~ プロローグ ~ |
「浄化師さん、ココがいなくなっちゃったの。おねがいです、ココを見つけてください」 |
~ 解説 ~ |
・目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
今回の猫探しは情報収集と探索を兼ねた実地訓練のようなものです。教団は防衛費用として国から税金を徴収しているので、市民の不満緩和のためにこういった依頼も受け付けています。スリルはないですが、癒しはある筈です。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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……大事にしてる猫ちゃん、いなくなったら、寂しいし、怖いよね。 あの子、すごく困ってたし、早く見つけてあげたいな……。 僕らは、決めてた場所周辺で、聞き込み中心に……でも、聞き込みは、イヴ君に任せる。 僕は、地図にペンで、探した場所に印つけてこう……。 あと、メモ帳も、ちゃんと活用したいね。聞いたこと、メモしたり。 二時間経ったら、決めてたカフェで集まって、休憩ついでに情報共有するよ……。 地図、見せて、探したとことか、説明できるようにしたいな。 集合場所は……多分、イヴ君が覚えててくれてるだろうから……。 別れたら、印のついてない場所、重点的に探すよ。 時間掛かっても、あの子のために、頑張りたいから。 |
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【事前】 アキから依頼人にココが好んで食べるチーズを誘い出す為と分けて貰う。無理ならリュミエールストリートでチーズを買う。 ココの餌入れも借りれたら借りる。 餌入れとチーズはアキのポーチに収納。 カインはメモ帳に、ココの特徴『黒猫』『グリーンの目』『赤い首輪』を記入。 【行動】 カインはメモ帳に簡易的なストリート図を記載。 3ブロックに分けた一か所の聞き込みを担当する。 担当ブロックを更に分けて、聞き込み後は完了の印をつけていく。 アキが特徴を伝えながら聞き込み。 カインはメモ帳に知った情報を記入。 聞き込みから2時間後にカフェに集合して、休憩がてら情報共有する。 情報を元にココを探し、餌入れにチーズ入れ招き寄せる。 |
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目的 ココを見つける 事前 女の子に、ココの匂いをしたものを借りる いつも食べてるおやつとか、あとチーズも借りる ストリートの地図を観光案内所があればもらって、無ければ自分で紙とペンを用意して簡易地図を描きつつ、探した場所をチェックしながら探す 探索 手分けして探す ・黒猫 ・グリーンの目 ・赤い首輪 がチェック項目だな ルドが話を聞いて、俺が雨の当たらない物陰を見ていく 汚れ仕事は俺の仕事だからな にゃーん…っていないか 露店の店主に話を聞いて、「すまない、黒猫を探しているんだが見かけたか?」と聞いていく 俺はその間、露天の下とかみる 探した場所は×印でチェック とにかく、大勢の人に話を聞く 俺も物陰がないときは、話を聞いていく |
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~ リザルトノベル ~ |
先ほどまで降っていた小雨はやみ、店の屋根から滴がぽたぽたと落ちている。雨がやんだからか、人が戻り始め、通りには行きかう人が増えてきていた。 「失礼、赤い首輪をつけた、グリーンの瞳の黒猫はご存じ在りませんか? ……ほう。その話、詳しくお聞かせ願えますか? カイル、メモ頼んだよ」 カイル・エリオットはイヴェール・マティスが聞き込んでいる内容を丁寧にメモに書きとめていく。 観光案内所からもらった地図には、すでにいくつかの×印がつけられていた。 「情報の提供、ありがとうございました。では、失礼します。カイル、書き終わったかい?」 「……うん、僕じゃ、あんな風に、聞き出せなかった。イヴ君は、すごいね……」 「そんなこと思ってたの? 俺がこうして聞き込みに集中できるのもカイルが地図に印をつけてくれたり、忘れないようにメモに書き込んでくれたりしているからだよ。それに物陰に隠れていないか、周りを見渡してること気づいてるからね」 カイルの表情は、端から見て変わらないように見えても、感情の起伏がある。そう言われたカイルが少し照れていることがイヴェールにはすぐ読み取れた。 