座りながらポテトチップスをぱりぱり食べているネームレス・ワンを嫌そうに見たあと続ける。 「もー次会う時は地盤が固まった時って言ったじゃなーい」 「そうそう、タイミングも事前に合わせてドヤ顔できめて」 「ドヤ顔してたの……?」 「してませんでしたか?」 お互い顔を見合わせ、思い返すように軽く首を傾げる。 そこにネームレス・ワンが呼び掛けた。 「ねー、こっちに来て座りなよ。せっかく喚んだんだから、お喋りしよう」 見た目が5歳児ぐらいなので、椅子から地面に足が届いてない状態で、足をバタバタさせる。 どう見ても、拗ねた子供にしか見えない。 「……どうします?」 「誘われて袖にする理由もないし、行きましょう」 サクラは不機嫌さを滲ませながらも、テーブルに向かう。 そのあとをキョウは付いていき、2人が席につくとネームレス・ワンは言った。 「何か欲しい物はある? あれば何でも出すよ」 これにキョウは、少しばかり憮然とした様子で返す。 「事前に一言でもくれたらクッキーの一つでも持ってきたのですが」 「別に僕が出すから良いじゃない」 「……勝手に出てくるのと最初から作るのは違うのですよ?」 「風情が無い?」 「過程も大事ということです」 「そだねー。でも今日は時間無いから、はいどうぞ」 ネームレス・ワンが言うなり、サクラとキョウの前にお揃いの紅茶が現れる。 「香りは良いわね」 サクラはカップを取り香りを楽しむ。 そこにネームレス・ワンは続けて言った。 「他にも欲しい物があったら言いなよ。なんでも創って出してあげる」 「なら砂糖を下さい」 キョウが頼むと、ポットに入った砂糖が2人の前に現れる。 砂糖マシマシで紅茶に入れるキョウ。 サクラも同じように入れていく。 2人とも、自分達の時間を邪魔されたのが気に入らなかったが、お茶会が久々だったからすぐに楽しむ。 「ねぇ、花冠を作りたいの。花を出してくれるかしら。なんでも出してくれるんでしょ」 「良いよー」 サクラの思い浮かべた花が、ぽんっと現れる。 花冠を編みながら、サクラは言った。 「ついでに面白い話をしてくれると嬉しいわぁ」 「面白い話? ん~、なに話そうか?」 「何でも良いわぁ。例えば、ここに喚んだ理由とか」 「理由? そりゃ、君達が早く死ぬように勧誘するためだよ」 「自殺を勧めるのはどうなんです」 甘く香り高い紅茶を飲みながら、キョウは呆れたように言った。 これにネームレス・ワンは返す。 「別に自殺が嫌なら僕が殺してあげる」 「死ぬのが問題なんですけど」 「なんで? 死んだら好きな物が欲しいだけ手に入るようになるんだよ。そっちの方が良いじゃん」 「死んだら欲しいものが手に入る?」 サクラの問い掛けに、ネームレス・ワンは応えた。 「うん。君達が言う所の天国には理想郷の力が満ちてるから。君達が望む物を何でも理想郷が創ってくれるよ」 「じゃあ、親友もビャクヤ兄さんも? 愛してくれるパパとママも手に入るのかしら」 サクラの言葉に、キョウは思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。 「……なに言ってるんですか、サクラ」 皮肉げな表情を見せながら続けて言った。 「はぁ、そんな力で得られたとしてもそれはただの人形でしょう? 都合の良いだけの存在は全く面白くないかと。そんなの――」 ――笑ってしまいそうだ。 言葉には出さず。けれどサクラには通じる。 「……確かにそうだったわ」 華やかな笑みを浮かべサクラは言った。 「あははっ、くそみたいな場所ね。そんな場所で寂しく過ごすあなたに素敵なプレゼント」 そう言って手渡したのは、色々な花と蔓で編み上げられ、深紅のゼラニウムが一輪挿された花冠。 花言葉は慰め。 憐れんでいるよ、とでも言いたげに手渡すサクラに、ネームレス・ワンは嬉しそうに受け取り頭に載せる。 「わーい。ありがとー。お返しだよ」 そう言うとネームレス・ワンは、同じように花冠を創り出し2人の頭に載せる。 ひとつだけ違うのは、ゼラニウムの花の色。 