そして、眠そうな顔をしているカイルが、この任務に力を入れていることにもイヴェールは気づいていた。 「……あの子、泣いてた、から……」 「……依頼人の女の子のこと?」 「うん、……大事にしてる猫ちゃん、いなくなったら、寂しいし、怖いよね。あの子、すごく困ってたし、早く見つけてあげたいな……」 「カイルは優しいね。あの女の子の為にも早く見つけてあげよう。でも、無理しちゃ駄目だよ」 「……うん、ありがとう、イヴ君」 カイルの情に厚いところは長所であり、短所だ。彼が誰かの為に無理してしまわないよう止めるのが、俺の役目だ。そうカイルに知られないようイヴェールは決意を抱きながら、微笑む。 二人は互いを思いやりながら、他に目撃情報がないか聞き込みを再開する。 「すみませーん。ちょっといいですか? 猫を探してるんですけど……――あー、そうですか。見てないんですね、ありがとうございます」 アキ・アマツカは通行人に声をかけるが、探している猫の情報は一向に得られないでいた。 「うーん、なかなかココちゃんの情報は得られないわね」 「仕方ありません。探しものの場合は、地道な足で稼ぐ調査しかありません。リュミエールストリートは広いですから、今回の人海戦術は正しいと思います」 「そうだね、よし! 片っ端から聞いて回るぞ」 (人が多いと言うことは、誰か一人ぐらい見ている人がいるはずよ。ええ、貴重な平和な任務だもの。頑張らなくっちゃ!) 気合いを入れ直し歩きだそうとしたアキをカイン・レカキスが「待ってください」と引き留める。 「どうしたの、カイン?」 「アマツカ氏、こちらの区画を通った方が人通りも多く、効率よく調べて回れます」 振り返ったアキはカインに指し示された地図を覗く。地図には探した場所を示す×印と、効率よく回るためのルートが書き込まれていた。 「よく短時間で考えたね」 「大したことではありません。与えられていた情報を事前に調べていただけですから」 感心するアキにカインは謙遜するわけでもなく、本気でそう思っているようだった。 「それに私が聞こうとすると何故か怯えられてしまうので、私はどうも聞き込みには向いていないようです」 (多分……カインが無表情で話すからだと思う) 「申し訳ないですが、アマツカ氏にお任せいたします」 「こういうのは適材適所だからね、任せて!」 地味に落ち込んでいる様子のカインを励ます。 アキたちが担当ブロックの聞き込みを再開し、数十名を越えたところで、ようやく目撃情報が入る。 「え!? 猫のたまり場があるんですか! ――はい、首輪をした猫もいたんですね、そっか。あ、教えてくれてありがとうございます!」 頭を下げて通行人にお礼を言うと、すぐさま後ろを振り返るアキ。 「ようやくココがいそうな場所が分かったよ! カイン、行こうか」 「待ってください、アマツカ氏。そろそろ集合場所への移動が必要です」 カインは時計塔を指さし、待ち合わせのカフェの移動を促す。 「もうそんな時間かあ。せっかく情報が得られたのに」 「情報共有も大事なことです、猫たちが集まるのも昼過ぎてからになるようですから問題はありません」 「うん! じゃあ、行こっか」 アシエト・ラヴは物陰の中に入り込み、猫の入りそうな場所を片っ端から見ていた。雨で濡れた路面のせいで服が汚れるのも構わないアシエトを、ルドハイド・ラーマは渋い目で見ていた。 「お前は本当に物好きだな」 「なんだよ、可愛い女の子のためだぜ」 「赤の他人のためにそこまでするなんて気がしれん。それで、いつまで地べたを這い蹲っているつもりだ?」 「見りゃわかるだろ、猫いねえかなあって見てんの!」 「それで結果は?」 「ここにはいねえみてえだ。どこにいんだろうな?」 そう答えるとルドハイドの眉間のしわがさらに深まるが、アシエトは気にしない。 「絶対に見つけようぜ、ルド」 渋るルドに「こんなときこそお前の顔をいかせよ」と言って無理やり聞き込みをさせる。 (ていうか、目つきの悪い俺が女の子に話しかけると逃げるんだよな、悲しいことに。まぁいいや) 「にゃーん……っていないか」 濡れた茂みの中をかき分けるが、猫の姿は見つからない。リュミエールストリートには様々な店がひしめきあっている分、猫が隠れそうな場所も多くある。アシエトはルドハイドが聞き込みをしている分、店の軒下やらショーケースの隙間などを探している。 その結果、黒猫ではないが、別の猫を見かけることも多い。 「すまない、黒猫を探しているんだが見かけたか?」 ルドハイドが露店の店主に声を掛けている間、アシエトは露店の下を見る。そこには三毛猫がいて、「にゃー」と鳴いてどこかへ行ってしまった。