真紅とは違う、明るい赤の色。 その花言葉は『君ありて幸福』。 「君の言う通りだよ」 ネームレス・ワンは、キョウを見詰めながら言った。 「都合が良いだけの人形なんてつまらない。だから君達には自由意思がある。その自由意思で望むというのなら、僕を殺しにおいで」 「あら、そう」 殺意鋭く目を細めながら、サクラは返した。 「その時が来たら、殺してあげる」 「自分も、その時が来れば協力しますよ」 同意する様にキョウも言った。 それをくすくすと楽しげに笑いながら受け取り、ネームレス・ワンは言った。 「良いね。その時を楽しみに待っているよ」 その言葉を最後に、サクラとキョウは地上に戻った。 ●彼の過去 気付けば、荒涼たる大地に居た。 何ひとつ命の気配は無く、調和が無い。 そのくせ命を磨り潰そうとするかのような悪意が大気に滲んでいた。 「なんだ……? この絶望を煮詰めたような光景は……」 混乱しそうになる自分を抑え、記憶を辿りながら状況を把握する。 (指令が終わった後、次の日の準備を終わらせ眠りに就いた筈だ。なのに何故こんな場所に居る? そもそも、ここはどこだ?) 今この場に居る理由も、ここが何処なのかも解らず、少しでも情報を得るために周囲を見渡す。 じりじりとする空気の中、あたりを見回していると―― 「あれは――」 一瞬、見覚えのある姿が見えて呆然とする。 それは1人の女だった。 忘れようもなく記憶に刻み込まれた、その姿を目にした途端、金縛りにあったかのように身体が硬直する。 動けない。 なのに目を逸らすことが出来ない。 (気付くな) 呼吸すら止め、女を凝視する。 女は地面に蹲り嘆いていた。 それは後悔か? あるいは苦悩なのか? 分かるのは女が酷く苦しんでいるということだけ。そして―― 「――……ーン」 「……っ!」 離れていて聞こえる筈もない声。 なのにそれが『ショーン・ハイド』に届く。 恐ろしさに鼓動が跳ね意識が揺らぐ。 それとタイミングは全く同じだった。 嘆き苦しむ女が、ショーンに視線を向けたのは。 その眼は飢えていた。どうしようもない飢餓に渇き、瞬きひとつせずショーンを凝視する。 「――……ぁ」 ゆっくりと、女は手を伸ばす。 遠くに居るショーンを掴もうとするかのように。 けれど届かない。だからこそ―― 女は、ゆっくりと近付いて来た。 (――来るな) 声を上げることすら出来ず、ショーンは女を拒絶する。 だが、女は近付いてきた。 一歩一歩確実に、救いの糸を掴もうとするかのような執着を見せながら。 (逃げられない) 諦めにも似た感情が、ショーンに湧き上がって来た時だった。 爆音と共に爆風が吹き荒れる。 それにより女の足が止まり、ショーンは爆風が向かってきた方角に視線を向けた。そこには―― 「ドクター……?」 「どうしたの? こんな光景の中動揺するなんて。……ショーンらしくもない」 駆け寄って来た『レオノル・ペリエ』が、ショーンに呼び掛ける。 けれど言葉が返ってこない彼の視線を追って、先ほど一度魔術で吹き飛ばした女を一瞥した。 その眼には敵意の炎が灯っていた。それを見たレオノルは、ショーンの手を引き走り出そうとする。 「ショーン、今は逃げよう」 この言葉に弾かれたようにショーンは反応し、レオノルを抱えて逃げる。 必死に逃げて逃げて――辺りを見回して安全そうな場所に辿り着いたことを確認し、ようやくショーンは落ち着き始めた。 レオノルは、ショーンの息が整うのを待ってから声を掛ける。 「あの人、一体誰? 面識あるでしょ」 その問い掛けに対する応えは短かった。 「あれは、母です。私が殺した筈の」 (――母親) ショーンの応えを聞いて、レオノルは顔を顰める。 それほどにショーンの応えは心を動かされた。 けれどレオノルは、すぐには返さない。 ショーンが想いを吐き出せるよう、自分から話してくれるまで待っていた。 優しい沈黙。 それに包まれたショーンは、やがて少しずつ、過去を話した。 「酷い女でした」 それは子供の頃の想い出。 痛みと苦しみに彩られた、ショーンの過去だった。 「私が父を刺したのもあるのでしょうが……私に経済的にも精神的にも依存するようになりましてね」 話すごとに苦しみながら、吐き出すように語り続ける。 「おまけに自分の望むようにならなければ私を呪うように責めましたよ」 淡々と事実を語るような。それでいて平坦なその声には、積み重ねられた想いが込められているのが感じられた。 「出来なければ罵倒され殺されかけ……だから、私が――」 ショーンの告白に、レオノルには怒りが湧き立つ。 (何でさ――) 憤りをレオノルは感じる。 (こんな真面目な子に、そんな酷い両親がたかるんだろう。搾取するんだろう。自業自得じゃあないか。こんな世界に落ちてきて苦しんで当然だよ) レオノルは怒りと共に憤りと、どうしようもない愛おしさが溢れる。 「ショーン」 レオノルは、ギュッと抱きしめてショーンの頭を撫でる。 びくりっ、と怯えるように強張る彼に、レオノルは癒すように言った。 「今は、これからは幸せでいようね……」 優しく、そして強く抱きしめてくれるレオノルにショーンは、おずおずと抱きしめ返す。 レオノルとショーンは、お互いを想い合いながら抱きしめ合い、癒し癒された。 そうしてしばらくして、ショーンが落ち着いて来た頃、そっとレオノルは地面に降ろされる。 するとレオノルはショーンの手を引いて―― 「さて、ここが何処だか分からないけれど、まずは探索しよう。朝までには戻って、ご飯でも一緒に食べようよ」 迷い子を引っ張るようにレオノルは歩き出す。 「……はい、ドクター」 泣き笑いのような顔で、ついていくショーンだった。 それからしばらく2人で歩き回ったあと、地上に戻るショーンとレオノルだった。 ●創造神への宣言 ネームレス・ワンに招かれた『ラニ・シェルロワ』は、彼の姿を見るなり言った。 「待って見覚えがあるんだけど」 むむむっ、とネームレス・ワンを見詰め続けたあと、はっと息を飲むような間を空けて続ける。 「あんた、いつか見た……!」 そこまで言って、さらに悪態をつく。 「って、気が抜ける面してるわね」 「可愛い顔って言って欲しいな~」 ラニの敵意をネームレス・ワンは楽しげに受け止めながら、ふてぶてしく返す。 これにラニが返すより早く、『ラス・シェルレイ』がラニを守るように前に立ち言った。 「まさか、眠ってる間を狙われるとはな――」 努めて冷静を装ってはいるが、内心では焦燥感が半端ない。 (まずい。仲間もいない戦いの準備も出来ていない。こんな所を個別に狙われたら――) 「大丈夫だよ。今日喚んだのは、お茶しようと思っただけだから」 「――……え?」 ネームレス・ワンの応えに、ラスは警戒しつつも返した。 「違うのか?」 「うん、違うよ~。別に何もしないって。そもそもここだと、僕に危害を加えようとしても無駄だし」 「こんなとこ呼び出して 無駄な抵抗はやめろって?」 敵意を納めないラニにネームレス・ワンは、小さすぎて足が地面に届かない中、椅子に座ったまま足をプラプラさせながら返す。 「無駄な抵抗っていうか、そういうもんだからね~。それよりそんな所で立ってないで、こっちに来て座りなよ。欲しい物があれば何でも出してあげる」 「要らない。それよりあたし達をこんな所に連れて来てなんのつもり」 「勧誘だよ」 「勧誘?」 訝しげに聞き返すラニに、ネームレス・ワンは応えた。 「生きてても苦しいことばかりなんだからさ、今すぐ死になよ。そしたら天国に来れるんだ。良いでしょ?」 ネームレス・ワンの提案に、ラニはすぐには返せなかった。 それはあまりにも感情が振り切れてしまったからだ。 だからこそ、激昂と共にラニは声を張り上げた。 「ふざけんな。言うに事欠いて今更何ほざいてんだバーカ!」 ネームレス・ワンを睨みつけ、ラニは想いのままに言葉をぶつける。 「慈悲でもかけてるつもり? 馬鹿じゃないの。それとも救おうっての? 余計なお世話。あんたみたいなのに、何が分かるってのよ!」 それは今まで苦しみながら、それでも生きて来たからこその想い。 