なんだかアシエトが癒される間にルドハイドは次の人間に声を掛けていた。 露店の店主に睨まれる前に、アシエトもさっさと退散する。 そうしている間に時間は着々と過ぎ、集合時間が迫っていた。 「悪ぃ、遅れた!」 待ち合わせのカフェに最後に集まったのは、アシエトたちだった。他のメンバーは先に来て座っている。 「待って、随分と服汚れてない?」 「ああ、物陰とか探してたら、いつの間にか汚れちまった」 「ならば私のハンカチを使ってください」 その姿のままで席に座るのはまずいだろうとアキが声を掛ける。 するとパートナーであるカインが自分のポケットからきちんとアイロンを掛けられたハンカチをアシエトに差し出した。 野郎からの白いハンカチを見ながら、アシエトが尋ねる。 「汚れちまうけどいいのか?」 「構いません。こういうときのためのハンカチですから遠慮せずに使ってください」 「おう! じゃあ、遠慮なく。後で洗って返すわ」 アシエトはニッと笑い、カインに対して「サンキュー」と礼を言って受け取る。カインから言質を取ったことで憚ることなくハンカチを使って、泥と汗にまみれた手や顔などを拭いていく。 「……すごく、頑張ったんだね」 「こいつがバカなだけだ」 カイルが純粋に誉めると照れたように頬をかくアシエト。それに水を差すようにルドハイドが口を挟む。 「おい、ルドてめぇ……」 「さて、全員揃ったみたいですし。情報共有を始めましょう。お二人も席に座って、飲み物を頼んだらいかかですか?」 二人の口論が始まりそうな気配を察知し、イヴェールが口を挟む。タイミングよく話を遮られた二人は口論をする気が失せたのか、黙って席に着く。 イヴェールの手際の良さにアキとカイルは感心し、カイルが「……イヴ君、すごい」と誉めると、わずかにはにかみを見せた。 「みんな集まったことだし、情報共有を始めましょうか」 アキはアシエトたちが飲み物を店員に注文した後に、そう話を切り出した。 「そうですね、誰から話し始めますか?」 「俺からいく」 イヴェールが頷くと、ルドハイドが早く済ませたいのが丸わかりな態度で、ぼそりと呟いた。 「こちらが得た情報は、黒猫が歩いているのを見たという曖昧な情報だけだ」 「おい、あんだけ聞いといてそれだけかよ」 アシエトがルドハイドの横腹を肘でつつく。それを不快だと目で黙らせる。 「目撃情報のあった場所はどれもバラバラで、すでにアシエトが探している」 「マジで?」 「……何でお前が驚くんだ」 「だって、お前何も言わなかったじゃん」 「言う前にお前が勝手に探してたからな――話を続けるが、赤い首輪をしていたと証言する者がいたことから、ここにいるのは間違いない。話は以上だ。」 話は終わったと言わんばかりにルドハイドは店員が持ってきたコーヒーを飲む。 「じゃあ、次はあたしたちが得た情報を話すわね」 「アマツカ氏、私が代わりに説明をしてもいいでしょうか」 「そう? じゃあ、任せるわね」 「はい、私たちが担当したブロックでは、あまり目撃情報がありませんでした。ですが、猫のたまり場で首輪をした黒猫を見かけたそうです。その猫が探していた猫かは分かりませんが、行ってみる価値はあると考えています。私からは以上です」 カイルが地図を出し理路整然と説明し終わると、次に口を開いたのはカイルだった。 「次、僕たち、だね。えっと……聞いてきたこと、まとめたよ……えっと……」 「カイル、もしかしてまた眠くなってる?」 「……ん、……だいじょう、ぶ……」 「大丈夫じゃなさそうに見えるけどね。ほら、無理しないで。俺から説明しておくから」 瞼が閉じかかっているカイルを気遣うイヴェール。それを見ていたアシエトが思わず突っ込んだ。 「おたく過保護じゃね?」 「そうですか?」 笑顔なのに有無を言わせない圧力を感じたのか、アシエトはそれ以上嘴を突っ込むのを止めた。そんなアシエトをルドハイドがバカにした目で見ている。 「失礼しました、皆様。では、俺達が得た情報をお話させて頂きます」 カイルに代わりイヴェールが説明を務める。カイルから受け取った地図を広げ、メモを確認する。 「俺達がいたエリアでも目撃情報が複数ありました。アシエト様達と俺達のブロックと隣同士ですから、ココ様の移動範囲は広いのかもしれません。それから少し困ったことが――」 そう言ってイヴェールは言葉を切った後、アシエト達の方を見た。 「目撃情報があった場所をあらかた見て回ったんですが、一カ所だけ見てない場所があるんです。それが俺達が担当しているブロックではなくて、アシエト様たちの担当ブロックなんです」 「マジ?」 「どうりで目撃情報が多いわけだ」 驚くアシエトとは反対に納得した表情を浮かべるルドハイド。 