苦悩と痛みの果てに、それでも得た何かを汚されたと憤る怒りだった。 「あんたの情けも救いも要らない! あたし達はあたし達で生きてるんだ! それを勝手に、この――」 思いつく限りの罵倒を口にし、怒りのあまり言葉にすらなってくれない。 それほど激昂するラニを、ネームレス・ワンは愛おしげに見詰めていた。 (なん、なの……) ネームレス・ワンの眼差しに、ラニは気勢を削がれるような気持ちになる。 そのせいでラニの罵声は止まってしまう。そこにネームレス・ワンは問い掛けた。 「ひとつ問うよ。人の業で、本来の姿から捻じ曲げられ、無理矢理一つにされた、こどもたち」 それはラニとラスを想っての言葉。そして2人を理解しているからこその言葉だった。 「どうして怒るの? 本当はそれほど世界にもヒトにも興味はないんでしょ。お互いがいればいいなら、こちらの方が楽園だよ」 告げられた言葉に、ラニは一瞬固まる。 否定はしない。家族がいればそれでいい。それに偽りはなく、ラニは自覚している。 けれど、それでも―― 「あたし達は、『この世界』で生きるって決めたの」 胸を張り、自らの生き様を告げる。 「仮に造り直されたとして、そこに『今』のあたしはいない。あたしはね、あんたが創ったガラクタ野郎もあんたも大嫌いなのよ」 ラニがさらに何か言おうとするが、その前にラスが言った。 「ラニ。落ち着け」 ラスはラニと同じく、ネームレス・ワンの言葉を否定しない。 何なら片割れさえいればいい、と思うのは、ラニと同じだからだ。 だが、いやだからこそ、ラスは宣言した。 「生憎だが、煉獄で生きることを選んだのはオレ達だ。前にも言ってやったと思うが、それでもオレ達の『家族』を否定するなら、敵なんだよ。いくら理由を並べ立てても」 ラスの言葉に、ラニは笑顔を浮かべ続ける。 「残念でした。他のみんなみたいにキレイな動機じゃなくて。徹頭徹尾ちっぽけな恨み貫いてやるわよバーカ!!!」 ラニと同じように、ラスも啖呵を切る。 「オレ等はそのちっぽけな恨みでここまで生きてきたんだ。今更心変わりなんざするかバーカ!!!」 創造神に喧嘩を売る。 そんな2人をネームレス・ワンは楽しげに見詰めながら返した。 「別に僕は、綺麗だから愛してる訳じゃない。自分の意志で生きてる君達が愛おしいだけなんだ。だから、好きにしなよ。生きたいなら、僕を殺しにおいで。待ってるよ」 「待ってなさいよ!」 「忘れんなよ!」 啖呵を切り、ネームレス・ワンが楽しげに笑う中、ラニとラスは地上に戻った。 ●創造神とのお茶会 指令が終わり、一息ついて。 明日に備えて眠りに就く。 まぶたを閉じて意識を落とし、ふと気付けば、のどかな場所に居た。 「……おじさん?」 不思議そうな声に、『エフド・ジャーファル』は視線を向ける。 そこに居たのは、『ラファエラ・デル・セニオ』。 「どこ? ここ?」 「夢の中、というわけでもないみたいだな」 エフドは肩を竦めるようにして返すと、周囲を見渡す。 よく手入れのされた庭園。 簡単に言えば、そんな場所。 浄化師として不可思議なことには慣れっこだが、妙な違和感がある。 少し考えて、エフドは思い至った。 (危機感が、全く湧かんな) 意図せぬ場所に居るというのに、不思議と焦る気持ちにならない。 気を抜けば、微睡んでしまいそうになる。そんな場所。 そこで、2人は呼び掛けられた。 「やぁ、よく来たね。こっちに来て座りなよ」 幼い子供の声に、エフドとラファエラは視線を向ける。 そこに居たのは5歳ぐらいの男の子。 「誰?」 視線を向けるとすぐに、ラファエラは鋭い声を向ける。 それに男の子は応えた。 「ネームレス・ワン。君達が言う所の、創造神だよ」 「……そう」 ラファエラは武器になりそうな物を持っていないか確認するが、無いことに気付くとネームレス・ワンに近付く。 「それで、創造神様が私達に何の御用かしら?」 「お茶をしようよ。そのために喚んだんだ」 「お茶、ですか」 エフドが見極めるように問い掛けると、ネームレス・ワンは無邪気といっても良い声で返した。 「お茶以外も何でも出せるよ。欲しい物を言って」 これにエフドとラファエラはお互いを見合わせると、それぞれ好きな物を頼む。 全てがテーブルに並べられる中、お茶会に参加する。 「美味しい?」 「……ええ、悪くないわね」 相手が誰であれ、ラファエラは出された物を正当に評価する。 それに気を良くしたのか、ネームレス・ワンは弾んだ声で提案してきた。 「ねぇ、早く死になよ」 「……どういう事ですか?」 聞き返すエフドにネームレス・ワンは応えた。 「死んで天国に来れば良いじゃない。ここなら欲しいものは何でも手に入るよ」 「……ねぇ、ひとつ聞いても良い?」 悪意のないネームレス・ワンにラファエラは問い掛けた。 「貴方が今の有様を作った理由を教えて」 これにネームレス・ワンは全て答える。 聞き終ったラファエラとエフドは言った。 「貴方様の仰ることは、カルトの勧誘とどう違うのでしょうか」 「……提案としては魅力的です」 理想郷をどうやって作る気なのか? 揶揄するような響きが滲んでいる。 だからネームレス・ワンは、全ての生き物が創り直された後の世界を『観』せた。 それは今の世界とあまり変わらないように見える。 人も他の生物もいる。 争いもあり苦しみもあり、けれど決定的に違うのは、穏やかな世界だった。 「抑止と予見。より良い生き物だなんて大げさに言ったけれど、付け加えるのはそれぐらいさ」 何かをする時に思い止まれる強さと、自らの行いが何をもたらすかを強く知る。 「そのために、全ての生き物を僕と少しだけ繋げるよ」 それは幼子がこけそうになれば、すぐに抱き留めるような過保護さ。それを自覚しているからこそ、ネームレス・ワンは続ける。 「君達の自由意思には可能な限り関わらないと約束するよ。それと少しだけみんな、強くしてあげる。みんな健康で生きていけるようにするよ」 その言葉には、痛みと苦しみが伴っている。 けれど同時に、それでも成そうという強さがあった。 それを感じ取ったからこそ、ラファエラは言った。 「何となくわかりますわ。貴方の言葉は嘘じゃないって」 あなたは私たちを愛している。 言外に伝えるラファエラに、ネームレス・ワンは返す。 「ああ、君達が気に入らなくてもね。彼もそうだったよ。いや、今でもそうだね」 「……」 ネームレス・ワンの言葉に、ラファエラは機嫌を損ねる。 それはネームレス・ワンが口にした『彼』が自分の父親のことであることを察し、気を利かせたように明言しないことが気に障るからだ。 そんなラファエラを見て、楽しげに笑みを浮かべながらネームレス・ワンは言った。 「別に良いんだよ。好きに思っても。僕は君達の自由意思を望むよ。好きに生きて良いんだよ」 ネームレス・ワンの告白に、ラファエラとエフドは、想いのままを口にした。 それは国の滅亡と失策、ラファエラの父の過ち、そして創造神。何にせよ、強権的な上の都合で人生と運命を好き勝手、しかも暴力的に決められることに怒っているからだ。 「世界を、あんな有様にしといて次が良くなるかは疑わしいけど、できると思うならやりなさい。でもその前に焼き入れに行く。悪趣味な実験に付き合わされたんだから」 「より良い生き物とやらに生まれ変わっても、お前の下手くそで無責任なやり方と、クソの山に放り出されたことは忘れん」 これにネームレス・ワンは、楽しげに笑みを浮かべ応えた。 「良いよ。僕を殺しにおいで。待っているよ。そして僕が勝った後に生まれ変わらせても、僕のしたことを覚えていてくれるなら嬉しいな。君達の好きにすれば良い。それをするのは、君達の自由なんだから」 その言葉を最後に、エフドとラファエラは地上に戻った。 こうして、あの世での邂逅は終わりをみせた。 決戦が近付く中、それぞれの区切りをつけた浄化師達だった。
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*** 活躍者 *** |
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