「その目撃情報の場所は、ピザ屋『テルラピッツァ』というお店です」 アシエトはすぐさま地図を広げて確認する。 「あっ! ここだな」 「ここはまだ探していない場所だな」 アシエトが指を指した場所は、まだ×印がついていない場所だった。隣に座るルドハイドが地図をのぞき込み頷く。 「ですから、その場所を探してもらえると助かります」 「いいぜ、どうせ全部探すつもりだったしな。手間が省けた、サンキューな」 「こちらこそありがとうございます。それではお願いしますね。俺達からは以上ですが、皆様、他に話して置かなければならないことはありますか?」 イヴェールが周囲を見渡すと、アキが手を挙げた。 「じゃあ、私たちは念のために猫のたまり場を探しておくわ。今度、集まる時間はまた2時間後でいいかしら?」 「そうですね、移動時間もありますから、ここにまた2時間後に集まりましょうか。皆様はどうでしょう?」 「いいんじゃね」 アシエトの同意にルドハイドも無言で頷く。他のメンバーも異論はないようで、情報共有を終えた浄化師達は再び猫探しに奔走し始めた。 二人は印のついていない場所に重点を置いて探していた。物陰や猫が入り込みそうな隙間、茂みの中まで見落としがないように一つ一つ確認していく。 一時間も経つ頃には、カイルの持っている地図は×印でいっぱいになっていた。それでもココを見つけだすことができずにいた。 「落ち込まないで、カイル」 イヴェール以外が見れば、普段通りに見えるカイル。分かりにくいが密かに落ち込んでいる。そんなカイルをイヴェールが元気づけようと話しかける。 「これだけ探しても見つからなかったってことは、他のブロックにいるのかもしれないよ。ほら、ルドハイド様が言ってたじゃないか。目撃情報が多かったって」 カイルはイヴェールの言葉にこくんと頷く。 「あの子の為にも、あるけど、……イヴ君、頑張ってるのに、見つからない、の、悔しい……」 「カイル、ありがとう。俺もカイルが一生懸命に探していたこと知ってるよ」 イヴェールは一瞬驚き、自分を思ってくれたカイルの言葉にうれしさを押し隠しながら、そう告げる。 「僕……時間が、かかっても、あの子の為に……頑張りたい。……一緒に……手伝って、くれる?」 「もちろんだよ、カイル。俺達パートナーなんだから」 眠たげな表情をしているカイルの口元がわずかに綻んでいた。それを見てイヴェールも嬉しそうに笑い合う。 二人は人通りの多い場所に戻ると、時間ぎりぎりまで聞き込みを中心に動くのだった。 「カインはさー、猫は好き?」 「嫌いではないと思います」 「何それ」 アキはカインの変な答えに笑いをこぼす。 二人は他愛のない会話をしながら、猫のたまり場に向かう。 猫のたまり場は歓楽街から離れた場所にあり、たくさんあったお店も少なくなってきた。それと共に人通りも少なくなり、リュミエールストリート内にしては静かな場所だった。 目的地に着くと、猫のたまり場とはよく言ったもので、まさにその通りの場所だった。 そこは木陰も多く、数十匹の猫がたむろっていた。 新参者のアキたちを見ても逃げるどころか、興味深げに見る猫もいれば、まったりしている猫もいる。人に慣れているのだろう。もしかしたら餌をやりに来る人間がいるのかもしれない。 「うわぁ、猫がいっぱい……」 「これほどとは……」 たくさんの猫に感激しているアキと、驚きの表情を浮かべるカイン。 アキのポーチに入っているチーズの匂いに釣られてか、数匹の猫が近寄ってくる。 チーズは依頼人の女の子からココの餌入れと共に渡されたもので、ココをおびき寄せるつもりに使うはずだったものが、逆に別の猫をおびき寄せてしまっていた。 「うう……猫が、猫があ……でも、探さないと……ううっ」 足下にすり寄ってくる猫の可愛さにやられてアキは動けなくなる。ある猫はごろりと身をくねらせ無防備な腹を見せつけると、「さあ、撫でろ」と言わんばかりだ。 猫に大歓迎されたアキはその誘惑を断ち切れず座り込み、そっと撫でると、のどをごろごろ鳴らし、体全体を使って擦り寄ってくる。毛並みはふわふわだった。この時点で、アキは猫にメロメロになっていた。 そうしている間に。ココがいないかアキの代わりに探していたカイン。赤い首輪をした黒猫はいたが、目の色が青で猫違いだった。 「アマツカ氏、ここに探していた猫はいま……」 そのことをアキに報告しようとするカインの言葉が中途半端なところで止まった。 彼の足下にも猫が擦り寄ってきていたのだ。足下をうろつく猫達にカインは困惑した表情を浮かべたまま動けなくなる。 二人は完全に猫のハニートラップに引っかかってしまい、ここから抜け出すのに暫しの時間がかかることになる。 「ここだな、例のピザ屋」 地図を見ながら、歩いてきたアシエトとルドハイドは目的地にたどり着く。看板にはお洒落なロゴマークと共に「テルラピッツァ」と書かれている。 青を基調としたお店は、誰でも気軽に入れる気安さと程よく流行を取り入れられていた。 中々繁盛しているお店のようで窓からはピザを美味しそうに食べる人の姿が見えてアシエトは羨ましくなる。さらに焼きたてのピザの美味しそうな匂いが漂ってきて、思わずごくりと唾を飲み込む。 「……おい、ここにピザを食べに来たわけじゃないんだぞ、しっかりしろ」 「分かってるよ、ちょっとうまそうだなーと思ってただけだっての」 「そうじゃない。お前の目は節穴か。あそこに猫がいるぞ」 ルドハイドが指さした先を見ると、確かに赤い首輪をしたグリーンの瞳の黒猫がいた。 店の外におかれた待合いのベンチの下で毛並みのいい黒猫が行儀良く座り込んでいる。 「ココじゃねえかっ! ぐっ……!!」 ルドハイドが無言で足の臑を蹴飛ばし、アシエトは痛みにうめき声を上げる。 「大声を出すな」 「……声に出して注意しろよ!」 臑を抱えたまま座り込んだアシエト。ルドハイドを涙目で睨みつけながらも、猫に逃げられないよう小声で文句を言う。 そんなアシエトにお構いなく、 「さっさと捕まえてこい。油断するなよ」 ルドハイドは腕を組んで壁に寄りかかると、完全に傍観する態度をとっていた。 暗に「逃げられたら面倒だから、必ず捕まえろよ」と言われている気がした。 アシエトは慎重に距離を測りながら近づくと、ココの好きなチーズをそっと地面に置く。自身も座り込み、ココから近づいてくるのを待った。 しばらくすると、ココは好きなチーズの匂いに鼻をすんっと動かすと、そろりと近寄ってくる。 そのまま置いてあったチーズを夢中で食べ始める。今度はアシエト自身の手のひらにチーズを置き、ココが食べるのを待った。 すると、ココはアシエトの手を舐めるようにチーズを食べる。猫のざらざらした舌がくすぐったい。 「ははっ……お前、本当に人懐っこいな」 怖がらせないように、小さな声で優しく声を掛ける。 ココは声に反応したようにアシエトの周りを一周するように体を擦り寄せる。身軽な動きで膝に飛び乗ると、顔を舐める。 「くすぐってえよ、……ココ。ちょっと大人しくしてろよ」 そのままココを抱き抱える。アシエトがココの寝床にしていたタオルを事前に首に掛けていたのが功を奏したのか、それともココが抱っこされることに慣れているのか、あるいはその両方かもしれない。 だが、ココはアシエトの腕の中で嫌がらず、じっとしていた。 無事捕まえることができたのを確認したのか、ルドハイドがゆっくりとこちらに歩いてくる。 「よくやった」 「お、珍しく俺のこと誉めるな」 「これで逃げられていたら、お前をしばき倒すところだった。この依頼を勝手に受けたのはお前だからな」 互いにいつもよりも小声で話す。誉められたことに喜ぶアシエトだったが、ルドハイドの言葉にすぐに顔を引き攣らせる。 そのままアシエトは依頼人の女の子に猫を引き渡しに行き、ルドハイドは集合場所のカフェでまだ探しているメンバーを待ち、事情を説明する。そのため、二人はここで別行動することになった。 アシエトが依頼人の女の子にココを渡し、カフェに戻ってきた頃には、すでに他のメンバーが勢ぞろいしてカフェでくつろいでいた。ルドハイドからすでに話を聞いているようで、集まったメンバーも任務達成に心なしかリラックスモードのようだ。 「何だよ、お前ら。なに俺がいない間に飯とか注文してんの?」 「アシエト様、お疲れさまです。先に食事していたことは謝ります。ですが、真っ先に注文したのは、ルドハイド様です」 「お前かよ!?」 「俺達も待った方がといったんですが、アイツのことは気にするなとおっしゃられて……」 アシエトを除き、カフェで食事を始めていたメンバーが気まずそうに顔を逸らす中、ルドハイドだけが平然と食事をしていた。 カイルがうつむきがちに口を開く。 「僕が……お腹、すいちゃって、ぐうって、鳴っちゃったから……ごめんなさい」 「そのまま先に食べちゃおっかって雰囲気になったの、ごめんね。アシエト」 大人しそうなカイルと唯一の女子であるアキに謝られると、それ以上文句を言えるはずもなく、 「あー、もういいわ。俺もなんか注文する。メニュー表くれ」 イヴェールからメニュー表を渡されたアシエトは、ピザセットを店員に頼む。メニューが来るのを待っている間、依頼人の女の子の様子について語る 「あの子『ココを探してくれてありがとう』って泣きながらお礼言ってたぜ、すっげえ喜んでた。みんなお疲れさん」 「そっか、……よかった、見つかって……」 「お前等が集めてくれた情報のおかげだぜ、あれがなかったら、もっと手間取ってただろうよ」 カイルはホッと安堵したような言葉にアシエトは笑って返す。 「ココの毛並み、一回でいいから撫でたかったな」 「おう、ふわふわの毛並みだったぜ」 「いいなあ……」 アシエトの言葉にアキが羨ましがるのをカインが不思議そうに見た。 「アマツカ氏。アマツカ氏は、猫をいっぱい撫でていらっしゃったじゃないですか」 「あ、あれはその……もういいでしょう、この話は」 カインの言葉にあたふたしながらアキは無理やり話を打ち切る。さすがに皆が頑張って探している最中に一時とはいえども猫と戯れていましたとか、気まずすぎる。 アキは話題を変えるため、別の話を持ち出すが、 「でも、借りてた餌入れは女の子に返さなくちゃね。後で行かなくちゃ」 「アマツカ氏、そのときに依頼人に頼んで撫でさせてもらってはいかがでしょうか?」 空気を読まないカインの言葉にアキは疲れたように肩を落とす。 「おう、アキ。お前もパートナーには苦労してんだな」 「……天然って怖いわ」 同情するアシエトにアキがうなだれたように答える。 「誰が苦労しているんだ? まさかアシエトお前のことを言ってるんじゃないよな」 「アマツカ氏――天然。自然のままにあること、と言う意味ですが、何を指しているのでしょう?」 ルドハイドは威圧感すら感じる笑みをアシエトに向け、カインはアキに言葉の意味を純粋に尋ねる。場は混沌としてきた。 「みんな、仲、いいね……」 「……そうだね」 カイルの言葉に不自然な間があったが、イヴェールはカイルの方を向いたまま笑みを浮かべて頷いた。 明日にはパートナーと共に別々の道を歩む。浄化師である限りまた道が交わることもあるだろう。 今はそれぞれが任務達成の余韻を味わいながら、穏やかな一時を楽しむのだった。
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*** 活躍者 *** |
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[13] カイル・エリオット 2018/03/27-22:33
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[12] アシエト・ラヴ 2018/03/27-21:50
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[11] アキ・アマツカ 2018/03/27-13:25
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[10] アシエト・ラヴ 2018/03/27-08:54
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[9] アキ・アマツカ 2018/03/26-12:40
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[8] カイル・エリオット 2018/03/26-00:43
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[7] アキ・アマツカ 2018/03/25-22:36
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[6] カイル・エリオット 2018/03/24-23:34
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[5] アキ・アマツカ 2018/03/24-09:31
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[4] カイル・エリオット 2018/03/23-22:52
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[3] アキ・アマツカ 2018/03/23-09:00
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[2] カイル・エリオット 2018/03/23-01:36
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